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  • 特表-セメント質系用の凝結制御組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】セメント質系用の凝結制御組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240927BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20240927BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20240927BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20240927BHJP
   C04B 24/18 20060101ALI20240927BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20240927BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240927BHJP
   C04B 24/30 20060101ALI20240927BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/02
C04B24/04
C04B22/10
C04B24/18 B
C04B24/22 B
C04B24/26 D
C04B24/30 C
C04B24/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519494
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2022076983
(87)【国際公開番号】W WO2023052424
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】21199920.6
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503343336
【氏名又は名称】コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.-Albert-Frank-Strasse 32, D-83308 Trostberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト ザクセンハウザー
(72)【発明者】
【氏名】マッシモ バンディエラ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ローレンツ
(72)【発明者】
【氏名】ザビーネ ヒメライン
(72)【発明者】
【氏名】カイ シュテフェン ヴェルデアト
(72)【発明者】
【氏名】ペーター シュヴェーズィヒ
(72)【発明者】
【氏名】マティアス クライン
(72)【発明者】
【氏名】ラムジ ファラ
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB06
4G112MD00
4G112PB08
4G112PB15
4G112PB16
4G112PB17
4G112PB23
4G112PB25
4G112PB31
4G112PB34
4G112PB35
4G112PC05
(57)【要約】
セメント質系用の凝結制御組成物が、a)以下の(a-1)および(a-2)のカルボキシル基の総数に対して、(a-1)がカルボキシル基の少なくとも90%を占める、(a-1)ヒドロキシモノカルボン酸またはその塩、および(a-2)任意に、ポリカルボン酸の分子量をカルボン酸官能基の数で除算したものであるカルボン酸当量が333以下のポリカルボン酸、またはその塩、b)1.2~20の範囲のa)に対するb)の重量比での(b-1)ボレート源と、(b-2)25℃で0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機カーボネート、および有機カーボネートから選択されるカーボネート源との少なくとも一方、ならびにc)1.0~10の範囲のa)に対するc)の重量比でのポリオールを含む。セメント質系用の凝結制御組成物は、早期圧縮強度を損なうことなく、長期間にわたってセメント質系の施工性を効果的に改善する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント質系用の凝結制御組成物であって、
a)以下の(a-1)および(a-2)のカルボキシル基の総数に対して、(a-1)がカルボキシル基の少なくとも90%を占める、
(a-1)ヒドロキシモノカルボン酸またはその塩、および
(a-2)任意に、ポリカルボン酸の分子量をカルボン酸官能基の数で除算したものであるカルボン酸当量が333以下のポリカルボン酸、またはその塩、
b)1.2~20の範囲のa)に対するb)の重量比での
(b-1)ボレート源と、
(b-2)25℃で0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機カーボネート、および有機カーボネートから選択されるカーボネート源と
の少なくとも一方、ならびに
c)1.0~10の範囲のa)に対するc)の重量比でのポリオール
を含む、凝結制御組成物。
【請求項2】
前記(a-1)および(a-2)のカルボキシル基の総数に対して、(a-1)が前記カルボキシル基の少なくとも95%を占める、請求項1記載の凝結制御組成物。
【請求項3】
前記無機カーボネートが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウムおよび炭酸マグネシウムから選択され、前記有機カーボネートが炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸グリセロールから選択される、請求項1または2記載の凝結制御組成物。
【請求項4】
前記ポリオールの1重量%水溶液400mLに1mol/L NaOH水溶液20mLおよび25mmol/L NaAlO水溶液50mLを添加することによって得られる試験溶液を、20℃にて0.5mol/L CaCl水溶液で滴定するアルミン酸カルシウム沈殿試験において、前記ポリオールが、75ppm、好ましくは90ppmのカルシウム濃度までアルミン酸カルシウムの沈殿を阻害する、請求項1から3までのいずれか1項記載の凝結制御組成物。
【請求項5】
前記ポリオールが、単糖、オリゴ糖、水溶性多糖、一般式(P-I):
【化1】
[式中、Xは、
【化2】
であり、式中、
Rは-CHCH、-CHOH、-NHであり、
nは1~4の整数であり、
mは1~8の整数である]
の化合物、または一般式(P-I)の化合物の二量体もしくは三量体から選択される、請求項4記載の凝結制御組成物。
【請求項6】
分散剤d)をさらに含む、請求項1から5までのいずれか1項記載の凝結制御組成物。
【請求項7】
前記分散剤が、
- ペンダントセメント固定基およびポリエーテル側鎖が結合した炭素含有骨格を有する櫛型ポリマー、
- 加水分解性基が加水分解時にセメント固定基を放出する、ペンダント加水分解性基およびポリエーテル側鎖が結合した炭素含有骨格を有する非イオン性櫛型ポリマー、
- 多価金属陽イオンが、ポリマー分散剤の陰性および陰イオン生成基の合計に基づき、陽イオン当量として算出される超化学量論量で存在する、Al3+、Fe3+またはFe2+等の多価金属陽イオンと、陰性および/または陰イオン生成基ならびにポリエーテル側鎖を含むポリマー分散剤とのコロイド分散調製物、
- スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
- リグノスルホネート、
- スルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
- スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
- 好ましくは少なくとも1つのポリアルキレングリコール単位を含むホスホン酸塩含有分散剤、ならびに
- それらの混合物
から選択される、請求項6記載の凝結制御組成物。
【請求項8】
建設用組成物であって、
i)1つ以上のケイ酸カルシウム鉱物相と1つ以上のアルミン酸カルシウム鉱物相とを含むセメント系結合材、
ii)任意に、外部アルミネート源、
iii)任意に、外部スルフェート源
を含み、
前記建設用組成物が、
iv)
iv-a)以下の(a-1)および(a-2)のカルボキシル基の総数に対して、(a-1)がカルボキシル基の少なくとも90%を占める、
(a-1)ヒドロキシモノカルボン酸またはその塩、および
(a-2)任意に、ポリカルボン酸の分子量をカルボン酸官能基の数で除算したものであるカルボン酸当量が333以下のポリカルボン酸、またはその塩、
iv-b)1.2~20の範囲のiv-a)に対するiv-b)の重量比での
(b-1)ボレート源と、
(b-2)25℃で0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機カーボネート、および有機カーボネートから選択されるカーボネート源と
のうちの少なくとも一方、ならびに
iv-c)1.0~10の範囲のiv-a)に対するiv-c)の重量比でのポリオール
を含む凝結制御組成物
をさらに含む、建設用組成物。
【請求項9】
前記建設用組成物が、セメント系結合材i)100g当たり、前記アルミン酸カルシウム鉱物相+任意の前記外部アルミネート源からAl(OH) として算出される利用可能な全アルミネートを0.05~0.2mol含有し、利用可能な全アルミネートとスルフェートとのモル比が0.4~2.0である、請求項8記載の建設用組成物。
【請求項10】
セメント系結合材i)の量に対して、
- 0.2~2重量%の量のiv-a)と、
- 0.8~2.5重量%の量のiv-b)と、
- 0.2~2.5重量%の量のiv-c)と
を含む、請求項8または9記載の建設用組成物。
【請求項11】
前記ケイ酸カルシウム鉱物相およびアルミン酸カルシウム鉱物相が、前記セメント系結合材i)の少なくとも90重量%を占め、前記ケイ酸カルシウム鉱物相が、前記セメント系結合材i)の少なくとも60重量%を占める、請求項8から10までのいずれか1項記載の建設用組成物。
【請求項12】
前記建設用組成物が、
v)潜在水硬性結合材、ポゾラン結合材およびフィラー材料の少なくとも1つ
をさらに含む、請求項8から11までのいずれか1項記載の建設用組成物。
