(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミドの電気化学的ヨウ素化
(51)【国際特許分類】
C07C 231/12 20060101AFI20240927BHJP
C25B 1/24 20210101ALI20240927BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240927BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240927BHJP
C25B 15/031 20210101ALI20240927BHJP
C25B 15/027 20210101ALI20240927BHJP
C25B 15/029 20210101ALI20240927BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20240927BHJP
C07C 235/48 20060101ALI20240927BHJP
C07C 237/46 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C07C231/12
C25B1/24
C25B9/19
C25B9/00 D
C25B9/00 E
C25B15/031
C25B15/027
C25B15/029
C25B15/02
C07C235/48
C07C237/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518420
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2022076320
(87)【国際公開番号】W WO2023046815
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504448162
【氏名又は名称】ブラッコ・イメージング・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ラットゥアーダ,ルチアーノ
(72)【発明者】
【氏名】カバロッティ,カミラ
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴェンツァーナ,ジョヴァンニ バッティスタ
(72)【発明者】
【氏名】ウッジェーリ,フルヴィオ
(72)【発明者】
【氏名】ミングッツィ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルトヴァ,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ソルティ,レティツィア
(72)【発明者】
【氏名】モレッリ,カルロ
【テーマコード(参考)】
4H006
4K021
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC30
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC16
4H006BC17
4H006BE53
4H006BJ50
4H006BM30
4H006BM74
4H006BN10
4H006BN30
4H006BV25
4H006BV72
4K021AA02
4K021BA02
4K021BA17
4K021BB01
4K021BB02
4K021BB03
4K021BB05
4K021CA10
(57)【要約】
本発明は、ヨウ素化X線造影剤の製造方法に関する。より具体的には、本発明は、N,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を、ヨウ化物イオン(I-)の供給源からin situで電気化学的に生成する分子状ヨウ素(I2)で電気化学的にヨウ素化することにより、N,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)を製造する方法に関する。ヨウ化物イオン(I-)は、ヨウ化水素(HI)またはヨウ化アルカリ金属の反応媒体中への溶解によって得られるか、またはN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミドとI2との反応中に生成する。本発明はまた、化合物(II)の上記電気化学的ヨウ素化によって得られた式(I)の中間体化合物の、N,N’-ビス[2,3-ジヒドロキシプロピル]-5(ヒドロキシアセチル)メチルアミノ]-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(イオメプロール)の製造における使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)の製造方法であって、以下の工程:
a)N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を、分子状ヨウ素(I
2)の存在下、反応媒体に溶解する工程、および
b)前記化合物(II)を分子状ヨウ素(I
2)でヨウ素化し、前記化合物(I)を得る工程、
を含み、ここで反応媒体は水溶液であり、分子状ヨウ素(I
2)はヨウ化物イオン(I
-)の供給源からin situで電気化学的に生成される、製造方法。
【請求項2】
水溶液が水である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程a)およびb)が、非分割電解セルを用いてガルバノスタティックモードで実施される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
分子状ヨウ素(I
2)が、定電流を印加することにより、HIおよびNaIまたはKIのようなヨウ化アルカリ金属から選択されるヨウ化物イオン(I
-)の供給源から電気化学的に生成される、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
分子状ヨウ素(I
2)が、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)とI
2との反応により生成されたヨウ化物イオン(I
-)から、1時間~6時間後にスイッチオンされる定電流を印加することにより電気化学的に再生成される、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
印加電流が5~100mA/cm
2の範囲で構成される、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
