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特表2024-536401対流熱伝達率と境界層の厚さの検出方法
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  • 特表-対流熱伝達率と境界層の厚さの検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】対流熱伝達率と境界層の厚さの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20240927BHJP
   G01K 7/02 20210101ALI20240927BHJP
   G01K 17/20 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N25/18 D
G01K7/02 Z
G01K17/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520982
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2022077935
(87)【国際公開番号】W WO2023057625
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】102021211392.3
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504174917
【氏名又は名称】フラウンホッファー-ゲゼルシャフト・ツァー・フォデラング・デル・アンゲワンテン・フォーシュング・エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー エアハルト
(72)【発明者】
【氏名】フィッセル ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シンプソン ジョン カレン
【テーマコード(参考)】
2F056
2G040
【Fターム(参考)】
2F056YP10
2G040AB08
2G040BA14
2G040BA25
2G040CA02
2G040DA03
2G040EA08
2G040HA01
2G040ZA08
(57)【要約】
本開示は、周囲で流れが発生する本体(6)の表面(65)の上方の境界層の厚さを決定するための境界層センサー(1)に関する。前記センサーは、第1の温度測定装置(31)、第2の温度測定装置(32)、および第3の温度測定装置(33)を有し、それぞれが、周囲で流れが生じる本体(6)の表面(65)から所定の距離(X1、X2、X3)を隔てて配置されており、少なくとも第2の温度測定装置(32)および第3の温度測定装置(33)は、少なくとも1本のワイヤ(21、22、23、24)を含むか、または少なくとも1本のワイヤ(21、22、23、24)からなり、ワイヤ(21、22、23、24)は、表面(65)から表面に隣接する半空間内に延在し、直径が約300μm以下である。本開示はまた、このような境界層センサーを有する風力タービン、車両、航空機、室内環境測定装置、または船舶、ならびに境界層の厚さの検出方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲で流れが発生しかつ/または加熱される本体(6)の表面(65)上の対流熱伝達率hの検出方法であって、第1の温度(T)、第2の温度(T)および第3の温度(T)がそれぞれ、前記周囲で流れが発生する本体(6)の前記表面(65)から所定の距離(X1、X2、X3)を隔てて測定され、少なくとも第1の温度測定装置(31)と第2の温度測定装置(32)と第3の温度測定装置(33)とが、前記温度(T、T、T)を測定するために使用される方法において、
前記対流熱伝達率hは、前記温度(T、T、T)、前記表面(65)上の温度を測定するための前記第2の装置(32)の前記距離X2および熱伝導率λから下式のように決定される、
ことを特徴とする対流熱伝達率hの検出方法。
【数1】
【請求項2】
周囲で流れが発生しかつ/または加熱される本体(6)の表面(65)の上方の境界層の厚さdの検出方法であって、第1の温度(T)、第2の温度(T)および第3の温度(T)がそれぞれ、前記周囲で流れが発生する本体(6)の前記表面(65)から所定の距離(X1、X2、X3)を隔てて測定され、少なくとも第1の温度測定装置(31)と第2の温度測定装置(32)と第3の温度測定装置(33)とが、前記温度(T、T、T)を測定するために使用される方法において、
前記境界層の厚さdは、前記温度(T、T、T)および前記表面(65)上の温度を測定するための前記第2の装置(32)の前記距離X2から、下式のように決定され、
【数2】
ここで、λは前記表面(65)の周囲の流動媒体の熱伝導率を示し、λは前記温度測定装置(31、32、33)の熱伝導率を示す、
ことを特徴とする境界層の厚さdの検出方法。
【請求項3】
