(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】がんを治療する方法及びその医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240927BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240927BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240927BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240927BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20240927BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20240927BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20240927BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240927BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240927BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240927BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20240927BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240927BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20240927BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20240927BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20240927BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240927BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240927BHJP
C07K 16/24 20060101ALN20240927BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240927BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240927BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P35/00
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P3/00
A61P43/00 105
A61K31/506
A61K31/337
A61K31/282
A61P43/00 121
A61K33/243
A61K31/519
A61P11/00
A61P1/02
A61P11/02
A61P11/04
A61P1/04
A61P5/14
A61P13/10
A61P17/00
A61P15/00
A61P13/08
A61P1/18
A61P13/12
C07K16/24 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519838
(86)(22)【出願日】2022-10-03
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 US2022077490
(87)【国際公開番号】W WO2023056485
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517218697
【氏名又は名称】システィミューン, インク.
【氏名又は名称原語表記】SYSTIMMUNE, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】シャオ, サ
(72)【発明者】
【氏名】ディン, ムラン
(72)【発明者】
【氏名】ツァン, ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ツオ, シー
(72)【発明者】
【氏名】マック, ガー シー アマンダ
(72)【発明者】
【氏名】ハリ, ジャハン
(72)【発明者】
【氏名】ツー, ハイ
(72)【発明者】
【氏名】ツー, イ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA341
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA671
4C084ZA811
4C084ZA891
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB351
4C084ZC061
4C084ZC201
4C084ZC211
4C084ZC751
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE03
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086BC42
4C086CB05
4C086GA07
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4C086HA28
4C086MA02
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4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA34
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA67
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC06
4C086ZC20
4C086ZC21
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB16
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA86
4C206NA05
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4C206ZB21
4C206ZB26
4C206ZC06
4C206ZC75
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
EGFR及びHER3に対する結合特異性を有する二重特異性抗体及び治療薬剤を対象に投与することを含む、対象のがんを治療する方法であって、治療薬剤が、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、アルキル化剤、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、抗悪性腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、化学保護剤、又はそれらの組み合わせを含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFR及びHER3に対する結合特異性を有する二重特異性抗体及び治療薬剤を対象に投与することを含む、対象のがんを治療する方法であって、前記治療薬剤は、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、アルキル化剤、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、抗悪性腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、化学保護剤、又はそれらの組み合わせを含む、方法。
【請求項2】
前記二重特異性抗体は、配列番号1の3つの相補性決定領域(CDR)、配列番号2の3つのCDR、又は配列番号4の3つのCDRを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二重特異性抗体は、配列番号1に対して少なくとも98%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)、配列番号2に対して少なくとも98%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する重鎖scFvドメイン、及び配列番号4に対して少なくとも98%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記二重特異性抗体は、重鎖及び軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号3に対して少なくとも98%の配列同一性を持つアミノ酸配列を含み、及び、前記軽鎖は配列番号5に対して少なくとも98%の配列同一性を持つアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記治療薬剤は、オシメルチニブ、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン、カルボプラチン、ペメトレキセド、シスプラチン、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記二重特異性抗体及び前記治療薬剤は、1回の治療セッションとして同時又は順次に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記二重特異性抗体及び前記治療薬剤は、交互の治療セッションにおいて対象に別々に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記二重特異性抗体は、第1治療セッションで投与され、前記治療薬剤は第2治療セッションで投与され、前記抗体は1週間に1回(Q1W)、2週間に1回(Q2W)、3週間に1回(Q3W)、又は3週間毎に、1週間に1回を2週間投与され(D1D8、Q3W)、及び前記抗体は固定用量、mg/kg用量、又はmg/m
2用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1治療セッションの期間は、約7日から約728日である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2治療セッションの期間は、約1日から約728日である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1治療セッション及び前記第2治療セッションの間の間隔は、約7日から約21日である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記二重特異性抗体は、少なくとも約0.3 mg/kg、約1.2 mg/kg、約3.0 mg/kg、約6.0 mg/kg、約9.0 mg/kg、約12.0 mg/kg、約14.0 mg/kg、約16.0 mg/kg、及び約21.0 mg/kg又は約28.0 mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記治療薬剤は、約6.0 mg/kgから約28.0 mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イコチニブ、AZD3759、サパチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、デラチニブ、ポジオチニブ、タルロックス-TKI、オシメルチニブ、ナザルチニブ、オルムチニブ、ロシレチニブ、ナコチニブ、ラゼルチニブ、EAI045、CLN081、AZ5104、モボセルチニブ、その誘導体又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記アルキル化剤は、ブスルファン、シクロホスファミド、テモゾロミド、カルボプラチン、シスプラチン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記代謝拮抗薬は、6-メルカプトプリン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、シタラビン、ペメトレキセド、メトトレキセート、その誘導体又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記微小管阻害薬は、ドセタキセル、エリブリン、イクサベピロン、パクリタキセル、ビンブラスチン、その誘導体、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記抗悪性腫瘍性抗生物質は、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、その誘導体、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記トポイソメラーゼ阻害剤は、エトポシド、イリノテカン、トポテカン、その誘導体又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記化学保護剤は、ロイコボリン又はその誘導体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記治療薬剤はオシメルチニブを含み、及び前記オシメルチニブは少なくとも約40 mg/kg、約80 mg/kg、約120 mg/kg、又は約160 mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記治療薬剤は、カルボプラチンを含み、及びカルボプラチンは、少なくとも約200 mg/m
2、約250 mg/m
2、約300 mg/m
2、約360 mg/m
2、約400 mg/m
