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特表2024-536283鋳型なしRNA合成用の核酸ポリメラーゼ変異体、キット及びその方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】鋳型なしRNA合成用の核酸ポリメラーゼ変異体、キット及びその方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/12 20060101AFI20240927BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C12N9/12 ZNA
C12N15/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519868
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 US2022077242
(87)【国際公開番号】W WO2023056344
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/249,819
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524120011
【氏名又は名称】ワイディー バイオラブス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YD BioLabs CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】4F., No. 2, Sec. 2, Shengyi Rd., Zhubei City, Hsinchu County 302058, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100210675
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 潤
(72)【発明者】
【氏名】チョン-ヤオ、チェン
(72)【発明者】
【氏名】イー-ウェン、チョン
(72)【発明者】
【氏名】ユイ、ティン、フン
(72)【発明者】
【氏名】ウェン-ティン、チェン
(57)【要約】
鋳型なしRNA合成用の核酸ポリメラーゼ変異体、キット及びその方法を提供することを課題とする。
本発明は、核酸ポリメラーゼ変異体及びそれを含むキットに関するものであり、前記核酸ポリメラーゼ変異体は、耐熱方法でリボヌクレオチド(rNTP)を用いて鋳型なし核酸合成を実施できるため、より理想的な機能及び活性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンセンサス配列(配列番号1)の706~730位及び843位にそれぞれ対応するAモチーフ及びBモチーフと、
前記Aモチーフ、前記Bモチーフ、又はこれらの組み合わせ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換と、
を含むRNAポリメラーゼ変異体であって、
3’→5’エキソヌクレアーゼ活性が低下又は欠失している、RNAポリメラーゼ変異体。
【請求項2】
配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16又は17からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼから修飾される、請求項1に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項3】
前記野生型ファミリーBDNAポリメラーゼは、サーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)、好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)、メタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)DNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のDNAポリメラーゼII(Pae)、大腸菌(Escherichia.coli)のDNAポリメラーゼII(Eco)、バクテリオファージRB69のDNAポリメラーゼ(RB69)、バクテリオファージT4のDNAポリメラーゼ(T4)又はバチルスファージPhi29のDNAポリメラーゼ(Phi29)である、請求項2に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項4】
前記コンセンサス配列(配列番号1)の349~364位に対応するExoIモチーフを含み、前記ExoIモチーフ内の位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、請求項1に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項5】
i.配列番号1の715位に対応するアミノ酸L又はMは、A、C、D、F、G、H、K、N、Q、S、W或いはYで置換され、
ii.配列番号1の716位に対応するアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号1の717位に対応するアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項6】
配列番号2の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)に由来し、
i.配列番号2の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号2の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号2の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項7】
配列番号2の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)に由来し、
i.配列番号2の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号2の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号2の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され
iv.配列番号2の485位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項8】
配列番号3の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、
i.配列番号3の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号3の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号3の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項9】
配列番号3の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、
i.配列番号3の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号3の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号3の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、
iv.配列番号3の485位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項10】
配列番号4の野生型アミノ酸配列を有する好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、
i.配列番号4の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号4の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号4の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項11】
配列番号4の野生型アミノ酸配列を有する好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、
i.配列番号4の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号4の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号4の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、
iv.配列番号4の485位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項12】
配列番号5の野生型アミノ酸配列を有するパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、
i.配列番号5の409位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号5の410位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号5の411位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項13】
配列番号5の野生型アミノ酸配列を有するパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、
i.配列番号5の409位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号5の410位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号5の411位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、
iv.配列番号5の486位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項14】
配列番号6の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、
i.配列番号6の411位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号6の412位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号6の413位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項15】
配列番号6の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、
i.配列番号6の411位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号6の412位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号6の413位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、
iv.配列番号6の488位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項16】
配列番号7の野生型アミノ酸配列を有するメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、
i.配列番号7の485位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号7の486位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号7の487位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項17】
配列番号7の野生型アミノ酸配列を有するメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、
i.配列番号7の485位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号7の486位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号7の487位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、
iv.配列番号7の565位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項18】
配列番号8の野生型アミノ酸配列を有するピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、
i.配列番号8の426位にあるアミノ酸MはA、C、D、F、G、H、K、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号8の427位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号8の428位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項19】
配列番号8の野生型アミノ酸配列を有するピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、
i.配列番号8の426位にあるアミノ酸MはA、C、D、F、G、H、K、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号8の427位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号8の428位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、
iv.配列番号8の508位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項20】
配列番号9の野生型アミノ酸配列を有するスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、
i.配列番号8の426位にあるアミノ酸MはA、C、D、F、G、H、K、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号9の519位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号9の520位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項21】
配列番号9の野生型アミノ酸配列を有するスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、
i.配列番号9の518位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、
ii.配列番号9の519位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、
iii.配列番号9の520位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、
iv.配列番号9の601位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される、
