(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】廃プラスチックの塩素除去方法
(51)【国際特許分類】
C10G 1/10 20060101AFI20240927BHJP
C08J 11/16 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C10G1/10 ZAB
C08J11/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567178
(86)(22)【出願日】2022-09-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-01
(86)【国際出願番号】 KR2022013845
(87)【国際公開番号】W WO2023058926
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】10-2021-0133010
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ジョ サンファン
(72)【発明者】
【氏名】カン ソクイル
(72)【発明者】
【氏名】イ サンイク
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ジェフム
【テーマコード(参考)】
4F401
4H129
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
4F401AA13
4F401AA22
4F401AA27
4F401CA68
4F401CA75
4F401CA90
4F401CB01
4F401EA11
4F401EA12
4F401EA15
4F401EA18
4F401EA19
4F401EA20
4F401EA22
4F401EA34
4F401FA01Z
4F401FA07Z
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB03
4H129BC10
4H129NA01
(57)【要約】
本発明は、a)廃プラスチックと中和剤を反応させるステップと、b)前記a)ステップの産物と銅化合物を反応させるステップと、を含み、前記廃プラスチックの総重量に対して95重量%以上の塩素が除去されることを特徴とする、廃プラスチックの塩素除去方法に関する。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)廃プラスチックと中和剤を反応させるステップと、
b)前記a)ステップの産物、銅化合物を反応させるステップと、
を含み、
前記廃プラスチックの総重量に対して95重量%以上の塩素が除去されることを特徴とする、廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項2】
前記廃プラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリスチレン(PS)からなる群から選択された少なくとも1つを含む、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項3】
前記廃プラスチックは、有機塩素、無機塩素、および芳香族塩素を含み、10ppm以上の塩素を含む、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項4】
前記中和剤は、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、またはこれらの組み合わせであり、
前記金属は、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、またはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項5】
前記中和剤は、廃プラスチックの総重量に対して0.5~20重量%の割合で混合される、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項6】
前記銅化合物は、銅金属(Cu)、酸化銅(CuO)、水酸化銅(Cu(OH)
2)、および炭酸銅(CuCO
3)からなる群から選択された少なくとも1つを含む、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項7】
前記銅化合物は、前記a)ステップの産物の総重量に対して0.1~20重量%の割合で混合される、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項8】
前記a)ステップにおいて、中和剤は、前記中和剤の金属元素(M)に対する前記廃プラスチック中の総塩素元素(Cl)のモル比(N
M/N
Cl)1~25で混合され、
前記b)ステップにおいて、銅化合物は、前記銅化合物の銅元素(Cu)に対する前記廃プラスチック中の総塩素元素(Cl)のモル比(N
