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特表2024-536305ヒト骨髄由来間葉系幹細胞シートおよびその製造のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ヒト骨髄由来間葉系幹細胞シートおよびその製造のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240927BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240927BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N1/00 B
A61K35/28
A61L27/38
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61P13/12
A61P19/04
A61P43/00 107
A61P37/02
A61K9/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519979
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 US2022045435
(87)【国際公開番号】W WO2023056053
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/251,144
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/278,136
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】399047002
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション
(71)【出願人】
【識別番号】521529927
【氏名又は名称】エスシーエム ライフサイエンス インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】SCM Lifescience Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】岡野 光夫
(72)【発明者】
【氏名】グレインジャー,デビッド・ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】岡 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョンス
(72)【発明者】
【氏名】亀石 統子
(72)【発明者】
【氏名】ソン,スン・ウク
(72)【発明者】
【氏名】ダン,セリア・エム
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB19
4B065BC50
4B065CA44
4B065CA60
4C076AA71
4C076BB32
4C076CC07
4C076CC17
4C076CC26
4C081AB11
4C081BA12
4C081BA13
4C081CD34
4C081DA02
4C081EA01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA32
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZA96
4C087ZB07
4C087ZB22
(57)【要約】
本開示は、ヒトhBMSCの1つまたは複数の層を含むヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)シートであって、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株から調製される、細胞シートを提供する。本開示は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞シートを製造するための方法であって、細胞培養支持体の基材表面上へコーティングされた温度応答性ポリマー上で、培養液中でhBMSCを培養する工程であって、温度応答性ポリマーが、0~80℃の水中での下限臨界共溶温度を有する、工程と;培養液の温度を下限臨界共溶温度未満に調整し、それによって基材表面が親水性にされ、該表面への細胞シートの接着が弱められる工程と;培養支持体から細胞シートを分離する工程とを含む、方法も提供する。細胞シートは、インターフェロンガンマ(IFN-γ)または塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)で処理されてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含むヒト骨髄由来間葉系幹細胞シートであって、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株から調製される、細胞シート。
【請求項2】
細胞シート中のhBMSCが、コンフルエントである、請求項1に記載の細胞シート。
【請求項3】
ヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株が、細胞シートの調製前に凍結された、請求項1または2に記載の細胞シート。
【請求項4】
ヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株が、細胞シートの調製前に凍結されていない、請求項1または2に記載の細胞シート。
【請求項5】
hBMSCから本質的になる、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項6】
細胞シート中の細胞の少なくとも90%が、hBMSCである、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項7】
細胞シート中のhBMSCが、ヒト成長因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子2(FGF2)、インターロイキン-10(IL-10)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)およびプロスタグランジンE2(PGE2)からなる群から選択される1つまたは複数のサイトカインを発現する、請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項8】
細胞シート中の1つまたは複数のサイトカインの発現が、同等数の細胞を含有するhBMSCの懸濁液と比較して増大する、請求項7に記載の細胞シート。
【請求項9】
細胞シートを調製するために使用される細胞培養支持体におけるヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株の初期播種細胞密度が、4.5×10~3.4×10細胞/cmである、請求項1から8のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞シートと細胞シートから取り外し可能であるポリマーコーティングされた培養支持体とを含む組成物。
【請求項11】
コンフルエントなヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含むヒト骨髄由来間葉系幹細胞シートを製造するための方法であって、
a)細胞培養支持体の基材表面上へコーティングされた温度応答性ポリマー上で、培養液中でhBMSCを培養する工程であって、培養液中のhBMSCが、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株であり、温度応答性ポリマーが、0~80℃の水中での下限臨界共溶温度を有する、工程と;
b)培養液の温度を下限臨界共溶温度未満に調整し、それによって基材表面が親水性にされ、該表面への細胞シートの接着が弱められる工程と;
c)培養支持体から細胞シートを分離する工程とを含む、方法。
【請求項12】
培養液中のhBMSCが、培養する工程(a)の前に凍結された、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
培養液中のhBMSCが、培養する工程(a)の前に凍結されていない、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
培養する工程(a)が、培養液に初期細胞播種密度4.5×10~3.4×10細胞/cmでhBMSCを添加する工程を含む、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
培養する工程(a)の前に複数の二次培養によってhBMSCを培養する工程をさらに含む、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
培養する工程(a)の前にhBMSCの二次培養が、2~10回実行される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
hBMSCが、調整する工程(b)の前に温度応答性ポリマー上の培養液中で少なくとも1日間培養される、請求項11から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
hBMSCが、温度応答性ポリマー上の培養液中で1~3日間培養される、請求項11から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
調整する工程(b)が、培養液中のhBMSCがコンフルエントであるときに実行される、請求項11から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項11から19のいずれか一項に記載の方法によって製造される細胞シート。
【請求項21】
細胞シートを対象に移植する方法であって、請求項1から10または20のいずれか一項に記載の細胞シートを対象の組織に適用する工程を含む、方法。
【請求項22】
組織が腎組織である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
対象が、腎移植を受けている、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
対象が、急性腎傷害を有する、請求項21または22に記載の方法。
【請求項25】
対象が、腎尿細管傷害を有する、請求項21または22に記載の方法。
【請求項26】
細胞シートを腎組織に適用する工程が、細胞シートから腎臓の柔組織への細胞の遊走をもたらす、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
