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特表2024-536284ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体及びそれを含むキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体及びそれを含むキット
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/12 20060101AFI20240927BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240927BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C12N9/12 ZNA
C12Q1/6869 Z
C12N15/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519869
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 US2022073269
(87)【国際公開番号】W WO2023056113
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/249,813
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524120011
【氏名又は名称】ワイディー バイオラブス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YD BioLabs CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】4F., No. 2, Sec. 2, Shengyi Rd., Zhubei City, Hsinchu County 302058, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100210675
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 潤
(72)【発明者】
【氏名】チョン-ヤオ、チェン
(72)【発明者】
【氏名】イー-ウェン、チョン
(72)【発明者】
【氏名】ユイ、ティン、フン
(72)【発明者】
【氏名】ウェン-ティン、チェン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体及びそれを含むキットを提供することを課題とする。
本発明は、ポリヌクレオチドの合成及び核酸鋳型の配列決定を容易にするよう、ヌクレオチド類似体の取り込み効果を向上できるファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体に関する。より具体的に言えば、通常の核酸鋳型及び可逆的ダイターミネーターヌクレオチドを有する前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体を利用することにより、DNA合成による配列決定法(sequencing-by-synthesis method)を効率的に実行し、前記核酸鋳型の配列を正確に決定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンセンサス配列(配列番号1)の349位~364位、450位~476位、590位~608位、706位~730位、843位~855位及び940位~956位にそれぞれ対応するExoIモチーフ、ExoIIモチーフ、ExoIIIモチーフ、Aモチーフ、Bモチーフ及びCモチーフと、
前記ExoIモチーフ、前記ExoIIモチーフ及び前記ExoIIIモチーフからなる群から選択されるモチーフ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換と、
前記Aモチーフ、前記Bモチーフ及び前記Cモチーフからなる群から選択されるモチーフ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換と
を含むファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項2】
配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼから修飾される請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項3】
前記野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼは、好熱菌(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)、好熱菌(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)、好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)、好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma)、メタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)DNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のDNAポリメラーゼII(Pae)、大腸菌(Escherichia.coli)のDNAポリメラーゼII(Eco)、バクテリオファージ(大腸菌ファージRB69のDNAポリメラーゼ(RB69)、バクテリオファージ(大腸菌ファージ)T4のDNAポリメラーゼ(T4)又はバクテリオファージ(バチルスファージ)Phi29のDNAポリメラーゼ(Phi29)である請求項2に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項4】
配列番号1の354位に対応するアミノ酸は、D以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の355位に対応するアミノ酸は、I以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の356位に対応するアミノ酸は、E以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の715位に対応するアミノ酸は、L以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の716位に対応するアミノ酸は、Y以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の717位に対応するアミノ酸は、P以外の任意のアミノ酸である
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項5】
配列番号1の354位に対応するアミノ酸は、D以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の355位に対応するアミノ酸は、I以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の356位に対応するアミノ酸は、E以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の715位に対応するアミノ酸は、L以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の716位に対応するアミノ酸は、Y以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の717位に対応するアミノ酸は、P以外の任意のアミノ酸であり、
配列番号1の854位に対応するアミノ酸は、A以外の任意のアミノ酸である
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項6】
配列番号3の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号3のD141は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号3のE143は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号3のL408は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号3のY409は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号3のP410は、A、C、G、S又はTで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項7】
配列番号4の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号4のD141は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号4のE143は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号4のL408は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号4のY409は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号4のP410は、A、C、G、S又はTで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項8】
配列番号5の野生型アミノ酸配列を含むパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号5のD141は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号5のE143は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号5のI409は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号5のY410は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号5のP411は、A、C、G、S又はTで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項9】
配列番号6の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号6のD141は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号6のE143は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号6のL411は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号6のY412は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号6のP413は、A、C、G、S又はTで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項10】
配列番号8の野生型アミノ酸配列を含むメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号8のD198は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号8のE200は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号8のL485は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号8のY486は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号8のP487は、A、C、G、S又はTで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項11】
配列番号11の野生型アミノ酸配列を含むピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号11のD171は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号11のE173は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号11のM426は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号11のY427は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号11のP428は、A、C、G、S又はTで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項12】
配列番号12の野生型アミノ酸配列を含むスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号12のD231は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号12のE233は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号12のL518は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号12のY519は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号12のP520は、A、C、G、S又はTで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項13】
配列番号3の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号3のD141は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号3のE143は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号3のL408は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号3のY409は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号3のP410は、A、C、G、S又はTで置換され、
配列番号1の854位に対応する配列番号3のA485は、C、D、E、F又はLで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項14】
配列番号4の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号4のD141は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号4のE143は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号4のL408は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号4のY409は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号4のP410は、A、C、G、S又はTで置換され、
配列番号1の854位に対応する配列番号4のA485は、C、D、E、F又はLで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項15】
