(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】CRISPR/Cas挿入の効率を増大させるための阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240927BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240927BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20240927BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240927BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240927BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240927BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240927BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20240927BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240927BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240927BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/867 Z ZNA
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N9/16 Z
C07K14/725
C07K16/28
C07K19/00
C12N5/10
C12N15/11 Z
A61K38/46
A61K48/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519281
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2022077122
(87)【国際公開番号】W WO2023052508
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】マレスカ,マルチェッロ
(72)【発明者】
【氏名】スヴィコヴィッチ,サーシャ
(72)【発明者】
【氏名】アクラプ,ニーナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィムベルガー,ザンドラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA95Y
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA31
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA18
4C084CA59
4C084DC22
4C084NA14
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB54
4C087NA14
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、真核細胞のゲノムに目的のポリヌクレオチドを挿入する方法を提供するものであり、前記方法は、真核細胞へのマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤の添加によって、CRISPR/Cas媒介ポリヌクレオチド挿入の効率を改善することを含む。本開示はさらに、目的のポリヌクレオチドを真核細胞のゲノムに挿入するための組成物、及び目的の遺伝子を真核細胞のゲノムに挿入するためのキットを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核細胞のゲノムに目的のポリヌクレオチドを挿入する方法であって、
a.前記真核細胞を含む組成物にマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤を添加する工程、
b.前記組成物にCasエフェクタータンパク質を添加する工程、
c.前記組成物に前記目的のポリヌクレオチドを添加する工程
を含み、前記目的のポリヌクレオチドは、相同組換え修復(HDR)又は一本鎖鋳型修復(SSTR)によって前記ゲノムに挿入される、方法。
【請求項2】
(a)は、非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(d)RNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドを前記組成物に添加する工程
をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記Casエフェクタータンパク質は、(b)において、前記Casエフェクタータンパク質をコードするCasポリヌクレオチドを添加することによって添加される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(i)前記目的のポリヌクレオチド、(ii)(d)の前記ポリヌクレオチド、又は(iii)前記Casポリヌクレオチドの1つ以上は、ベクター上にコードされている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(i)前記目的のポリヌクレオチド、(ii)工程(d)の前記ポリヌクレオチド、及び(iii)前記Casポリヌクレオチドは、単一ベクター上にコードされている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記目的のポリヌクレオチドは、DNAとして添加される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(d)の前記ポリヌクレオチドは、DNAとして添加される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(d)の前記ポリヌクレオチドは、RNAとして添加される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記Casエフェクタータンパク質は、DNAとして添加される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記Casポリヌクレオチドは、RNAとして添加される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記Casポリヌクレオチドは、mRNAとして添加される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記Casエフェクタータンパク質及び(d)の前記ポリヌクレオチドは、リボ核タンパク質(RNP)の形態で添加される、請求項3に記載の方法。
【請求項16】
前記Casエフェクタータンパク質、前記目的のポリヌクレオチド、及び(d)の前記ポリヌクレオチドは、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションによって、又は脂質ナノ粒子、リポソーム、エキソソーム、金ナノ粒子若しくはDNAナノクルーによって、前記細胞に添加される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ベクターは、前記真核細胞をトランスフェクトすることによって前記組成物に添加される、請求項5又は9に記載の方法。
【請求項18】
前記Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12aヌクレアーゼ、又はCas12fヌクレアーゼである、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記Cas9ヌクレアーゼは、逆転写酵素に融合したCas9ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼに融合したCas9ヌクレアーゼ、DN1Sに融合したCas9ヌクレアーゼ、Cas9ニッカーゼ、ジェミニンデグロンドメインに融合したCas9、又はCTIPに融合したCas9ヌクレアーゼである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記目的のポリヌクレオチドは、ベクターによって添加される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記目的のポリペプチドは、目的の遺伝子を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記目的のポリペプチドは、長さが1~50塩基対である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記目的のポリペプチドは、長さが50~5000塩基対である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記目的のポリヌクレオチドは、一本鎖である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記目的のポリヌクレオチドは、二本鎖である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記目的のポリヌクレオチドは、一本鎖領域及び二本鎖領域を含むハイブリッドポリヌクレオチドである、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記ハイブリッドポリヌクレオチドは、5’末端及び3’末端の二本鎖配列、並びに内部一本鎖配列を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記目的のポリヌクレオチドは、平滑末端を有する二本鎖である、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記目的のポリヌクレオチドは、3’オーバーハングを有する二本鎖である、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記目的のポリヌクレオチドは、5’オーバーハングを有する二本鎖である、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記目的のポリヌクレオチドは、環状ポリヌクレオチドである、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記目的のポリヌクレオチドは、前記ポリヌクレオチドの安定性、活性、分布、又は取り込みを増強する化学修飾を含む、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記MMEJ経路の阻害剤は、POLQの阻害剤である、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記PolQの阻害剤は、PolQ_1、PolQ_2、PolQ_3、PolQ_4、PolQ_5、PolQ_6、PolQ_7、又はこれらの組み合わせである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記PolQの阻害剤は、ペプチドである、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物中の前記MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約1mMである、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物中の前記MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1μM~約100μMである、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記NHEJ経路の阻害剤は、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の阻害剤である、請求項2~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記DNA-PKの阻害剤は、M3814、M9831/VX984、Nu7441、Nu7026、KU0060648、AZD7648、又はこれらの組み合わせである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記DNA-PKの阻害剤は、AZD7648である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記DNA-PKの阻害剤は、ペプチドである、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記組成物中の前記NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約1mMである、請求項2~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記組成物中の前記NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1μM~約100μMである、請求項2~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記Casエフェクタータンパク質を前記組成物に添加する0分~約48時間前に前記組成物に添加される、請求項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記Casエフェクタータンパク質を前記組成物に添加する0分~約24時間前に前記組成物に添加される、請求項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記Casエフェクタータンパク質を前記組成物に添加する0分~約6時間前に前記組成物に添加される、請求項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記Casエフェクタータンパク質の前記組成物への添加から0分~約1時間後に前記組成物に添加される、請求項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記Casエフェクタータンパク質を前記組成物に添加する0分~約48時間前に前記組成物に添加される、請求項2~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記Casエフェクタータンパク質を前記組成物に添加する0分~約24時間前に前記組成物に添加される、請求項2~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記Casエフェクタータンパク質を前記組成物に添加する0分~約6時間前に前記組成物に添加される、請求項2~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記Casエフェクタータンパク質の前記組成物への添加から0分~約1時間後に前記組成物に添加される、請求項2~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記MMEJ経路の阻害剤及び前記NHEJ経路の阻害剤は、前記組成物に同時に添加される、請求項2~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記MMEJ経路の阻害剤及び前記NHEJ経路の阻害剤は、前記組成物に異なる時間に添加される、請求項2~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記MMEJ経路の阻害剤、前記NHEJ経路の阻害剤、及び前記Casエフェクタータンパク質は、前記組成物に同時に添加される、請求項2~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記組成物中に約1~約300時間存在する、請求項1~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記組成物中に約10~約100時間存在する、請求項1~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記MMEJ経路の阻害剤は、少なくとも1回、少なくとも2回、又は少なくとも3回添加される。請求項1~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記組成物中に約1~約300時間存在する、請求項2~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記組成物中に約10~約100時間存在する、請求項2~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記NHEJ経路の阻害剤は、少なくとも1回、少なくとも2回、又は少なくとも3回添加される。請求項2~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記真核細胞を含む前記組成物は、細胞培養物である、請求項1~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記細胞培養物は、インビトロ細胞培養物又はエクスビボ細胞培養物である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記真核細胞は、インビボにある、請求項1~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記細胞培養物は、細胞抽出物を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項68】
前記真核細胞は、リンパ球である、請求項1~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記リンパ球は、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記真核細胞は、多能性幹細胞である、請求項1~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞である、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物である、請求項64に記載の方法。
【請求項73】
真核細胞のゲノムに目的のポリヌクレオチドを挿入する方法であって、
a.マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤を、前記真核細胞を含む組成物に添加する工程、
b.前記目的のポリヌクレオチドを前記組成物に添加する工程
を含み、
前記ゲノムは、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含み、前記目的のポリヌクレオチドは、相同組換え修復(HDR)又は一本鎖鋳型修復(SSTR)によって前記ゲノムに挿入される、方法。
【請求項74】
(a)は、非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤を前記組成物に添加することをさらに含む、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
(c)RNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドを前記組成物に添加する工程
をさらに含む、請求項73又は74に記載の方法。
【請求項76】
(i)前記目的のポリヌクレオチド及び(ii)前記(c)のポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされる、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記目的のポリヌクレオチドは、DNAとして添加される、請求項73~76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
前記(c)のポリヌクレオチドは、DNAとして添加される、請求項75~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記(c)のポリヌクレオチドは、RNAとして添加される、請求項75~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項76に記載の方法。
【請求項81】
前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記ベクターは、前記真核細胞をトランスフェクトすることによって前記組成物に添加される、請求項76に記載の方法。
【請求項83】
前記ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドは誘導性である、請求項73~82のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
前記Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12aヌクレアーゼ、又はCas12fヌクレアーゼである、請求項73~83のいずれか一項に記載の方法。
【請求項85】
前記Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼである、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記Cas9ヌクレアーゼは、逆転写酵素に融合したCas9ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼに融合したCas9ヌクレアーゼ、DN1Sに融合したCas9ヌクレアーゼ、Cas9ニッカーゼ、ジェミニンデグロンドメインに融合したCas9、又はCTIPに融合したCas9ヌクレアーゼである、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記目的のポリヌクレオチドは、ベクターによって添加される、請求項73~86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記目的のポリペプチドは、目的遺伝子を含む、請求項73~89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
前記目的のポリペプチドは、長さが1~50塩基対である、請求項73~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記目的のポリペプチドは、長さが50~5000塩基対である、請求項73~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
前記目的のポリヌクレオチドは、一本鎖である、請求項73~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
前記目的のポリヌクレオチドは、二本鎖である、請求項73~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項95】
前記目的のポリヌクレオチドは、一本鎖領域及び二本鎖領域を含むハイブリッドポリヌクレオチドである、請求項73~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項96】
前記ハイブリッドポリヌクレオチドは、5’末端及び3’末端の二本鎖配列、並びに内部一本鎖配列を含む、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記目的のポリヌクレオチドは、平滑末端を有する二本鎖である、請求項73~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
前記目的のポリヌクレオチドは、3’オーバーハングを有する二本鎖である、請求項73~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項99】
前記目的のポリヌクレオチドは、5’オーバーハングを有する二本鎖である、請求項73~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項100】
前記ポリヌクレオチドは、環状ポリヌクレオチドである、請求項73~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
前記目的のポリヌクレオチドは、前記ポリヌクレオチドの安定性、活性、分布、又は取り込みを増強する化学修飾を含む、請求項73~100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
前記MMEJ経路の阻害剤は、POLQの阻害剤である、請求項73~101のいずれか一項に記載の方法。
【請求項103】
前記PolQの阻害剤は、PolQ_1、PolQ_2、PolQ_3、PolQ_4、PolQ_5、PolQ_6、PolQ_7、又はこれらの組み合わせである、請求項102に記載の方法。
【請求項104】
前記PolQの阻害剤は、ペプチドである、請求項102に記載の方法。
【請求項105】
前記組成物中の前記MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約1mMである、請求項73~104のいずれか一項に記載の方法。
【請求項106】
前記組成物中の前記MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1μM~約100μMである、請求項73~104のいずれか一項に記載の方法。
【請求項107】
前記NHEJ経路の阻害剤は、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の阻害剤である、請求項74~106のいずれか一項に記載の方法。
【請求項108】
前記DNA-PKの阻害剤は、M3814、M9831/VX984、Nu7441、Nu7026、KU0060648、AZD7648、又はこれらの組み合わせである、請求項107に記載の方法。
【請求項109】
前記DNA-PKの阻害剤は、ペプチドである、請求項107に記載の方法。
【請求項110】
前記DNA-PKの阻害剤は、AZD7648である、請求項109に記載の方法。
【請求項111】
前記組成物中の前記NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約1mMである、請求項74~110のいずれか一項に記載の方法。
【請求項112】
前記組成物中の前記NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1μM~約100μMである、請求項74~110のいずれか一項に記載の方法。
【請求項113】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導の0分~約48時間前に前記組成物に添加される、請求項73~112のいずれか一項に記載の方法。
【請求項114】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導の0分~約24時間前に前記組成物に添加される、請求項73~112のいずれか一項に記載の方法。
【請求項115】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導の0分~約6時間前に前記組成物に添加される、請求項73~112のいずれか一項に記載の方法。
【請求項116】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導の0分~約24時間前に前記組成物に添加される、請求項73~115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項117】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導の0分~約24時間前に前記組成物に添加される、請求項74~115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項118】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導の0分~約6時間前に前記組成物に添加される、請求項74~115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項119】
前記MMEJ経路の阻害剤及び前記NHEJ経路の阻害剤は、前記組成物に同時に添加される、請求項74~118のいずれか一項に記載の方法。
【請求項120】
前記MMEJ経路の阻害剤及び前記NHEJ経路の阻害剤は、前記組成物に異なる時間に添加される、請求項74~118のいずれか一項に記載の方法。
【請求項121】
前記MMEJ経路の阻害剤及び前記NHEJ経路の阻害剤は、前記ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導と同時に前記組成物に添加される、請求項74~120のいずれか一項に記載の方法。
【請求項122】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記組成物中に約1~約300時間存在する、請求項73~121のいずれか一項に記載の方法。
【請求項123】
前記MMEJ経路の阻害剤は、前記組成物中に約10~約100時間存在する、請求項73~121のいずれか一項に記載の方法。
【請求項124】
前記MMEJ経路の阻害剤は、少なくとも1回、少なくとも2回、又は少なくとも3回添加される。請求項73~123のいずれか一項に記載の方法。
【請求項125】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記組成物中に約1~約300時間存在する、請求項74~124のいずれか一項に記載の方法。
【請求項126】
前記NHEJ経路の阻害剤は、前記組成物中に約10~約100時間存在する、請求項74~124のいずれか一項に記載の方法。
【請求項127】
前記NHEJ経路の阻害剤は、少なくとも1回、少なくとも2回、又は少なくとも3回添加される。請求項74~126のいずれか一項に記載の方法。
【請求項128】
前記真核細胞を含む前記組成物は、細胞培養物である、請求項73~127のいずれか一項に記載の方法。
【請求項129】
前記細胞培養物は、インビトロ細胞培養物又はエクスビボ細胞培養物である、請求項128に記載の方法。
【請求項130】
前記真核細胞は、インビボにある、請求項73~129のいずれか一項に記載の方法。
【請求項131】
前記細胞培養物は、細胞抽出物を含む、請求項130に記載の方法。
【請求項132】
前記真核細胞は、リンパ球である、請求項73~131のいずれか一項に記載の方法。
【請求項133】
前記リンパ球は、キメラ抗原受容体又はT細胞受容体(TCR)を含む、請求項132に記載の方法。
【請求項134】
前記真核細胞は、多能性幹細胞である、請求項73~131のいずれか一項に記載の方法。
【請求項135】
前記多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞である、請求項134に記載の方法。
【請求項136】
前記細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物である、請求項131に記載の方法。
【請求項137】
真核細胞のゲノムにポリヌクレオチドを挿入する方法であって、
a.マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤を、前記真核細胞を含む組成物に添加する工程、
b.前記真核細胞に
i.Casエフェクタータンパク質をコードするベクター、
ii.目的のポリヌクレオチドをコードするベクター、
iii.RNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドを含むベクター
をトランスフェクトする工程
を含み、
前記(i)、(ii)及び(iii)のベクターは、同じベクター又は異なるベクター上に存在することができ、前記目的のポリヌクレオチドは、前記目的のポリヌクレオチドは、相同組換え修復(HDR)又は一本鎖鋳型修復(SSTR)によって前記ゲノムに挿入される、方法。
【請求項138】
非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤を前記真核細胞を含む前記組成物に添加することをさらに含む、請求項137に記載の方法。
【請求項139】
前記Casエフェクタータンパク質は、Casポリヌクレオチドによってコードされる、請求項137又は138に記載の方法。
【請求項140】
(i)前記Casエフェクタータンパク質、及び(ii)前記目的のポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされる、請求項137~139のいずれか一項に記載の方法。
【請求項141】
前記Casエフェクタータンパク質、及び前記(iii)のポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされる、請求項137~139のいずれか一項に記載の方法。
【請求項142】
前記Casエフェクタータンパク質、前記目的のポリヌクレオチド、及び前記(iii)のポリヌクレオチドは、単一ベクター上にコードされている、請求項137~139のいずれか一項に記載の方法。
【請求項143】
前記Casエフェクタータンパク質及び前記(iii)のポリヌクレオチドは、リボ核タンパク質(RNP)の形態で添加される、請求項137又は138に記載の方法。
【請求項144】
真核細胞における相同組変え修復(HDR)及び一本鎖鋳型修復(SSTR)の遺伝子挿入効率を増大させる方法であって、前記真核細胞においてCRISPR/Cas媒介遺伝子挿入を実施する際に、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤を添加する工程を含む方法。