2、AUC 約5 mg/ml/分、AUC 約6 mg/ml/分、又は約7 mg/ml/分の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記治療薬剤はシスプラチンを含み、及びシスプラチンは少なくとも約15 mg/m
2、約20 mg/m
2、約30 mg/m
2、約50 mg/m
2、約75 mg/m
2、約100 mg/m
2、又は約120 mg/m
2の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記治療薬剤はペメトレキセドを含み、及びペメトレキセドは少なくとも約250 mg/m
2、約500 mg/m
2、又は約750 mg/m
2の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記治療薬剤はパクリタキセルを含み、及びパクリタキセルは少なくとも約40 mg/m
2、約80 mg/m
2、約135 mg/m
2、又は約175 mg/m
2の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記治療薬剤はドセタキセルを含み、及びドセタキセルは少なくとも約35 mg/m
2 D1D8Q3Wの用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記二重特異性抗体及び前記治療薬剤は、同時に及び順次に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記二重特異性抗体は、前記治療薬剤とは別の時点で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記がんは、EGFR発現検査で陽性となる固形腫瘍を含み、及び肺腺がん、頭頸部扁平上皮がん、直腸がん、結腸がん、肺扁平上皮がん、甲状腺がん、膀胱がん、黒色腫、子宮頸がん、前立腺がん、乳がん、子宮/子宮内膜がん、膵臓がん、卵巣がん、及び乳頭状腎がん、からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
EGFR及びHER3に対する結合特異性を有する二重特異性抗体及び治療薬剤の組合せを含む治療用組成物であって、前記治療薬剤は、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、アルキル化剤、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、抗悪性腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、化学保護剤、又はそれらの組合せを含む、治療用組成物。
【請求項31】
前記二重特異性抗体は、配列番号1の3つの相補性決定領域(CDR)、配列番号2の3つのCDR、又は配列番号4の3つのCDRを含み、前記治療薬剤は、オシメルチニブ、カルボプラチン、シスプラチン、ペメトレキセド、パクリタキセル、その誘導体、又はそれらの組み合わせを含む、請求項30に記載の治療用組成物。
【請求項32】
前記二重特異性抗体及び前記治療薬剤は、同時に、順次に、又は併行して投与される医薬製剤の形態である、請求項30に記載の治療組成物。
【請求項33】
第1容器、第2容器及び添付文書を含むキットであって、
前記第1容器は、EGFR及びHER3に対する結合特異性を有する二重特異性抗体を含む第1治療用組成物の少なくとも1用量を含み、前記第2容器は、治療薬剤を含む第2治療用組成物の少なくとも1用量を含み、及び、前記添付文書は、前記第1及び第2治療用組成物を用いて対象のがんを治療するための指示を含み、及び前記治療薬剤は、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、アルキル化剤、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、抗悪性腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、化学保護剤、又はそれらの組み合わせを含む、キット。
【請求項34】
前記指示は、前記第1及び第2治療用組成物が、EGFR発現検査で陽性となるがんを有する対象を治療するための使用を意図していることを述べる、請求項33に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、35 U.S.C. 119(e)に基づき、2021年10月3日に出願された米国仮出願Ser.No.63/251,664の出願日の利益を主張するものであり、その全開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、がんの治療に有用な併用療法に関する。特に、本出願は、ヒトEGFR及びHER3に特異的に結合する二重特異性抗体、ならびにチロシンキナーゼ阻害剤を含む化学療法剤を含む併用療法に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書に別段の記載がない限り、本項に記載された物質は本出願の特許請求の範囲に対する先行技術ではなく、本項に含まれることによって先行技術であることを認めるものではない。
【0004】
ヒト上皮成長因子受容体ファミリーは4つの受容体チロシンキナーゼ(EGFR/HER1、HER2、HER3、及びHER4)を含有している。EGFRは、遺伝子発現、細胞増殖、接着、血管新生、アポトーシス、及び腫瘍転移におけるその役割について広く研究されている。EGFRは頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)の90%超で過剰発現している。非小細胞肺がん(NSCLC)では高レベルのEGFR変異が認められる。EGFR及びHER3の両方が様々な腫瘍において頻繁に発現上昇及び/又は変異しているが、HER3はEGFR、HER3及びHER2のキナーゼドメインによって形成されるヘテロ二量体複合体に寄与するEGFRファミリーの触媒作用を損なわれた一員である。がんに関連したHER3変異は、二量体形成面における局所的相互作用を再利用することにより、HER3のアロステリック活性化剤機能を増強する。
【0005】
HNSCC患者の場合、シスプラチンベースの化学療法を併用した術後放射線療法などの標準治療は、局所制御及び無病生存率を改善する。しかし、全生存率は約50%にとどまっている。
【0006】
ヒトがん細胞の受容体チロシンキナーゼ活性を阻害する標的化学療法として、いくつかのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が開発されている。TKIはEGFRシグナル伝達の細胞内キナーゼドメインを標的とする単剤療法として使用されてもよい。例えば、ゲフィチニブ(IRESSA(登録商標)、AstraZeneca)は、EGFRエクソン19欠失(exon19del)又はエクソン21(L858R)置換変異を有するNSCLCの治療に対して承認されている。単剤又は放射線治療との併用のいずれかでのTKI治療による臨床的有用性は、HNSCC患者の10~15%に限られるようである。HNSCC患者では、EGFR-TKI標的化学療法及び標準化学療法の併用が調査中である(Rebuzziet al.、2019年)。これらのアプローチにはそれぞれ限界があると思われる。例えば、化学療法の併用における治療用量は、その非特異的な作用機序により著しい毒性を示す可能性があり、治療計画の有効性を制限する要因となる。
【0007】
単剤標的化学療法(TKIなど)又は標的免疫抗体療法は、初期の有効性を示すが、がんを持続的に制御することにはつながらない(Wu et al.、2020年)。標的免疫療法の場合、EGFRの細胞外ドメインを標的とするモノクローナル抗体(mAb)であるセツキシマブ(ERBITUX(登録商標))が、HNSCCの臨床適応症、すなわちプラチナベース療法後に進行した再発又は転移性HNSCC、放射線療法との併用で局所・領域進行HNSCC、化学療法との併用で末期HNSCC、及びフルオロウラシルとプラチナベース療法との併用で再発局所病変又は転移性HNSCCの単剤療法として承認されている。しかし、セツキシマブの奏効率は、EGFRの高増幅を有するHNSCC患者では約20%と限られており、ヒトパピローマウイルス(HPV)の状態とは無関係である。プラチナベースの化学放射線療法(CRT)へのセツキシマブの追加は予後の改善にはつながらない。さらに、カルボプラチン/パクリタキセル化学療法又は高用量放射線療法へのセツキシマブの追加は、高いEGFR発現及び変異率を示す別のがんサブタイプである切除不能III期非小細胞肺がん(NSCLC)に対する生存への有益性をもたらさなかった。
【0008】
mAb又はTKIのいずれかを用いたEGFR標的単剤療法は、比較的低い奏効率をもたらし、患者はしばしば耐性を獲得する(Chong et al.、2013、Lim et al.、2018)。HNSCCの5%未満がEGFR変異を保有しており、これが限られた有効性を説明しているのかもしれない。さらに、複数の細胞外受容体及び下流のシグナル伝達経路が代替として作用し、そして持続的に活性化されたがん原性シグナル伝達が、EGFR阻害剤による単剤療法に対するがんの耐性を許容している。
【発明の概要】
【0009】
以下の要約は単なる例示であり、いかなる意味においても限定することを意図していない。 上述した例示的な態様、実施形態、及び特徴に加えて、さらなる態様、実施形態、及び特徴は、図面及び以下の詳細な説明を参照することによって明らかになるであろう。
【0010】
一態様において、本出願は、対象のがんを治療する方法を提供する。本方法は、少なくとも1つの抗体を含む併用療法であってもよい。一実施形態において、上記方法は、対象に抗体及び治療薬剤を投与することを含む。
【0011】
上記抗体は二重特異性抗体であってもよい。一実施形態において、上記抗体はEGFR及びHER3に対する結合特異性を有する。一実施形態において、上記抗体は、配列番号1の3つの相補性決定領域(CDR)、配列番号2の3つのCDR、又は配列番号4の3つのCDRを含む。
【0012】
一実施形態において、上記抗体は、配列番号1に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)を含む。一実施形態において、上記抗体は、配列番号2に対して少なくとも98%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する重鎖scFvドメインを含む。一実施形態において、上記抗体は、配列番号4に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%の配列同一性を持つアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0013】
一実施形態において、上記抗体は重鎖及び軽鎖を有する。一実施形態において、上記重鎖は、配列番号3に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%の配列同一性を持つアミノ酸配列を含む。一実施形態において、上記軽鎖は、配列番号5に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%の配列同一性を持つアミノ酸配列を含む。
【0014】
上記治療薬剤は、任意のがん治療薬剤又はそのような薬剤の組み合わせであってもよい。一実施形態において、上記治療薬剤は、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)、アルキル化剤、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、抗悪性腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、化学保護物質、又はそれらの組み合わせであってもよい。一実施形態において、治療薬剤は、オシメルチニブ、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン、カルボプラチン、ペメトレキセド、シスプラチン、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0015】
一実施形態において、上記チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イコチニブ、AZD3759、サパチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、デラチニブ、ポジチニブ、タルロックス-TKI、オシメルチニブ、ナザルチニブ、オルムチニブ、ロシレチニブ、ナコチニブ、ラザルチニブ、EAI045、CLN081、AZ5104、モボセルチニブ、その誘導体又はそれらの組み合わせを含む。
【0016】
一実施形態において、上記がんを治療する方法は、二重特異性抗体及びオシメルチニブを含む併用療法を使用する。一実施形態において、上記抗体は、例えば、6 mg/kg、9 mg/kg、12 mg/kg、14 mg/kg、16 mg/kg、又は21 mg/kgの用量で、少なくとも週1回(QW)、週2回又は隔週(Q2W)、3週間毎(Q3W)、又は3週間毎に1日目及び8日目(D1D8Q3W)に点滴静注により投与されてもよい。一実施形態において、初回点滴静注後120分±10分の初回投与中の急性輸液反応が許容できる場合、その後の点滴は60~120分以内に完了されてもよい。一実施形態において、上記抗体及び上記治療薬剤は同日に使用されてもよく、上記治療薬剤の点滴は上記抗体の点滴完了後も続けられてもよい。一実施形態において、オシメルチニブは、少なくとも約40 mg/kg、約80 mg/kg、約120 mg/kg、約160 mg/kg又は約180 mg/kgの用量で投与される。
【0017】
一実施形態において、上記アルキル化剤は、ブスルファン、シクロホスファミド、テモゾロミド、カルボプラチン、シスプラチン、又はそれらの組み合わせを含む。
【0018】
一実施形態において、上記方法は二重特異性抗体及びカルボプラチンを含む組み合わせを使用する。一実施形態において、カルボプラチンは、約100 mg/m2から約500 mg/m2の用量で投与される。一実施形態において、カルボプラチンは、少なくとも約200 mg/m2、約250 mg/m2、約300 mg/m2、約360 mg/m2、約400 mg/m2、又はAUC約5 mg/ml/分、AUC約6 mg/ml/分、AUC約7 mg/ml/分の用量で投与される。一実施形態において、カルボプラチンは、AUC約5 mg/ml/分の用量で投与される。
