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特表2024-536242SIGLEC受容体チェックポイント阻害剤およびそれらを使用して腫瘍性細胞成長を阻害する方法
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  • 特表-SIGLEC受容体チェックポイント阻害剤およびそれらを使用して腫瘍性細胞成長を阻害する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】SIGLEC受容体チェックポイント阻害剤およびそれらを使用して腫瘍性細胞成長を阻害する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240927BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240927BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240927BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240927BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240927BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P35/02
C12N5/09 ZNA
C12N5/0783
C07K16/28
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K19/00
C07K14/725
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519669
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 US2022077257
(87)【国際公開番号】W WO2023056354
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/250,630
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524119613
【氏名又は名称】アドバンティジェン バイオサイエンシーズ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ハイド, フレッド
(72)【発明者】
【氏名】ジャクソン, マーク
(72)【発明者】
【氏名】カークパトリック, ヘザー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AB05
4B065AC14
4B065BA08
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、Siglec-5とがん細胞上のその同族リガンドとの相互作用を阻害するための組成物、および腫瘍性障害の処置におけるチェックポイント阻害剤としてのそれらの使用を提供する。対象においてSiglec-5リガンドを発現するがんを処置および/または予防するための方法であって、Siglec-5とがん細胞上に発現されるSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの態様では、対象は、Siglec-5リガンドを発現するがんを有すると同定される。好ましくは、上記分子は、Siglec-5に対するモノクローナル抗体である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siglec-5を発現する免疫細胞とSiglec-5リガンドを発現するがん細胞との間の相互作用を阻害するための方法であって、前記免疫細胞を、Siglec-5と前記Siglec-5リガンドとの前記相互作用を阻害する分子と接触させることを含み、前記分子が、Siglec-5に対するモノクローナル抗体である、方法。
【請求項2】
前記方法がインビトロで実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法がインビボで実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Siglec-5を発現する前記免疫細胞が活性化T細胞であり、および/または前記モノクローナル抗体が、a)動物をヒトSiglec-5抗原で免疫化する工程および前記動物から脾細胞を単離する工程;b)CD138陽性細胞の単離された前記脾細胞を枯渇させて、枯渇された免疫化細胞を得る工程;c)前記枯渇された免疫化細胞を活性化剤と接触させて、活性化された抗原特異的Bリンパ球を得る工程;d)前記活性化された抗原特異的Bリンパ球を不死化し、それによって不死化されたヒトSiglec-5特異的形質細胞を産生する工程;およびe)前記不死化されたSiglec-5特異的形質細胞を増殖させて、Siglec-5に特異的に結合するモノクローナル抗体を得る工程、を含む方法によって得られる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記T細胞がキメラ抗原受容体を発現する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
がんを処置するための方法であって、がんの処置を必要とする対象に、活性化T細胞上に発現されるSiglec-5とがん細胞(複数可)上に発現されるSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子を投与することを含み、前記相互作用を阻害する前記分子が、Siglec-5の細胞外ドメインを含む融合タンパク質またはSiglec-5に対するモノクローナル抗体である、方法。
【請求項7】
Siglec-5と前記Siglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する前記分子が、(i)Siglec-5の細胞外ドメインまたはそのリガンド結合部分、および必要に応じて(ii)Fc部分、を含む融合タンパク質である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Siglec-5と前記Siglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する前記分子が、抗体またはそのリガンド結合部分であり、好ましくは、前記抗体またはそのリガンド結合部分が、(i)TCR(1383i)で形質導入された操作されたヒトT細胞と(ii)MEL624細胞との共培養物における少なくとも1つの炎症促進性サイトカインの産生を、前記抗体またはそのリガンド結合部分の非存在下と比較して少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍または少なくとも3倍増加させ、より好ましくは、1またはそれを超える前記炎症促進性サイトカインがIFNγを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体がマウス抗体、ヒト抗体、またはヒト化抗体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体がヒトSiglec-5に結合する、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象が、Siglec-5リガンドを発現するがんを有すると同定される、請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記がんが、固形腫瘍、血液がんおよび/または転移性病変である、請求項6~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記がんが、乳がん(例えば、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体またはHer2/neuのうちの1つ、2つまたはすべてを発現しない乳がん、例えばトリプルネガティブ乳がん)、胃腸/泌尿生殖器(子宮頸がん、卵巣がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、腎臓がん、尿路上皮がん、膀胱がん、前立腺がん、膵臓がん、腸がん、肛門がん)、頭頸部がん(例えば、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC))、咽頭がん、胃食道がん(例えば、食道扁平上皮癌)、食道がん、鼻咽頭がん、甲状腺がん、血液悪性疾患[例えば、骨髄腫(例えば、多発性骨髄腫)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(例えば、濾胞性、MALT、辺縁帯、大細胞/びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を含むがこれらに限定されない、緩慢性および非緩慢性B細胞リンパ腫)]、T細胞リンパ腫、白血病(例えば、TおよびB細胞白血病、骨髄性白血病またはリンパ性白血病、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、急性前骨髄球性白血病(APML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄性白血病、ヘアリーセル白血病、前骨髄球性白血病(PML))、骨髄異形成症候群(MDS)、リンパ増殖性疾患(例えば、移植後リンパ増殖性疾患)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、肝臓がん(例えば、肝細胞癌)、中枢神経系がん、皮膚がん(例えば、黒色腫)、中皮腫から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記がんが、血液がん、白血病、黒色腫、肝臓がんおよび乳がんから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
Siglec-5と前記Siglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する前記分子が、1またはそれを超える追加の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤と共に前記対象に同時投与される、請求項6~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記1またはそれを超える追加の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤が、PD-1、PD-L1、CTLA-4、TIM-3、LAG-3、B7-H3およびB7-H4から選択される免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤を含み、必要に応じて、前記PD-1の阻害剤が、セミプリマブ、ニボルマブおよびペンブロリズマブから選択される抗体であり;前記PD-L1の阻害剤が、アテゾリズマブ、アベルマブおよびデュルバルマブから選択される抗体であり;前記CTLA-4の阻害剤がイピリムマブであり;前記TIM-3の阻害剤が、MBG453、Sym023およびTSR-022から選択され;前記LAG-3の阻害剤が、LAG525(IMP701)、REGN3767(R3767)、BI 754,091、IMP321、FS118およびテボテリマブから選択され;前記B7-H3および/またはB7-H4の阻害剤が、MGC018およびFPA150から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記1またはそれを超える追加の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤が、PD-1の阻害剤を含み、好ましくは前記PD-1の阻害剤が抗体であり、より好ましくは前記PD-1の阻害剤がセミプリマブ、ニボルマブまたはペンブロリズマブである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
Siglec-5と前記Siglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する前記分子および前記1またはそれを超える追加の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤が、逐次的に、同時に、または同時発生的に投与され、好ましくは同時発生的に投与される、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記対象がヒトである、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記対象の腫瘍微小環境が、対照と比較してSiglec-5リガンドおよび/またはPD-1の増大した発現を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
Siglec-5と前記Siglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する前記分子が、1またはそれを超える共刺激分子と共に前記対象に同時投与され、好ましくは、前記1またはそれを超える共刺激分子が、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、またはCD83リガンドのアゴニストを含む、請求項6~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記1またはそれを超える共刺激分子がOX40アゴニストを含み、好ましくは、前記OX40アゴニストが抗体であり、より好ましくは、前記OX40アゴニストが、チスレズマブ、HFB301001、YH002、イブクリマブ(PF-04518600)、およびINBRX-106から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
Siglec-5と前記Siglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する前記分子および前記1またはそれを超える共刺激分子が、逐次的に、同時に、または同時発生的に投与される、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
単離された抗体またはその抗原結合部分であって、前記抗体またはその抗原結合部分がSiglec-5に結合し、Siglec-5リガンドへのSiglec-5の結合を減少させ、好ましくは、がん細胞上に発現されるSiglec-5リガンドへのSiglec-5の結合を減少させる、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項26】
前記抗体またはその抗原結合部分がヒトSiglec-5に特異的に結合する、請求項25に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項27】
