(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】インターロイキン-7(IL-7)ポリペプチドをコードする腫瘍溶解性ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
A61K 38/20 20060101AFI20240927BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240927BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20240927BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240927BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K38/20
A61K35/17
A61K35/761
A61K48/00
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K39/395 V
A61K45/00
A61P37/04
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518987
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 FI2022050662
(87)【国際公開番号】W WO2023057687
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524115338
【氏名又は名称】ティルト バイオセラピューティクス オーワイ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】カドリング,タチアナ
(72)【発明者】
【氏名】ヘムミンキ,アクセリ
(72)【発明者】
【氏名】クラブ,ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】キシャベイラ,ダフネ
(72)【発明者】
【氏名】ハヴネン,リイカ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BC83
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、導入遺伝子としてインターロイキン7(IL-7)ポリペプチドまたはその変異体をコードする核酸配列を含む腫瘍溶解性アデノウイルスベクターを提供する。本発明はまた、前記腫瘍溶解性ベクターならびに以下:生理学的に許容可能な担体、緩衝液、賦形剤、アジュバント、添加物、消毒剤、防腐剤、充填剤、安定剤および/または増粘剤の少なくとも1つを含む医薬組成物を提供する。本発明の特定の目的は、癌または腫瘍、好ましくは固形腫瘍の処置における使用のための前記腫瘍溶解性ウイルスベクターまたは医薬組成物を提供することである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入遺伝子としてインターロイキン7(IL-7)ポリペプチドまたはその変異体をコードする核酸配列を含む、腫瘍溶解性アデノウイルスベクターであって、前記腫瘍溶解性アデノウイルスベクターのバックボーンが、アデノウイルス血清型3(Ad3)のファイバーノブを有するアデノウイルス血清型5(Ad5)バックボーンである、腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項2】
インターロイキン7(IL-7)ポリペプチドまたはその変異体をコードする前記核酸配列が、前記腫瘍溶解性アデノウイルスベクターのE3領域内における欠失した核酸配列の場所にある、請求項1に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項3】
前記E3領域における核酸配列の前記欠失が、ウイルスgp19kおよび6.7kリーディングフレームの欠失である、請求項2に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項4】
前記腫瘍溶解性アデノウイルスベクターの前記アデノウイルスE1配列における24bp欠失(Δ24)を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項5】
Ad5/3-E2F-d24バックボーンを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項6】
前記構造Ad5/3-E2F-d24-IL-7を有する、請求項5に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項7】
さらなる導入遺伝子をコードする核酸配列を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項8】
前記さらなる導入遺伝子が、サイトカインをコードする、請求項7に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項9】
前記サイトカインが:TNFアルファ、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、補体C5a、CD40L、IL-12、IL-23、IL-21、IL-15、IL-17、IL-18、IL-2、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14-1、CCL14-2、CCL14-3、CCL15-1、CCL15-2、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23-1、CCL23-2、CCL24、CCL25-1、CCL25-2、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL3L1、CCL4、CCL4L1、CCL5(=RANTES)、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9、CCR10、CCR2、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCRL1、CCRL2、CX3CL1、CX3CR、CXCL1、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCR1、CXCR2、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR7およびXCL2からなるリストから選択される、請求項8に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項10】
前記サイトカインが、TNFアルファまたはIL-15である、請求項9に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクターならびに以下:生理学的に許容可能な担体、緩衝液、賦形剤、アジュバント、添加物、消毒剤、防腐剤、充填剤、安定剤および/または増粘剤の少なくとも1つを含む、医薬組成物。
【請求項12】
癌または腫瘍、好ましくは固形腫瘍の処置における使用のための、請求項1から10のいずれか一項に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の癌または腫瘍の処置における使用のための腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは医薬組成物であって、前記癌または腫瘍が、鼻咽腔癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎臓癌(renal cancer)、結合組織の癌、黒色腫、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳癌、咽喉癌、口腔癌、肝臓癌、骨癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリノーマ、褐色細胞腫、プロラクチノーマ、T細胞白血病/リンパ腫、神経腫、フォン・ヒッペル・リンドウ病、ゾリンジャー・エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、乏突起神経膠腫、神経芽腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨癌、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、原発部位不明の癌、カルチノイド、消化管のカルチノイド、線維肉腫、乳癌、パジェット病、子宮頸癌、食道癌、胆嚢癌、頭部癌、眼癌、頸部癌、腎臓癌(kidney cancer)、ウィルムス腫瘍、カポジ肉腫、前立腺癌、精巣癌、ホジキン氏病、非ホジキンリンパ腫、皮膚癌、中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌性膵臓癌、グルカゴノーマ、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟部肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌(stomach cancer)、胸腺癌、甲状腺癌、栄養膜癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、聴神経腫瘍、菌状息肉症、インスリノーマ、カルチノイド症候群、ソマトスタチン産生腫瘍、歯肉癌、心臓癌、口唇癌、髄膜癌、口腔癌(mouth cancer)、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌および扁桃腺癌からなる群より選択される、腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは医薬組成物。
【請求項14】
養子細胞治療用組成物と一緒に用いる、請求項12または13に記載の癌の処置における使用のための腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは医薬組成物。
【請求項15】
免疫チェックポイント阻害剤と一緒に用いる、請求項12から14のいずれか一項に記載の癌または腫瘍の処置における使用のための腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは医薬組成物。
【請求項16】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-L1またはPD1に選択的に結合する、請求項15に記載の癌または腫瘍の処置における使用のための腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは医薬組成物。
【請求項17】
PD-L1またはPD-1に選択的に結合する前記免疫チェックポイント阻害剤が:BMS-936559、LY3300054、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、エンバフォリマブ、コシベリマブ、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、シンチリマブ、チスレリズマブ、スパルタリズマブ、トリパリマブ、ドスタルリマブ、INCMGA00012およびAMP-514からなる群より選択される、請求項16に記載の癌の処置における使用のための腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは医薬組成物。
【請求項18】
放射線療法、モノクローナル抗体、化学療法、小分子阻害剤(small molecular inhibitor)、ホルモン療法または対象への他の抗癌剤もしくは介入と一緒に用いる、請求項12から17のいずれか一項に記載の癌の処置における使用のための腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは医薬組成物。
【請求項19】
免疫チェックポイント阻害剤と一緒に用いる、請求項12から17のいずれか一項に記載の癌の処置における使用のための腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは医薬組成物であって、前記アデノウイルスベクターが、前記構造Ad5/3-E2F-d24-IL-7を有しており、前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-L1またはPD-1に選択的に結合する、腫瘍溶解性アデノウイルスベクターまたは医薬組成。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生命科学および医学の分野に関する。具体的には、本発明は、ヒトの癌治療に関する。より具体的には、本発明は、インターロイキン-7(IL-7またはIL7)ポリペプチドをコードする核酸配列を含む腫瘍溶解性ウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
