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特表2024-536410船舶用エンジンのための潤滑剤における洗浄添加剤としてのスピロ化合物
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  • 特表-船舶用エンジンのための潤滑剤における洗浄添加剤としてのスピロ化合物 図1a
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  • 特表-船舶用エンジンのための潤滑剤における洗浄添加剤としてのスピロ化合物 図2a
  • 特表-船舶用エンジンのための潤滑剤における洗浄添加剤としてのスピロ化合物 図2b
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】船舶用エンジンのための潤滑剤における洗浄添加剤としてのスピロ化合物
(51)【国際特許分類】
   C10M 139/00 20060101AFI20240927BHJP
   C10M 129/54 20060101ALN20240927BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20240927BHJP
   C10N 40/26 20060101ALN20240927BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20240927BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C10M139/00 A
C10M139/00 Z
C10M129/54
C10N10:06
C10N40:26
C10N40:25
C10N30:04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521015
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 EP2022077844
(87)【国際公開番号】W WO2023057586
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】2110617
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522232558
【氏名又は名称】トタルエナジーズ ワンテク
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー・ドワイヤン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・シャオ
(72)【発明者】
【氏名】モデスティーノ・デ・フェオ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB24Z
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104BJ05C
4H104BJ07C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104FA03
4H104LA02
4H104PA42
4H104PA45
(57)【要約】
本発明は、船舶用エンジンのための潤滑性化合物における洗浄添加剤としての、式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物(式中、Mは、ホウ素及びアルミニウムから選択される原子であり;n1及びn2は、互いに独立に、0、1、又は2の値を有し;Rはそれぞれ、互いに独立に、1~50個の炭素原子、特に5~20個の炭素原子を含む炭化水素基を表す)の使用に関連する。本発明はまた、上記潤滑性化合物の酸化安定性を改善する観点での、船舶用エンジン向けの潤滑性組成物における添加剤としての上記スピロ化合物の使用にも関連する。最後に、本発明は、船舶用エンジンを潤滑するための潤滑性化合物であって、化合物が、1種又は複数の基油及び式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物を含む、潤滑性化合物、並びにこうした組成物を使用して船舶用エンジンを潤滑する方法に関連する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶用エンジン向けの潤滑性組成物における洗浄添加剤としての、以下の式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物の使用。
【化1】
(式中、
Mは、ホウ素及びアルミニウムから選択される原子であり;
n1及びn2は、互いに独立に、0、1、又は2の値を有し;
Rは、互いに独立に、1~50個の炭素原子、特に5~20個の炭素原子を含む炭化水素基を表す)
【請求項2】
前記スピロ化合物が、R置換基が、互いに独立に、直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族鎖、とりわけ、好ましくは直鎖状の、C1~C50アルキル鎖、とりわけC3~C30アルキル鎖、特にC5~C25アルキル鎖、より詳細にはC8~C20アルキル鎖、より優先的にはC16アルキル鎖を表す、式(I)のものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記スピロ化合物が、n1及びn2が値1を有し、R基が同一である、式(I)のものである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記スピロ化合物が、Mがホウ素原子である、式(I)のものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記スピロ化合物が、前記潤滑性組成物の全質量に対して、0.1質量%~20質量%の間の、好ましくは0.2質量%~15質量%の間の、より好ましくは0.5質量%~10質量%の間の、より詳細には0.5質量%~5質量%の含有率で用いられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記潤滑性組成物が、式(I)の前記スピロ化合物とは区別される、少なくとも1種の金属洗浄添加剤、特にカルシウムに基づいた、特に、少なくとも1種の過塩基化金属洗浄添加剤及び/又は少なくとも1種の中性金属洗浄添加剤を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記組成物が、その全質量に対して、少なくとも50質量%の、特に少なくとも60質量%の、より詳細には65質量%~99質量%の範囲の、好ましくは70質量%~98質量%の範囲の含有率の、1種又は複数の基油を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記組成物が、前記スピロ化合物とは区別される、全塩基価を改善する塩基性有機添加剤;耐摩耗添加剤;分散添加剤;粘度指数(VI)向上剤;増粘剤;消泡剤;酸化防止添加剤;防錆添加剤;及びその混合物から選択される、1種又は複数の他の添加剤を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記組成物が、SAEJ300分類に準じた、SAE-20、SAE-30、SAE-40、SAE-50、又はSAE-60の粘度グレードのものである、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記潤滑性組成物が、2ストローク又は4ストロークのエンジン用の潤滑剤、特に前記船舶用エンジンのピストン-リング-ライナーアセンブリの潤滑目的の潤滑剤である、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記潤滑性組成物の酸化に対する安定性を改善するための、船舶用エンジン向けの潤滑性組成物における添加剤としての、請求項1から5のいずれか一項に規定の式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物の使用。
【請求項12】
- 1種又は複数の基油;