請求項25または26に記載の抗体またはその抗原結合部分であって、以下の特性:
(j)[1×10-7 M]またはそれ未満のkDでヒトSiglec-5に結合する
(k)インビトロおよび/またはインビボで免疫細胞(例えば活性化T細胞)上に発現されるSiglec-5の細胞表面レベルを実質的に減少させない
(l)混合リンパ球反応(MLR)アッセイにおいてT細胞増殖を増加させる
(m)MLRアッセイにおいてIL-2分泌を増加させる
(n)T細胞増殖アッセイにおいてT細胞増殖を増加させ、および/またはIL-2分泌を増加させる
(o)ヒトSiglec-5およびカニクイザルSiglec-5に結合する
(p)免疫細胞上に発現されたSiglec-5リガンドへのSiglec-5の結合を阻害する
(q)インビボで腫瘍細胞成長を阻害する
(r)ヒトSiglec-14と交差反応しない
のうちの1またはそれを超える特性を示す、抗体またはその抗原結合部分。
【請求項28】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体である、請求項25~27のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項29】
Fab、F(ab)またはscFv断片である、請求項25~28のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合部分。
【請求項30】
請求項25~29のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容され得る担体とを含む、好ましくはがんの処置に使用するための医薬組成物。
【請求項31】
請求項25~29のいずれか一項に記載の抗体と、免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤と、を含む薬学的組み合わせ物。
【請求項32】
前記免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤が、PD-1、PD-L1 CTLA-4、TIM-3、LAG-3、B7-H3およびB7-H4から選択される免疫チェックポイントタンパク質を阻害する、請求項31に記載の薬学的組み合わせ物。
【請求項33】
前記免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤がPD-1を阻害する、請求項32に記載の薬学的組み合わせ物。
【請求項34】
前記免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤が、抗体またはその抗原結合断片である、請求項31~33のいずれか一項に記載の薬学的組み合わせ物。
【請求項35】
抗Siglec-5処置レジメンの候補としてがんを有する対象を同定する方法であって、前記がん上および/または腫瘍微小環境内のSiglec-5リガンドの発現レベルを評価することを含み、前記がん上のSiglec-5リガンドの発現レベルが所定の標準レベルを上回ると、前記対象が前記抗Siglec-5処置レジメンの候補として同定される、方法。
【請求項36】
前記抗Siglec-5処置レジメンの候補として同定された対象に、Siglec-5と前記Siglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子を投与することをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月30日に出願された米国仮特許出願第63/250,630号の利益を主張し、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
疾患の処置の改善は、基礎研究および臨床研究の両方において長年のテーマであった。特定の疾患標的ならびに免疫系を調節する標的の治療は、非常に長い間、研究者およびそのような研究の目標であった。免疫チェックポイントは、自己寛容を維持し、免疫応答を助ける阻害性または刺激性の特徴を有する経路である。それらには、細胞、細胞群、組織、組織群をインビトロ様式で、および動物または動物の免疫系においてインビボで免疫調節する能力が含まれる。免疫調節のための新しい標的は、過去に誤って分類されていたが、チェックポイント阻害剤によって標的化することができる免疫チェックポイント細胞表面受容体として現在特徴付けられている。標的化された処置は、がんに影響を及ぼすことができ、固形腫瘍がんに対するCAR-T治療の有効性を高めることができる。
【0003】
免疫系を調節するためのモノクローナル抗体などのチェックポイント阻害剤の必要性は、当技術分野において満たされていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の概要
Siglec-5は、本明細書では免疫チェックポイント阻害剤として同定される。対象における免疫応答が調節されるように、Siglec-5と同族Siglec-5リガンド(例えば、がん細胞上に発現されたSiglec-5リガンド)との間の相互作用を阻害する分子を対象に投与することを含む、対象における免疫応答を調節する方法が本明細書で提供される。いくつかの態様では、Siglec-5リガンドは、(糖)タンパク質リガンドである。好ましくは、分子は、対象における免疫応答を増強、刺激または増加させる。
【0005】
いくつかの態様では、1またはそれを超えるSiglec-5リガンドを発現するがん細胞は、Vuchkovskaら、Immunology,166(2):238-248(2022)に記載の方法(その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)によって同定される。関連する態様では、分子(例えば、抗Siglec-5抗体)による、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用の阻害は、Vuchkovskaらに記載された方法によって評価される。他の態様では、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子による抗腫瘍T細胞応答の刺激は、Vuchkovskaらに記載された方法によって評価される。
【0006】
いくつかの態様では、対象においてSiglec-5リガンドを発現するがんを処置および/または予防する方法であって、Siglec-5とがん細胞上に発現されるSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの態様では、対象は、Siglec-5リガンドを発現するがんを有すると同定される。
【0007】
特定の実施形態では、Siglec-5とがん細胞分子上に発現されるSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子(例えば、抗Siglec-5抗体またはSiglec-5の可溶性形態)で処置されるがんには、固形腫瘍、血液がん(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫、例えば多発性骨髄腫)、および転移性病変が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、がんは固形腫瘍である。固形腫瘍の例としては、悪性疾患、例えば肉腫および癌腫、例えば様々な器官系の腺癌、例えば肺、乳房、卵巣、リンパ、胃腸(例えば、結腸)、肛門、生殖器および尿生殖路(例えば、腎臓、尿路上皮、膀胱細胞、前立腺)、咽頭、CNS(例えば、脳、神経またはグリア細胞)、頭頸部、皮膚(例えば、黒色腫)および膵臓に影響を及ぼすもの、ならびに結腸がん、直腸がん、腎細胞癌、肝臓がん、非小細胞肺がん、小腸がんおよび食道がんなどの悪性疾患を含む腺癌が挙げられる。がんは、初期、中期、後期または転移性のがんであり得る。
【0008】
一実施形態では、がんは、肺がん(例えば、肺腺癌または非小細胞肺がん(NSCLC)(例えば、扁平上皮および/または非扁平上皮組織像を有するNSCLC、またはNSCLC腺癌))、黒色腫(例えば、進行した黒色腫)、腎臓がん(例えば、腎細胞癌)、肝臓がん(例えば、肝細胞癌)、骨髄腫(例えば、多発性骨髄腫)、前立腺がん、乳がん(例えば、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体またはHer2/neuのうちの1つ、2つまたはすべてを発現しない乳がん、例えばトリプルネガティブ乳がん)、卵巣がん、結腸直腸がん、膵臓がん、頭頸部がん(例えば、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、肛門がん、胃食道がん(例えば、食道扁平上皮癌)、中皮腫、鼻咽頭がん、甲状腺がん、子宮頸がん、リンパ増殖性疾患(例えば、移植後リンパ増殖性疾患)または血液がん(例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、B細胞リンパ腫、または非ホジキンリンパ腫)、または白血病(例えば、骨髄性白血病またはリンパ性白血病)から選択される。
【0009】
いくつかの好ましい実施形態では、がんは、結腸直腸がん、食道がん、扁平上皮癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、中皮腫、非小細胞肺がん、腎細胞癌、尿路上皮癌、乳がん、子宮頸がん、皮膚扁平上皮癌、子宮内膜癌、食道癌、胃の癌腫、メルケル細胞癌、大細胞型B細胞リンパ腫、および小細胞肺がんから選択される。いくつかの態様では、これらのがんの1またはそれより多くの処置方法は、がんの処置を必要とする対象に、(i)Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の結合を阻害する分子および(ii)好ましくはPD-1の阻害剤を含む1またはそれを超える追加の免疫チェックポイント阻害剤を同時投与する工程を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、対象は、PD-L1発現レベルが上昇したがん微小環境を含む。あるいは、または組み合わせて、がん微小環境は増加したIFNγおよび/またはCD8発現を有することができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、対象は、高いPD-L1レベルもしくは発現のうちの1またはそれより多くを有する腫瘍を有するか、または有するとして同定されるか、または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)+である(例えば、増加した数のTILを有する)として同定されるか、またはその両方である。特定の実施形態では、対象は、高いPD-L1レベルまたは発現を有し、かつTIL+である腫瘍を有するか、または有すると同定される。いくつかの実施形態では、本明細書中に記載される方法は、高いPD-L1レベルもしくは発現のうちの1またはそれより多くを有する腫瘍を有することに基づいて、またはTIL+であるとして、またはその両方であるとして対象を同定することをさらに含む。特定の実施形態では、本明細書中に記載される方法は、高いPD-L1レベルまたは発現を有する腫瘍を有することに基づいて、かつ、TIL+であるとして、対象を同定することをさらに含む。いくつかの実施形態では、TIL+である腫瘍はCD8およびIFNγについて陽性である。いくつかの実施形態では、対象は、PD-L1、CD8および/またはIFNγのうちの1つ、2つまたはそれより多くについて陽性である細胞を高いパーセンテージで有するか、または有するとして同定される。特定の実施形態では、対象は、PD-L1、CD8およびIFNγのすべてについて陽性である細胞を高いパーセンテージで有するか、または有するとして同定される。
【0012】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載される方法は、PD-L1、CD8および/またはIFNγのうちの1つ、2つまたはそれより多くについて陽性である細胞を高いパーセンテージで有することに基づいて対象を同定することをさらに含む。特定の実施形態では、本明細書中に記載される方法は、PD-L1、CD8およびIFNγのすべてについて陽性である細胞を高いパーセンテージで有することに基づいて対象を同定することをさらに含む。いくつかの実施形態では、対象は、PD-L1、CD8および/またはIFNγのうちの1つ、2つまたはそれより多く、ならびに肺がん、例えば、扁平上皮肺がんまたは肺腺癌;頭頸部がん;扁平上皮子宮頸がん;胃がん;食道がん;甲状腺がん;黒色腫および/または鼻咽頭がん(NPC)の1またはそれより多くを有するか、または有するとして同定される。特定の実施形態では、本明細書中に記載される方法は、PD-L1、CD8および/またはIFNγのうちの1つ、2つまたはそれより多く、ならびに肺がん、例えば、扁平上皮肺がんまたは肺腺癌;頭頸部がん;扁平上皮子宮頸がん;胃がん;甲状腺がん;黒色腫および/または鼻咽頭がんの1またはそれより多くを有することに基づいて対象を同定することをさらに記載する。
【0013】
いくつかの実施形態では、対象は、高いPD-1レベルもしくは発現、高いTIM-3レベルもしくは発現、および/または腫瘍内の制御性T細胞の高レベルの浸潤、例えば腫瘍内に存在するTregの数またはパーセンテージの増加のうちの1つ、2つまたはそれより多くを有する腫瘍を有するか、または有するとして同定される。特定の実施形態において、対象は、PD-1およびTIM-3の高いレベルまたは発現、および高いレベル(例えば数)の腫瘍内の制御性T細胞を有する腫瘍を有するか、または有するとして同定される。いくつかの実施形態では、本明細書中に記載される方法は、PD-1について陽性である高いパーセンテージの細胞、TIM-3について陽性である高いパーセンテージの細胞、および/または腫瘍における制御性T細胞の高レベルの浸潤、例えば腫瘍に存在するTregの数またはパーセンテージの増加のうちの1つ、2つまたはそれより多くに基づいて対象を同定することをさらに含む。いくつかの実施形態では、本明細書中に記載される方法は、PD-1について陽性である高いパーセンテージの細胞、TIM-3について陽性である高いパーセンテージの細胞、および/または腫瘍における制御性T細胞の高レベルの浸潤、例えば腫瘍に存在するTregの数またはパーセンテージの増加のうちの1つ、2つまたはそれより多く、ならびに肺がん、例えば非小細胞肺がん(NSCLC);肝細胞がん、例えば肝細胞癌;または卵巣がん、例えば卵巣癌のうちの1またはそれより多くに基づいて対象を同定することをさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、本方法に従って処置される対象は、上昇したレベルのPD-L1および/またはPD-1発現を含む腫瘍微小環境を有するとして同定される。
【0015】
いくつかの実施形態では、本方法に従って処置される対象は、上昇したレベルのSiglec-5リガンドの発現を含む腫瘍微小環境を有するとして同定される。関連する実施形態では、本方法に従って処置される対象は、上昇したレベルのSiglec-5リガンドおよびPD-1の発現を含む腫瘍微小環境を有するとして同定される。
【0016】