IL-7は、免疫細胞の拡大および増殖に関与する主要なサイトカインの1つである。その主な機能は、ナイーブT細胞およびメモリーT細胞の生存ならびにそれらの多様性を維持することである。IL-7は、T細胞活性化の負の調節因子の抑制を介するT細胞のエフェクター機能を改善することができ、IFNγ産生を高めることができる(Rosenberg et al.2006)。逆に、IL-7は、いくつかの機構を介する免疫抑制経路を拮抗する。制御性T細胞の活性化を防止し、エフェクター細胞を抑制するそれらの能力を阻害する(Pellegrini et al.2012)。さらに、IL-7は、T細胞の増殖の阻害を廃止し、それらの消耗を防止する(Heninger at al.2012)。
【0003】
組換えIL-7は、前臨床実験では期待できる結果を示したが、第I相臨床試験では、オフターゲット毒性が、用量制限毒性を引き起こした。16人のうち1人の患者のみが、腫瘍反応を起こしていた(Sportes et al.2010)。
【0004】
従来技術において、Huang et al.2021は、IL-7をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスベクターを開示しており、そのベクターのバックボーンは、アデノウイルス血清型5である。このベクターを膠芽腫の処置のために養子細胞療法(ACT)と組み合わせて使用した。この処置は、担癌マウスの生存の延長につながった。しかし、著者らは、研究の1つの主要な制限が、マウス由来膠芽腫細胞に感染するのを妨げる、IL-7がロードされた腫瘍溶解性アデノウイルスベクターの設計であると述べている。確かに、この研究で使用されたアデノウイルスベクターは、すべての腫瘍細胞で発現しないCXAR受容体を通って細胞に入る。
【0005】
Nakao et al.2020は、IL-7およびIL-12遺伝子の両方を保持する腫瘍特異的ワクシニアウイルスベクターを開示する。ベクターは、抗PD-1および抗CTLA4抗体と組み合わせて使用されて、マウスモデルにおける対側性腫瘍を処置し、腫瘍退縮をもたらす。しかし、著者らは、チェックポイント阻害剤が、ワクシニアウイルスの複製を妨げる可能性があると述べている。
【0006】
長年の開発の末、腫瘍溶解性ウイルスは、現在、癌の治療剤として使用され始めている。ウイルスの有効性に影響を及ぼす作用機序および要因に関する発見があったが、ウイルス療法に対する全体的な反応を決定する経路を同定する必要性が依然としてある。臨床試験において、腫瘍溶解性ウイルスは、好ましい安全性プロファイルおよび有望な有効性を示している。
【0007】
国際公開第2014170389号は、単独または治療的使用のための治療用組成物を一緒に用いる腫瘍溶解性アデノウイルスベクターおよび癌のための治療法に関する。例えば、養子細胞治療用組成物および腫瘍溶解性アデノウイルスベクターの個別投与が開示される。養子細胞療法(therapiess)は、癌を処置するためだけでなく、感染症および移植片対宿主疾患などの他の疾患を処置するための強力なアプローチである。養子細胞移植は、免疫学的機能性および移植の特性を移植する目的で、エクスビボで増殖した細胞、最も一般的には免疫由来細胞の宿主への受動移入である。国際公開第2014170389号はまた、腫瘍溶解性アデノウイルスベクターの核酸配列を開示する。
【0008】
国際公開第2016146894号は、二重特異性モノクローナル抗体をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスベクターを開示する。
【0009】
欧州特許第3858369号明細書は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスと免疫チェックポイント阻害剤との併用による癌治療に関する。ウイルスは、2つのインターロイキン、IL-7およびIL-12をコードし、免疫チェックポイント阻害剤とともに投与されて、抗腫瘍効果をさらに改善する。
【0010】
癌患者にとって、特に大きな転移負荷を有する患者における腫瘍溶解性ウイルス治療を改善する余地が依然としてある。腫瘍溶解性ウイルスの活性に関連する経路のさらなる特性評価は、ウイルス療法の有効性を改善するための潜在的な標的を明らかにする可能性がある。そのため、単独でまたは他の療法と一緒での腫瘍溶解性ウイルスベクターの有効性は、依然として改善される可能性がある。本発明は、特異的ウイルスベクターを利用することにより、例えば養子細胞療法および/または免疫チェックポイント阻害剤を用いる、癌治療剤にとっての効率的なツールおよび方法を提供する。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、癌処置における腫瘍溶解性アデノウイルスの使用に見られる制限を克服することである。したがって、本発明の目的は、効果がなく、危険で予測できない癌治療の問題を克服するための簡単な方法およびツールを提供することである。本発明の実施形態において、癌治療のための新規のアプローチおよび手段が、このように提供される。本発明の目的は、独立請求項で述べられているものにより特徴づけられている特異的ウイルスベクター、方法および配置により達成される。本発明の特定の実施形態は、従属請求項に開示されている。
【0012】
具体的には、本発明は、導入遺伝子としてインターロイキン7(IL-7)ポリペプチドをコードする核酸配列を含む腫瘍溶解性アデノウイルスベクターを提供する。本発明はまた、前記腫瘍溶解性ベクターならびに以下:生理学的に許容可能な担体、緩衝液、賦形剤、アジュバント、添加物、消毒剤、防腐剤、充填剤、安定剤および/または増粘剤の少なくとも1つを含む医薬組成物を提供する。本発明の特定の目的は、癌または腫瘍、好ましくは固形腫瘍の処置における使用のための前記腫瘍溶解性ウイルスベクターまたは医薬組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】インビトロでのAd5/3-E2F-d24-IL7の機能性。(A)E2Fプロモーター;E1A内の24塩基対の欠失;E3領域内で挿入されたヒトIL7導入遺伝子;およびAd5ファイバー内のAd3血清型ノブを含有するキメラ5/3腫瘍溶解性アデノウイルスの図式提示。(B)上皮腺癌(A549)および横紋筋肉腫(RD)における感染後4日目で1個、10個、100個または1000個のウイルス粒子(VP)/細胞の添加後の相対的なヒト癌細胞生存率。Ad5/3-E2F-d24-IL7およびAd5/3-E2F-d24の腫瘍細胞致死能間に大きな差異は観察されず、したがって、IL7導入遺伝子の存在が、ヒト癌細胞におけるAd5/3-E2F-d24-IL7の腫瘍溶解力を低下させないことを示唆した。モックと比較した統計的有意性は、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、および****p<0.0001として表される。(C)ハムスター肺癌(HT100)およびハムスター平滑筋肉腫(DDT1-MF2)における感染後5日目または、ハムスター膵臓癌(HapT1)における感染後8日目で100、1000、5000または10000VP/細胞の添加後の相対的なハムスター癌細胞生存率。Ad5/3-E2F-d24-IL7およびAd5/3-E2F-d24の細胞致死能間に大きな差異はなく、したがって、IL7導入遺伝子の存在が、ハムスター癌細胞におけるAd5/3-E2F-d24-IL7の腫瘍溶解力を低下させないことを示唆した。モックと比較した統計的有意性は、**p<0.01、***p<0.001、および****p<0.0001として表される。(D)IL7発現を、トランスフェクト癌細胞から分析した。1000VP/細胞の感染後(A549およびRD)または10000VP/細胞の感染後(HT100およびDDT1-MF2)3日目に回収された細胞上清で、IL7濃度を測定した。分析により、Ad5/3-E2F-d24-hIL7が、多数の癌細胞株においてIL7の発現を誘導することができることが示された。(E)A549細胞株の1000VP/細胞の感染後に測定されたIL7の生理活性。上清を濾過し、増殖培地で希釈して、IL7依存性マウス細胞株2E8に適用した。組換えマウスIL7(rmIL7)およびマウスIL7(rhIL7)を、20ng/mlで対照として使用した。これらのデータは、Ad5/3-E2F-d24-IL7での感染で癌細胞により産生されたIL-7が、機能的であることを示唆する。三連で実行されたインビトロのデータセットおよびすべてのデータを、平均±SEMと示す
【
図2】インビボでのAd5/3-E2F-d24-IL7の有効性。(A)PBS、Ad5/3-E2F-d24またはAd5/3-E2F-d24-IL7ウイルスで処置された実験群からの30日目までの腫瘍増殖。腫瘍体積を、0日目に対して正規化した。データを、中央値+範囲として表す。正規化された腫瘍体積からの統計的有意性は、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、および****p<0.0001として表される。Ad5/3-E2F-d24-IL7での処置により、実験対照(非武装化(unarmed)ウイルス(Ad5/3-D24-E2F)およびモック)と比べて腫瘍体積の有意な減少が引き起こされ、したがって最良の抗腫瘍効果を与えた。(B)腫瘍分解物における免疫関連遺伝子発現の変化。全RNAを、腫瘍組織から単離し、その後、cDNA合成および定量的リアルタイムPCRを行った。PCRを二連で実行し、データをモックに対して正規化した。データは、平均+SEMとして表される。Ad5/3-E2F-d24-IL7処置を受けた腫瘍は、モック処置動物と比べて免疫関連遺伝子の増加した転写を示し、IL-7をコードするウイルスが、優れた局所的免疫活性化を誘導することができることを示唆した。
【
図3】エクスビボの腫瘍培養での癌患者における溶解能力およびIL7武装化(armed)アデノウイルスの複製(A)卵巣(HUSOV4およびOvCaS)ならびに頭頸部(HUSHN11)癌患者からの腫瘍分解物の生存率を、100VP/細胞での腫瘍溶解性ウイルスの感染後の異なる日に評価した。細胞生存率データを、非感染モックに対して正規化する。実験を、三連で実行した。統計的有意性は、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、および****p<0.0001として表される。ほとんどの癌患者試料においてAd5/3-E2F-d24-IL7およびAd5/3-E2F-d24の腫瘍細胞致死能間に大きな差異は観察されず、IL7導入遺伝子の存在が、癌患者の腫瘍培養においてAd5/3-E2F-d24-IL7の腫瘍溶解力を低下させないことを示唆した。(B)卵巣(HUSOV4およびOvCaS)ならびに頭頸部(HUSHN11およびHUSHN10)試料からの定量的リアルタイムPCRを通じたAd5/3複製評価。ウイルスのコピー数を、試料中のゲノムDNAの量に対して正規化し、ヒトβ-アクチンの発現量により決定した。PCRを、二連で実行した。データから、経時的なAd5/3-E2F-d24およびAd5/3-E2F-d24-IL7の間のウイルスDNAレベルの同様のパターンが示され、IL-7導入遺伝子が、ウイルス複製を妨げないことを示唆した。(C)サイトカインビーズアレイ(CBA)アッセイにより測定された、卵巣(HUSOV4およびOvCaS)ならびに頭頸部(HUSHN15およびHUSHN17)試料からの上清におけるIL7タンパク質濃度。実験を、三連で実行した。これにより、IL-7が、Ad5/3-E2F-d24-IL7で感染させたヒト癌患者の試料で生成されることが示唆される。データはすべて、平均+SEMとして表される。
【
図4】腫瘍微小環境におけるサイトカインおよびケモカインの評価。腫瘍溶解性アデノウイルスのMOI100での感染3日後に卵巣癌試料HUSOV4、HUSOV5およびOvCaSから得られた(A)炎症性サイトカイン、(C)抗炎症性サイトカインおよび(E)ケモカインのレベル。プールされた(B)炎症性および(D)抗炎症性の変化ならびに(F)炎症性サイトカインの抗炎症性サイトカインに対する全体比率。炎症性サイトカインおよびケモカインの含有量の増加は、対照と比べて、ヒト癌患者の試料の微小環境を免疫刺激に良好に分極化させる、IL-7ウイルスの能力を示す。さらに、IL-7ウイルス処置ウェルでは、抗炎症性サイトカイン含有量における一般的な最小の影響または減少が観察された。データはすべて、モックに対して正規化された。すべての実験を、三連で実行し、得られるデータは、平均+SEMとして表される。統計的有意性は、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、および****p<0.0001として表される。
【
図5】卵巣癌エクスビボ試料(HUSOV4およびOvCaS)における、浸潤CD4+およびCD8+T細胞の活性化ならびに細胞傷害の評価。(A)CD4+およびCD8+細胞集団における、CD69+細胞の頻度。(B)CD4+およびCD8+細胞での活性化受容体CD69の発現量(MFI、平均蛍光強度として指定される)。(C)HUSOV4試料における、パーフォリンおよびグランザイムBを発現するCD4+およびCD8+細胞の頻度。(D)OvCaS試料における、パーフォリンおよびグランザイムBを発現するCD4+およびCD8+細胞の頻度。全体では、データは、Ad5/3-E2F-d24-hIL7を用いる患者由来の卵巣のエクスビボ腫瘍培養の処置が、T細胞亜集団を活性化し、その頻度を高めることを示唆している。すべてのフローサイトメトリー実験を、二連で行い、得られるデータは、平均+SEMとして表される。統計的有意性は、*p<0.05、**p<0.01として表される。
