(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ポリイミド粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519395
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 KR2022014793
(87)【国際公開番号】W WO2023055186
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0130022
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0148544
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ソク・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ホ・スン・イ
(72)【発明者】
【氏名】イク・サン・イ
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA04
4J043PA05
4J043PA08
4J043PB08
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4J043ZB11
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4J043ZB55
(57)【要約】
本発明は、ポリイミド粉末及びその製造方法に関し、本発明によるポリイミド粉末及びその製造方法は、製造工程を簡略化して工程効率を高めることができ、ポリイミドを粉末状に製造することにより成形が容易であり、ポリイミドの析出温度が低く、固有粘度が高く加工が容易であり、粒子の大きさが均一で加工性に優れた効果がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアンヒドリドモノマー成分及びジアミンモノマー成分を溶媒で反応させる重合段階、
重合段階で生成された反応液に触媒を投入し、イミド化してポリイミド粉末を析出するイミド化段階を含む、ポリイミド粉末の製造方法。
【請求項2】
触媒は、第3級アミンである、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項3】
触媒は、ジアミンモノマー成分100モル部を基準にして0.1~500モル部で含まれる、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項4】
重合段階は、
溶媒を加熱する段階と、
加熱された溶媒にジアミンモノマー成分を溶解する段階と、
ジアミンが溶解した溶液にジアンヒドリドモノマー成分を反応させる段階と、を含む、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項5】
溶媒を加熱する段階は、50~100℃の温度で行われる、請求項4に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項6】
加熱された溶媒にジアミンモノマー成分を溶解する段階は、50~100℃の温度で1~60分間行われる、請求項4に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項7】
ジアミンが溶解した溶媒にジアンヒドリドモノマー成分を反応させる段階は、50~100℃の温度で1~6時間行われる、請求項4に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項8】
ジアミンが溶解した溶媒にジアンヒドリドモノマー成分を反応させる段階は、ジアンヒドリドモノマー成分を0.01mol/s~10mol/sの速度で投入する、請求項4に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項9】
溶媒は、少なくとも1つの窒素元素を含む第1の溶媒及び少なくとも1つのヒドロキシ基(-OH)を有する第2の溶媒を含む複合溶媒であり、
第1の溶媒の沸点と第2の溶媒の沸点の差が10℃以下である、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項10】
イミド化段階は、150~300℃の温度で1~10時間行う、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項11】
ジアンヒドリドモノマーは、ピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(a-BPDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(BTDA)、オキシジフタリックジアンヒドリド(ODPA)、4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタリックアンヒドリド(6-FDA)及びp-フェニレンビス(トリメリテートアンヒドリド)(TAHQ)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項12】