がんを処置する方法であって、試料(例えば、がん細胞を含むヒト対象からの試料)をSiglec-5リガンドおよび/またはPD-1の存在について試験し、それによってSiglec-5リガンドおよび/またはPD-1の値を同定することと、Siglec-5リガンドおよび/またはPD-1の値を対照値と比較することと、Siglec-5リガンドおよび/またはPD-1の値が対照値よりも大きい場合、治療有効量の抗Siglec-5抗体(例えば、本明細書に記載の抗Siglec-5抗体)を、必要に応じて1またはそれを超える他の薬剤、例えば抗PD-1抗体分子と組み合わせて、対象に投与し、それによってがんを処置することとを含む方法も提供される。
【0017】
いくつかの態様では、がん細胞の高シアリル化は、がん細胞とSiglec-5との間の相互作用を調節する。
【0018】
いくつかの態様では、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子は、Siglec-5リガンドのデコイ受容体として作用し得る可溶性形態のSiglec-5を含む。いくつかの実施形態では、可溶性Siglec-5は、例えば、Connollyら、Br J Haematol.,119(1):221-238(2002)に記載されているように、Siglec-5の細胞外配列を有する可溶性切断型タンパク質をコードするSiglec-5アイソフォームを含む。他の実施形態では、可溶性Siglec-5は、リガンド結合ドメインを含むSiglec-5の細胞外配列の一部を含む。関連する態様では、可溶性Siglec-5は、シアル酸を認識するアミノ末端V-セット免疫グロブリンドメインを含む。いくつかの実施形態では、可溶性形態のSiglec-5は、(i)Siglec-5の細胞外部分またはそのリガンド結合断片および(ii)IgG1のFc部分を含む融合タンパク質を含む。
【0019】
他の態様では、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子は、抗体またはその抗原結合断片を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、Sigle-5に特異的に結合し、Siglec-5リガンドへのSiglec-5の結合を減少させる。好ましい実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、対象におけるがんの処置および/または予防に使用するために対象に投与される。いくつかの好ましい実施形態では、抗体または抗原結合断片は、Siglec-5に結合し、Siglec-5リガンドへのSiglec-5の結合を減少させる。他の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、がん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドに結合し、Siglec-5リガンドへのSiglec-5の結合を減少させる。
【0020】
他の態様では、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子は、干渉RNAまたはアンチセンスRNAを含む。いくつかの態様では、干渉RNAまたはアンチセンスRNAは、腫瘍微小環境におけるSiglec-5の発現を減少させる。
【0021】
他の態様では、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子は、小分子を含む。例えば、Rillahanら、Angew Chem Int Ed Engl.,51(44):11014-11018(2012)を参照されたい(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0022】
(i)Siglec-5リガンドへのSiglec-5の結合を阻害する分子と(ii)第2のがん治療薬との同時投与を含む併用治療も提供される。いくつかの実施形態では、Siglec-5の結合を阻害する分子は、共刺激分子の調節因子(例えば共刺激分子のアゴニスト)と組み合わせて対象に投与される。他の実施形態では、Siglec-5の結合を阻害する分子は、阻害性分子の調節因子(例えば、免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤)と組み合わせて対象に投与される。いくつかの態様では、第2のがん治療薬は、免疫チェックポイント阻害剤、好ましくは抗PD-1、抗PD-L1および/または抗CTLA-4抗体である。
【0023】
Siglec-5に結合する単離された抗体も本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、単離された抗体は、ヒトSiglec-5に結合するヒトモノクローナル抗体である。抗体をコードする核酸分子、および抗体を含む医薬組成物も提供される。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗Siglec-5抗体は、以下の特性のうちの1またはそれを超える特性を示す:
(a)[1×10-7 M]またはそれ未満のkDでヒトSiglec-5に結合する
(b)インビトロおよび/またはインビボで免疫細胞(例えば活性化T細胞)上に発現されるSiglec-5の細胞表面レベルを実質的に減少させない
(c)混合リンパ球反応(MLR)アッセイにおいてT細胞増殖を増加させる
(d)MLRアッセイにおいてIL-2分泌を増加させる
(e)Tリンパ球増殖アッセイにおいてT細胞増殖および/またはIL-2分泌を増加させる
(f)ヒトSiglec-5およびカニクイザルSiglec-5に結合する
(g)免疫細胞上に発現されたSiglec-5リガンドへのSiglec-5の結合を阻害する
(h)インビボで腫瘍細胞成長を阻害する
(i)ヒトSiglec-14と交差反応しない
【0024】
好ましくは、抗Siglec-5抗体はヒト抗体であるが、代替的な実施形態では、抗体は、例えばマウス抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体であり得る。本発明の抗体は、例えば完全長抗体、例えばIgG1またはIgG4アイソタイプであり得る。あるいは、抗体は、Fab断片(VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片)、F(ab’)2断片(ヒンジ領域で少なくとも1つのジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片)、Fd断片(VHドメインおよびCH1ドメインからなる)、Fv断片(抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインからなる)、dAb断片(単一可変ドメイン断片(VHドメインまたはVLドメイン)からなる)、Fv断片の2つのドメイン(VLドメインおよびVH)を含む単鎖Fv(scFv)などの抗体断片であることができ、これらは一緒に融合され、いくつかの実施形態では、リンカーを用いて単一タンパク質鎖を作製する。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトSiglec-5に特異的に結合するscFvである。
【0025】
いくつかの好ましい実施形態では、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する抗Siglec-5抗体が提供される。いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体は、Siglec-5リガンドを発現するがん細胞への組換えヒトSiglec-5の結合を低減または減少させる。他の実施形態では、抗Siglec-5抗体は、インビトロおよび/またはインビボで、免疫細胞(例えば活性化T細胞)上に発現されるSiglec-5の細胞表面レベルを有意に低減または減少させることなく、がん細胞上に発現されるその同族リガンドへのSiglec-5の結合を低減させる。
【0026】
本明細書で使用される場合、抗Siglec-5抗体は、本明細書に記載されているかまたは当技術分野で公知の任意のインビトロアッセイまたは細胞ベースの培養アッセイを利用して、飽和抗体濃度で少なくとも20%、Siglec-5へのリガンド結合を低減させる場合、Siglec-5と1またはそれを超えるSiglec-5リガンドとの間の相互作用(例えば、結合)を阻害する。いくつかの態様では、抗Siglec-5抗体は、Siglec-5リガンドを発現するがん細胞へのSiglec-5の結合の20%またはそれを超える低減を誘導する場合、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する。
【0027】
いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体は、抗Siglec-5抗体の非存在下でのSiglec-5の結合と比較して、1またはそれを超えるSiglec-5リガンドに対するSiglec-5の結合を、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、少なくとも29%、少なくとも30%、少なくとも31%、少なくとも32%、少なくとも33%、少なくとも34%、少なくとも35%、少なくとも36%、少なくとも37%、少なくとも38%、少なくとも39%、少なくとも40%、少なくとも41%、少なくとも42%、少なくとも43%、少なくとも44%、少なくとも45%、少なくとも46%、少なくとも47%、少なくとも48%、少なくとも49%、少なくとも50%、少なくとも51%、少なくとも52%、少なくとも53%、少なくとも54%、少なくとも55%、少なくとも56%、少なくとも57%、少なくとも58%、少なくとも59%、少なくとも60%、少なくとも61%、少なくとも62%、少なくとも63%、少なくとも64%、少なくとも65%、少なくとも66%、少なくとも67%、少なくとも68%、少なくとも69%、少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%またはそれを超えて、低減させる。
【0028】
さらに、本開示の抗Siglec-5抗体を使用して、がんを予防するか、そのリスクを減少させるか、または処置することができる。いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体を使用して、T細胞不活性化の防止/逆転を必要とする個体の腫瘍微小環境において、Siglec-5(活性化T細胞上に発現)とその同族リガンド(がん細胞上に発現)との相互作用によって引き起こされるT細胞不活性化を防止/逆転することができる。いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体はモノクローナル抗体である。したがって、いくつかの態様では、対象のがんまたは腫瘍細胞の増殖を減少または阻害する(例えば、がんを処置する)方法が提供され、この方法は、本明細書に記載の抗Siglec-5抗体分子、例えば治療有効量の抗Siglec-5抗体分子を、単独で、または第2の薬剤、例えば免疫調節薬(例えば、抗PD-1、PD-L1、LAG-3もしくはCEACAM-1阻害剤(例えば、抗体)、またはそれらの組み合わせと組み合わせて対象に投与することを含む。
【0029】
いくつかの態様では、本開示の抗Siglec-5抗体は、抗原(例えば腫瘍抗原)刺激時に、Siglec-5を発現する活性化T細胞による1またはそれを超える炎症促進性サイトカイン(例えば、IFN-gおよびIL-22)の分泌のSiglec-5リガンド媒介性の低減および/または1またはそれを超えるTh2サイトカイン(例えば、IL-4、IL-5およびIL-13)の分泌の増加を防止する。
【0030】
いくつかの態様では、本開示の抗Siglec-5抗体は、T細胞、例えばCD4+またはCD8+T細胞において、例えばIL-12の存在下で抗CD3/CD28で刺激されたCD4+T細胞において、または抗CD3/CD28刺激を用いたT細胞-DC自己培養アッセイにおいて、1またはそれを超える炎症促進性サイトカイン(例えば、IFN-g、TNF-αおよび/またはIL-22)の分泌および/または増殖を増強する。
【0031】
いくつかの態様では、本開示の抗Siglec-5抗体は、例えばインビトロアッセイにおいて、標的がん細胞に対する細胞傷害性NK(ナチュラルキラー)細胞活性を増強する。他の態様では、抗Siglec-5抗体は、マクロファージまたは抗原提示細胞がT細胞応答を刺激する能力、例えば抗原提示細胞のIL-12分泌を増加させる能力を増強する。
【0032】
他の態様では、抗Siglec-5抗体は、Siglec-5のエピトープ、例えば、本明細書に記載の抗体分子によって認識されるエピトープと同じまたは類似のエピトープに特異的に結合する。
【0033】
特定の実施形態では、Siglec-5と1またはそれを超えるSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する抗Siglec-5抗体は、Siglec-5に結合するかまたは物理的に相互作用する抗Siglec-5抗体である。抗Siglec-5抗体は、標的抗原(例えば、Siglec-5)に対してナノモル濃度またはさらにはピコモル濃度の親和性を有し得る。特定の実施形態では、抗体のKdは、約10pM~約100nMである。例えば、抗体のKdは、約100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約900pM、約800pM、約790pM、約780pM、約770pM、約760pM、約750pM、約740pM、約730pM、約720pM、約710pM、約700pM、約650pM、約600pM、約590pM、約580pM、約570pM、約560pM、約550pM、約540pM、約530pM、約520pM、約510pM、約500pM、約450pM、約400pM、約350pM 約300pM、約290pM、約280pM、約270pM、約260pM、約250pM、約240pM、約230pM、約220pM、約210pM、約200pM、約150pM、約100pM、約50pM、約40pM、約30pM、もしくは約20pMのいずれか、または約15pM~約1pM、約2pM、約3pM、約4pM、約5pM、約6pM、約7pM、約8pM、約9pM、約10pM、約11pM、約12pM、約13pM、もしくは約14pMまでのいずれかである。Siglec-5に特異性をもって相互作用および/または結合する抗体の調製および選択のための方法は、本明細書に記載されている。
【0034】
いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体は、ヒトSiglec-5に結合する。いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体は、ヒトSiglec-5に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体は、Siglec-5に結合するが、Siglec-14には結合しない。いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体は、ヒトSiglec-5に結合するが、ヒトSiglec-14には結合しない。いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体は、ヒトSiglec-5に結合するが、カニクイザルSiglec-5には結合しない。
