(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】延性のある物体の製造のためのポリアリールエーテルケトンをベースとする粉体
(51)【国際特許分類】
C08L 71/10 20060101AFI20240927BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240927BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20240927BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20240927BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20240927BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240927BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240927BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L71/10
C08L101/00
C08J3/12 101
C08J3/12 CEZ
B29C64/153
B29C64/314
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519093
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 FR2022051805
(87)【国際公開番号】W WO2023052715
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ブリュル
(72)【発明者】
【氏名】ナディーヌ・ドゥクレメ
【テーマコード(参考)】
4F070
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA23
4F070AA52
4F070AA55
4F070AA60
4F070AB09
4F070AB11
4F070DA13
4F213AA27
4F213AA32
4F213AA33
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL23
4F213WL25
4J002AA012
4J002AA01X
4J002BD152
4J002BD15X
4J002CH091
4J002CH09W
4J002GH01
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトン及び少なくとも1つの可撓性熱可塑性ポリマーを含む組成物からなる粒子を含む粉体に関する。可撓性熱可塑性ポリマーの弾性率は、ポリアリールエーテルケトンの弾性率より少なくとも2分の1の低さである。ポリアリールエーテルケトンは、可撓性熱可塑性ポリマーが分散されるマトリックスを形成する。粉体粒子は厳密に500μm未満のメジアン径d50をもつ体積加重粒径分布を有する。本発明は、また、粉体の製造方法、粉体の使用及びそれから得られる物体にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンと、ポリアリールエーテルケトンではない少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーとを含む組成物からなる粒子を含む粉体であって、前記粒子が、ISO13320:2009規格に従って、レーザー回折によって測定された場合に、厳密に500μm未満、好ましくは300μm以下のメジアン径d50を有する体積加重粒径分布を有し、
前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーの弾性率が、ISO527-2:2012規格に従って、23℃において、射出成形によって得られた1BA試験片について、クロスヘッド速度1mm/分で測定された場合に、前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンの弾性率よりも少なくとも2分の1の低さであり、前記ポリアリールエーテルケトンは、前記可撓性熱可塑性ポリマーが分散されるマトリックスを形成する、
粉体。
【請求項2】
前記可撓性熱可塑性ポリマーが、ISO527-2:2012規格に従って、23℃において、1BA試験片について測定された場合、1.5GPa以下の弾性率を有する、請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーが、線状ポリエン、ポリシロキサン、ポリシロキサンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン及びクロロトリフルオロエチレンから誘導される少なくとも1つの繰り返し単位を含むフルオロエラストマー、並びにこれらのポリマーの混合物からなるリストから選択される、請求項1又は2に記載の粉体。
【請求項4】
前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーが、
テトラフルオロエチレンから誘導される繰り返し単位及び、化学式CF
2=C(F)(R)
(式中、Rは、-CF
3基又は-ORf基を表し、Rfは、C
1~5パーフルオロアルキルである)
のモノマーから誘導される繰り返し単位から本質的になる、又はからなるフルオロエラストマーを含み、
優先的には、前記可撓性熱可塑性ポリマーは、テトラフルオロエチレンから誘導される繰り返し単位及びヘキサフルオロプロピレンから誘導される繰り返し単位から本質的になるか、又はこれらからなる、請求項3に記載の粉体。
【請求項5】
前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーが、ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマーを含み、
ポリシロキサンブロックが、優先的にC
1~C
12アルキル基、及び/又は1つ以上の官能基で任意に置換されたフェニル基で一置換又は二置換され;及び
ポリシロキサン以外の単位のブロックは、優先的にはポリエーテルイミド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリアリールアミドイミド、ポリフェニレン、ポリベンズイミダゾール及び/又はポリカーボネートブロックである、請求項3に記載の粉体。
【請求項6】
前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーが、組成物の前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマー及び前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、5質量%~40質量%、優先的には7質量%~25質量%を占める、請求項1から5のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項7】
前記ポリアリールエーテルケトン及び可撓性熱可塑性ポリマーの総質量が、組成物の総質量に対して、少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも92.5%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97.5%、又は少なくとも98%、又は少なくとも98.5%、又は少なくとも99%、又は少なくとも99.5%、又は100%を占める、請求項1から6のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項8】
組成物が、ポリアリールエーテルケトン、可撓性熱可塑性ポリマー、任意選択で、前記ポリアリールエーテルケトン及び可撓性熱可塑性ポリマー以外のポリマー、この他のポリマーは前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンと混和性であり、及び任意選択で1種以上の機能性添加剤からなる、請求項1から7のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項9】
粒子が、ISO13320:2009規格に従って、レーザー回折によって測定された場合に、40~140マイクロメートル、好ましくは50~120マイクロメートル、より好ましくは60~110マイクロメートルの範囲のメジアン径d50を有する体積加重粒径分布を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項10】
ISO1068:1975規格に従って測定された場合に、500kg/m
3以上のタッピング密度を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項11】
流動剤を有さず、ISO6186:1998規格の方法"A"に従って測定された場合に、10秒以下、優先的には7秒以下、極めて好ましくは5秒以下の紛体流動性(pourability)を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項12】
非晶質である、請求項1から11のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項13】
結晶性であり、X線回折によって測定された場合、ポリマーの総質量に対して、質量で、優先的には10%以上、優先的には15%以上、より好ましくは18%以上の結晶化度を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項14】
前記少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンが、ポリエーテルケトンケトンであり、優先的には、テレフタル単位及び必要に応じてイソフタル単位から本質的になり、より好ましくは、テレフタル単位及び必要に応じてイソフタル単位からなり、
テレフタル単位(T)が
【化1】
の化学式を有し、
イソフタル単位(I)が
【化2】
の化学式を有し、