請求項4に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項22】
天然に存在するヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、又はそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つのヌクレオチドを伸長可能なイニシエーターに付加することによって、鋳型なし方法で核酸を合成する鋳型なし核酸合成活性を示す、請求項1に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項23】
前記伸長可能なイニシエーターは、一本鎖オリゴヌクレオチドイニシエーター、平滑末端(blunt-end)二本鎖オリゴヌクレオチドイニシエーター又はこれらの混合物を含む、請求項22に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項24】
前記伸長可能なイニシエーターは、液相中で反応した遊離核酸である、請求項22に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項25】
前記伸長可能なイニシエーターは、固相担体上に固定されており、前記固相担体としては粒子、ビーズ、スライド、アレイ表面、膜、フローセル、孔、マイクロウェル、ナノウェル、チャンバー、マイクロ流体チャンバー、チャネル又はマイクロ流体チャネルが挙げられる、請求項22に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項26】
前記少なくとも1つのヌクレオチドは、検出可能な標識と連結される、請求項22に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項27】
前記少なくとも1つのヌクレオチドは、リボースを含む、請求項22に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項28】
10℃~100℃の反応温度で前記鋳型なし核酸合成活性を示す、請求項22に記載のRNAポリメラーゼ変異体。
【請求項29】
配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ修飾に由来するRNAポリメラーゼ変異体を含み、前記RNAポリメラーゼ変異体は、天然に存在するヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、又はそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのヌクレオチドを伸長可能なイニシエーターに付加することで、所望の核酸配列を合成する鋳型なし核酸合成活性を示す、デノボ酵素的核酸合成を実施するためのキット。
【請求項30】
イニシエーターオリゴヌクレオチドを用意するステップ(a)と
RNAポリメラーゼ変異体を用意するステップ(b)と、
少なくとも1つのヌクレオチドを前記イニシエーターオリゴヌクレオチドの3’末端に付加するのに十分な条件下で、前記イニシエーターオリゴヌクレオチド、前記RNAポリメラーゼ変異体及び前記少なくとも1つのヌクレオチドを組み合わせてRNAオリゴヌクレオチドを合成するステップ(c)と
を含む鋳型なしRNAオリゴヌクレオチド合成方法であって、
前記RNAポリメラーゼ変異体は、
コンセンサス配列(配列番号1)の706~730位及び843~855位にそれぞれ対応するAモチーフ及びBモチーフと、
前記Aモチーフ、前記Bモチーフ又はこれらの組み合わせ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換とを含み、
前記RNAポリメラーゼ変異体は、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性が低下又は欠失している、
RNAオリゴヌクレオチド合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年09月29日に出願された米国仮出願番号第US63/249,819号の優先権を主張し、その全内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリメラーゼ変異体及びそれを含むキットに関し、特に、デノボ酵素的核酸合成(de novo enzymatic nucleic acid synthesis)用のポリメラーゼ変異体及びそれを含むキットに関するが、本発はこれらに限定されない。
【背景技術】
【0003】
学術分野であろうと産業分野であろうと、オリゴヌクレオチドの合成はバイオテクノロジー研究の多くの側面にとって極めて重要である。しかし、数十年前に開発された伝統的な化学合成方法には多くの限界があり、特にリボ核酸(以下、RNAと略称する)デノボ合成(de novo RNA synthesis)に当てはまり、ゲノム工学技術、RNAベースの診断、治療、配列決定技術、核酸情報保存、さらにはバイオコンピューティングの推進に多大な投資をしてきた人々にとっては、この技術は明らかにまだ手の届かないところにある。RNAの化学合成は、強力な化学試薬と生体適合性のない有機溶媒を必要とする長い反応ステップに悩まされる。これらの反応条件は、多くの場合、ヌクレオチド塩基の脱プリン化(depurination)、配列全体からの予期せぬ挿入(insertion)又は欠失、及び望ましくない切断産物をもたらすオリゴヌクレオチドの早期不可逆的なキャッピング(irreversible capping)を引き起こす。これらの問題により、RNA合成の全体的なエラー率が大幅に増加し、RNAオリゴヌクレオチドの合成長が制限され(120ヌクレオチド未満)、所望の産物収率を得るまでに長いリードタイムが必要になる。なお、RNAオリゴヌクレオチドの化学合成は毒性があり、多大な労力を要する。したがって、現在のRNAオリゴヌクレオチド合成における様々な限界を克服することが重要な課題となっている。
【0004】
酵素ベースのデノボ核酸合成は、数十年前から使用されている有毒な化学的ホスホラミダイトベースの核酸合成に代わる新たな無毒性の方法である。全ての生物は、核酸を効率的に複製するために核酸ポリメラーゼに依存している。核酸複製メカニズムに応じて、ほとんどの核酸ポリメラーゼは合成と成長する核酸鎖へのヌクレオチドの取り込みを誘導するための鋳型を必要とする。核酸合成の鋳型依存性の方法では、ポリメラーゼがプライマーの3’末端にヌクレオチドを付加する前に、ポリメラーゼがプライマー鋳型核酸と結合しなければならない。
【0005】
しかし、ほとんどの複製核酸ポリメラーゼとは異なり、Xファミリーのターミナルデオキシヌクレオチジル トランスフェラーゼ(Terminal deoxynucleotidyl Transferase;Tdt)は、核酸合成中にヌクレオチドを付加するための鋳型に依存しない、独特の中温性酵素(mesophilic enzyme)である。Tdtでは、ヌクレオチドの合成と成長するイニシエーターDNA又はプライマーへの取り込みを誘導するため、短いイニシエーターDNA或いはプライマーのみが必要である。以前の研究により、Tdtはわずかな区別でデオキシリボヌクレオチド(dNTP)とリボヌクレオチド(rNTP)の両方を組み込むことができることが明らかになった(非特許文献1)。しかし、Tdtは伸長して最大約4~5個のリボヌクレオチドからなる新たに合成されたRNA鎖を形成することしかできず、実際には、リボ核酸又はリボ核酸/デオキシリボ核酸混合基質を使用したさらなる合成におけるTdtの取り込み効果は理想的ではないことが分かり、したがってTdtはRNAデノボ合成の反応には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第11136564号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Boule,JB et al.The Journal of biological chemistry(2001)
【非特許文献2】Proc.Natl.Acad.Sci.USA96,3600-3605
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の多様な構造と機能の関係により、天然に存在する複製核酸ポリメラーゼは、デノボリボ核酸合成の基質としてリボヌクレオチド(rNTP)を容易に利用できない。したがって、オーダーメイド・修飾核酸ポリメラーゼは、各種核酸合成への応用にとって必須の前提条件となる。
【0009】
本発明者は、ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体のアミノ酸配列において、前記ポリメラーゼに鋳型非依存性(template independence)を付与し、リボヌクレオチドに対する前記ポリメラーゼのヌクレオチド基質結合親和性を高める上で重要な役割を果たす新規な位置/領域を発見することで、鋳型なしRNA合成法のために新しい可能性を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
具体的には、本発明の一態様は、コンセンサス配列(配列番号1)の706~730位及び843位にそれぞれ対応するAモチーフ及びBモチーフと、Aモチーフ、Bモチーフ、又はこれらの組み合わせ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換とを含むRNAポリメラーゼ変異体を提供し、前記RNAポリメラーゼ変異体は、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性が低下又は欠失している。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16又は17からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼから修飾される。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、前記野生型ファミリーBDNAポリメラーゼは、サーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)、好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)、メタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)DNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のDNAポリメラーゼII(Pae)、大腸菌(Escherichia.coli)のDNAポリメラーゼII(Eco)、バクテリオファージRB69のDNAポリメラーゼ(RB69)、バクテリオファージT4のDNAポリメラーゼ(T4)又はバチルスファージPhi29のDNAポリメラーゼ(Phi29)である。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、コンセンサス配列(配列番号1)の349~364位に対応するExoIモチーフを含み、かつ前記RNAポリメラーゼ変異体は前記ExoIモチーフ内の位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。好ましくは、本発明の一実施形態によれば、前記RNAポリメラーゼ変異体において、配列番号1の715位に対応するアミノ酸L又はMは、A、C、D、F、G、H、K、N、Q、S、W或いはYで置換され、配列番号1の716位に対応するアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号1の717位に対応するアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、選択されたRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号2の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)に由来し、配列番号2の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号2の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号2の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号2の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)に由来し、配列番号2の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号2の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号2の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、配列番号2の485位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号3の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、配列番号3の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号3の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号3の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号3の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、配列番号3の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号3の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号3の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、配列番号3の485位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号4の野生型アミノ酸配列を有する好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、配列番号4の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号4の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号4の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号4の野生型アミノ酸配列を有する好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、配列番号4の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号4の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号4の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、配列番号4の485位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号5の野生型アミノ酸配列を有するパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、配列番号5の409位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号5の410位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