【0035】
いくつかの態様では、本開示は、例えばインビトロまたはインビボで、試料(例えば、生物学的試料、例えば、血液、血清、精液もしくは尿、または、例えば過剰増殖性もしくはがん性病変からの組織生検)のSiglec-5の存在を検出する方法を提供する。本明細書の方法は、評価するため(例えば、対象における、本明細書中に記載される障害、例えば、免疫障害、がんまたは感染性疾患の処置または進行の監視、診断および/または病期分類)に使用することができる。この方法は、(i)相互作用が生じることを可能にする条件下で、試料(および必要に応じて、参照試料、例えば対照試料)を、本明細書に記載の抗Siglec-5抗体分子と接触させること、または対象に投与すること、および(ii)抗体分子と試料(および必要に応じて、参照試料、例えば対照試料)との間に複合体の形成があるかどうかを検出することを含み得る。複合体の形成は、Siglec-5の存在を示し、本明細書に記載の処置の適合性または必要性を示すことができる。この方法は、例えば、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、抗体分子複合磁気ビーズ、ELISAアッセイ、PCR技術(例えば、RT-PCR)を含むことができる。
【0036】
典型的には、インビボおよびインビトロ診断方法で使用される抗Siglec-5抗体分子は、結合した結合剤または結合していない結合剤の検出を容易にするために、検出可能な物質で直接的または間接的に標識される。適切な検出可能な物質には、様々な生物学的に活性な酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、常磁性(例えば、核磁気共鳴活性)材料、および放射性材料が含まれる。
【0037】
いくつかの態様では、本開示は、本明細書に記載の抗Siglec-5抗体分子および使用についての指示を含む診断キットまたは治療キットを提供する。
【0038】
いくつかの態様では、本開示は、本明細書に記載の処置方法に有用な、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する分子を同定するためのスクリーニング方法を提供する。好ましい実施形態では、スクリーニング方法は、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する小分子を同定する。
【0039】
いくつかの好ましい実施形態では、そのようなスクリーニングアッセイにおいて、第1の結合混合物は、Siglec-5と本発明の抗体とを組み合わせることによって形成され;第1の結合混合物中の結合量(M)が測定される。第2の結合混合物も、Siglec-5、抗体、およびスクリーニングされる化合物または薬剤を組み合わせることによって形成され、第2の結合混合物中の結合量(M)が測定される。試験される化合物は、別の抗Siglec-5抗体または小分子であってもよい。次いで、例えばM/M比を計算することによって、第1および第2の結合混合物中の結合量を比較する。化合物または薬剤は、第1の結合混合物と比較して第2の結合混合物における結合の低減が観察される場合、免疫応答のSiglec-5関連ダウンレギュレーションを調節することができると考えられる。結合混合物の製剤化および最適化は当業者のレベル内であり、そのような結合混合物はまた、結合を増強または最適化するのに必要な緩衝液および塩を含有してもよく、追加の対照アッセイが本発明のスクリーニングアッセイに含まれてもよい。したがって、少なくとも約10%(すなわち、M/M<0.9)、好ましくは約30%超、Siglec-5-抗体結合を減少させることが見出された化合物を同定し、次いで、所望であれば、他のアッセイまたは疾患の関連動物モデルにおいて障害を好転させる(ameliorate)能力について二次スクリーニングしてもよい。Siglec-5と抗体との結合の強さは、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、表面プラズモン共鳴ベースの技術(例えば、Biacore)を用いて測定することができ、これらはすべて当技術分野で周知の技術である。
【0040】
関連する実施形態において、例えばRillahanら、Angew Chem Int Ed Engl.,51(44):11014-11018(2012)の方法に従って、ヒトSiglec-5に対するヒットを同定するためのマイクロアレイ技術と結合させたクリックケミストリーを用いたシアロシドアナログライブラリーのハイスループット合成を用いて小分子候補を生成し、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を阻害する能力についてスクリーニングすることができる。次いで、そのような化合物を、MLRもしくは他のインビトロアッセイまたは疾患(例えば、がん)の関連動物モデルにおいてT細胞を刺激する能力について二次スクリーニングすることができる。
【0041】
さらに他の実施形態では、対象のT細胞応答を低減させる抗Siglec-5抗体を対象に投与することを含む、免疫応答のダウンレギュレーションのための方法が提供される。免疫応答のダウンレギュレーションに有用な抗Siglec-5抗体は、Siglec-5アゴニストとして作用し、免疫応答のSiglec-5媒介性の減弱を増強する特性を有し得る。そのような抗体は、1またはそれを超える炎症促進性サイトカイン(例えば、IFNγ、IL-2、IL-1a、IL-1b、TNF-α、IL-8)の免疫細胞(例えば、T細胞)分泌を減少させること、および/または1またはそれを超えるTh2サイトカイン(例えば、IL-4および/またはIL-10)の分泌を増加させること、および/またはT細胞の増殖を減少させることに対するそれらの効果によって同定することができ、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、1型糖尿病、多発性硬化症、炎症性腸疾患、クローン病、全身性エリテマトーデスおよび喘息)、過剰増殖性免疫障害、組織、皮膚および臓器の移植拒絶ならびに移植片対宿主病(GVHD)を処置および/または予防するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、活性化ヒトT細胞の表面上に発現されたSiglec-5に対する抗Siglec-5モノクローナル抗体(mAb)の結合を示す。
【0043】
図2図2は、mAbの存在下での4日間のPBMC刺激後の活性化T細胞集団に対する抗Siglec-5抗体の効果を示す。データは、単一ドナー(ドナー1)からの2回の技術的反復の平均である。PD-1およびBLは、それぞれPD-1またはSiglec-5受容体に結合するBiolegend(BL)由来のmAbである。IgGは、IgGのみが添加された陰性対照である。細胞数をIgG試料対照に対して正規化した。
【0044】
図3図3は、mAbの存在下での4日間の刺激後のIL-17Aに対する抗Siglec-5抗体の効果を示す。IgGを陰性対照とした。マウス抗PD-1抗体を陽性対照とした。市販の抗Siglec-5抗体(「BL」)も試験に含めた(Biolegend)。データは、単一ドナー(ドナー1)からの2回の技術的反復の平均である。
【0045】
図4図4は、mAbの存在下での4日間のPBMC刺激後のIL-2に対する抗Siglec-5抗体の効果を示す。IgGを陰性対照とした。マウス抗PD-1抗体を陽性対照とした。市販の抗Siglec-5抗体(「BL」)も試験に含めた。データは、単一ドナー(ドナー1)からの2回の技術的反復の平均である。
【0046】
図5図5は、mAbの存在下での4日間のPBMC刺激後のIL-6に対する抗Siglec-5抗体の効果を示す。IgGを陰性対照とした。マウス抗PD-1抗体を陽性対照とした。データは、単一ドナー(ドナー1)からの2回の技術的反復の平均である。
【0047】
図6図6は、黒色腫抗原チロシナーゼに特異的なTCR(1383i)で形質導入された操作されたヒトT細胞を黒色腫MEL624由来抗原で刺激した後のIFN-γ産生に対する抗Siglec-5抗体の効果を示す。マウス抗PD-1免疫チェックポイント阻害剤抗体および可溶性Siglec-5融合タンパク質(Siglec-5 Fc)を陽性対照とした。IgGを陰性対照とした。データは、単一ドナー(ドナー2)からの2回の技術的反復の平均である。
【0048】
図7図7は、黒色腫抗原チロシナーゼに特異的なTCR(1383i)で形質導入された操作されたヒトT細胞を黒色腫MEL624由来抗原で刺激した後のIL-5産生に対する抗Siglec-5抗体の効果を示す。マウス抗PD-1免疫チェックポイント阻害剤抗体および可溶性Siglec-5融合タンパク質(Siglec-5 Fc)を陽性対照とした。IgGを陰性対照とした。データは、単一ドナー(ドナー2)からの2回の技術的反復の平均である。
【0049】
図8図8は、黒色腫抗原チロシナーゼに特異的なTCR(1383i)で形質導入された操作されたヒトT細胞を黒色腫MEL624由来抗原で刺激した後のIL-13産生に対する抗Siglec-5抗体の効果。マウス抗PD-1免疫チェックポイント阻害剤抗体および可溶性Siglec-5融合タンパク質(Siglec-5 Fc)を陽性対照とした。IgGを陰性対照とした。データは、単一ドナー(ドナー2)からの2回の技術的反復の平均である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
詳細な説明
【0051】
定義
本明細書で言及される「抗体」という用語は、抗体全体および任意の抗原結合断片(すなわち、「抗原結合部分」)またはその単鎖を含む。「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互に連結された少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質、またはその抗原結合部分を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVと略す)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3つのドメインからなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVと略す)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCからなる。VおよびV領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分することができる。各VおよびVは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置された3つのCDRおよび4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0052】
本明細書で使用される抗体の「抗原結合部分」(または単に「抗体部分」)という用語は、抗原(例えば、Siglec-5)に特異的に結合する能力を保持する抗体の1またはそれを超える断片を指す。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって行うことができることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片(V、V、CおよびCH1ドメインからなる一価断片);(ii)F(ab’)断片(ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片);(iii)VドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVドメインおよびVドメインからなるFv断片、(v)VドメインからなるdAb断片(Wardら、(1989)Nature 341:544-546);および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメイン(VおよびV)は別個の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を使用して、V領域およびV領域が対になって一価分子(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Birdら(1988)Science 242:423-426;およびHustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照)を形成する単一のタンパク質鎖として作製することを可能にする合成リンカーによって連結され得る。そのような単鎖抗体はまた、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されることが意図されている。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来の技術を使用して得られ、断片は、インタクトな抗体と同じ方法で有用性についてスクリーニングされる。
【0053】
本明細書で使用される場合、「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことを意図している(例えば、Siglec-5に特異的に結合する単離された抗体は、Siglec-5以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかし、Siglec-5に特異的に結合する単離された抗体は、他の種由来のSiglec-5分子などの他の抗原に対して交差反応性を有し得る。さらに、単離された抗体は、他の細胞材料および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0054】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一分子組成物の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す。
【0055】
本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、フレームワーク領域とCDR領域の両方がヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を含むことを意図している。さらに、抗体が定常領域を含有する場合、その定常領域もまた、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異)を含み得る。しかしながら、本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされている抗体を含むことを意図しない。
【0056】