T:Iのモル比が0:100~85:15の範囲である、請求項1から13のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の粉体の製造方法であって、
- 前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンを含むポリマーマトリックス中に分散された前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーを含む組成物を、溶融状態で供給する工程;
- 溶融状態の前記組成物を噴霧して、溶融組成物の液滴を形成する工程;
- 溶融組成物の液滴を冷却して固体粒子を形成する工程;及び
- 任意選択で1つ以上の熱処理工程
を含む、製造方法。
【請求項16】
請求項1から14のいずれか一項に記載の粉体の、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法、粉体コーティング、粉体圧縮成形又は粉体圧縮-トランスファー成形方法における使用。
【請求項17】
請求項16に記載の方法の1つによって得られる物体、優先的には、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法によって得られる物体であって、ISO527-1:2019規格に従って、23℃において、1BA試験片について測定された場合に、厳密に4GPa未満の弾性率を有する、物体。
【請求項18】
請求項16に記載の方法の1つによって得られ、優先的には、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法によって得られる物体であって、
ISO179:2010規格に従ったタイプAのノッチ付きバーに対して、5kJ/m
2以上、優先的には6kJ/m
2以上、優先的には7kJ/m
2以上、優先的には8kJ/m
2以上、極めて好ましくは9kJ/m
2以上のシャルピー衝撃強度を有する、
物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリールエーテルケトンの分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、延性物体の製造のための、特に、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法による物体の製造のための、ポリアリールエーテルケトンをベースとする粉体に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、よく知られた高性能エンジニアリングポリマーである。それは、温度及び/又は機械的な制約、或いは化学的な制約が厳しい用途にさえ使用されうる。また、耐火性に優れ、ガスや有毒ガスの発生が少ないことが要求される用途にも使用できる。最後に、生体適合性にも優れている。これらのポリマーは、航空・宇宙分野、海洋掘削分野、自動車分野、鉄道分野、海洋分野、風力発電分野、スポーツ分野、建設分野、エレクトロニクス分野、医療用インプラント等、様々な分野で見出される。
【0004】
これらの有利な特性にもかかわらず、特定の仕様を満たすためにポリアリールエーテルケトンを配合する必要がある場合がある。したがって、より大きな柔軟性が求められ、より大きな曲げ加工性を有する部品を使用し取り付けるための新しい方法に適応することが可能になる。特に、ポリアリールエーテルケトン配合物は、未配合のPAEKと比較して、より延性、すなわち、より大きな破断変形を示し、及び/又は、より低い引張/曲げ弾性率及び/又はより高い衝撃強度を示すことが求められる場合がある。
【0005】
例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とポリオクテニレンからなる組成物は、米国特許出願公開第2009/0292073号において知られている。
【0006】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とポリシロキサンからなる組成物も米国特許出願公開第2005/004326号において知られている。
【0007】
PEEKとポリシロキサン/ポリエーテルイミドブロックコポリマーの混合物からなる組成物は、更に米国特許出願公開第2010/0147548号において知られている。より具体的には、PEEKと、質量で20%~30%のポリシロキサンを含むポリシロキサン/ポリエーテルイミドブロックコポリマーを質量で10%~25%含む非剥離性混合物が製造されている(特に特許文献の表2を参照)。
【0008】
PEEK、ポリエーテルイミド、ポリシロキサン/ポリエーテルイミドブロックコポリマーの混合物からなる組成物も欧州特許出願公開第0323142号において知られている。
【0009】
PEEKと、i)テトラフルオロエチレン及びプロピレンから誘導される繰り返し単位からなるコポリマー、又はii)ヘキサフルオロプロピレン及びビニリデンから誘導される繰り返し単位からなるコポリマーとの混合物からなる組成物も、米国特許出願公開第2019/0055390号において知られている。
【0010】
最後に、PEKK、ポリシロキサン/ポリエーテルイミドブロックコポリマー及びポリシロキサンの混合物からなる組成物が欧州特許出願公開第3749714号において知られている。この特許文書では、この組成物を粉体の形態で使用することが規定されているが、実施形態は詳述されていない。このような粉体が標準的な粉砕工程に従って得られることが示されているだけである。しかしながら、以下に説明するように、純粋なポリアリールエーテルケトン組成物に対して実施するのが既に複雑である既存の粉砕工程は、実際には、より延性のある組成物に対しては実施不可能であることが判明している。
【0011】
特に、上記の特許のどれもが粉体製造手段を用いていないのはこのためである。混合物はすべて、選択された配合の均質な顆粒をうることを目的とする方法であるコンパウンドによって得られる。これらの顆粒はその後、様々な工程、特に押出成形や射出成形によって最終的な物体を成形するために使用される。
【0012】
ポリアリールエーテルケトンをベースとする粉体を製造するために一般的に使用される方法は粉砕法であり、粉砕される材料を粉砕が可能な程度に脆くするという共通の特徴がある。
【0013】
例えば、極低温条件下でポリエーテルエーテルケトンの粗大粒子を粉砕することは米国特許出願公開第2009280263号において知られている。具体的には、温度の低下により材料はより脆くなる。この工程は、ポリアリールエーテルケトンをベースとする延性組成の顆粒には効果がないことが判明している。
【0014】
ポリエーテルエーテルケトンの粗大粒子を室温で粉砕することは、欧州特許第2776224号においても知られており、十分低いタッピング密度、したがって付随的に十分高い空隙率を有する粒子から出発する。ポリアリールエーテルケトンをベースとする延性組成物の顆粒は、室温粉砕工程で使用するには密度が高すぎる。更に、十分低い密度を有するポリアリールエーテルケトンに基づく延性組成物の粗大粒子をうる方法は、現在のところ知られていない。
【0015】
最後に、国際公開第21069833号では、タルク型充填剤を含むポリエーテルケトンケトンの粗大粒子を粉砕し、それにより粗大粒子をより脆くすることが知られている。しかしながら、このような充填剤の添加は、組成物の弾性率を増加させる効果を有するため、本発明で求める効果とは相反する効果を有する。
【0016】
したがって、上述の粉砕法はいずれも、ポリアリールエーテルケトンをベースとする延性組成物から微粉体、すなわち特に、厳密に500μm未満のメジアン径を有する体積加重粒径分布を有する粉体を提供するのに適していない。
【0017】
しかしながら、現在、粉末形態の組成物を使用する物品の製造方法のために、延性組成のこのような粉体を提供する必要性が存在する。本出願において特に以下に詳述する工程の一例は、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法である。粉末状の組成物を必要とする工程の他の例は、例えば金属の粉体塗装、粉体圧縮成形又は粉体圧縮-トランスファー成形である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0292073号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/004326号
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/0147548号
【特許文献4】欧州特許出願公開第0323142号
【特許文献5】米国特許出願公開第2019/0055390号
【特許文献6】欧州特許出願公開第3749714号
【特許文献7】米国特許出願公開第2009280263号
【特許文献8】欧州特許第2776224号
【特許文献9】国際公開第21069833号
【特許文献10】欧州特許第0945173号
【特許文献11】国際公開第2012/047613号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の1つの目的は、ポリアリールエーテルケトンをベースとする延性組成物の微粉体をうるための方法、及び従来技術では使用され得なかったそのような粉体を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、少なくとも特定の実施形態によれば、粉体及びその製造方法を提供することであり、粉体は、電磁放射線媒介焼結によって物体を層ごとの構築方法で使用するのに適している。
【0021】
本発明の別の目的は、少なくとも特定の実施形態によれば、粉体及びその製造方法を提供することであり、粉体は、粉体を使用するコーティング方法、粉体圧縮成形方法又は粉体圧縮-トランスファー成形方法で使用するのに適している。
【0022】
本発明の別の目的は、少なくとも特定の実施形態によれば、高密度を有する粉体を提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、少なくとも特定の実施形態によれば、良好な紛体流動性を有する粉体を提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、少なくとも特定の実施形態によれば、少なくとも部分的に結晶性の粉体を提供することである。