【請求項13】
前記外部アルミネート源ii)が、カルシウム不含アルミネート源、例えばアルミニウム(III)塩、アルミニウム(III)錯体、結晶性水酸化アルミニウム、非晶質水酸化アルミニウム;およびカルシウム含有アルミネート源、例えば高アルミナセメント、スルホアルミネートセメントまたは合成アルミン酸カルシウム鉱物相から選択される、請求項8から12までのいずれか1項記載の建設用組成物。
【請求項14】
前記外部スルフェート源iii)が硫酸カルシウム源である、請求項8から13までのいずれか1項記載の建設用組成物。
【請求項15】
混合したての形態であり、セメント系結合材i)に対する水の比率が0.2~3の範囲である、請求項8から14までのいずれか1項記載の建設用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント質系用の凝結制御組成物および凝結制御組成物を含む建設用組成物に関する。
【0002】
分散剤を水性スラリーまたは粉末状水硬性結合材に添加して、その施工性、つまり、混錬性、展延性、噴霧性、ポンパビリティーまたは流動性を改善することが知られている。かかる混和材料は、固体凝集物の形成を防ぎ、既に存在する粒子および水和によって新たに形成される粒子を分散させ、このようにして施工性を改善することが可能である。この効果は、セメント、石灰、石膏、半水石膏(hemihydrate)または硬石膏等の水硬性結合材を含有する建設用組成物の調製に利用される。粉末状結合材を混合したての加工可能な形態に変換するためには、その後の水和および硬化プロセスに必要とされるよりも実質的に多くの配合水が必要となる。過剰な水によってコンクリート本体に形成された空隙は、水が続いて蒸発することで、機械的強度および抵抗の低下につながる。所定の加工粘稠度での過剰な水の割合を低減し、かつ/または所定の水/結合材比での施工性を改善するために、一般に減水剤または可塑剤と称される混和材料が使用される。
【0003】
セメント質系が水和すると、一般にエトリンガイトが急速な反応で生成される。この反応は、セメントペーストの凝結、つまり、ペーストの或る特定の粘稠度への硬化に関与する。初期凝結時間は、ペーストが可塑性を失い始める時間であり、最終凝結時間は、ペーストが可塑性を完全に失う時間である。エトリンガイトの形成は、セメント質組成物の早期圧縮強度の発現にも関与する。セメントペーストの最終硬化、つまり、機械的強度の増加は、主に、その後のクリンカー中のC3SとC2Sとの反応時のケイ酸カルシウム水和物(CSH)相の形成によるものである。しかしながら、新たに形成される微小エトリンガイト結晶は、セメント質組成物の施工性または流動性を悪化させる傾向がある。反応を遅延させ、施工性を改善するために、組成物に凝結制御剤または遅延剤を添加することが知られている。これらの一般的に知られている遅延剤は、反応性セメント成分、特にアルミネートの溶解を阻害し、かつ/またはカルシウムイオンをマスキングして水和反応を遅らせることによって水和の開始を遅延させる。これらの機構は、エトリンガイトを形成する早期アルミネート反応と、その後のCSH相の形成との両方に影響を及ぼす。
【0004】
一般的に知られている遅延剤、例えば酒石酸、クエン酸またはグルコン酸のようなセメント結合性の強い小分子ヒドロキシルカルボン酸の添加が、早期エトリンガイト形成に対する遅延または減速効果だけでなく、CSH形成を伴う後期反応相に対するさらに顕著な効果を有することが本分野でよく知られている。かかる添加は、初期凝結時間および最終強度が確立される時間を調整するために用いられている。より高い適用量では、これらの効果を、セメントペーストを非常に遅い強度発現で、または基本的に強度発現を全く伴わずに何時間、あるいは何日にもわたって効果的に「寝かせる」という程度まで推進することができる。
【0005】
米国特許第5,792,252号明細書は、アルカリ金属炭酸塩と、モノカルボン酸もしくはジカルボン酸、もしくはそのアルカリ金属塩、またはトリカルボン酸のアルカリ金属塩とを含有するセメント混和材料に関する。
【0006】
米国特許第4,175,975号明細書は、無機塩とともに機能し、ポルトランドセメント等の分散無機固体の水需要を低減する低分子量ポリアクリル酸の水溶性塩に関する。
【0007】
国際公開第2019/077050号には、アミン-グリオキシル酸縮合物と、ボレート源およびカーボネート源の少なくとも一方とを含むセメント質系用の凝結制御組成物が記載されている。
【0008】
早期圧縮強度を損なうことなく、長期間にわたってセメント質系の施工性を効果的に改善する、セメント質系用の更なる凝結制御組成物が必要とされ続けている。
【0009】
上記の問題は、セメント質系用の凝結制御組成物であって、
a)以下の(a-1)および(a-2)のカルボキシル基の総数に対して、(a-1)がカルボキシル基の少なくとも90%を占める、
(a-1)ヒドロキシモノカルボン酸またはその塩、および
(a-2)任意に、ポリカルボン酸の分子量をカルボン酸官能基の数で除算したものであるカルボン酸当量が333以下のポリカルボン酸、またはその塩、
b)1.2~20の範囲のa)に対するb)の重量比での
(b-1)ボレート源と、
(b-2)25℃で0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機カーボネート、および有機カーボネートから選択されるカーボネート源と
の少なくとも一方、ならびに
c)1.0~10の範囲のa)に対するc)の重量比でのポリオール
を含む、凝結制御組成物によって解決される。
【0010】
3つ全ての成分がセメント質系中に同時に存在する必要があり、性能にとって極めて重要である。成分のいずれか1つの欠如は、性能に深刻な影響を与える。一実施形態では、成分a)、b)およびc)の予混合物が、セメント質組成物に添加される凝結制御組成物を構成する。組成物は、成分を別々にセメント質系に直接添加することによってセメント質系中で直接作製されてもよい。
【0011】
上記の成分a-1)、b)およびc)は、個別にまたは上記の成分の少なくとも1つを欠く部分的な組合せ(sub-combinations)として使用されていたが、驚くべきことに、本発明による成分a-1)、b)およびc)の全ての組合せが、ポリカルボン酸a-2)が本質的に欠如していても相乗的に作用することが見出された。成分a-1)およびb)は、成分を単独で添加した場合にセメント質系の過度の遅延を引き起こし得る比較的高い適用量で適用される(例えば、以下の比較例20-aおよび20-bを参照されたい)。本発明の凝結制御組成物は、主に早期アルミネート反応に対して優れた遅延作用を有し、CSH形成に対しては僅かな影響しか及ぼさない。結晶性エトリンガイトは、エトリンガイト1mol当たり、つまり、Al当量当たり26モルのHOの含水量を有する。エトリンガイト形成の阻害は、エトリンガイト中に化学的に結合する水がより少なくなり、新たに形成された結晶表面に遊離水が物理的に吸着しなくなるため、初期施工性の改善をもたらす。初期施工性の改善にもかかわらず、エトリンガイト形成が始まると、顕著な「段階的硬化」効果が観察され、早い段階、例えば早ければ2~3時間で著しい強度発現が生じる。
【0012】
本発明による凝結制御組成物は、(a-1)および任意に(a-2)から選択される遅延剤a)を含み、(a-1)および(a-2)のカルボキシル基の総数に対して、(a-1)がカルボキシル基の少なくとも90%を占める。遅延剤は、アルミネート相を安定させ、それによりアルミネート相の溶解を遅らせるか、もしくはエトリンガイト結晶の沈殿を阻害し、かつ/もしくはエトリンガイト結晶シードの成長を妨げるか、または全ての効果の組合せにより、水硬性結合材に由来するアルミネート相からのエトリンガイトの急速な形成を抑制すると考えられる。
【0013】
成分(a-1)は、ヒドロキシモノカルボン酸またはその塩である。一般に、かかるヒドロキシモノカルボン酸またはその塩は、それ自体既知であり、早期および後期の水和相の両方に作用するオープンタイムの延長を可能にする。
【0014】
好適なヒドロキシモノカルボン酸またはその塩は、好ましくはα-ヒドロキシモノカルボン酸およびその塩であり、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、2,3-ジヒドロキシプロパン酸、ならびにそれらの塩およびそれらの混合物が挙げられる。ヒドロキシモノカルボン酸は、遊離酸として、または部分的もしくは完全に中和された形態で、つまり、塩として用いることができる。陽イオンは特に限定されず、ナトリウムまたはカリウム等のアルカリ金属、およびアンモニウム陽イオンから選択することができる。グルコン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0015】
成分(a-2)は、カルボン酸当量が333以下のポリカルボン酸、またはその塩である。成分(a-1)および(a-2)のカルボキシル基の総数に対して、成分(a-1)がカルボキシル基の少なくとも90%を占める限り、成分(a-2)は限定量で含まれ得る。
【0016】
一実施形態では、凝結制御組成物は、カルボン酸当量が333以下のポリカルボン酸、およびその塩、例えばアミン-グリオキシル酸縮合物、例えばメラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物もしくはポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物、またはその塩を本質的に含まない。例えば、成分(a-1)は、(a-1)および(a-2)のカルボキシル基の総数に対して、カルボキシル基の少なくとも95%、好ましくは98%、より好ましくは100%を占めることができる。
【0017】
ポリカルボン酸という用語は、本明細書で使用される場合、分子構造に2つ以上のカルボン酸官能基を含む化合物を意味する。これには、例えば2または3つのカルボン酸官能基を有する低分子量化合物、例えばクエン酸または酒石酸が含まれる。「ポリカルボン酸」という用語には、カルボン酸官能基を組み込んだモノマー単位と、任意に更なるモノマー単位とから構成されるポリマー化合物がさらに含まれる。ポリカルボン酸は、遊離酸として、または部分的もしくは完全に中和された形態で、つまり、塩として用いることができる。陽イオンは特に限定されず、ナトリウムまたはカリウム等のアルカリ金属、およびアンモニウム陽イオンから選択することができる。カルボン酸当量が333以下のポリカルボン酸、またはその塩のみが、本発明の意味におけるセメント凝結遅延剤として、つまり、主に早期水和相(エトリンガイト)の遅延に作用することが想定される。一方、より高いカルボン酸当量を有する高分子量化合物またはポリマー化合物は、カルボン酸同士がより離れて組み込まれることを意味するが、無視できる程度の遅延作用しか有しない。
