(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】希土類含有材料の電解原子水素デクレピテーション
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20240927BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240927BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20240927BHJP
C22B 59/00 20060101ALI20240927BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240927BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20240927BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240927BHJP
C25B 11/046 20210101ALI20240927BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20240927BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/04
C22B1/00 101
C22B59/00
C22B7/00 G
B22F9/04 D
B22F9/04 E
H01F41/02 G
C25B11/046
C25B11/03
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513328
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 IL2022050955
(87)【国際公開番号】W WO2023031932
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503202608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロプメント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ルボミルスキー,イゴール
(72)【発明者】
【氏名】カプラン,ヴァレリー
【テーマコード(参考)】
4K001
4K011
4K017
4K021
5E062
【Fターム(参考)】
4K001AA39
4K001BA22
4K001CA01
4K011AA12
4K011AA17
4K011DA01
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017BB13
4K017DA04
4K017EA09
4K017FB02
4K021AA01
4K021BA02
5E062CC05
5E062CD04
5E062CG01
(57)【要約】
電解原子水素デクレピテーションのための装置およびその使用方法が本明細書で提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの希土類含有材料の原子水素デクレピテーションのための電解装置であって、前記装置は、
前記少なくとも1つの希土類含有材料がカソードであるカソード;
アノード;
電解質;
を含み、
前記電解装置は、電解反応を実施し、前記少なくとも1つの希土類含有材料をデクレピテートするように構成される、装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの希土類含有材料は下記から選択される下記元素のいずれかを含む、請求項1に記載の電解装置:セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびイットリウム(Y)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの希土類含有材料は強磁性合金または希土類磁石を含む、請求項1または2に記載の電解装置。
【請求項4】
前記希土類磁石は、下記を含むリストから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解装置:Nd
2Fe
14B、SmCO
5、Sm(Co,Fe,Cu,Zr)
7、Sr-フェライト、鉄棒磁石またはそれらの組み合わせ。
【請求項5】
前記カソードは、銅、ニッケル、鋼、チタン、希土類含有材料またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項6】
少なくとも1つの追加のカソードをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項7】
前記電解質はKOHまたはNaOH水溶液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項8】
前記カソードは、デクレピテートされた断片がそれを通過できるように適合された、少なくとも1つのグリッドをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つのグリッドは直径1~100μmの範囲のサイズを有する穴を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つのグリッドは、銅、ニッケル、鋼、チタン、強磁性合金またはそれらの任意の組み合わせから構成される、請求項1~9のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項11】
少なくとも1つの希土類含有材料の電解原子水素デクレピテーションのための方法であって、
電解質中で電解反応を実施するように構成された、請求項1~10のいずれか一項に記載の電解装置を提供すること;ならびに
前記アノードと前記カソードの間に印加電位を提供することにより前記電解反応を実施し、前記カソードで原子水素を生成させること
を含む、方法。
【請求項12】
少なくとも1つの希土類含有材料の電解原子水素デクレピテーションのための方法であって、
アノード、カソードおよび電解質を含み、電解反応を実施し、前記少なくとも1つの希土類含有材料をデクレピテートするように構成された電解装置を提供すること;
前記少なくとも1つの希土類含有材料を前記カソード上に配置すること;ならびに
前記アノードと前記カソードの間に印加電位を提供することにより前記電解反応を実施し、前記カソードで原子水素を生成させること
を含む、方法。
【請求項13】
前記カソードは銅、ニッケル、鋼、チタン、希土類含有材料またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電解反応は室温で実施される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
前記電解反応は高温で実施される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項16】
実施される
前記印加電位は4~10Vである、請求項11または12に記載の方法。
【請求項17】
原子水素は前記カソードから2H
+(aq)+2e
-→2H(g)の還元反応により放出される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項18】
前記H+は前記セル内での前記水(H
2O)の電気分解の結果である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項19】
前記電解質はKOHまたはNaOH水溶液を含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項20】
前記カソードは、デクレピテートされた断片がそれを通過できるように適合された少なくとも1つのグリッドをさらに含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つのグリッドは、銅、ニッケル、鋼、チタン、強磁性合金またはそれらの任意の組み合わせから構成される、請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電解原子水素デクレピテーション(decrepitation)のための装置およびその使用方法が本明細書で提供される。
【背景技術】
【0002】
ネオジム-鉄-ホウ素(NdFeB)に基づく希土類磁石は多くのクリーンエネルギーおよびハイテク用途、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)、電気自動車におけるモーターおよび風力タービンにおける発電機において採用されている。近年、希土類金属の供給はかなりの負担を強いられている。これにより、希土類金属、特に、ネオジム、プラセオジムおよびジスプロシウム、NdFeB磁石の希土類構成要素についての劇的な価格変動という結果になった。欧州重要材料リスト(2010、2014)および米国エネルギー省のエネルギー重要要素リスト(2010)によれば、希土類金属は、クリーンエネルギー技術のために使用される全ての他の材料と比べて供給不足のリスクが最も高いと分類される。