【請求項145】
非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤を添加することを含む、請求項144に記載の方法。
【請求項146】
前記CRISPR/Cas媒介遺伝子挿入は、CRISPR/Cas9媒介遺伝子挿入である、請求項144又は145に記載の方法。
【請求項147】
細胞におけるCRISPR/Cas媒介遺伝子挿入中のマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路組換えを低減する方法であって、Cas媒介遺伝子挿入を行う際に、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤を前記細胞に添加することを含む方法。
【請求項148】
細胞におけるCRISPR/Cas媒介遺伝子挿入中の非相同末端結合(NHEJ)組換えを低減することをさらに含み、非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤を前記細胞に添加することを含む、請求項147に記載の方法。
【請求項149】
前記CRISPR/Cas媒介遺伝子挿入は、CRISPR/Cas9媒介遺伝子挿入である、請求項147又は148に記載の方法。
【請求項150】
a.Casエフェクタータンパク質、又はCasエフェクタータンパク質をコードするベクター;及び
b.マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤
を含む組成物。
【請求項151】
非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤をさらに含む、請求項150に記載の組成物。
【請求項152】
少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドをさらに含む、請求項150又は151に記載の組成物。
【請求項153】
前記Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12aヌクレアーゼ、又はCas12fヌクレアーゼである、請求項150~152のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項154】
前記Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼである、請求項153に記載の組成物。
【請求項155】
前記Cas9ヌクレアーゼは、逆転写酵素に融合したCas9ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼに融合したCas9ヌクレアーゼ、DN1Sに融合したCas9ヌクレアーゼ、Cas9ニッカーゼ、ジェミニンデグロンドメインに融合したCas9、又はCTIPに融合したCas9ヌクレアーゼである、請求項154に記載の組成物。
【請求項156】
Casエフェクタータンパク質をコードする前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項150~155のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項157】
少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含む前記ポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされている、請求項150~155のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項158】
少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含む前記ポリヌクレオチドをコードする前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項157に記載の組成物。
【請求項159】
前記Casエフェクタータンパク質、及び少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含む前記ポリヌクレオチドは、リボ核タンパク質(RNP)の形態である、請求項150又は151に記載の組成物。
【請求項160】
薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤をさらに含む、請求項150~159のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項161】
a.Casエフェクタータンパク質、又はCasエフェクタータンパク質をコードするベクター;及び
b.マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤
を含むキット。
【請求項162】
非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤をさらに含む、請求項161に記載のキット。
【請求項163】
tracrRNAを含むポリヌクレオチドをさらに含む、請求項161又は162に記載のキット。少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドをさらに含む、請求項161又は162に記載のキット。
【請求項164】
前記Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12aヌクレアーゼ、又はCas12fヌクレアーゼである、請求項161~163のいずれか一項に記載のキット。
【請求項165】
前記Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼである、請求項164に記載のキット。
【請求項166】
前記Cas9ヌクレアーゼは、逆転写酵素に融合したCas9ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼに融合したCas9ヌクレアーゼ、DN1Sに融合したCas9ヌクレアーゼ、Cas9ニッカーゼ、ジェミニンデグロンドメインに融合したCas9、又はCTIPに融合したCas9ヌクレアーゼである、請求項165に記載のキット。
【請求項167】
Casエフェクタータンパク質をコードする前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項161~166のいずれか一項に記載のキット。
【請求項168】
前記ガイドポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされている、請求項161~167のいずれか一項に記載のキット。
【請求項169】
前記ガイドポリヌクレオチドは、ウイルスベクターである、請求項168に記載のキット。
【請求項170】
前記Casエフェクタータンパク質、及び前記ガイドポリヌクレオチドは、リボ核タンパク質(RNP)の形態である、請求項161又は162に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、真核細胞のゲノムに目的のポリヌクレオチドを挿入する方法を提供するものであり、前記方法は、真核細胞へのマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤の添加によって、CRISPR/Cas媒介ポリヌクレオチド挿入の効率を改善することを含む。本開示はさらに、目的のポリヌクレオチドを真核細胞のゲノムに挿入するための組成物、及び目的の遺伝子を真核細胞のゲノムに挿入するためのキットを提供する。
【背景技術】
【0002】
生細胞のゲノムに対し正確に標的とした変更を行うための、費用効率が高く信頼性の高い方法を開発することは、長年の目標であった。ゲノム編集は、特定の障害の原因である遺伝子を排除する(すなわち、遺伝子「ノックアウト」)、或いは、遺伝子「ノックイン」によって遺伝子欠損を補正するか又は生物学的プロセスを増強するための遺伝子の操作又は挿入を行う手段を提供する可能性を有している。ゲノム編集は、遺伝性障害、血液学的障害及び癌の治療を含む多くの障害の治療に、また免疫療法の方法に適用され得る。
【0003】
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートCRISPR)及びCRISPR関連(Cas)システムは、大腸菌(E.coli)中でIshinoにより最初に発見された原核生物免疫システムである(非特許文献1)。原核生物免疫システムは、ウイルス及びプラスミドの核酸を配列特異的に標的化することにより、ウイルス及びプラスミドに対する免疫を提供する。(非特許文献2)も参照されたい。
【0004】
その最初の発見以来、複数のグループが、遺伝子編集を含む遺伝子工学におけるCRISPRシステムの応用可能性に関して広範な研究を行ってきた(非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5)。CRISPR-Cas9遺伝子編集システムは、広範な生物及び細胞株において首尾よく使用されている。ゲノム編集に加えて、CRISPRシステムは、とりわけ遺伝子発現の調節、遺伝子回路の構築、及び機能的ゲノム学を含む、複数の他の用途がある(非特許文献6に概説)。
【0005】
Cas9エンドヌクレアーゼは、標的配列のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の上流で二本鎖DNAの切断を生成する。次いで、標的配列を除去するか、又は目的の配列を、細胞の内因性修復経路を使用して標的配列に挿入することができる。内因性DNA修復経路としては、非相同末端結合(NHEJ)経路、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路、及び相同組換え修復(HDR)経路が挙げられる。NHEJ、MMEJ、及びHDR経路は二本鎖DNA切断を修復するが、そのような二本鎖DNA切断の修復は二本鎖切断部位における挿入又は欠失をもたらし得る。NHEJにおいて、相同鋳型は、DNA中の切断の修復に必要ではない。NHEJ修復は、エラープローンであり得るが、エラーは、DNA切断が適合性オーバーハングを含む場合に減少する。NHEJ及びMMEJは、それらのそれぞれに関与するDNA修復酵素の異なるサブセットにより機序的に区別されるDNA修復経路である。場合により正確であり、場合によりエラープローンであり得るNHEJと異なり、MMEJは、常にエラープローンであり、修復中の部位に欠失及び挿入の両方をもたらす。MMEJ関連欠失は、二本鎖切断の両側におけるマイクロホモロジー(2~10塩基対)に起因する。対照的に、HDRは、修復を指示するために相同鋳型を必要とするが、HDR修復は、典型的には、高フィデリティ且つ低エラープローンである。したがって、二本鎖DNA切断のHDR駆動修復はNHEJ又はMMEJ媒介修復よりも好ましい。しかし、多くの細胞型において、HDRは細胞周期の全段階でNHEJの活性によって制限され、HDRは主に細胞増殖のS期で利用される(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ishino et al.,Journal of Bacteriology 169(12):5429-5433(1987)
【非特許文献2】Soret et al.,Nature Reviews Microbiology 6(3):181-186(2008)
【非特許文献3】Jinek et al.,Science 337(6096):816-821(2012)
【非特許文献4】Cong et al.,Science 339(6121):819-823(2013)
【非特許文献5】Mali et al.,Science 339(6121):823-826(2013)
【非特許文献6】Sander et al.,Nature Biotechnology 32:347-355(2014)
【非特許文献7】Mao et al.,Cell Cycle,7:2902-2906(2008)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
いくつかの実施形態では、本開示は、CRISPR/Cas媒介遺伝子挿入の効率を増大させる方法に関する。いくつかの実施形態において、本方法は、真核細胞のゲノムに目的のポリヌクレオチドを挿入することを含み、本方法は(a)真核細胞を含む組成物にMMEJ経路の阻害剤を添加する工程、(b)組成物にCasエフェクタータンパク質を添加する工程、及び(c)組成物に目的のポリヌクレオチドを添加する工程を含み、目的のポリヌクレオチドは、相同組換え修復(HDR)又は一本鎖鋳型修復(SSTR)によって真核細胞のゲノムに挿入される。
【0008】
いくつかの実施形態では、方法の工程(a)は、非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤を添加することをさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、本方法は、(d)RNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドを組成物に添加する工程をさらに含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質及び(d)のポリヌクレオチドは、リボ核タンパク質(RNP)の形態で添加される。
【0011】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Casエフェクタータンパク質をコードするCasポリヌクレオチドを添加することによって、(b)において添加される。
【0012】
いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチド、工程(d)のポリヌクレオチド、及びCasポリヌクレオチドは単一のベクター上にコードされる。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、DNAとして添加される。いくつかの実施形態では、工程(d)のポリヌクレオチドは、DNAとして添加される。いくつかの実施形態では、工程(d)のポリヌクレオチドは、RNAとして添加される。いくつかの実施形態では、Casエフェクターポリヌクレオチドは、DNAとして添加される。いくつかの実施形態では、Casポリヌクレオチドは、RNAとして添加される。いくつかの実施形態では、Casポリヌクレオチドは、mRNAとして添加される。
【0013】
いくつかの実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0014】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質、目的のポリヌクレオチド、及び(d)のポリヌクレオチドは、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションによって、又は脂質ナノ粒子、リポソーム、エキソソーム、金ナノ粒子若しくはDNAナノクルーによって、真核細胞に添加される。
【0015】
いくつかの実施形態では、ベクターは、真核細胞をトランスフェクトすることによって、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0016】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12aヌクレアーゼ、又はCas12fヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、逆転写酵素に融合したCas9ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼに融合したCas9ヌクレアーゼ、DN1Sに融合したCas9ヌクレアーゼ、Cas9ニッカーゼ、ジェミニンデグロンドメインに融合したCas9、又はCTIPに融合したCas9ヌクレアーゼである。
【0017】
いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、ベクターによって添加される。いくつかの実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルスである。
【0018】
いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、目的の遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、長さが1~50塩基対である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、長さが1~10塩基対である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、長さが50~5000塩基対である。
【0019】
いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、一本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、二本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、一本鎖領域及び二本鎖領域を含むハイブリッドポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ハイブリッドポリヌクレオチドは、5’末端及び3’末端の二本鎖配列、並びに内部一本鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、平滑末端を有する二本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、3’オーバーハングを有する二本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、5’オーバーハングを有する二本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、環状ポリヌクレオチドである。
【0020】
いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの活性、分布、又は取り込みを増強する化学修飾を含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、POLQ/DNAポリメラーゼθの阻害剤である。いくつかの実施形態では、POLQの阻害剤は、PolQ1、PolQ2、PolQ3、PolQ4、PolQ5、PolQ6 PolQ7、又はこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、POLQの阻害剤は、ペプチドである。
【0022】
いくつかの実施形態では、真核細胞を含む組成物中のMMEJ経路の阻害剤は、約0.01μM~約1mM、約0.1μM~約1mM、約0.1μM~約0.5mM、約0.1μM~約100μM、又は約1μM~約50μMである。
【0023】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の阻害剤である。いくつかの実施形態では、DNA-PKの阻害剤は、M3814、M9831/VX984、Nu7441、KU0060648、AZD7648、又はこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、DNA-PKの阻害剤は、AZD7648である。いくつかの実施形態では、DNA-PKの阻害剤は、ペプチドである。
【0024】
いくつかの実施形態では、真核細胞を含む組成物中のNHEJ経路の阻害剤は、約0.01μM~約1mM、約0.1μM~約1mM、約0.1μM~約0.5mM、約0.1μM~約100μM、又は約1μM~約50μMである。
【0025】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質が組成物に添加される0分~約48時間、0分~約24時間、0分~約12時間、0分~約6時間、又は0分~約1時間前に、真核細胞を含む組成物に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質が真核細胞を含む組成物に添加された0分~約1時間後に、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0026】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質が組成物に添加される0分~約48時間、0分~約24時間、0分~約12時間、0分~約6時間、又は0分~約1時間前に、真核細胞を含む組成物に添加される。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質が真核細胞を含む組成物に添加された0分~約1時間後に、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0027】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤及びNHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物に同時に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤及びNHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物に異なる時間に添加される。
【0028】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤、NHEJ経路の阻害剤、及びCasエフェクタータンパク質は、真核細胞を含む組成物に同時に添加される。
【0029】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物中に、約1~約300時間、約10~約100時間、又は約20~約80時間存在する。
【0030】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物に少なくとも1回、少なくとも2回、又は少なくとも3回添加される。
【0031】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物中に、約1~約300時間、約10~約100時間、又は約20~約80時間存在する。
【0032】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物に少なくとも1回、少なくとも2回、又は少なくとも3回添加される。
【0033】
いくつかの実施形態では、真核細胞を含む組成物は、細胞培養物である。いくつかの実施形態では、細胞培養物は、インビトロ細胞培養物又はエクスビボ細胞培養物である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、インビボにある。
【0034】
いくつかの実施形態では、細胞培養物は、細胞抽出物を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、リンパ球である。いくつかの実施形態では、リンパ球は、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、多能性幹細胞である。いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0037】
いくつかの実施形態では、細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物である。
【0038】
いくつかの実施形態では、本開示は、目的のポリヌクレオチドを、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞のゲノムに挿入することを含む、CRISPR/Cas媒介遺伝子挿入の効率を増大させる方法に関する。いくつかの実施形態では、本開示は、真核細胞のゲノムに目的のポリヌクレオチドを挿入する方法であって、(a)マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤を、真核細胞を含む組成物に添加する工程、及び(b)目的のポリヌクレオチドを組成物に添加する工程を含み、ゲノムは、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含み、目的のポリヌクレオチドは、相同組換え修復(HDR)又は一本鎖鋳型修復(SSTR)によってゲノムに挿入される、方法を提供する。いくつかの実施形態では、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドは誘導性である。
【0039】
いくつかの実施形態では、方法は、非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤を組成物に添加することをさらに含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、方法は、(c)RNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドを組成物に添加する工程をさらに含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、(i)目的のポリヌクレオチド及び(ii)(c)のポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされる。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、DNAとして添加される。いくつかの実施形態では、(c)のポリヌクレオチドは、DNAとして添加される。いくつかの実施形態では、(c)のポリヌクレオチドは、RNAとして添加される。
【0042】
いくつかの実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。いくつかの実施形態では、ベクターは、真核細胞をトランスフェクトすることによって、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0043】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12aヌクレアーゼ、又はCas12fヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、逆転写酵素に融合したCas9ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼに融合したCas9ヌクレアーゼ、DN1Sに融合したCas9ヌクレアーゼ、Cas9ニッカーゼ、ジェミニンデグロンドメインに融合したCas9、又はCTIPに融合したCas9ヌクレアーゼである。
【0044】
いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、ベクターによって添加される。いくつかの実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0045】
いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、目的の遺伝子を含む。いくつかの態様では、目的のポリヌクレオチドは、1~50塩基対長、1~10塩基対長、又は50~5000塩基対長である。
【0046】
いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、一本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、二本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、一本鎖領域及び二本鎖領域を含むハイブリッドポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ハイブリッドポリヌクレオチドは、5’末端及び3’末端の二本鎖配列、並びに内部一本鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、平滑末端を有する二本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、3’オーバーハングを有する二本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、5’オーバーハングを有する二本鎖である。いくつかの実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、環状ポリヌクレオチドである。
【0047】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの活性、分布、又は取り込みを増強する化学修飾を含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、POLQ/DNAポリメラーゼθの阻害剤である。いくつかの実施形態では、POLQの阻害剤は、PolQ1、PolQ2、PolQ3、PolQ4、PolQ5、PolQ6 PolQ7、又はこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、POLQの阻害剤は、ペプチドである。
【0049】
いくつかの実施形態では、真核細胞を含む組成物中のMMEJ経路の阻害剤は、約0.01μM~約1mM、約0.1μM~約1mM、約0.1μM~約0.5mM、約0.1μM~約100μM、又は約1μM~約50μMである。
【0050】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の阻害剤である。いくつかの実施形態では、DNA-PKの阻害剤は、M3814、M9831/VX984、Nu7441、KU0060648、AZD7648、又はこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、DNA-PKの阻害剤は、AZD7648である。いくつかの実施形態では、DNA-PKの阻害剤は、ペプチドである。
【0051】
いくつかの実施形態では、真核細胞を含む組成物中のNHEJ経路の阻害剤は、約0.01μM~約1mM、約0.1μM~約1mM、約0.1μM~約0.5mM、約0.1μM~約100μM、又は約1μM~約50μMである。
【0052】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物に、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導の0分~約48時間、0分~約24時間、0分~約12時間、0分~約6時間、又は0分~約1時間前に添加される。
【0053】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物に、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導の0分~約48時間、0分~約24時間、0分~約12時間、0分~約6時間、又は0分~約1時間前に添加される。
【0054】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤及びNHEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物に同時に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤及びNHEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物に異なる時間に添加される。
【0055】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導と同時に、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物に添加される。
【0056】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導と同時に、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物に添加される。
【0057】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤及びNHEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドの誘導と同時に、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物に添加される。
【0058】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物中に、約1~約300時間、約10~約100時間、又は約20~約80時間存在する。
【0059】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物に少なくとも1回、少なくとも2回、又は少なくとも3回添加される。
【0060】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物中に、約1~約300時間、約10~約100時間、又は約20~約80時間存在する。
【0061】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物に少なくとも1回、少なくとも2回、又は少なくとも3回添加される。
【0062】
いくつかの実施形態では、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞を含む組成物は、細胞培養物である。いくつかの実施形態では、細胞培養物は、インビトロ細胞培養物又はエクスビボ細胞培養物である。
【0063】
いくつかの実施形態では、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞は、インビボにある。
【0064】
