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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】フッ素樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20240927BHJP
   C08L 27/20 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20240927BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20240927BHJP
   C08K 5/52 20060101ALI20240927BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20240927BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L27/16
C08L27/20
C08L27/18
C08L71/00
C08K5/19
C08K5/52
C08K5/42
C08J3/215 CEW
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519481
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 US2022045005
(87)【国際公開番号】W WO2023055778
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/249,627
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フロランス・メルマン
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・バーゲン
(72)【発明者】
【氏名】ローランス・エイチ・ジュドビッツ
(72)【発明者】
【氏名】アザーズ・エイ・バホラ
(72)【発明者】
【氏名】サラ・レイノー
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA23
4F070AC12
4F070AC45
4F070AC71
4F070AE14
4F070AE28
4F070FA05
4F070FB09
4J002BD141
4J002BD151
4J002BD161
4J002CH012
4J002CH022
4J002EN006
4J002EV256
4J002EW046
4J002FD202
4J002FD206
4J002GF00
4J002GG01
(57)【要約】
PVDF重合体と、0.01~3%の1種以上の第四級有機塩と、10~1000ppmの1種以上の分散剤とを含み、光学的ヘイズが低減され、高い溶融温度及び高弾性率を有する組成物が開示される。また、当該組成物の製造方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物であって、
(a)VDFが全単量体単位の60重量%超、好ましくは70重量%超を占めるフッ化ビニリデン重合体、
(b)0.1~3重量%の1種以上の第四級有機塩、及び
(c)10~1000ppm(重量基準)の1種以上の両親媒性分散剤であって、フッ素原子又は酸基を含まない両親媒性分散剤
を含み、
230℃で圧縮成形された厚さ1mmの部分の光学的ヘイズがASTM D1003に従って40%未満である、前記樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、前記第四級有機塩を含まないことを除いて同じPVDF樹脂組成物と比較して、少なくとも2℃高い溶融温度を有し、前記第四級有機塩を含まないことを除いて同じ組成物と比較して、少なくとも65%の弾性率保持率を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記フッ化ビニリデン重合体が、単独重合体又はヘキサフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、及び3,3,3-トリフルオロプロペンよりなる群から選択される少なくとも1種の共単量体を有する共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ化ビニリデン重合体が、ヘキサフルオロプロピレンを含む共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(a)+(b)+(c)の総重量を基準として、合計0.2~3重量%、より好ましくは0.3~2重量%の第四級有機塩を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(a)+(b)+(c)の総重量を基準として、合計10ppm~500ppmの分散剤を含む、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
230℃で圧縮成形された厚さ1mmの部分の光学的ヘイズが35%未満、より好ましくは30%未満である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂組成物の溶融温度が、前記第四級有機塩を含まないことを除いて同じ組成物の溶融温度よりも少なくとも3℃高い、より好ましくは少なくとも5℃高い、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、前記第四級有機塩を含まないことを除いて同じ組成物と比較して、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%の弾性率保持率を有する、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記分散剤が、
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及び/又はポリテトラメチレングリコールのセグメントを含む非イオン性ブロック共重合体であって、1ブロック当たりの反復単位が2~200である非イオン性ブロック共重合体、
A-B-Aトリブロック構造で配置された、1ブロック当たりの反復単位が2~200であるポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、
アルキルホスホン酸塩、ポリビニルホスホン酸塩、ポリビニルスルホン酸塩、
