(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】組み換えられた弱毒化RSV生ワクチン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/04 20060101AFI20240927BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/40 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240927BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20240927BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240927BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240927BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240927BHJP
【FI】
C12N7/04 ZNA
C12N5/10
C12N15/40
C12N15/63 Z
A61K39/12
A61P37/04
A61P31/14
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519646
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 KR2022014712
(87)【国際公開番号】W WO2023055154
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0129272
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0089158
(32)【優先日】2022-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519038714
【氏名又は名称】エスケー バイオサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ソ,キ-ウォン
(72)【発明者】
【氏名】クォン,テウ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウン-ソム
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA01
4B065BA02
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA51
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG10
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA56
4C087MA59
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、i)安定化した融合前(pre-fusion)呼吸器合胞体ウイルス(Respiratory Syncytial Virus:RSV)のFタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸、若しくはii)キメラ水疱性口内炎インディアナウイルス(Vesicular stomatitis Indiana virus:VSV)のGタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸を含む、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)を提供し、前記組み換えられたRSVの誘電体、前記誘電体を含む組換えベクターを提供する。前記組み換えられた弱毒化RSVは、感染性が維持されながらも安全であり、安定性に優れた生ワクチン株で提供され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化した融合前の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸、若しくは、
キメラ水疱性口内炎インディアナウイルス(VSV)のGタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸を含む、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス。
【請求項2】
前記キメラ水疱性口内炎インディアナウイルス(VSV)のGタンパク質が配列番号2のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス。
【請求項3】
前記キメラ水疱性口内炎インディアナウイルス(VSV)のGタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸を含む、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、
前記呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のSH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つを暗号化する核酸がさらにi)欠失するか、ii)他の核酸で置換されるか、又はiii)前記タンパク質を暗号化する核酸のうちのいずれか一つが欠失し、残りは他の核酸で置換される、請求項1に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス。
【請求項4】
前記ii)の場合、配列番号11又は配列番号14の核酸配列によりコーディングされるアミノ酸を含む、請求項3に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス。
【請求項5】
前記iii)の場合、配列番号12又は配列番号13の核酸配列によりコーディングされるアミノ酸を含む、請求項3に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス。
【請求項6】
前記安定化した融合前の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質は、Fタンパク質のフーリン切断部位のうちの少なくとも一つに変異を有し、
Fタンパク質の106~109番目アミノ酸配列であるF遺伝子のフーリン切断部位II該当のペプチドである配列番号55が、配列番号56のペプチドに変形されるか、又は、133~136番目アミノ酸であるF遺伝子のフーリン切断部位I該当のペプチドである配列番号57が配列番号58で置換される、請求項1に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス。
【請求項7】
前記安定化した融合前の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質は、Fタンパク質を構造的に安定化させる変異(D486L/E487L/F488W)を導入したものである、請求項1に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス。
【請求項8】
前記ウイルスは、ウイルスに含まれたNS1及びNS2タンパク質を暗号化する遺伝子がさらに置換されたものであり、
前記置換された遺伝子のアンチゲノム性cDNAはそれぞれ、配列番号32及び33で表されたヌクレオチド配列からなる、請求項4に記載の弱毒化呼吸器合胞体ウイルス。
【請求項9】
安定化した融合前の呼吸器合胞体ウイルスのFタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸;若しくは
キメラ水疱性口内炎インディアナウイルスのGタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸;を含む、単離したポリヌクレオチド分子。
【請求項10】
前記核酸がアンチゲノム性cDNA又はRNAである、請求項9に記載のポリヌクレオチド分子。
【請求項11】
前記単離したポリヌクレオチド分子が、配列番号6~16からなる群より選択されたいずれか一つ以上の配列で表されるポリヌクレオチドからなるcDNAである、請求項9に記載のポリヌクレオチド分子。
【請求項12】
請求項9に記載のポリヌクレオチド分子を含むベクター。
【請求項13】
請求項9に記載のポリヌクレオチド分子、又は、請求項12に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項14】
請求項12に記載のベクターを宿主細胞にトランスフェクションする段階と、
ウイルス複製を許容するため、十分な時間をかけて前記細胞又はその培養物を培養する段階と、
複製された組換え呼吸器合胞体ウイルスを分離する段階と、を含む、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスを生産する方法。
【請求項15】
請求項1から8のいずれか一項に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスを含む、呼吸器合胞体ウイルス免疫原性組成物。
【請求項16】
前記免疫原性組成物がワクチンである、請求項15に記載の免疫原性組成物。
【請求項17】
前記ワクチンが生ワクチンである、請求項16に記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
前記免疫原性組成物が、担体、希釈剤、賦形剤及び免疫増強剤からなる群より選択される一つ以上をさらに含む、請求項15に記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
前記免疫原性組成物が、鼻腔内、気管内、筋肉内、皮内又は皮下経路で投与される、請求項15に記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
請求項15に記載の免疫原性組成物を含む、呼吸器合胞体ウイルス感染の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項21】
請求項1から8のいずれか一項に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス及び薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物を、免疫を与える有効な量でそれを要する個体に投与する段階を含む、個体において呼吸器合胞体ウイルスに対する免疫反応を誘導する方法。
【請求項22】
請求項1から8のいずれか一項に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス及び薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物を、それを要する個体に投与する段階を含む、個体において呼吸器合胞体ウイルスに対する中和抗体反応を誘導することで呼吸器合胞体ウイルスによる感染を予防する方法。
【請求項23】
個体において呼吸器合胞体ウイルスに対する免疫反応を誘導するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスの用途。
【請求項24】
