(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】超高純度ビス(クロロスルホニル)イミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/086 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C01B21/086
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518304
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2022076166
(87)【国際公開番号】W WO2023046720
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523287012
【氏名又は名称】スペシャルティ オペレーションズ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, エティエンヌ
(57)【要約】
本発明は、HCSIの総モル数に対して少なくとも99.0モル%の純度を有する超高純度(UP)グレードのビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)の製造方法に関する。更に、本発明は、この方法から得られるUPグレードのHCSI、及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を調製するためのUPグレードのHCSIの使用に関する。本発明は、本発明の方法によるUPグレードのHCSIを調製することを含む、LiFSIの製造方法にも関する。本発明は、組成物中のLiFSIの総モル数に対して少なくとも99.99モル%の純度を有するLiFSIを含有する組成物、及び本発明の方法から得られるLiFSIを含有する組成物の、リチウムイオン二次電池における使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高純度(UP)グレードのビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)の製造方法であって、
(i)HCSIと、重質画分と、軽質画分とを含む粗製HCSI混合物(I)を提供する工程;
(ii)前記粗製HSCI混合物(I)から前記軽質画分を除去してHCSI混合物(II)を得る工程;
(iii)前記HCSI混合物(II)を薄膜蒸発装置に移す工程;及び
(iv)前記HCSI混合物(II)を蒸留して前記UPグレードのHCSIを単離する工程;
を含み、
前記UPグレードのHCSIが、ASTM E928-19に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により決定した時にHCSIの総モル数に対して少なくとも99.0モル%の純度を示す、方法。
【請求項2】
前記粗製HCSI混合物(I)が、
クロロスルホン酸とクロロスルホニルイソシアネートを反応させることにより、又は
スルファミン酸、クロロスルホン酸、及び塩化チオニルを反応させることにより、
得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記UPグレードのHCSIの純度が、HCSIの総モル数に対して少なくとも99.3モル%、好ましくは少なくとも99.5モル%、更に好ましくは少なくとも99.9モル%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記薄膜蒸発装置が、ショートパス薄膜蒸発装置、ワイプ膜ショートパス(WFSP)蒸発装置(外部コンデンサーあり又はなし)、又は流下膜蒸発装置であり、好ましくはショートパス薄膜蒸発装置である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸留工程(iv)が、60℃~120℃、好ましくは70℃~100℃、より好ましくは80℃~90、更に好ましくは80℃~85℃の温度で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸留工程(iv)が、10mbar abs.以下、好ましくは5mbar abs.以下、より好ましくは3mbar abs.以下、更に好ましくは0.5mbar abs.以下の圧力で実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記蒸留工程(v)が、5分以下、好ましくは3分以下、より好ましくは1分以下、更に好ましくは30秒以下実施される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記軽質画分がクロロスルホン酸、クロロスルホニルイソシアネート、及び塩化チオニルを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記重質画分が、二量体、三量体、及び他のオリゴマーを含む反応混合物からの副生成物を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ASTM E928-19に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により決定した時にHCSIの総モル数に対して少なくとも99.0モル%の純度を示す、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により得られるUPグレードのHCSI。
【請求項11】
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を調製するための、請求項10に記載のUPグレードのHCSIの使用。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載のUPグレードのHCSIの調製を含む、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の製造方法。
【請求項13】
(i)請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によりUPグレードのHCSIを提供する工程;
(ii)前記UPグレードのHCSIをフッ素化剤でフッ素化して、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NH
4FSI)を形成する工程;
(iii)任意選択的に、前記工程(ii)から得られた前記NH
4FSIを精製する工程;及び
(iv)場合によっては少なくとも1種の溶媒S
2との溶媒和物の形態で、前記NH
4FSIをリチウム化剤でリチウム化し、LiFSIを形成する工程;
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(iv)において、前記NH
4FSIが、
50~98重量%のNH
4FSI塩と、
2~50重量%の、環状及び非環状エーテルからなる群から選択される溶媒S
2と、
を含む溶媒和物の形態であり、場合によっては結晶化形態である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程(iii)が、
(iii
1)工程(ii)からの前記NH
4FSIを少なくとも1種の溶媒S
1に溶解すること;
(iii
2)少なくとも1種の溶媒S
2により、工程(iii
1)からのNH
4FSIを結晶化すること;及び
(iii
3)前記溶媒S
1及びS
2の少なくとも一部から前記NH
4FSI塩を、好ましくは濾過によって分離して、NH
4FSI溶媒和物を調製すること;
を含む、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、2021年9月23日に欧州で出願された第21315166.5号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、HCSIの総モル数に対して少なくとも99.0モル%の純度を有する超高純度(UP)グレードのビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)の製造方法に関する。更に、本発明は、この方法から得られるUPグレードのHCSI、及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を調製するためのUPグレードのHCSIの使用に関する。本発明は、本発明による方法によるUPグレードのHCSIの調製を含む、LiFSIの製造方法にも関する。本発明は、組成物中のLiFSIの総モル数に対して少なくとも99.99モル%の純度を有するLiFSIを含有する組成物、及び本発明の方法から得られるLiFSIのリチウムイオン二次電池における使用に関する。
