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特表2024-536278血液脳関門透過用ペプチド及びこの用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】血液脳関門透過用ペプチド及びこの用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240927BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20240927BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240927BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240927BHJP
   C07K 7/00 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240927BHJP
   C07K 14/79 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61K47/65
A61P25/00
A61P35/00
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/22
A61P25/18
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K45/00
A61K48/00
A61K38/18
A61K38/19
A61K38/20
A61K31/713
C07K16/28
C07K7/00
C12N1/19
C12N1/21
C12N1/15
C12N5/10
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K14/79
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519855
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 KR2022014716
(87)【国際公開番号】W WO2023055155
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0130554
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523044378
【氏名又は名称】ナイベック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NIBEC CO., LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】パク ユンジョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ジョンピョン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ ドンウ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC01
4C076CC27
4C076CC29
4C076EE41
4C076EE59
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4C084AA03
4C084AA17
4C084BA44
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4C084DA01
4C084DA12
4C084DA19
4C084DB01
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4C084DB53
4C084DB55
4C084DB56
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA13
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC01
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4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG04
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA13
4C086ZA01
4C086ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA54
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA21
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、血液脳関門透過用ペプチド及びこの用途に関し、より詳細には、血液脳関門透過用ペプチド及び前記ペプチドに抗体、タンパク質または治療用核酸の薬物が結合されている複合体及びこの脳疾患または脳腫瘍の治療または予防用途に関する。
本発明の血液脳関門透過用ペプチドは、脳血管内皮細胞の細胞膜を優れた効率で通過し、前記血液脳関門透過用ペプチドに抗体、タンパク質または治療用核酸等の薬物が結合されたペプチド-薬物複合体は、薬物を脳実質に効果的に伝達し、脳疾患及び脳腫瘍の治療効果を極大化することができるという利点がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳血管内皮細胞表面タンパク質結合ペプチド及び細胞透過性ペプチドが連結されている血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)透過用ペプチド。
【請求項2】
前記脳血管内皮細胞表面タンパク質は、トランスフェリン(transferrin)受容体または低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質(LRP)受容体であることを特徴とする、請求項1に記載の血液脳関門透過用ペプチド。
【請求項3】
前記トランスフェリン受容体結合ペプチドは、配列番号1~配列番号4のいずれか一つのアミノ酸配列で示されることを特徴とする、請求項2に記載の血液脳関門透過用ペプチド。
【請求項4】
前記低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質受容体結合ペプチドは、配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列で示されることを特徴とする、請求項2に記載の血液脳関門透過用ペプチド。
【請求項5】
前記細胞透過性ペプチドは、配列番号7~配列番号10のいずれか一つのアミノ酸配列で示されることを特徴とする、請求項1に記載の血液脳関門透過用ペプチド。
【請求項6】
前記血液脳関門透過用ペプチドは、配列番号11~配列番号58のいずれか一つのアミノ酸配列で示されることを特徴とする、請求項1に記載の血液脳関門透過用ペプチド。
【請求項7】
前記脳血管内皮細胞表面タンパク質結合ペプチド及び細胞透過性ペプチドは、2個~10個のアミノ酸G及び1個~5個のアミノ酸Sからなるスペーサーを介して連結されていることを特徴とする、請求項1に記載の血液脳関門透過用ペプチド。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の血液脳関門透過用ペプチドに薬物が結合されている血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項9】
前記薬物は、抗体、タンパク質または治療用核酸であることを特徴とする、請求項8に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項10】
前記血液脳関門透過用ペプチドと薬物は、リンカーによって連結されていることを特徴とする、請求項8に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項11】
前記薬物が抗体である場合、前記リンカーは、CGGGGであることを特徴とする、請求項10に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項12】
前記抗体は、配列番号59のアミノ酸配列で示されることを特徴とする、請求項9に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項13】
前記タンパク質は、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロピン-4/5、線維芽細胞成長因子(FGF)-2及び他のFGF、ニューロトロピン(NT)-3、エリスロポエチン(EPO)、上皮成長因子(EGF)、形質転換成長因子(TGF)-α、TGF-β、血管内皮成長因子(VEGF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン、GDNFファミリー受容体(GFR)、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球-マクロファージ-CSF及び幹細胞因子(SCF)からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項14】
前記治療用核酸は、DNA、siRNA、miRNA及びmRNAからなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項15】
前記siRNAは、配列番号60 及び配列番号61で示されることを特徴とする、請求項14に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項16】
前記治療用核酸をカチオン性ペプチド、カチオン性高分子またはRNA結合ペプチドと反応させ、1次コンプレックスを製造した後、前記1次コンプレックスをアニオン性アミノ酸またはアニオン性高分子;及びスペーサー;が連結されている請求項1に記載の血液脳関門透過用ペプチドと反応させ、ナノ粒子を形成することを特徴とする、請求項9に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項17】