【
図6】Ad5/3-E2F-d24-IL7(TILT-517)および免疫チェックポイント阻害剤(抗PD1および抗PD-L1)で処理された患者由来の腎細胞癌(RCC)試料(HUSRenca5)の相対的な癌細胞生存率。(A)1日目、2日目、3日目、4日目、および5日目での、HUSRenca5腫瘍細胞の全体的な細胞生存率。MTSアッセイにより評価された(B)2日目および(C)5日目の腫瘍細胞致死の詳細な視点。(B)および(C)において、試料は、左から右に:モック、TILT-517、抗PD-1、抗PD-L1、TILT-517+抗PD-1、TILT-517+抗PD-L1であり;*p<0.05、**p<0.01および***p<0.001である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
インターロイキン7(IL-7)およびその変異体
本明細書で使用されるように、「IL-7」または「IL7」は、天然か組換えかを問わず、野生型IL-7アイソフォーム1ポリペプチド、または前記ポリペプチドをコードする核酸(すなわち遺伝子)を意味する。成熟ヒトIL-7は、152のアミノ酸配列として存在する(シグナルペプチドなし、追加の25のN末端アミノ酸からなる)。ヒトIL-7のアミノ酸配列(配列番号1)は、アクセッション番号NP_000871.1下、ジェンバンクで見つけられる。その最も広い意味では、用語「IL-7」または「IL7」はまた、癌治療に適したIL-7変異体のいずれかを指す場合がある。
【0015】
本明細書で使用されるように、「IL-7変異体」、「変異体IL-7」、「vIL7」または「vIL-7」は、ポリペプチドまたは前記ポリペプチドをコードする核酸(すなわち遺伝子)を意味し、ここで、インターロイキン-7ポリペプチドに対する置換などの特定の変化または修飾が行われるかまたは見出されている。用語「ポリペプチド」は、本明細書において、その長さまたは翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)に関係なく、アミノ酸残基のいずれかの鎖を指す。変異体IL-7ポリペプチドはまた、天然のIL-7ポリペプチド鎖の1つもしくは複数の部位または他の残基でのアミノ酸の挿入、欠失、置換および修飾により特徴づけることができる。そのような挿入、欠失、置換および修飾はいずれも、結果的に、好ましくは癌治療のためのIL-7変異体の特性を改善する意図で受容体サブユニットIL-7Rまたはその構成成分への修飾された結合を示す、変異体IL-7となる場合がある。代表的な変異体は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれより多いアミノ酸の置換を含むことができる。変異体はまた、IL-7の他の位置(すなわち、変異体の活性または二次構造もしくは三次構造に対して最小限の効果を有する位置)で、保存的修飾および置換を含む場合がある。IL-7変異体はまた、天然のアイソフォームを含む場合がある(Vudattu et al.2008)。天然のIL-7アイソフォーム前駆体のための配列は、アクセッション番号NP_001186815.1(アイソフォーム2)、NP_001186816.1(アイソフォーム3)およびNP_001186817.1(アイソフォーム4)下、ジェンバンクで見つけることができるが、アイソフォーム1の配列と比較して、アイソフォーム2は、77~120位で44-アミノ酸欠失を有し、アイソフォーム3は、121~138位で18-アミノ酸欠失を有し、アイソフォーム4は、76~138位で62-アミノ酸欠失を有する。
【0016】
代表的な変異体IL-7ポリペプチドは、配列番号1により表されるポリペプチドがIL-7Rを結合する親和性よりも高いまたは低いといった、変更された親和性を有するIL-7Rを結合する配列番号1と少なくとも約80%同一であるアミノ酸配列を含む。代表的な変異体IL-7ポリペプチドは、野生型IL-7と少なくとも約50%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約87%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一であり得る。変異体ポリペプチドは、アミノ酸残基の数または含有量における変化を含むことができる。例えば、変異体IL-7は、野生型IL-7よりも、より多いまたはより少ないアミノ酸残基の数を有することができる。あるいは、またはさらに、代表的な変異体ポリペプチドは、野生型IL-7に存在する1つまたは複数のアミノ酸残基の置換を含有することができる。
【0017】
別の実施形態において、IL-7ポリペプチドはまた、IL-7ポリペプチドおよび別の異種ポリペプチドを含む融合ポリペプチドまたはキメラポリペプチドとして調製され得る。IL-7および抗体またはその抗原結合部分を含むキメラポリペプチドを生成することができる。キメラタンパク質の抗体または抗原結合成分は、標的化部分として機能することができる。例えば、キメラタンパク質を細胞または標的分子の特定のサブセットに局所化するために使用され得る。
【0018】
本発明は、特に、導入遺伝子として上述のIL-7ポリペプチドのいずれかをコードする核酸配列を含む腫瘍溶解性ウイルスベクターの設計に向けられる。
【0019】
ウイルスベクター
腫瘍溶解性ウイルスベクターは、癌細胞に選択的に感染し、複製し、破壊することができる、治療的に有用な抗癌ウイルスである。最新の腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍選択性があるように適応されるかまたは設計されるが、癌細胞を自然に好む性質があるレオウイルスおよびムンプスウイルスなどのウイルスがある。多くの遺伝子操作された腫瘍溶解性ウイルスベクターは、腫瘍特異的プロモーター要素を利用して、癌細胞においてのみ自律増殖可能になる。癌細胞により選択的に発現された表面マーカーはまた、ウイルス侵入のための受容体として使用することにより、標的化され得る。アデノウイルス、レオウイルス、麻疹、単純ヘルペスウイルス、ニューキャッスル病ウイルスおよびワクシニアウイルスを含む多数のウイルスは、現在、腫瘍溶解剤として臨床試験されている。
【0020】
好ましくは、本発明で使用される腫瘍溶解性ベクターは、ヒトまたは動物を処置するのに適したアデノウイルスベクターである。本明細書で使用されるように、「腫瘍溶解性アデノウイルスベクター」は、正常な細胞に対して腫瘍における選択的複製により癌細胞に感染し、死滅させることができるアデノウイルスベクターを指す。本明細書で使用されるように、表現「アデノウイルス血清型5(Ad5)核酸バックボーン」は、Ad5のゲノムを指す。同様に、「アデノウイルス血清型3(Ad3)核酸バックボーン」は、Ad3のゲノムを指す。「Ad5/3ベクター」は、Ad5およびAd3ベクターの両方の部分を含むまたはそれを有するキメラベクターを指す。
【0021】
本発明の一実施形態において、アデノウイルスベクターは、ヒトウイルスのベクターである。具体的には、アデノウイルスベクターは、Ad5/3ベクターである。一実施形態においてバックボーンは、Ad3ファイバーノブをさらに含むAd5核酸バックボーンである。換言すると、構築物は、Ad3由来のファイバーノブを有するが、ゲノムの残りの部分またはその残りの大部分は、Ad5由来である(例えば、国際公開第2014170389号を参照されたい)。
【0022】
アデノウイルスベクターは、当技術分野で既知のいずれかの方法、例えば任意のウイルス領域を欠失、挿入、突然変異または修飾することにより改変されている場合がある。ベクターは、複製に関して腫瘍特異的に作られている。例えば、アデノウイルスベクターは、腫瘍特異的プロモーターの挿入(例えばE1を駆動するため)、領域の欠失(例えば、「Δ24」、E3/gp19k、E3/6.7kで使用されるE1の定常領域2)および1つまたは複数の導入遺伝子の挿入などの、E1、E3および/またはE4における改変を含む場合がある。
【0023】
特定の実施形態において、一般的にアデノウイルスベクターの複製を支援することが既知であるE1B 19K遺伝子は、国際公開第2020249873号に記載されるように、本ベクター内に無効な欠失dE1B 19Kを有する。
【0024】
腫瘍特異的腫瘍溶解性アデノウイルスの生成のための1つのアプローチは、E1の定常領域2(CR2)に影響する、24塩基対(bp)の欠失(「Δ24」または「d24」)を設計することである。野生型アデノウイルスにおいて、CR2は、合成(S)期、すなわちDNA合成期または複製期の誘導のための細胞性Rb腫瘍サプレッサー/細胞周期レギュレータタンパク質を結合する役割を担う。pRbとE1Aとの間の相互作用は、E1Aタンパク質保存領域のアミノ酸121~127を必要とする。ベクターは、Heise C.et al.(2000,Nature Med 6,1134-1139)およびFueyo J.et al.(2000,Oncogene 19(1):2-12)にしたがって、そのベクターのアミノ酸122~129に対応するヌクレオチドの欠失を含む場合がある。Δ24を有するウイルスは、G1-Sチェックポイントを克服する能力が低下しており、すべてではないにしても、ほとんどのヒト腫瘍を含む、この相互作用が必要ではない細胞、例えば、Rb-p16経路内に欠陥のある腫瘍細胞でのみ効率的に複製することが知られている。本発明の一実施形態において、ベクターは、アデノウイルスE1のRb結合定常領域2における24bpの欠失(「Δ24」または「d24」)を含む。
【0025】
また、E1A内在性ウイルスプロモーターを、例えば腫瘍特異的プロモーターにより置き換えることも可能である。例えば、E2F1(例えばAd5ベースのベクター内)またはhTERT(例えばAd3ベースのベクター内)プロモーターは、E1A内在性ウイルスプロモーターの代わりに利用され得る。このベクターは、E1Aの腫瘍特異的発現のためのE2F1プロモーターを含む場合がある。E1Aプロモーターもまた、欠失され得る。
【0026】
E3領域は、エクスビボのウイルス複製に必須ではないが、E3タンパク質は、宿主免疫応答の調節において、すなわち、自然免疫応答および適応免疫応答の両方の阻害において、重要な役割がある。本発明の一実施形態において、腫瘍溶解性アデノウイルスベクターのE3領域における核酸配列の欠失は、ウイルスgp19kおよび6.7kリーディングフレームの欠失である。E3におけるgp19k/6.7kの欠失は、アデノウイルスE3A領域由来の965塩基対の欠失を指す。得られるアデノウイルス構築物において、gp19kおよび6.7k遺伝子は両方とも欠失している(Kanerva A et al.2005,Gene Therapy 12,87-94)。gp19k遺伝子産物は、小胞体における主要組織結合性複合体I(MHC1、ヒトのHLA1として既知)分子を結合し、分離すること、および細胞傷害性Tリンパ球により、感染した細胞の認識を妨げることが知られている。多くの腫瘍でHLA1/MHC1が不足しているので、gp19kの欠失は、ウイルスの腫瘍選択性を高める(ウイルスは、正常細胞からは野生型ウイルスよりも早く除去されるが、腫瘍細胞では差がない)。6.7kタンパク質は、細胞表面に発現し、それらは、リガンド(TRAIL)受容体2を含むTNF関連アポトーシスのダウンレギュレーションに関与している。
【0027】
本発明の一実施形態において、導入遺伝子、すなわちインターロイキン7(IL7)をコードする遺伝子は、E3プロモーター下でgp19k/6.7k欠失E3領域に配置される。これは、腫瘍細胞に対する導入遺伝子の発現を制限し、ウイルスの複製およびその後に続くE3プロモーターの活性化を可能にする。特定の実施形態において、インターロイキン7をコードする核酸配列は、ウイルスgp19kおよび6.7kリーディングフレームの欠失した核酸配列の場所に挿入される。本発明の別の実施形態において、E3 gp19k/6.7kは、ベクター内に維持されるが、1つまたは多くの他のE3領域は、欠失している(例えば、E3 9kDa、E3 10.2kDa、E3 15.2kDaおよび/またはE3 15.3kDa)。
【0028】
E3プロモーターは、当技術分野で既知の任意の外来性(例えば、CMVまたはE2Fプロモーター)または内在性プロモーター、具体的には、内在性E3プロモーターであり得る。E3プロモーターは、主に複製により活性化されるが、いくらかの発現は、E1が発現される場合に生じる。Δ24タイプのウイルスの選択性が、E1発現後に生じる(E1がRbを結合することができない場合)ので、これらのウイルスは、形質導入された正常細胞でもE1を発現する。したがって、腫瘍細胞に対してE3プロモーターが媒介する導入遺伝子発現を制限するために、E1発現も調節することは極めて重要である。
【0029】
本発明の特定の実施形態は、複製が、二重選択性デバイス:定常領域2で突然変異しているアデノウイルスE1A遺伝子の前に配置されたE2F(例えばE2F1)腫瘍特異的プロモーターにより網膜芽細胞腫(Rb)/p16経路に制限されている腫瘍溶解性アデノウイルスベクター(例えばAd5/Ad3ベクター)を含み、そのため、得られるE1Aタンパク質は、細胞でRbを結合することができない。さらに、ファイバーは、5/3キメリズムにより修飾されており、腫瘍細胞への効率的な侵入を可能にする。
【0030】
本発明の特定の実施形態において、腫瘍溶解性アデノウイルスベクターは:
1)アデノウイルスE1のRb結合定常領域2における24bpの欠失(Δ24);