「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、フレームワーク領域とCDR領域の両方がヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する単一の結合特異性を示す抗体を指す。一実施形態では、ヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合したヒト重鎖導入遺伝子および軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物、例えばトランスジェニックマウスから得られたB細胞を含むハイブリドーマによって産生される。
【0057】
本明細書で使用される「組換えヒト抗体」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作成または単離されるすべてのヒト抗体、例えば(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックもしくはトランスクロモソーマル(transchromosomal)である動物(例えば、マウス)またはそれから調製されたハイブリドーマ(以下にさらに記載される)から単離された抗体、(b)ヒト抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えばトランスフェクトーマ(transfectoma)から単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、および(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、作成または単離された抗体を含む。そのような組換えヒト抗体は、フレームワーク領域およびCDR領域がヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する。しかしながら、特定の実施形態では、そのような組換えヒト抗体をインビトロ変異誘発(または、ヒトIg配列についてトランスジェニックな動物を使用する場合、インビボ体細胞変異誘発)に供することができ、したがって、組換え抗体のV領域およびV領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系V配列およびV配列に由来し関連するが、インビボでヒト抗体生殖細胞系レパートリー内に天然に存在し得ない配列である。
【0058】
本明細書で使用される場合、「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgまたはIgG1)を指す。
【0059】
「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」という語句は、本明細書では、「抗原に特異的に結合する抗体」という用語と互換的に使用される。
【0060】
「ヒト化抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされている抗体を指すことを意図する。ヒトフレームワーク配列内で追加のフレームワーク領域改変を行ってもよい。
【0061】
「キメラ抗体」という用語は、可変領域配列が1つの種に由来し、定常領域配列が別の種に由来する抗体、例えば可変領域配列がマウス抗体に由来し、定常領域配列がヒト抗体に由来する抗体を指すことを意図する。
【0062】
本明細書で使用される「ヒトSiglec-5に特異的に結合する」抗体とは、1×10-7Mまたはそれ未満、より好ましくは5×10-8Mまたはそれ未満、より好ましくは1×10-8Mまたはそれ未満、より好ましくは5×10-9Mまたはそれ未満のKでヒトSiglec-5に結合する抗体を指すことを意図する。
【0063】
本明細書で使用される「Kassoc」または「K」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を指すことを意図しており、一方、本明細書で使用される「Kdis」または「K」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すことを意図している。本明細書で使用される「K」という用語は、Kに対するKの比(すなわち、K/K)から得られ、モル濃度(M)として表される解離定数を指すことを意図している。抗体のK値は、当技術分野で十分に確立された方法を使用して決定することができる。抗体のKを決定するための好ましい方法は、表面プラズモン共鳴を使用すること、好ましくはBiacore(登録商標)システムなどのバイオセンサーシステムを使用することによるものである。
【0064】
本明細書で使用される場合、IgG抗体についての「高親和性」という用語は、標的抗原について10-8Mまたはそれ未満、より好ましくは10-9Mまたはそれ未満、さらにより好ましくは10-10Mまたはそれ未満のKを有する抗体を指す。しかしながら、「高親和性」結合は、他の抗体アイソタイプについて異なり得る。例えば、IgMアイソタイプについての「高親和性」結合は、10-7Mまたはそれ未満、より好ましくは10-8Mまたはそれ未満、さらにより好ましくは10-9Mまたはそれ未満のKを有する抗体を指す。
【0065】
本明細書で使用される場合、「干渉RNA」および「干渉RNA分子」という用語は、RISCと相互作用し、遺伝子発現のRISC媒介性変化に関与し、好ましくは、Siglec-5 mRNAなどの特定のメッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳を減少(すなわち、ノックダウン)させることができるすべてのRNAまたはRNA様分子を指す。RISCと相互作用することができる干渉RNA分子の例には、短ヘアピンRNA(shRNA)、一本鎖siRNA、マイクロRNA(miRNA)、ピコRNA(piRNA)、およびダイサー基質27mer二重鎖が含まれる。RISCと相互作用することができる「RNA様」分子の例には、1またはそれを超える化学修飾ヌクレオチド、1またはそれを超える非ヌクレオチド、1またはそれを超えるデオキシリボヌクレオチド、および/または、1またはそれを超える非ホスホジエステル結合を含有する、siRNA、一本鎖siRNA、miRNA、piRNA、非対称siRNA、およびshRNA分子が含まれる。したがって、siRNA、一本鎖siRNA、shRNA、miRNA、piRNA、非対称siRNA、およびダイサー基質27mer二重鎖は、「干渉RNA」または「干渉RNA分子」のサブセットである。
【0066】
本明細書で使用される「siRNA」という用語は、特に明記しない限り、二本鎖干渉RNAを指す。典型的には、本発明の方法で使用されるsiRNAは、各鎖が約19~約28ヌクレオチド(すなわち、約19、20、21、22、23、24、25、26、27または28ヌクレオチド)を有する2つのヌクレオチド鎖を含む二本鎖核酸分子である。典型的には、本発明の方法で使用される干渉RNAは、約19~49ヌクレオチドの長さを有する。二本鎖干渉RNAに言及する場合の「19~49ヌクレオチドの長さ」という語句は、センス鎖およびアンチセンス鎖がリンカー分子によって連結されている干渉RNA分子を含めて、アンチセンス鎖およびセンス鎖が独立して約19~約49ヌクレオチドの長さを有することを意味する。
【0067】
「処置」または「治療」という用語は、状態(例えば、疾患)、状態の症状を治癒する、治す、緩和する、軽減する、変化させる、治療する(remedy)、好転させる、改善する、または影響を及ぼす目的で、または症状、合併症、疾患の生化学的徴候の発生を他の方法で予防するもしくは遅延させる目的で、あるいは統計学的に有意な様式で疾患、状態、または障害のさらなる発症を停止もしくは阻害する目的で、活性剤を投与することを指す。
【0068】
本明細書で使用される場合、2つのアミノ酸配列間の相同性パーセントは、2つの配列間の同一性パーセントと同等である。2つの配列間の同一性パーセントは、2つの配列の最適なアラインメントのために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮した、配列によって共有される同一の位置の数(すなわち、相同性%=同一位置の数/位置の総数×100)の関数である。配列の比較および2つの配列間の同一性パーセントの決定は、以下の非限定的な例に記載されるように、数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。
【0069】
2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、PAM120重み残基表、ギャップ長ペナルティ12およびギャップペナルティ4を使用して、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれたE.Meyers and W.Miller(Comput.Appl.Biosci.,4:11-17(1988))のアルゴリズムを使用して決定することができる。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、および16、14、12、10、8、6、または4のギャップ重みおよび1、2、3、4、5、または6の長さ重みを使用して、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれたNeedleman and Wunsch(J.Mol.Biol.48:444-453(1970))アルゴリズムを使用して決定することができる。
【0070】
追加的または代替的に、本発明のタンパク質配列は、例えば関連配列を同定するために公開データベースに対して検索を実行するための「クエリ配列」としてさらに使用することができる。このような検索は、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403-10のXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて行うことができる。BLASTタンパク質検索は、本発明の抗体分子に相同なアミノ酸配列を得るためにXBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で行うことができる。比較目的のためにギャップのあるアラインメントを得るために、Altschulら(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402に記載されているように、Gapped BLASTを利用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。(www.ncbi.nlm.nih.gov参照)。
【0071】
Siglec-5は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する1型膜貫通タンパク質である。Siglec-5の単一の膜貫通ドメインは、4つの細胞外IG様ドメインを、2つのチロシンに基づく保存されたモチーフを有する89アミノ酸長の細胞質尾部に連結する。ヒトSiglec-5のアミノ酸配列を以下に提供する。
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【0072】
ヒトSiglec-5などのSiglec-5タンパク質は、限定されないが、配列番号1のアミノ酸残基1~16に位置するシグナル配列、配列番号1のアミノ酸残基19~136に位置する細胞外免疫グロブリン様可変型(IgV)ドメイン、配列番号1のアミノ酸残基146~229および236~330に位置する2つのIg様C2型ドメイン、配列番号1のアミノ酸残基442~462に位置する膜貫通ドメイン、配列番号1のアミノ酸残基518~523に位置するITIMモチーフ1、および配列番号1のアミノ酸残基542~547に位置するSLAM様モチーフを含むいくつかのドメインを含有する。当業者には理解されるように、本開示のドメインの開始残基および終了残基は、使用されるコンピュータモデリングプログラムまたはドメインを決定するために使用される方法に応じて異なり得る。
【0073】
本明細書で使用される場合、本開示の「Siglec-5」タンパク質には、哺乳動物Siglec-5タンパク質、ヒトSiglec-5タンパク質、および霊長類Siglec-5タンパク質が含まれるが、これらに限定されない。さらに、本開示の抗Siglec-5抗体は、哺乳動物Siglec-5タンパク質、ヒトSiglec-5タンパク質、および霊長類Siglec-5のうちの1またはそれより多くの中のエピトープに結合し得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗Siglec-5抗体は、ヒトSiglec-5タンパク質に特異的に結合し得る。好ましい実施形態では、抗Siglec-5抗体は、ヒトSiglec-5タンパク質のアミノ酸残基19~136、146~229または236~330内のエピトープに結合する。
【0074】
Siglec-5は、a2,3-およびa2,6連結シアル酸の両方に結合し、より少ない程度で、a2,8連結シアル酸に結合する。bタンパク質(B群連鎖球菌で発現)、HSP70およびPSLG-1を含む、Siglec-5のいくつかのタンパク質リガンドが同定されている。Siglec-5は、本明細書において、活性化T細胞における阻害性受容体として同定されており、Siglec-5と腫瘍細胞上のその同族リガンドとの係合はT細胞特異的抗腫瘍応答を抑制する。したがって、本出願は、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を遮断することによってT細胞疲弊を逆転させる方法を提供する。
【0075】
本出願は、Siglec-5が有意な免疫チェックポイントの性質を有すると同定する。他のSiglecファミリーメンバーも免疫チェックポイントの性質を有し得る。したがって、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を遮断する抗Siglec-5抗体、およびチェックポイント阻害剤としてのこれらの抗体の治療的使用が提供される。いくつかの態様では、抗体は、T細胞疲弊を逆転させ、CAR-T治療の有効性を増加させるために投与される。他の態様では、抗体は、Keytrudaなどの1またはそれを超える他のチェックポイント阻害剤およびPD-1/PDL-1経路を標的とする他の治療と同時投与される。いくつかの態様では、抗Siglec-5抗体と1またはそれを超える他のチェックポイント阻害剤との同時投与は、相乗的な抗腫瘍効果を示す。いくつかの好ましい実施形態では、本明細書に記載の抗Siglec-5抗体は、(i)限定されないが、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、セミプリマブなどのプログラム細胞死受容体-1(PD-1)を標的とするチェックポイント阻害剤;(ii)限定されないが、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブなどのプログラム細胞死リガンド-1(PD-L1)を標的とするチェックポイント阻害剤;(iii)限定されないがイピリムマブなどの細胞傷害性Tリンパ球関連分子4(CTLA-4)を標的とするチェックポイント阻害剤;(iv)リンパ球活性化遺伝子3(CD223としても知られるLAG-3)を標的とするチェックポイント阻害剤;(v)TIM-3を標的とするチェックポイント阻害剤、(vi)B7-H3もしくはB7-H4を標的とするチェックポイント阻害剤、ならびに/または(vii)A2aR、CD73、NKG2Aおよび/もしくはPVRIGPVRL2;および/もしくは他の阻害性免疫機構、例えば、限定されないがCEACAM1、CEACAM5、CEACAM6、FAK、CCL2/CCR2、LIF、CD47SIRPα、CSF-1(M-CSF)、IL-1、IL-1R3(IL-1RAP)、IL-8、セマフォリンSEMA4D、Ang2、EVER-1、Axlおよび/もしくはホスファチジルセリンに作用する経路を標的とするチェックポイント阻害剤と組み合わせて投与される。
