(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】被覆基材
(51)【国際特許分類】
C03C 17/245 20060101AFI20240927BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20240927BHJP
C03C 17/36 20060101ALI20240927BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240927BHJP
E06B 3/663 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C03C17/245 A
C03C17/34 Z
C03C17/36
B32B9/00 A
E06B3/663 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517171
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 EP2022076595
(87)【国際公開番号】W WO2023052271
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】フーベルト, ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】臼井 玲大
(72)【発明者】
【氏名】メルシエ, ヴィルジニー
【テーマコード(参考)】
2E016
4F100
4G059
【Fターム(参考)】
2E016AA01
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4G059AA01
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4G059EA05
4G059EB04
4G059GA02
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4G059GA14
(57)【要約】
本発明は、2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を含み、少なくとも1つの表面に機能性コーティングが設けられる被覆基材であって、透明基材には、前記機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiOy及びZrOz、並びに場合によりSiOx(ここで、x、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物のマグネトロンスパッタリングされたトップコートが設けられ、トップコートが、8~49原子%のチタン、51~92原子%のジルコニウム、0~9原子%のケイ素を含み、合計で100原子%の金属であり、トップコートが0.1~10nmの厚さを有することを特徴とする被覆基材と、上記被覆基材を提供する方法と、その使用とに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を含み、少なくとも1つの表面に機能性コーティングが設けられる被覆基材であって、
前記透明基材には、前記機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiO
y及びZrO
z、並びに場合によりSiO
x(ここで、x、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物のマグネトロンスパッタリングされたトップコートが設けられ、
前記トップコートが、
- 8~49原子%のチタン、
- 51~92原子%のジルコニウム,
- 0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、前記トップコートが0.1~10nmの厚さを有することを特徴とする被覆基材。
【請求項2】
前記トップコートの前記混合金属酸化物が1~8原子%のケイ素を含む、請求項1に記載の被覆基材。
【請求項3】
前記トップコートの前記混合金属酸化物が10~35原子%のチタンを含む、請求項1に記載の被覆基材。
【請求項4】
前記トップコートの前記混合金属酸化物が25~70原子%のジルコニウムを含む、請求項1に記載の被覆基材。
【請求項5】
前記機能性コーティングが、ソーラーコントロールコーティング、伝導性コーティング、反射防止コーティング、装飾コーティング、及び/又は低放射率コーティングである、請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項6】
前記機能性コーティングが、単層金属酸化物コーティング、多層金属酸化物コーティング、非金属酸化物コーティング、又は多層機能性コーティングである、請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項7】
前記単層金属酸化物コーティングが、アルミニウム、ガリウム、又はハフニウムでドープされた酸化亜鉛;亜鉛及びスズの混合金属酸化物;場合によりフッ素又はアンチモンでドープされた酸化スズ;場合によりスズでドープされた酸化インジウムなどを含む、請求項6に記載の被覆基材。
【請求項8】
前記多層金属酸化物コーティングが、高屈折率材料の少なくとも1つの層、及び低屈折率材料の少なくとも1つの層を含む、請求項6に記載の被覆基材。
【請求項9】
前記多層機能性コーティングが、n個の赤外反射(IR)層とn+1個の誘電体層との交互配列を、それぞれのIR層が2つの誘電体層で囲まれるように含み、n≧1である、請求項6に記載の被覆基材。
【請求項10】
前記多層機能性コーティングが、
a.少なくとも1つの銀層を含み、基材/MeO/ZnO:AlSi/Ag/AlSi-MeOの順序を含み、ここでMeOは、SnO
2、TiO
2、In
2O
3、Bi
2O
3、ZrO
2、Ta
2O
5、SiO
2、若しくはAl
2O
3、又はそれらの混合物などの金属酸化物である;
又は
b.窒化ケイ素を含む第1の誘電体層と;第1のNi又はNiCrを含む層と;銀を含む赤外(IR)反射層と;第2のNi又はNiCrを含む層と;窒化ケイ素を含む第2の誘電体層とを含む;
又は
c.第1及び第2の層に接触しそれらの間に挟まれた赤外(IR)反射層を含み、前記第2の層はNiCrOxを含み;少なくとも、NiCrOxを含む前記第2の層は、前記赤外(IR)反射層に近い前記第2の層の第1の部分が前記赤外(IR)反射層から離れている前記第2の層の第2の部分よりも酸化されないように、段階的に酸化されている;
又は
d.誘電体層と;前記誘電体層の上に位置する酸化亜鉛を含む第1の層と;酸化亜鉛を含む前記第1の層の上に接触して位置する銀を含む赤外(IR)反射層と;前記IR反射層の上に接触して位置するNiCrの酸化物を含む層と;前記NiCrの酸化物を含む前記層の上に接触して位置する酸化亜鉛を含む第2の層と;酸化亜鉛を含む前記第2の層の上に位置する別の誘電体層とを含む;
又は
e.第1の誘電体層と;少なくとも前記第1の誘電体層の上に位置する銀を含む第1の赤外(IR)反射層と;少なくとも前記第1のIR反射層及び前記第1の誘電体層の上に位置する酸化亜鉛を含む第1の層と;酸化亜鉛を含む前記第1の層の上に接触して位置する銀を含む第2のIR反射層と;前記第2のIR反射層の上に接触して位置するNiCrの酸化物を含む層と;前記NiCrの酸化物を含む層の上に接触して位置する酸化亜鉛を含む第2の層と;少なくとも、酸化亜鉛を含む前記第2の層の上に位置する別の誘電体層とを含む;
又は
f.第1の誘電体層と;前記誘電体層の上に位置する酸化亜鉛を含む第1の層と;酸化亜鉛を含む前記第1の層の上に接触して位置する銀を含む赤外(IR)反射層と;前記IR層の上に位置する酸化亜鉛を含む第2の層と;酸化亜鉛を含む前記第2の層の上に位置する第2の誘電体層とを含む;
又は
g.第1の誘電体層;銀を含む第1のIR層;第2の誘電体層;第2のIR層;第3の誘電体層を含み、前記第1、第2、及び第3の誘電体層は幾つかの層を含むことができる;
又は
h.第1の誘電体層;銀を含む第1のIR層;第2の誘電体層;第2のIR層;第3の誘電体層;第3のIR層;第4の誘電体層を含み、ここで第1、第2、第3、及び第4の誘電体層は幾つかの層を含むことができる、請求項9に記載の被覆基材。
【請求項11】
前記第1の表面の少なくとも一部の上の第1の機能性コーティング、及び前記第2の表面の少なくとも一部の上の第2の機能性コーティングを有し、前記第1又は第2の機能性コーティングの少なくとも1つには、請求項1~10のいずれか一項に記載のトップコートが設けられる、請求項1~10のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項12】
炭素一時保護層、ポリマー一時保護層、剥離可能な保護層などの少なくとも1つの一時保護層が、混合金属酸化物の前記マグネトロンスパッタリングされたトップコートの上に接触してさらに設けられる、請求項1~11のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項13】
2つの互いに反対側の表面を有する透明基材を含み、少なくとも1つの表面に機能性コーティングが設けられる、熱処理された被覆基材であって、
前記透明基材には、前記機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiO
y及びZrO
z、及び任意選択的にSiO
x(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物のマグネトロンスパッタリングされたトップコートが設けられ、
前記トップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
前記トップコートが0.1~10nmの厚さを有することを特徴とする被覆基材。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の少なくとも1つの被覆基材を含む複層グレージングユニット。
【請求項15】
被覆基材の製造方法であって、順番に:
1.2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を提供するステップ、
2.前記透明基材の前記第1の表面の少なくとも一部の上に機能性コーティングを堆積するステップ、
3.前記機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiO
y及びZrO
z、及び任意選択的にSiO
x(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含むトップコートをマグネトロンスパッタリング技術によって堆積するステップであって、