【0003】
これらの材料不足に対処することができるいくつかの方法があり、下記が挙げられる:(a)より多くの希土類鉱山を開く、(b)希土類を含まない代替技術を使用する(c)磁石などの特定の用途において使用される希土類金属の量を低減させる、または(d)様々なタイプの機器を用いて希土類金属を含む磁石の既存ストックをリサイクルする。しかしながら、選択肢(a)に関しては、希土類元素の採掘、選鉱および分離は、エネルギー集約型であり、酸浸出プロセスからの毒性副産物という結果になり、一次鉱石はほとんど常に、トリウムなどの放射性元素が混合されている。選択肢(b)のように代替技術、または、選択肢(c)のように希土類金属量の低減が使用される場合、永久磁石機と比べて、これはしばしば、効率および性能の低下につながる。
【0004】
廃棄物からの磁石スクラップのリサイクルは、下記予備ステップを含む複数のステップから構成される;廃棄物からの磁石の分離、300-350℃での熱処理による消磁、700-1000℃での、空気または酸素流下での燃焼による脱炭(樹脂の除去のため)、および水素還元による脱酸素。主プロセス(希土類金属および鉄の分離)はこれらの予備段階後に始まる。いくつかの湿式プロセス:酸溶解、溶媒抽出、およびシュウ酸塩法もまた、ネオジムの回収のために使用される。これらの湿式化学法では、酸溶解および排水処理ステップからの収率が不十分であり、多段階プロセスが必要とされ、コスト高という結果になる。磁石スクラップからの希土類金属のための回収プロセスは可能な限り低いコスト、および、少ないステップを有することが重要であり、というのも、製品からの磁性材料の回収はそれ自体、多段階プロセスであるからである。
【0005】
Nd-磁石合金の研削/粉砕は総リサイクルコストの10%超を占め、一方、得られた微粉末が粉砕装置(ジェットミル、ボールミル)の研削媒体および/またはライニング材で汚染されるリスクは無視できない。Nd磁石をリサイクルするために開発されたデクレピテーションプロトコルは一般に、粉末合金を生成するために乾燥水素ガスを中程度に高いガス圧および/または温度で使用していた。
【0006】
磁石のリサイクルに関連する最も大きな課題の1つは、磁性材料を他の成分から効率的に分離する方法である。特定的には、低コストでの強磁性合金のデクレピテーションの実施である。
【発明の概要】
【0007】
1つの実施形態では、ここで開示される主題は少なくとも1つの希土類含有材料の原子水素デクレピテーションのための電解装置を提供し、装置は下記を含み:
少なくとも1つの希土類材料がカソード自体であるカソード;
アノード;
槽内の電解質;および
電解装置は、電解反応を実施し、前記少なくとも1つの希土類含有材料をデクレピテートする(decrepitate)ように構成される。
【0008】
いくつかの実施形態では、カソードおよび強磁性合金は同じ材料を含む。1つの実施形態では、カソードおよび強磁性合金は同じ材料である。装置の1つの実施形態では、少なくとも1つの希土類含有材料は下記から選択される下記元素のいずれかを含む:セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびイットリウム(Y)。
【0009】
装置の1つの実施形態では、少なくとも1つの希土類含有材料は強磁性合金または希土類磁石を含む。別の実施形態では、希土類磁石は、下記を含むリストから選択される:Nd2Fe14B、SmCO5、Sm(Co,Fe,Cu,Zr)7、Sr-フェライト、鉄棒磁石またはそれらの組み合わせ。1つの実施形態では、鉄含有材料は、本明細書で詳述されるように、さらなる処理プロセスを受け、希土類材料が鉄含有材料から分離される。いくつかの実施形態では、さらなる前処理プロセスは、電解原子水素デクレピテーションプロセス前に、強磁性合金を粉砕、研削、破砕、微粉化することを含むことができる。
【0010】
1つの実施形態では、装置のカソードは、銅、ニッケル、鋼、チタンまたはそれらの任意の組み合わせをさらに含む。1つの実施形態では、装置の電解質は水酸化物である。別の実施形態では、電解質はKOHまたはNaOH水溶液である。1つの実施形態では、カソードは、デクレピテートされた断片がそれを通過できるように適合された少なくとも1つのグリッドをさらに含む。1つの実施形態では、グリッドは直径1~100μmの範囲のサイズを有する穴を有する。1つの実施形態では、少なくとも1つのグリッドは、銅、ニッケル、鋼、チタン、強磁性合金またはそれらの任意の組み合わせから構成される。1つの実施形態では、装置は少なくとも1つの追加のカソードをさらに含む。
【0011】
1つの実施形態では、ここで開示される主題は、少なくとも1つの希土類含有材料の電解原子水素デクレピテーションのための方法を提供し、方法は下記を含む:
電解質中で電解反応を実施するように構成された、ここで開示される装置のいずれかの電解装置を提供すること;ならびに
前記アノードと前記カソードの間に印加電位を提供することにより、電解反応を実施し、前記カソードで原子水素を生成させること。
【0012】
1つの実施形態では、ここで開示される主題は、少なくとも1つの希土類含有材料の電解原子水素デクレピテーションのための方法を提供し、方法は下記を含む:
アノード、カソードおよび電解質を含み、電解反応を実施し、前記少なくとも1つの希土類含有材料をデクレピテートするように構成された電解装置を提供すること;
前記少なくとも1つの希土類含有材料を前記カソード上に配置すること;ならびに
前記アノードと前記カソードの間に印加電位を提供することにより、電解反応を実施し、前記カソードで原子水素を生成させること。
【0013】
方法の1つの実施形態では、カソードおよび強磁性合金は異なる材料である。方法のいくつかの実施形態では、カソードおよび強磁性合金は同じ材料を含む。方法の1つの実施形態では、カソードおよび強磁性合金は同じ材料である。方法の1つの実施形態では、電解反応は室温で実施される。方法の1つの実施形態では、電解反応は高温で実施される。方法の1つの実施形態では、印加電位は4~10Vである。方法の1つの実施形態では、原子水素はカソードから2H+(aq)+2e-→2H(g)の還元反応により放出される。方法の1つの実施形態では、H+はセル内での水(H2O)の電気分解の結果である。方法の1つの実施形態では、電解質は水酸化物を含む。方法の1つの実施形態では、電解質はKOHまたはNaOH水溶液を含む。
【0014】
方法の1つの実施形態では、カソードは、デクレピテートされた断片がそれを通過できるように適合された少なくとも1つのグリッドをさらに含む。方法の1つの実施形態では、少なくとも1つのグリッドは、銅、ニッケル、鋼、チタン、強磁性合金またはそれらの任意の組み合わせから構成される。
【0015】
発明とみなされる主題は、明細書の結論部部分で特定的に指摘され、明確に特許請求される。しかしながら、本発明は、組織および動作方法の両方に関し、その目的、特徴および利点と共に、添付の図面と共に下記詳細な説明を参照にすることにより、最もよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】原子水素デクレピテーション前の強磁性合金を示す。
【
図2】原子水素デクレピテーション後の強磁性合金を示す。
【
図3】本発明の方法の一実施形態の概要説明である。
【
図4】原子水素デクレピテーション前の強磁性合金(初期磁石)のX線回折(XRD)を示す-
図4A:試料1;
図4B:試料2。(試料1および2の含量は実施例3、表3において提供される)。
【
図5】エネルギー分散型蛍光X線分光法により特徴付けられる初期磁石のキャラクタリゼーションを示し、初期磁石、試料1のSEM画像、(
図5A);初期磁石、試料2のSEM画像、(
図5B);初期磁石-試料1のEDSスペクトル(
図5C);および初期磁石-試料2のEDSスペクトル(
図5D)が提供される。
【
図6】
図6Aは原子水素デクレピテーションのための研究室セットアップを示す。1-700mlを含むガラス容器(電解槽)、2-チタンカソード、3-無傷の磁石断片、4-チタングリッド、5-ニッケルアノード、6-1M KOH電解質、7-デクレピテーション後の磁石粉末。4.7V DC、13-15Aを2時間周囲条件下で適用した。
図6Bは、カソード自体としての強磁性合金の写真を示す。
【
図7】原子水素デクレピテーション後の磁石粉末の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。
【
図8】原子水素デクレピテーション後の磁石粉末のSEM画像を示す。
【
図9】永久磁石からの希土類金属の抽出のための塩素処理のための研究室セットアップを示す。1-塩素発生器;2-ガスストップ;3-弁;4-流量計;5-塩素のための管;6-空気添加のための場所;7-石英反応器;8-温度制御装置を有する炉;9-パイレックスガラスるつぼ;10-ガス洗浄瓶、11-昇華物収集器、12-昇華物。
【
図10】試料1(
図10A)および試料2(
図10B)のエネルギー分散型蛍光X線分光法(EDS、LEO Supra)による塩素ガス処理後の材料の組成のキャラクタリゼーションを示す。
【
図11】
図11Aは塩素ガスを用いた温度処理(400℃)後の、ネオジム磁石試料由来の昇華物の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。「1」はFe