C7~C20アルカンスルホネート、
アルキルアリールスルホネート、アリールスルホネート、
アルカンスルホン酸塩、ならびに
それらの組合せ
よりなる群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記分散剤がブロック共重合体であり、かつ、ポリ(エチレングリコール)の少なくとも1つのブロック又はポリ(プロピレングリコール)の少なくとも1つのブロックを含む、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記分散剤が、ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)基又はPEO-PPO-PEO基を有するブロック共重合体を含む、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記分散剤が、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸カリウム、オクチルスルホン酸アンモニウム、及びこれらの混合物の少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記第四級有機塩が、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、及びそれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記第四級有機塩が、重硫酸テトラブチルアンモニウム、ヘプチルトリフェニルホスホニウムブロミド、(2-ヒドロキシエチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(4-カルボキシブチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、及びテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、及びそれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、次の工程:
(a)PVDF重合体を準備し、
(b)第四級有機塩と分散剤とを混合し、
(c)前記工程(b)のブレンド物と前記工程(a)のPVDF重合体とを混合すること
を含み、
前記第四級有機塩の量が、全乾燥組成物の重量を基準として少なくとも0.1重量%、かつ、3重量%以下であり、最終組成物中の前記分散剤の量が全乾燥組成物の重量を基準として10ppm~1000ppm(重量基準)である方法。
【請求項17】
請求項1~15のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、次の工程:
(d)PVDF重合体及び分散剤を有する組成物をラテックスの形態で準備し、
(e)第四級有機塩と前記ラテックスとをブレンドしてブレンド物を形成し、
(f)前記工程(e)のブレンド物を乾燥させて固体材料とすること
を含み、
前記第四級有機塩の量が、全乾燥組成物の重量を基準として少なくとも0.1重量%、かつ、3重量%以下であり、最終組成物中の前記分散剤の量が全乾燥組成物の重量を基準として10ppm~1000ppm(重量基準)である方法。
【請求項18】
請求項1~15のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、次の工程:
(g)PVDF重合体及び分散剤を有する組成物をラテックスとして準備し、
(h)前記ラテックスを乾燥させて固体材料とし、
(i)第四級有機塩と前記工程(g)のPVDF組成物とをブレンドすること
を含み、
前記第四級有機塩の量が、全乾燥組成物の重量を基準として少なくとも0.1重量%、かつ、3重量%以下であり、最終組成物中の前記分散剤の量が全乾燥組成物の重量を基準として10ppm~1000ppm(重量)である方法。
【請求項19】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物を含む物品であって、前記物品がフィルム、シート、ロッド、又は多層部品であることができる物品。
【請求項20】
前記物品が溶融加工物品である、請求項19に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化重合体に第四級有機塩を微細分散させることのできる組成物及び方法を提供する。本発明は、高い透明性、高い溶融温度及び高い弾性率を有するフッ素化重合体を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
PVDFとアクリルポリマーとをブレンドしたり、PVDFと第四級アンモニウム塩とをブレンドすることによって、高い透明性を有するPVDF重合体を製造することが知られている。しかし、いずれの手法もPVDF重合体の溶融温度の低下のみならず、第四級アンモニウム塩の場合には重合体の弾性率の低下を伴う。
【0003】
第四級アンモニウム塩はPVDF重合体において透明性を向上させることが記載されているが、重合体の溶融温度及び弾性率を低下させることが示されている。ホスホニウム有機塩、イミダゾリウム有機塩及びアンモニウム有機塩はPVDF重合体において溶融温度を上昇させるが、透明性を改善させることは報告されていない。
【0004】
米国特許第6,610,766号には、重合体の電気抵抗率を増加させるために、PVDFと共にアルキル第四級アンモニウム硫酸塩又は亜硫酸塩を使用することが記載されている。また、PVDFの透明性の向上についても記載されている。その実施例及び特に図4には、アンモニウム塩の添加量の増加に伴って溶融温度が低下することが示されている。
【0005】
国際公開第2020/137108号及び国際公開第2013/7116号には、さらに、PVDFと共にアルキル第四級アンモニウム硫酸塩又は亜硫酸塩を使用することが記載されている。これらの組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂組成物中のアルカリ金属濃度が60ppm以下、ポリフッ化ビニリデン中のフッ化水素濃度が5ppm以下、及び/又はポリフッ化ビニリデン中の不均一結合の割合が4%以上であることにより、良好な透明性を達成し、肉厚部分の黄変を抑制する。いくつかの実施例では、酸末端基を有する残留界面活性剤を含むKynar 1000HDなどのKynar(登録商標)PVDF樹脂が使用されている。PVDFの溶融温度が第四級アンモニウム塩の添加によって上昇することについては言及されていない。
【0006】