号5の411位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号5の野生型アミノ酸配列を有するパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、配列番号5の409位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号5の410位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号5の411位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、配列番号5の486位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号6の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、配列番号6の411位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号6の412位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号6の413位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号6の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、配列番号6の411位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号6の412位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号6の413位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、配列番号6の488位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号7の野生型アミノ酸配列を有するメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、配列番号7の485位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号7の486位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号7の487位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号7の野生型アミノ酸配列を有するメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、配列番号7の485位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号7の486位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号7の487位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、配列番号7の565位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号8の野生型アミノ酸配列を有するピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、配列番号8の426位にあるアミノ酸MはA、C、D、F、G、H、K、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号8の427位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号8の428位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号8の野生型アミノ酸配列を有するピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、配列番号8の426位にあるアミノ酸MはA、C、D、F、G、H、K、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号8の427位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号8の428位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、配列番号8の508位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号9の野生型アミノ酸配列を有するスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、配列番号9の518位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号9の519位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号9の520位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、配列番号9の野生型アミノ酸配列を有するスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、配列番号9の518位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、配列番号9の519位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号9の520位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、配列番号9の601位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換される。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、天然に存在するヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、又はそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つのヌクレオチドを伸長可能なイニシエーターに付加することによって、鋳型なし方法で核酸を合成する鋳型なし核酸合成活性を示す。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、前記伸長可能なイニシエーターは、一本鎖オリゴヌクレオチドイニシエーター、平滑末端(blunt-end)二本鎖オリゴヌクレオチドイニシエーター又はこれらの混合物を含む。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、前記伸長可能なイニシエーターは、液相中で反応した遊離核酸である。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、前記伸長可能なイニシエーターは、固相担体上に固定されており、前記固相担体としては粒子、ビーズ、スライド、アレイ表面、膜、フローセル、孔、マイクロウェル、ナノウェル、チャンバー、マイクロ流体チャンバー、チャネル又はマイクロ流体チャネルが挙げられる。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、前記少なくとも1つのヌクレオチドは、検出可能な標識と連結される。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、前記少なくとも1つのヌクレオチドは、リボースを含む。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、代表的なRNAポリメラーゼ変異体は、10℃~100℃の反応温度で前記鋳型なし核酸合成活性を示す。
【0037】
本発明の別の態様は、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ修飾に由来するRNAポリメラーゼ変異体を含み、前記RNAポリメラーゼ変異体は、天然に存在するヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、又はそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのヌクレオチドを伸長可能なイニシエーターに付加することで、所望の核酸配列を合成する鋳型なし核酸合成活性を示すデノボ酵素的核酸合成を実施するためのキットを提供する。
【0038】
本発明の別の態様は、イニシエーターオリゴヌクレオチドを用意するステップ(a)と、RNAポリメラーゼ変異体を用意するステップ(b)と、少なくとも1つのヌクレオチドを前記イニシエーターオリゴヌクレオチドの3’末端に付加するのに十分な条件下で、イニシエーターオリゴヌクレオチド、RNAポリメラーゼ変異体及び少なくとも1つのヌクレオチドを組み合わせて前記RNAオリゴヌクレオチドを合成するステップ(c)とを含む鋳型なしRNAオリゴヌクレオチド合成方法を提供する。特定のRNAポリメラーゼ変異体は、コンセンサス配列(配列番号1)の706~730位及び843~855位にそれぞれ対応するAモチーフ及びBモチーフと、Aモチーフ、Bモチーフ又はこれらの組み合わせ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換とを含み、かつRNAポリメラーゼ変異体は、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性が低下又は欠失している。
【発明の効果】
【0039】
したがって、本発明は、核酸鋳型の非存在下での様々な反応温度での核酸合成のため複数種のヌクレオチドの取り込みにおいて改良された性能を示す特定のRNAポリメラーゼ変異体に関する。具体的に言えば、前記RNAポリメラーゼ変異体は様々なヌクレオチド及びヌクレオチド類似体を幅広く利用できる特性により、RNAデノボ合成法を効率的に実施できる。
【0040】
本発明の上記と他の目的、特徴、利点及び実施形態をより明白かつ理解しやすくするため、図面を以下のように説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1-1】本発明に係る野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)のアミノ酸配列アラインメント及びそのコンセンサス配列を示す図である。
図1-2】本発明に係る野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)のアミノ酸配列アラインメント及びそのコンセンサス配列を示す図である。
図1-3】本発明に係る野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)のアミノ酸配列アラインメント及びそのコンセンサス配列を示す図である。
図1-4】本発明に係る野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)のアミノ酸配列アラインメント及びそのコンセンサス配列を示す図である。
図1-5】本発明に係る野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)のアミノ酸配列アラインメント及びそのコンセンサス配列を示す図である。
図2A】本発明の実施例3.1のRNA合成反応の結果を示す図である。
図2B】本発明の実施例3.1のRNA合成反応の結果を示す図である。
図3A】本発明の実施例3.2のRNA合成反応の結果を示す図である。
図3B】本発明の実施例3.2のRNA合成反応の結果を示す図である。
図4A】本発明の実施例3.3のRNA合成反応の結果を示す図である。
図4B】本発明の実施例3.3のRNA合成反応の結果を示す図である。
図5A】本発明の実施例3.4のRNA合成反応の結果を示す図である。
図5B】本発明の実施例3.4のRNA合成反応の結果を示す図である。
図6A】本発明の実施例3.5のRNA合成反応の結果を示す図である。
図6B】本発明の実施例3.5のRNA合成反応の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(配列表に関する記載)
本出願は、電子形式で配列表とともに提出される。前記配列表が入ったテキストファイルの名称はP222338TW-配列表.XMLで、2022年9月28日に提出された英語版のP222338US_ sequence_listing.XMLに基づいて作成されるものであり、サイズは34kbである。この配列表の関連情報は、その全内容が引用により本明細書に組み込まれる。
【0043】
(定義)
本明細書で使用される用語は、本発明の範囲内に広く包含され、各用語を使用する特定の文脈で一般に、関連分野における通常の意味を有する。本明細書では、当業者が本発明の関連する説明を理解できるように、本発明を説明するために使用されるいくつかの用語を以下又は本明細書の他の場所で論じられる。同じ文脈では、同じ用語は同じ範囲と意味を持つ。さらに、同じことを表現する方法が複数あるため、本明細書で論じられている用語は代替の用語や同義語に置き換えられることができ、用語が本明細書で指定又は説明されているかどうかは、特別な意味を持たない。本明細書では、ある用語の同義語が提供されているが、1つ以上の同義語の使用は、他の同義語の使用を除外しない。
【0044】
本明細書で使用される場合、「一つ」、及び「前記」の意味は、文脈が別途明確に示さない限り、複数とも解釈することができる。また、本明細書では、文脈上明らかに別段の指示がない限り、「又は」という用語は「及び/又は」という用語と交換可能に使用することができる。
【0045】
さらに、本明細書において、物又は方法がそれぞれ成分或いはステップを「包括」又は「含む」場合、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、物又は方法は、他の成分或いはステップをさらに含み得るが、排除するものではない。なお、読者の便宜上、明細書にはタイトル又はサブタイトルが使用されることがあるが、本発明の範囲に影響を与えない。
【0046】
本明細書で使用される「アミノ酸」とは、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質に取り込むことができる任意の単量体ユニットを指す。本明細書で使用される「アミノ酸」という用語には、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン酸(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp)又はD)、システイン(CyS又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リジン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)、及びバリン(Val又はV)といった20の天然又は遺伝子コードのα-アミノ酸が含まれる。「X」残基が明確に定義されていない場合、これらのアミノ酸を「任意のアミノ酸」と定義する。
【0047】
「機能的に等価」又は「等価」という用語は、特異性のファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)変異体及び本明細書で提供される誘導RNAポリメラーゼ変異体のいずれかを記述するために使用される。配列比較又は参照配列分析に基づいて、この誘導RNAポリメラーゼ変異体が持っている特定のアミノ酸位置の置換或いは突然変異は、その他のPolB若しくはPolB変異体における同等のアミノ酸位置で起こると考えられる置換或いは突然変異であり、こられの等価位置は、酵素内で同じ機能的又は構造的役割を持つ。等価位置は、相同体、保存されたモチーフ(conserved motif)、ユーザー定義或いは派生したコンセンサス配列に基づいて定義できる。