前記トップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
前記トップコートが0.1~10nmの厚さを有するステップ、
を少なくとも含む、製造方法。
【請求項16】
熱処理された被覆基材の製造方法であって、順番に:
1.2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を提供するステップ、
2.前記透明基材の前記第1の表面の少なくとも一部の上に機能性コーティングを堆積するステップ、
3.前記機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiO
y及びZrO
z、及び任意選択的にSiO
x(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含むトップコートをマグネトロンスパッタリング技術によって堆積するステップであって、
前記トップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
前記トップコートが0.1~10nmの厚さを有するステップ、
4.前記被覆基材の熱処理を行うステップ、
を少なくとも含む、製造方法。
【請求項17】
両面被覆基材を製造する方法であって、順番に:
1.2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を提供するステップであって、前記第1の表面を露出させるステップ、
2.前記透明基材の前記第1の表面の少なくとも一部の上に第1の機能性コーティングを堆積するステップ、
3.前記第1の機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiO
y及びZrO
z、及び任意選択的にSiO
x(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含むトップコートをマグネトロンスパッタリング技術によって堆積するステップであって、
前記トップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
前記トップコートが0.1~10nmの厚さを有するステップ、
4.前記第2の表面が露出するように前記基材を任意選択的に裏返すステップ、
5.前記透明基材の前記第2の表面の少なくとも一部の上に第2の機能性コーティングを堆積して、両面被覆透明基材を形成するステップ、
6.場合により、前記第2の機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiO
y及びZrO
z、及び任意選択的にSiO
x(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含むトップコートをマグネトロンスパッタリング技術によって堆積するステップであって、
前記トップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
前記トップコートが0.1~10nmの厚さを有するステップ、
7.場合により前記両面被覆透明基材の熱処理を行うステップ、
を少なくとも含む、製造方法。
【請求項18】
マグネトロンスパッタリング技術による少なくともケイ素、チタン、及びジルコニウムを含む前記トップコートの前記堆積が、少なくとも3つのチタン、ジルコニウム、又はケイ素の元素を得るために金属又はセラミックのいずれかのターゲットを用いて行われる、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
マグネトロンスパッタリング技術による少なくともケイ素、チタン、及びジルコニウムを含む前記トップコートの前記堆積が、チタン及びジルコニウムの酸化物と、金属形態のケイ素とを含むセラミックターゲットを用いて行われる、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
機能性コーティングが設けられた透明基材のためのトップコートの使用であって、前記トップコートが、少なくともTiO
y及びZrO
z、及び任意選択的にSiO
x(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含むマグネトロンスパッタリングされた混合金属酸化物であり、
前記トップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
前記トップコートが0.1~10nmの厚さを有する、
耐摩耗性を少なくとも10%増加させることによって耐久性を改善するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性コーティングと、少なくともTiOy及びZrOz、及び任意選択的にSiOxを含む混合金属酸化物のマグネトロンスパッタリングされたトップコートとが設けられた被覆基材、上記被覆基材の提供方法、及びトップコートの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンスパッタリングされた誘電体層を含むものなどの機能性コーティングは、典型的には、それらの製造、輸送、加工、保管、及び/又は取り扱いの間に化学的損傷及び機械的損傷を受けやすいことが知られている。この限定された機械的抵抗性、耐薬品性、及び耐食性によって、外部環境と接触するそれらの実現可能な使用は通常は限定される。
【0003】
高い化学的耐久性又は機械的耐久性、又は化学的耐久性と機械的耐久性との両方を有するコーティングを有するグレージングを提供する種々の試みが行われている。
【0004】
国際公開第2009115596A1号パンフレットは、マグネトロンを用いて真空中で堆積された薄層の組立体を含み、耐光性及び/又は低排出特性を有する本質的に透明なグレージングであって、表面保護層が、酸化チタンと、ZrO2、SiO2、Cr2O3を含む群から選択される少なくとも1つの別の高硬度金属酸化物とを含む層を含む、グレージングに関する。上記開示のグレージングは、変色又は真珠光沢などの光学的欠陥を発生させることなく、550℃で5分間の熱処理に耐えることができる。混合酸化物中、酸化チタンは少なくとも40重量%存在する。表面層は、15~50重量%の比率の酸化ジルコニウムを含む。
【0005】
国際公開第2010031808A1号パンフレットは、真空下の陰極スプレーによって堆積された少なくとも1つの層を含むグレージングであって、上記層が1つ以上の酸化物を含み、酸化チタンの重量比が少なくとも40%及び95%以下である、グレージングに関する。問題となる層の厚さ、及び場合により金属酸化物を含有する別の層の厚さは、厚さ4mmの透明「フロート」ガラスシート上で上記層によって少なくとも15%の反射及び少なくとも60%の光透過率が得られるように選択される。問題となる層又は層系は、同じ種類の光学的性質を有する製品を得るために熱分解によって作製された層と同等の機械的抵抗性及び/又は耐薬品性をさらに有する。少なくとも40重量%の量の酸化チタンは、典型的には、堆積された層中に少なくとも50原子%のチタンの量になる。
【0006】
しかし、上記の解決策では、典型的な乾式ブラシ試験及び/又はAutomatic Wet Rub Test(AWRT)において、輸送及び保管条件中に遭遇する摩耗に対する十分な機械的耐久性が得られない。
【0007】
国際公開第2018202595A1号パンフレットは、基材、基材の少なくとも1つの面の少なくとも一部の上に設けられた軟質コーティング、軟質コーティングの上の上記面の少なくとも一部の上に設けられる保護ゾルゲルコーティングを含む被覆基材、そのような被覆基材の製造方法、及びそのような被覆基材を含むグレージングユニットに関する。ゾルゲルコーティングは、酸化チタン、酸化ケイ素、及び場合により酸化ビスマス及び/又は酸化セリウムの混合物を、0.10~3の範囲の酸化チタンTiO2/酸化ケイ素SiO2の理論重量比で含む。酸化ジルコニウムが存在する場合、酸化ジルコニウム/酸化ケイ素の比は0.10~3の範囲である。酸化チタン/酸化ジルコニウムの比は0.10~10の範囲である。ゾルゲルコーティングの厚さは、典型的には50~500nmの範囲である。この解決策は、保護層の非常に厚い層が形成されることが主な欠点であり、ゾルゲルコーティングを硬化させるための追加の必須の加熱ステップが必要であり、製造ラインの変更が必要であるのでさらなる製造の制約を伴う。すなわち、ゾルゲルコーティングによって被覆基材が保護される前に、損傷が生じる可能性がある中間ステップが必要となる。
【0008】
係属中の出願のPCT/EP2021/058666号明細書は、2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を含み、少なくとも1つの表面に機能性コーティングが設けられた被覆基材であって、透明基材には、機能性コーティングの上に接触して、少なくともSiOx、TiOy、及びZrOz(ここで、x、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物のマグネトロンスパッタリングされたトップコートが設けられ、トップコートが、10~65原子%のケイ素、8~38原子%のチタン、25~80原子%のジルコニウムを含み、合計で100原子%の金属であり、トップコートが0.1~10nmの厚さを有することを特徴とする被覆基材と、上記被覆基材を提供する方法と、それらの使用とに関する。
【0009】
機能性コーティングであって、改善された機械的抵抗性、耐薬品性、及び耐食性を有するが、コーティングの放射率及び/又は審美性には大きな影響を与えない機能性コーティングが設けられた被覆基材、特にガラス基材の開発が依然として必要とされている。
【0010】
機能性コーティングであって、改善された機械的抵抗性、耐薬品性、及び耐食性を有するが、コーティングの放射率にも審美性にも大きな影響を与えず、すなわち、上記機能性コーティングの光学的性質は維持される機能性コーティングが設けられる被覆基材、特にガラス基材の開発が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を含み、第1の表面に機能性コーティングが設けられる被覆基材であって、透明基材には、機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiOy及びZrOz、並びに場合によりSiOx(ここで、x、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物のマグネトロンスパッタリングされたトップコートが設けられ、
トップコートが、
- 8~49原子%のチタン、
- 51~92原子%のジルコニウム、