【0019】
一実施形態において、上記方法は二重特異性抗体及びシスプラチンを含む組み合わせを使用する。一実施形態において、シスプラチンは、約10 mg/m2から約180 mg/m2の用量で投与される。一実施形態において、シスプラチンは、少なくとも約15 mg/m2、約20 mg/m2、約30 mg/m2、約50 mg/m2、約75 mg/m2、約100 mg/m2、又は約120 mg/m2の用量で投与される。一実施形態において、シスプラチンは、100 mg/m2、Q3Wの用量で投与される。一実施形態において、上記方法は、初回点滴又は初回治療コース後の用量毒性を決定する工程をさらに含む。上記用量の毒性が強すぎる場合、上記用量は80%に減らされてもよい。
【0020】
一実施形態において、上記代謝拮抗薬は、6-メルカプトプリン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、シタラビン、ペメトレキセド、メトトレキセート、その誘導体、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0021】
一実施形態において、上記方法は二重特異性抗体及びペメトレキセドの組み合わせを使用する。一実施形態において、ペメトレキセドは、約150 mg/m2から約800 mg/m2の用量で投与される。一実施形態において、ペメトレキセドは、少なくとも約250 mg/m2、約500 mg/m2、又は約750 mg/m2の用量で投与される。一実施形態において、ペメトレキセドは、約500 mg/m2の用量で投与される。一実施形態において、上記方法は、初回点滴又は初回治療コース後の用量毒性を決定する工程をさらに含む。上記用量の毒性が強すぎる場合、上記用量は80%に減らされる。
【0022】
一実施形態において、本出願は二重特異性抗体並びにペメトレキセド及びシスプラチンの組み合わせを含む併用療法を使用する。一実施形態において、抗体は、少なくとも週1回(QW)点滴静注により投与されてもよい。一実施形態において、ペメトレキセド及びシスプラチン(AP)の投与は、薬剤説明書及び標準的な使用法に従ってもよく、上記抗体の投与が完了した直後に投与されてもよい。
【0023】
一実施形態において、上記微小管阻害薬は、ドセタキセル、エリブリン、イクサベピロン、パクリタキセル、ビンブラスチン、その誘導体、又はそれらの組み合わせを含む。
【0024】
一実施形態において、上記方法は二重特異性抗体及びパクリタキセルを含む併用治療を使用する。一実施形態において、上記抗体は、週に1回(QW)点滴静注により投与されてもよい。一実施形態において、パクリタキセルは、約20 mg/m2から約200 mg/m2の用量で投与されてもよい。一実施形態において、パクリタキセルは、少なくとも約40 mg/m2、約80 mg/m2、約135 mg/m2、又は約175 mg/m2の用量で投与される。一実施形態において、パクリタキセルの用量は、80 mg/m2、QWであってもよい。
【0025】
一実施形態において、上記抗体及びパクリタキセルは同日に使用されてもよい。一実施形態において、抗体点滴後、パクリタキセルは前処理され、3時間以内に注射されてもよい。一実施形態において、上記方法は、初回点滴後の用量毒性を決定する工程をさらに含んでもよい。上記用量の毒性が強すぎる場合、上記用量は80%に減らされる。
【0026】
一実施形態において、本出願は、二重特異性抗体並びにパクリタキセル及びシスプラチンの組合せを含む併用療法を用いてがんを治療する方法を提供する。一実施形態において、上記抗体は、少なくとも週1回(QW)点滴静注により投与されてもよい。一実施形態において、パクリタキセル及びシスプラチン(TP)の投与は、薬剤説明書及び標準的な使用法に従ってもよく、上記抗体の投与が完了した直後に投与されてもよい。
【0027】
一実施形態において、上記方法は二重特異性抗体及びドセタキセルの組み合わせを使用してもよい。一実施形態において、ドセタキセルは、少なくとも約35 mg/m2、D1D8D215Q3Wの用量で投与される。一実施形態において、上記方法は、初回点滴後の用量毒性を決定する工程をさらに含む。上記用量の毒性が強すぎる場合、上記用量は80%に減らされる。
【0028】
一実施形態において、上記抗悪性腫瘍性抗生物質は、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、その誘導体、又はそれらの組み合わせを含む。
【0029】
一実施形態において、上記トポイソメラーゼ阻害剤は、エトポシド、イリノテカン、トポテカン、その誘導体又はそれらの組み合わせを含む。
【0030】
一実施形態において、上記方法は二重特異性抗体及びイリノテカンの組み合わせを使用してもよい。一実施形態において、上記抗体は、2週間毎(Q2W)に点滴静注により投与される。一実施形態において、イリノテカンは、約50 mg/m2から約250 mg/m2の用量で投与されてもよい。一実施形態において、イリノテカンは、少なくとも約80 mg/m2、130 mg/m2、150 mg/m2、180 mg/m2、200 mg/m2、又は220 mg/m2の用量で投与されてもよい。一実施形態において、イリノテカンの用量は180 mg/m2、Q2Wでもよく、また、点滴方法は薬剤説明書に従ってもよい。一実施形態において、上記抗体及びイリノテカンは同日に使用されてもよく、イリノテカンは抗体点滴後に注射されてもよい。
【0031】
一実施形態において、上記化学保護剤はロイコボリン又はその誘導体を含む。
【0032】
一実施形態において、上記抗体はがんを治療する際に1つ又は複数の治療薬剤に組み合わされてもよい。一実施形態において、上記抗体は標準的な化学療法の組み合わせと組み合わされてもよい。一実施形態において、上記治療薬剤又は治療薬剤の組み合わせは、がん治療において確立された用量、レジメン、又は方法論に従って投与される。
【0033】
上記抗体及び上記治療薬剤は、同時に投与されてもよく、1回の治療セッションとして順次に投与されてもよい。
【0034】
一実施形態において、上記抗体及び上記治療薬剤は、交互の治療セッションにおいて、対象に別々に投与されてもよい。一実施形態において、上記抗体及び治療薬剤は、同時に且つ順次投与される。一実施形態において、上記抗体は上記治療薬剤とは別の時点で投与される。
【0035】
一実施形態において、上記抗体は第1治療セッションで投与され、上記治療薬剤は第2治療セッションで投与されてもよい。一実施形態において、上記第1治療セッションの期間は、約7日から約728日であってもよい。一実施形態において、上記第2治療セッションの期間は、約1日から約728日である。一実施形態において、第1治療セッションと及び上記第2治療セッションの間の間隔は、約7日から約21日である。
【0036】
一実施形態において、上記抗体は、1週間に1回(Q1W)、2週間毎(Q2W)、3週間毎(Q3W)、又は3週間毎に1日目及び8日目(D1D8Q3W)に投与されてもよい。
【0037】
上記抗体は、固定用量、mg/kg用量、又は mg/m2用量で投与されてもよい。一実施形態において、上記抗体は、約0.1 mg/kgから約50 mg/kgの用量で投与される。一実施形態において、上記抗体は、少なくとも約0.3 mg/kg、約1.2 mg/kg、約3.0 mg/kg、約6.0 mg/kg、約9.0 mg/kg、約12.0 mg/kg、約16.0 mg/kg、約21.0 mg/kg又は約28.0 mg/kgの用量で投与される。
【0038】
上記治療薬剤は、薬剤説明書及び標準的な使用法又は用量レジメンに従って投与されてもよい。一実施形態において、上記治療薬剤は、約6.0 mg/kgから約28.0 mg/kgの用量で投与されてもよい。
【0039】
一態様において、本出願は、がんを有する対象を治療するための治療用組成物を提供する。上記治療用組成物は、本明細書に開示される抗体及び治療薬剤の組み合わせを含んでもよい。
【0040】
上記抗体は、EGFRと及びHER3の二重特異性に対する結合特異性を有する二重特異性抗体であってもよい。一実施形態において、上記抗体は、配列番号1の3つの相補性決定領域(CDR)、配列番号2の3つのCDR、又は配列番号4の3つのCDRを含む。
【0041】
一実施形態において、上記治療薬剤は、例えば、オシメルチニブ、カルボプラチン、シスプラチン、ペメトレキセド、パクリタキセル、その誘導体、又はそれらの組み合わせを含む、本明細書に開示される任意の治療薬剤又は組み合わせであってもよい。
【0042】
一実施形態において、上記抗体及び上記治療薬剤の両方又はいずれかは、同時に、順次に、又は併行して投与される医薬製剤の形態である。
【0043】
一態様において、本出願はさらに、第1容器、第2容器及び添付文書を含むキットを提供する。上記第1容器は、抗体を含む第1治療用組成物の少なくとも1用量を含み、上記第2容器は、治療薬剤を含む第2治療用組成物の少なくとも1用量を含み、上記添付文書は、上記第1及び第2治療用組成物を用いて対象のがんを治療するための指示を含む。
【0044】
一実施形態において、上記指示は、第1治療組成物及び第2治療組成物が、EGFR発現検査で陽性となるがんを有する対象を治療するための使用を意図することを述べていてもよい。
【0045】
上記がんは固形がんであってもよい。一実施形態において、上記がんは、肺腺がん、頭頸部扁平上皮がん、直腸がん、結腸がん、肺扁平上皮がん、甲状腺がん、膀胱がん、黒色腫、子宮頸がん、前立腺がん、乳がん、子宮/子宮内膜がん、膵臓がん、卵巣がん、又は乳頭状腎がんである。
【0046】
一実施形態において、がんは、EGFR発現検査で陽性となる固形腫瘍を含み、及び肺腺がん、頭頸部扁平上皮がん、直腸がん、結腸がん、肺扁平上皮がん、甲状腺がん、膀胱がん、黒色腫、子宮頸がん、前立腺がん、乳がん、子宮/子宮内膜がん、膵臓がん、卵巣がん、及び乳頭状腎がんからなる群から選択される。
【0047】
一実施形態において、上記がんは進行性又は転移性の固形腫瘍である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
本開示の前述の及び他の特徴は、添付の図面と併せて考慮される以下の説明及び添付の特許請求の範囲からより完全に明らかになるであろう。これらの図面は、本開示に従って構成されたいくつかの実施形態のみを描いており、従って、その範囲を限定するものとはみなされないことを理解された上で、本開示は、添付の図面の使用を通じて、さらなる特定及び詳細性をもって説明される。
【
図1】
図1は、ヌードマウスでHCC827-936腫瘍細胞異種移植片を治療したときの、代表的な二重特異性抗体SI-B001及びオシメルチニブ(Osi)をベースとする併用療法の効果を示しており、腫瘍体積を、各治療(3用量レジメン)及び対照群の平均値として測定し、標準誤差を示した(1a)。治療中の体重曲線を示した(1b)。並びに、HCC827-936細胞由来の腫瘍におけるEGFR及びHER3の発現をフローサイトメトリー蛍光ソーティング(FACS)で検出した(1c)。
【
図2】
図2は、ヌードマウスでNCI-H1975腫瘍細胞異種移植片を治療したときの、SI-B001及びオシメルチニブ(Osi)をベースとする併用療法の効果を示しており、腫瘍体積は各治療(3用量レジメン)及び対照群の平均値として測定し、標準誤差を示した(2a)、治療中の体重曲線を示した(2b)。並びにNCI-H1975細胞由来の腫瘍におけるEGFR及びHER3の発現をFACSで検出した(2c)。
【
図3】
図3は、ヌードマウスでFadu腫瘍細胞異種移植片を治療したときのSI-B001及びCarboTaxol(パクリタキセル及びカルボプラチン)併用療法の効果を示しており、腫瘍体積は各治療(3用量レジメン)及び対照群の平均値として測定し、標準誤差を示した(3a)、治療中の体重曲線を示した(3b)。並びに、Fadu細胞由来の腫瘍におけるEGFR及びHER3の発現をFACSで検出した(3c)。
【
図4】
図4は、(4a)SI-B001又は化学療法(Chemo)のいずれか単独、(4b)セツキシマブ+化学療法、及び(4c)SI-B001単独、セツキシマブ単独、又はセツキシマブ+化学療法のいずれかと比較した場合の、SI-B001+化学療法の腫瘍体積及び腫瘍増殖抑制率の測定を示す。
【
図5】
図5は、ヌードマウスのHCC827腫瘍細胞異種移植片を治療したときのSI-B001及びシスプラチン/ペメトレキセドをベースとする併用療法の効果を示しており、腫瘍体積は各治療(3用量レジメン)及び対照群の平均値として測定し、標準誤差を示した(5a)。治療中の体重曲線を示した(5b)。
【
図6】
図6は、ヒト腫瘍マウス異種移植モデルを治療するためのSI-B100、TKI、及び化学療法薬の併用療法の比較優位性を、(6a)セツキシマブ及びオシメルチニブの単独又は併用、(6b)SI-B001低用量及びオシメルチニブの単独又は併用、(6c)SI-B001中用量及びオシメルチニブの単独又は併用、(6d)SI-B001高用量及びオシメルチニブの単独又は併用、(6e)セツキシマブ及び化学療法の単独又は併用、(6f)SI-B001低用量及び化学療法の単独又は併用、(6g)SI-B001中用量及び化学療法の単独又は併用、(6h)SI-B001高用量及び化学療法の単独又は併用、に影響を受けた腫瘍増殖率の測定値として示す。
【
図7】
図7は、(7a)SI-B001+AP/TP又はドセタキセル、(7b)SI-B001+パクリタキセル、及び(7c)SI-B001+イリノテカンを投与された患者における腫瘍反応のウォーターフォールプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下の詳細な説明において、本明細書の一部を構成する添付図面を参照する。図面において、文脈上別段の指示がない限り、同様の符号は通常、同様の構成要素を識別する。詳細な説明、図面、及び特許請求の範囲において説明される例示的な実施形態は、限定を意味するものではない。本明細書に提示された主題の精神又は範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用することができ、及び他の変更を加えてもよい。本明細書で典型的には説明され、及び図に例示されるように、本開示の態様は、広範な様々の異なる構成で配置され、置換され、組み合わされ、分離され、及び設計され得るものであり、そのすべてが本明細書で明示的に意図されるものであることが容易に理解されるであろう。