2O
3を示し、「2」はFeOClを示す。
図11Bは
図11AにおけるXRDパターンから得られた昇華物の定量的相解析を示す。
【
図12】2時間中、周囲条件下での、cmサイズの、Nd-磁石断片の電解水素デクレピテーション後に得られた微粒子粉末を表す:
図12A-ペトリ皿中の粉末の写真。
図12B-EDSスペクトル。パネル内の炭素ピーク(スペクトルの左側に
**の印がある)は粉末に起因せず、むしろ、薄い炭素担体箔に起因する。希土類元素は、希土類元素の(REE)重複XRFピークを示す。
【
図13】1M KOH溶液における2時間の室温電気分解後に得られた、微粒子の、デクレピテートされた磁石粉末の粉末X線回折(XRD)パターンを表し、Nd
2Fe
14BH
1.86標準粉末パターン(ICSD#80973)と比較してある。HD(水素デクレピテートされた)粉末のXRDパターンは、空気中周囲条件下での4ヶ月の保存後、変化しなかった。
【
図14】印加磁場、μ
0H[T]の関数としての、300KでのHD粉末の磁気特性のSQUID磁力計VSM測定を表し:
図14Aおよび14Bは磁気分極J[T]を提示し;
図14Cは磁気エネルギー密度|BH|[ジュール/m
3]、磁気誘導B[T]を提示する。
【
図15】電解水素デクレピテーションにより生成されたNd
2Fe
14BH
x微粒子粉末の飽和磁化の温度依存性を表す。一定外部場6テスラでのHD粉末飽和磁化の温度依存性。消磁補正(非常に小さいと推定)は適用されなかった。形態:M(T)=M(0)(1-(T/T
c)
α)における改良Bloch法へのフィッティングは成功し、パラメータの有効な値が得られたM(0)=136.5Am
2kg
-1、T
c=936Kおよびα=2.35(R=0.99959)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
説明を簡単かつ明確にするために、図において示される要素は、必ずしも、縮尺通りに描かれていないことが認識されるであろう。例えば、要素のいくつかの寸法は、明確にするために、他の要素に対して誇張される可能性がある。さらに、適切と考えられる場合、参照番号は、対応または類似する要素を示すために、図間で繰り返される場合がある。
【0018】
下記詳細な説明では、多くの具体的詳細が、発明の完璧な理解を提供するために明記される。しかしながら、当業者には、本発明はこれらの特定の詳細なしで実施され得ることが理解されるであろう。他の例では、よく知られた方法、手順、および成分は、本発明を曖昧にしないように詳細には記載されていない。
【0019】
ここで開示される主題は、電気分解による強磁性合金の原子水素デクレピテーションのための電解装置および方法を提供する。いくつかの実施形態では、原子水素デクレピテーションの方法は、前処理ステップをさらに含むことができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、電解装置はカソード、アノードおよび電解質を含み、少なくとも1つの希土類含有材料はカソード上に配置される。いくつかの実施形態では、「強磁性合金」、「希土類含有材料」および「希土類磁石」という用語は同じ意味で使用される。いくつかの実施形態では、電気分解のための電極に結合させることができる任意の希土類含有材料がこの発明のために使用することができる。希土類含有材料は、いくつもの希土類元素および/または他の材料、例えば、鉱物、合金または磁石を含む任意の材料を含むことができる。本明細書で言及される希土類元素は下記のいずれかを含むことができる:セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびイットリウム(Y)。いくつかの実施形態では、カソードは銅、ニッケル、鋼、チタンまたはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、強磁性合金は電解装置におけるカソードに付着される。いくつかの実施形態では、強磁性合金はカソード上に配置され、そこで、強磁性合金およびカソードは電子的に結合される。いくつかの実施形態では、電解装置は少なくとも1つの追加のカソードを含むことができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、電解装置は、強磁性合金/片の下に、穴を含むグリッドをさらに含む。グリッド内の穴のサイズは強磁性片/断片がそれを通過できるように構成された任意の適切なサイズとすることができ、電解デクレピテーション後に、電解槽の底部で所望の粒径の粉末が達成される。
【0023】
いくつかの実施形態では、グリッドの穴のサイズは、1~100μmの直径の範囲である。いくつかの実施形態では、グリッドの穴のサイズは、1~1000μmの直径の範囲である。いくつかの実施形態では、グリッドの穴のサイズは、1~50μmの直径の範囲である。いくつかの実施形態では、グリッドの穴のサイズは、50~100μmの直径の範囲である。いくつかの実施形態では、グリッドの穴のサイズは、100~500μmの直径の範囲である。いくつかの実施形態では、グリッドの穴のサイズは、500~1000μmの直径の範囲である。いくつかの実施形態では、グリッドの穴のサイズは、1mm~5mmの直径の範囲である。
【0024】
いくつかの実施形態では、カソードに接続された1を超えるグリッドが使用される。複数のグリッドを用いると、より大きな片は上方グリッドを通過することができるが、下方グリッドが通過できない。強磁性合金断片はそれらがデクレピテートするにつれより小さくなり、漸進的により小さな穴のサイズを有するその後のグリッドを通過する。複数のグリッドは、強磁性合金がデクレピテートするにつれ、強磁性合金と電解質の間でより大きな曝露表面積を促進することができる。1つの実施形態では、強磁性合金と電解質の間でより高い曝露表面積を可能にする任意のグリッド構成は発明の範囲内である。
【0025】
いくつかの実施形態では、強磁性合金、希土類含有材料または希土類磁石それ自体がカソードであり、すなわち、原子水素が強磁性合金カソードの表面上で直接放出される。
図6Bはカソード自体として統合された強磁性合金を示す。そのような配列では、カソード自体が強磁性合金および希土類磁石を含むことができる。いくつかの実施形態では、カソード自体は希土類含有材料を含む。いくつかの実施形態では、カソード自体は下記のいずれかを含む:セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびイットリウム(Y)。いくつかの実施形態では、1を超えるカソードが存在する。
【0026】
いくつかの実施形態では、強磁性合金がカソード自体である場合、電解装置は、カソードに接続された、デクレピテートされた断片がそれを通過できるように構成された、グリッドをさらに含む。
【0027】
この発明は、少なくとも1つの希土類含有材料の電解原子デクレピテーションのための方法をさらに提供する。「原子水素デクレピテーション」は一般に、原子水素を使用して、希土類含有材料をより小さな片、一般に小さな断片または粉末に分解するプロセスを示す。「電解原子水素デクレピテーション」は、少なくとも、電気分解により実施されるデクレピテーションプロセスを示す。いくつかの実施形態では「原子水素デクレピテーション」および「電解原子水素デクレピテーション」または単に「デクレピテーション」は同じ意味で使用される。そのようなものとして、「デクレピテートされた」および「デクレピテートされた断片」のような用語は、本明細書における定義を考慮して理解される。いくつかの実施形態では、強磁性合金を電解装置に入れる前に前処理ステップは必要とされない。
【0028】
いくつかの実施形態では、原子水素デクレピテーションまでの前処理段階は、以下で詳述されるように、含めることができる。
【0029】
1つの実施形態では、強磁性合金片が直ちに電解装置に入れられ、電解原子水素デクレピテーションが実施され、合金粉末が形成される。そのような合金粉末はいくつもの追加の方法により分離することができ、異なる材料が回収される。例えば、本明細書で記載されるように、鉄および希土類金属を分離するための塩素化処理である。
【0030】
いくつかの実施形態では、希土類金属の電解原子水素デクレピテーションの方法は下記を含む:
本明細書で開示され、一般にアノード、カソード、電解質および槽を含む電解装置のいずれか一つを提供すること;
少なくとも1つの希土類含有材料をカソード上に配置すること;ならびに
カソードとアノードの間に印加電位を提供することにより電解反応を実施し、カソードで原子水素を生成させること。
【0031】
いくつかの実施形態では、方法は、それ自体、強磁性合金断片、片または材料でできたカソードを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、方法は室温で実施される。いくつかの実施形態では、方法は周囲条件において実施される。いくつかの実施形態では、電気分解は高温で実施される。いくつかの実施形態では、高温は20-30℃である。いくつかの実施形態では、高温は20-40℃である。いくつかの実施形態では、高温は20-50℃である。いくつかの実施形態では、高温は30-40℃である。いくつかの実施形態では、高温は40-50℃である。いくつかの実施形態では、高温は50-100℃である。
【0033】