- 0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、トップコートが0.1~10nmの厚さを有することを特徴とする被覆基材を提供することである。
【0012】
上記被覆基材を提供する方法も提供される。
【0013】
熱処理された被覆基材及び複数のグレージングユニットが提供される。
【0014】
本トップコートは、少なくともTiOy、及びZrOz、並びに場合によりSiOx(ここで、x、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含むマグネトロンスパッタリングされた混合金属酸化物であり、
トップコートは、
- 8~49原子%のチタン(Ti)、
- 51~92原子%のジルコニウム(Zr)、
- 0~9原子%のケイ素(Si)、
を含み、不純物を含めて合計で100原子%の金属であり、
トップコートは0.1~10nmの厚さを有する。
【0015】
不純物は、上記金属から実質的に分離できない追加の金属とみなされる。これは特に、イットリウム及び/又はハフニウム(どちらも遷移金属)の場合である。これらの追加の金属が存在する場合、それらの含有量は、依然として比較的制限され、請求される混合金属の1原子%を超えず、通常は0.8原子%未満で残存する。これらは、Ti、Zr、及びSiのトップコートの有効金属含有量の計算には考慮されない。上記有効含有量は、本発明の範囲内の機械的耐久性が得られるとして、チタン、ジルコニウム、及び任意選択のケイ素の寄与のみの合計として考えられる。アルミニウムは、チタンをベースとするターゲット又はケイ素をベースとするターゲットの中に、好ましくは<5.0原子%、或いは<2.0原子%、或いは<1.0原子%の量の微量元素として存在することができる。この場合も、本明細書において、このようなアルミニウムは、不純物とみなされ、チタン、ジルコニウム、及び任意選択のケイ素の有効含有量には考慮されない。
【0016】
或いは、本トップコートは、少なくともTiOy、及びZrOz、並びに場合によりSiOx(ここで、x、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含むマグネトロンスパッタリングされた混合金属酸化物であってよく、
トップコートは、
- 8~49原子%のチタン(Ti)、
- 51~92原子%のジルコニウム(Zr)、
- 0~9原子%のケイ素(Si)、
- 0~5原子%の不純物、
を含み、不純物を含めて合計で100原子%の金属であり、
トップコートは0.1~10nmの厚さを有する。
【0017】
本発明の範囲内では、Si元素は、化学的には半金属材料であるが、本トップコートにおける特性のため、金属とみなされる。
【0018】
本発明の幾つかの実施形態では、トップコート中のTi、Zr及びSiの上記範囲は、互いに独立して変動することができる。或いはTiの量は、10~47原子%、或いは12~46原子%の範囲であってよい。或いはZrの量は、53~90原子%の範囲であってよい。或いはSiの量は、1~8原子%、或いは2~7原子%の範囲であってよい。或いは不純物の量は、0.1~3原子%、或いは0.2~2原子%の範囲であってよい。したがって、これらの量は、各金属の場合で独立して変動することができ、但し、合計は、不純物を含めて100原子%の金属である。
【0019】
各金属の量は、X線光電子分光法(XPS)、X線蛍光(XRF)などの当業者が利用可能な方法によって求めることができる。これらの分析は、当技術分野において周知の通常手順を用いて、マグネトロンスパッタリング堆積されたトップコートに対して行うことができる。
【0020】
これらの量によって、すなわち、チタンの酸化物の量が<40%である場合、ジルコニウムと組み合わせた場合、場合によりケイ素の存在下で、最適なトップコートで得られ、驚くべきことに、輸送又は保管が必要な機能性コーティングの摩耗に対する優れた機械的耐久性が得られる。国際公開第2009115596A1号パンフレットの教示に反して、予期せぬことに、チタンの酸化物の量が>40%であると、チタンをジルコニウムと組み合わせた場合に必要な耐久性が得られないことが分かった。
【0021】
本トップコートは、0.1~10.0nm、或いは0.5~5.0nm、或いは2.0~5.0nmの範囲の厚さを有することができる。
【0022】
このような厚さによって、改善された機械的耐久性が得られ、同時に、下にある機能性コーティングに対する光学的寄与は最小限になることができる。被覆基材の任意選択の熱処理よって除去されたり変性したりすることがないという点で、トップコートは永続的なものである。下にある機能性コーティングの光学的性質に対する悪影響もない。
【0023】
請求される範囲内の本トップコート材料の屈折率nは、その最終組成によって左右されるが、550nmの波長で1.8~2.3の範囲となりうる。ケイ素は、トップコート材料の屈折率を微調整する役割を果たすことができるが、トップコートの初期保護機能を付与することはできない。
【0024】
透明基材は、ガラス基材、又はプラスチック基材、例えばポリ(メチルメタ)アクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)、又はそれらの混合物であってよい。Tが10%を超える場合、或いは20%を超える場合、或いは30%を超える場合に、基材の透明性が考慮される。
【0025】
ほとんどの好ましい場合、透明基材はガラス基材である。
【0026】
ガラスは、従来のフロートガラス又は板ガラスなどのあらゆる種類のものであってよく、あらゆる光学的性質、例えば、10%を超える可視透過率、紫外透過率、赤外透過率、及び/又は全太陽エネルギー透過率のあらゆる値を有するあらゆる組成であってよい。
【0027】
ガラス基材は、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、又はアルミノシリケートガラスであってよい。基材は、通常の透明、着色、又は超透明(すなわち、より低いFe含有量及びより高い透過率)のガラス基材であってよい。ガラス基材のさらなる例としては、透明、緑色、ブロンズ色、又は青緑色のガラス基材が挙げられる。
【0028】
ガラスは、アニールガラス、強化ガラス、又は熱強化ガラスであってよい。
【0029】
透明ガラス基材は、0.5mm~約15mm、或いは1mm~約10mm、或いは1mm~約8mmの範囲の厚さを有することができる。
【0030】
透明ガラス基材は、0.5~2mmの範囲の厚さを有する場合に本発明に適していると見なすこともできる。
【0031】
透明基材は、典型的には2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有し、第1の表面の少なくとも一部に機能性コーティングが設けられる。
【0032】
輸送中、保管中、取り扱い中、処理中及び/又は最終的な使用中の機械的及び/又は化学的損傷から上記機能性コーティングを保護するために、透明基材の少なくとも1つの表面上に設けられた機能性コーティングの少なくとも一部の上に接触して本トップコートが堆積される。
【0033】
透明基材の第2の表面には、同じ又は異なる機能性コーティングを被覆することができる。このような場合、第2の表面上に設けられた機能性コーティングの上に本発明の保護トップコートを設けることもできる。
【0034】
本発明の範囲内で、「機能性コーティング」という用語は、基材の1つ以上の物理的性質、例えば、光学的、熱的、化学的、又は機械的性質を変化させるコーティングを意味する。このような機能性コーティングは、後の処理中に基材から取り外すことは意図されていない。機能性コーティングは、典型的には永続的又は「取り外しできない」コーティングである。
【0035】
第1の表面上、及び場合により第2の表面上の機能性コーティングは、独立して、ソーラーコントロールコーティング、伝導性コーティング、反射防止コーティング、装飾コーティング、及び/又は低放射率コーティングであってよい。
【0036】
機能性コーティングは、単層、又は薄層のスタック、すなわち多層機能性コーティングであってよく、1つ以上の金属、非金属、半金属、誘電体、半導体、若しくは合金、化合物、複合材料、それらの組み合わせ、又はブレンドを含むことができる。
【0037】
本発明において薄層のスタックを議論する場合、典型的には、最初に基材上に第1の層が取り付けられ、その次に第2の層が基材上の第1の層の上に取り付けられると理解される。位置の連続する順序は、基材を基準に進んで最上層まで考慮される。
【0038】
本発明の範囲内で、「下方」、「下」、「下部」という用語は、基材から始まる層の順序内で次の層と向かい合う層の相対位置を示している。本発明の範囲内で、「上」、「上部」という用語は、基材から始まる層の順序内で次の層と向かい合う層の相対位置を示している。
【0039】
本発明の範囲内で、スタック中の層の相対位置は、必ずしも層間の直接接触を示すものではない。すなわち、第1及び第2の層の間に、ある中間層を設けることができる。例えば、本発明の目的が脅かされるのでなければ、基材の「上に堆積された」第1の層は、第1の層の膜と基材との間に位置する同じ又は異なる組成の1つ以上の別のコーティング層の存在を排除するものではない。
【0040】
幾つかの場合では、1つの層は、実際には数個の複数の個別の層で構成されてよい。
【0041】
本トップコートは、透明基材の第1の表面の上に設けられた機能性コーティングに対して上方の位置にあると理解される。すなわち、本トップコートは、基材の第1の堆積表面に対して透明基材から最も離れて位置し、典型的には空気と接触する。
【0042】
本トップコートは、機能性コーティングの上の最上層であり、非永久層は除外され、上記機能性コーティングの最後の層と直接接触する。ほとんどの場合、機能性コーティングの最後の層によって、機械的及び/又は化学的耐久性は付与されない。このような場合、本トップコートによって、機能性コーティングの機械的及び化学的耐久性が付与される。
【0043】
本トップコートは、除去されることは意図されず、したがって取り外し可能な、又は非永続的な保護層とはみなされない。
【0044】
幾つかの場合では、機能性コーティングは自らが、ある程度の機械的及び/又は化学的耐久性を付与する最上層を含むことができる。このような場合、本トップコートによって、特に摩耗を考慮して、機能性コーティングのさらに優れた機械的及び化学的耐久性が付与される。
【0045】
機能性コーティングは、10~1000nmの範囲の厚さを有することができる。
【0046】
特に記載がなければ、ここですべての層の厚さは、幾何学的層厚さである。
【0047】
本発明のある実施形態では、機能性コーティングはソーラーコントロールコーティングであってよく、ここで、ソーラーコントロールコーティングは、可視、赤外、及び/又は紫外のエネルギーを反射又は吸収するコーティングを含む。
【0048】
