(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】SARS-COV-2のタンパク質をスパイクする特異的抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/10 20060101AFI20240927BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240927BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240927BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240927BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240927BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240927BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240927BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20240927BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240927BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240927BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240927BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20240927BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C07K16/10 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12Q1/70
A61P43/00 121
A61P31/14
A61K45/00
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K39/395 J
G01N33/569 L
G01N33/531 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519621
(86)(22)【出願日】2022-10-03
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 US2022077481
(87)【国際公開番号】W WO2023056482
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リン,クオ-イー
(72)【発明者】
【氏名】マー,チェー
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,チー-ヒューイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,スー-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,イー-シュアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シャオルイ
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,ハン-イー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
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4C084ZC751
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4C085GG03
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片に関する。本開示はまた、コロナウイルスによって引き起こされる疾患及び/又は障害の治療及び/又は予防を必要とする対象におけるコロナウイルスによって引き起こされる疾患及び/又は障害の治療及び/又は予防のための、医薬組成物及び方法、並びに試料中のコロナウイルスを検出する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoVのスパイクタンパク質中のエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片であって、前記エピトープが、配列番号8の419~433アミノ酸残基又は471~482アミノ酸残基に位置する部分を含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
抗体又はその抗原結合断片が、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)及び軽鎖可変領域の相補性決定領域を含み、前記重鎖可変領域の相補性決定領域が、CDRH1、CDRH2及びCDRH3領域を含み、前記軽鎖可変領域の相補性決定領域が、CDRL1、CDRL2及びCDRL3領域を含み、
前記CDRH1領域が、配列番号1のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、前記CDRH2領域が、配列番号2のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、前記CDRH3領域が、配列番号3のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、
前記CDRL1領域が、配列番号4のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、前記CDRL2領域が、WASのアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、前記CDRL3領域が、配列番号5のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含む、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
スパイクタンパク質が完全にグリコシル化されている、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
抗体又はその抗原結合断片が、配列番号6のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号7のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項2に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
抗体が多重特異性である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
CoVが、アルファ-CoV、ベータ-CoV、ガンマ-CoV及びデルタ-CoV2である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
CoVが、SARS-CoV、MERS-CoV又はSARS-CoV-2である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片に結合した請求項1~8のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片を含む複合体。
【請求項10】
スパイクタンパク質が完全にグリコシル化されている、請求項9に記載の複合体。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片をコードするベクター。
【請求項12】
請求項1~8のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片を発現する遺伝子操作された細胞。
【請求項13】
請求項11に記載のベクターを含む遺伝子操作された細胞。
【請求項14】
請求項1~8のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片を製造するための方法であって、前記方法が、(a)前記抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入すること、(b)前記宿主細胞を、前記1つ以上のポリヌクレオチドの発現に好都合な条件下で培養すること、及び(c)任意選択的に、前記宿主細胞及び/又は前記宿主細胞が増殖している培地から、前記抗体又は抗原結合断片を単離することを含む、方法。
【請求項15】
請求項1~8のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体と、任意選択的にさらなる治療剤とを含む医薬組成物。
【請求項16】
前記治療剤が抗ウイルス剤である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
治療剤が、抗炎症剤、又はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合断片である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む容器又は注射装置。
【請求項19】
コロナウイルスによる感染の治療又は予防を必要とする対象におけるコロナウイルスによる感染の治療又は予防のための医薬品の製造における、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項20】
コロナウイルスがSARS-CoV-2、SARS-CoV及びMERS-CoVからなる群より選択される、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
医薬品が、1以上のさらなる治療剤と共に投与される、請求項19に記載の使用。
【請求項22】
1以上のさらなる治療剤が、抗ウイルス剤である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
治療剤が、抗炎症剤、又はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合断片である、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
対象がワクチン接種される、請求項19に記載の使用。
【請求項25】
医薬品が、対象におけるコロナウイルスを中和するためのものである、請求項19に記載の使用。
【請求項26】
医薬品が、対象の体内に皮下、静脈内又は筋肉内注射される、請求項19に記載の使用。
【請求項27】
試料中のコロナウイルスを検出するための方法であって、前記試料を請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片と接触させることを含む、方法。
【請求項28】
試料中のコロナウイルスを検出するためのキットであって、前記キットが、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む、キット。
【請求項29】
配列番号8の419~433アミノ酸残基又は471~482アミノ酸残基に位置する部分を含むエピトープ。
【請求項30】
SARS-CoV-2のモノグリコシル化状態(Smg)で免疫したスパイク特異的モノクローナル抗体又はその結合断片の製造方法であって、前記方法が、
