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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】絶縁導体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20240927BHJP
   H02K 3/30 20060101ALI20240927BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H02K3/30
H01F5/06 Q
H01F5/06 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516902
(86)(22)【出願日】2022-09-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 GB2022052257
(87)【国際公開番号】W WO2023047083
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】2113671.8
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501097318
【氏名又は名称】ビクトレックス マニュファクチャリング リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VICTREX MANUFACTURING LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】リマー、コリン
(72)【発明者】
【氏名】ボネット、ジェームズ
【テーマコード(参考)】
5G309
5H604
【Fターム(参考)】
5G309RA01
5G309RA12
5H604BB01
5H604CC01
5H604DA14
5H604DB01
5H604PB01
(57)【要約】
改善されたコロナ耐性を有する絶縁導電体であって、絶縁導電体が電流の流れを誘導するためにその両端に印加される電位差を有することができる導電体を含み、導電体が表面を有し、絶縁性ポリマー化合物の層が前記表面上に設けられ、絶縁性ポリマー化合物が、式中のt1およびw1が独立して0または1を表し、v1が0、1または2を表す一般式Iの繰り返しユニットを含むポリアリールエーテルケトン(PAEK)ポリマーを含むポリマー材料の連続相を含み、ポリマーの絶縁化合物が固体粒子材料の分散相も含む、絶縁導電体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改善されたコロナ耐性を有する絶縁導電体であって、前記絶縁導電体が、電流の流れを誘導するためにその両端に印加される電位差を有することができる導電体を含み、前記導電体が、表面を有し、絶縁性ポリマー化合物の層が、前記表面上に設けられ、前記絶縁性ポリマー化合物が、一般式Iの繰り返しユニットを含むポリアリールエーテルケトン(PAEK)ポリマーを含むポリマー材料の連続相を有し、
【化1】
式中、t1およびw1が独立して、0または1を表し、v1が0、1または2を表し、また、ポリマーの絶縁化合物が固体粒子材料の分散相も含む、絶縁導電体。
【請求項2】
t1=1、v1=0、およびw1=0でポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を形成している、請求項1に記載の絶縁導電体。
【請求項3】
前記ポリマー材料が、25%未満の結晶化度を有する、請求項1または2に記載の絶縁導電体。
【請求項4】
前記ポリマー材料が、少なくとも25%かつ40%未満の結晶化度を有する、請求項1または2に記載の絶縁導電体。
【請求項5】
改善されたコロナ耐性を有する絶縁導電体アセンブリであって、前記アセンブリが、電流の流れを誘導するためにその両端に印加される電位差を有することができる導電体を含み、絶縁性ポリマー化合物が、前記アセンブリ上に提供され、前記絶縁性ポリマー化合物が、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)を含み、前記PAEKが式
【化2】
の繰り返しユニットおよび

【化3】
の繰り返しユニットを含むコポリマーであり、
ここで、コポリマーの繰り返しユニットの少なくとも95モル%が、式(a)および式(b)の繰り返しユニットであり、
繰り返しユニット(a)と(b)が、55:45~80:20のモル比(a):(b)を有し、
また、PAEKが直径0.5mmおよび長さ8.0mmのタングステンカーバイドのキャピラリーダイを通した押出しによって、400℃で1000s-1のせん断速度のキャピラリーレオメトリーを使用して測定して、0.35~0.55KNsm-2の溶融粘度MVを有する、絶縁導電体アセンブリ。
【請求項6】
前記固体粒子材料が、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化クロム、ガラス繊維、酸化鉄、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マイカ、シリカ、炭化ケイ素、二酸化ケイ素(石英)、窒化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、二酸化チタン、タルク(例えば、Jetfine(商標))、酸化亜鉛、ジルコニア、窒化ホウ素、珪灰石、窒化アルミニウム、またはそれらの混合物を含む群から選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の絶縁導電体。