配列番号5の野生型アミノ酸配列を含むパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号5のD141は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号5のE143は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号5のL409は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号5のY410は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号5のP411は、A、C、G、S又はTで置換され、
配列番号1の854位に対応する配列番号5のA486は、C、D、E、F又はLで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項16】
配列番号6の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号6のD141は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号6のE143は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号6のL411は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号6のY412は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号6のP413は、A、C、G、S又はTで置換され、
配列番号1の854位に対応する配列番号6のA488は、C、D、E、F又はLで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項17】
配列番号8の野生型アミノ酸配列を含むメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号8のD198は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号8のE200は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号8のL485は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号8のY486は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号8のP487は、A、C、G、S又はTで置換され、
配列番号1の854位に対応する配列番号8のA565は、C、D、E、F又はLで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項18】
配列番号11の野生型アミノ酸配列を含むピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号11のD171は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号11のE173は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号11のM426は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号11のY427は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号11のP428は、A、C、G、S又はTで置換され、
配列番号1の854位に対応する配列番号11のA508は、C、D、E、F又はLで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項19】
配列番号12の野生型アミノ酸配列を含むスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、
配列番号1の354位に対応する配列番号12のD231は、Aで置換され、
配列番号1の356位に対応する配列番号12のE233は、Aで置換され、
配列番号1の715位に対応する配列番号12のL518は、A、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、
配列番号1の716位に対応する配列番号12のY519は、A、C、D、F、G、H又はIで置換され、
配列番号1の717位に対応する配列番号12のP520は、A、C、G、S又はTで置換され、
配列番号1の854位に対応する配列番号12のA601は、C、D、E、F又はLで置換される
請求項1に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体と、
プライマーと、
適した条件下で前記プライマーを取り込むための複数のヌクレオチド類似体と
を含む、合成によるシーケンス反応のためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年09月29日に出願された米国仮出願番号第US63/249,813号の優先権を主張し、その全内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリメラーゼ変異体及びそれを含むキットに関し、特に、合成による核酸配列決定用のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体及びそれを含むキットに関するが、本発はこれらに限定されない。
【背景技術】
【0003】
次世代シーケンシング(Next-generation sequencing, NGS)技術は、現代の生物学及び生物医学研究といった分野に変革をもたらしている。この革新的な技術の中核は、生化学反応を触媒して鋳型配列に関する情報を取得するDNAポリメラーゼに由来する。DNA合成による配列決定(Sequencing by synthesis,SBS)技術は、広く用いられるNGSプラットフォームの1種であり、ポリメラーゼに依存する独自のアプローチに属し、その連続的な配列決定反応により、新たに合成されたDNA鎖が同時に生成される。
【0004】
通常、SBS法のステップは、蛍光レポーター(reporter)を有するヌクレオチド類似体を取り込む(incorporation)ステップと、蛍光発光により取り込まれたヌクレオチドを同定するステップと、次いで、蛍光団を切断してからポリメラーゼ反応を再開して段階的に配列を決定するステップとを含む。SBS法は従来のサンガー法と異なり、異なるサイズの蛍光標識されたDNA断片が一度の反応で生成するため、電気泳動によりDNAを分離してから蛍光検出を行う必要がある。このSBS法は、配列決定用の個々のDNA断片又はクラスターが高密度アレイ上に固定化されるため、サンガージデオキシ法よりも堅牢である。これにより、先にDNA分離を必要とせずに、各DNA断片又はクラスターから発せられるSBS蛍光シグナルを直接検出できる。さらに、SBS法は、多数の並列マイクロアレイチップを使用するだけで、検出を簡単にスケールアップし、全体の配列決定スケールを向上し、DNA配列決定のコストを大幅に削減できる。
【0005】
しかしながら、SBS法で使用されるヌクレオチドは、変異修飾を受けている。これらのヌクレオチド類似体は、デオキシリボースの3’-ヒドロキシル(3’-OH)位置に大きな化学保護基を持っているか、核酸塩基(nucleobase)上に大きな蛍光分子を持っている可能性がある。ヌクレオチド上の大きな化学修飾に対して、天然に存在する核酸ポリメラーゼには耐性がない。核酸ポリメラーゼの活性部位ポケットは、正常な3’-OH官能基と核酸塩基を有する正しく一致する典型的なヌクレオチドを収容するため、適切な幾何学的形状にあらかじめ配置されている。ヌクレオチドの3’-OH官能基を除去する場合、或いは2’,3’-ジデオキシヌクレオチド(ddNTP)又は3’-O-アジドメチル-dNTPなどの嵩高い化学官能基で置き換える場合、核酸ポリメラーゼの活性部位ポケット内のヌクレオチド構成が著しく変化し、ヌクレオチドの結合親和性と核酸ポリメラーゼの全体的なDNA合成効率が低下する。同様に、ヌクレオチド上の核酸塩基又は5’-三リン酸官能基に修飾がある場合、ヌクレオチドと核酸ポリメラーゼの活性部位残基の間の相互作用が破壊され、ポリメラーゼによる核酸合成におけるこれらの修飾ヌクレオチドへの適切な利用ができなくなる。
【0006】
上記事情に鑑みて、急速に変化するDNAポリメラーゼ関連配列決定技術に対処するため、一連のヌクレオチド修飾を継続的に作り出す必要がある。したがって、絶えず変化するDNA配列決定の化学反応に適合する酵素を探し、設計、又は開発する必要がある。例えば特許文献1では、古細菌の9°N DNAポリメラーゼ(ファミリーBポリメラーゼ(Pol))を開示し、それが可逆的ダイターミネーターヌクレオシドの取り込みに適していることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第11104888号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0026082号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0127589号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0137143号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2010/0282617号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Front.Microbiol.5:305.doi:10.3389/fmicb.2014.00305
【非特許文献2】Proc.Natl.Acad.Sci.USA96,3600-3605
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
修飾ヌクレオチド類似体の多様な特性のため、天然に存在する核酸ポリメラーゼは、これらのヌクレオチド類似体を鋳型指向性核酸合成の基質として容易に利用することができない。したがって、オーダーメイドの核酸ポリメラーゼは、様々な合成による核酸配列決定反応への使用でこれらの非典型的なヌクレオチドの有用性を発揮するための必須条件である。
【0010】
本発明者は、修飾ヌクレオチドに対する前記ポリメラーゼの基質親和性を高める上で重要な役割を果たし、DNA合成による配列決定におけるヌクレオチド取り込みの効率を向上させるためのファミリーB型DNAポリメラーゼのアミノ酸配列における新規な位置/領域を発見した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
具体的には、本発明の一態様では、コンセンサス配列(配列番号1)の349位~364位、450位~476位、590位~608位、706位~730位、843位~855位及び940位~956位にそれぞれ対応するExoIモチーフ、ExoIIモチーフ、ExoIIIモチーフ、Aモチーフ、Bモチーフ及びCモチーフと、前記ExoIモチーフ、前記ExoIIモチーフ及び前記ExoIIIモチーフからなる群から選択されるモチーフ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換と、前記Aモチーフ、前記Bモチーフ及びCモチーフからなる群から選択されるモチーフ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換とを含むファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体を提供する。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼから修飾される。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、前記野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼは、好熱菌(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)、好熱菌(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)、好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)、好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma)、メタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)DNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)、緑膿菌のDNAポリメラーゼII(Pae)、大腸菌のDNAポリメラーゼII(Eco)、バクテリオファージ(大腸菌ファージ[Escherichia phage])RB69のDNAポリメラーゼ(RB69)、バクテリオファージ(大腸菌ファージ)T4のDNAポリメラーゼ(T4)又はバクテリオファージ(バチルスファージ[Bacillus phage])Phi29のDNAポリメラーゼ(Phi29)である。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体において、配列番号1の354位に対応するアミノ酸は、D以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の355位に対応するアミノ酸はI以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の356位に対応するアミノ酸はE以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の715位に対応するアミノ酸はL以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の716位に対応するアミノ酸はY以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の717位に対応するアミノ酸はP以外の任意のアミノ酸である。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体において、配列番号1の354位に対応するアミノ酸は、D以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の355位に対応するアミノ酸はI以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の356位に対応するアミノ酸はE以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の715位に対応するアミノ酸はL以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の716位に対応するアミノ酸はY以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の717位に対応するアミノ酸はP以外の任意のアミノ酸であり、配列番号1の854位に対応するアミノ酸はA以外の任意のアミノ酸である。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号3の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号3のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号3のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号3のL408はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号3のY409はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号3のP410はA、C、G、S又はTで置換される。