呼吸器合胞体ウイルスによる感染を予防又は治療するための薬剤を製造するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス、又は、請求項9から11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド分子の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年9月29日付け出願の韓国特許出願第10-2021-0129272号及び2022年7月19日付け出願の韓国特許出願第10-2022-0089158号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、全て本出願に組み込まれる。本発明は、組み換えられた弱毒化RSV、その製造方法、またはそれを含むワクチンに関し、より具体的には、安定性(stability)と安全性(safety)に優れた生ワクチン株を生産可能な組み換えられた弱毒化RSV、その製造方法、またはそれを含むワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器合胞体ウイルス(Respiratory Syncytial Virus:RSV)は、全世界的に広く流行っているウイルスであって、呼吸器病を誘発し、特に、乳幼児の重症呼吸器感染症による死亡の主原因になるウイルスである。乳幼児が主な感染対象であるが、免疫力が弱化した患者と老人の呼吸器疾患に感染を誘発して致命的な呼吸器疾病を起こすと知られている。呼吸器病の誘発原因としてはインフルエンザに次いで二番目で高いが、一歳未満の乳児で10万名当たりRSVによる年間死亡率がインフルエンザに比べて約1.3~2.5倍が高いと知られている。2002年WHOの報告によると、毎年6千4百万名がRSVに感染され、このうち16万人が死亡すると報告されている。
【0003】
RSV疾病の防御を目的として、最初は不活性化ウイルスを用いたワクチン(不活化ワクチン)が開発されたが、疾病の症状がさらに酷く誘導されるなどの深刻な副作用(ERD:Enhanced Respiratory Disease、呼吸器疾患増強)から、不活化ワクチンは利用不可になった。
【0004】
そこで、研究者等は、ERDを誘発せず、中和抗体誘導能が卓越なワクチンを開発するために努力した。
【0005】
特に、生ワクチン(live vaccine)の場合、ERDを誘発せず中和抗体誘導能が卓越であるという長所があるが、RSVが非常に準安定(metastable)な状態であるため、ウイルスの安定性の問題と安全性の問題とを共に考慮すると、ワクチンの開発が困難であった。
【0006】
RSVは、モノネガウイルス目、ニューモウイルス科に属するオルトニューモウイルス亜科に属する。RSVは、120~200nm程度の中間サイズのウイルスと知られている。野生型(WT:wild type)RSVゲノムまたはアンチゲノムは、以下の10個の遺伝子と11個のウイルスタンパク質からなっている。11個のRSVタンパク質は、RNA結合核タンパク質(N)、リンタンパク質(P)、ラージポリメラーゼタンパク質(L)、付着糖タンパク質(G)、融合タンパク質(F)、小疎水性表面糖タンパク質(SH)、内部マトリクスタンパク質(M)、2種の非構造タンパク質NS1とNS2、及びM2-1とM2-2タンパク質である。これらタンパク質の完全なアミノ酸配列は当業界に公知である。RSVの遺伝子順序は3’-NS1-NS2-N-P-M-SH-G-F-M2-Lである。転写は3’末端で単一プロモーターから始まり、順次に進行する。前記RSVのゲノム(genome)は15.2kbの非分節マイナス鎖RNAの一本鎖である。ここで、RSV-Fタンパク質は、ウイルス侵入の開始及び細胞膜との融合作用をする重要な構成要素であって、抗原性が高いため、ワクチンと抗ウイルス薬の主な対象として知られている。しかし、前記Fタンパク質抗原は、融合前(pre-fusion)型タンパク質の安定化した形態で生産及び精製することが困難であり、安定性を確保し難く、効能の維持が容易ではない。
【0007】
そこで、本発明者等は、Fタンパク質の不安定性を解消し、安全且つ新たな形態の弱毒化したRSVを用いたワクチンを開発しようとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、効果的な免疫システムを稼動可能な新たな形態のワクチンを提供することである。
【0009】
また、本発明が解決しようとする課題は、安定性及び安全性に優れた生(live)RSVワクチン株を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一具現例は、安定化した融合前(pre-fusion)のRSV-Fタンパク質を含むか、若しくは、キメラ水疱性口内炎インディアナウイルス(Vesicular stomatitis Indiana virus:VSV)Gタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化(encoding)する核酸を含む、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスを提供する。望ましくは、前記Gタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列からなる組換えウイルスを含む。
【0011】
一具現例は、安定性誘導変異又は安全性誘導変異を含む、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスを提供する。前記キメラ水疱性口内炎インディアナウイルス(VSV)Gタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸を含む、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、RSVのSH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つを暗号化する核酸がさらにi)欠失するか、ii)他の核酸で置換されるか、又はiii)前記タンパク質を暗号化する核酸のうちのいずれか一つが欠失し、残りは他の核酸で置換され得る。
【0012】
安定性誘導のため、RSVのFタンパク質を融合前の形態で維持させる変異を含むか又は(それとも含みながら)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はその機能的断片(すなわち、キメラVSV-Gタンパク質)を含む。融合前の形態で維持させるためには、1)Fタンパク質を構造的に安定化させる変異(D486L/E487L/F488W)を導入するか、又は2)Fタンパク質のフーリン切断部位(furin cleavage site)を変更することでタンパク質の切断を調節し、融合前の形態で維持させ得る。
【0013】
1)具体的には、構造安定化変異(D486L/E487L/F488W)とともに、この変異Fタンパク質が、ウイルスの表面に存在しないながらも感染した細胞外へと分泌される可溶性融合前三量体Fタンパク質として発現されるように、膜貫通型ドメインと細胞質尾部に該当する514~575残基を削除し、異種三量体ドメインであるフォルドン配列(foldon sequence)を追加して製作し得る。したがって、この可溶性融合前三量体Fタンパク質は、ウイルスの不安定性に影響を与えないながらも、免疫反応を誘導できるという利点を有する。
【0014】
2)具体的には、前記組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質のフーリン切断部位のうちの少なくとも一つに変異がある、変異したFタンパク質は、Fタンパク質の106~109番目アミノ酸配列であるF遺伝子のフーリン切断部位IIに該当する配列番号55ペプチドが配列番号56ペプチドに変形されるか、又は、133~136番目アミノ酸であるF遺伝子のフーリン切断部位Iに該当する配列番号57ペプチドが配列番号58ペプチドで置換され得る。又は、フーリン切断部位の二箇所をリンカー配列(配列番号54)で連結することで、切断されずに単一鎖の形態で維持されるように変形し得る。したがって、Fタンパク質を融合前の形態で維持させることで、ウイルスの安定性を高めようとする。
【0015】
他の具現例において、安全性増加のためには、RSVのタンパク質(SH、G又はF)を欠失させるか、又は、免疫逃避機構を抑制するためのNS1、NS2遺伝子を追加的に脱最適化(deoptimization)し得る。
【0016】
上記のような安定性及び安全性の増加のための変異の組合せを通じて、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスを提供する。
【0017】
一具現例は、前記組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスが配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はその機能的断片を含み、RSVのi)SH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つのタンパク質が欠失するか、ii)前記SH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つのタンパク質が置換されるか、又はiii)前記SH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つのタンパク質が欠失し、欠失したタンパク質を除いたタンパク質が新たなタンパク質で置換された形態で提供され得る。
【0018】
一具現例において、前記ii)の場合、配列番号11又は配列番号14からなる核酸配列、好ましくはcDNA配列に暗号化されるアミノ酸を含み得る。
【0019】
他の具現例において、前記iii)の場合、配列番号12又は配列番号13からなる核酸配列、好ましくはcDNA配列に暗号化されるアミノ酸配列を含み得る。
【0020】
一具現例において、前記組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質のフーリン切断部位のうちの少なくとも一つに変異がある、変異したFタンパク質は、Fタンパク質の106~109番目アミノ酸配列であるF遺伝子のフーリン切断部位IIに該当する配列番号55ペプチドが配列番号56ペプチドに変形されるか、又は、133~136番目アミノ酸であるF遺伝子のフーリン切断部位Iに該当する配列番号57ペプチドが配列番号58ペプチドで置換され得る。また、フーリン切断部位の二箇所をリンカー配列(配列番号54)で連結することで、切断されずに単一鎖の形態で維持されるように変形し得る。
【0021】
他の具現例において、前記ウイルスに含まれたNS1及びNS2タンパク質を暗号化する遺伝子がさらに置換され、前記置換された遺伝子のアンチゲノム性cDNAはそれぞれ配列番号32及び33で表されたヌクレオチド配列からなり得る。
【0022】
本発明の一実施例は、安定化した融合前の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸;若しくはキメラ水疱性口内炎インディアナウイルス(VSV)Gタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸;を含む、単離したポリヌクレオチド分子を提供する。前記核酸は、アンチゲノム性(antigenomic)cDNA又はRNAであり得、好ましくはcDNAであり得、RSVのタンパク質の一部を暗号化する発現ベクターとともにコトランスフェクション(co-transfection)のために使用され得る。
【0023】
本発明の一具現例は、RSV感染の予防又は治療のための薬剤を製造するための、組み換えられた弱毒化RSV又はそのポリヌクレオチド分子の新規用途を提供する。
【0024】
一具現例において、前記単離したポリヌクレオチド分子は、配列番号6~16からなる群より選択されたいずれか一つ以上の配列で表されるポリヌクレオチドからなるcDNAであり得る。前記cDNA配列は、前記配列番号6~16からなる群より選択されたいずれか一つ以上のポリヌクレオチド配列と、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列相同性を有し得る。
【0025】
一具現例は、前記単離したポリヌクレオチド分子を含むベクターを提供する。前記ベクターは、RSVのN、P、L、M2-ORF1タンパク質を暗号化する発現ベクターとコトランスフェクションするために使用され得る。