【請求項7】
前記固体粒子材料が、0.1~35重量%、好ましくは0.5~30重量%、より好ましくは1~20重量%の充填レベルで存在する、先行請求項のいずれか一項に記載の絶縁導電体。
【請求項8】
前記絶縁性ポリマー化合物が、PEEKと、15~25重量%のタルク、好ましくは20重量%のタルクとを含む、請求項7に記載の絶縁導電体。
【請求項9】
前記固体粒子材料が、0.001~50μmのd50を有する、先行請求項のいずれか一項に記載の絶縁導電体。
【請求項10】
前記絶縁性ポリマー化合物が、2~500μm、好ましくは2~300μmの平均厚さを有する、先行請求項のいずれか一項に記載の絶縁導電体。
【請求項11】
前記導電体が、円形または矩形の断面を有し得るワイヤである、先行請求項のいずれか一項に記載の絶縁導電体。
【請求項12】
前記ワイヤが、電気モーター、オルタネーターまたは発電機の固定子コイルの周りに巻かれたマグネットワイヤである、請求項11に記載の絶縁導電体。
【請求項13】
前記ポリマー材料が前記導電体の表面に直接塗布される、先行請求項のいずれか一項に記載の絶縁導電体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の絶縁導電体の製造方法であって、
(a)流動性ポリマー材料の原料を前記固体粒子材料と一緒にブレンドしてランダムブレンドを形成する工程と、
(b)前記ランダムブレンドをせん断する工程と、
(c)同時にまたはその後に前記ブレンドを導電体の表面上に敷く工程と、を含む、方法。
【請求項15】
工程(c)が、押出しプロセスによって同時に実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~16のいずれか一項に記載の絶縁導電体を含む、例えば自動車のモーターアセンブリなどの、電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モーターの固定子におけるマグネットワイヤとしての使用に適し、かつ改善されたコロナ耐性を有する絶縁導電体、その製造方法、および絶縁導電体を含む電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー絶縁体などの電気絶縁材料は、電気部品に広く使用されている。ポリマーは元来、電気絶縁性であると同時に、可撓性であり、電気的または熱的な破壊に対して耐性であることができるという利点を有する。
【0003】
絶縁導電体は、ほとんどすべての電気機器に設置されて、電気的に絶縁されていない導体の接触によって引き起こされ得る短絡を起こすことなく電気を通す。
【0004】
電気モーター、オルタネーターおよび発電機などの電気機器は固定子と回転子を備える。固定子は、固定子コイルを形成するためのコアを通して巻かれた電気的に絶縁されたワイヤ線を有する金属コアを含む。交流電流がコアを通ると磁界が形成され、それによって固定子に付けられた回転子が回転する。いわゆるマグネットワイヤは電気的に絶縁されていなければならず、これを行うための様々な方法が提案されている。これには、円形または矩形の断面のワイヤの周りにポリマー絶縁体の1つ以上の層を使用することが含まれる。そのようなワイヤは一般的に、例えば熱硬化性ポリマーを含む熱可塑性材料などの2つ以上のポリマー絶縁コーティングを有する。
【0005】
電気自動車の開発により、この分野における新たな技術的課題が生じている。技術の発展につれて、より高い電圧が必要とされ、その結果、熱および電気ストレスに対するより高い耐性が必要とされる。このように、電気絶縁体の要件はますます厳しくなってきている。
【0006】
したがって、このような絶縁材料に対する技術的要求は非常に高い。ポリマーは、電気絶縁性、強靭性、耐腐食性、加工性を有し、また許容可能な高電圧耐久性および電圧誘起による破壊に対する耐性を有していなければならない。
【0007】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリアリールエーテルケトン(PAEK)は高性能熱可塑性ポリマーとしてしばしば使用される。PEEKは、溶融物から固化させたときに、優れた機械的および化学的耐性の特性を有する半結晶性固体を形成するため、多くの商業的用途に選択される材料である。PEEKはおよそ343℃で溶融し、およそ143℃のTgを有する。
【0008】
特許文献1には、予想よりも高い結晶化度を有し、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、フルオロカーボン樹脂繊維およびチタン酸カリウム繊維などの繊維状の、またはマイカ、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、フェライト、粘土、ガラス粉末、酸化亜鉛、炭酸ニッケル、酸化鉄、石英粉末、炭酸マグネシウム、フルオロカーボン樹脂、グラファイト、炭素粉末、ナノチューブおよび硫酸バリウムなどの非繊維状の充填剤のものを含む組成物の一部となり得るPEEKとPEDEKのコポリマーが開示されている。このような材料は、Impregnation Techniques for Thermoplastic Matrix Composites,A.Miller and A G Gibson,Polymer & Polymer Composites 4(7),pp 459-481(1996)、EP102158およびEP102159に記載されているように作製することができる。