前記表面(65)から前記第2の温度(T)の測定位置までの距離である前記距離X2が、1mm~3mmまたは2mmである、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の温度(T)が前記表面(65)の温度に対応するように、前記距離X1が0mmである、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記距離X3が、前記第3の温度(T)が前記周囲で流れが発生する本体(6)の周囲の温度に対応するように、大きい距離である、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記距離X3が9mm~20mmの間で選択される、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記距離X3が10mm~14mmの間で選択される、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記距離X3が11mm~16mmの間で選択される、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の温度測定装置(31)、前記第2の温度測定装置(32)および前記第3の温度測定装置(33)が熱電対によって形成され、第1の熱起電力(thermoelectric voltage)Uが前記第1の温度測定装置(31)と前記第3の温度測定装置(33)との間で測定され、第2の熱起電力Uが前記第2の温度測定装置(32)と前記第3の温度測定装置(33)との間で測定される、
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
以下のパラメータΛが校正測定によって決定される、
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【数3】
【請求項11】
前記校正測定がレーザー微分干渉法によって実施される、
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、周囲で流れが発生しかつ/または加熱される本体の表面上の対流熱伝達率の検出方法に関する。この方法においては、流れが発生する本体の表面から所定の距離を隔てて、第1の温度、第2の温度および第3の温度がそれぞれ測定され、少なくとも、第1の温度測定装置と第2の温度測定装置と第3の温度測定装置とが、温度測定のために使用される。本開示はまた、周囲で流れが発生しかつ/または加熱される本体の表面上の境界層の厚さの検出方法であって、周囲で流れが発生する本体の表面から所定の距離を隔てて、3つの温度をそれぞれ測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱面の対流熱伝達率を決定する装置は、独国特許出願公開第10 2016 107 212号明細書から知られている。この公知の装置は、対流面の表面温度と周囲温度との間の温度差、および境界層内の対流面近傍の温度と周囲温度との間のさらなる温度差を測定する。このよく知られたセンサーは、境界層内の温度プロファイルが、対流熱伝達率を定数とする指数曲線を含むという洞察に基づいている。したがって、3つの支持点を決定することにより、指数曲線を決定し、そこから対流熱伝達率を決定することができる。この公知の装置は、以下においてCHMセンサーと呼ぶこともある。
【0003】
あるいは、対流面上の気温の指数関数的な降下は、レーザー微分干渉計(laser differential interferometer)を用いて光学的に測定することもできる。この種の測定セットアップを用いれば、温度プロファイルを正確に検出することができ、したがって対流熱伝達率hの正確な検出が可能となる。しかし、技術的設備の量が非常に多いので、この種の測定は日常的な測定には適さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザー微分干渉法によって光学的に決定される対流熱伝達率の測定値は、独国特許出願公開第10 2016 107 212号明細書により公知である、境界層における熱電対の設計を用いて測定された値とは異なることが示されている。したがって、先行技術に基づき、本開示の目的は、公知の光学的測定よりも必要な技術的設備が少ないにもかかわらず、同様に正確な測定結果を提供する、対流熱伝達率の検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、この目的は、請求項1に記載の方法および請求項2に記載の方法によって達成される。
【0006】
本開示によれば、対流熱伝達率hを検出するために、周囲で流れが発生しかつ/または加熱される本体の表面上の少なくとも3つの温度を測定することが提案される。温度を測定するために、少なくとも第1の温度測定装置、第2の温度測定装置、および第3の温度測定装置を用いることができ、これらはそれぞれ、周囲で流れが発生する本体の表面から所定の距離に、そしてそれぞれの場合において異なる距離を隔てて配置される。本開示のいくつかの実施形態において、少なくとも3つの温度測定装置は、抵抗温度計および/または熱電対であることができる。本明細書では、周囲で流れが発生する本体の表面からの距離は、それぞれの温度測定装置と表面との間の法線ベクトルの長さとして定義される。