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号4の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号4のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号4のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号4のL408はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号4のY409はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号4のP410はA、C、G、S又はTで置換される。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号5の野生型アミノ酸配列を含むパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号5のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号5のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号5のI409はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号5のY410はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号5のP411はA、C、G、S又はTで置換される。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号6の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号6のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号6のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号6のL411はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号6のY412はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号6のP413はA、C、G、S又はTで置換される。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号8の野生型アミノ酸配列を含むメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号8のD198はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号8のE200はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号8のL485はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号8のY486はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号8のP487はA、C、G、S又はTで置換される。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号11の野生型アミノ酸配列を含むピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号11のD171はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号11のE173はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号11のM426はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号11のY427はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号11のP428はA、C、G、S又はTで置換される。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号12の野生型アミノ酸配列を含むスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号12のD231はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号12のE233はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号12のL518はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号12のY519はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号12のP520はA、C、G、S又はTで置換される。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号3の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号3のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号3のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号3のL408はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号3のY409はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号3のP410はA、C、G、S又はTで置換され、配列番号1の854位に対応する配列番号3のA485はC、D、E、F又はLで置換される。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号4の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号4のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号4のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号4のL408はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号4のY409はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号4のP410はA、C、G、S又はTで置換され、配列番号1の854位に対応する配列番号4のA485はC、D、E、F又はLで置換される。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号5の野生型アミノ酸配列を含むパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号5のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号5のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号5のL409はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号5のY410はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号5のP411はA、C、G、S又はTで置換され、配列番号1の854位に対応する配列番号5のA486はC、D、E、F又はLで置換される。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号6の野生型アミノ酸配列を含む好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号6のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号6のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号6のL411はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号6のY412はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号6のP413はA、C、G、S又はTで置換され、配列番号1の854位に対応する配列番号6のA488はC、D、E、F又はLで置換される。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号8の野生型アミノ酸配列を含むメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号8のD198はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号8のE200はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号8のL485はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号8のY486はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号8のP487はA、C、G、S又はTで置換され、配列番号1の854位に対応する配列番号8のA565はC、D、E、F又はLで置換される。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号11の野生型アミノ酸配列を含むピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号11のD171はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号11のE173はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号11のM426はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号11のY427はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号11のP428はA、C、G、S又はTで置換され、配列番号1の854位に対応する配列番号11のA508はC、D、E、F又はLで置換される。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号12の野生型アミノ酸配列を含むスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号12のD231はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号12のE233はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号12のL518はA、F、I、M、Q、S、H又はYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号12のY519はA、C、D、F、G、H又はIで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号12のP520はA、C、G、S又はTで置換され、配列番号1の854位に対応する配列番号12のA601はC、D、E、F又はLで置換される。
【0030】
本発明の別の態様では、上記のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体と、プライマーと、適した条件下で前記プライマーを取り込むことで、プライマーに取り込まれたヌクレオチド類似体と相補的な核酸塩基を確認するための複数のヌクレオチド類似体とを含む、合成によるシーケンス反応のためのキットを提供する。
【発明の効果】
【0031】
したがって、本発明は、ポリヌクレオチドの合成及び核酸鋳型の配列決定を容易にするよう、ヌクレオチド類似体の取り込み効果を向上できる特定のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体に関する。より具体的に言えば、通常の核酸鋳型及び可逆的ダイターミネーターヌクレオチドを有する前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体を利用することにより、DNA合成による配列決定法を効率的に実行し、前記核酸鋳型の配列を正確に決定することができる。
【0032】
本発明の上記と他の目的、特徴、利点及び実施形態をより明白かつ理解しやすくするため、図面を以下のように説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】一般的なSBS法の概略図である。
図2-1】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-2】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-3】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-4】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-5】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-6】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-7】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-8】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-9】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-10】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-11】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-12】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-13】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-14】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-15】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-16】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図2-17】本発明の各種野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)とそれらのコンセンサス配列のアミノ酸配列とのアラインメントを示す概略図である。
図3】本発明の除去可能な3'保護基部分を有する色素標識ヌクレオチド類似体の共通構造を示す図である。
図4】3’-O-N-dNTPの構造を示す図である。
図5A】N-dATP-リンカー-Atto532、N-dCTP-リンカー-Atto700、N-dGTP-リンカー-Cy5及びN-dTTP-リンカー-ROXの構造を示す図である。