Cu/N
Cl)1~10で混合される、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項9】
前記廃プラスチックの塩素含量100重量%(A)に対する、
前記a)ステップの産物の塩素含量の比(A
1/A)は、50%以下であり、
前記b)ステップの産物の塩素含量の比(A
2/A)は、10%以下である、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項10】
前記a)ステップは、200~320℃の温度で行われ、前記b)ステップは、400~550℃の温度で行われる、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項11】
前記a)ステップおよびb)ステップは、それぞれ独立して、下記1)および2)ステップからなる群から選択された少なくとも1つのステップで行われる、請求項1に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
1)廃プラスチックの前処理ステップ
2)廃プラスチックの熱分解ステップ
【請求項12】
前記1)前処理ステップは、200~320℃のオーガー反応器で行われる、請求項11に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【請求項13】
前記2)熱分解ステップは、非酸化雰囲気下で400~550℃の熱分解反応器で行われる、請求項11に記載の廃プラスチックの塩素除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックの塩素除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチック熱分解油などの廃棄物のクラッキング(Cracking)、熱分解(Pyrolysis)反応により生成されたオイル(廃油)中には廃棄物に起因する多量の不純物が含まれているため、それを燃料として活用する場合、SOx、NOxなどの大気汚染物質を排出する恐れがあり、特に塩素(Cl)成分は、高温処理過程で装置の腐食を引き起こす恐れがあるHClに転換されて排出されるという問題がある。
【0003】
従来、精製(Refinery)技術を活用した水素化処理(Hydrotreating:HDT)工程によりClをHClに転換して除去していたが、廃プラスチック熱分解油などの廃油が高含量のClを含むため、HDT工程で形成される過剰のHClの発生により装置の腐食や反応異常、製品の性状悪化の問題が報告されており、前処理していない廃油をHDT工程に導入することは難しい。従来の精製(Refinery)工程を活用してClオイルを除去するためには、精製(Refinery)工程に導入可能なレベルにCl含量を低減する廃油のCl低減処理技術が必要である。
【0004】
先行特許文献1(特開2019-123771号公報)には、熱分解工程で塩素含有プラスチックとカルシウム化合物を混合して塩素含有プラスチックを処理する方法が開示され、先行特許文献2(韓国登録特許第10-1916404号公報)には、直列連結されたオーガー反応器;流動層反応器;および酸化カルシウムが充填された高温フィルター(hot filter)を含み、ポリ塩化ビニルを含むプラスチック混合物をリサイクルするための装置が開示され、先行特許文献3(特開2007-246681号公報(特願2006-071995号))には、PVC(ポリ塩化ビニル)を酸化物と混合し、常温で粉砕(メカノケミカル処理)してPVCを脱塩素化し、その後、その産物を250℃以下の温度に加熱することを特徴とするPVCの常温脱塩素処理産物からの燃料ガスの発生方法が開示される。
【0005】
先行特許文献1~3に記載されている塩素含有プラスチックの処理方法は、低価格の酸化カルシウム吸着剤などの一般的な添加/中和剤を用いることで、廃プラスチック中のPVCに起因する多量の塩素を除去するには有利な点があるが、PP、PE、PETなどの廃プラスチックに起因する芳香族塩素(Aromatic ring-Cl)を除去して精製(Refinery)工程に導入可能なレベルに塩素含量を低減させることが難しいという問題がある。また、用途の多様化に伴い、廃プラスチックにコーティング、染料、接着成分、および高分子重合添加剤に起因する芳香族塩素の量が増加し、HClのような無機塩素や鎖状分子に含まれた有機塩素を除去するよりも難易度の高い芳香族分子の有機塩素を除去する技術が重要となった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、廃プラスチック原料物質を精製(Refinery)工程に導入可能なレベルにCl含量を低減する技術であり、廃プラスチックにコーティング、染料、接着成分、および高分子重合添加剤に起因する芳香族塩素を非常に低い含量レベルまで除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、a)廃プラスチックと中和剤を反応させるステップと、b)前記a)ステップの産物と銅化合物を反応させるステップと、を含み、前記廃プラスチックの総重量に対して95重量%以上の塩素が除去されることを特徴とする、廃プラスチックの塩素除去方法を提供する。