【0076】
いくつかの実施形態では、抗Siglec-5抗体分子は、1またはそれを超える追加の免疫チェックポイント阻害剤と同時発生的に、同時に、または逐次的に投与される。同時発生的な投与は、2つの別個の治療剤の投与レジメンが少なくとも1日重複することを意味する。
【0077】
関連する態様では、抗Siglec-5抗体分子は、がんの処置および/または予防のために、MBG453、Sym023および/またはTSR-022を含むがこれらに限定されない抗TIM-3剤と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、抗Siglec-5分子は、抗Tim-3抗体またはその抗原結合断片と組み合わせて投与される。
【0078】
好ましい態様では、抗Siglec-5抗体分子は、がんの処置および/または予防のために抗PD-1剤と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、抗PD-1剤は抗体またはその抗原結合断片であり、その代表的な例としては、セミプリマブ、ニボルマブおよびペンブロリズマブが挙げられる。
【0079】
別の態様では、抗Siglec-5抗体分子は、がんの処置および/または予防のために抗PD-L1剤と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、抗PD-L1剤は抗体またはその抗原結合断片であり、その代表的な例としては、アテゾリズマブ、アベルマブおよびデュルバルマブが挙げられる。
【0080】
別の態様では、抗Siglec-5抗体分子は、がんの処置および/または予防のために抗CTLA-4剤と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、抗CTLA-4剤は抗体またはその抗原結合断片であり、その代表例はイピリムマブである。
【0081】
別の態様では、抗Siglec-5抗体分子は、がんの処置および/または予防のために、LAG525(IMP701)、REGN3767(R3767)、BI 754,091、IMP321またはFS118などの抗LAG-3剤と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、抗Lag3剤は抗体またはその抗原結合断片であり、その代表例はテボテリムマブ(tebotelimab)である。
【0082】
別の態様では、抗Siglec-5抗体分子は、がんの処置および/または予防のために、MGC018またはFPA150などの抗B7-H3または抗B7-H4剤と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、抗B7-H3または抗B7-H4剤は抗体またはその抗原結合断片である。
【0083】
他の実施形態では、抗Siglec-5抗体分子は、共刺激分子の調節因子、例えばアゴニストと組み合わせて投与される。一実施形態では、共刺激分子のアゴニストは、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、またはCD83リガンドのアゴニスト(例えば、アゴニスト抗体もしくはその抗原結合断片、または可溶性融合物)から選択される。
【0084】
好ましい態様では、抗Siglec-5抗体分子は、がんの処置および/または予防のためにOX40アゴニストと組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、OX40アゴニストは抗体またはその抗原結合断片であり、その代表的な例としては、チスレズマブ、HFB301001、YH002、イブクリマブ(ivuxolimab)(PF-04518600)およびINBRX-106が挙げられる。
【0085】
薬物治療のこれらの組み合わせまたはカクテルは、がんの処置および/または予防において相加的または相乗的に作用し得る。
【0086】
Siglec-5および他のSiglec-5ファミリーメンバー(Siglec 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15)は、本明細書ではチェックポイントタンパク質として同定される。したがって、Siglec-5とがん細胞上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を遮断する抗体または他の化合物は、これらの標的のチェックポイント阻害剤として作用する。これらのチェックポイント阻害剤(複数可)は、単独で、または他のチェックポイント阻害剤(複数可)(および他の治療)(抗体治療薬[Keytruda])と組み合わせて投与されて、対象(例えば、哺乳動物)の液体腫瘍(リンパ腫)および固形腫瘍の両方の腫瘍サイズを減少させることができる。これらのチェックポイント阻害剤(複数可)は、液体腫瘍(リンパ腫)または固形腫瘍の処置において、t細胞疲弊を減少および逆転させるために、単独で、または他の治療と組み合わせて投与され得る。これらのチェックポイント阻害剤(複数可)はまた、CAR-T治療におけるT細胞疲弊を減少および逆転させるために、単独で、または他のチェックポイント阻害剤および治療と組み合わせて投与され得る。チェックポイント阻害剤(複数可)は、腫瘍微小環境における免疫系疲弊を逆転させるように作用する。
【0087】
上記の実施形態のいずれかにおいて、本発明の抗体または抗体断片は、約7.5×10 1/M・sまたはそれより速いkassocでヒトSIGLEC5に結合し得る。一実施形態では、抗体または抗体断片は、約1×10 1/M・sまたはそれより速いkassocでヒトSIGLEC5に結合し得る。
【0088】
上記の実施形態のいずれかにおいて、抗体または抗体断片は、約2×10-5 1/sまたはそれより遅いkdissocでヒトSIGLEC5に結合し得る。一実施形態では、抗体または抗体断片は、約2.7×10-5 1/sまたはそれより遅いkdissocでヒトSIGLEC5に結合し得る。一実施形態では、抗体または抗体断片は、約3×10-5 1/sまたはそれより遅いkdissocでヒトSIGLEC5に結合し得る。
【0089】
KD、kassocおよびkdissoc値は、任意の利用可能な方法を用いて測定することができる。好ましい実施形態では、解離定数は、生体光干渉法(例えば、ForteBio Octet法)を用いて測定される。他の好ましい実施形態では、解離定数は、表面プラズモン共鳴(例えば、Biacore)またはKinexaを使用して測定することができる。
【0090】
さらに、上記の実施形態のいずれかにおいて、本発明の抗体または抗体断片は、約1nM以下のIC50でヒトSIGLEC5に対するヒトPSGL1の結合を遮断し得る。リガンド結合の遮断は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば、本明細書中の実施例に記載されるFACSまたはFMAT法を使用して測定することができ、IC50を計算することができる。
【0091】
本発明はまた、ヒトSIGLEC5上の結合エピトープについて上記の抗体のいずれかと競合し、約1nM以下のIC50でヒトPSGL1の結合またはヒトSIGLEC5への結合を遮断する抗体または抗体断片を含む。
【0092】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体または抗体断片は、キメラ抗体またはキメラ抗体の断片である。
【0093】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体または抗体断片は、ヒト抗体またはヒト抗体の断片である。
【0094】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体または抗体断片は、ヒト化抗体またはヒト化抗体の断片である。
【0095】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体断片は、Fab、Fab’、Fab’-SH、Fv、scFv、またはF(ab’)2抗体断片である。
【0096】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体断片はダイアボディ(diabody)である。
【0097】
本発明はまた、ヒトSIGLEC5に結合する上記の抗体または抗体断片のいずれか1つを含む二重特異性抗体を含む。
【0098】
いくつかの実施形態では、本発明の単離された抗SIGLEC5抗体および抗体断片は、当業者に公知の典型的な手段(限定されないが、免疫細胞増殖の増加、サイトカイン分泌の増加、またはCD25および/もしくはCD69などの活性化マーカーの発現を含む)によって測定されるT細胞活性化を増加させる。
【0099】
上記の実施形態のいずれかにおいて、本発明の抗体または抗体断片は、ブドウ球菌エンテロトキシンB(Staphylococcus Enterotoxin B)または破傷風トキソイド(Tetanus Toxoid)によるエクスビボまたはインビボでの刺激後に免疫応答を増強し得る。増加した免疫活性化は、当業者に公知の方法、例えば、免疫細胞(例えば、T細胞)の増殖または免疫細胞によるサイトカイン産生(例えば、T細胞によるIFNγまたはIL-2の産生)を定量することを用いて決定され得る。
【0100】
本発明はまた、免疫細胞を本発明の抗体または抗体断片のいずれか1つと接触させることを含む、免疫細胞の活性を増加させる、またはダウンモジュレーションを減少させる方法を含む。この方法は、がんまたは感染性疾患(慢性ウイルス感染症など)を処置するために使用することができ、または予防用または治療用ワクチンに対するアジュバントとして使用することができる。
【0101】
本発明はまた、抗原に対する免疫応答が増加または増強されるように、免疫細胞を抗原および抗SIGLEC5抗体または抗体断片と接触させることを含む、抗原に対する免疫応答を増加させる方法を含む。この方法は、インビボ(対象において)またはエクスビボで行うことができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片は、第2の治療剤または処置モダリティと組み合わせてもよい。一実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片を、組換えサイトカインまたは分泌された免疫因子の適用を含むがん処置と組み合わせることができる。組み合わせの非限定的な例としては、黒色腫または腎細胞癌の処置のために抗SIGLEC5抗体を組換えIL-2または組換えIFNα2と組み合わせることが挙げられる。組換えIL-2は、がん患者においてT細胞の増殖を増強する。組換えIFNα2は、がん細胞成長を阻害するが、処置患者のがん細胞、抗原提示細胞および他の体細胞上のSIGLEC5に対する阻害性リガンドの発現も増加させる。抗SIGLEC5は、がんまたは感染性疾患の処置に有用であると考えられ得る他のサイトカインと組み合わせることができる。
【0103】
いくつかの実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片をワクチンと組み合わせて、がんまたは感染性疾患を予防または処置することができる。非限定的な例として、抗SIGLEC5は、処置されるがんまたは感染症に関連する1またはそれを超える抗原を含有するタンパク質、ペプチドまたはDNAワクチン、またはそのような抗原でパルスされた樹状細胞を含むワクチンと組み合わせることができる。別の実施形態は、(弱毒化)がん細胞または全ウイルスワクチンとの抗SIGLEC5の使用を含む。一実施形態は、GM-CSFを分泌するように操作された全細胞がんワクチンと抗SIGLEC5治療の組み合わせを含む。
【0104】
いくつかの実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片は、がんまたは感染性疾患における標準ケアと考えられる処置と組み合わせることができる。そのような組み合わせの根拠は、抗SIGLEC5による同時発生的な免疫活性化増加が、標準ケア処置に対する初期臨床応答を誘導または促進し、疾患の永続的な臨床応答および長期免疫制御を誘導することである。
【0105】
一実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片による処置を化学療法と組み合わせてもよい。細胞傷害剤を使用する化学療法は、がん細胞死をもたらし、それによって腫瘍抗原の放出を増加させる。このような腫瘍抗原の利用可能性の増加は、抗SIGLEC5処置との相乗効果をもたらし得る。非限定的な例は、黒色腫の処置のためのダカルバジン(decarbazine)またはテモゾロミドおよび膵臓がんのためのゲムシタビンの使用によって提供される。
【0106】
一実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片による処置を放射線療法と組み合わせてもよい。放射線療法は、がん細胞死を誘導し、免疫細胞の提示および活性化のための腫瘍抗原の利用可能性を増加させる。
【0107】
別の実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片による処置を手術と組み合わせて、対象からがん細胞を除去してもよい。
【0108】
他の実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片は、ホルモン欠乏もしくは血管新生の阻害に使用される標的化された薬剤を含むSIGLEC5遮断、または腫瘍細胞で活性なタンパク質を標的とすることとの相乗効果をもたらし得る治療と組み合わせてもよく、すべて腫瘍細胞死の増強および免疫刺激腫瘍抗原の利用可能性をもたらす。抗SIGLEC5抗体または抗体断片と組み合わせて、T細胞活性化の増加は、がんの永続的な免疫制御をもたらし得る。
【0109】
いくつかの実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片を、がんまたは感染性疾患の処置に有用な別の治療用抗体と組み合わせてもよい。非限定的な例は、抗SIGLEC5と、Her2/neuを標的とする抗体またはEGF受容体を標的とする抗体との組み合わせによって提供される。別の非限定的な例では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片を、VEGFまたはその受容体を標的とする処置と組み合わせる。別の実施形態では、抗SIGLEC5抗体または抗体断片を、抗CTLA-4と組み合わせる。さらに別の非限定的な例では、抗SIGLEC5を、RSVを標的とする抗体と組み合わせる。
【0110】