図5B】N-dATP-リンカー-Atto532、N-dCTP-リンカー-Atto700、N-dGTP-リンカー-Cy5及びN-dTTP-リンカー-ROXの構造を示す図である。
図5C】N-dATP-リンカー-Atto532、N-dCTP-リンカー-Atto700、N-dGTP-リンカー-Cy5及びN-dTTP-リンカー-ROXの構造を示す図である。
図5D】N-dATP-リンカー-Atto532、N-dCTP-リンカー-Atto700、N-dGTP-リンカー-Cy5及びN-dTTP-リンカー-ROXの構造を示す図である。
図6】実施例4に記載の反応の結果を示す図である。
図7】実施例6に記載の反応の結果を示す図である。
図8】実施例7に記載の反応の結果を示す図である。
図9】実施例8に記載の反応の結果を示す図である。
図10】実施例9に記載の反応の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(配列表に関する記載)
本出願は、電子形式で配列表とともに提出される。該配列表が入ったテキストファイルの名称はP222285TW-配列表.TXT で、2022年10月12日に作成されるものであり、サイズは252kbである。この配列表の関連情報は、その全内容が引用により本明細書に組み込まれる。
【0035】
(用語)
本明細書で使用される用語は、本発明の範囲内に広く包含され、各用語を使用する特定の文脈で一般に、関連分野における通常の意味を有する。本明細書では、当業者が本発明の関連する説明を理解できるように、本発明を説明するために使用されるいくつかの用語を以下又は本明細書の他の場所で論じられる。同じ文脈では、同じ用語は同じ範囲と意味を持つ。さらに、同じことを表現する方法が複数あるため、本明細書で論じられている用語は代替の用語や同義語に置き換えられることができ、用語が本明細書で指定又は説明されているかどうかは、特別な意味を持たない。本明細書では、ある用語の同義語が提供されているが、1つ以上の同義語の使用は、他の同義語の使用を除外しない。
【0036】
本明細書で使用される場合、「一つ」、及び「前記」の意味は、文脈が別途明確に示さない限り、複数とも解釈することができる。また、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される「中間」及び「内部」という意味は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、「…の中に」を含む。なお、文脈内で特に明記されていない限り、発射体の先端の方向は「上」又は「下」と定義される。また、読者の便宜上、明細書にはタイトル又はサブタイトルが使用されることがあるが、本発明の範囲に影響を与えない。
【0037】
本明細書で使用される「アミノ酸」とは、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質に取り込むことができる任意の単量体ユニットを指す。本明細書で使用される「アミノ酸」という用語には、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン酸(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp)又はD)、システイン(CyS又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リジン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)、及びバリン(Val又はV)といった20の天然又は遺伝子コードのα-アミノ酸が含まれる。「X」残基が明確に定義されていない場合、これらのアミノ酸を「任意のアミノ酸」と定義する。
【0038】
本明細書で使用される「核酸」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、リボース核酸(RNA)若しくはデオキシリボース核酸(DNA)ポリマー又はその類似体に相当しうるポリマーを指す。これは、RNAやDNAのようなヌクレオチドのポリマー、並びに合成型、その修飾(例えば化学的又は生化学的に修飾された)型、及び混合ポリマー(例えばRNAサブユニットとDNAサブユニットの両方を含む)を含む。修飾の例としては、メチル化、類似体での天然ヌクレオチドの1つ以上の置換、無電荷結合のようなヌクレオチド間修飾(例えばメチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミダート、カルバマート等)、懸垂部分(例えばポリペプチド)、挿入剤(例えばアクリジン、ソラーレン等)、キレート剤、アルキル化剤及び修飾結合(例えばアルファアノマー核酸等)が挙げられる。水素結合や他の化学的相互作用を介して指定配列に結合する能力において、ポリヌクレオチドを模倣する合成分子もまた含まれる。核酸の合成型は他の結合(例えばNielsen et al. (Science 254:1497-1500, 1991)に記載されるようなペプチド核酸)を含むことができるが、典型的には、ヌクレオチドモノマーはホスホジエステル結合を介して結合する。核酸には、例えば染色体又は染色体セグメント、ベクター(例えば発現ベクター)、発現カセット、裸のDNA又はRNAポリマー、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物、オリゴヌクレオチド、プローブ及びプライマーがなりえる。又は核酸はそれらを含むことができる。核酸は例えば、一本鎖、二本鎖、又は三本鎖であることができ、特定の長さに限定されない。他に断りがない限り、特定の核酸配列は、明示された任意の配列に加え、相補的配列を任意に含んでなるか、又はコードする。
【0039】
本明細書で使用される「DNA合成による配列決定(SBS)」という用語は、ポリメラーゼ依存性の次世代シーケンシング(NGS)法を指す。図1に示すように、SBS法は主に以下のプロセスを含む:(i)標識(例えば、蛍光レポーター)を有するヌクレオチド類似体の取り込み。任意選択で、標識されたヌクレオチドは、ヌクレオチドをプライマーに添加するとさらなるプライマー伸長を停止させる可逆的な停止特性を含む。(ii)取り込まれたヌクレオチドの標識(例えば、蛍光発光)による同定。(iii)段階的な配列決定のため、ポリメラーゼ反応の再開に伴う標識(例えば、蛍光団及び/又はターミネーター)の切断。いくつかのSBS実施形態は、伸長産物へのヌクレオチドの取り込み時に放出されるプロトンの検出を含む。例えば、放出されたプロトンの検出に基づく配列決定方法は、Ion Torrent(米国コネチカット州ギルフォード、Life Technologiesの子会社)から商業的に入手可能な電気検出器及び関連技術、或いは特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5に記載されている配列決定方法及びシステムを使用することができる。上記出願のそれぞれの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
本明細書で使用される「鋳型」という用語は、所望の又は未知の標的ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド或いはポリヌクレオチド模倣物である。場合によっては、用語「標的配列」、「鋳型ポリヌクレオチド」、「標的核酸」、「標的ポリヌクレオチド」、「核酸鋳型」、「配列鋳型」、及びそれらの変形は互換的に使用される。具体的には、「鋳型」という用語は、鋳型依存性又は鋳型指向性の核酸ポリメラーゼの複製を通じてヌクレオチド或いはヌクレオチド類似体から相補的コピーが合成される核酸鎖を指す。従来の定義では、核酸二重らせんに位置する鋳型鎖は「下側」の鎖として描かれ、説明される。同様に、非鋳型鎖は「上側」の鎖として描かれ、説明されることがよくある。「鋳型」鎖は「センス」又は「プラス」鎖とも呼ばれ、非鋳型鎖は「アンチセンス」又は「マイナス」鎖と呼ばれることもある。
【0041】
本明細書で使用する「プライマー」という用語は、核酸ポリメラーゼが核酸鎖を伸長する開始剤として使用する短い一本鎖オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、又は修飾核酸類似体を指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、「ヌクレオチドの取り込み」、「類似体の取り込み」、「取り込みヌクレオチド」及び「取り込み類似体」という用語は当業者に知られており、核酸合成のプロセス又は反応を説明するために使用される。したがって、本明細書で使用される「取り込み」という用語は、核酸プライマーの3’-ヒドロキシル末端に1つ以上のヌクレオチド、或いは任意の特定の核酸前駆体を付加することを柔軟に指すことが知られている。例えば、デオキシグアノシン三リン酸 (dGTP)などのヌクレオシド三リン酸は、DNA合成時にDNAポリメラーゼに必要な基質或いは前駆体である。dGTPが伸長したDNA鎖に取り込まれると、新しく合成されたDNAのデオキシグアノシン一リン酸(dGMP)部分になる。換言すれば、dGTPヌクレオチドがDNAのdGMP部分に変換されるとき、当業者はdGTPがDNAに取り込まれたと言えるであろう。
【0043】
本明細書で使用される「ヌクレオチド類似体」という用語は、典型的なヌクレオチドの構造模倣物である化学的に修飾されたヌクレオチド或いは人工ヌクレオチドを示すことが当業者に知られている。これらのヌクレオチド類似体は、核酸ポリメラーゼが合成するための基質として機能することができる。ヌクレオチド類似体は、ヌクレオチドの1つ以上の変更された構成要素(例えば、リン酸骨格、ペントース糖、核酸塩基)を有する場合があり、これらの変更された構成要素は、ヌクレオチドの構造及び配置を変更するだけでなく、他の核酸塩基及び核酸との相互作用にも影響を与える。例えば、変更された核酸塩基を有するヌクレオチド類似体は、DNA若しくはRNAに別の塩基対合及び塩基スタッキング特性を与えることができる。さらに、一例として、塩基での修飾により、イノシン、イノシン、メチル-5-デオキシシチジン、デオキシウリジン、ジメチルアミノ-5-デオキシウリジン、ジアミノ-2,6-プリン又はブロモ-5-デオキシウリジン、及びハイブリダイゼーションを可能にする他の任意の類似体などのさまざまなヌクレオシドが生成される可能性がある。他の例示的な実施形態において、これらの修飾は、糖部分のレベル(例えば、類似体によるデオキシリボースの置換)及び/又はリン酸官能基レベル(例えば、ボロン酸塩、アルキルホスホン酸塩、或いはホスホロチオエート誘導体)で起こり得る。ヌクレオチド類似体モノマーのリン酸官能基は、一リン酸、二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸、及び六リン酸からなる群から選択され得る。他のヌクレオチド類似体の例として、除去可能な保護基部分を有するヌクレオチドも含まれる。除去可能な保護基部分の例としては、3’-O-保護基部分、塩基保護基部分、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。3’-O-保護基部分の例としては、O-N、O-アジドメチル、O-アミン、O-アリル、O-フェノキシアセチル、O-メトキシアセチル、O-アセチル、O-(p-トルエン)スルホン酸塩、O-リン酸塩、O-硝酸塩、O-[4-メトキシ]-テトラヒドロチオピラニル、O-テトラヒドロチオピラニル、O-[5-メチル]-テトラヒドロフラニル、O-[2-メチル,4-メトキシ]-テトラヒドロピラニル、O-[5-メチル]-テトラヒドロピラニル、O-テトラヒドロチオフラニル、O-2-ニトロベンジル、O-メチル及びO-アシルが挙げられるが、これらに限定されない。塩基保護基部分の例は、可逆的ダイターミネーターであり得る。可逆的ダイターミネーターの例としては、Illumina MiSeqの可逆的ダイターミネーター、Illumina HiSeqの可逆的ダイターミネーター、Illumina Genome Analyzer IIXの可逆的ダイターミネーター、Helicos Biosciences Heliscopeの可逆的ダイターミネーター、及びLaserGenのLightning Terminatorsの可逆的ダイターミネーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書で使用される場合、「ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)」とは、全ての生命ドメイン及び多数のDNAウイルスにおいて最も一般的な鋳型依存性核酸ポリメラーゼ又はレプリカーゼを指す。ほとんどの核酸ポリメラーゼと同様に、天然のPolBは二本鎖プライマー鋳型を必要とし、プライマー末端に遊離の3’-ヒドロキシル(3’-OH)官能基、4つ全てのヌクレオシド三リン酸 (dATP、dTTP、dCTP、及びdGTP)、及び触媒作用をもたらす二価カチオン(Mg2+又はMn2+など)を持ち、前述のカチオンは、ヌクレオチジルトランスフェラーゼ反応を触媒して、プライマーの3’-OH 末端にヌクレオチドを付加するために使用される。細菌PolIIや古細菌ファミリーB型DNAポリメラーゼなどのPolB酵素は、本質的に触媒ポリメラーゼドメインと、核酸複製中に成長するプライマー鎖から誤って取り込まれたヌクレオチドを除去するために使用される3’→5’エキソヌクレアーゼドメイン又はプルーフリーディングドメインを含む複製型と修復型ポリメラーゼである。「3'→5'エキソヌクレアーゼドメイン」という用語は、プライマー又はポリヌクレオチド鎖の3'末端から核酸分解活性を発揮することができるポリメラーゼのアミノ酸配列領域を指す。同様に用語「触媒ポリメラーゼドメイン」は、プライマー又はポリヌクレオチド鎖の3’末端にヌクレオチドを付加することによって触媒DNA/RNAポリメラーゼ活性を発揮するポリメラーゼのアミノ酸配列領域も指す。
【0045】
現在知られているPolB触媒ポリメラーゼドメインは、均しくヒトの右手の形状に似ており、主要な機能領域がそれぞれ指、手のひら、及び親指のサブドメインとして特徴付けられている。最も保存されている領域は、手のひらのサブドメインであり、触媒作用に必須の残基が含まれている。異なる生命界及びDNAウイルス界に由来する各種ファミリーB型DNAポリメラーゼ間のタンパク質配列アラインメントによりPolBポリメラーゼが基本的なエキソヌクレアーゼヌクレアーゼ及びポリメラーゼ機能を有するため、一般に6つの半保存或いは保存されたモチーフ(I~VI)を保持していることが明らかになる。最初の3つの配列モチーフ(ExoI、ExoII、ExoIII)は、3’→5’エキソヌクレオシドドメインにあり、他の3つのモチーフ(それぞれA、B及びCモチーフと呼ばれる)はポリメラーゼドメインにある(1999年Hopfnerらは非特許文献2に発表)。
【0046】
本明細書で使用する場合、本発明のDNAポリメラーゼに関して「突然変異体」という用語は、対応する機能的DNAポリメラーゼと比較して1つ以上のアミノ酸置換を含む、通常は組換え型ポリペプチドを指す。
【0047】
変異DNAポリメラーゼの文脈では、「異なる配列(例えば、領域、断片、ヌクレオチド又はアミノ酸の位置など)への対応」は、ヌクレオチド又はアミノ酸の位置番号によって番号付けし、その後に配列の同一性百分率を最大化する方法で配列を整列させる慣例に基づいている。「[特定の配列]の[X]位に対応する」アミノ酸とは、特定の配列に等価なアミノ酸によって整列させる目的のポリペプチド中のアミノ酸を指す。一般に、本明細書に記載されるように、ポリメラーゼの位置に対応するアミノ酸は、BLASTなどの整列アルゴリズムを使用して決定できる。所定の「対応する領域」内の全ての位置が同一である必要はないので、対応する領域内の一致しない位置を、「対応する位置」と見做してもよい。従って、本明細書で使用する場合に、「特定のDNAポリメラーゼのアミノ酸位置Xに対応するアミノ酸位置」は、他のDNAポリラーゼ及び構造相同体及びファミリーでの整列に基づく等価な位置を指している。