【背景技術】
【0003】
数十年以上にわたり、リチウムイオン電池を含むリチウム二次電池は、軽量性、適度なエネルギー密度、及び良好なサイクル寿命を含むその多くのメリットのため、再充電可能なエネルギー貯蔵デバイスの市場で支配的な地位を保持してきた。
【0004】
それにもかかわらず、現行のリチウム二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、グリッドエネルギー貯蔵等などの高出力用途向けに増え続ける必要なエネルギー密度に対して比較的低いエネルギー密度であるという問題を依然として抱えている。
【0005】
したがって、高純度の電解質はリチウムイオン電池の公称電圧を高められることから、高出力電池を得るために高純度の電解質がますます必要とされている。特に、塩及び/又は電解質中の不純物は、リチウムイオン電池の全体的な性能及び安定性に悪影響を及ぼす可能性があるため、塩及び/又は電解質の中の不純物を同定及び定量し、電池性能に対する作用メカニズムを解明することは、電池分野で継続的に高い関心を集めている。特に、不純物の量が最小限であり、残留水分量が非常に少ない塩及び/又は電解質を開発するために、様々なアプローチが研究されてきた。
【0006】
リチウムイオン電池の分野では、LiPF6は、熱安定性が比較的低く、水に対する感受性が高いなどの他の欠点があるにもかかわらず、非水系極性溶媒、特に有機カーボネートに対する溶解性が高いため、広く使用されてきた。その結果、ビス(フルオロスルホニル)イミド塩、特にLiFSIは、その優れたイオン伝導性と良好な耐加水分解性のため、LiPF6に代わる有望な候補として電池関係者から高い注目を集めている。これに関連して、LiFSIに至る様々なプロセス、反応物、及び中間体が文献に記載されている。
【0007】
LiFSIはリチウムイオン二次電池において使用されることが意図されており、LiFSI中に存在する不純物が得られるリチウムイオン電池の性能及び安定性の低下を引き起こす可能性があることを考慮すると、LiFSI中に存在する不純物をできるだけ少ない量に抑えることが重要である。
【0008】
LiFSIを製造するための既存のプロセスのほとんどは多数の工程を含んでおり、その結果、多くの副生成物又はその他の汚染物質、例えば残留有機溶媒や水分などが必然的に生成する。これらの副生成物及び/又は汚染物質の除去にはコスト及び時間がかかり、最終的なLiFSIの収率及び純度の低下につながる。場合によっては、精製方法は工業レベルまで拡張することはほとんどできず、対応するプロセスの環境フットプリントを不十分にする。
【0009】
欧州特許第3381923B1号明細書(CLS Inc.及びSolvay Fluoro GmbH)は、特にHCSIを使用することによるLiFSIの製造方法に関し、このHCSIは、フッ素化試薬としての0.01~3,000ppmの含水量の無水フッ化アンモニウムと反応し、その後それ以上精製されずにアルカリ試薬で直接処理される。
【0010】
一般的なLiFSI精製工程は、水相と有機相とを分離するための少なくとも1つの液/液抽出技術を含むことがほとんどであり、使用される溶媒の選択が重要である。しかしながら、抽出は常に複数の欠点を伴う。例えば、最適な生産量を得るために複数の抽出工程が必要になることが多く、これは本質的に大量の有機溶媒を要し、最終的にはその処理/リサイクルコストが増大することになる。
【0011】
米国特許出願公開第2019/0292053A1号明細書(Arkema)には、乾燥及び精製工程によって乾燥及び精製された、水及び硫酸塩の含有量が低減されたLiFSIを製造するための方法が記載されており、この乾燥工程は、特に、目的生成物、すなわちLiFSIを分解せず使用溶媒を除去するために、特定の条件下でショートパス薄膜蒸発装置を使用することによって行われる。それにもかかわらず、そのようにして調製されるLiFSI塩は、Cl-、SO4
2-、F-、FSO3Li-、CO3
2-、ClO3
-、ClO4
-、NO2
-、NO3
-などを含む一定量の不純物を依然として含んでいる。
【0012】
LiFSIを高温で且つ/又は長時間加熱すると、生成物の収率及び純度が低下することからLiFSIの濃縮はかなり困難であり、特に有機溶媒(及び/又は他の汚染物質)の存在下では後の追加の複数の精製工程により製造コストが高くなる。更に、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩が形成されるため、及びそれに加えてLiFSIと溶媒分子との溶媒和が起こりやすくなるため、反応溶媒の沸点が上昇する。
【0013】
米国特許第9985317B2号明細書(株式会社日本触媒)は、特定の不純物の含有量及び含水量が低減された、優れた耐熱性を有するフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属、及びフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の製造方法に関し、この方法では、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を含む反応溶液にガスをバブリングすることによって、及び/又はフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の溶液を薄層蒸留により濃縮することによって、反応溶液から溶媒を容易に除去することができる。
【0014】
全体として、時間とコストがかかる複数の精製工程を含むLiFSI製造プロセスの複雑さは、通常、製造プロセスの過程で生じる副反応の発生と、これらの形成された副生成物を精製工程及び/又は乾燥工程により除去する必要性によって引き起こされる。優れた耐熱性と電気化学的性能を有するLiFSIを得るためには、この複雑さに依然として対処する必要がある。簡潔にいうと、不純物の量が最小限であり、且つ残留含水量が非常に低い、十分に経済的な方法で工業化のためにより容易に拡張することができる、LiFSIを調製するための新規な方法が依然として求められている。
【0015】
LiFSIに至るまでの既知の中間体の1つはHCSIであり、これは、通常、合成後に古典的なバッチ式又は半バッチ式の蒸留技術によって単離される。
【0016】
国際公開第2015/004220号パンフレット(Lonza Ltd.)は、ビス(ハライドスルホニル)イミド化合物、特にビス(クロロスルホニル)イミドを、従来の方法のバッチ式反応と比較して高温で3つの連続した工程により連続形式で調製する方法に関する。
【0017】
多くの先行技術文献がHCSI中間体を純粋な物質として記載しているものの、正確な純度/収率の具体的な証拠がほとんどないか、或いは比較のためのHCSI物質の絶対参照がない単一の分析結果が提示されている。そのため、HCSIを原料として使用する様々なLiFSI製造プロセスで使用されるHCSIの品質を区別することは困難である。したがって、HCSIの純度についての強力な証拠となる定量分析法がなければ、報告されているHCSIの収率を正確であるとみなすことはできない。
【0018】
多くのLiFSI製造プロセスの主要な原料としてのHCSIの品質は、HCSIに基づくLiFSI製造プロセスの過程で望ましくない副生成物の生成に明らかに強い影響を及ぼしており、そのため、主要中間体として極めて高い純度を有するHCSIを入手することは非常に有利である。
【0019】
これらの状況下、本発明者は、より温和な条件で、より高純度のHCSIを、同等の収率で得るための最適なプロセスを鋭意検討した結果、得られるLiFSI製造プロセスの環境への影響を低減しながらも精製に要する労力を低減して、より高純度のLiFSIを最終的に得られることを見出した。また、適切な連続蒸留条件を適用することにより、熱応力を低減しながらより高純度のHCSIが得られることも確認された。
【発明の概要】
【0020】
本発明の第1の目的は、超高純度(UP)グレードのビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)の製造方法であって、
(i)HCSIと、重質画分と、軽質画分とを含む粗製HCSI混合物(I)を提供する工程;
(ii)粗製HSCI混合物(I)から軽質画分を除去してHCSI混合物(II)を得る工程;
(iii)HCSI混合物(II)を薄膜蒸発装置に移す工程;及び
(iv)HCSI混合物(II)を蒸留してUPグレードのHCSIを単離する工程;
を含み、