【0009】
特許文献2には、好ましくは均質なPAEKポリマー、例えば少なくとも25%の結晶化度を有するテープで覆われた導体ワイヤが開示されている。
【0010】
しかしながら、このような材料は、優れた電気絶縁体特性を有する一方で、銅やアルミニウムなどの一般的な導電体材料に対するそれらの接着性を改善するために追加の工程を必要とする。さらに、高電圧電気モーターなどのより要求の厳しい用途に必要とされる高電圧では、コロナ形成に対する耐性が必ずしも十分なレベルではない。
【0011】
特許文献3は、ガスプラズマ処理してすべての酸化物層を除去してワイヤへの熱可塑性コーティングの接着を改善した、好ましくはPAEKである絶縁性熱可塑性コーティングを有する絶縁電導体ワイヤを開示している。
【0012】
特許文献4には、熱硬化性ポリマー(例えば、PEI)の中間層でコーティングして熱可塑性絶縁コーティング(例えば、PEEK)の接着を改善した絶縁電導体ワイヤが開示されている。特許文献5には、熱硬化性エナメル中間層を有する実施形態のさらなる例が開示されている。したがって、ポリマー電気絶縁体の分野におけるさらなる改善が引き続き重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2014/207458号
【特許文献2】国際公開第2016/120592号
【特許文献3】米国特許出願公開第2019/0131037号明細書
【特許文献4】欧州特許第2843668号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2020/0312535号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、電気モーターの固定子におけるマグネットワイヤとしての使用に適し、かつ改善されたコロナ耐性を有する絶縁導電体、その製造方法、および絶縁導電体を含む電気機器を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の態様では、本発明は改善されたコロナ耐性を有する絶縁導電体に関し、ここで、絶縁導電体は電流の流れを誘導するためにその両端に印加される電位差を有することができる導電体を含み、導電体は表面を有し、絶縁性ポリマー化合物の層が表面の上に設けられ、絶縁性ポリマー化合物は一般式Iの繰り返しユニットを含むポリアリールエーテルケトン(PAEK)ポリマーを含むポリマー材料の連続相を有し、
【化1】

式中、t1およびw1は独立して、0または1を表し、v1は0、1または2を表し、また、ポリマー絶縁化合物は固体粒子材料の分散相も含む。
【0016】
分配された固体粒子材料を含むPAEKポリマーが、電気絶縁特性を低下させることなく熱伝導率を著しく向上させ、部分放電およびコロナ耐性を改善することが見出されている。さらに、このような材料では、充填材料をまったく含まないPAEKよりも銅およびアルミニウムに対する接着性が改善されていることが見出されている。
【0017】
したがって、これらの材料は多種多様な電気部品に使用することができ、高性能の用途、限定されるものではないが、特に電気モーター、発電機またはオルタネーターの固定子の巻線として優れた電気絶縁特性を提供する。
【0018】
絶縁性ポリマー化合物
好ましくは、絶縁性ポリマー化合物は、ポリマー材料の少なくとも65重量%、より好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%を構成する。一般に、残りは、下で説明されるように、固体粒子材料から構成される。
【0019】
ポリマー材料
ポリマー材料は熱可塑性であり、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%の式IのPAEKポリマーを含む。残りは、後述するようにコポリマーによって、および/または他のポリマーとのブレンドによって提供されてもよい。別のポリマーとブレンドする場合、そのようなポリマーは、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリエステルまたはそれらの混合物からなるリストから選択することができる。
【0020】
PAEKポリマーまたはコポリマーは、多くの従来のポリマーとは異なり、ポリマーの処理方法の直接の結果として非晶質または結晶の形態のいずれかで得ることができる。ガラス状または非晶質の状態は、ポリマーを溶融状態からTg未満に急冷することによって得られ、一方、ポリマーを溶融状態からゆっくりと冷却すると、サンプル中の結晶化度が大きくなる(溶融結晶化)。ポリマーの結晶形態はまた、例えば室温で、ポリマーをTgより高いがTmより低い温度に加熱し、その後室温に冷却すること(低温結晶化)によって、またはポリマーをTgとTmとの間の一定温度で一定時間保持し、その後室温に冷却すること(等温結晶化)によって、非晶質の状態のポリマーから得ることができる。
【0021】