【0018】
低分子量の分子については、カルボン酸基の数を計数することができる。低分子量化合物のカルボン酸当量は、分子量を分子構造内のカルボン酸官能基の数で除算したものとして決定することができる。これは、例えば、分子量が192g/molであり、3つのカルボン酸基を有するクエン酸が、192/3=64のカルボン酸当量を有することを意味する。
【0019】
より高い分子量または分子量分布を有する高分子ポリカルボン酸については、カルボン酸当量は、高分子ポリカルボン酸のサンプルの秤量およびカルボン酸基の滴定によって決定することができる。代替的に、既知のカルボン酸基密度を有する高分子ポリカルボン酸については、高分子ポリカルボン酸のカルボン酸当量は、ポリマー1グラム当たりの当量として表されるカルボン酸基密度の逆数として決定することができる。これは、例えば、3.0meq/gのミリ当量数を有する高分子ポリカルボン酸が、1/0.003=333のカルボン酸当量を有することを意味する。
【0020】
ポリカルボン酸の分子量は、25000g/mol以下であり、好ましくは、分子量は1000~25000g/mol、最も好ましくは1000~5000g/molの範囲である。分子量は、実験部に詳細に示すようにゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)によって測定することができる。
【0021】
成分b)は、(b-1)ボレート源および(b-2)カーボネート源の少なくとも一方である。
【0022】
ボレートまたはカーボネート源の存在は、配合水のホウ酸または炭酸イオンが最初に高濃度であることを確保する。ホウ酸または炭酸イオンは、鉱物相表面に吸着し、ヒドロキシモノカルボン酸および/またはポリカルボン酸が鉱物相表面に吸着するのを妨げると考えられる。したがって、後者は間隙溶液中に留まり、凝結前に間隙溶液中でエトリンガイトが形成されるのを最初に妨げる。
【0023】
ボレート源は、通常、急速に溶解し得る安価なボレート化合物を含む。好適なボレート源としては、ホウ砂、ホウ酸、メタボレート、コールマン石およびヘキサヒドロボレートが挙げられる。
【0024】
十分な水溶解度を有するカーボネート源のみが、所望の効果を達成するのに適している。カーボネート源は、25℃で0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機カーボネートであり得る。無機カーボネートの水溶解度は、開始pH値が7の水中で適切に決定される。溶解限度でのpH値が開始pH値よりも高いことが理解される。
【0025】
無機カーボネートは、アルカリ金属炭酸塩、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムまたは炭酸リチウム、および必要とされる水溶解度を満たすアルカリ土類金属炭酸塩、例えば炭酸マグネシウムから選択することができる。無機カーボネートとして炭酸グアニジンを使用することも可能である。炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウム、特に炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが特に好ましい。
【0026】
代替的には、カーボネート源は有機カーボネートから選択される。「有機カーボネート」は、炭酸のエステルを表す。有機カーボネートは、セメント質系の存在下で加水分解され、炭酸イオンを放出する。一実施形態では、有機カーボネートは、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸グリセロール、炭酸ジメチル、ジ(ヒドロキシエチル)カーボネートまたはそれらの混合物、好ましくは炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸グリセロール、またはそれらの混合物、特に炭酸エチレンおよび/または炭酸プロピレンから選択される。無機カーボネートと有機カーボネートとの混合物を使用することもできる。
【0027】
成分a)に対する成分b)の重量比は、1.2~20、好ましくは1.2~8.0、例えば4.0~6.0の範囲である。
【0028】
成分a)に対する成分b)の比率は、セメント質系の用途によって異なる。吹付けコンクリート等の幾つかの用途では、早期強度発現を損なうことなく凝結時間を十分に長くするために、20までの高い比率が必要とされる場合がある。他の用途については、比率は、典型的には1.2~8.0の範囲である。
【0029】
カーボネート源および/またはボレート源の量が過剰である場合、セメント質系は、不十分な施工性を示す。一方、量が少なすぎる場合、凝結が過度に速くなる。
【0030】
成分c)はポリオールである。ポリオールは1.0~10、好ましくは5.0~9.0の範囲のa)に対する成分c)の重量比で用いられる。
【0031】
グリセロール等のポリオールは、例えば硫酸カルシウムまたはC3Aのカルシウムイオンを、特にセメント質ミックスのアルカリ性pH条件下でキレート化すると考えられる。結果として、カルシウムイオンの解離が促進される。また、カルシウムイオンのキレート化は、溶液中のカルシウムを安定させ、アルミン酸カルシウム相の溶解を促進することで、これらのアルミン酸カルシウム相からのアルミネートをより利用しやすくし、結果として、それぞれの結合材組成物中で利用可能なクリンカーの全体量が、より良好/より完全に利用されるようになる。
【0032】
「ポリオール」は、分子中に少なくとも2つのアルコール性ヒドロキシル基、例えば3、4、5または6つのアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物を表すことを意図している。隣接ヒドロキシル基を有するポリオールが好ましい。3個の炭素原子に連続して結合した少なくとも3つのヒドロキシル基を有するポリオールが最も好ましい。
【0033】
カルシウムイオンをキレート化し、それにより溶液中のカルシウムを安定させるポリオールの能力は、アルミン酸カルシウム沈殿試験によって評価することができる。一実施形態では、ポリオールの1重量%水溶液400mLに1mol/L NaOH水溶液20mLおよび25mmol/L NaAlO水溶液50mLを添加することによって得られる試験溶液を、20℃にて0.5mol/L CaCl水溶液で滴定するアルミン酸カルシウム沈殿試験において、ポリオールは、75ppm、好ましくは90ppmのカルシウム濃度までアルミン酸カルシウムの沈殿を阻害する。
【0034】
この試験では、アルミン酸カルシウムの沈殿を混濁によって検出する。最初は、試験溶液は透明な溶液である。透明な試験溶液は、上記のように、例えば2mL/分の一定の適用速度のCaCl水溶液で滴定される。CaClの継続的な添加により、アルミン酸カルシウムが沈殿し、混濁によって試験溶液の光学特性が変化する。混濁の開始前の最大カルシウム濃度(Ca2+)として表される滴定終点は、開始点までの経過時間から算出することができる。
【0035】
好ましい実施形態では、ポリオールは、炭素、水素および酸素のみからなる化合物から選択され、分子中にカルボキシル基(COOH)を含まない。
【0036】
別の好ましい実施形態では、ポリオールは、炭素、水素および酸素のみからなる化合物から選択され、分子中にカルボキシル基(COOH)もカルボニル基(C=O)も含まない。「カルボニル基」という用語は、C=O基の互変異性体、つまり、ヒドロキシル基に隣接する二重結合した炭素原子対(-C=C(OH)-)を包含することが理解される。
【0037】
一実施形態では、ポリオールは、単糖、オリゴ糖、水溶性多糖、一般式(P-I):
【化1】
[式中、Xは、
【化2】
であり、式中、
Rは-CHCH、-CHOH、-NHであり、
nは1~4の整数であり、
mは1~8の整数である]
の化合物、または一般式(P-I)の化合物の二量体もしくは三量体から選択される。
【0038】
一実施形態では、ポリオールはサッカリドから選択される。有用なサッカリドとしては、単糖、例えばグルコースおよびフルクトース;二糖、例えばラクトースおよびスクロース;三糖、例えばラフィノース;ならびに水溶性多糖、例えばアミロースおよびマルトデキストリンが挙げられる。単糖および二糖、特にスクロースが特に好ましい。
【0039】
Xが(P-Ia)である式(P-I)の化合物は、一般に糖アルコールと称される。糖アルコールは、各炭素原子に結合した1つのヒドロキシル基(-OH)を含む、典型的には糖から誘導される有機化合物である。有用な糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、アラビトール、エリスリトールおよびグリセロールである。これらの中でも、エリスリトールおよびグリセロールが特に好ましい。炭酸グリセロール等の多価アルコールのカーボネートがポリオール源として機能し得ることが想定される。
【0040】
Xが(P-Ib)である式(P-I)の化合物としては、ペンタエリスリトール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよびトリス(ヒドロキシメチル)プロパンが挙げられる。
【0041】
Xが(P-Ic)である式(P-I)の化合物としては、トリエタノールアミンが挙げられる。
【0042】
二量体または三量体は、1または2分子の水の脱離を伴う縮合反応から形式的に誘導される、一般式(P-I)の2または3分子がエーテル架橋を介して連結された化合物を表す。式(P-I)の化合物の二量体および三量体の例としては、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールが挙げられる。
【0043】
凝結制御組成物は、分散剤をさらに含んでいてもよい。セメント用途に有用な分散剤は、それ自体既知である。本明細書における目的上、分散剤という用語は可塑剤および超可塑剤を含む。
【0044】
多くの有用な分散剤が、カルボキシル基、その塩、または加水分解時にカルボキシル基を放出する加水分解性基を含むことが理解されよう。好ましくは、これらの分散剤に含まれるカルボキシル基(または分散剤に含まれる加水分解性基の加水分解時に放出され得るカルボキシル基)のミリ当量数は、全てのカルボキシル基が中和されていない形態であると仮定して、3.0meq/g未満である。