細胞シートを腎組織に適用する工程が、細胞シートと接触されない腎臓と比較して、腎臓におけるヒト成長因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子2(FGF2)、インターロイキン-10(IL-10)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)およびプロスタグランジンE2(PGE2)からなる群から選択される1つまたは複数のサイトカインのレベルの増大をもたらす、請求項22~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
対象における腎線維化を抑制する方法であって、請求項1から10または20のいずれか一項に記載の細胞シートを対象の腎組織に適用し、それにより対象における腎線維化を抑制する工程を含む、方法。
【請求項29】
細胞シートを腎組織に適用する工程が、クローン性細胞株ではないhBMSCから調製されるhBMSCシートより大きな程度で腎線維化を抑制する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
細胞シート中のhBMSCが、対象と同種である、請求項21から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
対象が、ヒトである、請求項21から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含む骨髄由来間葉系幹細胞シートであって、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株から調製され、インターフェロンガンマ(IFN-γ)または塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)で処理される、細胞シート。
【請求項33】
細胞シート中のhBMSCが、コンフルエントである、請求項32に記載の細胞シート。
【請求項34】
hBMSCから本質的になる、請求項32または33に記載の細胞シート。
【請求項35】
細胞シート中の細胞の少なくとも90%が、hBMSCである、請求項32から34のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項36】
細胞シート中のhBMSCが、IFN-γまたはbFGFで処理されないhBMSCシートと比較して、HLA-DR、PD-L1、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、インターロイキン10(IL-10)およびプロスタグランジンE2(PGE-2)からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質の発現の増大を呈する、請求項32から35のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項37】
請求項32から26のいずれか一項に記載の細胞シートと細胞シートから取り外し可能であるポリマーコーティングされた培養支持体とを含む組成物。
【請求項38】
コンフルエントなヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含むヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)シートを製造するための方法であって、
a)細胞培養支持体の基材表面上へコーティングされた温度応答性ポリマー上で、培養液中でhBMSCを培養する工程であって、培養液中のhBMSCが、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株であり、温度応答性ポリマーが、0~80℃の水中での下限臨界共溶温度を有する、工程と;
b)培養液の温度を下限臨界共溶温度未満に調整し、それによって基材表面が親水性にされ、該表面への細胞シートの接着が弱められる工程と;
c)培養支持体から細胞シートを分離する工程と;
d)インターフェロンガンマ(IFN-γ)または塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含有する培養液中で細胞シートを培養する工程とを含む、方法。
【請求項39】
培養する工程(a)が、培養液に初期細胞播種密度4.5×10~3.4×10細胞/cmでhBMSCを添加する工程を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
培養する工程(a)の前に複数の二次培養によってhBMSCを培養する工程をさらに含む、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
培養する工程(a)の前にhBMSCの二次培養が、2~10回実行される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
hBMSCが、調整する工程(b)の前に温度応答性ポリマー上の培養液中で少なくとも1日間培養される、請求項38から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
hBMSCが、温度応答性ポリマー上の培養液中で1~3日間培養される、請求項38から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
調整する工程(b)が、培養液中のhBMSCがコンフルエントであるときに実行される、請求項38から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
請求項38から44のいずれか一項に記載の方法によって製造される細胞シート。
【請求項46】
細胞シートを対象に移植する方法であって、請求項32から41または45のいずれか一項に記載の細胞シートを対象の組織に適用する工程を含む、方法。
【請求項47】
対象において免疫応答をモジュレートする方法であって、請求項32から41または45のいずれか一項に記載の細胞シートを対象の組織に適用する工程を含む、方法。
【請求項48】
細胞シートを組織に適用する工程が、細胞シートと接触されない組織と比較して、組織におけるHLA-DR、PD-L1、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、インターロイキン10(IL-10)およびプロスタグランジンE2(PGE-2)からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質のレベルの増大をもたらす、請求項46または47に記載の方法。
【請求項49】
細胞シート中のhBMSCが、対象と同種である、請求項46から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
対象がヒトである、請求項46から49のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、それぞれの内容が、その全体を参照により本明細書に組み込まれる、2021年10月1日に出願の米国特許仮出願第63/251,144号および2021年11月11日に出願の米国特許仮出願第63/278,136号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(MSC)は、骨芽細胞、軟骨細胞、神経細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞および心筋細胞に分化することができる多能性体細胞性幹細胞である(Reyesら、2002、J.Clin.Invest.109;337~346;Tomaら、2002、Circulation 105、93~98;Wangら、2000、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.120、999~1005;Jiangら、2002、Nature 41S、41~49)。MSCの治療的特性は、1)複数および固有の細胞系統に分化し、2)細胞維持、生存および増殖に重要な可溶性生理活性因子の多数を産生し、3)宿主免疫応答をモジュレートし、4)傷害の部位に動員されて損傷を緩和し、治癒を促進するように遊走する本質的能力に由来することが提唱されている[Squillaroら、2016、Cell Transplant、25(5)、829~848]。特に、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)は、免疫調節因子(例えば、インターロイキン-10:IL-10、プロスタグランジンE2:PGE-2)、抗線維化因子(例えば、肝細胞増殖因子:HGF、骨形成タンパク質7:BMP-7)、および血管新生因子(例えば、血管内皮成長因子:VEGF、塩基性線維芽細胞成長因子:bFGF)など複数の傍分泌因子を分泌するため、特別関心がある同種細胞供給源である。したがって、hBMSCは、様々な治療的使用の潜在性が大きい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
ある特定の態様において、本開示は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含むヒト骨髄由来間葉系幹細胞シートであって、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株から調製される、細胞シートに関する。ある特定の実施形態において、細胞シート中のhBMSCは、コンフルエントである。ある特定の実施形態において、ヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株は、細胞シートの調製前に凍結された。ある特定の実施形態において、ヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株は、細胞シートの調製前に凍結されていない。ある特定の実施形態において、細胞シートは、hBMSCから本質的になる。ある特定の実施形態において、細胞シート中の細胞の少なくとも90%は、hBMSCである。ある特定の実施形態において、細胞シート中のhBMSCは、ヒト成長因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子2(FGF2)、インターロイキン-10(IL-10)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)およびプロスタグランジンE2(PGE2)からなる群から選択される1つまたは複数のサイトカインを発現する。ある特定の実施形態において、細胞シート中の1つまたは複数のサイトカインの発現は、同等数の細胞を含有するhBMSCの懸濁液と比較して増大する。ある特定の実施形態において、細胞シートを調製するために使用される細胞培養支持体におけるヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株の初期播種細胞密度は、4.5×10~3.4×10細胞/cmである。
