(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】海洋と連通しないトリム制御システムを備えた輸送船
(51)【国際特許分類】
B63B 39/03 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B63B39/03 Z
B63B39/03
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519534
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2022077370
(87)【国際公開番号】W WO2023052626
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515220317
【氏名又は名称】ギャズトランスポルト エ テクニギャズ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】クラース ローレンツ
(57)【要約】
本発明は、海洋と連通しないトリム制御システム(10)を備えた輸送船(1)に関するものであり、当該トリム制御システム(10)は、少なくとも1つの前方液体タンク(20)と、少なくとも1つの後方液体タンク(30)と、減揺タンク(40)であって、輸送船(1)の横軸(Y-Y’)における当該減揺タンク(40)内の液体の流れを減速するように配置された少なくとも一対の仕切壁(42)を備えた減揺タンク(40)と、前記少なくとも1つの前方液体タンク(20)、前記少なくとも1つの後方液体タンク(30)、及び前記減揺タンク(40)と連通し、前記少なくとも1つの前方液体タンク(20)と前記少なくとも1つの後方液体タンク(30)と前記減揺タンク(40)とに、液体の体積を分配するように構成されている分配装置(60)と、を備えている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋と連通しないトリム制御システム(10)を備えた輸送船(1)であって、
前記輸送船(1)は、当該輸送船(1)の総重量P
Tの20%~80%、好適には30%~60%の空重量P
vを有すると共に、以下の式
P
T=P
v+P
TC
により算出される最大積載重量P
TCを有し、
前記トリム制御システム(10)は、
前記輸送船(1)の長手軸(X-X’)における最初の1/3、好適には最初の1/4に配置された少なくとも1つの前方液体タンク(20)と、
前記輸送船(1)の長手軸(X-X’)における最後の1/3、好適には最後の1/4に配置された少なくとも1つの後方液体タンク(30)と、
前記輸送船(1)の横軸(Y-Y’)における寸法が大きい減揺タンク(40)であって、前記輸送船(1)の横軸(Y-Y’)における当該減揺タンク(40)内の液体の流れを減速するように配置された少なくとも1つの仕切壁(42)を備えた減揺タンク(40)と、
前記少なくとも1つの前方液体タンク(20)、前記少なくとも1つの後方液体タンク(30)、及び前記減揺タンク(40)と連通し、前記少なくとも1つの前方液体タンク(20)と前記少なくとも1つの後方液体タンク(30)と前記減揺タンク(40)とに、液体の体積を分配するように構成されており、少なくとも1つのポンプ(69)及び複数のバルブを備えた分配装置(60)と、
を備えていることを特徴とする輸送船(1)。
【請求項2】
減揺命令に応じて、前記減揺タンクの充填状態が当該減揺タンクの最大充填体積の25%~75%になるまで当該減揺タンク(40)に液体を移送するように前記分配装置(60)に命令する制御部(90)をさらに備えている、
請求項1記載の輸送船(1)。
【請求項3】
前記制御部(90)はさらに、前記輸送船の積荷の重量と前記最大積載重量P
TCとに依存して前記分配装置(60)に対して命令するように構成されている、
請求項2記載の輸送船(1)。
【請求項4】
前記制御部(90)は、前記減揺命令を受け取った場合において、前記輸送船(1)の積荷の重量が0.2×P
TC~0.8×P
TCである際に、前記前方液体タンク(20)及び/若しくは前記後方液体タンク(30)から、好適には前記前方液体タンク(20)及び前記後方液体タンク(30)から、並びに/又は前記輸送船(1)の船首の喫水(Tf)を増大させることなく、前記減揺タンク(40)に液体を移送するように前記分配装置(60)に対して命令する、
請求項3記載の輸送船(1)。
【請求項5】
前記制御部(90)は、前記減揺命令を受け取った場合において、前記輸送船の積荷の重量が0.2×P
TC以下である際に、少なくとも前記前方液体タンク(20)から、好適には前記前方液体タンク(20)のみから、及び/又は前記輸送船(1)の船首の喫水(Tf)を増大させることなく、前記減揺タンク(40)に液体を移送するように前記分配装置(60)に対して命令する、
請求項3又は4記載の輸送船(1)。
【請求項6】
前記制御部(90)は、前記減揺命令を受け取った場合において、前記輸送船の積荷の重量が0.8×P
TC以上である際に、前記前方液体タンク(20)及び/又は前記後方液体タンク(30)から、好適には前記前方液体タンク(20)及び前記後方液体タンク(30)から、前記減揺タンク(40)に液体を移送するように前記分配装置(60)に対して命令する、
請求項3から5までのいずれか1項記載の輸送船(1)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの前方タンク(20)及び前記少なくとも1つの後方タンク(30)の総重量P
RTは、比重1を有する液体が満充填された場合、前記輸送船の空重量P
vの2%~8%、好適には3%~6%となる、
請求項1から6までのいずれか1項記載の輸送船(1)。
【請求項8】