2)ウイルスgp19kおよび6.7kリーディングフレームの核酸配列の欠失;ならびに
3)ポイント2)で定義された欠失した核酸配列の代わりに、インターロイキン7(IL7)導入遺伝子をコードする核酸配列
を含む。
【0031】
以下の実験セクションにおいて、Ad5/3-E2F-d24バックボーンに基づいて腫瘍溶解性アデノウイルスを構築し、特徴づけ、IL7でそれを武装化(armed)した。ウイルスは、E2FプロモーターおよびE1A定常領域2における24塩基対の欠失(「D24」)を有しており、rb/p16経路欠陥細胞においてのみ、その複製を可能にするが、これはすべての癌細胞に共通の特徴の1つである。E1B領域は、癌細胞アポトーシス(dE1B 19K)を誘導するために欠失している。さらに、癌細胞に形質導入し、その抗腫瘍効果を強化するその能力を改善するため、ウイルスは、血清型3由来のファイバーノブを特徴とするが、ゲノムの残りは、血清型5に由来する。最も重要なことには、Ad5/3ウイルスは、ヒトでの良好な安全性プロファイルを有する。好ましくは、IL-7で武装化(armed)された腫瘍溶解性ウイルスは、潜在的なプラットフォームとして、T細胞併用療法またはチェックポイント阻害剤とともに使用され、現在不治の固形腫瘍を安全で効果的に処置する。特に、T細胞が機能障害性である腫瘍の種類は、処置されることが好ましい。
【0032】
一実施形態において、本発明は、インターロイキン7(IL7)導入遺伝子をコードする核酸配列を含む腫瘍溶解性ウイルスベクター、好ましくは腫瘍溶解性アデノウイルスベクターに向けられる。
【0033】
好ましい実施形態において、腫瘍溶解性アデノウイルスベクターのバックボーンは、アデノウイルス血清型5(Ad5)または血清型3(Ad3)核酸バックボーンである。
【0034】
より好ましい実施形態において、インターロイキン7(IL7)導入遺伝子をコードする前記核酸配列は、前記腫瘍溶解性アデノウイルスベクターのE3領域で欠失した核酸配列の場所にある。最も好ましくは、E3領域における核酸配列の欠失は、ウイルスgp19kおよび6.7kリーディングフレームの欠失である。
【0035】
別の好ましい実施形態において、ベクターはまた、前記腫瘍溶解性アデノウイルスベクターのアデノウイルスE1配列における24bpの欠失(Δ24)を含む。
【0036】
別の好ましい実施形態において、ベクターはまた、E1B(dE1B 19K)の無効化欠失を含む。
【0037】
別の好ましい実施形態において、ベクターはまた、Ad5/3ファイバーノブを含む。
【0038】
別の好ましい実施形態において、ベクターは、さらなる導入遺伝子をコードする核酸配列を含む。より好ましくは、さらなる導入遺伝子は、サイトカインをコードする。一実施形態において、サイトカインは:TNFアルファ、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、補体C5a、CD40L、IL-2、IL-12、IL-23、IL-21、IL-15、IL-17、IL-18、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14-1、CCL14-2、CCL14-3、CCL15-1、CCL15-2、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23-1、CCL23-2、CCL24、CCL25-1、CCL25-2、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL3L1、CCL4、CCL4L1、CCL5(=RANTES)、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9、CCR10、CCR2、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCRL1、CCRL2、CX3CL1、CX3CR、CXCL1、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCR1、CXCR2、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR7およびXCL2からなるリストから選択される。
【0039】
より好ましい実施形態において、サイトカインは、TNFアルファまたはIL-15である。
【0040】
本発明で使用されるウイルスベクターはまた、上述以外の他の修飾を含む場合がある。追加の成分または修飾はいずれも、場合によっては使用され得るが、本発明に必須ではない。
【0041】
外来性の要素の挿入は、標的細胞におけるベクターの効果を高める場合がある。外来性の組織または腫瘍特異的プロモーターの使用は、組換えベクターにおいて一般的であり、それらもまた、本発明で使用することができる。
【0042】
養子細胞療法
本発明の1つのアプローチは、癌と反応して癌を破壊することができる免疫エフェクター細胞の移動を使用する、癌を有する患者のための処置の開発である。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)などの単離された免疫エフェクター細胞は、培地中で大量に増殖され、患者に注入される。本発明において、インターロイキン7(IL7)導入遺伝子をコードする腫瘍溶解性ベクターは、免疫エフェクター細胞の影響を高めるために利用され得る。本明細書で使用されるように、「養子細胞療法の有効性を高めること」は、本発明の腫瘍溶解性ベクターが、養子細胞治療用組成物と一緒に使用される場合、養子細胞治療用組成物単独の治療効果と比較して、対象においてより強い治療効果を引き起こすことができる状況を指す。本発明の特定の実施形態は、対象における癌を処置する方法であり、この方法は、本発明の腫瘍溶解性ベクターの、対象への投与を含み、前記方法は、養子細胞治療用組成物の、対象への投与をさらに含む。養子細胞治療用組成物および本発明のベクターは、別個に投与される。養子細胞治療用組成物およびアデノウイルスベクターの個別投与の前に、骨髄除去または非骨髄除去のプレコンディショニング化学療法および/または放射線照射が行われる場合がある。養子細胞療法の処置は、患者における癌を縮小または除去することを目的とする。
【0043】
本発明の特定の実施形態は、アデノウイルスベクターおよび養子細胞治療用組成物、例えば腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、T細胞受容体(TCR)修飾リンパ球またはキメラ抗原受容体(CAR)修飾リンパ球を用いる療法に関する。T細胞療法、特にナチュラルキラー(NK)またはCAR-NK細胞療法などの任意の他の養子細胞療法も、本発明において使用される場合がある。確かに、本発明によれば、養子細胞治療用組成物は、例えばTIL療法における未修飾細胞、または遺伝子組換え細胞を含む場合がある。腫瘍特異的標的へのT細胞の遺伝子ターゲティングを達成するための2つの一般的な方法がある。1つは、既知の抗原特異性を有する、ヒト白血球抗原(HLA、げっ歯類において主要な組織結合性複合体として既知)型が一致したT細胞受容体(TCR)の移動である。もう1つは、キメラ抗原受容体(CAR)などの人工受容体を用いる細胞の修飾である。このアプローチは、HLAに依存しておらず、標的分子に関してより柔軟である。例えば、一本鎖抗体を使用することができ、CARは、共刺激ドメインを組み込むこともできる。しかし、CAR細胞の標的は、標的細胞の膜上にある必要があるが、TCR修飾は、細胞内標的を使用することができる。
【0044】
本明細書で使用されるように、「養子細胞治療用組成物」は、養子細胞移植に適した細胞を含む任意の組成物を指す。本発明の一実施形態において、養子細胞治療用組成物は、TIL、TCR(すなわち異種T細胞受容体)修飾リンパ球およびCAR(すなわちキメラ抗原受容体)修飾リンパ球からなる群より選択される細胞型を含む。本発明の別の実施形態において、養子細胞治療用組成物は、T細胞、CD8+細胞、CD4+細胞、NK-細胞、樹状細胞、ガンマ-デルタT細胞、制御性T細胞および末梢血単核細胞からなる群より選択される細胞型を含む。別の実施形態において、TIL、T細胞、CD8+細胞、CD4+細胞、NK-細胞、ガンマ-デルタT細胞、制御性T細胞または末梢血単核細胞は、養子細胞治療用組成物を形成する。本発明の特定の一実施形態において、養子細胞治療用組成物は、T細胞を含む。本明細書で使用されるように、「腫瘍浸潤リンパ球」またはTILは、血流から出て、腫瘍に移動した白血球を指す。リンパ球は、B細胞、T細胞およびNK細胞を含む3つの群に分割され得る。本発明の別の特定の実施形態において、養子細胞治療用組成物は、標的特異的CARまたは特別に選択されたTCRで修飾されているT細胞を含む。本明細書で使用されるように、「T細胞」は、CD4+ヘルパー細胞、CD4+細胞傷害性細胞、CD8+細胞傷害性T細胞、ガンマ-デルタT細胞およびNK T細胞を含むCD3+細胞を指す。
【0045】
適切な細胞に加えて、本発明で使用される養子細胞治療用組成物は、薬学的に許容される担体、緩衝液、賦形剤、アジュバント、添加物、消毒剤、充填剤、安定剤および/もしくは増粘剤、ならびに/または対応する製品に通常見られる任意の成分などの任意の他の薬剤を含む場合がある。組成物を配合するための適切な成分および適切な製造方法の選択は、当業者に一般的な知識に属している。
【0046】
養子細胞治療用組成物は、投与に適した固体、半固体または液体の形態などの任意の形態であり得る。製剤は、液剤、乳剤、懸濁剤、錠剤、ペレット剤およびカプセル剤からなる群より選択され得るがこれらに限定されない。組成物は、ある特定の製剤に限定されない;代わりに、組成物は、任意の既知の薬学的に許容される製剤に配合される可能性がある。医薬組成物は、当技術分野で既知の従来のプロセスのいずれかにより生成され得る。
【0047】
本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスベクターと養子細胞治療用組成物との組み合わせは、腫瘍溶解性アデノウイルスベクターおよび養子細胞治療用組成物を、別個の組成物としてではなく一緒に使用することを指す。本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスベクターおよび養子細胞治療用組成物が、1つの組成物として使用されないことは、当業者には明らかである。確かに、アデノウイルスベクターは、養子細胞を直接修飾するために使用されることはないが、標的腫瘍を修飾するために使用され、そのため、腫瘍は、細胞移植の望ましい影響をより受けやすい。特に、本発明は、養子移植の腫瘍へのリクルートメントを促進し、その活性をそこで高める。本発明の特定の実施形態において、組み合わせの腫瘍溶解性アデノウイルスベクターおよび養子細胞治療用組成物は、同時にまたは連続して、任意の順序で、対象に投与するためのものである。
【0048】
免疫チェックポイント阻害剤
免疫チェックポイントタンパク質は、特定のリガンドと相互作用して、シグナルをT細胞に送り、T細胞機能を阻害する。癌細胞は、それらの表面上でのチェックポイントタンパク質の高レベルの発現を促進することによりこれを利用し、それによって制癌免疫応答を抑制する。
【0049】
本明細書に記載の免疫チェックポイント阻害剤(CPIまたはICIとも呼ばれる)は、免疫チェックポイントタンパク質の機能を阻害することができる任意の化合物である。阻害には、機能の低下および完全遮断が含まれる。特に、免疫チェックポイントタンパク質は、ヒトチェックポイントタンパク質である。したがって、免疫チェックポイント阻害剤は、好ましくはヒト免疫チェックポイントの阻害剤である。
【0050】
免疫チェックポイントタンパク質には、CTLA-4、PD-1(ならびにそのリガンドであるPD-L1およびPD-L2)、B7-H3、B7-H4、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、BTLA、TIGITおよび/またはIDOが含まれるがこれらに限定されない。LAG3、BTLA、B7-H3、B7-H4、TIM3およびKIRが関与する経路は、CTLA-4およびPD-1依存経路と同様の免疫チェックポイント経路を構成することが当該技術分野で認識されている。免疫チェックポイント阻害剤は、CTLA-4、PD-1(ならびにそのリガンドであるPD-L1およびPD-L2)、B7-H3、B7-H4、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、BTLA、TIGITおよび/またはIDOの阻害剤であり得る。いくらかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1またはPD-1の阻害剤である。好ましくは、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1に選択的に結合する、より好ましくは:BMS-936559、LY3300054、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、エンバフォリマブ、コシベリマブおよびアベルマブからなる群より選択されるモノクローナル抗体、またはPD-1に選択的に結合する、より好ましくは:ペムブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、シンチリマブ、チスレリズマブ、スパルタリズマブ、トリパリマブ、ドスタルリマブ、INCMGA00012、AMP-514からなる群より選択されるモノクローナル抗体である。