- 請求項1から5のいずれか一項に規定の式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物;
- 任意選択で、前記スピロ化合物とは区別される、他の洗浄添加剤、特に過塩基化金属洗浄添加剤及び中性金属洗浄添加剤;耐摩耗添加剤;分散添加剤;粘度指数(VI)向上剤;増粘剤;消泡剤;酸化防止添加剤;防錆添加剤;及びその混合物から選択される、1種又は複数の添加剤
を少なくとも含む、船舶用エンジンの潤滑目的の潤滑性組成物。
【請求項13】
前記組成物が、請求項9及び10に規定の通りである、請求項12に記載の潤滑性組成物。
【請求項14】
前記船舶用エンジンの少なくとも1種の機械部品、特に、前記船舶用エンジンのリング、ピストン、及び/又はライニングの少なくとも一部分を、請求項12又は13に規定の潤滑性組成物に接触させる工程を含む、船舶用エンジン、特に2ストローク又は4ストロークの船舶用エンジンを潤滑する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性組成物の分野に関連し、より詳細には、船舶用エンジン、特に2ストローク船舶用エンジン又は4ストローク船舶用エンジンにおける潤滑を目的とした潤滑性組成物の分野に関連する。本発明は、より詳細には、船舶用エンジンのための潤滑剤における洗浄添加剤としての、スピロ化合物の使用に関連する。
【0002】
有利なことに、本発明により、低灰分を維持しながら、優れた洗浄特性及び酸化に対する安定性の特性を示す潤滑剤を得ることが可能になる。
【背景技術】
【0003】
船舶用エンジン、例えば、2ストローク船舶用エンジン又は4ストローク船舶用エンジンは、「船舶用油」としても公知である潤滑剤を用いて、エンジンの様々な部品の潤滑をもたらす。例えば、スロー2ストローククロスヘッド船舶用エンジンは、一方で、「シリンダー」油を用いてピストン-シリンダーアセンブリの、又はピストン-リング-ライナー領域の潤滑をもたらし、他方で、「システム」油を用いてピストン-シリンダーアセンブリ以外の、又はピストン-リング-ライナーアセンブリの外側の、全ての可動部品の潤滑をもたらす。
【0004】
最近まで、塩基度は、潤滑油、とりわけシリンダー油の配合において決定的な基準であった。これは、ピストン-シリンダーアセンブリ内部の潤滑油が燃料の燃焼残渣に接触し、これらの残渣が、高硫黄含有率燃料から生じる場合、有意な量の酸ガスを含有し得るためである。実際に、高硫黄含有率燃料の燃焼中、酸ガスが形成され、これらは、特に酸化硫黄(SO2、SO3)であり、引き続いて、燃焼ガス及び/又は油における湿気との接触中に加水分解され、亜硫酸(H2SO3)又は硫酸(H2SO4)を生じる。
【0005】
したがって、規格ASTM D-2896に準じて測定される、その塩基価(BN、場合により「全塩基価」としてTBNとも称される)で表される、潤滑油の中和能力は、選択の基準であり、それにより燃料に含有される、燃焼によって硫酸に変換され易い、全ての硫黄を中和することを可能にするために、使用される燃料の硫黄含有率に対して用いられる潤滑剤の塩基度を調節することができた。したがって、燃料の硫黄含有率がより高いほど、船舶用潤滑剤のBNはより高くある必要があった。故に、市販の船舶用潤滑剤は、最高で140mg KOH/gまでのBN値を示すことができる。
【0006】
潤滑剤で望まれる塩基度は、従来、不溶性金属塩、特に金属炭酸塩、例えば炭酸カルシウムにより過塩基化された洗浄剤によって付与された。これらの洗浄剤は、特に、サリチル酸塩、フェネート、スルホン酸塩、又はカルボン酸塩の種類の金属石けんであり、それらは、不溶性金属塩の粒子が懸濁液において保たれるとき、ミセルを形成する。BNの一部はまた、非過塩基化金属洗浄剤又は「中性」金属洗浄剤によっても付与され得る。
【0007】
新規のエンジンタイプ及び新規の燃料では、新規の必要性を満たすように要求される潤滑剤の塩基度は、もはやそれほど重要ではなく、実際は従来の過塩基化洗浄剤のさらなる削減が必要になる。
【0008】
実際に、環境への懸念の観点から確立された新規の規制は、船舶で使用される燃料の硫黄レベルに関して制限をかけ、それはまた、船舶用エンジンの潤滑油における金属洗浄剤の含有率を減らすことを暗示する。
【0009】
これは、用いられる低硫黄含有率燃料に関して、過剰の金属洗浄剤、故に過剰の塩基性部位が、不溶性金属塩を含有する、未使用の過塩基化洗浄剤のミセルの不安定化リスクを引き起こすことがあるためである。この不安定化は、主にエンジンのピストン冠で、高硬度を示す不溶性金属塩(典型的には、炭酸カルシウム)の付着物の形成をもたらすことがあり、長期的に、ライナー研磨型の過剰な摩耗のリスクをもたらし得る。
【0010】
硫酸灰分、同様にリン及び硫黄は、NOx、CO、又は煤煙等の有害な放出を取り除くために、今後全ての新しい乗り物に備え付けられる、排ガスの後処理用のシステムを損傷し得ることが知られている。
【0011】
また、未燃焼(nonincinerated)材料のせいで汚れたフィルターは、燃料消費の増加を引き起こすことがあり、故に燃料の浪費をもたらし、それは船舶用燃料の消費を減らす観点で望まれる特性に反する。
【0012】
したがって、船舶用潤滑剤において用いられる、金属洗浄剤の含有率、特に、典型的には炭酸カルシウムに基づいた過塩基化金属洗浄剤の含有率を減らす必要があることが分かる。
【0013】
しかし、金属洗浄剤の含有率の減少はまた、潤滑剤の洗浄剤能力を要求されるレベル未満に減らすことになる。
【0014】
実際に、金属部品の表面の、エンジンに対して有害である付着物の形成を減らし、又はそれを防ぐために、エンジンに、特に、例えばピストン-シリンダーアセンブリ等のエンジンの高温部分に直接接触する、船舶用エンジン用の潤滑剤が高温で良好な安定性を示すことが重要である。
【0015】
結果として、灰分をほぼ生じずに、望ましい洗浄特性を船舶用潤滑剤にもたらすことができ、故に船舶用エンジンにおいて直面する高温条件下で、エンジンの清浄度に関して良好な特性をもたらすことを可能にする、金属洗浄剤の、特に過塩基化金属洗浄剤の代替品となる、利用可能な新規の化合物を有する必要性が存在する。
【0016】
例えば、文献国際公開第2014/180843号は、特に良好な耐熱性を有し、高硫黄燃料油及び低硫黄燃料油の両方で使用可能な、金属炭酸塩で過塩基化された金属洗浄剤、中性洗浄剤、及び特異なBNの脂肪族アミン、特にテトラアミンを組み合わせた、船舶用エンジン向けのシリンダー潤滑剤を提供する。
【0017】
出願国際公開第2018/220007号及び国際公開第2018/220009号は、例えば、船舶用エンジン、特に2ストローク船舶用エンジン向けの、良好な耐腐食特性、良好な耐摩耗特性、及び良好な洗浄力性能品質を組み合わせた潤滑性組成物を配合するための、サリチル酸から誘導された化合物、サリチル酸と、ホウ素化合物と、例えばポリアミン型のアミン化合物との反応の生成物の使用を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2014/180843号
【特許文献2】国際公開第2018/220007号
【特許文献3】国際公開第2018/220009号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Jean-Philippe Roman「Research and Development of Marine Lubricants in ELF ANTAR France - The Relevance of Laboratory Tests in Simulating Field Performance」Marine Propulsion Conference、2000 - Amsterdam - 3月29~30日、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、灰分への影響を少なくしながら、船舶用エンジンの潤滑目的の潤滑剤に優れた洗浄特性を寄与する手段を提供することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0021】
より詳細には、本発明は、その第1の態様によれば、船舶用エンジン、例えば、2ストローク又は4ストロークのエンジン向けの潤滑性組成物における洗浄添加剤としての、以下の式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物の使用に関連する。