前記トリム制御システム(10)は、前記輸送船(1)の長手軸(X-X’)における当該輸送船(1)の長さLの40%から60%までのゾーンに配された中央液体タンク(50)をさらに備えている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の輸送船(1)。
【請求項9】
前記減揺タンク(40)は、前記輸送船(1)の長手軸(X-X’)における前記最初の1/3、好適には前記最初の1/4に配されている、
請求項1から8までのいずれか1項記載の輸送船(1)。
【請求項10】
前記分配装置(60)は、前記少なくとも1つの後方液体タンク(30)から前記中央液体タンク(50)を介して液体を前記減揺タンク(40)へ移送するように構成されている、
請求項8と請求項9と請求項4から6までのいずれか1項とに記載の輸送船(1)。
【請求項11】
前記トリム制御システム(10)は、前記前方液体タンク(20)を少なくとも2つ備えており、
前記前方液体タンク(20)は互いに離隔すると共に、前記各前方液体タンク(20)は、前記輸送船の長手軸(X-X’)における前記最初の1/3、好適には前記最初の1/4に配されている、
請求項1から10までのいずれか1項記載の輸送船(1)。
【請求項12】
前記前方液体タンクのうち2つが、前記輸送船(1)の長手軸(X-X’)において互いに離隔している、
請求項11記載の輸送船(1)。
【請求項13】
前記トリム制御システム(10)は、前記後方液体タンク(30)を少なくとも2つ備えており、
前記後方液体タンク(30)は互いに離隔すると共に、前記各後方液体タンク(30)は、前記輸送船(1)の長手軸(X-X’)における前記最後の1/3、好適には前記最後の1/4に配されている、
請求項1から12までのいずれか1項記載の輸送船(1)。
【請求項14】
前記後方液体タンク(30)のうち2つが、前記輸送船の長手軸(X-X’)において互いに離隔している、
請求項13記載の輸送船(1)。
【請求項15】
少なくとも1つの密閉バリアと少なくとも1つの断熱バリアとを備えた少なくとも1つの密閉断熱タンク(2)をさらに備えており、
前記タンク(2)は好適には、低温液体製品、特に液化天然ガス又は液化ガスを入れるものである、
請求項1から14までのいずれか1項記載の輸送船(1)。
【請求項16】
前記タンク(2)の周囲の空間の少なくとも一部はオープンスペース(6)である、
請求項15記載の輸送船(1)。
【請求項17】
前記減揺タンク(40)は前記オープンスペース(6)に隣接する、
請求項16記載の輸送船(1)。
【請求項18】
前記減揺タンク(40)は、前記輸送船(1)の長手軸(X-X’)における前記タンク(2)の前方に配されている、
請求項15から17までのいずれか1項記載の輸送船(1)。
【請求項19】
前記減揺タンク(40)は、前記輸送船(1)の長手軸(X-X’)と横軸(Y-Y’)とに対して垂直な鉛直軸(Z-Z’)において前方液体タンク(20)又は前記前方液体タンク(20)の上方に配されている、
請求項1から18までのいずれか1項記載の輸送船(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリム制御システムを備えた輸送船、具体的には、海洋と連通しないトリム制御システムを備えた輸送船に関するものである。
【背景技術】
【0002】
公知の物品輸送船は、海水を充填することができ又は海水を部分的に充填することができる海水バラストを備えている。
【0003】
典型的には、船舶が運搬する積荷がほとんど無い又は全く無い場合、水中に当該船舶を沈めるため、換言すると船舶の喫水を増加させ又は船舶の水線を引き上げるために、海水バラストに充填する。これにより推進プロペラが完全に浸漬することが保証され、プロペラが海中から浮き上がるのを防ぐことができる。船舶の設備はしばしば船舶の後方に配されていることが多いため、物品輸送船では船舶の船首の喫水が過度に少なくなることがあるが、上記のことにより、このような船首喫水の過度な減少を防ぐこともできる。
【0004】
英国特許出願公開第2044201号明細書に、上記のような海水バラストを備えた船舶が記載されている。
【0005】
最近では、特定の輸送船に減揺タンク(RST)が備え付けられてきており、これは「アンチローリングタンク(ART)」との呼称でも知られている。かかる減揺タンクは、船舶の横軸方向の寸法が大きくなっている。この減揺タンクは、部分的に海水を充填することを想定されている。減揺タンク内における海水の流れが、1つ又は複数の仕切壁によって減速され、これにより船舶の横揺れ(ローリング)を防止する傾向のあるモーメントが生成される。
【0006】
上記の通り、バラスト及び減揺タンクには海水が充填される。典型的には、船舶は出発港を出港する際に海水を取り込み、目的の到着港での到着の際にこの海水を排出する。こうすると、船舶はある地理的ゾーンから水生生物を他の地理的ゾーンに運ぶこととなり、これは、海港の生態系にとってリスクを伴う。そのため、規制はますます、バラスト水を排出する前に除染又は滅菌を行うよう要請を強めてきている。現在、そのような目的の装置は存在するが、高価であるという欠点を有する。
【0007】
さらに、海水バラストの底には堆積物が蓄積する傾向があるので、このバラストを定期的に保守する必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明の骨子の一思想は、海水バラストに関連する欠点を解消する、輸送船用のトリム制御システムを提供することである。本発明の骨子の他の一思想は、上記のトリム制御システムが船舶の減揺動作(ローリング防止動作)を随意に作動したり又は作動停止したりすることを可能にすることである。
【0009】
よって本発明は、海洋と連通しないトリム制御システムを備えた輸送船を提案するものであり、
前記船舶は、当該船舶の総重量PTの20%~80%、好適には30%~60%の空重量Pvを有すると共に、以下の式