本発明の文脈におけるPAEKポリマーは、式1の繰り返しユニットを有するものであり、
【化2】

式中、t1およびw1は独立して、0または1を表し、v1は0、1または2を表す。
【0022】
隣接するフェニル基の間の結合は、一般的には式IIに示されるように、主に「パラ」の1,4関係である。
【化3】


(式II)
【0023】
しかしながら、いくらかの割合のPAEKは、「メタ」の1,3または「オルト」の1,2関係であってもよい。全体を通して使用される場合、別段の指定がない限り、結合は「パラ」配置である。
【0024】
PAEK、特にPEEKを含むPAEKは、アルカリ金属の炭酸塩および/もしくは重炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩および/もしくは重炭酸塩の存在下、適切な溶媒中でビスフェノールと有機ジハライド化合物との求核重縮合によって製造することができる。このような方法は、例えばEP0001879A、EP0182648A、EP0244167AおよびEP3049457Aに記載されている。
【0025】
好ましくは、PAEKは、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%の結晶化度を有する。しかしながら、いくつかの用途では、特にPAEKを押し出す場合には、25%未満または22%未満などのより低い結晶化度が有利な場合がある。
【0026】
好ましい実施形態において、当該PAEK材料の結晶化度は、適切には、当該絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)である。前記PAEKの結晶化度は、好ましくは、前記絶縁層の範囲にわたって実質的に一定である。好適には、当該層中の前記PAEKの結晶化度の変動は10%未満である。例えば、層中の当該材料の最小結晶化度と最大結晶化度との差は10%未満である。当該前記絶縁層は、結晶化度が15%未満である領域(しばしば非晶質パッチと呼ばれる)がないことが好ましい。本明細書の記述のいずれかに記載される当該ポリマー材料の結晶化度は40%未満であってもよい。当該絶縁層は好ましくは均質であり、好適にはその全範囲にわたって均質である。
【0027】
結晶化度はDSCによって測定され、遷移前のベースラインに沿って引かれた線と遷移中に得られた最大勾配に沿って引かれた線との交点によってTgの開始が決定される。Tnは、低温結晶化の発熱のメインピークが最大に達する温度である。Tmは、融解の吸熱のメインピークが最大に達する温度である。溶融の融解熱(ΔHm)は融解の吸熱が比較的直線のベースラインから外れる2点を結ぶことによって得られる。時間の関数としての吸熱の下の積分面積から融解の遷移エンタルピー(mJ)が得られ、質量で正規化された融解熱がエンタルピーをサンプルの質量で割ること(J/g)によって計算される。結晶化のレベル(X(%))は、サンプルの融解熱を、ポリエーテルエーテルケトンについては130J/gである完全に結晶性のポリマーの融解熱で割ることによって決定される。ISO11357-1~ISO11357-4に前記測定値の決定に使用される試験方法が記載されている。
【0028】
好ましいPAEKはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)であり、ここで繰り返しユニットにおいて、t1=1、v1=0およびw1=0である。
【0029】
PAEK、例えばPEEKはまた、他の繰り返しユニットを含んでコポリマーを形成してもよい。特に好ましいコポリマーは、PEEKとポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)の繰り返しユニットを含有する。PEEKおよびPEDEKの好適なコポリマーがEP0184458に開示されている。
【0030】
PEDEKは下の繰り返しユニットを有するポリマーである。
-O-Ph-Ph-O-Ph-CO-Ph- (III)
【0031】
PEEK-PEDEKコポリマーは、PEEKと同等の耐薬品性および機械特性を有するだけでなく、PEEKよりも低いTmを有し、PEEKと同等またはPEEKよりも高いTg値を有するとして開示されている。
【0032】
WO2014/207458 A1は、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムの存在下、少なくとも1種のジヒドロキシベンゼン化合物と少なくとも1種のジヒドロキシビフェニル化合物のモル比が65:35~95:5の混合物を少なくとも1種のジハロベンゾフェノンと重縮合させることを含む方法によって製造される好適なPEEK-PEDEKコポリマーを開示しており、求核重縮合によるPEEK-PEDEKコポリマーの合成に使用される炭酸カリウムのモル%は少なくとも2.5であり、ここで、炭酸カリウムのモル%は合成に使用されるヒドロキシモノマーの総モル数の百分率として表される。WO2014/207458 A1のPEEK-PEDEKコポリマーでは、EP0184458Aのコポリマーについて開示されたものと比較して、より高い結晶化度を有するPEEK-PEDEKコポリマーが得られる。
【0033】