ジアミンモノマーは、1,4-ジアミノベンゼン(PPD)、1,3-ジアミノベンゼン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA),4,4’-メチレンジアミン(MDA)、4,4-ジアミノベンズアニリド(4,4-DABA),N,N-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジカルボキサミド(BPTPA)、2,2-ジメチルベンジジン(M-TOLIDINE)、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)、1,4-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-Q)、ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(BAPP)及び2,2-ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法で製造されたポリイミド粉末。
【請求項14】
ポリイミド粉末の固有粘度は、0.9dl/g以上である、請求項13に記載のポリイミド成形品。
【請求項15】
ポリイミド粉末のD
50は、150μm以下である、請求項13に記載のポリイミド粉末。
【請求項16】
請求項13に記載のポリイミド粉末を含むポリイミド成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリイミド(polyimide,PI)は、ジアンヒドリドとジアミン又はジイソシアネートを溶液重合して形成されたイミドモノマーの重合体であって、イミド環の化学的安定性に基づいて優れた強度、耐化学性、耐候性及び耐熱性などの機械的特性を有する。また、ポリイミドは絶縁特性、低誘電率などの優れた電気的特性により電子、通信及び光学などの広範囲な産業分野に適用可能な高機能性高分子材料として脚光を浴びている。
【0003】
ただし、ポリイミドは高い耐熱性及び耐化学性のため、一般的な高分子樹脂で使用する熱による溶融方式で成形品を製造することが困難である。したがって、一般にジアンヒドリドとジアミンを溶媒で反応させて前駆体であるポリアミック酸(polyamic acid)を先ず合成し、これを用途に合わせて分散や塗布後にイミド化する方式で使用している。しかし、このような一般的な方法は、ポリアミック酸製造段階とポリアミック酸のイミド化段階の2段階の反応で工程が進行するため複雑であり、イミド化段階において300℃以上の高い温度を必要とし、高分子量のポリイミドを得にくいという問題がある。
【0004】
これを解決するための方法として、前駆体であるポリアミック酸を溶媒存在下で反応して加熱を通じてポリイミド粉末に析出させる合成方法が知られている。ただし、この方法は、ポリイミド粉末の析出温度が依然として高く、この方法で製造されたポリイミド粉末は低い固有粘度を有し、粒子サイズが不均一で成形時に頻繁に不良が発生し、加工性が低下するという問題点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような従来技術の問題点と技術的課題を解決することを目的とする。本発明は、ポリイミドを粉末状に製造することにより成形が容易であり、ポリイミドの析出温度が低く、固有粘度が高く加工が容易であり、粒子サイズが均一で加工性に優れたポリイミド粉末及びポリイミド粉末の製造方法を提供しうる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリイミド粉末及びポリイミド粉末の製造方法に関する。前記ポリイミド粉末の製造方法は、ジアンヒドリドモノマー成分、ジアミンモノマー成分及び触媒を溶媒に反応させた後、これを加熱することによりポリイミド粉末を析出する。
【0007】
具体的には、本発明によるポリイミド粉末の製造方法は、ジアンヒドリドモノマー成分及びジアミンモノマー成分を溶媒に溶解させて反応を進行する重合段階、及び重合段階で生成された反応液に触媒を投入し、イミド化してポリイミド粉末を析出するイミド化段階を含むポリイミド粉末の製造方法を提供する。
【0008】
前記ジアンヒドリドモノマーは、ジアミンモノマーと反応してポリイミドを形成できるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、本発明によるジアンヒドリドモノマーは、ピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(a-BPDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(BTDA)、オキシジフタリックジアンヒドリド(ODPA)、4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタリックアンヒドリド(6-FDA)及びp-フェニレンビス(トリメリテートアンヒドリド)(TAHQ)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0009】