【0007】
本開示のいくつかの実施形態では、第1の温度測定装置は、周囲で流れが発生しかつ/または加熱される本体の表面上に直接配置され、第3の温度測定装置は、それが周囲温度を構成するように、表面からより長い距離を隔てて配置される。第2の温度測定装置は、境界層内に、例えば約1mmから約3mmの間の距離を隔てて配置される。
【0008】
本開示によって、温度測定装置のリード線および/または機械的固定装置を介して流出する熱が、測定値の錯誤につながることが判明した。従来技術では、この熱の流れはこれまで考慮されていなかったため、対流熱伝達率hは、流動媒体の熱伝導率λ、第2の温度測定装置の距離X2、および3つの測定温度T、T、Tから、境界層内の温度の乱れのない指数曲線を仮定した以下の式から決定されていた。
【数1】
【0009】
しかし、本開示によれば、温度測定装置の個々の構成要素を介した熱伝導のために、点X2における温度Tは、乱れのない指数関数的な温度曲線から逸脱した異なる値をとることがわかった。したがって、本開示によれば、対流熱伝達率hは、測定された温度、第2の温度測定装置の距離X2、および本開示に従って使用される装置の熱伝導率λから、以下の式のように正しく決定されるべきであることが知見された。
【数2】
【0010】
このようにして測定された対流熱伝達率hは、レーザー微分干渉計によって測定された値に実質的に対応し、対流熱伝達率hは、本開示によれば、かなり少ない技術設備によって得ることができる。このように、本開示によれば、対流熱伝達率を検出するために、3つの温度測定装置のみを含む公知の装置を使用し、検出された測定値の修正された評価によって精度の著しい改善を達成することが提案される。
【0011】
同様に、本開示のいくつかの実施形態では、周囲で流れが発生しかつ/または加熱される本体の表面の上方の境界層の厚さdを決定することも可能である。ここでの境界層の厚さdは、周囲で流れが発生する表面の上方で、表面と環境との間の最大温度差がe-1、すなわち約36.788%まで低下したときの距離X=dを示す(eはオイラー数を示す)。対流熱伝達率hは、流動媒体の熱伝導率λと境界層の厚さdからh=λ・d-1のように計算できるため、境界層の厚さdは、測定温度T、TおよびT、表面上の温度を測定するための第2の装置の距離X2、および流動媒体の熱伝導率λとセンサー配列の熱伝導率λから次の式のように求められる。
【数3】
【0012】
本開示のいくつかの実施形態において、第3の温度Tが測定される距離X3は、約9mm~約20mmであり得る。本開示の他の実施形態では、距離X3は、約10mm~約14mmであり得る。本開示のさらに他の実施形態では、距離X3は、約11mm~約16mmとなるように選択することができる。これにより、第3の温度測定装置を使用して、表面温度にほとんど影響されない周囲温度を確実に測定することができる。
【0013】
本開示のいくつかの実施形態では、第1の温度測定装置、第2の温度測定装置、および第3の温度測定装置は、それぞれ熱電対によって形成することができ、第1の熱起電力(thermoelectric voltage)Uは、第1の温度測定装置と第3の温度測定装置との間で測定され、第2の熱起電力Uは、第2の温度測定装置と第3の温度測定装置との間で測定される。本開示によれば、境界層の厚さdまたは対流熱伝達率hを測定するために、第1および第3の温度測定装置、または第2および第3の温度測定装置の温度差のみを相関させることが提案されているので、これらの温度差は、測定された熱起電力によって直接表すことができる。これにより、対流熱伝達率を表す電気信号を、アナログ演算回路などの技術設備をほとんど使用せずに直接生成できるため、測定値の評価が容易になる。この種のアナログ演算回路は、例えばオペアンプによって実現できる。
【0014】
【0015】
本開示のいくつかの実施形態では、校正測定はレーザー微分干渉法を用いて実施することができる。レーザー微分干渉法は非接触での測定値を提供するため、乱れのない境界層の実際の温度Tを測定するために使用することができる。このようにして得られた測定値を、第2の温度測定装置の測定値と比較することにより、本開示によるセンサーを簡単な方法で校正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】公知のCHMセンサーの概略図である。
図2】熱流を説明するためのCHMセンサーの等価回路図である。
図3】本開示による測定信号の評価と公知の測定信号の評価による対流熱伝達率対流速の比較を示す。
図4】本開示による測定値と従来技術による測定値を評価した場合における、異なる対流熱伝達率の表面から第2の温度測定装置までの距離X2に対する第2の温度測定装置の測定値を示す。
図5】異なる校正値(λ)に対する一定の熱伝達率における第2の温度測定装置の測定値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面および例示的な実施形態に基づいて本開示をより詳細に説明する。
【0018】