【0004】
ある特定の態様において、本開示は、本明細書に記載のhBMSC細胞シートと細胞シートから取り外し可能であるポリマーコーティングされた培養支持体とを含む組成物に関する。
【0005】
ある特定の態様において、本開示は、コンフルエントなヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含むヒト骨髄由来間葉系幹細胞シートを製造するための方法であって、
a)細胞培養支持体の基材表面上へコーティングされた温度応答性ポリマー上で、培養液中でhBMSCを培養する工程であって、培養液中のhBMSCが、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株であり、温度応答性ポリマーが、0~80℃の水中での下限臨界共溶温度を有する、工程と;
b)培養液の温度を下限臨界共溶温度未満に調整し、それによって基材表面が親水性にされ、該表面への細胞シートの接着が弱められる工程と;
c)培養支持体から細胞シートを分離する工程とを含む、方法に関する。
【0006】
ある特定の実施形態において、培養液中のhBMSCは、培養する工程(a)の前に凍結された。ある特定の実施形態において、培養液中のhBMSCは、培養する工程(a)の前に凍結されていない。ある特定の実施形態において、培養する工程(a)は、培養液に初期細胞播種密度4.5×10~3.4×10細胞/cmでhBMSCを添加する工程を含む。
【0007】
ある特定の実施形態において、本方法は、培養する工程(a)の前に複数の二次培養によってhBMSCを培養する工程をさらに含む。ある特定の実施形態において、培養する工程(a)の前にhBMSCの二次培養が、2~10回実行される。ある特定の実施形態において、hBMSCは、調整する工程(b)の前に温度応答性ポリマー上の培養液中で少なくとも1日間培養される。ある特定の実施形態において、hBMSCは、温度応答性ポリマー上の培養液中で1~3日間培養される。ある特定の実施形態において、調整する工程(b)は、培養液中のhBMSCがコンフルエントであるときに実行される。
【0008】
ある特定の態様において、本開示は、本明細書に記載される方法によって製造されるhBMSCシートに関する。
ある特定の態様において、本開示は、細胞シートを対象に移植する方法であって、請求項1から10または20のいずれか一項に記載の細胞シートを対象の組織に適用する工程を含む、方法に関する。ある特定の実施形態において、組織は腎組織である。ある特定の実施形態において、対象は腎移植を受けている。ある特定の実施形態において、対象は、急性腎傷害を有する。ある特定の実施形態において、対象は、腎尿細管傷害(tubule injury)を有する。ある特定の実施形態において、細胞シートを腎組織に適用する工程は、細胞シートから腎臓の柔組織への細胞の遊走をもたらす。ある特定の実施形態において、細胞シートを腎組織に適用する工程は、細胞シートと接触されない腎臓と比較して、腎臓におけるヒト成長因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子2(FGF2)、インターロイキン-10(IL-10)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)およびプロスタグランジンE2(PGE2)からなる群から選択される1つまたは複数のサイトカインのレベルの増大をもたらす。
【0009】
ある特定の態様において、本開示は、対象における腎線維化を抑制する方法であって、請求項1から10または20のいずれか1つの細胞シートを対象の腎組織に適用し、それにより対象における腎線維化を抑制する工程を含む、方法に関する。ある特定の実施形態において、細胞シートを腎組織に適用する工程は、クローン性細胞株ではないhBMSCから調製されるhBMSCシートより大きな程度で腎線維化を抑制する。ある特定の実施形態において、細胞シート中のhBMSCは、対象と同種である。ある特定の実施形態において、対象は、ヒトである。
【0010】
ある特定の態様において、本開示は、骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含む骨髄由来間葉系幹細胞シートであって、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株から調製され、インターフェロンガンマ(IFN-γ)または塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)で処理される、細胞シートに関する。一部の実施形態において、細胞シート中のhBMSCは、コンフルエントである。一部の実施形態において、細胞シートは、hBMSCから本質的になる。一部の実施形態において、細胞シート中の細胞の少なくとも90%は、hBMSCである。一部の実施形態において、細胞シート中のhBMSCは、IFN-γまたはbFGFで処置されていないhBMSCシートと比較して、HLA-DR、PD-L1、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、インターロイキン10(IL-10)およびプロスタグランジンE2(PGE-2)からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質の発現の増大を呈する。ある特定の態様において、本開示は、本明細書に記載の細胞シートと細胞シートから取り外し可能であるポリマーコーティングされた培養支持体とを含む組成物に関する。
【0011】
ある特定の態様において、本開示は、コンフルエントなヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含むヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)シートを製造するための方法であって、
a)細胞培養支持体の基材表面上へコーティングされた温度応答性ポリマー上で、培養液中でhBMSCを培養する工程であって、培養液中のhBMSCが、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株であり、温度応答性ポリマーが、0~80℃の水中での下限臨界共溶温度を有する、工程と;
b)培養液の温度を下限臨界共溶温度未満に調整し、それによって基材表面が親水性にされ、該表面への細胞シートの接着が弱められる工程と;
c)培養支持体から細胞シートを分離する工程と;
d)インターフェロンガンマ(IFN-γ)または塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含有する培養液中で細胞シートを培養する工程とを含む、方法に関する。
【0012】
一部の実施形態において、培養する工程(a)は、培養液に初期細胞播種密度4.5×10~3.4×10細胞/cmでhBMSCを添加する工程を含む。一部の実施形態において、本方法は、培養する工程(a)の前に複数の二次培養によってhBMSCを培養する工程をさらに含む。一部の実施形態において、培養する工程(a)の前にhBMSCの二次培養が、2~10回実行される。一部の実施形態において、hBMSCは、調整する工程(b)の前に温度応答性ポリマー上の培養液中で少なくとも1日間培養される。一部の実施形態において、hBMSCは、温度応答性ポリマー上の培養液中で1~3日間培養される。一部の実施形態において、調整する工程(b)は、培養液中のhBMSCがコンフルエントであるときに実行される。ある特定の態様において、本開示は、本明細書に記載される方法によって製造される細胞シートに関する。
【0013】
ある特定の態様において、本開示は、細胞シートを対象に移植する方法であって、本明細書に記載の細胞シートを対象の組織に適用する工程を含む、方法に関する。ある特定の態様において、本開示は、対象において免疫応答をモジュレートする方法であって、本明細書に記載の細胞シートを対象の組織に適用する工程を含む、方法に関する。一部の実施形態において、細胞シートを組織に適用する工程は、細胞シートと接触されない組織と比較して、組織におけるHLA-DR、PD-L1、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、インターロイキン10(IL-10)およびプロスタグランジンE2(PGE-2)からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質のレベルの増大をもたらす。一部の実施形態において、細胞シート中のhBMSCは、対象と同種である。一部の実施形態において、対象は、ヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、細胞シート製造に使用した複数の細胞株由来のクローン性BMSCが、表現型MSCマーカー(CD44、CD73、CD90、CD105)の陽性(≧95%)表面抗原発現および常在骨髄/血液細胞(CD31、CD34、CD45)の陰性発現を呈することを示す。パーセンテージ陽性は、蛍光性アイソタイプ対照の0.5%超として測定された。N≧2。
図2図2は、クローン性BMSCシートの調製およびそのサイトカイン産生を示す。複数の細胞株由来の操作されたクローン性BMSCシートが、TRCD上で成功裏に調製された。(スケールバー;1cm)。クローン性BMSCシートは、HGF、VEGFおよびFGF2などの複数の組織再生サイトカインの遺伝子発現を呈し、不均一な、全BMSCシートも同様であった。これらデータは、全BMSCシート中の遺伝子発現レベルで正規化された。
図3図3は、単一細胞および細胞シートとしての免疫調節性サイトカインの遺伝子発現レベルの比較を示す。単一細胞および細胞シートとしてのIL-10、IDOおよびPGE-2の遺伝子発現レベルの比較が、qPCRによって調査された。クローン性BMSCの細胞シートの形成により、単一細胞条件と比較して免疫調節性サイトカインの遺伝子発現が有意に増強した。これらデータは、単一細胞の発現レベルで正規化された。
図4図4は、ラットIRIモデルにおけるヒトクローン性BMSCシートの移植を示。これは、動物研究の概要である。5枚のヒトクローン性BMSCシートが、免疫不全ラットの左腎臓に移植され、左腎臓動脈および静脈は、60分間虚血され、続いて再灌流された。