【0026】
一具現例は、単離したポリヌクレオチド分子又はベクターを含む細胞を提供する。
【0027】
一具現例は、下記を含む、組み換えられた弱毒化RSVを生産する方法を提供する。
【0028】
具体的には、前記方法は、前記単離したポリヌクレオチド分子を含むベクターを宿主細胞にトランスフェクションする段階、ウイルス複製を許容するため、十分な時間をかけて前記細胞又はその培養物を培養する段階、及び前記複製された組換えRSVを分離する段階を含む。
【0029】
一具現例は、前記方法によって生産された組み換えられた弱毒化RSVを提供する。
【0030】
一具現例は、組み換えられた弱毒化RSVを含む呼吸器合胞体ウイルス免疫原性組成物を提供する。
【0031】
一具現例において、前記免疫原性は、ワクチン、その中でも生(live)ワクチンであり得る。
【0032】
一具現例において、前記免疫原性組成物は、担体、希釈剤、賦形剤及び免疫増強剤(adjuvant)からなる群より選択される一つ以上をさらに含み得る。一具現例において、前記免疫原性組成物は、鼻腔内(intranasal)、気管内(intratracheal)、筋肉内(intramuscular)、皮内(intradermal)又は皮下(subcutaneous)経路で投与され得る。
【0033】
一具現例は、前記免疫原性組成物を含む呼吸器合胞体ウイルスの感染の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0034】
一具現例は、免疫を与える有効な量の前記薬学的組成物を、これを要する個体に投与する段階を含む、個体においてRSVに対する免疫反応を誘導する方法又は呼吸器合胞体ウイルスの感染を予防する方法を提供する。
【0035】
一具現例は、個体においてRSVに対する免疫反応を誘導するための、組換えRSVの用途を提供する。
【0036】
一具現例は、RSV感染の予防又は治療用薬剤を製造するための薬学的組成物であり、前記組成物は、組み換えられたRSVのcDNA分子又はその機能的断片、類似体を含む組成物を提供し得る。
【0037】
好ましくは、前記薬剤は、RSV感染を予防するためのワクチンを含み得る。
【0038】
前記組み換えられたRSVのcDNA分子は、配列番号6~16からなる群より選択されたいずれか一つを含む組成物を含み得る。
【0039】
前記ベクターは、組換えウイルスの作製に必要なT7プロモーター、ハンマーヘッド型リボザイム(hammerhead ribozyme)、デルタ型肝炎ウイルスリボザイム(hepatitis delta virus ribozyme)、T7ターミネーターを含み、配列番号17~27からなる群より選択されたいずれか一つのcDNAを含み得る。
【発明の効果】
【0040】
本発明は、安定性及び安全性に優れた生RSVワクチン株を提供する。
【0041】
本発明は、RSVに対する防御機構を誘導可能な新たな形態のRSVワクチンを提供する。
【0042】
本発明の組み換えられた弱毒化RSVは、融合前形態のFタンパク質をウイルスの表面に発現してウイルスの不安定性を解消することができる。
【0043】
本発明の組み換えられた弱毒化RSVは、融合前形態の可溶性三量体Fタンパク質を発現してウイルスの不安定性を解消するとともに、Fタンパク質による免疫誘導も可能である。
【0044】
本発明の組み換えられた弱毒化RSVは、Fタンパク質の代わりに、ウイルスの感染役割をVSV-Gが果たすことで、ウイルスの不安定性を解消することができる。
【0045】
本発明の組み換えられた弱毒化RSVは、Fタンパク質を除去してウイルスの不安定性を解消することができる。
【0046】
本発明の組み換えられた弱毒化RSVは、分泌型(secreted)Gを産生しないため、免疫逃避機構を抑制して効果的な免疫システムを稼動可能な新たな形態のワクチンを提供することができる。
【0047】
本発明の組み換えられた弱毒化RSVは、NS1又はNS2タンパク質の発現量を低減でき、免疫逃避機構を抑制して効果的な免疫システムを稼動することができる。
【0048】
本発明は、RSVが有するSHタンパク質、Gタンパク質又はFタンパク質を除去することにより、組換えRSVを弱毒化させてワクチンの安全性を高めることができる。本発明は、新たな組換えRSVを提供する。
【0049】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】RSVのゲノム構造の概要図であって、RSVゲノム及び形態を示す図である。
【
図2】組換えRSV-Aバックボーンのアンチゲノム性cDNA及びクローニングベクターを示すベクターマップである。
【
図3】cRSVA_VSV-G_Aのマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図であって、組換えRSV-AバックボーンのSH遺伝子とG遺伝子との間に組換えキメラVSV-G遺伝子が挿入されている。
【
図4】cRSVA_VSV-G_A_ΔSHのマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図であって、組換えRSV-AバックボーンのSH遺伝子が削除され、G遺伝子の前に組換えキメラVSV-G遺伝子が挿入されている。
【
図5】cRSVA_VSV-G_A_ΔSH_ΔGのマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図であって、組換えRSV-AバックボーンのSH遺伝子及びG遺伝子が削除され、組換えキメラVSV-G遺伝子が挿入されている。
【
図6】cRSVA_VSV-G_A_ΔSH_ΔFのマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図であって、組換えRSV-AバックボーンのSH遺伝子及びF遺伝子が削除され、G遺伝子の前に組換えキメラVSV-G遺伝子が挿入されている。
【
図7】cRSVA_VSV-G_Sのマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図であって、組換えRSV-AバックボーンのF遺伝子が組換えキメラVSV-G遺伝子で置換されている。
【
図8】cRSVA_VSV-G_A_preF_efのマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図であって、組換えRSV-AバックボーンのF遺伝子の前に組換えキメラVSV-G遺伝子が挿入されており、F遺伝子に融合前の安定化変異(D486L、E487L、F488W)及び514~575残基削除変異、配列番号54からなるリンカー及びフォルドン挿入変異が導入されている。不安定なRSV-Fの代わりに、VSV-Gが細胞感染の役割を果たし、RSV-Fはエクトドメイン(ectodomain)の形態で挿入されて細胞及びウイルスの表面に発現されないため、感染の役割を果たすことはできず、その代わりに、ウイルスが細胞を感染させるとき、細胞で発現されて細胞の外部へと分泌されて免疫反応のみを誘導する。Fエクトドメインには融合前に安定化させる変異及び三量化ドメインが加えられており、可溶性preF三量体で発現される。
【
図9】cRSVA_VSV-G_S_preF_efのマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図であって、
図8から追加的にG遺伝子を削除してさらに弱毒化させた形態である。
【
図10】cRSVA_VSV-G_S_preF_scのマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図であって、
図9のpreFエクトドメイン-フォルドンを単一鎖Fで置換したものである。単一鎖Fは、細胞及びウイルスの表面に発現されるが、融合後(post-fusion)型に変形されないため感染を起こすことはできず、免疫誘導の役割のみを果たせる。不溶性細胞又はウイルス膜に付着した状態で発現されて、実際ウイルスとさらに類似の免疫反応を誘導することが期待される。
【
図11】cRSVA_VSV-G_A_preF_ef_NS1/NS2deopのマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図であって、
図8においてNS1とNS2タンパク質をコーディングするDNA配列をヒトコドンに対して脱最適化(deoptimization)したものである。このようなコドン脱最適化によってヒト細胞で発現量を低下させると、ウイルスが弱毒化する。
【
図12】cRSVA_mF1のマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図である。
【
図13】cRSVA_mF2のマイナス鎖RSVゲノム構造の概要図である。
【
図14】逆遺伝学(Reverse genetics)によって組換えRSVアンチゲノム性cDNAからリカバリーした組換えRSVの例示を示す図である。
【
図15】配列番号11に含まれた融合前の安定化変異(D486L、E487L、F488W)による融合前形態のタンパク質の発現を確認した結果である。融合前F特異的な抗体(D25)で検出して確認した。
【
図16】逆遺伝学によってレスキューされたウイルスを培養細胞に感染させた後、IFA分析法を用いてウイルスを検出した結果である。
【
図17】逆遺伝学によってレスキューされたウイルスを培養細胞に感染させた後、IFA分析法を用いてウイルスを検出した結果である。
【
図18】逆遺伝学によってレスキューされたウイルスを培養細胞に感染させた後、IFA分析法を用いてウイルスを検出した結果である。
【
図19】逆遺伝学によってレスキューされたウイルスを培養細胞に感染させた後、IFA分析法を用いてウイルスを検出した結果である。
【
図20】逆遺伝学によってレスキューされたウイルスを培養細胞に感染させた後、IFA分析法を用いてウイルスを検出した結果である。
【
図21】バックボーン株、野生型RSV及び実施例で製造した組換えウイルスのプラークパターンを比較した図である。
【
図22】バックボーン株、野生型RSV及び実施例で製造した組換えウイルスに対し、-80℃における安定性を確認した結果である。
【
図23】バックボーン株、野生型RSV及び実施例で製造した組換えウイルスに対し、4℃における安定性を確認した結果である。
【
図24】バックボーン株、野生型RSV及び実施例で製造した組換えウイルスに対し、室温における安定性を確認した結果である。
【
図25】実施例で製造した組換えウイルスで免疫させたマウスの血清内IgGの抗体価を分析した結果である(最初接種から14日後)。
【
図26】実施例で製造した組換えウイルスで免疫させたマウスの血清内IgGの抗体価を分析した結果である(最初接種から28日後)。
【
図27】実施例で製造した組換えウイルスで免疫させたマウスの血清内IgGの抗体価を分析した結果である(抗原毎の抗体価)。
【
図28】実施例で製造した組換えウイルスで免疫させたマウスの血清内中和抗体価を分析した結果である。
【
図29】実施例で製造した組換えウイルスのウイルスクリアランス効果を分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
上記の課題を解決するため、本発明は、安定性又は安全性に優れた、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)を提供する。前記RSVは、好ましくはRSV感染予防のための生ワクチン株として使用され得る。本発明の組み換えられたRSVは「逆遺伝工学(reverse genetic engineering)」を用いて製作され得る。逆遺伝工学は、逆遺伝学とも称され、プラス(+)鎖RNAウイルス、マイナス(-)鎖RNAウイルス及び二本鎖RNAウイルスを含む多様なRNAウイルスの生産のために使用され得る。本発明は、本発明の逆遺伝学を使用して得られた組換えウイルスを生産するための方法を提供する。
【0052】