【0048】
本明細書で使用される「半保存」という用語は、異なる供給源からの異なるPolBの相同位置に、同様の特性を有するアミノ酸残基或いは同じアミノ酸残基を有するポリメラーゼ断片を指す。「保存」という用語は、異なる供給源からの異なるPolBのポリメラーゼ断片が相同位置に同じアミノ酸残基を有することを指す。
【0049】
本明細書で使用される「配列番号1のコンセンサス配列」という用語は、異種間ファミリーB型DNAポリメラーゼの保存されたアミノ酸を含む参照配列を指す。配列番号1のコンセンサス配列は、保存されたアミノ酸を得るため、好熱菌(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo)、好熱菌(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)、好熱菌属(Thermococcus sp.)(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)、好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma)、メタノサルシナアセチボランス(Methanosarcina acetivorans) のDNAポリメラーゼ(Mac)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のDNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)、緑膿菌DNAポリメラーゼII(Pae)、大腸菌DNAポリメラーゼII(Eco)、バクテリオファージ(大腸菌ファージ[Escherichia phage])RB69 DNAポリメラーゼ(RB69)、バクテリオファージ(大腸菌ファージ)T4のDNAポリメラーゼ(T4)及びバクテリオファージ(バチルスファージ[Bacillus phage])Phi29のDNAポリメラーゼ(Phi29)といった16種類の野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼをアラインメントすることによって生成された仮想配列である。ExoIモチーフ、ExoIIモチーフ、ExoIIIモチーフ、Aモチーフ、Bモチーフ及びCモチーフの位置は、本発明の配列番号1のコンセンサス配列を用いて本発明者により定義されたものであるため、本発明で定義されるモチーフの位置は先行技術に記載されているものと完全に同じではないことに留意されたい。
【0050】
(目的)
一般的に言えば、SBS法で検討され最終的に採用されるDNAポリメラーゼは、次の特性を備えている必要がある。(i)ポリメラーゼは、DNA依存性DNAポリメラーゼである必要があり、換言すれば、ポリメラーゼは複製用のDNA鋳型を持っている必要がある。(ii)ポリメラーゼは、ヌクレオチドを迅速に取り込む必要があり、ヌクレオチド取り込み速度が速いDNAポリメラーゼは、より効率的にDNA合成を触媒できる。(iii)ポリメラーゼは系統的誤差を最小限に抑えるために高い複製忠実度を備えていなければならず、換言すれば、ポリメラーゼはDNA鋳型の配列情報を正確に読み取り、DNA鋳型に従って正確で一致するヌクレオチドを忠実に取り込むことができなければならない。(iv)ポリメラーゼは、長く、内因性で、複製可能な連続合成能力(processivity)を持たなければならない。本明細書で使用される場合、DNAポリメラーゼの連続合成能力は、プライマー/鋳型(P/T)DNAを使用した複合体形成中に取り込まれるdNTP又はヌクレオチド類似体の数によって定義される。(v)ポリメラーゼは、単量体の形で機能することで、より簡単に生成し、さらに修飾することができる(非特許文献1に掲載され、2014年にChen,C.Y.から発表されたDNAポリメラーゼ駆動DNA合成配列決定技術:過去と現在)。
【0051】
したがって、本発明の目的の1つは、PolB変異体が、ポリヌクレオチドを合成し、関連する核酸鋳型を配列決定する際に、ヌクレオチド類似体の取り込み効率が向上できるように、上記の原理に基づくファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)変異体を提供することである。これらのPolB変異体は、核酸鋳型及びヌクレオチド類似体の存在下で、上述の酵素触媒による核酸合成及び配列決定を効率的に行うことを可能にすることができる。より具体的に言えば、これらのPolB変異体は、通常の核酸鋳型及び可逆的ダイターミネーターヌクレオチドと組み合わせると、上記の酵素触媒による核酸合成及び配列決定を効率的に実行して、関連する核酸鋳型の配列を正確に確認することができる。例えば、PolB変異体は、修飾されたヌクレオチド類似体の合成及びプライマーの3’末端への取り込みを指示するため、正常な未修飾の核酸鋳型に依存する可能性がある。取り込みに使用されるヌクレオチドは、識別可能な蛍光レポーターを持ち、核酸鋳型のDNA配列情報の確認に使用されることができる。
【0052】
本発明者は、PolB変異体が広範な基質特異性を有することを見出した。これは、修飾されたPolB変異体が、鋳型依存性の核酸合成のため、天然に存在するヌクレオチドだけでなく、様々な修飾ヌクレオチドも利用できることを意味する。したがって、これらのPolB変異体は、核酸配列を確認するためのDNA合成による配列決法におけるヌクレオチドの取り込み効率を高めることができる。
【0053】
(ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体)
したがって、本発明は、配列番号1のコンセンサス配列のアミノ酸配列に基づいて描写されるポリメラーゼ変異体を提供する。配列番号1のコンセンサス配列を比較すると、該ポリメラーゼ変異体は1つ以上の残基に置換変異を有し、置換変異は該配列と同じ位置又は機能的に等価な位置で起こり得ることが分かる。当業者であれば、本明細書に記載されているポリメラーゼ変異体が天然に存在するものではないことを容易に理解するであろう。したがって、本明細書に記載されるポリメラーゼ変異体は、配列番号1のコンセンサス配列に基づいており、1つ以上の残基における置換変異をさらに含む。一実施形態において、置換変異は、配列番号1のコンセンサス配列のアミノ酸と機能的に等価な位置で起こる。「機能的に等価」とは、該ポリメラーゼ変異体が配列番号1のコンセンサス配列のアミノ酸位置でアミノ酸置換を起こり、前述のアミノ酸置換はコンセンサス配列とポリメラーゼ変異体の両方において同じ機能を有することを意味する。
【0054】
一般的に言えば、2つ以上の異なるポリメラーゼにおける機能的に等価な置換変異は、これらのポリメラーゼのアミノ酸配列における相同なアミノ酸位置で起こる。したがって、特定の変異アミノ酸の特定の機能が既知であるかどうかに関係なく、該変異が「位置的に等価」或いは「相同」である限り、「機能的に等価」として分類できる。配列アラインメント及び/又は分子モデリングに基づいて、2つ以上の異なるポリメラーゼのアミノ酸配列における機能的に等価及び位置的に等価なアミノ酸残基位置を同定することができる。例えば、図2は、16種類の野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼのアミノ酸配列アラインメントを用いて位置的に等価及び/又は機能的に等価な残基を同定したものを示している。したがって、Tgo、Kod1、9°N、Pfu及びVent DNAポリメラーゼの例示的な残基141とMac DNAポリメラーゼの例示的な残基198は、機能的及び位置的に等価である。同様に、Tgo、Kod1、9°N、Pfu、及びVent DNAポリメラーゼの例示的な残基143とMacポリメラーゼの典型的な残基200は、機能的及び位置的に等価である。当業者であれば、他のDNAポリメラーゼにおける機能的に等価な残基を同定することもできる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態によれば、本発明のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号1のコンセンサス配列の349位~364位、450位~476位、590位~608位、706位~730位、843位~855位及び940位~956位にそれぞれ対応するExoIモチーフ、ExoIIモチーフ、ExoIIIモチーフ、Aモチーフ、Bモチーフ及びCモチーフと、ExoIモチーフ、ExoIIモチーフ及びExoIIIモチーフからなる群から選択されるモチーフ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換(1個以上のアミノ酸置換、又はアミノ酸置換の組み合わせ)と、Aモチーフ、Bモチーフ及びCモチーフからなる群から選択されるモチーフ内の位置にある少なくとも1つのアミノ酸置換(1個以上のアミノ酸置換、又はアミノ酸置換の組み合わせ)とを含む。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼを用いて修飾され、それぞれ好熱菌(Thermococcus gorgonarius) のDNAポリメラーゼ(Thermococcus sp.)(Tgo)、好熱菌(Thermococcus kodakarensis) DNAポリメラーゼ(Kod1)、好熱菌属(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)、好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma)、メタノサルシナアセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のDNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)、緑膿菌のDNAポリメラーゼII(Pae)、大腸菌のDNAポリメラーゼII(Eco)、バクテリオファージ(大腸菌ファージ)RB69のDNAポリメラーゼ(RB69)、バクテリオファージ(大腸菌ファージ)T4のDNAポリメラーゼ(T4)又はバクテリオファージ(バチルスファージ)Phi29のDNAポリメラーゼ(Phi29)を含む野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼに由来する。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態によれば、配列番号1の354位に対応するアミノ酸は、D以外の任意のアミノ酸であり、例えば、前記アミノ酸はN、Q、S、T、Y、A、C、G、I、L、M、F、P、W、V、R、H、K又はEで置換され得る。配列番号1の355位に対応するアミノ酸は、I以外の任意のアミノ酸であり、例えば、前記アミノ酸はN、Q、S、T、Y、A、C、G、L、M、F、P、W、R、H、K、D又はEで置換され得る。配列番号1の356位に対応するアミノ酸は、E以外の任意のアミノ酸であり、例えば、前記アミノ酸はN、Q、S、T、Y、A、C、G、I、L、M、F、P、W、V、R、H、K又はDで置換され得る。配列番号1の715位に対応するアミノ酸は、L又はM以外の任意のアミノ酸であり、例えば、前記アミノ酸はN、Q、S、T、Y、A、C、G、I、F、P、W、V、R、H、K、D又はEで置換され得る。配列番号1の716位に対応するアミノ酸は、Y以外の任意のアミノ酸であり、例えば、前記アミノ酸はN、Q、S、T、A、C、G、I、L、M、F、P、W、V、R、H、K、D又はEで置換され得る。配列番号1の717位に対応するアミノ酸は、P以外の任意のアミノ酸であり、例えば、前記アミノ酸はN、Q、S、T、Y、A、C、G、I、L、M、F、W、V、R、H、K、D又はEで置換され得る。本発明の好ましい実施形態において、配列番号1の854位に対応するアミノ酸は、A以外の任意のアミノ酸であり、例えば、前記アミノ酸はN、Q、S、T、Y、C、G、I、L、M、F、P、W、V、R、H、K、D又はEで置換され得る。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号3の野生型アミノ酸配列を有する好熱菌(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号3のE141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号3のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号3のL408はA、F、I、M、Q、S、H又はY、好ましくはA、Q又はY、より好ましくはYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号3のY409はA、C、D、F、G、H又はI、好ましくはAで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号3のP410はA、C、F、G、S又はT、好ましくはF又はG、より好ましくはGで置換される。特定の実施形態において、配列番号1の854位に対応する配列番号3のA485は、C、D、E、F又はL、好ましくはE又はL,より好ましくはLで置換される。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号4の野生型アミノ酸配列を有する好熱菌属(Thermococcus sp.)(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号4のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号4のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号4のL408はA、F、I、M、Q、S、H又はY、好ましくはA、Q又はY、より好ましくはYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号4のY409はA、C、D、F、G、H又はI、好ましくはAで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号4のP410はA、C、F、G又はS或いはT、好ましくはF又はG、より好ましくはGで置換される。特定の実施形態において、配列番号1の854位に対応する配列番号4のA485は、C、D、E、F又はL、好ましくはE又はL、より好ましくはLで置換される。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号5の野生型アミノ酸配列を有するパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号5のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号5のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号5のI409はA、F、I、M、Q、S、H又はY、好ましくはA、Q又はY、より好ましくはYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号5のY410はA、C、D、F、G、H又はI、好ましくはAで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号5のP411はA、C、F、G、S又はT、好ましくはF又はG、より好ましくはGで置換される。特定の実施形態において、配列番号1の854位に対応する配列番号5のA486は、C、D、E、F又はL、好ましくはE又はL、より好ましくはLで置換される。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号6の野生型アミノ酸配列を有する好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号6のD141はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号6のE143はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号6のL411はA、F、I、M、Q、S、H又はY、好ましくはA、Q又はY、より好ましくはYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号6のY412はA、C、D、F、G、H又はI、好ましくはAで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号6のP413はA、C、F、G、S又はT、好ましくはF又はG、より好ましくはGで置換される。