UPグレードのHCSIが、ASTM E928-19に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により決定した時にHCSIの総モル数に対して少なくとも99.0モル%の純度を示す、方法である。
【0021】
本発明の第2の目的は、上述した方法により得られるUPグレードのHCSIである。
【0022】
本発明の第3の目的は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を調製するための、上述した方法から得られるUPグレードのHCSIの使用である。
【0023】
本発明の第4の目的は、上述した方法によりUPグレードのHCSIを調製することを含む、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の製造方法である。
【0024】
本発明の第5の目的は、組成物中のLiFSIの総モル数に対して少なくとも99.99モル%の純度を有し、残部が水、残留原料、並びにF-、Cl-、SO4
2-、及びFSO3
-を含む不純物であるLiFSIを含む、組成物である。
【0025】
本発明の第6の目的は、上述した方法により得られるLiFSIの、リチウムイオン二次電池における使用である。
【0026】
驚くべきことに、本発明の方法に従って製造されたUPグレードのHCSIが、LiFSIを製造するための後続の工程、例えば粗製NH4FSIを製造するためのフッ素化工程の性能を向上させ、その結果、リチウム化工程により最終生成物として製造されるLiFSIの収率及び純度が高くなることが、本発明者により見出された。更に、本発明者は、UPグレードのHCSIを使用してLiFSIを合成すると、精製の必要性が減り、収率を損なうことなしに最終的なLiFSIの不純物プロファイルにプラスの影響を与えることも見出した。加えて、重質画分は、HCSIを回収するための後続の蒸留に再び使用することができる。すなわち、本発明による方法では収率の低下は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】WFSP蒸留後のUPグレードのHCSIのDSC曲線を示し、ここでは4回目の融解ピークが積分されており、上に3回目の結晶化ピークが見える。
【
図2】UPグレードのHCSI(24回の累積サイクルの実線で示す)とバッチ式蒸留を行ったHCSI(累積4サイクルの点線で示す)との間のDSC結果の比較を示す。
【
図3】バッチ式蒸留とそれに続くWFSP蒸留を行った後のHCSIのDSC曲線を示し、ここでは4回目の融解ピークが積分されており、上に3回目の結晶化ピークが見える。このアプローチではUPグレードのHCSIは得られなかった。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
本明細書の全体にわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、用語「含む(comprise)」若しくは「包含する(include)」又は「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「包含する(includes)」、「包含している(including)」などの変形は、述べられた要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の包含を意味するが、任意の他の要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の排除を意味しないと理解されるであろう。好ましい実施形態によれば、用語「含む」及び「包含する」並びにそれらの変形は、「のみからなる」を意味する。
【0029】
本明細書において用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数態様を包含する。用語「及び/又は」は、意味「及び」、「又は」及びまたこの用語と関係した要素の他の可能な組み合わせを全て包含する。
【0030】
用語「~」は、限界点を含むと理解されるべきである。
【0031】
本出願において、任意の説明は、特定の実施形態に関連して記載されているが、本開示の他の実施形態に適用可能であり、それらと交換可能である。更に、要素又は成分が、列挙された要素若しくは成分のリストに含まれ、且つ/又はリストから選択されると言われる場合、本明細書で明示的に企図される関連する実施形態では、要素又は成分は、個別の列挙された要素若しくは成分のいずれか1つでもあり得るか、又は明示的に列挙された要素若しくは成分の任意の2つ以上からなる群からも選択され得;要素又は成分のリストに列挙されたいかなる要素又は成分も、このようなリストから省略され得ることが理解されるべきである。加えて、端点による数値範囲の本明細書でのいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び同等物を含む。
【0032】
本発明において、「バッチ式プロセス」という用語は、プロセスの開始時に全ての反応物が反応器に供給され、反応が完了したときに生成物が除去されるプロセスを指すことが意図されている。プロセス中に反応物は反応器に供給されず、生成物は除去されない。
【0033】
本発明において、「半バッチ式プロセス」という用語は、時間内に反応物の追加の供給及び/又は生成物の除去を可能にするプロセスを指すことが意図されている。
【0034】
本発明において、「ppm」という用語は、100万(1,000,000)部あたりの1部、すなわち10-6を表すことが意図されている。
【0035】
比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書では、範囲形式で示され得る。そのような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために用いられること並びに範囲の限界点として明示的に列挙された数値を包含するのみならず、各数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのように、その範囲内に包含される個々の数値又は部分範囲を全て包含すると柔軟に解釈されるべきであることが理解されるべきである。例えば、約120℃~約150℃の温度範囲は、約120℃~約150℃の明示的に列挙された限界点のみならず、125℃~145℃、130℃~150℃等などの部分範囲並びに例えば122.2℃、140.6℃及び141.3℃などの明記された範囲内の小数点数などの個々の量も包含すると解釈されるべきである。
【0036】
別段の明記がない限り、本発明との関係において、組成物中の成分の量は、成分の重量と組成物の総重量との比率に100を掛けたもの、すなわち重量%(wt%)、又は成分の体積と組成物の総体積との比率に100を掛けたもの、すなわち体積%(vol%)として示される。前述の概要及び以下の詳細な説明の両方は、例示であり、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することを意図していることが理解されるべきである。したがって、本明細書に記載される様々な変更形態及び修正形態は、当業者に明らかであろう。更に、周知の機能及び構造の説明は、明確にするために且つ簡潔にするために省略されている場合がある。
【0037】
本発明の第1の目的は、UPグレードのビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)の製造方法であって、
(i)HCSIと、重質画分と、軽質画分とを含む粗製HCSI混合物(I)を提供する工程;
(ii)粗製HSCI混合物(I)から軽質画分を除去してHCSI混合物(II)を得る工程;
(iii)HCSI混合物(II)を薄膜蒸発装置に移す工程;及び
(iv)HCSI混合物(II)を蒸留してUPグレードのHCSIを単離する工程、
を含む方法であって、UPグレードのHCSIが、ASTM E928-19に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により決定した時にHCSIの総モル数に対して少なくとも99.0モル%の純度を示す、方法に関する。
【0038】