【0022】
【化1】
【0023】
(式中:
Mは、ホウ素(B)及びアルミニウム(Al)から選択される原子であり、特にホウ素原子であり;
n1及びn2は、互いに独立に、0、1、又は2の値を有し;
Rは、互いに独立に、1~50個の炭素原子、特に5~20個の炭素原子、より詳細には5~20個の炭素原子を含む炭化水素基を表す)
【0024】
好ましくは、本発明に従って用いられるスピロ化合物は、Mがホウ素原子である、前述の式(I)のものである。言い換えれば、この特定の実施形態によれば、スピロ化合物は、以下の式(I')の「スピロボロネート化合物」で公知の化合物である。
【0025】
【化2】
【0026】
(式中、n1、n2、及びRは、上記で定めた通りである)
【0027】
本発明の意義の範囲内で、用語「洗浄添加剤」は、潤滑油中に導入され、その洗浄能力に寄与すること、及び/又はその洗浄能力を高めることを可能にし、故にエンジンの付着物を減らし、防ぎ、実際は更に取り除くことを可能にする化合物を示すものである。
【0028】
本発明の文脈において、本発明による用語「スピロ化合物」は、より単純には、上記で定められた式(I)のスピロ化合物、特に上記で定められた式(I')のスピロボロネート化合物を示すことになる。本発明に従って考えられるスピロ化合物の例は、本発明の文脈においてより正確に記載される。
【0029】
より単純には、用語「船舶用潤滑剤」は、船舶用エンジンの潤滑目的の潤滑剤を示す。本発明に従って考えられる船舶用潤滑剤は、2ストローク船舶用エンジン又は4ストローク船舶用エンジンの潤滑のための利用、特に2ストローク船舶用エンジンの潤滑のための利用に適切である。
【0030】
それは、エンジンのピストン-シリンダーアセンブリの潤滑で用いられる「シリンダー潤滑剤」として公知である潤滑剤、ピストン-シリンダーアセンブリの外側のエンジンの全ての可動部の潤滑に用いられる「システム潤滑剤」として公知である潤滑剤、又は特に、4ストロークエンジンのピストン-シリンダーアセンブリを含める、エンジン全体の潤滑に用いられる「クランクケース潤滑剤」として公知である潤滑剤であってもよい。
【0031】
本発明はまた、その別の態様によれば:
- 1種又は複数の基油;
- 上記で定められ、本発明の文脈において詳細に記載された、式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物、特に、式(I')の少なくとも1種のスピロボロネート化合物
を少なくとも含む、船舶用エンジン、特に2ストローク又は4ストロークのエンジンの潤滑目的の潤滑性組成物にも関連する。
【0032】
特定の一実施形態によれば、本発明による潤滑性組成物は、本発明による上記スピロ化合物の他に、特に、潤滑剤の分野で従来使用される金属洗浄添加剤から選択される、特にカルシウムに、又はマグネシウムに基づいた、1種又は複数の他の洗浄添加剤を含む。
【0033】
以下の実施例に説明されるように、発明者等は、本発明によるスピロ化合物の利用により、従来の金属洗浄剤を組み込んだ潤滑剤と比較して、同等の耐熱特性、更には改善された耐熱特性を示す船舶用潤滑剤を実現することができ、故に特に、リング-ピストン-シリンダー領域の良好なエンジン清浄度をもたらし得ることを見出した。
【0034】
船舶用潤滑剤の洗浄特性は、Jean-Philippe Romanによる表題「Research and Development of Marine Lubricants in ELF ANTAR France - The Relevance of Laboratory Tests in Simulating Field Performance」Marine Propulsion Conference、2000 - Amsterdam - 3月29~30日、2000年の出版物に記載されたように、ECBT型の試験による、耐熱性に関する潤滑剤の性能品質の評価によって調べられ得る。
【0035】
これらの試験は、船舶用エンジン、特にエンジンのリング-ピストン-シリンダー領域におけるその利用中に直面する条件の下、付着物/ワニスを形成する船舶用潤滑剤の傾向について説明する。
【0036】
更に、本発明による洗浄添加剤として用いられる、上記スピロ化合物は、従来の金属洗浄剤と比較して灰分をほぼ生じない。
【0037】
結果として、船舶用潤滑剤における、本発明による1種又は複数のスピロ化合物の組み込みは、有利なことに、潤滑剤によって生じる灰分の含有率に悪影響を及ぼすことなく、潤滑剤の洗浄能力を向上させることを可能にする。
【0038】
有利なことに、実施例において説明されるように、船舶用潤滑剤において、船舶用潤滑剤の耐熱性及び故にその洗浄能力を保持しながら、実際は更に改善しながら、金属洗浄剤が生じる望ましくない灰分がもたらされる、従来用いられる金属洗浄剤を部分的に置き換えるために、本発明による1種又は複数のスピロ化合物を用いることが可能である。
【0039】
したがって、有利なことに、金属洗浄剤、特に過塩基化洗浄剤の使用に関連した灰分、特に硫酸灰分に関して有害な影響を減らすことができ、但し、潤滑剤の耐熱性及び洗浄特性に影響を及ぼすことなく、実際は更に潤滑剤の耐熱性及び洗浄特性を改善する。
【0040】
本発明による潤滑性組成物により、優れた洗浄特性及び低灰分、特に低硫酸灰分を組み合わせることが可能になる。
【0041】
有利なことに、本発明によるスピロ化合物の利用により、特に、船舶用エンジンの、とりわけピストン-シリンダーアセンブリの、リング-ピストン-シリンダー領域におけるエンジン清浄度に関して、良好な特性を示す船舶用潤滑性組成物を実現することが可能になる。
【0042】
有利なことに、実施例において説明されるように、本発明によるスピロ化合物の利用により、更に、船舶用潤滑剤の酸化に対する安定性を有意に向上させることができる。
【0043】
したがって、本発明によるスピロ化合物の利用により、船舶用エンジンにおいて直面する温度条件の下、耐熱性の、エンジン清浄度の、及び酸化に対する安定性の、優れた特性及び低減された灰分を示す船舶用潤滑剤を実現することが可能になる。
【0044】
更に、有利なことに、以下の実施例において説明されるように、本発明によるスピロ化合物は、特にホウ素又はアルミニウムの原子の4個の共有結合を有する(tetracovalent)配置の結果として加水分解できない。
【0045】
言い換えれば、本発明によるスピロ化合物、特に本発明によるスピロボロネート化合物は、水と接触させるとき(例えば、燃料の燃焼からの、又は凝縮状態からの結果としてあり得る)、優れた安定性を示す。水の存在下で、スピロ化合物の分解/減成がないことにより、特に、本発明による潤滑性組成物の利用中に、ホウ酸、CMR(発癌性、変異原性、及び生殖毒性)として分類される生成物の形成を防ぐことが可能になる。
【0046】
本発明はまた、船舶用エンジン向けの潤滑性組成物の洗浄能力、特に金属洗浄剤の、特に炭酸カルシウムの低減された含有率を用いる、実際は更に金属洗浄剤を含まない、潤滑性組成物の洗浄能力を向上させる方法又は手法であって、本発明による少なくとも1種のスピロ化合物を上記潤滑性組成物に添加する工程を含む、方法又は手法にも関連する。
【0047】
本発明の方法又は手法は、有利なことに、低灰分を維持しながら、上記組成物の洗浄能力を向上させることができる。
【0048】
本発明はまた、その別の態様によれば、上記船舶用エンジンの少なくとも1種の機械部品、特に、上記船舶用エンジンのリング、ピストン、及び/又はシリンダーの少なくとも一部分を、上記で定められた、本発明による潤滑性組成物に接触させる工程を含む、船舶用エンジン、特に4ストローク又は2ストロークのエンジンを洗浄する方法又はそれを洗浄する手法にも関連する。
【0049】
本発明はまた、エンジン清浄度を改善するための、船舶用エンジン、特に、船舶用エンジンのピストン-シリンダーアセンブリの潤滑目的の潤滑剤における、本発明による少なくとも1種のスピロ化合物の使用にも関連する。
【0050】
