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特表2024-536377車両用タイヤの製造に使用するためのゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】車両用タイヤの製造に使用するためのゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20240927BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240927BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20240927BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K9/04
C08K3/06
B60C1/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520817
(86)(22)【出願日】2022-10-01
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2022077419
(87)【国際公開番号】W WO2023057361
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】21200999.7
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】ラファエレ ディ ロンザ
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア アーリシチオ
(72)【発明者】
【氏名】アンケ ブルーメ
(72)【発明者】
【氏名】マリア デル ピラー ベルナル オルテガ
(72)【発明者】
【氏名】ラファル アニスカ
(72)【発明者】
【氏名】森下 善広
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131BA01
3D131BA02
3D131BA04
3D131BA05
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA18
3D131BA20
3D131BC02
3D131BC09
3D131BC12
3D131BC19
3D131BC51
3D131LA28
4J002AC031
4J002AC081
4J002DA047
4J002DJ016
4J002FB146
4J002FD147
4J002GN01
(57)【要約】
本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム-シリカコンパウンドであって、前記シリカ充填剤は動的イミン結合を介して、前記ジエンゴムマトリックスと可逆的に結合する、ジエンゴム-シリカコンパウンドを提供する。特に、本発明は、前記ジエンゴムがスチレン-ブタジエンゴムであるようなコンパウンドを提供する。このようなコンパウンドは、加硫することができ、タイヤトレッド等の車両用タイヤ部品の製造に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム-シリカコンパウンドであって、前記シリカ充填剤は、動的イミン結合を介して前記ジエンゴムマトリックスと可逆的に結合する、ジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項2】
前記ジエンゴムマトリックスは、スチレン-ブタジエンゴムを含み、任意に、前記ジエンゴムマトリックスは、スチレン-ブタジエンゴムと、ブタジエンゴム等の少なくとも一つの他のジエンゴムとの混合物を含む、請求項1に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項3】
前記シリカ充填剤は、動的イミン結合を組み込んでいて、前記ジエンゴムマトリックスに結合するカップリング剤により表面改質され、前記カップリング剤は、式(I):
【化1】
[式中、
*は、シリカ表面へのカップリング剤の付加点を示し、
環Bは、芳香族基又は複素芳香族基であり、
は、有機連結基であり、
は、単結合又は有機連結基のいずれかであり、
は、前記ジエンゴムマトリックスとの結合を形成することができる官能基であり、
各Rは、それぞれ独立して、
1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル、例えば、-CH)、
1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ、例えば、-OCH)、
ハロゲン(例えば、F、Cl、Br又はI)、及び
式-L-Rの基
から選択され、
nは、0から4、好ましくは0から2の整数、例えば0又は1である。]の構造を有する、請求項1又は2に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項4】
前記カップリング剤が、式(II):
【化2】
[式中、*、L、L、R、R及びnは、請求項3に定義されているとおりである。]の構造を有する、請求項3に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項5】
前記カップリング剤が、式(IV):
【化3】
[式中、*、L、L、R、R及びnは、請求項3に定義されているとおりである。]の構造を有する、請求項3に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項6】
が、式(III):
【化4】
[式中、
各Rは、それぞれ独立して、-OH、C1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ)及びC1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル)から選択され、
Zは、任意に置換されていてもよいC1-12アルキレン基であり、該C1-12アルキレン基は、-O-、-SiR'2-(各R'は、それぞれ独立して、-OH、C1-6アルコキシ又はC1-6アルキルである。)、-PR''-、-NR''-及び-OP(O)(OR'')O-(R''は、H又はC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチルである。)から選択される1つ又は2つ以上の基により中断されていてもよい。]の基である、請求項3から5のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項7】
前記カップリング剤が、式(V):
【化5】
[式中、*、L及びRは、請求項3に定義されているとおりであり、各Rは、請求項6に定義されているとおりである。]の構造を有する、請求項3から6のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項8】
が単結合である、請求項3から7のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項9】
が、メルカプト基;保護されたメルカプト基;ブロックされたメルカプト基;モノ、ジ又はポリスルフィド基;及び炭素-炭素二重結合を含む基からなる群から選択される、請求項3から8のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項10】
-L-Rの基が、以下の構造:
【化6】
[ここで、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2である。]
のひとつで表される、請求項3から8のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項11】
-L-Rの基が、以下の構造:
【化7】
[ここで、
xは、1から6、好ましくは1から4の整数であり、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2である。]
のひとつで表される、請求項3から8のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項12】
-L-Rの基が、以下の構造:
【化8】
[ここで、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から8、好ましくは1から6、例えば1から4の整数である。]
のひとつで表される、請求項3から8のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項13】
-L-Rが、ビニル(-CH=CH)、アリルオキシ(-O-CH-CH=CH)、チオール(-SH)及びメチルチオ(-SCH)から選択される、請求項3から8のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項14】
加硫可能である、請求項1から13のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項15】
請求項14に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドを架橋することによって得られる、直接的に得られる、又は得ることが可能な、加硫ゴムコンパウンド。
【請求項16】
請求項1から13のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドを製造するための方法であって、以下の工程:
(i)動的イミン結合を組み込んでいて、配合及び/又は加硫中にジエンゴムマトリックスとの連結を形成することができるカップリング剤の付加により、シリカ充填剤を表面改質する工程、
(ii)得られた表面改質シリカ充填剤をジエンゴムマトリックスと配合することにより、加硫可能であるゴム組成物を提供する工程、及び
(iii)前記加硫可能であるゴム組成物を加硫に供する工程
を含む、方法。
【請求項17】
請求項1から13のいずれか1項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドを製造するための方法であって、以下の工程:
(i)シリカ充填剤を、ジエンゴムマトリックスに、前記シリカ充填剤との反応ができる1つ以上の化合物と一緒に加えて、動的イミン結合を組み込んでいて、配合及び/又は加硫中に前記ジエンマトリックスとの連結を形成することができるカップリング剤が付加された表面改質シリカ充填剤を提供する工程、
(ii)得られた組成物を配合することにより、前記表面改質シリカ充填剤を含む加硫可能であるゴム組成物を提供する工程、及び
(iii)前記加硫可能であるゴム組成物を加硫に供する工程
を含む、方法。
【請求項18】
請求項16又は請求項17に記載の方法によって得られる、直接的に得られる、又は得ることが可能な、ジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項19】
請求項1から15及び18のいずれか1項に記載のコンパウンドから作られた、車両用タイヤ部品。
【請求項20】
請求項19に記載の車両用タイヤ部品を含む、車両用タイヤ。
【請求項21】
ジエンゴムとの可逆的な連結を形成することができるカップリング剤の付加により表面改質されており、前記カップリング剤は、動的イミン結合を組み込んでいる、シリカ充填剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル可能なジエンゴムコンパウンド、その製造方法、並びに車両用タイヤ及び車両用タイヤ部品の製造におけるそれらの使用に関する。特に、本発明は、タイヤトレッドを製造するための前記コンパウンドの使用に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、シリカ充填剤とジエンゴムとの間の可逆的な相互作用が動的イミン結合によりもたらされた、シリカで補強されたジエンゴムコンパウンドに関する。この可逆的な相互作用により、ゴムコンパウンドの機械的特性が向上すると同時に、ゴムコンパウンドのリサイクル性が有利に向上する。
【背景技術】
【0003】
天然ゴム、イソプレンゴム及びブタジエンゴム等のジエンゴムは、共役した炭素-炭素二重結合を有するジオレフィンに由来する繰り返し単位を含む。合成ジエンゴムの特性は、ジオレフィンモノマーと他のモノマーとの共重合により特別に調整することができ、それらは、幅広い用途に使用されている。
【0004】
スチレン-ブタジエンゴム(本明細書では「SBR」と呼ぶ。)は、スチレンとブタジエンとの重合によって製造されるブタジエンゴムの一例である。スチレンとブタジエンの比率はポリマーの特性に影響を与え、さまざまなタイプのSBRが自動車産業、特にタイヤトレッド等の自動車タイヤの部品として使用されている。タイヤトレッドの製造に使用される場合、SBRは通常、硫黄加硫システムを使用して架橋される。シリカ及びカーボンブラック等のさまざまな補強充填剤を使用することで、その機械的特性は向上する。カーボンブラックは、充填剤として一般的に使用される第一の材料であったが、最近ではシリカが、SBRベースのコンパウンドにおける従来のカーボンブラックの使用に大きく取って代わってきた。シリカ充填剤の使用は、特に湿潤表面での転がり抵抗の低減及びトラクションの向上等、ゴム特性を改善する。ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)及びエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)を含む他のジエンゴムも、自動車産業における部品の製造に一般的に使用されている。SBRベースのコンパウンドと同様に、任意のジエンゴムから作られたゴムコンパウンドの機械的特性も、シリカ等の補強充填剤を配合することによって同じように改善され得る。
【0005】
要求される機械的特性を備えた高性能のゴムコンパウンドを製造する場合、補強充填剤の分散及び充填剤-ゴムの相互作用が重要となる。シリカの表面に極性シラノール基が存在すると、シリカが酸性になり、吸湿性が高くなる。これによってシリカの凝集が起こり、ひいてはゴムマトリックス中での分散が悪くなって、コンパウンドの粘度の増大及び補強特性の損失を引き起こす。表面改質剤又は「相溶剤」としてのシランの使用等、シリカの様々な処理が、シリカの表面化学を調整するために提案されている。ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPT)及びビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)等のシランカップリング剤も、シリカとジエンゴム鎖、例えば、SBRの鎖との間に共有結合を形成するために使用される。これらは、ジエンゴムマトリックス中の充填剤の分散性を改善し、シリカとゴムとの間の相互作用を強化してゴムコンパウンドを補強する。