図5図5は、移植されたヒトクローン性BMSCシートの生着および遊走を示す。これらは、IRI後3日でのラット腎臓におけるヒトフィブロネクチン(hFN)染色の画像である。左は、細胞シートの移植がないIRIであり、中央は、腎被膜上へのクローン性BMSCシートの移植があるIRIであり、右は、被膜のない腎臓へのクローン性BMSCシートの移植があるIRIである。中央および右の画像において、クローン性BMSCシートから得られる多くのhFN陽性細胞が、実質の上に検出され、一部の細胞は、腎実質内に遊走する(矢印)。
図6図6は、腎被膜がないラットIRIモデルにおけるヒトクローン性BMSCシートの治療的効果を示す。上列は、IRI後3日での、天然、IRI、および被膜なしクローン性BMSCシート移植群の代表的なPAS染色画像および尿細管傷害スコアを示す。尿細管傷害は、IRIのみ、およびクローン性MSCシート群において黒色矢印によって示される。IRI群と比較してクローン性BMSCシート群のより低い尿細管傷害スコアによって示される通り、クローン性BMSCシートはIRI傷害の初期フェーズを抑制する。下の列は、IRI後28日での、天然、IRI、WB、被膜なしクローン性BMSCシート移植群の、線維化領域を示す代表的なMT染色画像およびコラーゲン陽性の青色領域画分のグラフを示す。MT染色の青色領域は、コラーゲン沈着(黄色矢印)を示す。被膜なしでのクローン性BMSCシートの移植は、IRIおよびWBシート群と比較して最も低いコラーゲン陽性青色領域によって示されるように、線維化の阻害能力が最も高いことを示す。
図7図7は、腎被膜があるラットIRIモデルにおけるヒトクローン性BMSCシートの治療的効果を示す。上列は、IRI後3日での、天然、IRI、および被膜ありクローン性BMSCシート移植群の代表的なPAS染色画像および尿細管傷害スコアを示す。尿細管傷害は、IRIのみ、およびクローン性MSCシート群において黒色矢印によって示される。IRI群と比較してクローン性BMSCシート群のより低い尿細管傷害スコアによって示される通り、クローン性BMSCシートはIRI傷害の初期フェーズを抑制する。下の列は、IRI後28日での、天然、IRI、WB、被膜ありクローン性BMSCシート移植群の、線維化領域を示す代表的なMT染色画像およびコラーゲン陽性の青色領域画分のグラフを示す。MT染色の領域は、コラーゲン沈着(黄色矢印)を示す。被膜ありでのクローン性BMSCシートの移植は、IRIおよびWBシート群と比較して最も低いコラーゲン陽性青色領域によって示されるように、線維化の阻害能力が最も高いことを示す。
図8図8は、異なる条件(密度および培養期間)によるクローン性BMSCシート製造を示す。クローン性BMSCシートを、播種後6時間では初期細胞密度80万細胞/直径35mmのTRCD、1日では60万細胞/35mmのTRCD、ならびに3および6日では40万細胞/直径35mmのTRCDからシート形状として分離した。
図9図9は、サイトカイン分泌能力と関連する、クローン性BMSC懸濁液およびシートの遺伝子発現レベルを示す。クローン性BMSCシートの遺伝子発現レベル(HGF、IL10、VEGF)が、単一クローン性BMSC懸濁液(SC)の遺伝子発現レベルと比較された。クローン性BMSCシートは、クローン性BMSCの単一細胞懸濁液(SC)と比較して、HGF、IL10、VEGFサイトカイン分泌に関連する遺伝子のより高い発現レベルを示した。さらに、密度130万細胞/35mmのTRCDで調製されたクローン性BMSCシートは、初期細胞密度40万細胞/35mmのTRCDで調製されたクローン性BMSCシートの遺伝子発現レベルと比較して、より高い遺伝子発現レベル(HGF、IL10、VEGF)を表した。
図10図10は、クローン性BMSCシートから分泌されるサイトカイン量を示す。異なる初期細胞密度(60万個、150万個、300万細胞/35mmのTRCD)のクローン性BMSCシートから分泌されるサイトカイン量が、検出された。より高い初期細胞密度の群(150万個および300万細胞/35mmのTRCD)は、60万細胞/35mmのTRCD群と比較して、細胞シートおよび細胞当たり、より多量のサイトカインを分泌した。
図11図11は、凍結細胞における高い初期細胞接着能力を示す。接着した新鮮な細胞および凍結細胞のインキュベーションが、15分または30分のインキュベーション後に観察された。凍結細胞は、新鮮な細胞と比較して高い初期および成熟細胞接着能力を示した。(スケールバー;200μm)。
図12図12は、新鮮な細胞および凍結細胞を使用する細胞シート調製を示す。複数の初期播種密度での新鮮な細胞および凍結細胞から操作された細胞シートが、示された。より多数の細胞を含有する細胞シートは、より大きい細胞シート形状を示した。凍結細胞は、新鮮な細胞と比較してより低い初期細胞密度での細胞シート調製を可能にした。(スケールバー;1cm)。
図13図13は、様々な初期細胞密度の新鮮な細胞または凍結細胞から調製された細胞シートにおけるサイトカイン産生を示す。各細胞シートのサイトカイン産生が、示される。各初期細胞密度で凍結細胞から調製された細胞シートが、新鮮な細胞から調製された細胞シートと同程度のサイトカイン産生を示したことは、凍結細胞が、細胞シート製造の選択肢になりうることを示唆した。特に、凍結細胞は、その高い初期細胞接着能力により速い細胞シート製造を実行するのに有益である。
図14図14は、クローン性BMSCシートが、インターフェロンガンマ(IFN-γ)に応答して免疫調節性分子の発現を上方調節することを示す。クローン性BMSCシートは、25ng/mL IFN-γに曝露した際に、免疫調節性遺伝子の上方調節のピークを呈した。遺伝子発現は、同じ条件下でプライミングしていない対照細胞シートに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=2)。
図15図15は、IFN-γを補充して製造された細胞シートが、免疫調節性分子の上方調節を呈することを示す。細胞シートを分離する前に、25ng/mL IFN-γが、2日目に添加された。分離前に2日間プライミングされたクローン性BMSCシートは、HLA-DR、PD-L1およびIDOの遺伝子発現の有意な増大を呈した。遺伝子発現は、同じ条件下で製造されたプライミングしていない対照細胞シートそれぞれに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=6)。
図16図16は、クローン性BMSCシートの免疫調節性遺伝子発現に対するIFN-γプライミング期間の影響を示す。IFN-γプライミング期間の増大は、免疫調節性分子の遺伝子発現のさらなる増大と関連した。IFN-γプライミングの4日および6日後に製造されたクローン性BMSCシートは、免疫調節性遺伝子(HLA-DR、PD-L1、IDO、IL-10およびPGE-2)の上方調節を呈し、プライミング6日後に最も高い発現であった。遺伝子発現は、同じ条件下で製造されたプライミングしていない対照細胞シートそれぞれに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=6)。
図17図17は、クローン性BMSCシート遺伝子発現に対するIFN-γプライミング効果の安定性を示す。6日間、4日間、2日間または0日間のいずれかでIFN-γを補充して製造された細胞シートを、通常の培養条件で4日間再度平板培養(replated)して、IFN-γ効果の安定性が分析された。結果は、IFN-γの除去後も、クローン性BMSCが、HLA-DR、PD-L1、IDOおよびIL-10の上方調節された遺伝子発現を呈し続けることを示した。4日間のIFN-γプライミングで製造されたクローン性細胞シートは、免疫抑制性(IDO、PD-L1およびIL-10)分子の最も高い遺伝子発現を呈した。遺伝子発現は、同じ条件下で製造されたプライミングしていない対照細胞シートそれぞれに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=4)。
図18図18は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を補充して製造された細胞シートが、免疫調節性分子の上方調節を呈することを示す。細胞シートを分離する前に、5または80ng/mL bFGFが、2日目に添加された。分離前に2日間プライミングされたクローン性BMSCシートは、HLA-DR、IDOおよびIL-10の有意な増大を呈した。遺伝子発現は、同じ条件下で製造されたプライミングしていない対照細胞シートそれぞれに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、腎障害を処置するためのヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)シートの調製および特性について記載する。現在のところ、注射されたMSC細胞懸濁液は、MSCの機能および生着能力を損なう酵素を使用して採取されており、その結果組織保持および生存率が低く、治療的特性が最適ではない。本明細書に記載されるシートなど、酵素を用いず、無傷の細胞外基質(ECM)および細胞受容体を含む生きたシートとして創出される細胞シートは、非常に改善された保持および生着効率で組織部位に物理的に置かれうる。
【0016】
単一細胞から得られるヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)を使用して、温度応答性ポリマーでコーティングされた温度応答性細胞培養ディッシュ(TRCD)中で細胞シートをin vitro調製した。コンフルエントな細胞シートは、播種後1~3日で形成され、培養物を室温に冷やすことによってTRCDから分離された。これら方法によって製造されたhBMSCシートは、クローン性細胞株ではないhBMSCから調製されたhBMSCシートより高い程度でラット虚血再灌流傷害モデルにおける腎線維化を抑制した。
【0017】
I.ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)
本明細書で使用される用語「ヒト骨髄由来間葉系幹細胞」または「hBMSC」とは、ヒト骨髄から単離された間葉系幹細胞のことを指す。
【0018】
本明細書で使用される用語「クローン性細胞株」とは、単一細胞から成長したコロニーから生成される細胞株のことを指す。例えば、本明細書で使用される用語「ヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株」または「ヒトクローン性BMSC株」とは、単一hBMSCから成長したコロニーから生成されるhBMSC細胞株のことを指す。非クローン性培養BMSCは、単一のドナーから得られた場合でも、表面マーカー発現、コロニー形成、分化能力、免疫調節/再生潜在性およびin vivo挙動が一定しない非常に多様なBMSCサブセットで構成される本質的に不均一な集団である。本開示は、ドナーおよび産生される細胞産物間の多様性を排除する合理的なクローン選択によって異質性に対するこの制約を克服し、BMSCに基づく療法の治療的効果を増強させるための単一細胞由来コロニーから生成されるヒトクローン性BMSC株について記載する。