【0050】
本開示は、典型的には特に、抗体及び追加の治療薬剤を含む併用療法を用いてがんを治療するための方法、組成物、及びキットに関する。
【0051】
抗EGFR/HER3抗体療法(SI-B001)
SI-B001は二重特異性四価抗EGFR/HER3モノクローナル抗体である(米国特許第10,919,977B2号ではSI-1X6.4としても知られており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。投与すると、SI-B001はがん細胞上のEGFR及びHER3に同時に結合し、受容体のリン酸化及びがん化シグナル伝達を阻害する。要するに、SI-B001は単一の治療用抗体でEGFR及びHER3の両方への結合を包含している。
【0052】
抗体をベースとする免疫療法は、受容体への増殖因子の結合を阻害し、及び細胞表面でのホモ及びヘテロ二量体シグナル伝達状態を阻止する手段、ならびに内在化及び分解を促進する手段によって、がん細胞の増殖を阻害する。一方、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)などの低分子は、1つ又は複数のEGFRファミリーメンバーからの発がん性シグナルによって誘導される細胞質キナーゼ活性を阻害する。すべての固形がん細胞はもともと異種性であり、すなわち、同じ患者のがんでのEGFR変異や異常発現の状態さえも、その時々で異なることがある。本明細書に開示された抗体及び追加の治療薬剤を組み合わせた併用療法は、腫瘍進行の異なる段階における異種性腫瘍細胞の治療効果を増大させるか、再発の発生率を低下させるか、又はその両方をもたらすという重要な技術的利点を提供する。一実施形態において、TKIと併用するSI-B001は、EGFRファミリーメンバー(複数可)が仲介する発がん性シグナル伝達の抗体に基づく阻害と、EGFR発がん性シグナル伝達の垂直経路を攻撃することによるEGFR TKIによる細胞質シグナル伝達の阻害とを兼ね備える。
【0053】
SI-B001併用療法
いくつかの実施形態において、本開示は、それを必要とする患者においてがんを治療する方法を提供する。がんは、限定されないが、固形腫瘍、軟部肉腫、扁平上皮癌、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、食道扁平上皮癌(ESCC)、又はEGFR発現がんであってもよい。本方法は、SI-B001の有効量を、任意に、1つ若しくは複数の標準治療、追加の治療薬剤、又はそれらの組み合わせと併用で患者に投与することを含んでもよい。
【0054】
HNSCC、NSCLC、及びESCCに限定されないが、そのようながんに対する標準治療は当業者に周知であり、手術、放射線療法、化学療法、光線力学療法、標的療法、若しくは標的免疫療法、又はそれらの併用療法を含む。いくつかの実施形態において、標準治療法は、カルボプラチン(PARAPLATIN(登録商標)、BMS)、シスプラチン(PLANTINOL(登録商標)、BMS)、ドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Sanofi-Aventis)、イリノテカン(CAMPTOSAR(登録商標)、Pfizer)、ペメトレキセド二ナトリウム(ALIMTA(登録商標)、Eli Lilly)、アファチニブジマレイン酸塩、アレクチニブ(ALECENZA(登録商標)、Genentech)、ブレオマイシン、ブリガチニブ(brigantinib)、セリチニブ(ZYKADIA(登録商標)、ノバルティス)、クリゾチニブ(XALKORI(登録商標)、Pfizer)、ダブラフェニブ、塩酸ドキソルビシン、エトポシド、エベロリムス、5-フルオロウラシル、塩酸ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、塩酸メクロレタミン、メトトレキサート、スニチニブ、トラメチニブ、酒石酸ビノレルビン(NAVELBINE(登録商標)、Pierre Fabre)、トポテカン塩酸塩、誘導体又はそれらの組み合わせを使用した化学療法から選択される。
【0055】
いくつかの実施形態において、追加の治療薬剤は、例えば、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イコチニブ、AZD3759、サパチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、デラチニブ、ポジオチニブ、ナザルチニブ、オルムチニブ、ロシレチニブ、ナコチニブ、ラザルチニブ、EAI045、CLN081、AZ5104、モボセルチニブ、又はそれらの誘導体を含む標的化学療法のためのチロシンキナーゼ阻害剤であってもよい。いくつかの実施形態において、追加の治療薬剤はオシメルチニブ(TAGRISSO(登録商標)、AstraZeneca)であり、野生型EGFRに影響を与えることなく、変異型EGFRならびに異常発現EGFRを標的とするように設計された第3世代の不可逆的EGFR阻害剤である。オシメルチニブは進行性又は転移性NSCLC患者において忍容性が高い。
【0056】
いくつかの実施形態において、追加の治療薬剤は、例えば、セツキシマブ(抗EGFR抗体、ERBITUX(登録商標)、Lilly)、ニボルマブ(抗PD1抗体、OPDIVO(登録商標)、BMS)、ペムブロリズマブ(抗PD1抗体、KEYTRUDA(登録商標)、Merck)、セミプリマブ(抗PD1抗体、LIBTAYO(登録商標)、Regeneron)、アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体、TECENTRIQ(登録商標)、Roche)、デュルバルマブ(抗PD-L1抗体、IMFINZI(登録商標)、AstraZeneca)、ベバシズマブ(抗VEGF抗体、AVASTIN(登録商標)、Roche)、又はこれらのバイオシミラーを含む標的免疫療法のためのモノクローナル抗体であってもよい。
【0057】
いくつかの実施形態において、SI-B001は、HNSCC、NSCLC、及びESCCのための一次単剤療法として患者に投与される。他の実施形態において、SI-B001は、手術、放射線療法、化学療法、光線力学療法、若しくは標的免疫療法、又はそれらの組合せを含む、HNSCC、NSCLC、及びESCCに対する標準治療と併用する一次治療として患者に投与される。
【0058】
いくつかの実施形態において、SI-B001は、標準治療の化学療法又はドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Sanofi-Aventis)との併用で一次治療として肺がん患者に投与され、これにはNSCLCが含まれるが、再発性及び転移性の非小細胞肺がんに限定されない。他の例では、SI-B001は、標準治療の化学療法又はパクリタキセル(TAXOL(登録商標)、BMS、ABRAXANE(登録商標)、Abraxis)との併用で一次治療として頭頸部がん患者に投与され、これにはHNSCCが含まれるが、再発性及び転移性のHNSCCに限定されない。別の例では、SI-B001は、標準治療の化学療法又はイリノテカン(CAMPTOSAR(登録商標)、ファイザー)との併用で一次治療として食道がん患者に投与され、これにはESCCが含まれるが、再発性及び転移性ESCCに限定されない。
【0059】
いくつかの実施形態において、手術がすべてのがん組織を除去できなかった場合、又はがんが化学療法若しくは免疫療法に対して部分的に耐性である場合など、標準治療が失敗した場合、HNSCC、NSCLC、及びESCCを治療するための周知の二次治療を含み得る二次治療が使用される。したがって、いくつかの実施形態において、本開示は、がんが一次療法に耐性である患者においてHNSCC、NSCLC、及びESCCを治療する方法を提供し、上記方法は、任意に二次療法と併用してSI-B001を投与することを含む。
【0060】
いくつかの実施形態において、本開示は、二次治療としてSI-B001を投与することを含む、がんを治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、HNSCC(ClinicalTrials.gov ID:NCT05054439、S206)、NSCLC(ClinicalTrials.gov ID:NCT05020457、S201)、及びESCC(ClinicalTrials.gov ID:NCT05022654、S207、全体として本明細書に組み込まれる)に対する別の二次治療又は標準治療の二次治療と併用してSI-B001を投与することを含む、耐性がんを治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、二次治療は化学療法であってもよい。例えば、SI-B001は、再発、再燃、及び/又は転移性のHNSCC、NSCLC、及びESCCを含むがこれらに限定されないHNSCC、NSCLC、及びESCCの治療において、標準治療の化学療法又はパクリタキセルと併用して二次治療としてHNSCC、NSCLC、及びESCCの患者に投与される。いくつかの実施形態において、二次治療は標的治療であってもよい。例えば、SI-B001は、再発、再燃、及び/又は転移性HNSCC、NSCLC、及びESCCを含むがこれらに限定されない、HNSCC、NSCLC、及びESCCなどのがんの治療において、標準治療の化学療法又はオシメルチニブと併用して二次治療としてHNSCC、NSCLC、及びESCCの患者に投与される。
【0061】
いくつかの実施形態において、一次又は二次標準治療が失敗した場合、例えば、化学療法が引き続き失敗し、寛解が生じた場合、三次治療が患者に投与される。いくつかの実施形態において、本開示は、三次治療としてSI-B001を投与することを含む、一次療法及び二次療法の両方に抵抗性のHNSCC(ClinicalTrials.gov ID:NCT05054439、S206)、NSCLC(ClinicalTrials.gov ID:NCT05020457、S201)、及びESCC(ClinicalTrials.gov ID:NCT05022654、S207)を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、HNSCC、NSCLC、及びESCCに対する別の三次治療又は標準治療の三次治療と併用してSI-B001を投与することを含む、一次療法及び二次療法の両方に抵抗性のHNSCC、NSCLC、及びESCCを治療する方法を提供する。
【0062】
いくつかの実施形態において、SI-B001は、それを必要とする患者におけるHNSCC、NSCLC、及びESCCの治療のための増感剤として投与される。いかなる理論によっても拘束されることなく、SI-B001は、HNSCC、NSCLC、及びESCCに対する標準治療、一次治療、二次治療、又は三次治療の有効性を増大させると考えられる。いくつかの実施形態において、本開示は、1つ又は複数の標準治療、一次治療、二次治療、又は三次治療の投与前に、SI-B001を患者に投与することを含む、それを必要とする患者においてHNSCC、NSCLC、及びESCCを治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、SI-B001の投与は、SI-B001を投与しない場合の治療と比較して、HNSCC、NSCLC、及びESCCのより効果的な治療をもたらす。いくつかの実施形態において、本開示は、1つ又は複数の標準治療、一次治療、二次治療、又は三次治療の投与後に、SI-B001を患者に投与することを含む、それを必要とする患者においてHNSCC、NSCLC、及びESCCを治療する方法を提供する。
【0063】
当業者であれば、HNSCC、NSCLC、及びESCCの治療のために、かかる追加治療薬剤を投与する量及び用量レジメンを理解するであろう。例として、HNSCC、NSCLC、及びESCCの治療に適した例示的な治療薬剤の投与を表1にまとめる。
【0064】
「医薬製剤」という用語は、安定であり且つ患者に受け入れられる医薬活性化合物を含む異なる化学物質が組み合わされ、最終的な医薬品が用量形態で製造されるプロセスを指す。経口投与薬の場合、活性医薬化合物は、製剤化された化合物の薬理学的活性を破壊しない非毒性の担体、アジュバント、又はビヒクルに組み込まれる。製剤化された医薬化合物は、直接的であれ間接的であれ、害を及ぼさない方法でこれらの他の物質と適合する。本開示の組成物に使用されてもよい医薬的に許容される担体、アジュバント又はビヒクルとしては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸塩、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコールなどの塩類又は電解質、及び羊毛脂が挙げられるが、これらに限定されない、
【0065】
本開示の組成物は、経口投与、非経口投与、吸入スプレーによる投与、局所投与(粉末、軟膏、又は滴下による投与として)、直腸投与、鼻腔投与、頬側投与、膣内投与、膀胱内投与、又は移植リザーバを介して投与されてもよい。本明細書において、「非経口的」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、関節滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、肝内、病変内、及び頭蓋内への注射又は注入方法を含む。好ましくは、組成物は経口、腹腔内又は静脈内に投与される。本開示の組成物の無菌注射用形態は、水性又は油性懸濁液であってもよい。これらの懸濁剤は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて、当該分野で公知の技術に従って製剤化されてもよい。無菌注射用調製物はまた、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液のように、非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌注射用溶液又は懸濁液であってもよい。採用されてもよい許容可能なビヒクル及び溶媒の中には、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌の固定油が溶媒又は懸濁媒体として慣例的に採用されている。