いくつかの実施形態では、原子水素デクレピテーションは電解反応を含み、印加電位は4-10Vである。別の実施形態では、印加電位は4-8Vである。他の実施形態では、印加電位の範囲は下記のいずれか一つである:4-5V、4-6V、4-7V、4-8V、4-9V、4-10V、5-6V、5-7V、5-8V、5-9V、5-10V、6-7V、6-8V、6-9V、6-10V、7-8V、7-9V、7-10V、8-9V、8-10Vまたは9-10V。
【0034】
いくつかの実施形態では、電解質は水酸化物である。いくつかの実施形態では、電解質はKOHまたはNaOH水溶液である。いくつかの実施形態では、方法は、デクレピテートされた強磁性断片をグリッドに通す濾過をさらに含む。いくつかの実施形態では1を超えるグリッドが存在する。
【0035】
本発明の1つの利点は前処理または塩素化ステップを必要としないことにある。しかしながら、いくつかの実施形態はこれらをデクレピテーションの方法における追加のステップとして使用することができる。
【0036】
この発明は、塩素化ステップをさらに含む、強磁性合金からの少なくとも1つの希土類金属の原子水素デクレピテーションのための方法をさらに提供し、方法は下記を含み:
(a)強磁性合金を少なくとも1つの塩素含有ガスと反応させ、揮発性鉄含有塩化物生成物および不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を得ること;
(b)前記揮発性鉄含有塩化物生成物に空気流を提供し、これにより鉄含有塩化物生成物を酸化鉄に酸化すること;
(c)前記酸化鉄生成物および不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を分離すること;
(d)前記分離した不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を冷却すること;
(e)前記冷却した不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を電気分解すること;
これにより、前記少なくとも1つの希土類金属が回収される。
【0037】
いくつかの実施形態では、この発明の方法は、ステップ(a)の、強磁性合金を少なくとも1つの塩素含有ガスを反応させる前に、デクレピテーションによる強磁性合金の前処理を含み、原子水素デクレピテーション処理を使用して粉末合金が形成される。他の実施形態では、デクレピテーションは室温で実施される。他の実施形態では、原子水素デクレピテーション処理は電気分解を使用して実施される。他の実施形態では、電気分解は銅、ニッケル、鋼、チタンまたはそれらの組み合わせの第1の電極(カソード);および鉛、ニッケル、鋼またはそれらの組み合わせの第2の電極(アノード)を使用して実施される。他の実施形態では、強磁性合金は前記第1の電極(カソード)に付着される。
【0038】
図3は、希土類金属回収の1つの実施形態を示し、これは塩素化ステップを含む。いくつかの実施形態では、強磁性合金から鉄を分離するために塩素化ステップが必要とされる。他の実施形態では、塩素化ステップは必要とされない。1つの実施形態では、鉄が強磁性合金中に存在しない場合、原子水素デクレピテーションは、本明細書で記載される電気分解により実施される。
【0039】
いくつかの実施形態では、例えば、
図3に示されるように、この発明は、強磁性合金からの少なくとも1つの希土類金属の回収のための方法を提供し、方法は下記を含み:
(a)強磁性合金を本明細書で記載される電解原子水素デクレピテーションにより前処理し、粉末合金を形成させること;
(b)強磁性粉末合金を少なくとも1つの塩素含有ガスと反応させ、揮発性の鉄含有塩化物生成物および不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を得ること;
(c)前記揮発性鉄含有塩化物生成物に空気流を提供し、これにより鉄含有塩化物生成物を酸化鉄に酸化すること;
(d)前記酸化鉄生成物および不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を分離すること;
(e)前記分離した不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を冷却すること;
(f)前記冷却した不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を電気分解すること;
これにより、前記少なくとも1つの希土類金属が回収される。
【0040】
いくつかの実施形態では、この発明は強磁性合金からの少なくとも1つの希土類金属の回収のための方法を提供し、方法は下記を含み:(i)粉末合金を形成するための、前記強磁性合金の電解原子水素デクレピテーション;(ii)より低い鉄含量を有する粉末合金を形成するための、前記粉末の磁気分離;(iii)より低い鉄含量を有する前記粉末合金を少なくとも1つの塩素含有ガスと反応させ、揮発性鉄含有塩化物生成物および不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を得ること;(iv)前記揮発性鉄含有塩化物生成物および不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を分離すること;(v)前記分離した不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を冷却すること;(vi)前記冷却した不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を電気分解すること;これにより、前記少なくとも1つの希土類金属が回収される。
【0041】
他の実施形態では、原子水素デクレピテーションは室温で実施される。他の実施形態では、原子水素デクレピテーションは電気分解を使用して実施される。他の実施形態では、電気分解は、銅、ニッケル、鋼、チタン、またはそれらの組み合わせの第1の電極(カソード);および鉛、ニッケル、鋼またはそれらの組み合わせの第2の電極(アノード)を使用して実施される。他の実施形態では、強磁性合金は前記第1の電極(カソード)に付着される。
【0042】
他の実施形態では、この発明はまた、磁石の前処理を必要としない塩素処理による、使用済みネオジム磁石の回収のための方法を提供する。例えば、消磁、破砕および粉砕なしの、使用された磁石。400℃での処理後、希土類金属塩化物からなるクリンカー、酸化鉄および塩化鉄からなる昇華物が得られた。得られた希土類金属塩化物は次いで、希土類金属生成のために溶融塩の電気分解により処理される。
【0043】
「前処理」は別のプロセスの前に起こる任意の1つまたは複数のプロセスを示す。1つの実施形態では、前処理は粉砕および研削などの物理的プロセスを示してもよいが、また、非電解原子水素デクレピテーションも示し得る。前処理の他の例としては、下記が挙げられ得るが、それらに限定されない:磁気分離、消磁、加熱、化学プロセス、など。
【0044】
「強磁性」(「フェリ磁性」と同じ意味で使用される)合金に言及する場合、それ自体の永久磁場を作製する金属の組み合わせでできた、任意の型の源(使用済みを含む)の永久磁石を包含することが理解されるべきである。これらの金属としては、元素鉄、ニッケルおよびコバルト、希土類金属、天然起源の鉱物(例えば、天然磁石)およびそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。別の実施形態では、強磁性合金はNb2Fe14B、(Nb,Pr)Fe14B(Dy2O3添加物を有する)である。いくつかの実施形態では、希土類金属は、強磁性合金、希土類磁石、Nd2Fe14B、SmCO5、Sm(Co,Fe,Cu,Zr)7、Sr-フェライト、鉄棒磁石およびそれらの組み合わせを含む磁石を起源とする。
【0045】
いくつかの実施形態では、本発明は任意の天然起源の鉱物からの希土類金属の回収および/または抽出を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、天然起源の希土類元素源、例えば、限定はされないが下記からの希土類金属の回収および/または抽出を提供する:希土類鉱物、エシナイト-(YまたはCe)、カツレン石、アパタイト、バストネサイト、ブリソライト、ブロック石、セライト、ドレイス石-(Ce)、ユークセン石、フルオセライト、ホタル石、ガドリナイト、ラテライト粘土、ロパライト、モナザイト、パリス石-(CeまたはLa)、スティルウェライト、シンキス石、チタン石、ウェイクフィールド石、ゼノタイム、ジルコンまたはそれらの組み合わせ。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの希土類金属は、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、およびイットリウム(Y)から選択される。
【0047】
原子水素デクレピテーション