PT=Pv+PTC
により算出される最大積載重量PTCを有し、
前記トリム制御システムは、
前記船舶の長手軸における最初の1/3、好適には最初の1/4に配置された少なくとも1つの前方液体タンクと、
前記船舶の長手軸における最後の1/3、好適には最後の1/4に配置された少なくとも1つの後方液体タンクと、
前記船舶の横軸における寸法が大きい減揺タンクであって、前記船舶の横軸における当該減揺タンク内の液体の流れを減速するように配置された少なくとも1つの仕切壁を備えた減揺タンクと、ただし前記寸法は、前記船舶の横軸における幅lの60%~80%とすることができ、
前記少なくとも1つの前方液体タンク、前記少なくとも1つの後方液体タンク、及び前記減揺タンクと連通し、前記少なくとも1つの前方液体タンクと前記少なくとも1つの後方液体タンクと前記減揺タンクとに、液体の体積を分配するように構成されており、少なくとも1つのポンプ及び複数のバルブを備えた分配装置と、
を備えていることを特徴とする。
【0010】
上記の制御システムは海洋と連通しないので、船舶がその航海中に海水を取り込んだり排出することはなく、海水バラストに関連する上記の欠点の全てを解消することができ、船舶は海水を取り込んだり排出したりする代わりに、海洋に排出することを想定していないある体積の液体、例えば一定体積の液体を運搬する。分配装置は上記のある体積の液体を、1つ又は複数の前方液体タンクと、1つ又は複数の後方液体タンクと、減揺タンクと、に分配することができる。その結果、分配装置によって船舶のトリムを随意に調整することができ、この船舶のトリム調整を制限するものは、液体の体積と、各タンクの充填容積のみとなる。また上記の分配装置によって、このタンクに液体を部分的に充填することにより、船舶の減揺を随意に作動したり作動停止したりすることも可能になる。
【0011】
実施形態如何に応じて、上記の輸送船は以下の構成のうち1つ又は複数を具備することができる:
【0012】
一実施形態では、前記液体は比重が約1の液体、例えば0.95~1.05の液体である。特殊な一実施形態では、前記液体は清水である。
【0013】
一実施形態では、前記減揺タンクは前記仕切壁を一対備えており、当該一対の仕切壁は好適には互いに対向しており、より好適には前記船舶の長手軸に対して平行である。
【0014】
原則として、前記分配装置は、前記船舶の乗組員が必要に応じて上記の適切なバルブを開閉し、又は前記少なくとも1つのポンプを作動したり又は作動停止したりすることにより手動で操作することができる。
【0015】
しかし、分配装置の作動を多かれ少なかれ自動とすることが好適である。よって一実施形態では、前記船舶は、ヒューマン・マシン・インタフェースから受け取った命令及び/又はプログラムに応じて前記分配装置に命令する制御部を備えている。
【0016】
一実施形態では前記制御部は、減揺命令に応じて、前記減揺タンクの充填状態が当該減揺タンクの最大充填体積の25%~75%になるまで当該減揺タンクに液体を移送するように前記分配装置に命令する。
【0017】
かかる構成により、制御部を用いて、簡単な命令に応じて減揺タンクを用いて、船舶の減揺処理を随意に作動又は作動停止することができる。
【0018】
減揺命令は例えば、航行条件が船舶の過剰な横揺れを生じるおそれがあることを乗組員が気づいたときに手動で入力することができる。
【0019】
一実施形態では、前記制御部はさらに、前記船舶の積荷の重量と前記最大積載重量PTCとに依存して前記分配装置に対して命令するように構成されている。
【0020】
当該船舶の最大積載重量PTCは船舶の建造者によって提供されるので、制御部はこの最大積載重量PTCを記憶部に記憶することができる。当該船舶の積荷の重量を乗組員が、例えば当該船舶の航海開始時に入力することができる。
【0021】
一実施形態では、前記制御部は、前記減揺命令を受け取った場合において、前記船舶の積荷の重量が0.2×PTC~0.8×PTCである際に、前記前方液体タンク及び/若しくは前記後方液体タンクから、好適には前記前方液体タンク及び前記後方液体タンクから、並びに/又は前記船舶の船首の喫水を増大させることなく、前記減揺タンクに液体を移送するように前記分配装置に対して命令する。
【0022】
一実施形態では、前記制御部は、前記減揺命令を受け取った場合において、前記船舶の積荷の重量が0.2×PTC以下である際に、少なくとも前記前方液体タンクから、好適には前記前方液体タンクのみから、及び/又は前記船舶の船首の喫水を増大させることなく、前記減揺タンクに液体を移送するように前記分配装置に対して命令する。
【0023】
一実施形態では、前記制御部は、前記減揺命令を受け取った場合において、前記輸送船の積荷の重量が0.8×PTC以上である際に、前記前方液体タンク及び/又は前記後方液体タンクから、好適には前記前方液体タンク及び前記後方液体タンクから、前記減揺タンクに液体を移送するように前記分配装置に対して命令する。
【0024】
一実施形態では、前記少なくとも1つの前方タンク及び前記少なくとも1つの後方タンクの総重量PRTは、比重1を有する液体が満充填された場合、前記船舶の空重量Pvの2%~8%、好適には3%~6%となる。
【0025】
一実施形態では、比重1を有する液体が充填されたときの前記減揺タンクの総重量PARTは、前記船舶の空重量Pvの1%~4%、好適には2%~4%である。
【0026】
一実施形態では、前記トリム制御システムは、前記船舶の長手軸における当該船舶の長さLの40%から60%までのゾーンに配された中央液体タンクをさらに備えている。
【0027】
中央液体タンクは特に、液体が部分的に充填され又は満充填された場合に、船舶の船殻の長手軸方向中央の領域の曲げ応力を補償するために使用することができる。このことは、船舶の実用寿命にとって有利である。
【0028】