【0045】
有用な分散剤の例としては、
- ペンダントセメント固定基およびポリエーテル側鎖が結合した炭素含有骨格を有する櫛型ポリマー、
- 加水分解性基が加水分解時にセメント固定基を放出する、ペンダント加水分解性基およびポリエーテル側鎖が結合した炭素含有骨格を有する非イオン性櫛型ポリマー、
- 多価金属陽イオンが、ポリマー分散剤の陰性および陰イオン生成基の合計に基づき、陽イオン当量として算出される超化学量論量で存在する、Al3+、Fe3+またはFe2+等の多価金属陽イオンと、陰性および/または陰イオン生成基ならびにポリエーテル側鎖を含むポリマー分散剤とのコロイド分散調製物、
- スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
- リグノスルホネート、
- スルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
- スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
- 好ましくは少なくとも1つのポリアルキレングリコール単位を含むホスホン酸塩含有分散剤、ならびに
- それらの混合物
が挙げられる。
【0046】
好ましくは、分散剤d)は、0.05~20の範囲のa)に対するd)の重量比で存在する。
【0047】
ペンダントセメント固定基およびポリエーテル側鎖が結合した炭素含有骨格を有する櫛型ポリマーが特に好ましい。セメント固定基は、カルボン酸基、ホスホン酸もしくはリン酸基、またはそれらの陰イオン等の陰性および/または陰イオン生成基である。陰イオン生成基は、ポリマー分散剤に存在する酸基であり、アルカリ性条件下でそれぞれの陰性基に変換することができる。
【0048】
好ましくは、陰性および/または陰イオン生成基を含む構造単位は、一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)および/または(Id):
【化3】
[式中、
はH、C~Cアルキル、CHCOOHまたはCHCO-X-R3A、好ましくはHまたはメチルであり、
XはNH-(Cn12n1)もしくはO-(Cn12n1)であり、n1=1、2、3もしくは4であるか、または化学結合であり、窒素原子もしくは酸素原子がCO基に結合し、
はOM、POもしくはO-POであるが、但し、RがOMである場合にXは化学結合であり、
3AはPOまたはO-POである];
【化4】
[式中、
はHまたはC~Cアルキル、好ましくはHまたはメチルであり、
nは0、1、2、3または4であり、
はPOまたはO-POである];
【化5】
[式中、
はHまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
ZはOまたはNRであり、
はH、(Cn12n1)-OH、(Cn12n1)-PO、(Cn12n1)-OPO、(C)-POまたは(C)-OPOであり、
n1は1、2、3または4である];
【化6】
[式中、
はHまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
QはNRまたはOであり、
はH、(Cn12n1)-OH、(Cn12n1)-PO、(Cn12n1)-OPO、(C)-POまたは(C)-OPOであり、
n1は1、2、3または4である]
の1つであり、各Mは独立してHまたは陽イオン相当物である。
【0049】
好ましくは、ポリエーテル側鎖を含む構造単位は、一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)および/または(IId):
【化7】
[式中、
10、R11およびR12は、互いに独立してHまたはC~Cアルキル、好ましくはHまたはメチルであり、
はOまたはSであり、
EはC~Cアルキレン、シクロヘキシレン、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレンもしくは1,4-フェニレンであり、
GはO、NHまたはCO-NHであるか、
EおよびGが一緒に化学結合であり、
AはC~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくはC~Cアルキレンであり、
n2は0、1、2、3、4または5であり、
aは2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
13はH、非分岐もしくは分岐C~Cアルキル基、CO-NHまたはCOCHである];
【化8】
[式中、
16、R17およびR18は、互いに独立してHまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
はC~Cアルキレン、シクロヘキシレン、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレンもしくは1,4-フェニレンであるか、または化学結合であり、
AはC~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくはC~Cアルキレンであり、
n2は0、1、2、3、4または5であり、
LはC~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくはC~Cアルキレンであり、
aは2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
dは1~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
19はHまたはC~Cアルキルであり、
20はHまたはC~Cアルキルである];
【化9】
[式中、
21、R22およびR23は、独立してHまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
WはO、NR25であるか、またはNであり、
Vは、W=OまたはNR25の場合は1、W=Nの場合は2であり、
AはC~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくはC~Cアルキレンであり、
aは2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
24はHまたはC~Cアルキルであり、
25はHまたはC~Cアルキルである];
【化10】
[式中、
はHまたはC~Cアルキル、好ましくはHであり、
QはNR10、NまたはOであり、
Vは、Q=OまたはNR10の場合は1、Q=Nの場合は2であり、
10はHまたはC~Cアルキルであり、
AはC~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくはC~Cアルキレンであり、
aは2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数である]
の1つであり、各Mは独立してHまたは陽イオン相当物である。
【0050】
構造単位(I)と構造単位(II)とのモル比は、1:3~約10:1、好ましくは1:1~10:1、より好ましくは3:1~6:1で変化する。構造単位(I)および(II)を含むポリマー分散剤は、従来の方法、例えばフリーラジカル重合または制御ラジカル重合によって調製することができる。分散剤の調製は、例えば欧州特許出願公開第0894811号明細書、欧州特許出願公開第1851256号明細書、欧州特許出願公開第2463314号明細書および欧州特許出願公開第0753488号明細書に記載されている。
【0051】
多くの有用な分散剤は、カルボキシル基、その塩、または加水分解時にカルボキシル基を放出する加水分解性基を含む。好ましくは、これらの分散剤に含まれるカルボキシル基(または分散剤に含まれる加水分解性基の加水分解時に放出され得るカルボキシル基)のミリ当量数は、全てのカルボキシル基が中和されていない形態であると仮定して、3.0meq/g未満である。
【0052】
より好ましくは、分散剤はポリカルボン酸エーテル(PCE)の群から選択される。PCEにおいて、陰性基はカルボン酸基および/またはカルボキシレート基である。PCEは、好ましくはポリエーテルマクロモノマーと、陰性および/または陰イオン生成基を含むモノマーとのラジカル共重合によって得られる。好ましくは、コポリマーを構成する全構造単位の少なくとも45モル%、好ましくは少なくとも80モル%が、ポリエーテルマクロモノマー、または陰性および/もしくは陰イオン生成基を含むモノマーの構造単位である。
【0053】
ペンダントセメント固定基およびポリエーテル側鎖が結合した炭素含有骨格を有する好適な櫛型ポリマーの更なるクラスは、構造単位(III)および(IV):
【化11】
[式中、
Tはフェニル、ナフチル、または5~10個の環原子を有し、そのうち1もしくは2個の原子がN、OおよびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
n3は1または2であり、
BはN、NHまたはOであるが、但し、BがNである場合にn3は2であり、BがNHまたはOである場合にn3は1であり、
AはC~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくはC~Cアルキレンであり、
a2は1~300の整数であり、
26はH、C~C10アルキル、C~Cシクロアルキル、アリール、または5~10個の環原子を有し、そのうち1もしくは2個の原子がN、OおよびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールである]
を含み、構造単位(IV)は、構造単位(IVa)および(IVb):
【化12】
[式中、
Dはフェニル、ナフチル、または5~10個の環原子を有し、そのうち1もしくは2個の原子がN、OおよびSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
はN、NHまたはOであるが、但し、EがNである場合にmは2であり、EがNHまたはOである場合にmは1であり、
AはC~CアルキレンまたはCHCH(C)、好ましくはC~Cアルキレンであり、
bは0~300の整数であり、
Mは独立してHまたは陽イオン相当物である];
【化13】
[式中、
はフェニルまたはナフチルであり、R、OH、OR、(CO)R、COOM、COOR、SOおよびNOから選択される1または2個のラジカルによって任意に置換され、
7AはCOOM、OCHCOOM、SOMまたはOPOであり、
MはHまたは陽イオン相当物であり、