いくつかの実施形態では、細胞培養物は、細胞抽出物を含む。いくつかの実施形態では、細胞培養物は、哺乳動物細胞培養物である。
【0065】
いくつかの実施形態では、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞は、リンパ球である。いくつかの実施形態では、リンパ球は、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)を含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む真核細胞は、多能性幹細胞である。いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0067】
いくつかの実施形態では、本開示は、真核細胞のゲノムに目的のポリヌクレオチドを挿入する方法であって、(a)マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤を、真核細胞を含む組成物に添加する工程、及び(b)真核細胞を含む組成物に、(i)Casエフェクタータンパク質、(ii)目的のポリヌクレオチド、及び(iii)RNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドを添加する工程を含み、目的のポリヌクレオチドは、相同組換え修復(HDR)又は一本鎖鋳型修復(SSTR)によってゲノムに挿入される、方法を提供する。
【0068】
いくつかの実施形態では、方法は、非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤を、真核細胞を含む組成物に添加することをさらに含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質、及びRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドは、リボ核タンパク質(RNP)の形態で添加される。
【0070】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Casポリヌクレオチドによってコードされる。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質及び目的のポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされる。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質、及び(iii)のポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされる。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質、目的のポリヌクレオチド、及び(iii)のポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされる。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、ベクター上に存在する。
【0071】
いくつかの実施形態では、本開示は、真核細胞における相同組変え修復(HDR)及び一本鎖鋳型修復(SSTR)の遺伝子挿入効率を増大させる方法であって、真核細胞においてCRISPR/Cas媒介遺伝子挿入を実施する際に、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤を添加することを含む方法に関する。
【0072】
いくつかの実施形態では、方法は、非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤を添加することをさらに含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas媒介遺伝子挿入は、CRISPR/Cas9媒介遺伝子挿入である。
【0074】
いくつかの実施形態では、本開示は、細胞におけるCRISPR/Cas媒介遺伝子挿入中のマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路組換えを低減する方法であって、Cas媒介遺伝子挿入を行う際に、MMEJ経路の阻害剤を細胞に添加することを含む方法に関する。
【0075】
いくつかの実施形態では、方法は、細胞におけるCRISPR/Cas媒介遺伝子挿入中の非相同末端結合(NHEJ)組換えを低減することをさらに含み、NHEJ経路の阻害剤を細胞に添加することを含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas媒介遺伝子挿入は、CRISPR/Cas9媒介遺伝子挿入である。
【0077】
いくつかの実施形態では、本開示は、Casエフェクタータンパク質、又はCasエフェクタータンパク質をコードするベクターと、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤とを含む組成物に関する。いくつかの実施形態では、方法は、非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤をさらに含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドをさらに含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12aヌクレアーゼ、又はCas12fヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼである。いくつかの態様では、Cas9ヌクレアーゼは、逆転写酵素に融合したCas9ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼに融合したCas9ヌクレアーゼ、DN1Sに融合したCas9、Cas9ニッカーゼ、ジェミニンデグロンドメインに融合したCas9、又はCTIPに融合したCas9ヌクレアーゼである。
【0080】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質をコードするベクターは、ウイルスベクターである。
【0081】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされる。いくつかの実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。
【0082】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質、及び少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドは、リボ核タンパク質(RNP)の形態である。
【0083】
いくつかの実施形態では、組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤をさらに含む。
【0084】
いくつかの実施形態では、本開示は、Casエフェクタータンパク質、又はCasエフェクタータンパク質をコードするベクターと、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路の阻害剤とを含むキットに関する。
【0085】
いくつかの実施形態では、キットは、非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤をさらに含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、キットは、少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドをさらに含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12aヌクレアーゼ、又はCas12fヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Cas9ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、逆転写酵素に融合したCas9ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼに融合したCas9ヌクレアーゼ、DN1Sに融合したCas9、Cas9ニッカーゼ、ジェミニンデグロンドメインに融合したCas9、又はCTIPに融合したCas9ヌクレアーゼである。
【0088】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列、又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドは、ベクター上にコードされる。いくつかの実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。
【0089】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質、及び少なくとも1つのRNAガイド配列、Cas結合領域、DNA鋳型配列又はこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドは、リボ核タンパク質(RNP)の形態である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【
図1】
図1は、小分子阻害剤によるDNA修復の操作を示す概略図である。この概略図では、CRISPR/Casゲノム編集システムの構成要素が、特定の配列で二本鎖切断(DSB)を提供する。DSBは、不正確且つエラープローンなマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、又は非相同末端結合(NHEJ)経路によって、或いはより正確な相同組換え修復(HDR)経路によって修復することができる。
【
図2】
図2A~2Bは、本明細書の実施形態に記載される例示的な方法を示す。
図2Aは、POL Q/DNAポリメラーゼθ(PolQi)及び/又はDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PKi)の薬理学的阻害剤で細胞を3時間前処理した例を示す。次いで、CRISPR/Cas遺伝子編集システムを細胞に添加する。60時間後、ゲノムDNAを細胞から単離し、ディープターゲットシーケンスを行う。次いで、シーケンスの結果を、MMEJ及びNHEJ修復の頻度を決定するために、理論的インデルメタ解析(Rational InDel Meta-Analysis)(RIMA)によって解析する。
図2Bは、RIMAの結果をグラフ表示で示し、ここで、マイクロホモロジーに関連する欠失が、図に示されるバーにより可視化される。
【
図3】
図3は、代表的なPOL Q/DNAポリメラーゼθ阻害剤の化学構造を示す。
【
図4】
図4は、MMEJ及びNHEJ経路の阻害がDSBのHDR修復の増加をもたらすことを示す。HEK293T細胞を、DNA-PK阻害剤AZD7648(1μM)単独で、及び示されたPol Q阻害剤と組み合わせて処理し、続いてCRISPR/Cas9媒介遺伝子標的化を行った。正確なDNA修復のパーセンテージによって評価されるように、DNA-PK阻害剤及びPol Q阻害剤の添加により、MMEJ及びNHEJによるDNA修復が減少し、一方、HDR媒介DNA修復が増加した。
【
図5】
図5は、実施例1に記載される、CRISPR/Cas編集効率に対するMMEJ及びNHEJ経路阻害の効果を示す。
【
図6】
図6は、実施例2に記載される、変異リードによって測定された、CRISPR/Cas媒介遺伝子ノックイン効率に対するMMEJ及びNHEJ経路阻害の効果を示す。
【
図7】
図7は、実施例2に記載される、マッピングリードによって測定された、CRISPR/Cas媒介遺伝子ノックイン効率に対するMMEJ及びNHEJ経路阻害の効果を示す。
【
図8】
図8は、実施例3に記載される、変異リードにおけるMMEJに対するPol Q阻害の効果を示す。
【
図9】
図9は、実施例3に記載される、マッピングリードにおけるMMEJに対するPol Q阻害の効果を示す。HEK293T細胞を、DNA-PK阻害剤AZD7648(1μM)単独で、及び示されたPol Q阻害剤と組み合わせて処理し、続いてCRISPR/Cas9媒介遺伝子ノックインを行った。Pol Q阻害剤の添加により、マッピングリードにおいてMMEJの用量依存的減少がもたらされた。
【
図10】
図10は、実施例4に記載される、細胞コンフルエンスに対するMMEJ及びNHEJ経路阻害の効果を示す。
【
図11】
図11は、実施例4に記載される、トランスフェクション効率に対するMMEJ及びNHEJ経路阻害の効果を示す。
【
図12】
図12は、MMEJ及びNHEJ経路の阻害が人工多能性幹細胞(iPSC)におけるDSBのHDR修復の増加をもたらすことを示す。Cas9誘導性iPSCを、DNA-PK阻害剤AZD7648(1μM)及び/又は示されたPol Q阻害剤で処理し、続いてCas9媒介遺伝子標的化を誘導した。3つの別々の標的部位での正確なDNA修復のパーセンテージによって評価されるように、DNA-PK阻害剤及びPol Q阻害剤の添加により、MMEJ及びNHEJによるDNA修復が減少し、一方、HDR媒介DNA修復が増加した。
【
図13】
図13は、Cas9誘導性iPSCにおける一本鎖鋳型修復(SSTR)媒介ノックイン効率に対するPol Q阻害の効果を示す。Cas9誘導性iPSCを、1μMのDNA-PK阻害剤ZAD7648及び/又は示されたPol Q阻害剤で処理し、続いて3つの別々の標的部位でCas9媒介遺伝子ノックインを誘導した。DNA-PK阻害剤及び/又はPol Q阻害剤の添加により、3つの標的部位の全てで、SSTR媒介ノックインが増加した。
【
図14】
図14A~14Cは、初代ヒトT細胞における遺伝子編集に対するMMEJ及びNHEJ経路を阻害する効果を示す。TRACを標的とするリボ核タンパク質(RNP)の形態でCas9をトランスフェクトした初代ヒトT細胞に、ノックインによって緑色蛍光タンパク質(GFP)を挿入した。細胞を、1μMのDNA-PK阻害剤AZD7648単独で、及び示されたPol Q阻害剤と組み合わせて処理した。(A)細胞生存率に対するNHEJ及び/又はMMEJ経路阻害の効果を示す。(B)細胞数に対するNHEJ及び/又はMMEJ経路阻害の効果を示す。(C)GFPノックイン効率に対するNHEJ及び/又はMMEJ経路阻害の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0091】
本開示は、真核細胞におけるCRISPR/Cas媒介遺伝子挿入(すなわち、遺伝子「ノックイン」)を改善する方法、CRISPR/Cas媒介遺伝子挿入を改善するための組成物、及びCRISPR/Cas媒介遺伝子挿入を改善するためのキットに関する。一般に、CRISPRシステム、例えばCRISPR/Casシステムは、標的ポリヌクレオチド、例えば標的DNA配列の部位で、ガイドポリヌクレオチド及びCasタンパク質などのCRISPR複合体の形成を促進するエレメントを含む。天然に存在するCRISPRシステム(例えば、細菌性免疫CRISPR/Cas9システム)では、外来性DNAがCRISPRアレイに組み込まれ、次いでCRISPR-RNA(crRNA)を生成する。crRNAは、外来性DNA部位に相補的なRNAガイド配列領域を含み、トランス活性化CRISPR-RNA(tracrRNA)とハイブリダイズするが、このRNAもCRISPRシステムによってコードされている。tracrRNAは、ステムループなどの二次構造を形成し、Cas9タンパク質に結合することができる。crRNA/tracrRNAハイブリッドは、Cas9と会合し、このcrRNA/tracrRNA/Cas9複合体が、プロトスペーサー配列を有する外来性DNAを認識して開裂させることにより、侵入してくるウイルス又はプラスミドに対する免疫が付与される。CRISPR/Casシステムは、さらに、例えば、Jinek et al.,Science 337(6096):816-821(2012);Cong et al.,Science 339(6121):819-823(2013);Mali et al.,Science 339(6121):823-826(2013);及びSander et al.,Nat Biotechnol 32:347-355(2014)に記載されている。
【0092】
CRISPR/Casシステムは、標的ポリヌクレオチドへの挿入を導入するように操作されており、標的挿入としても知られている。典型的には、ガイドポリヌクレオチドは、Casタンパク質が標的ポリヌクレオチドで二本鎖開裂を生じさせ、目的配列を含む別個のドナー鋳型が、細胞のDNA修復機構、例えば、非相同末端連結(NHEJ)又は相同組換え修復(HDR)により、この開裂された標的ポリヌクレオチドに挿入されるように設計されている。挿入の効率は、ドナー鋳型、Casタンパク質、及びガイドポリヌクレオチドのトランスフェクション比;ドナー鋳型の配列及びサイズ;並びに誘発されるDNA修復機構の種類を含む、いくつかの要因に依存する。例えば、HDRは、高い忠実度のDNA修復を提供するが、挿入頻度が低く、その一方で、NHEJは、挿入頻度は高いが、標的DNAに変異を導入してしまう可能性もある。
【0093】
いくつかの実施形態では、本開示は、改良された標的挿入方法のための組成物、ポリヌクレオチド、及び/又は融合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、本開示の組成物、ポリヌクレオチド、及び/又は融合タンパク質により、高度に正確な目的配列の挿入が提供される。いくつかの実施形態では、本開示の組成物、ポリヌクレオチド、及び融合タンパク質により、高度に効率的な目的配列の挿入が提供される。
【0094】
本開示において使用される科学技術用語は、本明細書において特に定義しない限り、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。さらに、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、単数形の用語は、複数形を含むものとし、複数形の用語は、単数形を含むものとする。本明細書で使用される場合、「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、1つ以上を意味し得る。本明細書で使用され、語「含む(comprising)」と同時に使用される場合、語「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、1つ又は2つ以上を意味し得る。本明細書で使用される場合、「別の」又は「さらなる」は、少なくとも第2のもの以上を意味し得る。
【0095】
本出願全体にわたり、用語「約」は、値が、その値を決定するために用いられている方法/装置についての誤差の固有の変動又は試験対象間で存在する変動を含むことを示すために使用される。典型的には、「約」という用語は、状況に応じておよそ1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%若しくは20%、又は1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%若しくは20%未満の変動性を包含することを意味する。
【0096】
特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、代替物のみを指すものと明示されていない限り、又は代替物が相互に排他的でない限り、「及び/又は」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物のみ、及び「及び/又は」を指す定義を支持する。
【0097】
本明細書で使用される場合、用語「含んでいる(comprising)」(並びに含んでいる、の任意のバリアント又は形態、例えば「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」)、「有している(having)」(並びに有している、の任意のバリアント又は形態、例えば「有する(have)」及び「有する(has)」)、「包含している(including)」(並びに包含している、の任意のバリアント又は形態、例えば「包含する(includes)」及び「包含する(include)」)、又は「含有している(containing)」(並びに含有している、の任意のバリアント又は形態、例えば「含有する(contains)」及び「含有する(contain)」)は、包含的又はオープンエンドであり、追加の引用されない要素又は方法工程を除外するものではない。本明細書で説明される実施形態はいずれも、本開示の任意のタンパク質、組成物、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、方法及び/又はキットに対して実行することができることが企図されている。さらに、本開示の組成物、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞及び/又はキットを使用して、本開示の方法及びタンパク質を得ることができる。
【0098】
用語「例えば」及びその対応する略語「e.g.(イタリック体であるか否かを問わない)」の使用は、引用される特定の用語が、特に明示されていない限り、参照又は引用される特定の例に限定されるものではない本開示の代表的な例及び実施形態であることを意味する。
【0099】
本明細書で使用される場合、「~の間」とは、範囲の両端を含む範囲である。例えば、xとyの間の数値には、数値xとy、及びxとyに含まれるあらゆる数値が明示的に含まれる。
【0100】
「核酸」、「核酸分子」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「オリゴヌクレオチド」又は「ポリヌクレオチド」は、共有結合ヌクレオチドを含むポリマー化合物を意味する。「核酸」という用語には、リボ核酸(RNA)及びデオキシリボ核酸(DNA)が含まれ、その両方が一本鎖又は二本鎖であり得る。ポリヌクレオチドは、天然に存在する核酸塩基(例えば、グアニン、アデニン、シトシン、チミン、及びウラシル)、修飾核酸塩基(例えば、ヒポキサンチン、キサンチン、7-メチルグアニン、ジヒドロウラシル、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン)、及び/又は人工核酸塩基(例えば、イソグアニン又はイソシトシン)を含み得る。核酸は、5’末端から3’末端に転写される。いくつかの実施形態では、本開示は、RNA及びDNAヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを提供する。RNA及びDNAヌクレオチドの両方を含むポリヌクレオチドを生成する方法は、当該技術分野において知られており、例えば、ライゲーション法又はオリゴヌクレオチド合成法が挙げられる。いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書に記載されるようなCasヌクレアーゼ又はCasニッカーゼと複合体を形成することができるポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるタンパク質のいずれか1つ、例えば、Casヌクレアーゼ又はCasニッカーゼをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0101】
「遺伝子」は、ポリペプチドをコードするヌクレオチドの集合体を指し、cDNA及びゲノムDNA核酸分子が含まれる。いくつかの実施形態では、「遺伝子」はまた、コード配列の前(すなわち5’)及び後(すなわち3’)の調節配列として機能することができる非コード核酸断片を指す。
【0102】
核酸分子は、温度及び溶液イオン強度の適切な条件下で核酸分子の一本鎖形態が他の核酸分子にアニールし得る場合、別の核酸分子、例えばcDNA、ゲノムDNA又はRNAに「ハイブリダイズ可能である」又は「ハイブリダイズされる」。ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は知られており、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor(1989)、特にその中の第11章及び表11.1に例示されている。温度及びイオン強度の条件により、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーが決定される。ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーは、潜在的に交差反応又は干渉する他のポリヌクレオチドの存在下で、2つの相補的なポリヌクレオチドの所望のハイブリダイゼーション産物の選択的な形成又は維持をもたらすように選択することができる。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、典型的には、相補的配列が長いほど、より短い相補的配列よりも高温で特異的にハイブリダイズする。通常、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、特定のポリヌクレオチドについて、定義されたイオン強度、化学変性剤の濃度、pH、及びハイブリダイゼーションパートナーの濃度での熱融点(Tm)(すなわち、配列の50%が、実質的に相補的な配列にハイブリダイズする温度)よりも約5℃~約10℃低い。通常、ヌクレオチド配列は、G塩基及びC塩基のパーセンテージが高いほど、G塩基及びC塩基のパーセンテージがより低いヌクレオチド配列よりもストリンジェントな条件の下で、ハイブリダイズする。一般に、温度を上昇させること、pHを上昇させること、イオン強度を低下させること、及び/又は化学核酸変性剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、及び炭酸エチレン)の濃度を上昇させることによって、ストリンジェンシーを増大させることができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、典型的には、約1M、500mM、200mM、100mM、又は50mM未満の塩濃度又はイオン強度;約20℃、30℃、40℃、60℃、又は80℃超のハイブリダイゼーション温度;及び約10%、20%、30%、40%、又は50%を上回る化学変性剤濃度を含む。多くの要因がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす可能性があるため、任意のパラメータ単独の絶対値よりパラメータの組み合わせがより重要となり得る。
【0103】
用語「相補的」は、互いにハイブリダイズし得るヌクレオチド塩基間の関係を記載するために使用される。例えば、DNAに関して、アデノシンは、チミンに相補的であり、シトシンは、グアニンに相補的である。2つの核酸が「相補的」である場合、第1の核酸又はその1つ以上の領域が、第2の核酸又はその1つ以上の領域と水素結合することができることを意味する。相補的な核酸は、各ヌクレオチドで相補性を有する必要はなく、1つ以上のヌクレオチドミスマッチ、すなわち水素結合が生じない点を含んでもよい。例えば、相補的なオリゴヌクレオチドは、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%のヌクレオチドの水素結合を有し得る。対照的に、オリゴヌクレオチドに関する「完全に相補的」又は「100%相補的」は、いかなるヌクレオチドミスマッチもない状態で各ヌクレオチドが水素結合していることを意味する。
【0104】
「相同組換え」という用語は、外因性ポリヌクレオチド(例えば、DNA)の別の核酸(例えば、DNA)分子への挿入、例えば染色体におけるベクター、ポリヌクレオチド断片、又は遺伝子の挿入を指す。いくつかの例では、外因性ポリヌクレオチドは、相同組換えのために特異的な染色体部位を標的化する。特異的相同組換えでは、外因性ポリヌクレオチドは、典型的には、外因性ポリヌクレオチドが染色体に相補的に結合して組み込まれることができるように、染色体の配列と相同な十分に長い領域を含有する。相補性領域がより長く、配列類似性の程度がより大きいと、相同組換えの効率を増大させることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリヌクレオチド又は組成物は、核酸配列に切断、例えば二本鎖切断を生じさせることにより、相同組換えを促進する。
【0105】
「相同組換え修復」又は「HDR」という用語は、鋳型核酸配列を使用してDNA中の二本鎖切断を修復する機構を指す。HDRの最も一般的な形態は相同組換えである。HDRでは、二本鎖切断が、切断部の5’末端DNA鎖の切除を含むプロセスによって修復されて、3’オーバーハングを生成し、これが、鎖侵入に必要なタンパク質の基質及びDNA修復合成のためのプライマーの両方として働く。次いで、侵襲性鎖が相同配列を含む二本鎖DNA鋳型配列の一方の鎖を置換し、他方の鎖と対合し、置換ループとして知られるハイブリッドDNAを形成する。次いで、これらの組換え中間体を分離して、DNA修復プロセスを完了する。
【0106】
「一本鎖鋳型修復」又は「SSTR」という用語は、鋳型核酸配列を使用してDNA中の二本鎖切断を修復する別の機構を指す。HDRとは対照的に、SSTRは、二本鎖DNA切断修復のために一本鎖鋳型核酸配列を利用する。
【0107】
「非相同末端結合経路」又は「NHEJ経路」という用語は、DNA中の二本鎖切断を修復する別の機構を指す。NHEJにおいては、Ku80/70ヘテロ二量体が二本鎖切断によって形成される平滑末端を認識して結合し、得られる複合体は、DNA-PKの活性を活性化する。DNA-PKの活性化により、最終的に二本鎖切断を修復するために、Artemisヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、及びDNAリガーゼがリクルートされる。NHEJは、修復のために相同鋳型配列を必要としないという点で、HDR及び相同組換えとは異なる。
【0108】
「マイクロホモロジー媒介末端結合経路」又は「MMEJ経路」という用語は、DNA中の二本鎖切断を修復するための別の機構を指す。MMEJは、二本鎖切断修復に相同鋳型配列が利用されないという点で、NHEJと類似している。しかし、MMEJは、マイクロホモロジー配列を利用して切断されたDNA鎖を整列させることによって、他の修復機構と区別される。MMEJは、Kuタンパク質又はDNA-PKに依拠しないが、DNAポリメラーゼθ(Pol Q)がMMEJに必要であることが示されている。MMEJは、「代替的末端結合」又は「代替的非相同末端結合」又は「Alt-NHEJ」としても知られている
【0109】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結された」という用語は、目的のポリヌクレオチド、例えばヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが、ポリヌクレオチドを発現させることができるような方法で調節エレメントに連結されていることを意味する。調節エレメントは、シス調節エレメントであっても、トランス調節エレメントであってもよい。調節エレメントとしては、例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、5’UTR及び3’UTR、インスレーター、サイレンサー、オペレーターなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、調節エレメントは、プロモーターである。いくつかの実施形態では、目的タンパク質を発現するポリヌクレオチドは、発現ベクター上のプロモーターに作動可能に連結されている。
【0110】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」、「プロモーター配列」、又は「プロモーター領域」は、RNAポリメラーゼに結合することができ、下流のコード配列又は非コード配列の転写の開始に関与するDNA調節領域又はポリヌクレオチドを指す。いくつかの実施形態では、プロモーター配列は、転写開始部位を含み、バックグラウンドを超えた検出可能なレベルで転写を開始するために使用される最小数の塩基又はエレメントを含むように上流に伸長している。いくつかの実施形態では、プロモーター配列は、転写開始部位、及びRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメインを含む。真核生物のプロモーターは、典型的には、「TATA」ボックス及び「CAT」ボックスを含有する。種々のプロモーター、例えば誘導性プロモーターを使用して、本開示の種々のベクターの発現を駆動してもよい。
【0111】
「ベクター」は、宿主細胞中に核酸をクローニングし、且つ/又は移行させる任意の手段である。ベクターは、別のDNAセグメントを付着させて付着セグメントの複製を生じさせることができるレプリコンであり得る。「レプリコン」は、インビボでDNA複製の自律的単位として機能する、すなわちそれ自体の制御下で複製し得る任意の遺伝子エレメント(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)である。いくつかの実施形態では、ベクターは、例えば、非対称分配によって多くの細胞世代後に細胞集団から除去/消去されるエピソーマルベクターである。用語「ベクター」には、インビトロ、エクスビボ又はインビボで細胞中に核酸を導入するためのウイルス及び非ウイルス手段の両方が含まれる。当該技術分野で知られる多数のベクターを使用して核酸を操作し、応答エレメント及びプロモーターを遺伝子に組み込んだりすることができる。ベクターは、1つ以上の調節領域、並びに/又は、核酸導入結果(組織への導入、発現期間など)の選択、測定、及びモニタリングに有用な選択マーカーを含み得る。
【0112】
考えられるベクターとしては、例えば、プラスミド又は改変ウイルス、例として、例えば、バクテリオファージ、例えばラムダ誘導体、又はプラスミド、例えばPBR322若しくはpUCプラスミド誘導体、又はBluescriptベクターが挙げられる。例えば、好適なベクターへの応答エレメント及びプロモーターに対応するDNA断片の挿入は、適切なDNA断片を相補的な付着端を有する選択されたベクターにライゲートすることによって達成することができる。或いは、DNA分子の末端を酵素により改変してもよく、又はポリヌクレオチド(リンカー)をDNA末端にライゲートすることによって任意の部位を生成してもよい。このようなベクターは、細胞ゲノムにマーカーが組み込まれている細胞の選択を提供する選択マーカー遺伝子を含有するように改変してもよい。このようなマーカーにより、マーカーを組み込み、そのマーカーによりコードされるタンパク質を発現する宿主細胞を同定及び/又は選択することが可能となる。