好適な一実施形態では、前記減揺タンクは、前記船舶の長手軸における前記最初の1/3、好適には前記最初の1/4に配されている。しかし、特に船舶の各種設備やぎ装品に応じて他の実施形態も可能である。
【0029】
一実施形態では、前記分配装置は、前記少なくとも1つの後方液体タンクから前記中央液体タンクを介して液体を前記減揺タンクへ移送するように構成されている。
【0030】
一実施形態では、前記トリム制御システムは、前記前方液体タンクを少なくとも2つ備えており、前記前方液体タンクは互いに離隔すると共に、前記各前方液体タンクは、前記船舶の長手軸における前記最初の1/3、好適には前記最初の1/4に配されている。
【0031】
一実施形態では、前記前方液体タンクのうち2つが、前記船舶の長手軸において互いに離隔している。
【0032】
一実施形態では、前記トリム制御システムは、前記後方液体タンクを少なくとも2つ備えており、前記後方液体タンクは互いに離隔すると共に、前記各後方液体タンクは、前記船舶の長手軸における前記最後の1/3、好適には前記最後の1/4に配されている。
【0033】
一実施形態では、前記後方液体タンクのうち2つが、前記船舶の長手軸において互いに離隔している。
【0034】
一実施形態では、前記船舶はさらに、少なくとも1つの密閉断熱タンクを備えている。
【0035】
一実施形態では、前記タンクは少なくとも1つの密閉バリアと少なくとも1つの断熱バリアとを備えている。
【0036】
一実施形態では前記タンクは、多層構造を有する主構造体を備えており、当該多層構造は外部から内部に向かって順に、断熱部材を備えると共に荷重支持構造に支持されている二次断熱バリアと、前記二次断熱バリアに支持された二次密閉メンブレンと、断熱部材を備えると共に前記二次密閉メンブレンに支持された一次断熱バリアと、前記タンクに収容された液化ガスと接触するように構成された一次密閉メンブレンと、を備える。他の一実施形態では、密閉メンブレンと荷重支持構造との間に1つの断熱バリアのみが配置される。
【0037】
一実施形態では、前記タンクの周囲の空間の少なくとも一部はオープンスペースである。「オープンスペース」とは、2つの隣接するタンク間の容積又はタンクと船舶の他の部分との間の容積(かかる空間は、当業者に「コファダム」との呼称で知られている)がオープンであって、閉じた空間ではないことを意味するものであり、例えば、当該容積及び隣の容積において大気が出入りできるもの等である。
【0038】
一実施形態では、前記減揺タンクは前記オープンスペースに隣接する。
【0039】
一実施形態では、前記減揺タンクは、前記船舶の長手軸における前記タンクの前方に配されている。
【0040】
一実施形態では、前記タンクは低温液体製品、特に液化天然ガス(LNG)又は液化ガスを入れるものである。
【0041】
一実施形態では、前記減揺タンクは、前記船舶の長手軸と横軸とに対して垂直な鉛直軸において前方液体タンク又は前記前方液体タンクの上方に配されている。
【0042】
一実施形態では、前記船舶の最大積載重量PTC以下の全ての積載重量について、前記減揺タンクは前記船舶内において、前記船舶の水線の上方に配される。
【0043】
添付の図面を参照して、本発明の複数の具体的な実施形態例についての以下の説明を読めば、本発明をより良好に理解することができ、また、本発明の他の目的、詳細、特徴及び利点がより分かりやすく記載されている。以下の説明の具体的な実施形態例はあくまで例示であり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1A】トリム制御システムを備えた輸送船の、当該長手軸に沿った概略的な断面図である。
【
図1B】
図1Aの輸送船に組み付けられたトリム制御システムの機能図である。
【
図2A】
図1Bのトリム制御システムの液体タンクの可能な位置を示す、船舶の概略的な上面図である。
【
図2B】
図1Bのトリム制御システムの液体タンクの可能な他の位置を示す、
図2Aと同様の図である。
【
図3B】
図3Aの断面図に示されている減揺タンクの透明斜視図である。
【
図5A】船舶の積載重量が高く、かつ減揺タンクが使用中でない状態の船舶を示す、
図1Aと同様の図である。
【
図5B】
図5Aと略同じであるが、減揺タンクが使用中である図である。
【
図6A】船舶の積載重量が小さく、かつ減揺タンクが使用中でない状態の船舶を示す、
図1Aと同様の図である。
【
図6B】
図6Aと略同じであるが、減揺タンクが使用中である図である。
【
図7A】船舶の積載重量が中程度であり、かつ減揺タンクが使用中でない状態の船舶を示す、
図1Aと同様の図である。
【
図7B】
図7Aと略同じであるが、減揺タンクが使用中である図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1Aは、物品輸送船1(以下「船舶1」という)の長手軸X-X’に沿った当該船舶1の概略的な断面図である。X’からXに向かう方向は、航行の際の船舶1の移動方向である。
【0046】
本例の船舶1は、液化ガス用、特に液化天然ガス(LNG)用の輸送船である。よって、船舶1は密閉断熱性の1つ又は複数のタンク2(本例では2つ)を備えている。タンク2は、ブリッジを備えた上部構造5の船舶1の長手軸X-X’方向前方に配されている。上部構造5自体は、機関室4の上部に配置された1つ又は複数の煙突3の前方に配され、機関室4は上部構造5の下方かつ1つ又は複数の煙突3の下方に配されている。しかし、より一般的にいうと船舶1は他の液体製品用の輸送船とすることができ、あるいは、他の任意の種類の物品用の輸送船とすることも可能である。この場合も、船舶1のタンク又は輸送倉は、上部構造5の前方に配される。
【0047】