【0006】
車両用タイヤは、タイヤトレッド等の一般的な磨耗及び劣化により寿命が限られており、廃棄物として重大な問題を引き起こし得る。それらは、埋め立て地の貴重なスペースを占有しており、通常は生分解しない。したがって、タイヤの製造に使用されるゴムコンパウンドの持続可能性を改善する必要性が常に存在する。そのような材料をリサイクルし、他の新しい原料と混合可能な第二の原料として使用する能力は、多くの研究の対象となっている。リサイクルが最も難しい種類のタイヤ材料の一つは、SBR-シリカ等のシリカを充填したジエンゴムである。シランカップリング剤によって形成されるゴム鎖とシリカ充填剤との間の強い共有結合が存在するためである。そのような材料をリサイクルするには、その共有結合を切断する必要がある。共有結合が残っていると、流動性や相溶性を阻害し、リサイクル材料が他の新しいポリマーと混合されるときに共架橋する可能性があるからである。そのため、リサイクルが困難かつ一般的には不経済になる。
【0007】
SBR-シリカコンパウンド等のシリカで補強された従来のジエンゴムには、2種類の共有結合が存在する。一つは、ゴムを硬化するために用いられる加硫システムから生じる硫黄架橋である。もう一つは、上記のようなシランカップリング剤を使用したことによる、ジエンゴム鎖とシリカとの間の共有結合である。共有結合を切断するには多大なエネルギーを必要とするため、これらの共有結合性の相互作用により、SBR-シリカコンパウンド等のゴムの原料としての再利用がひどく制限される。
【0008】
それゆえに、SBR-シリカコンパウンド等のシリカ含有ジエンゴムコンパウンドは乗用車用タイヤの製造に使用することが好まれるようになってはいるが、リサイクル性を向上させながら、タイヤの性能特性を維持又は向上するゴムコンパウンドを提供可能な、シリカ充填剤とジエンゴムを結合させる別の方法が求められている。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らはここで、シリカ充填剤が動的イミン結合を介してジエンゴムに結合している、シリカ含有ジエンゴムコンパウンド用の可逆的結合システムを提案する。この結合システムは、従来のジエンゴム-シリカコンパウンドの共有結合性シランカップリングを効果的に置換することができ、それにより、所望の機械的特性を維持しながら該コンパウンドをより容易にリサイクルできることが提案される。
【0010】
具体的に、本発明者らは、シリカの表面及びジエンゴムのポリマー鎖の両方に付加される、骨格に動的イミン結合を含むカップリング剤を介した、シリカ充填剤とジエンゴムのポリマー鎖との結合を提案する。この動的イミン結合は、「可逆的な」共有結合である。つまり、それは、解体及び再組立てすることができるため、シリカとジエンゴム鎖の間の結合に所望の可逆性をもたらす。これは、ジエンゴムコンパウンドのリサイクル及び再処理に役に立つ。理論に拘束されるものではないが、イミン結合の動的性質は、使用中におけるゴムコンパウンドへの機械的損傷の結果としてそれが「切断」された場合でも、効果的に「再接続」できると考えられる。ゴムコンパウンド中の微小な亀裂又は微小な裂け目から生じ得る結合の破壊は、このようにして、外部刺激を必要とせずに再組立てされることができ、コンパウンドの望ましい機械的特性が自動的に回復する。再組立てのための正確な温度条件は、動的イミン結合を形成する成分の化学的構造によって異なる。いくつかの場合において、再組立ては、常温で生じることがある。結合を再組立てするためにより高い温度が必要な場合において、これらは通常、使用条件中に生じると予想される。例えば、転がり中のタイヤトレッドの温度上昇は、ゴムコンパウンドの再組立て性能を助ける可能性がある。
【0011】
シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスへの分散に先立って、その表面にカップリング剤を付加することによって「事前改質」(すなわち、事前調製)することができる。カップリング剤は、動的イミン結合と、配合及び/又は加硫中にジエンゴムのポリマー鎖に直接的又は間接的に結合して可逆的結合システムを形成することが可能な機能部分と、を組み込んでいる。あるいは、ゴムコンパウンドを製造するための配合及び/又は加硫処理の一部として、結合システムを完全にin situで形成されてもよい。in situでの可逆的結合システムの形成には、in situでのシリカ充填剤の表面改質及びジエンゴム鎖へのその連結が含まれる。
【0012】
動的共有結合は、可逆的に組立て及び解体することができる共有結合である。すなわち、動的共有結合は、可逆的な化学結合を提供する。アルデヒドと第一級アミンとの間で形成する動的イミン結合は、アルデヒド、アミン及びイミンの間に動的平衡が存在する動的共有結合の一例である。動的イミン結合から形成された架橋ネットワークは高温で自己修復でき、ホットプレスによりリサイクルできるシリコンエラストマーが提案されている(例えば、Zhao et al., Molecules, 2020, 25, 597 and Feng et al., Ind. Eng. Chem. Res., 2019, 58, 1212-1221)。現在まで、この種の結合が、他の成分が動的イミン結合の自己修復特性を妨げる可能性がある複合材料に使用できるという示唆はない。
【0013】
本発明者らは、車両用タイヤ及び車両用タイヤ部品の製造に使用されるゴムコンパウンドのリサイクル性を改善するための、シリカ充填剤とジエンゴムマトリックスとの間の可逆的な相互作用を導入する動的イミン結合の使用を提案する。彼らは、予想に反して、そのようなゴムコンパウンドに含まれる他の成分が、イミン結合の動的性質とその解体及び再組立ての能力に悪影響を与えないことを見出した。実際、驚くべきことに、本発明者らは、動的イミン結合を介したシリカとジエンゴムの結合が、従来のシランカップリング剤を使用したタイヤの製造に使用される公知のものと比較して、ジエンゴムコンパウンドの特定の機械的特性を改善することを見出した。特に、ゴムコンパウンドの引張強度は、二官能性シランカップリング剤TESPDを使用したゴムコンパウンドと比較して改善される。
【0014】
したがって、本発明は、ゴム製品の主要な性能特性を保持及び/又は改善するだけでなく、リサイクル性を高める結合システムを提供することにより、既知のゴム-シリカコンパウンドに関する問題を解決する。
【0015】
したがって、一態様において、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム-シリカコンパウンドであって、前記シリカ充填剤は、動的イミン結合を介して前記ジエンゴムマトリックスと可逆的に結合する、ジエンゴム-シリカコンパウンドを提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドの製造方法であって、動的イミン結合を介してシリカ充填剤をジエンゴムマトリックスに結合させることを含む方法を提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含む加硫可能であるゴム組成物であって、前記シリカ充填剤が、動的イミン結合を介して前記ジエンゴムマトリックスに可逆的に結合している、ゴム組成物を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の加硫可能であるゴム組成物を架橋することによって得られる、直接的に得られる、又は得ることが可能な、加硫ゴムコンパウンドを提供する。
【0019】
別の態様において、本発明は、動的イミン結合を介して前記ジエンゴムマトリックスと可逆的に結合しているシリカ分散剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含む加硫ジエンゴム-シリカコンパウンドの製造方法であって、以下の工程:
(i)動的イミン結合を組み込んでいて、配合及び/又は加硫中にジエンゴムマトリックスとの結合を形成することができるカップリング剤の付加により、シリカ充填剤を表面改質する工程、
(ii)得られた表面改質シリカ充填剤をジエンゴムマトリックスと配合することにより、加硫可能であるゴム組成物を提供する工程、及び
(iii)前記加硫可能であるゴム組成物を加硫に供する工程
を含む、方法を提供する。
【0020】
別の態様において、本発明は、動的イミン結合を介して前記ジエンゴムマトリックスと可逆的に結合しているシリカ分散剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含む加硫ジエンゴム-シリカコンパウンドの製造方法であって、以下の工程:
(i)シリカ充填剤を、ジエンゴムマトリックスに、前記シリカ充填剤との反応ができる1つ以上の化合物と一緒に加えて、動的イミン結合を組み込んでいて、配合及び/又は加硫中に前記ジエンマトリックスとの結合を形成することができるカップリング剤が付加された表面改質シリカ充填剤を提供する工程、
(ii)得られた組成物を配合することにより、前記表面改質シリカ充填剤を含む加硫可能であるゴム組成物を提供する工程、及び
(iii)前記加硫可能であるゴム組成物を加硫に供する工程
を含む、方法を提供する。
【0021】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の方法によって得られる、直接的に得られる、又は得ることが可能な、加硫ジエンゴム-シリカコンパウンドを提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、車両用タイヤの部品として、又は車両用タイヤの部品の製造における、本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドの使用を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドから作られた車両用タイヤ部品を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の車両用タイヤ部品を含む、車両用タイヤを提供する。
【0025】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドをリサイクルする方法であって、前記コンパウンドを脱硫する工程と、任意に、ジエンゴムを回収する工程とを含む、方法を提供する。
【0026】
別の態様において、本発明は、ジエンゴムとの結合を形成することができるカップリング剤の付加により表面改質されており、前記カップリング剤は、動的イミン結合を組み込んでいる、シリカ充填剤を提供する。
【0027】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の表面改質シリカ充填剤の製造方法であって、ジエンゴムとの結合を形成することができるカップリング剤の付加によりシリカを化学的に改質する工程を含み、前記カップリング剤は、動的イミンを組み込んでいる、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
一態様において、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム-シリカコンパウンドであって、前記シリカ充填剤は、動的イミン結合を介して前記ジエンゴムマトリックスと可逆的に結合する、ジエンゴム-シリカコンパウンドに関する。
【0029】
特に明記しない限り、「ゴムコンパウンド」及び「ゴム組成物」という用語は、本明細書では互換可能に使用され、様々な成分又は材料とブレンド又は混合(すなわち、配合)されたゴムを指す。「ジエンゴム-シリカコンパウンド」とは、シリカ充填剤が混合されたジエンゴムを指す。
【0030】
本発明は、生の状態(すなわち、硬化又は加硫の前)及び硬化又は加硫した状態、すなわち、架橋又は加硫の後の両方のジエンゴムコンパウンド及びジエンゴム組成物に関する。
【0031】
本明細書で使用される「ジエンゴム」という用語は、少なくとも一つの共役ジオレフィンモノマーから誘導される繰り返し単位を含むゴムを指す。これは、ホモポリマーと、ジオレフィンモノマーと共重合可能なモノマーから誘導される1つ以上の追加単位を有するコポリマーと、を含む。繰り返し単位は、ポリマーの骨格及び/又は側鎖に存在し得る炭素-炭素二重結合を有する。ジエンゴムは、天然ゴム又は合成ゴムであってもよい。ジエンゴムの非限定的な例としては、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロピレンゴム(CR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)及びエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
【0032】
一実施形態において、本発明で使用するためのジエンゴムは、ブタジエンから誘導される繰り返し単位を含む。このようなゴムの例としては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)が挙げられるが、これらに限定されない。一連の実施形態において、本発明で使用するジエンゴムは、SBRである。
【0033】
本明細書で使用される「動的イミン結合」という用語は、水の存在下、対応するアルデヒド及び第一級アミンと平衡状態にあるイミン結合(-N=CH-)を指す。理解されるように、アルデヒド及び第一級アミンの性質、ひいては得られるイミン結合における隣接する基の化学的構造は、その動的性質に影響を与えることになる。本発明では、任意の公知の動的イミン結合が使用され得ることが想定されるが、これは通常、芳香族アルデヒド又は複素芳香族アルデヒドと第一級アミンとの反応によって形成される。例えば、それは、任意に置換されたベンズアルデヒドと第一級アミンとの反応によって、又は任意に置換されたピリジンカルボキシアルデヒドと第一級アミンとの反応によって、形成され得る。得られるイミン結合は、例えば、構造-N=CH-X-(Xは、任意に置換されたアリーレン基又はヘテロアリーレン基である)を有し得る「動的イミン基」の一部を形成する。