【0113】
ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、細胞だけでなく、生きている動物対象においても、多種多様な遺伝子送達用途で使用されている。使用可能なウイルスベクターとしては、限定されるものではないが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ポックスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアベクター、単純ヘルペスベクター、エプスタイン・バーベクター、アデノウイルスベクター、ジェミニウイルスベクター、及びカリモウイルスベクターが挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリヌクレオチドを提供するために、ウイルスベクターが利用される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供するために、ウイルスベクターが利用される。
【0114】
ベクターは、トランスフェクション、形質導入、細胞融合、及びリポフェクションを含むがこれらに限定されない知られた方法により、所望の宿主細胞に導入され得る。ベクターは、プロモーターを含む種々の調節エレメントを含み得る。いくつかの実施形態では、ベクターの設計は、Mali et al.,Nat Methods 10:957-63(2013)により設計された構築物をベースとすることができる。
【0115】
本明細書に提供されるポリヌクレオチド及び/又はベクターを増殖させるために、当該技術分野で知られる方法を使用してもよい。好適な宿主系及び増殖条件が確立されれば、組換え発現ベクターを増殖させ、大量に調製することが可能となる。本明細書に記載されるように、使用可能な発現ベクターとしては、以下のベクター又はそれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない:ヒト又は動物ウイルス、例えばワクシニアウイルス又はアデノウイルス、昆虫ウイルス、例えばバキュロウイルス、酵母ベクター、バクテリオファージベクター(例えば、ラムダ)、並びにプラスミド及びコスミドDNAベクター。
【0116】
用語「プラスミド」は、細胞の中央代謝の一部でない遺伝子を担持することが多く、通常、環状二本鎖DNA分子の形態である外部染色体エレメントを指す。このようなエレメントは、多数のポリヌクレオチドが、適切な3’非翻訳配列と共に選択遺伝子を産生させるためのプロモーター断片及びDNA配列を細胞に導入することが可能な独自の構築物に結合されるか、又は組換えられている、任意の源に由来する自己複製配列、ゲノム組み込み配列、ファージ又はヌクレオチド配列、線状、環状又はスーパーコイル状の一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNAであってよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるポリヌクレオチドを提供するために、プラスミドが利用される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供するために、ウイルスベクターが利用される。
【0117】
本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」という用語は、ベクターを含む外因性核酸分子を細胞に導入することを意味する。例えば、本明細書に記載されるCRISPR/Cas組成物の構成成分のトランスフェクション法は、当業者に知られている。「トランスフェクトされた」細胞は、細胞内部の外因性核酸分子を含み、「形質転換された」細胞は、細胞内の外因性核酸分子が細胞の表現型変化を誘導する細胞である。トランスフェクトされた核酸分子は、宿主細胞のゲノムDNA中に組み込むことができ、且つ/又は一時的若しくは長期間にわたり染色体外で細胞により維持させることができる。外因性核酸分子又は断片を発現する宿主細胞又は生物は、本明細書では、「組換え」生物、「形質転換」生物、又は「トランスジェニック」生物と称される。いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書に記載のベクターのいずれか、例えばCasポリヌクレオチドを含むベクター、目的のポリヌクレオチドを含むベクター、又はRNAガイド配列、CAS結合領域、DNA鋳型配列、若しくはこれらの組み合わせを含むポリヌクレオチドを含むベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0118】
「宿主細胞」という用語は、組換え発現ベクターが導入された細胞を指すか、又は、そのような細胞の後代を指すこともある。例えば、変異又は環境の影響により改変が後の世代に発生する場合があるため、そのような後代は、親細胞と同一ではない場合があるが、用語「宿主細胞」の範囲内に依然として含まれる。
【0119】
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書において互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマー形態を指し、その用語には、コード及び非コードアミノ酸、非天然アミノ酸、化学的又は生化学的に改変又は誘導体化されたアミノ酸、改変ペプチド骨格を有するペプチド及びポリペプチド、並びに環状の(circular)/環状の(cyclic)ペプチド及びポリペプチドが含まれる。
【0120】
タンパク質又はポリペプチドの始点は、「N末端」(及びアミノ末端、NH2末端、N末端部、又はアミン末端とも称される)として知られており、タンパク質又はポリペプチドの最初のアミノ酸残基の遊離アミン(-NH2)基を指す。タンパク質又はポリペプチドの終点は、「C末端」(及びカルボキシ末端、カルボキシル末端、C末端部、又はCOOH末端とも称される)として知られており、タンパク質又はポリペプチドの最後のアミノ酸残基の遊離カルボキシル基(-COOH)を指す。
【0121】
「アミノ酸」は、本明細書で使用される場合、カルボキシル(-COOH)及びアミノ(-NH2)基の両方を含有する化合物を指す。「アミノ酸」は、天然及び非天然(すなわち合成)のアミノ酸の両方を指す。3文字及び1文字の略記を有する天然アミノ酸としては、アラニン(Ala;A);アルギニン(Arg、R);アスパラギン(Asn;N);アスパラギン酸(Asp;D);システイン(Cys;C);グルタミン(Gln;Q);グルタミン酸(Glu;E);グリシン(Gly;G);ヒスチジン(His;H);イソロイシン(Ile;I);ロイシン(Leu;L);リシン(Lys;K);メチオニン(Met;M);フェニルアラニン(Phe;F);プロリン(Pro;P);セリン(Ser;S);トレオニン(Thr;T);トリプトファン(Trp;W);チロシン(Tyr;Y);及びバリン(Val;V)が挙げられる。非天然又は合成アミノ酸としては、上記で提供される天然アミノ酸と異なる側鎖を含み、例えば、フルオロフォア、翻訳後修飾、金属イオンキレート剤、光ケージド部分及び光架橋部分、独自の反応性官能基、並びにNMR、IR、及びX線結晶プローブが挙げられ得る。例示的な非天然又は合成アミノ酸は、例えば、Mitra et al.,Mater Methods 3:204(2013)及びWals et al.,Front Chem 2:15(2014)に提供されている。非天然アミノ酸にはまた、例えば、シトルリン(Cit)、セレノシステイン(Sec)、及びピロリジン(Pyl)などの、通常はタンパク質又はポリペプチドに組み込まれることのない、天然の化合物も含まれ得る。
【0122】
「アミノ酸置換」は、野生型又は天然アミノ酸の、その野生型又は天然アミノ酸とは異なるアミノ酸による、そのアミノ酸残基における、1つ以上の置換を含むポリペプチド又はタンパク質を指す。置換アミノ酸は、合成アミノ酸であっても、天然発生アミノ酸であってもよい。いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y、及びVからなる群から選択される天然アミノ酸である。いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、非天然又は合成アミノ酸である。置換変異体は、略記方式を用いて記載され得る。例えば、5番目のアミノ酸残基が置換されている置換変異は、「X5Y」と略記することができ、ここで、「X」は、置き換えられる野生型又は天然アミノ酸であり、「5」は、タンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列内のアミノ酸残基の位置であり、「Y」は、置換アミノ酸、又は非野生型若しくは非天然アミノ酸である。
【0123】
「単離」ポリペプチド、タンパク質、ペプチド又は核酸は、その天然環境から取り出された分子である。「単離」ポリペプチド、タンパク質、ペプチド、又は核酸は、希釈剤又は助剤などの賦形剤と配合されてもよく、それでもなお単離されているとみなされることもまた理解される。本明細書で使用される場合、「単離」は、ポリペプチド、タンパク質、ペプチド、又は核酸の任意の特定のレベルの純度を必ずしも意味するものではない。
【0124】
用語「組換え体」は、核酸分子、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に関して使用される場合、天然に存在することが知られていない遺伝子材料の新たな組合せを意味するか、又はそれらの新たな組合せから生じることを意味する。組換え分子は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、(例えば、制限エンドヌクレアーゼを使用する)遺伝子スプライシング、及び核酸分子、ペプチド又はタンパク質の固相合成を含むがこれらに限定されない、組換え技術の分野で利用可能な技術のいずれかによって産生することができる。
【0125】
「外因性」という用語は、宿主細胞に導入される参照分子又は活性を意味する。この分子は、例えば、宿主の遺伝物質にコード核酸を導入することによって、例えば、宿主の染色体に組み込むことによって、又は非染色体性遺伝物質、例えばプラスミドとして、導入することができる。「外来性」タンパク質は、このタンパク質をコードする「外因性」核酸によって宿主細胞に導入することができる。「内因性」という用語は、宿主細胞内に天然に存在する参照分子又は活性を指す。「内因性」タンパク質は、宿主細胞内に含まれる核酸によって発現される。「異種」という用語は、参照生物/種以外の源に由来する分子又は活性を指し、一方「相同」は、宿主生物/種に由来する分子又は活性を指す。したがって、コード核酸の外因性発現は、異種コード核酸又は相同コード核酸の一方又はその両方を利用することができる。
【0126】
用語「ドメイン」は、ポリペプチド又はタンパク質に関して使用される場合、タンパク質中の区別される機能的及び/又は構造的単位を意味する。ドメインは、タンパク質の全体的な役割に寄与する特定の機能又は相互作用を担う場合がある。ドメインは、種々の生物学的コンテクストにおいて存在し得る。類似のドメインは、異なる機能を有するタンパク質で見出され得る。或いは、配列同一性が低い(すなわち、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満、約5%未満、又は約1%未満の配列同一性)ドメインは、同じ機能を有し得る。
【0127】
用語「モチーフ」は、ポリペプチド又はタンパク質に関して使用される場合、一般的に、タンパク質の機能に重要であり得る、典型的には長さが20アミノ酸より短い保存アミノ酸残基を指す。特定の配列モチーフは、様々なタンパク質において、特定の細胞内位置に対するタンパク質の結合又は標的化などの一般的な機能を媒介することができる。モチーフの例としては、以下に限定されないが、核局在化シグナル、ミクロボディ標的化モチーフ、分泌を阻止又は促進するモチーフ、並びにタンパク質の認識及び結合を促進するモチーフが挙げられる。モチーフのデータベース及び/又はモチーフ検索ツールは、当該分野で知られており、例えば、PROSITE、PFAM、PRINTS、及びMiniMotif Minerが挙げられる。
【0128】
「改変」タンパク質は、本明細書で使用される場合、タンパク質中に所望の特性を達成するための1つ以上の修飾を含むタンパク質を意味する。例示的な改変としては、以下に限定されないが、挿入、欠失、置換、及び/又は別のドメイン若しくはタンパク質との融合が挙げられる。「融合タンパク質」(「キメラタンパク質」とも称される)は、典型的には、単一のユニットとして転写及び翻訳されるように結合されている、2つの別個の遺伝子によってコードされる、少なくとも2つのドメインを含むタンパク質であり、結合されていることによって、ドメインのそれぞれの機能的特性を有する単一のポリペプチドが生成される。本開示の改変タンパク質には、Casヌクレアーゼ、Casニッカーゼ、並びにCasタンパク質とDNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、及び/又はDNAポリメラーゼ結合タンパク質との融合体が含まれる。
【0129】
いくつかの実施形態では、改変タンパク質は、野生型タンパク質から生成される。本明細書で使用される場合、「野生型」タンパク質又は核酸は、天然の改変されていないタンパク質又は核酸である。例えば、野生型Cas9タンパク質は、生物であるストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)から単離することができる。野生型は「変異型」と対比することができ、変異型は、タンパク質又は核酸のアミノ酸配列及び/又はヌクレオチド配列に1つ以上の改変を含む。いくつかの実施形態では、改変タンパク質は、野生型タンパク質と実質的に同じ活性、例えば、野生型タンパク質の約80%超、約85%超、約90%超、約95%%超、又は約99%超の活性を有し得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される融合タンパク質のCasヌクレアーゼは、野生型Casヌクレアーゼと実質的に同じ活性を有する。
【0130】
いくつかの実施形態では、改変タンパク質、例えばCas9タンパク質は、野生型タンパク質と実質的に同じアミノ酸配列、例えば、野生型タンパク質と約80%超、約85%超、約90%超、約95%%超、又は約99%超の同一性を有し得る。本明細書において使用される場合、用語「配列類似性」又は「類似性%」は、核酸配列間又はアミノ酸配列間の同一性又は対応性の程度を指す。ポリヌクレオチドに関連して、「配列類似性」は、1つ以上のヌクレオチド塩基の変化によって、1つ以上のアミノ酸の置換が生じるが、ポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の機能的特性に影響しない核酸配列を指す場合がある。「配列類似性」はまた、結果として生じる転写産物の機能的特性に実質的に影響しないポリヌクレオチドの改変、例えば、1つ以上のヌクレオチド塩基の欠失又は挿入を指す場合もある。したがって、本開示は、特定の例示的な配列よりも多くを包含することが理解される。ヌクレオチド塩基の置換を形成する方法は、コードされるポリペプチドの生物活性の保持を判定する方法と同様に知られている。
【0131】
さらに、当業者であれば、本開示に包含される類似のポリヌクレオチドが、ストリンジェントな条件下で本明細書に例示される配列とハイブリダイズする能力によって定義されることも認識する。本開示の類似のポリヌクレオチドは、本明細書に開示されるポリヌクレオチドと、約70%、少なくとも約70%、約75%、少なくとも約75%、約80%、少なくとも約80%、約85%、少なくとも約85%、約90%、少なくとも約90%、約95%、少なくとも約95%、約99%、少なくとも約99%、又は約100%同一である。
【0132】
ポリペプチドに関連して、「配列類似性」は、アミノ酸の約40%超が同一であるか、又はアミノ酸の約60%超が機能的に同一である2つ以上のポリペプチドを指す。「機能的に同一の」又は「機能的に類似の」アミノ酸は、化学的に類似した側鎖を有する。例えば、アミノ酸は、機能的類似性によって以下のようにグループ分けすることができる:(i)正荷電側鎖:Arg、His、Lys;(ii)負荷電側鎖:Asp、Glu;(iii)極性非電荷側鎖:Ser、Thr、Asn、Gln;(iv)疎水性側鎖:Ala、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、Trp;及び(v)その他:Cys、Gly、Pro。
【0133】
いくつかの実施形態では、本開示の類似のポリペプチドは、約40%、少なくとも約40%、約45%、少なくとも約45%、約50%、少なくとも約50%、約55%、少なくとも約55%、約60%、少なくとも約60%、約65%、少なくとも約65%、約70%、少なくとも約70%、約75%、少なくとも約75%、約80%、少なくとも約80%、約85%、少なくとも約85%、約90%、少なくとも約90%、約95%、少なくとも約95%、約97%、少なくとも約97%、約98%、少なくとも約98%、約99%、少なくとも約99%、又は約100%同一であるアミノ酸を有する。いくつかの実施形態では、本開示の類似のポリペプチドは、約60%、少なくとも約60%、約65%、少なくとも約65%、約70%、少なくとも約70%、約75%、少なくとも約75%、約80%、少なくとも約80%、約85%、少なくとも約85%、約90%、少なくとも約90%、約95%、少なくとも約95%、約97%、少なくとも約97%、約98%、少なくとも約98%、約99%、少なくとも約99%、又は約100%機能的に同一であるアミノ酸を有する。
【0134】
配列類似性は、当該分野において知られた方法を使用する配列アライメント、例えば、BLAST、MUSCLE、Clustal(ClustalW及びClustalXを含む)、並びにT-Coffee(例えば、M-Coffee、R-Coffee、及びExpressoなどのバリアントを含む)などによって決定することができる。
【0135】
ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が指定された比較ウィンドウに対してアライメントされる場合に、ポリヌクレオチド又はポリペプチドの同一性パーセントを決定することができる。いくつかの実施形態では、2つ以上の配列の特定の部分のみをアライメントして、配列同一性を決定する。いくつかの実施形態では、2つ以上の配列の特定のドメインのみをアライメントして、配列類似性を決定する。比較ウィンドウは、配列をアライメントして比較することが可能な、少なくとも10~1000個超の残基、少なくとも20~約1000個の残基、又は少なくとも50~500個の残基のセグメントであり得る。配列同一性を決定するためのアライメント方法はよく知られており、BLASTなどの公的に利用可能なデータベースを使用して実施することができる。例えば、いくつかの実施形態では、2つのアミノ酸配列の「同一性パーセント」は、Karlin and Altschul,Proc Nat Acad Sci USA 87:2264-2268(1990)(Karlin and Altschul,Proc Nat Acad Sci USA 90:5873-5877(1993)におけるように修正されている)のアルゴリズムを用いて決定される。このようなアルゴリズムは、Altschul et al.,J Mol Biol,215:403-410(1990)に記載されているBLASTプログラム、例えばBLAST+又はNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれている。BLASTタンパク質の検索は、本開示のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得るために、例えば、XBLASTプログラム(スコア=50、ワード長さ=3)などのプログラムによって実施することができる。2つの配列間にギャップが存在する場合、Altschul et al.,Nucleic Acids Res 25(17):3389-3402(1997)に記載されるように、Gapped BLASTを利用することができる。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合は、それぞれのプログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータを用いることができる。
【0136】
いくつかの実施形態では、ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、本明細書に提供される参照ポリペプチド若しくはポリヌクレオチド(又は参照ポリペプチド若しくはポリヌクレオチドの断片)と、70%、少なくとも70%、75%、少なくとも75%、80%、少なくとも80%、85%、少なくとも85%、90%、少なくとも90%、95%、少なくとも95%、97%、少なくとも97%、98%、少なくとも98%、99%、又は少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態では、ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、本明細書に提供される参照ポリペプチド若しくはポリヌクレオチド(又は参照ポリペプチド若しくは核酸分子の断片)と、約70%、少なくとも約70%、約75%、少なくとも約75%、約80%、少なくとも約80%、約85%、少なくとも約85%、約90%、少なくとも約90%、約95%、少なくとも約95%、約97%、少なくとも約97%、約98%、少なくとも約98%、約99%、少なくとも約99%、又は約100%の配列同一性を有する。
【0137】
本明細書で使用される場合、「複合体」は、会合した2つ以上のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドの群を指す。複合体の形成に関連して、「会合する」又は「会合」という用語は、共有結合せずに、静電相互作用、疎水性/親水性相互作用、及び/又は水素結合相互作用によって互いに結合した分子を指す。互いに共有結合した異なる部分を含む分子は知られている。いくつかの実施形態では、複合体は、複合体の全ての構成成分が共に存在する場合に形成され、すなわち自己集合複合体である。いくつかの実施形態では、複合体は、複合体の異なる構成成分間の化学的相互作用、例えば、水素結合などによって形成される。いくつかの実施形態では、本明細書に提供されるポリヌクレオチドは、タンパク質によるポリヌクレオチドの二次構造認識により、本明細書に提供されるタンパク質と複合体を形成する。いくつかの実施形態では、本明細書に提供されるポリヌクレオチドのCas結合領域は、本明細書に提供されるCasヌクレアーゼ、Casニッカーゼ、又は融合タンパク質により認識される二次構造を含む。
【0138】
Casタンパク質
本明細書で使用される場合、「Casエフェクタータンパク質」は、本明細書では「Casタンパク質」とも称され、Casヌクレアーゼ及びCasニッカーゼの両方を包含する。Casエフェクタータンパク質は、本明細書に記載されるCRISPR/Casシステムの一部である。Casエフェクタータンパク質及びポリヌクレオチド(「ガイドポリヌクレオチド」とも称される)を含むCRISPR/Casシステムは、部位特異的ゲノム改変に利用することができる。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casシステムは、Casエフェクタータンパク質と、Cas結合領域(Casタンパク質に結合し且つ/又はCasタンパク質を活性化する)及びガイド配列(標的配列にハイブリダイズする)を含むガイドポリヌクレオチドとを含み、Casエフェクタータンパク質とガイドポリヌクレオチドとは、本明細書に記載されるように複合体を形成する。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casシステムは、Casエフェクタータンパク質と、ガイド配列を含む第1のポリヌクレオチドと、Cas結合領域を含む第2のポリヌクレオチドとを含み、第1及び第2のポリヌクレオチドが互いにハイブリダイズし、Casタンパク質と複合体を形成する。
【0139】
CRISPR/Casシステムは、システム内のCasエフェクタータンパク質に基づいて、I型~VI型に分類することができる。例えば、Cas9はII型システムで見られるが、Cas12はV型システムで見られるものである。それぞれの型は、さらにサブタイプに分類することができる。例えば、II型はサブタイプII-A、II-B、及びII-Cを含むことができ、V型はサブタイプV-A及びV-Bを含むことができる。CRISPR/Casシステム及びCasヌクレアーゼの分類は、例えば、Makarova et al.,Methods Mol Biol 1311:47-75(2015);Makarova et al.,The CRISPR Journal Oct 2018;325-336;及びKoonin et al.,Phil Trans R Soc B 374:20180087(2018)でさらに説明されている。本明細書に記載されるCasヌクレアーゼは、別段の指定がない限り、任意の型又はバリアントを包含することができる。
【0140】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Casヌクレアーゼである。一般に、Casエフェクターヌクレアーゼは、二本鎖ポリヌクレオチド開裂、例えば、二本鎖DNA開裂を生じさせることができる。一般に、Casヌクレアーゼは、RuvC及びHNHなどの1つ以上のヌクレアーゼドメインを含むことができ、二本鎖DNAを開裂させることができる。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、RuvCドメインとHNHドメインとを含み、そのそれぞれが二本鎖DNAの1本の鎖を開裂させる。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼにより、平滑末端が生成される。いくつかの実施形態では、CasヌクレアーゼのRuvC及びHNHは、各DNA鎖を同じ位置で開裂させ、それによって平滑末端が生成される。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼにより、平滑末端が生成される。いくつかの実施形態では、CasヌクレアーゼのRuvC及びHNHが、異なる位置で各DNA鎖を開裂させ(すなわち、「オフセット」で切断し)、それによって付着末端が生成される。本明細書で使用される場合、「付着末端(cohesive ends)」、「付着末端(staggered ends)」、又は「付着末端(sticky ends)」という用語は、不均等な長さの鎖を有する核酸断片を指す。「平滑末端」とは対照的に、付着末端は、二本鎖核酸(例えば、DNA)を互い違いに切断することによって生成される。付着末端(sticky end)又は付着末端(cohesive end)は、不対ヌクレオチドによる突出した一本鎖、すなわち「オーバーハング」、例えば3’又は5’オーバーハングを有する。
【0141】
いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼである。例示的なCas9ヌクレアーゼとしては、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebisella pneumoniae)、及びその他多数の細菌由来のCas9が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる例示的なCas9ヌクレアーゼは、例えば、米国特許第8,771,945号明細書、同第9,023,649号明細書、同第10,000,772号明細書、同第10,407,697号明細書、及び米国特許出願公開第2014/0068797号明細書に記載されている。いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、S.ピオゲネス(S.pyogenes)由来のものである(SpCas9)。
【0142】
いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、UniProt ID G3ECR1(配列番号1)、UniProt ID Q99ZW2(配列番号2)、又はUniProt ID J7RUA5(配列番号3)に開示される配列を含む。いくつかの実施形態では、Cas9は、配列番号1~3のいずれかに対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は約100%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含む。いくつかの実施形態では、本開示は、配列番号1~3のいずれかに対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は約100%の配列同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、Cas9は、宿主細胞における発現のためにコドン最適化されたポリヌクレオチドによってコードされる。
【0143】
いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、IIB型Cas9ヌクレアーゼである。一般に、IIB型Cas9タンパク質は、本明細書に記載されるように、付着末端を生成することができる。例示的なIIB型Cas9タンパク質としては、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)、パラサテレラ・エクスクレメンティホミニス(Parasutterella excrementihominis)、サテレラ・ワズワーセンシス(Sutterella wadsworthensis)、ウォリネラ・サクシノゲネス(Wolinella succinogenes)、及びその他多数の細菌由来のCas9タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。さらなるIIB型Cas9タンパク質は、例えば、国際公開第2019/099943号パンフレットに記載されている。
【0144】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Cas12ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、Cas12aヌクレアーゼ(以前は「Cpf1」又は「C2c1」として知られている)である。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、Cas12fヌクレアーゼである。Cas12fヌクレアーゼはまた、当該技術分野においてCas14としても知られている(Makarova et al,Nature Rev.Microbiol.,2019,18:67-83)。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、Cas14ヌクレアーゼである。Cas12ヌクレアーゼは、一般にCas9ヌクレアーゼよりも小さく、典型的には付着末端を生成することができる。例示的なCas12タンパク質としては、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)、アシダミノコッカス属種(Acidaminococcus sp.)、ラクノスピラ科種(Lachnospiraceae sp.)、プレボテラ属種(Prevotella sp.)、及びその他多数の細菌由来のCas12タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。さらなるCas12ヌクレアーゼは、例えば、米国特許第9,580,701号明細書、米国特許出願公開第2016/0208243号明細書、Zetsche et al.,Cell 163(3):759-771(2015)、及びChen et al.,Science 360:436-439(2018)に記載されている。
【0145】
いくつかの実施形態では、Cas12ヌクレアーゼは、UniProt ID A0Q7Q2 配列番号4)、UniProt ID U2UMQ6(配列番号5)、又はUniProt ID T0D7A2(配列番号6)によって開示されている配列を含む。いくつかの実施形態では、Cas12は、配列番号4~6のいずれかに対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は約100%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態では、本開示は、配列番号4~6のいずれかのポリペプチドに対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は約100%の配列同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、Cas12は、宿主細胞における発現のためにコドン最適化されたポリヌクレオチドによってコードされる。
【0146】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、Casニッカーゼである。ニッカーゼは、二本鎖ポリヌクレオチド(例えばDNA)に一本鎖開裂を生じさせるものであり、二本鎖ポリヌクレオチド(例えばDNA)の両鎖を開裂させるヌクレアーゼとは区別される。本明細書で説明されるように、野生型Casヌクレアーゼは、典型的には、2つの触媒ヌクレアーゼドメインであるRuvC及びHNHを含み、各ヌクレアーゼドメインが二本鎖DNAの一方の鎖の開裂に関与する。したがって、いくつかの実施形態では、Casニッカーゼは、Casヌクレアーゼと比較して触媒ドメインにアミノ酸変異を含んでいる。Casニッカーゼは、例えば、Cho et al.,Genome Res 24:132-141(2013)、Ran et al.,Cell 154:1380-1389(2013)、及びMali et al.,Nat Biotechnol 31:833-838(2013)にさらに記載されている。