【0008】
前記廃プラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリスチレン(PS)からなる群から選択された少なくとも1つを含むことが好ましい。
前記廃プラスチックは、有機塩素、無機塩素、および芳香族塩素を含み、10ppm以上の塩素を含むことが好ましい。
【0009】
前記中和剤は、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、またはこれらの組み合わせであってもよく、前記金属は、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、またはこれらの組み合わせであることが好ましい。
前記中和剤は、廃プラスチックの総重量に対して0.5~20重量%の割合で混合されることが好ましい。
【0010】
前記銅化合物は、銅金属(Cu)、酸化銅(CuO)、水酸化銅(Cu(OH)2)、および炭酸銅(CuCO3)からなる群から選択された少なくとも1つを含むことが好ましい。
前記銅化合物は、前記a)ステップの産物の総重量に対して0.1~20重量%の割合で混合されることが好ましい。
【0011】
前記a)ステップにおいて、中和剤は、前記中和剤の金属元素(M)に対する前記廃プラスチック中の総塩素元素(Cl)のモル比(NM/NCl)1~25で混合され、前記b)ステップにおいて、銅化合物は、前記銅化合物の銅元素(Cu)に対する前記廃プラスチック中の総塩素元素(Cl)のモル比(NCu/NCl)1~10で混合されることが好ましい。
【0012】
前記廃プラスチックの塩素含量(A)に対する、前記a)ステップの産物の塩素含量の比(A1/A)は、50%以下であってもよく、前記b)ステップの産物の塩素含量の比(A2/A)は、10%以下であることが好ましい。
前記a)ステップは、200~320℃の温度で行われ、前記b)ステップは、400~550℃の温度で行われることが好ましい。
【0013】
前記a)ステップおよびb)ステップは、それぞれ独立して、下記1)および2)ステップからなる群から選択された少なくとも1つのステップで行われることが好ましい。
1)廃プラスチックの前処理ステップ
2)廃プラスチックの熱分解ステップ
【0014】
前記1)前処理ステップは、200~320℃のオーガー反応器で行われることが好ましい。
前記2)熱分解ステップは、非酸化雰囲気下で400~550℃の熱分解反応器で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、廃プラスチック熱分解油の総塩素含量だけでなく、有機塩素および芳香族分子に含まれた塩素含量も著しく低減させることで、精製(Refinery)工程に導入可能なレベルに熱分解油を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1a】廃プラスチックの塩素と中和剤の反応メカニズムを示した模式図である。
【
図1b】廃プラスチックの有機塩素および芳香族塩素と銅化合物の反応メカニズムを示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
他の定義がない限り、本明細書で用いられる全ての用語(技術的および科学的用語を含む)は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に共通に理解できる意味として用いられてもよい。明細書の全体にわたって、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。また、単数形は、文言で特に言及しない限り、複数形も含む。
【0018】
本明細書において、「A~B」とは、特に他の定義がない限り、「A以上B以下」を意味する。
また、「Aおよび/またはB」とは、特に他の定義がない限り、AおよびBからなる群から選択される少なくとも1つを意味する。
【0019】
本発明の一実施形態は、廃プラスチックの塩素除去方法を提供する。前記方法は、a)廃プラスチックと中和剤を反応させるステップと、b)前記a)ステップの産物と銅化合物を反応させるステップと、を含む。そこで、本発明は、廃プラスチック原料物質を処理して精製(Refinery)工程に導入可能なレベルにCl含量を低減させることができる。
【0020】