【0034】
イミン基の動的性質は、イミン基が第一級アミン及びベンズアルデヒドと平衡状態にある以下の非限定的な反応スキームによって説明できる。
【化1】
【0035】
本発明では、動的イミン結合が、シリカ充填剤をジエンゴムマトリックスのポリマー鎖に連結させるのに役に立つ結合システムの一部を形成することが提案される。具体的に、それは、その動的性質により望ましい可逆的な相互作用がもたらされてジエンゴム-シリカコンパウンドのリサイクル性が向上するように、カップリング剤の骨格の構成要素を形成する。理解されるように、本明細書で定義された「動的イミン基」は、結合システムの一部も形成する。
【0036】
本明細書に記載のゴムコンパウンド中のシリカとジエンゴムマトリックスとの間の主な相互作用は、動的イミン結合によってもたらされる可逆的な相互作用であることが意図される。しかしながら、シリカとジエンゴムとの間には、他の共有結合性及び非共有結合性の相互作用を含む他の相互作用が存在していてもよい。しかしながら、ゴムコンパウンドのリサイクル可能性という望ましい目的を達成するため、非可逆的である任意の追加の共有結合性相互作用の存在は、最小限に抑えられるべきである。一実施形態において、二官能性シラン等の従来のカップリング剤の存在から生じるような、シリカとジエンゴム鎖の間の非可逆的な共有結合性相互作用は、実質的に存在しない。「実質的に存在しない」とは、シリカとジエンゴム鎖との間のそのような非可逆的な共有結合の程度が、ジエンゴム1mol当たりの共有結合が1mol未満、好ましくは1mol当たり0.5mol未満、例えば1mol当たり0.3mol未満であることを意味する。ゴムコンパウンドは、非可逆的な相互作用を介してシリカをジエンゴムに共有結合させるカップリング剤を実質的に含まない(例えば、含まない)ことが理解され得る。シリカとジエンゴム鎖との間に存在し得る他の可逆的な非共有性相互作用としては、静電気、ファンデルワールス力、水素結合、疎水効果のいずれか及びそれらの組み合わせが挙げられる。しかしながら、一実施形態においては、唯一の相互作用が、本明細書に記載の動的イミン結合(又は動的イミン基)を組み込んだ結合部分を介したものとなる。
【0037】
本明細書で使用される「シリカ充填剤」という用語は、粒子状のシリカを指す。ジエンゴムマトリックスを補強できる任意の既知の種類の粒子状シリカを、本発明に使用することができる。理解されるように、既知のシリカ材料は通常、一部の他の成分を(例えば不純物として)含むが、主成分は二酸化ケイ素、すなわちSiOである。二酸化ケイ素の含有量は、一般に少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、例えば少なくとも97重量%である。
【0038】
本発明で使用するシリカ材料は当技術分野で周知であり、特に、沈降シリカ(シリカの非晶質形態)、熱分解(ヒュームド)シリカ、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム及びケイ酸アルミニウムを含む。シリカは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。シリカは、離散粒子の形態、すなわち分散性の高い顆粒として使用される。シリカは、サイズが単分散であり、また形状が均一であってもよい。あるいは、シリカは、分岐状又は直鎖状のクラスターの形態で提供されてもよい。トレッドコンパウンドに対する優れた転がり抵抗及び湿潤時のトラクションを付与する能力を考慮すると、沈降シリカが好適である。本発明で使用するためのシリカは、50~350cm/g、好ましくは80~280cm/g、例えば120~230cm/gの範囲の比表面積(例えば、窒素比吸収表面積)を有し得る。シリカの平均粒子サイズは、約5nm~約50nm、好ましくは約8nm~約35nm、例えば約10nm~約28nmの範囲であり得る。本発明で使用する市販グレードのシリカは、Evonik(ドイツ)等の供給業者から広く入手可能であり、例えば、Ultrasil(登録商標)7000GR及びUltrasil(登録商標)VN3が挙げられる。
【0039】
本発明で使用するシリカは、動的イミン結合を介して、ジエンゴムマトリックスに可逆的に結合する。動的イミン結合を組み込んだカップリング剤は、シリカ表面とジエンゴムのポリマー鎖とへの結合を形成し、それによってこれらの部分を連結する役割を果たす。本明細書に記載されるように、シリカは、動的イミン結合を組み込むカップリング剤への連結によって「事前改質」されてもよく、in situで改質されてもよい。「連結」によって、とは、シリカが、少なくとも1種類の誘引的である化学的又は物理的な相互作用によって、カップリング剤に付加されることを意味する。一実施形態において、シリカは、カップリング剤に化学的に結合している。例えば、シリカは、共有結合又は非共有結合(例えば、水素結合又は静電結合)を介して化学的に結合することができる。あるいは、シリカは、物理的相互作用、例えば、ファンデルワールス力、双極子-双極子相互作用、双極子誘起双極子相互作用、可逆的クリック結合又は疎水効果によって、カップリング剤に付加されてもよい。通常、シリカは、カップリング剤に共有結合する。
【0040】
カップリング剤は、ジエンゴムのポリマー鎖に連結することもできる。ジエンゴムへの連結は、直接的であってもよいし、例えば、硫化物架橋のような架橋を介するなど間接的であってもよい。通常、カップリング剤は、ジエンゴムと反応して、化学結合、典型的には共有結合を形成することができる。好都合なことに、ジエン系ゴムマトリックスへのカップリング剤の共有結合は、ゴムの配合中、例えば、ゴム成分の高温混合中、及び/又は加硫工程中に行うことができる。加硫中に結合が生じる場合、カップリング剤は、硫黄と反応して、ジエンゴムマトリックスのポリマー鎖に硫化物架橋を形成し得る。
【0041】
一実施形態において、シリカは、カップリング剤を担持するように事前改質される。この実施形態において、シリカは、本明細書に記載される少なくとも一つのカップリング剤との連結によって表面改質される。シリカは、このようにして表面改質され、複数のカップリング剤を担持させることができる。2つ以上のカップリング剤が存在する場合、これらは同じであっても異なっていてもよい。しかしながら、典型的には、複数のカップリング剤が存在する場合、これらは同じ化学物質である。
【0042】
いくつかの実施形態において、シリカ表面は、1つ以上の追加の官能基の付加によって改質されてもよい。このような官能基は、本質的に非極性であっても極性であってもよく、当業者により適切な基を容易に選択することができる。シリカは、例えば、配合時における充填剤間の相互作用を減少させ、ゴムマトリックス中での分散性を改善するために、表面処理されてもよい。この目的に適した相溶化剤(「被覆剤」としても知られる。)は、当技術分野で周知であり、限定されないが、ヘキサデシルトリメトキシシラン又はプロピルトリエトキシシラン等の単官能性シランが挙げられる。シリカ粒子の表面に付加され得る他の非極性種としては、芳香族基及び飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。いくつかの実施形態において、シリカ表面は、アミン又はカルボキシル基を含むような1つ又は複数の極性官能基で官能化されてもよい。
【0043】
一実施形態において、本発明で使用するシリカは、本明細書に記載の1つ以上のカップリング剤で改質されるだけであり、すなわち、他の種類の官能基はその表面に結合しない。
【0044】
シリカ表面に付加する各カップリング剤は、本明細書に記載の少なくとも1つの動的イミン結合を含み得る。各カップリング剤は、2つ以上の動的イミン結合、例えば2つ又は3つのかかる結合を含んでいてもよい。理解されるように、各動的イミン結合は、本明細書で定義される「動的イミン基」の一部を形成し、イミン結合の必要な可逆的性質を提供する。
【0045】
カップリング剤中に複数の動的イミン結合が存在する場合、これらはそれぞれ同じ又は異なる動的イミン基の形態で提供されてもよい。複数の動的イミン結合は、複数の一級アミン基(例えば、2つ又は3つの一級アミン基)を、それぞれがアルデヒド基を有する複数のアリール基及び/又はヘテロアリール基に結合することによって形成され得る。この場合において、カップリング剤中に存在する各アリール基及び/又はヘテロアリール基は、同一であっても異なってもよい。他の場合においては、複数の動的イミン結合が、2つ以上の第一級アミン基(例えば、2つ又は3つの第一級アミン基)と、動的イミン結合を形成することができる2つ以上(例えば、2つ又は3つ)のアルデヒド基を有する単一のアリール基又はヘテロアリール基との間で形成されてもよい。
【0046】
一実施形態において、本発明で使用するシリカは、明細書で定義される単一の動的イミン基の一部である単一の動的イミン結合を含む。
【0047】
本発明では、少なくとも1つの動的イミン結合を組み込んだ広範なカップリング剤が使用され得ることが想定される。カップリング剤の詳細な性質は、該カップリング剤がシリカ充填剤に結合(例えば、共有結合)し、ジエンゴムマトリックスに(直接的又は間接的に)結合できる限り、重要ではない。理解されるように、カップリング剤は、ゴムコンパウンドの性能に影響を与えるいかなる成分、例えば、ジエンゴムマトリックスと悪影響を及ぼす可能性のある基を含むべきではない。適切なカップリング剤は、その意図された機能を念頭に置いて、当業者によって容易に決定することができる。
【0048】
カップリング剤は、シリカ表面に付加されている。一実施形態において、それは、少なくとも1つの共有結合を介してシリカ表面に付加される。すなわち、それは、共有結合される。一実施形態において、カップリング剤は、2つ以上の共有結合によって、例えば、2つの共有結合によって付加されてもよい。しかしながら、通常は、単一の共有結合によって付加される。複数のシラノール基を有するシリカの表面の性質によって、カップリング剤は通常、シロキサン結合を介してシリカに結合する。
【0049】
典型的には、カップリング剤は、16個までの原子、好ましくは12個までの原子を含む骨格を有する有機基であり、本明細書に記載の動的イミン結合を組み込んでいる。カップリング剤は、例えば、16個までの炭素原子、例えば、12個までの炭素原子を含んでもよい。カップリング剤は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、また、1つ以上の置換基を有してもよい。典型的には、カップリング剤は、直鎖状であってもよい。
【0050】
例えば、カップリング剤は、式(I):
【化2】
[式中、
*は、シリカ表面へのカップリング剤の付加点を示し、
環Bは、芳香族基又は複素芳香族基であり、
は、有機連結基であり、
は、単結合又は有機連結基のいずれかであり、
は、前記ジエンゴムマトリックスとの結合を形成することができる官能基であり、
各Rは、それぞれ独立して、
1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル、例えば、-CH)、
1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ、例えば、-OCH)、
ハロゲン(例えば、F、Cl、Br又はI)、及び
式-L-Rの基
から選択され、
nは、0から4、好ましくは0から2の整数、例えば0又は1である。]に従った構造を有してもよい。
【0051】
式(I)の一実施形態において、環Bは、芳香族基であってもよい。例えば、環Bは、フェニル環であってもよい。カップリング剤は、例えば、式(II):
【化3】
[式中、*、L、L、R、R及びnは、本明細書で定義されているとおりである。]に従った構造を有してもよい。
【0052】
式(I)の別の実施形態において、環Bは、複素芳香族基であってもよい。例えば、環Bは、5員又は6員の複素芳香族基であってもよい。好適な複素芳香族基は、1つ以上の酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含むことができる。少なくとも1つの窒素原子を含むものが、通常は好ましく、2-ピリジル等のピリジン環を含む。
【0053】
式(I)及び式(II)の一実施形態において、各Rは、それぞれ独立して、C1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル、例えば、-CH)、C1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ、例えば、-OCH)及び式-L-Rの基から選択される。別の実施形態において、各Rは、それぞれ独立して、C1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル、例えば、-CH)及びC1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ、例えば、-OCH)から選択される。
【0054】
式(I)及び式(II)の一実施形態において、nは0である。理解されるように、nが0である場合、Rは存在しない。
【0055】
有機連結基L及びLの詳細な性質は、重要ではなく、適切な基は、当業者によって容易に決定することができる。
【0056】
典型的には、連結基Lは、14個までの原子、好ましくは12個までの原子、例えば2~8個の原子を含む骨格を有する有機基である。それは、例えば、12個までの炭素原子、例えば、2~8個の炭素原子を含み得る。連結基Lは直鎖状でも分岐鎖状でもよく、一つ以上の置換基を有していてもよい。連結基Lは、例えば、式(III):
【化4】
[式中、
各Rは、それぞれ独立して、-OH、C1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ)及びC1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル)から選択され、
Zは、任意に置換されていてもよいC1-12アルキレン基であり、該C1-12アルキレン基は、-O-、-SiR'2-(各R'は、それぞれ独立して、-OH、C1-6アルコキシ又はC1-6アルキルである。)、-PR''-、-NR''-及び-OP(O)(OR'')O-(R''は、H又はC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチルである。)から選択される1つ又は2つ以上の基により中断されていてもよい。]の基で表される。