本発明のある実施形態では、機能性コーティングは、導電性コーティング、例えば、導電性加熱窓のコーティング、又はアンテナとして機能できる単一フィルム若しくは多層フィルムのコーティングであってよい。
【0049】
機能性コーティングは、典型的には可視波長エネルギー、例えば、約400nm~約780nmはコーティングを透過することができるが、より短波長の太陽赤外エネルギー及び/又は熱赤外エネルギーは反射することができ、典型的には建築用グレージングの断熱特性の改善が意図される、低放射率コーティングであってよい。「低放射率」は、約0.3未満、或いは約0.2未満の放射率を意味する。
【0050】
機能性コーティングは、単層金属酸化物コーティング、多層金属酸化物コーティング、非金属酸化物コーティング、又は多層機能性コーティングであってよい。
【0051】
本発明のある実施形態では、単層金属酸化物コーティングとしては、アルミニウム、ガリウム、又はハフニウムでドープされた酸化亜鉛;亜鉛及びスズの混合酸化物;フッ素又はアンチモンで場合によりドープされた酸化スズ;場合によりスズでドープされた酸化インジウムなどを含むコーティングが挙げられる。
【0052】
本発明のある実施形態では、多層金属酸化物コーティングとしては、高屈折率材料の少なくとも1つの層と、低屈折率材料の少なくとも1つの層とを含むコーティング、すなわち、交互に変化する屈折率を有する材料の層を有するコーティングが挙げられる。このようなコーティングは、典型的には、低屈折率又は高屈折率を有する材料の第1の層と、高屈折率又は低屈折率を有する材料の第2の層と、低屈折率又は高屈折率を有する材料の第3の層と、高屈折率又は低屈折率を有する材料の第4の層と、任意選択の保護層と含むコーティングで表される。低屈折率は、典型的には屈折率<1.7、又は典型的には<1.6であり、一方、高屈折率は、典型的には屈折率>1.8、又は典型的には≧1.9若しくは≧2.0である。幾つかの層は、1.7から1.8までで構成される中間の屈折率を有することができる。屈折率は、典型的には550nmの波長において考慮される。
【0053】
本発明のある実施形態では、機能性コーティングは、n個の赤外反射(IR)層とn+1個の誘電体層との交互配列を、それぞれのIR層が2つの誘電体層で囲まれるように含む多層機能性コーティングであってもよく、n≧1である。
【0054】
IR層は、銀、金、パラジウム、白金、又はそれらの合金でできていてよい。IR層は、2~30nm、或いは5~20nm、或いは7~18nmの厚さを有することができる。これらの厚さの範囲によって、所望の低放射率及び/又はソーラーコントロール機能及び/又は伝導率を実現しながら、良好な光透過率を維持することができる。
【0055】
誘電体層は、典型的には、Zn、Sn、Ti、Zr、Si、In、Al、Bi、Ta、Hf、Mg、Nb、Y、Ga、Sb、Mg、Cu、Ni、Cr、Fe、B、又はそれらの混合物の酸化物、窒化物、酸窒化物、又は酸炭化物を含むことができる。
【0056】
本発明のある実施形態では、誘電体層は、Zn、Sn、Ti、Zr、Si、In、Al、Nb、Sb、Ni、Cr、又はそれらの混合物の酸化物、窒化物、酸窒化物、又は酸炭化物を含むことができる。或いは、誘電体層は、Zn、Sn、Ti、Zr、Si、In、Al、Nb、Sb、Ni、Cr、又はそれらの混合物の酸化物、窒化物、酸窒化物を含むことができる。
【0057】
これらの材料は、最終的にドープすることができ、ドーパントの例としては、アルミニウム、ジルコニウム、又はそれらの混合物が挙げられる。ドーパント又はドーパント混合物は、最大15重量%の量で存在することができる。
【0058】
誘電体材料の典型的な例としては、ケイ素をベースとする酸化物、ケイ素をベースとする窒化物、酸化亜鉛、酸化スズ、混合酸化亜鉛スズ、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、窒化アルミニウム、酸化ビスマス、混合窒化ジルコニウムケイ素、及びこれらの少なくとも2つの混合物、例えば酸化ジルコニウムチタンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
誘電体層は、上記材料を含む本質的にからなる複数の個別の層からなることができる。
【0060】
誘電体層はそれぞれ0.1~200nm、或いは0.1~150nm、或いは1~120nm、或いは1~80nmの範囲の厚さを有することができる。異なる誘電体層は異なる厚さを有することができる。すなわち、第1の誘電体層は、第2又は第3又はあらゆる別の誘電体層の厚さと同じ又は異なる、より大きい又はより小さい厚さを有することができる。
【0061】
2つのIR層が存在する場合(n=2の場合、第2の誘電体層は、2つのIR層の間に挟まれるので、「内部誘電体層」と呼ぶことができる。
【0062】
3つのIR層が存在する場合(n=3の場合)、第2及び第3の誘電体層は、それぞれ2つのIR層の間に挟まれるので、「内部誘電体層」と呼ぶことができる。
【0063】
多層機能性コーティングは、少なくとも1つのIR層の下にシード層を含むことができ、及び/又はコーティングは、少なくとも1つのIR層の上にバリア層を含むことができる。シード層は、典型的には、IR材料の良好な品質の膜の形成を促進するために設けられ、すなわち、IR材料の均一で安定な層を得るために設けられる。バリア層は、典型的には、その上のあらゆる層の形成によって誘発される劣化からのIR材料の保護を促進するため、例えば、IR層の品質を低下させることがある酸素又は酸素含有種から保護し、熱処理による劣化からも保護するために設けられる。
【0064】
所与のIR層には、シード層若しくはバリア層のいずれか、又はその両方を設けることができる。第1のIR層には、シード層及びバリア層のいずれか一方又は両方を設けることができ、第2のIR層には、シード層及びバリア層のいずれか一方又は両方を設けることができ、そのようにさらに続けることができる。このような構成は互いに排他的なものではない。シード層及び/又はバリア層は、0.1~35nm、或いは0.5~25nm、或いは0.5~15nm、或いは0.5~10nmの厚さを有することができる。
【0065】
多層機能性コーティングは、少なくとも1つのIR層の上に接触して設けられる<15nm、或いは<9nmの厚さを有する犠牲材料の薄層を含むこともできる。犠牲材料の例としては、チタン、亜鉛、ニッケル、クロム、Niの酸化物、Ni合金の酸化物、Crの酸化物、Cr合金の酸化物、NiCrOx、NiCrOxNy、酸化亜鉛、酸化スズ、又はその他の適切な材料、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0066】
被覆物品の透過率を選択的に変化させるために調節された吸収層を誘電体層に設けることができる。ある例では、色に悪影響を与えることなく被覆物品の透過率が大幅に調節されるように、上記吸収層の厚さを調節することができる。吸収層の例としては、Ni、Cr、NiCr、NiCrNx、NiCrW、CrN、ZrN、TiN、Ti、Zr、NiOxなどが挙げられる。少なくとも1つのIR層が吸収層の上に位置するように、このような吸収層を配置することができ、場合により、このような吸収層は、窒化ケイ素を含む第1及び第2の層の間に挟まれそれらに接触することができる。吸収層は0.5~10nmの範囲の厚さを有することができる。
【0067】
多層機能性コーティングは、場合により、Ti、Zrの酸化物、又は45~65重量%のTiを有するTi及びZrの混合酸化物;又はSi、Alの酸化物;又はZr及びAlの酸化物;又はSi、Alの窒化物を含む最上層をすでに含むことができる。このような最上層を本トップコートと交換したり、このような最上層の上に本トップコートを取り付けたりすることができる。
【0068】
低放射率コーティングとして機能する多層機能性コーティングの第1の例は、少なくとも1つの銀層を含み、基材/MeO/ZnO:AlSi/Ag/AlSi-MeOの順序を含み、ここでMeOは、SnO2、TiO2、In2O3、Bi2O3、ZrO2、Ta2O5、SiO2、若しくはAl2O3、又はそれらの混合物などの金属酸化物である。
【0069】
低放射率コーティングとして機能する多層機能性コーティングの第2の例は、窒化ケイ素を含む第1の誘電体層と;第1のNi又はNiCrを含む層と;銀を含む赤外(IR)反射層と;第2のNi又はNiCrを含む層と;窒化ケイ素を含む第2の誘電体とを含む。このような多層機能性コーティングは、場合により、SiZrの混合(酸)窒化物又はTiZrの混合酸化物のトップコートを含むことができる。
【0070】
多層機能性コーティングの第3の例は、
第1及び第2の層に接触しそれらの間に挟まれた赤外(IR)反射層を含み、上記第2の層はNiCrOxを含み;
少なくとも、NiCrOxを含む上記第2の層は、上記赤外(IR)反射層に近い上記第2の層の第1の部分が上記赤外(IR)反射層から離れている上記第2の層の第2の部分よりも酸化されないように、段階的に酸化されている。
【0071】
多層機能性コーティングの第4の例は:誘電体層と;誘電体層の上に位置する酸化亜鉛を含む第1の層と;酸化亜鉛を含む第1の層の上に接触して位置する銀を含む赤外(IR)反射層と;IR反射層の上に接触して位置するNiCrの酸化物を含む層と;NiCrの酸化物を含む層の上に接触して位置する酸化亜鉛を含む第2の層と;酸化亜鉛を含む第2の層の上に位置する別の誘電体層とを含む。
【0072】
多層機能性コーティングの第5の例は:第1の誘電体層と;少なくとも第1の誘電体層の上に位置する銀を含む第1の赤外(IR)反射層と;少なくとも第1のIR反射層及び第1の誘電体層の上に位置する酸化亜鉛を含む第1の層と;酸化亜鉛を含む第1の層の上に接触して位置する銀を含む第2のIR反射層と;第2のIR反射層の上に接触して位置するNiCrの酸化物を含む層と;NiCrの酸化物を含む層の上に接触して位置する酸化亜鉛を含む第2の層と;少なくとも、酸化亜鉛を含む第2の層の上に位置する別の誘電体層とを含む。
【0073】
多層機能性コーティングの第6の例は:第1の誘電体層と;誘電体層の上に位置する酸化亜鉛を含む第1の層と;酸化亜鉛を含む第1の層の上に接触して位置する銀を含む赤外(IR)反射層と;IR層の上に位置する酸化亜鉛を含む第2の層と;酸化亜鉛を含む第2の層の上に位置する第2の誘電体層とを含む。第1及び第2の誘電体層は、幾つかの層を含むことができ、特に、酸化亜鉛中の種々の組成の層、すなわち、酸化亜鉛、アルミニウムでドープされた酸化亜鉛の層、又は重量基準で0.5~2の範囲の比Sn/Zn、若しくは重量基準で0.02~0.5の範囲の比Sn/Znを有する亜鉛及びスズの混合酸化物の層;窒化ケイ素の層;酸化チタンの層を含むことができる。酸化亜鉛を含む第1及び第2の層も、酸化亜鉛中で種々の組成を有することができ、すなわち特に、酸化亜鉛;アルミニウムでドープされた酸化亜鉛;亜鉛及びスズの混合酸化物;亜鉛、チタン、及びアルミニウムの混合酸化物の層を有することができる。