好適なPEEK-PEDEKコポリマーはまた、WO2019/186085 A1号にも開示されており、それには、低減された量の芳香族スルホン溶媒の存在下での重合停止(例えば、リチウム塩を使用)およびコポリマーのエンドキャッピング(コポリマーに特定の末端ユニットを提供)を含む特定の求核重縮合プロセスによって、相当する分子量の従来技術のコポリマーと比較して、鎖の分岐が低減され、低いせん断速度での溶融粘度が低下したPEEK-PEDEKコポリマーが得られる、それらの形成が開示されている。
【0034】
また有用なコポリマーがGB2108948.7に示され、それには、PEEKとPEDEKの繰り返しユニットから本質的になるコポリマーが開示されており、ここで、PEEKは、PEEK(すなわち、「パラ」配位)、mPEEK(すなわち、「メタ」配位)およびoPEEK(すなわち、「オルト」配置)の割合から構成されている。特に好ましいポリマーはその実施例19において提供されるものであり、コモノマーとして1,2-ジヒドロキシベンゼンを含む65:15:20の比のPEEK-oPEEK-PEDEKコポリマーである。
【0035】
本発明の一態様では、改善されたコロナ耐性を有する絶縁導電体アセンブリを示し、ここで、アセンブリは電流の流れを誘導するためにその両端に印加される電位差を有することができる導電体を含み、絶縁性ポリマー化合物の層がアセンブリ上に設けられ、絶縁性ポリマー化合物がポリアリールエーテルケトン、PAEKを含み、PAEKが下式の繰り返しユニット
【化4】

および
下式の繰り返しユニット
【化5】

を含むコポリマーであり、ここで、コポリマーの繰り返しユニットの少なくとも95モル%が、式(a)および式(b)の繰り返しユニットであり、
繰り返しユニット(a)と(b)が、55:45~80:20のモル比(a):(b)を有し、
また、PAEKは、直径0.5mmおよび長さ8.0mmのタングステンカーバイドのキャピラリーダイを通した押出しによって、400℃で1000s-1のせん断速度のキャピラリーレオメトリーを使用して測定して、0.35~0.55KNsm-2の溶融粘度MVを有する。
【0036】
好ましくは、上述の式(a):(b)のポリマー絶縁化合物はまた、固体粒子材料の分散相を含む。好ましくは、固体粒子材料は、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化クロム、ガラス繊維、酸化鉄、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マイカ、シリカ、炭化ケイ素、二酸化ケイ素(石英)、窒化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、二酸化チタン、タルク(例えば、Jetfine(商標))、酸化亜鉛、ジルコニア、窒化ホウ素、珪灰石、窒化アルミニウム、またはこれらの混合物を含む群から選択される。好ましくは、固体粒子材料は、0.1~35重量%、好ましくは0.5~30重量%、より好ましくは1~20重量%の充填レベルで存在する。一実施形態では、上述の式(a):(b)の実質的に20重量%のタルクを含む絶縁性ポリマー化合物を含む絶縁導電体を提供する。好ましくは、当該固体粒子材料は0.001~50μmのd50を有する。
【0037】
簡潔にするために、式(a)および式(b)のユニットを本明細書中ではそれぞれPEEKおよびPEDEKと呼ぶ。一般的には、ポリマーはまた、繰り返しユニットと同じであってもよいが、末端OHまたはF基を有するポリマーの末端ユニットを有する。しかしながら、ポリマーを形成する方法は重合の完了時に別個のエンドキャッピング工程を含んでもよく、この場合には、別個のモノマーまたは試薬をエンドキャッピング剤として添加してもよく、それにより、末端ユニットがポリマーの繰り返しユニットと異なってもよい。このようなエンドキャッピングは、求核性重縮合反応の分野においてよく知られている。換言すれば、本発明のポリマーでは、存在するすべての繰り返しユニットの95モル%以上が、特定のモル比(a):(b)が55:45~80:20である式(a)のユニットと式(b)のユニットである。これは、ポリマーの調製に使用されるモノマーのモル数を知ることによって立証することができる。
【0038】
各繰り返しユニット(a)および(b)の中のフェニレン部分は、それらが結合している原子に対して1,4-パラ結合を有する。これにより、ポリマー材料は本質的に結晶性である。好ましくは、上記のように1000s-1および400℃で測定された本発明の第1の態様のPAEKのMVは、0.40~0.50KNsm-2である。好ましくは、モル比(a):(b)は60:40~75:25である。好ましくは、コポリマーの繰り返しユニットの少なくとも98モル%、より好ましくは99モル%が、式(a)および式(b)の繰り返しユニットである。最も好ましくは、ポリマーは式(a)および式(b)の繰り返しユニットから本質的になる。
【0039】
これに関連して、「本質的に~からなる」という用語は、他のモノマーが意図的に含まれないことを意味するが、いくらかは不可避の不純物として、または末端基として存在してもよい。
【0040】
電気的特性
固体粒子材料をポリマー材料に含めると、絶縁体としての使用に適するようにする他の物理的特性を保持しながら、部分放電およびコロナ耐性が驚くほど向上する。タルク充填材料を組み込んだ1つの特定の実施形態において、本発明者らはコロナ耐性が驚くほど向上することを見出した。このような構成では、絶縁コーティングの厚さを、例えば200μmから100μmまで低減できると考えられる。