逆遺伝工学は、業界の通常の技術者に周知の通常的な方法及び手段で実施され得、通常の技術者は業界に周知の方法及び以下の説明を通じて容易に組換えRSVを収得可能である。例えば、ターゲットタンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列を該当する核酸配列に転換し、該核酸配列を宿主細胞が認知可能であってターゲットタンパク質をコーディング可能な核酸配列に変形し、プライマーを使用して変形された核酸をイン・ビトロで合成してプラスミドを生産し、前記プラスミドを形質転換して所望の組換えウイルスを生産可能である。参考文献として、i) Stobart、Christopher C.、et al. 「BAC-based recovery of recombinant respiratory syncytial virus (RSV).」 Reverse Genetics of RNA Viruses. Humana Press、New York、NY、2017. 111-124.、ii) Collins、Peter L.、Rachel Fearns、and Barney S. Graham. 「Respiratory syncytial virus: virology、reverse genetics、and pathogenesis of disease.」 Challenges and opportunities for respiratory syncytial virus vaccines (2013): 3-38.、iii) Hu、Bing、et al. 「Development of a reverse genetics system for respiratory syncytial virus long strain and an immunogenicity study of the recombinant virus.」 Virology journal 11.1 (2014): 1-16. などを参考し得る。
【0053】
「組み換えられた(recombinant)」とは、一つの生物体内に遺伝形質の異なる細胞、タンパク質又は遺伝子などが共に存在する場合を意味し、特に、本願で使用された「組み換えられた」は、一つの遺伝的バックボーン(backbone)に基づいて相異なる個体の遺伝的情報(核酸)が挿入されて新たな遺伝的変異が発生する場合を意味する。
【0054】
組み換えられたRSV(rRSV)とは、組換え発現体系から直間接的に由来するか、又は、それから生産されたウイルスやサブウイルス粒子から増殖したRSV又はRSV様ウイルスを意味する。本発明で使用するためのウイルスRNA分子を暗号化する発現コンストラクトは、ウイルスレスキュー(rescue)のために業界で普通使われる如何なる発現コンストラクトであってもよい。発現コンストラクトは、プラスミド又は他のエピゾームコンストラクトのようなベクターであり得る。このようなベクターは、少なくとも一つのバクテリア及び/又は真核の複製起点を含み得る。さらに、ベクターは選択的マーカーを含んでもよい。このような選択的マーカーの例は、クロラムフェニコール、アンピシリン又はカナマイシンのような抗生剤に抵抗性を与える遺伝子を含み得る。ベクターは、DNA配列のクローニングを可能にする一つ以上の多様なクローニング部位を含み得る。
【0055】
組換え発現体系は、組換え発現ベクターを含み得る。「ベクター」とは、好適な宿主内でDNAを発現可能な好適な調節配列に作動可能に連結されたDNA配列を含むDNAコンストラクトを意味する。RSV遺伝子のcDNAの発現で調節機能を有する少なくても一つの遺伝的構成要素(element)又は構成要素の組合体を含む、機能的に連結された転写単位を含み、構成要素の例としてはプロモーター、RSV mRNAに転写される構造又はコーディング配列、適切な転写開始と終結配列がある。本発明のベクターは、当業界に周知の任意のベクターを利用可能であり、例えばプラスミド、コスミド、ファージ粒子、ウイルスベクターであり得、細胞内で複製可能なものであれば、特に限定されない。
【0056】
本発明において、「組換えベクター」は、発現させようとする目的ポリペプチドの暗号化遺伝子が作動可能に連結される場合、適切な宿主細胞で前記目的ポリペプチドを高い効率で発現可能な目的ポリペプチドの発現ベクターとして使用でき、前記組換えベクターは宿主細胞で発現可能である。宿主細胞の種類に応じてプロモーター(promotor)、ターミネーター(terminator)、エンハンサー(enhancer)などのような発現調節配列、膜標的化又は分泌のための配列などを適切に選択し、目的に応じて多様に組み合わせ得る。本発明において、前記宿主細胞は、好ましくは真核細胞であり得、本発明の一具現例によれば、ベロ細胞であり得るが、これに限定されるものではない。
【0057】
本発明で使用される「作動可能に連結された」とは、発現が必要な遺伝子とその調節配列とが互いに機能的に結合されて、遺伝子の発現を可能にする方式で連結されることを意味する。
【0058】
ベクター形態のDNAを細胞に導入する方法は、特に制限されず、例えばNucleofection(登録商標)、一過性トランスフェクション(transient transfection)、細胞融合、リポソーム媒介トランスフェクション(liposome-mediated transfection)、ポリブレン媒介トランスフェクション(polybrene-mediated transfection)、リン酸カルシウムを用いたトランスフェクション、DEAEデキストランによるトランスフェクション、マイクロインジェクションによるトランスフェクション、カチオン性脂質によるトランスフェクション、電気穿孔法、形質導入又は形質転換など、本発明が属した技術分野で通常の知識を持つ者に周知の方法によって実施され得る。
【0059】
本発明で使用される「誘電体(genome、ゲノム)」とは、一個体の遺伝子(gene)の総塩基配列であり、一つの生物体が有する全ての遺伝情報の集合体を意味する。例えば、ウイルスの誘電体は、ウイルス全体の全ての遺伝情報配列を併せる意味で使用される。
【0060】
本発明で使用される「遺伝子(gene)」とは、タンパク質を暗号化する部分として理解され、DNA又はRNAであり得る。
【0061】
本願で使用される表現「cDNA又はcDNA配列」とは、ウイルスゲノムRNA配列のDNA形態を意味し、これは、RNA配列においてリボヌクレオチド(ribonucleotide)が対応するデオキシリボヌクレオチド(deoxyribonucleotide)に代替される点のみでRNA配列と異なる配列を意味する。
【0062】
本願において「誘電体に新たな遺伝子が導入された」との意味は、本来の個体が有している全体遺伝子の塩基配列のうちの一部が新たな個体から由来した遺伝子で置換されるか又は挿入されることを意味する。このような導入によって本来の個体(例えば、バックボーン)が有する誘電体の塩基配列よりも長くなるか又は短くなり得、長さが維持されることもある。
【0063】
本発明で使用される「ワクチン株」は、ワクチン菌株(vaccine strain)とも呼ばれ、ワクチンに用いられるために分離されたウイルス集団を意味する。
【0064】
本発明で使用される「弱毒化した(attenuated)ワクチン」とは、弱化した呼吸器合胞体ウイルス(RSV)から作製するワクチンであって、病原体が依然として生物学的活性を有するが、宿主内で疾病を誘発しない程度に弱化した毒性を有するワクチンを意味する。
【0065】
本発明で使用される「アンチゲノム(anti-genome)」とは、子孫RSVゲノムの合成のための鋳型として作用する相補的な(+)鎖ポリヌクレオチド分子を意味する。
【0066】
本発明で使用される「タンパク質を暗号化する遺伝子」又は「タンパク質コーディング遺伝子」とは、タンパク質を生成する遺伝子を意味する。
【0067】
本発明で使用される「可溶性融合前F三量体タンパク質」とは、可溶性Fタンパク質エクトドメイン(preFエクトドメイン)にリンカー及び異種三量化ドメインが連結された融合タンパク質を意味し、特に野生型Fタンパク質エクトドメインにD486L/E487L/F488W変異を導入してタンパク質を安定化した。前記異種三量化ドメインは、通常使用されるフォルドンドメインを含み得る。前記リンカーは、特に制限されない。
【0068】
一方、野生型Fタンパク質に導入した前記D486L/E487L/F488W変異は、本発明者等の先行研究の結果によるものであり、次のような実験を通じてタンパク質の安定化如何を確認した。融合前の安定化変異が含まれたRSV-F遺伝子を哺乳動物細胞発現ベクターにクローニングし、HEK293FT細胞にトランスフェクションする。融合前の安定化変異としては、以下の5種の候補を使用した:D486L、E487L、D486L/E487L、E487L/F488W、及びD486L/E487L/F488W。5日後、細胞を溶解し、ニッケルコーティングプレートに反応させて、発現されたRSV-Fタンパク質を結合させる。結合されたRSV-Fタンパク質を、融合前Fタンパク質に特異的に反応する抗体(D25)と結合させる。D25抗体と結合しながらHRPの付いた二次抗体を添加した後、TMB溶液に進行させ、マイクロプレートリーダーで450nm波長で吸光度を測定する。その結果、
図15に示したように、5種の候補のうちD486L/E487L/F488W変異が含まれたRSV-Fタンパク質が融合前F特異抗体(D25)と結合することが確認され、D486L/E487L/F488W変異によって融合前の形態でFタンパク質が発現されることを確認した。したがって、融合前RSV-Fタンパク質を発現する変異ウイルスが成功的に製作されたことを確認した。
【0069】
以下、安全性又は安定性が向上した、弱毒化した組換えRSVについて具体的に説明する。
【0070】
一具現例は、キメラ水疱性口内炎インディアナウイルス(Vesicular stomatitis Indiana virus:VSV)のGタンパク質(好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)、又はその類似体、変異体又は断片を含むか、若しくは、RSVのFタンパク質のフーリン切断部位のうちの少なくとも一つが変異したFタンパク質を含む、組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスを提供する。具体的には、例えば、本願で提供される組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスは、RSV誘電体を基にして異種ウイルスの表面糖タンパク質を挿入するか、又はRSVのFタンパク質又はGタンパク質と異種ウイルスの表面糖タンパク質とを置換して安定性及び安全性に優れた生RSVワクチン株を提供しようとする。
【0071】
ここで、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、組み換えられた水疱性口内炎インディアナウイルス(VSV)の表面糖タンパク質G(以下、rVSV-Gタンパク質と記載する)を表すと理解され得る。これは、配列番号3又は少なくとも70%以上の配列相同性を有するポリヌクレオチド配列によって暗号化され得る。前記VSV-Gタンパク質の細胞質尾部(CT)ドメインはRSV-Fタンパク質から由来し得る。好ましくは、前記組換えRSVは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質だけでなく、その類似体、変異体又は断片を含み、機能的断片まで含み得る。ここで、「機能的断片」とは、前記組み換えられたVSV-Gタンパク質が有する機能は維持しながらも、少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は100%の配列相同性を有するタンパク質を含むと理解され得る。例えば、組み換えられたVSV-Gタンパク質の細胞質尾部(CT)ドメインは、RSV-Fタンパク質の代わりに、本来のVSV-Gタンパク質の細胞質尾部(CT)ドメインが連結された場合も含み得る。
【0072】