前記カチオン性ペプチドは、配列番号9のアミノ酸配列で示され、前記カチオン性高分子は、ポリ-L-リシン(poly-L-lysine)、ポリエチレンイミン(polyethylene imine)またはキトサンであり、前記RNA結合ペプチドは、配列番号62~配列番号67のいずれか一つのアミノ酸配列で示され、前記アニオン性アミノ酸は、グルタミン酸(glutamic acid)またはアスパラギン酸(aspartic acid)であり、前記アニオン性高分子は、ヘパリン(heparin)またはヒアルロン酸(hyaluronic acid)であり、前記スペーサーは、5個~10個のグリシン(glycine)であることを特徴とする、請求項16に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体。
【請求項18】
請求項8に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体をコードする核酸。
【請求項19】
請求項18に記載の核酸が導入されている組換えベクター。
【請求項20】
請求項18に記載の核酸または請求項19に記載の組換えベクターが導入されている組換え細胞。
【請求項21】
以下の段階を含む請求項8に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を製造する方法:
(a)請求項20に記載の組換え細胞を培養し、請求項8に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を発現させる段階;及び
(b)前記発現された血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を回収する段階。
【請求項22】
請求項8に記載の血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を含む脳疾患または脳腫瘍の治療または予防用医薬組成物。
【請求項23】
前記脳疾患は、脳炎、パーキンソン病、てんかん、ハンチントン病、アルツハイマー型認知症、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、クロイツフェルトヤコブ病、進行性核上性麻痺、脊髄小脳変性症、小脳萎縮症、多発性硬化症、神経細胞の消失により発生する老人性認知症、脳卒中、健忘症候群、うつ病及び心的外傷後ストレス障害からなる群から選択されることを特徴とする、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記脳腫瘍は、神経膠腫、多形性膠芽細胞腫、髄膜腫、星状細胞腫、聴神経腫瘍、軟骨腫、乏突起膠腫、髄芽腫、神経節膠腫、神経鞘腫、神経線維腫、神経芽細胞腫及び硬膜外、骨髄内または硬膜内腫瘍からなる群から選択されることを特徴とする、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体の1回投与量は、1μg/kg~100mg/kgであることを特徴とする、請求項22に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液脳関門透過用ペプチド及びこの用途に関し、より詳細には、血液脳関門透過用ペプチド及び前記ペプチドに抗体、タンパク質または治療用核酸の薬物が結合されている複合体及びこの脳疾患または脳腫瘍の治療または予防用途に関する。
【背景技術】
【0002】
血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)は、最も強力な生体関門として、脳機能維持に必須な血中物質のみを選択的に通過させることにより、脳の複雑な生理を維持することができるように助ける防御システムである。BBBは、脳血管内皮細胞(brain endothelial cell)から形成された毛細血管とこれを取り巻くアストロサイト(astrocyte)及びペリサイト(pericyte)からなっており、各細胞は、BBB特有の生体関門を堅固にすることに寄与する。脳血管内皮細胞は、他の臓器の内皮細胞とは異なり、密着結合(tight junction)が発達し、300Da以上の親水性物質の細胞間通過を強力に阻害しており、これを物理的関門機能という。また、極性化された内皮細胞には、P-糖タンパク質、MRP1、MRP4、BCRP等、様々な種類の多剤排出ポンプ(efflux pump)が発達しており、疎水性の薬物と結合することにより、薬物の脳組織透過を妨害し、これを代謝的関門機能と呼ぶ。アストロサイトは、形成された脳の毛細血管に向かって突起を伸ばし、血管のほとんどの表面を包むアストロサイト末端(astrocytic endfeet)を形成し、最近では、このような末端(endfeet)がBBBに加わる危害要因を防御し、生体関門を維持する上で中枢的な役割を果たすことが知られている。
【0003】
従って、脳の内側で作用すべき分子量の大きい薬物または低い脳透過率を有する低分子薬物のような神経疾患薬物は、血液脳関門(blood-brain barrier, BBB)を透過することができない。
【0004】
一方、従来の技術は、血液脳関門を通過させるために、脳の毛細血管内皮上で発現された内因性受容体によって媒介されるトランスサイトーシス(transcytosis)経路を用いた。脳血管内皮細胞の表面にトランスフェリン受容体が多数存在するという点に着眼し、トランスフェリン受容体に対する抗体またはペプチドを考案したものであるが、トランスフェリン受容体と結合した抗体は、直接細胞膜を通過することができず、エンドサイトーシス(endocytosis)により、脳血管内皮細胞内に入ることができる。このようにエンドサイトーシスで脳血管細胞内に入ると、エンドソーム(endosome)を形成し、エンドソームから脱出できなければ、リソソーム(lysosome)に移行して分解されるという限界点がある。
【0005】
一方、脳血管内皮細胞には、トランスフェリン以外に低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質(low density lipoprotein receptor(LDLR)-related proteins(LRPs))受容体も存在する。低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質受容体は、LDL粒子をエンドサイトーシスしてBBBを透過させる。このLRPs受容体は、リソソームに移動して分解されることを経ず、神経変性疾患の治療に使用される薬物を伝達するのに有利な受容体である。
【0006】
以前の研究は、血流中に注入されたIgGは、非常に低い比率(約0.1%)でCNS区画内に透過するため[Felgenhauer, Klin. Wschr. 52: 1158-1164 (1974)]、CNS内で非常に制限的な薬物動態学的効果を示すという限界点がある。従って、BBBを横断して薬物を脳に効果的に運搬するための神経疾患薬物の伝達システムが求められているのが現状である。
【0007】
そこで、本発明者らは、トランスフェリン受容体結合ペプチドまたは低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質受容体結合ペプチドに細胞透過性ペプチドを連結した血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)透過用ペプチドを製造し、前記製造されたペプチドがエンドサイトーシスに依存せず、直接脳血管内皮細胞(brain endothelial cell)の細胞膜を通過することができることを確認し、血液脳関門透過用ペプチドに抗体、タンパク質または治療用核酸等の薬物が結合された血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体は、脳実質(brain parenchyma)に効果的に伝達され、脳腫瘍治療効果があることを確認し、本発明を完成した。
【0008】
本背景技術部分に記載された前記情報は、ひとえに本発明の背景に対する理解を向上させるためのものであり、そこで、本発明が属する技術分野において、通常の知識を有する者にとって既に知られている先行技術を形成する情報を含まない場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、脳疾患または脳腫瘍治療用薬物を脳実質に効果的に伝達するための血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)透過用ペプチドを提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、前記血液脳関門透過用ペプチドに薬物が結合されている血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を提供することである。
【0011】
本発明のまた他の目的は、前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を含む脳疾患または脳腫瘍の治療または予防用医薬組成物を提供することである。
【0012】
本発明のまた他の目的は、前記複合体を投与する段階を含む脳疾患または脳腫瘍の予防または治療方法、脳疾患または脳腫瘍の予防または治療のための前記複合体の用途及び脳疾患または脳腫瘍の予防または治療用薬剤の製造のための前記複合体の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、脳血管内皮細胞表面タンパク質結合ペプチド及び細胞透過性ペプチドが連結されている血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)透過用ペプチドを提供する。
【0014】
本発明はまた、前記血液脳関門透過用ペプチドに薬物が結合されている血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を提供する。
【0015】
本発明はまた、前記複合体をコードする核酸を提供する。
【0016】
本発明はまた、前記核酸が導入されている組換えベクターを提供する。
【0017】
本発明はまた、前記核酸または前記組換えベクターが導入されている組換え細胞を提供する。
【0018】