【0041】
絶縁性ポリマー化合物は、固体粒子材料が分散されているという事実によってその電気抵抗を保持し、好ましくは、導電体の表面に垂直な方向で測定して、少なくとも1010Ω・cmの電気抵抗を有する。
【0042】
絶縁性ポリマー化合物は、好ましくは、90~190kV/mmの絶縁耐力(すなわち絶縁破壊電圧)を有する。絶縁耐力は材料の厚さに応じて変化する。例えば、約2mmの絶縁コーティングは、50kV/mm未満の絶縁耐力を有する。逆に、2mmより薄い、例えば8μmの絶縁コーティングは、300kV/mmより大きい絶縁破壊電圧を有する。
【0043】
本発明によって提供される構成によって、コロナ耐性が向上し、例えば、電圧耐久性データによって証明されるように、要求の厳しい電気的用途において絶縁体の寿命がより長くなる。
【0044】
また、好ましくは絶縁性ポリマー化合物は、3.8未満、好ましくは3.5未満、さらに好ましくは3.3未満の比誘電率を有する。
【0045】
好ましくは絶縁性ポリマー化合物は、導電体の表面に垂直な方向で測定して、少なくとも0.15Wm-1-1、好ましくは少なくとも0.2Wm-1-1、より好ましくは少なくとも0.25Wm-1-1の熱伝導率を有する。
【0046】
厚さ
絶縁性ポリマー化合物は、導電体の表面に垂直な方向に定義されるように、用途に適した寸法厚さを有することができる。好ましくはポリマー材料は、2~500μm、より好ましくは2~300μm、好ましくは10~300μmの平均厚さを有する。
【0047】
絶縁層の厚さは絶縁層の範囲にわたって実質的に一定であることが好ましい。したがって、好ましくは、最も薄い点における絶縁層の厚さを最も厚い点における絶縁層の厚さで割ったものとして定義される比が、少なくとも0.8、好ましくは少なくとも0.9、より好ましくは少なくとも0.95である。一実施形態では、前記絶縁層は別の材料、例えば別の層で覆われていない。
【0048】
導体の形状
導電体は、使用時にその両端に電位差を印加することによって電流を流すことができるように設計されている限り、任意の形状または形態をとることができる。このような導電体は、例えば細長くても、平面状であっても、または三次元であってもよい。いずれの場合も、導電体は平坦であっても湾曲していてもよい外面を有し、その上に本発明の絶縁性ポリマー化合物を塗布することができる。
【0049】
好ましい導電体はワイヤ、例えばマグネットワイヤであり、それは円形または長方形または他の断面、例えば三角形または六角形の断面を有してもよい。導体がワイヤである場合、表面の接腺方向もまたワイヤの長さに平行である。別のワイヤでは、例えば、厚さが変化する絶縁性ポリマー化合物とともに使用されるように調整された外形を有する場合もある。
【0050】
このようなワイヤは、電気モーターにおけるマグネットワイヤ、例えば固定子コイルの周りの巻線として特に有用である。これは、部分放電およびコロナ耐性が特に望ましい物理的特性である高性能モーターにとって特に有益である。
【0051】
導体の材料
本発明は広い範囲の導電体材料、例えばニッケルまたは銀に適用可能であるが、好ましくは、導電体は本質的に銅またはアルミニウムである。一実施形態では、導体は、適切な材料、例えば銀またはニッケルでめっきされた銅コア導体を含むことができる。導体が銅である場合、好ましくは、それは30ppm未満、より好ましくは20ppm未満の酸素含有量の低酸素銅である。
【0052】
粒径
本発明の固体粒状材料は非球状の粒子を含んでいてもよく、したがって、それらのサイズをそれに応じて特徴付けることが重要である。好ましい粒径測定は、ザウター平均粒径、またはd3,2であり、それは粒子のサンプルと同じ表面積対体積比を有する球の直径である。粒径のこの尺度は、球状粒子の形状からの偏差が考慮されている。例えば、非球状粒子は、球状粒子よりも粒子のサイズに対してより大きい表面積を有することから、対応してそれらはより小さいd3,2の値を有する。好ましくは、固体粒子材料は0.001~50μm、より好ましくは0.005~15μmのd3,2を有する。
【0053】
d50は、0.001~50μm、より好ましくは0.005~15μmである。一つの構成では、固体粒子材料は、0.001~50μm、より好ましくは0.005~15μmのd50を有する。
【0054】
粒子の形状
本発明の一実施形態では、固体粒子材料は、各粒子が0~90度の配向角を有するような長さと幅を有する粒子から構成され、ここで、配向角はその長さの方向と粒子に最も近い表面の接腺方向との間の角度であり、粒子は数平均配向角が45度未満であるように絶縁性ポリマー化合物内で配向される。このような細長い粒子は、導体の表面と整列していると、さらに電気的および熱的特性を向上させることが見出された。
【0055】
好ましくは、粒子は数平均配向角が30度未満、より好ましくは20度未満であるように、絶縁性ポリマー材料内で配向される。粒子が導電体の表面に対してより整列しているほどポリマーの電気絶縁特性がより大きくなり、同時に、接着性、コロナ耐性および熱破壊などのさらなる技術的利益もまた得られる。
【0056】
固体粒子材料を形成する粒子が著しく非球状である場合、それらはまたアスペクト比によって適切に特徴付けることができる。そのようなアスペクト比は、粒子の最小幅に対する粒子の最大長の比であり、ここで、幅は長さに対して垂直である。集団中の各粒子は、自然の変動のためにそれ自体のアスペクト比を有するが、少なくとも2:1、より好ましくは少なくとも4:1の数平均アスペクト比が好ましい。