反応媒体が、プロトン酸の添加により5~7.5のpHに維持され、40℃~60℃の温度に維持される、請求項3~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
工程a)およびb)が、多孔性隔壁またはイオン交換膜によって分割された2つのコンパートメントによって形成された電解セルを用いて、ポテンショスタティックモードで実施される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項9】
分子状ヨウ素(I
2)が、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)とI
2との反応により生成されたヨウ化物イオン(I
-)から、SCE(飽和カロメル電極)に対し0.5~0.9V、好ましくは0.65~0.7Vのアノード電位を生じる定電圧を印加することにより電気化学的に再生成される、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
反応液が、強塩基の添加によりpH10~12に維持され、50℃~70℃の温度に維持される、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
セルの2つのコンパートメントがカチオン性膜によって分離されている、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
電解セルが、請求項1の工程a)に記載の化合物(II)およびI
2の水溶液で満たされたアノードコンパートメント(アノライト)と、0.1~0.5MのNaOH溶液で満たされたカソードコンパートメント(カソライト)とを備えている、請求項8に記載の製造方法。
【請求項13】
アノライト溶液とカソライト溶液を再循環させることにより、フラックス条件下で実施される、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
以下の工程:
c)請求項1の方法に従って、化合物(II)の電気化学的ヨウ素化により得られた式(I)の化合物を単離する工程
をさらに含む、請求項1~13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
N,N’-ビス[2,3-ジヒドロキシプロピル]-5(ヒドロキシアセチル)メチルアミノ]-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(IV)の製造方法であって、以下の工程:
a)N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を分子状ヨウ素(I
2)の存在下、反応媒体に溶解する工程;
b)前記化合物(II)を分子状ヨウ素(I
2)でヨウ素化し、前記化合物(I)を得る工程;
c)前記化合物(I)を単離する工程;
d)前記化合物(I)をClCH
2(CO)NHCH
3と反応させ、中間体(III)
【化1】
を得る工程;
e)前記中間体(III)を塩基の存在下でSmile転位に付し、最終化合物N,N’-ビス[2,3-ジヒドロキシプロピル]-5(ヒドロキシアセチル)メチルアミノ]-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(IV)
【化2】
を得る工程を含み、ここで、工程a)の反応媒体は水溶液であり、工程b)の分子状ヨウ素(I
2)はヨウ化物イオン(I
-)源からin situで電気化学的に生成される、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素化X線造影剤の製造法に関する。より具体的には、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)の電気化学的ヨウ素化によるN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)の製造方法、およびこのようにして得られた生成物のイオメプロールの合成における中間体としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
造影剤とその診断分野での使用については、文献に広く記載されている。特に、ヨウ素化された芳香族誘導体は、組織や臓器によるX線の吸収に依存する診断技術(X線撮影、断層撮影など)において、造影剤として用いられている化合物群のひとつである。これらのヨウ素化芳香族誘導体のうち、特に、よく知られ、日常診断に広く使用されているX線造影剤として、イオメプロール(N,N’-ビス[2,3-ジヒドロキシプロピル]-5(ヒドロキシアセチル)メチルアミノ]-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド)が挙げられる(A. Gallotti et al., Eur. J. Radiol.1994, 18(S1), S1-S12)。
【0003】
多くのヨウ素化X線造影剤と同様に、イオメプロールの化学構造は、増強された造影効果をもたらす三ヨウ素化芳香族核からなり、典型的には、芳香族環の2位、4位および6位で三ヨウ素化を受ける5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボン酸の誘導体から得られる。イオメプロールの工業的製造における合成経路に関する一般的な参考文献は、例えばWO00/32561を参照のこと。
【0004】
芳香核上の三ヨウ素化反応は、当該技術分野で知られている種々の手順に従って実施できる。イオメプロールやその他のヨウ素化X線造影剤の製造に現在使用されている工業的製造方法では、芳香族基質のヨウ素化は、通常、濃塩酸(HCl)中の一塩化ヨウ素(ICl)溶液を用いて行われる。
しかし、この方法にはいくつかの欠点がある。主なものとして、反応中に塩酸が生じるためにますます過酷になる極めて酸性の作業条件、使用されるヨウ素化剤の毒性と腐食性、限られた保存期間がある。
【0005】
一塩化ヨウ素(ICl)は、例えば、ヨウ素元素と塩素との反応によって製造されるが、このヨウ素は非常に有毒なガスであり、その毒性と危険性から、厳重な予防措置と安全対策が必要である。一塩化ヨウ素(ICl)は純水と反応してHCl、ヨウ素、酸素を生成する。このため、IClの安定した水溶液は、大量の塩化物アニオン(NaCl、KCl、HClなど)の存在下でしか得られない。
【0006】
あるいは、WO2011/003894に記載されているように、3モルのIClを、1モルの出発IClを電気化学的に酸化して得られる、ヨウ素の酸化状態が(III)に等しいヨウ素誘導体を分子状ヨウ素(I2)と反応させることによって製造できる。しかし、ヨウ素化反応を行うためには、ヨウ素化種を別のコンパートメントに移す必要があり、取り扱いが難しく、溶液の安定性が低い可能性があるという問題がある。