【0066】
任意の患者に対する具体的な用量及び治療レジメンは、採用される特定の化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与時間、排泄速度、薬剤の組み合わせ、ならびに治療する医師の判断及び治療される疾患の重症度を含む様々な要因に依存することも理解されるべきである。組成物中の本開示の化合物の量も、組成物中の化合物に依存する。
【0067】
本開示の方法による化合物及び組成物は、本明細書において開示されるものなど、がんの治療に有効な任意の量及び任意の投与経路を用いて投与されてもよい。正確な必要量は、対象の種、年齢、及び一般的な状態、がんの重篤度、薬剤、その投与様式などに依存して、対象によって異なってもよい。本開示の化合物及び組成物は、好ましくは、治療される患者に適切な物理的に不連続な単位の薬剤の投与を容易にする均一な用量で製剤化される。しかしながら、本開示の化合物及び組成物の1日当たりの総使用量は、専門的な医学的判断の範囲内で、担当の医療従事者によって決定されることが理解されよう。任意の特定の患者又は生物に対する具体的な有効用量レベルは、治療されるがん及びその重症度、採用される特定の化合物の活性、採用される特定の組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食事、採用される特定の化合物の投与時間、投与経路及び排泄速度、治療期間、採用される特定の化合物と併用又は同時に使用される薬物、ならびに医療分野で周知の同様の要因など、さまざまな要因に依存する。
【0068】
無菌注射用の水性又は油性懸濁液などの注射用調製物は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて、公知技術に従って製剤化されてもよい。無菌注射用調製物はまた、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液のように、非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌注射用溶液、懸濁液又は乳濁液であってもよい。採用されてもよい許容可能なビヒクル及び溶媒の中には、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターで濾過することにより、又は使用前に滅菌水又は他の無菌注射用媒体に溶解又は分散させることができる無菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことにより、滅菌され得る。
【0069】
本開示のキットは、特に、異なる用量形態、例えば経口及び非経口の投与、異なる用量間隔での別々の組成物の投与、又は別々の組成物の互いに対する滴定に適している。コンプライアンスを支援するために、キットは、典型的には投与に関する指示を含んでもよく、記憶補助を提供してもよい。
【0070】
本明細書において、用語「a」、「an」及び「the」は、文脈上不適切でない限り、「1つ又は複数」を意味し、及び複数を含むものと定義される。
【0071】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、本明細書において、互換性があり、及びペプチド結合で連結されたアミノ酸からなる生体分子を意味すると定義される。
【0072】
「抗原」、「抗原部位」、及び「エピトープ」という用語は、生物、特に動物、より詳細にはヒトを含む哺乳動物において免疫応答を誘導し得る実体又はそのフラグメントを指す。この用語は、抗原性又は抗原決定基を担う免疫原及びそれらの領域を含む。
【0073】
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性を示す限り、単一のモノクローナル抗体(アゴニスト及びアンタゴニスト抗体を含む)、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、並びに抗体フラグメント(例えば、Fab、F(ab')2、及びFv)を特に包含する。いくつかの実施形態において、抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体又は二重有効性抗体、ヒト抗体及びヒト化抗体、ならびにそれらの活性フラグメントであってもよい。既知の抗原に結合する分子の活性フラグメントの例としては、 Fab免疫グロブリン発現ライブラリーの産物を含むFab、F(ab')2、scFv及びFvフラグメント、ならびに上記の抗体及びフラグメントのいずれかのエピトープ結合フラグメントが挙げられる。いくつかの実施形態において、抗体は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部位、すなわち、抗原、抗原部位又はエピトープに結合することができる結合部位を含む分子を含んでもよい。 免疫グロブリンは、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(IgG、IgM、IgD、IgE、IgA及びIgY)又はクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスであり得る。 一実施形態において、抗体は、抗体全体及び抗体全体に由来する任意の抗原結合フラグメントであってもよい。
【0074】
典型的な抗体は、典型的には2本の重鎖(H鎖)及び2本の軽鎖(L鎖)を含むヘテロ4量体タンパク質を指す。各重鎖は、重鎖可変ドメイン(VHと略記)及び重鎖定常ドメインとを含む。各軽鎖は、軽鎖可変ドメイン(VLと略記)及び軽鎖定常ドメインとを含む。 任意の脊椎動物種の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κ(カッパ)及びλ(ラムダ)と呼ばれる2つの明確に異なるタイプのいずれかに割り当てることができる。 VH及びVL領域は、超可変相補性決定領域(CDR)のドメイン、及びフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域にさらに細分化することができる。各可変ドメイン(VH又はVLのいずれか)は、典型的には3つのCDR及び4つのFRから構成され、以下の順序で配置されている。アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。軽鎖及び重鎖の可変領域内には、抗原と相互作用する結合領域が存在する。
【0075】
本明細書において、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体、つまり、少量存在するかもしれない可能性のある自然発生の変異を除いて、集団を構成する個々の抗体が同一である抗体を指す 。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、モノクローナル単特異抗体として1つの抗原部位、又はモノクローナル多特異抗体として1つよりも多くの抗原部位に対して作用する。さらに、通常、異なる決定基(エピトープ)に対して作用する異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体製剤とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対して作用する。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンに汚染されることなく、ハイブリドーマ培養によって合成されるという点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体の集団から得られるという抗体の特徴を示すものであり、いかなる方法による抗体の産生も必要とするものと解釈されるものではない。例えば、本開示に従って使用するモノクローナル抗体は、Kohler & Milstein、Nature、256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法に従って作製してもよいし、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号参照)によって作製してもよい。
【0076】
モノクローナル抗体には、所望の生物学的活性を示す限り、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の生物種由来の抗体又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同である一方、鎖の残りの部分が別の生物種由来の抗体又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、及びそのような抗体のフラグメントを含んでもよい(U. S. Pat. No. 4,816,567、及びMorrison et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、81:6851-6855[1984])。モノクローナル抗体は、マウスハイブリドーマ、若しくはファージディスプレイ(Siegel. Transfus. Clin. Biol. Biol.9:15-22(2002)の総説を参照)、又は初代B細胞から直接抗体を分子クローニングする方法(Tiller. New Biotechnol. 28:453-7(2011)を参照)を含む様々な方法を用いて産生することができる。本開示では、抗体はウサギ、マウス、又はラマを免疫化する方法に、ハイブリドーマ又はディスプレイなどのその後の戦略を組み合わせて作製された。ウサギは、親和性、多様性、及び特異性の高い抗体を作り出すことが知られている(Weber et al. Exp. Mol. Med. 49:e305)。ウサギの免疫化後にB細胞培養を行う以外にも、抗体作製及び探索のための一般的な戦略としては、他の動物(例えば、マウス、ラマ)の免疫化後にハイブリドーマ及び/又はファージ、酵母、又は哺乳類細胞上でのディスプレイを行う方法、又は合成可変遺伝子ライブラリーを用いたディスプレイが挙げられる。この抗体探索の一般的な方法は、Seeber et al. PLOS One. 9:e86184(2014)で述べられているものと似ている。
【0077】
「抗原結合又はエピトープ結合部位又はフラグメント」という用語は、抗原に結合することができる抗体のフラグメントを指す。これらのフラグメントは、抗原結合機能及びインタクトな抗体の付加的な機能があってもよい。 結合フラグメントの実施例としては、合成リンカーによって単一ポリペプチド鎖に連結された抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなる単鎖Fvフラグメント(scFv)、又はVL、定常軽鎖(CL)、VH及び定常重鎖1(CH1)ドメインからなる一価フラグメントであるFabフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。 抗体フラグメントは、さらに小さなサブフラグメントであることもあり、単一のCDRドメイン、VL及び/又はVHドメインのいずれかからのCDR3領域と同じくらい小さなドメインからなることもあり得る(例えば、Beiboer et al.、Biol. 296:833-49 (2000)を参照)。抗体フラグメントは、当業者に知られている従来の方法を用いて製造される。抗体フラグメントは、インタクトな抗体で採用されているのと同じ技術を用いて有用性をスクリーニングすることができる。
【0078】
「抗原又はエピトープ結合フラグメント」は、本開示の抗体からいくつかの既知の技術によって得ることができる。 例えば、精製モノクローナル抗体をペプシンなどの酵素で切断し、そしてHPLCゲル濾過にかけることができる。次いで、Fabフラグメントを含有する適切な画分を収集し、そして膜濾過などにより濃縮することができる。 抗体の活性フラグメントを単離する一般的な技術についてのさらなる説明は、例えば、Khaw, B. A. et al. J. Nucl. Med. 23:1011-1019(1982)、Rousseaux et al. Methods Enzymology、121:663-69、Academic Press、1986を参照のこと。
【0079】
抗体をパパイン消化すると、それぞれ単一の抗原結合部位を持つ「Fab」フラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメント、及び容易に結晶化する能力をその名前に反映させた残りの「Fc」断片が生成される。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し、なおかつ抗原を架橋できるF(ab')2断片が得られる。Fabフラグメントは軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第一定常ドメイン(CH1)を含有してもよい。Fab'フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1つ又は複数のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端の数残基の付加によってFabフラグメントと異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab'に対する本明細書における呼称である。F(ab')2抗体フラグメントはもともと、ヒンジシステインをその間に有するFab'フラグメントの対として産生された。 抗体フラグメントの化学的結合は他にも知られている。
【0080】
「Fv」とは、完全な抗原認識・結合部位を含有する最小限の抗体フラグメントである。この領域は、1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインが強固に非共有結合した二量体からなる。この構成において、各可変ドメインの3つのCDRが相互作用し、VH-VL二量体の表面に抗原結合部位を定める。全体として、6つのCDRが抗体に抗原結合特異性を与える。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、結合部位全体よりは低い親和性ではあるが、抗原を認識し及び結合する能力を有する。