各タンク2は、密閉バリアと断熱バリアとを備えたタンクとすることができ、特に、国際海事機関(IMO)コードに規定された独立タイプA,B又はCのタンク、又はこれと均等なあらゆるタンクとすることができる。これに代えて、タンク2は、多層構造を有する主構造体を備えることができ、当該多層構造は外部から内部に向かって順に、断熱部材を備えると共に荷重支持構造に支持されている二次断熱バリアと、二次断熱バリアに支持された二次密閉メンブレンと、断熱部材を備えると共に二次密閉メンブレンに支持された一次断熱バリアと、タンクに収容された液化ガスと接触するように構成された一次密閉メンブレンと、を備える。好適には、荷重支持構造は船舶1の壁のうち少なくとも一部の壁により構成される。他の代替的な一実施形態では、密閉メンブレンと荷重支持構造との間に配置される断熱バリアは1つである。上記のタンクは例えば、本願出願人のMark III又はNO96(登録商標)技術を用いて作製することができる。好適には、タンク2の少なくとも一部がコファダム6によって包囲されている(
図1A参照)。
【0048】
船舶1はさらにトリム制御システム10を備えており、これについては以下で、
図1A及び
図1Bを参照して詳細に説明する。
図1Aでは、トリム制御システム10の液体タンク及びタンク2が空である旨が示されており、下記にて、トリム制御システムの液体タンク及びタンク2の充填オプションについて詳細に説明する。
【0049】
トリム制御システム10は海洋とは連通しておらず、少なくとも1つの前方タンク20と、少なくとも1つの後方タンク30と、減揺タンク40と、を備えると共に、オプションとして中央タンク50を備えている。
【0050】
図1A及び
図2Aに示されている例では、前方タンク20が2つ設けられている。前方タンク20は両方とも、船舶1の長手軸X-X’における最初の1/4に配置されている。「最初の1/4」とは、0%が船舶の船首であり、船尾に向かって数値が増大していくとすると、船舶1の軸X-X’方向の長さLの0%から25%までに位置するゾーンをいう。一変形形態では、上記の2つの前方タンク20は船舶の最初の1/3に配置することができ、ここで「最初の1/3」とは、船舶1の軸X-X’方向の長さの0%から33.3%までに位置するゾーンをいう。
【0051】
引き続き
図1A及び
図2Aを参照すると、後方タンク30が2つ設けられており、これらの後方タンク30は両方とも、船舶の長手軸X-X’における最後の1/4に配置されている。「最後の1/4」とは、船舶1の軸X-X’方向の長さLの75%から100%までに位置するゾーンをいう。一変形形態では、上記の2つの後方タンク30は船舶の最後の1/3に配置することができ、ここで「最後の1/3」とは、船舶の軸X-X’方向の長さLの66.7%から100%までに位置するゾーンをいう。
【0052】
中央タンク50はというと、船舶1の軸X-X’方向の長さLの40%から60%までのゾーンに配置されている。中央タンク50は典型的には軸X-X’上でセンタリングされている。
【0053】
図1A及び
図2Aには、2つの前方タンク20及び2つの後方タンク30が互いに船舶1の軸X-X’方向において離隔しているのが示されている。しかし一変形形態では、
図2Bに示すように、2つの前方タンク20及び2つの後方タンク30を船舶1の横方向Y-Y’に対して平行な方向に互いに離隔して配置することもできる。他にも多くの構成が可能である。特に、前方タンク20及び後方タンク30の数はあくまで例示として示されており、軸X-X’及び/又は軸Y-Y’方向に互いに離隔して、前方タンク20を1つ、又は3つ以上設けることも可能であり、またこれとは独立して、後方タンク30を1つ、又は3つ以上設けることも可能である。
【0054】
以下、減揺タンク40について説明する。減揺タンク40は、船舶1の軸X-X’方向最初の1/3、好適には最初の1/4に配置されている。よって、減揺タンク40はタンク2の軸X-X’方向前方に配され、可能である場合にはコファダム6の前方に配される。例えば図に示されているように、減揺タンク40は軸X-X’方向最前部のコファダム6に隣接することができる。図に示されているように、減揺タンク40は船舶1の横方向Y-Y’において最大の寸法を有し、これについては
図2A,
図2B及び
図3Aに具体的に示されている。図示の例では、この最大の寸法は船舶1の横方向Y-Y’の最大幅lに等しい。しかし一変形形態では、上記の最大の寸法はlの60%~100%とすることができる。図に示されているように、特に
図1Aに示す通り、減揺タンク40は軸Z-Z’方向においていずれかの前方タンク20の上方に位置することができる。ここで
図1Aにおいて、Z-Z’は軸X-X’及び軸Y-Y’に対して垂直な鉛直軸である。
【0055】
図3Bは、減揺タンク40の透明斜視図である。同図に示されているように、減揺タンク40には一対の仕切壁42が設けられている。これらの仕切壁42は減揺タンク40の内部容積43内に、好適には互いに対向して、本例では軸X-X’に対して平行に対向して配置されている。本例では、仕切壁42は内部容積43の高さの一部にのみ延在しているが、内部容積43の全高にわたって延在することも可能である。さらに、より多数の仕切壁42を設けることが可能であり、あるいは仕切壁42を1つとすることも可能である。仕切壁42の幾何学的形態は、内部容積43内の液体の流れを制御可能とするためのものである。
【0056】
如何なる場合においても、仕切壁42は軸Y-Y’方向の液体の流れを完全に阻害することなく、減揺タンク内のこの軸Y-Y’方向の液体の流れを減速するように配置される。よって、液体は仕切壁42が存在するにもかかわらず内部容積43内で運動可能な状態(libre de se deplacer)に留まる。
【0057】
減揺タンク40に部分的に液体が充填されている際の仕切壁42の役割について、以下で
図4を参照して説明する。
【0058】
図4中の複数の図は、減揺タンク40に所定の体積49の液体が充填されている状態で、所定の周波数の横揺れ(ローリング)運動200が船舶1に生じている様子を示している。