国際公開第2007/145668号には、PVDFと共にオニウム塩を使用することが記載されている。この組成物は高温でアニールされ、及び/又はオニウム塩はナノクレイで変性されて、圧電特性、高い溶融温度及び低い曲げ弾性率を有する組成物が達成されている。オニウム塩がPVDF組成物に透明性を与えることについては言及されていない。
【0007】
PVDF重合体において高温アニールを使用すると、重合体の溶融温度が上昇することも知られている。一例として、Gregorio外による発表論文(Journal of Materials Science,35,2000)に記載されており、この論文では、PVDFの単独重合体について、少なくとも155℃の温度で、固体状態でα相からγ相への相転移が起こると記載されているところ、これは、α相におけるPVDFの標準的な溶融温度よりも約10~20℃低い温度である。α相からβ相への転移は溶融温度を5~10℃上昇させる。アニール処理はPVDFの透明性を向上させるために使用できる。
【0008】
国際公開第2015/048697号には、酸末端基を有する残留界面活性剤を含むPVDFと共にアンモニウム塩及びホスホニウム塩を使用することが記載されている。塩は酸末端基と反応し、溶融処理後の製品の色安定性を改善すると言われている。好ましい塩類は、ハロゲン化第四級アンモニウムである。重合体の透明性、溶融温度、又は弾性率に及ぼす塩の影響については言及されていない。
【0009】
直面した課題は、高い透明性及び高い融点を有し、少なくとも65%、好ましくは70%、より好ましくは75%の弾性率、好ましくは貯蔵弾性率を維持するPVDF重合体を提供することであった。高い透明性を有するPVDFを製造するための既知の方法としては、PVDFとアクリルポリマーとをブレンドすること、又はPVDFと第四級アンモニウム塩とをブレンドすることが挙げられる。いずれの手法もPVDF重合体の融点の低下、及び重合体の弾性率などの他の特性の低下を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,610,766号明細書
【特許文献2】国際公開第2020/137108号
【特許文献3】国際公開第2013/7116号
【特許文献4】国際公開第2007/145668号
【特許文献5】国際公開第2015/048697号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of Materials Science,35,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
予想外なことに、PVDF重合体を第四級塩と組み合わせ、かつ、適切な分散剤が存在するときに(好ましくは、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックを含む共重合体、又は硫酸塩及びスルホン酸塩型の塩)、得られる重合体は高い透明性(1mmでのヘイズが40%未満)を有し、融点が初期のPVDF重合体より少なくとも2℃高く、かつ、最大7℃高く、弾性率が初期のPVDF重合体の少なくとも65%、好ましくは少なくとも75%に保持されることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本発明は、PVDF(「ポリフッ化ビニリデン」)重合体を分散剤の存在下において第四級有機塩で変性させることにより、高い透明性、高い溶融温度、及び高い弾性率を有するPVDF重合体組成物を提供するための組成物及び方法である。
【0014】
驚くべきことに、分散剤の存在下でPVDF重合体を第四級有機塩で変性させると、光学的ヘイズが40%未満にまで低減し(厚さ1mmの部分)、弾性率が65%を超えて保持され、PVDF重合体の溶融温度が少なくとも2℃上昇するため、材料についてさらに高い使用温度が可能になることが分かった。理論によって限定されるものではないが、分散剤は、PVDF重合体の非晶質ドメインと結晶ドメインとの界面への第四級有機塩の拡散を助けるために必要であるため、先に説明した溶融温度及び弾性率に対して悪影響を及ぼすことなく、重合体の透明性に及ぼす核形成効果を最大化することができると考えられる。
【0015】
本発明は、(a)ポリフッ化ビニリデン重合体、(b)ポリフッ化ビニリデン重合体の重量を基準として10重量ppm~1000重量ppmの分散剤、及び(c)ポリフッ化ビニリデン重合体の重量を基準として0.1~3重量%の1種以上の第四級有機塩(核形成添加剤)を含む、高透明性、高溶融温度及び高弾性率のポリフッ化ビニリデン組成物に関する。好ましくは、該組成物は、該組成物中の全固形分を基準として、60重量%を超える、好ましくは80重量%を超える、より好ましくは90重量%を超えるPVDF重合体を含む。
【0016】
本発明は、低光学的ヘイズ、高溶融温度及び高弾性率を有するフッ素樹脂を製造するための方法であって、組成物中に分散剤が存在するフッ素樹脂に第四級有機塩(核形成添加剤)を添加することを含む方法を提供する。また、本発明は、この組成物を使用して圧縮成形された1mmの部分についてASTM D1003で測定したときに、40%未満、好ましくは35%未満、より好ましくは30%未満の低光学的ヘイズを有する組成物の製造方法を提供する。フッ素化されておらず、かつ、酸基を含まない分散剤と併せて選択された第四級有機塩をPVDF重合体に効率的に使用することで、光学的ヘイズが低減し、さらに驚くべきことに重合体の溶融温度が上昇し、しかも高弾性率保持率が得られることが分かった。本発明は、重合体組成物内での第四級有機塩の拡散を促進するための分散剤の使用を提供する。PVDF重合体は疎水性であるため、特にいくつかのPVDF共重合体の場合には、第四級有機塩の分散が課題である。第四級有機塩の分散性が悪いと、最終材料中の第四級有機塩自体の大きさに起因して、光学的ヘイズが高くなる可能性がある。分散剤は、第四級有機塩が小さな粒子として組成物中に存在し、PVDF重合体の非晶質ドメインと結晶ドメインとの界面に拡散することができる。
【0017】
発明の態様
態様1:樹脂組成物であって、
(a)VDFが全単量体単位の60重量%超、好ましくは70重量%超を占めるフッ化ビニリデン重合体、
(b)前記ポリフッ化ビニリデン重合体の重量を基準として、0.1~3重量%の1種以上の第四級有機塩、及び
(c)10~1000ppm(重量基準)の1種以上の両親媒性分散剤であって、フッ素原子又は酸基を含まない両親媒性分散剤
を含み、
230℃で圧縮成形された厚さ1mmの部分の光学的ヘイズがASTM D1003に従って40%未満である、前記樹脂組成物。