(a)前記抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入すること、
(b)前記1つ以上のポリヌクレオチドの発現に好都合な条件下で前記宿主細胞を培養すること、及び、
(c)任意選択的に、前記宿主細胞及び/又は前記宿主細胞が増殖している培地から、前記抗体又は抗原結合断片を単離すること
を含み、
d)前記抗体又はその結合断片が、CoVのスパイクタンパク質中のエピトープに特異的であり、前記エピトープが、配列番号8の419~433アミノ酸残基又は471~482アミノ酸残基に位置する部分を含む
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権情報
本出願は、2021年10月1日に出願された米国仮特許出願第63/251,472号の優先権及び利益を主張し、その開示はその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は配列表を含み、配列表は.xml形式で電子的に提出され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。2022年9月30日に作成された.xmlコピーは、「G4590-14200PCT_SeqListing_20220930.xml」という名前で、サイズが10キロバイトである。
【0003】
本開示は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的な抗体又はその抗原結合断片及びその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされたCOVID-19のパンデミックは、世界中に広まっている。感染は、感染対象に直接的な細胞変性作用及び過剰な炎症反応の症状を引き起こす。有効な治療の欠如は、高い罹患率及び死亡率を引き起こす。これらの新たに同定されたウイルスの出現は、新規な抗ウイルス戦略の開発の必要性を強調する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、COVID-19のための効果的な治療の開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、新規な中和治療用抗コロナウイルススパイクタンパク質(抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質などの)抗体、及びウイルス感染を治療又は予防するためのそれらの使用を提供する。
【0007】
したがって、本開示は、コロナウイルス(CoV)、特にSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を提供する。したがって、本開示による抗体は、CoV、特にSARS-CoV-2によって引き起こされる又は関連する疾患及び/又は障害を治療及び/又は予防するのに有用である。本開示の抗体は、CoV(特に、SARS-CoV-2)の検出にも有用である。
【0008】
本開示はまた、配列番号8の419~433アミノ酸残基又は471~482アミノ酸残基に位置する部分を含むエピトープを提供する。いくつかの実施形態では、エピトープは、配列番号8の419~433アミノ酸残基及び471~482アミノ酸残基に位置する部分を含む。したがって、本開示は、本明細書に開示されるエピトープに結合する抗体を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態において、本開示は、CoVのスパイクタンパク質中のエピトープに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供し、抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)及び軽鎖可変領域の相補性決定領域を含み、重鎖可変領域の相補性決定領域はCDRH1、CDRH2及びCDRH3領域を含み、軽鎖可変領域の相補性決定領域はCDRL1、CDRL2及びCDRL3領域を含み、
CDRH1領域は、GYTFTEYT(配列番号1)のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、CDRH2領域は、INPNIGDT(配列番号2)のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、CDRH3領域は、AREVYNYSFAY(配列番号3)のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、
CDRL1領域は、QSLLYSSNQKNY(配列番号4)のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、CDRL2領域は、WASのアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、CDRL3領域は、QQYYRYPLT(配列番号5)のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含む。
【0010】
本開示のいくつかの実施形態では、スパイクタンパク質は完全にグリコシル化されている。一実施形態では、スパイクタンパク質はモノグリコシル化されている。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、
【0012】
【化1】
のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含む重鎖可変領域を含み、
【0013】
【化2】
のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0014】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である。
【0015】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体は多重特異性である。
【0016】
本開示はまた、CoVのスパイクタンパク質又はその断片に結合した本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片を含む複合体を提供する。
【0017】
本開示は、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片をコードするベクターを提供する。
【0018】
本開示は、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片を発現するか、又は本明細書に開示されるベクターを含有する、遺伝子操作された細胞を提供する。
【0019】
本開示はまた、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片を製造する方法であって、(a)抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入すること、(b)宿主細胞を、1つ以上のポリヌクレオチドの発現に好都合な条件下で培養すること、及び(c)任意選択的に、宿主細胞及び/又は宿主細胞が増殖している培地から、抗体又は抗原結合断片を単離することを含む方法を提供する。
【0020】
本開示は、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体と、任意選択的にさらなる治療剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0021】
治療剤としては、例えば、抗ウイルス剤が挙げられるが、これに限定されない。本開示のいくつかの実施形態では、治療剤は、抗炎症剤、又はCoVのスパイクタンパク質に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合断片である。
【0022】
本開示のいくつかの実施形態では、対象がワクチン接種される。
【0023】
本開示は、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片を含む容器又は注射装置を提供する。
【0024】
本開示は、コロナウイルスによる感染の治療又は予防を必要とする対象におけるコロナウイルスによる感染の治療又は予防のための医薬品の製造における、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片の使用を提供する。加えて、本開示は、コロナウイルスによる感染の治療又は予防を必要とする対象におけるコロナウイルスによる感染の治療又は予防のための方法であって、本明細書中に開示の抗体又はその抗原結合断片の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0025】
本開示のいくつかの実施形態では、本明細書に記載のCoVは、アルファ-CoV、ベータ-CoV、ガンマ-CoV及びデルタ-CoV2である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のCoVは、限定するものではないが、SARS-CoV、MERS-CoV又はSARS-CoV-2を含む。
【0026】
本開示のいくつかの実施形態では、医薬品は、1以上のさらなる治療剤と共に投与される。又は、対象には、1以上のさらなる治療剤が投与される。
【0027】
本開示は、コロナウイルスの中和を必要とする対象におけるコロナウイルスの中和のための方法であって、本明細書中に開示されるような抗体又はその抗原結合断片を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0028】
本開示は、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片を対象の体内に投与する方法であって、抗体又は抗原結合断片を対象の体内に注射することを含む方法を提供する。
【0029】
本開示のいくつかの実施形態では、医薬品は、対象の体内に皮下、静脈内又は筋肉内注射される。又は、抗体又は抗原結合断片を、対象の体内に皮下、静脈内又は筋肉内注射する。
【0030】
本開示は、試料中のコロナウイルスを検出する方法であって、試料を本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片と接触させることを含む方法を提供する。
【0031】
本開示は、試料中のコロナウイルスを検出するためのキットを提供し、キットは本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片を含む。
【0032】
本開示は、以下のセクションで詳細に説明される。本開示の他の特徴、目的及び利点は、詳細な説明及び特許請求の範囲に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】S
mg免疫マウスからのm31A7 mAbの同定を示す図である。
【
図1B】S
mg及びS
fgによって誘発されたスパイク特異的B細胞レパートリーの重鎖の比較を示す図である。
【
図1C】S
mg及びS
fgによって誘発されたスパイク特異的B細胞レパートリーの重鎖の比較を示す図である。
図1Aは、単一B細胞スクリーニングプラットフォームの概要を示す。免疫マウスの脾臓由来の単一スパイク特異的B細胞(CD3
-CD19
+スパイク
+)を、FACSによって96ウェルプレートに選別した。各単一B細胞のIgH及びIgL遺伝子転写物をRT-PCRによって増幅した。配列決定後、IgH又はIgL遺伝子の可変領域由来のcDNAを、それぞれヒトIg重鎖又は軽鎖定常領域を含む発現ベクターにサブクローニングした。キメラモノクローナル抗体をExpi 293によって産生させ、スパイクタンパク質に対するその結合を、スパイク発現293T細胞及びFACSを使用することによって測定した。