【0059】
図4の左手の図は、横揺れ運動200の結果として船舶1のヒール角が最大角度付近になっているのを示している。仕切壁42は内部容積43内の液体の運動を減速する傾向を有するので、これらの壁は、船舶1がヒール傾斜する側とは反対側に液体の体積49の大半が留まるように液体を保持する。このようにして液体は、船舶1を安定化する傾向を有するモーメントを生じる。しかし、最初に、初期の傾きにより生じた重力の結果として液体が内部容積43の他方側に向かって移動し始め、その後、当該液体の慣性の結果として内部容積43の他方側に向かって移動する。この液体の変位が矢印201によって表されている。
【0060】
その後、
図4の右手の図で示す通り、船舶1が他方側で最大ヒール角付近に達すると、船舶1がヒール傾斜する側とは反対側に液体の大半が戻り、ここでも、船舶1を安定化する傾向のあるモーメントを生じる。
【0061】
横揺れ運動200は所定の周波数を有するので、
図4中左手の図の配置と右手の図の配置とは当該周波数で交互に生じ、その度に、液体が船舶1を安定化する傾向のあるモーメントを生じる。これにより、内部容積43に液体を部分的に充填することによって、横揺れ運動200が船舶に及ぼす作用が減衰することが分かる。
【0062】
かかる動作原理は自明の事項であり、この原理に基づいて動作する減揺タンクは、特にHoppe Marine社によってFLUMEとの商標で販売され、また、GEPS Techno SAS社によってSIREとの商標で販売されている。よって、適合された仕切壁42の設計は、バランシング時と船舶のトリムの制御時とで共通のタスクとなっている。
【0063】
内部容積43に液体が流入するためにかかる時間は、主に仕切壁42の構造に依存し、なおかつ減揺タンク40内の液体の体積49にも依存するが、体積49に対する依存性は、仕切壁42の構造に対する依存性より程度が低い。上記のように、適合された仕切壁42の設計は、バランシング時と船舶のトリムの制御時とで共通のタスクとなっているので、当業者であれば、所望の減揺効果を得るために仕切壁42を適宜調整することができる。
【0064】
上記のような使用中には、減揺タンク40に充填される液体の体積49は典型的には、当該減揺タンク40の最大充填体積の25%~75%である。当業者であれば事情に応じて、また特に船舶1の積荷の重量に応じて、上記の範囲内で液体の体積49を調整して、所望の減揺作用を実現することができる。このときにも、上記のタスクはバランシングの際と船舶のトリムの制御の際とに共通のタスクである。
【0065】
以下、船舶のトリムを制御するために減揺タンク40とタンク20,30及び50とを組み合わせて使用することについて説明する。
【0066】
図1Bを参照すると、上記の各種タンクへの充填を命令するため、トリム制御システム10は液体分配装置60(以下「分配装置60」という)を備えている。この分配装置60により、上記の各種タンクへ液体の体積を分配することができる。船舶1が航行中に分配装置60が追加の液体を受け取ったり、あるいは液体を排出したりする構成でなければ、上記の液体の体積は例えば一定である。換言すると、分配装置60は、タンク20,30及び50と減揺タンク40とに上記の液体の体積をどのように分配するか(オプションとして、一定の体積の液体をどのように分配するか)を命令するものである。さらに、上記の通り、トリム制御システム10は海洋と連通していないので、分配装置60によって分配される液体は、従来の海水バラストを用いるケースのように船舶1が出発港から出港する際に取り込む海水ではなく、また、目的の到着港に到着した際に排出するものでもない。
【0067】
分配装置60を用いた各種タンクへの充填は、例えば船舶の保守作業の際に変更することができ、例えば損失が生じた場合にタンクを満タンにしたり、タンクを空にしてその後再充填する等が可能である。
【0068】
タンクに入れられて分配装置60により分配される液体は、典型的には清水である。清水は非常に多数のインフラストラクチャから入手可能であり、また、清水を用いることによりトリム制御システム10の設計や保守が簡略化する。本願明細書の残りの部分では、トリム制御システム10において清水を用いるシナリオについて説明する。しかし、他の液体を使用することも可能である。トリム制御システム10の設計及び使用を簡略化するためには、液体の比重を約1とするのが好適であり、例えば0.95~1.05とするのが好適である。
【0069】
タンク20,30,40及び50に水を分配するためには、分配装置60は上記の各種タンクを連通する導管のセット68と、上記の各種タンク間で水を移動させることができる少なくとも1つのポンプ69と、を備える。
図1B中の中抜き矢印は、導管のセット68の流れ方向例を示している。さらに、
図1Bには示されていないが、分配装置60は各タンク20,30,40及び50への水の進入その他の制御を行うため、またこれらの各タンクの充填速度を制御するためのバルブのセットも備えている。タンク20,30,40及び50にはそれぞれ圧力バランシングオリフィス21,31,41,51が設けられており、これらの圧力バランシングオリフィス21,31,41,51は、上記のタンクの内部容積を大気と連通させることにより、これらタンクに入っている水を排出可能とするものである。
【0070】
トリム制御システム10は制御部90も備えている。
図1Bにおいて破線で示されているように、制御部90は分配装置60を制御するように構成されており、より具体的には、上記にて既に述べた少なくとも1つのポンプ69と各バルブ(不図示)とを制御するように構成されている。
【0071】