【0019】
ヒトクローン性BMSC株を調製するための方法は、当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第7,781,211号に記載されており、その全体を参照により本明細書に組み込む。一部の実施形態において、ヒトクローン性BMSC株は、(i)第1の容器中で重力によって生体試料を定着させ、より低密度の細胞の第1の上清を製造する工程と;(ii)遠心分離を経ることなく第1の上清を第2の容器の成長培地へ直接移し、底部に細胞を定着させ、より低密度の細胞の第2の上清を製造する工程と;(iii)遠心分離を経ることなく第2の上清を第3の容器の成長培地へ直接移し、底部に細胞を定着させ、より低密度の細胞の第3の上清を製造する工程と;(iv)遠心分離を経ることなく第3の上清を別の容器の成長培地へ直接移し、底部に細胞を定着させ、より低密度の細胞の別の上清を製造する工程と;(v)単一細胞由来コロニーを工程(iv)の容器の底部に出現させる工程と;(vi)単一細胞由来コロニーを単離する工程と;(vii)単一細胞由来コロニーからの細胞をさらなる他の容器の成長培地中に展開して、単一細胞由来クローン性骨髄細胞の均一な集団を得る工程とによって骨髄の生体試料から調製されうる。
【0020】
本明細書に記載されるhBMSCシートは、いくつかの方法で採取されたhBMSC懸濁液とは異なる。細胞懸濁培養を調製するにはこれら細胞-細胞連結中の接着性タンパク質を破壊して(例えばトリプシン処理による)、培養表面から細胞を採取しなければならないので、hBMSCの懸濁液は、ECMまたは細胞-細胞連結がない単一細胞を含有する。hBMSCの単一細胞懸濁液とは対照的に、本明細書に記載されるhBMSCシートは、細胞シートの形成中に生成されるhBMSCの間のECMと細胞-細胞連結の両方を含有する。無傷のECMおよび細胞-細胞連結は、宿主生物への移植中における標的組織へのhBMSCシートの接着を容易にする。
【0021】
II.hBMSCから製造される細胞シート
ある特定の態様において、本開示は、コンフルエントなヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含むヒト骨髄由来間葉系幹細胞シートであって、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株から調製される、細胞シートに関する。本明細書で使用される用語「ヒト骨髄由来間葉系幹細胞シート」または「hBMSCシート」とは、in vitroで、細胞培養支持体上でヒト骨髄由来間葉系幹細胞を成長させることによって得られる細胞シートのことを指す。本明細書に記載されるhBMSCシートは、いかなる酵素処理もなしに温度応答性培養ディッシュ(TRCD)を使用して温度変化により1つまたは複数の層のシートとして採取される。hBMSCシートは、組織様構造、アクチンフィラメント、細胞外基質、細胞間タンパク質および高い細胞生存率を保持することによってそのサイズおよび形状を維持し、その全ては、細胞療法に関連する細胞生存および細胞性機能の改善と関連する。したがって、本明細書に記載される細胞シートは、細胞外基質、細胞接着タンパク質および細胞連結タンパク質を含めた、細胞生存ならびに細胞機能を改善する構造的特徴を含みうる。したがって、本明細書に記載される方法によって調製されるhBMSCシートは、他の方法によって製造されるMSCと比較していくつかの有益な特徴を有する。例えば、化学的破壊(タンパク質分解酵素処理)は、幹細胞療法用として採取される細胞に広く使用されている。しかしながら、酵素処理は、細胞外および細胞内タンパク質(細胞-細胞間および細胞-ECM連結)を破壊するので、化学的破壊方法は、細胞の組織様構造および細胞-細胞間コミュニケーションを維持することができない。したがって、酵素によるタンパク質切断は、細胞療法に関連する細胞の生存率および細胞性機能を減少させる。
【0022】
一部の実施形態において、細胞シートは、hBMSCからなる。一部の実施形態において、細胞シートは、hBMSCから本質的になる。一部の実施形態において、細胞シート中の細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%は、hBMSCである。一部の実施形態において、細胞シート中の細胞の100%は、hBMSCである。
【0023】
hBMSCは、細胞シートの形成またはその特徴を最適化するために、様々な細胞密度で細胞培養支持体中の温度応答性ポリマー上の培養液に添加されうる。例えば、hBMSC中のサイトカイン発現レベルは、細胞培養支持体(例えばTRCD)中のhBMSCの初期細胞密度を制御することによって最適化されうる。一部の実施形態において、細胞培養支持体中のhBMSCの初期細胞密度を増大させると、サイトカイン発現[例えば、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)およびインターロイキン10(IL-10)のうちの1つまたは複数]が増大する。一部の実施形態において、細胞培養支持体中のhBMSCの初期細胞密度を低下させると、サイトカイン発現が低下する。一部の実施形態において、細胞シートの調製に使用される細胞培養支持体中のhBMSCの初期細胞密度は、0.5×10/cm~9×10/cmである。一部の実施形態において、細胞培養支持体中のhBMSCの初期細胞密度は、少なくとも0.5×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10または9×10細胞/cmである。これら値のいずれかを使用して、細胞培養支持体中のhBMSCの初期細胞密度の範囲を定義してもよい。例えば、一部の実施形態において、細胞培養支持体中の初期細胞密度は、4.5×10~3.4×10細胞/cm(4×10~3×10細胞/直径35mmのUpCellディッシュ、面積8.8cmを有する)である。
【0024】
本明細書に記載されるhBMSCシートは、治療的使用のために宿主生物(例えばヒト)の標的組織に移植されうる。標的組織へのhBMSCシートの移植は、宿主組織における毛細管の形成(血管新生)、および移植した細胞シートと宿主組織との間の血管形成をもたらしうる。この新毛細管形成は、シートの生着、細胞の生存率および組織再生にとって重要な能力である。加えて、標的組織上のシート内へのこの新たな血管の動員は、移植されたhBMSCシートが、傍分泌因子を絶えず分泌して生着をモジュレートすることを示唆する。
【0025】
一部の実施形態において、hBMSCシートは、1つまたは複数のサイトカイン、例えば、1つまたは複数の免疫調節因子[例えば、インターロイキン-10(IL-10);抗線維化因子(例えば、肝細胞増殖因子(HGF);骨形成タンパク質7(BMP-7))、および/または血管新生因子(例えば、血管内皮成長因子(VEGF);塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)]を発現する。一部の実施形態において、サイトカインは、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン-10(IL-10)、プロスタグランジンE2(PGE-2)、骨形成タンパク質7(BMP-7)および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)から選択される。一部の実施形態において、細胞シート中のサイトカイン(例えば、免疫調節因子、抗線維化因子、または血管新生因子)の発現は、同等数の細胞を含有するhBMSCの懸濁液、またはクローン性細胞株でないhBMSCから調製される細胞シートと比較して増大する。一部の実施形態において、サイトカイン(例えば、免疫調節因子、抗線維化因子、または血管新生因子)の発現は、同等数の細胞を含有するhBMSCの懸濁液、またはクローン性細胞株でないhBMSCから調製される細胞シートと比較して低下する。
【0026】
本明細書に記載されるhBMSCシートは、宿主生物の標的組織への移植後にサイトカインを発現し続けることができる。一部の実施形態において、細胞シートは、宿主生物の組織(例えば、腎組織)への移植後少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25または30日間サイトカインを発現する。一部の実施形態において、細胞シートは、宿主生物の組織(例えば、腎組織)への移植後少なくとも1、2、3、4、5または6か月間サイトカインを発現する。
【0027】
現在の幹細胞療法は、注射可能な細胞懸濁液として生検から単離された培養幹細胞をしばしば使用する[Bayoussefら、2012、J Tissue Eng Regen Med、6(10)]。注射された細胞懸濁液は、罹病器官または組織内への生着および保持が一般により低い[Devineら、2003年、Blood、101(8)、2999~3001]。採取時の酵素的破壊による幹細胞懸濁液中の無傷のECMおよび細胞-細胞連結(すなわち、伝達)の消失は、in vivoでの幹細胞機能、生着および生存を損ない、in vivoでの治療有効性を限定する可能性がある。対照的に、本明細書に記載されるhBMSCシートを調製する方法は、内因的な細胞の機能的構造を保っており、移植後の標的組織への細胞シートの付着を改善する。例えば、一部の実施形態において、細胞シートは、宿主生物の組織への移植後少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25または30日間、宿主生物の標的組織(例えば、腎組織)に付着して残る。一部の実施形態において、細胞シートは、宿主生物の組織への移植後少なくとも1、2、3、4、5または6か月間、宿主生物の標的組織(例えば、腎組織)に付着して残る。
【0028】
III.in vitroでhBMSCシートを製造するための方法
ある特定の態様において、本開示は、コンフルエントなヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)の1つまたは複数の層を含むヒト骨髄由来間葉系幹細胞シートを製造するための方法であって、
a)細胞培養支持体の基材表面上へコーティングされた温度応答性ポリマー上で、培養液中でhBMSCを培養する工程であって、培養液中のhBMSCが、単一細胞から生成されたヒトクローン性骨髄由来間葉系幹細胞株であり、温度応答性ポリマーが、0~80℃の水中での下限臨界共溶温度を有する、工程と;