ネオジム磁石はガス状水素を吸収する。Nd15Fe77B8合金は水素を容易に室温で吸収し(ただし、表面が強く酸化されていないことを条件とする)、バルク材料のもろい粉末へのデクレピテーション(微粉化)という結果となる。破砕性は、強制的にまたは接触下、とりわけ摩擦によって固体物質が壊れてより小さな片になる傾向である。水素の吸収は2段階で実施される:水素は最初に、Ndリッチ粒界材料、次いで、マトリクスNd-Fe-B相により吸収される。大きな電気陰性度差のために、水素の挿入は希土類元素(REE)の近くで有利となる。粒子間破壊が単結晶粒子を生成する可能性があるが;しかしながら、これらの粒子はそれにもかかわらず脆く、ボールミルによるさらなるサイズ低減を受けることができる。
【0048】
この発明は、ガス状水素とは対照的に、原子水素(電気分解による)を使用した強磁性合金のデクレピテーションの方法に関する。しかしながら、ガス状水素と比べて電解原子水素を使用する利点は、温和な条件の使用にあり、この場合、反応は室温で実施され、高圧の純粋水素の必要性が排除される。
【0049】
いくつかの実施形態では、この発明の方法は強磁性合金の原子水素デクレピテーションを含み、方法は室温での原子水素による強磁性合金の電解反応を含み、原子水素は電気化学セル内のカソードから放出され、強磁性合金と反応させられ、粒径≦50μmを有する強磁性合金粉末が得られる。いくつかの実施形態では、原子水素は、2H+(aq)+2e-→2H(g)の還元反応により、カソードから放出される。他の実施形態では、H+は電解セル内での水(H2O)の電気分解の結果である。
【0050】
他の実施形態では、原子水素はさらに、水電解槽内でガス状水素(H2)[2H(g)→H2(g)]を形成する。原子水素はカソードの金属表面上で形成し、強磁性合金と反応する。その残りは水溶液中に入り、分子水素を形成する。
【0051】
他の実施形態では、カソードは銅、ニッケル、鋼、チタンまたはそれらの任意の組み合わせを含む。別の実施形態では、アノードは鉛、ニッケル、鋼またはそれらの組み合わせを含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、原子水素デクレピテーションは電解反応を含み、電解質はKOHまたはNaOH水溶液である。
【0053】
いくつかの実施形態では、原子水素デクレピテーションは電解反応を含み、電解反応は室温で実施される。別の実施形態では、電解反応は20~40℃の温度で実施される。別の実施形態では、電解反応は20~30℃で実施される。別の実施形態では、電解反応は20~35℃で実施される。
【0054】
いくつかの実施形態では、このプロセスは、高温装置または高圧の純粋水素雰囲気の必要性を排除する。微粒子NdFeB水素化物粉末はさらに処理することができ、新規磁性材料が形成され、または、磁石の鉄含有成分からの貴重な希土類金属の分離が促進される
【0055】
いくつかの実施形態では、原子水素デクレピテーションは電解反応を含み、電解反応は30分~3時間の期間実施される。別の実施形態では、電解反応は2時間実施される。
【0056】
いくつかの実施形態では、この発明の原子水素デクレピテーション法により得られた強磁性合金粉末は、サイズ≦50μmの粒子を含む。他の実施形態では、この発明の原子水素デクレピテーション法により得られた強磁性合金粉末は、1μm~50μmのサイズの粒子を含む。他の実施形態では、この発明の原子水素デクレピテーション法により得られた強磁性合金粉末は、10μm~50μmのサイズの粒子を含む。他の実施形態では、この発明の原子水素デクレピテーション法により得られた強磁性合金粉末は、30μm~50μmのサイズの粒子を含む。他の実施形態では、この発明の原子水素デクレピテーション法により得られた強磁性合金粉末は、10μm~40μmのサイズの粒子を含む。他の実施形態では、この発明の原子水素デクレピテーション法により得られた強磁性合金粉末は、10μm~30μmのサイズの粒子を含む。いくつかの実施形態では、得られた強磁性合金粉末は、下記のいずれかの形を有する粒子を含む:球形、球状、円筒形、不均一な、立方体状またはそれらの組み合わせ。いくつかの実施形態では、粒子は滑らかであり、他の実施形態では、粒子は粗い。
【0057】
塩素化
いくつかの実施形態では、強磁性合金からの少なくとも1つの希土類金属の回収のための方法は少なくとも1つの塩素含有ガスとの反応を含む。他の実施形態では、反応は400℃~450℃の温度で実施される。
【0058】
いくつかの実施形態では、この発明の方法において使用される少なくとも1つの塩素含有ガスは0.5-2.0kgの塩素/1kgの強磁性合金(または粉末合金)の量で存在する。
【0059】
いくつかの実施形態では、揮発性鉄含有塩化物生成物への空気流は0.5-2.0kgの空気/1kgの揮発性鉄含有塩化物生成物の量で存在する。
【0060】
他の実施形態では、塩化物生成物は高純度の塩化物である(純度および収率の両方>95%)。
【0061】
いくつかの実施形態では、強磁性合金からの少なくとも1つの希土類金属の回収のための方法は、冷却された不揮発性の少なくとも1つの希土類金属塩化物を電気分解するステップを含む。他の実施形態では、電気分解はグラファイト電極(カソード、アノード)を使用して実施される。いくつかのさらなる実施形態では、電気分解は約500~1500℃の温度範囲で実施される。他の実施形態では、前記電気分解は10~15Vの電位を使用して実施される。
【0062】
いくつかの実施形態では、この発明はこの発明の方法により調製された少なくとも1つの希土類金属組成物を提供する。下記非限定的な実施例が発明のある一定の実施形態をより完全に説明するために提示される。しかしながら、それらは決して、発明の広い範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。当業者であれば、発明の範囲から逸脱せずに、本明細書で開示される原理の多くの変更および改変を容易に考案することができる。
【0063】
実施例
実施例1-原子水素-デクレピテーションを用いた磁石処理
強磁性合金のデクレピテーションを1M水酸化ナトリウム水溶液中、室温で実施した。電気分解をカソード銅電極および鉛アノード電極を用いて実施した。電流密度は0.1A/cm
2であった。未破砕強磁性合金をカソード電極に付着させた。カソードで放出される原子水素は強磁性合金片を通過し、それと反応した。強磁性合金片は原子水素反応により散乱され、強磁性合金粉末が生成された。
図1、2および8は原子水素デクレピテーション前後の強磁性合金を示す。
【0064】
初期磁石のキャラクタリゼーション
使用済み磁石片を投入材料として使用した。
【0065】
【0066】
いくつかの磁石片の写真が
図1に提示される。
図2は原子水素デクレピテーション後の強磁性粉末の写真である。
【0067】
材料X線回折(XRD)を、Ultima III回折計(Rigaku Corporation、日本)上で実施し、定量的相解析をJade_10(MDI、Cal.)ソフトウェアおよびICSDデータベースを使用して達成した(
図4A)。
【0068】
材料の組成をエネルギー分散型蛍光X線分光法(EDS、LEO Supra)により特徴付けた(
図5A-5D)。
【0069】
熱力学計算
ギブスエネルギーの計算を、コンピュータプログラムを使用し、純粋物質に対する標準値に基づき実施した。温度範囲273-473Kにおけるギブスエネルギー(ΔG)が、水素との反応について、表2に示される。グループ1-原子水素との反応;グループ2-分子水素との反応;グループ3-水中での金属水素化物の加水分解反応。
【表2】
【0070】
表2に示される上記条件下、希少金属についてのグループ1における反応(1、2)のギブスエネルギーは強く負であった(-520-570kJ/mole)。
【0071】
熱力学計算により、磁石由来のNdおよびPrの原子水素ガスとの反応により、対象の範囲273-373Kを含む広い温度範囲内でのNdおよびPr水素化物の形成という結果になることが予測された。ジスプロシウムは磁石中に、酸化物Dy2O3の形態の添加物として存在し、原子水素と反応し、金属ジスプロシウムまたはDyH2が生成する(反応4、5)。グループ2は磁石成分と分子水素の間の水素処理反応を含む。反応(6、7)の可能性もまた、対象となる温度範囲全体にわたっても確保され、(6)について最も負の値はΔG=-163kJ/モルであった。しかしながら、反応(6、7)についてのギブスエネルギーの値は、反応(1、2)についてよりずっと低い。Dy2O3は分子水素と反応しない(反応8、9)。磁石由来の鉄は実際には、実験条件下で水素との反応に関与しない(反応3、8)。グループ3は、水中でのネオジム、プラセオジム、およびジスプロシウム水素化物の加水分解反応を含む。実験条件下で、希少金属に対する、グループ3における加水分解反応(11-16)のギブスエネルギーは強く負となる(-350-530kJ/モル)。熱力学計算により、ネオジム、プラセオジム、およびジスプロシウム水素化物の加水分解反応により、対象の範囲273-373Kを含む広い温度範囲内で、Nd、Pr、およびDy水酸化物または酸化物の形成となり得ることが予測される。
【0072】
磁石の化学デクレピテーションは、-520-570kJ/モルのギブスエネルギーを示す反応(1、2)により記載され、これにより、原子水素処理での磁石の急速化学デクレピテーションが予測される。Dy2O3は原子水素と反応することができ、金属ジスプロシウムまたはDyH2が生成する(反応4、5)。これらの反応(1、2、4、5)は磁石デクレピテーションにつながり、200メッシュ未満の粒子サイズを有する磁石粉末が得られる。
【0073】
実験手順
研究室セットアップが