【0048】
一般に、相同なPolBは、類似又は同一のアミノ酸配列及び機能構造を有するため、異なるPolB間の等価のアミノ酸置換変異は、通常、相同なアミノ酸位置で生じる。本明細書で使用される「機能的に等価」又は「等価」という用語は、変異アミノ酸の実際の機能に関係なく、タンパク質配列又は構造アラインメントの観点から所与の突然変異と「相同」又は「位置的に等価」な突然変異も包含する。実際には、異なるポリメラーゼの「機能的に等価」、「相同」、及び/又は「位置的に等価」のアミノ酸残基は、タンパク質配列又は構造アラインメントに基づいて同定できる。したがって、図1は位置参照配列としてコンセンサス配列(配列番号1)を使用し、複数の野生型PolBに対して種間アラインメントを行った結果を示している。
【0049】
例えば、野生型サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)のアミノ酸配列の141位にあるアスパラギン酸(D)をアラニン(A)に置換する(D141Aと略称する)と、野生型大腸菌ファージRB69DNAポリメラーゼ(RB69)のアミノ酸配列の保存された残基114位のDをAに置換することと機能的に等価と見なされる(D114Aと略称する)。これらの等価のアミノ酸置換を記述するために位置参照配列が使用される場合、Kod1の141位のアミノ酸殘基及びRB69の114位のアミノ酸殘基は機能的に等価な位置であり、両方の機能的に等価な位置はコンセンサス配列(配列番号1)の354位に対応する。
【0050】
「保存された」という用語は、異なる供給源からの異なるPolBの相同又は等価の位置に同じアミノ酸残基を有するポリメラーゼの断片を意味する。「半保存」という用語は、異なる供給源からの異なるPolBの相同又は等価の位置に特性が類似或いは同一のアミノ酸残基を有するポリメラーゼの断片を意味する。
【0051】
「核酸」、「核酸配列」、「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」及び「核酸断片」という用語は、一本鎖又は二本鎖の形態のリボ核酸(RNA)或いはデオキシリボ核酸(DNA)を指す。DNA)配列のソース及び長さは本明細書では限定されず、一般に天然に存在するヌクレオチド或いは人工の化学模倣物を含む。本明細書で使用される「核酸」という用語は、天然又は非天然の「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」、「DNA」、「RNA」、「遺伝子」、「相補的DNA」(cDNA)及び「メッセンジャーRNA」を含む用語と互換的に使用され得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「核酸」、「オリゴヌクレオチド」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、リボ核酸(RNA)或いはデオキシリボ核酸(DNA)ポリマーに対応し得るポリマー若しくはその類似体を指す。これは、ヌクレオチド(RNAやDNAなど)のポリマー、及び合成型、その修飾(例えば化学的又は生化学的に修飾された)型、及び混合ポリマー(例えばRNAサブユニットとDNAサブユニットの両方を含む)を含む。修飾の例としては、メチル化、類似体での天然ヌクレオチドの1つ以上の置換、無電荷結合のようなヌクレオチド間修飾(例えばメチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミダート、カルバマート等)、懸垂部分(例えばポリペプチド)、挿入剤(例えばアクリジン、ソラーレン等)、キレート剤、アルキル化剤及び修飾結合(例えばアルファアノマー核酸等)が挙げられる。また、水素結合や他の化学的相互作用を通じて指定配列に結合するポリヌクレオチドを模倣する能力を有する合成分子も含まれる。核酸の合成型は他の結合(例えばNielsen et al.(Science 254:1497-1500,1991)に記載されるようなペプチド核酸)を含むことができるが、典型的には、ヌクレオチドモノマーはホスホジエステル結合を介して結合する。核酸には、例えば染色体又は染色体セグメント、ベクター(例えば発現ベクター)、発現カセット、裸のDNA又はRNAポリマー、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物、オリゴヌクレオチド、プローブ及びプライマーがなりえる。又は核酸はそれらを含むことができる。核酸は例えば、一本鎖、二本鎖、又は三本鎖であることができ、特定の長さに限定されない。他に断りがない限り、特定の核酸配列は、明示された任意の配列に加え、相補的配列を任意に含んでなるか、又はコードする。
【0053】
上述のように、本明細書で使用される「核酸」には、天然に存在するRNA及びDNAと機能的又は構造的に等価な化合物或いは人工核酸を表す「核酸類似体」も含まれる。核酸類似体は、修飾ヌクレオチドの1つ以上の構成要素(リン酸骨格、ペントース糖、及び核酸塩基)を有する場合がある。ヌクレオチドに対するそのような修飾は、核酸の構造及び幾何学的形状、ならびに核酸ポリメラーゼとの相互作用を変化させる。核酸類似体には、新種の形態の糖骨格を持つように設計されたXNAなどの新興の人工核酸も含まれる。
【0054】
核酸類似体の例としては、4つの標準塩基(canonical base)すべてと塩基対を形成できる、イノシン、3-ニトロピロール、及び5-ニトロインドールなどのユニバーサル塩基、核酸の骨格特性に影響を与える、ペプチド核酸(PNA)などのリン酸糖骨格類似体、アミン反応性アミノアリル(amine-reactive aminoallyl)ヌクレオチド、チオール含有ヌクレオチド、ビオチン結合ヌクレオチド、ローダミン(rhodamine)結合ヌクレオチド、及びシアニン結合ヌクレオチドなどの化学リンカー或いはは蛍光団(fluorophore)結合類似体、2-アミノプリン(2-aminopurine,2-AP)、3-メチルイソキサントプテリン(3-methylisoxanthopterin,3-MI)、6-メチルイソキサントプテリン(6-MI)、4-アミノ-6-メチルイソキサントプテリン(4-amino-6-methylisoxanthopterin,6-MAP)、及び4-ジメチルアミノピリジン(4-dimethylaminopyridine,DMAP)などの蛍光塩基類似体、蛍光レポーター色素と結合したオリゴヌクレオチド(ALEXA、FAM、TET、TAMRA、CY3、CY5、VIC、JOE、HEX、NED、PET、ROX、Texas Redなど)及び/又は蛍光消光剤(BHQ)などの様々な遺伝的応用のための核酸プローブ、ステムループ構造と二重蛍光団及び消光剤(fluorophore-and-quencher)標識を含む一本鎖核酸プローブであるモレキュラービーコン(MB)、及び核酸アプタマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書で使用される「鋳型」という用語は、所望の又は未知の標的ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド或いはポリヌクレオチド模倣物である。場合によっては、用語「標的配列」、「鋳型ポリヌクレオチド」、「標的核酸」、「標的ポリヌクレオチド」、「核酸鋳型」、「配列鋳型」、及びそれらの変形は互換的に使用される。具体的には、「鋳型」という用語は、鋳型依存性又は鋳型指向性の核酸ポリメラーゼの複製を通じてヌクレオチド或いはヌクレオチド類似体から相補的コピーが合成される一本鎖核酸(又は核酸鎖)を指す。従来の定義では、核酸二重らせんに位置する鋳型鎖は「下側」の鎖として描かれ、説明される。同様に、非鋳型鎖は「上側」の鎖として描かれ、説明されることがよくある。「鋳型」鎖は「センス」又は「プラス」鎖とも呼ばれ、非鋳型鎖は「アンチセンス」又は「マイナス」鎖と呼ばれることもある。
【0056】
本明細書で使用される「イニシエーター」という用語は、核酸ポリメラーゼが出発物質として核酸のデノボ(de novo)合成を開始する、単一のヌクレオシド、単一のヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド又はこれらの修飾類似体を指す。「イニシエーター」という用語は、異種核酸(XNA)或いは3’-ヒドロキシル基を有するペプチド核酸(PNA)を指す場合もある。
【0057】
本明細書で使用される場合、「ヌクレオチドの取り込み」、「類似体の取り込み」、「取り込みヌクレオチド」及び「取り込み類似体」という用語は当業者に知られており、核酸合成のプロセス又は反応を説明するために使用される。したがって、本明細書で使用される「取り込み」という用語は、核酸イニシエーター又はプライマーの3’-ヒドロキシル末端に1つ以上のヌクレオチド、或いは任意の特定の核酸前駆体を付加することを柔軟に指すことが知られている。
【0058】
さらに本明細書で使用される「ヌクレオチド類似体」という用語は、典型的なヌクレオチドの構造模倣物である化学的に修飾されたヌクレオチド或いは人工ヌクレオチドを示すことが当業者に知られている。これらのヌクレオチド類似体は、核酸ポリメラーゼが合成するための基質として機能することができる。ヌクレオチド類似体は、ヌクレオチドの1つ以上の変更された構成要素(例えば、リン酸骨格、ペントース糖、核酸塩基)を有する場合があり、これらの変更された構成要素は、ヌクレオチドの構造及び配置を変更するだけでなく、他の核酸塩基及び核酸との相互作用にも影響を与える。例えば、変更された核酸塩基を有するヌクレオチド類似体は、選択のため、DNA若しくはRNAに別の塩基対合及び塩基スタッキング特性を与えることができる。さらに、一例として、塩基での修飾により、イノシン、イノシン、メチル-5-デオキシシチジン、デオキシウリジン、ジメチルアミノ-5-デオキシウリジン、ジアミノ-2,6-プリン又はブロモ-5-デオキシウリジン、及びハイブリダイゼーションを可能にする他の任意の類似体などのさまざまなヌクレオシドが生成される可能性がある。他の例示的な実施形態において、これらの修飾は、糖部分のレベル(例えば、類似体によるデオキシリボースの置換)及び/又はリン酸官能基レベル(例えば、ボロン酸塩、アルキルホスホン酸塩(alkylphosphonate)、或いはホスホロチオエート誘導体)で起こり得る。ヌクレオチド類似体モノマーのリン酸官能基は、一リン酸、二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸、及び六リン酸からなる群から選択され得る。
【0059】
他のヌクレオチド類似体の例として、除去可能な保護基部分(blocking mooiety)を有するヌクレオチドも含まれる。除去可能な保護基部分の例としては、3’-O-保護基部分、塩基保護基部分、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。3’-O-保護基部分の例としては、O-アジド(O-N)、O-アジドメチル、O-アミン、O-アリル、O-フェノキシアセチル、O-メトキシアセチル、O-アセチル、O-(p-トルエン)スルホン酸塩、O-リン酸塩、O-硝酸塩、O-[4-メトキシ]-テトラヒドロチオピラニル、O-テトラヒドロチオピラニル、O-[5-メチル]-テトラヒドロフラニル、O-[2-メチル,4-メトキシ]-テトラヒドロピラニル、O-[5-メチル]-テトラヒドロピラニル、O-テトラヒドロチオフラニル、O-2-ニトロベンジル、O-メチル及びO-アシルが挙げられるが、これらに限定されない。塩基保護基部分の例は、可逆的ダイターミネーターであり得る。可逆的ダイターミネーターの例としては、Illumina MiSeqの可逆的ダイターミネーター、Illumina HiSeqの可逆的ダイターミネーター、Illumina Genome Analyzer IIXの可逆的ダイターミネーター、Helicos Biosciences Heliscopeの可逆的ダイターミネーター、及びLaserGenのLightning Terminatorsの可逆的ダイターミネーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
本明細書で使用される場合、「ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)」とは、全ての生命ドメイン及び多数のDNAウイルスにおいて最も一般的な鋳型依存性核酸ポリメラーゼ又はレプリカーゼを指す。ほとんどの核酸ポリメラーゼと同様に、天然のPolBはヌクレオチジルトランスフェラーゼ反応を触媒してプライマー末端の3’-ヒドロキシル(3’-OH)にヌクレオチドを付加するには、末端に遊離の3’-ヒドロキシル官能基を持つ二本鎖プライマー鋳型、4つ全てのヌクレオシド三リン酸(dATP、dTTP、dCTP、及びdGTP)、及び触媒作用をもたらす二価カチオン(Mg2+又はMn2+など)を必要とする。細菌PolIIや古細菌ファミリーB型DNAポリメラーゼなどのPolB酵素は、本質的に触媒ポリメラーゼドメイン(catalytic polymerase domain)と、核酸複製中に成長するプライマー鎖から誤って取り込まれたヌクレオチドを除去するために使用される3’→5’エキソヌクレアーゼドメイン(exonucleolytic domain,校正ドメインとも呼ばれる)を含む複製型と修復型ポリメラーゼである。「3'→5'エキソヌクレアーゼドメイン」(Exoドメインと略称する)という用語は、プライマー又はポリヌクレオチド鎖の3'末端から核酸分解活性を発揮するポリメラーゼのアミノ酸配列の領域を指す。同様に「触媒ポリメラーゼドメイン」という用語は、プライマー又はポリヌクレオチド鎖の3’末端にヌクレオチドを付加することによって触媒DNA/RNAポリメラーゼ活性を発揮するように機能するポリメラーゼのアミノ酸配列の領域も指す。
【0061】
現在知られているPolB触媒ポリメラーゼドメインは、均しくヒトの右手の形状に似ており、主要な機能領域がそれぞれ指、手のひら、及び親指のサブドメインとして特徴付けられている。最も保存されている領域は、手のひらのサブドメインであり、触媒作用に必須の残基が含まれている。異なる生命界及びDNAウイルスに由来する各種ファミリーB型DNAポリメラーゼ間のタンパク質配列アラインメントによりPolBポリメラーゼが基本的なエキソヌクレアーゼヌクレアーゼ及びポリメラーゼ機能を果たすため、一般に6つの半保存或いは保存されたモチーフ(I~VI)を保持していることが明らかになる。最初の3つの配列モチーフ(ExoI、ExoII、ExoIII)は、3’→5’エキソヌクレオシドドメインにあり、他の3つのモチーフ(それぞれA、B及びCモチーフと呼ばれる)はポリメラーゼドメインにある(1999年Hopfnerらは特許文献2に発表)。本発明のいくつかの実施形態において、いかなる理論にも拘束されることなく、ファミリーB型DNAポリメラーゼの前記モチーフにいくつかの新規な位置/領域修飾があり、ポリメラーゼがそれにより鋳型なし(すなわち、非鋳型依存性)RNAポリメラーゼとしてデノボRNA合成を効果的に触媒できること。後天的に獲得されたデノボRNA合成活性に基づいて、これらの修飾されたファミリーB型DNAポリメラーゼは、鋳型なしRNAポリメラーゼ変異体と呼ばれる。換言すれば、これらのRNAポリメラーゼ変異体は、反応を阻害する条件下で、rATP、rUTP、rCTP、rGTPなどのリボヌクレオチドをイニシエーターオリゴヌクレオチドの3’末端に取り込むことができる。
【0062】
本明細書で使用する場合、本発明の文脈における「突然変異体」(mutant)という用語は、対応する機能的DNAポリメラーゼと比較して1つ以上のアミノ酸置換を含む、通常は組換え型ポリペプチドを指す。
【0063】