【0051】
いくらかの実施形態において、組み合わせの免疫チェックポイント阻害剤は、抗体である。本明細書で使用される用語「抗体」は、例えば標的免疫チェックポイントまたはエピトープを結合することができる(例えば、抗原結合部分を保持することができる)、天然に存在する抗体および改変抗体ならびに完全長抗体またはそれらの機能性フラグメントもしくはそれらの類縁体を包含する。本明細書に記載の方法による使用のための抗体は、ヒト、ヒト化、動物またはキメラを含むがこれらに限定されない任意の起源に由来してもよく、IgG1またはIgG4アイソタイプが好ましいがどのようなアイソタイプであってもよく、さらにグリコシル化されていてもグリコシル化されていなくてもよい。抗体という用語には、抗体が本明細書に記載の結合特異性を示す限り、二重特異性抗体または多重特異性抗体も含まれる。
【0052】
癌
本発明の組換えベクターは、腫瘍細胞内で自律増殖可能である。本発明の一実施形態において、ベクターは、Rb-経路、具体的にはRb-p16経路に欠陥がある細胞内で自律増殖可能である。これらの欠陥のある細胞には、動物およびヒトにおけるすべての腫瘍細胞が含まれる。本明細書で使用されるように、「Rb-経路における欠陥」は、その経路の任意の遺伝子またはタンパク質における突然変異および/または後成的変化を指す。これらの欠陥のため、腫瘍細胞は、E2Fを過剰発現し、したがって、通常、効果的な複製に必要とされるE1A CR2によるRbの結合は不要である。さらなる選択性は、Rb/p16経路欠損細胞において見られるように、自由なE2Fの存在下でのみ活性化するE2Fプロモーターにより媒介される。自由なE2Fがないと、E1Aの転写は生じず、ウイルスは複製しない。E2Fプロモーターの包含は、E3プロモーターからの導入遺伝子の発現を可能にすることによって、直接的にも間接的にも毒性を引き起こす可能性があるE1Aが正常組織において発現することを防止するために重要である。
【0053】
本発明は、対象における癌を処置するためのアプローチに関する。本発明の一実施形態において、対象は、ヒトまたは哺乳動物、具体的には哺乳動物またはヒト患者、より具体的には癌に罹患したヒトまたは哺乳動物である。
【0054】
このアプローチは、悪性腫瘍および良性腫瘍の両方を含む任意の癌または腫瘍を処置するために使用することができ、原発性腫瘍および転移腫瘍は両方ともそのアプローチの標的であり得る。本発明の一実施形態において、癌は、腫瘍浸潤リンパ球を特徴とする。本発明のツールは、腫瘍浸潤リンパ球を特徴とする転移性固形腫瘍の処置にとって特に魅力的である。別の実施形態において、T細胞移植片は、腫瘍もしくは組織特異的T細胞受容体またはキメラ抗原受容体により修飾されている。
【0055】
本明細書で使用されるように、用語「処置」または「処置すること」は、完全な治癒だけでなく、癌または腫瘍に関連する障害または症状の予防、改善、または軽減も含む目的のために、少なくとも腫瘍溶解性アデノウイルスベクターを対象、好ましくは哺乳動物またはヒト対象に投与することを指す。治療効果は、患者の症状、血液中の腫瘍マーカー、または例えば腫瘍の大きさもしくは患者の生存長をモニターすることにより評価される場合がある。
【0056】
本発明の別の実施形態において、癌または腫瘍は、鼻咽腔癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎臓癌(renal cancer)、結合組織の癌、黒色腫、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳癌、咽喉癌、口腔癌、肝臓癌、骨癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリノーマ、褐色細胞腫、プロラクチノーマ、T細胞白血病/リンパ腫、神経腫、フォン・ヒッペル・リンドウ病、ゾリンジャー・エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、乏突起神経膠腫、神経芽腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨癌、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、原発部位不明の癌、カルチノイド、消化管のカルチノイド、線維肉腫、乳癌、パジェット病、子宮頸癌、食道癌、胆嚢癌、頭頸部癌、眼癌、腎臓癌(kidney cancer)、ウィルムス腫瘍、カポジ肉腫、前立腺癌、精巣癌、ホジキン氏病、非ホジキンリンパ腫、皮膚癌、中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌性膵臓癌、グルカゴノーマ、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟部肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌(stomach cancer)、胸腺癌、甲状腺癌、栄養膜癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、聴神経腫瘍、菌状息肉症、インスリノーマ、カルチノイド症候群、ソマトスタチン産生腫瘍、歯肉癌、心臓癌、口唇癌、髄膜癌、口腔癌(mouth cancer)、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌および扁桃腺癌からなる群より選択される。好ましくは、処置される癌または腫瘍は、腎臓癌(renal cancer)、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、乳癌、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌および扁平上皮非小細胞肺癌など)、胃癌(gastric cancer)、軟部肉腫、古典的ホジキンリンパ腫、中皮腫、および肝臓癌からなる群より選択される。本発明の好ましい実施形態において、処置される癌または腫瘍は、メソテリンネガティブの癌または腫瘍である。
【0057】
ヒトまたは動物の患者を本発明の治療に適したものとして分類する前、臨床医は、患者を診察する場合がある。正常から逸脱し、腫瘍または癌が明らかになった結果に基づいて、臨床医は、患者のために本発明の処置を提案する場合がある。
【0058】
医薬組成物
本発明の医薬組成物は、少なくとも1種の本発明のウイルスベクターを含む。好ましくは、本発明は、(a)腫瘍溶解性ウイルスをそのまま、または(b)養子細胞組成物および/もしくは(c)免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて含有する医薬組成物を提供する。本発明はまた、癌の処置における使用のための前記医薬品組み合わせ剤を提供する。さらに、組成物は、少なくとも2つ、3つまたは4つの異なるベクター含んでいてもよい。ベクターおよび養子細胞組成物または免疫チェックポイント阻害剤に加えて、医薬組成物はまた、他の治療効果のある薬剤や、薬学的に許容される担体、緩衝液、賦形剤、アジュバント、添加物、防腐剤、消毒剤、充填剤、安定剤および/もしくは増粘剤などの任意の他の薬剤、ならびに/または対応する製品に通常見られる任意の成分を含んでいてもよい。組成物を配合するための適切な成分および適切な製造方法の選択は、当業者に一般的な知識に属している。
【0059】
医薬組成物は、投与に適した固体、半固体または液体の形態などの任意の形態であり得る。製剤は、液剤、乳剤、懸濁剤、錠剤、ペレット剤およびカプセル剤からなる群より選択され得るがこれらに限定されない。本発明の組成物は、ある特定の製剤に限定されず、代わりに、組成物は、任意の既知の薬学的に許容される製剤に配合される可能性がある。医薬組成物は、当技術分野で既知の従来のプロセスのいずれかにより生成され得る。
【0060】
本発明の医薬品キットは、導入遺伝子としてIL-7をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスベクターおよび1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤を含む。導入遺伝子としてIL-7をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスベクターは、第1の製剤に配合され、前記1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤は、第2の製剤に配合される。あるいは、本発明の医薬品キットは、第1の製剤に導入遺伝子としてIL-7をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスベクターを、第2の製剤に養子細胞組成物を含む。本発明の別の実施形態において第1および第2の製剤は、同時にまたは連続して、任意の順序で、対象に投与するためのものである。別の実施形態において、前記キットは、癌または腫瘍の処置で使用するためのものである。
【0061】
投与
本発明のベクターまたは医薬組成物は、任意の哺乳動物対象に投与され得る。本発明の特定の実施形態において、対象はヒトである。哺乳動物は、ペット、家畜および生産動物(production animal)からなる群より選択され得る。
【0062】
従来の方法はいずれも、ベクターまたは組成物の対象への投与のために使用される場合がある。投与経路は、組成物の配合または形態、疾患、腫瘍の位置、患者、併存疾患および他の因子に応じて決定される。したがって、組み合わせにおける各治療薬の投与量および投与頻度は、一部が、特定の治療薬、処置される癌の重症度、および患者の特徴に応じて決定される。好ましくは、投薬計画は、副作用の許容可能なレベルと一致した患者に送達される各治療薬の量を最大化する。
【0063】
ベクターの有効量は、少なくとも、処置を必要とする対象、腫瘍型ならびに腫瘍の位置および腫瘍のステージに応じて決定される。用量は、例えば、約1×108のウイルス粒子(VP)から約1×1014VP、具体的には、約5×109VPから約1×1013VP、より具体的には、約3×109VPから約2×1012VPで変更され得る。一実施形態において、IL-7をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスベクターは、1×1010~1×1014のウイルス粒子の量で投与される。本発明の別の実施形態において、用量は、約5×1010~5×1011VPの範囲内である。
【0064】
本発明の一実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスの投与は、腫瘍内、動脈内、静脈内、胸膜内、小胞内、腔内、節内もしくは腹腔内注射、または経口投与を通じて実行される。投与のどのような組み合わせも可能である。アプローチは、局所注射にも関わらず、全身効果を与えることができる。
【0065】
本発明の一実施形態において、(a)導入遺伝子としてIL-7をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスベクターおよび(b)1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤の対象への個別投与は、同時にまたは連続して、任意の順序で実行される。これは、(a)および(b)が、一緒に服用するための単一用量剤形または同時にもしくは一定の時間差で投与される別個の実体(例えば別の容器内で)で提供される場合があることを意味する。この時間差は、1時間から2週間、好ましくは12時間から3日間、より好ましくは24時間または48時間以内であり得る。好ましい実施形態において、アデノウイルスベクターの初回投与は、免疫チェックポイント阻害剤の初回投与の前に実行される。さらに、免疫チェックポイント阻害剤とは別の投与方法でウイルスを投与することが可能である。この点について、ウイルスまたは免疫チェックポイント阻害剤のいずれかを腫瘍内に投与し、他方を全身にまたは経口で投与することが有利である場合がある。特定の好ましい実施形態において、ウイルスは、腫瘍内に投与され、免疫チェックポイント阻害剤は、静脈内に投与される。別の特定の好ましい実施形態において、ウイルスおよびチェックポイント阻害剤は両方とも、静脈内に投与される。好ましくは、ウイルスおよびチェックポイント阻害剤は、別個の化合物として投与される。2つの薬剤を用いる併用治療も可能である。
【0066】
好ましい実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、約0.2mg/kg~50mg/kg、より好ましくは約0.2mg/kg~25mg/kgの量で投与される。
【0067】
本明細書で使用されるように、「個別投与」または「別個」は、(a)導入遺伝子としてIL-7をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスベクターおよび(b)1つまたは複数の免疫チェックポイント阻害剤が、2つの異なる製品であるか、互いに異なる組成物である状況を指す。
【0068】
他の処置または処置の組み合わせはいずれも、本発明の治療に加えて使用される場合がある。特定の実施形態において、本発明の方法または使用は、放射線療法、化学療法、血管新生阻害剤またはアルキル化剤、ヌクレオシド類縁体、細胞骨格修飾剤、細胞分裂抑制剤、モノクローナル抗体、キナーゼ阻害剤もしくは他の抗癌剤などの標的療法の同時または連続的な対象への投与または介入(外科手術を含む)をさらに含む。