【0007】
いずれにしても、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミドのIClによるヨウ素化は、良好な収率と純度を達成するために、コントロールされたpHと温度(25℃)で行う必要がある。このことは、反応によって生じた酸を中和するだけでなく、IClが溶解した塩酸を中和するためにも、大量の塩基(NaOHなど)を反応液に加えなければならないことを意味する。この中和反応は非常に発熱性であるため、温度を25℃以下に保ち、副生成物の生成を避けるためには、塩基をゆっくりと加える必要がある。
【0008】
IClを使用する代わりに、水性媒体中で分子状ヨウ素(I2)を使用してヨウ素化反応を行うこともできるが、この方法の欠点は、反応中に添加したヨウ素の半分がヨウ化物イオンの形で失われ、特にヨウ化水素酸(HI)が生成することである。さらに、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミドの水溶液を分子状ヨウ素単独でヨウ素化すると、反応中に分子状ヨウ素の一部が溶液中のヨウ化物イオンと結合して、例えばトリヨウ化物イオン(I3
-)のような反応性のないポリヨウ化物イオンを形成するため、対応するトリヨウ素化化合物の収率は低くなる。
【0009】
反応に使用するヨウ素をすべて利用し、上記の問題を克服するために、通常、ヨウ素酸(HIO3)などの酸化剤が混合物に添加される(例えばWO2011/154500参照)。
【0010】
さらに別の方法として、WO2009/103666には、電気化学的に生成したヨウ素カチオン(I+)によって3,4-二置換フェノールをヨウ素化する、製造方法が記載されている。本開示によれば、メタノールなどの溶媒中のヨウ素原液中に白金シート陽極を挿入し、ガルバノスタティックモードで電気分解を行うことにより、別のコンパートメントでヨウ素化する前にI+溶液が得られる。次に、こうして得られたI+溶液に、ヨウ素化される基質を少しずつ加え、還流することによってヨウ素化を行い、変換を達成する。
【0011】
上記方法にはいくつかの問題点があり、例えば、ヨウ素化剤(I+)の溶液は、ヨウ素化を行うために別のコンパートメントに移さなければならず、I+の安定性と保存寿命が制限されるため、製造方法の収率に影響する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ヨウ素は非常に高価な試薬であるため、効率的かつ経済的な製造方法を実現するためには、ヨウ素化反応に使用されたヨウ素を回収・再利用するなどして、可能な限り損失を最小限に抑えることが望ましい。
さらに、上記の合成法では、蒸発によって溶媒を除去する工程をさらに加える必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の問題を克服するため、ヨウ素化種として、反応媒質中に存在するヨウ化物イオンの還元によって反応または生成するとin situで電気化学的に再生される分子状ヨウ素(I2)を使用することにより、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミドを効率的に製造できることを見出した。
有利なことに、本発明の合成法は、ヨウ素の損失を最小限に抑えながら、90%以上の変換収率を達成する。
【0014】
発明の要旨
本発明は、中間体N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミドを、ヨウ化物イオン(I-)の供給源からin situで電気化学的に生成される分子状ヨウ素(I2)と反応させることにより、N,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミドを製造する方法に関する。このようなヨウ化物イオンは、HIまたはヨウ化アルカリ金属(例えば、NaI、KI)の反応媒体への溶解によって得ることができるか、またはN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミドと分子状ヨウ素(I2)との反応から直接得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、N,N’-(2、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を、ヨウ化ナトリウム(NaI)の水への溶解により得られるヨウ化物イオン(I
-)からin situで電気化学的に生成される分子状ヨウ素(I
2)と反応させることによって、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)を製造するための、本発明の一実施形態の反応スキームを示す。電気化学セルは、グラファイトのカソードと、白金のアノードを備えた非分割セル(25x25mm)で、ガルバノスタティック制御下で電気化学反応が行われる。
【
図2】
図2は、N,N’-(2、3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を、化合物(II)とI
2との反応により得られるヨウ化物イオン(I
-)からin situで電気化学的に再生される分子状ヨウ素(I
2)と反応させることによって、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)を製造するための、別の実施形態による反応スキームを示す。電気化学セルは、グラファイトのカソードと白金のアノードを備えた非分割セル(25x25mm)で、ガルバノスタティック制御下で電気化学反応が行われる。
【
図3】
図3は、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を、化合物(II)とI
2との反応により得られるヨウ化物イオン(I
-)からin situで電気化学的に再生される分子状ヨウ素(I
2)と反応させることによって、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)を製造するための、本発明の別の好ましい実施形態に従って使用される2コンパートメント電気化学セルを表す。2つのコンパートメントはカチオン性膜で仕切られ(一方のコンパートメントには作用電極WEと参照電極REが、他方のコンパートメントには対極CEが装備されている)、電解はポテンショスタティックモードで行われる。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態のフロー電気化学セルの代表例である。(a)セル単独、(b)アノライト溶液とカソライト溶液が再循環するフローシステムに組み込まれたセル。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第一の態様は、N,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)の製造方法であって、以下の工程