前記ジアンヒドリドモノマーは、例えば、ピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)、オキシジフタリックジアンヒドリド(ODPA)またはそれらの混合物であってもよい。このとき、ジアンヒドリドモノマーにおいてピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)及びオキシジフタリックジアンヒドリド(ODPA)のモル比は、9:1~1:9であってもよく、例えば、ピロメリティックジアンヒドライド(PMDA)及びオキシジフタリックジアンヒドリド(ODPA)のモル比は、9:1~7:3であってもよい。前記ジアンヒドリドモノマーは、耐熱性及び柔軟性の観点から適切な成分を選択的に使用してもよい。また、剛性の芳香環からなるピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)の一部をヘテロ元素を含むジアンヒドリドモノマー、例えば、オキシジフタリックジアンヒドリド(ODPA)などを混合する場合、ポリイミド粉末の析出温度を下げ、色を明るくすることができる。
【0010】
前記ジアミンモノマーは、ジアンヒドリドモノマーと反応してポリアミック酸を形成できるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、本発明によるジアミンモノマーは、1,4-ジアミノベンゼン(PPD)、1,3-ジアミノベンゼン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA),4,4’-メチレンジアミン(MDA)、4,4-ジアミノベンズアニリド(4,4-DABA),N,N-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジカルボキサミド(BPTPA)、2,2-ジメチルベンジジン(M-TOLIDINE)、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)、1,4-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-Q)、ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(BAPP)及び2,2-ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0011】
前記ジアミンモノマーは、モノマー内にヘテロ元素を含むことにより芳香族の電子分布を非偏在化させ、これによって明るさを改善することができ、例えば、前記ジアミンモノマーは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)であってもよい。
【0012】
前記触媒は、第3級アミンである。一般にポリアミック酸を経由するポリイミドの製造方法において、アミンはポリアミック酸をイミド化するために使用され、具体的には、前記アミン触媒は脱水反応を促進してポリアミック酸の閉環反応を通じてポリイミドを生成しうる。ただし、ポリイミド粉末を製造する工程において第3級アミンを使用する方法は報告されていないが、本発明者らは、ポリイミド粉末の製造方法において第3級アミンを使用することによりポリイミド粉末の析出温度を下げることができる効果を見出した。また、前記触媒を使用して製造されたポリイミド粉末は、高い固有粘度を有することにより成形時の加工が容易であり、クラックの発生が著しく低下し、収率を向上させることができる。
【0013】
具体的には、前記触媒はピリジン、βピコリン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、トリエチルアミン(TEA)、イソキノリンまたはそれらの混合物であってもよい。特に、第3級アミンが非共有電子対を含む場合、ポリイミド粉末の析出温度を下げたり、固有粘度を上昇させる効果がより優れている。例えば、前記触媒はピリジン、β-ピコリンまたはイソキノリンであってもよい。
【0014】
前記触媒は、ジアミンモノマー成分100モル部を基準にして0.1~500モル部で含まれてもよい。例えば、前記触媒は、ジアミンモノマーに対して0.1モル部以上、0.5モル部以上、1モル部以上、5モル部以上、10モル部以上、50モル部以上または100モル部以上であってもよく、上限は特に制限されないが、400モル部以下、300モル部以下または200モル部以下であってもよい。触媒量が前記範囲より少ないと、ポリイミド粉末の析出温度を下げる効果及び固有粘度を高める効果が期待できず、前記範囲を超える場合、触媒による前記効果の変化率が少なくなり、コストの上昇を招く。前記範囲を満たす場合、ポリイミド粉末の物性を低下させることなく固有粘度を高め、ポリイミド析出温度を下げることができる。