本発明はまた、(a)前記組換え細胞を培養し、前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を発現させる段階;及び(b)前記発現された血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を回収する段階;を含む前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を製造する方法を提供する。
【0019】
本発明はまた、前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を含む脳疾患または脳腫瘍の治療または予防用医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明はまた、前記複合体を投与する段階を含む脳疾患または脳腫瘍の予防または治療方法、脳疾患または脳腫瘍の予防または治療のための前記複合体の用途及び脳疾患または脳腫瘍の予防または治療用薬剤の製造のための前記複合体の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】抗体と血液脳関門透過用ペプチド複合体の模式図である。
図2】siRNAと血液脳関門透過用ペプチド複合体の模式図である。
図3】pcDNA3.4-TOPOで発現され、精製された血液脳関門透過用ペプチドと抗体のSDS-PAGEとウェスタンブロッティングの結果である。
図4図4aは、脳、肝臓、肺、脾臓、腎臓、心臓に分布した血液脳関門透過用ペプチドと抗体の複合体をIVISで観察した結果である。図4bは、脳内部に分布した血液脳関門透過用ペプチドと抗体の複合体を3次元で観察した結果である。
図5】血液と脳に存在する血液脳関門透過用ペプチドと抗体の複合体の濃度である。
図6図6aは、16日目のU87MG-Luc細胞の生物発光を測定した画像である。図6bは、16日間のU87MG-Luc細胞の生物発光を測定した結果である。図6cは、脳腫瘍部位における血液脳関門透過用ペプチドと抗体の複合体の分布を観察した結果である。
図7】血液脳関門透過用ペプチドとsiRNAの複合体を電気泳動で確認した結果である。
図8】透過電子顕微鏡で血液脳関門透過用ペプチドとsiRNAの複合体を確認した結果である。
図9】インビトロBBBモデルで透過された血液脳関門透過用ペプチドとsiRNA複合体の透過率結果である。
図10】脳実質に透過された血液脳関門透過用ペプチドとsiRNA複合体を観察した結果である。
図11】血液脳関門透過用ペプチドとsiRNA複合体によって大脳皮質(cerebral cortex)、小脳(cerebellum)、中脳(mid brain)で減少したβ-カテニンのmRNAレベルをqRT-PCRで測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野における熟練した専門家により通常理解されるものと同じ意味を有する。一般的に、本明細書で使用される命名法及び以下に記述する実験方法は、当該技術分野において周知であり、通常使用されるものである。
【0023】
本発明においては、脳血管内皮細胞に透過された物質がエンドソームからリソソームに移行されることを阻止するために、抗体の代わりにファージディスプレイ技法を用いて、トランスフェリン受容体に結合することができるペプチドを考案した。このトランスフェリン受容体結合ペプチドは、トランスフェリンがトランスフェリン受容体に結合する部分と異なる部分に結合することを特徴とする。さらに、低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質(low density lipoprotein receptor(LDLR)-related proteins(LRPs))受容体結合ペプチドを考案した。
【0024】
トランスフェリン受容体結合ペプチドまたは低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質受容体結合ペプチドと細胞透過機能を有するペプチドを連結することにより、エンドサイトーシスに依存せず、直接脳血管内皮細胞の細胞膜を通過することができる血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)透過用ペプチドを開発し、これをNIPEP-TPP-BBBシャトル(NIBEC Peptide-Target Tissue Penetrating Property-BBB shuttle)と命名した。
【0025】
また、血液脳関門透過用ペプチドのN末端に遺伝子発現法または化学的結合法で抗体、タンパク質または治療用核酸等の薬物を結合し、マウスに静脈注射した時に脳実質に伝達され、膠芽腫(glioblastoma)を誘発した動物に投与した時に腫瘍細胞が減少することを確認した。
【0026】
従って、本発明は、一観点において、脳血管内皮細胞表面タンパク質結合ペプチド及び細胞透過性ペプチドが連結されている血液脳関門(Blood-brain barrier、BBB)透過用ペプチドに関する。
【0027】
本発明において、前記脳血管内皮細胞表面タンパク質は、トランスフェリン(transferrin)受容体または低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質(LRP)受容体であることを特徴とすることができる。従って、前記血液脳関門透過用ペプチドは、トランスフェリン受容体に結合能があるペプチドまたは低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質(LRP)受容体に結合能があるペプチドと細胞透過性ペプチドが連結されていることを特徴とすることができる。
【0028】
本発明において、前記トランスフェリン受容体結合ペプチドは、配列番号1~配列番号4のいずれか一つのアミノ酸配列で示されることを特徴とすることができる。
配列番号1:VPALR
配列番号2:LRRERQSRLRRERQSR
配列番号3:VPALRRERQSRLRRERQSR
配列番号4:HAIYPRH
【0029】
本発明において、用語「トランスフェリン受容体(transferrin receptor)」は、細胞内に鉄が挟み込まれるようにするために、トランスフェリンにある特異的な受容体を意味し、分子量95,000Daのポリペプチド鎖の同種二量体(homodimer)で構成され、そのそれぞれの鎖に鉄イオン二つを結合したトランスフェリンが1分子ずつ結合する。
【0030】
本発明において、用語「トランスフェリン(transferrin)」は、糖タンパク質の一種であり、β-グロブリンが血清中に吸収された2分子の3価鉄イオンと結合した状態で、細胞増殖やヘモグロビン生産に必要な鉄をトランスフェリン受容体を媒介として細胞内に供給する鉄運搬タンパク質を意味し、血清中の鉄99%以上はトランスフェリンと結合する。
【0031】
本発明において、前記低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質受容体結合ペプチドは、配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列で示されることを特徴とすることができる。
配列番号5:YHFNGCEDPLCR
配列番号6:HPWCCGLRLDLR
【0032】
本発明において、用語「低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質受容体(LRP receptor)」は、脳血管内皮細胞、小腸上皮等に多数発現されていることが知られている細胞膜タンパク質を意味し、LDL粒子をエンドサイトーシス(endocytosis)してBBBを透過させる機能をする。
【0033】
本発明において、用語「低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質(low density lipoprotein receptor(LDLR)-related proteins(LRPs)」は、LDL受容体遺伝子ファミリーに属する600kDaの糖タンパク質であり、肝細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、マクロファージと中枢神経系の神経細胞等、様々な組織で発現され(Herz J., et al., EMBO Journal, 20, 4119-27 (1988))、主に肝臓と脳に多く分布しているタンパク質を意味する。中枢神経系におけるLRPの機能は、小脳、大脳皮質、海馬、脳幹で特に重要視されている(Qian Z., et al., Nature, 361, 453-457 (1993))。
【0034】
本発明において、前記細胞透過性ペプチドは、配列番号7~配列番号10のいずれか一つのアミノ酸配列で示されることを特徴とすることができる。
配列番号7:HRRCNKNNKKR
配列番号8:HRRCNPNNKKR
配列番号9:VSRRRRRRGGRRRR
配列番号10:GKCSTRGRKCCRRKK
【0035】
本発明において、前記細胞透過性ペプチドは、前記トランスフェリン受容体結合ペプチドまたは低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質受容体結合ペプチドのN-末端、C-末端、またはN-末端とC-末端の両方に直接連結されていることを特徴とすることができるが、これに制限されない。
【0036】
本発明において、前記血液脳関門透過用ペプチドは、配列番号11~配列番号58のいずれか一つのアミノ酸配列で示されることを特徴とすることができる(表1)。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明において、前記脳血管内皮細胞表面タンパク質結合ペプチド及び細胞透過性ペプチドは、2個~10個のアミノ酸G及び1個~5個のアミノ酸Sからなるスペーサーを介して連結されていることを特徴とすることができる。
【0039】
本発明は、他の観点において、前記血液脳関門透過用ペプチドに薬物が結合されている血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体に関する。
【0040】
本発明において、前記血液脳関門透過用ペプチドと薬物は、リンカーによって連結されていることを特徴とすることができるが、これに制限されない。