a)N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を、分子状ヨウ素(I2)の存在下、反応媒体に溶解し、および
b)前記化合物(II)を分子状ヨウ素(I2)でヨウ素化し、前記化合物(I)を得ること、
を含み、該反応媒体は水溶液であり、分子状ヨウ素(I2)はヨウ化物イオン(I-)の供給源からin situで電気化学的に生成される、製造方法。
【0017】
好ましくは、水溶液は水である。
本発明の電気化学的工程b)は、ガルバノスタティックまたはポテンショスタティックモードで行うことができる。
好ましい実施形態によれば、ヨウ化物イオン(I-)は、ヨウ化水素(HI)またはヨウ化アルカリ金属の反応媒体中への添加と溶解によって供給されるか、または工程b)によるI2と式(II)の化合物との反応中に生成される。
【0018】
製造方法の工程b)は、以下のスキーム1で表すこともできる。
【化1】
【0019】
この反応は求電子置換であり、ヨウ素(I2)の1原子が芳香環の水素原子を置換する一方、ヨウ素の一方の原子は、ヨウ化物イオン(I-)として放出される。
本発明のヨウ素化反応の化学量論上、式(I)の対応する化合物にトリヨウ素化するには、式(II)の芳香族基質1モルあたり少なくとも3モルの反応性種としてのI2が必要である。
好ましくは、分子状ヨウ素(I2)とN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)とのモル比は、3:1~1.5:1、好ましくは2:1~1.5:1の範囲であり得る。
いくつかの好ましい実施形態では、本製造方法の工程a)とb)はいずれも、工業用途で従来から採用されているアノードとカソードの両方から選択される2つの電極からなる非分割電解セルの同じ単一コンパートメントで実施される。
【0020】
好ましくは、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)の水溶液を含んでなる前記電解セルは、カーボンベースのカソード(例えばグラファイト製)と、同様の電気化学系で典型的に使用されるものから選択される金属(例えば白金または周期表第VIIIB族の他の元素)からなるアノードを備える。このような金属は、例えば格子状、箔状、網状にできる。アノードはまた、上記の金属の十分な厚さの膜で適切に被覆された材料で作ることもできる。
あるいは、脈動電流や交流電流の実験では、白金や、Ta2O2、IrO2、RuO2、SnO2など、工業用電気化学のアノードに一般的に採用されている他の層でできたカソードを使用することも可能である。
【0021】
好都合なことに、このような実施形態では、本発明によるI2の電解生成は、ガルバノスタティックモードで、すなわち、水溶液をマグネットスターラーで攪拌しながら、プロセスの間に一定の電流密度を印加して操作することによって行うことができる。好ましくは、5~100mA/cm2の範囲で構成される定電流をプロセスの間に溶液に流す。より好ましくは、定電流は5~20mA/cm2の範囲である。
【0022】
あるいは、別の好ましい実施形態では、本製造方法の工程a)およびb)は、2コンパートメントの電解セルで実施できる。このタイプのセルを使用する利点のひとつは、最終生成物(I)が最大濃度に達した後、カソードで脱ヨード化されるリスクを抑制できることである。
【0023】
コンパートメントは、例えば多孔性バリアや隔膜、イオン交換膜のような透過性膜などの透過性セパレーターによって分割できる。
【0024】
一実施形態では、多孔性隔壁の存在によってコンパートメント間の分離を弱めることで、OH-イオンとH+/Na+イオンの両方の拡散および/または移動を可能にしつつ、pHを一定に保つことができる。
【0025】
あるいは、膜はより強力な分離を保証する。適切な膜の例としては、カソードからアノードへのOH
-イオンの自動的な流れが可能で、アノードでのpH低下とバランスをとるアニオン性膜、またはアノードからカソードへのH
+およびNa
+の流れと交差可能なカチオン性膜が挙げられる(
図3にそのような構成の一例を示す)。より好都合には、カチオン性膜は、特に工業的にスケールアップする場合において、本発明の製造方法に使用される。
好ましいアニオン性膜は、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリビニルベンゼンなどの高分子コアでできている。
好ましいカチオン性膜は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシ共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜およびそれらの誘導体からなる群から選択される高分子フルオロカーボン膜である。より好ましくは、カチオン性膜は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマー(Nafion(登録商標)117)である。
【0026】
本件において適切なアノードは、グラファイトアノードまたはガラス状カーボンアノードである。好ましくは、アノードはグラファイト、カーボンペーパーまたはカーボンクロスで作ることができ、後者は任意にカーボンフェルトと組み合わせることができる。
【0027】
カソードとしては、慣用の金属を使用できる。好ましくは、カソードは白金、ニッケル、イノックス鋼などで作ることができ、例えば完全固体材料や電子伝導経路の三次元ネットワークを形成する材料など、種々の構造を持つ電子伝導性材料で作ることができる。
好ましくは、2コンパートメントセルはフィルタープレスセルであり、これは工業規模のフロー電解反応にも適している。
【0028】
本発明の第一の実施形態では、分子状ヨウ素(I2)は、反応媒体に添加されたヨウ化物イオン(I-)の外部供給源から電気化学的に生成される。この実施形態によれば、製造方法は以下の工程:
a’)ヨウ化物イオン源(I-)が添加された反応媒体中に、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を溶解する工程、および
b’)前記化合物(II)を分子状ヨウ素(I2)でヨウ素化し、前記化合物(I)を得る工程、
を含み、ここで反応媒体は水溶液であり、分子状ヨウ素(I2)は添加されたヨウ化物イオン(I-)源からin situで電気化学的に生成される。
好ましくは、水溶液は水である。