【0074】
多層機能性コーティングの第7の例は、順番に:第1の誘電体層;銀を含む第1のIR層;第2の誘電体層;第2のIR層;第3の誘電体層を含む。第1、第2、及び第3の誘電体層は、幾つかの層を含むことができ、特に、酸化亜鉛中の種々の組成の層、すなわち、酸化亜鉛、アルミニウムでドープされた酸化亜鉛の層、又は重量基準で0.5~2の範囲の比Sn/Zn、若しくは重量基準で0.02~0.5の範囲の比Sn/Znを有する亜鉛及びスズの混合酸化物の層;亜鉛、チタン、及びアルミニウムの混合酸化物の層;窒化ケイ素の層;酸化チタンの層を含むことができる。幾つかの場合では、IR層には、独立して、Ti、Ni、NiCrなどの金属バリア層を設けることができる。
【0075】
多層機能性コーティングの第8の例は、順番に:第1の誘電体層;銀を含む第1のIR層;第2の誘電体層;第2のIR層;第3の誘電体層;第3のIR層;第4の誘電体層を含む。第1、第2、第3、及び第4の誘電体層は、幾つかの層を含むことができ、特に、酸化亜鉛中の種々の組成の層、すなわち、酸化亜鉛、アルミニウムでドープされた酸化亜鉛の層、又は重量基準で0.5~2の範囲の比Sn/Zn、若しくは重量基準で0.02~0.5の範囲の比Sn/Znを有する亜鉛及びスズの混合酸化物の層;亜鉛、チタン、及びアルミニウムの混合酸化物の層;窒化ケイ素の層;酸化チタンの層を含むことができる。幾つかの場合では、IR層には、独立してTi、Ni、NiCrなどの金属バリア層を設けることができる。
【0076】
多種多様な複数層機能性コーティングに、本被覆基材を提供することができ、機械的損傷に対する保護が得られるトップコートの利点を得ることができる。同時に、光の透過、光の反射、及び色などの光学的性質は、トップコートを有しないコーティングと比較して許容できる範囲内の変化にとどまり、すなわち、デルタTTC<2%、デルタRTC<2%、及びデルタE*
TC<5となり、ここで、「TC」は、上記機能性コーティングの選択された光学パラメーター(T、R、又はデルタE*)に対してトップコートが与えうる影響に関連している。
【0077】
被覆基材の製造方法は、順番に:
1.2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を提供するステップ、
2.透明基材の第1の表面の少なくとも一部の上に機能性コーティングを堆積するステップ、
3.機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiOy、ZrOz及び任意選択的にSiOx(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含むトップコートをマグネトロンスパッタリング技術によって堆積するステップであって、
トップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
トップコートが0.1~10nmの厚さを有するステップ、
を少なくとも含む。
【0078】
マグネトロンスパッタリングを用いるトップコートの堆積ステップによって、透明基材の上に先に機能性コーティングを設ける既存の製造ラインにプロセスを容易に一体化することができる。マグネトロン堆積によって、0.1~10nmの厚さを有するトップコート層を堆積することもできる。このような薄層は、機能性コーティングの化学的耐久性及び光学的性質に悪影響を与えることなく必要な機械的耐久性を付与するのに有効であることが分かっている。
【0079】
機能性コーティングは、典型的には、化学蒸着(CVD)、大気圧CVD(APCVD)、低圧CVD(LPCVD)、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、LPCVD(低圧化学蒸着)、物理蒸着、マグネトロンスパッタリング、イオンアシスト蒸着によって基材上に堆積することができる。
【0080】
同じ機能性コーティングの個別の層は、異なる堆積方法によって形成することができる。しかし典型的には、これらは同じ技術を用いて堆積することができる。
【0081】
幾つかの場合では、機能性コーティングの少なくとも1つの層はマグネトロンスパッタリングによって堆積することができる。幾つかの場合では、機能性コーティングのすべての層がマグネトロンスパッタリングによって堆積される。
【0082】
本発明の保護トップコートは、マグネトロンスパッタリングを用いて堆積される。CVD又はゾルゲル方法と比較すると、マグネトロンスパッタリングによって堆積される場合に、機械的及び化学的耐久性を得るためのトップコートの効率が最適化される。マグネトロンスパッタリングによって堆積される層は、先に加熱したり追加のステップを行ったりすることなく、0.1~10nm、或いは0.5~5.0nm、或いは2.0~5.0nmの範囲の厚さで有効となる。このように堆積された層は、機能性コーティングの光学的性質に大きな影響を与えることもなく、デルタTTC<2%、デルタRTC<2%、及びデルタE*
TC<5となり、ここで、「TC」は、上記機能性コーティングの選択された光学パラメーター(T、R、又はデルタE*)に対してトップコートが与えうる影響に関連している。
【0083】
マグネトロンスパッタリングを用いるトップコートの堆積は、少なくとも3つのチタン、ジルコニウム、又はケイ素の元素を得るために、金属又はセラミックのいずれかのターゲットを用いて行うことができる。
【0084】
少なくとも3つの元素は、1つ以上のセラミック又は金属のターゲットのいずれかから独立して供給することができる。機能性コーティング上にマグネトロンスパッタリングによって堆積されたトップコートが少なくともTiOy、及びZrOz及び任意選択的にSiOx(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含み、
トップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、トップコートは0.1~10nmの厚さを有するのであれば、種々の組み合わせ及び同時スパッタリングの代案が存在することができる。
【0085】
前述の議論のように、選択されたターゲット中に不純物が存在する結果として、トップコート中に不純物が存在することがある。トップコートの組成は、不純物を含めて合計で100原子%の量となる。しかしながら、トップコートの有効含有量は、チタン、ジルコニウム、及び任意選択のケイ素の量のみを考慮している。
【0086】
金属ターゲットは、チタン、ジルコニウム、又はケイ素の少なくとも1つを含むことができる。金属ターゲットは、チタン、ジルコニウム、又はケイ素の2つ以上を含むことができる。
【0087】
セラミックターゲットは、チタン、ジルコニウム、又はケイ素の少なくとも1つの酸化物を含むことができる。セラミックターゲットは、チタン、ジルコニウム、又はケイ素の2つ以上の酸化物を含むことができる。
【0088】
セラミックターゲットは、チタン、ジルコニウム、又はケイ素から選択される2つの元素を含むことができ、金属ターゲットは第3の元素を含むことができる。
【0089】
幾つかの場合では、スパッタリングされるトップコートの1つの元素は、セラミックターゲット及び金属ターゲットの両方から同時に得ることができる。
【0090】
セラミックターゲットは、金属の少なくとも1つの酸化物と、少なくとも1つの別の金属の金属形態とを含むことができる。
【0091】
セラミックターゲットは、チタン又はジルコニウムの少なくとも1つの酸化物と、金属形態のケイ素とを含むことができる。
【0092】
そのような場合、上記3つの元素は、組み合わせて用いられる複数の独立したターゲットから得ることができ、これは同時スパッタリングとも呼ばれ、それぞれのターゲットがセラミック又は金属のターゲットである。
【0093】
2つ以上のターゲットからのスパッタリング又は堆積は、所望の機械的耐久性のために調整可能な、少なくともケイ素、チタン、及びジルコニウムを含む種々のトップコートが得られるという利点を有する。これは、堆積速度の調節が可能であり、及び/又は処理中に消費される材料に応じてあるターゲットから別のターゲットに容易に交換可能であるという利点も有する。これは、スパッタリング中に用いられるガスの働きとしてトップコートの化学量論を調節できる利点も有する。
【0094】
別の場合では、上記3つの元素Ti、Si及びZrは1つのターゲットから得ることができる。
【0095】
セラミックターゲットは、少なくとも上記3つの元素Ti、Si及びZrの酸化物を含むことができ、又は金属ターゲットは少なくとも金属形態の上記3つの元素を含むことができる。
【0096】
セラミックターゲットは、チタン及びジルコニウムの酸化物と、金属形態のケイ素とを含むことができる。
【0097】
少なくともケイ素、チタン、及びジルコニウムを含む1つのターゲットからのスパッタリング又は堆積は、再現可能で均一なトップコートが得られるという利点を有する。
【0098】
トップコートは、典型的にはアルゴン又は酸素又はその両方を含むガス流中でスパッタリングされる。トップコートの必要な化学量論を得るために、各ガスの種々の混合物を得ることができる。
【0099】
本トップコートのさらなる利点の1つは、熱処理を実施可能なことであり、そのため、このような熱処理により機能性コーティングが保護される。
【0100】
熱処理が行われない場合でさえもトップコート自体で保護が得られるので、熱処理ステップは、単に任意選択であり、被覆基材の最終用途に必要なときに考慮される。
【0101】
熱処理された被覆基材の製造方法は、順番に:
1.2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を提供するステップ、
2.透明基材の第1の表面の少なくとも一部の上に機能性コーティングを堆積するステップ、
3.機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiOy及びZrOz、及び任意選択的にSiOx(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含むトップコートをマグネトロンスパッタリング技術によって堆積するステップであって、
トップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
トップコートが0.1~10nmの厚さを有するステップ、
4.被覆基材の熱処理を行うステップ、
を少なくとも含む。
【0102】
本発明の別の実施形態と両立する本方法の幾つかの実施形態では、トップコート中のTi、Zr、及びSiの上記範囲は、互いに独立して変動させることができる。或いはTiの量は、10~47原子%、或いは12~46原子%の範囲であってよい。或いはZrの量は、53~90原子%の範囲であってよい。或いはSiの量は、1~8原子%、或いは2~7原子%の範囲であってよい。したがって、これらの量は、各金属の場合で独立して変動することができ、但し、合計は、不純物を含めて100原子%の金属である。