【0041】
本発明において、前記薬物は、抗体、タンパク質または治療用核酸であることを特徴とすることができ、前記抗体は、脳疾患を誘発するタンパク質を抑制する抗体であってもよく、前記タンパク質は、神経細胞に関連する成長因子であってもよいが、これに制限されない。
【0042】
本発明において、前記タンパク質は、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロピン-4/5、線維芽細胞成長因子(FGF)-2及び他のFGF、ニューロトロピン(NT)-3、エリスロポエチン(EPO)、上皮成長因子(EGF)、形質転換成長因子(TGF)-α、TGF-β、血管内皮成長因子(VEGF)、グリア細胞株由来神経栄養因子GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン、GDNFファミリー受容体(GFR)、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球-マクロファージ-CSF及び幹細胞因子(SCF)からなる群から選択されることを特徴とすることができる。
【0043】
本発明において、前記抗体は、配列番号59のアミノ酸配列で示されることを特徴とすることができ、膠芽腫(glioblastoma)治療効能がある。
配列番号59:
MAWVWTLLFLMAAAQSIQAEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGKGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKCLEIKRGSENLYFQGGSGKPIPNPLLGLDSTGGSGGSHHHHHH
【0044】
本発明において、前記血液脳関門透過用ペプチドに抗体が結合されている血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体は、遺伝子発現法または化学的結合法で製造することができるが、その製造方法はこれに限定されない。
【0045】
遺伝子発現法で血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を製造する場合、(i)膠芽腫(glioblastoma)を抑制することができる抗体、(ii)血液脳関門透過用ペプチドが共に発現するベクターを用いることができる。本発明においては、大腸菌での発現のためにpETベクターを、哺乳動物細胞での発現のためにpcDNA3.1-TOPO、pcDNA3.4-TOPOベクターを使用した。
【0046】
この場合、前記抗体と前記血液脳関門透過用ペプチドとの間にリンカー配列をさらに含めて発現させることができ、好ましくは、リンカーは、CGGGGであってもよいが、これに制限されない。
本発明において、治療用抗体を遺伝子から発現させて精製した後、これを血液脳関門透過用ペプチドに化学的結合法で結合することができる。
【0047】
本発明において、治療用抗体と血液脳関門透過用ペプチドの血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体は、配列番号1~配列番号4からなる群から選択されるいずれか一つのトランスフェリン受容体結合ペプチド、または配列番号5または配列番号6の低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質受容体結合ペプチドと、配列番号7~配列番号10からなる群から選択されるいずれか一つの細胞透過性ペプチドが、配列番号59の抗体のC-末端にあるシステインまたはFc領域にある糖と化学的結合法で連結されることを特徴とすることができる。これは、図1の抗体と血液脳関門透過用ペプチドの複合体の模式図に示した。
【0048】
血液脳関門透過用ペプチドは、リンカーと架橋剤により、前記抗体と化学的に連結することができる。リンカーは、機能的な構造を形成することができるように空間を付与できるものであれば、どのようなものでも使用することができる。例えば、前記リンカーは、天然及び/または合成起源のペプチド性リンカーであってもよい。天然及び/または合成起源のペプチド性リンカーは、1~50個のアミノ酸からなるアミノ酸鎖からなり得、ヒンジ機能を有するポリペプチドのように、天然発生ポリペプチドの反復的なアミノ酸配列を含むことができる。また他の態様として、前記ペプチド性リンカーアミノ酸配列は、グリシン、グルタミン、及び/またはセリン残基が豊富であるように指定された合成リンカーアミノ酸配列であってもよい。これらの残基は、例えば、5個以下のアミノ酸の小さな反復単位に配列することができ、前記小さな反復単位は、マルチマー単位を形成するように反復して配列することができる。マルチマー単位のアミノ-末端及び/またはカルボキシ-末端で、6個以下の追加の任意の天然発生アミノ酸を添加することができる。その他の合成ペプチド性リンカーは、10~20回反復される単一アミノ酸構成であってもよく、アミノ-末端及び/またはカルボキシ-末端に6個以下の追加の任意の天然発生アミノ酸であってもよい。一方、前記リンカーは、アミノ酸が化学的に変形された形態であってもよく、例えば、ブロッキンググループ(Blocking group)としてFmoc-(9-Fluorenylmethoxycarbonyl)が結合されたFmoc-6-アミノヘキサン酸の形態で使用することができるが、これに限定されない。
【0049】
本発明による一部の態様として、血液脳関門透過用ペプチドのN末端に位置するシステインのスルフヒドリル基は、配列番号59の立体構造で露出した部分にあるリシンのアミン基に連結することができる。
【0050】
この場合、使用可能な架橋剤は、1,4-ビス-マレイミドブタン(1,4-bis-maleimidobutane, BMB)、1,11-ビス-マレイミドテトラエチレングリコール(1,11-bis-maleimidotetraethyleneglycol, BM[PEO]4)、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(1-ethyl-3-[3-dimethyl aminopropyl] carbodiimide hydrochloride, EDC)、スクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチルシクロヘキサン-1-カルボキシ-[6-アミドカプロエート]](succinimidyl-4-[N-maleimidomethylcyclohexane-1-carboxy-[6-amidocaproate]]、SMCC)及びそのスルホン化塩(sulfo-SMCC)、スクシミジル6-[3-(2-ピリジルジチオ)-ロピオナミド]ヘキサノエート](succimidyl 6-[3-(2-pyridyldithio)-ropionamido] hexanoate、SPDP)及びそのスルホン化塩(sulfo-SPDP)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester, MBS)及びそのスルホン化塩(sulfo-MBS)、スクシミジル[4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート](succimidyl[4-(p-maleimidophenyl)butyrate], SMPB)及びそのスルホン化塩(sulfo-SMPB)等があるが、これらに限定されない。
【0051】
本発明において、前記化学的結合法を用いて、血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を製造する方法は、下記の段階を含む:
(a)治療用抗体のC末端にあるシステインまたは露出した部分に存在するリシンのアミン基を架橋剤で活性化する段階;
(b)血液脳関門透過用ペプチドを架橋剤で活性化された前記抗体に連結する段階;及び
(c)前記抗体と血液脳関門透過用ペプチドが結合されている血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を精製する段階。
【0052】
本発明において、前記治療用核酸は、DNA、siRNA、miRNA及びmRNAからなる群から選択されることを特徴とすることができ、好ましくは、前記治療用核酸は、標的遺伝子の発現を抑制または増加させる機能を有する。前記siRNAは、腫瘍誘発タンパク質、脳疾患を誘発するタンパク質をコードする塩基配列に対する相補的な塩基配列を有することができる。
【0053】
本発明の一態様において、突然変異KRASに対するsiRNAを使用して突然変異KRASの発現を抑制し、前記siRNAは、配列番号60及び配列番号61で示されることを特徴とすることができる。
KRAS siRNA配列:
Sense-GUGCAAUGAAGGGACCAGUA(配列番号60);
Anti-sense-UACUGGUCCCUCAUUGCAC(配列番号61)
【0054】
本発明において、前記siRNAは、天然の形態または化学的に変形された形態のsiRNAであってもよい。
【0055】
本発明において、前記治療用核酸をカチオン性ペプチド、カチオン性高分子またはRNA結合ペプチドと反応させ、1次コンプレックスを製造した後、前記1次コンプレックスをアニオン性アミノ酸またはアニオン性高分子;及びスペーサーが連結されている前記血液脳関門透過用ペプチドと反応させ、ナノ粒子を形成することを特徴とすることができる。
【0056】
本発明において、前記カチオン性ペプチドは、配列番号9のアミノ酸配列で示され、前記カチオン性高分子は、ポリ-L-リシン(poly-L-lysine)、ポリエチレンイミン(polyethylene imine)またはキトサンであり、前記RNA結合ペプチドは、配列番号62~配列番号67のいずれか一つのアミノ酸配列で示され、前記アニオン性アミノ酸は、グルタミン酸(glutamic acid)またはアスパラギン酸(aspartic acid)であり、前記アニオン性高分子は、ヘパリン(heparin)またはヒアルロン酸(hyaluronic acid)であり、前記スペーサーは、5個~10個のグリシン(glycine)であることを特徴とすることができるが、これらに制限されない。
【0057】