好ましくは、この実施形態による電気化学反応は、ガルバノスタティックモードで行われる。
ヨウ化物イオン(I-)の供給源は、反応媒体に添加されたヨウ化水素(HI)またはヨウ化アルカリ金属の溶解によって得ることができる。
【0029】
典型的には、ヨウ化アルカリ金属は、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化リチウム(LiI)およびヨウ化セシウム(CsI)から選択され、好ましくはNaIおよびKIから選択される。
ヨウ化水素酸(HI)または適当なヨウ化金属(例えばNaIまたはKI)を、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)に対するヨウ化物(I-)のモル比が6:1~3:1、好ましくは4:1~3:1の範囲で、反応媒体に溶解する。通常、ヨウ化物を若干過剰に使用する。
好ましくは、工程b’)のヨウ素化反応中、常法に従って操作することにより、溶液を20℃~75℃、より好ましくは50℃~60℃、の範囲の一定温度に維持する。さらに好ましくは、工程b’)の反応は50℃の温度で行われる。
【0030】
反応媒体は、例えばH2SO4のようなプロトン酸を継続して添加することによって、pHを中性、すなわち5~7.5、好ましくは6~7の範囲に維持される。
【0031】
本発明によれば、ヨウ化物イオン(I
-)はアノード表面で酸化され、以下の反応:
【化2】
に基づいて分子状ヨウ素(I
2)となる。
【0032】
工程b’)では、生成した分子状ヨウ素をN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)と溶液中で反応させる。この反応は求電子置換であり、ヨウ素分子(I2)の1原子がN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)の芳香環の水素原子を置換し、ヨウ素のもう一方の原子はヨウ化物イオン(I-)として放出される。
【0033】
放出されたヨウ化物イオン(I-)は、電気化学的にヨウ素分子(I2)に再酸化され、in situでリサイクルされる。このようにして、セルコンパートメントに入れられたすべてのヨウ素原子が、ヨウ素化反応に完全に利用される。プロトン(H+)も本プロセスで生成され、カソード表面で気体の水素(H2)に還元される。
【0034】
ヨウ化アルカリ金属NaIを使用した場合の反応を
図1に示す。このプロセスに関与する反応の化学量論式を以下に示す。
【表1】
【0035】
反応時間は反応条件に依存し、主に、印加する電流密度と採用する電極表面の組み合わせに依存するが、反応物間の比率、純度、温度などにも依存する。当業者であれば、個人的な知識と経験を頼りに最適な条件を見つけることができる。反応の完了は、有機化学で使用される通常の分析手段、例えばHPLCのような分光測定装置で検出できる。
通常、反応は3時間~48時間、一般的には6時間~12時間で終了する。
【0036】
一般に、I2の発生は、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)との反応における消費速度よりも速い速度で起こるため、電気化学的に発生したI2は、紫色となるアノードに沈着し、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)との反応によってゆっくりと溶解する傾向がある。アノードに沈着したヨウ素を完全に溶解させるために、定電流を定期的にオフにできる。
好ましい実施形態では、2~5分ごとに30~60秒間のインターバルで電流をオフにするのが好都合である。
さらなるオプションとして、電極間に脈動電流を流して同じ結果を得ることもできる。
【0037】
本発明の第2の実施形態では、I2は、定電流を印加することにより、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)と分子状ヨウ素(I2)との反応により生成したヨウ化物イオン(I-)からin situで電気化学的に再生成される。
【0038】
この実施形態によれば、本製造方法は以下の工程:
a”)分子状ヨウ素(I2)の存在下、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を反応媒体に溶解する工程;
b”1)電流の非存在下で、前記化合物(II)を分子状ヨウ素(I2)で部分的にヨウ素化する工程、および
b”2)工程b”1)で得られた反応物に電流を流してヨウ素化を完了させ、前記化合物(I)を得る工程、
を含み、ここで、反応媒体は水溶液であり、分子状ヨウ素(I2)は工程b”2)で工程b”1)の反応中に生成したヨウ化物イオン(I-)からin situで電気化学的に再生成される。
好ましくは、水溶液は水である。
好ましくは、この実施形態による電気化学反応は、ガルバノスタティックモードで行われる。
【0039】
一実施形態では、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)の水溶液を、グラファイトカソードと白金アノードを備えた非分割電気化学セルに入れる。
工程a”)は、化合物(II)の溶解後の水溶液のpHを、NaOHまたはKOHのような塩基を用いて、>6、好ましくは>10の値に調整することによって、または代わりに、予め調製した、pH>6、好ましくは>10を有するN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)の水溶液を使用することによって実施される。
工程b”1)は、電流を流さずに行われる。このようにして、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)の部分的なヨウ素化が達成される。化合物(I)は、対応するモノ-およびジ-ヨウ素化中間体とともに得られ、反応からヨウ化物イオン(I-)が放出される。好ましくは、I2とN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)とのモル比は、3:1~1.5:1、好ましくは2:1~1.5:1の範囲である。
この反応は、好ましくは40℃~60℃、より好都合には約55℃の温度で、1時間~6時間、典型的には2時間~3時間行われる。
工程b”2)は、工程b”1)で得られた、マグネットスターラーで攪拌した溶液に電流、好ましくは定電流(ガルバノスタティックモード)を流すことによって行われる。このようにして、ヨウ素化反応後の工程b”1)で得られたヨウ化物イオンは、分子状ヨウ素(I2)に再び酸化され、この分子状ヨウ素(I2)は、残存するN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)、または反応混合物中に存在する対応するモノヨウ素化中間体およびジヨウ素化中間体と反応する。