【0057】
一連の実施形態において、式(III)中の各Rは、それぞれ独立して、-OH、C1-3アルコキシ及びC1-3アルキルから選択される。例えば、各Rは、それぞれ独立して、-OH、C1-2アルコキシ(例えば、-OCH)及びC1-2アルキル(例えば、-CH)から選択される。典型的には、全てのR基は、-OHであってもよい。
【0058】
一連の実施形態において、式(III)中の基Zは、任意に置換されていてもよいC1-12アルキレン基、好ましくはC1-8アルキレン基、例えば、C1-6アルキレン基又はC1-3アルキレン基であってもよい。任意の置換基としては、例えば、-OH及び-NR''(各R''は、それぞれ独立して、H又はC1-6アルキル、好ましくはHである。)が挙げられる。一連の実施形態において、式(III)中の基Zは、無置換である。
【0059】
一連の実施形態において、式(I)又は式(II)中のLは、単結合、すなわち、直接的な共有結合である。Lが、単結合である場合、官能基Rは、環B、例えば、フェニル環に直接結合する。
【0060】
他の実施形態において、式(I)又は式(II)中の連結基Lは、14個までの原子、好ましくは12個までの原子、例えば、2~8個の原子を含む骨格を有する有機基であってもよい。それは、例えば、12個までの炭素原子、例えば、2~8個の炭素原子を含んでいてもよい。連結基Lは、直鎖状又は分岐鎖状であってもよく、1つ以上の置換基を有していてもよい。典型的には、連結基Lは、直鎖状であってもよい。Lは、例えば、任意に置換されていてもよいC1-12アルキレン基、好ましくはC1-6アルキレン基、例えばC1-3アルキレン基であってもよく、1つ以上の炭素原子で中断されていてもよい。一実施形態において、Lは、式-O-CH-の基であってもよい。
【0061】
式(I)又は式(II)中、Rは、ジエンゴムのポリマー鎖と共有結合を形成することができる官能基である。共有結合は、直接的(すなわち、直接的な共有結合を介して)であってもよく、又は間接的、すなわち、官能基をジエンゴムのポリマー鎖に共有結合させるクロスリンカー又は架橋剤を介していてもよい。一実施形態において、Rは、ジエンゴムの少なくとも1つの不飽和(すなわち、オレフィン)成分と共有結合を形成することができる官能基である。別の実施形態において、Rは、ジエンゴム中に存在する官能基と共有結合を形成することができる官能基であってもよい。
特定の実施形態において、Rは、配合中、例えば、ゴムコンパウンドを製造するためにゴム成分を高温混合中に、ジエンゴムのポリマー鎖又ジエンゴム中に存在する官能基と直接的に反応できる官能基である。例えば、Rは、配合中にジエンゴム中の少なくとも1つの-C=C-結合と直接反応することができる官能基であってもよい。他の実施形態において、Rは、例えば、加硫中に硫黄存在下で、ジエンゴムのポリマー鎖又はジエンゴム中に存在する官能基と間接的に反応することができる官能基である。Rは、例えば、ジエンゴム中の少なくとも1つの-C=C-結合との間接的な共有結合を形成することができる官能基であってもよい。適切なR基は、その意図される機能を念頭に置いて、当業者によって容易に決定することができ、従来のカップリング剤中に存在する反応性基等、シリカ充填剤をジエンゴムに結合させるために使用されるカップリング剤で広く使用されている基が含まれる。
【0062】
ジエンゴム中の不飽和炭素-炭素結合と直接反応できる官能基には、さらなる改質を必要とせずに反応できる基や、in situで改質されて所望の反応基を生成する基が含まれる。一実施形態において、官能基Rは、メルカプト基(-SH)又は保護された若しくはブロックされたメルカプト基である。
【0063】
メルカプト基(-SH)は、さらに改質することなくジエンゴム中の-C=C-基と直接反応することができ、高温、例えば、ジエンゴムの配合に使用される典型的な温度で反応して、ジエンゴム鎖に硫黄架橋を形成する。保護されたメルカプト基は、当技術分野で周知である。それらは、メルカプト基が「保護」されている、すなわち、メルカプト水素が他の基(保護基)で置き換えられているメルカプト誘導体である。このような基には、保護基がメルカプト基の硫黄に結合しており、配合プロセス中で使用される条件下で開裂してメルカプト基を生成することができる基が含まれる。保護されたメルカプト基の例としては、-SRが挙げられ、ここで、RはC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチル等の短鎖、直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。一実施形態において、官能基Rは、-SCHであってもよい。
【0064】
ブロックされたメルカプトシランカップリング剤は、充填ジエンゴムコンパウンドでの使用が通常知られている。このような剤での使用が知られているブロックされたメルカプト基のいずれも、本発明で使用することができる。このような基は、メルカプト基が「ブロック」されている、すなわち、メルカプト水素原子が別の基(「ブロック基」)で置き換えられているメルカプト誘導体である。このような基には、硫黄に連結したブロック基、例えば、カルボニル、スルホニル、スルフィル、ホスホニル又はホスフィニル基が含まれる。このような基において、メルカプタン基は、ブロック基の存在により最初は非反応性である。すなわち、ブロック基は、ゴムの配合中に官能基がジエンゴムに結合するのを実質的に妨げる。このようにして、混合中のゴムの望ましくない早期硬化及びそれに伴う粘度の望ましくない増加が回避され得る。シリカ充填剤をジエンゴムに結合させるためのゴム混合物の反応が望ましい場合、ブロックされたメルカプト基をブロック解除するために、脱ブロック剤を加えることができる。混合中にアルコール又は水が存在する場合、第三級アミン又はルイス酸等の触媒を使用して、加水分解又はアルコール分解によってブロック基を除去することができる。あるいは、脱ブロック剤は、ブロック基と交換可能な水素原子を含む求核剤であってもよい。このような求核基の例としては、N-H結合を含むアミン、例えば、第一級及び第二級アミン、イミン又はグアニジンが挙げられる。このような成分は、ジエンゴムの製造に使用される硬化システムの成分として広く使用されており、例えば、N,N’-自フェニルグアニジン(DPG)が挙げられる。任意の既知のブロックされたメルカプト基を、本発明で使用するカップリング剤の官能基Rとして使用することができる。ブロックされたメルカプト基の一例は、NXT(商標)シランカップリング剤中に存在する式SC(O)-Cの基である。
【0065】
ジエンゴム中の不飽和炭素-炭素結合と直接反応できる他の官能基には、モノ、ジ又はポリスルフィド基を含む基が含まれる。このような基には、式-(S)-の基が含まれ、式中、xは1~6の整数である。例えば、xは1~4、例えば1,2又は4であってもよい。このような官能基の例としては、-(S)x-R(式中、Rは、C1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチル等の短鎖、直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。)が含まれる。モノ、ジ又はポリスルフィド基は、式(I)又は式(II)の芳香環又は複素芳香環に直接結合していてもよく、あるいはリンカーLを介して結合していてもよい。環に直接結合している場合(すなわち、リンカーが存在しない場合)、通常、スルフィド基は反応性が高くなる。
【0066】
官能化ジエンゴムと反応できる官能基は、ゴムのポリマー鎖に結合した官能基の性質を念頭に置いて当業者によって容易に決定することができる。一実施形態において、Rは、カルボキシル化ジエンゴムと反応できるアミノ基であってもよい。例えば、Rは、第一級アミン又は第二級アミンであってもよい。このような基の例としては、式-NHR(式中、RはH、C1-6アルキル又はアリールである。)のものが含まれる。
【0067】
ジエンゴムに間接的に共有結合できる官能基には、加硫工程中に生成される架橋基を介してジエンゴムのポリマー鎖に結合できる基が含まれる。例えば、そのような基は加硫中に硫黄と反応して、ジエンゴム中の少なくとも1つの-C=C-結合への硫化物架橋を生成することができる。ジエンゴムに対して硫黄化物架橋を形成することができる官能基の例としては、オレフィン性不飽和を含む基、例えば、1つ以上の-C=C-結合を含む基が挙げられる。このような結合は、官能基Rの末端結合又は非末端結合として提供され得る。末端-C=C-結合を含む官能基の例としては、ビニル及びアリルオキシが含まれる。
【0068】
式(I)及び式(II)において、基-L-Rは、芳香環又は複素芳香環状の任意の位置に存在し得る。例えば、環Bがフェニル基である場合、基-L-Rは、イミン結合の付加点を基点にして、オルト、メタ又はパラであってもよい。基-L-Rの性質及び位置に応じて、共鳴及び/又は誘起効果を介してイミン結合の強度に影響を与える可能性があり、したがって、その動的性質、すなわち解体及び再組立ての容易さに影響を与える可能性がある。したがって、フェニル環上のこの基の性質及び位置は、それに応じて選択され得る。環上のその位置は、ジエンゴムとの所望の結合を形成することができる必要性を考慮して、立体的な考慮事項も考慮することができる。立体的な考慮事項を考慮すると、例えば、フェニル環上のパラ位に基-L-Rを配置することが有利である可能性がある。したがって、一連の実施形態において、カップリング剤は、以下の式(IV):
【化5】
[式中、*、L、L、R、R及びnは、本明細書に定義されているとおりである。]の構造によって提供されていてもよい。
【0069】
一実施形態において、カップリング剤は、式(V):
【化6】
[式中、
*は、シリカ表面へのカップリング剤の付加点を示し、
各Rは、それぞれ独立して、-OH、C1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ)及びC1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル)から選択され、
及びRは、本明細書に定義されているとおりである。]の構造を有する。
【0070】
官能基Rが末端-C=CH結合を含む、式(I)、(II)、(IV)又は(V)中の基-L-Rの非限定的な例としては、以下:
【化7】
[ここで、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2である。]が挙げられる。
【0071】
官能基Rがメルカプト基又は保護されたメルカプト基を含む、式(I)、(II)、(IV)又は(V)中の基-L-Rの非限定的な例としては、以下:
【化8】
[ここで、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2である。]が挙げられる。
【0072】
官能基Rがモノ、ジ又はポリスルフィド基を含む、式(I)、(II)、(IV)又は(V)中の基-L-Rの非限定的な例としては、以下:
【化9】
[ここで、
xは、1から6、好ましくは1から4の整数であり、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2である。]が挙げられる。
【0073】
官能基Rがブロックされたメルカプト基を含む、式(I)、(II)、(IV)又は(V)中の基-L-Rの非限定的な例としては、以下:
【化10】
[ここで、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から8、好ましくは1から6、例えば1から4の整数である。]が挙げられる。
【0074】
好ましい実施形態において、式(I)、(II)、(IV)又は(V)における-L-Rは、ビニル(-CH=CH)、アリルオキシ(-O-CH-CH=CH)、チオール(-SH)及びメチルチオール(-SCH)から選択される。より好ましい実施形態において、-L-Rは、ビニル、チオール又はメチルチオールである。
【0075】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、一価の飽和した直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素鎖を指す。それは、置換されていても、置換されていなくてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは、同一であっても異なっていてもよい。
アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチル、neo-ペンチル、n-ヘキシル等が挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基は、好ましくは、1-6個の炭素原子、例えば、1-4個の炭素原子を含む。
【0076】
本明細書で使用される「アルコキシ」という用語は、-O-アルキル基を指し、ここでアルキルは本明細書で定義される通りである。アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ等が挙げられるが、これらに制限されない。特に指定しない限り、任意のアルコキシ基は、1つ以上の位置において適切な置換基によって置換されていてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは、同一であっても異なっていてもよい。
【0077】
本明細書で使用される「アルキレン」という用語は、飽和した直鎖状又は分枝鎖状の二価の炭素鎖を指す。アルキレン基の例としては、メチレン(-CH-)、エチレン(-CHCH-)、プロピレン(-CHCHCH-)等が挙げられるが、これらに限定されない。特に指定しない限り、任意のアルキレン基は、1つ以上の位置において適切な置換基によって置換されていてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは、同一であっても異なっていてもよい。
【0078】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、芳香族炭素環系を包含することを意図する。このような環系は、単環式又は多環式(例えば二環式)であり得、また少なくとも1つの不飽和芳香環を含み得る。これらが多環式環を含む場合、これらは縮合又は架橋されていてもよい。好ましくは、そのような系は、6~20個の炭素原子、好ましくは6~14個の炭素原子、例えば6個又は10個の炭素原子を含有する。このような基の例としては、フェニル、1-ナフチル、及び2-ナフチルが挙げられる。好ましいアリール基はフェニルである。特に明記しない限り、任意の「アリール」基は、同一であっても異なっていてもよい1つ以上の置換基によって置換されていてもよい。