特に、本発明者は、蒸留によってUPグレードのHCSIを製造するために、HCSI混合物(II)を薄膜蒸発装置に移す前に、HCSI混合物(II)が得られるように粗製HCSI混合物(I)から軽質画分を最初に除去すべきであることを見出した。これに対し、粗製HCSI混合物(I)から軽質画分を除去せずに薄膜蒸発装置を適用すると、同じ条件でUPグレードのHCSIは得られなかった。更に、薄膜蒸発装置にはHCSI混合物(II)が移されるべきである。すなわち工程(ii)からHCSI混合物(II)が得られた後に、移されるべきである。本発明者は、HCSI混合物(II)を薄膜蒸発装置に移す代わりに、バッチ式で追加の蒸留を行った場合、熱分解を引き起こすバッチ式蒸留の長い時間のため、工程(ii)の後であっても微量の軽質画分が依然として存在するようになり、その結果、微量の軽質画分と、重質画分と、HCSIとの混合物が生じることを見出した。薄膜蒸発装置、特にWFSPは、2種の化合物の混合物の分離でより効果を発揮するため、重質画分とHCSIとに加えて微量の軽質画分を含有するそのような混合物は、薄膜蒸発装置による蒸留の後であってもHCSIのモル純度を低下させた。
【0039】
一実施形態では、UPグレードのHCSIの製造方法は、順番に、すなわち工程(i)から工程(iv)まで実施され、工程(i)から工程(iv)までの順序は、連続的に又は段階的に行うことができる。
【0040】
別の実施形態では、HCSI混合物(II)は、溶融形態で薄膜蒸発装置に移される前に、蒸留ボイラーに移される。
【0041】
本発明との関係において、本発明の方法で使用されるHCSIは、例えば、
・クロロスルホニルイソシアネート(ClSO2NCO)をクロロスルホン酸(ClSO2OH)と反応させることにより、
・塩化シアン(CNCl)、無水硫酸(SO3)、及びクロロスルホン酸(ClSO2OH)を反応させることにより、
・スルファミン酸(NH2SO2OH)、塩化チオニル(SOCl2)、及びクロロスルホン酸(ClSO2OH)を反応させることにより、
公知の方法によって製造することができる。
【0042】
特定の実施形態では、HCSIは、いわゆるイソシアネート経路又はスルファミン酸経路のいずれかによって調製される。
【0043】
一実施形態では、反応混合物は、クロロスルホン酸(ClSO2OH)とクロロスルホニルイソシアネート(ClSO2NCO)を反応させることによって製造される。この実施形態によれば、工程(i)は、HCSIと、重質画分と、軽質画分とを含む粗製HCSI混合物(I)を提供することであり、そのような粗製HCSI混合物(I)は、クロロスルホニルイソシアネート(ClSO2NCO)をクロロスルホン酸(ClSO2OH)と反応させることによって得られる。
【0044】
別の実施形態では、反応混合物は、スルファミン酸(NH2SO2OH)、クロロスルホン酸(ClSO2OH)、及び塩化チオニル(SOCl2)を反応させることによって製造される。この実施形態によれば、工程(i)は、HCSIと、重質画分と、軽質画分とを含む粗製HCSI混合物(I)を提供することであり、そのような粗製HCSI混合物(I)は、スルファミン酸(NH2SO2OH)、クロロスルホン酸(ClSO2OH)、及び塩化チオニル(SOCl2)を反応させることによって得られる。
【0045】
別の実施形態では、粗製HCSIは、塩化シアンCNClを無水硫酸(SO3)及びクロロスルホン酸(ClSO2OH)と反応させることによって製造される。この実施形態によれば、工程(i)は、HCSIと、重質画分と、軽質画分とを含む粗製HCSI混合物(I)を提供することであり、そのような粗製HCSI混合物(I)は、塩化シアンCNClを無水硫酸(SO3)及びクロロスルホン酸(ClSO2OH)と反応させることによって得られる。
【0046】
本発明の方法は、特に市販のHCSIが期待される純度を示さない場合には、そのような市販のHCSIにも適用される。この実施形態では、工程(i)は、HCSIと、重質画分と、軽質画分とを含む「粗製HCSI混合物(I)」を提供することであると定義することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、工程(ii)は、軽質画分を混合物の残りから気体形態で除去するために、HCSI混合物(I)を40℃より上に加熱することである。好ましい実施形態では、工程(ii)は、40℃~150℃、好ましくは60℃~120℃、より好ましくは90℃~120℃の範囲の温度で行われる。
【0048】
いくつかの実施形態では、工程(ii)は大気圧又は減圧下で行われる。特定の実施形態では、工程(ii)は、500mbar abs.未満、好ましくは200mbar abs.未満、より好ましくは100mbar abs.未満、更に好ましくは10mbar abs.未満の圧力で行われる。
【0049】
いくつかの実施形態では、HCSIと重質画分とを含むHCSI混合物(II)は、薄膜蒸発装置に移される前に、すなわち工程(iii)の前に、ただしバッチ式で追加の蒸留が行われることなしに、蒸留ボイラー又は一時的な容器に移される。
【0050】
一実施形態では、工程(iii)は、40℃~150℃、好ましくは40℃~120℃、より好ましくは40℃~100℃、更に好ましくは40℃~80℃、最も好ましくは40℃~70℃の範囲の温度で行われる。
【0051】
好ましい一実施形態では、HCSI混合物(II)は、転移相中に40~70℃の温度範囲で加熱することによって溶融形態に維持される。別の好ましい実施形態では、固化の場合、中間生成物又は最終生成物、すなわちHCSI混合物(II)又はUPグレードのHCSIは、最終生成物すなわちUPグレードのHCSIの品質に大きな影響を与えることなく、40~70℃の温度範囲で加熱されることによって、完全に溶融するまで溶融される。
【0052】
一実施形態では、工程(iii)は大気圧又は減圧下で行われる。好ましい実施形態では、工程(iii)は大気圧で行われる。
【0053】
本発明において、「薄層蒸発装置」とも呼ばれる「薄膜蒸発装置」という用語は、短い滞留時間を可能にする蒸発によって温度に敏感な生成物を精製するために使用される装置を表すことが意図されており、これにより、多くの熱に敏感で蒸留が困難な生成物の処理が可能になる。流下膜蒸発装置、上昇膜蒸発装置、ワイプ膜蒸発装置、ショートパス蒸発装置、フラッシュ蒸発装置、撹拌薄膜蒸発装置、ワイプ膜ショートパス(WFSP)蒸発装置などの他の用語を使用することもできる。
【0054】
一実施形態では、薄膜蒸発装置は、ショートパス薄膜蒸発装置、WFSP蒸発装置(外部コンデンサーあり)、又は流下膜蒸発装置である。そのような蒸発装置は、コンデンサーで凝縮される前に、短い経路カバーする、すなわち短い距離を移動する蒸発中に蒸気を発生させる。
【0055】
典型的には、ショートパス薄膜蒸発装置は装置内部に溶媒蒸気用のコンデンサーを備えている一方で、ショートパス蒸発装置ではない他のタイプの薄膜蒸発装置は装置外部にコンデンサーを備えている。
【0056】
ショートパス薄膜蒸発装置では、蒸留すべき生成物を蒸発装置の内表面に連続的に付着させることにより、蒸発装置の高温の内表面上に蒸留すべき生成物の薄膜が形成される。一実施形態では、ショートパス薄膜蒸発装置は、円筒形の加熱された本体と、蒸発装置の内表面上に蒸留すべき薄膜として生成物を均一に分布させるのに役立つ(軸方向の)ローターとを備えている。生成物が壁を螺旋状に下降するのに伴い、高速のローター先端の速度により大きな乱流が発生し、波が形成され、最適な熱流束と物質移動の条件が形成される。その後、揮発性成分が伝導熱伝達によって迅速に蒸発し、蒸気は凝縮可能な状態になる一方で、不揮発性成分は出口で排出される。蒸発中に発生する可能性のある主な問題の1つは、蒸発装置内の加熱媒体の表面に硬い堆積物が形成されるときに発生するファウリングである。このような種類の好ましくない現象は、安定した膜を形成するための粗製混合物の十分な流量に関連する連続的な撹拌及び混合によって最小限に抑えることができる。この十分な流量は、使用する薄膜蒸発装置の種類及び大きさによって規定される。例えば、UIC GmbHから市販されているKD1タイプの薄膜蒸発装置の場合には、約120~125g/時の流量が安定した膜を得るのに十分である。
【0057】
本発明において、「滞留時間」という用語は、残りの反応混合物が蒸発装置に入り、溶液の最初の一滴が蒸発装置から出るまでの経過時間を表すことが意図されている。
【0058】
薄膜蒸発装置との適合性は、生成物の特性、特に精製される生成物の熱安定性に大きく依存する。
【0059】
本発明による方法は、蒸留段階の後に、より穏やかな条件で時間を短縮してUPグレードのHCSIを得ることができるという主な理由のため有利である。通常、HCSI粗製混合物を生成するための120℃~140℃の反応温度の範囲で15~25時間の反応工程の後、HCSI蒸留段階では、100℃~145℃の温度範囲で長時間、場合によっては実験室スケールでの数時間から工業スケールでの20時間を超える範囲の時間を要する。反応段階と蒸留段階の両方を組み合わせると、HCSIの熱ストレスの蓄積時間が約35~45時間、又はそれ以上になり、これによって反応混合物の実質的な色の変化が生じ、無色から透明な黄色、しばしば褐色にまでなり、これは価値がない重質副生成物がかなり形成されることを示唆している。しかしながら、本発明者は、本発明による方法を使用することにより、熱に敏感なHCSIの全体の熱ストレスを低減しながらも、温度を下げ、蒸留段階の滞留時間を短縮することを実質的に可能にした。