はC~Cアルキル、フェニル、ナフチル、フェニル-C~CアルキルまたはC~Cアルキルフェニルである]
から選択される。
【0054】
構造単位(III)および(IV)を含むポリマーは、芳香族またはヘテロ芳香族コアに結合したポリオキシアルキレン基を有する芳香族またはヘテロ芳香族化合物、カルボン酸、スルホン酸またはリン酸部分を有する芳香族化合物、およびホルムアルデヒド等のアルデヒド化合物の重縮合によって得られる。
【0055】
一実施形態では、分散剤は、加水分解性基が加水分解時にセメント固定基を放出する、ペンダント加水分解性基およびポリエーテル側鎖が結合した炭素含有骨格を有する非イオン性櫛型ポリマーである。好都合には、ポリエーテル側鎖を含む構造単位は、上で論考した一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)および/または(IId)の1つである。ペンダント加水分解性基を有する構造単位は、好ましくはアクリル酸エステルモノマー、より好ましくはヒドロキシアルキルアクリルモノエステルおよび/またはヒドロキシアルキルジエステル、最も好ましくはヒドロキシプロピルアクリレートおよび/またはヒドロキシエチルアクリレートから誘導される。エステル官能基は、好ましくはセメント系結合材と水とを混合することによってもたらされるアルカリ性pHで水に曝露されて、(脱プロトン化)酸基へと加水分解し、次いで得られる酸官能基がセメント成分と複合体を形成する。
【0056】
一実施形態では、分散剤は、Al3+、Fe3+またはFe2+等の多価金属陽イオンと、陰性および/または陰イオン生成基ならびにポリエーテル側鎖を含むポリマー分散剤とのコロイド分散調製物から選択される。多価金属陽イオンは、ポリマー分散剤の陰性および陰イオン生成基の合計に基づき、陽イオン当量として算出される超化学量論量で存在する。かかる分散剤は、参照により本明細書に援用される国際公開第2014/013077号にさらに詳細に記載されている。
【0057】
好適なスルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物は、水硬性結合材用の可塑剤としてよく使用される種類のものである(MFS樹脂とも称される)。スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物およびそれらの調製は、例えばカナダ国特許出願公開第2172004号明細書、独国特許出願公開第4411797号明細書、米国特許第4,430,469号明細書、米国特許第6,555,683号明細書およびスイス国特許発明第686186号明細書、さらにはUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th Ed., vol. A2, page 131およびConcrete Admixtures Handbook - Properties, Science and Technology, 2. Ed., pages 411, 412に記載されている。好ましいスルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物は、(大幅に簡略化および理想化された)式
【化14】
[式中、n4は、概して、10~300を表す]の単位を包含する。モル重量は、好ましくは2500~80000の範囲内にある。さらに、スルホン化メラミン単位に、縮合によって他のモノマーを組み込むことが可能である。尿素が特に好適である。加えて、没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アンモニオ安息香酸(ammoniobenzoic acid)、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸およびピリジンジカルボン酸等の更なる芳香族単位を縮合によって組み込んでもよい。メラミンスルホネート-ホルムアルデヒド縮合物の一例は、Master Builders Solutions Deutschland GmbHによって販売されるMelment(登録商標)製品である。
【0058】
好適なリグノスルホネートは、製紙業において副生成物として得られる生成物である。これらは、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th Ed., vol. A8, pages 586, 587に記載されている。リグノスルホネートには、高度に簡略化および理想化された式
【化15】
の単位が含まれる。リグノスルホネートは、2000~100000g/molのモル重量を有する。一般に、リグノスルホネートは、そのナトリウム、カルシウムおよび/またはマグネシウム塩の形態で存在する。好適なリグノスルホネートの例は、ノルウェーのBorregaard LignoTechによって販売されるBorresperse製品である。
【0059】
好適なスルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物は、ケトン成分としてモノケトンまたはジケトン、好ましくはアセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノンまたはシクロヘキサノンを組み込んだ生成物である。この種の縮合物は既知であり、例えば国際公開第2009/103579号に記載されている。スルホン化アセトン-ホルムアルデヒド縮合物が好ましい。これらは一般に、式(J. Plank et al., J. Appl. Poly. Sci. 2009, 2018-2024による):
【化16】
[式中、m2およびn5は、概して、各々10~250であり、Mは、Na等のアルカリ金属イオンであり、比率m2:n5は、概して、約3:1~約1:3、より詳細には約1.2:1~1:1.2の範囲である]の単位を含む。さらに、没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アンモニオ安息香酸、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸およびピリジンジカルボン酸等の他の芳香族単位を縮合によって組み込むことも可能である。好適なスルホン化アセトン-ホルムアルデヒド縮合物の例は、Master Builders Solutions Deutschland GmbHによって販売されるMelcret K1L製品である。
【0060】
好適なスルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物は、ナフタレンのスルホン化およびその後のホルムアルデヒドとの重縮合によって得られる生成物である。これらは、Concrete Admixtures Handbook - Properties, Science and Technology, 2. Ed., pages 411-413を含む参照文献およびUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th Ed., vol. A8, pages 587, 588に記載されている。スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物には、式
【化17】
の単位が含まれる。
【0061】
典型的には、1000~50000g/molのモル重量(Mw)が得られる。さらに、没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アンモニオ安息香酸、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸およびピリジンジカルボン酸等の他の芳香族単位を縮合によって組み込むことも可能である。好適なスルホン化β-ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物の例は、Master Builders Solutions Deutschland GmbHによって販売されるMelcret 500 L製品である。
【0062】
一般に、ホスホン酸塩含有分散剤には、ホスホン酸基およびポリエーテル側基が組み込まれる。
【0063】
好適なホスホン酸塩含有分散剤は、以下の式
R-(OAn6-N-[CH-PO(OM
[式中、
RはHまたは炭化水素残基、好ましくはC~C15アルキルラジカルであり、
は独立してC~C18アルキレン、好ましくはエチレンおよび/またはプロピレン、最も好ましくはエチレンであり、
n6は5~500、好ましくは10~200、最も好ましくは10~100の整数であり、
はH、アルカリ金属、1/2アルカリ土類金属および/またはアミンである]
によるものである。
【0064】
本発明による凝結制御組成物は、溶液または分散液、特に水溶液または水分散液として存在することができる。溶液または分散液は、好適には10~50重量%、特に25~35重量%の固形分を有する。代替的には、本発明による凝結制御組成物は、粉末として存在することができる。本発明による凝結制御組成物は、配合水に導入しても、またはモルタルもしくはコンクリートの混合中に導入してもよい。
【0065】
凝結制御組成物は、様々なセメント系結合材、例えばポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメントおよびスルホアルミネートセメントの凝結時間を制御するために使用することができる。一実施形態では、セメント系結合材は、ポルトランドセメントとアルミネートセメントとの混合物、またはポルトランドセメントとスルホアルミネートセメントとの混合物、またはポルトランドセメントと、アルミネートセメントと、スルホアルミネートセメントとの混合物を含む。特に、凝結制御組成物は、利用可能な全アルミネートの濃度が制御された建設用組成物に使用される。
【0066】
本発明は、建設用組成物であって、
i)1つ以上のケイ酸カルシウム鉱物相と1つ以上のアルミン酸カルシウム鉱物相とを含むセメント系結合材、
ii)任意に、外部アルミネート源、
iii)任意に、外部スルフェート源
を含み、
建設用組成物が、
iv)
iv-a)以下の(a-1)および(a-2)のカルボキシル基の総数に対して、(a-1)がカルボキシル基の少なくとも90%を占める、
(a-1)ヒドロキシモノカルボン酸またはその塩、および
(a-2)任意に、ポリカルボン酸の分子量をカルボン酸官能基の数で除算したものであるカルボン酸当量が333以下のポリカルボン酸、またはその塩、