【0103】
本発明の範囲内で、ステップが順番に存在する場合、それらが記載の順序で行われることを意味することが意図される。しかし、その順序内に追加の中間ステップを加えることができる。このような追加の中間ステップは、洗浄、輸送、移動、測定、切断などであってよい。
【0104】
熱処理は、曲げ(湾曲としても知られる)、アニール(強化としても知られる)、又は強化プロセス中に生じるものの中の1つであってよい。
【0105】
適切な熱処理の1つは、熱処理の種類及びガラスシートの厚さにより、被覆ガラスシートを空気中、少なくとも560℃、例えば560℃~700℃の間、特に約640℃~670℃の温度に、約3、4、6、8、10、12、又はさらには15分間加熱することを含む。この処理は、加熱ステップの後に、ガラスの表面と中心との間の応力差を発生させるための急冷ステップを含むことができ、これによって衝撃が加わった場合に、このいわゆる強化ガラスシートは小さな断片に安全に破壊される。冷却ステップがあまり強くない場合、ガラスは単に熱強化され、いずれの場合も、より良好な機械的抵抗性が得られる。
【0106】
さらなる熱処理は、1)曲げ、2)強化、3)着色セラミック印刷若しくは銀バスバー印刷の焼結、4)真空二重グレージングの真空封止、及び5)湿式コーティングされた低反射コーティング若しくはアンチグレアコーティングの焼成などのプロセスステップにおいて示されることがある。
【0107】
両面被覆基材を製造するための第1の方法は、順番に:
1.2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を提供するステップであって、第1の表面を露出させるステップ、
2.透明基材の第1の表面の少なくとも一部の上に第1の機能性コーティングを堆積するステップ、
3.第1の機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiOy及びZrOz、及び任意選択的にSiOx(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含む第1のトップコートをマグネトロンスパッタリング技術によって堆積するステップであって、
第1のトップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
第1のトップコートが0.1~10nmの厚さを有するステップ、
4.第2の表面が露出するように基材を任意選択的に裏返すステップ、
5.透明基材の第2の表面の少なくとも一部の上に第2の機能性コーティングを堆積して、両面被覆透明基材を形成するステップ、
6.場合により第2のトップコートを堆積するステップと、
7.場合により両面被覆透明基材の熱処理を行うステップ、
を少なくとも含む。
【0108】
両面被覆基材を製造するための第2の方法は、順番に:
1.2つの主要な互いに反対側にある第1及び第2の表面を有する透明基材を提供するステップであって、第1の表面を露出させるステップ、
2.透明基材の第1の表面の少なくとも一部の上に第1の機能性コーティングを堆積するステップ、
3.第1の機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiOy及びZrOz、及び任意選択的にSiOx(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含む第1のトップコートをマグネトロンスパッタリング技術によって堆積するステップであって、
第1のトップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
トップコートが0.1~10nmの厚さを有するステップ、
4.第2の表面が露出するように基材を任意選択的に裏返すステップ、
5.透明基材の第2の表面の少なくとも一部の上に第2の機能性コーティングを堆積して、両面被覆透明基材を形成するステップ、
6.場合により、第2の機能性コーティングの上に接触して、少なくともTiOy及びZrOz、及び任意選択的にSiOx(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含む混合金属酸化物を含む第2のトップコートをマグネトロンスパッタリング技術によって堆積するステップであって、
第2のトップコートが、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、
トップコートが0.1~10nmの厚さを有するステップ、
7.場合により両面被覆透明基材の熱処理を行うステップ、
を少なくとも含む。
【0109】
したがって、このような第1及び第2の方法によって、第1の表面の少なくとも一部の上に第1の機能性コーティングが設けられ、第2の表面の少なくとも一部の上に第2の機能性コーティングが設けられた透明基材を提供することができ、第1及び任意選択的に第2の機能性コーティングは、本発明の保護トップコートが設けられる。
【0110】
このような状況で、第1及び第2の機能性コーティングは、同じ場合も異なる場合もあり、特に前述の機能性コーティングから選択される。
【0111】
透明基材の反対側の第2の表面上へのコーティングを可能にするのに十分な機械的耐久性を有する機能性コーティングが得られるという点で、本トップコートはさらに有用であることが分かる。
【0112】
前述の別の方法と両立する幾つかの場合では、熱処理のステップは、任意選択の裏返すステップの前又は後に行うことができ、すなわち、第2の機能性コーティングを設ける前に被覆透明基材に熱処理を行うことができる。
【0113】
したがって、本発明は、機能性コーティングと、少なくともチタン、ジルコニウム、及びケイ素を含むマグネトロンスパッタリングされた混合金属酸化物のトップコートとを含む熱処理された被覆グレージングも提供し、トップコートは、少なくともTiOy及びZrOz、及び任意選択的にSiOx(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含み、
トップコートは、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、不純物を含めて合計で100原子%の金属であり、
トップコートは0.1~10nmの厚さを有する。
【0114】
被覆基材が、製造された場合の光学的及び/又はエネルギー的性質を損なうことなく、強化又は曲げの種類の熱処理に耐えることができる場合、上記機能性コーティング及び/又は被覆基材は「熱処理可能」又は「強化可能」と呼ぶことができる。
【0115】
幾つかの場合では、機能性コーティングは「自己適合性」(self-matchable)であってよい。これは、被覆基材に対して強化又は曲げの種類の熱処理を行う場合に、光学的及び/又はエネルギー的性質の変化がない又はごくわずかであることを意味する。
【0116】
典型的には、被覆基材の色を規定するためにCIELAB 1976の値(L*a*b*)が用いられる。これらは、光源D65/10°を用いて測定される。
【0117】
は、熱処理中の色の変化、すなわち熱処理前と熱処理後との間の色の差を表す。
【0118】
透過及び反射においてΔE*
HT≦5、或いは≦2である場合、及び/又は光の透過(T)及び反射(R)並びにエネルギーの値の変化がない又はわずかである場合、すなわち、1つのグレージング中の熱処理の前後のTHT、RHT、及び色の値の間の差が≦5、或いは≦2のままである場合に、「自己適合性」(self-matchability)を考慮することができ、ここで、「HT」は、トップコートが設けられた機能性コーティングの選択された光学パラメーター(T、R、又はデルタE*)に対して熱処理が与えうる影響に関連している。
【0119】
機能性コーティングが自己適合性である場合、本トップコートは、その下に配置されるそのような機能性コーティングの自己適合性を変化させない。
【0120】
これは、同じ用途の場合、例えば建物の外観において、非熱処理製品と熱処理製品とを隣同士に配置できるという利点を有する。これは、定義されるような自己適合性が、非熱処理製品と熱処理製品との間で保証される間、熱処理される製品上にのみ、又は熱処理されない製品上にのみトップコートを設けることができるという利点も有する。
【0121】
本トップコートは、基材から最も離れた周囲環境に接触することが考慮される。本発明の別の場合と両立する特定の場合にのみ、被覆基材には、トップコートの上に接触して少なくとも1つの一時保護層をさらに設けることができる。以下に説明されるように、このような「一時」保護層は、典型的には基材の洗浄又は熱処理によって除去される。
【0122】
本発明のある実施形態では、一時保護層としては、炭素一時保護層、ポリマー一時保護層、剥離可能な保護層が挙げられる。
【0123】
炭素保護層としては、通常0.5~15nm、或いは1~10nm、或いは1~7nm、及びそれらの間のあらゆる値の厚さを有するマグネトロンスパッタリングによって設けられる層が挙げられる。このような炭素保護コーティングは、典型的には透明基材の熱処理によって除去され、比色方法によって測定して、例えば99~100%の比率で除去される。
【0124】
ポリマー一時保護層としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、アクリルなどを含むポリマーコーティング組成物の蒸発又は反応の生成物によって設けられる層が挙げられ、これは水性洗浄、溶剤洗浄、蒸気除去、熱分解、又は燃焼によって後に除去することができる。このようなポリマーコーティング組成物は、液体溶液、エマルジョン、懸濁液、スラリー、又は分散液であってよい。
【0125】
剥離可能な保護層としては、ポリアミド液体組成物から形成されるコーティングなどが挙げられる。
【0126】
一時保護コーティングは、例えば洗浄、燃焼、熱分解、又は剥離によって除去することができる。一時保護コーティングの除去の前又は後に、基材を加工することができ、例えば、切断、トリミング、曲げ、成形、及び/又は製造物品中への組み込みを行うことができる。
【0127】
したがって、上記方法はいずれも、被覆基材上に炭素層を堆積するステップをさらに含むことができる。
【0128】
炭素保護トップコートは、スパッタリング方法によって堆積することもできるという利点を有し、したがって、大きな技術的制約が生じることなく同じ処理中に含めることができる。
【0129】
本発明は、前述の種々の実施形態に記載される少なくとも1つの被覆基材を含む複層グレージングユニットを提供する。
【0130】