図6Aに記載される。試験期間は2-4時間であった。温度を室温から沸点まで変動させた。電位は4.7V、電流は-13-15Aとした。カソード電流密度は0.8-0.9A/cm
2であった。
【0074】
1モル/リットルKOH溶液(6)を有するガラス容器を電解槽(1)として使用した。チタンをカソード(2)として、ニッケルプレートを-アノード(5)として使用した。ネオジム磁石の片(30-40mm)(3)(あるがまま、消磁、破砕および粉砕なし)をカソード(2)と接続されたチタングリッド(4)上に置いた。電気分解中に放出された原子水素を磁石片(3)の表面上で放出させ、それらをデクレピテートさせ、粉末(7)を生成させた。磁石粉末(7)はグリッド(4)を通過し、電解槽(1)の底部で収集された。
図7は、デクレピテーション後の磁石粉末の粉末X線回折(XRD)パターンを示し、
図8はデクレピテーション後の磁石粉末のSEM画像を示す。
【0075】
要約すると、受け取ったままのNd-磁石断片(実施例4に従い調製)を塩素ガスに2時間、673Kで曝露すると、高純度のREE(希土類元素)塩化物(純度および収率の両方>95%)が実験炉内のクリンカーとして残る。これらの塩化物は吸湿性であり、周囲湿度と接触させられると容易に六水和物を形成する。揮発性成分-特にFeまたはBを含むもの-は炉から昇華酸塩化物および塩化物として除去される。これらの生成物の相対量は反応器の上部での空気流の速度に依存し、一方、未反応塩素ガスは回収可能である。Nd-磁石合金デクレピテーション後の高融解温度酸化物の存在は、REE塩化物の形成を防止するとは考えられない。
【0076】
実施例2-電解原子水素-デクレピテーションステップを含む希土類金属抽出
強磁性合金を、電解原子水素デクレピテーションを使用してデクレピテートし、強磁性合金粉末を生成させた。強磁性合金の粉末をその後、塩素ガスで400-450℃にて処理した。そのような粉末の塩素化は、磁石片の塩素化と比べて、塩素化速度を増加させ、というのも、表面積がより大きくなるからである。材料を反応器に投入した。塩素を反応器に送り込み、400-450℃の温度まで加熱した。反応後、鉄およびホウ素の塩化物を昇華させ、反応器から除去した。塩化鉄を水の入ったスクラバー内で捕集し、塩化ホウ素をガスと共に除去した。希土類金属の塩化物が反応器内に残った。鉄含有塩化物蒸気生成物(FeCl3)をスクラバー内で受け取り、不揮発性ネオジムおよびプラセオジム塩化物(NdCl3、PrCl3)は反応器内とした。このステップ後、次いで、希土類塩化物は、本明細書で記載される方法における電気分解のために使用することができる。
【0077】
実施例3-電解原子水素-デクレピテーションの前処理なしでの希土類金属抽出
この実施例では、希土類抽出のためのプロセスは磁石の前処理を必要としなかった。使用された磁石は消磁、破砕および粉砕前処理を含まなかった。この実施例は磁石片からの希土類金属抽出に関し、実施例4は、電解原子水素デクレピテーションを使用した、粉末からの希土類金属抽出に関する。この実施例では、磁石の400℃での塩素化処理後、希土類金属塩化物からなるクリンカーならびに酸化鉄および塩化鉄からなる昇華物が得られた。塩素化速度および塩素化の完全性(塩素化が鉄を希土類金属から分離するのに必要とされる場合)は電解水素デクレピテーションによる前処理を含むプロセスではより高くなることが示されている。
【0078】
初期磁石のキャラクタリゼーション
使用済み磁石片を投入材料として使用した。成分の含量が表3に提示される。
【表3】
【0079】
材料X線回折(XRD)をUltima III回折計(Rigaku Corporation、日本)上で実施し、定量的相解析はJade_10(MDI、Cal.)ソフトウェアおよびICSDデータベースを使用して達成した(
図4Aおよび4B)。
【0080】
材料の組成をエネルギー分散型蛍光X線分光法により特徴付けた(EDS、LEO Supra)(表3ならびに
図4Aおよび4B)。
【0081】
表3は、どちらの磁石も同じ元素から構成されるが、元素間の関係はかなり違っていることを示す。X線回折パターンによれば、第1の試料(
図4A)は結晶性の良い材料であり、約70nmの平均結晶サイズを有するが、第2のものは(
図4B)、約5nmのサイズを有するナノ結晶から構成される。
【0082】
図4Aにおける主ピークは全てNd
2Fe
14BおよびNdPrFe
14Bによく対応し(それらのピークはほとんど同一の位置を有する)、残りのピークはDy
2O
3に対応し、それらはほんの数パーセントであった。EDS結果によれば(表3)、試料1内の2つの主相は同じ量を有した。
図4Bでは、Nd
2Fe
14B(またはNdPrFe
14B)のピークが観察されたが、それらは比較的小さかった。
図5Bにおける主ピークの上に示された化合物が見出され、表3でも提供された。
【0083】
熱力学計算
ギブスエネルギーの計算を、コンピュータプログラムを使用し、純粋物質に対する標準値に基づき実施した。温度範囲373-773Kにおけるギブスエネルギー(ΔG)が塩素ガスを用いた塩素化反応について表4において示される。
【表4】
【0084】
表4に関して、焼結条件下で、反応(1-,6、8)のギブスエネルギーは、対象の範囲573-673Kを含む広い温度範囲内で強く負であり、最も負の値は反応(3および5)についてのΔG=-(800-900)kJ/モルであった。よって、反応(1)-(6、8)の最高確率は塩素ガスの注入直後に予測することができる。ジスプロシウムは、磁石中に酸化物Dy2O3の形態の添加物として存在し、塩素と反応しなかった(表4の反応7)。
【0085】
実験手順
ネオジム磁石の塩素ガスを用いた焼結を温度制御研究室炉内、400℃で実施し:焼結時間は2時間とした。研究室セットアップが
図9に記載される。
【0086】
ネオジム磁石(そのまま、消磁、破砕および粉砕なし)の片(30-40mm)を炉中に、パイレックスガラスるつぼ9内で入れた。加熱前に、石英反応器7を100ml/分窒素流下で清浄にし、その後、炉8を所定温度まで加熱し、再び100ml/分窒素流下においた。塩素ガスを反応器7に、後者が指定された温度に到達した後に、送り込んだ。全ての元素(鉄、ネオジム、プラセオジム、およびホウ素)を表4の反応(1-6、8)にしたがい塩素化した。ジスプロシウム酸化物Dy2O3は塩素と反応しなかった(表4の反応7)。
【0087】
鉄およびホウ素の塩化物を昇華させ(FeCl3の沸点は316℃であり、BCl3の沸点は-107℃である)、希土類金属塩化物は残留クリンカー中に残る(NdCl3の沸点は1600℃であり、PrCl3の沸点は1710℃である)。希土類金属塩化物およびDy2O3は固体粉末クリンカーから形成された(NdCl3の融点は758℃であり、PrCl3の融点は786℃であり、Dy2O3の融点は2408℃である)。空気を反応器の上部に、反応(7)にしたがう塩化鉄酸化のために添加した6:
2FeCl3+1.5O2=Fe2O3+3Cl2(7)
【0088】
塩素が反応(7)により得られ、これを、パイロットまたは工業単位に、塩素化段階へ戻すことができ、よって、塩素ガスの循環が達成できる。窒素流下での冷却後、るつぼ9を炉7から除去し、破壊した。最終生成物12(固体NdCl3-PrCl3クリンカー)を秤量し、XRDおよびEDSにより分析した。塩化鉄および酸化鉄の混合物を反応器の上部から収集し、XRDおよびEDSにより分析した。
【0089】
材料の組成をエネルギー分散型蛍光X線分光法により特徴付けた(EDS、LEO Supra)(
図10A-10Bおよび表5)。
【表5】
【0090】
得られた希土類金属塩化物は、金属の希土類金属生成のために、溶融塩の電気分解により容易に処理することができる。
【0091】
昇華物のX線回折パターンの定量的相解析(
図11A)から、2つの鉄含有結晶相(赤鉄鉱Fe
2O
3および鉄(III)酸化塩化物FeOCl)が得られ、赤鉄鉱が支配的であったことが示された(
図11B)。
【0092】
実施例4-Nd系磁石の電解水素デクレピテーション
材料
使用済み希土類元素-Fe-B(REE-Fe-B)合金磁石の断片をコンピュータハードディスクドライブから取り出した。磁石は元々アルミニウムで被覆されていたが;しかしながら、イスラエルへの出荷前に、表面が磨かれ、よって、表面の一部が腐食した。
【0093】
方法
構造キャラクタリゼーション
受け取ったままの磁石断片のX線回折(XRD)をTTRAX IIIθ-θ回折計で実施し、一方、HD(水素デクレピテート)粉末のパターンをUltima IIIθ-θ回折計で測定した(どちらの回折計もRigaku Corporation、日本の製品である)。相同定を、Jade_Pro(MDI、CAL.)ソフトウェアおよび無機結晶構造データベース(ICSD)を使用して達成した。Cu Kα X線、Bragg-Brentanoプロトコル、回折ビームモノクロメータおよび可変発散スリット幅が両方の回折計での我々の標準操作手順を構成した。磁石断片およびHD粉末の元素含量をエネルギー分散型(蛍光X線)分光法(EDS)により、LEO Supra走査型電子顕微鏡(SEM)で特徴付けた。質量%金属含量を磁石またはHD粉末の王水中での溶解後の、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS、Agilent 7700s)により定量した。0.65グラムの受け取ったままの磁石断片を100ml王水に室温で、24時間の間、連続撹拌して溶解した。この溶液を、脱イオン水を用いて1000mlまで希釈し、原液を調製した。2mlの原液をその後、100mlまで脱イオン水で希釈した。0.86グラムの水素デクレピテート粉末(電気分解、濾過および353Kの空気中での乾燥後)を100ml王水に室温で、24時間連続撹拌して溶解した。次いで、溶液を200mlまで脱イオン水で希釈した。2つの粉末試料を測定した。試料#1については、2mlの原液を1000mlまで希釈し、試料#2については、5mlの原液を1000mlまで希釈し、どちらも脱イオン水を用いた。