前記廃プラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリスチレン(PS)からなる群から選択された少なくとも1つを含んでもよい。前記廃プラスチックは、有機塩素(organic Cl)、無機塩素(Inorganic Cl)、および芳香族塩素(Aromatic Cl)を含んでもよく、前記廃プラスチックの塩素含量は、10ppm以上、50ppm以上、100ppm以上、または100~1,000ppmであってもよく、本発明はこれに限定されない。廃プラスチック熱分解油などの廃プラスチックのクラッキング(Cracking)、熱分解(Pyrolysis)反応により生成された廃油中には、廃プラスチックに起因する多量の不純物が含まれる。特に廃油を前処理して有機/無機塩素などの塩素成分を除去する必要がある。前記廃プラスチックは、生活系廃プラスチック廃棄物と産業系廃プラスチック廃棄物に区分することができる。生活系廃プラスチック廃棄物は、PE、PP以外のPVC、PS、PET、PBTなどが混合されたプラスチックであり、本発明ではPE、PPとともにPVCを3重量%以上含む混合廃プラスチック廃棄物を意味し得る。PVCに由来する塩素は、有機Clおよび無機Clの割合が高いため、安価な中和剤(Ca系、Zn系、Al系)などでも生活系廃プラスチック廃棄物中のClを高効率で除去することができる。産業系廃プラスチック廃棄物は、PE/PPが大半を占めるが、接着剤または染料成分に起因する有機Cl含量が高く、特に芳香環(aromatic ring)に含まれたCl(芳香族塩素)の割合が高いため、上述した一般的な低価格の中和剤で除去することが難しいという問題がある。
【0021】
本発明は、廃プラスチックに由来する廃プラスチックに含まれた塩素の総重量に対して95重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、または99重量%以上の塩素を除去することを特徴とする。このためには、芳香環に含まれた塩素を除去することが好ましい。
【0022】
a)ステップは、廃プラスチックと中和剤を反応させるステップであり、PVCなどの溶融、熱分解過程で発生する多量のHClを中和塩の形態で除去することができ、反応メカニズムは
図1aのとおりである。
【0023】
前記中和剤は、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、またはこれらの組み合わせであってもよく、前記金属は、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、またはこれらの組み合わせであってもよい。具体的に、前記中和剤は、アルミニウム酸化物、カルシウム酸化物、マグネシウム酸化物、亜鉛酸化物、鉄酸化物であってもよい。前記中和剤は、E-catなどのゼオライト成分を含んでもよい。
【0024】
前記中和剤は、廃プラスチックの総重量に対して0.5~20重量%、1~10重量%、または1~5重量%の割合で混合されてもよい。また、前記中和剤は、前記中和剤の金属元素(M)に対する前記廃プラスチック中の総塩素元素(Cl)のモル比(NM/NCl)1~25、好ましくは0.7~15、より好ましくは0.5~5で混合されてもよい。
【0025】
一方、前記廃プラスチック中の総塩素元素(Cl)のモル数とは、前処理および熱分解前の廃プラスチック固体原料物質の塩素元素の総モル数を意味し得る。
【0026】
前記a)塩素除去ステップにおいて、前記廃プラスチックの塩素含量(A)に対する前記a)ステップの産物の塩素重量比(A1/A)は50%以下、40%以下、または20~30%であってもよい。a)ステップ後に廃プラスチックに残留する塩素は、b)ステップで効果的に除去可能である。
【0027】
b)ステップは、前記a)ステップの産物と銅化合物を反応させるステップであり、前記a)ステップで除去されていない少量の有機塩素および芳香族塩素を銅化合物(触媒剤)で除去することができ、反応メカニズムは
図1bのとおりである。銅化合物をa)ステップの中和剤とともに用いるか、または中和剤を代替して用いる場合には、銅化合物が有機塩素中の炭化水素鎖の末端に位置する塩素および無機塩素(HCl)と先に反応し、中和剤で除去され難い芳香族塩素などとの接触が難しくなり得る。また、前処理または熱分解のために反応器内部を昇温する初期の熱分解時点は、相対的に低温(250~300℃)であり、HClが発生し始めるため、優先的に中和剤で塩素を除去することが好ましい。その後、本格的な熱分解工程が進行すると、相対的に高温であり、芳香族塩素の除去反応が活性化される。そこで、中和剤を用いて有機Clおよび無機ClなどをHClとして先に除去した後、次いで、銅化合物で芳香族塩素などを除去するのが効果的である。
【0028】
前記銅化合物は、銅金属(Cu)、酸化銅(CuO)、水酸化銅(Cu(OH)2)、および炭酸銅(CuCO3)からなる群から選択された少なくとも1つを含んでもよく、好ましくは、銅金属(Cu)および/または酸化銅(CuO)を含んでもよい。
【0029】
前記銅化合物は、前記a)ステップの産物の総重量に対して0.1~20重量%、0.5~10重量%、または1~5重量%の割合で混合されてもよい。また、前記銅化合物は、前記銅化合物の銅元素(Cu)に対する前記廃プラスチック中の総塩素元素(Cl)のモル比(NCu/NCl)1~10、好ましくは0.7~5、より好ましくは0.5~3で混合されてもよい。