【0079】
本明細書で使用される「ヘテロアリール」という用語は、複素環式芳香族基を包含することを意図する。このような基は、単環式又は二環式であり得、また少なくとも1つの不飽和複素芳香環系を含み得る。これらが単環式である場合、これらは、窒素、酸素及び硫黄から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含有する5又は6員環を含み、かつ芳香族系を形成するのに十分な共役結合を含有する。これらが二環式である場合、これらは、炭素環又はヘテロ環と縮合していてもよく、また9~11個の環原子を含んでいてもよい。ヘテロアリール基の例としては、チオフェン、チエニル、ピリジル、チアゾリル、フリル、ピロリル、トリアゾリル、イミダゾリル、オキサジアゾリル、オキサゾリル、ピラゾリル、イミダゾロニル、オキサゾロニル、チアゾロニル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾフリル、インドリル、イソインドリル、ピリドニル、ピリダジニル、ピリミジニル、イミダゾピリジル、オキサゾピリジル、チアゾロピリジル、イミダゾピリダジニル、オキサゾロピリダジニル、チアゾロピリダジニル及びプリニルが挙げられる。特に明記しない限り、任意の「ヘテロアリール」は、同一であっても異なっていてもよい1つ以上の置換基によって置換されていてもよい。
【0080】
本明細書で使用される「ハロゲン」という用語は、ハロゲン原子、例えば、-F、-Cl、-Br又は-Iを指す。
【0081】
本明細書に記載の基のいずれかが置換されている場合、置換基は同じであっても異なっていてもよく、また、以下、すなわち、C1-3アルキル(例えば、-CH)、C1-3アルコキシ(例えば、-OCH)、及び-NR (式中、各Rは独立してH又はC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えば-CH)のいずれかから選択され得る。
【0082】
本明細書に記載の表面シリカは、当技術分野で知られている方法を使用して製造することができる。使用される正確な方法は、選択されたカップリング剤の性質、例えば結合基(存在する場合)及びジエンゴムとの反応のために選択された官能基の性質に依存するが、当業者であれば容易に選択することができる。カップリング剤のシリカへの結合は、場合によっては、例えば、シリカへの結合を可能にする1つ以上の反応性基を組み込むことによって、例えば、本明細書に記載されるような共有結合又は他の種の結合の形成によって、適切に官能基化されることが必要とされる。
【0083】
本明細書に記載の動的イミン結合は、第一級アミンと適切なアルデヒド、例えば任意に置換されたベンズアルデヒドとの反応によって形成される。典型的に、第一級アミンは、シリカ充填剤、例えばシラン表面への連結を可能にする少なくとも1つの官能基を有する。したがって、改質シリカの製造に使用される第一級アミンは、典型的にはアミノシランである。このような剤の化学的性質はよく知られており、熟練した化学者であれば、それらとシリカの反応に適切な方法を容易に決定することができる。通常、選択された反応条件下では、アミノシランに存在する少なくとも1つの加水分解性基が加水分解されて、シリカの表面にシロキサン結合を形成できる反応性シラノールを形成する。次いで、アミノシランの第一級アミン基を選択したアルデヒドと反応させて、所望の動的イミン結合を形成することができる。
【0084】
表面改質シリカの形成は、例えば、第一級アミンを含む基を最初にシリカの表面に結合(例えば、共有結合)させ、次いで、アミンを、ジエンゴムに結合できる官能基を有する適切なアルデヒド(例えばベンズアルデヒド)と反応させるというように、段階的に行うことができる。あるいは、第一級アミンを含む基を最初にアルデヒドと反応させ、その後、得られた基をシリカに結合(例えば、共有結合)させてもよい。別の実施形態において、表面改質シリカは、すべての反応物が関与する単一の「ワンステップ」反応で形成することができる。反応又は反応の各段階に適した溶媒及び条件は、前記反応物の性質に応じて当業者によって容易に選択することができる。
【0085】
本発明で使用する表面改質シリカの製造方法の非限定的な例を、以下のスキームに示す。:
【化11】
【0086】
スキーム2中、
Aはシリカ粒子を示し、
Yは、-OH又は任意の加水分解基、例えば、C1-6アルコキシであり、
B、R、Z、L、R、R及びnは、本明細書で定義されるとおりである。
【0087】
環Bがフェニル環である場合、本発明で使用する表面改質シリカの製造方法の非限定的な例を、以下のスキームに示す。:
【化12】
【0088】
スキーム3中、
Aはシリカ粒子を示し、
Yは、-OH又は任意の加水分解基、例えば、C1-6アルコキシであり、
R、Z、L、R、R及びnは、本明細書で定義されるとおりである。
【0089】
表面改質シリカを形成するための反応に続いて、グラフト化されていない材料を、適切な溶媒による洗浄又は水中でのソックスレー抽出等の従来の方法を使用して除去してもよい。必要に応じて、残留溶媒を、例えば高温で乾燥することによって除去することができる。表面改質シリカの製造後、FTIR分析を使用して反応の成功を決定することができる。適切な場合には、改質シリカの収率を、熱重量分析(TGA)等の当該技術分野で知られている方法によって決定することができる。
【0090】
上述の方法は、後にジエンゴムマトリックスに組み込んで所望のジエンゴム-シリカコンパウンドを製造するための「事前改質」シリカの製造に関するものである。これらの方法の代替方法は、表面改質されたシリカをin situで製造することである。このような方法では、表面改質シリカを形成するために必要な成分が、配合中にゴムに加えられる。このような実施形態においては、動的イミン結合を含むカップリング剤は、ゴムマトリックス及びシリカに加えられる前に、事前に合成されてもよい。しかしながら、有利には、所望のカップリングシステムをin situで形成するのに必要な全ての反応物が、ジエンゴムマトリックスとシリカとを含む混合物に加えられる。この場合、動的イミン結合は、通常、ゴムの配合中にin situで形成される。しかしながら、動的イミン結合は、加硫のプロセス中に形成されてもよい。
【0091】
本明細書に記載の表面改質シリカ及びその製造方法は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0092】
したがって、別の態様において、本発明は、ジエンゴムへの連結を形成することができるカップリング剤の付加により表面改質されているシリカ充填剤であって、該カップリング剤が動的イミン結合を組み込んでいる該シリカ充填剤を提供する。
【0093】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の表面改質シリカ充填剤の製造方法を提供し、前記方法は、ジエンゴムへの連結を形成することができるカップリング剤の付加によってシリカを化学的に改質するステップを含み、前記カップリング剤は、動的イミン結合を組み込んでいる。
【0094】
本明細書に記載される表面改質シリカは、ジエンゴムマトリックス中で補強充填剤として作用する。「ジエンゴムマトリックス」という用語は、ジエンゴムを含むエラストマーマトリックスを指す。
【0095】
任意の既知のジエンゴムを本発明に使用することができ、当業者であれば、シリカ-ジエンゴムコンパウンドの意図される用途を念頭に置いて適切なゴムを容易に選択することができる。ジエンゴムは、当技術分野で周知であり、天然ゴム及び合成ゴムの両方を含む。このようなゴムの非限定的な例としては、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
【0096】
ジエンゴムは、1つ以上の官能基で修飾することができ、そのような官能化されたジエンゴムのいずれも本発明で使用してよい。ジエンゴムが官能化されている場合、そのポリマー骨格、末端基及び/又は側鎖のいずれかが1つ以上の官能基に結合し得る。これらの官能基は、ポリマー材料の製造中にポリマー材料に組み込まれてもよく、あるいは、その後ポリマー上にグラフトされてもよい。官能基の種類及び位置は、当技術分野で知られているゴムのグレードごとに異なる。官能化ゴムの選択は、本明細書に記載のゴムコンパウンドの使用目的に依存し得る。任意の官能基が本明細書に記載のカップリング剤と反応できる場合、官能化ゴムの使用は、ジエンゴムマトリックスとシリカ充填剤の結合を助けることもできる。官能化ジエンゴムの例としては、1つ以上の反応性基(例えばアルコキシシリル基)及び/又は1つ以上の相互作用基(例えばアミノ基)を担持するものが挙げられる。アミノ基等の相互作用基は、例えば、ゴムマトリックス内で水素結合を形成し得る。一実施形態において、本発明で使用するジエンゴムは、官能化されていない。
【0097】
ジエンゴム、例えばスチレンブタジエンゴムは、ポリマー骨格、ポリマー鎖の末端及び/又は始端、又はポリマー側鎖に付加した官能基を有し、これらが本明細書に記載のカップリング剤を介してシリカ充填剤に化学的に付加することを可能にするものであり、本発明において使用することができる。例えば、これらは、本明細書に記載される構造のいずれかにおいて、官能基Rと直接的又は間接的に反応可能な1つ又は複数の官能基を有し得る。いくつかの実施形態において、本発明で使用するためのジエンゴムは、末端基官能基化ジエンゴム、例えば末端基官能基化スチレンブタジエンゴムである。末端基官能基化ゴムは、当技術分野で周知であり、タイヤトレッド用のゴムコンパウンドの製造での使用が知られているものであればいずれも本発明で使用することができる。一実施形態において、本発明で使用するジエンゴムは、末端カルボキシル基を含む末端基官能化ゴムであってもよい。例えば、それは、末端カルボキシル基を含む末端基官能化スチレンブタジエンゴムを含んでもよい。このような末端カルボキシル基は、例えば、全内容が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2014/173706号に記載されているもの等の末端シラン含有カルボキシル基によって提供され得る。ポリマー骨格及び/又はポリマーの側鎖に結合した官能基を有するジエンゴムも、タイヤトレッドコンパウンドとしての使用が当技術分野で周知であり、本発明においても同様に使用できる。
【0098】
一連の実施形態において、本発明で使用するジエンゴムは、タイヤトレッド等のタイヤ構成要素として使用できるゴムコンパウンドの製造での使用に適したものである。本発明で使用されるジエンゴムは、例えば、官能化又は非官能化スチレンブタジエンゴム(SBR)であってもよい。官能化されていないSBRが、特に好ましい。
【0099】
スチレン-ブタジエンゴムは、当技術分野で周知である。本明細書で使用する「スチレン-ブタジエンゴム」すなわち「SBR」という用語は、通常、スチレン及びブタジエンモノマーの重合によって製造される任意の合成ゴムを指すことを意図している。したがって、それは、任意のスチレン-ブタジエン共重合体を指す。SBRは、タイヤ産業で一般的に使用されており、エマルション、懸濁液、又は溶液中での対応するモノマーの共重合等の周知の方法によって製造することができる。スチレンモノマー及びブタジエンモノマーは、ゴムコンパウンドの用途及び特性に応じて適切な比率で選択され得る。例えば、スチレンは、ゴムタイヤトレッドコンパウンドにおいては、80重量%まで、より典型的には約45重量%までの量で存在し得る(コモノマーの総重量に対する重量%)。ジエン成分は、通常、少なくとも50重量%の量で存在する。トレッドコンパウンドには、使用時の路面との接触のために良好な粘弾性特性が求められるほか、湿潤表面での転がり抵抗及びトラクション等の特性も求められる。このような特性を達成するためのスチレンの適切な量は、タイヤ業界では周知であり、当業者であれば容易に選択することができる。
【0100】
選択されたジエンゴムは、本明細書に記載のコンパウンド中のゴム100部として使用することができ、又はゴム配合用に従来使用されている天然ゴム及び合成ゴムの両方を含む任意のエラストマーもしくはそれらのブレンドとブレンディングしてもよい。異なるジエンゴムのブレンドを使用することもできる。任意のブレンドでの使用に適したゴムは、当業者によく知られており、天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、ブタジエン-イソプレンゴム、ポリブタジエン、ブチルゴム、ネオプレン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、フッ素エラストマー、エチレンアクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンターポリマー(EPDM)、エチレン酢酸ビニル共重合体、エピクロルヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、水素化ニトリルゴム、及び四フッ化エチレン-プロピレンゴムが挙げられる。任意のポリマーブレンドの比率は、必要に応じて、例えばゴムコンパウンドの粘弾性特性に基づいて選択することができる。当業者は、所望の粘弾性特性範囲を提供するためにどのエラストマーが適切であるか、及びそれらの相対量を、容易に決定することができる。
【0101】
好ましい実施形態において、本発明で使用するために選択されるジエンゴムは、SBRである。これは、単独で使用しても、本明細書で言及する他のゴムのいずれかとのブレンドとして使用してもよい。二成分ブレンド及び三成分ブレンドが好ましい。一連の実施形態では、SBRを、ブタジエンゴム及び/又は天然ゴムと組み合わせて使用してもよい。ブタジエンゴムと組み合わせて使用する場合、ブレンド中のSBRの量は、50~90重量%の範囲(ブレンドの総重量に対して)、好ましくは60~80重量%の範囲、例えば約70重量%であってよい。70:30の重量比で存在するSBR:ブタジエンゴムの二成分ブレンドが、特に好ましい。SBR、ブタジエン及び天然ゴムを含む三成分ブレンドも、本発明で使用することができる。このようなブレンドでは、SBRが、通常、主成分を形成し、また、40~80重量%(ブレンドの総重量に対して)、好ましくは50~70重量%、例えば約60重量%の量で存在する。ブタジエン及び天然ゴムの成分はそれぞれ、10~30重量%の範囲(ブレンドの総重量に対して)、例えば、約20重量%の量で存在し得る。例えば、60:20:20の重量比で存在するSBR:ブタジエン:天然ゴムのブレンドを、使用してもよい。