【0015】
前記溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホラミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、フェノール、p-クロロフェノール、2-クロロ-4-ヒドロキシトルエン、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ジオキサン、γ-ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、ジブロモメタン、トリブロモメタン、1,2-ジブロモエタンまたは1,1,2-トリブロモエタンなどを単独または混合して使用してもよい。
【0016】
前記溶媒は、前記触媒との相溶性及びポリイミド析出温度を下げる観点から、少なくとも1つの窒素元素を含む溶媒が好ましく、例えば、本発明に好適な溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、キシレンまたはm-クレゾールを単独または混合して使用してもよい。
【0017】
また、本発明による溶媒は、少なくとも1つの窒素元素を含む第1の溶媒及び少なくとも1つのヒドロキシ基(-OH)を有する第2の溶媒を含む複合溶媒であってもよく、例えば、前記第1の溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)であり、第2の溶媒は、m-クレゾールであってもよい。
【0018】
このとき、前記第1の溶媒と第2の溶媒との重量比は、5:5~9:1であり、例えば、第1の溶媒と第2の溶媒の重量比は、6:4~9:1、7:3~9:1、7:3~8:2、3:7~10:0、4:6~9:1または5:5~8:2であってもよい。前記第1の溶媒の重量比が前記範囲より高い場合、ポリイミド粉末の析出温度が高くなり、前記範囲より低い場合、懸濁重合に近い重合が行われて粉末の収得が容易ではなく、製造された粉末の明るさが暗くなることがある。
【0019】
本発明は、前記のような複合溶媒を含むことにより、ジアンヒドリドモノマー及びジアミンモノマーを均一に溶解させることができ、これにより析出されるポリイミド粉末は、凝集が少なく均一な粒子を形成しうる。
【0020】
また、本発明による複合溶媒は、第1の溶媒の沸点と第2の溶媒の沸点の差が10℃以下であってもよく、例えば、第1の溶媒の沸点と第2の溶媒の沸点の差が5℃以下、4℃以下、3℃以下、2℃以下または1℃以下であってもよい。
【0021】
前記のように混合溶媒間の沸点の差を最小化することにより、重合物の加熱時にポリイミド粉末の析出温度を下げることができ、製造されたポリイミド粉末の固有粘度を高めることができる。
【0022】
前記重合段階は、ジアンヒドリドモノマー成分をジアミンモノマー成分とともに溶媒に分散または溶解させるか、またはジアンヒドリドモノマー成分を溶媒に分散させた溶液とジアミンモノマー成分を溶媒に分散させた溶液をそれぞれ製造し、これらを混合した重合物に触媒を投入するものであってもよい。また、ジアンヒドリドモノマー成分とジアミンモノマー成分のうち、1つの成分を先に溶媒に溶解させた後、残りの成分を溶液に溶解させることができる。
【0023】
一実施例において、前記重合段階は溶媒を加熱する段階、加熱された溶媒にジアミンモノマー成分を溶解する段階、及びジアミンが溶解した溶液にジアンヒドリドモノマー成分を反応させる段階を含んでもよい。
【0024】
前記溶媒を加熱する段階は、50~100℃の温度で行われるものであってもよく、例えば、前記温度は60~90℃または60~80℃であってもよい。前記加熱された溶媒にジアミンモノマー成分を溶解する段階は、50~100℃の温度で1~60分間行われるものであってもよい。この場合、前記温度は、例えば、60~90℃または60~80℃であってもよく、時間は1~30分であってもよい。
【0025】
また、ジアミンが溶解した溶液にジアンヒドリドモノマー成分を反応させる段階は、50~100℃の温度で1~6時間行われるものであってもよい。このとき、ジアミンが溶解した溶媒にジアンヒドリドモノマー成分を反応させる段階において、ジアンヒドリドモノマー成分は、0.01mol/s~10mol/sの速度で投入してもよく、例えば、0.05mol/s~10mol/s、0.1mol/s~10mol/s、1mol/s~10mol/s、1mol/s~5mol/sまたは1mol/s~3mol/sの速度で投入してもよい。
【0026】
前記のような方法で重合物を製造することにより、副反応を抑制して生成物の収率を高めることができ、残留ジアンヒドリドまたはジアミンの含量を減らすことにより、ポリイミド粉末の色を明るくすることができる。
【0027】
また、前記のような速度でジアンヒドリドを投入することにより、副反応を抑制して生成物の収率を高めることができ、残留ジアンヒドリドまたはジアミンの含量を減らすことにより、ポリイミド粉末の色を明るくすることができる。
【0028】