b)培養液の温度を下限臨界共溶温度未満に調整し、それによって基材表面が親水性にされ、該表面への細胞シートの接着が弱められる工程と;
c)培養支持体から細胞シートを分離する工程とを含む、方法に関する。
【0029】
細胞シートを調製するための一般的な方法は、当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第8,642,338号;第8,889,417号;第9,981,064号;および第9,114,192号に記載されており、その全体を、それぞれ参照により本明細書に組み込む。
【0030】
細胞培養支持体の基材をコーティングするために使用される温度応答性ポリマーは、水性溶液中で一般に0℃~80℃、例えば、10℃~50℃、0℃~50℃、または20℃~45℃の範囲の上限または下限臨界共溶温度を有する。
【0031】
温度応答性ポリマーは、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。例示的なポリマーは、例えば、特開211865/1990号公報に記載されている。特に、それらは、例えば、(メチル)アクリルアミド化合物[(メチル)アクリルアミドとは、アクリルアミドとメタクリルアミドとの両方のことを指す]、N-(またはN,N-ジ)アルキル置換(メチル)アクリルアミド誘導体、およびビニルエーテル誘導体などのモノマーのホモまたはコポリマー化によって得られうる。コポリマーの場合、上に記載のモノマーなど、任意の2つ以上のモノマーが、用いられてもよい。さらに、それらのモノマーは、他のモノマーとコポリマー化されてもよく、一方のポリマーが、他方にグラフトされてもよく、2つのポリマーがコポリマー化されてもよく、またはポリマーとコポリマーとの混合物が用いられてもよい。必要に応じて、ポリマーは、その固有の特性を損なわない程度に架橋されてもよい。
【0032】
ポリマーでコーティングされる基材は、ガラス、修飾ガラス、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリラート)、ポリエステルおよびセラミックなど、細胞培養に一般的に使用されるものを含めた任意の型のものでもよい。
【0033】
温度応答性ポリマーで支持体をコーティングする方法は、当技術分野で公知であり、例えば、特開211865/1990号公報に記載されている。特に、そのようなコーティングは、基材および上述のモノマーまたはポリマーを、例えば、電子ビーム(EB)曝露、γ-線による照射、紫外線による照射、プラズマ処理、コロナ処理または有機ポリマー化反応に供することによって達成されうる。コーティング塗布および練和によって達成される物理的吸着など他の技術が使用されうる。
【0034】
温度応答性ポリマーの適用範囲は、0.4~3.0μg/cm、例えば、0.7~2.8μg/cmまたは0.9~2.5μg/cmの範囲でありうる。細胞培養支持体の形態構造は、例えば、ディッシュ、マルチプレート、フラスコまたはセルインサートでありうる。
【0035】
培養細胞は、支持体基材上のポリマーが水和し、細胞が分離されうる温度に支持体材料の温度を調整することによって細胞培養支持体から分離および回収されうる。円滑な分離は、細胞シートと支持体との間のギャップに水流を適用することによって実現されうる。細胞シートの分離は、細胞が培養された培養液内または他の等張液中の影響受ける場合があり、いずれも適している。一部の実施形態において、hBMSCは、支持体材料から細胞シートを遊離させるために下限臨界共溶温度未満に培養液の温度を調整する前に、少なくとも12時間、少なくとも24時間、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間または少なくとも7日間温度応答性ポリマー上の培養液中で培養される。一部の実施形態において、hBMSCは、支持体材料から細胞シートを遊離させるために培養液の温度を下限臨界共溶温度未満に調整する前に、温度応答性ポリマー上の培養液中で2日間未満、3日間未満、4日間未満。5日間未満、6日間未満、7日間未満培養される。一部の実施形態において、hBMSCは、支持体材料から細胞シートを遊離させるために培養液の温度を下限臨界共溶温度未満に調整する前に、約12時間、約24時間、約1日間、約2日間、約3日間、約4日間、約5日間、約6日間、または約7日間温度応答性ポリマー上の培養液中で培養される。これら値のいずれかを使用して、hBMSCが培養液中で培養される時間の長さの範囲を定義することができる。例えば、一部の実施形態において、hBMSCは、1~2日間、1~3日間または1~4日間培養液中で培養される。
【0036】
特定の実施形態において、温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は、水中で31℃の下限臨界共溶温度を有する。遊離状態にある場合、それは、水中で31℃を超える温度で脱水を受け、ポリマー鎖は、凝集して混濁を引き起こす。反対に、31℃以下の温度では、ポリマー鎖は水和して水に溶解し、それによりポリマーからの細胞シートの遊離を引き起こす。特定の実施形態において、このポリマーは、ペトリ皿などの基材の表面を覆い、例えば、化学もしくは物理的グラフトまたは係留によって基材表面上に固定化される。したがって、31℃を超える温度では、基材表面上のポリマーも脱水するが、ポリマー鎖が、基材表面を覆っており、その上に固定化されているので、基材表面は、ポリマーの脱水により疎水性になる。反対に、31℃以下の温度では、基材表面上のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が、基材表面を覆っており、その上に固定化されているので、基材表面は、ポリマーの脱水により親水性になる。疎水的表面は、細胞の接着および成長に適切な表面であるが、親水性表面は、細胞の接着を阻害し、細胞は、培養液を冷やすことによって簡単に分離される。
【0037】
間葉系幹細胞用の培養液は、当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第9,803,176号および第9,782,439号に記載されており、その全体を、それぞれ参照により本明細書に組み込む。一部の実施形態において、培養液は、ヒト血小板溶解物(hPL)を含む。一部の実施形態において、培養液は、アスコルビン酸を含む。一部の実施形態において、培養液は、非ヒト動物から得られる産物(例えばFBS)を少なくとも1つ含有する。一部の実施形態において、培養液は、ヒトから得られる産物を含有しない。特定の実施形態において、培養液は、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Life Technologies、CA、米国)、ウシ胎仔血清(FBS)(Thermo Fisher Scientific)、MycoZap Prophylactic(Lonza)および抗生物質、例えば、ペニシリンストレプトマイシンのうち1つまたは複数を含む。
【0038】
hBMSCシートは、適用に応じて異なるサイズの範囲で調製されうる。一部の実施形態において、hBMSCシートは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15または20cmの直径を有する。これら値のいずれかを使用して、hBMSCシートのサイズの範囲を定義してもよい。例えば、一部の実施形態において、hBMSCシートは、1~20cm、1~10cmまたは2~10cmの直径を有する。一部の実施形態において、hBMSCシートは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250または300cmの面積を有する。これら値のいずれかを使用して、hBMSCシートのサイズの範囲を定義してもよい。例えば、一部の実施形態において、hBMSCシートは、1~100cm、3~70cmまたは1~300cmの面積を有する。本明細書に記載される方法は、hBMSCシートの表面積および/または直径が、その厚みより非常に大きいhBMSCシートをもたらす。例えば、一部の実施形態において、hBMSCシートの表面積のその厚みに対する比は、少なくとも10:1、100:1、1000:1または10000:1である。一部の実施形態において、hBMSCシートの直径のその厚みに対する比は、少なくとも10:1、100:1、1000:1または10000:1である。本明細書に記載されるhBMSCシートは、1つまたは複数の層のコンフルエントなヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSC)、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10層のhBMSCを含む。一部の実施形態において、hBMSCシートは、1、2、3、4または5層未満のhBMSCを含む。一部の実施形態において、hBMSCシートは、少なくとも1、2、3、4または5層のhBMSCを含む。
【0039】
IV.ヒト骨髄由来MSC(hBMSC)シートを対象に移植するための方法
本明細書に記載されるhBMSCシートは、細胞シートを対象の組織(例えば、腎組織)に適用することによって対象に移植されうる。例えば、以下の実施例2に開示される通り、本明細書に記載される方法によって調製されるhBMSCシートの移植は、クローン性細胞株でないhBMSCから調製されたhBMSCシートと比較して、ラット虚血再灌流傷害モデルにおいて腎線維化を高度に抑制した。
【0040】
したがって、一部の態様において、本開示は、細胞シートを対象に移植する方法であって、本明細書に記載の細胞シートを対象の組織に適用する工程を含む、方法に関する。一部の実施形態において、組織は腎組織である。特定の実施形態において、対象はヒトである。本明細書に記載されるhBMSCシートの優位性の1つは、組織に細胞シートを接着するために縫合を必要としないように、細胞シートの細胞外基質が、細胞シートを対象の組織に結合させるための接着剤として作用するということである。支持体膜を使用して、培養表面から遊離した採取されたhBMSCシートを対象の組織へ移してもよい。そのような移動のための支持体膜は、例えば、ポリ(ビニリデンジフルオリド)(PVDF)、酢酸セルロースおよびセルロースエステルでありうる。hBMSCシートは、標的組織に容易に接着し、標的組織上へ短期間直接置かれた後に縫合なく自己安定化する。例えば、一部の実施形態において、hBMSCシートは、組織との接触後5、10、15、20、25または30分以内に標的組織に接着する。ある特定の実施形態において、細胞シート中のhBMSCは、対象と同種である、すなわち、1つまたは複数の座において遺伝子が同一でないような対象と同じ種の異なる個体から単離される。ある特定の既報の場合において、MSCは、ヒトおよび動物モデルにおいて同種拒絶反応を外観上回避する[Jiangら、2005、Blood、105(10)、4120~4126]。したがって、本明細書に記載されるhBMSCシートは、自家幹細胞処置方法に関連する好ましくない費用および開発阻害要因を回避する既成品として同種細胞療法に使用されうる。