前記VSVは、ヒトに安全なウイルスであって、ウイルス分類の面でRSVと類似する。VSV及びRSVはともに(-)ssRNAを遺伝物質として有し、エンベロープウイルス(enveloped virus)である。特に、VSV-Gタンパク質は、RSV-Fタンパク質と類似の役割をする膜タンパク質であって、単独で(他のタンパク質の補助を必要としない)活性を有するタンパク質であり、温度、pHなどの条件で安定した特徴を有するため、これを用いるとき、安定性に優れて安全なワクチンを生産可能であるという点を確認した。
【0073】
一具現例は、前記組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルスが配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はその機能的断片を含み(又は含みながら)、追加的にRSVのi)SH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つのタンパク質が欠失するか、ii)前記SH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つのタンパク質が置換されるか、又はiii)前記SH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つのタンパク質が欠失し、欠失したタンパク質を除いたタンパク質が新たなタンパク質で置換された形態で提供され得る。ここで、「少なくとも一つ」は、1個以上、2個以上、又は3個を含む意味で理解され得る。ここで、「タンパク質の置換」は、1個以上のアミノ酸配列が他の配列に変更される場合も含まれ得、ドメインの代替も含まれる広い意味で理解され得る。
【0074】
一具現例において、前記ii)の場合、好ましくは、RSVのFタンパク質の置換を含み得る。好ましくは、前記RSVのFタンパク質の置換は、RSVの感染性を低下させる新たなドメインで置換され得る。好ましくは、前記新たなドメインは、1)可溶性Fタンパク質エクトドメインにリンカー及び異種三量化ドメインが連結された融合タンパク質ドメインを含み、又は2)融合前形態の安定性を増加させる変異を含むFタンパク質ドメインを含み得る。具体的には、配列番号11又は14からなるポリヌクレオチド配列、好ましくはcDNAによって暗号化されるアミノ酸で置換され得る。
【0075】
他の具現例において、前記iii)の場合、RSVのGタンパク質の欠失とともに、RSVのFタンパク質が上述したRSVの感染性を低下させる新たなドメインで置換され得、好ましくは配列番号12又は配列番号13からなるポリヌクレオチド配列、好ましくはcDNAによって暗号化されるアミノ酸で置換され得る。
【0076】
具体的には、前記1)可溶性Fタンパク質エクトドメインにリンカー及び異種三量化ドメインが連結された融合タンパク質ドメインは、不安定なRSVのFタンパク質の代りに、組み換えられたVSVのGタンパク質が細胞感染の役割を果たし、RSV-Fはエクトドメインの形態で挿入されて細胞及びウイルスの表面に発現されないため、感染の役割を果たすことはできず、その代わりに、ウイルスが細胞を感染させるとき、細胞で発現されて細胞の外部へと分泌されて免疫反応のみを誘導する。Fエクトドメインには融合前に安定化させる変異及び三量化ドメインが加えられており、可溶性融合前F三量体で発現され得る。前記可溶性Fタンパク質エクトドメインにリンカー及び異種三量化ドメインが連結された融合タンパク質ドメインは、配列番号29で表されるアミノ酸配列からなる。前記2)融合前形態の安定性を増加させる変異を含むFタンパク質ドメインは、融合前Fエクトドメイン-フォルドンを単一鎖Fで置換したものである。これは、配列番号31で表されるアミノ酸配列からなる。単一鎖Fは、細胞及びウイルスの表面に発現されるが、融合後(post-fusion)の形態に変形されないため感染を起こすことはできず、免疫誘導の役割のみを果たせる。不溶性細胞又はウイルス膜に付着した状態で発現されて、実際ウイルスとさらに類似の免疫反応を誘導することができる。
【0077】
他の具現例において、前記組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、RSVのFタンパク質が有するフーリン切断部位のうちの少なくとも一つに変異がある、変異したFタンパク質を含み得る。好ましくは、前記変異したFタンパク質は、RSVのFタンパク質のフーリン切断部位I又はIIがトリプシン(trypsin)、MMP、トリプシン様プロテアーゼなどの他のプロテアーゼ切断部位で変形され得、より好ましくは、Fタンパク質の106~109番目アミノ酸配列であるF遺伝子のフーリン切断部位IIに該当する配列番号55ペプチドが配列番号56ペプチドに変形されるか、又は、133~136番目アミノ酸であるF遺伝子のフーリン切断部位Iに該当する配列番号57ペプチドが配列番号58ペプチドで置換され得る。Fタンパク質は、ERが豊富なフーリンプロテアーゼによって転写されてから切断されて、F1/F2サブドメインに分割されながら準安定な状態になる。好ましくは、前記フーリン切断部位I又はIIを、トリプシン様プロテアーゼなどのようなリソソームが豊富な切断酵素による切断部位に変更すれば、転写後に切断が起こらず、安定性の高い単一鎖F形態でウイルスの表面に存在でき、免疫反応誘導に効果的である。
【0078】
他の具現例において、前記ウイルスは、ウイルスに含まれたNS1及びNS2タンパク質を暗号化する遺伝子がさらに置換されたものであり、前記置換された遺伝子のアンチゲノム性cDNAはそれぞれ、配列番号32及び33で表されたヌクレオチド配列からなり得る。
【0079】
具体的には、NS1タンパク質、NS2タンパク質、又はNS1及びNS2タンパク質の両方を暗号化するポリヌクレオチドのコドンをヒトのコドンに対して脱最適化して安全性を増加させた組み換えられた弱毒化RSVを提供することができる。前記NS1及び/又はNS2タンパク質のコドン脱最適化により、NS1又はNS2タンパク質の人体内発現量が低減して、組換えウイルスが弱毒化して安全性を高めることができる。
【0080】
前記組み換えられたRSVは、生ワクチン株として安全に使用可能である。
【0081】
本発明の一実施形態は、組み換えられた弱毒化RSVを構成するヌクレオチド分子を提供し、これはRSVのゲノム又はアンチゲノムを含む。一具現例は、これを含む、組み換えられた弱毒化RSVの組換えベクターを提供し、前記ベクターに含まれるアンチゲノム性cDNA配列は配列番号6~16からなる群より選択されたいずれか一つ以上のヌクレオチド配列からなる。
【0082】
前記組換えベクターは、前記rVSV-Gタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列を含む。好ましくは、前記rVSV-Gタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列は、RSVのSH遺伝子とG遺伝子との間に位置し、これは前記配列番号3で表し得る。
【0083】
前記組み換えられた弱毒化RSVのゲノムは、前記rVSV-Gタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列を含み、i)SH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つのタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列又は前記タンパク質を暗号化する遺伝子が欠失するか、ii)前記SH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つのタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列又は前記タンパク質を暗号化する遺伝子が置換されるか、又はiii)前記SH、G、及びFタンパク質からなる群より選択された少なくとも一つのタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列又は前記タンパク質を暗号化する遺伝子が欠失し、欠失したタンパク質を除いた他のタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列が他の配列で置換された形態で提供され得る。
【0084】
一具現例において、前記ii)の場合、RSVのFタンパク質を暗号化するヌクレオチドは、可溶性preF三量体タンパク質又はpreFscタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列で置換され得る。好ましくは、前記組み換えられたRSVのcDNA配列は、それぞれ配列番号11又は配列番号14からなるヌクレオチド又はこれらの機能的断片を含み得る。
【0085】
他の具現例において、前記iii)の場合、RSVのGタンパク質を暗号化するヌクレオチド又は遺伝子が欠失し、RSVのFタンパク質を暗号化するヌクレオチドは、可溶性preF三量体タンパク質又はpreFscタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列で置換され得る。好ましくは、前記組み換えられたRSVのcDNA配列は、それぞれ配列番号12又は配列番号13からなるヌクレオチド又はこれらの機能的断片を含み得る。
【0086】
一具現例において、前記組み換えられた弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のゲノムは、Fタンパク質のフーリン切断部位を暗号化するタンパク質のうちの少なくとも一つに変異を有し得る。変異したFタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列は、Fタンパク質を暗号化するヌクレオチド配列の6137から6148番目位置にあるF遺伝子のフーリン切断部位II該当のヌクレオチド配列の配列番号50が配列番号51に変形されるか、又は6218から6229番目位置にあるF遺伝子のフーリン切断部位I該当のヌクレオチド配列の配列番号52が配列番号53で置換され得る。
【0087】
他の具現例において、前記ウイルスのNS1及びNS2タンパク質を暗号化する遺伝子はそれぞれ、配列番号32及び33で表されたヌクレオチド配列からなる遺伝子で置換されて提供され得る。
【0088】
RSVが3’leader-NS1、NS2、N、P、M、SH、G、F、M2、L-5’trailerの遺伝子配列順序で配列されて存在することは当業界に周知の事実である。
【0089】
特定の実施例において、前記組換えRSVのヌクレオチド配列は、配列番号6~16からなる群より選択されたいずれか一つのヌクレオチド配列を含み得る。前記組換えRSVのヌクレオチド配列は、コトランスフェクション(co-transfection)のためのベクターに挿入され得、この場合、組換えウイルスの作製に必要なT7プロモーター、ハンマーヘッド型リボザイム、デルタ型肝炎ウイルスリボザイム、T7ターミネーターとともに存在して、好ましくは配列番号17~27からなる群より選択されたいずれか一つのヌクレオチド配列として挿入されて存在し得る。
【0090】
好ましくは、本発明の基本になるRSVウイルス誘電体は、配列番号1のヒトRSV-Aウイルス株を用い得る。RSVウイルス株は、RSV-A株、RSV-B株、HRSV-A株、HRSV-B株、BRSV株、鳥類RSV株など多様であるが、本発明の目的上、外来遺伝子が挿入されるRSV基本バックボーンは、RSV-Aウイルス株が好適であり得る。
【0091】
本発明の一実施形態は、安定化した融合前(pre-fusion)呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸;若しくはキメラ水疱性口内炎インディアナウイルス(VSV)のGタンパク質、又はその類似体、変異体又は断片を暗号化する核酸;を含む、単離したポリヌクレオチド分子を提供する。前記核酸は、アンチゲノム性cDNA又はRNAであり、好ましくは、前記ポリヌクレオチド分子は、組み換えられた弱毒化RSV誘電体のアンチゲノム性cDNAを含み、前記cDNAは前記組み換えられた弱毒化RSVのアンチゲノムをコーディングするポリヌクレオチドを含む。一具現例において、前記単離したポリヌクレオチド分子は、配列番号6~16からなる群より選択されたいずれか一つ以上の配列で表されるポリヌクレオチドからなるcDNAであるポリヌクレオチド分子を提供する。