【0069】
用語「処置する」または「高める」、ならびにそれらの原型化した単語は、本明細書で使用されるように、必ずしも100%もしくは完全な処置または向上を意味するものではない。むしろ、当業者が潜在的な利益または治療効果があると認識する程度は様々である。
【0070】
技術の進歩につれて、発明概念が、様々な方法で実行できることは、当業者にとって明らかであろう。本発明およびその実施形態は、上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で変更することができる。
【0071】
実験セクション
材料および方法
細胞株
ヒト癌細胞株A549(上皮腺癌)およびRD(横紋筋肉腫)を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)(マナサス、USA)から購入した。ゴールデンハムスター癌細胞株DDT1-MF2(平滑筋肉腫)は、William Wold博士からご厚意により譲り受けたものであり、ハムスターHapT1(膵管腺癌細胞株)は、ライプニッツ研究所(DSMZ、ブラウンシュヴァイク、ドイツ)から取得し、ハムスターHT100(肺腺癌)は、ジャパン・コレクション・オブ・リサーチ・バイオリソース細胞バンク(大阪、日本)から取得した。細胞株はすべて、推奨条件下で培養した。
【0072】
ウイルス構築
Ad5/3-E2F-d24-hIL7ウイルスを、前述の技術(Havunen et al.2017)により構築した。腫瘍特異的複製は、ウイルス複製に関する腫瘍選択性を決定する2つの修飾:E2FプロモーターおよびE1Aの定常領域における24塩基対の欠失により達成された。細菌人工染色体(BAC)リコンビニアリング戦略を通じて、gp19kおよび6.7k遺伝子に代わってヒトIL7コード配列をE3領域に導入した。得られるウイルスベクター配列を、次世代シーケンシングにより確認した。
【0073】
感染多重度(MOI)1でA549細胞株のトランスフェクションによりウイルス粒子を生成し、続いて塩化セシウムグラジェントにより精製した。Lock at al.2019に記載のプロトコルにしたがってTCID50アッセイにより、得られるウイルスの感染力および濃度を決定した。
【0074】
細胞生存率アッセイ
ヒト細胞株A549およびRDを96ウェルプレート(平底)に1×104細胞/ウェルで24時間、三連で播種し、Ad5/3-E2F-d24ウイルス(本文中ではバックボーンまたは非武装化(unarmed)バックボーンとも呼ばれる)、またはAd5/3-E2F-d24-IL7(本文中ではIL7ウイルス、IL7武装化(armed)ウイルス、IL7をコードするウイルスまたはIL7腫瘍溶解性アデノウイルスとも呼ばれる)のいずれかを用いて1、10、100もしくは1000VP/細胞で感染させた。同様に、ハムスター細胞株HT100、DDT1-MF2およびHapT1を、1×104細胞/ウェルで24時間、三連で播種し、バックボーンウイルス、もしくはAd5/3-E2F-d24-hIL7のいずれかを用いて100、1000、5000もしくは10000VP/細胞で感染させた。
【0075】
4日後(A549およびRD)、5日後(HT100およびDDT1-MF2)または8日後(HapT1)、ウェルを2時間、20%のCellTiter 96 AQueous One Solution Proliferation Assay reagent(プロメガ、ウィスコンシン、USA)とともにインキュベートすることにより、細胞生存率を測定した。Fluostar OPTIMAアナライザー(BMG Labtech、オッフェンブルク、ドイツ)を使用して、490nMで吸光度を読み取った。データを非感染のモック対照群に対して正規化した。
【0076】
サイトカイン発現および生理活性アッセイ
前述のヒトおよびハムスター細胞株を、Ad5/3-E2F-d24-hIL7の1000VP/細胞(A549およびRD)または10000VP/細胞(HT100およびDDT1-MF2)のいずれかで3日間感染させた。メーカーの説明書にしたがって、BDサイトメトリックビーズアレイヒト可溶性タンパク質マスターバッファーキット(BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)をヒトIL7 Flex Set(BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)と一緒に使用して細胞上清からヒトIL7を測定した。BD Accuriフローサイトメーターを用いてビーズを検出し、FCAP Arrayソフトウェア(バージョン3.0.1;BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)を用いて結果を分析した。
【0077】
ウイルスで産生されたヒトIL7に生理活性があったことを確認するため、マウスIL7依存性細胞株2E8(ATCC、バージニア、USA)を、10%FBS、1%L-グルタミンおよび1%Pen/strepが添加されたマッコイ5A培地(サーモフィッシャー、マサチューセッツ、USA)中、2.5×105細胞/mlで24時間、三連で培養した。Ad5/3-E2F-d24-hIL7で感染させたA549細胞由来の濾過済み上清を、1:1、1:4、1:16、1:64および1:256の希釈で添加し、5日間インキュベートしてから、上述したように20%のCellTiter 96 AQueous One Solution Proliferation Assay reagentを使用して生存率アッセイを行った。陽性対照として、組換えマウスおよびヒトIL7を20ng/mlの濃度で使用した。
【0078】
動物実験
Ad5/3-E2F-d24-hIL7の有効性を、アデノウイルス複製について半許容(semi-permissive)のモデルである免疫正常(immunocompetent)ゴールデンハムスターを使用して、インビボでテストした。5週齢のオスシリアンゴールデンハムスター(Mesocricetus auratus)(Envigo、インディアナ、USA)の下背部右脇腹に、2×106のHapT1細胞を皮下移植した。腫瘍が直径5~6mmに到達した後、動物を無作為化し、Ad5/3-E2F-d24またはAd5/3-E2F-d24-hIL7のいずれかを用いて1×109VPで腫瘍内処置した。対照動物は、PBSの腫瘍内注射を受けた。腫瘍をデジタルノギスで測定し、腫瘍体積を(長さ×幅2)/2として算出した。64日目に安楽死させる前に、ハムスターは全12ラウンドのウイルス処置を受け、その後の分析のためにそれらの腫瘍および臓器を回収した。あるいは、最大許容腫瘍体積(22.0mm)に到達し、腫瘍が潰瘍になったときはすぐに、または動物の福祉が損なわれたときはすぐに、動物を安楽死させた。
【0079】
遺伝子発現アッセイ
動物腫瘍試料の断片を、RNAlater(シグマアルドリッチ、ミズーリ、USA)に保存し、さらなる使用まで-20℃で保管した。メーカーの説明書にしたがってRNeasy抽出キット(キアゲン、ヒルデン、ドイツ)を使用して、試料からのRNAを単離し、Qubit4蛍光光度計(サーモフィッシャー、マサチューセッツ、USA)を使用してRNA濃度を測定した。精製済み全RNA250ngを使用して、メーカーの説明書にしたがってHigh capacity cDNA Reverse Transcription kit(サーモフィッシャー、マサチューセッツ、USA)を用いてcDNAを合成した。得られるcDNAを定量的リアルタイムPCRに使用した。以下のプライマーおよびプローブ:グランザイムB(フォワードプライマー5’-CACTGTTCAGGGAGCTCAATAA-3’(配列番号2)、リバースプライマー5’-TGGAGTAGTCCTTGGGATTATAGTC-3’(配列番号3)、プローブ5’-Fam-CCTCCTTTTCTTTGATGTTGTGGGC-BBQ-3’)(配列番号4)、パーフォリン(フォワードプライマー5’-TGAGTGCCCTTCTGAAATCG-3’(配列番号5)、リバースプライマー5’-TGTCGCCTGTACAGTTTTCG-3’(配列番号6)、プローブ5’-Fam-CTGGTACAGAGACCCCCACTGCAC-BBQ-3’)(配列番号7)、CD25(フォワードプライマー5’-TCATCAGTTTCCAGCCAGTG-3’(配列番号8)、リバースプライマー5’-GTATAAATGTCTCCATAGTTGTAGCTGC-3’(配列番号9)、プローブ5’-Fam-TCCTGAGAGTGAGACTTCCTGTCCCATC-BBQ-3’)(配列番号10)、CD137(フォワードプライマー5’-AGTGCATCGAGGGACTCC-3’(配列番号11)、リバースプライマー5’-CAGTTTTTACAACCCTGCTCTG-3’(配列番号12)、プローブ5’-Fam-CTCTTGACCCGGCTTGCAATCC-BBQ-3’)(配列番号13)、インターフェロンガンマ(フォワードプライマー5’-GAACTGGCAAAAGGCTGG-3’(配列番号14)、リバースプライマー5’-CCTTCAAGGCTTCAAAGAGTTT-3’(配列番号15)、プローブ5’-Fam-CATTGAGAGCCAGATCGTCTCCTTCTACTT-BBQ-3’)(配列番号16)、Ki67(フォワードプライマー5’-GACCGATCTTTTAGGTATGAAAACG-3’(配列番号17)、リバースプライマー5’-GTGGTTTTTGAAGCTTCAGCAT-3’(配列番号18)、プローブ5’-Fam-ACGGCGAGCCTCGAGAGCTAG-BBQ-3’)(配列番号19)、PD1(フォワードプライマー5’-GTGTCCTAGTGGGTGTCCC-3’(配列番号20)、リバースプライマー5’-GCCCTCCTTCAGAGGCT-3’(配列番号21)、プローブ5’-GCTGCTGGCCTGGGTCCTA-BBQ-3’)(配列番号22)を使用して、遺伝子発現レベルを測定した。結果を、ハムスターガンマアクチンハウスキーピング遺伝子cDNAの含有量に対して、およびモックに対して正規化した(ΔΔCt)。すべてのPCR反応を二連で実行した。
【0080】
患者試料処理およびエクスビボ腫瘍培養の確立
我々のグループであらかじめ検証済みのプロトコルを使用して、新鮮な単細胞腫瘍分解物を腫瘍から調製した。要約すると、腫瘍を小さい断片に切り刻み、一晩の酵素消化のために、+37℃で振盪しながら、1%L-グルタミン、1%Pen/strep、I型コラゲナーゼ(170mg/L)、IV型コラゲナーゼ(170mg/L)、DNase I(25mg/mL)およびエラスターゼ(25mg/mL)(すべての酵素はワージントン・バイオケミカルから)が添加されたRPMI1640を含有する50mL容ファルコンチューブに入れた。消化後、70μmフィルターに通して細胞懸濁液を濾過し、消化されなかった断片および赤血球の除去のために、ACK溶解バッファー(シグマアルドリッチ、ミズーリ、USA)で処理した。得られる単細胞懸濁液を使用して、3×105個の細胞を三連で96ウェルプレート(U底)に播種し、それらをAd5/3-E2F-d24またはAd5/3-E2F-d24-hIL7のいずれかの100VP/細胞で処置することにより、エクスビボ腫瘍培養を確立した;非感染細胞をモック対照として使用した。さらにフローサイトメトリーに使用される細胞を、3日目に90%ウシ胎児血清(FBS)および10%ジメチルスルホキシドを含有する凍結保存培地に回収し、さらに使用するまで-140℃以下で保管した。
【0081】
細胞傷害性およびウイルス複製アッセイ
エクスビボ腫瘍培養の細胞生存率を、上述のように測定した。簡潔に言うと、CellTiter 96 AQueous One Solution Proliferation Assay reagentを用いて2時間インキュベートすることにより、3日目、5日目および7日目に細胞生存率を測定した。非感染の対照群に対してデータを正規化した。
【0082】
エクスビボ腫瘍培養におけるウイルス複製を測定するため、ウイルス感染後1日目、2日目および3日目に、リン酸緩衝生理食塩水に細胞を回収し、メーカーの説明書にしたがって、QIAmp DNAミニキット(キアゲン、ヒルデン、ドイツ)を用いてDNAを抽出した。フォワードプライマー(5’-GGAGTGCGCCGAGACAAC-3’)(配列番号23)、リバースプライマー(5’-ACTACGTCCGGCGTTCCAT-3’)(配列番号24)およびプローブ(Fam-TGGCATGACACTACGACCAACACGATCT-Tam)(配列番号25)を使用する、E4領域を標的化する定量的リアルタイムPCRによりウイルスの存在を確認した。既知の濃度のウイルスをコードするプラスミドを使用して生成された標準曲線にしたがって、E1Aの定量化を算出した。結果を、ヒトベータ-アクチンハウスキーピング遺伝子DNAの含有量に対して正規化した。すべてのPCR反応を二連で実行した。
【0083】
ケモカインおよびサイトカイン分析