【0057】
固体粒子材料を特徴付ける別の適切な方法は、粒子と同じ体積を有する球の表面積を粒子の表面積で割ったものとして定義される球形度である。あらゆる球形度の粒子が有益であることが見出されているが、好ましくは、固体粒子材料の平均球形度は0.7未満、より好ましくは0.6未満である。
【0058】
一実施形態では、固体粒子材料は、対称線に対して実質的に対称である粒子を含むことができる。
【0059】
固体粒子材料
適切な粒径を有する限り、様々な材料、特に鉱物などの高い熱伝導率を有する材料で固体粒子材料を形成することができる。そのような材料の例としては、硫酸カルシウム、酸化クロム、ガラス繊維、酸化鉄、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マイカ、シリカ、炭化ケイ素、二酸化ケイ素(石英)、窒化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、二酸化チタン、タルク(例えば、Jetfine 3CAを含むJetfine(商標))、酸化亜鉛、ジルコニア、硫酸バリウム、窒化ホウ素、珪灰石、窒化アルミニウムが挙げられる。
【0060】
最小量未満の固体粒子材料では本発明の有益な効果は最小になり、ある量を超えるとポリマーの有益な特性が減じることが見出された。したがって、固体粒子材料は、絶縁性ポリマー材料中に0.1~50重量%、または0.1~40重量%、0.1~35重量%、より好ましくは0.5~30重量%、より好ましくは1~20重量%、最も好ましくは15~25重量%の充填レベルで存在することが好ましい。例えば、5%または10%または15%の二酸化チタンがPAEK、好ましくはPEEK中に存在してもよい。あるいは、5%または10%または15%の硫酸バリウムがPAEK、好ましくはPEEK中に存在してもよい。さらに別の例では、5重量%または10重量%または15重量%または20重量%のタルクがPAEK、好ましくはPEEK中に存在してもよい。
【0061】
1つの好ましい実施形態では、絶縁導電体は、絶縁性ポリマー化合物、例えば、好ましくはPEEK、あるいは好ましくは上述のコポリマーPEEK-PEDEKと、10~30重量%の固体粒子材料とを含む。
【0062】
一実施形態では、絶縁導電体は、好ましくはPEEK、または好ましくはコポリマーPEEK-PEDEKである絶縁性ポリマー化合物と、20重量%のタルクとを含む。
【0063】
一実施形態では、5%または10%または15%の硫酸バリウムがPAEK、好ましくはPEEK-PEDEK中に存在してもよい。さらに別の例では、5%または10%または15%または20%または30%のタルクがPAEK、好ましくはPEEK-PEDEK中に存在してもよい。
【0064】
追加の層
ポリマー材料を導電体の表面に直接塗布してもよいが、絶縁性ポリマー材料と導電体との間に追加の材料層がまた存在してもよい。このような追加の層はしばしばエナメル層と呼ばれ、さらなるポリマー層、例えば熱硬化性ポリマー層、例えばフルオロポリマー層またはポリイミド層を含むことができる。同様に、電気部品の用途に応じて必要に応じて、電気絶縁性ポリマー化合物の上に追加の層を設けてもよい。
【0065】
形成方法
第2の態様では、本発明は本明細書に記載の絶縁導電体の製造方法に関し、方法は、
(a)流動性ポリマー材料の原料を固体粒子材料と一緒にブレンドしてランダムブレンドを形成する工程と、
(b)ランダムブレンドをせん断する工程と、
(c)同時にまたはその後にブレンドを導電体の表面上に敷く工程と、を含む。
【0066】
特に好ましい製造方法では、絶縁導電体は、固体粒子材料を含むポリマー材料の流動性の塊を押し出す工程を含むプロセスによって製造される。
【0067】
絶縁性ポリマー化合物は、導電体上に塗布する前に製造してもよく、または例えば、それを例えば押出しプロセスにおいて形成して導電体上に直接堆積させてもよい。
【0068】
絶縁性ポリマー化合物を導電体上に塗布する前に製造する場合、本発明の絶縁導電体は、絶縁性ポリマー化合物の層を導電体の表面上に敷くことによって製造することができる。例えば、導電体がワイヤである場合、WO2016/120592に開示されている方法でポリマー層で包み込むプロセスを使用してもよい。
【0069】
既に説明したように、絶縁導電体は、電気モーターの固定子内のマグネットワイヤとして特に有用である。したがって、第3の態様では、本発明は本明細書に記載の絶縁導電体を含む電気機器に関する。例えば、絶縁導電体を含むそのような電気機器は、自動車のモーターアセンブリであってもよい。
【実施例
【0070】
接着性試験
400℃で90Pa.sのせん断粘度を有するPEEKポリマーのサンプルについて、様々な固体粒子材料の含有レベルで、アルミニウム、銅、ベリリウム銅およびステンレス鋼基材に対するそれらの接着性を試験した。接着度はT型剥離試験BS EN ISO113399によって測定した。
【0071】
以下の機械設定:Instron 2736-015、剥離速度:50mm/分、
剥離伸び:200mm、ロードセル:30KNを用いた。
【0072】