【0030】
一方、前記廃プラスチック中の総塩素元素(Cl)のモル数とは、前処理および熱分解前の廃プラスチック固体原料物質の塩素元素の総モル数を意味し得る。
【0031】
前記b)塩素除去ステップにおいて、前記廃プラスチックの塩素含量100重量%(A)に対する前記b)ステップの産物の塩素含量の比(A2/A)は10%以下、5%以下、または0.5~3%であってもよい。
【0032】
本発明の一実施形態に係る廃プラスチックの塩素除去方法において、前記a)ステップは、200~320℃の温度で行われ、前記b)ステップは、400~550℃の温度で行われてもよい。それぞれの上記温度範囲でa)およびb)ステップを行う場合、廃プラスチック中の塩素を効果的に除去することができる。
【0033】
本発明の一実施形態に係る廃プラスチックの塩素除去方法において、前記a)ステップおよびb)ステップは、それぞれ独立して、下記1)および2)ステップからなる群から選択された少なくとも1つのステップで行われてもよい。
1)廃プラスチックの前処理ステップ
2)廃プラスチックの熱分解ステップ
【0034】
本発明において、前記1)廃プラスチックの前処理ステップは、廃プラスチックをスクリュー反応器に投入し、常温で粉砕する工程をさらに含んでもよい。前記廃プラスチックの粉砕は、当該技術分野で公知の粉砕工程を適用してもよく、例えば、廃プラスチックを前処理反応器に投入し、約300℃まで加熱し、ペレット状の炭化水素流(hydrocarbon flow)の前駆体を製造してもよいが、本発明はこれに限定されない。
【0035】
一例として、前記粉砕工程は、前記廃プラスチックと中和剤を混合して反応器に投入してもよい。廃プラスチックと、前記中和剤としてカルシウム酸化物などを混合して常温で粉砕すると、機械化学的反応が起こり、炭化水素とCaOHClを生成することができる。これにより、廃プラスチック原料中の塩素をCaOHClに安定的に固定するという効果がある。
【0036】
次に、前記1)廃プラスチックの前処理ステップは、前記粉砕された廃プラスチックを前処理反応器に投入して加熱することを特徴とし、固体廃プラスチック原料物質を物理化学的に処理して塩素を除去し、炭化水素流の前駆体(熱分解原料物質)を製造してもよい。前記炭化水素流の前駆体とは、廃プラスチック溶融物を意味し、前記廃プラスチック溶融物とは、粉砕または未粉砕の固体廃プラスチックの全部または一部が液体廃プラスチックに転換されたものを意味し得る。
【0037】
一例として、前記1)廃プラスチックの前処理ステップは、前記粉砕または未粉砕の廃プラスチックと中和剤をそれぞれ反応器に投入して加熱してもよい。また、前記前処理ステップは、前記粉砕または未粉砕の廃プラスチックと中和剤を反応器に投入して第1前処理(加熱)を行い、次いで、銅化合物を反応器に投入して第2前処理(加熱)を行ってもよい。
【0038】
前記加熱は、200~320℃の温度および常圧条件で行われてもよい。好ましくは、250~320℃、または280~300℃の温度で行われる。一般的に、廃プラスチックの前処理温度が少なくとも250℃であるが、上記の脱塩素後の炭化水素では、より低い温度である200℃でも容易に前処理を行って水素やメタンガスを発生させることができる。
【0039】
前記前処理反応器は、押出機(Extruder)、オートクレーブ反応器(Autoclave reactor)、バッチ反応器(batch reactor)などであってもよく、一例としてオーガー反応器(auger reactor)であってもよいが、本発明はこれに限定されない。
【0040】
前記2)廃プラスチックの熱分解ステップは、気相、液相(オイル+ワックス+水)、および固相物質の3つの物質相に分類される熱分解原料物質を反応器に投入するものであり、具体的に、前記前処理されていないまたは前処理された廃プラスチックを熱分解反応器に投入し加熱して廃プラスチック熱分解油を製造する工程である。
【0041】
一例として、前記熱分解ステップは、前処理された廃プラスチックと銅化合物を混合し、反応器に投入し加熱して熱分解油を製造してもよい。また、前記熱分解工程は、廃プラスチックと中和剤を混合し、反応器に投入し加熱して熱分解油を製造する第1熱分解を行い、その後、反応器に銅化合物を投入して加熱する第2熱分解を行うものであり、少なくとも2回の熱分解を連続的にまたは不連続的に行ってもよい。
【0042】
前記加熱は、非酸化雰囲気下で320~900℃、好ましくは350~700℃、より好ましくは400~550℃の温度で行われてもよい。また、前記加熱は、常圧で行われてもよい。前記非酸化雰囲気は、廃プラスチックが酸化(燃焼)しない雰囲気であり、例えば、酸素濃度が1体積%以下に調整された雰囲気、窒素、水蒸気、二酸化炭素、およびアルゴンなどの不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0043】