図1Bは、B細胞レパートリーの重質分布を示す。5%未満の使用が白色で示されている。
図1Cは、S
fg又はS
mg免疫化マウスの重鎖IgGレパートリーの分析が、S
mg群において高度に表されたIGHV1-9、IGHV1-18及びIGHV2-3を示したことを示す(p値:カイ二乗検定を用いて、それぞれ0.048、1.6×10
-11及び0.005)。
【
図2A】m31A7とSARS-CoV-2スパイクタンパク質との結合を示す図である。
【
図2B】m31A7とSARS-CoV-2スパイクタンパク質との結合を示す図である。
図2Aは、S1、S2、RBD又はSタンパク質に対するm31A7のELISA結合を示す。
図2Bは、SARS-CoV-2 WTのSタンパク質及び変異体(D614G、B.1.1.7[アルファ]、B.1.351[ベータ]及びB.1.617.2[デルタ]を含む)を発現するHEK293T細胞へのm31A7結合のFACS分析を示す。
【
図3A】m31A7がSARS-CoV-2シュードウイルスの様々な変異体を中和することができることを示す図である。
【
図3B】m31A7がSARS-CoV-2シュードウイルスの様々な変異体を中和することができることを示す図である。
図3Aは、SARS-CoV-2 WT及び変異シュードウイルスに対するm31A7の中和を示す。
図3Bは、以前に報告されたmAb EY6A(灰色)と比較した、m31A7によるSARS-CoV-2 WT及び変異体のシュードウイルス微量中和を示す。変異種(D614G、B.1.1.7[アルファ]、B.1.351[ベータ]及びB.1.617.2[デルタ]を含む)を各パネルの上部に表示する。
【
図4A】m31A7がインビボでのSARS-CoV-2抗原刺激に対して予防活性を示すことを示す図である。
【
図4B】m31A7がインビボでのSARS-CoV-2抗原刺激に対して予防活性を示すことを示す図である。
【
図4C】m31A7がインビボでのSARS-CoV-2抗原刺激に対して予防活性を示すことを示す図である。
図4Aは、K18hACE2トランスジェニックマウスを使用することによる抗体注入及び抗原刺激スケジュールを示す。
図4Bは、PBS又はm31A7治療マウスにおけるSARS-CoV-2感染後の体重変化を示す。
図4Cは、PBS又はm31A7治療マウスにおけるSARS-CoV-2感染後の体温変化を示す。*P<0.05。
【
図5A】m31A7の生物物理学的特性を示す図である。
【
図5B】m31A7の生物物理学的特性を示す図である。
【
図5C-1】m31A7の生物物理学的特性を示す図である。
【
図5C-2】m31A7の生物物理学的特性を示す図である。
【
図5D】m31A7の生物物理学的特性を示す図である。
図5Aは、m31A7 IgG及びFabのSタンパク質に対する解離定数を示す。
図5Bは、m31A7 IgG及びFabのBA.1 Sタンパク質に対する解離定数を示す。
図5Cは、15秒で測定した潜在的なm31A7結合ペプチドを示す、HDX-MSによるRBDのエピトープマッピングを示す。
図5Dは、m31A7 IgGの添加時のRBDにおける重水素取り込みの変化のボルケーノプロットを示し、ヒット(ΔHDX>5%、q値<0.01)を右上隅に示し、赤色で強調している。非標識ヒットは、471~482を有する冗長ペプチドである。*P<0.05;**P<0.01;*** P<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、本明細書に記載の特定の材料及び方法に限定されないことが理解される。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されたい。
【0035】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、内容が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0036】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、特定の抗原(SARS-CoV-2-スパイクタンパク質)に特異的に結合するか又はそれと相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、任意の抗原結合分子又は分子複合体を指す。「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互に接続された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖、並びにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む、免疫グロブリン分子を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。各重鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分することができる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置された3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本開示の異なる実施形態では、抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖細胞系配列と同一であり得るか、又は天然若しくは人工的に改変され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0037】
本明細書で使用される抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する任意の天然に存在する、酵素的に得られる、合成の、又は遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。
【0038】
本明細書で使用される場合、「特異的に結合する」という用語は、抗体がその他のエピトープと有意な程度まで交差反応しないことを意味する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。
【0040】
本明細書中で使用される場合、用語「相補性決定領域」(CDR)とは、重鎖ポリペプチド及び軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見出される不連続な抗原結合部位のことを指す。CDRは、Kabat他、J.Biol.Chem、252:6609-6616(1977)、Kabat他、U.S.Dept.of Health and Human Services「免疫学的に関心のあるタンパク質の配列(Sequences of proteins of immunological interest)」(1991)、Chothia他、J.Mol.Biol、196:901-917(1987)及びMacCallum他、Mol.Biol、262:732-745(1996)に記載されており、定義は、互いに比較した場合のアミノ酸残基の重複又はサブセットを含む。
【0041】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的な類似性」又は「実質的に類似」という用語は、2つのペプチド配列が、デフォルトのギャップ重みを使用するプログラムGAP又はBESTFITなどによって最適に整列された場合、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なる。「保存的アミノ酸置換」は、あるアミノ酸残基が、類似の化学的性質(例えば、電荷又は疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基で置換されたものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能特性を実質的に変化させない。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、配列同一性パーセント又は類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上方に調整され得る。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。類似の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン、トレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン、グルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、ヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラルテート及びグルタメート、並びに(7)硫黄含有側鎖はシステイン及びメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換群は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタメート-アスパルテート及びアスパラギン-グルタミンである。又は、保存的置換は、参照により本明細書に組み込まれるGonnet他(1992)Science 256:1443-1445に開示されているPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的」置換は、PAM250対数尤度行列において非負値を有する任意の変化である。
【0042】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、任意の真核生物クローン、原核生物クローン又はファージクローンを含む単一のクローンから、当技術分野で利用可能又は公知の任意の参照によって誘導される。
【0043】
本明細書で使用される「キメラ」抗体という用語は、典型的にはヒト免疫グロブリン鋳型から選択される、非ヒト免疫グロブリン及びヒト免疫グロブリン定常領域に由来する可変配列を有する抗体を指す。
【0044】
非ヒト抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ免疫グロブリンである。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、CDR領域の全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。
【0045】
本開示で使用される場合、「完全にグリコシル化された」という用語は、CoVスパイクタンパク質(特に、SARS-CoV-2-スパイクタンパク質)内の全てのN-グリカン部位が少なくとも1つの糖部分でグリコシル化されている、CoVスパイクタンパク質(特に、SARS-CoV-2-スパイクタンパク質)上のグリコシル化の状態を指す。
【0046】