前記重合段階においてジアンヒドリドモノマー及びジアミンモノマーの含量は、全溶液総量を基準にして1~30重量%であり、例えば、前記溶液においてジアンヒドリドモノマー及びジアミンモノマーの含量は、全溶液総量を基準にして1~20重量%、1~15重量%、3~15重量%、5~15重量%または5~10重量%であってもよい。固形分含量が前記範囲を超える場合、攪拌が難しく、収率が低下するか、または品質が低下することがあり、固形分含量が前記範囲より低い場合、製造原価が上昇することがある。
【0029】
前記重合段階は、加熱によりジアンヒドリドモノマー及びジアミンモノマーを重合する段階である。前記重合段階において加熱温度は、30~100℃であり、例えば、前記重合段階において加熱温度は、40~100℃、50~90℃または60~80℃であってもよい。
【0030】
前記加熱温度が前記範囲より低い場合、反応進行が遅すぎ、ポリイミド粉末の収率が低下し、前記加熱温度が前記範囲より高い場合、粒子の大きさが増加することがある。
【0031】
前記重合段階において反応時間は1~10時間であってもよく、例えば、1~8時間、1~6時間、1~4時間または1~3時間であってもよい。
【0032】
前記反応時間が前記範囲より低い場合、反応収率が低下し、粉末の伸び及び引張強度などの機械的物性が低下することがあり、反応時間が前記範囲より高い場合、粉末の色が暗くなり、粒子の大きさが増加することがある。
【0033】
前記イミド化段階は、加熱及び加圧によって重合された重合体をイミド化する段階である。前記イミド化段階において加熱温度は、150~300℃であり、例えば、前記イミド化段階において加熱温度は、160~200℃、170~200℃または180~200℃であってもよい。
【0034】
前記加熱温度が前記範囲より低い場合、反応進行が遅すぎ、ポリイミド粉末の収率が低下し、前記加熱温度が前記範囲より高い場合、粒子の大きさが増加することがある。
【0035】
前記イミド化段階において反応時間は1~10時間であってもよく、例えば、1~8時間、1~6時間、1~4時間、または1~3時間であってもよい。
【0036】
前記反応時間が前記範囲より低い場合、反応収率が低下し、伸び及び引張強度などの機械的物性が低下することがあり、反応時間が前記範囲より高い場合、粉末の色が暗くなり、粒子の大きさが増加することがある。
【0037】
本発明は、前記イミド化段階を通じてポリイミド粉末を析出させることができる。このとき、前記ポリイミド粉末は、100~200℃の析出温度で析出されてもよく、例えば、前記析出温度の下限は、105℃以上、110℃以上、115℃以上、120℃以上、125℃以上または130℃以上であってもよく、前記析出温度の上限は195℃以下、190℃以下、185℃以下、180℃以下、175℃以下、170℃以下、165℃以下、160℃以下、155℃以下、150℃以下、145℃以下、140℃以下または135℃以下であってもよい。前記析出温度は、ジアンヒドリドモノマー及びジアミンの組成、触媒の種類及び含量、溶媒の影響を受ける。
【0038】
本発明によるポリイミド粉末の製造方法は、前記イミド化段階の後、さらにろ過及び乾燥する段階をさらに含んでもよい。ろ過及び乾燥方法は特に制限されず、乾燥する方法は、例えば、真空乾燥するか、または高温のオーブンで乾燥するものであってもよい。具体的に前記乾燥する段階は、100℃以上のオーブンで24時間以上乾燥するものであってもよい。
【0039】
また、本発明は、前記ポリイミド粉末の製造方法で製造されたポリイミド粉末を提供する。
【0040】
前記ポリイミド粉末は、前述した製造方法によって製造されることによって、固有粘度が高く加工が容易であり、粒子の大きさが均一で加工性に優れた長所を持つ。
【0041】
例えば、前記ポリイミド粉末は、固有粘度が0.9dl/g以上、0.95dl/g以上、1.0dl/g以上、1.05dl/g以上、1.1dl/g以上、1.15dl/g以上、1.2dl/g以上。以上、1.25dl/g以上、1.3dl/g以上、1.35dl/g以上、1.4dl/g以上、1.45dl/g以上、1.5dl/g以上、1.55dl/g以上、1.6l/g以上、1.65dl/g以上、1.7dl/g以上または1.75l/g以上であってもよい。前記固有粘度は、50mgのポリイミド粉末をバイアルに入れ、濃硫酸10gに溶解した後、30℃でウベローデ粘度計によって測定されたものであってもよい。
【0042】
本発明によるポリイミド粉末は、D50が150μm以下であってもよい。例えば、本発明によるポリイミド粉末は、D500の上限が120μm以下、110μm以下、105μm以下、100μm以下、95μm以下、90μm以下、80μm以下または60μm以下であってもよく、D50の下限が10μm以上、20μm以上、25μm以上または30μm以上であってもよい。
【0043】
本発明によるポリイミド粉末は、D99.9が500μm以下であってもよい。例えば、本発明によるポリイミド粉末は、D99.9の上限が300μm以下、250μm以下、210μm以下、または200μm以下であってもよく、D99.9の下限が10μm以上、50μm以上または100μm以上であってもよい。