【0147】
いくつかの実施形態では、Casニッカーゼは、Cas9ニッカーゼである。いくつかの実施形態では、Casニッカーゼは、Cas12aニッカーゼである。いくつかの実施形態では、Casニッカーゼは、II-B型Casニッカーゼである。いくつかの実施形態では、Casニッカーゼは、Casヌクレアーゼに変異をもたらすことによって生成される。例えば、SpCas9ニッカーゼは、野生型SpCas9ヌクレアーゼと比較してD10A変異又はH840A変異を含んでいる。本明細書に記載されるようなアライメント方法を使用して、他のCasヌクレアーゼ(例えば、Cas12a又はII-B型Casヌクレアーゼ)の対応するアミノ酸残基を決定し、Casニッカーゼを生成することができることは、当業者に理解されるであろう。
【0148】
いくつかの実施形態では、本組成物のCasヌクレアーゼ又はCasニッカーゼは、異種タンパク質ドメインに融合されていない。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼ又はCasニッカーゼは、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、又は逆転写酵素に融合されていない。
【0149】
いくつかの実施形態では、本開示の組換えCasエフェクタータンパク質は、1つ以上の異種タンパク質ドメイン(例えば、組換えCasエフェクタータンパク質の他に約又は少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個以上のドメイン)を含む融合タンパク質の一部である。Cas融合タンパク質は、任意の追加のタンパク質配列、及び任意選択で任意の2つのドメイン間のリンカー配列を含み得る。組換えCas9タンパク質に融合され得るタンパク質ドメインの例としては、限定されないが、以下のものが挙げられる:エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、及び以下の活性の1つ以上を有するタンパク質ドメイン:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写終結因子活性、ヒストン修飾活性、RNA開裂活性及び核酸結合活性。エピトープタグの非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザヘマグルチニン(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグ、及びチオレドキシン(Trx)タグ。レポーター遺伝子の例としては、グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、自己蛍光タンパク質、例えば青色蛍光タンパク質(BFP)及びmCherryが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質は、DNA分子と結合するか又は他の細胞分子と結合するタンパク質又はタンパク質のフラグメント、例えば、以下に限定されないが、マルトース結合タンパク質(MBP)、Sタグ、Lex A DNA結合ドメイン(DBD)、GAL4 DNA結合ドメイン及び単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質と融合する。Casエフェクタータンパク質を含む融合タンパク質の一部を形成し得る追加のドメインについては、米国特許出願公開第2011/0059502号明細書に記載されている。いくつかの実施形態では、タグ付き組換えCasタンパク質を使用して標的配列の位置を同定する。
【0150】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、異種のタンパク質又はタンパク質ドメインに融合する。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、逆転写酵素に融合する。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、逆転写酵素に融合したCas9ヌクレアーゼである。このようなCas9-逆転写酵素融合体の例は、Anzalone et al.,Nature、576:149-157(2019)に記載されている。
【0151】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、DNAポリメラーゼに融合されている。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、DNAポリメラーゼに融合したCas9ヌクレアーゼである。
【0152】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、ドミナントネガティブ53BP1(TP53BP1、腫瘍抑制因子p53結合タンパク質1としても知られる)に融合されている。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、ドミナントネガティブ53BP1タンパク質に融合したCas9ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、ドミナントネガティブ53BP1タンパク質は、DN1Sである。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、DN1Sに融合したCas9ヌクレアーゼである。
【0153】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、ジェミニンデグロンドメインに融合されている。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、ジェミニンデグロンドメインに融合したCas9ヌクレアーゼである。このようなタンパク質の例は、Gutschner et al,Cell Reports,14:1555-1566(2016)に記載されている。
【0154】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、CtIP(C末端結合タンパク質1)タンパク質に融合されている。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、CtIPタンパク質に融合したCas9ヌクレアーゼである。
【0155】
いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質は、誘導システムの構成成分を形成し得る。システムの誘導性は、エネルギーの形態を使用する遺伝子編集又は遺伝子発現の時空制御を可能にする。エネルギーの形態としては、電磁放射線、音響エネルギー、化学エネルギー及び熱エネルギーが挙げられ得るが、これらに限定されない:。誘導システムの非限定的な例としては、テトラサイクリン誘導性プロモーター(Tet-On又はTet-Off)、小分子ツーハイブリッド転写活性化系(FKBP、ABAなど)又は光誘導システム(フィトクロム、LOVドメイン又はクリプトクロム)が挙げられる。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、配列特異的に転写活性の変化を指向するための光誘導性転写エフェクター(LITE)の一部である。光の構成成分としては、Casエフェクタータンパク質、光応答性シトクロムヘテロ二量体(例えば、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)からのもの)及び転写活性化/抑制ドメインが挙げられ得る。誘導性DNA結合タンパク質及びそれらの使用方法のさらなる例は、国際特許出願公開の国際公開第2014/018423号パンフレット及び同第2014/093635号パンフレット;米国特許第8,889,418号明細書及び同第8,895,308号明細書;並びに米国特許出願公開第2014/0186919号明細書、同第2014/0242700号明細書、同第2014/0273234号明細書及び同第2014/0335620号明細書に提供されている。
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
ヌクレオチド
i.目的の配列
いくつかの実施形態では、本開示のポリヌクレオチドは、真核細胞のゲノムに挿入される目的配列(SOI)を含む外因性ポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、目的配列は、目的遺伝子を含む。
【0162】
いくつかの実施形態では、SOIを含む外因性ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドは、CRISPR/Cas媒介相同組換えを介して真核細胞のゲノムに挿入される外因性ポリヌクレオチド鋳型である。いくつかの実施形態では、SOIは、真核細胞のゲノムに挿入される少なくとも1つの目的変異を含む。いくつかの実施形態では、SOIは、真核細胞のゲノムに挿入される目的遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、SOIは、外因性ポリヌクレオチド鋳型として導入することができる。いくつかの実施形態では、SOIは、一本鎖及び二本鎖領域を含むハイブリッドポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ハイブリッドポリヌクレオチドは、5’末端及び3’末端の二本鎖配列と、内部一本鎖配列を含む(Shy et al, bioRxiv,2021,preprint published 9/2/2021)。いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチドは、平滑末端を含む。いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチド鋳型は、付着末端を含む。いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチド鋳型は、標的配列の付着末端に相補的な付着末端を含む。
【0163】
外因性ポリヌクレオチド鋳型は、任意の好適な長さ、例えば約又は少なくとも約10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、500、1000,5000,又は10000以上のヌクレオチド長であり得る。いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチド鋳型は、標的配列を含むポリヌクレオチドの一部に相補的である。いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチド鋳型は、最適にアラインされた場合、標的配列の1つ以上のヌクレオチド(例えば、約又は少なくとも約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、又は100以上のヌクレオチド)と重複する。いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチド鋳型と標的配列を含むポリヌクレオチドが最適にアラインされた場合、外因性ポリヌクレオチド鋳型の最近傍ヌクレオチドは、標的配列から約1、5、10、15、20、25、50、75、100、200、300、400、500、100、1500、2000、2500、5000、10,000以上のヌクレオチド以内に存在する。
【0164】
いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチドは、DNA、例えばDNAプラスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、ウイルスベクター、線状一本鎖又は二本鎖DNA片、オリゴヌクレオチド、PCR断片、ネイキッド核酸、又はポソームなどの送達ビヒクルと複合体化している核酸などである。いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチドは、RNAである。いくつかの実施形態では、RNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)である。
【0165】
いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチドは、細胞の内因性DNA修復経路を使用して標的配列に挿入される。いくつかの実施形態では、内因性DNA修復経路は、HDRである。修復プロセス中、SOIを含む外因性ポリヌクレオチド鋳型を標的配列に導入することができる。いくつかの実施形態では、上流配列及び下流配列によりフランキングされたSOIを含む外因性ポリヌクレオチド鋳型を細胞中に導入し、上流及び下流配列は、標的配列中の組込みの部位のいずれかの側と配列類似性を共有する。いくつかの実施形態では、SOIを含む外因性ポリヌクレオチドは、例えば、変異遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチドは、細胞に対して内因性又は外因性である配列を含む。いくつかの実施形態では、SOIは、タンパク質をコードするポリヌクレオチド、又は、例えばマイクロRNAなどの非コード配列を含む。いくつかの実施形態では、SOIは、調節エレメントに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、SOIは、調節エレメントである。いくつかの実施形態では、SOIは、耐性カセット、例えば抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、SOIは、野生型標的配列の変異を含む。いくつかの実施形態では、SOIは、フレームシフト変異又はヌクレオチド置換を作出することにより標的配列を破壊又は補正する。いくつかの実施形態では、SOIは、マーカーを含む。標的配列中へのマーカーの導入は、標的化組込みのスクリーニングを容易にし得る。いくつかの実施形態では、マーカーは、制限部位、蛍光タンパク質、又は選択マーカーである。いくつかの実施形態では、SOIは、SOIを含むベクターとして導入される。
【0166】
外因性ポリヌクレオチド鋳型中の上流及び下流配列は、標的配列と外因性ポリヌクレオチドとの間の相同組換えを促進するように選択される。上流配列は、組込みのための標的部位の上流の配列(すなわち標的配列)との配列類似性を共有する核酸配列である。同様に、下流配列は、組込みのための標的化部位の下流の配列との配列類似性を共有する核酸配列である。したがって、いくつかの実施形態では、SOIを含む外因性ポリヌクレオチド鋳型は、上流及び下流配列において相同組換えにより標的配列に挿入する。いくつかの実施形態では、外因性ポリヌクレオチド鋳型中の上流及び下流配列は、標的化ゲノム配列の上流及び下流配列とそれぞれ少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態では、上流又は下流配列は、少なくとも約20、50、100、150、200、250、300、350、400又は500の塩基対、且つ最大で約600、750、1000、1250、1500、1750、又は2000の塩基対を有する。いくつかの実施形態では、上流又は下流配列は、約20~2000の塩基対、又は約50~1750の塩基対、又は約100~1500の塩基対、又は約200~1250の塩基対、又は約300~1000の塩基対、又は約400~約750の塩基対、又は約500~600の塩基対を有する。いくつかの実施形態では、上流又は下流配列は、約50、約100、約250、約500、約100、約1250、約1500、約1750、約2000、約2250、又は約2500の塩基対を有する。
【0167】
いくつかの実施形態では、SOIは、目的遺伝子である。本明細書で使用される場合、「目的遺伝子」という用語は、目的の生体分子(例えば、タンパク質又はRNA分子)をコードする遺伝子を指す。いくつかの実施形態では、目的遺伝子は、目的タンパク質をコードする。いくつかの実施形態では、目的タンパク質は、細胞内タンパク質、膜タンパク質、細胞外タンパク質、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、目的タンパク質は、核タンパク質、転写因子、核膜トランスポーター、細胞内小器官関連タンパク質、膜受容体、触媒タンパク質、酵素、治療用タンパク質、膜タンパク質、膜輸送タンパク質、シグナル伝達タンパク質、免疫学的タンパク質、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、免疫学的タンパク質は、抗体、例えばIgG、IgA、IgM、IgD、IgE、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、免疫学的タンパク質は、T細胞受容体(TCR)である。いくつかの実施形態では、免疫学的タンパク質は、キメラ抗原受容体(CAR)である。いくつかの実施形態では、SOIは、宿主細胞の在来遺伝子のコピーをコードする。いくつかの実施形態では、SOIは、宿主細胞において欠損している在来遺伝子のコピーをコードする。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、遺伝子に変異を含み、SOIは、その遺伝子の野生型コピーをコードする。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、野生型遺伝子を含み、SOIは、目的の突然変異を含む遺伝子のコピーをコードする。いくつかの実施形態では、SOIは、宿主細胞に天然に存在しない異種遺伝子をコードする。
【0168】
いくつかの実施形態では、目的遺伝子は、目的RNAをコードする。いくつかの実施形態では、目的RNAは、治療用RNAを含む。いくつかの実施形態では、目的RNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、アンチセンスRNA、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、無細胞RNA(cfRNA)、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、目的配列は、目的の調節エレメントを含む。いくつかの実施形態では、SOIは、目的配列上の調節エレメントが宿主細胞の在来遺伝子を調節することができるように、宿主細胞の標的ポリヌクレオチドに挿入される。調節エレメントは、本明細書に記載されており、例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、オペレーター、応答エレメント、5’UTR、3’UTR、インスレーターなどが挙げられる。
【0169】
いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約1ヌクレオチド~約5000ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約5ヌクレオチド~約5000ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約6ヌクレオチド~約1000ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約7ヌクレオチド~約750ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約8ヌクレオチド~約500ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約9ヌクレオチド~約250ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約10ヌクレオチド~約100ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約15ヌクレオチド~約90ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約20ヌクレオチド~約80ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約25ヌクレオチド~約70ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約30ヌクレオチド~約50ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約1ヌクレオチド~約10ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約1ヌクレオチド~約20ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約1ヌクレオチド~約30ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約10ヌクレオチド~約40ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約1ヌクレオチド~約50ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、5,6,7,8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIを含むポリヌクレオチドは、約10ヌクレオチド長より大きく、約15ヌクレオチド長より大きく、約20ヌクレオチド長より大きく、約25ヌクレオチド長より大きく、約30ヌクレオチド長より大きく、約35ヌクレオチド長より大きく、約40ヌクレオチド長より大きく、約45ヌクレオチド長より大きく、又は約50ヌクレオチド長より大きい。
【0170】
いくつかの実施形態では、SOIは、約3~約5000ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約4~約1000ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約5~約900ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約6~約800ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約7~約700ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約8~約600ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約9~約500ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約50~約5000ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約60~約1000ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約70~約900ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約8~約800ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約90~約700ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約100~約500ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約100~約250ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約10~約90ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約11~約80ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約12~約70ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約15~約60ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約10~約50ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約1~約10ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約1~約25ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約1~約50ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、SOIは、約10ヌクレオチド長より大きく、約15ヌクレオチド長より大きく、約20ヌクレオチド長より大きく、約25ヌクレオチド長より大きく、約30ヌクレオチド長より大きく、約35ヌクレオチド長より大きく、約40ヌクレオチド長より大きく、約45ヌクレオチド長より大きく、又は約50ヌクレオチド長より大きい。
【0171】
ii. Cas及びCas関連ポリヌクレオチド
いくつかの実施形態では、本開示は、本開示のCasエフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド又はポリヌクレオチド配列、すなわちCasポリヌクレオチドを包含する。
【0172】
いくつかの実施形態では、本開示のポリヌクレオチドは、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができる。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドは、ガイド配列を含む。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドは、Cas結合領域を含む。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドは、DNA鋳型配列を含む。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドは、ガイド配列、Cas結合領域、及びDNA鋳型配列、又はこれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、5’から3’の順序で、ガイド配列、Cas結合領域、及びDNA鋳型配列を含む。
【0173】
いくつかの実施形態では、ガイド配列は、標的ポリヌクレオチド、例えば、宿主細胞ゲノム内の標的ポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができる。いくつかの実施形態では、ガイド配列は、標的ポリヌクレオチドと相補的である。いくつかの実施形態では、標的ポリヌクレオチドは、Casヌクレアーゼ又はCasニッカーゼによって開裂させることが意図される標的DNAである。いくつかの実施形態では、ガイド配列は、RNAを含み、すなわちRNAガイド配列である。いくつかの実施形態では、ガイド配列は、RNA及びDNAの組み合わせを含む。ハイブリッドRNA-DNAガイド配列は、例えば、Rueda et al.,Nat Comm 8:1610(2017)にさらに記載されている。
【0174】
いくつかの実施形態では、ガイド配列は、約10~約40ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、ガイド配列は、約12~約30ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、ガイド配列は、約15~約20ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、ガイド配列は、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、又は約40ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、ガイド配列は、標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズするのに十分な長さである。
【0175】
いくつかの実施形態では、Cas結合領域は、Casエフェクタータンパク質(例えば、Casヌクレアーゼ又はCasニッカーゼ)に結合し、それによってCasタンパク質と複合体を形成することができる。いくつかの実施形態では、Cas結合領域は、RNAを含む。いくつかの実施形態では、Cas結合領域は、RNA及びDNAの組み合わせを含む。Casタンパク質に結合し、且つ/又はCasタンパク質を活性化するハイブリッドRNA-DNA配列は、例えば、Rueda et al.,Nat Comm 8:1610(2017)にさらに記載されている。
【0176】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法、キット、及び組成物に記載される複数のガイドRNAは、同じ方法、キット、又は組成物中に使用することができる。例えば、いくつかの実施形態では、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10以上の異なるガイドRNAを同時に使用することができる。
【0177】
いくつかの実施形態では、Cas結合領域は、Casタンパク質に結合し、Casタンパク質を活性化するtracrRNAを含む。いくつかの実施形態では、Cas結合領域は、tracrRNAとハイブリダイズすることができ、組成物は、tracrRNAをさらに含む。いくつかの実施形態では、tracrRNAは、Casヌクレアーゼ又はCasニッカーゼに結合することができる。いくつかの実施形態では、tracrRNAは、Casヌクレアーゼ又はCasニッカーゼを活性化させることができる。いくつかの実施形態では、活性化には、Casヌクレアーゼ又はCasニッカーゼの開裂活性を惹起又は増大させることが含まれる。いくつかの実施形態では、活性化には、Casヌクレアーゼ又はCasニッカーゼを(例えば、ガイド配列により誘導することで)標的ポリヌクレオチドに結合させることを促進することが含まれる。いくつかの実施形態では、活性化には、Casヌクレアーゼ又はCasニッカーゼを標的ポリヌクレオチドに結合するのを促進すること、及びCasヌクレアーゼ又はCasニッカーゼの開裂活性を惹起又は増大させることの組み合わせが含まれる。Casタンパク質(例えば、本明細書に記載されるCas9、Cas12a、又はII-B型Casタンパク質)のTracrRNA配列は、RNAcentral及びRfamを含む公的データベースから入手可能であり、さらに、例えば、Chylinski et al.,RNA Biol 10(5):726-737(2013)及びGasiunas et al.,Nat Comm 11:5512(2020)に記載されている。
【0178】
いくつかの実施形態では、Casエフェクター分子と複合体を形成することができるポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの3’末端にDNA鋳型配列を含む。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、一本鎖DNAを含む。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、目的配列を含む。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、プライマー結合配列及び目的配列を含む。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、DNAポリメラーゼにより増幅させるための鋳型を含む。いくつかの実施形態では、目的配列は、DNAポリメラーゼにより増幅させるための鋳型を含む。いくつかの実施形態では、組成物のCasヌクレアーゼ又はCasニッカーゼは、ガイド配列によって標的ポリヌクレオチドに誘導されて標的ポリヌクレオチドを開裂させ、開裂された標的ポリヌクレオチドの一方の鎖が、プライマー結合配列にハイブリダイズし、DNAポリメラーゼのプライマーとして機能する。いくつかの実施形態では、DNAポリメラーゼは、SOIに相補的なDNA鎖を合成し、SOIを含む二本鎖配列を形成することができる。いくつかの実施形態では、SOIを含む二本鎖配列は、例えば、本明細書に記載されるライゲーション又はDNA修復経路により、開裂した標的ポリヌクレオチドに挿入される。
【0179】
いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約5ヌクレオチド~約5000ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約6ヌクレオチド~約1000ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約7ヌクレオチド~約750ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約8ヌクレオチド~約500ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約9ヌクレオチド~約250ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約10ヌクレオチド~約100ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約15ヌクレオチド~約90ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約20ヌクレオチド~約80ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約25ヌクレオチド~約70ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約30ヌクレオチド~約50ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、約10ヌクレオチド長より大きく、約15ヌクレオチド長より大きく、約20ヌクレオチド長より大きく、約25ヌクレオチド長より大きく、約30ヌクレオチド長より大きく、約35ヌクレオチド長より大きく、約40ヌクレオチド長より大きく、約45ヌクレオチド長より大きく、又は約50ヌクレオチド長より大きい。