【0018】
態様2:前記樹脂組成物が、前記第四級有機塩を含まないことを除いて同じPVDF樹脂組成物と比較して、少なくとも2℃高い溶融温度を有し、前記第四級有機塩を含まないことを除いて同じ組成物と比較して、少なくとも65%の弾性率保持率を有する、態様1に記載の樹脂組成物。
【0019】
態様3:前記フッ化ビニリデン重合体が、単独重合体又はヘキサフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、及び3,3,3-トリフルオロプロペンよりなる群から選択される少なくとも1種の共単量体を有する共重合体である、態様1又は2に記載の樹脂組成物。
【0020】
態様4:前記フッ化ビニリデン重合体が、ヘキサフルオロプロピレンを含む共重合体である、態様1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0021】
態様5:前記(a)+(b)+(c)の総重量を基準として、合計0.2~3重量%、より好ましくは0.3~2重量%の第四級有機塩を含む、態様1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0022】
態様6:前記(a)+(b)+(c)の総重量を基準として、合計10ppm~500ppmの分散剤を含む、態様1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0023】
態様7:230℃で圧縮成形された厚さ1mmの部分の光学的ヘイズが35%未満、より好ましくは30%未満である、態様1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0024】
態様8:前記樹脂組成物の溶融温度が、前記第四級有機塩を含まないことを除いて同じ組成物の溶融温度よりも少なくとも3℃高い、より好ましくは少なくとも5℃高い、態様1~7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0025】
態様9:前記樹脂組成物が、前記第四級有機塩を含まないことを除いて同じ組成物と比較して、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%の弾性率保持率を有する、態様1~8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0026】
態様10:前記分散剤が、
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及び/又はポリテトラメチレングリコールのセグメントを含む非イオン性ブロック共重合体であって、1ブロック当たりの反復単位が2~200である非イオン性ブロック共重合体、
A-B-Aトリブロック構造で配置された、1ブロック当たりの反復単位が2~200であるポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、
アルキルホスホン酸塩、ポリビニルホスホン酸塩、ポリビニルスルホン酸塩、
C7~C20アルカンスルホネート、
アルキルアリールスルホネート、アリールスルホネート、
アルカンスルホン酸塩、ならびに
それらの組合せ
よりなる群から選択される、態様1~9のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0027】
態様11:前記分散剤がブロック共重合体であり、かつ、ポリ(エチレングリコール)の少なくとも1つのブロック又はポリ(プロピレングリコール)の少なくとも1つのブロックを含む、態様1~10のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0028】
態様12:前記分散剤が、ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)基を有するブロック共重合体を含む、態様1~10のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0029】
態様13:前記分散剤が、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸カリウム、オクチルスルホン酸アンモニウム、及びこれらの混合物の少なくとも1種を含む、態様1~10のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0030】
態様14:前記第四級有機塩が、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、及びそれらの組み合わせよりなる群から選択される、態様1~13のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0031】
態様15:前記第四級有機塩が、重硫酸テトラブチルアンモニウム、ヘプチルトリフェニルホスホニウムブロミド、(2-ヒドロキシエチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(4-カルボキシブチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、及びテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、及びそれらの組み合わせよりなる群から選択される、態様1~13のいずれかに記載の組成物。
【0032】
態様16:態様1~15のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、次の工程:
(a)PVDF重合体を準備し、
(b)第四級有機塩と分散剤とを混合し、
(c)(b)のブレンド物と前記(a)のPVDF重合体とを混合すること
を含み、
前記第四級有機塩の量が、全乾燥組成物の重量を基準として少なくとも0.1重量%、かつ、3重量%以下であり、最終組成物中の前記分散剤の量が全乾燥組成物の重量を基準として10ppm~1000ppm(重量基準)である方法。
【0033】
態様17:態様1~15のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、次の工程:
(d)PVDF重合体及び分散剤を有する組成物をラテックスの形態で準備し、
(e)第四級有機塩と前記ラテックスとをブレンドしてブレンド物を形成し、
(f)前記(e)のブレンド物を乾燥させて固体材料とすること
を含み、