【0102】
SBR等の合成ゴムの市販の販売元として、ドイツのTrinseoが挙げられる。本発明で使用するスチレンブタジエンゴムの非限定的な例としては、Sprintan 4601(Trinseo、ドイツ)がある。
【0103】
シリカは、本発明に係るゴムコンパウンドを提供するために、ジエンゴム、及び所望に応じて他のゴム材料とブレンドすることができる。シリカは、本明細書に記載のカップリング剤を担持するように事前に改質されていてもよく、すなわち「事前改質」されていてもよい。
【0104】
本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドの製造方法は、本発明のさらなる態様を形成する。したがって、別の態様において、本発明は、動的イミン結合を介してシリカ充填剤をジエンゴムマトリックスに可逆的に結合させることを含む、本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドの製造方法を提供する。
【0105】
本明細書に記載のシリカ充填剤がゴムマトリックス中に分散されているジエンゴム-シリカコンパウンドは、例えば、加工助剤、硬化システム、劣化防止剤、顔料、追加の充填剤、充填剤用の相溶化剤、繊維、樹脂等を含む他の成分と配合する等、ゴムコンパウンドの製造において当技術分野で知られている方法を用いて製造することができる。当業者であれば、加硫可能なゴムコンパウンドの組み合わせを容易に選択することができ、所望の特定のゴム製品に応じて、その後の混合及び加硫を行うことができる。
【0106】
例えば、加硫可能な組成物は、本明細書に記載のジエンゴムマトリックス及びシリカ充填剤に加えて、加工助剤(例えば、油)、活性化剤(例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸等)、硫黄又は硫黄供与化合物、促進剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、オゾン防止剤等)、顔料、追加の充填剤、及び相溶化剤を含有し得る。酸化亜鉛及びステアリン酸は、加硫時間を短縮することによる加硫プロセスの活性剤として機能し、また、硬化又は加硫中に形成されるゴムマトリックス内の架橋の長さ及び数に影響を与える。これらの添加剤は、硫黄加硫材料の用途に応じて選択し、また通常の量で使用することができる。
【0107】
ゴムコンパウンドに混合されるシリカの量は、得られるコンパウンドの所望の物理的特性に基づいて選択でき、例えば他の充填剤の存在又は不存在に依存し得る。適切な量は、当業者によって容易に決定することができるが、例えば、約20~約150phr、好ましくは約50~約100phr、例えば約60~約90phrの範囲であり得る(「phr」とは、ゴム100部あたりの部数である)。
【0108】
カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ショートカーボン、ポリアミド、ポリエステル、天然繊維、炭酸カルシウム、粘土、アルミナ、アルミノケイ酸塩等、又はこれらの任意の混合物といった追加の補強充填剤も存在し得る。しかしながら、典型的には、組成物中に存在する唯一の充填剤は、本明細書に記載されるシリカである。
【0109】
加工助剤は、組成物の加工性を改善し、鉱油、植物油、合成油、又はそれらの任意の混合物等の油を含む。これらは、約5~75phr、好ましくは約10~50phrの量で使用され得る。典型的な加工助剤としては、芳香油等の油が挙げられる。このような油の例としては、処理留出芳香族抽出物(TDAE)、残留芳香族抽出物(RAE)、マイルドな抽出物溶媒和物(MES)、及びバイオベースの油糧種子誘導体が挙げられる。
【0110】
酸化亜鉛は、約1~約10phr、好ましくは約2~約5phr、より好ましくは約2~約3phrの量で使用され得る。ステアリン酸は、約1~約5phr、好ましくは約2~約3phrの量で使用され得る。
【0111】
硫黄は、組成物の満足な硬化を達成するのに有効な量で使用され得る。それは、例えば、約1~約10phr、好ましくは約1~約5phr、例えば約1~約3phrの範囲であり得る。
【0112】
促進剤は、約1~約5phr、好ましくは約1~約3phrの量で使用され得る。促進剤としては、チアゾール、ジチオカルバメート、チウラム、グアニジン、及びスルホンアミドが挙げられる。適切な促進剤の例としては、N-ターシャリーブチルベンゾチアジルスルホンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)、ジフェニルグアニジン(DPG)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)及びテトラベンジルチウラムジスルフィド(TBZTD)が挙げられる。
【0113】
相溶化剤は、配合中のシリカ凝集体の形成を低減するために使用され得、約0~約5phr、好ましくは約1~約3phrの量で存在し得る。一実施形態において、追加の相溶化剤は存在しない。シリカとゴムとを組み合わせる際に使用する多くの相溶化剤が知られている。シリカベースの相溶化剤としては、アルキルアルコキシシラン等のシラン、例えばヘキサデシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン及びヘキシルトリメトキシシランが挙げられる。
【0114】
シリカをSBRマトリックスに共有結合させるように機能する他のカップリング剤が存在してもよいが、本明細書に記載の理由により、これらは存在しないことが通常好ましい。もしこれらが存在する場合は、少量で提供すべきである。任意のカップリング剤の適切な量は、その分子量、それが含有する官能基の数、及びその反応性等の要素を念頭に置いて、当業者によって決定することができる。ほとんどのカップリング剤は、シリカの量に基づいて等モル量で使用され得る。カップリング剤としてビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドを使用する場合、これはシリカ80phr当たり約0.6~約4.8phr、好ましくはシリカ80phr当たり1.2~3.2phrの量で提供され得る。カップリング剤の例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPT)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)及び3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン等の二官能性シランが挙げられる。一実施形態において、追加のカップリング剤は存在しない。
【0115】
ゴムコンパウンドは、当技術分野で知られている方法によって製造され得、ゴム、シリカ充填剤、及び本明細書に記載の任意の他の成分を混合(すなわち配合)して、その後の加硫のためのゴムコンパウンドを製造することを含む。
【0116】
成分の混合は、通常、成分が添加される段階で行われる。シリカ充填剤の分散を最適化するには、通常、マルチステップ混合プロセスが好ましく、複数のミキサー、例えば直列に配置された様々なミキサーの使用を伴う場合がある。例えば、タイヤトレッドコンパウンドを混合する場合、混合プロセスには、マスターバッチを製造する最初の混合段階、それに続く1つ以上の追加の非生産的な(non-productive)混合段階、及び最終的に、硬化剤(すなわち、硫黄又は硫黄供与剤及び促進剤)を添加する生産的な(productive)混合段階が含まれていてもよい。使用してもよいミキサーは、当技術分野で周知であり、例えば、接線方向又は噛み合いローターを有するオープンミル又はバンバリー型ミキサーが挙げられる。
【0117】
典型的には、ゴム、シリカ充填剤、加工助剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、劣化防止剤(酸化防止剤、オゾン防止剤等)、顔料、追加の充填剤、相溶化剤、カップリング剤(存在する場合)を混合して、最初のマスターバッチを製造する。この最初のマスターバッチの後に、追加の充填剤及び添加剤を追加する別のマスターバッチが続いたり、又は付加的な成分が追加されない非生産的な混合段階が続いたりする場合がある。ゴム内に成分(充填剤等)をさらに分散させるため、又は混合ゴムコンパウンドの粘度を下げるために、非生産的な混合段階を使用してもよい。
【0118】
混合中、組成物の早期架橋を避けるために、温度は所定のレベル未満に維持される。一般に、温度は150℃未満、好ましくは140℃未満に維持され得る。最初のマスターバッチを製造する際、混合は、例えば約80~約110℃、例えば約100℃の温度で実施され得る。非生産的な混合段階では、温度を例えば約150℃まで、例えば約130℃まで上昇させ得る。シリカ充填剤のin situでの表面改質(例えば、シラン化)が混合手順中に行われる場合、反応が起こるためにはこの範囲の上限の温度を使用することが必要となり得る。同様に、混合中に追加の相溶化剤を添加する場合、これらの相溶化剤がシリカ表面と確実に反応するように、より高い温度で混合を実行する必要があり得る。混合時間は変動し得るが、当業者であれば、混合物の組成及び使用するミキサーの種類に基づいて容易に混合時間を決定することができる。通常、所望の均質な組成物を得るには、少なくとも1分間、好ましくは2~30分間の混合時間で十分である。
【0119】
最終混合段階は、促進剤や劣化防止剤を含む硬化剤の添加を包含する。この混合段階の温度は一般的により低く、例えば約40℃~約60℃の範囲内、例えば約50℃である。この最終混合の後には、成分を加えない非生産的な混合段階がさらに続くこともある。
【0120】
加硫可能なゴムコンパウンドを得るために、最も適切な混合の種類を容易に選択できる。混合速度は容易に決定することができるが、例えば、約20~約100rpm、例えば、約30~約80rpmの範囲、好ましくは、約50rpmの速度であってもよい。
【0121】
シリカをin situで表面改質して動的イミン結合を組み込んだカップリング剤を導入する場合、シリカ表面の改質は、通常、非生産的な混合段階の1つ以上の間に行われる。カップリング剤を形成するために必要な成分(例えば、アミノシラン及び置換ベンズアルデヒド)は、非生産的な混合段階の1つの中に同時に導入することができる。次いで、これらは互いに反応し、またシリカ表面と反応して、所望の表面改質されたシリカ充填剤を形成する。あるいは、反応してカップリング剤を形成する成分は、非生産的な混合と同じ又は異なる段階中に別々に加えられてもよい。例えば、非生産的な混合の第1段階でアミノシランをジエンゴム、未変性シリカ及びプロセスオイルと一緒に添加し、続いて非生産的な混合の第2段階で置換ベンズアルデヒドを酸化亜鉛及びステアリン酸とともに添加してもよい。反応物のこの逐次添加は、アミノシランが最初にシリカの表面と確実に反応し、シリカ表面へのベンズアルデヒドの吸着を回避、また少なくとも最小限に抑えるのに有利となり得る。
【0122】
シリカがin situで表面改質されている本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドの製造は、製造方法の利便性だけでなく、得られたゴムコンパウンドの動的特性への潜在的な影響の観点からも、本発明の好ましい実施形態を表す。場合によっては、最終的なゴムコンパウンドの動的特性の少なくとも一つが、事前改質シリカを使用して製造された同じゴムコンパウンドと比較して改善される可能性がある。
【0123】
加硫可能なゴムコンパウンドは、組成物を硬化させる最終加硫のための未硬化の(いわゆる「グリーン」)タイヤ部品として供給され得る。ゴム成分を架橋するための硬化、及び必要に応じてカップリング剤をジエンゴムに結合するための硬化は、既知の方法によって実行され得る。例えば、タイヤ産業では、未硬化のゴム(いわゆる「グリーンボディ」)が製造され、続いてプレス金型で硬化され、同時にゴム成分が架橋され、成分が最終タイヤに成形される。加硫は、主に硫黄架橋による架橋によってゴムを硬化させる。加硫方法は、既知である。適切な加硫条件は、通常、120~200℃の範囲の温度で5~180分間加熱することを含む。
【0124】
加硫可能なゴム組成物は、本発明のさらなる態様を形成する。したがって、別の態様において、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含む加硫可能なゴム組成物を提供し、前記シリカ充填剤は動的イミン結合を介してジエンゴムマトリックスに可逆的に結合する。
【0125】
本明細書に記載の任意の加硫可能なゴム組成物を架橋することによって得られる、直接的に得られる、又は得ることが可能な、加硫ゴムコンパウンドも、本発明の一部である。
【0126】
加硫ゴムコンパウンドを製造する方法も、本発明の一部を形成する。このような方法には、動的イミン結合を組み込んだカップリング剤を結合させるために、シリカを事前に改質する方法、及び本明細書に記載のシリカをin situで表面改質する方法が含まれる。本明細書に記載の方法のいずれかによって製造された加硫ゴムコンパウンドも、本発明の一部である。
【0127】
したがって、別の態様において、本発明は、動的イミン結合を介して、前記ジエンゴムマトリックスに可逆的に結合したシリカ充填剤を分散させたジエンゴムマトリックスを含む加硫ジエンゴム-シリカコンパウンドを製造する方法を提供し、前記方法は、以下の工程を含む。:
(i)動的イミン結合を組み込んでいて、配合及び/又は加硫中にジエンゴムマトリックスとの結合を形成することができるカップリング剤の付加により、シリカ充填剤を表面改質する工程、
(ii)得られた表面改質シリカ充填剤をジエンゴムマトリックスと配合することにより、加硫可能であるゴム組成物を提供する工程、及び
(iii)前記加硫可能であるゴム組成物を加硫に供する工程
【0128】
さらに別の態様では、本発明は、動的イミン結合を介して前記ジエンゴムマトリックスに可逆的に結合したシリカ充填剤を分散させたジエンゴムマトリックスを含む加硫ジエンゴム-シリカコンパウンドを製造する方法を提供し、前記方法は以下の工程を含む:
(i)シリカ充填剤を、ジエンゴムマトリックスに、前記シリカ充填剤との反応ができる1つ以上の化合物と一緒に加えて、動的イミン結合を組み込んでいて、配合及び/又は加硫中に前記ジエンマトリックスとの結合を形成することができるカップリング剤が付加された表面改質シリカ充填剤を提供する工程、