【0180】
いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、プライマー結合配列を含む。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、約3~約50ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、約4~約45ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、約5~約40ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、約6~約35ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、約7~約30ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、約8~約25ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、約10~約20ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、約4~約30ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、又は40ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、プライマー結合配列は、開裂した標的DNA配列の領域とハイブリダイズするのに十分な長さを有する。
【0181】
いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列を含むポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、非B型DNA構造体、DNAポリメラーゼ動員部分、DNAリガーゼ動員部分、又はこれらの組み合わせを含む。
【0182】
いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列を含むポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、脱塩基部位、共有結合リンカー、ゼノ核酸(XNA)、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエート結合、DNA損傷体、DNA光産物、修飾デオキシリボヌクレオシド、メチル化ヌクレオチド、又はこれらの組み合わせを含む。
【0183】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、DNAポリメラーゼによる目的配列の過度な伸長を低減又は防止する。いくつかの実施形態では、DNAポリメラーゼによる目的配列の過度な伸長を低減又は防止することにより、目的配列を含む二本鎖配列の挿入の精度が向上する。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、脱プリン塩基/脱ピリミジン塩基部位(AP部位)としても知られる脱塩基部位を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、共有結合リンカーを含む。いくつかの実施形態では、共有結合リンカーは、トリエチレングリコール(TEG)リンカーを含む。いくつかの実施形態では、共有結合リンカーは、アミノリンカーを含む。TEGリンカー及びアミノリンカーは、ポリメラーゼ伸長を阻害することが示されており、例えば、Strobel et al.,bioRxiv doi:10.1101/2019.12.26.888743(23 January 2020)を参照されたい。
【0184】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、本開示のポリヌクレオチドのヌクレアーゼ分解を低減又は防止する。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、ゼノ核酸(XNA)を含む。XNAは、DNAのデオキシリボース又はRNAのリボースとは異なる糖基を有する合成ヌクレオチド類似体である。XNAの例示的な糖基としては、トレオース、シクロヘキセン、グリコール、又はロックドリボースが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、XNAは、1,5-アンヒドロヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、トレオース核酸(TNA)、グリコール核酸(GNA)、ロックド核酸(LNA)、及びペプチド核酸(PNA)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、架橋型核酸(BNA)としても公知のロックド核酸(LNA)を含む。LNAは、リボース部分が2’酸素と4’炭素を接続するさらなる架橋によって修飾されている修飾RNAヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、ペプチド核酸(PNA)を含む。DNA又はRNAのデオキシリボース骨格又はリボース骨格とは異なり、PNAポリマーの骨格は、ペプチド結合によって連結されたN-(2-アミノエチル)-グリシン単位を含み、メチレン架橋及びカルボニル基によってプリン塩基及びピリミジン塩基がPNA骨格に連結されている。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、ホスホロチオエート結合を含む。ホスホロチオエート結合は、2つのヌクレオチドを連結するホスフェート基中の酸素の1つの代わりに硫黄原子を含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド中にXNA、例えばLNA若しくはPNA、又はホスホロチオエート結合が存在することにより、ポリヌクレオチドのヌクレアーゼ分解に対する安定性が向上する。
【0185】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド(例えば、本明細書で提供される組成物のポリヌクレオチド)中に修飾ヌクレオチドが存在することにより、ポリヌクレオチドにDNAポリメラーゼを動員することができる。いくつかの実施形態では、DNAポリメラーゼを動員することには、例えば、ポリヌクレオチド中に修飾ヌクレオチドが存在することによりDNAポリメラーゼがポリヌクレオチドを認識する可能性を増大させること;DNAポリメラーゼがポリヌクレオチドに結合することを促進すること;及び/又はDNAポリメラーゼを活性化すること、例えば、DNAポリメラーゼの活性を惹起又は増大させることが含まれる。いくつかの実施形態では、動員されたDNAポリメラーゼは、本明細書に記載されるように、開裂した標的ポリヌクレオチドの鎖に結合し、DNA鋳型配列上の目的配列を伸長する。
【0186】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、DNA損傷体を含む。本明細書で使用される場合、「DNA損傷体」とは、DNA損傷を典型的に示す塩基の変異、塩基の欠失、及び/又は糖の変異を含有するDNAポリヌクレオチドの領域を指す。DNA損傷体は、核酸塩基の加水分解、酸化、アルキル化、脱プリン化、脱ピリミジン化、及び/又は脱アミノ化によって生じる可能性のあるものである。いくつかの実施形態では、DNA損傷体は、DNAポリメラーゼを動員することができる。いくつかの実施形態では、DNA損傷体は、8-オキソグアニン、チミン-グリコール、N7-(2-ヒドロキシエチル)グアニン(7HEG)、7-(2-オキソエチル)グアニン、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、DNA損傷体は、8-オキソグアニン、チミン-グリコール、又はこれらの組み合わせを含む。
【0187】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、DNA光産物を含む。DNA光産物は、紫外線(UV)誘発性のDNA損傷体であり、例えば、Yokoyama et al.,Int J Mol Sci 15(11):20321-20338(2014)にさらに記載されている。いくつかの実施形態では、DNA光産物は、DNAポリメラーゼを動員することができる。いくつかの実施形態では、DNA光産物は、ピリミジン二量体、シクロブタンピリミジン二量体(CPD)、ピリミジン(6-4)ピリミドン光産物(「(6-4)光産物」とも称される)、アデニン-チミンヘテロ二量体、デュワーピリミジノン、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、DNA光産物は、CPD、(6-4)光産物、又はこれらの組み合わせを含む。
【0188】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、修飾デオキシリボヌクレオシドを含む。いくつかの実施形態では、修飾デオキシリボヌクレオシドは、DNAポリメラーゼを動員することができる。いくつかの実施形態では、修飾デオキシリボヌクレオシドは、DNAには典型的には存在しない塩基、すなわち、アデニン、シトシン、グアニン、又はチミンを含む。いくつかの実施形態では、修飾デオキシリボヌクレオシドは、デオキシウリジン、アクロレイン-デオキシグアニン、マロンジアルデヒド-デオキシグアニン、デオキシイノシン、デオキシキサントシン、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、修飾デオキシリボヌクレオシドは、デオキシウリジンを含む。
【0189】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、1つ以上のメチル化ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、メチル化ヌクレオチド、例えば、メチル化シトシンは、DNAポリメラーゼを動員することができる。いくつかの実施形態では、メチル化ヌクレオチドは、5-ヒドロキシメチルシトシン、5-メチルシトシン、又はこれらの組み合わせを含む。
【0190】
いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、非B型DNA構造体を含む。本明細書で使用される場合、「非B型DNA構造体」とは、標準的な右巻きのB型DNAヘリックスではないDNAの二次構造のコンフォメーションのことである。非B型DNA構造体の非限定的な例としては、グアニン四重鎖、三本鎖DNA(H-DNA)、Z-DNA、十字形、スリップDNA鎖、Aトラクトベンディング、粘着性DNAが挙げられる。非B型DNA構造体は、例えば、Guiblet et al.,Nucleic Acids Res 49(3):1497-1516(2021)にさらに記載されている。いくつかの実施形態では、非B型DNA構造体は、DNAポリメラーゼを動員することができる。いくつかの実施形態では、非B型DNA構造体は、ヘアピン、十字形、Z-DNA、H-DNA(三本鎖DNA)、G四重鎖DNA(四本鎖DNA)、スリップDNA、粘着性DNA、又はこれらの組み合わせを含む。
【0191】
いくつかの実施形態では、DNA鋳型配列は、DNAポリメラーゼ動員部分を含む。DNAポリメラーゼの動員は、本明細書に記載されている。DNAポリメラーゼ動員部分によって動員することができるDNAポリメラーゼの非限定的な例としては、Pol I(そのクレノウ断片を含む)、Pol II、Pol III、Pol IV、若しくはPol Vなどの細菌性DNAポリメラーゼ;Pol α、Pol β、Pol λ、Pol γ、Pol σ、Pol μ、Pol δ、Pol ε、Pol η、Pol ι、Pol κ、Pol ζ、Pol θ、REV1、若しくはREV3などの真核生物DNAポリメラーゼ;Bst、T4、若しくはΦ29(ファイ29)DNAポリメラーゼなどの等温DNAポリメラーゼ;Taq、Pfu、KOD、Tth、若しくはPwo DNAポリメラーゼなどの熱安定性DNAポリメラーゼ;又はこれらのバリアント若しくは相同体が挙げられる。
【0192】
いくつかの実施形態では、本開示のポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの活性、細胞分布、又は細胞取り込みを増強する1つ以上の部分又はコンジュゲートに化学的に架橋することができる。これらの部分又はコンジュゲートとしては、1級又は2級水酸基などの官能基に共有結合したコンジュゲート基を挙げることができる。コンジュゲート基としては、インターカレーター、レポーター分子、ポリアミン、ポリアミド、ポリエチレングリコール、ポリエーテル、オリゴマーの薬理学的特性を増強する基、及びオリゴマーの薬物動態特性を増強する基が挙げられるが、これらに限定されない。好適なコンジュゲート基としては、コレステロール、脂質、リン脂質、ビオチン、フェナジン、葉酸、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、及び色素が挙げられるが、これらに限定されない。薬理学的特性を増強する基としては、取り込みを促進する基、分解に対する耐性を高める基、及び/又は標的核酸との配列特異的ハイブリダイゼーションを強化する基が挙げられる。薬物動態特性を増強する基としては、取り込み、分布、代謝又は対象核酸の排泄を改善する基が挙げられる。
【0193】
コンジュゲート部分としては、コレステロール部分(Letsinger et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA,1989,86,6553-6556)などの脂質部分、コール酸(Manoharan et al.,Bioorg.Med.Chem.Let.,1994,4,1053-1060)、チオエーテル、例えばヘキシル-S-トリチルチオール(Manoharan et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,1992,660,306-309;Manoharan et al.,Bioorg.Med.Chem.Let.,1993,3,2765-2770)、チオコレステロール(Oberhauser et al.,Nucl.Acids Res.,1992,20,533-538)、脂肪鎖、例えばドデカンジオール若しくはウンデシル残基(Saison-Behmoaras et al.,EMBO J.,1991,10,1111-1118;Kabanov et al.,FEBS Lett.,1990,259,327-330;Svinarchuk et al.,Biochimie,1993,75,49-54)、リン脂質、例えばジ-ヘキサデシル-rac-グリセロール若しくはトリエチル-アンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホネート(Manoharan et al.,Tetrahedron Lett.,1995,36,3651-3654;Shea et al.,Nucl.Acids Res.,1990,18,3777-3783)、ポリアミン若しくはポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al.,Nucleosides & Nucleotides,1995,14,969-973)、アダマンタン酢酸(Manoharan et al.,Tetrahedron Lett.,1995,36,3651-3654)、パルミチル部分(Mishra et al.,Biochim.Biophys.Acta,1995,1264,229-237)、又はオクタデシルアミン若しくはヘキシルアミノ-カルボニル-オキシコレステロール部分(Crooke et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,1996,277,923-937が挙げられるが、これらに限定されない。
【0194】
コンジュゲートとしては、「タンパク質形質導入ドメイン」又はPTD(CPP-細胞透過性ペプチドとしても知られる)が挙げられ得、これは、脂質二重層、ミセル、細胞膜、細胞小器官膜、又はベシクル膜を通過することを促進するポリペプチド、ポリヌクレオチド、炭水化物、又は有機若しくは無機化合物を指し得る。別の分子に結合したPTDは、極性小分子から大きな高分子及び/又はナノ粒子にまで及び、分子が、例えば細胞外空間から細胞内空間へ、又は細胞質ゾルから細胞小器官内へと、膜を通過するのを促進する。いくつかの実施形態では、PTDは、外因性ポリペプチド(例えば、部位特異的修飾ポリペプチド)のアミノ末端に共有結合される。いくつかの実施形態では、PTDは、外因性ポリペプチド(例えば、部位特異的修飾ポリペプチド)のカルボキシル末端に共有結合される。いくつかの実施形態では、PTDは、核酸(例えば、DNA標的化RNA、DNA標的化RNAをコードするポリヌクレオチド、部位特異的修飾ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドなど)に共有結合される。例示的なPTDとしては、最小ウンデカペプチドタンパク質形質導入ドメイン(YGRKKRRQRRR;配列番号7を含むHIV-1 TATの残基47~57に対応);細胞への侵入を指示するのに十分な数のアルギニンを含むポリアルギニン配列(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10~50個のアルギニン);VP22ドメイン(Zender et al. (2002)Cancer Gene Ther. 9(6):489-96);ショウジョウバエ(Drosophila)のアンテナペディアタンパク質形質導入ドメイン(Noguchi et al. (2003)Diabetes 52(7):1732-1737);トランケート型ヒトカルシトニンペプチド(Trehin et al. (2004)Pharm. Research 21:1248-1256);ポリリシン(Wender et al. (2000)ProcNatl.Acad.Sci.USA97:13003-13008);RRQRRTSKLMKR(配列番号8);トランスポータンGWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号9);KALAWEAKLAKALAKALAKHLAKALAKALKCEA(配列番号10);及びRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号11)が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なPTDとしては、YGRKKRRQRRR(配列番号12)、RKKRRQRRR(配列番号13);3個のアルギニン残基~50個のアルギニン残基のアルギニンホモポリマーが挙げられるが、これらに限定されない;例示的なPTDドメインアミノ酸配列としては、以下のいずれかが挙げられるが、これらに限定されない: YGRKKRRQRRR(配列番号14);RKKRRQRR(配列番号15);YARAAARQARA(配列番号16);THRLPRRRRRR(配列番号17);及びGGRRARRRRRR(配列番号18). いくつかの実施形態では、PTDは、活性化可能CPP(ACPP)(Aguilera et al. (2009)Integr Biol(Camb)June;1(5-6):371-381)である。ACPPは、開裂可能なリンカーによって対応するポリアニオン(例えば、Glu9又は「E9」)に連結されたポリカチオン性CPP(例えば、Arg9又は「R9」)を含み、これは、正味の電荷をほぼゼロに減少させ、それによって、細胞への接着及び取り込みを阻害する。リンカーが開裂されると、ポリアニオンが放出され、ポリアルギニン及びその固有の接着性が局所的に脱マスキングし、これにより、ACPPが膜を横断するように「活性化」される。
【0195】
いくつかの実施形態では、本開示のポリヌクレオチドは、真核細胞中での発現のためにコドン最適化されている。いくつかの実施形態では、stiCas9をコードするポリヌクレオチド配列は、動物細胞中での発現のためにコドン最適化されている。いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、ヒト細胞中での発現のためにコドン最適化されている。いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、植物細胞中での発現のためにコドン最適化されている。コドン最適化は、組換え又は異種タンパク質発現の収量及び効率を増加させるためにその発現を宿主のtRNA存在量にマッチさせるようにコドンを調整することである。コドン最適化法は、当該技術分野における定型作業であり、ソフトウェアプログラム、例えばIntegrated DNA TechnologiesのCodon Optimizationツール、EntelechonのCodon Usage Table分析ツール、GENEMAKERのBlue Heronソフトウェア、AptagenのGene Forgeソフトウェア、DNA Builderソフトウェア、General Codon Usage Analysisソフトウェア、公的に利用可能なOPTIMIZERソフトウェア、及びGenscriptのOptimumGeneアルゴリズムなどを使用して実施することができる。
【0196】
CRISPR-Casシステム
いくつかの実施形態では、本開示は、天然に存在するCasエフェクタータンパク質又は天然に存在しないCasエフェクタータンパク質と、目的の配列をコードするポリヌクレオチドとを含むCRISPR-Casシステムを包含する。いくつかの実施形態において、CRISPR-Casシステムは、天然に存在するCasエフェクタータンパク質又は天然に存在しないCasエフェクタータンパク質、目的の配列をコードするポリヌクレオチド、及びCasエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドは、ガイド配列、Cas結合領域、及びDNA鋳型領域を含む。
【0197】
いくつかの実施形態では、CRISPR-Casシステムは、本明細書で提供される組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節エレメントと、組換えCasエフェクタータンパク質と複合体を形成し、ガイド配列を含むポリヌクレオチドとを含む。
【0198】
いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド配列と結合した調節エレメントは、プロモーターである。いくつかの実施形態では、調節エレメントは、真核生物プロモーターである。いくつかの実施形態では、調節エレメントは、ウイルスプロモーターである。いくつかの実施形態では、調節エレメントは、真核生物調節エレメント、すなわち真核生物プロモーターである。いくつかの実施形態では、真核生物調節エレメントは、哺乳動物プロモーターである。
【0199】
いくつかの実施形態では、CRISPR-CasシステムのCasエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドは、RNA分子である。CRISPR-Cas構成成分に結合し、それらを標的DNA内の特異的位置に標的化するRNA分子は、本明細書において「ガイドRNA」、「gRNA」又は「小分子ガイドRNA」と称され、本明細書において「DNA標的化RNA」と称されることもある。ガイドポリヌクレオチド、例えばガイドRNAは、少なくとも2つのヌクレオチドセグメント、すなわち少なくとも1つの「DNA結合セグメント」及び少なくとも1つの「ポリペプチド結合セグメント」を含む。「セグメント」とは、分子の一部、セクション又は領域、例えばガイドポリヌクレオチド分子のヌクレオチドの連続ストレッチを意味する。「セグメント」の定義は、特に具体的に定義されない限り、特定数の合計塩基対に限定されない。
【0200】
いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのDNA結合セグメント(又は「DNA標的化配列」)は、細胞中の標的配列とハイブリダイズする。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチド、例えばガイドRNAのDNA結合セグメントは、標的DNA内の特定の配列に対して相補的なポリヌクレオチド配列を含む。
【0201】
いくつかの実施形態では、本開示のガイドポリヌクレオチドは、真核細胞中の標的配列にハイブリダイズするガイド配列を有する。いくつかの実施形態では、真核細胞は、動物又はヒト細胞である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、ヒト又はげっ歯類又はウシの、細胞系又は細胞株である。このような細胞、細胞系又は細胞株の例としては、以下に限定されるものではないが、マウス骨髄腫(NSO)細胞系、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系、HT1080、H9、HepG2、MCF7、MDBK Jurkat、NIH3T3、PC12、BHK(ベビーハムスター腎臓細胞)、VERO、SP2/0、YB2/0、Y0、C127、L細胞、COS、例えば、COS1及びCOS7、QC1-3、HEK-293、VERO、PER.C6、HeLA、EB1、EB2、EB3、腫瘍溶解又はハイブリドーマの細胞系が挙げられる。いくつかの実施形態では、真核細胞は、CHO細胞系である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、CHO細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、CHO-K1細胞、CHO-K1 SV細胞、DG44 CHO細胞、DUXB11 CHO細胞、CHOS、CHO GSノックアウト細胞、CHO FUT8 GSノックアウト細胞、CHOZN、又はCHO由来細胞である。CHO GSノックアウト細胞(例えば、GSKO細胞)は、例えば、CHO-K1 SV GSノックアウト細胞である。CHO FUT8ノックアウト細胞は、例えば、POTELLIGENT CHOK1 SV(Lonza Biologics,Inc.)である。真核細胞はまた、鳥類細胞、細胞系又は細胞株、例えばEBX細胞、EB14、EB24、EB26、EB66又はEBvl3などであり得る。
【0202】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、ヒト細胞である。いくつかの実施形態では、ヒト細胞は幹細胞である。幹細胞は、例えば、胚性幹細胞(ESC)、成体幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、組織特異的幹細胞(例えば、造血幹細胞)及び間葉系幹細胞(MSC)を含む多能性幹細胞であり得る。いくつかの実施形態では、ヒト細胞は、本明細書に記載の細胞のいずれかの分化形態である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、培養下の任意の初代細胞に由来する細胞である。
【0203】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、ヒト肝細胞、動物肝細胞、又は非実質細胞などの肝細胞である。例えば、真核細胞は、付着型代謝試験用ヒト肝細胞、付着型誘導試験用ヒト肝細胞、付着型ヒト肝細胞、懸濁液試験用ヒト肝細胞(10ドナー及び20ドナープール肝細胞を含む)、ヒト肝クッパー細胞、ヒト肝星細胞、イヌ肝細胞(単一及びプールビーグル肝細胞を含む)、マウス肝細胞(CD-1及びC57BI/6肝細胞を含む)、ラット肝細胞(Sprague-Dawley、Wistar Han及びWistar肝細胞を含む)、サル肝細胞(カニクイザル又はアカゲザル肝細胞を含む)、ネコ肝細胞(ドメスティックショートヘア肝細胞を含む)、並びにウサギ肝細胞(ニュージーランドホワイト肝細胞を含む)であり得る。
【0204】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、植物細胞である。例えば、植物細胞は、キャッサバ、トウモロコシ、モロコシ、コムギ又はイネなどの作物の細胞であり得る。植物細胞は、藻類、樹木又は野菜の細胞であり得る。植物細胞は、単子葉若しくは双子葉植物の細胞、又は作物若しくは穀類植物、生産植物、果実若しくは野菜の細胞であり得る。例えば、植物細胞は、樹木、例えば柑橘樹木、例えばオレンジ、グレープフルーツ又はレモン樹木;モモ又はネクタリン樹木;リンゴ又はナシ樹木;堅果樹木、例えばアーモンド又はクルミ又はピスタチオ樹木;ナス属の植物、例えばジャガイモ;ブラシカ属(Brassica)の植物、ラクツカ属(Lactuca)の植物、スピナシア属(Spinacia)の植物;カプシカム属(Capsicum)の植物;綿、タバコ、アスパラガス、ニンジン、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、トマト、ナス、コショウ、レタス、ホウレンソウ、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ブドウ、コーヒー、ココアなどの細胞であり得る。
【0205】
いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約5~約50ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約6~約45ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約7~約40ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約8~約35ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約9~約30ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約10~約20ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約12~約20ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約14~約20ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約16~約20ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約18~約20ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約5~約10ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約6~約10ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約7~約10ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列は、約8~約10ヌクレオチドである。ガイド配列の長さは、例えば、CRISPR Design Tool(Hsu et al.,Nat Biotechnol 31(9):827-832(2013))、ampliCan(Labun et al.,bioRxiv 2018,doi:10.1101/249474)、CasFinder(Alach et al.,bioRxiv 2014,doi:10.1101/005074)、CHOPCHOP(Labun et al.,Nucleic Acids Res 2016,doi:10.1093/nar/gkw398)などのガイド配列の設計ツールを用いて、当業者によって決定され得る。
【0206】
いくつかの実施形態では、本開示のガイドポリヌクレオチド、例えばガイドRNAは、ポリペプチド結合配列/セグメントを含む。ガイドポリヌクレオチド、例えばガイドRNAのポリペプチド結合セグメント(又は「タンパク質結合配列」)は、本開示のCasエフェクタータンパク質のポリヌクレオチド結合ドメインと相互作用する。このようなポリペプチド結合セグメント又は配列、例えば米国特許出願公開第2014/0068797号明細書、同第2014/0273037号明細書、同第2014/0273226号明細書、同第2014/0295556号明細書、同第2014/0295557号明細書、同第2014/0349405号明細書、同第2015/0045546号明細書、同第2015/0071898号明細書、同第2015/0071899号明細書及び同第2015/0071906号明細書に開示されるものは、当業者に知られている。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのポリペプチド結合セグメントは、Cas9に結合する。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドのポリペプチド結合セグメントは、本明細書で提供される組換えCas9タンパク質に結合する。
【0207】
いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドは、少なくとも約10、15、20、25又は30ヌクレオチドで、且つ最大で約25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140又は150ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドは、約10~約150ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドは、約20~約120ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドは、約30~約100ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドは、約40~約80ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドは、約50~約60ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドは、約10~約35ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドは、約15~約30ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、ガイドポリヌクレオチドは、約20~約25ヌクレオチドである。