前記第四級有機塩の量が、全乾燥組成物の重量を基準として少なくとも0.1重量%、かつ、3重量%以下であり、最終組成物中の前記分散剤の量が全乾燥組成物の重量を基準として10ppm~1000ppm(重量基準)である方法。
【0034】
態様18:態様1~15のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、次の工程:
(g)PVDF重合体及び分散剤を有する組成物をラテックスとして準備し、
(h)前記ラテックスを乾燥させて固体材料とし、
(i)第四級有機塩と前記(g)のPVDF組成物とをブレンドすること
を含み、
前記第四級有機塩の量が、全乾燥組成物の重量を基準として少なくとも0.1重量%、かつ、3重量%以下であり、最終組成物中の前記分散剤の量が全乾燥組成物の重量を基準として10ppm~1000ppm(重量)である方法。
【0035】
態様19:態様1~15のいずれかに記載の樹脂組成物を含む物品であって、前記物品がフィルム、シート、ロッド、又は多層部品であることができる物品。
【0036】
態様20:前記物品が溶融加工物品である、態様19に記載の物品。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本願で引用した文献は、参照により本明細書において援用される。
【0038】
本明細書で使用するときに、パーセンテージは、特に断りのない限り重量パーセントであり、分子量は、特に断りのない限り重量平均分子量である。溶融粘度(MV)は、ASTM D-3835を使用して230℃、100秒-1で測定される。
【0039】
「共重合体」とは、2つ以上の異なる単量体単位を有する重合体を意味する。「重合体」は、単独重合体及び共重合体の両方を意味するように使用される。例えば、本明細書で使用するときに、「PVDF」及び「ポリフッ化ビニリデン」は、特に断りのない限り、単独重合体及び共重合体の両方を意味するように使用される。重合体は、直鎖、分岐、星型、櫛型、ブロック型その他の構造であってよい。重合体は、重合体鎖の大部分が共単量体単位の同様の分布を有する均質なもの、異なる重合体鎖が大きく異なる共単量体単位分布を有し、一部の鎖が共単量体単位を有しない不均質なもの、及び重合体鎖が該鎖に沿って共単量体単位の勾配分布を有する勾配のものであってもよい。
【0040】
両親媒性とは、疎水性(非極性)領域と親水性(極性)領域の両方を有する分子を意味する。両親媒性化合物の一般的な例としては、例えば乳化重合や懸濁重合などの水性コロイド系において優れた界面活性剤として知られているものが挙げられる。
【0041】
PVDF重合体
本発明では、PVDF単独重合体又は共重合体が使用される。
【0042】
用語「PVDF共重合体」とは、1種以上の他のフッ素化共単量体又は非フッ素化共単量体、好ましくはフッ素化共単量体を含むフッ化ビニリデン(VDF)の共重合体をいう。本発明のPVDF共重合体は、フッ化ビニリデン単位が重合体中の全単量体単位の総重量の60%超、より好ましくは当該単位の総重量の70%超、最も好ましくは当該単位の総重量の75%超を占めるものである。フッ素化共単量体は、好ましくはPVDF共重合体の少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも4重量%を占める。フッ素化共単量体は、好ましくは0.5重量%~30重量%、より好ましくは1重量%~20重量%である。
【0043】
フッ素化共単量体は、重合されるために開環可能なビニル基を含有し、このビニル基に直接結合して、少なくとも1個のフッ素原子、少なくとも1個のフルオロアルキル基又は少なくとも1個のフルオロアルコキシ基を含有する化合物から選択されるが、ただし、PVDF共重合体中に既に存在するVDFは除くものとする。フッ素化共単量体の例としては、フッ化ビニル;トリフルオロエチレン(VF3);クロロトリフルオロエチレン(CTFE);1,2-ジフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン(TFE);ヘキサフルオロプロピレン(HFP);2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン;1,3,3,3-テトラフルオロプロピレン;3,3,3-トリフルオロプロピレン;ペルフロオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)及びペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)などのペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル;ペルフルオロ(1,3-ジオキソール);ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)(PDD)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましいPVDF共重合体としては、VDFとHFPとの共重合体、VDFと2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンとの共重合体、VDFと3,3,3-トリフルオロプロピレンとの共重合体、VDFとHFPとTFEとの三元共重合体が挙げられる。
【0044】
PVDF共重合体は、VDFとHFPとの共重合体であることができる。一実施形態では、共重合体は、少なくとも1重量%~30重量%まで、好ましくは25重量%まで、より好ましくは15重量%までのヘキサフルオロプロペン(HFP)単位を有する。
【0045】
PVDF共重合体は、少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%のVDF単位を有することができる。
【0046】
本発明で使用するためのPVDF共重合体は高分子量を有する。本明細書で使用するときに、高分子量とは、230℃及び100秒-1で測定されるASTM法D-3835に準拠して、1.0キロポアズを超える、好ましくは5キロポアズを超える、より好ましくは10キロポアズを超える溶融粘度を有することを意味する。
【0047】
本発明で使用されるPVDF共重合体は、一般に、水性フリーラジカル乳化重合を使用する当該技術分野で公知の手段によって製造されるが、ただし、懸濁重合、溶液重合、超臨界CO2重合プロセスを使用してもよい。
【0048】