本明細書で使用される場合、本発明の文脈において、「異なる配列に対応する」(例えば、領域、断片、ヌクレオチド又はアミノ酸の位置など)は、ヌクレオチド又はアミノ酸の位置番号に従った番号付けの慣例に基づいており、次に、配列の同一性(identity)百分率を最大化する方法で配列を整列させることを意味する。「特定の配列のX位に対応する」アミノ酸とは、特定の配列に等価なアミノ酸と整列させる目的のポリペプチド中のアミノ酸を指す。一般に、本明細書に記載されるように、ポリメラーゼの位置に対応するアミノ酸は、アラインメントアルゴリズム(BLASTなど)及びアミノ酸配列アラインメントを実行するための他のツールを使用して決定できる。所定の「対応する領域」内の全ての位置が同一である必要はないので、対応する領域内の一致しない位置を、「対応する位置」と見做し、或いは定義してもよい。従って、本明細書で使用する場合に、「特定のDNAポリメラーゼのアミノ酸位置Xに対応するアミノ酸位置」は、他のDNAポリラーゼ及び構造相同体及びファミリーでの整列に基づく等価な位置を指している。
【0064】
本明細書で使用される「配列番号1のコンセンサス配列」という用語は、異種間ファミリーB型DNAポリメラーゼの保存或いは半保存されたアミノ酸を含む参照配列を指す。配列番号1のコンセンサス配列は、保存されたアミノ酸を得るため、サーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)、好熱菌属(Thermococcus sp.)(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma)、メタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のDNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)、緑膿菌DNAポリメラーゼII(Pae)、大腸菌DNAポリメラーゼII(Eco)、バクテリオファージ(Escherichia coli phage)RB69のDNAポリメラーゼ(RB69)、バクテリオファージT4のDNAポリメラーゼ(T4)及びバチルスファージ(Bacillus phage)Phi29のDNAポリメラーゼ(Phi29)といった16種類の野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼをアラインメントすることによって生成された仮想配列である。これらのPolB配列をアラインメントして、機能的に等価な位置の参照となるアラインメント配列を得する。
【0065】
本発明でいうExoIモチーフ、ExoIIモチーフ、ExoIIIモチーフ、Aモチーフ、Bモチーフ及びCモチーフの位置は、本発明の配列番号1のコンセンサス配列を用いて本発明者により定義されたものであるため、本発明で定義されるモチーフの位置は文献又は先行技術に記載されているものと完全に同じではないことに留意されたい。
【0066】
(目的)
本発明者は、実験の結果、典型的なヌクレオチド、ヌクレオチド類似体及びイニシエーターを利用する鋳型なしのポリヌクレオチド合成においてより良好な機能及び活性を有するPolB変異体を発見した。これらのPolB変異体は、鋳型の非存在下で典型的なヌクレオチド或いはヌクレオチド類似体をイニシエーターに効率的に付加して、ランダム又は限定の配列を有するポリヌクレオチドを合成することができる。
【0067】
より具体的に言えば、本発明者は、PolB変異体が、所望の核酸配列を有するポリヌクレオチドを生成するため、rATP、rUTP、rCTP及びrGTPなどの天然リボヌクレオチド(rNTP)の、鋳型の非存在下での一本鎖核酸イニシエーター又は平滑末端(blunt end)の二本鎖核酸イニシエーターの3’-OH末端への付加を効率的に触媒できることを見出した。さらに、本発明のPolB変異体は、一般に、より広範な基質特異性を有し、これは、PolB変異体が、天然に存在するヌクレオチドだけでなく、様々な修飾ヌクレオチド及び核酸類似体もデノボ核酸合成に利用できることを意味する。したがって、修飾ヌクレオチドは、特定の機能性ポリヌクレオチドを生成するため、イニシエーターに取り込まれるようにさらに設計することができる。よって、本発明のPolB変異体は、所望の配列及び特徴を備えたポリヌクレオチドを合成するために使用される、鋳型なしの酵素触媒核酸合成反応に対して、より広い応用範囲及びより高い実用性を提供する。
【0068】
(ファミリーB型DNAポリメラーゼのタンパク質配列アラインメント)
図1は、本発明者が用いた16種類の異なる野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)のアミノ酸配列アラインメントの結果を示し、アラインメントを通じてコンセンサス配列(配列番号1)が得られた結果を下に示す。アラインメントに用いた16種類の野生型PolBは、それぞれサーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo,配列番号2)、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1,配列番号3)、好熱菌属(Thermococcus sp.)(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N,配列番号4)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu,配列番号5)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent,配列番号6)、メタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac,配列番号7)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis,配列番号8)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso,配列番号9)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma,配列番号10)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD,配列番号11)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のDNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD,配列番号12)、緑膿菌DNAポリメラーゼII(Pae,配列番号13)、大腸菌DNAポリメラーゼII(Eco,配列番号14)、バクテリオファージ(Escherichia phage)RB69のDNAポリメラーゼ(RB69,配列番号15)、バクテリオファージT4 DNAポリメラーゼ(T4,配列番号16)及びバチルスファージPhi29のDNAポリメラーゼ(Phi29,配列番号17)である。
【0069】
図1に示すように、これらの例示的な野生型PolBは、高度に保存された様々な配列領域を有し、また他の可変領域もある。当業者であれば、本明細書で具体的に同定され論じられる突然変異に加えて、ポリメラーゼ活性を変えることなく、又は実質的に変えることなく、これらの可変領域にも他の突然変異が生じ得ることを理解するであろう。同様に、任意のPolBの保存された残基/位置における保存的突然変異は、突然変異した酵素のポリメラーゼ活性を変えることなく、又は実質的に変えることなく行うことができる。他の機能的に関連する酵素又はホモログ(homolog)との比較構造分析に基づく酵素工学は、分子生物学の分野において有用な技術であり、本発明者が酵素の触媒活性に対する特定の突然変異の影響を合理的に予測することを可能にする。本明細書で使用されるアミノ酸配列、構造データセット及び物理的特性に基づいて、当業者は、酵素の重要、固有の特徴を変えることなく、又は実質的に変えることなく、酵素(本発明に含まれるDNAポリメラーゼ)を変異させることができる。
【0070】
なお、本発明は、コンセンサス配列である配列番号1の349~364位、450~476位、590~608位、706~730位、843~855位及び940~956位にそれぞれ対応するモチーフExoI、ExoII、ExoIII、A、B及びCに焦点を当てる。より具体的には、本発明におけるポリメラーゼ変異体は、前記モチーフ内に対応して存在する1つ以上の残基における置換変異に基づく。
【0071】
(RNAポリメラーゼ変異体)
上記の内容によれば、本発明で提供されるポリメラーゼ変異体は、ポリメラーゼ変異体を記述するための共通配列(配列番号1)のアミノ酸配列に基づいている。配列番号1のコンセンサス配列を比較すると、該ポリメラーゼ変異体は1つ以上の残基に置換変異を有し、置換変異は該配列と同じ位置又は機能的に等価な位置で起こり得ることが分かる。当業者は、本明細書に記載のポリメラーゼ変異体が天然に存在するものではないことを理解するであろう。したがって、本明細書に記載のポリメラーゼ変異体は、配列番号1のコンセンサス配列に基づいており、個々の野生型ポリメラーゼに応じて1つ以上の残基における置換変異をさらに含む。一実施形態において、置換変異は、配列番号1のコンセンサス配列中のアミノ酸と機能的に等価な位置で生じる。「機能的に等価」とは、ポリメラーゼ変異体が配列番号1のコンセンサス配列におけるアミノ酸位置でアミノ酸置換を有し、前述のアミノ酸置換がコンセンサス配列とポリメラーゼ変異体の両方において同じ機能的又は構造的役割を有することを意味する。
【0072】
一般的に言えば、2つ以上の異なるポリメラーゼにおける機能的に等価な置換変異は、これらのポリメラーゼのアミノ酸配列における相同なアミノ酸位置で生じる。したがって、変異したアミノ酸の特定の機能が既知であるかどうかにかかわらず、該変異が「位置的に等価」又は「相同」である限り、「機能的に等価」として分類することができる。配列アラインメント及び/又は分子モデリングに基づいて、2つ以上の異なるポリメラーゼのアミノ酸配列における機能的に等価及び位置的に等価なアミノ酸残基位置を同定することが可能である。例えば、生命の異なるドメインに由来する16種類の例示的な野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼのアミノ酸配列アラインメントを使用して、位置的に等価及び/又は機能的に等価な残基を同定することができる。これらのPolB間のタンパク質配列アラインメントの結果を図1に示す。したがって、Tgo、Kod1、9°N、Pfu、及びびVentポリメラーゼの例示的な残基141、Pisポリメラーゼの残基171、Ssoポリメラーゼの残基231、及びMac DNAポリメラーゼの残基198は、機能的かつ位置的に等価である。同様に、たTgo、Kod1、9°N、Pfu、及びVent DNAポリメラーゼの例示的な残基143、Pisポリメラーゼの残基173、Ssoポリメラーゼの残基233、及びMacポリメラーゼの残基200は、機能的かつ位置的に等価である。当業者は、他のポリメラーゼにおける機能的に等価な残基を容易に同定することができる。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態によれば、本発明のRNAポリメラーゼ変異体は、コンセンサス配列(配列番号1)の706~730位及び843~855位にそれぞれ対応するAモチーフ及びBモチーフと、Aモチーフ、Bモチーフ又はこれらの組み合わせ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換(1つ又は複数のアミノ酸置換、或いはアミノ酸置換の組み合わせ)とを含み、RNAポリメラーゼ変異体は、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性が低下又は欠失している。前記3’→5’エキソヌクレアーゼ活性欠失は、いかなる手段によっても達成され得る。例えば、ポリメラーゼの3’→5’エキソヌクレアーゼドメインを修飾することによって3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を低下、欠失又は不活化したポリメラーゼを生成することができる。好ましくは、3’→5’エキソ核酸ドメインを修飾する方法は、アミノ酸置換の方法を用いることができる。換言すれば、本発明で提供されるRNAポリメラーゼ変異体は、ExoI、ExoII、ExoIII又はこれらの組み合わせにおける少なくとも1つのアミノ酸置換も含み得る。例えば、PolB変異体は、配列番号1のExoIモチーフにおける機能的に等価又は位置等価な354位ネイティブDをAに置換(D354A)、356位のEをAに置換(E356A)することで、3’→5’エキソヌクレアーゼ欠失が引き起こされる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼから修飾され、それぞれサーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Thermococcus sp.)(Tgo)、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)、好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)、メタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のDNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD)、緑膿菌DNAポリメラーゼII(Pae)、大腸菌DNAポリメラーゼII(Eco)、バクテリオファージRB69のDNAポリメラーゼ(RB69)、バクテリオファージT4のDNAポリメラーゼ(T4)又はバチルスファージPhi29のDNAポリメラーゼ(Phi29)といった野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼに由来する。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、コンセンサス配列(配列番号1)の349~364位に対応するExoIモチーフを含み、かつ前記RNAポリメラーゼ変異体は前記ExoIモチーフ内の位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。好ましくは、配列番号1の715位に対応するアミノ酸L又はMは、A、C、D、F、G、H、K、N、Q、S、W或いはYで置換され、配列番号1の716位に対応するアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、配列番号1の717位に対応するアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換される。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号2の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)に由来し、配列番号2の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号2の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号2の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換される。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号2の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・ゴルゴナリウス(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)に由来し、配列番号2の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号2の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号2の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換され、配列番号2の485位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換され、好ましくはE又はLで置換される。