【0025】
最後に、本発明の1つの目的は、未配合のポリアリールエーテルケトン、特にポリアリールエーテルケトン単独から得られる物体と比較して、より優れた延性及び/又はより優れた衝撃強度を有する物体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンと、ポリアリールエーテルケトンではない少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーとを含む組成物からなる粒子を含む粉体に関する。前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーの弾性率は、ISO527-2:2012規格に従って、23℃において、射出成形によって得られた1BA試験片について、クロスヘッド速度1mm/分で測定された場合に、前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンの弾性率よりも少なくとも2分の1の低さである。前記ポリアリールエーテルケトンは、前記可撓性熱可塑性ポリマーが分散されるマトリックスを形成する。最後に、上述した組成物からなる粒子は、ISO13320:2009規格に従って、レーザー回折によって測定された場合に、厳密に500μm未満、好ましくは300μm以下のメジアン径d50をもつ体積加重粒径分布を有する。
【0027】
本発明者らは、少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーが少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンを含むマトリックス中に分散された組成物の粒子を含む粉体を製造することに予想外に成功したが、これは通常使用される様々な粉砕技術ではこれまで決して実施できなかったことである。
【0028】
これは、
- ポリアリールエーテルケトンを含むポリマーマトリックス中に分散された可撓性熱可塑性ポリマーを含む組成物を、溶融状態で供給する工程;
- 溶融状態の前記組成物を噴霧して、溶融組成物の液滴を形成する工程;
- 溶融組成物の液滴を冷却して固体粒子を形成する工程;及び
- 任意選択で1つ以上の熱処理工程、
を含む、本発明による製造方法を使用することにより達成された。
【0029】
本発明者らはここで、驚くべきことに、一方のポリマーの他方のポリマーへの分散物からなる粒子をうるために、この溶融スプレー工程をポリマーの混合物で特に困難なく実施できることを観察した。
【0030】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーは、23℃において、ISO527-2:2012規格に従って、射出成形によって得られた1BA試験片について測定された場合、1.5GPa以下の弾性率を有してもよい。
【0031】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーは、線状ポリエン、ポリシロキサン、ポリシロキサンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン及びクロロトリフルオロエチレンから誘導される少なくとも1つの繰り返し単位を含むフルオロエラストマー、並びにこれらのポリマーの混合物からなるリストから選択されうる。
【0032】
フルオロエラストマーは、特に、テトラフルオロエチレンから誘導される繰り返し単位及び、化学式CF2=C(F)(R)
(式中、Rは、-CF3基又は-ORf基を表し、RfはC1~5パーフルオロアルキルである)
のモノマーから誘導される繰り返し単位から本質的になる、又はこれらからなるコポリマーであってもよく、
優先的には、前記フルオロエラストマーは、テトラフルオロエチレンから誘導される繰り返し単位及びヘキサフルオロプロピレンから誘導される繰り返し単位から本質的になってもよく、又はこれらからなってもよい。
【0033】
ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマーは、特に、ポリシロキサンブロックが、優先的にC1~C12アルキル基、及び/又は1つ以上の官能基で任意に置換されたフェニル基で一置換又は二置換され;及びポリシロキサン以外の単位のブロックは、優先的にはポリエーテルイミド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリアリールアミドイミド、ポリフェニレン、ポリベンズイミダゾール及び/又はポリカーボネートブロックであってもよい、コポリマーであってもよい。
【0034】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーは、組成物の可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、合計で5質量%~40質量%、優先的には7質量%~25質量%を占めることができる。
【0035】
特定の実施形態によれば、前記ポリアリールエーテルケトン及び可撓性熱可塑性ポリマーの総質量は、組成物の総質量に対して、少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも92.5%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97.5%、又は少なくとも98%、又は少なくとも98.5%、又は少なくとも99%、又は少なくとも99.5%、又は100%を占めることができる。
【0036】
特定の実施形態において、組成物は、ポリアリールエーテルケトン、可撓性熱可塑性ポリマー、任意選択で、ポリアリールエーテルケトン及び可撓性熱可塑性ポリマー以外のポリマー、これはポリアリールエーテルケトンと混和性であり、及び任意選択で1種以上の機能性添加剤からなってもよい。
【0037】
特定の実施形態において、粉体粒子は、ISO13320:2009規格に従って、レーザー回折によって測定された場合に、40~140マイクロメートルの範囲、好ましくは50~120マイクロメートルの範囲、より好ましくは60~110マイクロメートルの範囲のメジアン径d50をもつ体積加重粒径分布を有してもよい。
【0038】
特定の実施形態によれば、粉体は、特に有利なタッピング密度及び/又は紛体流動性(pourability)を有することができる。
【0039】
特に、ISO1068:1975規格に従って測定された場合に、500kg/m3以上のタッピング密度を有することができる。
【0040】
特に、ISO6186:1998規格の方法"A"に従って測定された場合に、10秒以下、優先的には7秒以下、極めて好ましくは5秒以下の紛体流動性を有することがあり、粉体は更に紛体流動剤を有さない。
【0041】
特定の実施形態によれば、特に熱処理工程を追加することなく方法を実施する場合、粉体は非晶質形態であってもよい。
【0042】
特定の他の実施形態によれば、特に方法が少なくとも1つの熱処理工程を伴って実施される場合、粉体は結晶形態であってもよい。
【0043】
特に、X線回折によって測定された場合、組成物中のポリマーの総質量に対して、質量で10%以上、優先的には15%以上、より好ましくは15%以上の、結晶化度を有しうる。
【0044】
特定の実施形態によれば、前記少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルケトンケトンであり、優先的には、テレフタル単位及び必要に応じてイソフタル単位から本質的になり、より好ましくは、テレフタル単位及び必要に応じてイソフタル単位からなり、テレフタル単位(T)は、
【0045】
【0046】
の化学式を有し、イソフタル単位(I)は、
【0047】
【0048】
の化学式を有し、T:Iのモル比は0:100~85:15の範囲である。
【0049】
本発明はまた、このような粉体の、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法、粉体コーティング、粉体圧縮成形又は粉体圧縮-トランスファー成形方法における使用に関する。
【0050】
最後に、本発明は、上記の製造方法の1つ、すなわち粉末形態の材料の使用を必要とする方法によって得られる、ポリアリールエーテルケトンをベースとする物体に関する。本発明は、特に、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法によって得られる物体に関する。
【0051】
本発明による物体は、ポリアリールエーテルケトンのマトリックス中に分散された少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーを含む粉体を、当業者は今まで使用することができなかったことにより以前は得られなかった機械的特性を有する。
【0052】
特定の実施形態によれば、物体は、ISO527-1:2019規格に従って、23℃において、1BA試験片について測定された場合に、厳密に4GPa未満の弾性率を有することができる。
【0053】
特定の実施形態によれば、物体は、ISO179:2010規格に従ったタイプAのノッチ付きバーに対して、5kJ/m2以上、優先的には6kJ/m2以上、優先的には7kJ/m2以上、優先的には8kJ/m2以上、極めて好ましくは9kJ/m2以上のシャルピー衝撃強度を有することができる。
【0054】
本発明は、以下の非限定的な実施形態の詳細な説明及び以下の図に照らしてより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】本発明による粉体が使用されうる、焼結による三次元物体の層ごとの構築方法を実行するための装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
定義
用語「熱可塑性ポリマー」は、十分に加熱されると粘性が低下し、或いは液状になり、又は液体であり、可逆的に熱可塑性を保持するポリマーを意味すると理解される。熱可塑性ポリマーは、一般に、不可逆的に不溶性のポリマーネットワークに変化し、熱成形はできない熱硬化性ポリマーと対比される。
【0057】
用語「ホモポリマー」は、単一の繰り返し単位からなるポリマーを示すと理解される。
【0058】