【0041】
一部の実施形態において、hBMSC細胞シートは、腎移植を受けた対象に移植される。一部の実施形態において、hBMSC細胞シートは、急性腎傷害を有する対象に移植される。一部の実施形態において、hBMSC細胞シートは、虚血再灌流傷害を有する対象に移植される。一部の実施形態において、hBMSC細胞シートは、腎線維化を有する対象に移植される。
【0042】
ある特定の態様において、本開示は、対象において腎線維化(例えば腎皮質の線維化)を抑制する方法であって、本明細書に記載のhBMSC細胞シートを対象の腎組織に適用し、それにより対象において腎線維化(例えば腎皮質の線維化)を抑制する工程を含む、方法に関する。
【0043】
ある特定の態様において、本開示は、対象において腎尿細管傷害を処置する方法であって、本明細書に記載のhBMSC細胞シートを対象の腎組織に適用し、それによって対象における腎尿細管傷害を処置する工程を含む、方法に関する。
【実施例
【0044】
実施例1.ヒトクローン性BMSCの評価およびヒトクローン性BMSCシートの調製
ヒトクローン性BMSCライブラリを、細分画培養方法を使用してSCM Lifescience(韓国)によってドナー骨髄から確立した。Song、S.U.ら、2008、Stem Cells Dev 17、451~461、doi:10.1089を参照のこと。単離されたヒトクローン性BMSCを、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Thermo Fisher Scientific)、0.1% MycoZap Prophylactic(Lonza)および1%ペニシリンストレプトマイシンで補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Life Technologies、CA、米国)中で37℃、5% COインキュベータで培養した。保存されたクローン性BMSCを、CD73+、CD90+、CD105+、CD44+、CD34-、CD31-、CD45-について試験によって検証した。各クローン性BMSC株を、確立された8継代保存物から回復させ、1,000~2,000細胞/cmで10継代まで培養する。細胞を、酵素的分離によって採集し、University of Utah Flow Coreでのフローサイトメトリー(BD Canto)用に単一染色した。
【0045】
図1に示すように、細胞シート製造に使用した複数の細胞株由来のクローン性BMSCが、表現型MSCマーカー(CD44、CD73、CD90、CD105)の陽性(≧95%)表面抗原発現および常在骨髄/血液細胞(CD31、CD34、CD45)の陰性発現を呈した。パーセンテージ陽性を、蛍光アイソタイプ対照の0.5%超として測定した。N≧2。
【0046】
保存されたクローン性BMSCを:3系統潜在性(骨形成、脂肪生成の、軟骨形成)、および表面抗原発現(CD73+、CD90+、CD105+、CD44+、CD34-、CD31-、CD45-)について試験によって検証した。
【0047】
保存されたクローン性BMSCを、二次培養し、35mmの温度応答性培養ディッシュ(TRCD)上に播種し、10継代で6日間培養した。異なるクローン性BMSC細胞株を使用するクローン性BMSCシートを、室温で細胞培養表面から採取し、qPCRを用いて遺伝子発現のレベルでそれらのサイトカイン産生を調査した。
【0048】
図2に示すように、複数の細胞株由来の操作されたクローン性BMSCシートが、TRCD上で成功裏に調製された。クローン性BMSCシートは、HGF、VEGFおよびFGF2などの複数の組織再生サイトカインの遺伝子発現を呈した。不均一な非クローン性BMSC(図2において「全BMSC」)から調製された細胞シートも、類似のレベルのHGF、VEGFおよびFGF2を産生した。
【0049】
保存したクローン性BMSCを二次培養し、10継代で単一細胞として細胞培養ディッシュから採取した。また、クローン性BMSCを、35mmの温度応答性培養ディッシュ(TRCD)上に播種し、10継代で6日間培養して細胞シートを調製した。クローン性BMSCの複数の細胞株を、単一細胞および細胞シートとしてqPCR用に調製してそれらのサイトカイン産生を遺伝子発現レベルで調査した。特に、単一細胞および細胞シートとしてのIL-10、IDOおよびPGE-2の遺伝子発現レベルの比較が、qPCRによって調査された。クローン性BMSCの細胞シートの形成により、単一細胞と比較して免疫調節性サイトカインの遺伝子発現が有意に増強した。図3を参照のこと。
【0050】
実施例2.ラット腎臓虚血再灌流傷害(IRI)モデルにおけるヒトクローン性BMSCシートの移植
イソフルラン麻酔下で、免疫不全ラットの左腎臓から周囲の脂肪を慎重にはぎとり、左腎臓動脈および静脈を、脈管クリップで60分間固定して血流を遮断した。固定60分後に、クリップを取り外し、血流を再潅流して腎実質傷害を誘導した。5枚のヒトクローン性BMSCシートを、腎被膜のありまたはなしで腎臓表面に移植した。細胞シートの移植後、3日目および28日目にIRI腎臓を採取し、分析した。この研究の概要を図4に提供する。
【0051】
ラット腎臓を、IRI後3日目に採取し、4% PFA中で固定し、組織学的分析用としてパラフィン包埋した。切片を、ヒトフィブロネクチンに特異的な抗体を使用して免疫標識し、アビジンビオチン化ペルオキシダーゼ複合体を使用して検出した。図5は、IRI後3日目のラット腎臓におけるヒトフィブロネクチン(hFN)染色の画像を提供する。左は、細胞シートの移植がないIRIであり、中央は、腎被膜(各腎臓の外側表面を覆う薄い膜鞘)上へのクローン性BMSCシートの移植があるIRIであり、右は、被膜が除去された腎臓へのクローン性BMSCシートの移植があるIRIである。中央および右の画像において、クローン性BMSCシートから得られる多くのhFN陽性細胞が、実質の上に検出され、被膜を含有する腎臓と被膜を除去した腎臓との両方において一部の細胞は、腎実質内に遊走した(矢印)。これら結果は、細胞シート移植が、腎被膜ありまたはなしで成功したことを示す。またこれら結果は、腎被膜が無傷であっても移植された細胞シート由来の細胞が、被膜を通過し、実質に遊走できたことを示す。クローン性BMSC細胞シートから被膜を通って、実質への細胞の遊走は、これらの組織における組織再生サイトカインの分泌を可能にし、組織再生に寄与することになる。
【0052】
IRI後3日または28日に採取され、4% PFA中で固定され、パラフィン包埋されたラット腎臓を、過ヨウ素酸シッフ(PAS)およびマッソントリクローム(MT)で染色して腎線維化を査定した。尿細管傷害の程度を、確立された評価法に基づいて評価した。Solez,K.ら、1970、Medicine 58.5;および、Kelleherら、1987、Kidney international 31.3を参照のこと。要約すると、本発明者らは、尿細管壊死、尿円柱、刷子縁消失、および尿細管拡張の程度を以下の通りに等級分けした:0:<10%;0.5:10~25%;1:25~45%、1.5:45~75%および2:>75%。青色領域画分をMT染色の画像から測定し、各群においてImageJソフトウェアを使用して分析した:天然(被膜あり、傷害なし、およびクローン性BMSC細胞シートなしの健康な正常な腎臓)、IRIのみ、被膜なし非クローン性BMSC(WB)シート、被膜なしクローン性BMSCシート。
【0053】
図6は、腎臓被膜なしの細胞シート移植を示す。図6において、上列は、IRI後3日での、天然、IRI、および被膜なしクローン性BMSCシート移植群の代表的なPAS染色画像および尿細管傷害スコアを示す。尿細管傷害は、IRIのみ、およびクローン性MSCシート群において黒色矢印によって示される。IRI群と比較してクローン性BMSCシート群のより低い尿細管傷害スコアによって示される通り、クローン性BMSCシートはIRI傷害の初期フェーズを抑制した。下の列は、IRI後28日での、天然、IRI、非クローン性BMSCシート(WB)、被膜なしクローン性BMSCシート移植群の線維化領域を示す、代表的なMT染色画像およびコラーゲン陽性画分のグラフを示す。MT染色の領域は、コラーゲン沈着(矢印)を示す。被膜なしでのクローン性BMSCシートの移植は、IRIおよび非クローン性BMSCシート(WB)群と比較して最も低いコラーゲン染色領域によって示されるように、線維化の阻害が最も高いことを示した。
【0054】
図7は、腎臓被膜ありでのBMSCシート移植を示す。図7の上列は、IRI後3日での、天然、IRI、および被膜ありクローン性BMSCシート移植群の代表的なPAS染色画像および尿細管傷害スコアを示す。尿細管傷害は、IRIのみ、およびクローン性MSCシート群において黒色矢印によって示される。IRI群と比較してクローン性BMSCシート群のより低い尿細管傷害スコアによって示される通り、クローン性BMSCシートはIRI傷害の初期フェーズを抑制する。下の列は、IRI後28日での、天然、IRI、被膜あり非クローン性BMSCシート(WB)、および被膜ありクローン性BMSCシート移植群の線維化領域を示す、代表的なMT染色画像およびコラーゲン陽性青色領域画分のグラフを示す。MT染色の領域は、コラーゲン沈着(矢印)を示す。被膜ありクローン性BMSCシートの移植は、IRIおよび非クローン性BMSCシート(WB)群と比較して最も低いコラーゲン染色によって示されるように、線維化を阻害する能力が最も高いことを示す。
【0055】
実施例3.異なる培養条件(密度および培養期間)によるクローン性BMSCシートの製造およびサイトカイン産生の評価
クローン性BMSCを、組織培養ディッシュ上で8~10継代に拡大した。10継代の細胞を、密度40万~7百万細胞/直径35mmの温度応答性細胞培養ディッシュ(TRCD、CellSeed Inc.日本国、東京)で、アスコルビン酸(50ng/mL)を含む基本培地に播種した。播種後6時間、1日、3日または6日に細胞を、培養温度を37℃から室温(RT)に変化させることによって分離した。図8に示すように、クローン性BMSCシートは、播種後6時間では初期細胞密度80万細胞/35mmのTRCD、1日では60万細胞/35mmのTRCD、ならびに3および6日では40万細胞/35mmのTRCDからシートとして分離された。
【0056】