加熱温度が400℃以上である場合には、塩素含有プラスチックの融着を防止することができ、一方で加熱温度が550℃以下である場合には、廃プラスチック中の塩素がCaCl2、CuCl2などの形態で熱分解チャー(char)に残留し得る。
【0044】
前記熱分解工程は、熱分解ガスを回収するガス回収工程、および熱分解固形分を微粒物と粗粒物に分離する分離工程をさらに含んでもよい。
前記ガス回収工程では、熱分解工程で生成された気相のうち、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)のような低沸点炭化水素化合物を含む熱分解ガスを回収する。前記熱分解ガスは、一般的に、水素、一酸化炭素、低分子量の炭化水素化合物などの可燃性物質を含む。炭化水素化合物の例としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、ブタン、ブテンなどが挙げられる。このような熱分解ガスは、可燃性物質を含むため、燃料として用いることができる。
【0045】
前記分離工程では、熱分解工程で生成された固相のうち、固形分、例えば、炭化物と中和剤および/または銅化合物を微粒物と粗粒物に分離する。具体的に、塩素含有プラスチックの平均粒径よりも小さく、また、中和剤および銅化合物の平均粒径よりも大きい篩を用いて分級することで、熱分解反応で生成された固形分を微粒物と粗粒物に分離することができる。前記分離工程では、固形分を塩素含有中和剤および銅化合物を相対的に多く含む微粒物と、炭化物を相対的に多く含む粗粒物に分離することが好ましい。前記微粒物と炭化物は、必要に応じて再処理されてもよく、熱分解工程で再使用、燃料として使用または廃棄されてもよく、本発明はこれに限定されない。
【0046】
前記熱分解工程は、オートクレーブ反応器(Autoclave reactor)、バッチ反応器(batch stirred reactor)、流動層反応器(Fluidised-bed reactor)、および固定層反応器(Packed-bed reactor)などで行われてもよく、具体的に、撹拌と昇温の制御が可能な全ての反応器に適用してもよく、本発明ではバッチ反応器(batch reactor)で行われてもよいが、これに限定されない。
【0047】
本発明の一実施形態に係る廃プラスチックの塩素除去方法により製造された熱分解油は、総重量に対して、塩素含量が100ppm以下、70ppm以下、65ppm以下、60ppm以下、50ppm以下、または35ppm以下であり、特に、有機塩素含量が50ppm以下、30ppm以下、20ppm以下、15ppm以下、または10ppm以下であり、無機塩素含量が30ppm以下、15ppm以下、または10ppm以下であり、芳香族塩素含量が20ppm以下、10ppm以下、5ppm以下、または3ppm以下であることが好ましい。そこで、高含量Clを含有する廃プラスチックから精製(Refinery)工程に導入可能なレベルの熱分解油を製造することができる。
【0048】
一方、前記有機塩素含量、無機塩素含量、または芳香族塩素含量とは、それぞれ有機物に含まれた塩素含量、無機物に含まれた塩素含量、または芳香族化合物の芳香環に含まれた塩素含量を意味し得る。
【0049】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。ただし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例にすぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0050】
〔実施例〕
(実施例1-1)
産業系廃プラスチックフィード(Feed)200gをフィード注入部に投入し、スクリュー粉砕を行った。粉砕された廃プラスチック200g/hrとCaO 10wt%をオーガー反応器に投入した後、スクリュー速度10rpm、窒素流量3cc/min、300℃、滞留時間1hrの条件で前処理を行った。
【0051】
前処理された廃プラスチックと、CuO 5wt%をバッチ(Batch)熱分解反応器に投入し、500℃で熱分解を行った。熱分解ガスを、凝縮機を介して捕集した後、回収部を介して熱分解油を得た。
この際、産業系廃プラスチックは、免税店から出た廃ビニルとしてPE/PPが大半であり、総Clは853ppmであった。
【0052】
(実施例1-2)
CuO 5wt%の代わりにCu 5wt%(1.0mmの銅線)を投入したことを除いては、実施例1-1と同様に行った。
【0053】
(比較例1-1)
前処理を行わないことと、熱分解時にCuOを投入しないことを除いては、実施例1-1と同様に行って熱分解油を得た。
【0054】
(比較例1-2)
前処理時にCaOを投入しないことと、熱分解時にCuOを投入しないことを除いては、実施例1-1と同様に行って熱分解油を得た。
【0055】
(比較例1-3)