本開示で使用される場合、「治療剤」という用語は、哺乳動物、例えばヒトへの投与に適した治療効果又は薬理効果を有する任意の化合物、物質、薬物、薬物成分又は活性成分を指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、「イムノコンジュゲート」という用語は、放射性剤、サイトカイン、インターフェロン、標的部分若しくはレポーター部分、酵素、ペプチド若しくはタンパク質又は治療剤に化学的又は生物学的に連結された抗原結合タンパク質、例えば抗体又は抗原結合断片を指す。抗原結合タンパク質は、その標的(CoV-S)に結合することができる限り、分子に沿った任意の位置で放射性剤、サイトカイン、インターフェロン、標的部分又はレポーター部分、酵素、ペプチド又は治療剤に連結され得る。イムノコンジュゲートの例としては、抗体-薬物コンジュゲート及び抗体-毒素融合タンパク質が挙げられる。本発明の一実施形態では、薬剤は、CoV-Sに特異的に結合する第2の異なる抗体であり得る。抗CoV-S抗原結合タンパク質(例えば、抗体又は断片)にコンジュゲートされ得る治療部分のタイプは、治療される状態及び達成されるべき所望の治療効果を考慮に入れるであろう。
【0048】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、それが連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことを意図している。
【0049】
細胞の「遺伝子操作された」又は「遺伝子工学」という用語は、細胞における遺伝子コピー及び/又は遺伝子発現レベルの変化のために、遺伝物質を使用して遺伝子を操作することを指す。遺伝物質は、DNA又はRNAの形態であり得る。遺伝物質は、ウイルス形質導入及び非ウイルストランスフェクションを含む様々な手段によって細胞に移入することができる。遺伝子操作された後、細胞における特定の遺伝子の発現レベルは、永久的又は一時的に変化させることができる。
【0050】
「コロナウイルス」又は「CoV」という用語は、SARS-CoV-2、MERS-CoV及びSARS-CoVを含むがこれらに限定されない、コロナウイルス科の任意のウイルスを指す。SARS-CoV-2とは、世界中の他の地域に急速に広がっている新興コロナウイルスを指す。これは、ウイルススパイクタンパク質を介してヒト宿主細胞受容体アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合する。スパイクタンパク質はまた、ウイルスの膜融合のためにスパイクタンパク質を活性化するTMPRSS2に結合し、TMPRSS2によって切断される。
【0051】
「S」又は「Sタンパク質」とも呼ばれる「CoV-S」という用語は、コロナウイルスのスパイクタンパク質を指し、特定のSタンパク質、例えばSARS-CoV-2-S、MERS-CoV S及びSARS-CoV Sを指すことができる。
【0052】
本明細書で使用される「コロナウイルス感染症」又は「CoV感染症」という用語は、SARS-CoV-2、MERS-CoV、又はSARS-CoVなどのコロナウイルスによる感染症を指す。この用語は、下気道に多い、コロナウイルス呼吸器感染症を含む。症状には、高熱、乾性咳、息切れ、肺炎、下痢などの胃腸症状、臓器不全(腎不全及び腎機能障害)、敗血症性ショック及び重篤な場合の死亡が含まれ得る。
【0053】
本発明で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、哺乳動物が罹患する特定の疾患又は病理学的状態を予防、治療又は排除するために哺乳動物、例えばヒトに投与される治療剤を含有する混合物を指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」又は「有効量」という用語は、疾患を治療するために哺乳動物又は他の対象に投与された場合に、疾患のそのような治療に影響を及ぼすのに十分な抗体の量を指す。
【0055】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療すること」などの用語は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患の素因を有する可能性があるが、それを有するとまだ診断されていない対象において、疾患が発生するのを予防すること;(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発症を停止させること;(c)疾患を軽減すること、すなわち、疾患の退縮を引き起こすことを含む。
【0056】
「防止すること」又は「防止」という用語は当技術分野で認識されており、症状に関連して使用される場合、それは、症状の発症前に、薬剤を投与されていない対象と比較して、対象における医学的症状の頻度若しくは重症度を低下させるために、又は症状の発症を遅延させるために、薬剤を投与することを含む。
【0057】
本明細書で互換的に使用される場合、「個体」、「対象」、「宿主」及び「患者」という用語は、限定するものではないが、ネズミ(ラット、マウス)、非ヒト霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)などを含む哺乳動物を指す。特に、対象はワクチン接種される。
【0058】
本明細書で使用される場合、「治療を必要とする」という用語は、対象が治療を必要とするか又は治療から利益を得るであろう、介護者(例えば、医師、看護師、ナースプラクティショナー、又はヒトの場合は個人;非ヒト哺乳動物を含む動物の場合は獣医)によって行われる判断を指す。この判断は、介護者の専門知識の範囲内であるが、本開示の化合物によって治療可能な状態の結果として対象が病気である又は病気になるという知識を含む、様々な要因に基づいて行われる。
【0059】
本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、個体、対象又は患者から得られた様々な試料タイプを包含し、診断又は監視アッセイで使用することができる。定義は、生物学的起源の血液及び他の液体試料、生検標本又は組織培養物又はそれに由来する細胞及びその子孫などの固体組織試料を包含する。
【0060】
「中和」は、分子(例えば抗体)がコロナウイルスの活性を任意の検出可能な程度まで阻害する、例えば、コロナウイルスが受容体に結合する能力、プロテアーゼによって切断される能力、又は宿主細胞へのウイルス侵入若しくは宿主細胞におけるウイルス複製を媒介する能力を阻害する過程を指す。
【0061】
コロナウイルス(CoV)は、ヒト及び動物に感染し、呼吸器、腸、腎臓及び神経疾患を含む様々な疾患を引き起こす。CoVは、中和抗体の主な標的であるそのスパイク糖タンパク質(S)を使用して、その受容体に結合し、膜融合及びウイルス侵入を媒介する。コロナウイルススパイクタンパク質は、全てのヒトコロナウイルス(CoV)の中に高度に保存され、受容体認識、ウイルス付着及び宿主細胞への侵入に関与している。同様に、SARS-CoV-2Sタンパク質もCoVのものと共に高度に保存されている。Sタンパク質が受容体に結合すると、宿主細胞膜上に位置する2型TMセリンプロテアーゼであるTMプロテアーゼセリン2(TMPRSS2)は、Sタンパク質を活性化することによって細胞へのウイルス侵入を促進する。ウイルスが細胞に入ると、ウイルスRNAが放出され、ポリタンパク質がRNAゲノムから翻訳され、ウイルスRNAゲノムの複製及び転写が、レプリカーゼ-転写酵素複合体のタンパク質切断及び集合を介して起こる。ウイルスRNAが複製され、構造タンパク質が合成され、組み立てられ、宿主細胞にパッケージングされた後、ウイルス粒子が放出される(Fehr AR,Perlman S「コロナウイルス:それらの複製及び病因の概要(Coronaviruses:an overview of their replication and pathogenesis)」Methods Mol Biol.2015;1282:1-23)。
【0062】
SARS-CoV-2-スパイクタンパク質は、エンベロープを有するコロナウイルス粒子の表面上でスパイク又はペプロマーを構成する三量体に集合する1273アミノ酸I型膜糖タンパク質である。このタンパク質は、宿主受容体結合と膜融合の2つの必須機能を有し、これらはSタンパク質のN末端(S1)及びC末端(S2)の半分に起因する。CoV-Sは、S1サブユニットに存在する受容体結合ドメイン(RBD)を介してその同族受容体に結合する。完全長SARS-CoV-2スパイクタンパク質のアミノ酸配列は、以下のアミノ酸配列によって例示される。
【0063】
【0064】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質の変異体の例にはD614G:D614G;B.1.1.7:69-70欠失、144欠失、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A及びD1118H;B.1.351:L18F、D80A、D215G、242-244欠失、R246I、K417N、E484K、N501Y、D614G及びA701Vが含まれるが、これらに限定されない。「CoV-S」という用語は、異なるCoV分離株から単離されたCoVスパイクタンパク質のタンパク質変異体、並びに組換えCoVスパイクタンパク質又はその断片を含む。この用語はまた、例えばヒスチジンタグ、マウス若しくはヒトFc、又はROR1などのシグナル配列にカップリングされたCoVスパイクタンパク質又はその断片を包含する。
【0065】
本開示は驚くべきことに、配列番号8の419~433アミノ酸残基又は471~482アミノ酸残基に位置する部分を含むエピトープを見出した。したがって、本開示は、本明細書に開示されるエピトープに結合する抗体を提供する。
【0066】
本開示は、CoVスパイクタンパク質(特に、SARS-CoV-2-スパイクタンパク質)中のエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を開発する。
【0067】
特に、抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)及び軽鎖可変領域の相補性決定領域を含み、重鎖可変領域の相補性決定領域はCDRH1、CDRH2及びCDRH3領域を含み、軽鎖可変領域の相補性決定領域はCDRL1、CDRL2及びCDRL3領域を含み、
CDRH1領域は、配列番号1のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含み、CDRH2領域は、配列番号2のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含み、CDRH3領域は、配列番号3のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含み、CDRL1領域は、配列番号4のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含み、CDRL2領域は、WASのアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含み、CDRL3領域は、配列番号5のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0068】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、m31A7であり、配列番号6のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列と、配列番号7のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む軽鎖可変領域とを含む。CDRH1領域は、配列番号1のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含み、CDRH2領域は、配列番号4のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列を含む。
【0069】
本開示による抗体は、完全長(例えば、IgG1又はIgG4抗体)であり得るか、又は抗原結合部分(例えば、Fab、F(ab’)2又はscFv断片)のみを含み得、必要に応じて機能性に影響を及ぼすように修飾され得る。