【0060】
特定の実施形態では、蒸留工程(iv)は、100℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下の温度で実施される。
【0061】
別の特定の実施形態では、蒸留工程(iv)は、10mbar abs.以下、好ましくは5mbar abs.以下、より好ましくは3mbar abs.以下、更に好ましくは0.5mbar abs.以下の圧力で実施される。
【0062】
別の特定の実施形態では、蒸留工程(iv)における滞留時間は、5分以下、好ましくは3分以下、より好ましくは1分以下、更に好ましくは30秒以下である。
【0063】
好ましい実施形態では、蒸留工程(iv)は、80℃~100℃で変化する温度及び/又は0.1~10mbar abs.で変化する圧力でショートパス薄膜蒸発装置内で、30秒以下の滞留時間で実施される。
【0064】
本発明では、工程(iv)の後に得られるUPグレードのHCSIの純度が評価される。より正確には、ASTM E928-19に従って示差走査熱量測定(DSC)によって測定される。キャラクタリゼーション中に生じる可能性のある分解を最小限に抑えるか又は完全に回避するために、実験セクションに記載されているように、特定のサンプリングプロトコルと規定の温度プロファイルが適用される。
【0065】
特定の実施形態では、開始温度は34℃以上であり、ピーク温度は38℃以上であり、融解温度は37.5℃以上である。別の特定の実施形態では、正規化積分は約-58J/g~約-65J/gの範囲である。別の特定の実施形態では、結晶化ピークの頂点温度は20℃以上である。
【0066】
好ましい実施形態では、UPグレードのHCSIは、ASTM E928-19に準拠したDSCにより決定した時に、HCSIの総モル数に対して少なくとも99.3モル%の純度を示す。
【0067】
より好ましい実施形態では、UPグレードのHCSIは、ASTM E928-19に準拠したDSCにより決定した時に、HCSIの総モル数に対して少なくとも99.5モル%の純度を示す。
【0068】
更に好ましい実施形態では、UPグレードのHCSIは、ASTM E928-19に準拠したDSCより決定した時に、HCSIの総モル数に対して少なくとも99.7モル%の純度を示す。
【0069】
最も好ましい実施形態では、UPグレードのHCSIは、ASTM E928-19に準拠したDSCにより決定した時に、HCSIの総モル数に対して少なくとも99.9モル%の純度を示す。
【0070】
本発明者は、UPグレードのHCSIを製造するためには、粗製HCSI及び重質画分を薄膜蒸発装置に移す前に、反応混合物から軽質画分を最初に除去すべきであることも見出した。比較すると、反応器から軽質画分を除去せずに薄膜蒸発装置を適用した場合、UPグレードのHCSIは同じ条件で得られなかった。これは、おそらく当業者に公知の分離性の高いタイプの蒸留装置と比較して、このような蒸留装置によって提供される理論段数が少ないためであろう。更に、予めバッチ式で蒸留されたHCSIに薄膜蒸発装置を適用しても、UPグレードのHCSIは同じ条件で得られなかった。
【0071】
本発明において、「軽質画分」という表現は、工程(iii)について記載した蒸留条件を適用することによって反応段階から得られる粗製HCSI混合物を、バッチ式、半バッチ式、又は連続式のいずれかで蒸留することによって得られる画分を表すことが意図されている。
【0072】
軽質画分からの成分の非限定的な例には、反応後に未反応のまま残るクロロスルホン酸、クロロスルホニルイソシアネート、及び/又は塩化チオニルが含まれる。
【0073】
本発明において、「重質画分」という表現は、工程(v)について記載した蒸留条件を適用することによって粗製混合物(その軽質画分から予め分離されたもの)からHCSIをバッチ式、半バッチ式、又は連続式のいずれかで蒸留した後に得られる画分を表すことが意図されている。
【0074】
重質画分からの成分の非限定的な例には、残留未蒸留HCSI、並びに加水分解又は他の副反応によりHCSI及び他の反応物質から形成され得る二量体、三量体、及び他のオリゴマーを含む関連副生成物が含まれる。重質画分は価値を見出すことが困難であり、多くの場合は最終的には腐食性化学廃棄物として処理する必要がある。
【0075】
本発明の第2の目的は、上述した方法により得ることができるUPグレードのHCSIである。
【0076】
本発明の第3の目的は、LiFSIを調製するための、上述した方法から得ることができるUPグレードのHCSIの使用である。
【0077】
本発明の第4の目的は、上述した方法によりUPグレードのHCSIを調製することを含む、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の製造方法である。
【0078】
一実施形態では、LiFSIの製造方法は、以下の連続する工程を含む:
(i)上述した方法によって得られる、UPグレードのHCSIを提供する工程;
(ii)UPグレードのHCSIをフッ素化剤でフッ素化して、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NH4FSI)を形成する工程;
(iii)任意選択的に、工程(ii)から得られたNH4FSIを精製する工程;及び
(iv)場合によっては少なくとも1種の溶媒S2との溶媒和物の形態で、NH4FSIをリチウム化剤でリチウム化し、LiFSIを形成する工程。
【0079】
いくつかの実施形態では、工程(iv)のNH4FSIは、溶媒和物の形態であり、場合によっては結晶化形態であり、以下のものを含む:
・50~98重量%のNH4FSI塩、及び
・2~50重量%の、環状及び非環状エーテルからなる群から選択される溶媒S2。
【0080】
好ましくは、NH4FSI溶媒和物は、51~90重量%、より好ましくは78~83重量%のNH4FSI塩を含む。
【0081】
好ましくは、NH4FSI溶媒和物は、10~49重量%、より好ましくは17~22重量%の溶媒S2を含む。
【0082】
いくつかの実施形態では、上述したLiFSIの調製方法の工程(iii)は、
(iii1)工程(ii)からのNH4FSIを少なくとも1種の溶媒S1に溶解すること;
(iii2)少なくとも1種の溶媒S2により、工程(iii1)からのNH4FSIを結晶化すること;及び
(iii3)溶媒S1及びS2の少なくとも一部からNH4FSI塩を、好ましくは濾過によって分離して、NH4FSI溶媒和物を調製すること;
を含む。
【0083】
これらの実施形態によれば、工程(ii)からのNH4FSIは、NH4FSIの塩を80~97重量%、好ましくは85~95重量%、より好ましくは90~95重量%含むことができ、残りは不純物である。
【0084】
工程(ii)において、フッ素化剤は、好ましくはリチウム化合物であり、より好ましくは、水酸化リチウムLiOH、水酸化リチウム水和物LiOH・H2O、炭酸リチウムLi2CO3、炭酸水素リチウムLiHCO3、塩化リチウムLiCl、フッ化リチウムLiF、CH3OLi及びEtOLiなどのアルコキシド化合物、EtLi、BuLi及びt-BuLiなどのアルキルリチウム化合物、酢酸リチウムCH3COOLi、並びにシュウ酸リチウムLi2C2O4、より好ましくはLiOH・H2O又はLi2CO3からなる群から選択される。
【0085】
溶媒S1は、好ましくは、アセトニトリル、バレロニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、酢酸n-ブチル、酢酸イソプロピル、及びそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは2,2,2,-トリフルオロエタノールである。
【0086】
溶媒S2は、好ましくは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、及びそれらの混合物からなる群から、より好ましくは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、及びそれらの混合物からなるリストから選択され、更に好ましくは1,3-ジオキサン又は1,4-ジオキサンである。
【0087】
いくつかの好ましい実施形態では、工程(ii)のフッ素化剤は、約0.5時間~約10時間の範囲の時間をかけてNH4FSIに添加される。
【0088】