特定の実施形態において、配列番号1の854位に対応する配列番号6のA488は、C、D、E、F又はL、好ましくはE又はL、より好ましくはLで置換される。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号8の野生型アミノ酸配列を有するメタノサルシナアセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号8のD198はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号8のE200はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号8のL485はA、F、I、M、Q、S、H又はY、好ましくはA、Q又はY、より好ましくはYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号8のY486はA、C、D、F、G、H又はI、好ましくはAで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号8のP487はA、C、F、G、S又はT、好ましくはF又はG、より好ましくはGで置換される。特定の実施形態において、配列番号1の854位に対応する配列番号8のA565は、C、D、E、F又はL、好ましくはE又はL、より好ましくはLで置換される。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号11の野生型アミノ酸配列を有するピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号11のD171はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号11のE173はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号11のM426はA、F、I、M、Q、S、H又はY、好ましくはA、Q又はY、より好ましくはYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号11のY427はA、C、D、F、G、H又はI、好ましくはAで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号11のP428はA、C、F、G、S又はT、好ましくはF又はG、より好ましくはGで置換される。特定の実施形態において、配列番号1の854位に対応する配列番号11のA508は、C、D、E、F又はL、好ましくはE又はL、より好ましくはLで置換される。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、配列番号12の野生型アミノ酸配列を有するスルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso)に由来し、配列番号1の354位に対応する配列番号12のD231はAで置換され、配列番号1の356位に対応する配列番号12のE233はAで置換され、配列番号1の715位に対応する配列番号12のL518は由A、F、I、M、Q、S、H又はY、好ましくはA、Q又はY、より好ましくはYで置換され、配列番号1の716位に対応する配列番号12のY519はA、C、D、F、G、H又はI、好ましくはAで置換され、配列番号1の717位に対応する配列番号12のP520はA、C、F、G、S又はT、好ましくはF又はG、より好ましくはGで置換される。特定の実施形態において、配列番号1の854位に対応する配列番号12のA601は、C、D、E、F又はL、好ましくはE又はL、より好ましくはLで置換される。
【0065】
(ポリメラーゼの突然変異誘発)
本明細書において、様々な種類の突然変異誘発の技術を任意に使用でき、例えばポリメラーゼを改変して本発明の変異体を生成するか、或いはランダム又は半ランダム突然変異アプローチを使用する。一般に利用可能な突然変異誘発手順は、ポリメラーゼ変異体の作成に使用されることができ、このような突然変異誘発手順には、場合により1つ以上の目的の活性についての突然変異核酸及びポリペプチドの選択が含まれる。使用できる手順には、部位特異的点突然変異導入、ランダム点突然変異誘発、インビトロ又はインビボでの相同組換え(DNAシャッフリング及びコンビナトリアルオーバーラップPCR)、ウラシル含有鋳型を使用した突然変異誘発、オリゴヌクレオチド特異的突然変異導入、ホスホロチオエート修飾DNA突然変異誘発、ギャップ付き二本鎖DNAを使用した突然変異誘発、点ミスマッチ修復、修復欠損宿主株を使用した突然変異誘発、制限選択及び制限精製突然変異誘発、欠失突然変異誘発、全遺伝子合成による突然変異誘発、縮重PCR、二本鎖切断修復及び当業者に知られている他の多くの方法が含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
(DNAポリメラーゼ変異体をコードする核酸)
本発明のいくつかの実施形態は、DNAポリメラーゼ変異体をコードする核酸をさらに開示する。特定のアミノ酸は、複数のコドンによってコードされる場合があり、特定の翻訳系(原核細胞又は真核細胞など)はコドンの偏りを示すことがよくあり、つまり異なる生物は、同じアミノ酸をコードするいくつかの同義コドンのうちの1つを好むことがよくある。したがって、本明細書で提案する核酸は場合により「コドン最適化」されており、これは、ポリメラーゼを発現するために使用される特定の翻訳系が好むコドンを含むように核酸が合成されることを意味する。例えば、細菌細胞(又は特定の細菌株)内でポリメラーゼを発現させることが望ましい場合、ポリメラーゼを効率的に発現させるため、該細菌細胞のゲノム内で最も頻繁に見出されるコドンを含むように核酸を合成することができる。真核細胞内でポリメラーゼを発現させることが望ましい場合、同様の戦略を使用することができ、例えば、該核酸には該真核細胞が好むコドンを含めることができる。
【0067】
本明細書に記載の核酸分子はまた、適切な宿主内でそこからコードされるポリメラーゼタンパク質を発現するために適切な発現ベクターに有利に含まれ得る。その後の前記細胞の形質転換やその後の形質転換細胞の選択のため、クローン化されたDNAを適切な発現ベクターに取り込むことは、当業者にとって周知である。この発現ベクターは、プロモーター領域などの調節配列に作動可能に連結されることで、DNA断片の発現に影響を与えることができる本明細書に記載の実施形態による核酸を有するベクターを含む。このようなベクターは、本明細書に記載の実施形態によるファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体の発現を提供するため、適切な宿主細胞に形質転換され得る。
【0068】
核酸分子は、成熟タンパク質又はプロ配列(prosequence)を有するタンパク質をコードすることができ、後者はまずプレタンパク質上のリーダー配列をコードし、次いで宿主細胞によって切断されて成熟タンパク質を形成する。前記ベクターは、複製起点とヌクレオチドを発現するための任意のプロモーター及び前記プロモーターの任意の調節因子を有するプラスミド、ウイルス又はファージなどのベクターであり得る。前記ベクターは、抗生物質耐性遺伝子などの1つ以上の選択マーカーを含み得る。
【0069】
(ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体を含む組成物)
本発明の一態様は、本明細書に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体を含む組成物も提供する。前記組成物は、ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体に加えて、他の成分をさらに含んでもよい。例えば、前記組成物には、緩衝液、ヌクレオチド溶液又はこれらの組み合わせが含まれ得る。ヌクレオチド溶液は、標識されたヌクレオチド、合成されたヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド、又はこれらの組み合わせが含まれ得る。本発明の一実施形態によれば、本発明の組成物は、標的核酸のライブラリー(library)などの標的核酸を含む。
【0070】
(SBS反応用を行うためのキット)
本発明の一態様は、少なくとも1つの本発明に係るファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体と、プライマーと、ポリヌクレオチド鋳型と、適した条件下で前記プライマーを取り込むことで、プライマーの末端に取り込まれたヌクレオチドと相補的な鋳型核酸塩基を確認するためのヌクレオチド類似体とを含む、合成によるシーケンス反応用のキットを提供する。前記キットは、場合により前記ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体及び前記ヌクレオチド溶液に必要な緩衝液や溶液などの他の試薬も含んでもよい。通常、前記キットには、組み立てられた又はパッケージ化されたコンポーネントの使用説明書も含まれる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態によれば、ヌクレオチド溶液は、標識されたヌクレオチドを含む。本発明の特定の実施形態によれば、前記ヌクレオチドは、合成されたヌクレオチドである。本発明の特定の実施形態によれば、前記ヌクレオチドは、化学的に修飾されたヌクレオチドである。特定の実施形態において、修飾ヌクレオチドは、置換基のサイズが天然に存在する3'ヒドロキシル基よりも大きくなるように、3'糖ヒドロキシルに改変された化学官能基を有する。特定の実施形態において、前記修飾ヌクレオチドには、プリン又はピリミジン塩基と、除去可能な3’保護基が共有結合したリボース或いはデオキシリボース糖部分とを含む修飾ヌクレオチド又はヌクレオシド分子が含まれる。特定の実施形態において、前記修飾ヌクレオチドは直接検出を容易にするため、蛍光標識される。特定の実施形態において、前記修飾ヌクレオチドは、切断可能なリンカーを介して検出可能な標識に結合した塩基を有するヌクレオチド又はヌクレオシドを含む。特定の実施形態において、前記検出可能な標識には蛍光標識が含まれる。
【0072】
(使用方法)
本発明はさらに、(i)上記の実施形態に記載のファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体、(ii)DNA鋳型、(iii)ヌクレオチド溶液といった成分を相互作用させることを含む、ヌクレオチド類似体をDNAに取り込む方法を提供する。本発明の特定の実施形態によれば、該DNA鋳型は、ガラス或いはシリコンウェーハ上のクラスター化されたアレイを含む。したがって、多重化、並行した核酸合成及び配列決定を実行して、各種核酸の配列を決定することができる。このPolB変異体駆動のアレイベースの合成による配列決定法は、DNA配列決定の全体的なスループットが向上し、DNA配列決定の全体的なコストを削減できる。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のPolB変異体は、酵素、抗体、化学官能基(例えばヌクレオチドの塩基、リン酸部分又は五炭糖上のビオチン、デスチオビオチン又は蛍光団)と共有結合したヌクレオチドコンジュゲート又は類似体を鋳型依存性の合成方法でそれぞれプライマー或いは核酸イニシエーターの3’末端に取り込まれるために使用できる。
【0074】
核酸合成中にPolB変異体によりこれらのヌクレオチド複合体又は類似体を核酸に取り込むとき、同時に酵素、抗体、或いは化学官能基などの所望の成分を配列依存的な方法で新しく合成された核酸に追加する。核酸プローブ及びコンジュゲートを標識又は生成するために使用される一般的な成分は当技術分野で知られており、ヌクレオチド類似体、修飾リンカー(ビオチン、チオール、アジド或いはアミン基など)、蛍光団、酵素及び抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
一方、本発明の実施形態によれば、合成されたヌクレオチドの塩基、リン酸部分又は五炭糖は、修飾されたリンカーを介して酵素、抗体、化学官能基或いは蛍光団と共有結合または非共有結合することにより核酸の合成後修飾を達成できる。したがって、所望の成分を特定の塩基と共有結合又は非共有結合させて、新たに合成されたポリヌクレオチドの3’末端に付加させることができる。塩基特異的コンジュゲートは、核酸鋳型の配列を決定するためのレポーターとして使用できる。
【0076】
また、いくつかの実施形態において、本明細書に記載のPolB変異体は、合成配列決定法において3’-修飾された可逆的ダイターミネーター(RDT)ヌクレオチドを取り込むために使用することができ、ヌクレオチドの糖部分の3’-ヒドロキシル官能基(3’-OH)に切断可能な化学置換基を持ち、ヌクレオチド塩基上に異なる蛍光スペクトル特性を備えた除去可能な蛍光分子を持つ。PolB変異体による鋳型指向合成及び個々のRDTヌクレオチドの取り込みは、それぞれA、T、C、又はG塩基の蛍光読み取り値として使用され、関連する核酸鋳型の配列を決定できる。
【実施例
【0077】
本節では、以下の実施例を通じて本発明の内容をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示に過ぎず、当業者であれば容易に種々の変形及び変更を想到することができる。したがって、以下では本発明の様々な実施例について詳細に説明するが、本発明は本明細書に列挙される様々な実施例に限定されない。
【0078】
(実施例1)
各種ファミリーB型DNAポリメラーゼのタンパク質配列アラインメント、及びコンセンサス配列と変異体の決定
図2は、16種類の野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼ(PolB)のアミノ酸配列のアラインメント結果を示し、アラインメントされたコンセンサス配列の結果を図の下部に列挙する(配列番号1)。アラインメントされた16種類の野生型ファミリーB型DNAポリメラーゼは、好熱菌(Thermococcus gorgonarius)のDNAポリメラーゼ(Tgo、配列番号2)、好熱菌(Thermococcus kodakarensis)のDNAポリメラーゼ(Kod1、配列番号3)、好熱菌属(Thermococcus sp.)(菌株9°N-7)のDNAポリメラーゼ(9°N、配列番号4)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のDNAポリメラーゼ(Pfu、配列番号5)、好熱菌(Thermococcus litoralis)のDNAポリメラーゼ(Vent、配列番号6)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)のDNAポリメラーゼ(Mma、配列番号7)、メタノサルシナアセチボランス(Methanosarcina acetivorans)のDNAポリメラーゼ(Mac、配列番号8)、ヒトDNAポリメラーゼδのp125触媒サブユニット(hPOLD、配列番号9)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のDNAポリメラーゼδの触媒サブユニット(ScePOLD、配列番号10)、ピロバキュラム・イスランジカム(Pyrobaculum islandicum)のDNAポリメラーゼ(Pis、配列番号11)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)のDNAポリメラーゼ(Sso、配列番号12)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のDNAポリメラーゼII(Pae、配列番号13)、大腸菌(Escherichia.Coli)のDNAポリメラーゼII(Eco、配列番号14)、バクテリオファージRB69のDNAポリメラーゼ(RB69、配列番号15)、バクテリオファージT4 DNAポリメラーゼ(T4、配列番号16)及びバクテリオファージPhi29のDNAポリメラーゼ(Phi29、配列番号17)であった。