感染エクスビボ腫瘍培養由来の上清を、3日目に回収し、C-Cモチーフリガンド2(Ccl2)、C-Cモチーフリガンド5(Ccl5)、C-X-Cモチーフケモカイン10(Cxcl10)、インターロイキン2(IL2)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFa)、IFNg、インターフェロン1ベータ(IFN1b)、インターロイキン4(IL4)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン10(IL10)およびトランスフォーミング増殖因子ベータ-1(TGF-b1)の存在を、メーカーの説明書にしたがって、Essential Immune Response LEGENDplexパネル(Biolegend、カリフォルニア、USA)を使用して測定した。
【0084】
C-X-Cモチーフケモカイン9(Cxcl9;MIGとしても既知)および上清中のIL7のレバルを、それぞれヒトMIGおよびIL7 flexセット(BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)を通じて測定した。Accuri C6フローサイトメーターを使用して試料を三連で測定し、LEGENDplexデータ解析ソフトウェアスイート(Biolegend、カリフォルニア、USA)またはFCAP Arrayソフトウェアのいずれかを通じて分析した。各検体の濃度を、Qubit4蛍光光度計(サーモフィッシャー、マサチューセッツ、USA)により測定された総タンパク質含有量に対して正規化した。その後、このデータを、非感染の対照群に対して正規化した。
【0085】
フローサイトメトリー
購入したヒトCD3(クローンSK7、蛍光色素Alexa Fluor 700、Biolegend、カリフォルニア、USA)、CD4(クローンRPA-T4、蛍光色素V500、BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)、CD8(クローンRPA-T8、蛍光色素FITC、BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)、CD69(クローンFN50、蛍光色素PE/Cyanine7、Biolegend、カリフォルニア、USA)、CD127(クローンHIL-7R-M21、蛍光色素PE-CF594、BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)、グランザイムB(クローンGB11、蛍光色素BV421、BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)、パーフォリン(Perforine)(クローンB-D48、蛍光色素PerCP/Cyanine5.5、Biolegend、カリフォルニア、USA)、CD107a(クローンH4A3、蛍光色素APC/Cyanine7、Biolegend、カリフォルニア、USA)に特異的な抗体を使用して、エクスビボ腫瘍培養由来の免疫細胞集団の分析を実行した。メーカーの説明書にしたがってBD Cytofix/Cytoperm Plusキット(BD GolgiPlugとともに)(BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)を使用して細胞内染色を実行した。試料はすべて、Fcブロッキング後に、ヒトTruStain FcX受容体ブロッキング溶液(Biolegend、カリフォルニア、USA)を使用して染色された。FACS Aria IIセルソーター(BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)を使用して、試料を二連で取得し、FlowJoソフトウェアv10(FlowJo LLC、BDバイオサイエンス、ニュージャージー、USA)を使用して、データ解析を実行した。
【0086】
統計解析
データの統計解析およびグラフ表示のために、GraphPad Prism v.8.4.2(GraphPad Software)を使用した。シャピロ-ウィルク検定を使用して腫瘍進行データの正規性を実行し、等分散性については、ルビーン検定を使用した。これらの検定によれば、データは非正規であり、群間分散は異なっており、そのためノンパラメトリックなフリードマン検定を使用して多群の比較を行い、ダン検定を使用して、一対比較を実行した。対応のないt検定を使用して、インビトロ実験における群を比較した。結果は、p<0.05の場合、統計的に有意であるとみなされた。
【0087】
実施例1.ヒトIL7で武装化(armed)された腫瘍溶解性アデノウイルスは、導入遺伝子を癌細胞に送達し、多数の癌細胞株の生存率を低下させることができる
これまで、我々は、Ad5/3-E2F-d24ウイルスが、いくつかの癌細胞株に浸透し、複製する能力を示していた(Havunen et al.2017)。ヒトIL7をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスは、ファイバーノブを血清型3から運ぶアデノウイルス血清型5と同じバックボーンを利用し、E1A遺伝子の定常領域2における24-bpの欠失(d24)およびE1A領域の上流での腫瘍特異的E2Fプロモーターの挿入を有する。ヒトIL7遺伝子は、部分的に欠失したE3遺伝子領域に導入され、導入遺伝子発現をウイルス複製に関連づけた(
図1A)。
【0088】
Ad5/3-E2F-d24-hIL7が癌細胞に感染して溶解する能力を、いくつかのヒトおよびハムスター細胞株を使用してインビトロで評価した。ヒト肺および横紋筋肉腫の癌細胞株(それぞれA549およびRD)、ならびにハムスター平滑筋肉腫、肺および膵臓癌の細胞株(それぞれDDT1-MF2、HT100およびHapT1)を、様々な濃度のAd5/3-E2F-d24-hIL7で感染させた;非感染細胞および前述の(Havunen et al.2017)非武装化(unarmed)Ad5/3-E2F-d24ウイルスで感染させた細胞を対照として使用した。したがって、Ad5/3-E2F-d24-hIL7ウイルスの溶解効果は、非武装化(unarmed)ウイルスに匹敵していた(
図1Bおよび
図1C)。これらの結果は、IL7導入遺伝子の存在が、ウイルス腫瘍溶解性の特徴に影響しないことを示す。
【0089】
ウイルスが癌細胞で導入遺伝子発現量を誘導する能力を評価するため、後者をAd5/3-E2F-d24-hIL7で感染させ、IL7タンパク質量の存在について上清を分析した。興味深いことに、ヒト細胞株は、より高いIL7の濃度を示し、A549により産生された17.5pg/mlが最大量であった(
図1D)。ハムスター細胞株HT100は、最も低いタンパク質量(0.4pg/ml)であったが、DDT1-MF2およびRD細胞株は、同等の生産性であった(
図1D)。
【0090】
次に、ウイルスにより産生されたヒトIL7の生理活性を評価した。これを行うため、IL7依存性マウス細胞株2E8を、A549上清のいくつかの希釈とインキュベートし、その後、MTS細胞増殖測定を行った。対照群と比較して1:4希釈でより良好な結果として、用量依存的な細胞増殖が観察された(
図1E)。
【0091】
全体では、Ad5/3-E2F-d24-hIL7が、癌細胞を死滅させ、生理活性のあるIL7の発現を後者で誘導することができることが確認された。
【0092】
実施例2.IL7腫瘍溶解性アデノウイルスは、膵臓癌のハムスターモデルにおいて腫瘍退縮を促進する
インビボでのAd5/3-E2F-d24-hIL7の有効性を、免疫正常(immunocompetent)ゴールデンハムスター、アデノウイルス複製に対して半許容(semi-permissive)の前臨床モデルでテストした。膵臓癌細胞株HapT1を皮下移植して、異所性腫瘍形成およびその後の腫瘍内ウイルス注入を可能にした。処置開始の30日後、モック対照群のハムスターは、ウイルス処置動物と比較した場合、腫瘍が有意に大きかった。バックボーンおよびIL7コーディングウイルス処置群は両方とも、腫瘍体積の減少の傾向を示したが、IL7コーディングウイルス処置動物は、モックおよびAd5/3-E2F-d24処置動物よりも有意に小さい腫瘍が見られた(それぞれp値が0.0013および0.0155)(
図2A)。
【0093】
IL7武装化(armed)アデノウイルスの免疫学的作用機序の良好な理解をさらに詳細に得るために、64日目に動物から回収した腫瘍内のいくつかの免疫関連遺伝子の発現量を測定した。含まれているウイルス処置群の両方で、標準的なT細胞活性化マーカーであるCD25、CD137、Ki67およびPD1のかなりのアップレギュレーションが観察された(
図2B)。IFNgおよびパーフォリンの発現量はまた、ウイルス群で実質的に高く、腫瘍微小環境で免疫細胞の細胞傷害性を高めることを潜在的に示唆した。Ad5/3-E2F-d24処置群は、ほとんどの分析されたサイトカインの量がより高いことを示した。全群にわたり、グランザイムBの量では、大きな差異は観察されなかった(
図2B)。
【0094】
結論として、Ad5/3-E2F-d24-hIL7ウイルス処置により効果的なインビボ腫瘍退縮がもたらされ、主要な免疫刺激因子の活性化を可能にすることが示された。
【0095】
実施例3.IL7で武装化(armed)された腫瘍溶解性アデノウイルスは、患者由来のエクスビボ腫瘍モデルに感染し、複製する。
IL7で武装化(armed)された腫瘍溶解性アデノウイルスの作用機序をさらに調べるため、より臨床的に関連性が高いエクスビボ腫瘍モデルに移行した。予想通り、細胞生存率試験は、卵巣癌(HUSOV4およびOvCaS)の場合、バックボーンおよびIL-7をコードするウイルスの両方について匹敵する溶解能力を示した:インキュベーションの3日後、生存率は、70~80%まで低下し、7日目まで低下し続けた(
図3A)。生存率の低下はまた、バックボーンおよびIL7をコードするウイルスでのウイルス感染後7日目に、頭頸部試料(HUSHN11)で観察された(
図3A)。
【0096】
次に、アデノウイルスE4遺伝子を標的化する定量的リアルタイムPCRを通じてエクスビボ腫瘍試料でのウイルスコピー数を評価した。全体では、ウイルスの量は、テストされた全試料にわたってバックボーンおよびIL-7をコードするウイルスでは同程度であり、全体的にウイルスのゲノムコピーが経時的に増加する傾向があった(
図3B)。しかし、試料癌種間でウイルスコピー総数において明らかな差異があった。OvCaSおよびHUSHN10試料は、ウイルスDNA量が最も高かったが、HUSHN11では、100倍低かった。HUSOV4は、中程度のウイルスコピー数を示した(
図3B)。
【0097】
最後に、上清中のヒトIL7濃度を測定した。テストされた全試料において、1日目から3日目にIL7濃度の増加が見られたが、予想通り、タンパク質の量は、試料間で異なっていた。HUSOV4およびHHUSHN15試料は、IL7の量がより高く、それぞれ全IL7タンパク質の0.65pg/ugおよび0.57pg/ugに達するが、OvCaSおよびHUSHN17試料におけるIL7濃度は、3倍低かった(
図3C)。
【0098】
全体では、このデータは、試料間で差異があるにも関わらず、IL7腫瘍溶解性アデノウイルスが患者由来の腫瘍分解物に感染し、複製し、癌細胞を溶解する能力を示す。
【0099】
実施例4.IL7で武装化(armed)された腫瘍溶解性アデノウイルスは、局所腫瘍微小環境を免疫促進に変換する
感染した患者由来のエクスビボ卵巣癌試料の免疫状態を評価するために、主要な免疫シグナル伝達分子-ケモカインおよびサイトカインの濃度を測定した。最初に、炎症性サイトカイン:IL2、TNFa、IFNgおよびIL1bの量を比較した。テストされた全試料は、IL7をコードするウイルス群で感染させた場合、非感染の細胞およびバックボーンウイルス群と比較して、IFNgの有意な増加を示した。IL7をコードするウイルスで感染させた場合、OvCaSおよびHUSOV5試料はまた、IL2のより高い発現を示したが、HUSOV4は、異なる実験群間で顕著なサイトカイン変化を示さなかった。さらに、OvCaS試料は、任意の他の処置群よりもIL7をコードするウイルス群でTNFaの顕著に高い濃度が見られた。興味深いことに、テストされた全試料でIL1bの量において変化は観察されなかった(
図4A)。全体では、OvCaSおよびHUSOV5でプールされた炎症性サイトカインの量は、他の群と比較してIL7ウイルス処置群で顕著に高かった(
図4B)。
【0100】
次に、抗炎症性サイトカイン:IL4、IL6、IL10およびTGFbの量を測定した。全体では、サイトカイン量の有意な増加は、非感染の細胞と比較してウイルス処置群で観察されなかった(
図4C)。HUSOV4は、IL4、IL6およびIL10濃度における顕著な減少を示したが、OvCaSおよびHUSOV5は、IL7をコードするウイルスでの感染でTGFbの量が低下した。プールされた抗炎症性サイトカインの量は、IL7をコードするウイルスで感染させた培養において3つの試料のうち2つ(OvCaSおよびHUSOV5)で減少した。減少は、OvCaS試料においてバックボーンウイルスとIL7をコードするウイルスとの間で統計的に有意であった(
図4D)。
【0101】
最後に、エクスビボ感染試料におけるケモカイン:Ccl2、Ccl5、Cxcl9、Cxcl10の量を測定した。特に、ウイルス処置試料は、Ccl5およびCxcl10産生で顕著な増加を示し、IL7をコードするウイルスは、バックボーンよりも有意に高い産生をもたらした(
図4E)。HUSOV4試料は、群間でケモカイン濃度における任意の他の変化を示さなかったが、OvCaS試料は、IL7をコードするウイルスで処置した場合、Ccl2およびCxcl9のアップレギュレーションを示した。HUSOV5試料は、IL7をコードするウイルスでの感染でCcl5、Cxcl9およびCxcl10の顕著なアップレギュレーションを示した。