(ii)得られた組成物を配合することにより、前記表面改質シリカ充填剤を含む加硫可能であるゴム組成物を提供する工程、及び
(iii)前記加硫可能であるゴム組成物を加硫に供する工程。
【0129】
シリカがin situで表面改質される場合、シリカ充填剤と反応して所望の表面改質シリカ充填剤を提供できる化合物は、当業者であれば、動的イミン結合を組み込む所望のカップリング剤の性質を念頭に置いて、容易に選択することができる。一実施形態において、表面改質シリカは、シリカ充填剤と一般式(VI)及び(VII)の化合物との反応によって、in situで生成され得る:
【化13】
[式中、
Yは、-OH又は任意の加水分解基、例えば、C1-6アルコキシであり、
各Rは、それぞれ独立して、-OH、C1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ)及びC1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル)から選択され、
Zは、任意に置換されていてもよいC1-12アルキレン基であり、該C1-12アルキレン基は、-O-、-SiR'2-(各R'は、それぞれ独立して、-OH、C1-6アルコキシ又はC1-6アルキルである。)、-PR''-、-NR''-及び-OP(O)(OR'')O-(R''は、H又はC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチルである。)から選択される1つ又は2つ以上の基により中断されていてもよく、
環Bは、芳香族基又は複素芳香族基であり、
は、単結合又は有機連結基のいずれかであり、
は、前記ジエンゴムマトリックスとの結合を形成することができる官能基であり、
各Rは、それぞれ独立して、
1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル、例えば、-CH)、
1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ、例えば、-OCH)、
ハロゲン(例えば、F、Cl、Br又はI)、及び
式-L-Rの基
から選択され、
nは、0から4、好ましくは0から2の整数、例えば0又は1である。]
【0130】
式(VI)及び(VII)の化合物を同時にシリカ充填剤と接触させて、in situで表面改質シリカを形成することができる。しかし、有利には、これらは、例えば、ゴム配合プロセスの別々の非生産的な混合段階において、シリカ充填剤と順次接触させることができる。式(VI)の化合物は、例えば、最初にシリカ充填剤と接触させ、続いて式(VII)の化合物と接触させてもよい。このようにして、式(VII)の化合物のシリカ表面への吸着が最小限に抑えられる。
【0131】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に記載の任意の方法によって得られる、直接的に得られる、又は得ることが可能な、加硫ジエンゴム-シリカコンパウンドを提供する。表面改質シリカ充填剤がin situで生成されるプロセスによって得られるこのようなコンパウンドは、本発明の好ましい態様を形成する。
【0132】
本明細書に記載のゴムコンパウンドは、車両用タイヤの製造、特にタイヤトレッド等のタイヤ部品の製造に特に使用される。タイヤトレッドは、あらゆる車両用タイヤに使用され得るが、特に自動車用のタイヤトレッドの製造に使用される。ゴムコンパウンドの他の用途としては、振動ダンパー、サイドウォールゴム、インナーライナーゴム、ビードフィラーゴム、ボディプライゴム、スキムショックゴム、トレッドゴムが挙げられる。
【0133】
したがって、別の態様において、本発明は、車両用タイヤの部品としての、又は車両用タイヤの部品の製造における、本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドの使用を提供する。
【0134】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドから作られたタイヤトレッド等の車両用タイヤ部品を提供する。車両用タイヤ部品を備える車両用タイヤもまた本発明の一部を形成する。
【0135】
タイヤの部品の組み立て及び製造方法は、当技術分野でよく知られている。「グリーン」タイヤの組み立てに続いて、適切な金型内で圧縮成形が行われ、加硫によって最終的なタイヤが製造される。
【0136】
本発明に係るゴムコンパウンドは、ホース及びシールの製造等、タイヤ以外の用途にも使用されてもよい。
【0137】
本発明において、従来の充填剤を化学的に改質されたシリカ充填剤で置き換えることにより、タイヤトレッドゴムコンパウンドとして使用するのに許容できる湿潤時のトラクション及び転がり抵抗のみならず、優れた物理的特性を有するゴムコンパウンドが得られる。タイヤ産業では、硬化したタイヤの特性を予測するために、ゴムコンパウンドの様々な試験が使用される。これら特性としては、以下のものが挙げられる、すなわち、
ペイン効果:
これはフィラーネットワークの範囲を示すものであり、ゴムプロセスアナライザーを使用して測定される。
引張強さ、破断点伸び、補強指数等の機械的特性:
万能試験機Zwick Z05(Zwick、ドイツ)をクロスヘッド速度500mm/minで使用した、ASTM D412規格。
60℃での反発率は、トレッドコンパウンドの転がり抵抗の予測因子である。対象のコンパウンドと比較した場合、60℃での反発率の増加は、転がり抵抗が低いことを示す。反発力は、ISO 8307に従って、Zwick 5109(Zwick、ドイツ)を使用して測定され得る。
硬度、ショアAは、DIN 53505に従って万能硬度試験機(Zwick、ドイツ)を使用して測定され得る。
動的機械的特性:
これらは、Gabo-Netzsch Eplexorを使用して10Hzの周波数で、0℃未満で1%、及び室温で3%の動的ひずみによって測定され得る。0℃における損失係数(タンジェントδ、すなわち、tanδ)は、ウェットトラクションの指標である。対照コンパウンドと比較した場合、0℃でのtanδの増加は、トレッドコンパウンドのウェットトラクションの向上と相関している。60℃におけるtanδは転がり抵抗の指標である。対照コンパウンドと比較した場合、結果の値が低いことは、転がり抵抗が減少していることを示す。
【0138】
本明細書に記載のジエンゴム- シリカコンパウンドは、当技術分野で知られている方法を使用してリサイクルされ得る。リサイクルは、ゴムの脱硫を含む。リサイクル中、ゴムコンパウンドは通常、細かく砕かれた形に切断される。シリカ充填剤とジエンゴム鎖との間に動的イミン結合が存在することにより、ゴムコンパウンドをさらに処理することが可能となり、それによって過酷な処理条件を必要とせずに可逆的な結合を切断できる。例えば、穏やかな化学的、熱物理的、又は生物学的処理等の方法が使用され得る。不純物を除去した後、ゴムは1つ以上の追加のポリマー成分と組み合わせて、新しいポリマー材料に変換され得る。
【0139】
したがって、さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドをリサイクルする方法を提供し、前記方法は、前記コンパウンドを脱硫する工程と、任意にジエンゴムを回収する工程とを含む。
【0140】
リサイクルする方法は、コンパウンドをせん断して細かく砕かれたゴム組成物を形成し、その後、脱硫にかける工程を含み得る。ジエンゴム-シリカコンパウンドのせん断は、粉砕等の任意の既知の方法を使用して達成され得る。細かく粉砕された後、ゴムを再生するために脱硫を実行することができる。脱硫の方法としては、物理的プロセス(例えば、機械的、熱機械的、マイクロ波、及び超音波)、又は化学的プロセス(例えば、ラジカル捕捉剤、求核性添加剤、触媒システム又は化学プローブの使用)が挙げられる。熱脱硫は、180~300℃の温度で実行され得る。熱化学的脱硫は、脱硫助剤(例えば、ジフェニルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジ(2-アミノフェニル)ジスルフィド等のジスルフィド)を使用し、180~300℃の温度を使用することによって達成することができる。
【0141】
回収されたジエンゴムは、元の未使用のジエンゴム及び/又は他の追加のポリマー成分とブレンドして、新しいポリマー材料の製造に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
本発明は、以下の非限定的な実施例及び添付の図面によってさらに説明される。
図1】クリープ試験の手順を示す模式図である。
図2】SSBR/シリカコンパウンドの未硬化ペイン効果の図である。
図3】SSBR/シリカコンパウンドの硬化ペイン効果の図である。
図4】SSBR/シリカコンパウンドの室温における応力-ひずみ曲線の図である。
図5】SSBR/シリカコンパウンドの補強指数の図である。
図6】SSBR/シリカコンパウンドの温度の関数とした損失係数(tanδ)の変化の図である。
図7】SSBR/シリカコンパウンドの100℃における応力-ひずみ曲線の図である。
図8】SSBR/シリカコンパウンドのクリープ試験中のひずみの変化の図である。
【実施例
【0143】
[試験手順]
1.ペイン効果
ペイン効果は、ゴム プロセス アナライザーRPAエリート(TA instruments)を使用し、硬化サンプル及び未硬化サンプルのひずみスイープを0.1%~100%まで、周波数1.6Hz、温度60℃で測定した。硬化サンプルはあらかじめ装置チャンバー内で160℃の加硫条件に従って加硫した。
【0144】
2.弾性率、引張強さ、及び破断点伸び
弾性率、引張強さ(最大ひずみにおける応力)及び破断点伸びは、ASTM D412に従って500mm/分のクロスヘッド速度で操作される万能試験機Zwick Z05(Zwick、ドイツ)を使用して測定した。弾性率(100%(M100))及び300%(M300))、引張強さ(Ts)並びに破断点伸び(Eb)は、ASTM D412の計算に従って計算した。補強指数は、M300とM100との比として決定した。
【0145】
3.反発
反発、つまり、返されたエネルギーと供給されたエネルギーとの比に基づくゴムサンプルの弾性は、試験機Zwick 5109(Zwick、ドイツ)を使用してISO 8307に従って測定した。反発率をISO 8307に従って計算した。
【0146】
4.硬度、ショアA
ショアA硬度は、万能硬度計(Zwick、ドイツ)を使用してDIN 53505に従って測定した。
【0147】
5.損失弾性率及び貯蔵弾性率、並びに損失係数(tanδ)
加硫サンプルの動的機械測定は、Gabo-Netzsch Eplexorを使用して実行した。測定は、周波数10Hz、0℃未満で1%、及び室温(RT)で3%の動的ひずみで実行した。室温でのひずみの変化は、測定時にノイズが発生し得る高温でのゴムの軟化に起因して調査した。
【0148】
6.高温における機械的特性
100℃におけるコンパウンドの機械的特性は、500mm/分のクロスヘッド速度及び330%の限界ひずみで操作される万能試験機Zwick Z010(Zwick、ドイツ)によって測定した。試験を100℃の恒温室で実施した。サンプルを引張機械でサイクルする前後の加硫コンパウンドの動的特性の測定を、Gabo-Netzsch Eplexorで実行した。測定は、周波数10Hz、0℃未満で1%、及び室温(RT)で3%の動的ひずみで実行した。室温でのひずみの変化は、測定時にノイズが発生し得る高温でのゴムの軟化に起因して調査した。サンプルのサイクルは、クロスヘッド速度500mm/分、限界ひずみ200%で操作される万能試験機Zwick Z010(Zwick,ドイツ)で実行した。すべてのサンプルは100℃で5回サイクルした。
【0149】
7.クリープ変形
クリープ試験は、万能試験機Zwick Z010(Zwick,ドイツ)を使用して実施した。15Nの力をサンプルに加え、この力を1時間維持した。この後、応力を解放し、サンプルのひずみの変化をさらに1時間測定した。実験温度は、100℃であった。図1にクリープ試験の手順を示す。
【0150】
[本発明に係るゴムコンパウンドの製造]
タイヤトレッド用ゴムコンパウンドは、ポリマーマトリックスとして非官能化溶液スチレンブタジエンゴム(SSBR)を使用し、充填剤としてシリカを使用して製造した。シリカの改質は、動的イミン結合を得るために、シリカと、アミノシラン及びベンズアルデヒド化合物との反応によって行った。この反応は、ゴムコンパウンドの混合中(すなわち、in situで)、又はゴムコンパウンドとの混合前(すなわち、シリカが「事前改質」された)のいずれかで行われた。
【0151】
[材料]
ゴム:非官能化SSBR:Spirintan 4601(Trinseo、ドイツ)
シリカ:ULTRASIL(登録商標)7000 GR(Evonik Resource Efficiency GmbH、ドイツ)
3‐アミノプロピルトリエトキシシラン(Sigma Aldrich、オランダ)
3-ビニルベンズアルデヒド(Sigma Aldrich、オランダ)
4-アリルオキシベンズアルデヒド(Sigma Aldrich、オランダ)
4-(メチルチオ)ベンズアルデヒド(Sigma Aldrich、オランダ)
TDAE(ハンセン&ローゼンタール、ドイツ)、
酸化亜鉛(Millipore Sigma、ドイツ)、
ステアリン酸(Millipore Sigma、ドイツ)、
硫黄(CaldicB.V.、オランダ)、
N-ターシャリーブチルベンゾチアジルスルホンアミド(TBBS)(CaldicB.V.、オランダ)、
ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD):Si266(登録商標)(Evonik Resource Efficiency GmbH、ドイツ)
ヘキサデシルトリメトキシシラン(Sigma Aldrich、オランダ)。
【0152】
シリカ改質:
in situでのシリカの改質は、ゴムコンパウンドの混合中に、アミノシラン(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)及び以下の各ベンズアルデヒドと反応させることによって行った。:3-ビニルベンズアルデヒド、4-アリルオキシベンズアルデヒド、4-(メチルチオ)ベンズアルデヒド
【0153】