一般的な乳化重合プロセスでは、反応器に、脱イオン水、重合中に反応物の塊を乳化できる水溶性界面活性剤、及び任意にパラフィンワックス防汚剤を装入する。重合によっては、界面活性剤を使用しない。混合物を撹拌し、脱酸素化する。次いで、所定量の連鎖移動剤(CTA)を反応器に導入し、反応器の温度を所望のレベルまで上昇させ、フッ化ビニリデン及び任意に1種以上の共単量体を反応器に供給する。フッ化ビニリデン及び任意の共単量体の初期充填が導入され、反応器内の圧力が所望のレベルに達したら、開始剤エマルジョン又は開始剤溶液を導入して重合反応を開始させる。反応の温度は、使用する開始剤の特性によって変動する可能性があるが、当業者であれば、どのようにすればよいか分かるであろう。典型的には、温度は約30℃~150℃、好ましくは約60℃~120℃である。反応器内で所望の重合体量に達したら、単量体供給を停止するが、開始剤供給を任意に継続して、残留単量体を消費させる。残留ガス(未反応単量体を含む)をベントし、ラテックスを反応器から回収する。
【0049】
重合に使用される界面活性剤は、PVDF乳化重合に有用であることが当業者に知られている非フッ素系界面活性剤である。本発明のPVDF重合体エマルジョンはフッ素系界面活性剤を含まず、重合のどの部分においてもフッ素系界面活性剤を使用しない。また、重合に使用される界面活性剤は酸基も含まない。当該基は、本発明の第四級有機塩との相互作用が乏しく、PVDF重合体の所望の特性向上を妨げることが示されたからである。本発明のPVDF重合に有用な非フッ素化、酸不含有界面活性剤は、性質がイオン性及び非イオン性の両方とすることができ、例としては、アルキル硫酸ナトリウム、アリール硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アリールスルホン酸ナトリウム、ポリビニルスルホネート、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコール、ならびにそれらのブロック共重合体、ならびにシロキサン系界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、乳化重合は界面活性剤を使用しない。
【0050】
PVDF重合により、一般に、10~60重量%、好ましくは10~50重量%の固形分レベルを有し、かつ、500nm未満、好ましくは400nm未満、より好ましくは300nm未満のラテックス体積平均粒度を有するラテックスが得られる。離散体積平均粒度は、一般に、少なくとも20nm、好ましくは少なくとも50nmである。
【0051】
凍結融解安定性を向上させるために、PVDFラテックスに少量(好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満)のエチレングリコールなどの1種以上の他の水混和性溶媒を混合してもよい。
【0052】
PVDFラテックスは、ラテックスのまま本発明プロセスで使用してもよいし、あるいは、噴霧乾燥、凍結乾燥、凝固、ドラム乾燥など(ただし、これらに限定されない)、当該技術分野で知られている手段によって、まず粉末に乾燥させてもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、VDFとHFPとの共重合体が使用される。いくつかの実施形態では、VDFの単独重合体が使用される。
【0054】
PVDF重合体以外のフッ素化分子が組成物中に存在しないことが好ましい。
【0055】
第四級有機塩
第四級有機塩はPVDFのための核形成添加剤として作用する。
【0056】
第四級有機塩は0.1~3重量%の量で使用される。第四級有機塩は、4つの共有結合を形成する第四級陽イオン中心を含み、各結合はアルキル基又はアリール基に対するものである。第四級陽イオン中心は、アンモニウム、ホスホニウム、又はピリジニジウムとすることができる。第四級有機塩の例としては、アルキル及びアリールアンモニウム塩、アルキル及びアリールホスホニウム塩、アルキル及びアリールピリジンニジウム塩、重硫酸テトラブチルアンモニウム、ヘプチルトリフェニルホスホニウムブロミド、(2-ヒドロキシエチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(4-カルボキシブチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、及びテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートが挙げられる。
【0057】
1種以上の第四級有機塩が存在することができる。本発明における第四級有機塩の総量は、全組成物を基準として少なくとも0.1重量%、かつ、3重量%以下である。いずれか1種の第四級有機塩の量は、全組成物を基準として0.1~3重量%、好ましくは0.2~3重量%、より好ましくは0.3~2重量%とすることができる。
【0058】
分散剤
本発明の組成物中に存在する分散剤の量は、全組成物を基準として、1種以上の分散剤の10ppm~1000ppm(重量基準)、好ましくは10ppm~500ppmである。分散剤は両親媒性である。用語「分散剤」とは、疎水性部分と親水性部分の両方を有し、水性系において疎水性分子及び疎水性分子の凝集体を安定化し分散させることができる種類の分子を意味する。
【0059】
分散剤には、フッ素原子を含む化合物は含まれない。分散剤には、酸基を含有する化合物は含まれない。
【0060】
分散剤は非フッ素化化合物である。すなわち、分散剤はフッ素原子を含まない。フッ素化化合物は、核形成添加剤の良好な分散を提供しない。フッ素化分散剤はフッ素樹脂に対する親和性が高すぎるため、第四級有機塩の分散助剤として機能しない。
【0061】
酸を含む分散剤では、酸基が極性を持ちすぎてPVDF樹脂との親和性が十分でないため、本発明の分散剤としては機能せず、かえって第四級有機塩の分散に悪影響を及ぼす。
【0062】
非フッ素化、酸不含有分散剤の例としては、次のものが挙げられる:
1ブロック当たり2~200の反復単位を有するポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及び/又はポリテトラメチレングリコールのセグメントを含む非イオン性ブロック共重合体、
A-B-Aトリブロック構造に配置された、1ブロック当たり2~200の反復単位を有するポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、
アルキルホスホン酸塩、ポリビニルホスホン酸塩、ポリビニルスルホン酸塩、
C7~C20アルカンスルホネート、
アルキルアリールスルホネート、アリールスルホネート、
アルカン硫酸塩、
及びそれらの組み合わせ。
【0063】