溶液の温度は40℃~60℃、好ましくは55℃に維持する。例えば、印加電流は5~100mA/cm2の範囲で構成してもよい。通常、5~20mA/cm2の一定電流を3時間~48時間、一般的には6~12時間流す。
反応液は、例えばH2SO4のようなプロトン酸を継続的に添加することによって、中性のpH、すなわち5~7.5、好ましくは6~7の範囲に維持される。
【0040】
一般に、I
2の再生成は、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)との反応における消費速度よりも速い速度で起こるため、再生成されたI
2は、紫色となるアノード上に沈着する傾向があり、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)との反応によってゆっくりと溶解する。アノードに沈着したヨウ素を完全に溶解させるために、定電流を定期的にオフにできる。好ましい実施形態では、電流は2~5分ごとに30~60秒間のインターバルで都合よくオフにされる。
さらなるオプションとして、電極間に脈動電流を流して同じ結果を得ることもできる。
さらなるオプションとして、電極間に交流電流を流して同じ結果を得ることもできる。
本製造方法の第2の実施形態に関与する反応を
図2に示す。このプロセスに関与する反応の化学量論式を以下に示す。
【表2】
【0041】
N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)のヨウ素化反応では、生成物1分子あたり3個のヨウ化物イオンと3個のプロトンが生成する。
ヨウ化物イオンは反応中に失われ、貴重なハロゲン原子の50%が失われることになる。
有利なことに、工程b”2)の電気化学反応により、生成したヨウ化物イオンが再酸化され、完全に使用されるまで、および/または化合物(II)が化合物(I)に完全に変換されるまで、製造プロセスに再度導入される。
【0042】
本発明の第3の実施形態において、I2は、アノード電位がSCE(参照電極としての飽和カロメル電極)に対し0.5V~0.9Vとなるように電極間に一定の電圧を印加することによって、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)と分子状ヨウ素(I2)との反応によって生成されたヨウ化物イオン(I-)からin situで電気化学的に再生成される。
【0043】
この実施形態によれば、本製造方法は以下の工程:
a”)分子状ヨウ素(I2)の存在下、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を反応媒体に溶解する工程;
b”1)電圧の非存在下で、前記化合物(II)を分子状ヨウ素(I2)で部分的にヨウ素化する工程、および
b”2)工程b”1)で得られた反応に電圧を印加してヨウ素化を完了させ、前記化合物(I)を得る工程、
を含み、ここで、反応媒体は水溶液であり、分子状ヨウ素(I2)は工程b”2)で工程b”1)の反応中に生成したヨウ化物イオン(I-)からin situで電気化学的に再生成される。
【0044】
本実施形態による電気化学反応は、ポテンショスタティックモードで行われる。
好ましくは、水溶液はNaOH水溶液のような電解質溶液である。より好ましくは、0.1M~0.5Mの範囲の濃度のNaOH溶液である。
好ましくは、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)の水溶液を、カーボンベースのアノードと白金またはステンレス製のカソードを備えた2コンパートメントの電気化学セルに入れる。
【0045】
工程a”)は、化合物(II)の溶解後の水溶液のpHを、KOHまたはNaOHのような塩基で8~12の値に調整することによって行われる。
工程b”1)は化学反応のフェーズであり、電圧をかけずに行われる。このようにして、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)の部分的なヨウ素化が達成される。化合物(I)は、対応するモノ-およびジ-ヨウ素化中間体とともに得られ、反応からヨウ化物イオン(I-)が放出される。好ましくは、I2とN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)とのモル比は、2:1~1.5:1の範囲、好ましくは1.5:1である。
工程b”1では、高濃度のH+イオンが化合物(II)からのプロトンのさらなる除去を阻害し、求電子置換が阻害されるため、供給されたヨウ素原子の半分のみが基質と反応できる。したがって、この化学反応ステップの後、反応混合物は、化合物(I)だけでなく、未反応の化合物(II)および対応するモノ-またはジ-ヨウ素化中間体の残留量を含んでいる。
反応は、好ましくは50℃~70℃、より好都合には約60℃の温度で、5分~20分、典型的には約10分間行われる。
オプションとして、電気化学的なサポートなしに実施される工程a”とb”1は、別の容器で行い、工程b”2を行う際に電気化学セルに移すことができる。
【0046】
工程b”2)は、工程b”1)で得られた、マグネットスターラーで攪拌された溶液に、一定の電圧(ポテンシオスタティックモード)を印加することによって行われる。このようにして、ヨウ素化反応後の工程b”1)で得られたヨウ化物イオンは分子状ヨウ素(I2)に再酸化され、この分子状ヨウ素(I2)は、残存するN,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)、または反応混合物中に存在する対応するモノ-およびジ-ヨウ素化中間体と反応して、化合物(II)のトリ-ヨウ素化を完了する。
溶液の温度は50℃~70℃、好ましくは60℃に維持する。
好ましくは、SCEに対するアノード電位が0.6V~0.8V、より好ましくは0.65V~0.7Vで反応を行う。
【0047】
反応媒体は、NaOHペレットのような強塩基の添加により、塩基性のpH、すなわち約8~12に維持し、徐々に高まる酸性度を緩衝する。特に、カチオン性膜を持つ2つのコンパートメントセルで反応を行う場合は、pHをコントロールしなければならない。電気化学反応の中和に必要な量の塩基を、工程b”2の前または最中に、一度に加えることも、あるいは徐々に加えることもできる。好ましくは、電気化学的工程b”2を実施する前に化学量論的量のNaOHを添加する。
【0048】
この製造方法に関与する反応の化学量論を以下に示す。
【表3】
【0049】
N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)のヨウ素化反応では、生成物1分子あたり3個のヨウ化物イオンと3個のプロトンが生成する。