シリカの事前改質は、以下の2段階反応で、シリカとアミノシラン(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)及び選択されたベンズアルデヒドを反応させることによって行った。:
【0154】
工程1:シリカとアミノシランの反応
使用したシリカの量は100gであり、アミノシランについては8gであった。反応は、溶媒としてトルエンを使用して70℃で24時間行った。反応の最初の工程の後に、生成物をろ過した。
【0155】
工程2:ベンズアルデヒドとの反応
事前改質シリカと選択されたベンズアルデヒドとの反応を、溶媒としてトルエンを使用して40℃で24時間行った。得られた生成物を、ソックスレーユニットを使用してトルエン中で24時間抽出した。異なるベンズアルデヒドの使用量は、以下のとおりである。:3-ビニルベンズアルデヒド4.8g、4-アリルオキシベンズアルデヒド5.9g、4-(メチルチオ)ベンズアルデヒド5g
【0156】
[本発明に係るゴムコンパウンドの製造]
本発明に係るゴムコンパウンド(SSBR/改質シリカ)は、密閉式ミキサー(Brabender Plasticorder 350S、デュイスブルク、ドイツ)内で、充填率0.7、初期温度100℃、ローター速度50rpmで製造した。表1の配合及び表2の混合手順に従って、サンプルを製造した。
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
本発明に係る最終ゴムコンパウンドの詳細を以下の表3に示す。
【0160】
【表3】
【0161】
[参照ゴムの製造]
2つの参照ゴムコンパウンドを製造した。その詳細を表4に示す。
【0162】
【表4】
【0163】
参照1において、シリカとSSBRを結合するために、二官能性シランカップリング剤TESPDが使用された。参照2において、シリカのin situでの改質に、単官能性シラン(ヘキサデシルトリメトキシシラン)が使用された。参照コンパウンドは、表5に示す配合に従って、及び表2に示す本発明に係るコンパパウンドに使用される混合手順(シランは、必要に応じて「TESPD」又はヘキサデシルトリメトキシシランである)に従って、製造した。
【0164】
【表5】
【0165】
[ゴムコンパウンドの試験]
全てのゴムコンパウンドは、試験手順で概説されている様々な試験を受けた。測定されたペイン効果の結果を、表6並びに不随の図2及び3に示す。
【0166】
【表6】
【0167】
未硬化及び硬化ペイン効果の結果は、本発明に係るゴムコンパウンドが参照コンパウンドよりも高いペイン効果を示し、強力なフィラーネットワークを示すことを示している。参照コンパウンドと比較して、本発明のゴムコンパウンドの硬化ペイン効果について得られる100%ひずみにおけるG’の値がより高いことは、これらのコンパウンドにおける充填剤とゴムの相互作用がより高いことを示す。本発明のコンパウンドのペイン効果は、シリカが「事前改質」されたか(E1~E3)、又はin situで改質されたか(E4~E6)に関係なく、同様である。
【0168】
加硫コンパウンドの機械的特性の結果を表7並びに添付の図4及び5に示す。
【0169】
【表7】
【0170】
機械的特性の結果は、本発明の全てのコンパウンドが参照コンパウンド1と同等の補強指数を有することを示している。本発明に係る全てのコンパウンドは、参照コンパウンド1及び2よりも高い破断点伸び及び高い引張強度も示す。
【0171】
コンパウンドの反発特性と硬度を表8に示す。反発の結果は、本発明の全てのコンパウンドが参照コンパウンド1と同等の値を示している。したがって、その動的特性は、最先端の二官能性シランカップリング剤であるTESPDを用いたゴムコンパウンドと同等である。参照コンパウンド2は、ゴムと反応せず、シリカをゴムマトリックスに結合しない被覆剤が含まれているため、反発レベルが低い。本発明のコンパウンドのより高い反発結果は、高い結合効率の証拠である。硬度に関しては、本発明に係る全てのコンパウンドが参考コンパウンド1及び2よりも高い値を示した。
【0172】
【表8】
【0173】
加硫サンプルの動的機械測定の結果を、表9及び添付の図6に示す。
【0174】
【表9】
【0175】
本発明のコンパウンドの温度の関数としての損失係数(tanδ)を分析すると、E4及びE6は、参照コンパウンド1及び2と比較して60℃におけるtanδの値が低く(転がり抵抗がより良好であることを示す。)、E5は、参照コンパウンド1と60℃におけるtanδの値が同程度である。本発明に係る全てのコンパウンドは、参照コンパウンド1及び2よりも0℃におけるtanδの値が低く、tanδの最大値が低い。
【0176】
本発明によるシリカ改質によって生成された新しい結合の再結合性は、高温でのコンパウンドの機械的応答を研究し、コンパウンドをサイクリング(疲労試験)に供した後の動的特性の変化を分析することによって、分析された。
【0177】
100℃で測定した機械的特性の結果を図7に示す、これらは、本発明に係るコンパウンドが高温に対して同様の耐性を示すことを示している。参照コンパウンド2を除く全てのコンパウンドは、実験用に設定した臨界ひずみ(330%ひずみ)に達する前に破断した。しかし、本発明に係る全てのコンパウンドは、参照コンパウンド1よりも高い引張強度に達し、E5もまたより高い破断点伸びを示した。
【0178】
引張機械でのサイクル前後の加硫コンパウンドの動的機械測定の結果を表10に示す。
【0179】
【表10】
【0180】
本発明に係るコンパウンドE4及びE6は、100℃で200%ひずみまで5サイクルさせた後の動的特性において、参照コンパウンド1よりも優れた性能を示す。コンパウンドE4及びE6は両方とも、サイクル後に、参照コンパウンド1よりも、60℃におけるtanδの値が低く(転がり抵抗がより良好であることを示す。)、0℃におけるtanδの値がより高く、最大tanδの値がより高い(ウェットグリップがより優れていることを示す。)。
【0181】
本発明によるシリカ改質によって生成された新しい結合の再結合性は、クリープ実験を行うことによってさらに分析された。その結果を図8に示す。その結果は、E5及びE6は加えられた力に応じてより高い伸びに達し、元の形状の回復は参照コンパウンド1とほぼ同じであることを示している。E6に関しては、伸びが著しく低いだけでなく、残留ひずみも他のコンパウンドと比較して低い。
【0182】
本発明について、例示的な実施形態を参照して説明した。変更及び改変は、本開示及び添付の特許請求の範囲内にある限り、本発明の一部を形成するとみなされる。本開示の範囲は、特許請求の範囲を参照して決定されるべきであり、均等物を含むものとみなされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-05-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム-シリカコンパウンドであって、前記シリカ充填剤は、動的イミン結合を介して前記ジエンゴムマトリックスと可逆的に結合する、ジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項2】
前記ジエンゴムマトリックスは、スチレン-ブタジエンゴムを含み、任意に、前記ジエンゴムマトリックスは、スチレン-ブタジエンゴムと、ブタジエンゴム等の少なくとも一つの他のジエンゴムとの混合物を含む、請求項1に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項3】
前記シリカ充填剤は、動的イミン結合を組み込んでいて、前記ジエンゴムマトリックスに結合するカップリング剤により表面改質され、前記カップリング剤は、式(I):
【化1】
[式中、
*は、シリカ表面へのカップリング剤の付加点を示し、
環Bは、芳香族基又は複素芳香族基であり、
は、有機連結基であり、
は、単結合又は有機連結基のいずれかであり、
は、前記ジエンゴムマトリックスとの結合を形成することができる官能基であり、
各Rは、それぞれ独立して、
1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル、例えば、-CH)、
1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ、例えば、-OCH)、
ハロゲン(例えば、F、Cl、Br又はI)、及び
式-L-Rの基
から選択され、
nは、0から4、好ましくは0から2の整数、例えば0又は1である。]の構造を有する、請求項1又は2に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項4】
前記カップリング剤が、式(II):
【化2】
[式中、*、L、L、R、R及びnは、請求項3に定義されているとおりである。]の構造を有する、請求項3に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項5】
前記カップリング剤が、式(IV):
【化3】
[式中、*、L、L、R、R及びnは、請求項3に定義されているとおりである。]の構造を有する、請求項3に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項6】
が、式(III):
【化4】
[式中、
各Rは、それぞれ独立して、-OH、C1-6アルコキシ(好ましくは、C1-3アルコキシ)及びC1-6アルキル(好ましくは、C1-3アルキル)から選択され、
Zは、任意に置換されていてもよいC1-12アルキレン基であり、該C1-12アルキレン基は、-O-、-SiR'2-(各R'は、それぞれ独立して、-OH、C1-6アルコキシ又はC1-6アルキルである。)、-PR''-、-NR''-及び-OP(O)(OR'')O-(R''は、H又はC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチルである。)から選択される1つ又は2つ以上の基により中断されていてもよい。]の基である、請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項7】
前記カップリング剤が、式(V):
【化5】
[式中、*、L及びRは、請求項3に定義されているとおりであり、各Rは、請求項6に定義されているとおりである。]の構造を有する、請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項8】
が単結合である、請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項9】
が、メルカプト基;保護されたメルカプト基;ブロックされたメルカプト基;モノ、ジ又はポリスルフィド基;及び炭素-炭素二重結合を含む基からなる群から選択される、請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項10】
-L-Rの基が、以下の構造:
【化6】
[ここで、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2である。]
のひとつで表される、請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項11】
-L-Rの基が、以下の構造:
【化7】
[ここで、
xは、1から6、好ましくは1から4の整数であり、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2である。]
のひとつで表される、請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項12】
-L-Rの基が、以下の構造:
【化8】
[ここで、
pは、1から6、好ましくは1から4の整数、例えば1又は2であり、
mは、1から8、好ましくは1から6、例えば1から4の整数である。]
のひとつで表される、請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項13】
-L-Rが、ビニル(-CH=CH)、アリルオキシ(-O-CH-CH=CH)、チオール(-SH)及びメチルチオ(-SCH)から選択される、請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項14】
加硫可能である、請求項1又は2に記載のジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項15】
請求項14に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドを架橋することによって得られる、直接的に得られる、又は得ることが可能な、加硫ゴムコンパウンド。
【請求項16】
請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドを製造するための方法であって、以下の工程:
(i)動的イミン結合を組み込んでいて、配合及び/又は加硫中にジエンゴムマトリックスとの連結を形成することができるカップリング剤の付加により、シリカ充填剤を表面改質する工程、
(ii)得られた表面改質シリカ充填剤をジエンゴムマトリックスと配合することにより、加硫可能であるゴム組成物を提供する工程、及び
(iii)前記加硫可能であるゴム組成物を加硫に供する工程
を含む、方法。
【請求項17】
請求項に記載のジエンゴム-シリカコンパウンドを製造するための方法であって、以下の工程:
(i)シリカ充填剤を、ジエンゴムマトリックスに、前記シリカ充填剤との反応ができる1つ以上の化合物と一緒に加えて、動的イミン結合を組み込んでいて、配合及び/又は加硫中に前記ジエンマトリックスとの連結を形成することができるカップリング剤が付加された表面改質シリカ充填剤を提供する工程、
(ii)得られた組成物を配合することにより、前記表面改質シリカ充填剤を含む加硫可能であるゴム組成物を提供する工程、及び
(iii)前記加硫可能であるゴム組成物を加硫に供する工程
を含む、方法。
【請求項18】
請求項16又は請求項17に記載の方法によって得られる、直接的に得られる、又は得ることが可能な、ジエンゴム-シリカコンパウンド。
【請求項19】
請求項1又は2に記載のコンパウンドから作られた、車両用タイヤ部品。
【請求項20】
請求項19に記載の車両用タイヤ部品を含む、車両用タイヤ。
【請求項21】
ジエンゴムとの可逆的な連結を形成することができるカップリング剤の付加により表面改質されており、前記カップリング剤は、動的イミン結合を組み込んでいる、シリカ充填剤。
【国際調査報告】