別の実施形態では、LiFSIの製造方法は、以下の連続する工程を含む:
(i)上述した方法によりUPグレードのHCSIを提供する工程;
(ii)500ppm以下、好ましくは400ppm以下、より好ましくは300ppm以下の含水量を有するハロゲン化オニウムを使用して、UPグレードのHCSIを中和することで、アンモニウムビス(クロロスルホニル)イミド(NH4CSI)を形成する工程;
(iii)NH4CSIをフッ素化剤でフッ素化して、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NH4FSI)を形成する工程;
(iv)任意選択的に、工程(iii)から得られたNH4FSIを精製する工程;及び
(v)NH4FSIをフッ素化剤でリチウム化して、LiFSIを形成する工程。
【0089】
別の実施形態では、LiFSIの製造方法は、以下の連続する工程を含む:
(i)上述した方法によりUPグレードのHCSIを提供する工程;
(ii)UPグレードのHCSIをリチウム化剤でリチウム化して、リチウムビス(クロロスルホニル)イミド(LiCSI)を形成する工程;
(iii)任意選択的に、工程(ii)から得られたLiCSIを精製する工程;及び
(iv)LiCSIをフッ素化剤でフッ素化して、LiFSIを形成する工程。
【0090】
特定の実施形態では、リチウム化剤は、LiF、LiCl、LiBr、及びLiIを含むハロゲン化リチウムである。
【0091】
別の特定の実施形態では、リチウム化剤は、LiOH、LiOH・H2O、又はLiNH2である。
【0092】
別の特定の実施形態では、フッ素化剤は、HF、NH4F・(HF)n(n=0~10)、NaF、KF、CsF、AgF、LiBF4、NaBF4、KBF4、又はAgBF4である。
【0093】
好ましい実施形態では、フッ素化剤はHFである。
【0094】
別の好ましい実施形態では、フッ素化剤はNH4Fである。
【0095】
本発明の第5の目的は、組成物中のLiFSIの総モル数に対して少なくとも99.99モル%の純度を有するLiFSIを含有する組成物である。残部は、F-、Cl-、SO4
2-、及びFSO3
-などの不純物を含む残留原料又は副生成物、水、並びに残留溶媒である可能性がある。
【0096】
好ましい実施形態では、組成物は、組成物中のLiFSIの総モル数に対して少なくとも99.99モル%の純度を有するLiFSIを含み、残りは残留原料又は副生成物である。
【0097】
一実施形態では、不純物の含有量は、組成物の総重量に対して50ppm以下である。
【0098】
好ましい実施形態では、水及び不純物の含有量は、組成物の総重量に対して20ppm以下である。
【0099】
より好ましい実施形態では、水及び不純物の含有量は、組成物の総重量に対して10ppm以下である。
【0100】
特に好ましい実施形態では、組成物は、LiFSIの総モル数に対して少なくとも99.99モル%の純度を有するLiFSIを含み、組成物は固体形態である。
【0101】
別の特に好ましい実施形態では、組成物は、LiFSIの総モル数に対して少なくとも99.99モル%の純度を有するLiFSIを含み、組成物は、有機溶媒、例えば有機カーボネートを含む溶液形態である。
【0102】
更に特に好ましい実施形態では、組成物は、LiFSIの総モル数に対して少なくとも99.99モル%の純度を有するLiFSIを含み、組成物はエチルメチルカーボネート(EMC)を含む溶液形態である。
【0103】
本発明は、上述した方法によって得られるLiFSIの、リチウムイオン二次電池における使用にも関する。
【0104】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願及び公開資料の開示が、ある用語を不明瞭なものとさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先する。
【0105】
ここで、以下の実施例に関連して本発明を詳細に説明するが、その目的は、例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0106】
原料及び装置
クロロスルホニルイソシアネート(ClSO2NCO):Lonza Ltd.から市販、又はSolvay社内で合成。
クロロスルホン酸(ClSO3H):Sigma Aldrichから市販
スルファミン酸(NH2SO3H):Sigma Aldrichから市販。
塩化チオニル(SOCl2):Sigma Aldrichから市販
塩化アンモニウム(NH4Cl):Sigma Aldrichから市販
フッ化アンモニウム(NH4F):Sigma Aldrichから市販
エチルメチルカーボネート(EMC):Sigma Aldrichから市販
水酸化リチウム一水和物(LiOHH2O):Sigma Aldrichから市販
ショートパス薄膜蒸発装置:KD1、UIC GmbHから市販。
【0107】
試験方法
示差走査熱量測定(DSC):DSCによる純度決定については、測定条件をある程度最適化してASTM E928-19に従った。HCSIのサンプリングは、ステンレススチール製の又は金めっきされた耐圧性のるつぼを使用して、厳密に不活性雰囲気で行わなければならない。DSCは10~30mgの範囲のサンプルを用いて行われる。少なくとも2回、場合によっては最大4回の融解/結晶化サイクルの後に得られる融解ピークが、DSCソフトウェアによって積分される。一例として、使用されるDSC法は以下の通りに規定した:50mL/分のN2ガス流の中で、5℃/分で-30℃から150℃までの1サイクル(4回の融解/3回の結晶化)(継続時間4時間12分)。別の例として、Mettler ToledoのDSC装置を分析開発に使用した。この装置では、デバイスに指令を出してデータ解析を実行するソフトウェアは、同じくMettler ToledoのSTAReソフトウェア、バージョン11.00a(Build4393)であった。他のDSC装置も同様に使用することができる。HCSI DSC分析に使用されるるつぼ及び膜は、Mettler Toledoの以下のものなど様々な参考番号から選択することができる:
・HPスチール製るつぼ:51140404
・HP金めっきるつぼ:51140405
・使い捨て金めっき膜:51140403
【0108】
モル純度は、ソフトウェアの「Purity」又は「Purity Plus」機能により、当業者に知られているVan’t Hoffの法則式を適用して推定することができる。DSCによる純度決定は、超融点(super melting point)の決定とみなすことができる。DSCによる純度決定は、不純物が共晶系の融点を下げるという事実に基づいている。この効果は、DSC装置のサプライヤーのWebサイトであるhttps://www.mt.com/de/en/home/supportive_content/matchar_apps/MatChar_UC101.htmlで説明されているように、Van’tHoffの式によって説明される。
【数1】
簡略化した式は以下の通りである:
【数2】
(式中、T
fは融点(融解中は液体温度に従う)であり;T
0は純粋な物質の融点であり;Rは気体定数であり;ΔH
fはモル融解熱(ピーク面積から計算)であり;x
2.0は濃度(決定される不純物のモル分率)であり;T
fusは不純物の明確な融点であり;Fは融解した割合であり;lnは自然対数である)。いずれの場合も、融解した割合の逆数(1/F)は以下の式で与えられる:
【数3】
(式中、A
partはDSCピークの部分面積であり;A
totはピークの総面積であり、cは線形化係数である)。
【実施例】
【0109】
実施例1:本発明によるUPグレードのHCSIの提供(CSIルート)
4つのバッフルと、撹拌シャフトと、蒸留装置(コンデンサー(クライオスタットで冷却)及びフラクションセパレータを含む)と、サーモスタット(二重ジャケット)に接続された2つの温度プローブと、KOHスクラバー(酸性蒸気の中和)とを備えた、予め乾燥した機械撹拌式の二重ジャケット付きの1.5Lのガラス製撹拌槽型反応器に、室温で窒素を流しながらクロロスルホン酸(814.1g)、続いてクロロスルホニルイソシアネート(989g)をカニューレによって入れた。混合物を室温から17時間かけて還流まで加熱し、ガスの発生が止まるまで還流を維持した。このような反応から得られた透明な褐色の混合物は、HCSIと、重質画分と、軽質画分とを含む、すなわち粗製HCSI混合物(I)である。粗製HCSI混合物(I)を減圧下で予備蒸留し(Tset=90~120℃;P=4mbar abs.)、1.5~2時間かけて263gの軽質画分(Thead=90~107℃)を分離した。得られたHCSI混合物(II)を50℃に冷却し、不活性条件下で、予め乾燥した二重ジャケット付きのガラス製の添加漏斗を介して、予め乾燥したWFSP蒸留装置に移した。WFSP装置のパラメータは以下の通りに設定した:
・Tboiler=80℃
・Tinner condenser=35℃
・Tfunnel=50℃
・PWFSP≦1mbar
・回転速度:=400rpm
【0110】
HCSI混合物(II)(332.8g)を一定速度(約120~125g/時)で導入し、所定の蒸留パラメータでの安定な膜の形成を可能にした。蒸気は内部コンデンサーの表面で急激に凝縮し、回収フラスコに回収された。流量は、凝縮した蒸気/母液の比が約6/4になるように設定した。単離された純粋な物質をWFSPから抜き出した。得られた母液は、同じ蒸留パラメータを使用して2回目のWFSP蒸留段階に再導入した。別の純粋な画分を回収し、純粋な物質の最初の画分と合わせた。蒸留をこの段階で停止した。WFSPから抜き出された精製されたHCSIの総質量(249.5g)は、さらなる最適化なしで約75%であった。WFSPにおける滞留時間は30秒未満であった。単離されたHCSIは、結晶化した物質をグローブボックスに入れる前に、冷蔵庫内で12時間、不活性雰囲気で固化させた。
【0111】
実施例2:UPグレードのHCSIのDSCによる分析
実施例1で単離した生成物のDSCサンプルを、ステンレス鋼製の耐圧るつぼと適切なプレス機(いずれもMettler Toledoより)を使用してグローブボックス内で作製した。約10mgの粉砕固体が入っている密封されたるつぼをDSC分析のためにグローブボックスから取り出した。DSC法には、50mL/分のN
2流の中で-30℃から150℃まで5℃/分の4回の融解と3回の結晶化が含まれていた。(4時間12分)。単離されDSCによりキャラクタリゼーションされたUPグレードのHCSIは、非常にシャープで対称的な融解ピークを示した。UPグレードのHCSIの純度は、STAReソフトウェア、すなわちバージョン11.00a(Mettler Toledo)ソフトウェアの「Purity」機能を適用することにより決定した。UPグレードのHCSIのサンプルは、以下のDSC結果を示した(
図1も参照):
・開始:34.7℃
・ピーク:38.3℃
・融解温度:37.7℃
・純度:約99.3%
・正規化積分:約62J/g
・結晶化ピークの頂点:約23℃。
【0112】
UPグレードであることについての基準は、UPグレードのサンプルのHCSIとバッチ式で蒸留されたHCSI(比較例1)の累積的観察に基づいて、以下の通りに内部で定義した:
・開始:>34℃
・ピーク:>38℃
・融解温度:>37.5℃
・純度:>99.0%
・正規化積分:-58<x<-65J/g
・結晶化ピークの頂点:>20℃。
【0113】
UPグレードのHCSI(実線)とバッチ式で蒸留されたHCSI(点線)の比較を
図2に示す。
【0114】
実施例3:UPグレードのHCSIのNH4CSIへの中和
実施例1に記載のプロトコルに従って得たUPグレードのHCSI(100.3g)を、不活性雰囲気下、4つのバッフルとコンデンサーとを備えた予め乾燥した二重ジャケット付きの機械撹拌式の0.1Lのガラス製反応器に60℃で溶融形態で入れ、60℃で加熱した。反応器をKOHスクラバーに接続して酸性蒸気を中和した。粉末状のNH4Cl(24.9g)を、UPグレードの溶融HCSIに不活性雰囲気で15分間かけて徐々に導入した。混合物を加熱し、ガスの発生が止まるまで75~80℃に維持した。粘稠な無色の液体が定量的に得られた。スクラバーからの塩化物分析(IC、DIONEX ICS-3000)により、放出されたHCSlの定量的な中和が確認された。単離したNH4CSIは、次の実施例4でそのまま使用した。
【0115】
実施例4:実施例3からのNH4CSIのNH4Fによるフッ素化
4枚ブレードの撹拌シャフトと、4つのバッフルと、PTFE製コンデンサーと、サーモスタット(内部加熱目的)に接続されたPFAベースの内部配管系と、断熱外層とを備えた、予め乾燥したPTFE製の0.5Lの機械撹拌式反応器に、窒素を流しながらNH4F(38.7g)及び無水EMC(283.2g)を入れた。得られたスラリーを60℃で予熱した。実施例3で調製したNH4CSI(97.1g)を60℃に予熱し、溶融形態で一定流量で導入した。添加後、混合物を60℃から84℃まで1時間加熱し、温度を84℃で更に3時間維持した後、室温まで冷却した。窒素を流しながら懸濁液を0.22μmのPTFE膜を備えたブフナー型フィルターに移した。空になった反応器を追加のEMC(164.2g)で洗浄し、更に固体ケーキの洗浄に使用した。得られた合わせた濾液(563g)は、19F NMR(Bruker Avance400 NMR)によって測定すると、NH4FSI(76g)中で91.3%の収率を示した。次の表1は、主要な不純物(F-、Cl-、SO4
2-、FSO3
-)のほとんどの量が減少し、追加の不純物が存在しないIC結果(DIONEX ICS-3000)を示している。
【0116】
【0117】
実施例5:固体中での粗製NH4FSIの析出
実施例4で調製したEMC中にNH4FSIを含む濾液を、磁気撹拌されているPTFE製フラスコに移した。水(14.6g)及び25%NH4OH水溶液(0.21g)を混合物に添加し、室温で1時間撹拌した。この溶液を減圧濃縮して、EMC中のNH4FSIの60重量%溶液を得た。得られた濃縮物を、4つのバッフルとコンデンサーとを備えた、予め乾燥した機械撹拌式の二重ジャケット付きの0.3Lのガラス製の反応器に移した。ポンプを使用してジクロロメタン(DCM)(74.2g)を1時間かけて導入し、次いで混合物を1時間かけて0℃まで冷却した。DCM(73.3g)を再び1時間かけて添加し、得られた混合物を0℃で更に1時間維持した。窒素を流しながら、得られた懸濁液を0.22μmのPTFE膜を備えたブフナー型フィルターに移した。粗製NH4FSIから構成される得られた固体ケーキをDCM(78.9g)で洗浄した。得られた固体を減圧乾燥した。単離された固体である粗製NH4FSIの最適化されていない全体としての析出収率は85.2%であった。
【0118】
実施例6:析出した粗製NH4FSIの精製
得られた固体のNH4FSI(64.7g)を、4つのバッフルとコンデンサーとを備えた、予め乾燥した機械撹拌式の二重ジャケット付きの0.3Lのガラス製反応器に移した。続いて、291gの2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)を添加した。オーバーヘッドスターラーを350rpmに設定した。溶液の温度を60℃に設定し、NH4FSIをTFEに確実に完全に溶解させた。次いで、291gの1,4-ジオキサンを反応器に3時間かけて滴下した。1,4-ジオキサンの添加が完了した後、溶液温度を更に3時間60℃に維持した。得られたスラリーを約3時間で室温まで放冷し、約12時間撹拌を維持した。スラリーを0.22μmのPTFE膜を使用して濾過し、固体のNH4FSIを回収した。回収した固体のケーキを131gの1,4-ジオキサンで洗浄した。回収した湿った固体156.7gを、ロータリーエバポレーターを使用して、70℃、20mbar abs.で溶媒がそれ以上蒸発しなくなるまで乾燥することで、72.7gの白色固体を得た。これは、80.5重量%のNH4FSIと19.5重量%の1,4-ジオキサンとを含むNH4FSIの結晶化溶媒和物(NH4FSI-S1と表される)であり、19F-NMR(Bruker Avance 400 NMR)によって確認された。精製収率は、90.4%であった。1回目の析出から回収した70.1gの生成物に対して、次の量の化学物質を用いて、このプロセスの2回目を行った:255.1gのTFE、結晶化用の242.4gの1,4-ジオキサン、及び洗浄用の132gの1,4-ジオキサン。乾燥後、66.6gの白色固体を得た。これは、79.6重量%のNH4FSIと20.4重量%の1,4-ジオキサンとを含むNH4FSIの結晶化溶媒和物(NH4FSI-S2と表される)であり、19F-NMR(Bruker Avance 400 NMR)によって確認された。2回目の精製収率は94%であった。
【0119】
以下の表2は、粗製NH4FSIと、生成物、すなわち1回目の精製及び2回目の精製後に得られたNH4FSI溶媒和物(NH4FSI-S1及びNH4FSI-S2)のIC(DIONEXICS-3000)結果を示す。
【0120】
【0121】
実施例7:精製されたNH4FSIのリチウム化