【0081】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列によって、免疫グロブリンはさまざまなクラスに分類され得る。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つの主要なクラスがあり、そして、これらのうちのいくつかは、例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3、及びIgG-4、IgA-1及びIgA-2のようなサブクラス(アイソタイプ)にさらに分けられてもよい。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、デルタ、イプシロン、γ、及びμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び3次元構造はよく知られている。
【0082】
「多価」抗体は1つの標的上の複数の部位に結合し、結合部位の数によっては単量体よりも高い機能的親和性及び結合活性をもたらす可能性もある。全ての抗体は多価であり、例えばIgGは二価、及びIgMは十価である。
【0083】
2つの配列間の「相同性」は配列同一性によって決定される。互いに比較される2つの配列の長さが異なる場合、配列同一性は好ましくは、短い方の配列のヌクレオチド残基が長い方の配列のヌクレオチド残基と同一である割合に関係する。配列同一性は、コンピュータプログラムを用いて従来どおり決定することができる。所与の配列及び本開示の上記記載の配列間の比較に現れるずれは、例えば、付加、欠失、置換、挿入、又は組換えによって生じてもよい。
【0084】
「標的化学療法」という用語は、薬物療法、ホルモン療法、及び細胞毒性化学療法などの他の医学的治療と同様に、がんを治療するための分子標的療法を指す。標的療法又は標的化学療法のファースト・イン・クラスの薬剤は、抗がん性チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるイマチニブ(GLEEVEC(登録商標)、Novartis)である。このクラスのTKIは、慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病、ある種の消化管間質腫瘍、好酸球増多症候群、慢性好酸球性白血病、全身性肥満細胞症、骨髄異形成症候群、及び隆起性皮膚線維肉腫の治療成績を大幅に改善した。TKIは特発性肺線維症など他の疾患の治療にも使用されてきた。
【0085】
「EGFR-TKI」という用語は、EGFRシグナル伝達経路のチロシンキナーゼ活性を阻害するTKI薬剤を指す。チロシンキナーゼは、EGFRファミリーメンバーを介したシグナル伝達など、シグナル伝達カスケードによる多くのタンパク質の活性化を担う酵素である。TKIはまた、「チロシンリン酸化阻害剤」としても知られ、セリン又はスレオニン残基をリン酸化するプロテインキナーゼを阻害せず、かつEGFRのキナーゼドメイン及びインスリン受容体のそれとを区別することができる。タンパク質にリン酸基を付加すること(リン酸化)によって、タンパク質は活性化される。EGFR変異を有するがんを治療するための標的化学療法として、3世代のEGFR-TKIが開発されており、これらは作用機序及び臨床的有益性に基づいて分類されている(Sullivan and Planchard、2017)。
【0086】
「Bliss独立性スコア」という用語は、薬剤の組み合わせ候補をスクリーニングする際に、薬剤の組み合わせデータを分析するために広く使用されているBliss独立性モデルを指す。この方法は、観察された併用反応(YO)と予測された併用反応(YP)を比較するもので、薬物間の相互作用による影響はないという仮定に基づいて得られる。2つの薬剤A及びBが両方とも腫瘍増殖を抑制するとする:用量aの薬剤Aは腫瘍増殖のYa%を抑制し、及び用量bの薬剤Bは腫瘍増殖のYb%を抑制する。2つの薬剤が独立して作用する場合、確率論の完全加法性を用いて、複合阻害率Yab,Pを予測することができる:
Yab,P = Ya + Yb -Ya x Yb
【0087】
本開示は、本明細書に含まれる特定の実施形態及び実施例の以下の詳細な説明を参照することによって、より容易に理解することができよう。本開示は、その特定の実施形態の特定の詳細を参照して説明されてきたが、そのような詳細が本開示の範囲に対する限定と見なされるべきことを意図するものではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて、本開示の様々な変更が、前述の説明及び添付の図面から当業者に明らかになるであろう。このような変更は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。
【実施例】
【0088】
実施例1.ヒトがんの異種移植モデル
免疫不全マウスへのヒトがん細胞の異種移植は、前臨床腫瘍学研究及び抗がん剤治療の試験に用いられる定番のモデルである。典型的には、ヒトがん細胞株をマウスの皮下に注射する。対照群には薬剤を投与せず、薬剤又は薬剤の組み合わせをマウスの1群又は複数群に投与する。主な結果のパラメーターは薬剤による増殖抑制で、腫瘍のサイズは経時的に、多くの場合ノギスを使って外部から測定する。腫瘍が一定の大きさに達した後、マウスを安楽死させる。腫瘍に対する薬剤の効果は、さらに組織レベル又は分子レベル(例えば、DNA、タンパク質)で分析する。薬効を試験するための異種移植モデルの主要な結果パラメーターは、対照に対する治療腫瘍の成長である。通常、異種移植腫瘍は数週間で100 mm3(直径6 mm)から1000 mm3(直径12 mm)まで成長する。(2D)in vitro実験における指数関数的成長とは対照的に、腫瘍のサイズが大きくなるにつれて成長速度はしばしば低下する。腫瘍増殖抑制効果は薬剤及び移植細胞株によって異なる。治療薬の効果は、腫瘍細胞に対する直接的なもの、若しくは血管形成の阻害など微小環境を介した間接的なもの、又はその両方があり得る。
【0089】
HNSCC及びNSCLCの異種移植モデルを用いて、SI-B001単剤及び標準治療、化学療法、及び/又はTKIベースの標的治療との併用の安全性及び治療効果を評価した。実験動物はBalb/c-nuマウス、メス、年齢5~7週、体重17~21gを用いた。
【0090】
HNSCCの異種移植モデルを確立するために、ヒト頭頸部がん細胞、FaDu細胞をマウスに移植した。FaDuは扁平上皮癌患者の下咽頭腫瘍から単離された細胞株で、野生型EGFRを発現している(ATCC)。
【0091】
NSCLCの異種移植モデルを確立するために、発現している2つの肺がん細胞株を用いた。ヒト肺腺がん細胞株HCC827_936は、患者のNSCLC組織から単離されたHCC827細胞株(ATCC)からクローン的に得られた。HCC827_936細胞はエクソン19del及びエクソン20insのEGFR変異を発現している。もう一つの肺がん細胞株、NCI-H1975細胞(ATCC)はEGFR L858R/T790M二重変異を発現している。
【0092】
3つのヒトがん細胞株それぞれを、10%ウシ胎児血清を含有するRPMI1640培地で培養し、指数増殖期に回収し、適当な濃度になるようにPBSに再懸濁し、そしてマウスの皮下腫瘍移植に使用した。
【0093】
実施例2.HCC827_936モデルにおけるSI-B001及びオシメルチニブ併用療法
オシメルチニブとの併用における実験薬剤SI-B001の抗腫瘍効果及び安全性を評価するため、40匹のメスのヌードマウスに5×106個のHCC827_936細胞を皮下移植し、細胞をPBS(0.1ml/マウス)に再懸濁した。腫瘍が平均体積約163 mm3に成長した時点で、腫瘍のサイズ及びマウスの体重に応じて無作為に群分けし、HCC827_936異種移植モデルを確立した。
【0094】
生理食塩水及びSI-B001を週1回点滴静注により投与した。SI-B001は9 mg/kg、16 mg/kg、及び28 mg/kgの3種類の用量レジメンで与えた。DMSO及びオシメルチニブは週1回経口投与した。オシメルチニブは96 mg/kgの固定用量レジメンで与えた(表2)。
【0095】
腫瘍体積(mm3) V = 1/2 × (a×b)2、ここでaは長径を表し、bは短径を表す。相対腫瘍体積(RTV)、RTV=Vt/V0、ここでV0は時間0における腫瘍体積、Vtは時間tにおける治療後の腫瘍体積である。T/C値(%)は治療に対する腫瘍反応の指標であり、最も使用される評価指標である。T/C % = TRTV / CRTV × 100%、ここでTRTVは治療群平均RTV、及びCRTVは対照群平均RTVである。T/C値(%)はまた、T/C% =TTW / CTW × 100%として計算することもでき、ここでTTWは治療群実験終了時の平均腫瘍重量であり、及びCTWは対照群実験終了時の平均腫瘍重量である。相対的腫瘍抑制率(腫瘍増殖抑制率、TGI)は、治療に対する腫瘍反応を示す指標の一つであり、TGI% = 100% - T/C%である。
【0096】
ビヒクル対照群のマウスの平均腫瘍体積は31日目に720.68 mm
3、対照のオシメルチニブ単剤群の平均腫瘍体積は31日目に344.53 mm
3、及びTGI(%)は54.89%であった(p=0.262)。SI-B001単剤、用量群9/16/28 mg/kg/マウスの31日目の平均腫瘍体積はそれぞれ789.65 mm
3、601.42 mm
3、及び203.92 mm
3であり、TGI(%)はそれぞれ-10.71%、24.64%、及び73.20%であった(ビヒクル対照群との比較、p=0.783、p=0.654、p=0.123)。各用量群(9/16/28+96 mg/kg/マウス)におけるSI-B001及びオシメルチニブの併用は、31日目の平均腫瘍体積が46.79 mm
3、7.75 mm
3、0 mm
3に相当し、TGI%は93.74%、99.07%、及び100.00%(対応する用量レベルのSI-B001単剤と比較して、p=0.002、p=0.012、p=0.268、オシメルチニブ単剤と比較して、p=0.007、p=0.036、p=0.044)であり、抗腫瘍効果は対応するSI-B001単剤及びオシメルチニブ単剤よりも優れていた。要約すると、SI-B001とオシメルチニブの併用との全用量群は、有意に高い抗腫瘍効果を有していた(
図1a、表3)。抗腫瘍効果は、対応するSI-B001単剤及びオシメルチニブ単剤よりも優れており、併用療法との有意な相乗的抗腫瘍効果を示した。そして、腫瘍抑制のレベルはSI-B001の用量増加と正の相関があった。
【0097】
実験を通してマウスの体重を測定した(
図1b)。ビヒクル群#1では、2匹のマウスがD31前に死亡し、死亡率は40%であった。SI-B001単剤低用量群#3では、1匹のマウスがD31前に死亡し、死亡率は20%であった。SI-B001単剤中用量群#4では、3匹のマウスがD31前に死亡し、死亡率は60%であった。SI-B001単剤高用量群#5では、3匹のマウスがD31前に死亡し、死亡率は60%であった。オシメルチニブ単剤群#2では、D31前に3匹のマウスが死亡し、死亡率は60%であった。併用群#6のSI-B001低用量群では、D31前に死亡したマウスはいなかった。他の2つの併用群#7及び#8では、3匹のマウスがD31前に死亡し、死亡率は60%であった。死亡数に関しては、各群間に明確な傾向は見られなかった。このことから、SI-B001及びオシメルチニブを併用しても明らかな毒性はないことが示された。
【0098】
実験終了時に腫瘍保有マウスの腫瘍組織標的を確認するため、マウスを安楽死させた後に腫瘍組織を採取し、フローサイトメトリー蛍光ソーティング(FACS)分析を用いて腫瘍組織のEGFR及びHER3発現の特徴を調べた(
図1c)。
【0099】
この実施例では、HNSCCの治療計画は、HCC827_936由来異種移植モデルにおいて、用量漸増におけるオシメルチニブと併用したSI-B001の効果を示すものである。結果は、オシメルチニブはある程度のがん制御を達成できるが、このTKIで治療したマウスは最終的に再発したことを示した。一方、試験したSI-B001の3つの治療量以下の用量のうち2つを併用すると、持続的な制御を達成することができる。オシメルチニブを疾患安定を達成する用量のSI-B001と併用すると、持続的な制御を達成することができる。31日目までに、TKI例であるオシメルチニブと併用した場合、SI-B001を含む3つの全ての組み合わせとの間で、腫瘍体積に有意差(p<0.05)が認められた(表3)。
【0100】
これらの結果は、SI-B001の併用がTKIと併用した場合に有意に有利な治療能力を達成できることを示し、ヒトでの臨床試験の裏付けを与えた(表1)。
【0101】
実施例3.NCI-H1975モデルにおけるSI-B001及びオシメルチニブ併用療法
オシメルチニブとの併用における実験薬剤SI-B001の抗腫瘍効果及び安全性を評価するため、80匹のメスのヌードマウスに5×106個のNCI-H1975細胞を皮下移植し、細胞をPBS(0.1ml/マウス)に再懸濁した。腫瘍が平均体積約170 mm3に成長した時点で、腫瘍のサイズ及びマウスの体重に応じて無作為に群分けし、ヒト頭頸部扁平上皮癌細胞NCI-H1975異種移植モデルを確立した。
【0102】
生理食塩水及びSI-B001を週1回点滴静注により投与した。SI-B001は9 mg/kg、16 mg/kg、及び28 mg/kgの3種類の用量レジメンで与えた。DMSO及びオシメルチニブは週1回経口投与した。オシメルチニブは96 mg/kgの固定用量レジメンで与えた(表4)。
【0103】
腫瘍体積(mm3) V =1/2 × (a×b)2、ここでaは長径を表し、bは短径を表す。相対腫瘍体積(RTV)、RTV=Vt/V0、ここでV0は時間0における腫瘍体積、Vtは時間tにおける治療後の腫瘍体積である。T/C値(%)は治療に対する腫瘍反応の指標であり、最も使用される評価指標である。T/C % = TRTV / CRTV × 100%、ここでTRTVは治療群平均RTV、及びCRTVは対照群平均RTVである。T/C値(%)はまた、T/C% = TTW / CTW × 100%として計算することもでき、ここでTTWは治療群実験終了時の平均腫瘍重量であり、及びCTWは対照群実験終了時の平均腫瘍重量である。相対的腫瘍抑制率(腫瘍増殖抑制率、TGI)は、治療に対する腫瘍反応を示す指標の一つであり、TGI% = 100% - T/C%である。
【0104】
ビヒクル対照群のマウスの平均腫瘍体積は25日目に2316.19 mm