図1は、表面65を有する、周囲で流れが発生する本体6の断面図を示す。本体6は、例えば、車両または航空機または船舶の一部とすることができる。本開示の他の実施形態では、本体6は風力タービンの一部とすることができる。本開示のさらに他の実施形態では、本体6は、対流熱伝達率および/または環境との輻射熱の交換を測定する室内環境測定装置の一部とすることができる。境界層センサー1の動作中、強制流または対流が本体6の周囲を流れ、表面65に隣接する本体6の半空間に流れが形成される。この流れは、本体6または表面65に対して少なくとも部分的に平行に流れることができる。本開示によれば、境界層センサーまたはCHMセンサー1は、境界層の厚さおよび/または表面65の上方の対流熱伝達率hを検出するために使用される。
【0019】
境界層センサー1は、3つの温度または2つの温度差を検出するように設計されている。この目的のために、境界層センサーは、表面65から第1の距離X1を隔てて配置された第1の温度測定装置31を有する。図示された例示的な実施形態では、第1の温度測定装置31は表面65上に直接配置されている。したがって、距離X1は0mmである。
【0020】
さらに、境界層センサー1は、表面65の上方の距離X2の位置に配置された第2の温度測定装置32を有する。この距離X2は、例えば、1mmから約3mmの間とすることができる。距離X2は、第2の温度測定装置32が表面65の上方に形成される境界層内に位置するように選択される。
【0021】
最後に、境界層センサー1は、表面65の上方に距離X3を隔てて配置される第3の温度測定装置33を有する。この距離X3は、例えば、約9mmと約20mmとの間、または約10mmと約14mmとの間、または約11mmと約16mmとの間とすることができる。距離X3は、第3の温度測定装置が、境界層の外側で表面65の上方を流れる媒体の周囲温度を測定するように選択される。したがって、表面65の上方の距離X3は、予想される流速に基づいて、流速が遅い場合には長い距離が選択され、流速が速い場合には短い距離が選択されるように、選択することができる。
【0022】
図示された例示的な実施形態では、第1、第2および第3の温度測定装置31、32および33は、熱電対として設計されている。この目的のために、境界層センサー1は、第1の材料からなる第1のワイヤ21を有する。この第1のワイヤ21の一端は、第2のワイヤ22の一端に接続されている。この第2のワイヤ22は、接触点で熱起電力を形成することができるように第2の材料でできており、熱起電力は表面65の温度Tの測定値を表す。
【0023】
第1のワイヤ21は、また、表面65から距離X3を隔てて配置された第2の端部を有する。この端部には、第4のワイヤ24との第3の接触点が形成される。この接触点は、温度Tを測定するための第3の温度測定装置33を形成する。同様に、第3のワイヤ23とのさらなる接触点が、第1のワイヤ21の長手方向の延長に沿って配置される。この接触点は、温度Tを測定するための第2の温度測定装置32を形成する。
【0024】
本開示のいくつかの実施形態では、このようにして2つの熱起電力を測定することができる。第1の熱起電力は、第2のワイヤ22と第4のワイヤ24との間の第1の測定装置41によって測定され、第2の熱起電力は、第4のワイヤ24と第3のワイヤ23との間の第2の測定装置42によって測定される。したがって、第1の熱起電力は温度差T-Tの測定値である。第2の熱起電力は温度差T-Tの測定値である。
【0025】
境界層センサー1は、粘着テープ7を用いて簡単な方法で表面65に取り付けることができる。このため、境界層センサー1は、例えば流路での実験などの一時的または移動式の使用にも適している。さらに、粘着テープにより、表面の形状を乱すことなく取り付けることができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、境界層センサー1は、温度T、T、Tを測定するための装置31、32、33を、その意図された位置に保持するさらなる要素、特に機械的固定装置を備えていてもよい。これにより、距離X2、X3の変形や変化を防止し、および/または、境界層センサー1の機械的損傷のリスクを低減することができる。
【0027】
表面65上の境界層内の温度プロファイルは指数関数に従う。そのため、測定値を評価するための公知の方法は、基本的に、測定値T、T、Tから指数関数の係数を導出することに基づいており、これらの係数は境界層の厚さおよび/または対流熱伝達率を表す。しかし、本開示によれば、第1、第3および第4のワイヤ21、23、24、ならびに任意選択の機械的支持構造体または機械的固定装置が、距離X2における測定値Tを歪ませる熱流を導出するために使用されることが判明した。その結果、境界層センサー1によって決定された対流熱伝達率hは、レーザー微分干渉法によって非接触で測定された対流熱伝達率hとは異なる。そこで本開示では、境界層の厚さdおよび対流熱伝達率hをより正確に検出するために、第1および第2の熱起電力の代替評価を提案する。本開示による式の導出を図2に基づいて説明する。
【0028】
図2は、図1に示したセンサーの熱等価回路図を示す。第1の温度測定装置31、第2の温度測定装置32および第3の温度測定装置33は、ここでは、これらの装置によって測定された温度レベルT、TおよびTによってそれぞれ示される。温度Tを有する表面65から温度Tを有する周囲の半空間への対流熱伝達により、熱量q2+q4がセンサー1に沿って流れる。この点に関して、以下の式が適用される。