用語「コポリマー」は、コモノマーと呼ばれる化学的に異なる少なくとも2種類のモノマーの共重合から生じるポリマーを示すと理解される。コポリマーは、このように、異なるモノマーから誘導される少なくとも2つの異なる繰り返し単位から形成される。また、異なるモノマーから誘導される3つ以上の繰り返し単位から形成されることもある。
【0059】
コポリマーは、均一構造、特に統計型、交互型、ランダム型、又は不均一構造、特にブロック型を有することができる。
【0060】
特に、用語「逐次コポリマー」又は「ブロックコポリマー」は、少なくとも2つの異なるホモポリマーブロックが共有結合している、上記の意味でのコポリマーを示すものと理解される。ブロックの長さは可変でありうる。ブロックは、それぞれ1~1000、好ましくは1~100、特に1~50の繰り返し単位から構成されうる。2つのホモポリマーブロック間の結合は、単純な共有結合でも、ジャンクションブロックとして知られる中間の非繰り返し単位でもよい。
【0061】
用語「本質的に単位からなる」は、ポリマー中の繰り返し単位の総モル数に対して、単位が95%~99.9%のモル比率を占めることを意味すると理解される。
【0062】
用語「単位からなる」は、その単位が、ポリマー中の繰り返し単位の全モル数に対して、ポリマー中で少なくとも99.9%、特に100%のモル比率を占めることを意味すると理解される。
【0063】
用語「ポリマーの混合物」は、ポリマーの巨視的に均質な組成物を示すと理解される。この用語は、マイクロメートル又はサブマイクロメートルスケールで分散した互いに混和しない相からなるそのような組成物を特に包含する。
【0064】
用語「分散」は、複数の相からなる組成物を示すことを意図している。本発明による混合物において、ポリアリールエーテルケトンは、連続相又はマトリックスを形成し、可撓性熱可塑性ポリマーは、一般にノジュールの形態で分散相を形成する。ノジュールは、優先的には5マイクロメートル以下、より優先的には2マイクロメートル以下の平均サイズを有する。
【0065】
組成物内、特にポリアリールエーテルケトンをベースとするマトリックス内の可撓性熱可塑性ポリマーノジュールのサイズは、粉体方法、特に電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法によって製造されうる物体の断面の顕微鏡分析及びデジタル処理によって評価される。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてもよい。得られた画像は2値化され、ノジュールの平均サイズと最大サイズを決定することができる。
【0066】
用語「融解温度」は、NF EN ISO11 357-3:2018規格に従って示差走査熱量測定(DSC)によって、20℃/分の加熱速度を使用して、2回目の加熱の間に測定されるように、少なくとも部分的に結晶性のポリマーが粘性液体状態に変化する温度を示すことを意図する。
【0067】
用語「ガラス転移温度」は、NF EN ISO11 357-2:2020規格に従って示差走査熱量測定(DSC)によって、20℃/分の加熱速度を用いて、2回目の加熱の間に測定されるように、少なくとも部分的に非晶質のポリマーがゴム状状態からガラス状状態、又はその逆に変化する温度を示すことを意図している。
【0068】
融解温度とガラス転移温度は摂氏(℃)で表される。
【0069】
用語「結晶化度」とは、Nano-inXider(登録商標)機で、以下の条件で、広角X線散乱(WAXS)測定から算出される結晶化度を示すことを意図する:
- 波長:銅の主Kα1線(1.54オングストローム)
- 発電機出力:50kV-0.6mA
- 観測モード:透過
- カウント時間:10分
- 温度:25℃
【0070】
こうして、回折角の関数としての散乱強度のスペクトルが得られる。このスペクトルにより、非晶質のハローに加えてスペクトル上ピークが見える場合、結晶の存在を確認することができる。スペクトルでは、結晶ピークの面積(Aと表記)と非晶質ハローの面積(AHと表記)を測定することができる。結晶相の(質量)割合は、比(A)/(A+AH)によって推定される。本発明における結晶化度は、組成物中のポリマーの総質量に対する結晶性ポリマーの質量割合として表される。
【0071】
用語「非晶質」は、組成物が7%以下、優先的には5%以下、極めて好ましくは3%以下の結晶化度を有することを意味すると理解される。特定の実施形態によれば、「非晶質」組成物は、およそ0%の結晶化度を有することができる。
【0072】
用語「結晶性ポリマー」は、ポリマーが非晶質でないことを意味すると理解される。その場合、ポリマーは厳密に7%を超える結晶化度を有する。
【0073】
用語「粘度」は、Anton Paar社製MCR302振動レオメーターを使用し、プレート/プレート形状で、不活性雰囲気(N2)下、380℃、1Hzで測定した粘度を示すことを意図する。
【0074】
用語「引張弾性率」、又はより単純に「弾性率」は、ISO527-1:2019規格で定義されているように、2つのひずみε1=0.05%とε2=0.25%の間の区間における応力-ひずみ曲線σ(ε)の傾きを意味すると理解される。弾性率は、ここではギガパスカル(GPa)で表される。傾きは線形回帰法で測定することが好ましい。
【0075】
ここでは機械的引張応力によって弾性率を決定しているが、他のタイプの応力、例えば曲げ応力や圧縮応力から測定しても本発明の範囲外ではない。
【0076】
市販の構成材料の場合、弾性率は供給業者の製品データシートで入手できることが多い。入手可能又は予測可能なデータがない場合、引張弾性率の測定は、1BA試験片を用いて23℃でクロスヘッド速度1mm/分で実施することができる。弾性率の実測値は、連続して行った5回の試験の平均値に相当する。これらの試験は、例えば、機械式伸び計を装備したMTS Systems Corporation社が販売するMTS810(登録商標)試験機を用いて実施することができる。
【0077】
粉体及び/又はその構成成分の1つを単独で考慮した組成物の引張弾性率の特性評価に関しては、ASTM D3641-15規格に従って射出成形により1BA試験片を製造する。射出成形条件は、指示された順序で考慮される次の基準の1つに従って選択される:材料に関連する規格で課された条件、供給業者から与えられた指示、或いはない場合は、そのポリマー又は関連ポリマーに関する入手可能な最良の情報。
【0078】
粉体方法で製造可能な物体の弾性率の特性評価に関しては、1BA試験片は前記方法で製造される。例えば1BA試験片は、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法によって製造されうる。
【0079】
用語「粉体」は、分画された状態の物質を指し、これは一般に非常に小さなサイズの粒子の形をしており、一般に約100マイクロメートル以下である。用語「粉砕形態」は、全体として粉体の形状の組成物を指す。
【0080】
粒径分布は、例えばMalvern Mastersizer2000(登録商標)回折計を用い、ISO13320:2009規格に従ってレーザー回折法で測定することができる。粒径分布の結果の表示に関する規則は、ISO9276規格part1~6に記載されている。用語「d50」は、体積加重粒子径分布の累積関数が50%に等しくなるような粉体粒子の直径の値を意味すると理解される。同様に、用語「d10」及び「d90」はそれぞれ、体積加重粒子径の累積関数が10%及び90%にそれぞれ等しくなるような対応する直径を意味する。
【0081】
用語「タッピング密度」は、ISO1068:1975規格に従って測定された粉体密度値を意味すると理解される。2500パルス後に250mlシリンダーを装備したSTAV2003タッピングボリュメーターで測定できる。単位はキログラム/立方メートル(kg/m3)で表示される。
【0082】
用語「粉体流動性」は、粉体が個々の粒子の形で均一かつ一定に自由に流動する能力を示すことを意図している。ここでは、ISO6186:1998規格の方法"A"に従って、直径25mmの開口部を有する漏斗を用い、粉砕組成物が流れることができるようにして、紛体流動性を測定する。ちなみに、組成物には帯電防止剤は添加していない。粉体流動性は秒(s)単位で測定される。
【0083】
用語「シャルピー衝撃強度」又はより簡単に「衝撃強度」は、ISO179:2010規格に従って測定された、寸法80×10×4mm3のタイプAノッチ付きバーの衝撃強度を示すものと理解される。実際の測定は、連続して行った3回の試験の平均値である。ノッチ(V字形、ノッチ底半径0.25±0.05mm)は、この目的のために特別に用意された装置(CEAST社が販売するAutomatic Notchvis Plus)で作ることができる。その後、バーを24時間静置する。衝撃強度の測定は、Zwick5102衝撃試験機で行うことができる。
【0084】
ポリアリールエーテルケトン又は可撓性熱可塑性ポリマーのような組成物の構成成分、又はこれらの構成成分の特性に適用される単数形「a(n)」及び「the」は、デフォルトで「少なくとも1つ」及びそれぞれ「前記少なくとも1つ」を意味する。それにもかかわらず、単数形には、その都度思い出す必要はないが、「a(n)」が「1つだけ」を意味し、「the」が「唯一の」を意味する実施形態が含まれる。
【0085】
本特許出願に記載された値の範囲には、特に断りのない限り、限界値が含まれている。
【0086】
ポリアリールエーテルケトン
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、以下の式の単位を含み:
(-Ar-X-)及び(-Ar1-Y-)、
ここで、
- Ar及びAr1はそれぞれ2価の芳香族ラジカルを示す;
- Ar及びAr1は、好ましくは、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、3,3'位に2価の1,1'-ビフェニレン、3,4'位に2価の1,1'-ビフェニル、1,4-ナフチレン、1,5-ナフチレン及び2,6-ナフチレンから選択することができる;
- Xは電子吸引基を示し、好ましくはカルボニル基及びスルホニル基から選ぶことができ;
- Yは、酸素原子、硫黄原子、例えば-(CH)2-、イソプロピリデン等のアルキレン基から選ばれる基を示す。
【0087】