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号3の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、配列番号3の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号3の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号3の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換される。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号3の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、配列番号3の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号3の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号3の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換され、配列番号3の485位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換され、好ましくはE又はLで置換される。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号4の野生型アミノ酸配列を有する好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、配列番号4の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号4の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号4の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換される。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号4の野生型アミノ酸配列を有する好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、配列番号4の408位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号4の409位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号4の410位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換され、配列番号4の485位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換され、好ましくはE又はLで置換される。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号5の野生型アミノ酸配列を有するパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、配列番号5の409位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号5の410位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号5の411位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換される。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号5の野生型アミノ酸配列を有するパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、配列番号5の409位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号5の410位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号5の411位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換され、配列番号5の486位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換され、好ましくはE又はLで置換される。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号6の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、配列番号6の411位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号6の412位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号6の413位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換される。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号6の野生型アミノ酸配列を有するサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、配列番号6の411位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号6の412位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され;配列番号6の413位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換され、配列番号6の488位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換され、好ましくはE又はLで置換される。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号7の野生型アミノ酸配列を有するメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、配列番号7の485位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号7の486位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号7の487位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換される。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号7の野生型アミノ酸配列を有するメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、配列番号7の485位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号7の486位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号7の487位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換され、配列番号7の565位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換され、好ましくはE又はLで置換される。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号8の野生型アミノ酸配列を有するピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、配列番号8の426位にあるアミノ酸MはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号8の427位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号8の428位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換される。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号8の野生型アミノ酸配列を有するピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、配列番号8の426位にあるアミノ酸MはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号8の427位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号8の428位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換され、配列番号8の508位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換され、好ましくはE又はLで置換される。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号9の野生型アミノ酸配列を有するスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、配列番号9の518位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号9の519位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号9の520位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換される。
【0091】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、配列番号9の野生型アミノ酸配列を有するスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、配列番号9の518位にあるアミノ酸LはA、C、D、F、G、H、K、M、N、Q、S、W又はYで置換され、好ましくはYで置換され、配列番号9の519位にあるアミノ酸Yは変化しないままである、或いはA、C、D、G、N、S、T又はVで置換され、好ましくはAで置換され、配列番号9の520位にあるアミノ酸Pは変化しないままである、或いはA、C、G、I、L、M、N、S、T又はVで置換され、好ましくはGで置換され、配列番号9の601位にあるアミノ酸AはC、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、T、V、W又はYで置換され、好ましくはE又はLで置換される。
【0092】
いくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、天然に存在するヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、又はそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つのヌクレオチドを伸長可能なイニシエーターに付加することによって、鋳型なし方法で核酸を合成する鋳型なし核酸合成活性を示す。
【0093】
いくつかの実施形態によれば、前記伸長可能なイニシエーターは、一本鎖オリゴヌクレオチドイニシエーター、平滑末端(blunt-ended)二本鎖オリゴヌクレオチドイニシエーター又はこれらの混合物を含む。いくつかの実施形態によれば、伸長可能なイニシエーターは、液相中で反応する遊離核酸である。
【0094】
いくつかの実施形態によれば、前記伸長可能なイニシエーターは、固相担体上に固定されており、前記固相担体としては粒子、ビーズ、スライド、アレイ表面、膜、フローセル、孔、マイクロウェル、ナノウェル、チャンバー、マイクロ流体チャンバー、チャネル又はマイクロ流体チャネルが挙げられる。
【0095】
いくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つのヌクレオチドは、リボースを含む。また、前記ヌクレオチドは、蛍光団(fluorophore)、酵素、放射性リン酸塩、ジゴキシゲニン(digoxygenin)或いはビオチンなどの検出可能な標識と結合している。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態によれば、RNAポリメラーゼ変異体は、10℃~100℃の範囲の反応温度の反応温度で上述の鋳型なし核酸合成活性を示す。例えば、反応温度は、10℃~20℃、20℃~30℃、30℃~40℃、40℃~50℃、50℃~60℃、60℃~70℃、70℃~80℃、80℃~90℃、90℃~95℃、95℃~100℃、又は上限15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、37℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、或100℃及び下限10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、37℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃或いは95℃で限定される範囲内の任意の反応温度である。
【0097】
(ポリメラーゼ変異体の生成)
本明細書において、様々な種類の突然変異誘発の技術を任意に使用でき、例えばポリメラーゼを改変して本発明の変異体を生成するか、或いはランダム又は半ランダム突然変異アプローチを使用する。一般に利用可能な突然変異誘発手順は、ポリメラーゼ変異体の作成に使用されることができ、このような突然変異誘発(mutagenesis)手順には、場合により1つ以上の目的の活性についての改変された核酸及びポリペプチドの選択が含まれる。使用できる手順には、部位特異的点突然変異導入、ランダム点突然変異誘発、インビトロ又はインビボでの相同組換え(DNAシャッフリング(DNA shuffling)及びコンビナトリアルオーバーラップPCR(combinatrorial overlap PCR))、ウラシル含有鋳型を使用した突然変異誘発、オリゴヌクレオチド特異的突然変異導入、ホスホロチオエート(phosphorothioate)修飾DNA突然変異誘発、ギャップ付き二本鎖DNAを使用した突然変異誘発、点ミスマッチ修復(point mismatch repair)、修復欠損宿主株を使用した突然変異誘発、制限選択(restriction-selection)及び制限精製(restriction-purification)突然変異誘発、欠失突然変異誘発、全遺伝子合成による突然変異誘発、縮重(degenerate)PCR、二本鎖切断修復及び当業者に知られている他の多くの方法が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
(鋳型なし核酸合成を実行するためのキット)
本発明の一態様では、本発明の上記RNAポリメラーゼ変異体を含む鋳型なしデノボ酵素の核酸合成反応を行うためのキットも提供する。このRNAポリメラーゼ変異体は、鋳型なし核酸合成活性を示し、少なくとも1つのヌクレオチドを伸長可能なイニシエーターに付加して、所望の核酸配列を生成することによって達成され、ヌクレオチドは、天然に存在するヌクレオチド、ヌクレオチド類似体及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0099】