クローン性BMSCシートを、RTでTRCDから分離した後に採集した。細胞シートからのトータルRNAを、製造業者のプロトコールにしたがってtrizolおよびPureLink RNA Mini Kit(Life Technologies、Carlsbad、米国)を使用して抽出した。cDNAを、high capacity cDNA reverse transcription kit(Life Technologies)を使用してトータルRNA 1μgから調製した。RT-PCR分析を、TapMan Universal PCR Master Mixを用いてApplied Biosystems Step One機器[Applied Biosystems(商標)、Foster City、米国]を使用して実行した。遺伝子発現レベルを、以下の遺伝子:1)ハウスキーピング遺伝子としてグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH、Hs99999905_m1)、2)HGF(Hs0037914_m1)、3)IL10(Hs00961622_m1)および4)VEGF(Hs99999070_m1)について評価した。全てのプライマは、Applied Biosystemsによって製造された。相対的遺伝子発現レベルを、比較CT法によって定量化した。遺伝子発現レベルを、GAPDH発現レベルに対して正規化した。遺伝子発現レベルは、単一細胞懸濁液群(SC)のレベルと相対的である。
【0057】
クローン性BMSCシートの組織再生サイトカイン(HGF、IL10、VEGF)の遺伝子発現レベルを、単一クローン性BMSC懸濁液(SC)の遺伝子発現レベルと比較した。図9に示すように、クローン性BMSCシートは、クローン性BMSCの単一細胞懸濁液(SC)と比較して、HGF、IL10およびVEGFサイトカイン分泌についてより高い遺伝子発現レベルを示した。さらに、密度130万細胞/35mmのTRCDで調製されたクローン性BMSCシートは、初期細胞密度40万細胞/35mmのTRCDで調製されたクローン性BMSCシートの遺伝子発現レベルと比較して、より高い遺伝子発現レベル(HGF、IL10、VEGF)を表した。
【0058】
クローン性BMSCシート培地を、新鮮な培地と交換した。試料を、24時間(37℃、5.0% CO)培養した。24時間の上清(群当たりn=3)を1200RPMで5分間遠心分離して、細胞残屑を含まない上清中の可溶性サイトカインを採集した。クローン性BMSCシート当たりの分泌される可溶性HGF、VEG、IL10の濃度を、ヒトHGF、VEGF、IL10 Quantikine ELISAキット(R&D Systems、MN、米国)を使用して定量した。サイトカイン量を、細胞シートまたは細胞の数に対して正規化して、細胞シートまたは細胞当たりで分泌されたサイトカイン量を決定した。異なる初期細胞密度(60万個、150万個、300万細胞/35mmのTRCD)を有するクローン性BMSCシートから分泌されるサイトカイン量が、検出された。図10に示すように、より高い初期細胞密度の群(150万個および300万細胞/35mmのTRCD)は、60万細胞/35mmのTRCD群と比較して、細胞シートおよび細胞当たり、より多量のサイトカインを分泌した。
【0059】
実施例4.凍結BMSCの評価および細胞シートの調製
新鮮なクローン性BMSC(新鮮な細胞)を、9継代(P9)でトリプシン処理によって細胞培養表面から得た。凍結クローン性BMSC(凍結細胞)を、液体窒素タンク中で、保存されたP9クローン性BMSCを凍結することによって調製した。新鮮な細胞と凍結細胞との両方を計数し、10継代細胞として濃度5000細胞/cmで35mm細胞培養ディッシュ上へ播種した。インキュベーション15または30分後に、非接着細胞を、PBS(-)を使用して洗い流し、接着細胞だけを位相差顕微鏡で観察した。図11に示すように、凍結細胞は、新鮮な細胞と比較して高い初期および成熟細胞接着能力を示した。(スケールバー;200μm)。新鮮な細胞と凍結細胞との両方を、0.4、1、1.5、および3百万細胞(0.4M、1.0M、1.5M、および3.0M)で細胞培養ディッシュに播種した。新鮮な細胞または凍結細胞から調製した細胞シートを、1日培養後に採取した。図12に示すように、より高い初期細胞密度によって、より大きな細胞シートが得られた。凍結細胞は、新鮮な細胞と比較してより低い初期細胞密度での細胞シートの調製を可能にした。(スケールバー;1cm)。
【0060】
凍結細胞から調製した細胞シートを、コラゲナーゼおよびトリプシン処理によって解離させ、細胞生存率をトリパンブルー染色によって決定した。凍結細胞または新鮮な細胞から調製されたシート由来細胞の生存率が、以下の表1に示される。凍結細胞から調製したシート由来の細胞は、新鮮な細胞から調製したシート由来の細胞が示したように、高い細胞生存率を示した。
【0061】
【表1】
【0062】
新鮮なおよび凍結細胞シートを、初期細胞密度0.4、1、1.5および3百万個(0.4M、1.0M、1.5M、および3.0M)で調製し、1日培養後に採取した。調製した細胞シートをqPCRに用いて、そのサイトカイン産生を調査した。図13に示すように、各初期細胞密度で凍結細胞から調製されたシートが、新鮮な細胞から調製されたシートと同程度のサイトカイン産生を示したことは、凍結細胞が、細胞シート製造の選択肢になりうることを示唆した。特に、凍結細胞ストックは、培養におけるその高い初期細胞接着能力により素早い細胞シート製造を実行するのに有益である。
【0063】
実施例5
クローン性骨髄由来間葉系幹細胞(BMSC)シートは、10継代目に35mmのTRCD当たり0.4×10細胞を播種することによって製造された。6日目に、細胞シートは分離され、1μm細孔の挿入ウェル上へ再播種され、0、0.25、2.5、25または50ng/mL IFN-γのいずれかを含有する培地で培養された。2日後、細胞シートは、挿入ウェルから採集され、qRT-PCR分析用として加工された。図14に示すように、クローン性BMSCシートは、インターフェロンガンマ(IFN-γ)に応じて、免疫調節性分子HLA-DR、PD-L1、IDO、IL-10およびPGE-2の発現を上方調節する。クローン性BMSCシートは、25ng/mL IFN-γに曝露した際に、免疫調節性遺伝子の上方調節のピークを呈した。遺伝子発現は、同じ条件下でプライミングしていない対照細胞シートに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=2)。
【0064】
実施例6
クローン性および全BMSCシートは、10継代目に35mmのTRCD当たり0.4×10細胞を播種することによって製造された。細胞シート培養の4日目に、25ng/mL IFN-γを培養物に添加して、分離前に2日間のプライミングを開始した。細胞シート培養の6日目に、qRT-PCR分析用として細胞シートは分離され、加工された。図15に示すように、IFN-γを補充して製造された細胞シートは、免疫調節性分子の上方調節を呈する。細胞シートを分離する前に、25ng/mL IFN-γが、2日間添加された。分離前に2日間プライミングされたクローン性BMSCシートは、HLA-DR、PD-L1およびIDOの遺伝子発現の有意な増大を呈した。遺伝子発現は、同じ条件下で製造されたプライミングしていない対照細胞シートそれぞれに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=6)。
【0065】
結論:IFN-γで48時間プライミングしたhBMSCシートは、細胞シート分離直後にIDOおよびHLA-DRの上方調節、安定したPGE-2、ならびにIL-10の下方調節を呈した。IFN-yプライミングは、IDO遺伝子発現に対して最も大きな効果を有した。IDO遺伝子の発現は、T細胞阻害に関連するので、プライミングした細胞シートは、炎症を減少させるのに有用となりうる。
【0066】
実施例7
クローン性BMSCシートは、10継代目に35mmのTRCD当たり0.4×10細胞を播種することによって製造された。25ng/mLのIFN-γが、0日目(播種時)、2日目または4日目のいずれかに培養物に添加された。細胞シート培養の6日目に、qRT-PCR用として細胞シートは分離され、加工された。図16に示すように、IFN-γプライミング期間の増大は、免疫調節性分子の遺伝子発現のさらなる増大と関連した。IFN-γプライミングの4日および6日後に製造されたクローン性BMSCシートは、免疫調節性遺伝子(HLA-DR、PD-L1、IDO、IL-10およびPGE-2)の上方調節を呈し、プライミング6日後に最も高い発現であった。遺伝子発現は、同じ条件下で製造されたプライミングしていない対照細胞シートそれぞれに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=6)。
【0067】
実施例8
クローン性BMSCシートは、10継代目に35mmのTRCD当たり0.4×10細胞を播種することによって製造された。25ng/mLのIFN-γが、0日目(播種時)、2日目または4日目のいずれかに培養物に添加された。細胞シート培養の6日目に、細胞シートは分離され、1μm細孔挿入ウェル上へ再播種され、標準的な培養培地で培養された。4日後、細胞シートは、挿入ウェルから採集され、qRT-PCR分析用として加工された。6日間、4日間、2日間または0日間のいずれかでIFN-γを補充して製造された細胞シートを、通常の培養条件で4日間再度平板培養して、IFN-γ効果の安定性が分析された。結果は、IFN-γの除去後も、クローン性BMSCが、HLA-DR、PD-L1、IDOおよびIL-10の上方調節された遺伝子発現を呈し続けることを示した。図17を参照のこと。4日間のIFN-γプライミングで製造されたクローン性細胞シートは、免疫抑制性(IDO、PD-L1およびIL-10)分子の最も高い遺伝子発現を呈した。遺伝子発現は、同じ条件下で製造されたプライミングしていない対照細胞シートそれぞれに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=4)。
【0068】
実施例9
クローン性BMSCシートは、10継代目に35mmのTRCD当たり0.4×10細胞を播種することによって製造された。細胞シート培養の4日目に、5または80ng/mLいずれかのbFGFを培養物に添加して、分離前に2日間のプライミングを開始した。細胞シート培養の6日目に、qRT-PCR分析用として細胞シートは分離され、加工された。図18に示すように、bFGFを補充して製造された細胞シートは、免疫調節性分子の上方調節を呈する。例えば、分離前に2日間プライミングされたクローン性BMSCシートは、HLA-DR、IDOおよびIL-10の有意な増大を呈した。遺伝子発現は、同じ条件下で製造されたプライミングしていない対照細胞シートそれぞれに対して正規化した倍率変化として表された。(試料数;n=3)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【国際調査報告】