本発明はまた、その別の態様によれば、上記船舶用エンジンの少なくとも1種の機械部品、特に、上記船舶用エンジンのリング、ピストン、及び/又はライニングの少なくとも一部分を、上記で定められた潤滑性組成物に接触させる工程を含む、船舶用エンジン、特に4ストローク又は2ストロークのエンジンを潤滑する方法又はそれを潤滑する手法にも関連する。
【0051】
船舶用潤滑剤の配合のための、本発明によるスピロ化合物の利用の、他の特徴、代替形態、及び利点は、説明として与えられ、本発明を限定しない以下の記載及び実施例を読むことでより明確になるであろう。
【0052】
本発明の文脈において、表現「…~…の間」、「…~…の範囲」、及び「…~…まで変化する」は、別段の記載がなければ、同等であり、その限界値が含まれることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1a】実施例4に記載の、パドル撹拌後に得られた、スピロボロネート水中エマルジョンの粒径分布を表す図である。
図1b】実施例4に記載の、Ultra-Turrax(登録商標)撹拌後に得られた、スピロボロネート水中エマルジョンの粒径分布を表す図である。
図2a】実施例4に記載の通りに得られる、純粋なスピロボロネートのNMRスペクトルを表す図である。
図2b】実施例4に記載の通りに得られる、残留物のNMRスペクトルを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
スピロ化合物
上述されたように、本発明は、船舶用エンジン潤滑剤における、洗浄添加剤としての、1種又は複数の特異なスピロ化合物の利用に基づく。
【0055】
本発明は、とりわけ以下に定められるように、単一のスピロ化合物又は少なくとも2種の別個のスピロ化合物の混合物、特に3種又は4種の別個のスピロ化合物の混合物を用いることができると理解される。
【0056】
前述されたように、本発明に従って考えられるスピロ化合物は、以下の式(I)のものである:
【0057】
【化3】
【0058】
(式中:
Mは、ホウ素及びアルミニウムから選択される原子であり、特にホウ素原子であり;
n1及びn2は、互いに独立に、0、1、又は2の値を有し;
Rは、互いに独立に、1~50個の炭素原子、特に5~20個の炭素原子を含む炭化水素基を表す)
【0059】
本発明に従って考えられる炭化水素基は、任意選択で、1種若しくは複数のヘテロ原子、例えば、-O-、-NH-、-N=、若しくは-S-、特に-O-若しくは-NH-によって割り込まれることがあり、並びに/又は任意選択で、1種若しくは複数の、-OH基、-NH2基、及び-SH基、特に-OH基若しくは-NH2基で置換されることがある。
【0060】
特定の一実施形態によれば、R1基及びR2基は、単に炭素原子及び水素原子で構成される。
【0061】
炭化水素基は、特に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又はアラルキル基であってもよい。
【0062】
特定の一実施形態によれば、R置換基は、互いに独立に、3~50個の炭素原子、とりわけ3~30個の炭素原子、特に5~25個の炭素原子、より詳細には8~20個の炭素原子を含む、炭化水素基、好ましくは、直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族鎖を表す。
【0063】
特に、R置換基は、互いに独立に、直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族鎖、とりわけ、好ましくは直鎖状の、C1~C50アルキル鎖、とりわけC3~C30アルキル鎖、特にC5~C25アルキル鎖、より詳細にはC8~C20アルキル鎖、例えば、C10アルキル鎖又はC16アルキル鎖を表すことができる。
【0064】
特定の一実施形態によれば、n1及びn2は値0を有する。
【0065】
特定の別の実施形態によれば、n1及びn2は値1又は2を有する。
【0066】
n1が値2を有するか、又はn2が値2を有する場合、1個の環及び同じ環に保有されるR基は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0067】
特に、スピロ化合物は、前述の式(I)のものであってもよく、式中、n1及びn2は値1を有し、R置換基は同一であっても、異なっていてもよく、好ましくは同一である。
【0068】
特定の一実施形態によれば、スピロ化合物は前述の式(I)のものであり、式中:
n1及びn2は値1を有し;
同一であるR基は、好ましくは、直鎖状の、C1~C50アルキル基、とりわけC3~C30アルキル基、特にC5~C25アルキル基、より詳細にはC8~C20アルキル基、更により優先的にはC16アルキル基を表す。
【0069】
好ましい一実施形態によれば、スピロ化合物は、Mがホウ素原子である式(I)のものである。
【0070】
言い換えれば、この特定の実施形態によれば、スピロ化合物は、以下の式(I')の「スピロボロネート」化合物であってもよい。
【0071】
【化4】
【0072】
(式中、R、n1、及びn2は上記で定めた通りである)
【0073】
特定の別の実施形態によれば、スピロ化合物は、Mがアルミニウム原子である式(I)のものである。
【0074】
言い換えれば、この特定の実施形態によれば、スピロ化合物は、以下の式(I'')の「スピロアルミネート(spiroaluminate)」化合物であってもよい。
【0075】
【化5】
【0076】
(式中、n1、n2、及びRは上記で定めた通りである)
【0077】
したがって、本発明は、その別の態様によれば、前述の式(I)のスピロ化合物に関連し、式中:
- Mはアルミニウム原子であり;
- n1及びn2は、互いに独立に、値0、1、又は2を有し、n1及びn2の少なくとも一方は、値1又は2を有し;好ましくは、n1及びn2は値1を有し;
- R基は、互いに独立に、直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族鎖、特に、5~50個の炭素原子、とりわけ6~30個の炭素原子、特に8~25個の炭素原子、より詳細には10~20個の炭素原子を含む、好ましくは直鎖状アルキル鎖を表す。
【0078】
言い換えれば、本発明は、前述の式(I'')のスピロアルミネート型の化合物に関連し、式中:
- n1及びn2は、互いに独立に、値0、1、又は2を有し、n1及びn2の少なくとも一方は、値1又は2を有し;好ましくは、n1及びn2は値1を有し;
- R基は、互いに独立に、直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族鎖、特に、5~50個の炭素原子、とりわけ6~30個の炭素原子、特に8~25個の炭素原子、より詳細には10~20個の炭素原子を含む、好ましくは直鎖状アルキル鎖を表す。
【0079】
特定の一実施形態によれば、本発明によるスピロアルミネート型の化合物は、式(I'')のものであり、式中:
- n1及びn2は値1を有し;
- 同一である、又は異なる、好ましくは同一である、R基は、好ましくは、5~50個の炭素原子、とりわけ6~30個の炭素原子、特に8~25個の炭素原子、より詳細には10~20個の炭素原子を含む直鎖状アルキル鎖を表す。
【0080】
本発明に従って用いられるスピロ化合物は、サリチル酸又はサリチル酸誘導体から、及びホウ素化合物又はアルミニウム化合物から調製され得る。
【0081】
より詳細には、スピロ化合物は、
- 以下の式(Ia)のサリチル酸及びその誘導体から選択される少なくとも1種の化合物:
【0082】
【化6】
【0083】
(式中、Rは上記で定められた通りであり、nは、n1及びn2について上記で定められた通りである);並びに
- 少なくとも1種のホウ素化合物又はアルミニウム化合物、特にホウ酸又は水酸化アルミニウム
の反応によって得ることができる。
【0084】
本発明による潤滑性組成物において用いられるスピロ化合物の調製は、例えば、出願国際公開第2018/220007号及び国際公開第2018/220009号において示された化合物の調製の文脈における場合のように、サリチル酸又はその誘導体のうちの1種と、上記のホウ素化合物又はアルミニウム化合物との反応に続いて、アミン化合物との反応の任意の工程を伴わない。
【0085】
前述の式(Ia)のサリチル酸及びその誘導体は、当業者に公知の合成方法に従って合成することができ、又は市販されているものであってもよい。
【0086】