制御部90は、適切なハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の組み合わせを用いて実装することができる。制御部90は典型的には船舶1に搭載され、船舶1に搭載された他の装置と通信可能とすることができる。制御部90は、当該制御部90の動作を制御して分配装置60及びトリム制御システム10の動作を制御するための命令を乗組員が入力することができるユーザインタフェースデバイス91を備え、又はこれと通信することができる。とりわけ、乗組員はユーザインタフェースデバイス91を用いて船舶1の積荷の重量と船舶1の最大積載重量PTCとを制御部90に入力することができ、この入力は例えば、船舶1の航行開始時に行うことができる。一変形形態では、船舶1の最大積載重量PTCは制御部90のメモリに記憶することができる。これに代えて、船舶1に搭載された他のデバイスやその他の態様で設置された他のデバイスによって、船舶1の積荷の重量を制御部90に提供することができる。
【0072】
船舶1の最大積載重量PTCは、船舶1の建造者によって提供される。かかる場合、船舶1の空重量Pvは当該船舶1の総重量PTの20%~80%、好適には30%~60%であり、これにより、PvとPTとPTCとの関係は以下の式により表される:
PT=Pv+PTC
なお、船舶の空重量Pvは当該船舶1の建造者によって提供されるものであり、この空重量Pvは、船舶の動作に必要な装置以外の他の装置と貨物が搭載されていないときの船舶1と、オプションとして無視できる程度の量の燃料の重量を特定するものである。
【0073】
一実施形態では、前方タンク20及び後方タンク30の総重量PRTは、比重1を有する液体が満充填された場合、船舶1の空重量Pvの2%~8%、好適には3%~6%となる。
【0074】
一実施形態では、比重1を有する液体が充填されたときの減揺タンク40の総重量PARTは、船舶の空重量Pvの1%~4%、好適には2%~4%である。
【0075】
以下では
図5A~7Bを参照して、最大積載重量P
TCとの関係における船舶1の積荷の重量に応じて制御部90により実行される各種命令について説明する。
【0076】
図5A及び
図5Bは、船舶1の積荷の重量が最大積載重量P
TCに非常に近い第1の例を示す。具体的には、タンク2の充填レベルが当該タンク2の最大許容充填レベルに非常に近くなっている。
【0077】
図5Aでは減揺タンク40には水が充填されていないので、動作可能な状態ではない。よって、トリム制御システム10に入っている水の体積が前方タンク20と後方タンク30と中央タンク50とに分配される。図示の例では、この水の体積が上記の各タンクに分配されることにより船舶1の船首の喫水(以下、記号「Tf」により表す)が当該船舶1の船尾の喫水(以下、記号「Ta」により表す)と等しくなるか、又は実質的に等しくなる。Ta及びTfの喫水は、船舶分野で周知であるように船舶の水線から測定され、又は海面との関係において測定される。これは図面では符号100により示されている。
【0078】
図5Bでは、減揺タンク40に部分的に水が充填されており、より具体的には、上記のように減揺タンク40の最大充填体積の25%~75%が充填されている。
【0079】
制御部90は、
図5Aに示されている水の体積の分配から、
図5Bに示されている水の体積の分配に切り替えるように分配装置60に対して命令することができる。具体的には、制御部90は減揺命令に応じて、減揺タンクの充填状態が上記の通り部分的に充填されるまで当該減揺タンク40に水を移送するように分配装置60に命令する。減揺命令は例えば、乗組員が制御部90に入力することができる。基本的には、減揺タンク40に充填するため、分配装置60が後方タンク30のみから、前方タンク20のみから、又は中央タンク50のみから水を引き込むことができる。しかし、分配装置60が後方タンク30と前方タンク20とから同時に水を引き込み、又は後方タンク30と前方タンク20と中央タンク50とから同時に水を引き込むことにより、船舶1のトリムを過剰に変更しないようにすることが好適である。しかし、
図5Bに示されているように、船舶1の船首の喫水Tfを僅かに増大させることは許容可能である。
【0080】
ここで留意すべき点として、上記にて
図5A及び
図5Bを参照して説明した制御は、船舶1の積荷の重量が0.8×P
TC以上であるときに行うことができる。具体的には、制御部90は上記のように船舶1の積荷の重量を取得すると共に最大積載重量P
TCを取得し、船舶1の積荷の重量が0.8×P
TC以上であるときに上記のような命令を分配装置60に与える。
【0081】
図6A及び
図6Bは、船舶1の積荷の重量がP
TCと比較して小さい第2の例を示す。具体的には、タンク2の充填液面高さが低くなっている。かかる状況は特に、船舶1がLNGをタンク2に入れて輸送する際に起こり得る。かかる状況では、タンク2内にLNGを最小限の液面高さで残しておく必要があり、かかる最小限のLNGは「残液(ヒール液)」との呼称で知られている。
図6Aを
図5Aと比較すると分かるように、
図6Aの構成では、船舶1の後方に配置された装置の重量、特に機関室4、1つ又は複数の煙突3、及び上部構造5の重量を補償して、船舶1の船首の喫水Tfが過度に少量になることを防ぐため、前方タンク20の水の充填量が、
図5Aの構成における前方タンク20の充填量より多くなっている。
【0082】
図6Bでは、減揺タンク40に部分的に水が充填されており、より具体的には、上記のように最大充填体積の25%~75%が充填されている。
【0083】
制御部90は、
図6Aに示されている水の体積の分配から、