有利なことに、工程b”2)の電気化学反応により、生成したヨウ化物イオン(反応中に失われ、貴重なハロゲン原子の50%が失われる)はアノードで再酸化され、それらが完全に使用されるまで、および/またはそれらがin situで直接ヨウ素化剤I2に変換されることにより、化合物(II)が化合物(I)に完全に変換されるまで、製造プロセスに再度導入される。この製造方法で生成されたプロトン(H+)も、カソード表面で気体の水素(H2)に還元される。任意で、すべての実施形態において、このようにして製造された気体の水素は、その後、電気化学的工業プロセスで慣用的に使用されている方法、例えば回収膜などにより回収できる。
【0050】
好ましくは、ポテンショスタティックモードで行われる工程b”
2の電気化学反応は、電解質溶液を再循環させるフラックス条件下で、2コンパートメントフィルタープレスセルでも実施できる。例えば
図4は、フィルタープレスセル(a)と、溶液の再循環のための2台のポンプ(例えば遠心ポンプまたは蠕動ポンプ)および温度を50~70℃に保つための加熱手段を備えた回路からなるフローシステム(b)の代表例を示している。例えば、後者の実施形態によれば、電解質溶液は、工程a”で定義した化合物(II)とI
2の水性混合物(アノライト)と0.1M NaOH溶液(カソライト)である。
【0051】
驚くべきことに、フローシステムで操作した場合、化合物(I)は約100%の収率で得られた。このようなシステムは、本発明の製造方法が大規模プラントで使用され、イオメプロールまたは他のヨード化造影剤の工業生産に統合される可能性を示している。
【0052】
したがって、上記のすべての実施形態に例示される本発明の製造方法は、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)のトリヨウ素化を高収率で、かつヨウ素の損失なしに達成することを可能にする非常に効率的な製造方法である。実際、セル内に投入されたヨウ素原子はすべてヨウ素化反応に利用される。
【0053】
反応混合物のその後の処理を、当技術分野で知られている慣用の方法に従って行い、最終的に式(I)の化合物を単離することができる。
【0054】
本発明の別の目的は、上記の製造方法に従って化合物(II)の電気化学的ヨウ素化によって得られた式(I)の化合物を単離する工程c)をさらに含む、上記で定義された製造方法である。
式(II)で示される中間体は既知の出発物質であり、既知の方法に従って製造できる。一般的な参考文献としては、例えば前述のWO00/32561を参照されたい。
【0055】
式(I)で示される化合物は、上述のように、X線造影剤、特にイオメプロール(N,N’-ビス[2,3-ジヒドロキシプロピル]-5(ヒドロキシアセチル)メチルアミノ]-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド)の合成に有用な中間体である。
したがって、本発明の本製造方法の工程a)およびb)に従って化合物(II)の電気化学的ヨウ素化によって得られる、式(I)で示される中間体化合物の、N,N’-ビス[2,3-ジヒドロキシプロピル]-5(ヒドロキシアセチル)メチルアミノ]-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(IV、イオメプロール)の製造における使用は、本発明のさらなる目的である。
【0056】
好ましくは、本発明の目的は、N,N’-ビス[2,3-ジヒドロキシプロピル]-5(ヒドロキシアセチル)メチルアミノ]-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(IV)の製造方法であって、以下の工程:
a)N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)を分子状ヨウ素(I
2)の存在下、反応媒体に溶解する工程;
b)前記化合物(II)を分子状ヨウ素(I
2)でヨウ素化し、前記化合物(I)を得る工程;
c)前記化合物(I)を単離する工程;
d)化合物(I)をClCH
2(CO)NHCH
3と反応させ、中間体(III)
【化3】
を得る工程;
e)前記中間体(III)を塩基の存在下でSmile転位に付し、最終化合物N,N’-ビス[2,3-ジヒドロキシプロピル]-5(ヒドロキシアセチル)メチルアミノ]-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(IV)
【化4】
を得る工程
を含み、ここで、工程a)の反応媒体は水溶液であり、工程b)の分子状ヨウ素(I
2)はヨウ化物イオン(I
-)源からin situで電気化学的に生成される、製造方法。
【0057】
好ましくは、工程a)の反応媒体は水である。
上記工程d)およびe)の一般的な条件については、WO00/32561を参照のこと。
【0058】
本工程の出発物質となる式(II)の化合物は公知であり、上で記載したように、公知の方法に従って製造できる。同様に、本製造法で使用される他の反応剤および/または溶媒は公知であり、容易に入手可能である。
【0059】
本発明をさらに説明する目的で、本発明を限定することなく、本発明の各種実施形態に関する詳細を以下の実施例に示す。
【0060】
実験セクション
以下に示す実施例において以下の実験条件を使用した:
- マルチネックの丸底フラスコは、利用可能なネックに電極をはめ込むことで、非分割電気化学セルとして使用した(2電極システム)。電源Supply Lafayette ALP-5Aにより、電気化学的工程の実行に必要な定電流を供給した。アノードには白金箔(厚さ0.1mm)を使用した。カソードにはグラファイト棒を使用したが、脈動電流や交流電流の実験では白金箔を使用した。電気分解はガルバノスタティックモードで行った。
- 3つの電極:作用電極(WE、カーボンベースのアノード)、対極(CE、ステンレス製)、参照電極(RE、飽和カロメル電極(SCE)からなる2コンパートメントセル。
2つのコンパートメントはカチオン性膜(Nafionなど)で仕切られており、SCEはLuggingキャピラリー(ポリエチレンチューブ、直径2mm)に収容され、アノードコンパートメントのアノライトと接触している。実験に応じて、pHメーター、サーモスタット、ポテンショスタット、油圧ポンプのうち1つ以上をシステムに取りつけた。電気分解は、定電位でクロノアンペロメトリーを設定し、ポテンショスタティックモードで行った。
【実施例】
【0061】
実施例1
ヨウ化物イオン(NaI)を出発物質とするガルバノスタティックモードでの電気化学的ヨウ素化反応