iv-b)1.2~20の範囲のiv-a)に対するiv-b)の重量比での
(b-1)ボレート源と、
(b-2)25℃で0.1g・L-1以上の水溶解度を有する無機カーボネート、および有機カーボネートから選択されるカーボネート源と
のうちの少なくとも一方、ならびに
iv-c)1.0~10の範囲のiv-a)に対するiv-c)の重量比でのポリオール
を含む凝結制御組成物
をさらに含む、建設用組成物にも関する。
【0067】
一実施形態では、建設用組成物は、セメント系結合材i)100g当たり、アルミン酸カルシウム鉱物相+任意の外部アルミネート源からAl(OH) として算出される利用可能な全アルミネートを0.05~0.2mol含有し、利用可能な全アルミネートとスルフェートとのモル比は0.4~2.0である。
【0068】
示される利用可能なアルミネートの量および利用可能な全アルミネートとスルフェートとのモル比により、高い早期強度を得ることができる。高い早期強度は、生産性の観点から重要であり、例えばコンクリートの既製要素の製造中に鋳型の回転率を高めるために重要である。
【0069】
任意に、建設用組成物は分散剤iv-d)を含有する。
【0070】
概して、建設用組成物中のセメント系結合材i)の量は、建設用組成物の固形分に対して少なくとも8重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、最も好ましくは少なくとも20重量%である。
【0071】
成分iv-a)~iv-d)は、上記の成分a)~d)に対応する。上記の論考および好ましい実施形態は、凝結制御組成物および建設用組成物の両方に当てはまる。
【0072】
一実施形態では、建設用組成物は、セメント系結合材i)の量に対して、
- 0.2~2重量%、好ましくは0.2~0.6重量%の量の遅延剤iv-a)と、
- 0.8~2.5重量%、好ましくは1.0~2.0重量%の量のボレート/カーボネート源iv-b)と、
- 0.2~2.5重量%の量のポリオールiv-c)と
を含む。
【0073】
ボレート/カーボネート源iv-b)の量は、上記の範囲内で適切に変化させることができるが、本発明の建設用組成物に添加するボレート/カーボネート源iv-b)の最適量が、利用可能なアルミネートの総含有量に或る程度依存することが見出されている。より具体的には、ボレート/カーボネート源iv-b)の量は、
- 利用可能なアルミネートの総含有量がセメント系結合材i)100g当たり0.05~0.08mol未満の範囲である場合、0.7~1.2重量%であり、
- 利用可能なアルミネートの総含有量がセメント系結合材i)100g当たり0.08~0.2molの範囲である場合、1.2~2.0重量%である。
【0074】
ポリオールiv-c)の量は、上記の範囲内で適切に変化させることができるが、本発明の建設用組成物に添加するポリオールiv-c)の最適量が、セメントクリンカーの細かさに或る程度依存することが見出されている。原則として、セメント系結合材i)のブレーン表面積が1500~4000cm/gである場合、ポリオールiv-c)の量は、セメント系結合材i)の量に対して0.2~1重量%であり、ブレーン表面積が4000cm/g超である場合、ポリオールiv-c)の量は、セメント系結合材i)の量に対して1超~2.5重量%である。しかしながら、フィラーまたは補助セメント系材料等の添加物は、クリンカーのブレーン表面積を或る程度不明瞭にする可能性がある。したがって、上記の原則は、フィラーまたは補助セメント系材料等の添加物を本質的に含有しないセメント系結合材に主に当てはまる。ブレーン表面積は、DIN EN 196-6に従って決定することができる。
【0075】
セメント系結合材i)は、水中で硬化し、セメントを含む結合材を表す。セメントは、原料混合物を高温で燃焼させることによって得られる焼結生成物であり、水硬反応性のケイ酸カルシウム鉱物相およびアルミン酸カルシウム鉱物相を含む粉砕クリンカーを含有する。クリンカーは、添加剤の有無にかかわらず粉砕される。一実施形態では、上で定義した成分iv-a)、iv-b)および/またはポリオールiv-c)の全てまたは一部が、クリンカーの粉砕中に既に存在していてもよい。成分iv-a)、iv-b)および/またはポリオールiv-c)の全てまたは一部の部分量のみがクリンカーの粉砕中に存在し、後に残りが最終濃度まで添加されることも想定される。
【0076】
概して、ケイ酸カルシウム鉱物相およびアルミン酸カルシウム鉱物相は、セメント系結合材i)の少なくとも90重量%を占める。さらに、ケイ酸カルシウム鉱物相は、好ましくはセメント系結合材i)の少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも65重量%、最も好ましくは65~75重量%を占める。
【0077】
便宜上、鉱物学的相は、本明細書ではセメント表記によって示される。主要な化合物は、セメント表記では酸化物の種類によって表される:CはCaO、MはMgO、SはSiO、AはAl、$はSO、FはFe、HはHO。
【0078】
好適には、ケイ酸カルシウム鉱物相は、C3S(エーライト)およびC2S(ビーライト)から選択される。ケイ酸カルシウム鉱物相は、最終的な強度特性をもたらす。
【0079】
好適には、アルミン酸カルシウム鉱物相はC3A、C4AFおよびC12A7、特にC3AおよびC4AFから選択される。
【0080】
一実施形態では、セメント系結合材i)はポルトランドセメント、特に普通ポルトランドセメント(OPC)である。「ポルトランドセメント」という用語は、ポルトランドクリンカーを含有する任意のセメント化合物、特に規格EN 197-1の5.2項の意味におけるCEM Iを表す。好ましいセメントは、DIN EN 197-1に準拠した普通ポルトランドセメント(OPC)である。ポルトランドセメントを主に構成する相は、エーライト(C3S)、ビーライト(C2S)、アルミン酸カルシウム(C3A)、フェロアルミン酸カルシウム(C4AF)および他の微量相である。市販のOPCは、硫酸カルシウムを含有していてもよく(<7重量%)、または硫酸カルシウムを本質的に含まない(<1重量%)。
【0081】
実施形態において、建設用組成物は、セメント系結合材i)100g当たり、アルミン酸カルシウム鉱物相+任意の外部アルミネート源からAl(OH) として算出される利用可能な全アルミネートを0.05~0.2mol含有する。好ましくは、建設用組成物は、セメント系結合材i)100g当たり少なくとも0.065mol、特に少なくとも0.072molの利用可能な全アルミネートを含有する。
【0082】
セメント系結合材i)100g当たり少なくとも0.05molの利用可能な全アルミネートを含有する建設用組成物が、凝結前のオープンタイムおよび早期強度発現に関して最適な性能を示すことが見出されている。そうでなければ、セメント系結合材がセメント系結合材i)100g当たり0.2mol超の利用可能な全アルミネートを含有する場合、早期強度発現が過度に速いため、オープンタイムが短くなる。
【0083】
一般に、ポルトランドセメント中の主要鉱物のおおよその割合は、例えば蛍光X線(XRF)を用いて決定されるクリンカーの元素組成に基づくボーグ式によって算出される。かかる方法により、元素の酸化物組成が得られる。つまり、Alの量はAlとして報告される。一見同じAl含有量を有するセメントが、早期強度および水和制御による制御性に関して全く異なる特性を示すことが見出されている。セメントには、鉱物学的性質および溶解度の非常に異なるAl源が含まれる。本発明者らは、全てのAlがエトリンガイトの形成に利用可能またはアクセス可能であるとは限らないことを見出した。セメントペーストの水性環境で適切な溶解度を有するAl含有鉱物相のみが、エトリンガイトの形成に関与する。他のAl含有鉱物、例えば結晶性酸化アルミニウム、例えばコランダムは、限られた溶解度のために水性環境ではアルミネートを生成しない。結果として、元素分析単独では、利用可能なアルミネートの信頼性の高い値を得ることはできない。
【0084】
「利用可能なアルミネート」は、アルカリ性水性環境でAl(OH) を生成することが可能な鉱物相およびAl含有化合物を包含することが意図される。C3A(CaAl)等のアルミン酸カルシウム相は、アルカリ性水性環境で溶解し、Al(OH) およびCa2+イオンを生じる。本発明の目的上、Al(OH) を生成することが可能な鉱物相およびAl含有化合物の濃度は、セメント系結合材i)100g当たりのAl(OH) のモルとして表される。
【0085】
一般的なアルミン酸カルシウム鉱物相は、結晶性酸化アルミニウムとは対照的に、利用可能なアルミネートの供給源であると考えられる。したがって、所与のセメント系結合材中の利用可能なアルミネートの量は、セメント系結合材を構成する鉱物相を区別し得る方法によって決定することができる。この目的に有用な方法は、X線回折(XRD)粉末パターンのリートベルト精緻化である。このソフトウェア技法は、格子パラメーター、ピーク位置、強度および形状を含む様々なパラメーターを精緻化するために使用される。これにより理論上の回折パターンを算出することができる。算出された回折パターンが試験サンプルのデータとほぼ同一となれば、含まれる鉱物相に関する正確な定量情報を決定することができる。
【0086】
一般に、アルカリ性水性環境でAl(OH) を生成することが可能なアルミン酸カルシウム鉱物相は、アルミン酸三カルシウム(C3A)、アルミン酸一カルシウム(CA)、マイエナイト(C12A7)、グロサイト(CA2)、Q相(C20A13M3S3)またはテトラカルシウムアルミノフェライト(C4AF)である。実際には、セメント系結合材i)がポルトランドセメントである場合、一般に以下の鉱物相:アルミン酸三カルシウム(C3A)、アルミン酸一カルシウム(CA)、マイエナイト(C12A7)およびテトラカルシウムアルミノフェライト(C4AF)、特にアルミン酸三カルシウム(C3A)およびテトラカルシウムアルミノフェライト(C4AF)のみを評価すれば十分である。
【0087】
代替的には、利用可能なアルミネートの量は、例えばXRFによってセメント系結合材i)の元素組成からAlの総量を決定し、XRDおよびリートベルト精緻化によって決定される、利用可能なアルミネートを生成することができない結晶性アルミニウム化合物の量をそれから減算することで得ることができる。この方法では、利用可能なアルミネートを生成することが可能な非晶質可溶性アルミニウム化合物も考慮に入れる。利用可能なアルミネートを生成することができない、かかる結晶性アルミニウム化合物としては、メリライト族の化合物、例えばゲーレナイト(C2AS)、スピネル族の化合物、例えば、スピネル(MA)、ムライト(AlAl2+2xSi2-2x10-x)およびコランダム(Al)が挙げられる。