【0070】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、コロナウイルス感染症を治療するために、別の部分、例えば治療部分(「イムノコンジュゲート」)、例えばトキソイド又は抗ウイルス剤にコンジュゲートされた抗CoV-S抗原結合タンパク質、例えば抗体又は抗原結合断片とコンジュゲートされる。本発明の一実施形態では、抗CoV-S抗体又は断片を、本明細書に記載のさらなる治療剤のいずれかにコンジュゲートする。
【0071】
当業者に公知の様々な技術を使用して、抗体がポリペプチド又はタンパク質内の「1つ以上のアミノ酸に特異的に結合する」かどうかを決定することができる。例示的な技術としては、例えば、「抗体(Antibodies)」Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harb、N.Y.)に記載されている日常的なクロスブロッキングアッセイ、アラニンスキャニング変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke,2004,Methods Mol Biol 248:443-463)及びペプチド切断分析が挙げられる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出及び抗原の化学修飾などの方法を使用することができる(Tomer,2000,Protein Science 9:487-496)。抗体が特異的に結合するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的に言えば、水素/重水素交換法は、目的のタンパク質を重水素標識し、続いて抗体を重水素標識タンパク質に結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移して、抗体によって保護された残基(重水素標識されたままである)を除く全ての残基で水素-重水素交換を生じさせる。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断及び質量分析に供し、それにより、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267(2):252-259、Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照のこと。
【0072】
抗体が参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体と同じエピトープに特異的に結合するか、又は結合で競合するかどうかは、当技術分野で公知の日常的な方法を使用することによって容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本開示の参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照抗体をSARS-CoV-2-スパイクタンパク質に結合させる。次に、試験抗体がSARS-CoV-2-スパイクタンパク質分子に結合する能力を評価する。試験抗体が、参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体との飽和結合後にSARS-CoV-2-スパイクタンパク質に結合することができる場合、試験抗体は、参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。一方、試験抗体が、参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体との飽和結合後にSARS-CoV-2-スパイクタンパク質分子に結合することができない場合、試験抗体は、本開示の参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体によって結合されるエピトープと同じエピトープに結合し得る。次いで、試験抗体の結合の観察された欠如が、実際に参照抗体と同じエピトープへの結合によるものであるかどうか、又は立体遮断(又は別の現象)が、観察された結合の欠如の原因であるかどうかを確認するために、さらなる日常的な実験(例えば、ペプチド変異及び結合分析)を行うことができる。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー、又は当技術分野で利用可能な任意の他の定量的若しくは定性的抗体結合アッセイを使用して行うことができる。本開示のある特定の実施形態によれば、2つの抗体は、例えば、1倍、5倍、10倍、20倍又は100倍過剰の一方の抗体が、競合結合アッセイで測定されるように他方の結合を少なくとも50%、好ましくは75%、90%又はさらには99%阻害する場合、同じ(又は重複する)エピトープに結合する。又は、一方の抗体の結合を低減又は排除する抗原中の本質的に全てのアミノ酸変異が、他方の結合を低減又は排除する場合、2つの抗体は同じエピトープに結合すると見なされる。一方の抗体の結合を低減又は排除するアミノ酸変異のサブセットのみが、他方の結合を低減又は排除する場合、2つの抗体は「重複エピトープ」を有すると見なされる。
【0073】
抗体はまた、完全な抗体分子の抗原結合断片を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、抗体可変ドメイン及び任意選択的に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む、タンパク質分解消化又は組換え遺伝子工学技術などの任意の適切な標準的技術を使用して、完全な抗体分子から誘導され得る。そのようなDNAは公知であり、及び/又は例えば商業的供給源、DNAライブラリー(例えばファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、又は合成することができる。DNAは、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/又は定常ドメインを適切な構成に配置するために、又はコドンの導入、システイン残基の作成、アミノ酸の修飾、付加若しくは欠失などのために、化学的に又は分子生物学技術を使用して配列決定及び操作され得る。
【0074】
抗原結合断片の非限定的な例としては、以下が挙げられる:(i)Fab断片;(ii)F(ab’)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))又は拘束性FR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位。他の操作された分子、例えばドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフティング抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小型モジュール免疫医薬(SMIP)及びサメ可変IgNARドメインなども、本明細書で使用される「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0075】
抗体の抗原結合断片は、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズ又はアミノ酸組成であり得、一般に、1つ以上のフレームワーク配列に隣接するか又はそれとインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインに関連するVHドメインを有する抗原結合断片では、VHドメイン及びVLドメインは、任意の適切な配置で互いに対して位置し得る。例えば、可変領域は二量体であり得、VH-VH、VH-VL又はVL-VL二量体を含有し得る。又は、抗体の抗原結合断片は、単量体VH又はVLドメインを含有し得る。
【0076】
一定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合した少なくとも1つの可変ドメインを含み得る。本開示の抗体の抗原結合断片内に見出され得る可変ドメイン及び定常ドメインの非限定的な例示的構成には、以下が含まれる:(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3,(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;及び(xiv)VL-CL。本明細書に列挙した例示的な構成のいずれかを含む、可変ドメイン及び定常ドメインの任意の構成において、可変ドメイン及び定常ドメインは、互いに直接連結されていてもよく、又は完全若しくは部分的なヒンジ若しくはリンカー領域によって連結されていてもよい。ヒンジ領域は、少なくとも2つ(例えば、5、10、15、20、40、60以上)のアミノ酸からなり得、これらは単一のポリペプチド分子内の隣接する可変ドメイン及び/又は定常ドメイン間に、柔軟又は半柔軟な連結をもたらす。さらに、本開示の抗体の抗原結合断片は、互いに及び/又は1つ以上の単量体VH又はVLドメインと(例えば、ジスルフィド結合によって)非共有結合で会合した、上に列挙した可変ドメイン及び定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体又はヘテロ二量体(又は他の多量体)を含み得る。
【0077】
本明細書に開示される抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体は、抗体が由来する対応する生殖細胞系配列と比較して、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/又はCDR領域に1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/又は欠失を含み得る。そのような変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば公開されている抗体配列データベースから入手可能な生殖細胞系配列と比較することによって容易に確認することができる。本開示は、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体及びその抗原結合断片を含み、1つ以上のフレームワーク及び/又はCDR領域内の1つ以上のアミノ酸は、抗体が由来する生殖細胞系配列の対応する残基に、又は別の哺乳動物生殖細胞系配列の対応する残基に、又は対応する生殖細胞系残基の保存的アミノ酸置換に変異している(このような配列変化を本明細書ではまとめて「生殖細胞系突然変異」と呼ぶ)。当業者は、本明細書に開示される重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列から出発して、1つ以上の個々の生殖細胞系突然変異又はそれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合断片を容易に製造することができる。一定の実施形態では、VH及び/又はVLドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基の全てが、抗体が由来した元の生殖細胞系配列に見られる残基に変異して戻される。他の実施形態では、特定の残基のみ、例えばFR1の最初の8個のアミノ酸内若しくはFR4の最後の8個のアミノ酸内に見られる変異残基のみ、又はCDR1、CDR2若しくはCDR3内に見られる変異残基のみが、元の生殖細胞系配列に変異して戻される。他の実施形態では、フレームワーク及び/又はCDR残基の1つ以上が、異なる生殖細胞系配列(すなわち、抗体が最初に由来した生殖細胞系配列とは異なる生殖細胞系配列)の対応する残基に変異する。さらに、本開示の抗体は、フレームワーク及び/又はCDR領域内に2つ以上の生殖細胞系突然変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基は、特定の生殖細胞系配列の対応する残基に変異しているが、元の生殖細胞系配列とは異なるある特定の他の残基は、維持されているか、又は異なる生殖細胞系配列の対応する残基に変異している。一旦得られると、1つ以上の生殖細胞系突然変異を含有する抗体及び抗原結合断片は、1つ以上の所望の特性、例えば、結合特異性の改善、結合親和性の増加、(場合によっては)アンタゴニスト又はアゴニストの生物学的特性の改善又は増強、免疫原性の低下などについて容易に試験することができる。この一般的な様式で得られる抗体及び抗原結合断片は、本開示に包含される。