【0092】
一具現例において、前記単離したポリヌクレオチド分子、好ましくは、前記アンチゲノム性cDNAを含むベクターを提供する。一具現例は、単離したポリヌクレオチド分子又はベクターを含む細胞を提供する。
【0093】
前記ポリヌクレオチドは、組換えRSVを生産するため、ベクター内に含まれるか又はベクターによって発現され得る。したがって、前記単離したポリヌクレオチド又はベクターで形質転換された細胞も本発明の範囲に属し、本願において例示される。本発明に係る一態様において、組換えRSVを生産するための組成物(例えば、RSV-暗号化cDNAを混入する単離したポリヌクレオチド及びベクター)及び方法がさらに提供される。また、前記RSVタンパク質を暗号化する一つ以上の単離したポリヌクレオチド分子を含む同一又は相異なる発現ベクターも提供される。このようなタンパク質は、また、前記ゲノム又はアンチゲノムcDNAから直接発現され得る。前記ベクター(等)は、好ましくは細胞又は細胞が培養される培養物で発現されるか又は共発現されて、組み換えられた弱毒化RSVを生産し得る。
【0094】
一具現例において、下記を含む、組み換えられた弱毒化RSVを生産する方法を提供する。S1)前記ベクターを宿主細胞にトランスフェクションする段階、S2)ウイルス複製を許容するため、十分な時間をかけて前記細胞又はその培養物を培養する段階、及びS3)前記複製された組換えRSVを分離する段階を含み得る。
【0095】
具体的には、前記S1)トランスフェクションする段階において、前記ベクターは1個以上使用され得、好ましくは2個以上が使用され得る。具体的には、前記ベクターは、前記組換えアンチゲノム性cDNAを含む第1発現ベクター、及びN、P、L及びM2-1タンパク質からなる群より選択されたいずれか一つ以上のタンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む第2発現ベクターを含み得る。RSVはマイナス鎖RNAウイルスであって、逆遺伝学を通じてイン・ビトロでウイルスを生産するとき、遺伝子合成に必要な別途のヘルパー遺伝子が必要である。組み換えられたRSVアンチゲノム及びそれぞれのN、P、L、M2-1タンパク質を暗号化するポリヌクレオチドをトランスフェクション(transfection)、電気穿孔(electroporation)、機械的な挿入、形質導入のような方法で細胞に導入し得、当業界で一般に使用されるプラスミドの細胞感染方法は全て使用され得る。好ましくは、細胞としてはベロ細胞などのような細胞を使用し得、ベロ細胞において本発明の組み換えられたRSVウイルスの生産が有利である。組み換えられたRSVアンチゲノム性cDNA及びそれぞれのN、P、L、M2-1タンパク質を暗号化するポリヌクレオチドを細胞に導入する方法としては、当業界で一般に使用する方法が用いられ得、特に制限されない。他の具現例において、細胞外でRSVアンチゲノムRNAを合成し、RSVタンパク質を発現する細胞にトランスフェクションして合成してもよい。好ましくは、組み換えられたRSVアンチゲノムを含むベクターは、T7プロモーター、ハンマーヘッド型リボザイム、RSVアンチゲノム(又はアンチゲノム性cDNA)、デルタ型肝炎ウイルスリボザイム、及びT7ターミネーターを含むポリヌクレオチドのcDNAが含まれたクローニングベクターであり得る。
【0096】
組換えRSVアンチゲノムをコーディングするポリヌクレオチドを第1発現ベクターに含ませ、ヘルパー遺伝子を第1発現ベクターと異なるベクター(第2発現ベクター)に含ませてもよく、同じベクターに含ませてもよい。
【0097】
前記組換えRSVアンチゲノムをコーディングするポリヌクレオチド又はアンチゲノム性cDNAを含むベクターは、pCC1プラスミドを例示的に使用し得、組み換えられたRSVアンチゲノムを安定化でき且つ本発明の目的を阻害しないものであれば、前記ベクターの種類は制限されない。前記組換えRSVアンチゲノムをコーディングするポリヌクレオチド又はアンチゲノム性cDNAを含むベクターは、遺伝子の組合せを容易にすることを目的として、突然変異を誘発するか、制限酵素サイトを変形するか、又は調節された制限酵素サイトを含む合成されたポリリンカーを挿入してベクターを変形してもよい。
【0098】
一具現例は、前記方法によって生産された、組み換えられた弱毒化RSVを提供する。
【0099】
一形態において、本発明は、感染した細胞でRSVの増殖を許容する条件において、RSV感染が許容される宿主細胞を組換えRSVで感染させることを含むRSV生産方法を含む。培養物での複製期間の後、前記細胞を溶解させ、組換えRSVを単離させる。必要に応じて一つ以上の所望のRSVを分離し、ワクチン、診断及び他の用途のための一つ以上のRSVを生産する。
【0100】
一具現例は、組み換えられた弱毒化RSVを含む呼吸器合胞体ウイルス免疫原性組成物を提供する。
【0101】
本発明の一具現例によって製造された前記免疫原性組成物は、安全性と免疫原性を共に有するため、一実施形態による組換え呼吸器合胞体ウイルスを体内に導入することで、呼吸器合胞体ウイルス感染に備えた免疫誘導作用をしながらも安全性の高い組成物を提供することができる。本発明の一具現例によって製造された、組み換えられた弱毒化RSVは、RSV感染を予防するためのワクチン株、好ましくは生ワクチン株として使用でき、組換えRSVをワクチン及び/又は免疫原性組成物の用途で使用するとき、本発明によって製造されたウイルスをワクチン製剤として直接使用するか、凍結乾燥して使用するか、又は液体に混合して使用し得る。本発明のワクチン及び/又は免疫原性組成物は、この組成物が投与される脊椎動物に有害な免疫反応を自ら誘発しない任意の薬学的物質を含み、組換えRSVワクチン株と共に過度な毒性なく投与可能な任意の適切な希釈剤又は賦形剤を含む薬学的に許容可能な担体を含む。また、必要に応じて、薬学的に許容されるワクチン保護剤、免疫強化剤、希釈剤、吸収促進剤などを含み得る。前記ワクチン保護剤は、例えば、ラクトースフォスフェートとグルタメートゼラチンとの混合物を含むが、これに限定されるものではない。前記ワクチンが液剤又は注射剤である場合、必要であれば、プロピレングリコール、及び溶血現象の防止に十分な量(例えば、約1%)の塩化ナトリウムを含み得る。用語「薬学的に許容可能な」とは、米国薬局方、ヨーロッパ薬局方、又は脊椎動物及びより具体的にはヒトに使用するための他の一般的に認識された薬局方に載ることを意味する。本発明のRSV生ワクチン株は、RSVウイルスの一つ以上の菌株に対抗して免疫反応を刺激するのに十分な有効量又は量(上記で定義した通りである)で投与される。このような組成物は、脊椎動物において保護性免疫反応を誘導するためのワクチン及び/又は免疫原性組成物として使用され得る。
【0102】
本発明において、前記ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、免疫増強剤をさらに含み得る。「免疫増強剤(adjuvant)」とは、RSVウイルスの抗原性を増強するためにワクチン組成物に加えられる任意の物質を意味する。前記免疫増強剤として使用する物質は、特に制限されず、例えば水酸化アルミニウム、MPL(monophosphoryl lipid A)、若しくはオイル又はワクチンに添加されるか又はこのような追加成分によってそれぞれ誘導された後、身体によって発生する補助分子であり得る。本発明において、前記ワクチン組成物は、RSVに対するサイトカイン産生を誘導でき、前記サイトカインはインターフェロン-γ(以下、IFN-γ)、インターロイキン-12(以下、IL-12)、及び腫瘍壊死因子-α(以下、TNF-α)からなる群より選択される一つ以上であり得るが、これに制限されない。
【0103】
本発明の一実施形態において、前記ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、RSV及び/又は水疱性口内炎インディアナウイルス(VSV)に対する抗体産生を誘導することができる。前記ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、RSV及び/又はVSVに対する中和抗体の産生を誘導することができる。
【0104】
本発明のワクチン又は免疫原性組成物は、RSVに対抗して免疫反応を誘導するように個体に投与される。一実施形態において、個体とは、RSVの感染予防を要する対象を意味し、具体的には動物を含み、動物はヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウマなどの哺乳類を含み得る。通常、投与量は、例えば、年齢、身体条件、体重、食餌、投与時間、及び他の臨床的因子に基づいてこの範囲内で調節され得る。本発明は、有効量の免疫源を製剤に添加する段階を含み、被験者の感染又はその少なくとも一つの症状に対して実質的兔疫性を誘発するワクチン又は免疫原性組成物を製剤化する方法を含む。1回の投与量による実質的兔疫性の刺激が好ましいが、所望の効果を得るため、同一又は異なる経路で追加的な投与量が投与され得る。新生児及び乳児にとって、例えば、十分な水準の免疫を誘発するために複数の投与が必要なことがある。非制限的な実施形態において、ワクチンに含まれる組換えRSV生ワクチン株の投与量は、一般に患者当たり約3.0log10~約6.0log10プラーク形成単位(Plaque Forming Units:PFU)又はそれ以上のウイルス、より一般に患者当たり約4.0log10~5.0log10PFUウイルスの範囲である。一実施形態において、患者当たり約5.0log10~6.0log10PFUを、例えば、生後1か月~6か月の幼児期(infancy)に投与し得、1回以上の追加的なブースター(booster)投与量は、一回目の投与後、2か月~6か月、又はそれ以上で投与し得る。さらに他の実施形態において、幼い乳児は約2、4、6か月目に約5.0log10~6.0log10PFUの投与量で投与し得る。投与は、感染に対抗する十分な水準の保護を維持するために必要な場合、幼年期に間隔を置いて続けられ得る。一実施形態では、被験者においてウイルス感染又はその少なくとも一つの症状に対して実質的な兔疫性を誘導する方法は、少なくとも1回有効量のRSV組換えウイルスを投与する段階を含む。
【0105】
ワクチン及び/又は免疫原性製剤を投与する方法は、非経口投与(例えば、筋肉内、静脈、皮内及び皮下)、硬膜外及び粘膜投与(例えば、鼻腔及び経口又は肺経路又は座薬)を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態において、前記組成物は、鼻腔内、気管内、筋肉内、皮内又は皮下経路で投与される。前記組成物は、例えば、注入又は一時注射、上皮又は粘膜内側(例えば、口腔粘膜、結腸、結膜、鼻咽腔、中咽頭、膣、尿路、膀胱、腸粘膜など)を通じる吸収によって任意の便利な経路で投与され得、他の生物学的に活性な物質と共に投与され得る。投与は、全身又は局部的であり得る。予防ワクチン製剤は、針及び注射を使用して皮下又は筋肉内に、注射又は針のない注射装置によって全身に投与される。選択的には、ワクチン製剤は、上気道内へ液滴又は大粒子エアロゾル(約10μmよりも大きい)の形態で噴射によって鼻腔に投与される。前記伝達経路のうち任意のものは免疫反応を起こす一方、鼻腔投与はウイルスの浸透位置で粘膜兔疫性を誘発するさらなる効果を提供する。さらに他の実施形態において、ワクチン及び/又は免疫原性製剤は、免疫化の部位に免疫反応を誘発するように粘膜組織を標的とする方式で投与され得る。この際、投与部位は制限されない。
【0106】
一具現例は、前記免疫原性組成物を含む呼吸器合胞体ウイルス感染の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0107】