これらのX及びY単位において、X基の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より詳細には少なくとも80%がカルボニル基であり、Y基の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より詳細には少なくとも80%が酸素原子を表す。
【0088】
好ましい実施形態によれば、X基の100%がカルボニル基を示し、Y基の100%が酸素原子を表す。
【0089】
有利には、PAEKは、以下から選択されうる:
- ポリエーテルケトンケトン、PEKKとしても知られている;PEKKは、1つ以上の式:-Ph-O-Ph-C(O)-Ph-C(O)-単位を含む;
- ポリエーテルエーテルケトン、PEEKとしても知られている;PEEKは、1つ以上の式:-Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-単位を含む;
- ポリエーテルケトン、PEKとしても知られている;PEKは、1つ以上の式:-Ph-O-Ph-C(O)-単位を含む;
- ポリエーテルエーテルケトンケトン、PEEKKとしても知られている;PEEKKは、1つ以上の式:-Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-Ph-C(O)-単位を含む;
- ポリエーテルエーテルエーテルケトン、PEEEKとしても知られている;PEEEKは、1つ以上の式:-Ph-O-Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-単位を含む;
- ポリエーテルジフェニルエーテルケトン、PEDEKとしても知られる;PEDEKは、1つ以上の式-Ph-O-Ph-Ph-O-Ph-C(O)-単位を含む;
- それらの混合物;及び
- 上記のユニットの少なくとも2つを含むコポリマー、
ここでPhはフェニレン基を表し、-C(O)-はカルボニル基を表し、フェニレンはそれぞれ独立にオルト(1,2)、メタ(1,3)又はパラ(1,4)型であることが可能であり、優先的にはメタ又はパラ型である。
【0090】
更に、欠陥、末端基及び/又はモノマーは、上記のリストに記載されているようなポリマー中にその性能に影響を及ぼすことはないならばごく少量組み込むことができる。
【0091】
優先的には、ポリアリールエーテルケトンがコポリマーである実施形態において、後者は均質な構造、特に統計的なタイプを有する。
【0092】
特定の実施形態によれば、PAEKは、本質的に及び、優先的にはテレフタル繰り返し単位及び適切な場合にはイソフタル繰り返し単位からなるポリエーテルケトンケトンであり、テレフタル繰り返し単位(「T単位」)は、式
【0093】
【0094】
を有し、
イソフタル繰り返し単位(「I単位」)は、式
【0095】
【0096】
を有する。
【0097】
T単位とI単位の合計に対するT単位の質量割合は、0%~85%まで変化しうる。T単位とI単位の合計に対するT単位の質量割合は、特に0%~5%;又は5%~10%;又は10%~15%;又は15%~20%;又は15%~20%;又は20%~25%;又は25%~30%;又は30%~35%;又は35%~40%;又は40%~45%;又は45%~50%;又は50%~55%;又は55%~60%;又は60%~65%;又は65%~70%;又は70%~75%;又は75%~80%;又は80%~85%でありうる。T単位とI単位の合計に対するT単位のモル比の選択は、ポリエーテルケトンケトンの結晶化特性の比率を調整することを可能にする要因の1つである。T単位とI単位の合計に対するT単位の所定のモル割合は、それ自体公知の方法で、重合中の反応物のそれぞれの濃度を調整することによってうることができる。
【0098】
電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法における粉体の使用のために、T単位及びI単位の合計に対するT単位の質量割合は、優先的には0%~25%又は45%~75%であり、より好ましくは0%~15%又は55%~65%である。T単位とI単位の合計に対するT単位の質量割合は、特に0%前後又は60%前後であってもよい。
【0099】
このようなポリアリールエーテルケトンは、Arkema社からKepstan(登録商標)の名称で市販されている。
【0100】
特定の実施形態によれば、PAEKは、式
【0101】
【0102】
を有する繰り返し単位から本質的になるか、又は更にからなるホモポリマーでありうる。
【0103】
このようなポリアリールエーテルケトンは、Solvay社からKetaSpire(登録商標)、Evonik社からVestaKeep(登録商標)、Victrex社からPEEK Victrex(登録商標)という名称で市販されている。
【0104】
特定の実施形態によれば、PAEKは、式(III)を有する繰り返し単位と、式
【0105】
【0106】
を有する繰り返し単位とから本質的になるか、又は更にからなるコポリマーでありうる。
【0107】
(III)単位と(IV)単位の合計に対する(III)単位のモル比率は、0%~99%、優先的には0%~95%の範囲でありうる。
【0108】
特定の実施形態によれば、PAEKは、式(III)を有する繰り返し単位と、式
【0109】
【0110】
を有する繰り返し単位とから本質的になるか、又は更にからなるコポリマーでありうる。
【0111】
(III)単位と(V)単位の合計に対する(III)単位のモル比率は、0%~99%、優先的には0%~95%の範囲でありうる。
【0112】
PAEKの融解温度は、好ましくは280℃より高く、非常に特に300℃より高い。
【0113】
PAEKのガラス転移温度は、好ましくは100℃~250℃の間、好ましくは120℃~200℃の間、非常に特に140℃~180℃の間である。
【0114】
有利には、PAEKは、380℃、1Hzで測定した粘度が100Pa・sを超え、好ましくは200Pa・sを超え、より好ましくは300Pa・sを超える。PAEKの粘度は、一般に1500Pa・sを超えない。PAEKの粘度は、特に300Pa・s~600Pa・s、又は600Pa・s~800Pa・s、又は800Pa・s~1000Pa・s、又は1000Pa・s~1200Pa・s、又は1200Pa・s~1500Pa・sでありうる。
【0115】
特定の実施形態によれば、組成物は、少なくとも2種のPAEKを含む。組成物は、特に、質量でポリアリールエーテルケトン成分の50%以上、好ましくは60%以上、特に70%以上、より好ましくは80%以上、特に90%以上を占める、式(I)及び(II)、又は(III)及び(IV)、或いは代替的に(III)及び(V)の繰り返し単位から本質的になる、又はこれらの繰り返し単位からなる単位から本質的になるコポリマーを、限定的に含みうる。残りの10質量%~50質量%は、PAEKファミリーに属する他のポリマー、例えば、繰り返し単位(III)からなるポリマーからなりうる。
【0116】
特定の実施形態によれば、組成物は単一タイプのPAEKを含む。
【0117】
組成物に延性を与える熱可塑性ポリマー
組成物に延性を与える熱可塑性ポリマー、すなわち「可撓性熱可塑性ポリマー」は、ポリアリールエーテルケトンではない。弾性率はポリアリールエーテルケトンの半分である。
【0118】
好ましい実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーの弾性率は、1.5GPa以下であってよい。弾性率の低い値は、使用される熱可塑性ポリマーの非常に化学的な性質によって課される以外に制限はない。現在市販されている熱可塑性ポリマーの場合、弾性率の値は一般に10MPa以上である。
【0119】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーの弾性率は、1GPa以下、更には750MPa以下であってもよい。
【0120】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーの弾性率は、50MPa以上、更には250MPa以下であってもよい。
【0121】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーの弾性率は、50MPa~1000MPa、又は250MPa~750MPaであってもよい。
【0122】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーは、線状ポリエン、ポリシロキサン、ポリシロキサンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン及びクロロトリフルオロエチレンから誘導される少なくとも1つの繰り返し単位を含むフルオロエラストマー、並びにそれらの混合物からなるリストから選択されうる。
【0123】
特定の実施形態によれば、前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーは、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で5%~45%を占めることができる。
【0124】
前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーは、特に、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して質量で、5%~10%、又は10%~15%、又は15%~20%、又は20%~25%、又は25%~30%、又は30%~35%、又は35%~40%、又は40%~45%を占めることができる。
【0125】
有利な実施形態によれば、前記少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で7%~25%を占めることができる。
【0126】
可撓性熱可塑性ポリマーのある割合以下では、組成物の延性に対する前記ポリマーの寄与が低いことは当業者に知られている。更に、可撓性熱可塑性ポリマーのある割合以上では、組成物は、PAEKによって付与される優れた耐熱性及び/又は耐薬品性特性を失う傾向がある。更に、PAEKと可撓性熱可塑性ポリマーとの相溶性が不十分であるため、ポリマー間接着の問題(層間剥離)が現れることがある。したがって、当業者であれば、それ自体公知の方法で、期待される効果と相溶性の現象を考慮して、可撓性熱可塑性ポリマーの割合を多くしたり少なくしたりして使用するようになるであろう。