【0078】
本開示はまた、1つ以上の保存的置換を有する本明細書に開示されるVH、VL及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体を含む。例えば、本開示は、本明細書に開示されるVH、VL及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して、例えば10個以下、8個以下、6個以下、4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するVH、VL及び/又はCDRアミノ酸配列を有する抗EPHA10抗体を含む。
【0079】
本開示のいくつかの実施形態では、本開示による抗体はヒト化抗体である。本開示によるヒト化抗体の結合親和性を改善するために、ヒトフレームワーク領域中のいくつかのアミノ酸残基がCDRの種、例えば、げっ歯類中の対応するアミノ酸残基によって置換される。
【0080】
本開示の抗体は、単一特異性、二重特異性又は多重特異性であり得る。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であり得るか、又は2つ以上の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含み得る。本開示の抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体は、別の機能性分子、例えば別のペプチド又はタンパク質に連結又は共発現され得る。例えば、抗体又はその断片は、別の抗体又は抗体断片などの1つ以上の他の分子実体に機能的に連結して(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合又は他の方法によって)、第2の結合特異性を有する二重特異性又は多重特異性抗体を産生することができる。例えば、本開示は、免疫グロブリンの一方のアームがSARS-CoV-2-スパイクタンパク質又はその断片に特異的であり、免疫グロブリンの他方のアームが第2の治療標的に特異的であるか、又は治療部分にコンジュゲートされている二重特異性抗体を含む。
【0081】
別の態様では、本開示は、抗体若しくはその抗原結合断片を発現するか又はベクターを含む、遺伝子操作された細胞を提供する。遺伝子操作された細胞は免疫細胞であり得る。
【0082】
本開示の1つの好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、原核生物及び真核生物の発現系を含む任意の数の発現系を使用して産生され得る。いくつかの態様では、発現系は、ハイブリドーマなどの哺乳動物細胞発現、又はCHO細胞発現系である。そのような系の多くは、商業的供給業者から広く入手可能である。抗体がVH領域及びVL領域の両方を含む実施形態では、VH領域及びVL領域は、単一のベクターを使用して、例えばジシストロニック発現単位で、又は異なるプロモーターの制御下で発現され得る。他の実施形態では、VH領域及びVL領域は、別々のベクターを使用して表現されてもよい。本明細書中に記載されるようなVH領域又はVL領域は、任意選択的にN末端にメチオニンを含む場合がある。
【0083】
目的の抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子は、細胞からクローニングすることができ、例えば、モノクローナル抗体をコードする遺伝子は、ハイブリドーマからクローニングし、組換えモノクローナル抗体を産生するために使用することができる。モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーは、ハイブリドーマ又は形質細胞から作製することもできる。重鎖及び軽鎖遺伝子産物のランダムな組み合わせは、異なる抗原特異性を有する抗体の大きなプールを生成する(例えば、Kuby「免疫学(Immunology)」(3.sup.rd ed.1997)を参照のこと)。
【0084】
抗体又は抗原結合断片を製造するための方法の一例は、(a)抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入すること、(b)宿主細胞を、1つ以上のポリヌクレオチドの発現に好都合な条件下で培養すること、及び(c)任意選択的に、宿主細胞及び/又は宿主細胞が増殖している培地から、抗体又は抗原結合断片を単離することを含む。
【0085】
ベクターを使用して、本発明の抗体又は抗原結合断片をコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することができる。一実施形態では、1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは追加のDNAセグメントがライゲーションされ得る環状二本鎖DNAループを指す。ライゲ別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲーションされ得る。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律複製することができる(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込むことができ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。さらに、特定のベクターは、それらが作動可能に連結されている遺伝子の発現を指示することができる。そのようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(又は単純に「発現ベクター」)と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、プラスミドの形態であることが多い。本明細書において、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドがベクターの最も一般的に使用される形態であるので、交換可能に使用され得る。しかしながら、本発明は、同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)などの他の形態の発現ベクターを含むことを意図している。
【0086】
本開示は、抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を提供する。本開示の医薬組成物は、適切な希釈剤、担体、賦形剤、及び改善された移入、送達、耐性などを提供する他の薬剤と共に製剤化される。組成物は、獣医学的使用又はヒトにおける医薬的使用などの特定の使用のために製剤化され得る。組成物の形態並びに使用される賦形剤、希釈剤及び/又は担体は、抗体の意図される使用、及び治療的使用のためには投与様式に依存する。多数の適切な製剤は、全ての製薬化学者に知られている処方集「レミントンの薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」Mack Publishing Company,Easton,Paに見出すことができる。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性又はアニオン性)含有小胞(例えば、LIPOFECTIN.TM.,Life Technologies,Carlsbad,Calif.)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型及び油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル及びカルボワックスを含有する半固体混合物が含まれる。Powell他「非経口製剤のための賦形剤の概要(Compendium of excipients for parenteral formulations)」PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0087】
本開示のいくつかの実施形態では、医薬組成物は、抗ウイルス剤などのさらなる治療剤を含む。抗ウイルス剤は、SARS-CoV-2のSタンパク質に対する抗体;抗炎症剤;SARS-CoV-2のSタンパク質のNTD領域に対する抗体;SARS-CoV-2のSタンパク質のHR1領域に対する抗体;SARS-CoV-2のSタンパク質のRBD領域に対する抗体;SARS-CoVモノクローナル抗体;MERS-CoVモノクローナル抗体;SARS-CoV-2モノクローナル抗体;ペプチド;プロテアーゼ阻害剤;PIKfyve阻害剤;TMPRSS2阻害剤;及びカテプシン阻害剤;フリン阻害剤;抗ウイルスペプチド;抗ウイルスタンパク質;抗ウイルス性化合物であってもよい。例えば、抗ウイルス剤は、以下からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。1A9;201;311mab-31B5;311mab-32D4;47D11;4A8;4C2;80R;アピリモド;B38;モスタットメシレート;カシリビマブ;CR3014;CR3022;D12;E-64D;EK1;EK1C4;H4;HR2P;IBP02;イムデビマブ;m336;MERS-27;MERS-4;MI-701;n3088;n3130;P2B-2F6;P2C-1F11;PI8;S230;S309;SARS-CoV-2 S HR2P断片(aal 168-1203);テトランドリン;ビラセプト(ネルフィナビルメシレート);YM201636;a-1-PDX;ファビピラビル;IFN-a;IFN-alb;IFN-a2a;ロピナビル-リトナビル;Q-グリフィスシン(Q-GRFT);及びグリフィスシン;オセルタミビル;ザナミビル;アバカビル;ジドブジン;ザルシタビン;ジダノシン;スタブジン;エファビレンツ;インジナビル;リトナビル;ネルフィナビル;アンプレナビル;リバビリン;レムデシビル;クロロキン;ヒドロキシクロロキン;rIFN-アルファ-2a;rIFN-ベータ-lb;rIFN-ガンマ;nIFN-アルファ;nIFN-ベータ;nlFN-ガンマ;IL-2;PD-L1;抗PD-Ll;チェックポイント阻害剤;インターフェロン;インターフェロン混合物;組換え又は天然のインターフェロン;アルフェロン;アルファ-インターフェロン種;組換え又は天然のインターフェロンアルファ;組換え又は天然のインターフェロンアルファ2a;組換え又は天然のインターフェロンベータ;組換え又は天然のインターフェロンベータlb;及び組換え又は天然のインターフェロンガンマ。アルファ-インターフェロン種は、ヒト白血球によって産生されるアルファ-インターフェロンの少なくとも7種の混合物であり得、7種は、インターフェロンアルファ2;インターフェロンアルファ4;インターフェロンアルファ7;インターフェロンアルファ8;インターフェロンアルファ10;インターフェロンアルファ16;及びインターフェロンアルファ17である。
【0088】