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及び/又はポリテトラメチレングリコールのセグメントを含む非イオン性ブロック共重合体について、反復単位は、好ましくは各ブロックで3~100であり、末端基は好ましくは水素、ヒドロキシル、カルボキシル、エステル、エーテル及び/又は炭化水素から選択される。また、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びポリ(プロピレンオキシド)(PPO)は、A-B-Aトリブロック構造に配置され、1ブロック当たり2~200の反復単位を有するもの、すなわち、PEO-PPO-PEOを与えるものが好ましい。
【0064】
イオン性分散剤は、アンモニウム、ホスホニウム、ピリジニジウムなどの、アルキル基又はアリール基に対する4つの共有結合を有する第四級陽イオン中心を含む第四級有機塩を除く。第四級アンモニウム陽イオンは、構造NR+ 4(Rはアルキル基又はアリール基である。)の正電荷を帯びた多原子イオンである。4つの結合はいずれも水素に対するものではない。アンモニウムイオン(NH4 +)及び第一級、第二級、第三級アンモニウム陽イオンとは異なり、第四級アンモニウム陽イオンは、それらの溶液のpHとは無関係に、永久的に帯電している。
【0065】
本発明で使用される分散剤のためのアンモニウム陽イオンとしては、NH4、ならびにモノアルキル、ジアルキル、及びトリアルキルアンモニウムイオンであって、モノアルキル、ジアルキル、又はトリアルキルアンモニウムイオンのアルキル部分は、それぞれ独立してC1~C20アルキル基を有し、好ましくは、各アルキル基は独立して1~4個の炭素原子を有するものが挙げられる。アルキルホスホン酸塩、ポリビニルホスホン酸塩、ポリビニルスルホン酸塩の例としては、オクチルホスホン酸アンモニウム、ドデシルホスホン酸アンモニウム、オクチルホスホン酸ナトリウム、ドデシルホスホン酸ナトリウム、ポリビニルホスホン酸の塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩又はマグネシウム塩、ポリビニルスルホン酸の塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩又はマグネシウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
アルカンスルホン酸塩としては、C7~C20直鎖1-アルカンスルホン酸塩、C7~C20直鎖2-アルカンスルホン酸塩、C7~C20直鎖1,2-アルカンジスルホン酸塩、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
アルキルアリールスルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム又はドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム(SDDBS)が挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基はC1~C20であることができる。アリール基は一般にベンゼン又はベンゼン誘導体である。
【0068】
アルカン硫酸塩(アルキル硫酸塩ともいう)は、R-OSO3M又はMO3SO-R-OSO3Mなどの一般構造に従い、式中、Rは炭化水素基であり、Mは好ましくはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、モノアルキル、ジアルキル及びトリアルキルアンモニウムイオンよりなる群から選択される1価陽イオンであり、該モノアルキル、ジアルキル、又はトリアルキルアンモニウムイオンのアルキル部分は、それぞれ独立してC1~C20のアルキル基を有し、好ましくは各アルキル基は、独立して1~4個の炭素原子を有する。好ましいMは、ナトリウム、カリウム及びアンモニウムから選択される。例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウレス硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
特に好ましい分散剤は、PEG及びPPGのブロック、例えば、ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)PPG-PEG-PPG又はPEO-PPO-PEOを含む。このタイプの界面活性剤の例は、PLURONICという商標で入手可能である。
【0070】
混合プロセス
PVDF重合体は、非フッ素化、酸不含有分散剤の存在下で、又は界面活性剤を含まないプロセスで製造され、一般に、重合体組成物は使用時に残留分散剤を含むことになる。任意に、重合プロセス後に追加の分散剤を重合体組成物に添加することができる。重合プロセスからPVDF重合体中に十分な残留分散剤が存在する場合には、分散剤の添加は任意である。任意に、重合体を生成するために使用される残留分散剤は重合体から洗い流され、同一の又は異なる分散剤が重合プロセス後に重合体に添加される。PVDF重合体、第四級有機塩、及び分散剤(重合からの残留物及び/又は後添加)を水性媒体中で混合し、その後乾燥させて粒子状材料にすることができ、又はそれらを固体(「乾燥」)材料として混合することもできる。これらの成分は、任意の順序で、又は同時にブレンドできる。分散剤をPVDF重合体及び第四級有機塩と一段階で混合してもよく、又は最初に第四級有機塩と混合し、次にPVDF重合体と混合してもよく、又は最初にPVDF重合体と混合し、次に第四級有機塩と混合してもよい。スタティックミキサー、ブラベンダー、押出機を含めて、当該技術分野で知られている任意の混合装置を利用することができる。
【0071】
一実施形態では、PVDF重合体、第四級有機塩及び分散剤のブレンド物は、水性媒体中で混合されたこれらの成分を同時噴霧乾燥することによって製造できる。有効量のPVDF重合体ラテックスと、第四級有機塩(ラテックス、溶液、又は固体の状態)と、残留及び/又は後添加の分散剤(ラテックス、溶液、又は固体の状態)とを混合し、これらを同時噴霧して、ナノスケールでよく混合された乾燥粉末を達成することができる。次いで、この同時噴霧乾燥複合体を、圧縮成形、射出成形、押出、共押出などの当該技術分野で知られている任意の溶融プロセスによって所望の形状に処理加工することができる。本発明のブレンド物を製造するために小さな粒度(通常20~400nm)を有するPVDFラテックスを使用すると、材料中での核形成添加剤の分散に優れ、光学的ヘイズをさらに低減するのに役立つ極めて緊密なブレンド物が得られる。
【0072】