【0094】
電気分解
研究室規模の電解セルの詳細が
図6Aに示される。700mlの1M/リットルKOH溶液を含むガラス容器が電解槽として機能した。自家製チタン金属カソード、寸法[3.5×3.5]cm
2、およびニッケル、板状アノード、寸法[4.0×4.0]cm
2は電極として機能した。18メッシュチタングリッドはカソードと電気接触した。4.7Vの電位および13-15Aの電流をKepco電源KLP-20-120-1200により提供した。カソード電流密度は0.8-0.9A/cm
2であり、総面積はTiグリッドを含んだ。受け取ったままのNd-磁石(消磁、破砕または粉砕なし)の30-40mm断片、総重量300-500グラムをチタングリッド上に置いた。2時間の室温での電気分解により、デクレピテートされた粉末が生成し、十分小さく、Tiグリッド内の1mm直径の穴を容易に通過することができる粒子を有し、ガラス容器の底面上で収集された。粉末を電解質溶液から濾過により除去し、次いで、353Kで、空気中にて乾燥させた。その後のメッシュふるい分けにより、粒径に上限が与えられた。
【0095】
磁気特性
SQUID磁力計(MPMS3、L.O.T.-Quantum Design,Inc.)をピーク振幅2mm、周波数13Hzおよび平均化時間10sの振動(VSM)モードで使用した。各試料の磁気モーメント(M、[10-3Am2])を、周囲温度(300K)で磁界強度|μoH|≦6Tを用いて測定した。試料の磁気モーメントの温度依存性をμoH=6Tで測定し、改良Bloch法に、Origin(OriginLab MA)における非線形カーブフィッティングのためのLevenberg-Marquardtアルゴリズムを使用してフィッティングさせた。受け取ったままの磁石の1つの断片、および微細な、電解デクレピテートされた磁石、粉末の試料を測定した。薄く、細長い、板状磁石断片の質量は31.0mgであり、おおよその寸法は[5×2.8×0.3]mm3であった。減磁率を無視することを正当化するために、試料を、磁力計内で、磁場の向きが試料平面に平行となるように配向させた。重複測定を最初に、標準黄銅試料ホルダーにおいて、次いで、石英ホルダーにおいて実施した。微粒子HD粉末試料の質量は10.1mgであった。減磁率を、D=0.23であると推定し、標準黄銅ホルダーに入れた粉末試料のサイズおよび形状と一致した。
【0096】
結果および考察
電気分解前のNd-磁石断片の構造キャラクタリゼーション
受け取ったままのNd-磁石断片は不規則形状に見え、20-30mm寸法であり、部分的に腐食した表面を有した。XRDプロファイルの、比較的ダメージを受けていない表面領域で測定されたICSDパターン#48143に対する全パターンフィッティングにより、主にそのような高度にテクスチャー化された合金をフィッティングするのが困難なために、約20%以下のR因子が得られた。CuK
α放射線は、RE(希土類)金属および鉄の8KeVでの強い吸収のために、磁石表面で約10ミクロンの厚さの層を調査することができるにすぎなかった。表面のSEM画像およびEDSスペクトルが
図5A-5Dに示される。ここでまた、断片表面の薄層(1-2μm)のみが調査される。磁石は、Pr(プラセオジム)に加えて、Dy(ジスプロシウム)を添加物として含んだ。セクション2で記載されるように可溶化された、受け取ったままの磁石のICP-MS定量元素分析(質量%)により以下が得られる:Nd、23.5;Pr、7.8;Dy、3.7;Ce、0.01;Fe、61.7;Al、0.6。ホウ素は確認されなかった。
【0097】
熱力学計算
金属合金成分の各々の水素との反応熱力学を理解するためのガイドとして、温度範囲273-473Kにおける原子水素または水素ガスとの反応についてのギブスエネルギーを計算した。計算は、純粋物質に対する標準値に基づくコンピュータプログラムを使用して実施した。温度範囲273-473Kにおけるギブスエネルギー(ΔG)が、表6に、水素との反応について示される:グループ1-原子水素との反応およびグループ2-水素ガスとの反応。
【表6】
【0098】
表6を参照すると、実験の条件下では、希土類金属に対するグループ1における反応(1、2)のギブスエネルギーは強く負であった(-520~-570kJ/モル)。計算により、NdおよびPrの原子水素との反応では、対象の範囲を含む広い温度範囲内で、NdおよびPr水素化物の形成が得られることが予測される。金属ジスプロシウムは原子水素と反応することができ、DyH2が生成する(反応3)。グループ2は磁石成分と水素ガスの間の反応を含む。反応(7-9)の可能性は対象となる温度範囲全体にわたって同様に確認された。しかしながら、反応(7,8)に対するギブスエネルギーの値は反応(1、2)に対するものよりもずっと負ではなかった。鉄は実験条件下での原子水素および水素ガスの両方との反応にわずかしか関与しない(反応4、10)。ホウ素は原子Hと高度に反応するが、水素ガスとはそうではない。得られたB2H6ガスは、吸入すると中程度に毒性であるが、これは、加水分解によりホウ酸に容易に変換される。磁石断片上に残った損傷したアルミニウムコーティングは水素ガスと反応すると予測されなかったが、原子水素との相互作用によりAl水素化物に変わるはずである。
【0099】
表7は水中でのネオジム、プラセオジム、およびジスプロシウム水素化物の加水分解反応を含む。実験条件下で、希土類金属水素化物についての反応(1-6)のギブスエネルギーは強く負であった(およそ-340~-500kJ/モル)。そのため、熱力学計算によりネオジム、プラセオジム、およびジスプロシウム水素化物の加水分解反応により、対象の範囲273-473Kを含む広い温度範囲内での、Nd、Pr、およびDy水酸化物または酸化物の形成が得られ得ることが予測された。同様に、加水分解により、鉄の赤鉄鉱ならびに他の酸化鉄への酸化が得られ得る(表7)。
【表7】
【0100】
電解水素デクレピテーション
上述のように、個々のREE(希土類元素)の原子水素との反応の計算したギブスエネルギー(表6)は強く負であり、よって、対象となる温度範囲内での2相Nd-磁石の急速化学デクレピテーションが予測される。これらの反応は、電気分解中、カソードでの原子水素放出の開始直後に起こる。上記方法セクションで記載されるように、室温での2時間の電気分解後に、完全磁石デクレピテーションが観察され、<200メッシュの粒子サイズを有する粉末が生成された。粉末をKOH電解質から濾過し、353Kで、空気中で乾燥させた。様々なサイズのメッシュに通すその後のふるい分けにより、HD粉末の粒子サイズについて44μmの上限が得られた(
図12A、12B)。HD粉末はまた、元素組成および結晶構造について特徴付けした。
【0101】
SiおよびCaによると同定された追加の蛍光X線(XRF)ピークを除き、
図12BにおけるEDSスペクトルは受け取ったままの磁石断片のスペクトルと酷似している(
図5A-5D)。SiおよびCaは、アルカリ性電解質により電解セルからエッチングされた可能性がある。ICP-MS定量分析(質量%、2つのHD試料の平均)により下記が得られる:Nd-15.99;Pr-5.98;Dy-3.23;Ce-0.02;Fe-49.87;B-0.95;Si-0.91;Ca-0.03。
【0102】
微粒子HD粒子のX線回折相解析
微粒子HD粒子からのX線回折(XRD)ピークの相同定(
図13)により、大半が、磁石合金水素化物Nd
2Fe
14BH
1.86(ICSD#80973)に関連付けられる。Nd-磁石水素化物は元の金属合金と同じ正方結晶対称を有し、単位格子体積が中程度に拡大されたにすぎなかった。SEM画像(
図8)により、粉末は球形およびサイズの幅広い混合物を含むことが示された。Jade_Proを用いたXRDプロファイルフィッティングにより、受け取ったままの磁石は異方性が強く(ざらつき)、Nd-磁石水素化物粉末は本質的に結晶学的に等方性であることが明らかになる。(
*ICSDは無機結晶構造データベース、完全に同定された無機結晶構造についての世界最大のデータベースを示す)。
【0103】
単位格子寸法の増加により、周囲条件下での電気分解中、原子HはNdリッチ粒界相に吸収された後、マトリクス中に吸収され得ることが明らかになる(表8)。
【表8】
【0104】
焼結磁石合金のデクレピテーションを生成させるのは、Hのこの電子不足、粒間境界相中への吸収である。合金マトリクスにおいてさえも、HはFeまたはB原子付近ではなく、Nd原子付近に配置される傾向がある。磁石合金水素化物と関連付けることができないX線回折ピークは、Nd-酸化物(Ia-3)(ICSD#191535)およびNd-三水酸化物(ICSD#398)、ならびにPr-酸化物(ICSD#75481)およびNdFe2合金(ICSD#103548)の微量相と同定されている。赤鉄鉱を含む様々な酸化鉄相の1つ以上もまた存在し得る。可能性のある微量相のこの多重度が電解HD粉末XRDパターンの定量分析を非常に困難なものにしている(*ICSDは無機結晶構造データベース、完全に同定された無機結晶構造についての世界最大のデータベースを示す)。