本発明の一具現例は、本願のRSVワクチン株を個体に投与して呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の感染を予防する方法を提供する。
【0108】
一具現例は、免疫を与える有効な量の前記薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、個体においてRSVに対する免疫反応を誘導する方法を提供する。
【0109】
一具現例は、個体においてRSVに対する免疫反応を誘導するための、組換えRSVの用途を提供する。
【0110】
一具現例は、RSV感染予防のための生ワクチン株に用いられる組み換えられた弱毒化RSVを提供する。本発明のウイルスは弱毒化して、ウイルスの機能的特性を一つ以上減少させることができる。特定の実施例において、弱毒化は、弱毒化したウイルスが由来した野生型ウイルス株と比べて測定され得る。他の実施例において、他の宿主システムで弱毒化したウイルスの成長と比べて弱毒化が決定され得る。本発明の組換えウイルスは、遺伝的に弱毒化した表現型を現すようにさらに設計され得る。本発明の組換えウイルスは、ウイルスがワクチンとして投与され得るように弱毒化した表現型を現す。弱毒化は、通常の技術者に周知の如何なる方法によっても達成され得る。理論に拘束されることなく、組換えウイルスを弱毒化した表現型で構成し得る。
【0111】
本明細書に記載されるタンパク質は、アミノ酸配列の集合としてペプチド又はポリペプチドを含むものとして理解され、混用されて使用され得る。
【0112】
本明細書に記載されるヌクレオチドは、ポリヌクレオチドを含む意味で使用され、混用されて使用され得る。
【0113】
本明細書に使用されるヌクレオチドは、その機能的断片まで含むものとして理解され得る。例えば、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上、又は100%の配列相同性を有する配列において目的とする機能又は効果が奏されれば、配列相同性を有する場合まで本発明の権利が及ぶと理解される。
【0114】
本明細書に使用されるタンパク質は、その機能的断片まで含むものとして理解され得る。例えば、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上、又は100%の配列相同性を有する配列において目的とする機能又は効果が奏されれば、配列相同性を有する場合まで本発明の権利が及ぶと理解される。
【0115】
以下、本発明の理解を助けるため、実施例などを挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、多様な他の形態で変形され得、本発明の範囲が下記の実施例によって限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は、本発明が属する分野において平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
1.野生型RSV-Aウイルス株の用意
下記の情報を有する野生型RSV-Aウイルス株を下記のように用意した。
【0116】
- 定義;ヒトRSV株 RSVA/TH_10654/完全ゲノム
- アクセッション番号;KU950464.1
- 長さ;15232bp
- 宿主; ホモ・サピエンス/女性/12週
- 収集日;2014年2月19日
- 国家;USA
- サブタイプ;RSV A(RSV A2株)
2.表面糖タンパク質供与者(donor)ウイルスの選択
表面糖タンパク質供与者として水疱性口内炎インディアナウイルス(VSV)を選択した。
【0117】
3.RSVアンチゲノムをコーディングするcDNAの製造
以下のバックボーンコンストラクト(backbone construct)Aに基づいて製作した。
【0118】
(1)バックボーンコンストラクトAのデザイン
遺伝子順序は、5’-T7プロモーター-ハンマーヘッド型リボザイム-RSVアンチゲノム(変異部)-デルタ型肝炎ウイルスリボザイム-T7ターミネーター-3’の順にした。前記変異部は、配列番号1に基づく。
【0119】
5’の末端にT7プロモーター配列(配列番号38)を挿入した。T7プロモーター配列に次ぎ、ハンマーヘッド型リボザイム配列(配列番号39)を挿入した。ハンマーヘッド型リボザイム配列に次ぎ、野生型RSVアンチゲノム配列を挿入し、下記の変異が適用された。すなわち、前記変異部は、配列番号1の代わりに、配列番号6~16からなる群より選択されたいずれか一つのcDNA配列が挿入されるように製作した。
【0120】
変異部が導入されたcDNAを製作する過程は以下のようである。
【0121】
野生型RSVのアンチゲノム配列に基づき、
77ntと78ntとの間にGCGCGCCを挿入してAscI制限酵素配列を生成する(AscI制限酵素配列は、GGCGCGCC<8 bp>であり、77ntの配列がGであることから、GCGCGCC<7 bp>のみを挿入する。)。
【0122】
1)1079ntと1080ntとの間にCCTGCAGG(SbfI制限酵素)配列を挿入する。
【0123】
2)4590ntと4591ntとの間にGGCCGGCC(FseI制限酵素)配列を挿入する。
【0124】
3)4799ntと4802ntの塩基であるATG(M)をATT(I)配列で置換する。
【0125】
4)5639ntと5640ntとの間にACGCGT(MluI制限酵素)配列を挿入する。
【0126】
5)7595ntと7596ntとの間にGGGCCC(ApaI制限酵素)配列を挿入する。
【0127】
6)野生型RSVアンチゲノム配列に次ぎ、デルタ型肝炎ウイルスリボザイム配列(配列番号40)を挿入する。
【0128】
7)デルタ型肝炎ウイルスリボザイム配列に次ぎ、T7ターミネーター配列(配列番号41)を挿入する。
【0129】
8)5’最末端に配列番号42配列を挿入し、3’最末端に配列番号43配列を挿入する。ここで、5’最末端に挿入された配列番号42は3’leaderで表し、3’最末端に挿入された配列番号43は5’trailerで表した。
【0130】
デザインされた組換えcDNA(配列番号1)をイン・ビトロで合成した後、pCC1クローニングベクターのクロラムフェニコール抵抗遺伝子の前方にクローニングした。ここで、Gタンパク質配列のうち一つの点変異(point mutation)誘導(M48I)を導入した。
【0131】
以下、前記cDNAのRSVアンチゲノムに多様な変異を導入した。具体的に変異部が作られる過程を下記する。
【0132】
(2)実施例1.キメラVSV-Gが挿入された、変形されたRSVのcDNAコンストラクト(配列番号6)
前記配列番号1のバックボーンコンストラクトAのSH遺伝子とG遺伝子との間にVSV-G遺伝子配列を挿入した。VSV-G配列としては、ウイルスベクターで使用されるインディアナ血清型であるGenBankFJ478454.1のG配列を使用した。このとき、VSV-Gの細胞質尾部領域(配列番号44)は、野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654の細胞質尾部領域(配列番号45)で置き換えたキメラVSV-G配列を使用した。5’UTR及び3’UTRは、野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654のGタンパク質遺伝子のUTR配列を使用し、5’UTRの前にはNS1/NS2インタージーン(inter-gene)を挿入した(配列番号3)。バックボーンコンストラクトA(配列番号1)をFseI制限酵素で切断し、デザインした組換えキメラVSV-G遺伝子(配列番号3)を挿入した。
【0133】
(3)実施例2.キメラVSV-Gを挿入したコンストラクト(配列番号6)からSHを除去(配列番号7)
配列番号6のコンストラクトをさらに弱毒化するためにSH遺伝子を除去した。配列番号6から、Mの3’UTR以後からSHの3’UTR-FseI部分(4288~4712)を除去し、RsrII制限サイト(CGGTCCG)を追加した。
【0134】
(4)実施例3.配列番号7からG遺伝子を除去(配列番号8)
配列番号7をFseI、MluIで切断してG遺伝子が含まれた部分(5896~6934)を除去し、野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654のG/F遺伝子間のインタージーン(配列番号46)を挿入した(配列番号8)。
【0135】
(5)実施例4.配列番号7からF遺伝子を除去(配列番号9)
配列番号7をMluI、ApaIで切断してF遺伝子が含まれた部分(6941~8896)を除去し、野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654のG/F遺伝子間のインタージーン(配列番号46)を挿入した(配列番号9)。
【0136】
(6)実施例5.バックボーンコンストラクトAのF遺伝子をVSV-G遺伝子で置き換え(配列番号10)
配列番号1をMluI、ApaIで切断して5758~7713部分を除去し、該位置に組換えキメラVSV-G(配列番号3)を挿入した。
【0137】
(7)G/Fインタージーン-F5’UTR-preFエクトドメイン-フォルドン融合遺伝子-F3’UTR(配列番号4)
野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654のG/Fインタージーン、F5’UTR、Fタンパク質のエクトドメイン(1~513aa)にD486L、E487L、F488Wで変異を適用した変異体遺伝子、リンカー(配列番号54)、T4フィブリチン(fibritin)フォルドン遺伝子、F3’UTRを合成した(配列番号4)。
【0138】
(8)実施例6.配列番号10をApaIで切断し、その部分に配列番号4を挿入(配列番号11)。
【0139】
(9)実施例7.配列番号11からG遺伝子を除去(配列番号12)
配列番号11をFseI、MluIで切断してG遺伝子を含む4713~5751部分を除去し、SH/Gインタージーン(配列番号47)を挿入(配列番号12)。
【0140】
(10)Fタンパク質はフーリンプロテアーゼによって2か所で切断が起きて、F1とF2の2個のサブユニットとその間の27個アミノ酸からなるペプチド(p27)に分離される。切断後にもF1とF2とは2個のジスルフィド結合で連結されているが、p27はFから除去されて融合前(pre-fusion)形態になる。融合前形態において、F1のN末端に位置した疎水性の融合ペプチド(FP)領域は、タンパク質の内部に位置しているものの、熱力学的に非常に不安定な状態であるため、内部から抜け易く、外部に露出しながら融合後(post-fusion)形態に非可逆的に変形される。フーリン切断部位を変異させて切断を防止し、P27部分を除去すれば、タンパク質の内部に位置したFP部分が外部に抜け出なくなって、融合前の形態で安定化する。このように安定化したタンパク質がウイルスの表面に存在すれば、細胞融合機能を果たせずウイルスの感染力が無くなるが、VSV-Gのような異種の取り付け/融合タンパク質が一緒にウイルスの表面に存在すると、感染力を維持しながら融合前F特異的な抗体も誘導可能である。
【0141】
野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654のWT-Fに1)R106G変異を導入し、2)2個のフーリン切断部位とp27領域を含むR109~F137に該当するアミノ酸29個(配列番号48)を除去し、3)29個のアミノ酸が除去された部分を配列番号49のペプチドで連結した変形Fタンパク質をコーディングするDNA配列の5’にG/FインタージーンとF5’UTRが連結され、3’にF3’UTRが連結される(配列番号5)。
【0142】
(11)実施例8.配列番号12をApaIで切断して6361~8229部分を除去し、配列番号5を挿入した配列が配列番号13である。
【0143】