場合によっては、上記キットは、RNAポリメラーゼ変異体及びヌクレオチド溶液液に必要な緩衝液や溶液などの他の試薬も含まれ、組み立てられた又はパッケージ化されたコンポーネントの使用説明書も通常は含まれているが、必ずしも含まれているわけではない。
【0100】
(RNAポリメラーゼ変異体の使用方法及び用途)
いくつかの実施形態によれば、本発明のRNAポリメラーゼ変異体は、鋳型なし合成方法を用いて天然リボースヌクレオチド(rNTP)(例えばrATP、rUTP、rCTP及びrGTP)を一本鎖又は平滑末端二本鎖核酸イニシエーターの3’-ヒドロキシル(3’-OH)に付加して所望の配列を有するポリヌクレオチドを生成することができる。
【0101】
いくつかの実施形態において、本発明のRNAポリメラーゼ変異体を使用して、天然リボースヌクレオチド(rNTP)(例えばrATP、rUTP、rCTP及びrGTP)をクラスター化一本鎖又は平滑末端二本鎖核酸イニシエーターのアレイの3’-OH末端に付加することができる。前述のように、これらのアレイは固相担体に固定或いはは物理的に閉じ込められ、固相担体から分離することもできる。そして好ましくは、前記固相担体は、ガラスで作られ、シリコンウェーハの形態で実装される。したがって、多重化、並行デノボ核酸合成を実行して、異なる配列を有する多数の様々なポリヌクレオチド又は核酸を合成することができる。
【0102】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のRNAポリメラーゼ変異体は、鋳型なし合成方法を使用してヌクレオチド複合体(nucleotide conjugates,先に定義したヌクレオチド類似体のタイプの1つ)を核酸イニシエーターの3’末端に取り込むことができる。前記ヌクレオチド複合体は、酵素、抗体、化学基(ビオチン、デスチオビオチンなど)或いはヌクレオチドにある塩基、リン酸基若しくは五炭糖上の蛍光団と共有結合する。
【0103】
核酸合成中にRNAポリメラーゼ変異体によって前述のヌクレオチド類似体を核酸に取り込むとともに塩基特異的、部位特異的又は配列特異的な形態で所望の成分(例えば結合した酵素、抗体、或いは化学基)を新しく合成された核酸に付加する。核酸プローブ及び複合体を標識又は生成するために当技術分野で一般的に使用される成分としては、放射性標識ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体、修飾リンカー(例えばビオチン、チオール、アジド若しくはアミンなど)、蛍光団、酵素及び抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
或いは、他の実施形態において、核酸プローブを標識又は生成するため、合成されたヌクレオチドの塩基、リン酸基又は五炭糖上で修飾されたリンカーを介して酵素、抗体、化学基、又は蛍光団と共有結合又は非共有結合(coupling)することによって、核酸の合成後の修飾を達成できる。したがって、所望の成分は、特定の塩基に共有結合又は非共有結合することも、新しく合成された核酸の5’末端又は3’末端に結合することもできる。
【0105】
いくつかの実施形態では、リンカー修飾されたヌクレオチド類似体へのRNAポリメラーゼ変異体の取り込みにより、新たに合成されたポリヌクレオチド又は核酸の様々な固体表面への付着、固定化、或いは物理的閉じ込めを促進することができる。他の実施形態において、独自のラベル、タグ、或いは蛍光団を有する新たに合成された配列特異的核酸は、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、TaqManリアルタイムPCR(RT-PCR)、リアルタイム蛍光リガーゼ連鎖反応(RT-LCR)、リアルタイム蛍光リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)アッセイ、及びリアルタイムの蛍光ループ媒介等温増幅アッセイを含むがこれらに限定されない、様々な核酸ベースの分子検出に使用することができる。
【0106】
本願は、(a)イニシエーターオリゴヌクレオチドを用意するステップと、(b)RNAポリメラーゼ変異体を用意するステップと、(c) イニシエーターオリゴヌクレオチドの3’末端に少なくとも1つのヌクレオチドを付加/取り組むのに十分な条件下で、イニシエーターオリゴヌクレオチド、RNAポリメラーゼ変異体及びヌクレオチドを組み合わせて前記RNAオリゴヌクレオチドを合成するステップとを含むRNAオリゴヌクレオチド用の鋳型なし合成方法をさらに提供する。
【0107】
前記ヌクレオチドがイニシエーターオリゴヌクレオチドに取り込まれると、所望のRNAオリゴヌクレオチドを合成するため、続いて1つ以上の追加のヌクレオチドを付加することができる。したがって、特定の実施形態において、前記方法は、所望のRNA配列が得られるまで、得られるRNAオリゴヌクレオチド(すなわち、ステップ(c)で形成されたRNAオリゴヌクレオチド)の3’末端に1つ以上の天然ヌクレオチド又は修飾ヌクレオチドを付加するステップをさらに含む。特定の実施形態において、この方法は、(d)所望のRNA配列が得られるまでステップ(a)~(c)を繰り返すステップをさらに含む。
【0108】
いくつかの実施形態において、ステップ(c)は、1つ以上の追加の酵素の存在下で行われる。特定の実施形態において、ステップ(c)は、2つ以上の異なる酵素の混合物の存在下で行われる。前記酵素の混合物は、2つ以上の異なるRNAポリメラーゼ変異体(例えば、2つまたは3つのRNAポリメラーゼ変異体)を含んでもよい。
【0109】
いくつかの実施形態において、ステップ(c)は、RNAポリメラーゼ変異体の使用に加えて、1つ以上の追加の酵素(すなわち、補助酵素)(特異的ホスファターゼなど)も使用する。いくつかの実施形態において、ステップ(c)は、RNAポリメラーゼ変異体の使用に加えて、酵母無機ピロホスファターゼ(PPi酵素)も使用する。
【0110】
いくつかの実施形態において、ステップ(c)の反応は、1つ以上の追加の添加剤の存在下で行われる。いくつかの実施形態において、ステップ(c)はクラウディング剤(crowding agent)を使用する。特定の実施形態において、クラウディング剤はポリエチレングリコール(PEG)又はフィコールである。特定の実施形態において、クラウディング剤はポリエチレングリコール(PEG)である。いくつかの実施形態において、ステップ(c)はRNase阻害剤を使用する。特定の実施形態において、ステップ(c)は、非加水分解性ヌクレオチドの存在下で行われる。
【実施例
【0111】
本節では、以下の実施例を通じて本発明の内容をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示に過ぎず、当業者であれば容易に種々の変形及び変更を想到することができる。したがって、以下では本発明の様々な実施例について詳細に説明するが、本発明は本明細書に列挙される様々な実施例に限定されない。
【0112】
(実施例1:RNAポリメラーゼ変異体の調製)
本明細書に開示される任意のPolB保存領域及び半保存領域における保存/コンセンサスアミノ酸の特性に基づいて、遺伝子合成及び突然変異誘発技術を使用して、例示的なRNAポリメラーゼ変異体を作成した。例えば、当技術分野で周知の部位特異的突然変異誘発法を使用して、例示的な野生型PolBの保存されたExoIモチーフ、ExoIIモチーフ、ExoIIIモチーフ、Aモチーフ、Bモチーフ、及びCモチーフ領域のアミノ酸残基をそれぞれ変更する。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記RNAポリメラーゼ変異体を取得するための手順は、一般に、ステップ1:野生型PolB及びその3’→5’エキソヌクレアーゼ欠損型(Exo-)変異体の遺伝子合成、ステップ2:構築を含む3つのステップに分割される。ステップ3:野生型PolB、Exo変異体、及びRNAポリメラーゼ変異体の発現及び精製。以下により詳細に説明するように、前記手順で使用される技術は当業者には周知である。
【0114】
ステップ1では、野生型イントロンレスPolBを発現するために使用されるコドン最適化された遺伝子断片がGenomics BioSci&Tech.Co.Ltd.(新北市、台湾)により合成された。3'→5'エキソヌクレアーゼ欠損型(Exoと呼ばれる)も同じ供給業者から入手された。本明細書で使用される場合、任意のPolB略語の後の上付き文字「Exo-」は、指定された野生型PolBが内在性の3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を除去するように修飾されていることを意味する。これは、該PolBが3’→5’エキソヌクレアーゼ欠損型PolBであることを示している。いくつかの好ましい実施形態によれば、Exoは、それぞれ、配列番号1のD354に対応する位置(アラニン残基によって置換される(D354A))及び配列番号1のE356に対応する位置(アラニン残基によって置換される(E356A))で組み合わせ突然変異を運ぶPolB変異体を意味する。
【0115】
ステップ2では、合成された野生型PolB遺伝子及びExo PolB遺伝子をそれぞれ、隣接nDEI及びNoti制限部位を使用してPET28Bベクトルにサブクローニングし、DNA配列決定により組換えプラスミドの配列を確認する。PolB Exoタンパク質骨格上の所望のモチーフ領域でRNAポリメラーゼ変異体を作成するため、部位特異的突然変異誘発を実施した。簡単に言えば、ニューイングランドBiolabs(イプスウィッチ、マサチューセッツ州、米国)社製のQ5部位特異的突然変異誘発キットを組換えプラスミドとともに使用して、部位特異的突然変異誘発PCRを実施してアミノ酸置換を導入した。まず生成物を1%アガロースゲルで分析してアンプリコンのサイズを確認し、次に残りのPCR反応混合物をDpnIで37℃にて1時間処理した。混合物を70℃でさらに10分間インキュベートして、DpnI機能を不活性化した。次に、Qiagen社製のQIAquick PCR精製キット(Whatman、マサチューセッツ州、米国)を使用してDpnI処理したPCR反応混合物を精製し、T4 PNK及びT4 DNAリガーゼ混合物を使用して精製したDNA断片を処理し、さらに再環状化されたPCR増幅したDNAを大腸菌細胞に形質転換した。その後、Qiagen社製プラスミドミニキット(Qiagen Plasmid Mini Kit)を使用して、プラスミドDNAを大腸菌細胞から抽出した。続いてDNA配列決定を行い、所望のモチーフ領域又は特定領域内のポリメラーゼ変異体の突然変異誘発配列を確認した。
【0116】
ステップ3では、特定のポリメラーゼ変異体遺伝子を持つプラスミドDNAを含む大腸菌Acella細胞を、0.5%グルコース及び50μg/mlカルベニシリン(carbenicillin)を含有した2リットルのLB培地中で37℃にて増殖させた。細胞密度が600ナノメートル(OD600nm)での吸光度値約0.6~0.8に達したら、1mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加してタンパク質発現を誘導した。細胞を37℃でさらに4時間増殖させた後、4℃、7,000×gで10分間遠心分離することにより回収した。細胞ペレットを、1mM ベンズアミジン塩酸塩(benzamidine hydrochloride)を含む緩衝液A[50mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH7.5)、300mM 塩化ナトリウム(NaCl)、0.5mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1mM ジチオスレイトール(DTT)、5%(v/v)グリセロール]で再懸濁した。細胞溶液を50mgのリゾチームとともに氷上で1時間インキュベートした後、超音波処理を行って細胞溶解を達成した。4℃、18,000xgで25分間遠心分離することにより、清澄化した細胞溶解液を得た。清澄化された粗細胞抽出物を70℃で30分間インキュベートし、その後4℃に冷却した。4℃、18,000xgで25分間遠心分離することにより、より清澄化した熱処理細胞抽出物が得られた。遠心分離後、上清を、NaClを含まない緩衝液Aで希釈し、AEKTA精製クロマトグラフィーシステム(Cytiva Life Sciences、マサチューセッツ州マールボロ、米国)の緩衝液Aであらかじめ平衡化したHiTrapヘパリンカラム(Cytiva Life Sciences社製)にロードした。緩衝液B[50mM Tris-HCl(pH8.0)、1M NaCl、0.5mM EDTA、1mM DTT、5%(v/v)グリセロール]を使用して、100mM~1M NaClの直線勾配でタンパク質を溶出した。次いで、カラム画分を10%SDS-PAGEで分析した。所望のタンパク質を含む画分を保存緩衝液[50mM Tris-HCl(pH7.5)、250mM NaCl、0.5mM EDTA、1mM DTT、5%(v/v)グリセロール]に対して4℃で一晩プールを透析した。標的タンパク質を含む透析タンパク質画分プールを、Amiconフィルターユニット(分子量カットオフ50,000)を使用して濃縮した。濃縮タンパク質プールを等分して、-20℃で貯蔵した。各変異ポリメラーゼ変異体を、上記と同じ手順で精製した。最終タンパク質濃度の測定を決定するため、ウシ血清アルブミンを標準液として用い、Bio-Radタンパク質アッセイ(カリフォルニア州ハーキュリーズ、米国)を用いてBradford反応(1976年にBradfordにより提案)を行った。
【0117】
この実施例において、Aモチーフ及び/又はBモチーフに存在する機能的或いは位置的置換を含む、以下のアッセイを目的とした選択され(例示的な)ExoRNAポリメラーゼ変異体をまとめて表1にリストする。
【0118】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0119】
(実施例2:鋳型なしRNA合成アッセイ)
鋳型なし(又は鋳型非依頼性とも呼ばれる)RNA合成方法で本発明のRNAポリメラーゼ変異体を評価した。RNAポリメラーゼ変異体の活性(天然に存在するリボヌクレオチドの取り込みに関する性能)をさらに確認するため、本明細書では、通常のrNTP及び一本鎖DNAイニシエーター又は平滑末端二本鎖DNAイニシエーターをアッセイに使用した。なお、実施例RNAポリメラーゼ変異体の耐熱性を評価するため、前記方法の反応温度を55℃に設定した。
【0120】
この実施例では、以下の合成オリゴヌクレオチドをイニシエーターとして使用して、RNAポリメラーゼ変異体の鋳型なしRNA合成活性を測定した。
【0121】
アッセイモードIのFAM-45マー(mer)一本鎖DNA(ssDNA)イニシエーター:5’-CTCGGCCTGGCACAGGTCCGTTCAGTGCTGCGGCGACCACCGAGG-3’(配列番号18)配列を有する一本鎖DNA。この一本鎖オリゴヌクレオチドは、5’末端が蛍光フルオレセインアミダイト(FAM)色素で標識されている(以下、FAM-45マーssDNAという)。
【0122】
アッセイモードIIの平滑末端二本鎖DNAイニシエーター:相補的な一本鎖45マーDNAとアニーリング(Annealing)されたFAM-45マーssDNAで構成される二本鎖DNA。
【0123】
前記平滑末端二本鎖DNAイニシエーターは、100mM NaClを含む1xTE緩衝液[10mM Tris-HCl(pH8.0)及び1mM EDTA]中にFAM-45マーssDNAイニシエータープライマーと相補的な45マーDNAをモル比1:1.5でアニーリングしてすることにより、形成された。DNAアニーリング反応は、Bio-Radサーマルサイクラー(Hercules,CA)で先にサンプル混合物を98℃に3分間加熱し、次に徐々に(5℃/30秒)4℃まで冷却ことによって実行された。アニーリング反応後のオーバーハング(overhang)のないアニーリング生成物は、平滑末端二本鎖DNAイニシエーターとして使用された。
【0124】