【0088】
一実施形態では、本発明では、例えばXRD分析によって決定されるように、アルミン酸カルシウム鉱物相からの利用可能なアルミネートを0.05~0.2mol含有するセメント系結合材を利用する。
【0089】
代替的には、セメント系結合材i)が、セメント系結合材i)100g当たり、不十分な濃度の利用可能なアルミネートを本質的に含有する場合、外部アルミネート源ii)を添加することができる。したがって、幾つかの実施形態では、建設用組成物は外部アルミネート源ii)を含有する。
【0090】
外部アルミネート源ii)は、上で定義した利用可能なアルミネートを供給する。好適には、外部アルミネート源ii)は、カルシウム不含アルミネート源、例えばアルミニウム(III)塩、アルミニウム(III)錯体、結晶性水酸化アルミニウム、非晶質水酸化アルミニウム;およびカルシウム含有アルミネート源、例えば高アルミナセメント、スルホアルミネートセメントまたは合成アルミン酸カルシウム鉱物相から選択される。
【0091】
有用なアルミニウム(III)塩は、アルカリ性水性環境で容易にAl(OH) を形成するアルミニウム(III)塩である。好適なアルミニウム(III)塩としては、ハロゲン化アルミニウム、例えば塩化アルミニウム(III)、およびそれらの対応する水和物、非晶質酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムまたはそれらの混合形態、硫酸アルミニウムまたはスルフェート含有アルミニウム塩、例えばカリウムミョウバン、およびそれらの対応する水和物、硝酸アルミニウム、亜硝酸アルミニウムおよびそれらの対応する水和物、アルミニウム錯体、例えばアルミニウムトリホルメート、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムジアセテートおよびアルミニウムモノアセテート、アルミニウム含有有機金属構造体、例えばフマル酸アルミニウム、例えばBasolite(商標) A520、およびM(II)アルミニウムオキソ水和物、例えばハイドロガーネットが挙げられるが、これらに限定されない。水酸化アルミニウム(III)は、結晶性であってもよいし、非晶質であってもよい。好ましくは、非晶質水酸化アルミニウムが使用される。
【0092】
高アルミネートセメントは、高濃度、例えば少なくとも30重量%のアルミン酸カルシウム相を含むセメントを意味する。より正確には、アルミネート型の上記鉱物学的相は、アルミン酸三カルシウム(C3A)、アルミン酸一カルシウム(CA)、マイエナイト(C12A7)、テトラカルシウムアルミノフェライト(C4AF)、またはこれらの相の幾つかの組合せを含む。
【0093】
スルホアルミネートセメントは、典型的には15重量%超のイーリマイト(化学式4CaO・3Al・SOまたはセメント表記でC4A3$)の含有量を有する。
【0094】
好適な合成アルミン酸カルシウム鉱物相には、非晶質マイエナイト(C12A7)が含まれる。
【0095】
建設用組成物は、スルフェート源iii)を含む。スルフェート源は、アルカリ性水性環境でスルフェートイオンを供給することが可能な化合物である。一般に、スルフェート源は、30℃の温度で少なくとも0.6mmol g・L-1の水溶解度を有する。スルフェート源の水溶解度は、開始pH値が7の水中で適切に決定される。
【0096】
実施形態において、利用可能な全アルミネートとスルフェートとのモル比は、0.4~2.0、好ましくは0.57~0.8の範囲、特に約0.67である。つまり、組成物における混合比は、利用可能なアルミネートから可能な限り高い割合のエトリンガイトが形成されるように調整される。
【0097】
前述のように、市販されているポルトランドセメントは、通例、少量のスルフェート源を含有する。スルフェートの内在量が不明である場合、XRFによる元素分析等の当業者によく知られている方法によって決定することができる。セメント製造に一般に使用されるスルフェート源であるアルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩、またはそれらの混合形態、例えば石膏、半水石膏、硬石膏、アルカナイト、テナルダイト、シンゲナイト、ラングバイナイトは、通例、結晶性であるため、その量はXRDによって決定することもできる。利用可能な全アルミネートとスルフェートとのモル比の算出では、スルフェート源の内在量と任意の添加された外部スルフェート源との両方が考慮される。
【0098】
概して、外部スルフェート源は硫酸カルシウム二水和物、硬石膏、αおよびβ-半水石膏、つまり、α-バサナイトおよびβ-バサナイト、またはそれらの混合物から選択することができる。好ましくは、硫酸カルシウム源は、α-バサナイトおよび/またはβ-バサナイトである。他のスルフェート源は、硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムのようなアルカリ金属硫酸塩である。
【0099】
添加剤が、硫酸アルミニウム16水和物または硫酸アルミニウム18水和物等のアルミネートおよびスルフェートの両方の供給源として機能し得ることが想定される。
【0100】
好ましくは、外部スルフェート源iii)は硫酸カルシウム源である。硫酸カルシウム源は、概して、セメント系結合材i)の量に対して3~20重量%、好ましくは10~15重量%の量で含まれる。
【0101】
一実施形態では、建設用組成物は、潜在水硬性結合材、ポゾラン結合材およびフィラー材料の少なくとも1つをさらに含む。
【0102】
本発明の目的上、「潜在水硬性結合材」は、好ましくはモル比(CaO+MgO):SiOが0.8~2.5、特に1.0~2.0である結合材である。概して、上述の潜在水硬性結合材は、工業および/または合成スラグ、特に高炉スラグ、電熱リンスラグ、製鋼スラグおよびそれらの混合物から選択することができる。「ポゾラン結合材」は、概して、非晶質シリカ、好ましくは沈降シリカ、ヒュームドシリカおよびマイクロシリカ、粉砕ガラス、メタカオリン、アルミノケイ酸塩、フライアッシュ、好ましくは褐炭フライアッシュおよび無煙炭フライアッシュ、天然ポゾラン、例えば凝灰岩、トラスおよび火山灰、焼成粘土、焼成頁岩、籾殻灰、天然および合成ゼオライト、ならびにそれらの混合物から選択することができる。
【0103】
スラグは工業スラグ、つまり、工業プロセスからの廃棄物、あるいは合成スラグであってよい。工業スラグは常に一貫した量および品質で入手可能とは限らないため、後者が有利であり得る。
【0104】
高炉スラグ(BFS)は、ガラス炉プロセスの廃棄物である。他の材料は高炉水砕スラグ(GBFS)、および高炉水砕スラグを細かく粉砕した高炉スラグ微粉末(GGBFS)である。高炉スラグ微粉末は、起源および処理方法によって粉砕の細かさおよび粒度分布の点で異なり、ここでは粉砕の細かさが反応性に影響を与える。ブレーン値が粉砕の細かさのパラメーターとして使用され、典型的には200~1000m kg-1、好ましくは300~500m kg-1程度である。より細かい摩砕がより高い反応性をもたらす。
【0105】
しかしながら、本発明の目的上、「高炉スラグ」という表現は、言及した全てのレベルの処理、摩砕および品質(つまり、BFS、GBFSおよびGGBFS)から得られる材料を含むことを意図している。高炉スラグは、一般に30~45重量%のCaO、約4~17重量%のMgO、約30~45重量%のSiOおよび約5~15重量%のAl、典型的には約40重量%のCaO、約10重量%のMgO、約35重量%のSiOおよび約12重量%のAlを含む。
【0106】
電熱リンスラグは、電熱リン製造の廃棄物である。これは、高炉スラグよりも反応性が低く、約45~50重量%のCaO、約0.5~3重量%のMgO、約38~43重量%のSiO、約2~5重量%のAlおよび約0.2~3重量%のFe、さらにはフッ化物およびリン酸塩を含む。製鋼スラグは、大きく異なる組成を有する様々な鉄鋼製造プロセスの廃棄物である。
【0107】
非晶質シリカは、好ましくはX線非晶質シリカ、つまり、粉末回折法により結晶性が認められないシリカである。本発明の非晶質シリカ中のSiOの含有量は、有利には少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%である。沈降シリカは、水ガラスから出発する沈殿プロセスによって工業規模で得られる。幾つかの製造プロセスからの沈降シリカは、シリカゲルとも呼ばれる。
【0108】
ヒュームドシリカは、水素/酸素炎中でのクロロシラン、例えば四塩化ケイ素の反応によって製造される。ヒュームドシリカは、50~600m-1の比表面積を有する粒径5~50nmの非晶質SiO粉末である。
【0109】
マイクロシリカは、シリコン製造またはフェロシリコン製造の副生成物であり、同様に主に非晶質SiO粉末からなる。粒子は0.1μm程度の直径を有する。比表面積は15~30m-1程度である。
【0110】
メタカオリンは、カオリンを脱水することで生成する。100~200℃では、カオリンは物理的に結合した水を放出するが、500~800℃では、脱ヒドロキシル化が起こり、格子構造が崩壊してメタカオリン(AlSi)が形成される。したがって、純粋なメタカオリンは、約54重量%のSiOおよび約46重量%のAlを含む。
【0111】
フライアッシュは、特に発電所における石炭の燃焼時に発生する。クラスCフライアッシュ(褐炭フライアッシュ)は、国際公開第08/012438号によると、約10重量%のCaOを含み、クラスFフライアッシュ(無煙炭フライアッシュ)は、8重量%未満、好ましくは4重量%未満、典型的には約2重量%のCaOを含む。
【0112】
本発明の目的上、「フィラー材料」は、例えばシリカ、石英、砂、破砕大理石、ガラス球、花崗岩、玄武岩、石灰石、砂岩、カルサイト、大理石、蛇紋石、トラバーチン、ドロマイト、長石、片麻岩、沖積砂、任意の他の耐久性骨材およびそれらの混合物であり得る。特に、フィラーは結合材として機能しない。
【0113】
本発明は、混合したての形態の、つまり、水を含む本発明による建設用組成物にも関する。好ましくは、セメント系結合材i)に対する水の比率は、0.2~3の範囲である。工業的実施に際しては、セメント系結合材に対する水の比率は、セメント質系の用途に応じて決まる。鉱山の埋め戻し等の幾つかの用途では、セメントペーストの高い流動性が必要とされ、セメント系結合材に対する水の比率が最大3である必要がある。他の用途については、セメント系結合材に対する水の比率は、0.2~0.7の範囲である。