【0044】
ここで、「Dn」とは、粒子径分布の累積百分率がn体積%に達したときの粒子の大きさを意味する。したがって、前記「D99.9」とは、粒子径分布の累積百分率が99.9体積%に達したときの粒子の大きさを意味し、前記「D50」とは、粒子径分布の累積百分率が50体積%に達したときの粒子の大きさを意味する。粒子径分布は、レーザー粒子サイズ分析器を使用して分析したポリイミド粉末の粒子径分布グラフを意味し、具体的には、前記粒子径分布は、レーザー回折光散乱式粒度分布測定器(例えば、マルバーンマスターサイザー(Malvern Mastersizer)3000)を用いて測定してもよい。
【0045】
前記D50及びDが前記範囲を満たす場合、ポリイミド粉末を成形する際に適切な成形条件を設定しやすく、成形時のクラックや破断を効果的に防止することができ、加工性に優れている。
【0046】
また、本発明によるポリイミド粉末は、D99.9/D50が15以下であってもよい。例えば、本発明によるポリイミド粉末は、D99.9/D50の上限が14以下、13以下、12以下または11以下であってもよく、D99.9/D50の下限が5以上、7以上または10以上であってもよい。
【0047】
本発明によるポリイミド粉末は、前記のように粒子の大きさのばらつきが小さく均一な粉末を提供することができ、これにより粉末成形時の不良率を低くして収率を高めることができる。
【0048】
また、本発明は、ポリイミド粉末を含む成形品を提供する。本発明によって製造されたポリイミド粉末は、様々な成形方法によって成形品として製造されてもよく、例えば、圧縮成形、射出成形、スラッシュ成形、中空成形、押出成形または紡績方法を用いて必要とされる成形品を製造しうる。成形品は、板材、棒材、フィルム、シート、ペレット、ベルトまたはチューブであってもよい。
【0049】
本発明によって製造されたポリイミド粉末は、電気/電子、半導体、ディスプレイ、自動車、医療、電池及び宇宙航空などの様々な分野で使用されてもよい。
【発明の効果】
【0050】
本発明によるポリイミド粉末及びその製造方法は、製造工程を簡略化して工程効率を高めることができ、ポリイミドを粉末状に製造することにより成形が容易であり、ポリイミドの析出温度が低く、固有粘度が高く加工が容易であり、粒子の大きさが均一で加工性に優れた効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明による実施例及び本発明によらない比較例を通じて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲が下記提示された実施例によって制限されるものではない。
【0052】
<ポリアミック酸溶液の製造>
実施例1
攪拌機及び窒素注入排出管を備えた1000mlの反応器にディーンスタークトラップを設置し、窒素を注入しながらN-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びm-クレゾールを5:5の重量比で混合した溶媒を70℃で加熱し、加熱した溶媒に4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を完全に溶解した。その後、ピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)を溶媒に完全に溶解させた後、75℃で2時間反応させた。反応液に触媒としてピリジン(PR)をODA100モル部に対して200モル部を投入し、これを攪拌しながら200℃に昇温し、さらに2時間加熱してポリイミド粉末を析出した。
【0053】
参考までに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)の沸点は、202℃であり、m-クレゾールの沸点は、202.2℃である。
【0054】
実施例2~14
下記表1のようにモノマーの成分、溶媒及び触媒を調節したことを除いては、実施例1と同様の方法でポリイミド粉末を製造した。
【0055】
比較例1~3
下記表1のようにモノマーの成分、溶媒及び触媒を調節したことを除いては、実施例1と同様の方法でポリイミド粉末を製造した。
【0056】
【0057】
実験例
製造された重合生成物及びポリイミド粉末の物性を下記の方式を用いて測定し、その結果を下記表2に示した。
【0058】
実験例1-固有粘度
ウベローデ粘度計により30℃で測定した。具体的には、50mgのポリイミド粉末をバイアルに入れ、濃硫酸10gに溶解後、ウベローデ粘度計により測定した。
【0059】
実験例2-析出温度
重合反応後、透明な溶液でイミド化によってぼやける時点の温度を測定した。
【0060】
実験例3-ポリイミド粉末の粒子径分布
製造されたポリイミド粉末の粒子径分布(D50)は、レーザー回折光散乱式粒度分布測定器(マルバーンマスターサイザー(Malvern Mastersizer)3000)を用いて測定した。
【0061】
【国際調査報告】