ポリマー化合物が、400℃で90Pa.sのせん断粘度を有する第1PAEK(PEAK1)、またはより低い融点および400℃で117Pa.sのせん断粘度を有する第2PEAK(PEAK2)である絶縁性ポリマー化合物を調製した。PAEK2は、上述したPEEK PEDEKコポリマーを含んでいた。
【0073】
ポリマーは、何ら固体粒子材料を含めずに、20重量%のタルク(Jetfine(商標))および/または15重量%のガラス粒子を含めて調製した。
【0074】
ポリマーフィルムを以下のプロトコルに従って調製した。
【0075】
アルミニウムフレームを150×150mmに切断した。プラスチックがフレームまたはホルダーに付着するのを防止するためにフレームの両側をFrekote(商標)でコーティングして、このフレームを、それぞれのシートの内側がまたFrekoteでコーティングされたさらに2枚のアルミニウムシートの間に挟んだ。ホットプレスを400℃に加熱した。10gのポリマーを秤量してフレームの中央に置いた。次いで、フレーム内に挟まれたものを2つの金属プラークの間に置いて、サンプルを所定の位置に保持した。次いで、これを圧力なしで4分間プレスした。4分後、サンプルを5トンの圧力でさらに2分間プレスした。次いで、サンプルをホットプレスから取り出し、水中で急冷して急速冷却した。
【0076】
T型剥離サンプルの作製方法
ホットプレスを400℃に加熱する。金属サンプルを75×200mmのストリップに切断し、それに応じて前処理した。プレスしたポリマーフィルムを75×150mmのストリップに切断した。次に、Instronのグリップでつかむために端部に50mmのタブを残して、フィルムを2つの前処理した金属ストリップの間に挟んだ。次に、このサンプルを、プレス上にこぼれないようにするために2枚の200×200mmのアルミニウムシートの間に置いた。次いで、このサンプルを2つの金属プラーク上に置いた。サンプルを無加圧下で2分間プレスした。完了後に、再びサンプルをプレスから取り出して急冷した。サンプルはさらに25×200mmのサンプルの大きさに切断する必要があり、これによって、各金属、化合物および表面処理についてトリプリケートのサンプルを得た。
【0077】
結果を下の表1~4に示す。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】
【0078】
これらの結果から、タルク充填剤が接着性に対して明確な効果を有することが明らかであり、タルク充填剤は、金属をショットブラストまたは酸エッチングした場合に接着性を最も劇的に改善するようである。導電体の表面積はこれらの技術の両方で増えることから、めっき構造を有するタルクではより大きな表面積を有し、めっきが表面と整列して、金属とポリマーの界面でより密接な接触をより良好に得ることができ、タルクが接着性を改善することは理に適っている。これによって金属表面上への物理的なキータイプの結合が支持される。
【0079】
有益なことに、充填剤、例えばタルクを加えることにより、熱膨張係数(CTE)を低下させることができる。金属とPAEKとの間の界面での応力が低減され、したがって良好な接着性が維持される。
【0080】
電圧耐久試験
これは、2つの電極の間に一片のフィルムを入れて、例えば1kHzで2.83kVrmsを印加したときに破損するまでの時間を測定することを含む。使用した試験システムは、400Hz~2kHzの周波数で駆動することができ、5kVrmsの最大出力を有する正弦波電圧を生成する5kV変圧器からなる。直列抵抗を用いて、サンプルの破損時に流れることができる最大電流を制限する。次に、試験中のシステム電圧を監視するために使用される分圧器を介して電圧を試験電極に送り、最終的に高電圧リレーに送る。高電圧リレーを使用して、破損したサンプルへの電源を分離する。フィルムサンプルの両側の電極はフィルムの厚さによって隔離される(研磨された50mmのベース電極と、その縁部に1mmの曲率半径を有する研磨された25mmの上部電極)。
【0081】
表5で参照されるPEEK無充填フィルムは、ISO11443に従って約291Pa.sのせん断粘度を有していた。
【表5】
【0082】
全ての充填フィルムは、全く固体粒子材料を含まないものよりも長い寿命を示した。
【0083】
理論は、粒子の混合物がコロナ放電下で絶縁層の機械的侵食(薄化)を抑制し、電圧耐久寿命を延長することを示唆している(表5)。
【0084】
絶縁破壊電圧
絶縁破壊電圧は、マグネットワイヤにIEC60851-5法を適用して評価した。86重量%のPEEKと14重量%のタルクを含む化合物のコーティングを100ミクロンのコーティング厚さで用いて、ワイヤに11kVを印加した。
【0085】
有益なことに、マグネットワイヤは上の条件下では破壊されなかった。そうすることで、本出願人は、本発明が、充填されたPAEKベースの材料と無充填のPAEKベースの材料とを比較したときに、他の重要な電気的特性を損なうことなく、電圧耐久性が向上することを実証した。さらに、本発明の構成は、無充填のPAEK材料と比較して、充填されたPAEK化合物の導体に対する接着性の向上を示している。例えば銅導体への高レベルの接着を可能にすることは、層間剥離のリスクを最小限に抑えるため、絶縁システムの寿命の保証に役立ち、商業的に魅力的である。逆に、不都合なことに、エナメルを界面として使用して接着を促進することが知られているが、これは熱に曝露された後に亀裂を生じたり脆化を引き起こしたりする可能性がある。
【国際調査報告】