【0208】
ガイドポリヌクレオチド、例えばガイドRNAは、単離分子、例えばRNA分子として標的細胞中に導入することができるか、又はガイドポリヌクレオチド、例えばガイドRNAをコードするDNAを含有する発現ベクターを使用して細胞中に導入される。
【0209】
いくつかの実施形態では、CRISPR-Casシステムのガイドポリヌクレオチドは、ダイレクトリピート配列に連結されている。ダイレクトリピート又はDR配列は、非反復配列(スペーサー)の短鎖ストレッチが介在しているCRISPR遺伝子座中の反復配列のアレイである。スペーサー配列は、標的配列上のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を標的とする。CRISPR遺伝子座の非コード部分(すなわちガイドポリヌクレオチド及びtracrRNA)が転写される場合、転写産物は、DR配列において個々のスペーサー配列を含有する短鎖crRNAに開裂され、それがCas9ヌクレアーゼをPAMに指向させる。いくつかの実施形態では、DR配列は、RNAである。いくつかの実施形態では、DR配列は、核酸によりコードされる。いくつかの実施形態では、DR配列は、ガイドポリヌクレオチドに結合している。いくつかの実施形態では、DR配列は、ガイドポリヌクレオチドのガイド配列に結合している。いくつかの実施形態では、DR配列は、二次構造を含む。いくつかの実施形態では、DR配列は、ステムループ構造を含む。いくつかの実施形態では、DR配列は、10~20ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、DR配列は、少なくとも16ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、DR配列は、少なくとも16ヌクレオチドであり、単一のステムループを含む。いくつかの実施形態では、DR配列は、RNAアプタマーを含む。いくつかの実施形態では、DRの二次構造又はステムループは、開裂のためのヌクレアーゼにより認識される。いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼは、リボヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼは、RNアーゼIIIである。
【0210】
いくつかの実施形態では、本開示のCRISPR-Casシステムは、tracrRNAをさらに含む。「tracrRNA」又はトランス活性化CRISPR-RNAは、プレcrRNA又はプレCRISPR-RNAとRNA二本鎖を形成し、次いで、RNA特異的リボヌクレアーゼRNアーゼIIIにより開裂されて、crRNA/tracrRNAハイブリッドを形成する。いくつかの実施形態では、ガイドRNAは、crRNA/tracrRNAハイブリッドを含む。いくつかの実施形態では、ガイドRNAのtracrRNA構成成分は、Casエフェクタータンパク質を活性化させる。いくつかの実施形態では、CRISPR-Casシステムのガイドポリヌクレオチドは、tracrRNA配列を含む。いくつかの実施形態では、CRISPR-Casシステムは、tracrRNA配列を含む別個のポリヌクレオチドを含む。
【0211】
いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド及びガイドポリヌクレオチドは、単一のベクター上に存在する。いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド、ガイドポリヌクレオチド(又はガイドポリヌクレオチドに転写され得るヌクレオチド)及びtracrRNAは、単一のベクター上に存在する。いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド、ガイドポリヌクレオチド(又はガイドポリヌクレオチドに転写され得るヌクレオチド)、tracrRNA及びダイレクトリピート配列は、単一のベクター上に存在する。いくつかの実施形態では、ベクターは、発現ベクターである。いくつかの実施形態では、ベクターは、哺乳動物発現ベクターである。いくつかの実施形態では、ベクターは、ヒト発現ベクターである。いくつかの実施形態では、ベクターは、植物発現ベクターである。
【0212】
いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド及びガイドポリヌクレオチドは、単一の核酸分子である。いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド、ガイドポリヌクレオチド及びtracrRNAは、単一の核酸分子である。いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド、ガイドポリヌクレオチド、tracrRNA及びダイレクトリピート配列は、単一の核酸分子である。いくつかの実施形態では、単一の核酸分子は、発現ベクターである。いくつかの実施形態では、単一の核酸分子は、哺乳動物発現ベクターである。いくつかの実施形態では、単一の核酸分子は、ヒト発現ベクターである。いくつかの実施形態では、単一の核酸分子は、植物発現ベクターである。
【0213】
いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質及びガイドポリヌクレオチドは、複合体を形成することができる。いくつかの実施形態では、組換えCasエフェクタータンパク質とガイドポリヌクレオチドとの複合体は、天然に存在しない。
【0214】
細胞
本開示のいくつかの実施形態では、真核細胞は、ヒト細胞である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、動物又はヒト細胞である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、ヒト又はげっ歯類又はウシの、細胞系又は細胞株である。このような細胞、細胞系又は細胞株の例としては、以下に限定されるものではないが、マウス骨髄腫(NSO)細胞系、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系、HT1080、H9、HepG2、MCF7、MDBK Jurkat、NIH3T3、PC12、BHK(ベビーハムスター腎臓細胞)、VERO、SP2/0、YB2/0、Y0、C127、L細胞、COS、例えば、COS1及び COS7、QC1-3、HEK-293、VERO、PER.C6、HeLA、EB1、EB2、EB3、腫瘍溶解又はハイブリドーマの細胞系が挙げられる。いくつかの実施形態では、真核細胞は、CHO細胞系である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、CHO細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、CHO-K1細胞、CHO-K1 SV細胞、DG44 CHO細胞、DUXB11 CHO細胞、CHOS、CHO GSノックアウト細胞、CHO FUT8 GSノックアウト細胞、CHOZN、又はCHO由来細胞である。CHO GSノックアウト細胞(例えば、GSKO細胞)は、例えば、CHO-K1 SV GSノックアウト細胞である。CHO FUT8ノックアウト細胞は、例えば、POTELLIGENT CHOK1 SV(Lonza Biologics,Inc.)である。真核細胞はまた、鳥類細胞、細胞系又は細胞株、例えばEBX細胞、EB14、EB24、EB26、EB66又はEBvl3などであり得る。
【0215】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、ヒト細胞である。いくつかの実施形態では、ヒト細胞は幹細胞である。幹細胞は、例えば、胚性幹細胞(ESC)、成体幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、組織特異的幹細胞(例えば、造血幹細胞)及び間葉系幹細胞(MSC)を含む多能性幹細胞であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、多能性幹細胞である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、人工多能性幹細胞である。いくつかの実施形態では、ヒト細胞は、本明細書に記載の細胞のいずれかの分化形態である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、培養下の任意の初代細胞に由来する細胞である。
【0216】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、ヒト肝細胞、動物肝細胞、又は非実質細胞などの肝細胞である。例えば、真核細胞は、付着型代謝試験用ヒト肝細胞、付着型誘導試験用ヒト肝細胞、付着型ヒト肝細胞、懸濁液試験用ヒト肝細胞(10ドナー及び20ドナープール肝細胞を含む)、ヒト肝クッパー細胞、ヒト肝星細胞、イヌ肝細胞(単一及びプールビーグル肝細胞を含む)、マウス肝細胞(CD-1及びC57BI/6肝細胞を含む)、ラット肝細胞(Sprague-Dawley、Wistar Han及びWistar肝細胞を含む)、サル肝細胞(カニクイザル又はアカゲザル肝細胞を含む)、ネコ肝細胞(ドメスティックショートヘア肝細胞を含む)、並びにウサギ肝細胞(ニュージーランドホワイト肝細胞を含む)であり得る。
【0217】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、造血細胞である。いくつかの実施形態では、造血細胞は、骨髄性前駆細胞である。いくつかの実施形態では、造血細胞は、リンパ球前駆細胞である。いくつかの実施形態では、造血細胞は、肥満細胞、巨核球、血小板、好塩基球、好中球、好酸球、樹状細胞、単球、又はマクロファージである。いくつかの実施形態では、造血細胞は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、Tリンパ球、又はBリンパ球である。いくつかの実施形態では、Tリンパ球又はBリンパ球がキメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0218】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、植物細胞である。例えば、植物細胞は、キャッサバ、トウモロコシ、モロコシ、コムギ又はイネなどの作物の細胞であり得る。植物細胞は、藻類、樹木又は野菜の細胞であり得る。植物細胞は、単子葉若しくは双子葉植物の細胞、又は作物若しくは穀類植物、生産植物、果実若しくは野菜の細胞であり得る。例えば、植物細胞は、樹木、例えば柑橘樹木、例えばオレンジ、グレープフルーツ又はレモン樹木;モモ又はネクタリン樹木;リンゴ又はナシ樹木;堅果樹木、例えばアーモンド又はクルミ又はピスタチオ樹木;ナス属の植物、例えばジャガイモ;ブラシカ属(Brassica)の植物、ラクツカ属(Lactuca)の植物、スピナシア属(Spinacia)の植物;カプシカム属(Capsicum)の植物;綿、タバコ、アスパラガス、ニンジン、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、トマト、ナス、コショウ、レタス、ホウレンソウ、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ブドウ、コーヒー、ココアなどの細胞であり得る。
【0219】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、前述の細胞のいずれかの組織培養物である。いくつかの実施形態では、真核細胞は、前述の細胞のいずれかの組織抽出物の形態である。
【0220】
いくつかの実施形態では、真核細胞は、ゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、真核細胞は、誘導性のゲノムに組み込まれたCasポリヌクレオチドを含む。
【0221】
送達系
CRISPR-Casシステムの送達に関する様々な方法が当該技術分野において知られている。好適な送達系としては、Casエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド、目的配列を含むポリヌクレオチド、及び/又はCasエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドのマイクロインジェクション、エレクトロポレーション、トランスフェクション、又は流体力学的送達が挙げられる。いくつかの実施形態では、送達系は、送達粒子を含む。ナノ粒子、細胞透過性ペプチド、及びDNAナノクルー(nanoclew)を含むこのような送達系の例は、Lino et al.,Drug Delivery,25(1):1234-1257(2018))に開示されている。
【0222】
いくつかの実施形態では、本開示のCasエフェクタータンパク質、Casエフェクタータンパク質をコードするポリヌクレオチド、目的配列をコードするポリヌクレオチド、及び/又はCasエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドを含むCRISPR-Casシステムは、送達粒子によって送達される。送達粒子は、粒子を含む生物学的送達系又は配合物である。本明細書に定義される「粒子」とは、約100ミクロン(μm)の最大直径を有する実体である。いくつかの実施形態では、粒子は、約10μmの最大直径を有する。いくつかの実施形態では、粒子は、約2000ナノメートル(nm)の最大直径を有する。いくつかの実施形態では、粒子は、約1000nmの最大直径を有する。いくつかの実施形態では、粒子は、約900nm、約800nm、約700nm、約600nm、約500nm、約400nm、約300nm、約200nm又は約100nmの最大直径を有する。いくつかの実施形態では、粒子は、約25nm~約200nmの直径を有する。いくつかの実施形態では、粒子は、約50nm~約150nmの直径を有する。いくつかの実施形態では、粒子は、約75nm~約100nmの直径を有する。
【0223】
送達粒子は、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない任意の形態で提供され得る:固体、半固体、エマルション又はコロイド粒子。いくつかの実施形態では、送達粒子は、脂質ベース系、リポソーム、ミセル、マイクロベシクル、エキソソーム又は遺伝子銃である。いくつかの実施形態では、送達粒子は、CRISPR-Casシステムを含む。いくつかの実施形態では、送達粒子は、組換えCasエフェクタータンパク質と、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができるポリヌクレオチドとを含み、前記ポリヌクレオチドはガイドポリヌクレオチドを含む、CRISPR-Casシステムを含む。いくつかの実施形態では、送達粒子は、Casエフェクタータンパク質、目的配列を含むポリヌクレオチド、及びCasエフェクタータンパク質と複合体を形成することができ、ガイドポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、送達粒子は、組換えCasエフェクタータンパク質と、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成し、ガイドポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドとを含み、組換えCasエフェクタータンパク質及びポリヌクレオチドは複合体を形成している、CRISPR-Casシステムを含む。いくつかの実施形態では、送達粒子は、組換えCasエフェクタータンパク質、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成し、ガイドポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、及びtracrRNAを含むポリヌクレオチドを含む、CRISPR-Casシステムを含む。いくつかの実施形態では、送達粒子は、Casエフェクタータンパク質、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成し、ガイドポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、及びtracrRNAを含む、CRISPR-Casシステムを含む。
【0224】
いくつかの実施形態では、本開示のCasエフェクタータンパク質とポリヌクレオチドとの複合体は、リボ核タンパク質(RNP)であり、前記RNPは流体力学的送達、ナノ粒子、ベシクル、細胞透過性ペプチド、又はDNAナノクルーによって送達される。
【0225】
いくつかの実施形態では、送達粒子は、脂質、糖、金属又はタンパク質をさらに含む。いくつかの実施形態では、送達粒子は、脂質エンベロープである。脂質エンベロープ又は脂質を含む送達粒子を用いたmRNAの送達は、例えば、Su et al.,Molecular Pharmacology 8(3):774-784(2011)に記載されている。いくつかの実施形態では、送達粒子は、糖ベース粒子、例えばGalNAcである。糖ベース粒子は、国際公開第2014/118272号パンフレット及びNair et al.,J Am Chem. Soc.136(49):16958-16961(2014)に記載されている。
【0226】
いくつかの実施形態では、送達粒子は、ナノ粒子である。本開示に包含されるナノ粒子は、様々な形態で、例えば固体ナノ粒子(例えば、銀、金、鉄、チタンなどの金属)、非金属、脂質ベース固体、ポリマー、ナノ粒子の懸濁液、又はこれらの組み合わせとして提供され得る。金属、誘電体及び半導体ナノ粒子、並びにハイブリッド構造(例えば、コア-シェルナノ粒子)を調製することができる。半導体材料製のナノ粒子はまた、それらが電子エネルギーレベルの量子化が生じるほど十分に小さい場合(典型的には10nm未満)、標識量子ドットであり得る。このようなナノスケール粒子は、生物医学用途において薬物担体又はイメージング剤として使用され、本開示における類似の目的に適合させることができる。
【0227】
送達粒子の調製は、米国特許出願公開第2011/0293703号明細書、同第2012/0251560号明細書及び同第2013/0302401号明細書、並びに米国特許第5,543,158号明細書、同第5,855,913号明細書、同第5,895,309号明細書、同第6,007,845号明細書及び同第8,709,843号明細書にさらに記載されている。
【0228】
いくつかの実施形態では、ベシクルは、本開示のCRISPR-Casシステムを含む。「ベシクル」は、脂質二重層により封入される流体を有する細胞内の小型構造体である。いくつかの実施形態では、本開示のCRISPR-Casシステムは、ベシクルにより送達される。いくつかの実施形態では、ベシクルは、組換えCasエフェクタータンパク質及びガイドポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ベシクルは、Casエフェクタータンパク質及びガイドポリヌクレオチドを含み、Casエフェクタータンパク質及びガイドポリヌクレオチドは、複合体を形成している。いくつかの実施形態では、ベシクルは、Casエフェクタータンパク質、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができ、ガイドポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、及びtracrRNAを含むポリヌクレオチドを含む、CRISPR-Casシステムを含む。いくつかの実施形態では、ベシクルは、Casエフェクタータンパク質、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができ、ガイドポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、及びtracrRNAを含む、CRISPR-Casシステムを含む。
【0229】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質、及びCasエフェクタータンパク質と複合体を形成することができ、ガイドポリヌクレオチドを含むベシクルは、エキソソーム又はリポソームである。いくつかの実施形態では、ベシクルは、エキソソームである。いくつかの実施形態では、エキソソームを使用して本開示のCRISPR-Casシステムを送達する。エキソソームは、RNA及びタンパク質を輸送し、RNAを脳及び他の標的器官に送達し得る内因性ナノベシクル(すなわち約30~約100nmの直径を有する)である。外因性生物材料を標的器官に送達するための改変エキソソームは、例えば、Alvarez-Erviti et al.,Nature Biotechnology 29:341(2011)、El-Andaloussi et al.,Nature Protocols 7:2112-2116(2012)、及びWahlgren et al.,Nucleic Acids Research 40(17):e130(2012)によって説明されている。
【0230】
いくつかの実施形態では、リポソームを使用して本開示のCRISPR-Casシステムを送達する。リポソームは、少なくとも1つの脂質二重層を有する球状ベシクル構造体であり、栄養及び医薬物の投与用ビヒクルとして使用することができる。リポソームは、リン脂質、特にホスファチジルコリンから構成されることが多いが、他の脂質、例えば卵ホスファチジルエタノールアミンからも構成される。リポソームの型としては、限定されるものではないが、マルチラメラベシクル、スモールユニラメラベシクル、ラージユニラメラベシクル及び渦巻き型ベシクルが挙げられる。例えば、Spuch and Navarro,Journal of Drug Delivery,Article ID 469679(2011)を参照されたい。生物材料、例えばCRISPR-Cas構成成分を送達するためのリポソームは、例えば、Morrissey et al.,Nature Biotechnology 23(8):1002-1007(2005)、Zimmerman et al.,Nature Letters 441:111-114(2006)及びLi et al.,Gene Therapy 19:775-780(2012)によって説明されている。
【0231】
いくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質がCasエフェクタータンパク質に融合した細胞透過性ペプチドを使用して送達することができる。
【0232】
いくつかの実施形態では、本開示のCasエフェクタータンパク質及びポリヌクレオチドは、DNAナノクルーの形態で送達することができる。DNAナノクルーは、Casエフェクタータンパク質などのペイロードを装填することができるDNAを含む球状構造体である(Sun et al.,J.Am.Chem. Soc.,136:14722-14725)。DNAナノクルーは、Cas9編集システムの送達のためにインビトロで使用されている(Lino et al.,Drug Delivery,25(1):1234-1257)。
【0233】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、本開示のCRISPR-Casシステムを含む。いくつかの実施形態では、本開示のCRISPR-Casシステムは、ウイルスベクターにより送達される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、組換えCas9及びガイドポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、Casエフェクタータンパク質及びガイドポリヌクレオチドを含み、Casエフェクタータンパク質及びガイドポリヌクレオチドは、複合体を形成している。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、Casエフェクタータンパク質、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができ、ガイドポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、及びtracrRNAを含むポリヌクレオチドを含む、CRISPR-Casシステムを含む。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、Casエフェクタータンパク質、Casエフェクタータンパク質と複合体を形成することができ、ガイドポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド、及びtracrRNAを含む、CRISPR-Casシステムを含む。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルスのベクターである。ウイルスベクターの例は、本明細書で提供される。
【0234】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、及び/又はアデノ随伴ウイルス(AAV)のベクターは、本明細書に記載のCRISPR-Casシステムのエレメントを含むウイルスベクターとして使用することができる。本開示のいくつかの実施形態では、Casエフェクタータンパク質は、ウイルスベクターにより形質導入された細胞により細胞内で発現される。
【0235】
いくつかの実施形態では、本開示のCasタンパク質及び方法は、エクスビボ遺伝子編集、例えばCAR-T型療法において使用される。これらの実施形態は、ヒトドナーからの細胞の修飾を含み得る。これらの例では、ウイルスベクターを使用することもできるが、Cas9タンパク質を(インビトロ転写ガイドRNA及びドナーDNAと共に)培養細胞中に直接トランスフェクトする追加の選択肢も存在する。
【0236】
マイクロホモロジー末端結合(MMEJ)経路の阻害剤
本明細書で使用される場合、MMEJ経路の阻害剤は、MMEJ経路の任意の成分の活性及び/又はレベルを阻害、拮抗、遮断、又は低下させる任意の化合物、分子、又は実体である。MMEJ阻害剤は、MMEJ経路の任意の成分の活性及び/又はレベルを阻害、拮抗、遮断、又は低下させる抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、可溶性タンパク質、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、又は小分子化合物であり得る。いくつかの実施形態では、MMEJ阻害剤は、FEN1(フラップエンドヌクレアーゼ1)、DNAリガーゼIII、MREII、NBS1(Nibrin、NBN)、XRCC1(X線修復交差補完タンパク質1)、PARP1(ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ1)、又はPolQ(DNAポリメラーゼθ)の活性及び/又はレベルを阻害、拮抗、遮断、又は低下させる。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、ノボビオシンである。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、PolQ阻害剤である。いくつかの実施形態では、PolQ阻害剤は、ART558(Zatreanu et al.,Nature Communications,12(1):3636(2021))である。いくつかの実施形態では、PolQ阻害剤は、
図3に示すように、PolQ1(国際公開第2020030925号パンフレットに記載)、PolQ2、PolQ3、PolQ4、PolQ5(全て、国際公開第2021028643号パンフレットに記載)、PolQ6、PolQ7(国際公開第2020243549号パンフレットに記載)、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0237】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、約0.01μM~約1mMの濃度で、真核細胞を含む組成物に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約0.75mM、約0.01μM~約0.5mM、約0.01μM~約0.25mM、約0.01μM~約0.1mM、約0.01μM~約75μM、約0.01μM~約50μM、約0.01μM~約25μM、約0.01~約25μM、約0.01~約20μM、約0.01μM~約15μM、約0.01μM~約10μM、又は約0.01μM~約1μMである。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1μM~約1mM、約1μM~約1mM、約10μM~約1mM、約15μM~約1M、約20μM~約1M、約25μM~約1mM、約50μM~約1mM、約75μM~約1mM、約0.1mM~約1mM、約0.25mM~約1mM、約0.5mM~約1mM、又は約0.75mM~約1mMである。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1μM~約1mM、0.1μM~約0.75mM、約0.1μM~約0.5mM、約0.1μM~約0.25mM、約0.1μM~約0.1mM、約0.1μM~約75μM、約0.1μM~約50μM、約0.1μM~約25μM、約0.1μM~約20μM、約0.1μM~約15μM、約0.1μM~約10μM、又は約0.1μM~約1μMである。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約1μM~約10μM、約1μM~約15μM、約1μM~約20μM、約1μM~約25μM、約1μM~約50μM、約1μM~約0.1mM、約1μM~約0.25mM、約1μM~約0.5mM、約1μM~約0.75mM、又は約1μM~約1mMである。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約100μM、約0.1μM~約90μM、約0.2μM~約80μM、約0.3μM~約70μM、約0.4μM~約60μM、約0.5μM~約50μM、約1μM~約50μM、約2μM~約45μM、約3μM~約40μM、約4μM~約35μM、約5μM~約30μM、約6μM~約25μM、約7μM~約20μM、又は約8μM~約15μMである。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約0.1μM、約0.01~約1μM、約0.05μM~約0.1μM、約0.5μM~約1μM、約0.5μM~約5μM、約0.5μM~約10μM、約0.1μM~約1μM、約0.1μM~約5μM、約0.1μM~約10μM、約1μM~約5μM、約1μM~約10μM、約1μM~約15μM、約1μM~約20μM、約1μM~約25μM、約1μM~約50μM、約5μM~約10μM、約5μM~約15μM、約5mM~約20mM、又は約5mM~約25mMである。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.7、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100μMである。
【0238】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約1μM、約0.1μM~約1μM、約0.1μM~約0.5μM、約0.1μM~約100μM、又は約1μM~約50μMである。
【0239】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約96時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約72時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約48時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約36時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約24時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約18時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約12時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約6時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約3時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約2時間前に、エフェクタータンパク質を添加する約0分~約1時間前に、又はCasエフェクタータンパク質を添加する約0分~約30分前に、真核細胞を含む組成物に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質を添加する約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100時間前に、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0240】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質を添加すると同時に、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0241】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約30分後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約1時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約3時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約6時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約12時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約18時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約24時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約36時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約48時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約72時間後に、又はCasエフェクタータンパク質の添加から約0分~約96時間後に、真核細胞を含む組成物に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質の添加から約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100時間後に、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0242】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物中に、約1~約300時間、約10~約200時間、約10~約100時間、約20~約80時間、約30~約70時間、約40~約時間存在する。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物中に、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、又は300時間存在する。