ホウ素化合物(言い換えれば、ホウ素系化合物)は、特に、ホウ酸(B(OH)3)、ボロン酸、ホウ酸エステル及びボロン酸エステル、酸化ホウ素、及びホウ酸錯体から選択され得る。
【0087】
特に、ホウ素化合物は、ホウ酸;酸化ホウ素;ホウ酸錯体;特にアルキル基が、互いに独立に、1~4個の炭素原子を含むトリアルキルボレート;C1~C12アルキル基を呈するボロン酸;2個のアルキル基、特にC1~C12アルキル基で置換されたホウ酸;2個のアリール基、特にC6~C12アリール基で置換されたホウ酸;1個又は2個のアラルキル基、特にC7~C12アラルキル基で置換されたホウ酸、及び1種又は複数のアルコキシ基による、少なくとも1種のアルキル基の置換によって得られる、これらの化合物の誘導体から選択され得る。
【0088】
ホウ酸錯体は、特にホウ素と、1種又は複数のアルコール官能基を含む、1種又は複数の分子との錯体である。
【0089】
特定の一実施形態によれば、ホウ素化合物はホウ酸である。
【0090】
アルミニウム化合物(言い換えれば、アルミニウム系化合物)は、特に、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化アルミニウム、又は硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)から選択され得る。
【0091】
望ましいスピロ化合物を得るために、上記化合物(Ia)とホウ素化合物又はアルミニウム化合物との間の反応条件を調節するのは、当業者次第である。
【0092】
特に、反応は、1種又は複数の非極性溶媒及び/又は極性プロトン性溶媒で構成される溶媒媒体において実行され得る。
【0093】
溶媒媒体は、ナフサ、極性プロトン性溶媒、例えば、水及びアルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノール、並びにその混合物から選択される、1種又は複数の溶媒で構成され得る。
【0094】
有利なことに、望ましいスピロ化合物を得るための、サリチル酸又は前述の式(Ia)のその誘導体のうちの1種と、ホウ素化合物又はアルミニウム化合物との間の反応、特に、望ましいスピロボロネート化合物を得るための、サリチル酸又は式(Ia)のその誘導体のうちの1種と、ホウ素化合物との間の反応は、非極性非プロトン性溶媒媒体において、特にトルエンにおいて実行され得る。
【0095】
本発明の文脈において:
- 用語「炭化水素基」は、芳香族又は非芳香族の、直鎖状、分枝鎖状、又は環式の、飽和又は不飽和の、炭素及び水素を含む基を意味すると理解される;
- 用語「脂肪族鎖」は、非芳香族の、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分枝鎖状の、炭素原子及び水素原子のみで構成される炭化水素基を意味すると理解される。好ましくは、脂肪族鎖はアルキル鎖である;
- 用語「アルキル」は、飽和の、直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族基を意味すると理解され;例えば、Cx~Czアルキルは、飽和の、直鎖状又は分枝鎖状の、x~z個の炭素原子の炭素鎖を表す;
- 用語「アルケニル」は、直鎖状又は分枝鎖状の、モノ不飽和又はポリ不飽和の脂肪族基を意味すると理解される;
- 用語「シクロアルキル」は、環式アルキル基を意味すると理解され;例えば、Cx~Czシクロアルキルは、x~z個の炭素原子の環式炭素基、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、又はシクロヘプチルを表す;
- 用語「アリール」は、特に6~10個の間の炭素原子を含む、単環式芳香族基又は多環式芳香族基を意味すると理解される。アリール基の例として、フェニル基又はナフチル基が挙げられ得る;
- 用語「アラルキル」は、上記で定められた少なくとも1種のアルキル基で置換された、上記で定められたアリール基を意味すると理解される。
【0096】
上記スピロ化合物は、有利なことに、船舶用潤滑剤の洗浄能力の要求されるレベルを実現するのに十分な含有率で用いられる。有利なことに、上記潤滑性組成物の全質量に対して、更に少量のスピロ化合物、特に3質量%未満により、カルシウムベース洗浄剤等の金属洗浄剤が含まれなくても、要求される洗浄能力を実現することが可能になる。
【0097】
勿論、用いられるスピロ化合物の量は、船舶用潤滑剤の組成に応じて、より詳細には、他の洗浄添加剤の、特に金属添加剤の、例えば、潤滑剤中に存在するカルシウムベースの過塩基化洗浄剤及び/又は中性洗浄剤の、有無及び用いられる量を考慮して調節され得る。
【0098】
一般に、本発明に従って考えられる上記スピロ化合物は、特に上記で定められたように、上記船舶用潤滑性組成物の全質量に対して、0.1質量%~20質量%、とりわけ0.2質量%~15質量%、特に0.5質量%~10質量%、より詳細には0.5質量%~5質量%の割合で用いられ得る。
【0099】
潤滑性組成物
本発明に従って考えられる船舶用エンジン向けの潤滑性組成物は、より詳細には、1種又は複数の基油、及び任意選択で、船舶用潤滑剤において従来考慮される他の添加剤を含む。
【0100】
他の添加剤の性質及び量は、潤滑剤の目的の観点で、より詳細には、意図される船舶用エンジンの種類の観点で調整されると理解される。
【0101】
基油
従来、本発明による船舶用潤滑剤は、1種又は複数の基油を含む。
【0102】
これらの基油は、船舶用潤滑剤の分野で従来使用される基油、例えば、鉱油、合成油若しくは天然油、動物油若しくは植物油、又はその混合物から選択され得る。
【0103】
いくつかの基油の混合物、例えば、2種の基油、3種の基油、又は4種の基油の混合物が考慮され得る。
【0104】
本発明に従って考えられる船舶用潤滑剤の基油は、特に、API分類(又はATIEL分類でのその等価物)において定められた分類に準じた、以下のTable A(表1)に表されるI群~V群に属する、鉱物起源若しくは合成起源の油又はその混合物であることができる。
【0105】
【表1】
【0106】
鉱物質基油は、粗油の常圧蒸留及び真空蒸留、続いて、溶媒抽出、脱歴、溶媒脱ろう、水素処理、水素化分解、水素異性化、及び水素化仕上げ等の精製操作によって得られる、全ての種類の基油を含む。I群の鉱物質ベースは、例えば、ニュートラルソルベント(例えば、150NS、330NS、500NS、若しくは600NS)又はブライトストックと称されるベースである。
【0107】
合成基油は、カルボン酸のエステル及びアルコールのエステル、ポリ-α-オレフィン、又は2~8個の炭素原子、特に2~4個の炭素原子を含むアルキレンオキシドの重合又は共重合によって得られるポリアルキレングリコール(PAG)であってもよい。基油として使用されるポリ-α-オレフィンは、例えば、4~32個の炭素原子を含むモノマーから、例えば、デセン、オクテン、又はドデセンから得られ、規格ASTM D445に準じた、100℃でのその粘度は、1.5~15mm2.秒-1の間である。その平均分子量は、一般に、規格ASTM D5296に準じて、250~3000の間である。
【0108】
バイオベースであってもよい、合成油及び鉱油の混合物もまた用いられ得る。
【0109】
船舶用エンジンの潤滑のための使用に好適な、特に、粘度、粘度指数、硫黄含有率、又は酸化に対する耐性の特性を有する必要があるという事実は別にして、潤滑性組成物における様々な基油の利用に関して、一般に制限は存在しない。
【0110】
特に、本発明による潤滑性組成物は、規格ASTM D445に準じて測定された、100℃での動粘性率5.6mm2/秒~26.1mm2/秒の間に相当する、SAEJ300分類に準じた、SAE-20、SAE-30、SAE-40、SAE-50、又はSAE-60の粘度グレードを有する。
【0111】
グレード40の油は、規格ASTM D445に準じて測定された、100℃での動粘性率12.5mm2/秒~16.3mm2/秒の間を有する。グレード50の油は、規格ASTM D445に準じて測定された、100℃での動粘性率16.3mm2/秒~21.9mm2/秒の間を有する。グレード60の油は、規格ASTM D445に準じて測定された、100℃での動粘性率21.9mm2/秒~26.1mm2/秒を有する。
【0112】