【数4】
【0029】
さらに、第1のワイヤ21、第3のワイヤ23および第4のワイヤ24、ならびに図1には示されていない、存在し得る機械的支持構造体に沿った熱伝達により、熱量q1+q3が表面65から流れる。この点に関して、以下の式が適用される。
【数5】
【0030】
図2で説明したように、センサーに沿った熱流は、電気工学で周知のキルヒホッフの法則に従って電気等価回路図で表すことができ、それぞれの温度レベルは電圧に対応し、熱流密度は電流に対応する。したがって、図2に示す等価回路図には、次のキルヒホッフの第1法則が適用される。
【数6】
【0031】
さらに、キルヒホッフの第2法則が適用される。
【数7】
【0032】
(輻射熱を無視した)表面65から発せられる対流熱の総量は、表面65と表面65の周囲の媒体との間の温度差に相当する。したがって、次式が適用される。
【数8】
【0033】
これは、次式のようになる。
【数9】
したがって、次式のようになる。
【数10】
このことから、次式のようになる。
【数11】
【0034】
以下、例示的な実施形態により、本関係をより詳細に説明する。表面温度Tが20℃である表面65を考える。表面65は、空気温度T=0℃である環境に位置している。温度Tを測定するための第1の装置31および温度Tを測定するための第3の装置33に加えて、センサー1は、表面65からX2=2mmの距離にある温度Tを測定するための第2の装置32も備えている。図示された例示的な実施形態では、測定温度T=17.1℃である。
【0035】
本開示に従って使用されるセンサーは、校正係数Λ=30W・m-2・K-1を有する。本開示に従って得られた測定値T-TおよびT-Tを評価する場合、対流熱伝達率hは、次式から得られる。
【数12】
したがって、本開示によれば、対流熱伝達率h=5W・m-2・K-1である。
【0036】
この結果、総熱流束密度は100W・m-2となる。図2に示す部分熱流束密度は、次のようになる。
=85.5W・m-2
=14.5W・m-2
=14.5W・m-2
=85.5W・m-2
【0037】
従来技術に従って得られた測定値T-TおよびT-Tを評価する場合、対流熱伝達率hは次式から得られる。
【数13】
このようにして計算された対流熱伝達率の値は、h=2.17W・m-2・K-1となる。これから、総熱流量は43.4W・m-2と計算される。従来技術によれば、センサーの材料を介した熱流は考慮されていないため、第2の温度測定装置32の測定値Tの量は体系的に過大評価され、その結果、図示された例示的な実施形態では約56%の測定誤差が生じる。
【0038】
例示的な実施形態において上述した状況を、図3~4に基づいて以下に再度説明する。図3において、縦軸は対流熱伝達率hを、横軸は流速v(単位:m・s-1)を示す。この図は、図1に示したセンサーを用いて風洞内で測定された対流熱伝達率hの値を流速に対して示しており、公知の方法に従って測定値を評価した場合(×)と、本開示で提案された方法に従って測定値を評価した場合(〇)を示す。図3は、従来技術による対流熱伝達率の測定値が体系的に過小評価されていることを示しており、流速vが増えるにつれて測定誤差が大きく増加している。本開示によれば、それ自体公知の熱センサーを用いて、高い流速であっても、対流熱伝達率hの測定値を精度良く検出することが初めて可能になった。
【0039】
図4は、センサー1の材料を介して流出または侵入する熱流が測定値Tに及ぼす影響を、距離X2に基づいて示している。ここで、縦軸にはケルビン単位の測定値T-Tが対数スケールでプロットされ、横軸には温度Tを測定するための第2の装置32の距離X2がプロットされている。合計6つの曲線が示されており、3つの異なる対流熱伝達係数についてそれぞれ2つずつの曲線が対応している。ここで、各曲線は以下の通り。
【表1】
【0040】
図4は、特に対流熱伝達率が大きく、センサーの形状が比較的大きい場合、すなわち距離X2が大きくなる場合、本開示による方法により精度が大幅に向上することを示している。
【0041】
【0042】
図5は、パラメータΛの増加に伴い、測定値Tがほぼ対数的に増加することを示している。加えて、図5は、特に機械的に堅牢なセンサーでは、大量の材料が使用されているために熱伝導率λが大きく、測定値にかなりの誤差が生じ、その誤差は2倍以上になり得ることを示している。
【0043】
もちろん、本開示は図示の実施形態に限定されない。したがって、上記の説明は限定的なものではなく、説明的なものとみなされるべきである。以下の特許請求の範囲は、示された特徴が本開示の少なくとも1つの実施形態に存在することを意味するものとして理解されるべきである。これは、さらなる特徴の存在を排除するものではない。明細書または特許請求の範囲が「第1」の特徴および「第2」の特徴を定義する限り、この呼称は、優先順位を確立することなく、類似の特徴を区別するために使用される。これらの成果につながる研究は、欧州連合から資金援助を受けている。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】