【0102】
重要なことに、IL-7をコードするウイルスは、テストされたほとんどの卵巣癌患者試料で、抗炎症性のものよりも炎症性サイトカインの最も高い蔓延を誘導した(
図4F)。全体では、これらのデータは、腫瘍微小環境を炎症誘発性に変換するためにAd5/3-E2F-d24-hIL7がシグナル伝達分子の産生を誘導する能力を示し、これは、T細胞の腫瘍への動員に特に有用である。
【0103】
実施例5.IL7で武装化(armed)された腫瘍溶解性アデノウイルスは、浸潤CD4+およびCD8+T細胞を活性化する
腫瘍浸潤リンパ球に対するAd5/3-E2F-d24-hIL7の影響を評価するため、フローサイトメトリーを通じて別個に、腫瘍溶解性アデノウイルスで処置したHUSOV4およびOvCaSエクスビボ腫瘍培養からのCD4+およびCD8+細胞に対する活性化および細胞傷害性のマーカーの発現量を最初に検証した。IL7をコードするウイルスでの感染で、HUSOV4培養は、他の群と比較してCD69+CD4+T細胞およびCD69+CD8+T細胞の量における有意な増加を示した(
図5A)が、CD8+細胞はまた、それらの表面上でCD69+受容体の発現が高かった(
図5B)。IL7をコードするウイルスで感染させたOvCaS培養で同様のシナリオが観察され、非感染の培養と比較してCD69+CD4+T細胞の増加が観察されたが、CD8+T細胞では有意な変化は検出されなかった(
図5A)。
【0104】
さらに、2つの強力な細胞溶解剤であるパーフォリン(Perf)およびグランザイムB(GrzmB)を発現する細胞傷害性T細胞の数における変化を評価した。IL7をコードするウイルスで処置されたHUSOV4培養において、CD4+およびCD8+の両方でGrzmB+T細胞の顕著な増加が観察された(
図5C)が、OvCaS試料ではGrzmB+細胞において変化は検出されなかった(
図5D)。しかし、同じ試料では、IL7群においてCD8+Perf+細胞の増加が検出され(
図5D)、IL7をコードするウイルスで処置されたHUSOV4におけるCD4+Perf+およびCD8+Perf+集団両方の頻度の増加が観察された。
【0105】
全体では、我々のデータは、Ad5/3-E2F-d24-hIL7が、浸潤リンパ球を活性化し、細胞傷害性CD4+およびCD8+細胞の割合を高めることができることを示す。
【0106】
実施例6.ヒト免疫チェックポイント阻害剤(PD-1および/またはPDL-1)と組み合わせたIL7で武装化(armed)された腫瘍溶解性アデノウイルス
ウイルス構築物および免疫チェックポイント阻害剤(ICI)
この概念実証研究で使用されたウイルスは、TILT-517(Ad5/3-E2F-d24-hIL7)である。E2Fプロモーター上の修飾、およびE1Aの定常領域における24塩基対の欠失ならびに導入遺伝子としてヒトインターロイキン-7タンパク質を組み込む細菌人工染色体リコンビニアリング技術によりウイルスを調製した。ヒト抗PD-L1 Tecentriq(登録商標)(アテゾリズマブ、ロシュ;本文中では抗PD-L1と呼ばれる)およびヒト抗PD-1 KEYTRUDA(登録商標)(ペムブロリズマブ、メルク;本文中では抗PD-1と呼ばれる)などのICIを、単独および/またはTILT-517と組み合わせたいずれかの研究で使用した。
【0107】
患者試料処理およびエクスビボ腫瘍培養
腎細胞癌(RCC)を有する患者由来の腫瘍試料を、ヘルシンキ大学病院(HUS)から取得した。要約すると、腫瘍を小さい断片に切り刻み、一晩の酵素消化のために、+37℃で振盪しながら、1%L-グルタミン、1%Pen/strep、I型コラゲナーゼ(170mg/L)、IV型コラゲナーゼ(170mg/L)、DNase I(25mg/mL)およびエラスターゼ(25mg/mL)(すべての酵素はワージントン・バイオケミカルから)が添加されたRPMI1640を含有する50mL容ファルコンチューブに入れた。消化後、70μmフィルターに通して細胞懸濁液を濾過し、消化されなかった断片および赤血球の除去のために、ACK溶解バッファー(シグマアルドリッチ、ミズーリ、USA)で処理した。すべてのこのプロセスにより、異種単細胞懸濁液がもたらされ、後者は、細胞生存率アッセイで使用するためのエクスビボ腫瘍培養、この場合は、HUSRenca5を確立するために使用された。
【0108】
細胞生存率アッセイ
MTSアッセイを使用して、感染した腫瘍細胞の細胞生存率を評価した。20,000個の生存可能な患者の腫瘍細胞を96ウェルプレート(U底)に三連で播種した。翌日、TILT-517、抗PD-1、抗PDL-1、TILT-517+抗PD-1またはTILT-517+抗PD-L1のいずれかで腫瘍を処置した。非感染の細胞をモック対照として使用した。ウイルスを100VP/細胞の濃度で感染させた。使用された両方のICIの濃度は、0.1mg/mlであった。処置後の1日後、2日後、3日後、4日後、および5日後に、CellTiter 96 AQueous One Solution Proliferation Assay reagent(プロメガ、ウィスコンシン、USA)との2時間のインキュベーションにより細胞生存率を評価した。Hidex Senseプレートリーダー(Hidex、トゥルク、フィンランド)を使用して、490nmで吸光度を読み取った。データを非感染のモック対照群に対して正規化した。
【0109】
統計解析
GraphPad Prism v9.2.0(GraphPad Software)を、データの統計解析およびグラフ表示のために使用した。群間で対応のないt検定を使用することにより統計的検定を行い、p<0.05の場合、有意性があるとみなされた。
【0110】
結果
図6Aの結果から、TILT-517およびそのICIとの組み合わせを使用すると、RCC試料において抗PD-1または抗PD-L1いずれかの単独の使用と比較して、より効果的に機能することが示される。ICIが、RCCの標準治療として使用される一般的な免疫療法であることを認めることが重要である。しかし、
図6Aで観察することができるように、抗PD-1および抗PD-L1の処置が、腫瘍培養の相対的な細胞生存率をわずか約90%まで低下させるが、TILT-517関与群は、40%未満に達しても、日を追うごとに腫瘍の相対的な細胞生存率を低下させ続ける。
【0111】
注目すべきは、2日目に、TILT-517+抗PD-1およびTILT-517+抗PD-L1の併用群により媒介された腫瘍死滅は、モックと比較して統計的に有意である(
図6B)。重要なことに、TILT-517、抗PD-1または抗PD-L1の単独療法と比較して培養の試料細胞生存率を低下させることで20%を超える改善を示すので、この併用群は、有望な戦略であることを示した(
図6B)。5日目までに、この併用群は、抗PD-1または抗PD-L1単独のいずれかと比較して、統計的に有意に高い腫瘍細胞死滅を示した(
図6C)。併用処置群によるより良好な腫瘍死滅の背景にある1つの可能な機構は、高い免疫細胞活性化による。
【0112】
全体では、TILT-517+抗PD-L1または抗PD-1の迅速で効果的な反応は、いずれかの療法単独と比較して、臨床実施に向けた有望なアプローチを示唆する。
【0113】
参考文献
引用した非特許文献:
Havunen R, Siurala M, Sorsa S, Gronberg-Vaha-Koskela S, Behr M, Tahtinen S, Santos JM, Karell P, Rusanen J, Nettelbeck DM, et al.: Oncolytic Adenoviruses Armed with Tumor Necrosis Factor Alpha and Interleukin-2 Enable Successful Adoptive Cell Therapy. Mol Ther Oncolytics 2017, 4:77-86.
Heninger AK, Theil A, Wilhelm C, Petzold C, Huebel N, Kretschmer K, Bonifacio E, Monti P: IL-7 abrogates suppressive activity of human CD4+CD25+FOXP3+ regulatory T cells and allows expansion of alloreactive and autoreactive T cells. J Immunol 2012, 189:5649-5658.
Huang J, Zheng M, Zhang Z, Tang X, Chen Y, Peng A, Peng X, Tong A, Zhou L: Interleukin-7-loaded oncolytic adenovirus improves CAR-T cell therapy for glioblastoma. Cancer Immunology, Immunotherapy 2021, 70:2453-2465.
Lock, M., et al., Measuring the Infectious Titer of Recombinant Adenovirus Using Tissue Culture Infection Dose 50% (TCID(50)) End-Point Dilution and Quantitative Polymerase Chain Reaction (qPCR). Cold Spring Harb Protoc, 2019. 2019(8).
Nakao S, Arai Y, Tasaki M, Yamashita M, Murakami R, Kawase T, Amino N, Nakatake M, Kurosaki H, Mori M, et al.: Intratumoral expression of IL-7 and IL-12 using an oncolytic virus increases systemic sensitivity to immune checkpoint blockade. Science Translational Medicine 2020, 12:eaax7992.
Pellegrini M, Calzascia T, Elford AR, Shahinian A, Lin AE, Dissanayake D, Dhanji S, Nguyen LT, Gronski MA, Morre M, et al.: Adjuvant IL-7 antagonizes multiple cellular and molecular inhibitory networks to enhance immunotherapies. Nat Med 2009, 15:528-536.
Rosenberg SA, Sportes C, Ahmadzadeh M, Fry TJ, Ngo LT, Schwarz SL, Stetler-Stevenson M, Morton KE, Mavroukakis SA, Morre M, et al.: IL-7 administration to humans leads to expansion of CD8+ and CD4+ cells but a relative decrease of CD4+ T-regulatory cells. Journal of immunotherapy (Hagerstown, Md. : 1997) 2006, 29:313-319.
Sportes C, Babb RR, Krumlauf MC, Hakim FT, Steinberg SM, Chow CK, Brown MR, Fleisher TA, Noel P, Maric I, et al.: Phase I study of recombinant human interleukin-7 administration in subjects with refractory malignancy. Clin Cancer Res 2010, 16:727-735.
Vudattu, N., Magalhaes, I., Hoehn, H., Pan D., and Maeurer M.J. (2009). Expression analysis and functional activity of interleukin-7 splice variants. Genes Immun 10, 132-140.
White, E., Sabbatini, P., Debbas, M., Wold, W.S.M., Kusher, D.I., and Gooding, L. (1992). The 19-kilodalton adenovirus E1B transforming protein inhibits programmed cell death and prevents cytolysis by tumor necrosis factor alpha. Mol. Cell. Biol. 1992; 12: 2570-2580.
【0114】
引用した特許公開:
国際公開第2014170389号
国際公開第2016146894号
国際公開第2020249873号
欧州特許第3858369号明細書
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-06-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】