基油は、本発明による潤滑性組成物において、その全質量に対して、少なくとも50質量%の、特に少なくとも60質量%の、より詳細には65質量%~99質量%の範囲の、好ましくは70質量%~98質量%の範囲の、例えば65質量%~95質量%の範囲の含有率で存在することができる。
【0113】
添加剤
本発明による潤滑性組成物は、船舶用潤滑剤において一般に用いられる、全ての種類の添加剤を含むことができる。
【0114】
用いられる他の添加剤の性質は、船舶用潤滑剤で求められる特性に悪影響を及ぼさないように選択されると理解される。
【0115】
これらの添加剤は、単独で、及び/又は混合物の形態で、又は「添加剤パッケージ」、例えば、船舶用エンジン向けの市販の潤滑性配合物で、既に販売可能なもので導入され得る。
【0116】
上記スピロ化合物とは区別されるこれらの添加剤は、特に、上記スピロ化合物とは区別される他の洗浄添加剤、とりわけ過塩基化金属洗浄添加剤及び中性金属洗浄添加剤、全塩基価(TBN)を改善する塩基性有機添加剤、耐摩耗添加剤、分散添加剤、粘度指数(VI)向上剤、増粘剤、消泡剤、酸化防止添加剤、防錆添加剤、及びその混合物から選択され得る。
【0117】
他の洗浄剤
特に上記で定められた、本発明による1種又は複数のスピロ化合物を組み込んだ、本発明に従って考えられる船舶用潤滑剤は、1種又は複数の他の洗浄添加剤、特に1種又は複数の金属洗浄添加剤を含むことができる。
【0118】
前述されたように、金属洗浄剤は、高レベルの洗浄力をもたらすことが当業者に知られている。しかし、これらの金属化合物は、硫酸灰分の発生元になるという不利な点を示す。
【0119】
それらは、一般に、長い親油性炭化水素鎖及び親水性ヘッドを含むアニオン化合物であり、会合したカチオンが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属カチオンであることができる。
【0120】
それらは、一般に、カルボン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特に、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、フェネート、カルボン酸塩、及びこれらの混合物から選択される。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、優先的には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、又はバリウムである。
【0121】
これらの金属塩は、一般に、化学量論量の金属(非過塩基化洗浄剤又は「中性」洗浄剤を参照のこと)、又は過剰の金属、故に化学量論量よりも多い量の金属を含む。後者の場合、それらは、過塩基化洗浄添加剤であり;したがって、過塩基化特質を洗浄添加剤に付与する、過剰な金属は、一般に、基油に不溶である金属塩の形態、例えば、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、又はグルタミン酸塩、優先的には炭酸塩である。
【0122】
特定の一実施形態によれば、本発明による船舶用潤滑剤は、上記スピロ化合物とは区別される、少なくとも1種の金属洗浄添加剤、特に、少なくとも1種の過塩基化洗浄添加剤及び/又は少なくとも1種の中性洗浄添加剤を含む。
【0123】
特に、過塩基化洗浄剤及び/又は中性洗浄剤は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、及びバリウムから選択される金属に基づいた化合物、優先的にはカルシウム又はマグネシウムに基づいた化合物である。
【0124】
好ましくは、過塩基化洗浄剤は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩の群から選択される不溶性金属塩、優先的には、炭酸カルシウムによって過塩基化される。
【0125】
本発明による船舶用潤滑剤において用いられる過塩基化洗浄剤は、特に、炭酸カルシウムで過塩基化された、フェネート、スルホン酸塩、サリチル酸塩、カルボン酸塩、及び混合洗浄剤(フェネート-スルホン酸塩-サリチル酸塩)から、より詳細には、炭酸カルシウムで過塩基化されたスルホン酸塩及びフェネートから選択され得る。
【0126】
前述されたように、本発明による船舶用潤滑剤に含まれる、金属洗浄剤の、特に過塩基化洗浄剤の、及び/又は中性洗浄剤の含有率は、特に、潤滑剤の全塩基価の望ましい値を得るように調整され得る。
【0127】
特に、本発明による船舶用潤滑剤は、規格ASTM D2896に準じて測定される全塩基価TBN、潤滑剤1グラム当たりのKOH140mg以下、とりわけ潤滑剤の5mg KOH/g~140mg KOH/gの間、とりわけ潤滑剤の5mg KOH/g~100mg KOH/gの間、特に潤滑剤の10mg KOH/g~60mg KOH/gの間を示すことができる。
【0128】
特定の一実施形態によれば、本発明による船舶用エンジン向けの潤滑剤は:
- 1種又は複数の基油;
- 本発明による少なくとも1種のスピロ化合物、特に、本発明による少なくとも1種のスピロボロネート化合物;並びに
- 上記スピロ化合物とは区別される、少なくとも1種の金属洗浄添加剤、とりわけ、上記で定められたように、特にカルシウムに、又はマグネシウムに基づいた、少なくとも1種の過塩基化洗浄剤及び/又は少なくとも1種の中性洗浄剤
を少なくとも含む。
【0129】
有利なことに、上述されたように、本発明による1種又は複数のスピロ化合物の添加によって、船舶用潤滑剤で要求される洗浄能力を付与することができ、金属洗浄添加剤が生じる灰分の観点で望ましくない、上記で定められた金属洗浄添加剤の含有率を、良好な洗浄特性を維持しながら減らすことができる。
【0130】
特定の一実施形態によれば、本発明による船舶用潤滑性組成物は、上記組成物の全質量に対して、本発明によるスピロ化合物とは区別される金属洗浄添加剤を25質量%未満、とりわけ0.1質量%~25質量%、より詳細には5質量%~15質量%含むことができる。
【0131】
特定の一実施形態によれば、本発明による潤滑性組成物は、上記組成物の全質量に対して、本発明によるスピロ化合物とは区別される金属洗浄添加剤を15質量%未満、とりわけ10質量%未満、より詳細には0.1質量%~10質量%、とりわけ0.5質量%~5質量%含むことができる。
【0132】
特に、上記金属洗浄添加剤は、潤滑性組成物において、10000ppm以下の、とりわけ100ppm~10000ppmの範囲の、好ましくは250ppm~6000ppmの範囲の、金属元素の含有率、特に、カルシウムの含有率をもたらすように存在することができる。
【0133】
特定の一実施形態によれば、本発明による船舶用潤滑剤は:
- 1種又は複数の基油60質量%~98.9質量%、特に65質量%~98質量%;
- 上記で定められた、本発明による少なくとも1種のスピロ化合物、より詳細には本発明による少なくとも1種のスピロボロネート化合物0.1質量%~20質量%、とりわけ0.2質量%~15質量%、より詳細には0.5質量%~10質量%
- 任意選択で、とりわけ、本発明による上記スピロ化合物とは区別される、特にカルシウムに、又はマグネシウムに基づいた、上記で定められた過塩基化金属洗浄剤及び中性金属洗浄剤から選択される、1種又は複数の金属洗浄添加剤1質量%~30質量%、とりわけ5質量%~25質量%
を含むことができ、
含有率は、上記船舶用潤滑剤の全質量に対して表される。
【0134】
更に、特定の一実施形態によれば、本発明による潤滑性組成物は、とりわけ、トリアミン型又はテトラミン型の脂肪族アミンを含まない。
【0135】
他の添加剤
本発明に従って考えられる潤滑性組成物はまた、潤滑性組成物の、TBNと称される全塩基価を増やすことを可能にする、少なくとも1種の塩基性有機添加剤も含むことができる。
【0136】
「TBNブースター」と称される、これらの塩基性有機添加剤により、組成物の全塩基価を増やすことができ;言い換えれば、それらにより、酸を中和することができ、改善された洗浄力性能品質を実現することができる。
【0137】
TBNを改善する塩基性有機添加剤は、当業者に公知である。
【0138】
塩基性有機添加剤は、特に、アミノ有機添加剤、アルキル化有機添加剤、若しくは芳香族有機添加剤、又は窒素分散剤であってもよい。