複層グレージングユニットとしては、二重若しくは三重のグレージング又は積層グレージングが挙げられ、ここで被覆基材は、被覆されている場合もされていない場合もある1つ以上の別のガラスシートと関連している。二重グレージングの表面は、典型的には以下のように示される:P1は、外部に向かう方向にある、外側ガラスシートの表面であり;P2は、2つのガラスシートの間の内部空間に向かう方向にある、外側ガラスシートの表面であり;P3は、2つのガラスシートの間の内部空間に向かう方向にある、内側ガラスシートの表面であり;P4は、内部に向かう方向にある、内側ガラスシートの表面である。このような命名法は、積層グレージングにも適用可能である。
【0131】
グレージングの被覆面は、複層グレージングの場合では2つのガラスシートの間の空間と接触して配置することができ、積層グレージングの場合では接触層と接触して配置することができる(P2又はP3)。
【0132】
その機械的抵抗性及び耐薬品性のため、複層グレージングユニット中に組み込まれる前に被覆基材の被覆面は、必ずしもエッジ除去を行う必要はなく、複層グレージングユニットの外面上に配置して、すなわち建物又は乗り物の外部環境又は内部環境と面して接触して(P1又はP4)、それに十分な機械的抵抗性及び耐薬品性さえ得ることができる。したがって、薄層のスタックは、建物又は乗り物の内部に面するガラス基材の表面上に設けることができる(1つの非積層ガラスシートのP2、又は積層ガラス若しくは二重グレージングユニットのP4)。幾つかの場合では、外部(P1)に接触してコーティングスタックを配置することができる。
【0133】
本発明の被覆基材は、非常に顕著な湾曲を有する及び/又は複雑な形状(二重湾曲、S字型湾曲など)を有するガラスの必要性が増加している、建築用グレージング(ドア、窓、陳列棚、絶縁ガラス(IG)窓ユニットなど)、電化製品用途(冷蔵庫のドア、オーブンのドアなど)、及び輸送用途(乗り物の窓、天窓、風防ガラス、側窓)において有用となる場合がある。
【0134】
幾つかの場合では、被覆基材は強化することができる。その安全性及び強度の結果として、強化されたガラスは、窓、シャワー室のドア、建築用ガラス製ドア及びテーブル、冷蔵庫のトレイ、防弾ガラスの構成要素として、並びにさまざまな種類の皿及び調理道具などの要求の厳しい種々の用途に用いられる。
【0135】
したがって、本被覆基材は、幾つかの場合では任意選択の熱処理の前後の両方で、耐久性が高く、すなわち後述のある種の化学的及び/又は機械的試験に耐えることができる。本明細書に請求される被覆基材上に取り付けられた機能性コーティングによって実現される耐久性を失うことなく、光学パラメーターを最適化することができる。
【0136】
「化学的耐久性」又は「化学的耐久性の」は、本明細書において専門用語の「化学安定性」又は「耐薬品性」と同義で用いられる。
【0137】
「機械的耐久性」又は「機械的耐久性の」は、本明細書において専門用語の「機械的安定性」又は「機械的抵抗性」と同義で用いられる。
【0138】
本発明は、機能性コーティングが設けられた透明基材のトップコートの使用を提供し、ここで、トップコートは、少なくともTiOy及びZrOz、及び任意選択的にSiOx(ここでx、y、zは1.8~2.2の範囲である)を含むマグネトロンスパッタリングされた混合金属酸化物であり、
トップコートは、
8~49原子%のチタン、
51~92原子%のジルコニウム、
0~9原子%のケイ素、
を含み、合計で100原子%の金属であり、トップコートは0.1~10nmの厚さを有し;少なくとも20%だけ、或いは少なくとも30%だけ、或いは少なくとも40%だけ耐摩耗性を増加させることによって耐久性を増加させる。
【0139】
耐久性は、以下の実施例の項に記載される摩耗試験を用いて評価される。
【0140】
本発明の別の実施形態と両立する本使用の幾つかの実施形態では、トップコート中のTi、Zr、及びSiの上記範囲は、互いに独立して変動することができる。或いはTiの量は、10~47原子%、或いは12~46原子%の範囲であってよい。或いはZrの量は53~90原子%の範囲であってよい。或いはSiの量は、1~8原子%、或いは2~7原子%の範囲であってよい。前述の議論のように、これらの量は、金属の場合で独立して変動することができ、但し、合計は、不純物を含めて100原子%の金属である。
【実施例】
【0141】
本発明によるトップコートを用いて、機能層の異なるスタックを作製した。以下の実施例の項では、トップコートの組成は、Ti、Zr、及び任意選択のSiの元素の原子パーセントの単位で示され、それらの合計は、規定された有効含有量として100原子%の量となる。したがって、上記有効含有量は、チタン、ジルコニウム、及び任意選択のケイ素の寄与のみの合計とみなされる。したがって、トップコート中に存在する不純物は、列挙されないし、それらの原子%が示されることもない。
【0142】
機械的安定性は、当業者には周知の以下の摩耗試験方法により評価した。
【0143】
薄層スタックの1つのスタックが設けられたグレージングの本実施例に用いられる透明基材は、標準的なフロートソーダ石灰であり、透明で、厚さ4mmであり、コーティング堆積の前に十分に清浄にした。
【0144】
Cleveland試験(3、7、及び10日)、気候室試験(3、7、及び10日)、塩水噴霧試験(2、5、及び10日)などの化学的耐久性の別の試験を行った。以下の比較例1及び2のものなどの最上層を用いて得られた標準結果と同等であったので、これらの結果の概要は詳細には説明しない。
【0145】
Automatic Wet Rub Test(AWRT-10、50、100、250、500及び1000サイクル)又は乾式ブラシ試験(250、500、1000サイクル)などの機械的耐久性の典型的な試験を行った。すべて首尾良く合格したので、結果の概要は詳細には説明せず、より過酷な摩耗条件にさらされる本明細書の摩耗試験が行われる。
【0146】
機能性コーティングの放射率及び審美性を測定すると、本トップコートによる影響がないことが示された。
【0147】
光学的性質は、許容できる変化の範囲内のままであり、トップコートのない機能性コーティングと比較した場合、D65/2°光源を用いて測定してデルタTTC<2%、デルタRTC<2%であり、D65/10°光源を用いて測定してデルタE*
TC<5である。
【0148】
乾式ブラシ試験
乾式ブラシ試験(DBT)は、規格のASTM D2486-00(試験方法「A」)に準拠して、少なくとも250サイクル、或いは少なくとも500サイクル、本明細書では1000サイクル行われる。この試験は、熱処理を行った後(本明細書では「焼き付け後」と呼ばれる)の試料に対しても行うことができる。
【0149】
上記の各試験の結果は、基準試料の規定された等級との比較において試料を目視評価することで得られる。DBT試験の内部等級は、0~10の範囲が設定され、許容される値は6~10である。典型的には、1つの値は、1つの実験の場合で少なくとも3つの試料の平均である。以下の表中の比較例は、実験の各「回」の手順の内部検証として、本発明による実施例に沿って作製した(以下の表中に設定される)。
【0150】
摩耗試験
摩耗試験は、規格のISO11998:1998に記載されるように行われる乾式摩耗試験であり、900gの研磨パッドを用いて少なくとも1000サイクル行われる。本発明の場合、これらのサイクルは、液体を全く加えずに乾燥飼料に対して行われる。
【0151】
この試験は、熱処理(本明細書では「焼き付け」と呼ばれる)が行われた後の試料に対しても行った。実施した典型的な試験では、少なくとも250サイクルが考慮される。
【0152】
試験結果は、基準試料の画定された等級との比較において試料を目視評価することで得られる。内部等級は、摩耗試験の場合、0~10の範囲が設定され、許容される値は7~10である。1つの値は、典型的には1回の実験の少なくとも3つの試料の平均である。以下の表中の比較例は、各「回」の実験の手順の内部検証として、本発明による実施例に準拠して作製した(以下の表中に設定される)。
【0153】
本摩耗試験は、当技術分野において周知の典型的なAWRT又は乾式ブラシ試験よりも過酷で摩耗性の高い条件が得られる。
【0154】
DBT及び摩耗試験のための熱処理条件(又は焼き付け条件)は、670℃の温度の対流炉の内部に試料を4~5分間入れることを含む。
【0155】
以下の表中:
Agは、銀を表し
AZO2%は、2重量%酸化アルミニウムでドープされた酸化亜鉛を含むセラミックターゲットから得られる、アルミニウムでドープされた酸化亜鉛の層を表し、
SiNは、窒化ケイ素Si3N4の層を表し、
TiOは、TiOn(nは1.65~1.85である)のセラミックターゲットから得られる準化学量論の酸化チタンの層であり、
TZOは、65重量%のTiO2及び35重量%のZrO2の比率を有する(74原子%のTi及び26原子%のZrが得られる)TiOx/ZrO2で構成されるTiZrOxのセラミックターゲットから得られるチタンジルコニウム混合酸化物の層であり、
ZnOは、亜鉛金属ターゲットから得られるドーパントを有しない酸化亜鉛の層を表し、
ZSO5は、52重量%のZn及び48重量%のSnを含む金属ターゲットから得られる混合された亜鉛-スズの層を表し、
バリア層(銀層の上に接触する)としてのZTAOは、ZnOが85~95重量%、TiOxが5~15重量%、及びAl2O3が1.5~3重量%の比率のZnO:TiOx:Al2O3で構成されるセラミックターゲットから得られ、接触層中でZn:Ti:Alが86.3:10.4:3.3原子%の組成が得られる、亜鉛チタンアルミニウム酸化物の層であり、
シード層(銀層の下に接触する)としてはZTAOは、Znが88.8重量%、Tiが9.5重量%、及びAlが1.7重量%の比率の金属ターゲットから得られる、亜鉛チタンアルミニウム酸化物の層である。
【0156】
特に記載がなければ、シード層の標準的な堆積方法は、酸素及びアルゴンの80/20混合物のガス流に基づく。十分な化学量論のSi3N4を得るのに十分なN2を有するアルゴン及びN2の混合ガス流中で窒化ケイ素をスパッタリングした。
【0157】
特に記載がなければ、すべての厚さで、厚さのばらつきが<5%となることができる。
【0158】
実施例1~7は、前述のIR層を含む多層機能性コーティングの第6の例に対応する。
【0159】
実施例1-比較例C1
以下のスタックを提供した:
ガラス/ZSO5(17.1nm)/TZO(16.0nm)/ZnO(5.0nm)/Ag(10.5nm)/AZO(7.0nm)/ZSO5(16.1nm)/SiN(17.0nm)/トップコート(4.0nm)
【0160】
実施例1では、20重量%のTiOy及び80重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いて、本発明の一実施形態によりトップコートを作製して、表1中に示されるように、請求される範囲内の27.8原子%のTi及び72.2原子%のZrを含むトップコートを得た(ここで、y、zは1.8~2.2の範囲である)。