本発明の組成物の特性評価
本発明の重合体組成物の光学的ヘイズ値は、分散剤及び第四級有機塩を含む厚さ1mmのPVDF部分で測定したときに、40%未満、好ましくは35%未満、より好ましくは30%未満である。
【0073】
本発明の重合体組成物の溶融温度は、第四級有機塩を含まないことを除いて同じ組成物の溶融温度よりも少なくとも2℃、好ましくは3℃、より好ましくは少なくとも5℃高い。
【0074】
分散剤及び第四級有機塩を含む本発明の組成物の弾性率は、第四級有機塩を含まないことを除いて同じ組成物と比較して、少なくとも65%の弾性率、好ましくは70%を超える、さらにより好ましくは75%を超える弾性率(好ましくは貯蔵弾性率)保持率を有する。
【0075】
本発明の組成物は、高い溶融温度を有し、65%を超える弾性率を保持することができるのみならず、光学的ヘイズが減少することは予想外であった。典型的には、1つの特性を改善すると、別の特性が損なわれるため、3つの特性を全て備えていることは新規である。
【0076】
用途
化学的不活性、生物学的純度、ならびに優れた機械的及び熱機械的特性を含むPVDF重合体の有利な特性により、一貫した低ヘイズ、高溶融温度及び高弾性率と組み合わされて、本発明の組成物は多くの用途に使用できる。
【0077】
本発明の組成物を溶融処理して物品を製造する。本発明の物品は溶融処理物品である。
【0078】
本発明の組成物から製造されたいくつかの物品としては、フィルム、シート、ロッド、パイプ、チューブ、多層部品が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例
【0079】
試験方法:
光学的ヘイズは、ASTM D1003に準拠して測定し、所定の厚さの部分の光学的ヘイズパーセントとして報告する。実施例では1mmの厚さを使用した。
【0080】
溶融温度は、TA Instruments社製のQ2000ユニット及びASTM E794を使用して、示差走査熱量測定(DSC)によって測定する。DSCの実施は、マイナス75℃(198ケルビン)から210℃まで10℃/分のサイクルを2回行い、溶融温度を、2回目の熱サイクル中に溶融温度のピーク(複数のピークがある場合は最低温度ピーク)として報告する。核形成剤と分散助剤の両方を含む材料(材料X)を、核形成剤を含まないことを除いて同じ材料(材料Y)と比較する。溶融温度の増減を、材料Xの溶融温度と材料Yの溶融温度との差として算出する。これを摂氏度(℃)で表す。
【0081】
室温での弾性率は、ヤング率又は貯蔵弾性率のいずれかを測定するための様々な方法によって決定される。ヤング率は、Instron 4202機器又はTA Instruments RSA-G2分析装置を使用し、ASTM D638に準拠した引張モードで測定される。貯蔵弾性率は、TA Instruments ARES RDA IIIを使用し、ASTM D5279に準拠したねじれモード、5℃/分の昇温速度で動的機械分析(DMA)から得られる。核形成剤と分散助剤の両方を含む材料(材料X)を、核形成剤を含まないことを除いて同じ材料(材料Y)と比較する。弾性率の保持率を、材料Xの弾性率と材料Yの弾性率との比として算出する。これをパーセントで表す。
【0082】
例1:
ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのPluronicブロック共重合体を300ppm含むPVDF単独重合体を、二軸押出機内において200℃で1.5%重硫酸テトラブチルアンモニウムと混合してペレットを製造する。ペレットを220℃、5MTの圧力下で1mm厚のプラークに圧縮成形し、10分間かけて室温まで冷却する。重硫酸テトラブチルアンモニウムを含まない材料の対照1mmプラークも、同じ条件で圧縮成形する。表1は、材料の光学的ヘイズ、融点及び弾性率を示す。例1の材料の光学的ヘイズは21.4%であり、これは対照に対して77%の保持率を表す。さらに、例1の材料は、対照と比較して、融点が4.9℃上昇し、弾性率保持率が80~81%であることを示す。
【0083】
例2:
300ppmの1-オクタンスルホン酸ナトリウムを含有するPVDF単独重合体を、二軸押出機内において200℃で1.5%重硫酸テトラブチルアンモニウムと混合してペレットを製造する。ペレットを220℃、5MTの圧力下で1mm厚のプラークに圧縮成形し、10分間かけて室温まで冷却する。重硫酸テトラブチルアンモニウムを含まない材料の対照1mmプラークも、同じ条件で圧縮成形する。表1は、材料の光学的ヘイズ、融点及び弾性率を示す。光学的ヘイズの減少は75%であり、融点の上昇は6.2℃であり、貯蔵弾性率の保持率は79~88%である。例2の材料の光学的ヘイズは24.4%であり、これは対照に対して75%の保持率を表す。さらに、例2の材料は、対照と比較して、融点が6.2℃上昇し、弾性率保持率が79~88%であることを示す。
【0084】
例3:
ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのPluronicブロック共重合体を300ppm含むVDF/HFP共重合体を、二軸押出機内において200℃で0.5%重硫酸テトラブチルアンモニウムと混合してペレットを製造する。ペレットを220℃、5MTの圧力下で1mm厚のプラークに圧縮成形し、10分間かけて室温まで冷却する。重硫酸テトラブチルアンモニウムを含まない材料の対照1mmプラークも、同じ条件で圧縮成形する。表1は、材料の光学的ヘイズ、融点及び弾性率を示す。光学的ヘイズの減少は79%であり、融点の上昇は6.0℃であり、弾性率の保持率は88%である。例3の材料の光学的ヘイズは17.3%であり、これは対照に対して79%の保持率を表す。さらに、例3の材料は、対照と比較して、融点が6.0℃上昇し、弾性率保持率が88~90%であることを示す。
【0085】
例4(比較例):
300ppmのZonyl1033Dフッ素化両親媒性化合物を含有するPVDF単独重合体を、二軸押出機内において200℃で1.5%重硫酸テトラブチルアンモニウムと混合してペレットを製造する。ペレットを220℃、5MTの圧力下で1mm厚のプラークに圧縮成形し、10分間かけて室温まで冷却する。重硫酸テトラブチルアンモニウムを含まない材料の対照1mmプラークも、同じ条件で圧縮成形する。表1は、材料の光学的ヘイズ、融点及び弾性率を示す。比較例4の材料の光学的ヘイズは20.2%であり、これは対照に対して78%の保持率を表す。しかしながら、融点は1℃未満しか上昇せず、貯蔵弾性率の保持率は53%に過ぎず、本発明の実施例よりもはるかに低い。
【0086】
【表1】
【国際調査報告】