前処理時にCaOの代わりにE-catを投入したことと、熱分解時にCuOを投入しないことを除いては、実施例1-1と同様に行って熱分解油を得た。
【0056】
(比較例1-4)
前処理時にCaOを投入しないことと、熱分解時にCuOの代わりにCaOを用いたことを除いては、実施例1-1と同様に行って熱分解油を得た。
【0057】
(比較例1-5)
前処理時にCaOの代わりにCuOを投入したことと、熱分解時にCuOの代わりにCaOを用いたことを除いては、実施例1-1と同様に行って熱分解油を得た。
【0058】
(実施例2-1)
産業系廃プラスチックフィード(Feed)の代わりに生活系廃プラスチックフィード(Feed)を用いたことを除いては、実施例1-1と同様に行った。
【0059】
この際、生活系廃プラスチックの組成は、廃PP 77~80wt%、廃PE 17~20wt%、廃軟質PVC(可塑剤+PVC)0~6wt%である。廃PP中の総Cl含量は444ppm、廃PE中の総Cl含量は694ppm、廃軟質PVC中の総Cl含量は243,000ppmであり、生活系廃プラスチックの総Clは8,100ppmであった。
【0060】
(実施例2-2)
産業系廃プラスチックフィード(Feed)の代わりに実施例2-1の生活系廃プラスチックフィード(Feed)を用いたことを除いては、実施例1-2と同様に行って熱分解油を得た。
【0061】
(比較例2-1~2-5)
産業系廃プラスチックフィード(Feed)の代わりに実施例2-1の生活系廃プラスチックフィード(Feed)を用いたことを除いては、それぞれ比較例1-1~1-5と同様に行って熱分解油を得た。
【0062】
[評価例]:熱分解油の塩素含量の評価
実施例1-1、1-2、2-1、および2-2と、比較例1-1~1-5および2-1~2-5から得られた熱分解油のCl含量を測定し、下記表1に示した。
【0063】
【0064】
表1を参照すると、実施例から、前処理時にCaOを用い、熱分解時に銅化合物(Cu/CuO)を用いることが、芳香族Clを除去するのにさらに効果的であることが分かる。このような結果は、500℃の熱分解温度で、有機塩素中の炭化水素鎖の末端に位置する塩素および無機塩素(HCl)よりも、芳香族Clと銅化合物の反応がさらに活発に起こるためであると理解される。
【0065】
実施例1-1は、本発明の構成要素を全て実施することで、熱分解油の総Cl含量だけでなく、有機Clも著しく少ない含量に低減可能であることを確認することができた。これに対し、比較例1-1は、単純な熱分解反応によりHClがオイル蒸気(oil vapor)として除去されるため、除去される塩素含量が十分でなく、比較例1-2は、熱分解前にオーガー反応器にて中和剤などを用いずに単純な前処理を行った後に熱分解を行うため、比較例1-1に比べて塩素除去率は良いが、やはり精製(Refinery)工程に導入できるレベルの製品ではなかった。比較例1-3および1-4は、銅化合物を代替してCaOまたはE-catを用いたが、製造された熱分解油は、有機Clを相対的に高含量で含有する。このような結果は、熱分解時に芳香族Clを十分に除去できないためであると理解される。
【0066】
実施例2-1は、フィード中の有機Cl含量が高い生活系廃プラスチックの熱分解においても、本発明の構成要素を全て実施することで、熱分解油の総Cl含量だけでなく、有機Clも著しく少ない含量に低減可能であることを確認することができた。比較例2-1では、単純な熱分解反応だけではフィード中の総Clの約70%レベルまでしか除去できないことを確認した。比較例2-2では、熱分解前にオーガー反応器にて中和剤などを用いずに単純な前処理だけで約94%までのCl低減が可能であることを確認した。ただし、比較例2-1および2-2では、精製(Refinery)工程に導入できるレベルの熱分解油を得られなかった。比較例2-3および2-4は、一般的に用いられる添加剤であるCaOまたはE-catを用いたが、総Clが比較例2-2に比べて高かった。
【0067】
比較例1-5および2-5では、実施例1-1および2-1に比べて高い含量の有機Clを示す。このような結果は、塩素含量が高いフィードをCuOで先に処理することで多量の無機Clと有機Clを除去したが、熱分解時に投入されたCaO中和剤で芳香族Clを効果的に除去することが難しいため、相対的に多量の有機Clが残留するものと理解される。したがって、廃油中の芳香族Clを除去するためには、芳香族塩素などと銅化合物を接触させることが重要であり、このためには、低価格の中和剤で多量の有機塩素および無機塩素を先に除去することが好ましいことが分かった。
【0068】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態で製造されてもよく、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述された実施例は、全ての面で例示的なものであって、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【国際調査報告】