【0105】
電解デクレピテートされたE-o-L NdFeB磁石の磁気特性
電解HD粉末の磁気特性を上記方法セクションで記載されるように特徴付けた。結果を表9にまとめて示し(SQUID磁力計データは
図14A-14C、および
図15に提示されている)、未処理Nd-磁石断片から得られたものと比較する。高温で脱ガスされていない小粒子HD粉末については予想通り、弱い残留磁気分極J
remおよび保磁場H
cのみ(
図14A、14B)がSQUID磁力計測定において検出される。したがって、HD粉末の磁気エネルギー密度(
図14C)は受け取ったままのE-o-L Nd-磁石よりも10
3倍低い。
【表9】
【0106】
HD粉末の酸化
Nd2Fe14B合金廃棄物における高レベルの酸化(3000-5000ppm酸素)は、貴重な希土類金属の大規模の回収およびリサイクルへの重大な障害となる。原始NdFeB合金でさえも300-400ppm酸素を含む可能性があり、酸化反応の大部分はNdリッチ粒界内で起こる。共焦点顕微鏡法およびラマン分光法の両方を使用して、空気への曝露直後の、室温での表面反応生成物の成長を見つけ、測定し、同定した。これらの測定により、Nd2O3の著しい成長がNdリッチ粒界のトリプルジャンクションで起こることが示された。酸化トリプルジャンクションは水素と反応してNdH2を形成せず、その後の再焼結中のNdリッチ相の不十分再分配につながったことがさらに見出された。粒界相はもはや、RE(希土類)金属酸化物の非常に高い融解温度のために均一に融解せず、よって、リサイクル磁石において全質量密度は達成できない。分散されたNd2O3化合物は、Nd2Fe14B合金の保磁力を低減させる。
【0107】
大きな表面対体積比を有するHD粉末は空気への曝露で容易に酸化する。我々が報告したものなどの(表9)、300Kでの非常に低い磁気保磁力はまた、粒界での金属α-Feの存在に起因した。この軟磁性相は、ネオジム水素化物の形成と関連する発熱反応による局所不均一化の結果として形成される。周囲条件下での粉末の追加の処理で、酸素含量は増加するのみである。易焼結性、ひいては磁気特性の低下が、少なくとも部分的に、追加のNdをNd水素化物の形態でHD粉末にブレンドすることにより克服できることが示される。
【0108】
結論
電解水素デクレピテーションは、安全にかつ経済的に、cmサイズの、焼結Nd2Fe14B合金磁石断片を、周囲条件下で、1M KOHを選択水性電解質として用いて微粉化して、微粉末(粒径<325メッシュ、すなわち、<44μm)とする有効な手順となることができる。このプロセスは、高温装置または高圧の純粋水素雰囲気の必要性を排除する。微粒子NdFeB水素化物粉末はさらに処理することができ、新規磁性材料が形成され、または、貴重な希土類金属の、磁石の鉄含有成分からの分離が促進される。
【0109】
言及される(「本明細書で引用される」)全ての参考文献、およびこの文書で引用され、または参照される全ての参考文献はこれにより、または、任意の文書において、参照により本明細書に組み込まれる。列挙される製品のいずれかに対する、いずれかの製造者の説明書、説明書、製品仕様書、および製品シートと共に、それらは参照により本明細書に組み込むことができ、発明の実施で使用することができる。より特定的には、全ての参考文献は、各個々の参考文献が参照により組み込まれると特定的にかつ個々に示される程度まで、参照により組み込まれる。
【0110】
発明のある一定の特徴を本明細書で説明し、記載してきたが、多くの改変、置換、変更、等価物は、今や、当業者であれば、思い付くであろう。そのため、添付の特許請求の範囲は、発明の真の精神の範囲内にあるそのような改変および変更を全て包含することが意図されることが理解されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの希土類含有材料の原子水素デクレピテーションのための電解装置であって、前記
電解装置は、
前記少なくとも1つの希土類含有材料がカソードである、カソード;
アノード;
電解質;
を含み、
前記電解装置は、電解反応を実施し
て前記少なくとも1つの希土類含有材料をデクレピテートするように構成される、
電解装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの希土類含有材料は、下記から選択される下記元素のいずれかを含む、請求項1に記載の電解装置:セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびイットリウム(Y)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの希土類含有材料は強磁性合金または希土類磁石を含む、請求項1または2に記載の電解装置。
【請求項4】
前記希土類
含有材料は、下記を含むリストから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解装置:Nd
2Fe
14B、SmCO
5、Sm(Co,Fe,Cu,Zr)
7、Sr-フェライト、鉄棒磁石またはそれらの組み合わせ。
【請求項5】
前記カソードは、銅、ニッケル、鋼、チタン、希土類含有材料またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項6】
少なくとも1つの追加のカソードをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項7】
前記電解質はKOHまたはNaOH水溶液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項8】
前記カソードは、デクレピテートされた断片がそれを通過できるように適合された、少なくとも1つのグリッドをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の電解装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つのグリッドは直径1~100μmの範囲のサイズを有する穴を有する、請求項
8に記載の電解装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つのグリッドは、銅、ニッケル、鋼、チタン、強磁性合金またはそれらの任意の組み合わせから構成される、請求項
8または請求項9に記載の電解装置。
【請求項11】
少なくとも1つの希土類含有材料の電解原子水素デクレピテーションのための方法であって、
電解質中で電解反応を実施するように構成された、請求項1~10のいずれか一項に記載の電解装置を提供すること;ならびに
前記アノードと前記カソードの間に印加電位を提供することにより前記電解反応を実施し、前記カソードで原子水素を生成させること
を含む、方法。
【請求項12】
少なくとも1つの希土類含有材料の電解原子水素デクレピテーションのための方法であって、
アノード、カソードおよび電解質を含み、電解反応を実施し、前記少なくとも1つの希土類含有材料をデクレピテートするように構成された電解装置を提供すること;
前記少なくとも1つの希土類含有材料を前記カソード上に配置すること;ならびに
前記アノードと前記カソードの間に印加電位を提供することにより前記電解反応を実施し、前記カソードで原子水素を生成させること
を含む、方法。
【請求項13】
前記カソードは銅、ニッケル、鋼、チタン、希土類含有材料またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電解反応は室温で実施される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
前記電解反応は高温で実施される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項16】
実施される
前記印加電位は4~10Vである、請求項11または12に記載の方法。
【請求項17】
原子水素は前記カソードから2H
+(aq)+2e
-→2H(g)の還元反応により放出される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項18】
前記H+は前記セル内での前記水(H
2O)の電気分解の結果である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項19】
前記電解質はKOHまたはNaOH水溶液を含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項20】
前記カソードは、デクレピテートされた断片がそれを通過できるように適合された少なくとも1つのグリッドをさらに含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つのグリッドは、銅、ニッケル、鋼、チタン、強磁性合金またはそれらの任意の組み合わせから構成される、請求項
20に記載の方法。
【国際調査報告】