【0139】
特に、TBNを改善する上記塩基性有機添加剤は、上記潤滑性組成物の全質量に対して、0.1質量%以上の含有率で、とりわけ、0.1質量%~10質量%の間の、より詳細には0.5質量%~7質量%の間の、好ましくは1質量%~5質量%の間の含有率で用いられ得る。
【0140】
本発明に従って考えられる潤滑性組成物はまた、とりわけ、金属洗浄剤の影響を打ち消すために用いられる、少なくとも1種の消泡添加剤を含むこともできる。消泡添加剤は、極性ポリマー、例えば、ポリメチルシロキサン又はポリアクリレート;スクシンイミド及びその誘導体、とりわけ、ポリイソブチレンスクシンイミド(PIBSI)又はポリイソブチレンコハク酸無水物(PIBSA)から選択され得る。
【0141】
特に、本発明に従って考えられる潤滑性組成物は、潤滑性組成物の全質量に対して、消泡添加剤を0.01質量%~3質量%含むことができる。
【0142】
本発明に従って考えられる潤滑性組成物はまた、粘度指数(VI)向上剤を含むこともできる。粘度指数(VI)向上剤、とりわけ粘度指数を改善するポリマーは、良好な耐寒性及び高温での最小粘度を保証することを可能にする。粘度指数を改善するポリマーの例として、高分子エステル、スチレンの、ブタジエンの、及びイソプレンの、水素化又は非水素化の、ホモポリマー又はコポリマー、オレフィン、例えば、エチレン又はプロピレンのホモポリマー又はコポリマー、ポリアクリレート、並びにポリメタクリレート(PMA)を挙げることができる。
【0143】
特に、本発明による潤滑性組成物において、粘度指数を改善する添加剤は、潤滑性組成物の全質量に対して、1質量%~15質量%の、とりわけ2質量%~10質量%の範囲の含有率で存在することができる。
【0144】
本発明による潤滑性組成物は、少なくとも1種の耐摩耗添加剤及び/又は極圧添加剤を含むことができる。耐摩耗添加剤は、これらの表面に吸着させた保護膜の形成によって、摩擦から表面を保護する。
【0145】
多種多様な耐摩耗添加剤が存在する。好ましくは、本発明による潤滑性組成物について、耐摩耗添加剤は、リン-硫黄添加剤、例えば、アルキルチオリン酸金属、特にアルキルチオリン酸亜鉛、より詳細にはジアルキルジチオリン酸亜鉛又はZnDTPから選択される。好ましい化合物は、式Zn(SP(S)(OR3)(OR4))2のものであり、式中、同一であるか、又は異なるR3及びR4は、独立に、アルキル基、優先的には、1~18個の炭素原子を含むアルキル基を表す。
【0146】
リン酸アミン、ポリスルフィド、特に硫黄含有オレフィンもまた、本発明による潤滑性組成物において用いられ得る耐摩耗添加剤である。
【0147】
有利なことに、極圧添加剤及び/又は耐摩耗添加剤は、本発明による潤滑性組成物において、潤滑性組成物の全質量に対して、0.01質量%~6質量%の範囲の、優先的には0.05質量%~4質量%の範囲の、より優先的には0.1質量%~2質量%の範囲の含有率で存在することができる。
【0148】
本発明に従って考えられる潤滑性組成物は、少なくとも1種の酸化防止添加剤を含むことができる。酸化防止添加剤は、本質的に、使用中の潤滑性組成物の分解を遅らせることに寄与する。この分解は、特に、付着物の形成によって、又は潤滑性組成物の粘度の増加によって反映され得る。それらは、特に、ラジカル阻害剤又はヒドロペルオキシドの破壊剤として作用する。
【0149】
一般に用いられる酸化防止添加剤の中でも、フェノール型の酸化防止添加剤、アミノ型の酸化防止添加剤、又はリン-硫黄酸化防止添加剤を挙げることができる。これらの酸化防止添加剤の一部、例えば、リン-硫黄酸化防止添加剤は、灰分の発生元であり得る。フェノール酸化防止添加剤は、灰分を含まないことができ、又は中性金属塩若しくは塩基性金属塩の形態であり得る。酸化防止添加剤は、特に、立体障害フェノール、立体障害フェノールエステル、及びチオエーテルブリッジを含む立体障害フェノール、ジフェニルアミン、少なくとも1種のC1~C12アルキル基で置換されたジフェニルアミン、N,N'-ジアルキルアリールジアミン、及びその混合物から選択され得る。
【0150】
好ましくは、立体障害フェノールは、フェノール基を含む化合物であって、その化合物の、アルコール官能基を保有する炭素の少なくとも1個の近接の炭素が、少なくとも1種のC1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基で、好ましくはtert-ブチル基で置換される、化合物から選択される。
【0151】
アミノ化合物は、任意選択で、フェノール酸化防止添加剤と組み合わせて使用され得る、別の分類の酸化防止添加剤である。アミノ化合物の例は、芳香族アミン、例えば、式NR5R6R7の芳香族アミン(式中、R5は、任意選択で置換される、脂肪族基又は芳香族基を表し、R6は、任意選択で置換される芳香族基を表し、R7は、水素原子、アルキル基、アリール基、又は式R8S(O)zR9の基を表し、式中、R8は、アルキレン基又はアルケニレン基を表し、R9は、アルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表し、zは0、1、又は2を表す)である。
【0152】
硫化アルキルフェノール又はそのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩もまた、酸化防止添加剤として使用され得る。
【0153】
本発明に従って考えられる潤滑性組成物は、当業者に公知の、任意の種類の酸化防止添加剤を含有することができる。
【0154】
有利なことに、酸化防止添加剤は、本発明による潤滑性組成物において、潤滑性組成物の全質量に対して、0.01質量%~10質量%、優先的には0.05質量%~8質量%、より優先的には0.1質量%~5質量%、更により優先的には0.1質量%~2質量%の範囲の含有率で存在することができる。
【0155】
上述されたように、本発明によるスピロ化合物は、酸化に対する優れた安定性を有する船舶用潤滑剤を提供することを可能にする。
【0156】
したがって、本発明はまた、上記潤滑性組成物の酸化に対する安定性を改善するための、船舶用エンジン向けの潤滑性組成物における添加剤としての、本発明に従って定められた、式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物の使用にも関連する。
【0157】
結果として、本発明による船舶用潤滑剤は、有利なことに、上記潤滑剤の全質量に対して、10質量%以下の、特に5質量%以下の、特に0.1質量%~2質量%の範囲の、酸化防止添加剤の含有率を含むことができ、実際は更に、他の酸化防止添加剤を完全に含まない。
【0158】
本発明に従って考えられる潤滑性組成物はまた、少なくとも1種の分散剤を含むこともできる。分散剤は、懸濁液の維持、及び潤滑性組成物が使用中である場合に形成される酸化副生成物、又は燃焼残渣、灰化されていない材料、又は任意の他の混入物で構成される不溶性固体混入物の排出を確実なものにする。分散剤は、マンニッヒ塩基、スクシンイミド、及びその誘導体から選択され得る。
【0159】
特に、本発明に従って考えられる潤滑性組成物は、組成物の全質量に対して、分散剤を0.2質量%~10質量%含むことができる。
【0160】
前述されたように、上記で詳細に記載された、組み合わせた添加剤は、添加剤の混合物又は「パッケージ」の形態で導入され得る。
【0161】
本実施形態によれば、添加剤パッケージは、組成物の全質量に対して、1質量%~35質量%、とりわけ2質量%~30質量%、好ましくは5質量%~25質量%の範囲を占めることができる。
【0162】
特定の一実施形態によれば、本発明による船舶用エンジン向けの潤滑性組成物は:
- 基油又は基油の混合物;
- 特に上記で定められた、本発明による1種又は複数のスピロ化合物、より詳細には本発明による1種又は複数のスピロボロネート化合物;
- 任意選択で、上記スピロ化合物とは区別される、他の洗浄添加剤、特に過塩基化金属洗浄添加剤及び中性金属洗浄添加剤;耐摩耗添加剤;全塩基価を改善する塩基性有機添加剤;分散添加剤;粘度指数(VI)向上剤;増粘剤;消泡剤;酸化防止添加剤;防錆添加剤;及びその混合物から選択される、1種又は複数の添加剤
を含むことができ、実際は更にそれらで構成され得る。
【0163】