実施例6で得た65gのNH4FSI-S2を酢酸ブチル217gに溶解し、次いで48.2gの25重量%LiOH・H2O水溶液を添加した。二相混合物を室温で5時間撹拌し、その後デカンテーションした。有機相を回収し、減圧(0.1bar abs.)下で60℃で薄膜蒸発装置に入れた。得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の19F-NMR(Bruker Avance 400 NMR)により決定された純度は99.99モル%超であり、塩素とフッ素の含有量は20ppm未満であり、金属元素の含有量は3ppm未満であり、IC(DIONEX ICS-3000)で検出されるSO4
2-やFSO3
-などの他の不純物は存在しなかった。
【0122】
比較例1:バッチ式蒸留を使用したHCSIの調製
4つのバッフルと、撹拌シャフトと、蒸留装置(コンデンサー(クライオスタットで冷却)及びフラクションセパレータを含む)と、サーモスタット(二重ジャケット)に接続された2つの温度プローブと、KOHスクラバー(酸性蒸気の中和)とを備えた、予め乾燥した機械撹拌式の二重ジャケット付きの1.5Lのガラス製撹拌槽型反応器に、室温で窒素を流しながらクロロスルホン酸(868.8g)、続いてクロロスルホニルイソシアネート(1011.9g)をカニューレによって入れた。混合物を室温から17時間かけて還流まで加熱し、ガスの発生が止まるまで還流を維持した。得られた透明な褐色のHCSI混合物(I)は、HCSIと、重質画分と、軽質画分とを含む。混合物を減圧下で予備蒸留し(T
set=95~120℃;P=6~7mbar abs.)、約2時間後に330.1gの軽質画分(T
head=90~115℃)を分離した。得られたHCSI混合物(II)を最初の容器で更に蒸留して、約5~6時間後に2つのHCSI画分(T
set=120~145℃;T
head=115~118℃、P=約6~7mbar abs.)を分離した。この間、更に熱分解されたため、重質画分とHCSIに加えて、微量の軽質画分が現れた。得られた画分を合わせて、896.3gの蒸留されたHCSIを得た。バッチ式で蒸留されたHCSIのDSC分析を
図3に示す。
【0123】
比較例2:予めバッチ式で蒸留されたHCSIのWFSP蒸留
比較例1で得られた蒸留されたHCSIを、不活性条件下、予め乾燥した二重ジャケット付きのガラス製の添加漏斗を介して、予め乾燥したWFSP蒸留装置に50℃で移した。WFSP装置のパラメータは以下の通りに設定した:
・Tboiler:80℃
・Tinner condenser:35℃
・Tfunnel:50℃
・PWFSP;1mbar abs.未満
・回転速度:400rpm。
【0124】
蒸留されたHCSI(122.7g)を一定速度(約120~125g/時)で導入し、所定の蒸留パラメータでの安定な膜の形成を可能にした。蒸気は内部コンデンサーの表面で急激に凝縮し、回収フラスコに回収された。流量は、凝縮した蒸気/母液の比が約8/2になるように設定した。単離された物質をWFSPから抜き出した。蒸留をこの段階で停止した。WFSPから抜き出された蒸留されたHCSIの総質量(101.2g)は、さらなる最適化なしで約82%であった。単離されたHCSIは、結晶化した物質をDSC分析のためにグローブボックスに注意深く入れる前に、冷蔵庫内で12時間、不活性雰囲気で固化させた。結果は
図3で確認することができる。融解ピークの形状はブロードで非対称であり、融解温度は30.2℃であった。モル純度は約95.5%と評価された。UPグレードのHCSIとバッチ式で蒸留されたHCSIの比較を
図2に示す。
【0125】
比較例3:NH4Fを使用する、バッチ式蒸留で蒸留されたHCSIの直接フッ素化
4枚ブレードの撹拌シャフトと、4つのバッフルと、PTFE製コンデンサーと、サーモスタット(内部加熱目的)に接続されたPFAベースの内部配管系と、断熱外層とを備えた、予め乾燥したPTFE製の0.5Lの機械撹拌式反応器に、窒素を流しながらNH4F(77.1g)及び無水EMC(307.9g)を入れた。得られたスラリーを60℃で予熱した。比較例1に従って得たNHCSI(97.1g)を60℃に予熱し、溶融形態で一定流量で導入した。添加後、混合物を84℃で3時間維持した後、室温まで冷却した。窒素を流しながら懸濁液を0.22μmのPTFE膜を備えたブフナー型フィルターに移した。空になった反応器を追加のEMC(164.7g)で洗浄し、更に固体ケーキの洗浄に使用した。得られた合わせた濾液(474.7g)は、19F NMR(Bruker Avance 400 NMR)によって測定すると、NH4FSI(83.6g)中で93%の収率を示した。IC(DIONEX ICS-3000)の結果は、主要不純物(F-、Cl-、SO4
2-、NH2SO3
-、FSO3
-)の含有量が高く、追加の不純物が存在する、実施例4よりも優れた不純物プロファイルを示した。
【0126】
比較例4:バッチ式で蒸留されたHCSIのNH4CSIへの中和
比較例1に従って得たHCSI(100.7g)を、不活性雰囲気下、4つのバッフルとコンデンサーとを備えた予め乾燥した二重ジャケット付きの機械撹拌式の0.1Lのガラス製反応器に60℃で溶融状態で入れ、60℃で加熱した。反応器をKOHスクラバーに接続して酸性蒸気を中和した。粉末状のNH4Cl(24.9g)を、溶融HCSI UPに不活性雰囲気で15分間かけて徐々に導入した。混合物を加熱し、ガスの発生が止まるまで75~80℃に維持した。粘稠な無色の液体が定量的に得られた。スクラバーからの塩化物分析(IC、DIONEXICS-3000)により、放出されたHCSlの定量的な中和が確認された。単離したNH4CSIは、次の比較例でそのまま使用した。
【0127】
比較例5:NH4Fによる比較例3からのNH4CSIのフッ素化
比較例4で得たNH4CSI(98.1g)に対して実施例4に記載した条件と同じフッ素化条件を適用して、合わせた濾液(404.8g)を得た。これは、19F NMRによって測定すると、NH4FSI(77.6g)中で92.2%の収率を示した。IC(DIONEX ICS-3000)の結果は、実施例4と比較して、以下の表3に示すように、主要不純物(F-、Cl-、SO4
2-、FSO3
-)のほとんどの量の増加と、追加の不純物の存在を示した。
【0128】
【0129】
比較例6:固体の粗製NH4FSIの析出
比較例5で調製した濾液に対し、実施例5及び6の操作条件に厳密に従った連続工程を行って、白色固体の析出した粗製NH4FSIを得た。全体の析出収率は、最適化を行わない実施例5と同等であり、精製収率も同様に実施例6の1回目及び2回目の精製と同等であった。乾燥後、68gの白色固体を得た。これは、80.4重量%のNH4FSIと19.6重量%の1,4-ジオキサンとを含むNH4FSIの結晶化溶媒和物(NH4FSI-S2と表される)であり、19F-NMR(Bruker Avance 400 NMR)によって確認される。
【0130】
下の表4は、粗製NH4FSIと、1回目の精製及び2回目の精製の後に得られた比較のNH4FSI溶媒和物のIC(DIONEX ICS-3000)の結果を示している。
【0131】
【0132】
比較例7:精製されたNH4FSIのリチウム化
比較例6で得られた60gのNH4FSI-S2を200gの酢酸ブチルに溶解した。続いて、25重量%のLiOH・H2O水溶液44.5gを添加した。得られた二相混合物を室温で5時間撹拌し、その後デカンテーションした。有機相を回収し、減圧(0.1bar abs.)下で60℃で薄膜蒸発装置に入れた。得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の19F-NMR(Bruker Avance 400 NMR)により決定された純度は99.99モル%超であり、塩素とフッ素の含有量は40ppm未満であり、IC(DIONEX ICS-3000)によるSO4
2-やFSO3
-などの他の不純物は20ppm未満であり、金属元素の含有量は3ppm未満(ICP分析)であった。
【0133】
本発明の方法に従って製造されたUPグレードのHCSIは、後続の工程の性能を向上させて高純度のLiFSIを高収率で最終的に生成させ、特に、UPグレードのHCSIを精製するために必要な温度条件及び滞留時間を含むより穏やかな条件下でHCSIが得られることが、実施例において明確に示された。
【0134】
更に、本発明者は、本発明の方法に従って得られるUPグレードのHCSIをLiFSIの合成に使用すると、精製の必要性が減る一方で、収率を損なうことなしに最終的なLiFSIの不純物プロファイルが改善されることも見出した。フッ素化工程の前に得られる不純物のレベルが低下すると、精製工程の必要性が減るため、LiFSIプロセス全体としての環境全体への影響が低減される。最後に、最終的なLiFSI生成物の品質が向上することにより、この生成物のリチウムイオン二次電池における利用の際に優れた性能を発揮する。
【国際調査報告】