【0243】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物に、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10回以上添加される。
【0244】
非相同末端結合(NHEJ)経路の阻害剤
本明細書で使用される場合、NHEJ経路の阻害剤は、NHEJ経路の任意の成分の活性及び/又はレベルを阻害、拮抗、遮断、又は低下させる任意の化合物、分子、又は実体である。NHEJ阻害剤は、NHEJ経路の任意の成分の活性及び/又はレベルを阻害、拮抗、遮断、又は低下させる抗体若しくはその抗原結合断片、ペプチド、可溶性タンパク質、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、又は小分子化合物であり得る。いくつかの実施形態では、NHEJ経路は、Ku70、Ku80、DNAリガーゼIV、XLF(非相同末端結合因子1;XRCC4様因子)、又はDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の活性及び/又はレベルを阻害、拮抗、遮断、又は低下させる。いくつかの実施形態では、DNA-PKの阻害剤は、M3814、M9831/VX984、Nu7441、KU0060648、AZD7648、Nu5455、バニリン、ウォルトマンニン、又はこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、DNA-PK阻害剤は、AZD7648である。
【0245】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、約0.01μM~約1mMの濃度で、真核細胞を含む組成物に添加される。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約0.75mM、約0.01μM~約0.5mM、約0.01μM~約0.25mM、約0.01μM~約0.1mM、約0.01μM~約75μM、約0.01μM~約50μM、約0.01μM~約25μM、約0.01~約25μM、約0.01~約20μM、約0.01μM~約15μM、約0.01μM~約10μM、又は約0.01μM~約1μMである。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1μM~約1mM、約1μM~約1mM、約10μM~約1mM、約15μM~約1M、約20μM~約1M、約25μM~約1mM、約50μM~約1mM、約75μM~約1mM、約0.1mM~約1mM、約0.25mM~約1mM、約0.5mM~約1mM、又は約0.75mM~約1mMである。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1μM~約1mM、0.1μM~約0.75mM、約0.1μM~約0.5mM、約0.1μM~約0.25mM、約0.1μM~約0.1mM、約0.1μM~約75μM、約0.1μM~約50μM、約0.1μM~約25μM、約0.1μM~約20μM、約0.1μM~約15μM、約0.1μM~約10μM、又は約0.1μM~約1μMである。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約1μM~約10μM、約1μM~約15μM、約1μM~約20μM、約1μM~約25μM、約1μM~約50μM、約1μM~約0.1mM、約1μM~約0.25mM、約1μM~約0.5mM、約1μM~約0.75mM、又は約1μM~約1mMである。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約100μM、約0.1μM~約90μM、約0.2μM~約80μM、約0.3μM~約70μM、約0.4μM~約60μM、約0.5μM~約50μM、約1μM~約50μM、約2μM~約45μM、約3μM~約40μM、約4μM~約35μM、約5μM~約30μM、約6μM~約25μM、約7μM~約20μM、又は約8μM~約15μMである。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約0.1μM、約0.01~約1μM、約0.05μM~約0.1μM、約0.5μM~約1μM、約0.5μM~約5μM、約0.5μM~約10μM、約0.1μM~約1μM、約0.1μM~約5μM、約0.1μM~約10μM、約1μM~約5μM、約1μM~約10μM、約1μM~約15μM、約1μM~約20μM、約1μM~約25μM、約1μM~約50μM、約5μM~約10μM、約5μM~約15μM、約5mM~約20mM、又は約5mM~約25mMである。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.7、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100μMである。
【0246】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤の濃度は、約0.01μM~約1μM、約0.1μM~約1μM、約0.1μM~約0.5μM、約0.1μM~約100μM、又は約1μM~約50μMである。
【0247】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約96時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約72時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約48時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約36時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約24時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約18時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約12時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約6時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約3時間前に、Casエフェクタータンパク質を添加する約0分~約2時間前に、エフェクタータンパク質を添加する約0分~約1時間前に、又はCasエフェクタータンパク質を添加する約0分~約30分前に、真核細胞を含む組成物に添加される。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質を添加する約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100時間前に、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0248】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質を添加すると同時に、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0249】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約30分後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約1時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約3時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約6時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約12時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約18時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約24時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約36時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約48時間後に、Casエフェクタータンパク質の添加から約0分~約72時間後に、又はCasエフェクタータンパク質の添加から約0分~約96時間後に、真核細胞を含む組成物に添加される。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質の添加から約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100時間後に、真核細胞を含む組成物に添加される。
【0250】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物中に、約1~約300時間、約10~約200時間、約10~約100時間、約20~約80時間、約30~約70時間、約40~約時間存在する。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物中に、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、又は300時間存在する。
【0251】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物に、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10回以上添加される。
【0252】
いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤は,MMEJ経路の阻害剤が真核細胞を含む組成物に添加される前、MMEJ経路の阻害剤が組成物に添加された後に、真核細胞を含む組成物に添加される。いくつかの実施形態では、NHEJ経路の阻害剤及びMMEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物に同時に添加される。
【0253】
いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤及びNHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物に、Casエフェクタータンパク質が添加される前に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤及びNHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物へ、Casエフェクタータンパク質が添加された後に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤及びNHEJ経路の阻害剤は、真核細胞を含む組成物へ、Casエフェクタータンパク質が添加されると同時に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質が添加される前に、真核細胞を含む組成物に添加され、NHEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質が添加された後に添加される。いくつかの実施形態では、MMEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質が添加された後に、真核細胞を含む組成物に添加され、NHEJ経路の阻害剤は、Casエフェクタータンパク質が添加される前に添加される。
【0254】
本明細書に引用される全ての参考文献、例えば、特許、特許出願、論文、教科書など、及びこれらに引用される参考文献は、それらが既に引用されていない限り、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0255】
実施例1-二本鎖切断修復経路に対するMMEJ及びNHEJ阻害剤の効果。
CRISPR-Cas誘導DNA二本鎖切断修復経路に対するMMEJ及びNHEJ経路の阻害剤の効果を、
図2Aに概略的に示すプロセスを用いて調べた。簡潔に記載すると、一本鎖オリゴヌクレオチドドナー(ssDNA)と共にSpCas9をコードするプラスミド及びCD34を標的とするガイドRNA(sgRNA)をトランスフェクトする20時間前に、HEK293T細胞を96ウェルプレートに播種した。トランスフェクトの3時間前に、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)阻害剤AZD7648(NHEJ阻害剤)(最終濃度1μM)の単独と
図4に示す濃度の6種の異なるPol Q阻害剤(MMEJ阻害剤)との組み合わせで、細胞を処理した。使用したPol Q阻害剤は、PolQ_2、PolQ_3、PolQ_4、PolQ_5、PolQ_6又はPolQ_7である。トランスフェクションの60時間後、ゲノムDNAを回収し、ディープターゲットアンプリコンシーケンスを用いて配列を決定した。配列決定データの遺伝的バリアントをバイオインフォマティクスワークフローを用いて決定し、MMEJ、NHEJ、及びHDR経路によるDNA二本鎖切断修復のパーセンテージを、理論的インデルメタ解析(RIMA)を用いて決定した。例えば、Taheri-Ghafarokhi et al,Nuc. Acids Res.,2018,46(16):8417-8434を参照されたい。RIMAの結果を
図2Bに示すようにプロットし、マイクロホモロジーに関連する欠失を、図に示すバーに従って可視化する。
【0256】
これらの実験の結果を
図4に示す。MMEJ又はNHEJ阻害剤で処理されていないトランスフェクト細胞(DMSO処理対照)では、二本鎖切断の約20%がHDR経路によって修復され、NHEJ及びMMEJ経路は二本鎖切断修復の約40%を担っていた。対照的に、NHEJ阻害剤(AZD7648)単独又はMMEJ阻害剤(Pol Q 2-7)との組み合わせで処理したトランスフェクト細胞は、HDR経路による二本鎖切断修復の顕著な増加を示し、MMEJ及びNHEJ経路による修復は減少した。トランスフェクト細胞をNHEJ阻害剤及びMMEJ阻害剤の両方で処理すると、大部分の二本鎖切断がHDR経路を介して修復され、いくつかの例では、二本鎖切断修復のほぼ全てがHDR経路を介したものであった。
【0257】
CRISPR/Cas編集効率に対する様々な阻害剤の効果を実証するために、HEK293T細胞を、DNA-PK阻害剤AZD7648(1μM)の単独と、示したPol Q阻害剤との組み合わせで処理した後、CRISPR/Cas9媒介遺伝子ターゲティングを行った。
図5に示すように、これらの実験で使用したNHEJ阻害剤とほとんどの濃度のMMEJ阻害剤は、CRISPR/Cas媒介編集効率に影響を及ぼさなかった。これらの研究は、CRISRP/Cas-遺伝子ターゲティングと組み合わせたNHEJ及び/又はMMEJ経路の阻害が、より正確なHDR経路によるDNA二本鎖切断修復をもたらし、よりエラープローンなMMEJ及びNHEJ経路の寄与を最小限にすることを示している。
【0258】
実施例2-CRISPR/Cas媒介ノックイン効率に対するMMEJ及びNHEJ阻害剤の効果。
CRISPR/Cas媒介ノックイン効率に対するNHEJ及びMMEJ阻害剤の効果を、変異リード及びマッピングリードの両方で決定した。簡潔に記載すると、実施例1に記載のプロトコルに従って、HEK293T細胞を培養し、トランスフェクトし、次いで、NHEJ阻害剤(AZD7648)の単独とMMEJ阻害剤(Pol Q1~7)との組み合わせで処理し、続いて、ゲノムDNAを単離し、その後、変異リード及びマッピングリードの両方でノックイン効率を分析した。NHEJ及びMMEJ経路の阻害は、変異(
図6)及びマッピング(
図7)リードの両方を評価した場合、DMSOで処理した対照と比較してノックイン事象が約3倍増加した。MMEJ経路の阻害をNHEJ経路の阻害と組み合わせたことにより、総細胞集団でノックイン効率が最大4.5倍、CRISPR/Cas編集細胞で最大5.9倍増加した。
【0259】
実施例3-変異リード及びマッピングリードに対するMMEJ阻害の効果。
HEK293T細胞を培養し、トランスフェクトし、DNA-PK阻害剤AZD7648(1μM)の単独と示したPol Q阻害剤との組み合わせで処理し、続いてCRISPR/Cas9媒介遺伝子ノックインを行った。変異リード及びマッピングリードに対するMMEJ経路阻害の効果を評価した。CRISPR/Cas編集細胞のMMEJ阻害剤による処理により、MMEJ変異リード(
図8)及びMMEJマッピングリード(
図9)が用量依存的に減少した。
【0260】
実施例4-NHEJ及びMMEJ経路の阻害は、CRISPR/Casトランスフェクト細胞における細胞コンフルエンス及びトランスフェクション効率に影響しない。
実施例1に記載のように、HEK293T細胞を培養し、トランスフェクトし、NHEJ阻害剤及びMMEJ阻害剤で処理した。NHEJ及びMMEJ阻害剤で処理したトランスフェクト細胞において、細胞コンフルエンス及びトランスフェクション効率を評価した。
図10に示すように、トランスフェクト細胞を最終濃度1mMのNHEJ阻害剤(AZD7648)により処理しても、細胞コンフルエンスに有意な影響を及ぼすことはなかった。トランスフェクト細胞を、示したPol Q阻害剤と組み合わせてNHEJ阻害剤で処理しても、PolQ_1、PolQ_5、及びPolQ_7の最高濃度を除いて、細胞コンフルエンスに影響を及ぼさなかった。同様に、
図11に示すように、トランスフェクトする前に1μMのNHEJ阻害剤(AZD7648)で細胞を処理しても、トランスフェクション効率に有意な影響はなかった。そのトランスフェクト細胞を、トランスフェクトする前に、示したPol Q阻害剤と組み合わせてNHEJ阻害剤で処理しても、PolQ_1及びPolQ_7の最高濃度を除いてトランスフェクション効率に影響はなかった。
【0261】
実施例5-人工多能性幹細胞(iPSC)における二本鎖切断修復経路に対するNHEJ及びMMEJ阻害剤の効果。
iPSCにおけるCRISPR-Cas誘導DNA二本鎖切断修復経路に対するNHEJ及び/又はMMEJ経路阻害の効果を調べた。簡潔に記載すると、誘導性Cas9遺伝子を含むiPSCを96ウェルプレートに播種し、20時間後、3つの別々の標的部位のうちの1つを標的とするガイドRNA(sgRNA)をコードするプラスミドを、一本鎖オリゴヌクレオチドドナー(ssDNA)と共にトランスフェクトし、続いてCas9発現を誘導した。トランスフェクション及びCas9発現誘導の3時間前に、iPSCを、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)阻害剤AZD7648(最終濃度1μM)の単独と、3μMのPolQ2又はPolQ6との組み合わせで処理した。トランスフェクションの60時間後、HDR、NHEJ、及びMMEJ経路による二本鎖切断修復のパーセンテージを、実施例1で説明したように決定した。
【0262】
これらの実験の結果を
図12に示す。MMEJ又はNHEJ阻害剤で処理されていないトランスフェクト細胞(DMSO処理対照)では、二本鎖切断のHDR経路による修復は10%未満である、NHEJ及びMMEJ経路は二本鎖切断修復の約70%を担っていた。対照的に、NHEJ阻害剤(AZD7648)単独又はMMEJ阻害剤(Pol Q 2又はPol Q 6)との組み合わせで処理したトランスフェクト細胞は、HDR経路による二本鎖切断修復の顕著な増加を示し、MMEJ及びNHEJ経路による修復は減少した。NHEJ阻害剤及びMMEJ阻害剤との組み合わせ処理により、HDR媒介修復はさらに大きく増加し、それに対応してNHEJ媒介修復及びMMEJ媒介修復は減少した。
【0263】
実施例6-iPSCにおける一本鎖鋳型修復(SSTR)遺伝子挿入に対するNHEJ及びMMEJ阻害剤の効果。
iPSCにおけるSSTR経路によって媒介される遺伝子ノックイン効率に対するNHEJ及びMMEJ経路阻害の効果を調べた。簡潔に記載すると、実施例5に記載のように、Cas9誘導性iPSCを培養し、sgRNA及びssDNAポリヌクレオチドをトランスフェクトした。
図13に示すように、NHEJ又はMMEJ阻害剤で処理されていないトランスフェクト細胞(DMSO処理対照)では、3つの別々の標的部位での遺伝子ノックインマッピングリードにおけるSSTR経路の寄与は、5%未満であった。NHEJ阻害剤AZD7648の添加により、3つ全ての標的部位でSSTR媒介遺伝子ノックインが増加した。同様に、MMEJ阻害剤PolQ2又はPolQ6の添加によっても、3つ全ての標的部位でSSTR媒介遺伝子ノックインが増加した。NHEJ阻害剤とMMEJ阻害剤を組み合わせて添加した場合には、3つ全ての標的部位でSSTR媒介遺伝子ノックインが大きく増加した。
【0264】
実施例7-初代ヒトT細胞における遺伝子挿入に対するNHEJ及びMMEJ阻害剤の効果。
ヒト初代T細胞における遺伝子挿入に対するNHEJ及びMMEJ経路阻害の効果を調べた。簡潔に記載すると、ヒトT細胞を、NHEJ阻害剤AZD7648(1μM)を単独で、又はMMEJ阻害剤PolQ2若しくはPolQ6(3μM)と組み合わせて処理した。3時間後、細胞を、Cas9及びTRACを標的とするsgRNAを含むリボ核タンパク質(RNP)、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするポリヌクレオチドでトランスフェクトした。トランスフェクションの60時間後、実施例1に記載のように、GFPノックイン効率を測定した。
【0265】
これらの実験の結果を
図14A~Cに示す。初代T細胞のトランスフェクションとNHEJ及びMMEJ阻害剤による処理は、細胞生存率に影響を及ぼさず(
図14A)、細胞数に中程度の減少をもたらした(
図14B)。NHEJ阻害剤でもMMEJ阻害剤でも処理されなかったトランスフェクト初代ヒトT細胞は、約5%のGFPノックイン効率を示した。しかし、NHEJ阻害剤による処理では、単独でもMMEJ阻害剤との組み合わせでも、GFPノックイン効率は有意に増加した(
図14C)。ノックイン効率は、特に、NHEJ及びMMEJ経路の組み合わせ阻害によって大きく増強された。
【0266】
実施例8-正確な遺伝子編集結果に対する種々のDNAPK阻害剤の効果
HEK293T細胞を、培地を含み、以下の条件を含む96ウェルプレートに播種した: a)DMSO b)0.3125、0.625、1.25、2.5、10μMのDNAPK阻害剤TLR1(ISAC: (4-フルオロ-3-(7-モルホリノキナゾリン-4-イル)フェニル)(3-メチラジン-2-イル)メタノール surechembl: SCHEMBL16235486) c)0.3125、0.625、1.25、2.5、10μM DNAPK阻害剤TLR2(ISAC: 5-メチル-2-((7-メチル-[1,2,4]トリアゾロ[1,5-a]ピリジン-6-イル)アミノ)-8-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン ;MedChem ELN: ELNC025305144) d)0.3125、0.625、1.25、2.5、10μM DNAPK阻害剤 M9831/VX-984 e)0.3125、0.625、1.25、2.5、10μM DNAPK阻害剤 AZD7648。細胞をトランスフェクションの12時間前に付着させた。一本鎖オリゴヌクレオチドドナー(ssDNA)の存在下、SpCas9-EGFPをコードするDNAプラスミド及びCD34(gINS)を標的とするsgRNAで細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの70時間後、細胞コンフルエンス及びEGFPに基づくトランスフェクション効率をIncucyte S3を用いて決定した。ゲノムDNAを抽出し、編集結果を、バイオインフォマティクス解析を用い、ディープターゲットアンプリコンシーケンスにより解析した。
【0267】
以下の表2のデータに示されるように、試験した全てのDNAPK阻害剤は、提供された一本鎖オリゴヌクレオチドドナーの正確なノックイン頻度を増加させ、NHEJからの不正確なDNA修復事象を減少させ、それは濃度依存的であり、同様の効率を有した。
【0268】
【0269】
実施例9-様々な標的部位での正確な遺伝子編集結果に対するPolQ阻害剤のPolQ2及びPolQ6の効果
PolQ2及びPolQ6が異なるゲノム遺伝子座での正確な遺伝子編集を増加させるかどうかを評価するために、以下の実験において特定した条件を使用して、阻害剤を種々のsgRNAで試験した。
【0270】
HEK293T細胞を96ウェルプレートに播種し、20時間付着させた。トランスフェクションの2時間前に、細胞を以下の条件を含む阻害剤処理に供した: a)DMSO対照 b)1μM DNAPK阻害剤AZD7648 c)3μM PolQ阻害剤(PolQ2)と組み合わせた1μM DNAPK阻害剤AZD7648 d)3μM PolQ阻害剤(PolQ6)と組み合わせた1μM DNAPK阻害剤AZD7648。一本鎖オリゴヌクレオチドドナー(ssDNA)の存在下、SpCas9-EGFPをコードするDNAプラスミド、並びにCD34(gMEJ、gINS)及びSTAT1(gDel)を標的とするsgRNAで細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの70時間後、細胞コンフルエンス及びEGFPに基づくトランスフェクション効率をIncucyte S3を用いて決定した。ゲノムDNAを抽出し、編集結果を、バイオインフォマティクス解析を用い、ディープターゲットアンプリコンシーケンスにより解析した。
【0271】
以下の表3に示すように、両PolQ阻害剤、PolQ2及びPolQ6は、DNAPK阻害細胞において、試験した全ての標的部位で、提供された一本鎖オリゴヌクレオチドドナーの正確なノックイン頻度を増加させる。さらに、試験した阻害剤の組み合わせは、不正確なDNA修復事象を減少させる。
【0272】
【0273】
実施例10-正確な遺伝子編集結果に対するPolQ阻害剤ART558の効果
正確な遺伝子編集に対するPolQ阻害剤ART558の効力を試験するために、この阻害剤を、以下の実験で特定した条件を使用して滴定した。
【0274】
HEK293T細胞を96ウェルプレートに播種し、20時間付着させた。トランスフェクションの2時間前に、細胞を以下の条件を含む阻害剤処理に供した: a)1μM DNAPK阻害剤AZD7648 b)0.1、0.3、1、3 10μM PolQ阻害剤(ART558)と組み合わせた1μM DNAPK阻害剤AZD7648。一本鎖オリゴヌクレオチドドナー(ssDNA)の存在下、SpCas9-EGFPをコードするDNAプラスミド、及びCD34(gMEJ)を標的とするsgRNAで細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの70時間後、細胞コンフルエンス及びEGFPに基づくトランスフェクション効率をIncucyte S3を用いて決定した。ゲノムDNAを抽出し、編集結果を、Crispresso2バイオインフォマティクス解析を用い、ディープターゲットアンプリコンシーケンスにより解析した。以下の表4に示すように、ART558は、提供された一本鎖オリゴヌクレオチドドナーの正確なノックイン頻度を濃度依存的に増加させ、阻害剤濃度の増加とともに不正確なDNA修復事象を減少させる。
【0275】
【0276】
実施例11-2つの機能的酵素ドメインを標的とするPolQ阻害剤による組み合わせ処理
DNA二本鎖切断時にゲノムの完全性を維持するために、細胞は、切断されたDNA末端を修復するための異なる機構を発達させた。非相同末端結合(NHEJ)及び相同組換え(HR)に加えて、細胞は、エラープローンなマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)DNA修復経路を進化させた。DNAポリメラーゼシータ(PolQ)は、MMEJ修復を媒介する重要な酵素である。PolQマルチドメイン酵素は、N末端ヘリカーゼ様機能、非構造中心ドメイン、及びC末端ポリメラーゼドメインを含む。両方の機能的タンパク質単位はPolQ媒介DNA修復に関与し、ドメイン特異的阻害剤を用いて阻害することができる。この実験は、両方の機能的PolQドメインの同時阻害が個々のドメインの標的化と比較して、遺伝子編集結果に対する効果を増強するかどうかという問題に対処するものである。
【0277】
HEK293T細胞を96ウェルプレートに播種し、20時間付着させた。トランスフェクションの2時間前に、細胞を以下の条件を含む阻害剤処理に供した: a)DMSO対照、b)1μM及び2μMのポリメラーゼドメイン標的化PolQ阻害剤(PolQ2)と組み合わせた1μM DNAPK阻害剤AZD7648、c)1μM及び2μMのヘリカーゼドメイン標的化PolQ阻害剤(PolQ6)と組み合わせた1μM DNAPK阻害剤AZD7648、さらにd)0.5μM ポリメラーゼ-及びヘリカーゼドメイン標的化PolQ阻害剤(PolQ2及びPolQ6)、並びに1μM ポリメラーゼ-及びヘリカーゼドメイン標的化PolQ阻害剤(PolQ2及びPolQ6)と組み合わせた、1μM DNAPK阻害剤AZD7648。一本鎖オリゴヌクレオチドドナー(ssDNA)と共に、SpCas9-EGFPをコードするDNAプラスミド及びCD34を標的とするsgRNA(gMEJ)で細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの70時間後、細胞コンフルエンス及びEGFPに基づくトランスフェクション効率をIncucyte S3を用いて決定した。ゲノムDNAを抽出し、編集結果を、KIバイオインフォマティクス解析のためのRIMAを用い、ディープターゲットアンプリコンシーケンスにより解析した。
【0278】
表5に示すデータによって示すように、両方の機能的PolQドメインを標的とする組み合わせPolQ阻害剤による処理は、同じ濃度で1つの機能的酵素ドメインのみを標的とする個々のPolQ阻害剤と比較した場合、標的とされたノックインの大幅な増加、及びそれに付随した不正確なDNA修復産物の大幅な減少を示す。
【0279】
【0280】
実施例12-DNAPK及びPolQ阻害剤の存在下でのオフターゲット編集の評価
オフターゲット編集において確立されたHEK3及びHEK4のオンターゲット部位及びオフターゲット部位に対するDNAPK/PolQ阻害剤組み合わせの効果を試験するために、以下の実験において分析した。
【0281】
HEK293T細胞を96ウェルプレートに播種し、20時間付着させた。トランスフェクションの2時間前に、細胞を以下の条件を含む阻害剤処理に供した: a)DMSO対照、b)1μM DNAPK阻害剤AZD7648 c)3μM ポリメラーゼドメイン標的化PolQ阻害剤(PolQ2)と組み合わせた1μM DNAPK阻害剤AZD7648、及びd)3μM ヘリカーゼドメイン標的化PolQ阻害剤(PolQ6)と組み合わせた1μM DNAPK阻害剤AZD7648。一本鎖オリゴヌクレオチドドナー(ssDNA)の非存在下及び存在下にて、SpCas9-EGFPをコードするDNAプラスミドと、確立されたHEK3及びHEK4オフターゲット部位を標的とするsgRNAとで細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの70時間後、細胞コンフルエンス及びEGFPに基づくトランスフェクション効率をIncucyte S3を用いて決定した。ゲノムDNAを抽出し、編集結果を、Crispresso2バイオインフォマティクス解析を用い、ディープターゲットアンプリコンシーケンスにより解析した。
【0282】
以下の表6に示すように、DNAPK阻害剤を用いたオン-及びオフ-標的編集の減少、その効果は、DNAPK阻害剤をPolQ阻害剤と組み合わせた場合により一層顕著である。一本鎖オリゴヌクレオチドドナーが存在した場合、DNAドナー試料なしと比較して、オン-及びオフ-標的編集が約20%低減する。DNAPK及びPolQ阻害剤の存在下でのオンターゲット編集の減少は、一本鎖オリゴヌクレオチドドナーの存在下で部分的に回復するが、オフターゲットは減少する。
【0283】
【配列表】
【国際調査報告】