治療用核酸を血液脳関門を透過させるために、血液脳関門透過用ペプチドにさらにRNA結合ペプチドを導入することができ、RNA結合ペプチドは、配列番号62~配列番号67のいずれか一つのアミノ酸配列で示されることを特徴とすることができる。
配列番号62:CPISQVHEIGIKRNMTVHFKVLREEGPAHMKNF
配列番号63:CPISQVHEIGIKR
配列番号64:CNMTVHFKVLREEG
配列番号65:CPAHMKNFITA
配列番号66:CIVTEGEGNGKKVSKKRAAEKMLVEL
配列番号67:CEGNGKKVSKKRAA
【0058】
配列番号62~配列番号67のペプチドは、配列番号11~配列番号58の複合体のN-末端に連結して使用することができるが、これに限定されない。
【0059】
本発明において、siRNAと血液脳関門透過用ペプチドの複合体は、配列番号1~配列番号4からなる群から選択されるいずれか一つのトランスフェリン受容体結合ペプチドまたは配列番号5または配列番号6の低密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質受容体結合ペプチド;配列番号7~配列番号10からなる群から選択されるいずれか一つの細胞透過性ペプチド;及び配列番号62~配列番号67からなるRNA結合ペプチドと配列番号60及び配列番号61のsiRNAが自己組織化による複合体を形成することを特徴とすることができる。この複合体は、ナノサイズの粒子を形成するものであり、サイズは、10~200nmのサイズであることを特徴とすることができる。
【0060】
本発明において、siRNAと血液脳関門透過用ペプチドの複合体は、2段階で製造することができる。1)siRNAをカチオン性ペプチドまたはカチオン性高分子と先に反応させる。カチオン性ペプチドは、配列番号9のペプチドであってもよく、カチオン性高分子は、ポリ-L-リシン、ポリエチレンイミンまたはキトサンであってもよい。2)その次の段階として、アニオン性アミノ酸またはアニオン性高分子に連結された血液脳関門透過用ペプチドと結合させることができる。この時、血液脳関門透過用ペプチド、スペーサー及びアニオン性アミノ酸の複合体は、配列番号68~配列番号85のいずれか一つのアミノ酸配列で示されることを特徴とすることができる。
【0061】
図2は、siRNAと血液脳関門透過用ペプチドの複合体の模式図である。図2は、治療用核酸がsiRNAである場合を例示的に示した図であり、siRNAがDNA、miRNAまたはmRNAである場合、DNA、miRNAまたはmRNA結合ペプチドと反応させ、1次コンプレックスを製造することができる。血液脳関門透過用ペプチド-治療用核酸複合体は、5個~10個のグルタミン酸またはアスパラギン酸からなるアニオン性アミノ酸、5個~10個のグリシンからなるスペーサー、配列番号7~配列番号10からなる群から選択されるいずれか一つの細胞透過機能性ペプチド、及び配列番号1~配列番号6からなる群から選択されるいずれか一つの脳血管内皮細胞表面タンパク質結合ペプチドが連結されたペプチドを含むことを特徴とすることができる。
配列番号68:EEEGEEEGE-GGGGG-HRRCNKNNKKR-VPALR
配列番号69:EEEGEEEGE-GGGGG-HRRCNPNNKKR-GGGGG-VPALR
配列番号70:EEEGEEEGE-GGGGG-VSRRRRRRGGRRRR-GGGGG-VPALR
配列番号71:EEEGEEEGE-GGGGG-GKCSTRGRKCCRRKK-GGGGG-VPALR
配列番号72:EEEGEEEGE-GGGGG-HRRCNKNNKKR-LRRERQSRLRRERQSR
配列番号73:EEEGEEEGE-GGGGG-HRRCNPNNKKR-LRRERQSRLRRERQSR
配列番号74:EEEGEEEGE-GGGGG-VSRRRRRRGGRRRR-GGGGG-LRRERQSRLRRERQSR
配列番号75:EEEGEEEGE-GGGGG-GKCSTRGRKCCRRKK-LRRERQSRLRRERQSR
配列番号76:EEEGEEEGE-GGGGG-HRRCNKNNKKR-VPALRRERQSRLRRERQSR
配列番号77:EEEGEEEGE-GGGGG-HRRCNPNNKKR-VPALRRERQSRLRRERQSR
配列番号78:EEEGEEEGE-GGGGG-VSRRRRRRGGRRRR-VPALRRERQSRLRRERQSR
配列番号79:EEEGEEEGE-GGGGG-GKCSTRGRKCCRRKK-VPALRRERQSRLRRERQSR
配列番号80:EEEGEEEGE-GGGGG-HRRCNKNNKKR-HAIYPRH
配列番号81:EEEGEEEGE-GGGGG-HRRCNPNNKKR-HAIYPRH
配列番号82:EEEGEEEGE-GGGGG-VSRRRRRRGGRRRR-HAIYPRH
配列番号83:EEEGEEEGE-GGGGG-GKCSTRGRKCCRRKK-HAIYPRH
配列番号84:EEEGEEEGE-GGGGG-VSRRRRRRGGRRRR-GGGGG-YHFNGCEDPLCR
配列番号85:EEEGEEEGE-GGGGG-VSRRRRRRGGRRRR-GGGGG-HPWCCGLRLDLR
【0062】
また、アニオン性アミノ酸であるグルタミン酸またはアスパラギン酸の代わりに、アニオン性高分子であるヘパリンまたはヒアルロン酸を使用することができる。
【0063】
自己組織化により、siRNAと配列番号9のペプチドと先に反応させた後、血液脳関門透過用ペプチドと結合させることができ、この複合体は、ナノサイズの粒子を形成し、サイズは、10~200nmのサイズであることを特徴とすることができる。
【0064】
本発明において、siRNAを含む治療用核酸を前記自己組織化により複合体を形成する方法は、下記の段階を含む:
(a)カチオン性ペプチド、カチオン性高分子、またはRNA結合ペプチドと治療用核酸を先に反応させる段階;
(b)アニオン性ペプチドが導入された血液脳関門透過用ペプチドと反応させる段階;
(c)自己組織化によるナノ粒子形成段階。
【0065】
本発明は、また他の観点において、前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体をコードする核酸に関する。
【0066】
本発明は、また他の観点において、前記核酸が導入されている組換えベクターに関する。
【0067】
本発明において、ベクターは、pETベクター、pcDNA3.4、pcDNA3.1、pcDNA3.1-TOPO、pcDNA3.4-TOPO、pSecTagベクターであってもよいが、これらに限定されず、好ましくは、ベクターは、pETベクターまたはpcDNA3.1-TOPO、pcDNA3.4-TOPOベクターである。
【0068】
本発明は、また他の観点において、前記核酸または前記組換えベクターが導入されている組換え細胞に関する。
【0069】
本発明において、前記組換え細胞は、大腸菌または哺乳動物細胞であることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0070】
本発明において、哺乳動物細胞株は、中国ハムスター卵巣細胞株(CHO: Chinese hamsterovarian cell)、ヒト胎児腎臓細胞株(HEK293: human embryonic kidney cells)であってもよいが、これらに限定されない。
【0071】
本発明は、また他の観点において、以下の段階を含む前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体の製造する方法に関する:
(a)前記組換え細胞を培養し、前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を発現させる段階;及び
(b)前記発現された血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を回収する段階。
【0072】
脳疾患を抑制する抗体のうち、代表的な膠芽腫(glioblastoma)を抑制する抗体またはKRAS突然変異を抑制するsiRNAは、血液脳関門を透過することができないため、治療効果が大きくない。一方、本発明の他の実施例においては、血液脳関門透過用ペプチドと結合された抗体またはsiRNAの脳伝達効果または腫瘍増殖抑制効果を確認した時、試験管内実験及び動物実験の結果の両方から、当該腫瘍細胞の増殖を著しく抑制する効果があることを確認した。
【0073】
従って、本発明は、また他の観点において、前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を含む脳疾患または脳腫瘍の治療または予防用医薬組成物に関する。
【0074】
本発明は、また他の観点において、前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体を投与する段階を含む脳疾患または脳腫瘍の予防または治療方法に関する。
【0075】
本発明は、また他の観点において、脳疾患または脳腫瘍の予防または治療のための前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体の用途に関する。
【0076】
本発明は、また他の観点において、脳疾患または脳腫瘍の予防または治療用薬剤の製造のための前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体の使用に関する。
【0077】
本発明において、脳腫瘍抑制以外に他の脳疾患治療剤として使用することができる抗体または治療用核酸物質を血液脳関門透過用ペプチドと結合して使用することができる。
【0078】
本発明において、前記脳疾患は、脳炎、パーキンソン病、てんかん、ハンチントン病、アルツハイマー型認知症、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、クロイツフェルトヤコブ病、進行性核上性麻痺、脊髄小脳変性症、小脳萎縮症、多発性硬化症、神経細胞の消失により発生する老人性認知症、脳卒中、健忘症候群、うつ病及び心的外傷後ストレス障害からなる群から選択されることを特徴とすることができる。
【0079】
本発明において、前記脳腫瘍は、神経膠腫、多形性膠芽細胞腫、髄膜腫、星状細胞腫、聴神経腫瘍、軟骨腫、乏突起膠腫、髄芽腫、神経節膠腫、神経鞘腫、神経線維腫、神経芽細胞腫及び硬膜外、骨髄内または硬膜内腫瘍からなる群から選択されることを特徴とすることができる。