【0127】
ポリアリールエーテルケトンの380℃及び1Hzでの粘度と可撓性熱可塑性ポリマーの粘度は、可撓性熱可塑性ポリマーのポリアリールエーテルケトンマトリックスへの分散を促進するのに十分なほど近い。
【0128】
特定の実施形態によれば、ポリアリールエーテルケトンと可撓性熱可塑性ポリマーとの間の最大粘度比は0.3~3である。優先的には、この比は0.5以上である。特に0.7以上であってもよい。
【0129】
優先的には、この比率は2以下である。特に1.5以下でありうる。
【0130】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーは、線状ポリエンでありうる。それは、優先的には、ポリ(3-メチルオクテニレン)、ポリ(3-メチルデセニレン)、又は、化学式
【0131】
【0132】
ここで、nは3~10の整数である、
を有する繰り返し単位から本質的になるか、若しくは、からなるコポリマーからなるリストから選択される。
【0133】
線状ポリエンは、特に、ポリペンテニレン、ポリヘキセニレン、ポリヘプテニレン、ポリオクテニレン、ポリノネニレン、ポリデセニレン、ポリウンデセニレン、ポリドデセニレン、又はそれらの混合物からなるリストから選択されうる。特定の実施形態によれば、線状ポリエンはポリオクテニレンである。
【0134】
線状ポリエンは、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で5%~45%を占めてよい。線状ポリエンは、特に、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で25%以下、優先的には15%以下を占めることができる。線状ポリエンが唯一の可撓性熱可塑性ポリマーである実施形態によれば、それは特に、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で5%~15%を占めることができる。
【0135】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VDF)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)から誘導される少なくとも1つの繰り返し単位を含むフルオロエラストマーであってもよい。
【0136】
優先的には、フルオロエラストマーは、HFP及びVDF又はそれ以外から誘導される繰り返し単位から本質的になる、又はこれらからなるコポリマー、或いはTFEから誘導される繰り返し単位及びプロピレン、HFP、又は他のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)から誘導される少なくとも1つの繰り返し単位から本質的になる、又はこれらからなるコポリマーでありうる。
【0137】
特に、フルオロエラストマーは、TFEから誘導される繰り返し単位と、化学式
CF2=CF-R (VII)
のモノマーから誘導される繰り返し単位とから本質的になり得、及び優先的にからなり得、ここで、Rは、CF3基又はOR1基を表し、ここで、R1は、C1~5パーフルオロアルキルである。好ましくは、式(VII)の化合物は、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群から選択されうる。より好ましくは、式(VII)の化合物は、ヘキサフルオロプロピレン及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群から選択されうる。
【0138】
特定の好ましい実施形態によれば、TFEから誘導される単位は、TFEから誘導される単位及び式(VII)のモノマーから誘導される単位の総モル数に対して、80モル%から99.5モル%を占めることができる。TFEから誘導される繰り返し単位は、特に、TFEから誘導される単位及び式(VII)のモノマーから誘導される単位の総モル数に対して、85モル%以上、又は87モル%以上、又は93モル%以上を占めることができる。
【0139】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーは、TFE及びHFPから誘導される単位の総モル数に対して7モル%~15モル%のTFEを含む、TFE及びHFPから誘導される繰り返し単位から本質的になる、又はこれらからなるコポリマーである。このような市販のフルオロポリマーの例としては、DAIKIN社から販売されているNEOFLON(商標)FEPシリーズのポリマー、又はDupont社から販売されているTeflon(登録商標)FEPシリーズのポリマー、或いは3M社から販売されている3M(商標)Dyneon(商標)フルオロプラスチックFEPシリーズのポリマーが挙げられる。
【0140】
フルオロエラストマーは、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で10%~40%、優先的には15%~25%を占めることができる。
【0141】
特定の実施形態によれば、熱可塑性ポリマーは、ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマーであってもよい。
【0142】
ポリシロキサンブロックは、C1~C12、好ましくはC1~C6、特にC1~C4アルキル基、及び/又はフェニル基で一置換又は二置換されていてもよい。好ましくは、アルキル基はメチル基である。好ましくは、ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマー中に存在するポリシロキサン単位は、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)単位である。
【0143】
ポリシロキサンブロックのアルキル基又はフェニル基はまた、エポキシ、アルコキシ、特にメトキシ、アミン、ケトン、チオエーテル、ハロゲン、ニトリル、ニトロ、スルホン、ホスホリル、イミノ又はチオエステル等の1つ又は複数の官能基で置換されていてもよい。これらの官能基は、ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマーの鎖の末端に位置していてもよい。とはいえ、好ましくは、ポリシロキサンブロックはいかなる官能基も含まない。更に、ポリシロキサンブロックのアルキル基又はフェニル基は、1つ以上の炭素環式基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、アルケニル基、ビシクロ基又はトリシクロ基で置換されていてもよい。
【0144】
ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマーは、更にポリシロキサン以外の単位のブロックを含む。それらは特に、ポリエーテルイミド、ポリ(アリールエーテルケトン)、ポリ(アリールエーテルスルホン)、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリ(アリールアミドイミド)、ポリ(フェニレン)、ポリ(ベンズイミダゾール)及び/又はポリカーボネートブロックであってよい。好ましくは、ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマーは、ポリアリールエーテルケトン又はポリエーテルイミドブロックも含む。これらのブロックの利点は、組成物のポリアリールエーテルケトンとの相溶性が高いため、組成物に多量の可撓性熱可塑性ポリマーを組み込むことができることである。
【0145】
ポリアリールエーテルケトンブロックは、組成物の構成成分として使用されるポリアリールエーテルケトンのものと同じリストから選択されうる。有利な実施形態によれば、ポリアリールエーテルケトンブロックは、組成物の構成成分として使用されるポリアリールエーテルケトンの化学組成と同じ化学組成を有することができる。
【0146】
優先的には、ポリエーテルイミドブロックは、化学式
【0147】
【0148】
を有する繰り返し単位を含む、本質的にこれからなる、又はこれからなり、
ここで、Aは:-O-又は式-O-Z-O-の基を表し、ここで、-O-及び-O-Z-O-二価基は、それらが結合しているベンゼンラジカルの3,3'、3,4'又は4,4'の位置にあり、そして
ここで、Zは
【0149】
【0150】
【0151】
からなるリストから選ぶことができ、
ここで、Qは、-O-、-S-、-C(O)-、-SO2-、-SO-、-CyH2y-(yは0~20の整数)及びそれらのハロゲン化誘導体からなる群から選択される2価の基であり、
ここで、Bは、6~20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基又はそのハロゲン化誘導体、2~20個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキレン鎖、3~20個の炭素原子を有するシクロアルキレン、又は式(XIII)の2価の基を表す。
【0152】
ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマーは、コポリマーの質量に対して質量で10%~70%、優先的には15%~60%、より好ましくは20%~50%のシロキサン含量を占めることができる。ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマーは、組成物の前記少なくとも1種の熱可塑性プラスチック及び少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で5%~20%、優先的には7%~15%を占めることができる。
【0153】
ポリシロキサンブロックを含むこのようなブロックコポリマーは市販されている。したがって、Sabic社はPEI-PDMSブロックを含むコポリマーをSiltem(登録商標)の名称で販売している。また、Idemitsu Kosan社はポリカーボネート-PDMSコポリマーをTarflon(登録商標)Neoの名称で販売している。
【0154】