グラファイトカソードと白金アノードとを備えた非分割電気化学セルにNaI(1.34mmol)と水(50mL)を入れ、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)(0.34mmol)の23.5%w/w水溶液を入れた。電気分解はガルバノスタティックモードで行った。すなわち、セルを流れる電流量をδ=8mA/cm2で一定に保った。溶液を50℃で攪拌し、98% H2SO4を継続的に添加することでpHを7に維持した。カソード表面では水素の発生がみられた。ヨウ素はアノード表面に直ちに生成し、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)との反応によってゆっくりと溶解した。アノードに沈着したヨウ素を完全に溶解させるため、電流を定期的にオフにした。反応3時間後、HPLC分析はモノおよびジヨード中間体の存在を示した。48時間の反応後、HPLCは式(I)のトリヨウ素化化合物の量が90%(HPLCピーク面積%)であることを示した。
【0062】
実施例2
I2を出発物質とするガルバノスタティックモードでの電気化学的ヨウ素化反応
グラファイトカソードと白金アノードとを備えた非分割電気化学セルに分子状ヨウ素(9.8mmol)と水(7mL)を入れ、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)(0.34mmol)の23.5%w/w水溶液を入れた。混合物を55℃にてマグネットスターラーで攪拌した。2時間後、HPLC分析は、対応するモノ-およびジ-ヨウ素化中間体の存在とともに、式(I)のトリ-ヨウ素化化合物の量が54%(ピーク面積%)であることを示した。この時点で電流のスイッチを入れ、δ=8mA/cm2のガルバノスタティックモードで電気分解を行った。溶液を55℃で攪拌し、98% H2SO4を継続的に添加することでpHを7に保った。カソード表面では水素の発生がみられ、アノード表面ではヨウ素の生成がみられた。48時間後のHPLC分析は、N,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)の量が90%(HPLCピーク面積%)であることを示した。
【0063】
実施例3
I2を出発物質とするポテンショスタティックモード(2コンパートメントセル)での電気化学的ヨウ素化反応
カチオン性膜(Nafion)で仕切られた2つのコンパートメントを有し、ステンレス、ニッケルまたは白金箔でできた電極(カソード)、グラファイト棒(アノード)、および参照(SCE)として飽和カロメル電極を取り付けた電気化学セルに、N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)(72mmol,100mL)の23.3% w/w水溶液とI2(29.46g)を入れた。カソード液は0.5M NaOH水溶液であった。
混合物を約65℃にてマグネットスターラーで攪拌し、NaOHペレットを継続的に添加してpHを10~12に保った。10分後、溶液は黄橙色となり、HPLC分析は、対応するモノ-およびジ-ヨウ素化中間体の存在とともに、N,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)の量が55%であることを示した。この時点でNaOH(113mmol)を徐々に加え、温度を65℃、pHを10~12に保ったまま、SCEに対し0.7Vの定電位でクロノアンペロメトリーを設定し、ポテンショスタティックモードで電気分解を行った。
35時間の反応後、HPLC分析はN,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)の量が90%(HPLCピーク面積%)であることを示した。
【0064】
実施例4
ポテンシオスタティックモード(フロー電気化学セル)での電気化学的ヨウ素化のスケールアップ
N,N’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(II)(576mmol,800mL)の23.3% w/w水溶液とI
2(220.4g)を1Lのガラス瓶にゆっくりと入れた。溶液を攪拌しながら、pHを約10に安定させて、溶液の色が暗赤色から透明な黄橙色に変わるまで約55~60℃に加熱した。
10分後、HPLC分析は、対応するモノ-およびジ-ヨード中間体の存在とともに、N,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)の量が55%であることを示した。
この時点で、
図4に示すように、溶液を、フィルタープレス電気化学セルのアノライトチャンバーに移してフロー電気分解を行った。このようなセルは10×30cmの大きさで、カチオン性膜(Nafion(登録商標)117)で仕切られた2つのコンパートメントで構成され、ステンレス製メッシュのカソード(CE)、アノード(WE)としての白金箔付きカーボンクロスストリップ、参照電極(SCE)として飽和カロメル電極がLugginキャピラリー(ポリエチレン、直径2mm)に収容されている。アノードコンパートメント(約180cm
3)は5層のカーボンフェルト(AvCarb(登録商標)Style G300A)で完全に満たされ、カソードコンパートメントは1Lの0.1M NaOHで満たした。カーボンクロスのアノードは、金属(例えばPt)箔によって外部電気回路に接続されている。アノードコンパートメントの化合物(II)+I
2溶液とカソードコンパートメントの0.1M NaOH溶液の両方を、2台のメンブレンポンプを用いて0.3L/分で再循環させた。
電解液の温度を温水で熱交換することで約65℃に保ち、SCEに対し0.65Vの定電位に設定してポテンショスタティックモードで電気分解を行った。pHを10~12に保つため、約35gのNaOHペレットを継続的に添加した。
9.3時間の反応後、アノライトの色はオレンジ色であり、HPLC分析は、N,N’-ビス-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-5-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(I)の量が100%(HPLCピーク面積%)であることを示した。
反応中にNaOHを加えた結果、混合物のpHが強い塩基性であったため、生成物は、対応するナトリウムフェネート(phenate)の形で単離され、特徴づけられた。
1H-および
13C-NMR分析により、加水分解生成物などの副生成物が存在しないことが確認された。
【表4】
参考文献
1.Gallotti et al., Eur. J. Radiol., 1994, 18(S1), S1-S2;
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【国際調査報告】