【0080】
本発明において、前記血液脳関門透過用ペプチド-薬物複合体の1回投与量は、1μg/kg~100mg/kgであってもよく、好ましくは、5μg/kg~50mg/kgであり、1日1回または週1~3回投与することを特徴とすることができるが、投与量と投与間隔はこれに限定されない。
【0081】
本発明において、前記医薬組成物は、注射剤、経口投与用製剤、水溶液、懸濁液、乳濁液等のような液剤(例えば、注射用)、カプセル、顆粒、錠剤、粘膜投与製剤からなる群から選択されるいずれか一つの剤形に製剤化されることを特徴とすることができるが、これらに限定されない。これらの製剤は、当該分野で製剤化に使用される通常の方法またはRemington's Pharmaceutical Science(最新版)、Mack Publishing Company、Easton PAに開示されている方法で製造することができ、各疾患に応じてまたは成分に応じて様々な製剤に製剤化することができる。
【0082】
本発明において、本発明の医薬組成物は、血液脳関門透過用ペプチドと結合された抗体またはsiRNAの複合体以外に、薬剤学的に許容可能な担体を1種以上さらに含むことができる。薬剤学的に許容可能な担体は、生理食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝生理食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール及びエタノールからなる群から選択される一つ以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0083】
本発明の医薬組成物は、必要に応じて、薬剤学的に許容可能な補助剤をさらに含有することを特徴とすることができる。前記補助剤は、賦形剤、希釈剤、分散剤、緩衝剤、抗菌性保存剤、静菌剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤、酸化防止剤、増粘剤及び粘度改質剤からなる群から選択される一つ以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0084】
本発明による医薬組成物は、目的とする方法によって経口投与するか、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができ、投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食事、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度等により、その範囲が専門家の所見によって多様に変更されて使用することができる。
【0085】
以下、実施例を通じて、本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、ひとえに本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0086】
実施例1:血液脳関門透過用ペプチドの合成
アミノ酸及び合成に必要な試薬は、GL biochemとSigma-Aldirichから購入した。ペプチド合成装置を用いて、C末端からF-moc固体相化学合成法でペプチドを合成した。すなわち、ブロッキンググループ(Blocking group)としてFmoc-(9-Fluorenylmethoxycarbonyl)が結合されたリンクレジン(Rink resin)(0.075mmol/g, 100~200 mesh, 1% DVB crosslinking)を使用して合成し、合成機に50mgのリンクレジンを入れた後、DMFでレジンをスウェリング(swelling)させた後、Fmoc-グループの除去のために、20%ピペリジン/DMF溶液を使用した。C末端から配列通りに0.5Mアミノ酸溶液(溶媒:ジメチルホルムアミド、DMF)、1.0M DIPEA(溶媒:ジメチルホルムアミド&Nメチルピロリドン、DMF&NMP)、0.5M HBTU(溶媒:ジメチルホルムアミド、DMF)をそれぞれ5、10、5当量ずつ入れ、窒素気流下で1~2時間反応させた。前記デプロテクション(deprotection)とカップリング(coupling)段階が終わるたびに、DMFとイソプロパノール(Isopropanol)で2回ずつ洗浄する過程を経た。最後のアミノ酸をカップリング(coupling)させた後もデプロテクション(deprotection)をし、Fmoc-グループを除去した。N末端の最後のアミノ酸のF-moc保護基を除去した後、DMF存在下でDIPEA(10当量)、HBTU(5当量)、そしてパルミチン酸(5当量)を添加して合成を進めた。反応時間は、カイザーテストソリューションを使用して陰性の結果が出るまで反応を進め、反応終了後、DMF及びMeOHでレジンを洗浄し、真空オーブンで乾燥した。トリフルオロ酢酸(TFA)切断カクテル(cleavage cocktail)をレジン1g当たり20mlの比率で入れて3時間混合(shaking)させた後、フィルタリングを通じてレジンとペプチドが溶けているカクテルを分離した。フィルターでろ過された溶液を真空蒸発濃縮器(rotary evaporator)を用いて除去した後、コールドエーテル(cold ether)を入れるか、ペプチドが溶けているTFAカクテル溶液に直接コールドエーテルを過量に入れてペプチドを固体相に結晶化させ、これを遠心分離して分離した。この時、エーテルで何度も洗浄と遠心分離の過程を経て、TFAカクテルを完全に除去した。こうして得られたペプチドは、蒸留水に溶解して凍結乾燥した。凍結乾燥完了後、高速液体クロマトグラフィー(Shimadzu, Japan)により分離、精製した。直径4.6mmのC18カラムを用いて、流速1ml/minで0.1% TFA/H2 Oと0.092% TFA/アセトニトリル(acetonitrile)を0~60%の変化を与えながら、30分間流す方法で分析し、この時、紫外線検出器の波長は220nmとした。精製は、直径2.2cmのカラムを用いて、流速20ml/minで溶媒と検出波長を同じ条件で行った。精製されたペプチドの分子量を質量分析法(Mass spectrometry)を通じて確認した。
【0087】
アレキサフルアTM 680 NHSエステル(=Cy5.5-NHS ester, Invitrogen, A37567)1mgと合成されたペプチド2mgを0.1ml DMFに溶解した。0.05mlピリジンを添加した後、50℃ヒートブロックで15分間反応させた。酢酸エチル0.7mlを入れて沈殿を形成させた後、10,000rpmで2分間遠心分離した。上層液を除去した後、酢酸エチル0.7mlを入れて同じ方法で2回洗浄し、空気中で乾燥させた。
【0088】
実施例2:血液脳関門透過用ペプチドと抗体複合体の製造
実施例1の方法を用いて製造された血液脳関門透過用ペプチド(配列番号41)のN-末端にリンカーCGGGGを導入させ、配列番号59の抗体を化学的方法で結合させた。配列番号59の1.02mg抗体を1mL PBSバッファー(pH 8.3)に溶解した。2.12mg SPDP(succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate, ThermoFisher, 21857)を120μL DMSO(Dimethyl sulfoxide)に溶解した。ここに40μL SMCC溶液を添加し、1時間遮光して反応させることを3回繰り返した。反応が終了すると、PD-10デソルティングカラム(GE healthcare)を使用してデソルティングを行い、3.5mLのピリジルジチオール活性化抗体を得た。ここに3次精製水300μLに2.5mgの配列番号42溶液をそれぞれ混合し、1Mトリスバッファー(pH=9)を使用してpH 8.3に調整した。遮光後、4℃で混合しながら、オーバーナイト反応させた。FPLC(Akta Pure, GE healthcare)でヘパリンカラム(HiTrap, GE Healthcare)を使用し、血液脳関門透過用ペプチドが結合された抗体を精製した。
【0089】
動物細胞発現のために、pcDNA3.4-TOPOベクターに配列番号59の抗体のC termに配列番号15~配列番号18の血液脳関門透過用ペプチドが連結された遺伝子配列を合成した。
配列番号59-配列番号15
MAWVWTLLFLMAAAQSIQAEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGKGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKCHRRCNKNNKKR-VPALRLEIKRGSENLYFQGGSGKPIPNPLLGLDSTGGSGGSHHHHHH
配列番号59-配列番号16
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配列番号59-配列番号17
MAWVWTLLFLMAAAQSIQAEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGKGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKCVSRRRRRRGGRRRR-VPALRLEIKRGSENLYFQGGSGKPIPNPLLGLDSTGGSGGSHHHHHH
配列番号59-配列番号18
MAWVWTLLFLMAAAQSIQAEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGKGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKCGKCSTRGRKCCRRKK-VPALRLEIKRGSENLYFQGGSGKPIPNPLLGLDSTGGSGGSHHHHHH
【0090】
pcDNA3.1-TOPOまたはpcDNA3.4-TOPOをEcoR IとBamH Iで切断し、900~960bpのKRAS突然変異scFv遺伝子断片をアガロース電気溶出(agarose electro elution)法で回収した。これをpcDNA3.1-TOPO及びpcDNA3.4-TOPOベクターに挿入するためにPCRにより遺伝子を増幅させ、同時にBamH IとEcoR I制限酵素サイトを合成した。それぞれの切断されたベクターとインサートを4μlと4μlの比率で混合し、Tris-HCl 500mM、MgCl2100mM、DTT 200mM、ATP 10mM組成のライゲーション緩衝溶液でT4 DNAリガーゼを使用し、4℃で16~18時間反応させた。