患者に投与される抗体の用量は、患者の年齢及びサイズ、標的疾患、状態、投与経路などに応じて変化し得る。好ましい用量は、典型的には、体重又は体表面積に従って計算される。本開示の抗体を、成人患者におけるEPHA10に関連する状態又は疾患を治療するために使用する場合、本開示の抗体を静脈内投与することが有利であり得る。状態の重症度に応じて、治療の頻度及び期間を調整することができる。抗体を投与するための有効な投与量及びスケジュールは、経験的に決定され得る。例えば、患者の進行を定期的な評価によって監視し、それに応じて用量を調整することができる。さらに、投与量の種間スケーリングは、当技術分野で周知の方法(例えば、Mordenti他、1991、Pharmaceut.Res.8:1351)を使用して行うことができる。
【0089】
様々な送達系が公知であり、本開示の医薬組成物を投与するために使用することができ、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセル、変異ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスに封入することができる(例えば、Wu他、1987,J.Biol.Chem.262:4429-4432参照)。導入方法には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外及び経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、任意の好都合な経路によって、例えば注入又はボーラス注射によって、上皮又は皮膚粘膜ライニング(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)を介した吸収によって投与され得、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与され得る。投与は全身的又は局所的であり得る。
【0090】
本開示の医薬組成物は、標準的な針及び注射器などの容器又は注射装置を用いて皮下又は静脈内に送達することができる。さらに、皮下送達に関して、ペン型送達装置は、本開示の医薬組成物を送達する際の用途を容易に有する。そのようなペン型送達装置は、再使用可能又は使い捨て可能であり得る。再使用可能なペン型送達装置は、一般に、医薬組成物を含む交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内の全ての医薬組成物が投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジを容易に廃棄し、医薬組成物を含む新しいカートリッジと交換することができる。次いで、ペン型送達装置を再使用することができる。使い捨てのペン型送達装置では、交換可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てのペン型送達装置は、装置内のリザーバに保持された医薬組成物で予め充填される。リザーバから医薬組成物が空になると、装置全体が廃棄される。
【0091】
特定の状況では、医薬組成物は、制御放出系で送達され得る。一実施形態では、ポンプを使用することができる(Langer,前出;Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201参照)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。「制御放出の医学的応用(Medical Applications of Controlled Release)」Langer and Wise(eds.),1974,CRC Pres.,Boca Raton,Fla参照。さらに別の実施形態では、制御放出系を組成物の標的の近くに配置することができ、したがって、全身用量の一部のみを必要とする(例えば、Goodson,1984「制御放出の医学的応用(Medical Applications of Controlled Release)」内,前出,vol.2,pp.115-138を参照のこと)。他の制御放出系は、Langerによる総説,1990,Science 249:1527-1533に記載されている。
【0092】
注射可能な調製物としては、静脈内、皮下、皮内及び筋肉内注射用剤形、点滴などが挙げられる。これらの注射可能な調製物は、公知の方法により調製することができる。例えば、注射可能な調製物は、例えば、本明細書中に記載される抗体又はその塩を、注射のために従来から使用される滅菌水性媒体又は油性媒体に溶解、懸濁又は乳化することによって調製することができる。注射用水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースやその他の助剤を含む等張液などが挙げられ、これらはアルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、ノニオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適当な可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが挙げられ、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。このようにして調製された注射剤は、適切なアンプルに充填されることが好ましい。
【0093】
有利には、上記の経口又は非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量に適合するのに適した単位用量の剤形に調製される。単位用量のそのような剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。
【0094】
本開示は、試料中のコロナウイルスを検出する方法であって、試料を抗体又はその抗原結合断片と接触させることを含む方法を提供する。
【0095】
本開示は、コロナウイルスの中和を必要とする対象におけるコロナウイルスの中和のための方法であって、抗体又はその抗原結合断片を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0096】
本開示は、試料中のコロナウイルスを検出するためのキットを提供し、キットは抗体又はその抗原結合断片を含むキットを提供する。
【0097】
本開示の抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体はまた、例えば診断目的のために、試料中のコロナウイルス又はSARS-CoV-2-スパイクタンパク質発現細胞を検出及び/又は測定するために使用され得る。例えば、抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体又はその断片は、コロナウイルス感染症を特徴とする状態又は疾患を診断するために使用され得る。コロナウイルスの例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得られた試料を本開示の抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体と接触させることを含み得、抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体は、検出可能な標識又はレポーター分子で標識されている。又は、非標識抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体を、それ自体が検出可能に標識されている二次抗体と組み合わせて診断用途に使用することができる。検出可能な標識又はレポーター分子は、3H,14C,32P,35S,若しくは125Iなどの放射性同位体;フルオレセインイソチオシアネート若しくはローダミンなどの蛍光若しくは化学発光部分;又はアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼなどの酵素であり得る。試料中のコロナウイルスを検出又は測定するために使用され得る具体的な例示的アッセイとしては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)及び蛍光活性化細胞選別(FACS)が挙げられる。
【0098】
以下の実施例は、当業者が本開示を実施するのを助けるために提供される。
【実施例】
【0099】
材料及び方法
スパイク特異的B細胞のFACS分析及び選別。Smg免疫マウスから単離した脾細胞を2μg/mlのSタンパク質と共に4℃で1時間インキュベートした後、洗浄し、CD19(クローン:6D5、PE-Cy7コンジュゲート、Biolegend)、CD3(クローン:17A2、PEコンジュゲート、Biolegend)及びHis(クローン:J095G46、APCコンジュゲート、Biolegend)に対する抗体カクテルと共に4℃で15分間インキュベートした。ヨウ化プロピジウム(Biolegend)を使用して死細胞を除外した。生の単一スパイク特異的B細胞(CD3-CD19+)を、BD FACSAria IIによって、10μl/ウェルの捕捉緩衝液(10mM Tris-HCl、pH8、amd 5 U/μl RNasin(Promega))を含有する96ウェルPCRプレート(Applied Biosystems)に選別した。レパートリー分析のために、Smg又はSfg免疫マウス由来の5つの脾臓をプールし、選別前に染色した。
【0100】
単一B細胞スクリーニング。プライマーは以前の刊行物に基づいて設計した。次いで、反応を50℃で30分間、95℃で15分間、続いて40サイクルで、94℃で30秒間、50℃で30秒間、72℃で1分間行い、最終インキュベーションを72℃で10分間行った。セミネスト第2ラウンドPCRを、KOD One PCRマスターミックス(TOYOBO)を使用して、1μlの未精製の第1ラウンドPCR産物を用いて、98℃で2分間、続いて45サイクルの98℃で10秒間、55℃で10秒間、68℃で10秒間行い、最終インキュベーションを68℃で1分間行った。次いで、PCR産物を1.5%アガロースゲルで分析し、配列決定した。IgV及びL遺伝子を、IMGTウェブサイト(http://imgt.org/IMGT_vquest/input)で検索することによって同定した。次いで、ヒトIgH又はIgL発現骨格を含むベクターにクローニングするための制限部位を含む単一遺伝子特異的V及びL遺伝子プライマーを用いて、第2ラウンドPCR産物から遺伝子を増幅した。キメラIgH及びIgL発現構築物を、抗体産生のためにExpi293に同時トランスフェクトした。
【0101】
293T表面を発現するSタンパク質との抗体の結合。293T細胞をpcDNA6/Spike-P2A-eGFPでトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、10μg/mlのブラストサイジン下で2~3週間選択した。次いで、選択された細胞をFACSAria IIによって選別して、eGFP+発現細胞を得た。これらの細胞を、10%のFBS及び10μg/mlのブラストサイジンを含有するDMEM中で維持した。2~3×105個の細胞を、FACS緩衝液中で段階希釈した抗体と共に、氷上で1時間インキュベートした。次いで、細胞をFACS緩衝液で3回洗浄した後、氷上のBV421マウス抗ヒトIgG(BD Biosciences,562581,1:100)で20分間染色し、FACS緩衝液で2回洗浄した。陽性細胞のパーセンテージをFACS Canto IIを用いて定量し、データをFlowJoで分析した。ここで使用されるSタンパク質変異体は以下の通りである:WH01スパイク:元のSタンパク質;D614G:D614G;B.1.1.7:69-70欠失、144欠失、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A及びD1118H;B.1.351:L18F、D80A、D215G、242-244欠失、R246I、K417N、E484K、N501Y、D614G及びA701V;BA.1。