【0114】
混合したての建設用組成物は、例えばコンクリート、モルタルまたはグラウトであり得る。
【0115】
「モルタル」または「グラウト」という用語は、細骨材、つまり、直径が150μm~5mmの骨材(例えば砂)および任意に極細骨材を添加したセメントペーストを表す。グラウトは、空隙または間隙を充填するのに十分に低い粘度の混合物である。モルタルの粘度は、モルタル自身の重量だけでなく、その上に配置された組積造の重量も支持するのに十分に高い。「コンクリート」という用語は、粗骨材、つまり、直径が5mm超の骨材を添加したモルタルを表す。
【0116】
建設用組成物は、ドライミックスとして提供することができ、これに現場で水を添加し、混合したての建設用組成物が得られる。代替的には、建設用組成物は、混合済みまたは混合したての組成物として提供することができる。
【0117】
混合したての水性建設用組成物は、セメント系結合材i)およびスルフェート源iii)を含有する粉末状成分Cと、液体水性成分Wとを混合することによって得られ、成分iv-a)およびiv-b)は、成分CおよびWの一方または両方に含まれる。ポリオールiv-c)および任意に分散剤iv-d)は、好ましく成分Wに含まれる。任意の外部アルミネート源ii)は、好ましくは成分Cに含まれる。
【0118】
任意の成分v)、つまり、潜在水硬性結合材、ポゾラン結合材およびフィラー材料の少なくとも1つの添加順序は、主に成分v)の含水量によって異なる。成分v)が本質的に無水の形態で供給される場合、好都合には成分Cに含まれ得る。そうでなければ、より一般的には、成分v)が成分Wと予め混合され、成分Cが続いて混ぜ込まれる。
【0119】
この混合レジメンにより、エトリンガイト形成を効果的に制御する成分iv-a)およびiv-b)を同時に存在させることなく、セメント系結合材i)が水に曝された場合に生じるエトリンガイトの即時形成が妨げられる。
【0120】
実際的な実施形態では、成分iv-a)およびiv-b)、ポリオールiv-c)、ならびに任意に分散剤iv-d)が配合水の一部に溶解され、湿った成分v)、例えば砂が混和される。続いて、セメント系結合材i)、スルフェート源iii)、任意に外部アルミネート源ii)および任意に石灰石等の無水成分v)の予め混合したミックスが混合物に添加される。次いで、残りの水を添加して粘稠度が調整される。
【0121】
好ましくは、潜在水硬性結合材、ポゾラン結合材およびフィラー材料v)の少なくとも1つは、混合したての建設用組成物の500~1900kg/m、好ましくは700~1700kg/mの量で存在する。
【0122】
本発明による建設用組成物は、建材の製造等の用途、特にコンクリート、例えば現場コンクリート、完成コンクリート部品、製造コンクリート部品(MCP)、プレキャストコンクリート部品、コンクリート製品、キャストコンクリート石材、コンクリートレンガ、現場打ちコンクリート、生コンクリート、空中打設コンクリート、吹付けコンクリート/モルタル、コンクリート補修系、3D印刷コンクリート/モルタル、工業用セメント床材、一成分および二成分シーリングスラリー、地盤もしくは岩盤改良および土壌調整用のスラリー、スクリード、充填およびセルフレベリング組成物、例えば目地材もしくはセルフレベリング下敷き、高性能コンクリート(HPC)および超高性能コンクリート(UHPC)、密閉製造コンクリートスラブ、建築用コンクリート、タイル接着剤、レンダー、セメント質プラスター、接着剤、シーリング材、セメント質コーティングおよび塗装系、特にトンネル、排水溝用のもの、スクリード、モルタル、例えばドライモルタル、耐垂れ性、流動性もしくはセルフレベリングモルタル、排水用モルタルおよびコンクリート、もしくは補修用モルタル、グラウト、例えば継目グラウト、非収縮グラウト、タイル用グラウト、注入グラウト、風車用グラウト(風力タービン用グラウト)、アンカーグラウト、流動性もしくはセルフレベリンググラウト、ETICS(外断熱複合システム)、EIFSグラウト(外断熱仕上げシステム)、膨潤爆発物、防水膜、またはセメント質フォームに有用である。
【0123】
実施例
本発明を添付の図面および以下の実施例によってさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0124】
図1】本発明の一実施形態によるアルミン酸カルシウム沈殿試験におけるCaClの適用時間に対するmV単位の光電流信号のプロットを示す図である。
【0125】
全ての重量%は%bwoc、つまり、セメント系結合材i)の質量に対するものとして理解される。
【0126】
方法
アルミン酸カルシウム沈殿試験
アルミン酸カルシウム沈殿試験には、高性能pH電極(Pt1000付きiUnitrode、Metrohmから入手可能)および光センサー(Spectrosense 610nm、Metrohmから入手可能)を備える自動化滴定モジュール(Titrando 905、Metrohmから入手可能)を使用した。初めに、研究対象のポリオールの1重量%水溶液400mLと1mol/L NaOH水溶液20mLとの溶液を自動化滴定モジュール内で撹拌しながら2分間平衡化した。次に、50mLの25mmol/L NaAlO水溶液をこれに添加し、続いてさらに2分間平衡化して、本質的に透明な試験溶液を得た。次の工程では、2mL/分の一定速度で適用される0.5mol/L CaCl水溶液で試験溶液を滴定する。実験全体にわたって、温度を20℃で一定に保つ。濁度の変曲までの経過時間を記録する。この目的で、mV単位の光電流信号をCaCl水溶液の適用時間に対してプロットする。この図から、ベースライン接線と曲線の変曲後の曲線の接線との交点として開始点を決定する。
【0127】
試験手順-モルタルの早期強度発現
モルタルミックスを、それぞれモルタル用スチールプリズム(16/4/4cm)に充填し、20℃の温度および65%の相対湿度で3時間後に、硬化モルタルプリズムを得た。硬化モルタルプリズムを脱型し、DIN EN 196-1に従って圧縮強度(=comp. strength)を測定した。24時間後に再びモルタルプリズムを測定した。
【0128】
試験手順-凝結時間
凝結時間をDIN EN 480に従ってビカー針で決定した。
【0129】
参照例:ポリオールのアルミン酸カルシウム沈殿阻害特性
様々なポリオールを、アルミン酸カルシウム沈殿試験における沈殿特性について評価した。結果を以下の表に示す。対照については、ポリオールの1重量%水溶液400mLの代わりに二回蒸留水400mLを使用した。混濁の開始前の最大カルシウム濃度(Ca2+)として表される滴定終点は、開始点までの経過時間から算出される。図1は、CaClの適用時間に対するmV単位の光電流信号のプロットを示す。図1の曲線a)は、ポリオールの非存在下での結果を示す(「ブランク」)。図1の曲線b)は、1%のトリエタノールアミンを添加した結果を示す。曲線b)について、「ベースライン接線」と称される第1の接線1と第2の接線2とを示す。ベースライン接線1および第2の接線2から、ベースライン接線1と第2の接線2との交点として秒単位の開始点を決定することができる。
【0130】
【表1】
【0131】
建設用組成物の調製および評価
実施例1:モルタルミックス
表1の基本処方に従ってモルタルミックス1~27を調製し、表2に記載するように更なる成分を添加した。それらの早期強度発現を測定し、結果を表2に報告する。セメント系結合材として、表2に示すように、Karlstadt CEM I 42.5 R(100g当たり0.091molの利用可能な全アルミネート)またはMergelstetten CEM I 52.5 R(100g当たり0.082molの利用可能な全アルミネート)またはBurglengenfeld CEM I 52.5 R(100g当たり0.075molの全アルミネート)を使用した。
【0132】
【表2】
【0133】
混合手順
砕石(2~5mm)を70℃の炉内で50時間乾燥させた。砂(0~4mm)を140℃で68時間乾燥させた。その後、砕石および砂を65%相対湿度にて20℃で少なくとも2日間保管した。表2によるグルコン酸ナトリウムおよびNaHCO、2.0%bwocのグリセロール、ならびに0.20%bwocのポリカルボキシレート系超可塑剤を配合水の全量に添加し、液体水性成分を得た。続いて、砕石、砂、セメント系結合材および硬石膏を5Lホバートミキサーに添加した。液体水性成分をこれに添加し、混合物をレベル1(107rpm)で2分間、レベル2(198rpm)でさらに2分間撹拌し、混合したての水性建設用組成物を得た。
【0134】
【表3-1】
【表3-2】
【0135】
本発明のミックス1~20および21~27は、凝結が開始すると急速な強度発現を示す。したがって、オープンタイムは凝結時間とほぼ一致する。
【0136】
カーボネート源およびグルコン酸Naの量が増加するにつれて凝結時間が増加することが表2から明らかである。カーボネートおよびグルコネートの両方が凝結時間を増加させるが、グルコン酸Naは、カーボネートと比較してより強い影響を凝結時間に及ぼす。セメントのアルミネート含有量が低いほど、セメントの反応性が低くなるため、十分な凝結時間および施工性の保持に必要とされるグルコネートおよびカーボネートが少なくなる。
【0137】
実施例2:壁パネル用の高性能コンクリート
壁パネルの打設のために様々なコンクリートミックスを調製した。基本処方を表3に記載し、表4に従って更なる成分を添加した。
【0138】
【表4】
【0139】
表4の比較例X-1およびX-2は、従来技術の遅延剤としてグリオキシル酸尿素縮合物を含有する。この表から、グルコン酸ナトリウムの添加によって遅延効果が強まることが示される。表4の比較例X-3およびX-4は、従来技術の遅延剤として低分子量ポリカルボン酸(クエン酸およびホスホノブタントリカルボン酸グリオキシル酸)を含有する。この表から、遅延効果がX-1およびX-2の場合よりも顕著でないことが示される。グルコン酸ナトリウムの添加は、ここでも凝結時間の延長をもたらす。表4の比較例X-5およびX-6は、従来技術の遅延剤としてポリアクリル酸を含有する。この表から、遅延効果がX-1およびX-2の場合よりも顕著でないことが示される。グルコン酸ナトリウムの添加は、ここでも凝結時間の延長をもたらす。本発明例X-7は、比較例X-2と同等の凝結時間を示す一方で、3時間後の圧縮強度の増加が観察される。NaHCOとグルコン酸Naとの比率が1.2~8.0の比率の範囲外である比較例X-8は、3時間後に不十分な圧縮強度を示す。
【0140】
【表5】
図1
【国際調査報告】