本発明のモノクローナル抗体(mAb)は、従来のモノクローナル抗体方法論、例えばKohler and Milstein(1975)Nature 256:495の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術を含む様々な技術によって産生され得る。体細胞ハイブリダイゼーション手順が好ましいが、原則として、モノクローナル抗体を産生するための他の技術、例えばBリンパ球のウイルスまたは発がん性形質転換を使用することができる。
【0111】
ハイブリドーマを調製するための好ましい動物系はマウス系である。マウスにおけるハイブリドーマ産生は、非常によく確立された手順である。融合のために免疫化脾細胞を単離するための免疫化プロトコルおよび技術は、当技術分野で公知である。融合パートナー(例えば、マウス骨髄腫細胞)および融合手順も公知である。
【0112】
本発明のキメラ抗体またはヒト化抗体は、上記のように調製されたマウスモノクローナル抗体の配列に基づいて調製することができる。重鎖免疫グロブリンおよび軽鎖免疫グロブリンをコードするDNAは、目的のマウスハイブリドーマから得ることができ、標準的な分子生物学技術を使用して非マウス(例えば、ヒト)免疫グロブリン配列を含有するように操作することができる。例えば、キメラ抗体を作製するために、マウス可変領域を、当該分野で公知の方法(例えば、Cabillyらによる米国特許第4,816,567号を参照)を使用してヒト定常領域に連結することができる。ヒト化抗体を作製するために、マウスCDR領域を、当該分野で公知の方法(例えば、Winterによる米国特許第5,225,539号、ならびにQueenらによる米国特許第5,530,101号;同第5,585,089号;同第5,693,762号および同第6,180,370号を参照)を使用してヒトフレームワークに挿入することができる。
【0113】
いくつかの好ましい実施形態では、抗Siglec-5抗体は、米国特許第7731969号(その全内容が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている方法に従って生成される。特に好ましい実施形態では、抗体は、a)動物をヒトSiglec-5抗原で免疫化することおよび動物から脾細胞を単離すること;b)CD138陽性細胞の単離された脾細胞を枯渇させて、枯渇された免疫化細胞を得ること;c)枯渇された免疫化細胞を活性化剤と接触させて、活性化された抗原特異的Bリンパ球を得ること;d)活性化された抗原特異的Bリンパ球を不死化し、それによって不死化されたヒトSiglec-5特異的形質細胞を産生すること;およびe)不死化されたSiglec-5特異的形質細胞を増殖させて、Siglec-5に特異的に結合する抗体を得ること、を含む方法に従って生成される。
【0114】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗Siglec-5抗体をコードする核酸分子が提供される。核酸は、全細胞、細胞溶解物、または部分的に精製された形態もしくは実質的に純粋な形態で存在し得る。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野で周知の他のものを含む標準的な技術によって、他の細胞成分または他の汚染物質、例えば他の細胞核酸またはタンパク質から精製されると、「単離される」または「実質的に純粋になる」。F.Ausubelら、ed.(1987)Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New Yorkを参照されたい。本発明の核酸は、例えば、DNAまたはRNAであることができ、イントロン配列を含有しても含有しなくてもよい。好ましい実施形態では、核酸はcDNA分子である。
【0115】
本発明の核酸は、標準的な分子生物学技術を用いて得ることができる。ハイブリドーマによって発現される抗体(例えば、下記にさらに記載されるようなヒト免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニックマウスから調製されるハイブリドーマ)の場合、ハイブリドーマによって作製された抗体の軽鎖および重鎖をコードするcDNAは、標準的なPCR増幅またはcDNAクローニング技術によって得ることができる。免疫グロブリン遺伝子ライブラリー(例えば、ファージディスプレイ技術の使用)から得られた抗体については、抗体をコードする核酸をライブラリーから回収することができる。
【0116】
本発明のいくつかの実施形態は、以下の項目1~に例示される。
1.がん細胞に影響を及ぼすために、Siglecを使用して免疫調節する方法。
2.インビトロで免疫細胞に影響を及ぼすために、Siglecを使用して免疫調節する方法。
3.生物においてインビボで免疫細胞に影響を及ぼすために、Siglecを使用して免疫調節する方法。
4.T細胞に影響を及ぼすために、Siglecを使用して免疫調節する方法。
5.T細胞もしくはNK(ナチュラルキラー)細胞または他の免疫細胞型において発現されるCAR-T細胞(キメラ抗原受容体)からなる群より選択される免疫細胞に影響を及ぼすために、Siglecを使用して免疫調節する方法。
6.インビトロでがん細胞に影響を及ぼすために、Siglecを使用して免疫調節する方法。
7.インビトロでがん細胞に影響を及ぼし、それらを死滅させるために、Siglecを使用して免疫調節する方法。
8.生物においてインビボでがん細胞に影響を及ぼすために、Siglecを使用して免疫調節する方法。
9.生物においてインビボでがん細胞を死滅させることによってがん細胞に影響を及ぼすために、Siglecを使用して免疫調節する方法。
10.Siglecファミリーメンバー(受容体)およびそれらのリガンドの両方を使用して免疫調節する方法。
11.受容体のSiglecファミリーの個々の受容体およびそれらのリガンドを調節することができる組成物であって、Siglecファミリーのメンバーに結合する抗体を含む、組成物。
12.受容体のSiglecファミリーの個々の受容体およびそれらのリガンドを調節することができる組成物であって、Siglec-5およびSiglec-14の少なくとも1つに結合する抗体を含む、組成物。
13.前述の組成物のいずれかを使用することによって個体を処置する方法。
14.免疫系の疾患を処置するために前述の組成物のいずれかを使用することによって個体を処置する方法。
15.がんを処置するために前述の組成物のいずれかを使用することによって個体を処置する方法。
16.組成物を少なくとも1つの他の薬物と組み合わせることによって、前述の組成物のいずれかを使用して個体を処置する方法。
17.少なくとも1つの他の薬物が少なくとも1つのチェックポイント阻害剤である、項目16の方法。
18.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、プログラム細胞死受容体-1(PD-1)を標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
19.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、およびセミプリマブからなる群より選択される、項目17に記載の方法。
20.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、チェックポイント阻害剤プログラム細胞死リガンド-1(PD-L1)である、項目17に記載の方法。
21.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、アテゾリズマブ、アベルマブ、およびデュルバルマブからなる群より選択される、項目17の方法。
22.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、細胞傷害性Tリンパ球関連分子4(CTLA-4)を標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
23.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤がイピリムマブである、項目17の方法。
24.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、リンパ球活性化遺伝子3(CD223としても知られるLAG-3)を標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
25.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、TIM3を標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
26.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、B7-H3を標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
27.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、B7-H4を標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
28.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、A2aRを標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
29.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、CD73を標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
30.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、NKG2Aを標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
31.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、PVRIGPVRL2を標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17に記載の方法。
32.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、他の阻害性免疫機構に作用する経路を標的とするチェックポイント阻害剤である、項目17の方法。
33.少なくとも1つのチェックポイント阻害剤が、CEACAM1、CEACAM5、CEACAM6、FAK、CCL2/CCR2、LIF、CD47SIRPα、CSF-1(M-CSF)、IL-1、IL-1R3(IL-1RAP)、IL-8、セマフォリンSEMA4D、Ang2、EVER-1、Axlおよびホスファチジルセリンからなる群より選択される、項目17に記載の方法。
34.CAR-Tと組み合わせて前述の組成物のいずれかを使用することによって個体を処置する方法。
35.CAR-Tおよび少なくとも1つのチェックポイント阻害剤と組み合わせて前述の組成物のいずれかを使用することによって個体を処置する方法。
36.固形腫瘍におけるCAR-T処置と組み合わせて前述の組成物のいずれかを使用することによって個体を処置する方法。
【実施例
【0117】
実施例1-抗Siglec-5抗体の生成
免疫化
【0118】
例示的な免疫化プロトコルを以下に示す:
【表1】
【0119】
ヒトSiglec-5に対する抗体を、米国特許第7731969号(その全内容が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている方法に従って生成した。
【0120】
30~50日齢の雌BALB/cマウス5匹に、0、14、21、28、35、42、43、および44日目に、ヒトSiglec-5抗原(カタログ番号SI5-H5250 ACROBiosystems Inc.)または内部で生成した可溶性Siglec-5を腹腔内注射し、抗原をマウスあたり100マイクログラムのタンパク質抗原(マウスあたり総体積100マイクログラム/マイクロリットル)でミョウバンアジュバント中で混合した。全てのマウスに、43、44、および45日目に尾静脈による最終静脈内ブーストを与えた。あるいは、マウスを休ませ、57、58、および59日目に最終ブーストを受けることができる。それぞれ46日目または60日目に、マウスを融合のために安楽死させた。脾臓を採取し、脾臓からリンパ球を単離した。
【0121】
一般に、組換えSiglec-5タンパク質は、一次マウス免疫化のための標準抗原として使用することができ、各位置に50%のタンパク質を注射する腹腔内注射および皮下注射によってマウスをSiglec-5で免疫化することができる。フロイントまたはミョウバンなどのアジュバントが使用される。ミョウバンは、Siglec-5で免疫化する場合にのみ使用した。
【0122】
脾臓回収および単一細胞懸濁物
【0123】
免疫化マウスからの脾臓を、3回の最終ブーストの最後の1日後に採取した。脾臓あたり20mLの培地で脾臓を灌流することによって、単一細胞懸濁物を作製した。赤血球を、Red Blood Cell Lysing Buffer(Sigma,St.Louis,Mo.)を使用して溶解した後、適切な細胞培地に再懸濁した。
【0124】
細胞計数
【0125】
脾細胞単離、細胞選別、発生後の細胞回収および生存度を、自動化ViCe11.TM.XR Cell Viability Analyzerシステム(Beckman Coulter,Inc.,Fullerton,Calif.)を用いて評価した。
【0126】
融合
【0127】
リンパ球を、5匹のマウスの脾臓から単一細胞懸濁物として単離し、次いで、ポリエチレングリコール(50% PEG(Sigma、#P-7181)の存在下でマウスSP2/0骨髄腫細胞と融合した。融合細胞を、アザセリン(Sigma、#A1164-0.5MG)培地選択を使用して培養した。すべての培養ウェルは、50,000個のフィーダー細胞を含有していた。フィーダー細胞は、ナイーブマウスの脾臓から単一細胞懸濁物を作製することによって作製した。融合の14日後、1920ウェルを抗原特異的応答について試験した。
【0128】
ハイブリドーマ溶液:
【0129】
ハイブリドーマ溶液は、95~100%エタノール、70%エタノール噴霧ボトル、50% PEG(Sigma、#P-7181)、マスターOPI-HTハイブリドーマ増殖培地、HBSS(1×)、[滅菌1×PBSを代用品として使用することができる]アザセリン(50×)[Sigma、#A1164-0.5MGまたはFisher ICN15480510]を含んでいた。
【0130】
OPI-HTハイブリドーマ増殖培地
【0131】
OPI-HTハイブリドーマ増殖培地は以下を含んでいた:600mlのDMEM、高グルコース(4500mg/L);20mlの50×HTサプリメント;10mlの100×OPIサプリメント;10mlのL.グルタミン;200ml(標準=特徴付けられた、規定済み=マスター)の熱不活性化FBS;200mlのSP2/0馴化培地;10mlのペニシリン/ストレプトマイシン(100×);1mlのアムホテリシンB(250ug/mlストック);5ulのβ-メルカプトエタノール(換気フード中で98%純粋);培地全体を0.2μmボトルトップフィルタで滅菌1Lボトルに濾過滅菌する。