【0079】
図2図2-1~2-34を含む)に示すように、野生型PolBの異なる領域は高度に保存されているが、他の領域は高度に変異している。当業者であれば、本明細書で具体的に同定され論じられる変異以外に、当該突然変異酵素のポリメラーゼ活性を変えることなく、或いは実質的に変えることなく、野生型PolBの可変領域にも変異が起こし得ることを直ちに認識し、理解するであろう。同様に、突然変異酵素のポリメラーゼ活性を変えることなく、或いは実質的に変えることなくPolBの保存された残基/位置で保存的突然変異を行うことができる。他の機能的に関連する酵素又は相同体との比較構造分析に基づく酵素工学は、分子生物学の分野において一般的で有用な技術であり、当業者が酵素の触媒活性に対する所定の突然変異の影響を合理的に予測できるようにする。アミノ酸の構造データ及び既知の物理的特性を使用して、当業者は、酵素の本質的な固有の特徴を変えることなく、或いは実質的に変えることなく、本発明に含まれるDNAポリメラーゼなどに対して酵素の突然変異作用を行うことができる。
【0080】
なお、配列番号1のコンセンサス配列の349位~364位、450位~476位、590位~608位、706位~730位、843位~855位及び940位~956位にそれぞれ対応するExoIモチーフ、ExoIIモチーフ、ExoIIIモチーフ、Aモチーフ、Bモチーフ及びCモチーフは、図2に示すようにマークされている。より具体的に言えば、本発明におけるポリメラーゼ変異体は、これらのモチーフ内の1つ以上の対応残基で置換変異を起こる。
【0081】
(実施例2)
ファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体の作成
本明細書に開示される選択的PolB保存及び半保存領域における保存/コンセンサスアミノ酸の特性に基づき遺伝子合成法及び突然変異誘発技術を使用して例示的なPolB変異体を作成した。例えば、当業者によく知られた手法である部位特異的突然変異誘発手法を採用して、例示的な野生型PolBの保存されたExoIモチーフ、ExoIIモチーフ、ExoIIIモチーフ、Aモチーフ、Bモチーフ及びCモチーフ領域内のアミノ酸残基を改変する。
【0082】
いくつかの実施形態において、DNAポリメラーゼ変異体を取得するための手順は、一般に3つのステップに分けられる。ステップ1:DNAポリメラーゼ及びそのエキソヌクレアーゼ欠損(Exo-)変異体の遺伝子合成、ステップ2:所望の領域におけるDNAポリメラーゼ変異体の構築、 ステップ3: DNAポリメラーゼとその変異体の発現と精製。前記手順で使用される技術は、当業者にはよく知られており、以下でより詳細に説明する。
【0083】
ステップ1では、野生型のイントロンレスDNAポリメラーゼをコードするコドン最適化遺伝子断片がGenomics BioSci&Tech.Co.Ltd.(新北市、台湾)により合成された。3’→5’エキソヌクレアーゼ欠損DNAポリメラーゼ(Exo-と呼ばれる)も同じ供給業者から入手された。本明細書で使用される「Exo-」とは、野生型PolBが配列番号1のD354位に対応する位置にアラニン(D354A)残基で置換され、配列番号1のE356に対応する位置にもアラニン残基(E356A)で置換されるという組み合わせ変異を起こることを意味する。
【0084】
ステップ2では、野生型及び3’→5’エキソヌクレアーゼ欠損DNAポリメラーゼ遺伝子をそれぞれNdeI部位及びNotI部位を介してpET28bベクターにサブクローニングし、組換えプラスミドをDNA配列決定により確認した。PolBタンパク質骨格上の所望のモチーフ領域にポリメラーゼ変異体を作成するため、部位特異的突然変異誘発を実施した。簡単に言えば、New England Biolabs(イプスウィッチ、マサチューセッツ州、米国)が販売しているQ5部位特異的突然変異誘発キットを組換えプラスミドとともに使用して、部位特異的突然変異誘発PCRを実施してアミノ酸置換を導入した。まず生成物を1%アガロースゲルで分析してアンプリコンのサイズを確認し、次に残りのPCR反応混合物をDpnIで37℃にて1時間処理した。混合物を70℃でさらに10分間インキュベートして、DpnI機能を不活性化した。次に、Qiagen社製のQIAquick PCR精製キット(Whatman、マサチューセッツ州、米国)を使用してDpnI処理した PCR反応混合物を精製し、T4 PNK及びT4 DNAリガーゼ混合物を使用して精製したDNA断片を処理し、さらに再環状化されたPCR増幅したDNAを大腸菌細胞に形質転換した。その後、Qiagen社製プラスミドミニキット(Whatman、マサチューセッツ州、米国)を使用して、プラスミドDNAを大腸菌細胞から抽出した。続いてDNA配列決定を行い、所望のモチーフ領域内のポリメラーゼ変異体の突然変異誘発配列を確認した。
【0085】
ステップ3では、特定のポリメラーゼ変異体遺伝子を持つプラスミドDNAを含む大腸菌Acella細胞を、0.5%グルコース及び50μg/mlカルベニシリンを含有した2リットルのLB培地中で37℃にて増殖させた。細胞密度が600ナノメートル(OD600nm)での吸光度値約0.6~0.8に達したら、1mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加してタンパク質発現を誘導した。細胞を37℃でさらに4時間増殖させた後、4℃、7,000×gで10分間遠心分離することにより回収した。細胞ペレットを、1mM ベンズアミジン塩酸塩を含む緩衝液A[50mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH7.5)、300mM 塩化ナトリウム、0.5mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1mM ジチオスレイトール(DTT)、5%(v/v)グリセロール]で再懸濁した。細胞溶液を50mgのリゾチームとともに氷上で1時間インキュベートした後、超音波処理を行って細胞溶解を達成した。4℃、18,000xgで25分間遠心分離することにより、清澄化した細胞溶解液を得た。清澄化された粗細胞抽出物を70℃で30分間インキュベートし、その後4℃に冷却した。4℃、18,000xgで25分間遠心分離することにより、より清澄化した熱処理細胞抽出物が得られた。遠心分離後、上清を、塩化ナトリウムを含まない緩衝液Aで希釈し、AEKTA精製クロマトグラフィーシステム(Cytiva Life Sciences、マサチューセッツ州マールボロ、米国)の緩衝液Aであらかじめ平衡化したHiTrap Heparinカラム(Cytiva Life Sciences、マサチューセッツ州マールボロ、米国)にロードした。緩衝液B[50mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH 8.0)、1M 塩化ナトリウム、0.5mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1mM ジチオスレイトール(DTT)、5%(v/v)グリセロール]を使用して、100mM~1M 塩化ナトリウムの直線勾配でタンパク質を溶出した。次いで、カラム画分を10%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分析した。所望のタンパク質を含む画分を保存緩衝液[50mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH 7.5)、250mM 塩化ナトリウム、0.5mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1mM ジチオスレイトール(DTT)、5%(v/v)グリセロール]に対して4℃で一晩プールを透析した。標的タンパク質を含む透析タンパク質画分プールを、Amiconフィルターユニット(分子量カットオフ50,000)を使用して濃縮した。濃縮タンパク質プールを等分して、-20℃で貯蔵した。各変異ポリメラーゼ変異体を、上記と同じ手順で精製した。次に、最終タンパク質濃度の測定を決定するため、ウシ血清アルブミンを標準液として用い、Bio-Radタンパク質アッセイ(カリフォルニア州ハーキュリーズ、米国)を用いてブラッドフォード反応(1976 年にBradfordにより提案)を行った。
【0086】
(実施例3)
鋳型依存性DNA合成アッセイ
本明細書で提供されるPolB変異体は、DNA合成による配列決定(SBS)試験に適している。PolB変異体の活性(ヌクレオチド類似体の取り込み)をさらに評価するため、本明細書では修飾ヌクレオチド及び二本鎖プライマー/鋳型(P/T)-DNAを使用した。
【0087】
実施例3において、前記修飾ヌクレオチドは、除去可能な保護基部分を有するヌクレオチド類似体である(図3)。より具体的に言えば、前記除去可能な保護基部分は3’-O-アジドメチルである。より具体的に言えば、前記修飾ヌクレオチドは、3’-O-アジドメチル-dATP、3’-O-アジドメチル-dCTP、3’-O-アジドメチル-dGTP、3’-O-アジドメチル-dTTPを含む3’-O-アジドメチル-dNTP(図4)である。さらに、前記修飾ヌクレオチドは、N-dATP-リンカー-Atto532(図5A)、N-dCTP-リンカー-Atto700(図5B)、N-dGTP-リンカー-Cy5(図5C)及びN-dTTP-リンカー-ROX(図5D)などの様々な形態の色素と結合している。
【0088】
実施例3において、以下の合成オリゴヌクレオチドを二本鎖プライマー及び鋳型(P/T)-DNAとして使用して、PolB変異体の鋳型依存性DNA合成活性を測定し、
Cy5-38merのプライマー:
5’-GCTTGCACAAGTTCGTTCAATGATACGGCGACCACCGA-3’(配列番号18);
前記オリゴヌクレオチドは、5’末端が蛍光シアニン5(Cy5)色素で標識される。対応する45merの鋳型:
5’-CGTTCCNTCGGTGGTCGCCGTATCATTGAACGAACTTGTGCAAGC-3’(配列番号19)、ここで文字「N」はA、T、C又はGを表し;
FAM-38merのプライマー:
5’-GCTTGCACAAGTTCGTTCAATGATACGGCGACCACCGA-3’(配列番号20)
FAM-19merのプライマー:
5’-GCTTGCACAGGGCCTCGAC-3’(配列番号21)
【0089】
(実施例4)
3’-修飾ヌクレオチドの取り込みに対するエキソヌクレアーゼ欠損PolB変異体の活性
本実施例において、3’修飾ヌクレオチドの取り込みに対するエキソヌクレアーゼ欠損PolB変異体(Kod1、Pfu、Vent、Mac、Sso)の活性を、Pol812関連活性と比較した。より具体的に言えば、前記3’-修飾ヌクレオチドは、3’-O-アジドメチルヌクレオチドである。参照ポリメラーゼは、9°N ポリメラーゼの変異体であるPol812と呼ばれる市販のポリメラーゼを用いた。
【0090】
手順では、100mM 塩化ナトリウムを含有する1xTE緩衝液[10 mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH 8.0)及び1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]中にFAM-19merのプライマーと相補的な29merのDNA鋳型をモル比1:1.5でアニーリングすることにより、二本鎖プライマー-鋳型(P/T)DNAを形成した。DNAアニーリング反応は、Bio-Radサーマルサイクラー(カリフォルニア州ハーキュリーズ、米国)で実施され、まずサンプル混合物を98℃に3分間加熱し、次に徐々に(5℃/30秒)4℃まで冷却した。
【0091】
ThermoPol緩衝液[20mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH8.8)、10mM 硫酸アンモニウム、10mM 塩化カリウム、2mM 硫酸マグネシウム及び0.1% TritonX-100(ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル)]に溶解し、50 nM二本鎖P/T-DNA基質及び200 nMポリメラーゼを含有する10μlの反応混合物中で鋳型依存性DNA合成アッセイを実施した。10μMの3’-O-アジドメチル-dATPを加えてDNA合成反応を開始し、反応混合物を55℃でインキュベートさせた。等量(10μl)の2部(2x)クエンチ溶液[95%脱イオンホルムアミド及び25mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]を添加することで、2分間のインキュベーション後、前記反応を停止させた。サンプル混合物を95℃で10分間変性させた後、8M尿素を含む20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Urea-PAGE)で分析した。次に、Amersham Typhoonレーザースキャナー(Cytiva Life Sciences,マサチューセッツ州マールボロ、米国)で前記ゲルを画像化することで、前記DNA合成反応生成物を観察できた。
【0092】
上記反応の結果を図6に示す。図6中、「S」は、「二本鎖P/T-DNA基質」を表し、サンプルの上方への移動度からヌクレオチドの取り込み活性を推測できた。したがって、この結果は、エキソヌクレアーゼ欠損を有するPolBのヌクレオチド取り込み活性はいずれもPol812の活性に匹敵できないことを示した。これにより、エキソヌクレアーゼ欠損は、PolB酵素に3’-O-アジドメチル-dNTPを取り込む活性を与えるには十分ではないと結論付けることができた。
【0093】
(実施例5)
3’-修飾ヌクレオチドの取り込みに対する例示的なPolB変異体の活性
本実施例において、エキソヌクレアーゼ欠損PolB(Kod1、Pfu、Vent、Mac、Sso及び9°N)変異体が異なる領域でさらに異なるアミノ酸に置換され、その後3’-O-アジドメチル-dATPの取り込みに対する活性を評価した。取り込みの効果を評価するために用いられる手順は、上述の節と同じである。
【0094】
異なるアミノ酸置換形態を有するPolB変異体に対応する活性パフォーマンスの結果を表1に示す。表1において、「+」は「二本鎖P/T-DNA基質が1塩基伸長している」ことを表し、「+/-」は「二本鎖P/T-DNA基質の10%未満が伸長している」を表す。「-」は、「ヌクレオチドが取り込まれていない二本鎖P/T-DNA基質」を表す。表1に基づいて、エキソヌクレアーゼ欠損PolB変異体は、追加のアミノ酸置換(Aモチーフ又はAモチーフとBモチーフの両方に位置)と組み合わせた場合にのみ、3’-O-アジドメチル-dATPを取り込むことができると推測できた。また、表1のM04によれば、PolB変異体は、Aモチーフ領域でPol812と同様に置換されている場合、3’-O-アジドメチル-dATPを取り込むことができないが、このPolB変異体は、L485Y+Y486A+P487Gのアミノ酸置換を有する場合、3’-O-アジドメチル-dNTP取り込み活性を示すことができる。
【0095】
【表1】
【0096】
(実施例6)
修飾ヌクレオチドを取り込む際の例示的なPolB変異体の効率及び忠実度
ここで、3’-O-アジドメチルヌクレオチドの取り込みに関する例示的なPolB変異体の効率及び忠実度をPol812の効率および忠実度と比較した。例示的なPolB変異体の代表として、変異体V03(Exo+L411Y+Y412A+P413G+A488L付きVent)及びM03(Exo+L485Y+Y486A+P487G+A565L付きMac)などを本明細書で評価する。
【0097】