(12)実施例9.配列番号11をAscI、SbfIで切断し、NS1、NS2遺伝子を含む174~1175部分をヒトコドンに対して脱最適化(deoptimization)したNS1とNS2コーディング部分で置き換える(配列番号14)。NS1とNS2遺伝子は、免疫回避に関与する遺伝子であって、ヒトコドンに対して脱最適化すれば、ヒト細胞で発現量が減少してウイルスの成長が低下し、人体に対して弱毒化(attenuation)して安全性が増加するが、このような免疫機構が欠乏した生産細胞では弱毒化されず、生産量が減少しない。
【0144】
(13)実施例10.バックボーンコンストラクトA(配列番号1)のF遺伝子のフーリン切断部位II(6137~6148、配列番号50)を配列番号51で変異させた(配列番号15)。Fタンパク質は、ERが豊富なフーリンプロテアーゼによって転写されてから切断されて、F1/F2サブドメインに分割されながら準安定な状態になる。フーリン切断部位をトリプシン様プロテアーゼなどのようにリソソームが豊富な切断酵素の切断部位に変更すれば、転写後に切断が起こらず、安定性の高い単一鎖F形態でウイルスの表面に存在できることが期待される。
【0145】
(14)実施例11.バックボーンコンストラクトA(配列番号1)のF遺伝子のフーリン切断部位I(6218~6229、配列番号52)を配列番号53で変異させた(配列番号16)。フーリン切断部位をトリプシン様プロテアーゼなどのようにリソソームが豊富な切断酵素の切断部位に変更すれば、転写後に切断が起こらず、安定性の高い単一鎖F形態でウイルスの表面に存在できることが期待される。
【0146】
上記の実施例が導入されたcDNAコトランスフェクションのためのベクターは、配列番号17-27のcDNA配列が導入された。
【0147】
各実施例で設計した組換えRSVワクチン株の候補を下記に整理した。以下、Δは欠失(deletion)と理解される。右側に変異ウイルス生産用cDNAベクター名を記載した。各cDNAのマイナス鎖RNA(すなわち、ウイルスRNA)の模式図をそれぞれ
図3~
図13に示した。
【0148】
1) RSVバックボーン株;wtRSVA_TH10654(野生型対照)
2) RSVバックボーン株-VSV-G挿入;cRSVA_VSV-G_A(
図3)
3) RSVバックボーン株-VSV-G挿入、SH欠失;cRSVA_VSV-G_A_ΔSH(
図4)
4) RSVバックボーン株-VSV-G挿入、SH欠失、RSV-G欠失;cRSVA_VSV-G_A_ΔSH_ΔG(
図5)
5) RSVバックボーン株-VSV-G挿入、SH欠失、F欠失;cRSVA_VSV-G_A_ΔSH_ΔF(
図6)
6)RSVバックボーン株-VSV-G置換;cRSVA_VSV-G_S(
図7)
7)RSVバックボーン株-VSV-G挿入、preFエクトドメイン-フォルドン変異;cRSVA_VSV-G_A_preF_ef(
図8)
8)RSVバックボーン株-VSV-G置換、preFエクトドメイン-フォルドン変異;cRSVA_VSV-G_S_preF_ef(
図9)
9)RSVバックボーン株-VSV-G置換、preF単一鎖変異;cRSVA_VSV-G_S_preF_sc(
図10)
10)RSVバックボーン株-VSV-G挿入、preFエクトドメイン-フォルドン変異、NS1/NS2脱最適化;cRSVA_VSV-G_A_preF_ef_NS1/NS2deop(
図11)
11)RSVバックボーン株-Fフーリン切断部位II変異;cRSVA_mF1(
図12)
12)RSVバックボーン株-Fフーリン切断部位I変異;cRSVA_mF2(
図13)
4.ヘルパー遺伝子のデザイン(4種)
RSVはマイナス鎖RNAウイルスであり、逆遺伝学を用いてイン・ビトロでウイルスを生産するとき、遺伝子合成に必要なヘルパー遺伝子(RSVのN、P、L、M2-1タンパク質暗号化遺伝子)を一緒に仕込む。
【0149】
(1)Nタンパク質遺伝子は、野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654アンチゲノムの1119~2294配列をpCIネオベクターに制限酵素XhoIとMluIを用いてクローニングする。
【0150】
(2)Pタンパク質遺伝子は、野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654アンチゲノムの2326~3051配列をpCIネオベクターに制限酵素XhoIとMluIを用いてクローニングする。
【0151】
(3)M2-1タンパク質遺伝子は、野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654アンチゲノムの7647~8231配列をpCIネオベクターに制限酵素XhoIとMluIを用いてクローニングする。
【0152】
(4)Lタンパク質遺伝子は、野生型ヒト呼吸器合胞体ウイルス株RSVA/TH_10654アンチゲノムの8539~15036配列をpCIネオベクターに制限酵素XhoIとMluIを用いてクローニングする。
【0153】
Nタンパク質遺伝子は配列番号34で、Pタンパク質遺伝子は配列番号35で、M2-1タンパク質遺伝子は配列番号36で、Lタンパク質遺伝子は配列番号37で、それぞれ表した。
【0154】
5.ウイルスレスキュー
BHK細胞を6ウェルプレートに5×105細胞/ウェルの濃度で用意した。
【0155】
翌日、T7ポリメラーゼ発現ベクター、RSVフルレングスアンチゲノムベクター、4種のヘルパー遺伝子ベクター(N、P、M2-1、L)の総6種のプラスミドを0.5μgずつ、リポフェクタミン3000を用いてBHK細胞にトランスフェクションした。
【0156】
10日後、培養液を回収して免疫蛍光分析(Immunofluorescence Assay:IFA)を通じてウイルスを検出した。具体的には、トランスフェクションされたBHK細胞を4%PFAで室温で30分間固定し、Triton(登録商標)X100を使用して細胞の透過性を高め、一次抗体であるマウス抗RSV Nm Ab、マウス抗RSV G mAb、マウス抗RSV-F mAb、マウス抗VSV-G mAb、及び前記一次抗体にローダミングリーン(インビトロジェン)が結合された二次抗体を用いて免疫蛍光を行った。細胞の核はHoechst(登録商標)33342を用いて染色した。蛍光信号を蛍光顕微鏡で可視化して確認した。
【0157】
その結果、
図16~
図20に示したように、設計した組換えウイルスが十分にレスキューされたことを確認できた。
【0158】
6.イン・ビトロ(in vitro)弱毒化試験
RSVバックボーン株を含み、前記11種のウイルスを、ベロ細胞、HEp2細胞、MRC-5、BEAS-2B、NHBE(primary normal human bronchial epithelial cells)又はHAE(primary human tracheobronchial airway cells)に0.1 MOIで感染させて7日間培養した。1日置きにウイルス培養液を収集してq-PCR又はプラークアッセイ(plaque assay)を用いてウイルス力価を分析し、野生型ウイルスに比べて変異ウイルスであるワクチン株が増殖速度と増殖能が減少して弱毒化したことを確認した。
【0159】
また、プラークアッセイを通じて、プラークパターンを目視で比べることで、弱毒化進行如何を確認した。その結果、
図21に示したように、野生型ウイルスに比べて設計した組換えウイルスのプラークの大きさが小さいことから、組換えウイルスが弱毒化したことを確認できた。中でも、実施例1、2、3、4、6、7、9で製造した組換えウイルスのプラークの大きさが特に小さいことが確認できた。
【0160】
7.イン・ビボ(in vivo)弱毒化試験
10種のウイルスをBALB/cマウス、TypeI KOマウス又はコットンラットに、IN(鼻腔内)、IM(筋肉内)又はIP(腹腔内)経路を通じて101~107pfu/マウスの濃度で投与した。1~7日目の血液又は肺からq-PCR又はプラークアッセイを用いてウイルスを検出し、2週間体重、致死率、肺炎症など多様な変化を測定した。その結果、野生型ウイルスに比べて変異ウイルスであるワクチン株が弱毒化したことを確認できた。
【0161】
8.ウイルス安定性試験
野生型RSV及びRSVバックボーン株を含み、総10種のウイルスを、-80℃、4℃、室温で28日間保管した。温度条件毎に保管したサンプルをベロ細胞に感染させ、プラークアッセイを通じて温度条件に応じたタイターの変化を分析した。その結果を
図22~
図24に示した。
【0162】
図22~
図24に示したように、野生型に比べて変異ウイルスの安定性が増加したことを確認できた。
【0163】
9.免疫原性試験
実施例1~9を含み、総11種のウイルスを用いて総抗体価を測定した。BALB/c、メス7wマウス(1群当りn=5)に前記10種ウイルスを鼻腔内(IN)接種し、低濃度群(low-dose group)の場合は1×104pfu/マウスの濃度で(35μl/マウス)、高濃度群(high-dose group)の場合は1×105pfu/マウスの濃度で(35μl/マウス)それぞれ1回接種した。ビークル対照群も同様のスケジュールで処理した(35μl/マウス)。最初接種から14日後、28日後及び40日後に血液を採取し、遠心分離によって血清を分離した。総抗体価は14日目、28日目の血清を用いてELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法を通じて測定し、中和抗体は40日目の血清を用いてプラーク減少中和試験(Plaque Reduction Neutralization Test:PRNT)を通じて測定した。
【0164】
9-1.総抗体価
本発明の組換えウイルスで接種したマウス血清のELISA分析を行った。その結果、
図25~
図27に示したように、Mockを除いた全ての群で、投与したRSV抗原に特異的なIgG抗体が形成されたことが確認された。具体的には、最初接種の14日後、抗RSV-F IgGの場合、低濃度群対比高濃度群においてエンドポイント力価が平均4倍、最大16倍の差を見せ、抗RSV-G IgGの場合、低濃度群対比高濃度群においてエンドポイント力価が平均4.7倍、最大11倍の差を見せた(
図25)。最初接種の28日後、抗RSV-F IgGの場合、低濃度群対比高濃度群においてエンドポイント力価が平均4.8倍、最大23倍の差を見せ、抗RSV-G IgGの場合、低濃度群対比高濃度群においてエンドポイント力価が平均2.6倍、最大7.6倍の差を見せた(
図26)。全ての免疫群から投与物質と一致する抗体が検出され、抗RSV-F IgGが抗RSV-G IgGに比べて高い抗体価を見せ、14日目に比べて28日目の免疫血清で抗体価が増加する様相を見せるを確認した(
図27)。
【0165】
9-2.中和抗体価
本発明の組換えウイルスで接種したマウスの40日目の血清を用いてPRNT分析を行った。回収した血清を4、8、16、32倍にそれぞれ希釈し、野生型ウイルスと反応させた後、ベロ細胞に感染させた。感染から3日目にプラークアッセイを行ってグループ毎のIC50値を算出した。
【0166】
その結果、
図28に示したように、全ての免疫グループでウイルス感染を中和する抗体が十分に形成されたことが確認された。
【0167】
10.免疫効力試験
上記の免疫原性試験に続いて、最初接種の35日後に、RSV-Aを5×105pfu/マウスの濃度でマウスの鼻腔に投与した。1~5日目に肺からウイルスをプラークアッセイを通じて検出し、5日間体重及び臨床症状を測定した。
【0168】
40日目にマウスを犠牲死させ、肺組織を回収し、それを均質化してプラークアッセイで残余ウイルスを分析した。その結果、
図29に示したように、組換えウイルスは低濃度群及び高濃度群の全てにおいて肺のRSV-Aウイルス負荷(viral load)減少効果を示すことを確認した。これを通じて、全ての免疫グループでウイルス感染が効果的に抑制されることを確認した。また、全ての免疫グループにおいて、体重の顕著な減少はなく、約1%~5%で減少しても速く回復する様相が確認され、特別な臨床症状は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明は、RSV(呼吸器合胞体ウイルス)の感染を予防するための薬学的組成物、好ましくはワクチンとして用いることができる。
【配列表】
【国際調査報告】