鋳型なしRNA合成反応は、100nM FAM-45マーssDNAイニシエーター(アッセイモードI)又は平滑末端二本鎖DNAイニシエーター(アッセイモードII)、0.25mM塩化マンガン(MnCl)、及び200nMの実施例のRNAポリメラーゼ変異体を含む反応混合物(10μl)の中で行われた。100μMのrNTPを添加することによって、RNAデノボ合成反応を開始し、反応を所定の時間進行させ(例えば、アッセイモードIの場合、2分間、アッセイモードIIの場合、10分間)、その後所定の反応温度(例えば、アッセイモードI又はアッセイモードIIはどちらも55℃)で10μlの2xクエンチング溶液(95%脱イオンホルムアミド及び25mM EDTA)を加えて反応を停止させた。アッセイモードI又はアッセイモードIIの反応後、まずサンプル混合物を95℃で10分間変性し、8M尿素を含む20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(尿素-PAGE)で分析した。その後、Amersham Typhoonレーザースキャナー(Cytiva Life Sciences社製)上でゲルを画像化することで、酵素RNAデノボ合成反応の生産物を観察できた。
【0125】
上記アッセイに基づいて、各変異体の相対的な鋳型なしRNA合成活性をスコア化し、記号「+」の数で表した。各変異体の全体的な活性スコアは4つの異なるレベルに分けられた。1)「+++」は、基質コントロールのバンド強度及び位置と比較して、イニシエーターがさまざまな長さの新たに合成されたRNAまで完全に伸長されていることを示し、したがって、この変異体は100%のRNA合成活性を持っていると考えられる。2)「++」は、基質コントロールのバンド強度及び位置と比較して、イニシエーターの約50%~100%がさまざまな長さの新たに合成されたRNAまでに伸長されていることを示し、したがって、この変異体は50%~100%のRNA合成活性を持っていると考えられる。3)「+」は、基質コントロールのバンド強度及び位置と比較して、イニシエーターの約10%~50%がさまざまな長さの新たに合成されたRNAまでに伸長されていることを示し、したがって、この変異体は10%のRNA合成活性を持っていると考えられる。4)「+/-」は、基質コントロールのバンド強度及び位置と比較して、10%未満のイニシエーターがさまざまな長さの新たに合成されたRNAまでに伸長されていることを示し、したがって、この変異体は10%未満のRNA合成活性を持っていると考えられる。活性関連のスコアリングのこの原理は、本願全体にわたって適用され、得られたデータを対応する表に示す。
【0126】
(実施例3:FAM-45マーssDNAイニシエーター及び平滑末端二本鎖DNAイニシエーターへのrNTPの取り込みに対するRNAポリメラーゼ変異体の触媒活性)
ここで、特定のエキソヌクレアーゼ欠損型RNAポリメラーゼ変異体(例えば、Tgoexo-、Kod1exo-、9°Nexo-、Pfuexo-、Ventexo-、Macexo-及びSsoexo-)は、各タンパク質内の異なる保存領域又はモチーフでの1つ以上のアミノ酸置換を含むように修飾された。
【0127】
さらに、本発明者は、予備スクリーニングにおいて、これらのエキソヌクレアーゼ欠損型RNAポリメラーゼ変異体の保存されたモチーフが本明細書で定義されるコンセンサス配列(配列番号1)のモチーフAに存在するL715、Y716、及びP717と機能的かつ位置的に等価であり、前記保存されたモチーフは主にRNAデノボ合成の機能に関連している可能性があることを見出した。より具体的に言えば、前記保存されたモチーフは、鋳型なしRNA合成活性にとって必須の部位であり得る。なお、コンセンサス配列(配列番号1)と機能的かつ位置的に等価である、モチーフBにある保守残基A854は、鋳型なしRNA合成活性を増強するための強化可能な部位として機能する(データは示さず)。
【0128】
(実施例3.1:Vent変異体の鋳型なしRNA合成活性)
この実施例において、Vent(配列番号6)由来のRNAポリメラーゼ変異体を、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフにおける組み合わせ置換を有する変異体の鋳型なしRNA合成活性を評価するために例示的に使用した。また、特許文献1は、鋳型依存性DNA合成反応(すなわち、DNA配列決定)におけるヌクレオチド類似体の取り込みを改善するため、いくつかの古細菌DNAポリメラーゼの対応する保存モチーフを置換するためのAAIモチーフを開示した。保存されたモチーフAAIは、コンセンサス配列(配列番号1)のL715、Y716、及びP717と機能的かつ位置的に等価であり、したがって、保存されたモチーフは、野生型VentのモチーフA(配列番号6)Aモチーフに存在するL411、Y412及びP413とも機能的かつ位置的に等価である。したがって、鋳型指向性ヌクレオチドの取り込みに対するAAIモチーフの影響を考慮して、ここではAAIモチーフの置換も比較した。なお、この実施例において、コンセンサス配列のBモチーフに存在するA854(野生型VentのBモチーフに存在するA488と機能的かつ位置的に等価である)の置換の組み合わせ効果も評価した。
【0129】
この実施例において、VentExo-バックボーンから修飾された変異体を上記アッセイモードI及びアッセイモードIIで評価した。アッセイモードIの結果を表2.1及び図2Aに示し、アッセイモードIIの結果を表2.2及び図2Bに示す。ここで、図中に示される「S」は基質(FAM-45マーssDNAイニシエーター又は平滑末端二本鎖DNAイニシエーター)を表し、ブランクDNAコントロールとして機能する。また、簡潔にするため、図2A及び2Bには、代表的なVent変異体の例示的な結果のみが示されている。
【0130】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0131】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0132】
表2.1、表2.2、図2A及び図2Bに示すように、ExoIモチーフ、Aモチーフ及び/又はBモチーフ(A488L)に位置するアミノ酸置換を有する変異体は、アッセイモードI及びアッセイモードIIの両方において、鋳型なし酵素的RNA合成の顕著な触媒活性を示した。より具体的に言えば、鋳型なし酵素的RNA合成の触媒活性については、好ましい置換の組み合わせはAモチーフで現れ、例えばL411A+Y412A+P413G(AAG)、L411C+Y412A+P413G(CAG)、L411F+Y412A+P413G(FAG)、L411H+Y412A+P413G(HAG)、L411K+Y412A+P413G(KAG)、L411M+Y412A+P413G(MAG)、L411Q+Y412A+P413G(QAG)及びL411Y+Y412A+P413G(YAG)である。
【0133】
(実施例3.2:Pfu変異体の鋳型なしRNA合成活性)
この実施例において、Pfu(配列番号5)に由来するRNAポリメラーゼ変異体を、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフにおける置換組み合わせを有する変異体の鋳型なしRNA合成活性を評価するために例示的に使用した。
【0134】
具体的に言えば、PfuExo-バックボーンから修飾された変異体を上記アッセイモードI及びアッセイモードIIで評価した。アッセイモードIの結果を表3.1及び図3Aに示し、アッセイモードIIの結果を表3.2及び図3Bに示す。ここで、図中に示される「S」は基質(FAM-45マーssDNAイニシエーター又は平滑末端二本鎖DNAイニシエーター)を表し、ブランクDNAコントロールとして機能する。また、簡潔にするため、この実施例では代表的なPfu変異体の例示的な結果のみを示す。
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
図3A図3B、表3.1及び表3.2に示すように、ExoIモチーフ、Aモチーフに位置するアミノ酸置換を有する変異体(変異体P03、P04及びP05など)は、アッセイモードI及びアッセイモードIIの両方において、鋳型なし酵素的RNA合成の顕著な触媒活性を示した。また、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフに位置するアミノ酸置換の組み合わせを有する変異体(変異体P04及びP05など)は、前記触媒活性をさらに増強した。
【0138】
(実施例3.3:Kod1変異体の鋳型なしRNA合成活性)
この実施例において、Kod1(配列番号3)に由来するRNAポリメラーゼ変異体を、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフにおける置換組み合わせを有する変異体の鋳型なしRNA合成活性を評価するために例示的に使用した。
【0139】
具体的に言えば、Kod1Exo-バックボーンから修飾された変異体を上記アッセイモードI及びアッセイモードIIで評価した。アッセイモードIの結果を表4.1及び図4Aに示し、アッセイモードIIの結果を表4.2及び図4Bに示す。ここで、図中に示される「S」は基質(FAM-45マーssDNAイニシエーター又は平滑末端二本鎖DNAイニシエーター)を表し、ブランクDNAコントロールとして機能する。また、簡潔にするため、この実施例では代表的なKod1変異体の例示的な結果のみを示す。
【0140】
【表6】
【0141】
【表7】
【0142】
図4A図4B、表4.1及び表4.2に示すように、ExoIモチーフ、Aモチーフ及び/又はBモチーフに位置するアミノ酸置換を有する変異体(変異体P03、P04及びP05など)は、アッセイモードI及びアッセイモードIIの両方において、鋳型なし酵素的RNA合成の顕著な触媒活性を示した。また、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフに位置するアミノ酸置換の組み合わせを有する変異体(変異体K04及びK05など)は、前記触媒活性をさらに増強した。
【0143】
(実施例3.4:Mac変異体の鋳型なしRNA合成活性)
この実施例において、Mac(配列番号7)に由来するRNAポリメラーゼ変異体を、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフにおける置換組み合わせを有する変異体の鋳型なしRNA合成活性を評価するために例示的に使用した。
【0144】
具体的に言えば、MacExo-バックボーンから修飾された変異体を上記アッセイモードI及びアッセイモードIIで評価した。アッセイモードIの結果を表5.1及び図5Aに示し、アッセイモードIIの結果を表5.2及び図5Bに示す。ここで、図中に示される「S」は基質(FAM-45マーssDNAイニシエーター又は平滑末端二本鎖DNAイニシエーター)を表し、ブランクDNAコントロールとして機能する。また、簡潔にするため、この実施例では代表的なMac変異体の例示的な結果のみを示す。
【0145】
【表8】
【0146】
【表9】
【0147】
図5A図5B、表5.1及び表5.2に示すように、ExoIモチーフ、Aモチーフに位置するアミノ酸置換を有する変異体(変異体M02など)は、アッセイモードI及びアッセイモードIIの両方において、鋳型なし酵素的RNA合成の顕著な触媒活性を示した。また、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフに位置するアミノ酸置換の組み合わせを有する変異体(変異体M03など)は、前記触媒活性をさらに増強した。
【0148】
(実施例3.5:Tgo変異体の鋳型なしRNA合成活性)
この実施例において、Tgo(配列番号2)に由来するRNAポリメラーゼ変異体を、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフにおける置換組み合わせを有する変異体の鋳型なしRNA合成活性を評価するために例示的に使用した。
【0149】
具体的に言えば、TgoExo-バックボーンから修飾された変異体を上記アッセイモードI及びアッセイモードIIで評価した。アッセイモードIの結果を表6.1及び図6Aに示し、アッセイモードIIの結果を表6.2及び図6Bに示す。ここで、図中に示される「S」は基質(FAM-45マーssDNAイニシエーター又は平滑末端二本鎖DNAイニシエーター)を表し、ブランクDNAコントロールとして機能する。また、簡潔にするため、この実施例では代表的なTgo変異体の例示的な結果のみを示す。
【0150】
【表10】
【0151】
【表11】
【0152】
図6A図6B、表6.1及び表6.2に示すように、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフに位置するアミノ酸置換を有する変異体(変異体T01及びT02など)は、アッセイモードI及びアッセイモードIIの両方において、鋳型なし酵素的RNA合成の顕著な触媒活性を示した。
【0153】
(実施例3.6:Sso変異体の鋳型なしRNA合成活性)
この実施例において、Sso(配列番号9)に由来するRNAポリメラーゼ変異体を、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフにおける置換組み合わせを有する変異体の鋳型なしRNA合成活性を評価するために例示的に使用した。
【0154】
具体的に言えば、SsoExo-バックボーンから修飾された変異体を上記アッセイモードI及びアッセイモードIIで評価した。アッセイモードIの結果を表7.1に示し、アッセイモードIIの結果を表7.2に示す。また、簡潔にするため、この実施例における尿素-PAGE画像の結果を省略した。
【0155】
【表12】
【0156】
【表13】
【0157】
表7.1及び表7.2に示すように、ExoIモチーフ、Aモチーフ及び/又はBモチーフに位置するアミノ酸置換を有する変異体(変異体S03及びS06など)は、アッセイモードI及びアッセイモードIIの両方において、鋳型なし酵素的RNA合成の顕著な触媒活性を示した。
【0158】
(実施例3.7:9°N変異体の鋳型なしRNA合成活性)
この実施例において、9°N(配列番号4)に由来するRNAポリメラーゼ変異体を、ExoIモチーフ、Aモチーフ及びBモチーフにおける置換組み合わせを有する変異体の鋳型なしRNA合成活性を評価するために例示的に使用した。
【0159】
具体的に言えば、9°NExo-バックボーンから修飾された変異体を上記アッセイモードI及びアッセイモードIIで評価した。アッセイモードIの結果を表8.1に示し、アッセイモードIIの結果を表8.2に示す。また、簡潔にするため、この実施例における尿素-PAGE画像の結果を省略した。
【0160】
【表14】
【0161】
【表15】
【0162】
表8.1及び表8.2に示すように、ExoIモチーフ、Aモチーフ及び/又はBモチーフに位置するアミノ酸置換を有する変異体は、アッセイモードI及びアッセイモードIIの両方において、鋳型なし酵素的RNA合成の顕著な触媒活性を示した。
【0163】
要するに、本発明で提供されるRNAポリメラーゼ変異体及びキットは、デノボ酵素的RNA合成にrNTPを効果的かつ効率的に使用するさまざまなシナリオでさらに証明されている。なお、これらのRNAポリメラーゼ変異体は、大気温度から高温条件に至る幅広い反応温度下で、鋳型なしRNA合成機能を首尾よく発揮することも証明されており、より高い耐熱性を示している。したがって、本開示の範囲内のRNAポリメラーゼ変異体及びキットは、異なる反応条件における鋳型なし酵素的核酸合成の様々な応用の範囲を広げることができる。
【0164】
本発明の具体的実施形態を開示したが、本発明を限定する意図で用いられるものではない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の原理及び精神から逸脱することなく、多種多様な変形及び修正を加えることができることを理解することができ、したがって、本発明の保護範囲は添付の特許請求の範囲に限定されるものに基づくべきである。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
【配列表】
2024536283000001.xml
【国際調査報告】