3、対照のオシメルチニブ単剤群の平均腫瘍体積は25日目に75.02 mm
3、及びTGI(%)は95.35%であった(p=0.030)。SI-B001単剤、用量群9/16/28 mg/kg/マウスの25日目の平均腫瘍体積はそれぞれ253.83 mm
3、173.94 mm
3、及び186.08 mm
3であり、そしてTGI(%)はそれぞれ81.79%、86.85%、及び84.80%であった(p=0.027、p=0.021、p=0.021)。各用量群(9/16/28+96 mg/kg/マウス)におけるSI-B001及びオシメルチニブの併用は、25日目の平均腫瘍体積が49.36 mm
3、9.75 mm
3、8.68 mm
3に相当し、TGI%は97.77%、99.41%、及び99.54%(対応する用量レベルのSI-B001単剤と比較して、p=0.243、p=0.409、p=0.399、オシメルチニブ単剤と比較して、p=0.633、p=0.096、p=0.092)であり、抗腫瘍効果は対応するSI-B001単剤及びオシメルチニブ単剤よりも優れていた(
図2a、表5)。要約すると、SI-B001とオシメルチニブとの併用の全用量群は、有意に高い抗腫瘍効果を有していた。抗腫瘍効果は、対応するSI-B001単剤及びオシメルチニブ単剤よりも優れており、有意な相乗的抗腫瘍効果を示した。そして、腫瘍抑制のレベルはSI-B001の用量増加と正の相関があった。
【0105】
実験を通してマウスの体重を測定した(
図2b)。ビヒクル群#1では、1匹のマウスがD25前に死亡し、死亡率は20%であった。SI-B001単剤群#3、#4及び#5では、2匹のマウスがD25前に死亡し、死亡率は40%であった。オシメルチニブ単剤群#2では、D25前に死亡したマウスはいなかった。併用群#6、#7、#9では、D25前に死亡したマウスは、なし、1匹、及び1匹であった。全群で生存した全てのマウスは、実験中の体重減少に有意差は認められなかった。死亡数に関しては、各群間に明確な傾向は見られなかった。このことから、SI-B001及びオシメルチニブを併用しても明らかな毒性はないことが示された。
【0106】
実験終了時に腫瘍保有マウスの腫瘍組織標的を確認するため、マウスを安楽死させた後に腫瘍組織を採取し、FACS分析を用いて腫瘍組織のEGFR及びHER3発現の特徴を調べた(
図2c)。
【0107】
この実施例において、オシメルチニブと組み合わせたSI-B001(EGFR-HER3二重特異性抗体)は、Balb/c-nuマウスに移植した腫瘍異種移植片としての肺がん細胞株NCI-H1975の治療のために併用投与した場合、薬物活性の増加を示す。このモデルでは、オシメルチニブ及びSI-B001の単剤投与は、腫瘍体積で測定すると比較的安定した病状を維持する。一方、オシメルチニブを試験したSI-B001の3つの治療用量のいずれかと組み合わせると、評価可能な最後の時点までに腫瘍制御を有意に増強することができた(p<0.05)(表5)。この証拠は、オシメルチニブと併用した場合に、患者におけるSI-B001の治療能力が向上する可能性があるという臨床試験の裏付けとなる(表1)。
【0108】
実施例4.FaduモデルにおけるSI-B001及びCarboTaxol(パクリタキセル及びカルボプラチン)併用療法
パクリタキセル及びカルボプラチンとの併用における実験薬剤SI-B001の抗腫瘍効果及び安全性を評価するため、80匹のメスのヌードマウスに5×106個のFaDu細胞を皮下移植し、細胞をPBS(0.1 ml/マウス)に再懸濁した。腫瘍が平均体積約230 mm3に成長した時点で、腫瘍のサイズ及びマウスの体重に応じて無作為に群分けし、ヒト頭頸部扁平上皮癌細胞FaDu異種移植モデルを確立した。
【0109】
生理食塩水(ビヒクル対照)、セツキシマブ、SI-B001、パクリタキセル、及びカルボプラチンを週1回点滴静注により投与した。SI-B001は6 mg/kg、9 mg/kg、及び12 mg/kgの3種類の用量レジメンで与えた。セツキシマブは0日目に10.5 mg/kgで与え、その後6.5 mg/kgを週3回与えた。パクリタキセル及びカルボプラチンはそれぞれ20.6 mg/kg及び28 mg/kgの固定用量レジメンで与えた(
図3a、表6)。
【0110】
腫瘍体積(mm3) V = 1/2 × (a×b)2、ここでaは長径を表し、bは短径を表す。相対腫瘍体積(RTV)、RTV=Vt/V0、ここでV0は時間0における腫瘍体積、Vtは時間tにおける治療後の腫瘍体積である。T/C値(%)は治療に対する腫瘍反応の指標であり、最も使用される評価指標である。T/C % = TRTV / CRTV × 100%、ここでTRTVは治療群平均RTV、及びCRTVは対照群平均RTVである。T/C値(%)はまた、T/C% = TTW / CTW × 100%として計算することもでき、ここでTTWは治療群実験終了時の平均腫瘍重量であり、及びCTWは対照群実験終了時の平均腫瘍重量である。相対的腫瘍抑制率(腫瘍増殖抑制率、TGI)は、治療に対する腫瘍反応を示す指標の一つであり、TGI% = 100% - T/C%である。
【0111】
SI-B001対化学療法対SI-B001+化学療法
SI-B001単剤の全用量群(6、9、12 mg/kg用量)は有意な抗腫瘍効果を有し、TGIはそれぞれ96.76%、97.9%、及び98.8%であった。対照化学療法であるパクリタキセル+カルボプラチンは、良好な抗腫瘍効果を有し、TGIは56.16%であった。SI-B001+パクリタキセル+カルボプラチンの全用量群(6、9、12+20.6+28mg/kg)は、対照化学療法群及びSI-B001単剤群よりも有意に有効であり、TGIはそれぞれ99.2%、99.23%、及び99.38%であった。これは、ヒト頭頸部扁平上皮FaDu異種移植モデルにおいて、SI-B001+パクリタキセル+カルボプラチンの併用が相乗的な抗腫瘍効果を有することを示している(
図4a)。
【0112】
SI-B001+化学療法対セツキシマブ+化学療法
SI-B001単剤の全用量群(6、9、12mg/kg用量)は有意な抗腫瘍効果を示し、TGIはそれぞれ96.76%、97.9%、及び98.8%であった。対照のセツキシマブ単剤のTGIは74.27%で、SI-B001単剤群より有意に弱い。対照のセツキシマブ+パクリタキセル+カルボプラチンの併用は良好な抗腫瘍効果を有し、TGIは79.98%であったが、すべてのSI-B001単剤群(96.76%、97.9%、及び98.8%)及びSI-B001化学療法併用群(99.2%、99.23%、及び99.38%)より有意に弱い(
図4b、4c)。
【0113】
実験を通してマウスの体重を測定した。すべてのSI-B001単剤投与群でマウスの死亡はなく、及び有意な体重減少も認められなかった(
図3b)。これはSI-B001単剤は低い毒性及び良好な安全性を有することを示している。化学療法であるパクリタキセル+カルボプラチンでは、実験終了前に4匹のマウスが死亡し、その死亡率は80%で、且つそのうちの3匹は死亡前に重度の体重減少(≧20%)が認められた。化学療法であるパクリタキセル+カルボプラチン群のマウスの体重は有意に変動した。これは、パクリタキセル+カルボプラチンの化学療法はSI-B001単剤よりも毒性が強く、及び安全性が低いことを示している。SI-B001と化学療法併用群、セツキシマブと化学療法併用群ではマウスの死亡はなく、有意な体重減少も認められなかった。これは、SI-B001+化学療法及びセツキシマブ+化学療法がともに忍容性が高く、及び安全性が高いことを示している。
【0114】
実験終了時に腫瘍保有マウスの腫瘍組織標的を確認するため、マウスを安楽死させた後に腫瘍組織を採取し、FACS分析を用いて腫瘍組織のEGFR及びHER3発現の特徴を調べた(
図3c)。
【0115】
要約すると、CarboTaxol(パクリタキセル及びカルボプラチン)と併用したSI-B001(EGFR-HER3二重特異性抗体)は、Balb/c-nuマウスに移植した腫瘍異種移植片としての頭頸部扁平上皮FaDu細胞株の治療において、併用による薬物活性の増加を示す。このモデルでは、CarboTaxol(パクリタキセル及びカルボプラチン)は腫瘍増殖速度を遅らせることができるが、腫瘍退縮を達成することはできなかった。一方、試験したSI-B001の3つの治療用量のいずれかと組み合わせると、制御することができる(
図3a)。すべての動物が腫瘍体積について評価可能である17日目において、腫瘍体積の有意差(p<0.05)は、CarboTaxol(パクリタキセル及びカルボプラチン)及びSI-B001の3つの組み合わせのすべての間で明らかである(表7)。この証拠に基づくと、SI-B001の併用は化学療法と併用した場合に、治療能力の向上を達成することができる。
【0116】
実施例5.HCC827モデルにおけるSI-B001及びCis/Pem併用療法
Cis/Pemとの併用における実験薬剤SI-B001の抗腫瘍効果及び安全性を評価するため、40匹のメスのヌードマウスに5×106個のHCC827_936細胞を皮下移植し、細胞をPBS(0.1ml/マウス)に再懸濁した。腫瘍が平均体積約163 mm3に成長した時点で、腫瘍のサイズ及びマウスの体重に応じて無作為に群分けし、ヒト頭頸部扁平上皮癌細胞HCC827_936異種移植モデルを確立した。
【0117】
生理食塩水(ビヒクル対照)、SI-B001、シスプラチン、及びペメトレキセドを週1回点滴静注により投与した。SI-B001は9 mg/kg、16 mg/kg、及び28 mg/kgの3種類の用量レジメンで与えた。シスプラチン及びペメトレキセドは、セツキシマブ又はSI-B001と併用する場合は7.72 mg/kg及び51.48 mg/kg、及び単独では3.86 mg/kg及び25.74 mg/kgで与えた(
図5a、表8)。
【0118】
腫瘍体積(mm3) V = 1/2 × (a×b)2、ここでaは長径を表し、bは短径を表す。相対腫瘍体積(RTV)、RTV=Vt/V0、ここでV0は時間0における腫瘍体積、Vtは時間tにおける治療後の腫瘍体積である。T/C値(%)は治療に対する腫瘍反応の指標であり、最も使用される評価指標である。T/C % = TRTV / CRTV × 100%、ここでTRTVは治療群平均RTV、及びCRTVは対照群平均RTVである。T/C値(%)はまた、T/C% = TTW / CTW × 100%として計算することもでき、ここでTTWは治療群実験終了時の平均腫瘍重量であり、及びCTWは対照群実験終了時の平均腫瘍重量である。相対的腫瘍抑制率(腫瘍増殖抑制率、TGI)は、治療に対する腫瘍反応を示す指標の一つであり、TGI% = 100% - T/C%である。
【0119】
ビヒクル対照群のマウスの平均腫瘍体積は24日目に765.1 mm3、対照のCis/Pem群の平均腫瘍体積は24日目に603.1 mm3、及びTGI(%)は21.2%であった(p=0.473)。SI-B001単剤、用量群9/16/28 mg/kg/マウスの24日目の平均腫瘍体積はそれぞれ682. mm3、588.1 mm3、及び205.7 mm3であり、そしてTGI(%)はそれぞれ10.8%、23.1%、及び73.1%であった(ビヒクル対照群との比較、p=0.562、p=0.198、p=0.007)。各用量群におけるSI-B001及びCis/Pemの併用(9/16/28+3.86+25.74 mg/kg/週)は、24日目の平均腫瘍体積が337.7 mm3、335.6 mm3、241.8 mm3に相当し、TGI%は55.9%、56.1%、及び68.4%(対応する用量レベルでのSI-B001単剤と比較して、p=0. 032、p=0.030、p=0.652、Cis/Pemと比較して、p=0.297、p=0.321、p=0.222)であり、抗腫瘍効果は、SI-B001の高用量を除き、対応するSI-B001単剤よりも優れており、及びCis/Pem単剤よりも優れていた。
【0120】
要約すると、Cis/Pemと組み合わせたSI-B001は全体的に高い抗腫瘍効果を有する(
図5a、表9)。抗腫瘍効果はSI-B001単剤及びCis/Pem単剤よりも優れており、相乗的な抗腫瘍効果を示した。そして腫瘍抑制のレベルは、SI-B001の用量増加と正の相関があった。
【0121】
安全性の問題を評価するため、実験を通してマウスの体重を測定した(
図5b)。ビヒクル群#1では、1匹のマウスがD24前に死亡し、死亡率は20%であった。SI-B001単剤低用量群#3では、1匹のマウスがD24前に死亡し、死亡率は20%であった。SI-B001単剤中用量群#4では、2匹のマウスがD24前に死亡し、死亡率は40%であった。SI-B001単剤高用量群#5では、2匹のマウスがD24前に死亡し、死亡率は40%であった。Cis/Pem群#2では、3匹のマウスがD24までに死亡し、死亡率は60%であった。SI-B001低用量及び高用量の併用群#6及び#8では、2匹のマウスがD24前に死亡し、死亡率は40%であった。SI-B001中用量の併用群#7では、1匹のマウスがD24前に死亡し、死亡率は20%であった。死亡数に関しては各群間に明確な傾向は見られなかった。このことから、SI-B001及びCis/Pemを併用しても明らかな毒性はないことが示された。
【0122】
Cis/Pemと併用したSI-B001は、Balb/c-nuマウスに移植した腫瘍異種移植片としての肺がん由来のHCC827細胞株の治療のために併用投与した場合、薬物活性の増加を示す。このモデルでは、Cis/Pemは評価可能な初期の時点では腫瘍増殖速度を遅らせることができるが、腫瘍増殖は最終的には制御できない。単剤では、SI-B001は用量依存的に腫瘍増殖の制御を示した。Cis/Pemを治療用量以下のSI-B001と併用すると、高い制御を達成することができる。
【0123】
この証拠に基づくと、SI-B001の併用は化学療法との併用において治療能力の向上を達成することができる。
【0124】
実施例6:併用療法におけるSI-B001とTKI又は化学療法との相乗効果
Blissの定義に従い、Blissの独立性スコアが0より大きい場合、併用療法は相乗効果を有する。相乗効果のBliss定義を、HCC827異種移植Balb/c-nuマウスモデルで31日間にわたって測定された腫瘍体積データに適用した。このモデルでは、マウスはセツキシマブ、SI-B001低用量(9mg/kg)、SI-B001中用量(16mg/kg)、SI-B001高用量(28mg/kg)、プラチナベースの二重化学療法(シスプラチン及びペメトレキセド)、第3世代TKI(オシメルチニブ)及びそれらの組み合わせで治療した。セツキシマブ、化学療法、及びオシメルチニブは臨床的に同等の用量で投与した(表9)。