【0132】
実施例2-抗Siglec-5抗体の特徴付け
(実施例1で生成された)Siglec-5に対するモノクローナル抗体(mAb)を試験して、それらが細胞表面ヒトSiglec-5を認識するかどうか、およびそれらがT細胞抗原応答を調節するかどうかを決定した。
【0133】
第1のELISA
【0134】
1920個のハイブリドーマからの組織培養上清をSiglec-5(カタログ番号SI5-H5250 ACROBiosystems Inc.)に対するELISAによってスクリーニングし、HRP標識ヤギ抗マウスIgG二次抗体でプローブした。TMB(T5569-100ml)を反応に使用して陽性を可視化した。H2SO4または硫酸を使用して反応を停止させた。このアッセイにおける0.3ODを超える陽性ハイブリドーマクローンは、次の発生レベルまで継続し、サブクローニングされた。
【0135】
陽性ハイブリドーマの24ウェルプレート培養
【0136】
陽性細胞株は、元の96ウェル融合プレートから移した後、24ウェル培養プレートで培養中で維持した。24ウェルプレートを2週間成長させ、その後、ハイブリドーマのサブクローニングを行った。1チューブの細胞を、融合産物を含有する各ウェルから凍結し、これを24ウェルフォーマットに進めた。「ニッケルウェル」増殖期間中、2本の追加のチューブの細胞を凍結した。サブクローニング、安定化、およびサブクローニング後の2本のチューブのうちの1本の検証の後、チューブのマスターバンクが作られ、マスターバンクのチューブのうちの1本から、ハイブリドーマの10本またはそれを超えるワーキングバンクチューブが凍結される。一般に、3回のサブクローニングが、初期段階のハイブリドーマを産生培地において安定なフォーマットにするために必要であった。
【0137】
ハイブリドーマ細胞の凍結
【0138】
特定のクローンの喪失を制限するために、ハイブリドーマを初期段階または「バルク」段階で細胞凍結培地(20% DMSO)中で凍結した。この手順は、最初に24ウェルプレートで拡大させたこの初期段階の「バルク」および中期段階の「モノ」ハイブリドーマでハイブリドーマ細胞株を凍結させる。この凍結技術には細胞計数は必要ない。
【0139】
ハイブリドーマのサブクローニング
【0140】
上位のハイブリドーマ細胞株(クローン)をサブクローニングして、単クローン性を確実にした。サブクローニングを、本発明者らのサブクローニング法を使用して親クローンを再度プレーティングすることによって行った。その方法は、96ウェルプレートにおいてウェルあたり50,000個のフィーダー細胞を必要とする。フィーダー細胞は、マウス脾細胞の単一細胞懸濁物であった。特定のクローン由来の細胞を、96ウェルプレートの左端の8つのウェルに滴下した。左側の8つのウェルでは、上部のウェルが6~8の最大数の液滴を受け、最後のウェルが目的のクローンからの細胞の1滴を受けた。クローンがおよそ6~10日間成長するにつれて、96ウェルプレートは、プレートの左上がバルク領域であり、右下がモノクローナル領域であるものを発達させた。ELISAによるスクリーニング後、プレートのモノクローナル領域から最低2つのサブクローンを採取した。上位2つのクローンの両方を培養で拡大させた。
【0141】
抗原(Siglec-5)特異的ELISA
【0142】
Ag特異的ELISAのために、500ng/ウェル抗原(Siglec-5:カタログ番号SI5-H5250 ACROBiosystems Inc.)を96ウェルプレートにコーティングした。96ウェルの各々からの25ulの培地をコーティングしたプレート上でインキュベートし、次いで、PBS中の0.05% Tween(登録商標)-20(PBSST)で洗浄した。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートした二次ヤギ抗マウス「二次抗体」を、Siglec-5の検出に使用した。洗浄後、TMB(テトラメチルベンジジン)を用いてシグナルを検出し、1N HSO停止溶液を添加することによって反応を停止させ、Molecular Devices(Sunnyvale,Calif.)製のELISAプレートリーダーで450nmで読み取った。
【0143】
活性化T細胞フローサイトメトリー上に存在するSiglec-5
【0144】
細胞のアリコートを使用して、表面Siglec 5染色を評価した(図1)。このアッセイのために、細胞を抗Siglec 5 Ab(1μg/mlで使用)で30分間染色し、洗浄し、次いでヤギ抗マウスIgG-FITC Abで再染色した。マウスIgG染色を陰性対照として使用した。陽性対照として、BiolegendモノクローナルAbを使用した(BLとして示す)。Biolegend抗体を対照として使用すると、抗体は活性化CD4およびCD8 T細胞集団の両方に直接結合することが分かる。2つの代表的なクローン(クローン5および20)のみを図1に示す。他の全てのクローンは、これらの細胞を同様のレベルで染色した。
【0145】
抗Siglec-5抗体の存在下での活性化T細胞成長
【0146】
活性化T細胞の集団を調製するために、ヒト末梢血由来(健常成人ドナー由来)の単核細胞(PBMC)をFicoll勾配によって精製した。この調製物は、T細胞、B細胞および骨髄細胞(主に単球)を含む。細胞(5×10細胞/ml)を、ヒトIL-2(10ng/ml)を含有する培地中で抗ヒトCD3および抗ヒトCD28(50μg/ml)でコーティングしたポリスチレンビーズと混合した。3日間の培養後、細胞を回収した。
【0147】
次いで、活性化細胞を機能アッセイのために二次培養に入れた。ここでは、細胞を、可溶性抗CD28と共に(IL-2を添加しなかった)プレートコーティング抗CD3および抗Siglec5 mAb(モノクローナル抗体)で再刺激した。このアッセイからの培養上清を、マルチプレックスサイトカインアッセイのための1日および4日間の培養後に回収した。4日間の培養後、細胞を回収し、各mAb処理試料について全生細胞数を決定した。ここでは、BioLegend製の抗Siglec-5および抗PD1 mAbを単独または組み合わせて参照点として使用し、マウスIgGをSiglec-5 mAbの陰性対照として使用した。
【0148】
表面染色とは対照的に、細胞成長分析は、これらのクローン間の差を示した(図2)。ヒトSiglec-5への結合について陽性であった抗体を、活性化T細胞に結合する能力、および活性化T細胞集団を拡大もしくは増殖させる能力、または活性化T細胞集団の増殖を収縮もしくは低減させる能力について試験した。図2のデータは、マウスIgG対照と比較した、抗Siglec5 Abの存在下で4日間刺激した後の生細胞数のパーセント差を示す。2つのクローンは、IgG対照と比較して生細胞数の10%を超える増加を示した。他の3つのクローンは軽度の増加を示した。5つのクローンは、細胞数の10%を超える減少を示した。20個のモノクローナル抗体クローンの最初のセットでは、2つのクローン(クローン#5、#6)が、CD4陽性およびCD8陽性の両方の活性化T細胞上に存在するSiglec-5に作用することによって、活性化T細胞成長を促進した(図2)。
【0149】
データは、全てのクローンが表面発現ヒトSiglec5を認識できることを示す。データはまた、活性化T細胞上に発現されたSiglec-5に結合する抗体を、T細胞応答を調節する能力についてスクリーニングすることによって、Siglec-5アゴニスト(例えば、自己免疫障害の処置に有用である)または免疫チェックポイント阻害剤(例えば、がんの処置に有用である)として同定できることを実証している。
【0150】
実施例3-フローサイトメトリー-Siglec-5サイトカインプロファイルおよびT細胞活性化
PBMC由来の活性化ヒトT細胞の集団を上記のように調製した。活性化後、細胞を機能アッセイのために二次培養に入れた。ここでは、細胞を、可溶性抗CD28と共に(IL-2を添加しなかった)プレートコーティング抗CD3および抗Siglec5 mAb(モノクローナル抗体)で再刺激した。このアッセイからの培養上清を、マルチプレックスサイトカインアッセイのための4日間の培養後に回収した。4日間の培養後、細胞を回収し、培養上清のサイトカインプロファイルを各mAb処理試料について決定した。IL-17-A、IL-2およびIL-6サイトカインプロファイルを図3~5に示す。ここでは、BioLegend製の抗Siglec-5および抗PD1 mAbをそれぞれ単一または混合物として参照点として使用し、マウスIgGをSiglec5 mAb(モノクローナル抗体)の陰性対照として使用した。
【0151】
培養上清からのT細胞活性化中のアッセイされたサイトカインプロファイルは、IL-2、IL-17 AおよびIL-6産生の強い阻害を示した(図3図5、クローン8、11および16)。対照的に、2つのクローン(クローン1および18)は、IL-2およびIL-17a産生を実質的に増強した(図3および図4)。抗PD1 mAb(モノクローナルマウス免疫チェックポイント阻害剤抗体)は、IL-2およびIL-17Aを増強し、その効果はクローン1と抗PD1抗体との間で同等であった。アッセイで利用されたmAbクローンに応じて、T細胞活性化の低減およびT細胞活性化の増加の両方が観察され、抗Siglec-5抗体がT細胞応答を調節することができることを示した。
【0152】
実施例4-ヒト1383i TCR T細胞の抗原特異的活性化
活性化ヒト1383i TCR+T細胞(黒色腫抗原チロシナーゼに特異的なTCR(1383i)で形質導入された操作されたヒトT細胞)上のSiglec-5と、黒色腫細胞(MEL624細胞)上に発現されたSiglec-5リガンドとの間の相互作用を遮断することによって、免疫チェックポイント阻害剤として作用する抗Siglec-5 mAbの能力を評価した。
【0153】
ヒト1383i TCR+T細胞を、Nishimura MI,et al.,Cancer Res.1999;59:6230-8に記載のとおりに生成した。1383i TCR+T細胞を刺激するために、T細胞を黒色腫細胞株MEL624と10:1の比(1383i T細胞:MEL624)で共培養した。この培養物に、精製抗siglec-5 mAB(前の実施例に記載)を0日目から添加した(5μg/ml)。抗Siglec-5 mAbの添加の60時間後に培養上清を回収し、フローサイトメトリーベースのサイトカインアッセイ(BiolegendのLEGENDplex)によって分析した。
【0154】
黒色腫刺激1383i TCR T細胞からの上清の分析は、いくつかのmAbクローンで処理したT細胞によるIFNガンマ(図6)、IL-5(図7)およびIL-13(図8)発現の抗Siglec-5 mAb媒介性増加を示した(クローン8および4は特に強い応答を媒介した)。興味深いことに、陽性対照(Biolegendマウス抗PD-1免疫チェックポイント阻害剤抗体(カタログ番号329902、PD-1リガンド結合を遮断する能力が実証されている)およびFc断片に融合したsiglec-5の可溶性部分を含む可溶性siglec-5は、このアッセイにおいてわずかなT細胞応答しかもたらさなかった(図6~8、「PD1 C+」および「Siglec5 Fc C+」)。注目すべきことに、このアッセイでは、MEL624は、試験されたいかなる検出可能なレベルのサイトカインも産生しない。本明細書に記載の抗Siglec-5 mAbとは全く対照的に、Biolegend抗Siglec-5 mAbは、T細胞刺激に対して有意な観察可能な効果を何ら有さなかった(図6~8)。
【0155】
データは、抗Siglec-5 mAbのいくつかが、黒色腫細胞の表面上のそのリガンドによるSiglec-5チェックポイントタンパク質の係合から生じるT細胞疲弊を逆転させることを実証している。興味深いことに、これらの抗Siglec-5 mAbは、マウス抗ヒトPD-1免疫チェックポイント阻害剤(陽性対照)および可溶性Siglec-5(陽性対照)よりも有意に強いT細胞応答を生じた。より長い刺激時間を用いる抗Siglec-5 mAbによって、さらに大きなT細胞応答が予想されるであろう。
【0156】
実施例5-Siglec-5の発現サイレンシングにおける低分子干渉リボ核酸分子の使用
ヒトSiglec-5 mRNAの領域に相補的な約15~25ヌクレオチド長の短い干渉RNA(shRNA)のアレイを設計する。shRNAはSiglec-5 mRNAに結合し、ダイサー酵素(二本鎖リボヌクレアーゼ)の存在下で「RISC複合体」(RNA干渉サイレンシング複合体)を形成し、これがmRNAを切断してそれを翻訳不能にし、したがって遺伝子の発現をサイレンシングする。
【0157】
shRNAを、ヒトSiglec-5を発現する1またはそれを超える標的細胞に導入し、抗体ベースの検出アッセイ(酵素結合免疫吸着アッセイ[ELISA])などを用いて、shRNAがSiglec-5の発現を減少させる(またはノックダウンする)能力を評価する。好ましくは、shRNAは、shRNAの逐次的なインビトロ発現のためのプロモーター(例えばバクテリオファージT7 RNAポリメラーゼプロモーター)の制御下にあるようにプラスミド内に含有される。あるいは、shRNAは、エレクトロポレーションまたはウイルス媒介性ウイルス形質導入によって標的細胞に導入される。
【0158】
Siglec-5発現の低減をもたらし、それによってSiglec-5と1またはそれを超えるがん細胞上のそのリガンドとの相互作用を妨げるshRNAが同定される。これらのshRNAを、1またはそれを超えるがん細胞においてインビトロで、および/またはインビボで(1またはそれを超える適切な動物がんモデルにおいて)、抗がん活性について評価する。好ましくは、shRNAは、ヒトSiglec-5のノックダウンを増強する足場(例えば、mir-30骨格)内に含有される。
【0159】
細胞RNA転写機構によって認識される発現プロモーターと共にshRNAの配列を含有する複製プラスミド(複数可)を使用して、標的細胞内にsiRNAを長期的に生成する。標的細胞/組織によるSiglec-5発現のモニタリングを、上記と同じELISAアッセイによってモニターする。あるいは、Siglec-5発現のノックダウンは、shRNAについて記載したのと同じ機構に従う長い二本鎖RNA(長いdsRNA)を使用して達成される。
【0160】
実施例6-PD-1およびSiglec-5遮断の協調的抗腫瘍効果。
Siglec-5は、活性化T細胞上のPD-1と同時に共発現される(データは示さず)。活性化T細胞上のSiglec-5とがん細胞上のその同族受容体との相互作用を阻害する化合物およびPD-1阻害剤の同時投与は、複数のシグナル伝達経路を阻害することによって相乗的な抗腫瘍効果を提供する。
【0161】
がんに対する相乗効果は、本明細書に記載の抗Siglec-5抗体と抗PD-1 ICI抗体の組み合わせをがんのモデルマウスに投与し、この組み合わせで観察された抗腫瘍効果を、抗Siglec-5抗体または抗PD-1抗体を単独で投与した同じがんモデルの年齢が一致したマウスで観察された抗腫瘍効果と比較することによって実証される。相乗(すなわち、相加より大きい)効果が実証される。
図1
図2
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図7
図8
【配列表】
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【国際調査報告】