特定の実施形態によれば、可撓性熱可塑性ポリマーはポリシロキサンであってもよい。ポリシロキサンは、C1~C12、好ましくはC1~C6、非常に特にC1~C4アルキル基、及び/又はフェニル基で一置換又は二置換されていてもよい。好ましくは、アルキル基はメチル基である。ポリシロキサンのアルキル基又はフェニル基は、エポキシ、アルコキシ、特にメトキシ、アミン、ケトン、チオエーテル、ハロゲン、ニトリル、ニトロ、スルホン、ホスホリル、イミノ又はチオエステル等の1つ又は複数の官能基で置換されていてもよい。
【0155】
それにもかかわらず、好ましくは、ポリシロキサンはいかなる官能基も含まない。更に、ポリシロキサンのアルキル基又はフェニル基は、1つ以上の炭素環式基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、アルケニル基、ビシクロ基又はトリシクロ基で置換されていてもよい。
【0156】
好ましくは、ポリシロキサンはポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)でありうる。
【0157】
ポリシロキサンは、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で1%~25%を占めることができる。
【0158】
特定の実施形態によれば、ポリシロキサンは、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で2%以上、又は3%以上、又は4%以上、又は5%以上を占めてよい。ポリシロキサンは、ポリアリールエーテルケトンとの相溶性が非常に低いので、組成物の前記可撓性熱可塑性ポリマー及びポリアリールエーテルケトンの総質量に対して、質量で20%以下、優先的には15%以下、より好ましくは13%以下を占めることができる。
【0159】
特定の実施形態によれば、組成物の前記少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーは、ポリシロキサンブロックを含むブロックコポリマー、特にポリアリールエーテルケトン又はポリエーテルイミドブロックを更に含むブロックコポリマーと、ポリシロキサンとの混合物である。
【0160】
組成物のその他の任意成分
好ましい実施形態によれば、組成物は、ポリアリールエーテルケトン及び可撓性熱可塑性ポリマーの総質量に対して、少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも92.5%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97.5%、又は少なくとも98%、又は少なくとも98.5%、又は少なくとも99%、又は少なくとも99.5%、又は100%を含んでもよい。
【0161】
組成物は、優先的には強化フィラー、特に繊維を含まない。事実、強化フィラーは一般に、材料の延性を低下させる影響がある。
【0162】
組成物は、ポリアリールエーテルケトン及び可撓性熱可塑性ポリマーに加えて、ポリアリールエーテルケトンと混和性である他のポリマーを含んでいてもよい。ポリアリールエーテルケトンと混和性である他のポリマーは、それゆえ、可撓性熱可塑性ポリマーが分散しているマトリックス中に取り込まれる。言い換えれば、可撓性熱可塑性ポリマーのノジュールに追加してノジュールを形成することはない。
【0163】
組成物はまた、任意に、少量、特に組成物の質量に対して、質量で5%未満の機能性添加剤を含んでもよい。挙げることができるそのようなものの例としては、酸化防止剤、溶融状態及び/又は固体状態の安定剤、導電剤及び/又は帯電防止剤、難燃剤、染料、並びにアルカリカーボネートのような反応剤がある。
【0164】
したがって、特定の実施形態によれば、組成物は、ポリアリールエーテルケトン、可撓性熱可塑性ポリマー、任意選択で、ポリアリールエーテルケトン及び可撓性熱可塑性ポリマー以外のポリマー、これはポリアリールエーテルケトンと混和性である、及び任意選択で1種以上の機能性添加剤からなってもよい。
【0165】
特定の実施形態によれば、組成物は、ポリアリールエーテルケトン及び可撓性熱可塑性ポリマーからなりうる。特に、単一のポリアリールエーテルケトンと単一の可撓性熱可塑性ポリマーからなりうる。
【0166】
粉体
本発明による粉体は、組成物の粒子を含み、そのいくつかの実施形態が上述されている。
【0167】
好ましくは、粉体は異なる化学組成の他の粒子を含まない。したがって、粉体は、優先的には、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンと少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーとを含む上述の組成物からなる。このことは、例えば、粉体がレーザー焼結によって物体を構成するための方法において使用される実施形態において、粉体のリサイクルをより容易に実施できるという利点を特に有する。
【0168】
特定の実施形態において、粒子は、ISO13320:2009規格に従って、レーザー回折によって測定された場合に、40~140マイクロメートルの範囲のメジアン径d50をもつ体積加重粒径分布を有してもよい。優先的には、メジアン径d50は50~120マイクロメートルであってもよい。より好ましくは、メジアン径d50は60~110マイクロメートルであってもよい。
【0169】
特定の実施形態によれば、d10は15マイクロメートル以上、又は30マイクロメートル以上であってもよい。
【0170】
特定の実施形態によれば、d90は300以下であってもよく、優先的には240マイクロメートル以下であってもよい。特定の実施形態によれば、d90の値は、180マイクロメートル以下であってもよい。
【0171】
有利な実施形態によれば、特に、電磁放射線媒介焼結による三次元物体の層ごとの構築方法における粉体の適用のために、粉体の粒径分布は:
d10≧15μm、60μm≦d50≦110μm、d90≦240μm
等でありうる。
【0172】
特定の実施形態によれば、特に、電磁放射線媒介焼結による三次元物体の層ごとの構築方法における粉体の適用のために、粉体の粒径分布は:
d10≧30μm、80μm≦d50≦100μm、d90≦180μm
等でありうる。
【0173】
特定の実施形態によれば、粉体は流動剤を含まない。有利には、流動剤がない場合でも、10秒以下、優先的には7秒以下、極めて好ましくは5秒以下の紛体流動性を有しうる。
【0174】
特定の実施形態によれば、粉体は500kg/m3以上のタッピング密度を有する。物体を製造する工程で使用されるこのような粉体は、製造される物体に望まれる密度に近づく密度を有する。これにより、物体を製造する工程中に排気されるべき粉体由来の空気をより少なくすることが可能となり、したがって、低い気孔率を有する物体をより容易にうることができる。
【0175】
特定の実施形態によれば、粉体は非晶質粉体である。
【0176】
特定の実施形態によれば、粉体は、少なくとも部分的に結晶性である。粉体は、特に、X線回折によって測定された場合、組成物中のポリマーの総質量に対して、質量で10%以上、優先的には15%以上、より好ましくは18%以上の、結晶化度を有しうる。
【0177】
粉体の使用
本発明による粉体は、以下に非網羅的に列挙する用途を含む、多数の用途に使用することができる。
【0178】
電磁放射、特に赤外線やレーザー放射を媒介とする焼結による物体の層ごとの構築方法は、当業者によく知られている。
図1を参照すると、レーザー焼結装置1は焼結室10を備え、この焼結室10には、焼結される粉体を収容した供給タンク40、構築中の三次元物体80を支持するための水平プレート30、及びレーザー20が配置されている。粉体は供給タンク40から取り出され、水平プレート30上に堆積され、構築中の三次元物体80を構成する粉体の薄い層50が形成される。成形ローラー/ドクターブレード(図示せず)により、粉体層50の良好な均一性が確保される。建設中の粉体層50は、赤外線100によって加熱され、所定の構築温度Tcに等しい実質的に均一な温度に達する。PAEKをベースとする粉体を焼結するための従来の構築方法では、Tcは、一般に、20℃/分に等しい温度傾斜での最初の加熱の間にDSCによって測定される粉体の融解温度よりも約20℃低い。場合によっては、Tcは更に低くなることもある。次に、粉体層50の様々な点で粉体粒子を焼結させるのに必要なエネルギーは、物体の形状に対応した平面(xy)内で移動可能なレーザー20からのレーザー放射200によって供給される。溶融粉体は再凝固して焼結部55を形成するが、層50の残りの部分は未焼結粉体56の形で残る。場合によっては、レーザー照射200を数回行う必要がありうる。次に、水平プレート30を、粉体の1層の厚さに相当する距離だけ軸(z)に沿って下降させ、新しい層を堆積させる。レーザー20は、物体のこの新しいスライスに対応する形状で粉体粒子を焼結するのに必要なエネルギーを供給し、これを繰り返す。この手順は、物体80全体が製造されるまで繰り返される。物体80が完成すると、水平プレート30から取り外され、未焼結粉体56は、必要に応じて供給タンク40に戻される前に選別され、リサイクル粉体として提供される。
【0179】
本発明による粉体は、表面、特に金属表面をコーティングするための方法にも使用できる。金属部品上のコーティングをうるために、様々な工程を使用することができる。流動床への浸漬は、金属部品を加熱した後、流動粉体床に浸漬する方法である。また、静電粉体塗装(帯電した粉体を接地された金属部品にまぶしたもの)も可能で、この場合、皮膜を生成するために熱処理が行われる。別の方法として、予熱された部品に粉体塗装を行うことであり、この場合、粉体塗装後に熱処理を取り除くことができる。最後に、火炎粉体塗装を行うことも可能である。この場合、粉体は、任意に予熱された金属部品に溶融スプレーされる。
【0180】
本発明による粉体は、粉体圧縮工程でも使用できる。これらの方法は一般に厚い部品を製造するために使用される。これらの方法では、粉体はまず金型に装填され、次に圧縮され、最後に溶融されて部品が製造される。最後に、部品の内部応力の存在を制限するために、適切な冷却が、しばしばかなりゆっくりと行われる。
【0181】
これらの方法によって得られる物体は、PAEKのマトリックス中に分散した少なくとも1種の可撓性熱可塑性ポリマーを含む粉体の製造が不可能であったために、これまでうることができなかった特性を有している。
【0182】