【0125】
各治療群における腫瘍増殖率は、線形混合モデル及びDemidenko、2019に規定されているのと同じ仮定を用いて計算した。併用対個々の薬剤の腫瘍増殖比較は、
図6a~6hに示されている。セツキシマブ及びSI-B001をオシメルチニブと併用した場合、いずれも有意な相乗効果を示した(表10)。SI-B001とオシメルチニブの相乗効果は、SI-B001の用量が増加するにつれて増加し、そして、セツキシマブとオシメルチニブの相乗効果よりも強い。SI-B001の高用量とオシメルチニブの併用が最も優れた総合的有効性を示した。セツキシマブ及びSI-B001を化学療法と併用した場合、SI-B001高用量を除き、いずれも有意な相乗効果を示した(表11)。SI-B001の中用量と化学療法との併用が最も優れた総合効果を示した。
【0126】
これらの結果は、TKIと併用した場合にSI-B001の併用が高い治療能力を達成できることを示しており、ヒトでの臨床試験の裏付けとなる(表1)。
【0127】
実施例7:固形がんにおける治療薬としての化学療法と併用したSI-B001の臨床試験
化学療法と併用したSI-B001は、臨床試験においてNSCLC、HNSCC、及びESCCで試験を行っている(表1、それぞれS201、S206、及びS207)。
【0128】
S201試験では、1次治療で抗PD-1/L1単剤療法のみを受けた二次治療NSCLC患者には、SI-B001をAP(Cis/Pem、シスプラチン+ペメトレキセド)又はTP(CarboTaxol、カルボプラチン+パクリタキセル)と併用し、プラチナベースの化学療法及び抗PD-1/L1療法の両方を受けた二/三次治療NSCLC患者には、SI-B001をドセタキセルと併用した。予備報告によると、登録された患者46人のうち91%が男性で、年齢中央値は62.5歳(範囲33~76歳)であった。患者46人のうち、1人はSI-B001+AP/TP療法を受け、45人はSI-B001+ドセタキセル療法を受け、前治療のライン数の中央値は2ラインであった。患者46人のうち、27人が有効性評価の対象となり(少なくとも1回のベースライン後の腫瘍評価)、うち14人はまだ治療中であった。全奏効率(ORR)は33.3%(95%信頼区間、16.5から54.0)、疾患制御率(DCR)は81.5%(95%信頼区間、61.9から93.7)であった。
図7aは腫瘍反応をウォーターフォールプロットで示したものである。この適応症における化学療法と併用したSI-B001の有効性は、化学療法単独と比較して(Schuetteら、2005)、この患者集団における潜在的な利益を示した。
【0129】
S206試験では、前治療の化学療法及び抗PD-1/L1療法に抵抗性の二/三次治療のHNSCC患者に、SI-B001をパクリタキセルと併用する。予備報告によると、登録された患者23人のうち87%が男性で、年齢中央値は56歳(範囲36~75歳)であった。全ての患者は化学療法+免疫療法による前治療を1ライン受けている。患者23人のうち、9人が有効性評価の対象となり(少なくとも1回のベースライン後の腫瘍評価)、うち2人はまだ治療中であった。全奏効率(ORR)は55.6%(95%信頼区間、21.2から86.3)、疾患制御率(DCR)は88.9%(95%信頼区間、51.8から99.7)であった。
図7bは腫瘍反応をウォーターフォールプロットで示したものである。セツキシマブ+化学療法の過去のデータ(Issaら、2021年)と比較すると、SI-B001+パクリタキセル治療による奏効率の向上は、この患者集団におけるより多くの臨床的有用性につながる傾向と思われる。
【0130】
S207試験では、フロントラインのプラチナベースの化学療法及び抗PD-1/L1療法に抵抗性の二次治療のESCC患者に、SI-B001をイリノテカンと併用する。予備報告によると、登録された患者21人のうち90%が男性で、年齢中央値は58歳(範囲、48~70歳)であった。患者21人のうち、15人が有効性評価の対象となり(少なくとも1回のベースライン後の腫瘍評価)、うち6人はまだ治療中であった。全奏効率(ORR)は33.3%(95%信頼区間、11.8から61.6)、疾患制御率(DCR)は80.0%(95%信頼区間、51.9から95.7)であった。腫瘍反応をウォーターフォールプロットで示した(
図7c)。予備的データに基づくと、前治療歴のあるESCC患者において、SI-B001+イリノテカンの有効性は、イリノテカン単独又は他の化学療法との併用の過去のデータ(Burkart et al.、2007)よりも良い可能性がある。
【0131】
要約すると、化学療法と併用したSI-B001は3つの試験すべてにおいて忍容性が良好であった。治療関連死は観察されていない。したがって、有効性及び安全性のデータは、これらの適応症におけるSI-B001のさらなる開発を支持するものである。
【0132】
参照:
Robichaux JP, Le X, Vijayan RSK, et al. Structure-based classification predicts drug response in EGFR-mutant NSCLC. Nature. 2021 Sep;597(7878):732-737.
Wu L, Ke L, Zhang Z, Yu J, Meng X. Development of EGFR TKIs and Options to Manage Resistance of Third-Generation EGFR TKI Osimertinib:Conventional Ways and Immune Checkpoint Inhibitors. Front Oncol. 2020 Dec 18;10:602762.
Rebuzzi SE, Alfieri R, La Monica S, Minari R, Petronini PG, Tiseo M. Combination of EGFR-TKIs and chemotherapy in advanced EGFR mutated NSCLC:Review of the literature and future perspectives. Crit Rev Oncol Hematol. 2020 Feb;146:102820.
Demidenko, E., & Miller, T. W.(2019). Statistical determination of synergy based on Bliss definition of drugs independence. PLoS One, 14(11), e0224137.
Chong CR, Janne PA. The quest to overcome resistance to EGFR-targeted therapies in cancer. Nat Med 2013;19:1389-400.
Lim SM, Syn NL, Cho BC, et al. Acquired resistance to EGFR targeted therapy in non-small cell lung cancer:Mechanisms and therapeutic strategies. Cancer Treat Rev 2018;65:1-10.
Sullivan, I and Planchard, D.(2017) Next-generation EGFR tyrosine kinase inhibitors for treating EGFR-mutant lung cancer beyond first line. Front. Med. 3:76.
Schuette, W., Nagel, S., Blankenburg, T., et al.(2005). Phase III study of second-line chemotherapy for advanced non-small-cell lung cancer with weekly compared with 3-weekly docetaxel. Journal of Clinical Oncology, 23(33), 8389-8395.
Issa, M., Klamer, B., Karivedu, V., et al.(2021). Use of cetuximab added to weekly chemotherapy to improve progression-free survival in patients with recurrent metastatic head and neck squamous cell carcinoma after progression on immune checkpoint inhibitors. Journal of Clinical Oncology > List of Issues > Volume 39, Issue 15_suppl.
Burkart, C., Bokemeyer, C., Klump, B., et al.(2007). A phase II trial of weekly irinotecan in cisplatin-refractory esophageal cancer. Anticancer research, 27(4C), 2845-2848.
【0133】
表
【0134】
【表1】
ヒトがんの例示的な適応症:
201抗PD-1/L1抗体を含有する一次療法又は抗PD-1/L1抗体を含有する後方療法で疾患進行又は不耐容の局所進行又は転移性EGFR野生型ALK野生型NSCLC患者。
206プラチナベースの化学療法を伴う/伴わない抗PD-1/L1モノクローナル抗体による前治療で進行又は不耐容の再発・転移性HNSCC(非上咽頭)患者(過去に最大2ラインの全身療法を受けたことがある)。
207化学療法を伴う/伴わない抗PD-1/L1モノクローナル抗体で疾患進行又は不耐容の再発・転移性ESCC患者。
【0135】
【表2】
注:投与体積はマウス1匹あたり10 ml/kgであった。 腫瘍体積は週2回評価した。
【0136】
【0137】
【表4】
注:投与体積はマウス1匹あたり10 ml/kgであった。腫瘍体積は週2回評価した。
【0138】
【0139】
【表6】
注:投与体積はマウス1匹あたり10 ml/kgであった。セツキシマブの用量「10.5-6.5×3」は、0日目に10.5 mg/kgを投与し、続いてその後6.5 mg/kgを週3回投与することを示す、Pacはパクリタキセル、及びCarはカルボプラチンを意味し、腫瘍体積は週2回評価した。
【0140】
【0141】
【表8】
注:投与体積はマウス1匹あたり10 ml/kgである。Pemはペメトレキセド、Cisはシスプラチンを意味し、腫瘍体積は週2回評価する。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
配列表
>配列番号1:SI-B001、SI-1X6.4 CDRを持つ二重特異性抗体重鎖VHアミノ酸配列。
QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGNTDYNTPFTSRLSINKDNSKSQVFFKMNSLQSNDTAIYYCARALTYYDYEFAYWGQGTLVTVSS
>配列番号2:SI-B001、SI-1x6.4 CDRを持つ二重特異性重鎖scFvドメインアミノ酸配列。
QVQLQESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSSYWMSWVRQAPGKGLEWVANINRDGSASYYVDSVKGRFTISRDDAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDRGVGYFDLWGRGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQSALTQPASVSGSPGQSITISCTGTSSDVGGYNFVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSDRPSGVSDRFSGSKSGNTASLIISGLQADDEADYYCSSYGSSSTHVIFGGGTKVTVL
>配列番号3:SI-B001、SI-1X6.4 二重特異性抗体重鎖全長アミノ酸配列。
QVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGNTDYNTPFTSRLSINKDNSKSQVFFKMNSLQSNDTAIYYCARALTYYDYEFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGGGGGSGGGGSQVQLQESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSSYWMSWVRQAPGKGLEWVANINRDGSASYYVDSVKGRFTISRDDAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDRGVGYFDLWGRGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQSALTQPASVSGSPGQSITISCTGTSSDVGGYNFVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSDRPSGVSDRFSGSKSGNTASLIISGLQADDEADYYCSSYGSSSTHVIFGGGTKVTVL
>配列番号4:SI-B001、SI-1x6.4 CDRを持つ二重特異性抗体軽鎖VLアミノ酸配列。
DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFSGSGSGTDFTLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELK
>配列番号5: SI-B001、SI-1x6.4 二重特異性抗体軽鎖全長アミノ酸配列。
DILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFSGSGSGTDFTLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【配列表】
【国際調査報告】