図6Bに示されている水の体積の分配に切り替えるように分配装置60に対して命令することができる。具体的には、制御部90は減揺命令に応じて、減揺タンクの充填状態が上記の通り部分的に充填されるまで当該減揺タンク40に水を移送するように分配装置60に命令する。基本的には、減揺タンク40に充填するため、分配装置60は後方タンク30と前方タンク20とから同時に、又は後方タンク30と前方タンク20と中央タンク50とから同時に水を引き込むことができる。しかし、船舶1の前方に向けて一層多くの水が移送されるのを防ぎ、これにより船舶1の船首の喫水Tfの増加を防ぐためには、分配装置60が前方タンク20のみから水を引き込むことが好適である。その理由は、船舶1の船首8が過剰に水中に沈むと船舶1の航行特性に悪影響が及ぼされ得るので、かかる過剰な沈み込みが無いようにするためにTfが増加しないようにすることが好適だからである。
【0084】
ここで留意すべき点として、上記にて
図6A及び
図6Bを参照して説明した制御は、船舶1の積荷の重量が0.2×P
TC以下であるときに行うことができる。具体的には、制御部90は上記のように船舶1の積荷の重量を取得すると共にP
TCを取得し、船舶1の積荷の重量が0.2×P
TC以下であるときに上記のような命令を分配装置60に与える。
【0085】
図7A及び
図7Bは、船舶1の積荷の重量が
図5A,5Bに示されたものと
図6A,6Bに示されたものとの間である第3の例を示す。かかる状況は特に、LNGその他液体製品がタンク2に部分的に充填された状態の際に起こり得る。
【0086】
図7Bでは、減揺タンク40に部分的に水が充填されており、より具体的には、上記のように最大充填体積の25%~75%が充填されている。
【0087】
制御部90は、
図7Aに示されている水の体積の分配から、
図7Bに示されている水の体積の分配に切り替えるように分配装置60に対して命令することができる。具体的には、制御部90は減揺命令に応じて、減揺タンクの充填状態が上記の通り部分的に充填されるまで当該減揺タンク40に水を移送するように分配装置60に命令する。基本的には、減揺タンク40に充填するため、分配装置60が後方タンク30のみから、前方タンク20のみから、又は中央タンク50のみから水を引き込むことができる。しかし、分配装置60が後方タンク30と前方タンク20とから同時に水を引き込み、又は後方タンク30と前方タンク20と中央タンク50とから同時に水を引き込むことにより、船舶1のトリムを調整しないようにしたり、あるいは少なくとも船舶1の船首の喫水Tfを増加させないことが好適である。
【0088】
ここで留意すべき点として、上記にて
図7A及び
図7Bを参照して説明した制御は、船舶1の積荷の重量が0.2×P
TC超かつ0.8×P
TC未満であるときに行うことができる。具体的には、制御部90は上記のように船舶1の積荷の重量を取得すると共に最大積載重量P
TCを取得し、船舶1の積荷の重量が厳格に0.2×P
TC超かつ0.8×P
TC未満であるときに上記のような命令を分配装置60に与える。
【0089】
上記では船舶1の積荷の重量と当該船舶1の最大積載重量PTCとに応じて制御部90によって実行される命令について説明したが、一変形形態では制御部90は、上記の値の大きさに依存せずに分配装置60を制御することができ、例えば乗組員からの命令のみに応じて分配装置60を制御することができる。
【0090】
なお、(船舶1の積荷の重量がPTC以下であれば、)減揺タンク40は船舶1の積荷の重量如何にかかわらず、船舶1において当該船舶の水線100より上方に配される。
【0091】
図示の構成のうち一部の構成、特に制御部90は、ユニット形式又は分散方式で、ハードウェア及び/又はソフトウェアコンポーネントを用いて、種々の形態で提供することができる。使用可能なハードウェアコンポーネントには、特殊用途集積回路(ASIC)、フィールドプラグラマブルゲートアレイ(FPGA)及びマイクロプロセッサが含まれる。ソフトウェアコンポーネントは種々のプログラミング言語、例えばC,C++,Java(登録商標)又はVHDL等で作成することができる。上記にて列挙した事項は、限定事項ではない。
【0092】
制御部90は設けなくてもよく、また先端技術のものでなくてもよい。よって上記の実施形態では、以下の使用を直接的又は間接的に実行するため、乗組員が分配装置60のバルブ及び/又はポンプを制御することができる:
【0093】
-船舶1の積荷の重量が0.2×PTC~0.8×PTCである際に、前方液体タンク20及び/若しくは後方液体タンク30から、好適には前方液体タンク20及び後方液体タンク30から、並びに/又は船舶1の船首の喫水Tfを増大させることなく、減揺タンク40に液体を移送する。
【0094】
-船舶の積荷の重量が0.2×PTC以下である際に、少なくとも前方液体タンク20から、好適には前方液体タンク20のみから、及び/又は船舶1の船首の喫水Tfを増大させることなく、減揺タンク40に液体を移送する。
【0095】
-船舶の積荷の重量が0.8×PTC以上である際に、前方液体タンク20及び/又は後方液体タンク30から、好適には前方液体タンク20及び後方液体タンク30から、減揺タンク40に液体を移送する。
【0096】
また、ここで述べておくべき点として、後方タンク30から水を減揺タンク40に移送する際には、中央タンク50を介してこの水を移送することが好適となり得る。
【0097】
複数の具体的な実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は決してこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲に属する場合には本願に記載の手段の技術的均等態様及びその組み合わせの全てを含むことが明らかである。
【0098】
「備える(include)」、「含む(comprise)」又は「有する(have)」との動詞を使用した場合、その活用形を用いた場合も含めて、請求項に記載されている要素又はステップの他にさらに、それ以外の要素又はステップの存在を除外するものではない。
【0099】
特許請求の範囲において、括弧書きの符号は、特許請求の範囲の限定に該当すると理解されるべきものではない。
【国際調査報告】