上述の方法の1つによって得られる物体、優先的には、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法によって得られる物体は、特にISO527-1:2019規格に従って、23℃において、1BA試験片について測定された場合に、厳密に4GPa未満の弾性率を有することができる。
【0183】
上述の方法の1つによって得られ、優先的には、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法によって得られる物体は、ISO179:2010規格に従ったタイプAのノッチ付きバーに対して、5kJ/m2以上、優先的には6kJ/m2以上、優先的には7kJ/m2以上、優先的には8kJ/m2以上、極めて好ましくは9kJ/m2以上のシャルピー衝撃強度を有することができる。
【0184】
粉体の製造方法
本発明による粉体の製造方法は、
- 溶融状態の組成物を、溶融状態で供給する工程;
- 溶融状態の組成物を噴霧して、溶融組成物の液滴を形成する工程;
- 溶融組成物の液滴を冷却して固体粒子を形成する工程;及び
- 任意選択で1つ以上の熱処理工程、
を含む。
【0185】
溶融スプレーと冷却の工程は、純粋なポリマー組成物ではそれ自体既知である。これらにより、前記ポリマーのマイクロ粉体をうることができる。このような方法は、例えば欧州特許第0945173号に記載されている。
【0186】
図2を参照すると、溶融スプレー装置2は、装置の上部に配置されたスプレーノズル4に溶融状態の組成物を供給するための手段3を備える。スプレーノズル4は、溶融状態の組成物を微細噴流の形態で噴霧し、この噴流は、降下するにつれて微小液滴5に分離する。溶融状態の液滴は、落下しながら冷却されて固化する。液滴の高さを低くするため、及び/又は冷却を加速するために、装置の側壁に配置された供給装置6によって、例えば液体窒素や液体二酸化炭素のようなクライオガスを気体の形で装置内に吹き込むことができる。こうして、装置下部に固体微粉体7が得られる。
【0187】
溶融状態の混合物は、当該技術分野で知られているどのような方法によってもうることができる。
【0188】
組成物は、例えば、可撓性熱可塑性ポリマーが分散されたPAEK顆粒の形態で供給することができる。或いは、各成分を別々に供給し、熱可塑性プラスチックの調製に適した公知の溶融混合装置を用いて、溶融状態の組成物をその場で製造することもできる。好適な溶融混合装置は、例えばニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出機及び二軸押出機である。
【0189】
噴霧方法によって得られる粉体は、溶融組成物の液滴が非常に急速に冷却されるため、一般に非晶質又は準非晶質である。
【0190】
非晶質粉体は、適切な場合には、1つ以上の熱処理工程を経ることができる。1つ(第1)の熱処理工程は、組成物の結晶化を生じさせるように、ガラス転移温度Tg以上、かつ組成物のポリアリールエーテルケトンの融解温度未満で実施することができる。任意に、必要であれば、組成物の結晶相を均一にするように、第二の熱処理を行ってもよい。このような熱処理粉体は、電磁放射線媒介焼結による物体の層ごとの構築方法における使用に特に適している。
【0191】
例えば、組成物のポリアリールエーテルケトンが、イソフタル及びテレフタル繰り返し単位から本質的になる、からなるPEKKであり、T/Iモル比が45:55~75:25、特にT/I比が約60:40である実施形態によれば、熱処理は、160℃~300℃、優先的には180℃~290℃、より好ましくは190℃~250℃の温度で、所望の結晶化度をうるのに十分な時間行うことができる。
【0192】
PEKKは、「形態I」及び「形態II」と呼ばれる2つの結晶形態で結晶化することも知られている。第一の熱処理後にこのような場合には、第二の熱処理を有利に実施して、形態IのPEKK結晶を本質的に含む粉体をうるようにすることができる。この方法はそれ自体公知であり、既に国際公開第2012/047613号出願に記載されている。約60:40のT/I比を有するPEKKを含む組成物からなる粉体の場合、第二の熱処理の温度は、特に230℃~300℃、優先的には260℃~295℃でありうる。第二の熱処理の温度は、特に275℃~290℃でありうる。
【0193】
第二の熱処理の温度は、一般に第一の熱処理の温度よりも高い。したがって、約60:40のT/Iモル比を有するPEKKを含む組成物からなる粉体の例を続けると、特に、第一の熱処理は160℃から250℃の温度で、第二の熱処理は260℃から300℃の温度で実施することができる。
【実施例】
【0194】
原材料
実施例には以下の市販品を使用した:
- ARKEMA社から販売されている6000グレードのKEPSTAN(登録商標)は、T/Iモル比が60/40のポリエーテルケトンケトンである。このPEKKは、380℃、1Hzで900Pa・sの粘度を有する。5個の1BA試験片を、次のパラメータを用いてBattenfeldプレス機で、射出成形で調製した:フィード330℃;ノズル345℃;金型80℃。この成形条件では、試験片は実質的に非晶質形態で得られた。引張弾性率は、ISO527-1:2019規格に従って、23℃、クロスヘッド速度1mm/分で、2.9GPaと測定された。
【0195】
比較のために、結晶化度20%のレーザー焼結によって得られた試験片の引張弾性率は、23℃、クロスヘッド速度1mm/分で4GPaと測定された(表2、組成#3c参照)。
【0196】
- Daikin社から販売されているNEOFLON(商標)NF101は、本質的にTFEとHFPの繰り返し単位(FEP)からなるコポリマーである。このFEPコポリマーの380℃、1Hzでの粘度は1200Pa・sである。供給業者は、NEOFLON(商標)NF101を含むNEOFLON(商標)FEP製品群が、440~540MPa(ASTMD638)の引張弾性率を有することを示している。
【0197】
- Sabic社から販売されているSILTEM(登録商標)1500は、ポリエーテルイミド-ポリジメチルシロキサン(PEI/PDMS)ブロックコポリマーである。SILTEM(登録商標)1500は、ポリマーの総質量に対するポリジメチルシロキサンの質量割合が40%であり、380℃、1Hzでの粘度が800Pa・sである。供給業者は、SILTEM(登録商標)1500が、クロスヘッド速度1mm/分(ISO527)で590MPaの引張弾性率を有することを示している。
【0198】
PEKKを各可撓性熱可塑性ポリマーと混合し、Coperion社から販売されているZSK Mc18二軸押出機を用いて、メインホッパーに導入し、温度320℃で押出成形した。スクリューの回転速度は、PEKKとPEI/PDMSブロックコポリマーの混合物では250rpm、PEKKとFEPの混合物では320rpmであった。
【0199】
こうして得られた顆粒を
図2のような装置で噴霧し、固形粉体を得た。
【0200】
2回の連続熱処理を行った。まず粉体を185℃で6時間、次に270℃で3時間処理した。
【0201】
本発明による実施例で配合した粉体と比較するために、対照粉体#3cも製造した。これはPEKKからなり、結晶性ポリマーのフレークを粉砕し、次いで緻密化工程及び熱処理工程を行う従来の方法によって製造した。
【0202】
380℃、1Hzで約900Pa・sの粘度を有するPEKKフレークを求電子方法により合成した。まず、Alpine Hosokawa社のAFG200エアジェットミルを用いて、23℃の温度で微粉砕し、d10=30ミクロン、d50=69ミクロン、d90=132ミクロンの粒径分布を有する粉体を得た。
【0203】
この粉体は「非高密度化」と呼ばれ、その後、ヘンシェル・ラピッドミキサーで、ブレード先端速度約43m/秒の熱機械処理を60分間行った。こうして高密度化粉体をうることができた。高密度化粉体のタッピング密度は440kg/m3である。最後に、この高密度化粉体を275℃で4時間熱処理した。
【0204】
下の表は、#1~#3cの粉体の特性を示す。
【0205】
【0206】
1BA試験片及び寸法80×10×4mm3のバーを、EOS社から販売されているP810プリンターを使用してxy平面に印刷した。造形温度は285℃、レーザーエネルギーは29mJ/mm2に設定した。
【0207】
1BA試験片は粉体のレーザー焼結によって製造された物体の、23℃、クロスヘッドスピード1mm/分での引張弾性率を決定するために使用された。
【0208】
予めVノッチ加工を施し、24時間静置したバーを、シャルピー衝撃強度を決定するのに用いた。
【0209】
以下の表は、これらのテスト結果を示す。
【0210】
【0211】
このように、本発明による粉体#1及び#2は、PEKKをベースとするレーザー焼結によって得られ、先行技術による粉体(粉体#3c)で製造可能であったものに比べて低い弾性率及び高い衝撃強度を有する物体を製造することを可能にした。
【0212】
別の比較例:コンパウンドにより得られたPEKK顆粒からの粉体の製造。
約2mmのPEKK顆粒を押し出した。この顆粒は、結晶化度を高め、粉砕工程でより脆くするため、180℃で9時間熱処理された。最後に、ミルが更に500ミクロンの丸い孔のあるスクリーンを備え、液体窒素で冷却したMikropul 2DH(登録商標)極低温ハンマーミルで粉砕した。得られた粉体は500ミクロンのd50を有する。
【0213】
このように、コンパウンドにより得られるPEKK顆粒については、たとえ極低温条件下で前記顆粒を予め結晶化させたとしても、粉砕により、厳密に500ミクロン未満のd50を有する粉体を得ることは、一般に不可能である。
【0214】
粉体#1及び#2の製造に使用される顆粒のような、PEKKと可撓性熱可塑性ポリマーとからなる組成物をコンパウンドして得られる顆粒を、同様の条件下で粉砕することは、実施が更に困難であり、厳密には500ミクロン未満のd50を有する粉体をうることは不可能であろう。
【符号の説明】
【0215】
1 レーザー焼結装置
2 溶融スプレー装置
3 溶融状態の組成物を供給するための手段
4 スプレーノズル
5 微小液滴
6 供給装置
7 固体微粉体
10 焼結室
20 レーザー
30 水平プレート
40 供給タンク
50 粉体層
55 焼結部
56 未焼結粉体
80 三次元物体
100 赤外線
200 レーザー放射
【国際調査報告】