【0091】
製造されたベクターを中国ハムスター卵巣細胞株Expi-CHO-Sに形質転換させた。中国ハムスター卵巣細胞株ExpiCHO-Sは、Thermo Fisher Scientific(USA)から提供され、ExpiCHOエクスプレッションミディアム(GIBCO, USA)培地で培養した。この後、ExpiCHO-S細胞株(3X108 cells)を250mLディスポーザブル三角フラスコに50mLの培養液に敷いた。50μgのプラスミドが入っている2mLのOpti-MEMに1.84mLのOpti-MEMに希釈したエクスピフェクタミンCHO試薬(Gibco, Cat # A20130)160μLを混合して常温で5分間静止反応させた後、準備された中国ハムスター卵巣細胞に均一に点滴し、18時間37℃、8% CO2恒温器で培養した後、ExpiCHOエンハンサー300μLとExpiCHOフィード12mLを追加して5日間培養した。形質導入(transfection)以後6日後、培養培地を収集し、除菌後、FPLCを使用して精製を行った。カラムは、ニッケルクロマトグラフィー(HisTrapTM excel, GE healthcare)を使用して分離精製し、[20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl, pH 7.4]条件のバッファーでニッケルカラムを予め湿らせて均等にした後、培地を適用した。25mMのイミダゾール(imidazole)が含まれている前記のバッファーを用いて洗浄を行った後、イミダゾールを125mMに増加させてタンパク質を分離した。分離されたタンパク質を集め、デソルティングによりイミダゾールを除去して保管した。
【0092】
図3は、pcDNA3.4-TOPOで発現して精製された血液脳関門透過用ペプチドと抗体のSDS-PAGEとウェスタンブロッティングの結果である。矢印部分が発現された複合体を示す。
【0093】
実験例1:正常動物で血液脳関門透過用ペプチドと抗体複合体の脳伝達効果の確認
ヘアレスマウス(SKH-1、メス、6週齢、オリエントバイオ)にCy5.5が標識された配列番号17の血液脳関門透過用ペプチド、Cy5.5が標識された配列番号59の抗体、Cy5.5が標識された配列番号17の血液脳関門透過用ペプチドと配列番号59抗体の複合体をそれぞれ4mg/kgで静脈注射し、各臓器(脳、肝臓、肺、脾臓、腎臓、心臓)の蛍光をIVIS(Perkin Elmer)を使用し、エキサイテーション:685nm、エミッション:706nmで測定した。また、脳のみを別にOptix MX3(ART Advanced Research Technologies Inc.)を使用して3次元画像を測定した。図4は、血液脳関門透過用ペプチドと抗体の複合体の動物における脳デリバリーを観察した結果である。
【0094】
図4(a)に示すように、Cy5.5が標識された配列番号17の血液脳関門透過用ペプチドとCy5.5が標識された配列番号17の血液脳関門透過用ペプチド及び配列番号59の抗体複合体を注射した場合、脳で蛍光を観察することができた。しかし、Cy5.5が標識された配列番号59の抗体は、脳で蛍光を観察することができなかった。また、図4(b)の3次元画像から分かるように、Cy5.5が標識された配列番号17の血液脳関門透過用ペプチドとCy5.5が標識された配列番号17の血液脳関門透過用ペプチド及び配列番号59の抗体複合体を注射した場合、脳内部まで透過された程度が大きかった。しかし、配列番号59の抗体は、脳の内部で観察される程度が低かった。
【0095】
実験例2:正常動物における血液脳関門透過用ペプチドと抗体複合体の血液及び脳組織における濃度の確認
対照細胞透過用ペプチド(TAT)と配列番号59の抗体を実施例2の発現法と同じ方法で製造し、cy5.5を標識した。実施例2で製造したN termにCGGGGが導入された配列番号41の血液脳関門透過用ペプチド及び配列番号59の抗体の複合体にCy5.5を標識した。配列番号59の抗体にCy5.5を標識し、ヘアレスマウス(SKH-1、メス、6週齢、オリエントバイオ)にそれぞれ10mg/kgで静脈注射した。24日までの脳と血液の濃度をIVIS(Perkin Elmer)を使用し、エキサイテーション:685nm、エミッション:706nmで測定し、その結果を図5に示した。
【0096】
抗体単独投与時、12日以内に血液から全てが消失した。TATと連結された抗体及び配列番号41の血液脳関門透過用ペプチドと連結された抗体の両方が24日まで維持された。しかし、配列番号41の血液脳関門透過用ペプチド及び抗体複合体の血中濃度がより高かった。
【0097】
また、抗体単独投与時、脳組織で蛍光が測定されなかった。TATが連結された抗体は、静脈注射4日後、脳組織で初期用量の2.4%の蛍光が測定された。配列番号41の血液脳関門透過用ペプチド及び配列番号59の抗体複合体は、静脈注射4日後、脳組織で初期用量の約7%が測定された。これは、配列番号41の血液脳関門透過用ペプチドと配列番号59の抗体複合体が脳伝達効率がより高いことを証明する結果である。
【0098】
実験例3:脳腫瘍動物モデルを用いた脳腫瘍治療効果の確認
脳腫瘍動物モデルを用いて、血液脳関門透過用ペプチドと抗体の複合体が脳に透過し、脳腫瘍を抑制することと、脳実質に分布することを測定した。具体的には、10%FBS及び1%抗生物質が添加されたDMEM培地でルシフェラーゼを発現するU87MG膠芽腫であるU87MG-Luc 2(ATCC, HTB-14-LUC2TM)細胞を培養した。5~7週齢のヌードマウス(オリエントバイオ)をイソフルランで麻酔させ、定位固定装置内のイヤーバーを用いて固定させた。手術部位の頭皮を切開した後、ブレグマ(bregma)の右側2mm、下方向2mmに滅菌ドリルを用いて穴を開けた。この後、前記穴を通じて1.0×105/10μL U87MG-Luc-2細胞を26Gハミルトンシリンジで注入し(1μl/min)、注入後、穴をボーンワックスで塞いで縫合して頭皮を閉じた。移植された膠芽腫の増殖は、ルシフェラーゼの基質であるD-ルシフェリンカリウム(15mg/mL dissolved in PBS, sigma)を150mg/kgでマウスに注射し、10分後に犠牲にし、生物発光をIVIS(Perkin Elmer)を使用して測定し、図6に結果を示した。
【0099】
膠芽腫を移植して4日後から1mg/kgのCGGGG-配列番号41の血液脳関門透過用ペプチドと配列番号59の抗体の複合体、1mg/kgの配列番号59の抗体をそれぞれ静脈注射した。投与間隔は、3日ごとに計4回で、16日まで観察した。図6は、脳腫瘍動物モデルにおいて、血液脳関門透過用ペプチドと抗体の複合体が脳に透過し、脳腫瘍を抑制することと、脳実質に分布することを観察した結果である。図6(a)は、16日目のU87MG-Luc細胞の生物発光をIVISで観察した写真である。図6(b)は、4、10、16日間IVISでU87MG-Luc細胞の生物発光を測定した結果である。16日間、生物発光を観察した結果、膠芽腫を移植して治療をしなかった群は、生物発光が引き続き増加した。これは、移植した脳腫瘍細胞が多く生存していることを意味する。抗体のみを投与した時にも脳腫瘍細胞が多く生存したが、CGGGG-配列番号41の血液脳関門透過用ペプチドと配列番号59の抗体の複合体を注射した時は、脳腫瘍細胞による生物発光が減少した。
【0100】
同じ動物モデルにcy5.5で標識されたCGGGG-配列番号41の血液脳関門透過用ペプチドと配列番号59の抗体の複合体を犠牲にする8時間前に注射し、脳を摘出した。凍結切片にした後、共焦点顕微鏡で蛍光の分布を観察した。図6(c)でcy5.5で標識されたCGGGG-配列番号41の血液脳関門透過用ペプチドと配列番号59の抗体の複合体は、脳腫瘍が発生した部分に分布していることを確認した。
【0101】
実施例3:血液脳関門透過用ペプチド及びRNA結合ペプチドとsiRNAの複合体の製造
配列番号60及び配列番号61のsiRNAと配列番号62のRNA結合ペプチド及び配列番号40の血液脳関門透過用ペプチドを一定の比率で混合し、自己組織化によりナノ粒子を製造した。RNA結合ペプチドと血液脳関門透過用ペプチドを5μg/μLの濃度で、RNase, DNaseフリー&PCR認証水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。siRNAを1μg/μLの濃度でRNase, Dnaseフリー&PCR認証水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。siRNA溶液と血液脳関門透過用ペプチドの混合比は、1:10~1:20で、siRNA 10μLに血液脳関門透過用ペプチド溶液12μL(1:10)を2μLずつ分けて混合し、30分以上放置した。配列番号63-配列番号40、配列番号64-配列番号40、配列番号65-配列番号40、配列番号66-配列番号40、配列番号67-配列番号40の血液脳関門透過用ペプチドも前記のような方法で配列番号60及び配列番号61のsiRNAと複合体を形成した。
【0102】
図7は、血液脳関門透過用ペプチドとsiRNAの複合体を電気泳動で確認した結果である。siRNA単独は下に移動するが、複合体は下降しないことを確認した。
【0103】
実施例4:血液脳関門透過用ペプチド及びカチオン性ペプチドとsiRNAの複合体の製造
実施例4-1:トランスフェリン受容体結合ペプチドを含む血液脳関門透過用ペプチド及びKRAS siRNAの複合体の製造
配列番号9のカチオン性ペプチドを5μg/μLの濃度でRNase, Dnaseフリー&PCR認定水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。配列番号60及び配列番号61のsiRNAを1μg/μLの濃度でRNase, Dnaseフリー&PCR認定水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。siRNA溶液と配列番号9のペプチドの混合比率を1:10とし、siRNA 10μLに配列番号9のペプチド溶液12μL(1:10)を2μLずつ分けて混合し、30分以上放置した。
【0104】