【0102】
Octet(バイオレイヤー干渉法)を用いた親和性及び結合活性の決定。Fab断片を、Pierce Fab Micro Preparation Kit(ThermoFisher Scientific)を製造者の説明書に従って使用することによって調製した。簡潔には、m31A7 IgG(250μg)を、固定化パパイン樹脂と共に37℃で8時間インキュベートすることによって消化した。次いで、Fabをタンパク質Aカラムによって精製した。精製したm31A7 IgG又はFab断片を、10又は6.7μg/mlの速度論緩衝液(PBS中0.01%エンドトキシン非含有BSA、0.002% Tween-20、0.005% NaN3)で、それぞれProtein G又はFAB2Gバイオセンサー((Molecular Devices、ForteBio)にロードした。IgG又はFabの両方によるSタンパク質(SARS-CoV-2 WH01)の会合及び解離を、指示された濃度で速度論緩衝液中それぞれ5分間及び15分間行った。KD値は、1:1グローバルフィットモデル(Octet)を使用して計算した。
【0103】
結果:
本発明者らはここで、SARS-CoV-2のモノグリコシル化状態(S
mg)で免疫したマウスから、スパイク特異的モノクローナル抗体を単離することを目的とする。本発明者らはまた、S
mg免疫マウスと完全にグリコシル化されたスパイク(S
fg)免疫マウスとの間で、スパイク特異的B細胞レパートリーを比較した。S
mg免疫マウスからのSタンパク質特異的B細胞の選別により、IGHV1-18増幅クローンからモノクローナル抗体(mAb)m31A7が同定された(
図1A)。S
mg及びS
fg免疫マウスから単離されたスパイク特異的B細胞の重鎖レパートリー分析により、IGHV1-9、IGHV1-18及びIGHV2-3を含むいくつかの重鎖遺伝子座が、S
mg免疫マウスにおいて選択的に拡大したことが明らかになった(
図1B及び
図1C)。このm31A7 mAbは、完全長Sタンパク質であるS1及びRBDと相互作用するが、S2とは相互作用せず(
図2A)、異なるSARS-CoV-2変異体由来のSタンパク質を発現するHEK293T細胞に結合する(
図2B)。さらに、m31A7は、報告されたヒトmAb EY6Aよりも最大1000倍高いピコモル濃度以下のIC
50で様々なシュードウイルス変異体(WT、D614G、アルファ、ベータ及びデルタ)を中和することが示された(D.Zhou他「回復期患者からの抗体によるSARS-CoV-2中和のための構造基盤(Structural basis for the neutralization of SARS-CoV-2 by an antibody from a convalescent patient)」Nat Struct Mol Biol 27,950-958(2020))(
図3A及び
図3B)。予防研究はまた、SARS-CoV-2ウイルスによる抗原刺激後に体重及び体温の両方を維持することにおいて、K18hACE2トランスジェニックマウス(
図4A)におけるm31A7の良好なインビボ有効性を実証した(
図4B及び
図4C)。バイオレイヤー干渉法(BLI)分析により、m31A7の解離定数及びSタンパク質へのそのFab結合をそれぞれ34.9pM及び0.22nMで測定した(
図5A)。完全長m31A7 IgG1の完全長オミクロンBA.1 Sタンパク質への結合活性をバイオレイヤー干渉法によって測定し、
図5Bに示した。水素-重水素交換質量分析(HDX-MS)によるエピトープマッピングは、RBD上の結合領域を示した(
図5C及び
図5D)。S
fgB細胞レパートリーにおけるIGHV1-18の極めて低い使用(
図1A及び
図1B)は、S
fgがm31A7又は関連抗体を誘発し得ないことを示唆した。
【0104】
本開示は、記載された特定の実施形態に関連して説明されているが、多くの代替形態並びにその修正形態及び変形形態が当業者には明らかであろう。そのような代替形態、修正形態及び変形形態は全て、本開示の範囲内にあると見なされる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-06-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoVのスパイクタンパク質中のエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片であって、前記エピトープが、配列番号8の419~433アミノ酸残基又は471~482アミノ酸残基に位置する部分を含
み、
前記抗体又はその抗原結合断片が、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)及び軽鎖可変領域の相補性決定領域を含み、前記重鎖可変領域の相補性決定領域が、CDRH1、CDRH2及びCDRH3領域を含み、前記軽鎖可変領域の相補性決定領域が、CDRL1、CDRL2及びCDRL3領域を含み、
前記CDRH1領域が、配列番号1のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、前記CDRH2領域が、配列番号2のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、前記CDRH3領域が、配列番号3のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、
前記CDRL1領域が、配列番号4のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、前記CDRL2領域が、WASのアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含み、前記CDRL3領域が、配列番号5のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
スパイクタンパク質が完全にグリコシル化されている、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
抗体又はその抗原結合断片が、配列番号6のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号7のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
抗体が多重特異性である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
CoVが、アルファ-CoV、ベータ-CoV、ガンマ-CoV及びデルタ-CoV2である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
CoVが、SARS-CoV、MERS-CoV又はSARS-CoV-2である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片に結合した請求項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片を含む複合体。
【請求項9】
スパイクタンパク質が完全にグリコシル化されている、請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片をコードするベクター。
【請求項11】
請求項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片を発現する遺伝子操作された細胞。
【請求項12】
請求項10に記載のベクターを含む遺伝子操作された細胞。
【請求項13】
請求項1~7のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片を製造するための方法であって、前記方法が、(a)前記抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入すること、(b)前記宿主細胞を、前記1つ以上のポリヌクレオチドの発現に好都合な条件下で培養すること、及び(c)任意選択的に、前記宿主細胞及び/又は前記宿主細胞が増殖している培地から、前記抗体又は抗原結合断片を単離することを含む、方法。
【請求項14】
請求項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体と、任意選択的にさらなる治療剤とを含む医薬組成物。
【請求項15】
前記治療剤が抗ウイルス剤である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
治療剤が、抗炎症剤、又はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合断片である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む容器又は注射装置。
【請求項18】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む、対象におけるコロナウイルスによる感染の治療又は予防のための
医薬組成物。
【請求項19】
コロナウイルスがSARS-CoV-2、SARS-CoV及びMERS-CoVからなる群より選択される、請求項18に記載の
医薬組成物。
【請求項20】
医薬品が、1以上のさらなる治療剤
をさらに含む、請求項18に記載の
医薬組成物。
【請求項21】
1以上のさらなる治療剤が、抗ウイルス剤である、請求項20に記載の
医薬組成物。
【請求項22】
治療剤が、抗炎症剤、又はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合断片である、請求項21に記載の
医薬組成物。
【請求項23】
対象がワクチン接種される、請求項18に記載の
医薬組成物。
【請求項24】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む、対象におけるコロナウイルスを中和するため
医薬組成物。
【請求項25】
対象の体内に皮下、静脈内又は筋肉内注射される、請求項18に記載の
医薬組成物。
【請求項26】
試料中のコロナウイルスを検出するための方法であって、前記試料を請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片と接触させることを含む、方法。
【請求項27】
試料中のコロナウイルスを検出するためのキットであって、前記キットが、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む、キット。
【請求項28】
配列番号8の419~433アミノ酸残基又は471~482アミノ酸残基に位置する部分を含むエピトープ。
【請求項29】
SARS-CoV-2のモノグリコシル化状態(Smg)で免疫したスパイク特異的モノクローナル抗体又はその結合断片の製造方法であって、前記方法が、
(a)前記抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入すること、
(b)前記1つ以上のポリヌクレオチドの発現に好都合な条件下で前記宿主細胞を培養すること、及び、
(c)任意選択的に、前記宿主細胞及び/又は前記宿主細胞が増殖している培地から、前記抗体又は抗原結合断片を単離すること
を含み、
(d)前記抗体又はその結合断片が、CoVのスパイクタンパク質中のエピトープに特異的であり、前記エピトープが、配列番号8の419~433アミノ酸残基又は471~482アミノ酸残基に位置する部分を含む
方法。
【国際調査報告】