実験手順では、100mM 塩化ナトリウムを含有する1xTE緩衝液[10 mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH 8.0)及び1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]中にFAM-19merのプライマーと相補的な29merのDNA鋳型をモル比1:1.5でアニーリングすることにより、二本鎖プライマー-鋳型(P/T)DNAを形成した。DNAアニーリング反応は、Bio-Radサーマルサイクラー(カリフォルニア州ハーキュリーズ、米国)で実施され、まずサンプル混合物を98℃に3分間加熱し、次に徐々に(5℃/30秒)4℃まで冷却した。
【0098】
ThermoPol緩衝液[20mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH8.8)、10mM 硫酸アンモニウム、10mM 塩化カリウム、2mM 硫酸マグネシウム及び0.1% TritonX-100(ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル)]に溶解し、50 nM二本鎖P/T-DNA基質及び200 nMポリメラーゼを含有する10μlの反応混合物中で鋳型依存性DNA合成アッセイを実施した。10μMの3’-O-アジドメチル-dATPを加えてDNA合成反応を開始し、反応混合物を55℃でインキュベートさせた。等量(10μl)の2xクエンチ溶液[95%ホルムアミド及び25mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]を添加することで、それぞれ0.5、1、2及び5分間のインキュベーション後、前記反応を停止させた。サンプル混合物を95℃で10分間変性させた後、8M尿素を含む20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Urea-PAGE)で分析した。次に、Amersham Typhoonレーザースキャナー(Cytiva Life Sciences,マサチューセッツ州マールボロ、米国)で前記ゲルを画像化することで、前記DNA合成反応生成物を観察できた。
【0099】
上記反応の結果を図7に示す。図7中、「S」は、「二本鎖P/T-DNA基質」を表し、サンプルの上方への移動度から取り込み活性を推測することができる。これにより、結果は、3’-O-アジドメチル-dATPを取り込む際のV03とM03の両方の効率と忠実度がPol812の効率と忠実度に匹敵することを示している。それぞれ3’-O-アジドメチル-dTTP、3’-O-アジドメチル-dCTP、及び3’-O-アジドメチル-dGTPを使用して得られた他のデータ(図示せず)は、いずれも上記の結果と一致している。したがって、Aモチーフ及び/又はBモチーフにおける特定のアミノ酸置換の組み合わせにより、PolB変異体に3’-O-N3ヌクレオチドを組み込む効率と忠実度が向上すると推測できた。
【0100】
(実施例7)
可逆的ダイターミネーターヌクレオチドの取り込みに対する例示的なPolB変異体の活性
本実施例において、可逆的ダイターミネーターヌクレオチド(Cy5-N-dGTP)の取り込みに対する例示的なPolB変異体の活性をPol812の活性と比較した。例示的なPolB変異体の代表として、エキソヌクレアーゼ欠損PolB変異体(Exo付きKod1、Exo付きPfu、Exo付きVent)、変異体P03(Exo+L409Y+Y410A+P411G+A486L付きPfu)、変異体K03(Exo+L408Y+Y409A+P410G+A485L付きKod1)、変異体V04(Exo+L411Y+Y412A+P413P+A488L付きVent)及び変異体V03(Exo+L411Y+Y412A+P413G+A488L付きVent)などを本明細書で評価した。
【0101】
実験では、100mM 塩化ナトリウムを含有する1xTE緩衝液[10 mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH 8.0)及び1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]中にFAM-38merのプライマーと相補的な45merのDNA鋳型をモル比1:1.5でアニーリングすることにより、二本鎖プライマー-鋳型(P/T)DNAを形成した。DNAアニーリング反応は、Bio-Radサーマルサイクラー(カリフォルニア州ハーキュリーズ、米国)で実施され、まずサンプル混合物を98℃に3分間加熱し、次に徐々に(5℃/30秒)4℃まで冷却した。
【0102】
ThermoPol緩衝液[20mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH8.8)、10mM 硫酸アンモニウム、10mM 塩化カリウム、2mM 硫酸マグネシウム及び0.1% TritonX-100(ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル)]に溶解し、50 nM二本鎖P/T-DNA基質及び200 nMポリメラーゼを含有する10μlの反応混合物中で鋳型依存性DNA合成アッセイを実施した。10μMのCy5-N-dGTPを加えてDNA合成反応を開始し、反応混合物を55℃でインキュベートさせた。等量(10μl)の2xクエンチ溶液[95%ホルムアミド及び25mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]を添加することで、5分間のインキュベーション後、前記反応を停止させた。サンプル混合物を95℃で10分間変性させた後、8M尿素を含む20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Urea-PAGE)で分析した。次に、Amersham Typhoonレーザースキャナー(Cytiva Life Sciences,マサチューセッツ州マールボロ、米国)で前記ゲルを画像化することで、前記DNA合成反応生成物を観察できた。
【0103】
上記反応の結果を図8に示す。図8中、「C」は、「対照群(Pol812)」を表し、「S」は「二本鎖P/T-DNA基質」を表し、「1」は「Exo付きPfu」を表し、「2」は「Exo付きKod1」を表し、「3」は「Exo付きVent」を表し、「4」は「P03」を表し、「5」は「K03」を表し、「6」は「V04」を表し、「7」は「V03」を表す。図8の結果は、エキソヌクレアーゼ欠損PolB変異体(Exo付きKod1、Exo付きPfu、Exo付きVent)の活性が均しくPol812の活性に匹敵できず、組み合わせたアミノ酸置換を有する変異体の優れたパフォーマンスはPol812に匹敵することを示した。したがって、Aモチーフ及び/又はBモチーフにおける特定のアミノ酸置換の組み合わせにより、PolB変異体に可逆的ダイターミネーターヌクレオチド(Cy5-N-dGTP)を取り込む活性が向上すると推測できた。
【0104】
(実施例8)
可逆的ダイターミネーターヌクレオチドの取り込みに対する例示的なPolB変異体の活性
本実施例において、別の可逆的ダイターミネーターヌクレオチド(Cy5-N-dGTP)の取り込みに対する他の例示的なPolB変異体の活性をPol812の活性と比較した。例示的なPolB変異体の代表として、変異体I01(Exo+M426Y+Y427A+P428G+A508L付きPis)及び変異体I02(Exo+M426Y+Y427A+P428P+A508L付きPis)などを本明細書で評価した。
【0105】
実験では、100mM 塩化ナトリウムを含有する1xTE緩衝液[10 mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH 8.0)及び1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]中にFAM-38merのプライマーと相補的な45merのDNA鋳型をモル比1:1.5でアニーリングすることにより、二本鎖プライマー-鋳型(P/T)DNAを形成した。DNAアニーリング反応は、Bio-Radサーマルサイクラー(カリフォルニア州ハーキュリーズ、米国)で実施され、まずサンプル混合物を98℃に3分間加熱し、次に徐々に(5℃/30秒)4℃まで冷却した。
【0106】
ThermoPol緩衝液[20mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH8.8)、10mM 硫酸アンモニウム、10mM 塩化カリウム、2mM 硫酸マグネシウム及び0.1% TritonX-100(ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル)]に溶解し、50 nM二本鎖P/T-DNA基質及び200 nMポリメラーゼを含有する10μlの反応混合物中で鋳型依存性DNA合成アッセイを実施した。10μMのCy5-N-dGTPを加えてDNA合成反応を開始し、反応混合物を55℃でインキュベートさせた。等量(10μl)の2xクエンチ溶液[95%ホルムアミド及び25mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]を添加することで、5分間のインキュベーション後、前記反応を停止させた。サンプル混合物を95℃で10分間変性させた後、8M尿素を含む20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Urea-PAGE)で分析した。次に、Amersham Typhoonレーザースキャナー(Cytiva Life Sciences,マサチューセッツ州マールボロ、米国)で前記ゲルを画像化することで、前記DNA合成反応生成物を観察できた。
【0107】
上記反応の結果を図9に示す。図9中、「S」は「二本鎖P/T-DNA基質」を表し、「1」は「Pol812」を表し、「2」は「I01」を表し、「3」は「I02」を表す。図9の結果は、Aモチーフ及びBモチーフに位置するアミノ酸置換を組み合わせた変異体がPol812と同等の活性を発揮することができ、I02の活性がPol812の活性よりもさらに優れていることを示した。したがって、Aモチーフ及び/又はBモチーフにおける特定のアミノ酸置換の組み合わせにより、PolB変異体に可逆的ダイターミネーターヌクレオチド(Cy5-N-dGTP)を取り込む活性が向上すると推測できた。
【0108】
(実施例9)
可逆的ダイターミネーターヌクレオチドの取り込みに対する例示的なPolB変異体の活性
本実施例において、可逆的ダイターミネーターヌクレオチド(N-dNTP-リンカー-染料)の取り込みに対する各種例示的なPolB変異体の活性を評価した。本明細書で検査した例示的なPolB変異体の代表:
変異体1:Pol812(菌株9°N);
変異体2:Exo+L408Y+Y409A+P410G+A485V付き9°N、
変異体3:Exo+L408Y+Y409A+P410G+A485L付き9°N、
変異体4:Exo+L411Y+Y412A+P413G+A488L付きVent、
変異体5:Exo+L411Y+Y412A+P413G+A488L+K480M付きVent、
変異体6:Exo+L409Y+Y410A+P411G+A486L付きPfu、
変異体7:Exo+L409Y+Y410A+P411G+A486L+I478M付きPfu、
上述のPolB変異体は、N-dTTP-リンカー-ROX(その構造は図5Dに示される)、N-dCTP-リンカー-Atto700(その構造は図5Bに示される)を用いて検査された。
【0109】
実験手順では、100mM 塩化ナトリウムを含有する1xTE緩衝液[10 mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH 8.0)及び1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]中にFAM-38merのプライマー/Cy5-38merのプライマーと相補的な45merのDNA鋳型をモル比1:1.5でアニーリングすることにより、二本鎖プライマー-鋳型(P/T)DNAを形成した。DNAアニーリング反応は、Bio-Radサーマルサイクラー(カリフォルニア州ハーキュリーズ、米国)で実施され、まずサンプル混合物を98℃に3分間加熱し、次に徐々に(5℃/30秒)4℃まで冷却した。
【0110】
ThermoPol緩衝液[20mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris-HCl)(pH8.8)、10mM 硫酸アンモニウム、10mM 塩化カリウム、2mM 硫酸マグネシウム及び0.1% TritonX-100(ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル)]に溶解し、50 nM二本鎖P/T-DNA基質及び200 nMポリメラーゼを含有する10μlの反応混合物中で鋳型依存性DNA合成アッセイを実施した。10μMのN-dTTP-リンカー-ROX/N-dCTP-リンカー-Atto700を加えてDNA合成反応を開始し、反応混合物を55℃でインキュベートさせた。等量(10μl)の2xクエンチ溶液[95%ホルムアミド及び25mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)]を添加することで、5分間のインキュベーション後、前記反応を停止させた。サンプル混合物を95℃で10分間変性させた後、8M尿素を含む20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Urea-PAGE)で分析した。次に、Amersham Typhoonレーザースキャナー(Cytiva Life Sciences,マサチューセッツ州マールボロ、米国)で前記ゲルを画像化することで、前記DNA合成反応生成物を観察できた。
【0111】
上記反応の結果を図10に示す。図10中、「S」は「二本鎖P/T-DNA基質」、「1」~「7」は「変異体1」~「変異体7」を表す。図10の結果は、9°N菌株に由来するPolB変異体が「YAG」アミノ酸置換を持ち、AモチーフにA485置換を有しているが、M129A及びC223S 置換を持たず、N-dNTP-リンカー-色素の取り込みによって示される活性は、Aモチーフに「AAI」置換を持ち、A485、M129A、及びC223S置換と組み合わせたPol812によって示される活性と同等であることを示した。また、図10の結果は、AモチーフとBモチーフにおける特定のアミノ酸置換の組み合わせにより、異なる菌株に由来するPolB変異体にN-dTTP-リンカー-ROX又はN-dCTP-リンカー-Atto700を取り込む活性が向上されることを示している。また、FAM-38merのプライマー/N-dGTP-リンカー-Cy5及びCy5-38merのプライマー/N-dATP-リンカー-Atto532を使用して得られた他のデータ(図示せず)は、いずれも上記の結果と一致している。
【0112】
要するに、本明細書で提供されるファミリーB型DNAポリメラーゼ変異体は、ポリヌクレオチドを合成し、関連する核酸鋳型を配列決定するためのヌクレオチド類似体の取り込み効果を向上できる。本発明の具体的実施形態を開示したが、本発明を限定する意図で用いられるものではない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の原理及び精神から逸脱することなく、多種多様な変形及び修正を加えることができることを理解することができ、したがって、本発明の保護範囲は添付の特許請求の範囲に限定されるものに基づくべきである。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
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図5A
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【配列表】
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【国際調査報告】