配列番号70の血液脳関門透過用ペプチドを1μg/μLの濃度でRNase, Dnaseフリー&PCR認定水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。siRNAと配列番号9のペプチド混合液に配列番号70の血液脳関門透過用ペプチド溶液12μLを2μLずつ分けて混合し、30分以上放置した。透過電子顕微鏡(TEM, JEOL, JEM 1010)を用いて形成された複合体を確認した(図8(a))。
【0105】
実施例4-2:トランスフェリン受容体結合ペプチドを含む血液脳関門透過用ペプチド及びβ-カテニンsiRNAの複合体の製造
配列番号64のRNA結合ペプチドを5μg/μLの濃度でRNase, DNaseフリー&PCR認定水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。β-カテニンsiRNA(Dhamacon, #J-040628-05)を1μg/μLの濃度でRNase, DNaseフリー&PCR認定水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。siRNA溶液とRNA結合ペプチドの混合比率を1:10とし、siRNA 10μLにRNA結合ペプチド溶液12μL(1:10)を1μLずつ分けて混合し、30分以上放置した。
【0106】
配列番号70の血液脳関門透過用ペプチドを1μg/μLの濃度でRNase, DNaseフリー&PCR認定水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。β-カテニンsiRNAと配列番号64のRNA結合ペプチド混合液に配列番号70の血液脳関門透過用ペプチド溶液12μLを1μLずつ分けて混合し、30分以上放置した。透過電子顕微鏡(TEM, JEOL, JEM 1010)を用いて形成された複合体を確認した(図8(b))。
【0107】
実施例4-3:β-カテニンsiRNA及びLRP結合ペプチドを含む血液脳関門透過用ペプチドの複合体の製造
配列番号64のペプチドを5μg/μLの濃度でRNase, DNaseフリー&PCR認定水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。配列番号60及び配列番号61のsiRNAを1μg/μLの濃度でRNase, DNaseフリー&PCR認定水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。siRNA溶液とペプチド伝達体の混合比率を1:10とし、siRNA 10μLに配列番号64のペプチド溶液12μL(1:10)を1μLずつ分けて混合し、30分以上放置した。配列番号84の血液脳関門透過用ペプチドを1μg/μLの濃度でRNase, DNaseフリー&PCR認定水(Tech&Innovation, BWA-8000)に溶解した。siRNAと配列番号64のペプチド混合液に配列番号84の血液脳関門透過用ペプチド溶液12μLを2μLずつ分けて混合し、30分以上放置した。透過電子顕微鏡(TEM, JEOL, JEM 1010)を用いて形成された複合体を確認した(図8(c))。
【0108】
図8は、透過電子顕微鏡で血液脳関門透過用ペプチドとsiRNAの複合体を確認した結果であり、それぞれの製造された複合体は、サイズ100nmの粒子を形成することを確認した。
【0109】
実験例4:インビトロBBBモデルにおける透過能の確認
アレキサフルアTM 488(Invitrogen)で標識されている配列番号60及び配列番号61のsiRNAを使用し、実施例4-1と同じ方法で血液脳関門透過用ペプチドとの複合体を製造し、インビトロBBBモデルを使用して透過能を評価した。対照群としてリポフェクタミンTM 2000(Invitrogen)をメーカーの方法に従ってアレキサフルアTM 488(Invitrogen)で標識されている配列番号60及び配列番号61のsiRNAと反応させた。カルチャーインサートのアッパーチャンバー(corning)に不滅化したマウス脳内皮細胞(bEnd.3, CRL-2299, ATCC)5×104/wellをシーディングし、24ウェルに入れた。ロアーチャンバーに800μLダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を入れた。培地は2日ごとに交替した。経内皮電気抵抗(TEER)測定装置(World Precision Instruments, Inc., Sarasota)を使用して細胞層の緻密性をモニターし、TEER値が200 Ω cm2以上である時に実験を行った。FBSが含まれないDMEMに培地を交替し、Cy5.5で標識された配列番号70の血液脳関門透過用ペプチドと配列番号60及び配列番号61のsiRNAの複合体、リポフェクタミンTM 2000と配列番号60及び配列番号61のsiRNA複合体をそれぞれ200nMの濃度でアッパーチャンバーに加えた。組み立てたトランスウェルをシェイキングインキュベーターで37℃、50rpmで1、4、8時間放置した。ロアーチャンバー(basolateral compartment)から500μLを取り、同じボリュームの新しい培地で再び満たした。実験終了時にTEER値を再度確認した。透過された複合体の比率(transport ratio, %)は、分光蛍光光度計(Thermo Scientific, USA)を使用し、蛍光感度を測定した。実施例4-2と実施例4-3も前記と同じ方法でインビトロBBBモデルで透過能を測定した。
【0110】
図9は、インビトロBBBモデルで透過された血液脳関門透過用ペプチドとsiRNA複合体の透過度の結果である。実施例4-1の複合体は、時間が増加するにつれ、その透過程度が増加した(図9(a))。また、細胞に処理してから8時間後、リポフェクタミンと配列番号60及び配列番号61のsiRNAの複合体よりも透過程度が6倍高かった。実施例4-2と4-3の複合体も4時間まで測定した時、リポフェクタミンTMより透過程度が8~10倍高いことが分かった(図9(b)及び図9(c))。
【0111】
これは、実施例4の複合体がsiRNAを効果的にBBBを透過させることを意味する。
【0112】
実験例5:正常動物における血液脳関門透過用ペプチドとsiRNA複合体の脳伝達効果の確認
アレキサフルアTM 680(Invitrogen)で標識されている配列番号60及び配列番号61のsiRNAを使用し、実施例4-1と同じ方法で血液脳関門透過用ペプチドと複合体を製造した。
【0113】
ヘアレスマウス(SKH-1、メス、6週齢、オリエントバイオ)に実施例4-1の複合体と配列番号60及び配列番号61のsiRNAをそれぞれ150μg/kgで静脈注射し、5時間後に脳を摘出し、蛍光を共焦点顕微鏡(Carl Zeiss LSM700)で観察した。
【0114】
アレキサフルアTM 488(Invitrogen)で標識されているβ-カテニンsiRNAを使用し、実施例4-2、4-3と同じ方法で血液脳関門透過用ペプチドと複合体を製造した。
【0115】
ヘアレスマウス(SKH-1、メス、6週齢、オリエントバイオ)に実施例4-2と4-3の複合体とβ-カテニンsiRNAをそれぞれ1mg/kgで静脈注射し、1時間後に脳を摘出し、蛍光を共焦点顕微鏡(Carl Zeiss LSM700)で観察した。
【0116】
図10は、脳実質に透過された血液脳関門透過用ペプチドとsiRNA複合体を観察した結果である。実施例4-1の複合体が配列番号60及び配列番号61のsiRNAを効果的に脳の内部に伝達することが分かった(図10(a))。また、実施例4-2、4-3の複合体もβ-カテニンsiRNAを効果的に脳の内部に伝達することが分かった(図10(b))。
【0117】
実験例6:正常動物における血液脳関門透過用ペプチドとβ-カテニンsiRNA複合体による脳組織でのβ-カテニン遺伝子抑制の確認
脳組織に伝達されたβ-カテニンsiRNAがβ-カテニンmRNAを効果的に減少させるかを観察した。
【0118】
8週齢のマウス(C57BL/6、オリエントバイオ)を購入し、実施例4-2と実施例4-3と同じ方法で複合体を製造し、2.5mg/kgと10mg/kg(siRNAベース)の用量で静脈注射した。注射24時間、96時間後、PBSで20mlずつ3回灌流を行い、脳組織から血液を除去した。cerebral cortex(大脳皮質)、cerebellum(小脳)とmid brain(中脳)を分離し、脳組織にあるβ-カテニンmRNAをqRT-PCR(Thermo Fisher - QuantStudio 3)で測定した。PCT条件及び使用されたプライマー配列をそれぞれ表2及び表3に示した。
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
図11は、それぞれの脳領域において、β-カテニンmRNAを測定した結果である。実施例4-2(図11(a))、4-3(図11(b))の複合体ともにβ-カテニンmRNAを効果的に減少させた。注射後24時間よりも96時間の時に、β-カテニンmRNAがより減少し、投与用量が増加するにつれ、β-カテニンmRNAの数値が減少した。また、脳の領域別に類似にβ-カテニンmRNAの数値が減少したことから、複合体が各脳領域に伝達されたことを確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の脳血管内皮細胞表面タンパク質結合ペプチドに細胞透過性ペプチドが連結された血液脳関門透過用ペプチドは、脳血管内皮細胞の細胞膜を優れた効率で通過し、前記血液脳関門透過用ペプチドに抗体、タンパク質または治療用核酸等の薬物が結合されたペプチド-薬物複合体は、薬物を脳実質に効果的に伝達し、脳疾患及び脳腫瘍の治療効果を極大化することができるという利点がある。
【0123】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単に好ましい実施態様に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されない点は明らかであろう。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物によって定義されるといえる。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2024536278000001.xml
【国際調査報告】