【0161】
比較例1では、トップコートは、65重量%のTiOy及び35重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いてスパッタリングされる、当技術分野において得られるような典型的なTiZrOトップコート(0原子%のSi)であった。
【0162】
表1中に示される結果は、実施例1のグレージングによって最良の機械的抵抗性が得られることを明確に示している。このトップコートによって、耐摩耗性が65.0%だけ(8.3対5.0)増加することで耐久性が改善され、コーティングの光学的性能に悪影響は生じない。
【0163】
実施例2及び3並びに比較例C2
以下のスタックを提供した:
ガラス/ZSO5(24.5nm)/ZTAO(9.0nm)/Ag(18.0nm)/ZTAO(5.0nm)/ZSO5(16.5nm)/SiN(20.0nm)/トップコート(5.0nm)。
【0164】
実施例2では、20重量%のTiOy及び80重量%のZrOzのセラミックターゲットと、及び65(Si)-35(ZrO2)重量%の比率のSi-ZrO2のセラミックターゲットとの同時スパッタリングを用いて、本発明の一実施形態によりトップコートを作製して、表2中に示されるように、請求される範囲内の原子パーセントの量のSi、Ti、及びZrを含むトップコートを得た(ここで、x、y、zは1.8~2.2の範囲である)。
【0165】
実施例3では、20重量%のTiOy及び80重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いて、本発明の一実施形態によりトップコートを作製して、表2中に示されるように、請求される範囲内の27.8原子%のTi及び72.2原子%のZrを含むトップコートを得た(ここで、y、zは1.8~2.2の範囲である)。
【0166】
比較例2は、65重量%のTiOy及び35重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いてスパッタリングされる、当技術分野において得られるような典型的なTiZrOトップコート(0原子%のSi)であった。
【0167】
混合金属酸化物トップコート中のSi、Ti、及びZrのそれぞれの本発明の量によって、焼き付け前後の両方で、従来実現できなかったレベルで、耐摩耗性に関するトップコートの性能を大きく改善することができる。
【0168】
耐摩耗性は、すべての化学的耐久性試験の同等の性能と組み合わされ、コーティングの光学的性能に悪影響は生じない。表2中(焼き付けなしの耐摩耗性)に示されるように比較例1に対する実施例2及び3の耐摩耗性の増加により、トップコートによって耐久性が改善される。
【0169】
実施例4並びに比較例C3及びC4
以下のスタックを提供した:
ガラス/ZSO5(24.5nm)/ZTAO(9.0nm)/Ag(18.0nm)/ZTAO(5.0nm)/ZSO5(16.5nm)/SiN(20.0nm)/トップコート(5.0nm)。
【0170】
実施例4では、TiOyのセラミックターゲットと、ZrOzのセラミックターゲットとの同時スパッタリングを用いて、本発明の一実施形態によりトップコートを作製して、表3中に示されるように、請求される範囲内の13.2原子%のTi及び86.8原子%のZrを含むトップコートを得た(ここで、y、zは1.8~2.2の範囲である)。TiOyのセラミックターゲットは、酸化アルミニウムを含み、ここでは不純物と見なされ、トップコートの有効含有量の組成には考慮しなかった。TiOy及びZrOzのセラミックターゲットは、0.5重量%未満の不純物を含み、トップコートの有効含有量の組成には考慮しなかった。
【0171】
比較例3は、65重量%のTiOy及び35重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いてスパッタリングされる、当技術分野において得られるような典型的なTiZrOトップコート(0原子%のSi)であった。
【0172】
比較例4は、ZrOz(ここで、zは1.8~2.2の範囲である)のセラミックターゲットを用いてスパッタリングされる、当技術分野において得られるようなZrO2トップコートであった。
【0173】
耐摩耗性は、すべての化学的耐久性試験の同等の性能と組み合わされ、コーティングの光学的性能に悪影響は生じない。表3中に示されるように、このトップコートによって、実施例4が比較例3に対して耐摩耗性が増加することで耐久性が改善される(焼き付けなしの耐摩耗性)。
【0174】
ZrO
zのみを有する比較例4は、熱処理に耐えられず、焼き付け後のDBT及び焼き付け後の耐摩耗性の両方が大幅に低下した。すなわち、ZrO
zをベースとする層にわずかな比率のTiO
yを加えることによって、焼き付け後に高いDBT抵抗性及び高い耐摩耗性の維持が促進される。
【0175】
実施例5及び6-比較例C5
以下のスタックを提供した:
ガラス/ZSO5(24.5nm)/ZnO(5.0nm)/Ag(17.4nm)/AZO(7.0nm)/ZSO5(21.0nm)/SiN(22.0nm)/トップコート(4.0nm)。
【0176】
実施例5では、TiOyのセラミックターゲットと、ZrOzのセラミックターゲットとの同時スパッタリングを用いて、本発明の一実施形態によりトップコートを作製して、表4中に示されるように、請求される範囲内の14.6原子%のTi及び85.4原子%のZrを含むトップコートを得た(ここで、y、zは1.8~2.2の範囲である)。
【0177】
実施例6では、35重量%のTiOy及び65重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いて、本発明の一実施形態によりトップコートを作製して、表4中に示されるように、請求される範囲内の45.4原子%のTi及び54.6原子%のZrを含むトップコートを得た(ここで、y、zは1.8~2.2の範囲である)。
【0178】
比較例5では、トップコートは、65重量%のTiOy及び35重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いてスパッタリングされる、当技術分野において得られるような典型的なTiZrOトップコート(0原子%のSi)であった。
【0179】
表4中に示される結果は、実施例5及び6のグレージングによって、より良好な機械的抵抗性が得られることを明確に示している。このトップコートによって、耐摩耗性が増加することで耐久性が改善され、コーティングの光学的性能に悪影響は生じない。
【0180】
実施例7-比較例C6
以下のスタックを提供した:
ガラス/TiO(23.5nm)/ZnO(5.0nm)/Ag(11.8nm)/AZO(5.5nm)/ZSO5(16.0nm)/SiN(18.0nm)/トップコート(4.0nm)
【0181】
実施例7では、20重量%のTiOy及び80重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いて、本発明の一実施形態によりトップコートを作製して、表5中に示されるように、請求される範囲内の27.8原子%のTi及び72.2原子%のZrを含むトップコートを得た(ここで、y、zは1.8~2.2の範囲である)。
【0182】
比較例6では、トップコートは、65重量%のTiOy及び35重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いてスパッタリングされる、当技術分野において得られるような典型的なTiZrOトップコート(0原子%のSi)であった。
【0183】
結果は、実施例7のグレージングによって、最良の機械的抵抗性が得られることを明確に示している。このトップコートによって、耐摩耗性が34.3%(7.8対5.8)だけ増加することで耐久性が改善され、コーティングの光学的性能に悪影響は生じない。
【0184】
実施例8-比較例C7
以下のスタックを提供した:
ガラス/ZSO5(24.5nm)/ZnO(5.0nm)/Ag(17.4nm)/AZO(7.0nm)/ZSO5(21.0nm)/SiN(22.0nm)/トップコート(4.0nm)。
【0185】
実施例8では、20重量%のTiOy及び80重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いて、本発明の一実施形態によりトップコートを作製して、表6中に示されるように、請求される範囲内の27.8原子%のTi及び72.2原子%のZrを含むトップコートを得た(ここで、y、zは1.8~2.2の範囲である)。
【0186】
比較例7では、トップコートは、65重量%のTiOy及び35重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いてスパッタリングされる、当技術分野において得られるような典型的なTiZrOトップコート(0原子%のSi)であった。
【0187】
表6中に示される結果は、実施例8のグレージングによって、最良の機械的抵抗性が得られることを明確に示している。このトップコートによって、耐摩耗性が34.3%(8.0対5.9)だけ増加することで耐久性が改善され、コーティングの光学的性能に悪影響は生じない。
【0188】
実施例9及び比較例C8
以下のスタックを提供した:
ガラス/ZSO5(24.5nm)/ZTAO(9.0nm)/Ag(18.0nm)/ZTAO(5.0nm)/ZSO5(16.5nm)/SiN(20.0nm)/トップコート(5.0nm)。
【0189】
実施例9では、35重量%のTiOy及び65重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いて、本発明の一実施形態によりトップコートを作製して、表7中に示されるように、請求される範囲内の45.4原子%のTi及び54.6原子%のZrを含むトップコートを得た(ここで、y、zは1.8~2.2の範囲である)。
【0190】
比較例8は、65重量%のTiOy及び35重量%のZrOzのセラミックターゲットを用いてスパッタリングされる、当技術分野において得られるような典型的なTiZrOトップコート(0原子%のSi)であった。
【0191】
混合金属酸化物トップコート中のTi及びZrのそれぞれの本発明の量によって、焼き付け前及び後の両方で、耐摩耗性に関して、従来到達されなかったレベルまでトップコートの性能を大幅に改善することができる。
【0192】
耐摩耗性は、すべての化学的耐久性試験の同等の性能と組み合わされ、コーティングの光学的性能に悪影響は生じない。表7中に示されるように、このトップコートによって、実施例9が比較例8に対して耐摩耗性が増加することで耐久性が改善される(焼き付けなしの耐摩耗性)。
【国際調査報告】