好ましくは、本発明による船舶用エンジン向けの潤滑性組成物は:
- 1種又は複数の基油60質量%~98.9質量%、特に70質量%~90質量%;
- 特に上記で定められた、本発明による1種又は複数のスピロ化合物、より詳細には本発明による1種又は複数のスピロボロネート化合物0.1質量%~20質量%、好ましくは0.5質量%~10質量%;
- 特に、過塩基化金属洗浄添加剤及び中性金属洗浄添加剤から選択される他の洗浄添加剤;全塩基価を改善する塩基性有機添加剤;耐摩耗添加剤;分散添加剤;粘度指数(VI)向上剤;増粘剤;消泡剤;酸化防止添加剤;防錆添加剤;及びその混合物から選択される、1種又は複数の添加剤1質量%~35質量%、好ましくは5質量%~25質量%
を含み、実際は更にそれらで構成され、
含有率は、上記潤滑性組成物の全質量に対して表される。
【0164】
特に、本発明による船舶用エンジン向けの潤滑性組成物は:
- 1種又は複数の基油60質量%~97.9質量%、特に70質量%~90質量%;
- 特に上記で定められた、本発明によるスピロ化合物、より詳細には、本発明による1種又は複数のスピロボロネート化合物0.1質量%~20質量%、好ましくは0.5質量%~10質量%;
- とりわけ、上記スピロ化合物とは区別される、特にカルシウムに、又はマグネシウムに基づいた、上記で定められた過塩基化金属洗浄剤及び中性金属洗浄剤から選択される、1種又は複数の金属洗浄添加剤1質量%~30質量%、とりわけ5質量%~25質量%;並びに
- 任意選択で、全塩基価を改善する塩基性有機添加剤;耐摩耗添加剤;分散添加剤;粘度指数(VI)向上剤;増粘剤;消泡剤;酸化防止添加剤;防錆添加剤;及びその混合物から選択される、1種又は複数の他の添加剤1質量%~30質量%、特に3質量%~20質量%
を含むことができ、実際は更にそれらで構成されることができ、
含有率は、上記潤滑性組成物の全質量に対して表される。
【0165】
用途
上述されたように、本発明による潤滑性組成物は、4ストロークエンジン又は2ストロークエンジンの潤滑に好適である。
【0166】
したがって、本発明は、その別の態様によれば、船舶用エンジンを潤滑するための洗浄添加剤として、1種又は複数のスピロ化合物を組み込んだ、上記で定められた組成物の使用に関連する。
【0167】
耐熱性の、及び酸化に対する安定性のその良好な特性により、言い換えれば、船舶用エンジンの少なくともピストン-リング-ライナー領域の潤滑のためのシリンダー油として、及び/又はピストン-リング-ライナーアセンブリの外側のエンジンの可動部品の潤滑のためのシステム油として、潤滑性組成物が特に好適なものになる。
【0168】
潤滑性組成物は、遅い船舶用エンジン、やや速い船舶用エンジン、速い船舶用エンジンに用いられ得る。
【0169】
潤滑性組成物は、特にディーゼル船舶用エンジンに用いられ得る。
【0170】
潤滑性組成物はまた、船舶用エンジンに用いることもでき、その燃料は、有機物質、又はバイオ燃料、例えば、バイオディーゼル、バイオエタノール、若しくはやはりアンモニアから少なくとも部分的に得られる。
【0171】
式(I)のスピロ化合物、及び式(I)のスピロ化合物を含む潤滑性組成物に関連する、特定の特徴及び実施形態の全ては、本発明に従って目標とされる使用、方法、及び手法にも適用される。
【0172】
本発明は、説明として与えられ、本発明を限定しない、以下の実施例によって更に記載されることになる。
【実施例
【0173】
(実施例1)
潤滑性組成物の調製
様々な潤滑性組成物を、以下の化合物から調製した。
- 潤滑性基油1:規格ASTM D7279に準じて測定された、40℃での粘度120mm2/秒を有する、I群の鉱油;
- 潤滑性基油2:規格ASTM D7279に準じて測定された、40℃での粘度500mm2/秒を有する、I群の鉱油;
- 中性フェネート型の金属洗浄添加剤(フェネートの116mg KOH/gに等しいBNを有する硫化カルシウムフェネート);炭酸カルシウムで過塩基化されたスルホン酸塩型の金属洗浄添加剤(過塩基化スルホン酸塩の400mg KOH/gに等しいBN)、及びシリコン系消泡剤を含む添加剤パッケージ;
- 本発明によるスピロボロネート化合物(Mがホウ素原子であり、Rがそれぞれ、C16アルキル基を表し、n1及びn2が値1を有する、本発明による式(I)のスピロ化合物)
【0174】
様々な潤滑剤の成分及びその量(組成物の全質量に対して、質量パーセントで表される)を以下の表に示す。潤滑剤は、様々な成分の、60℃での単独の混合によって配合される。
【0175】
【表2】
【0176】
潤滑剤は、規格ASTM D-2896に準じて評価され、mg KOH/gで表され、TBNと示す、その全塩基価によって特徴づけられる。
【0177】
【表3】
【0178】
(実施例2)
潤滑剤の耐熱特性の評価
連続ECBT試験
実施例1において調製された潤滑剤の耐熱性は、連続ECBT試験の実施によって評価した。この試験により、クランクケースから発生する潤滑性組成物が、船舶用エンジンの高温部分にわたって、特に、ピストンの上部で噴霧されるときの、船舶用潤滑剤の熱安定性及び洗浄力の両方をシミュレートすることが可能になる。
【0179】
この試験の詳細な記載は、Jean-Philippe Romanによる表題「Research and Development of Marine Lubricants in ELF ANTAR France - The Relevance of Laboratory Tests in Simulating Field Performance」Marine Propulsion Conference、2000 - Amsterdam - 3月29~30日、2000年の出版物において示される。
【0180】
ストップ&ゴーECBT試験
連続ECBT試験について上述された、同じ種類の試験が、繰り返し条件下で実行される。
【0181】
この試験は、ピストンリングのベルト領域における潤滑剤の挙動を反映する。
【0182】
試験される生成物は、周期的なシーケンスに従って、ビーカー内に噴霧され、その間、停止するステップの時間は、開始するステップの時間よりも3倍より長い。試験温度は、270℃~310℃の間で選択され、試験時間は1時間である。1周期の最後に、ビーカーの冷却が、飛沫なく自然に実行され、それはワニスの形成に大いに寄与する。ストップ&ゴー試験の最終結果は、Jean-Philippe Romanによる前述の出版物に記載の方法に従った視覚的評価に基づく。
【0183】
手法は、以下の通りである:ワニスの色及び表面の被覆の程度の両方に基づいたビデオ選別が実行される。選別は、0~100ポイントのスケールで実行される。少なくとも3つの温度について、それぞれの組成物の性能品質を報告する曲線がグラフにプロットされる。曲線が、メリットスケール100での性能指数レベル50で交わるとき、その対応する温度が記される。
【0184】
結果
潤滑剤のそれぞれについて得られた結果を以下の表に照らし合わせる。
【0185】
連続ECBT試験の結果
【0186】
【表4】
【0187】
これらの結果によれば、本発明のスピロボロネートによる金属洗浄剤の置き換えにより、エンジンの高温部分で直面する高温条件下での、潤滑剤の耐熱性の改善がもたらされる。
【0188】
したがって、金属洗浄添加剤の完全な、又は部分的な置き換えにおいて、本発明によるスピロボロネート化合物を組み込んだ潤滑剤は、船舶用エンジンにおける利用の条件下で、より少ない炭素付着物を形成し、言い換えれば改善された洗浄特性を示し、故にエンジンの清浄度を改善することを可能にする。
【0189】
ストップ&ゴーECBT試験の結果
【0190】
【表5】
【0191】
これらの結果によれば、船舶用潤滑剤において、金属洗浄添加剤に加えた、実際には更に金属洗浄添加剤の置き換えでの、本発明のスピロボロネート化合物の利用により、船舶用エンジンのピストンリングのベルトで用いられるものを反映する条件下での潤滑剤の熱安定性を改善し、故に洗浄特性を改善することが可能になる。
【0192】
(実施例3)
潤滑剤の酸化に対する安定性特性の評価
酸化に対する安定性は、圧力示差走査熱量測定によって評価され、それは、潤滑性組成物の酸化誘導時間(OIT)を決定する。これは、規格CEC L-85 T-99に基づく潤滑油産業における標準的な手順である。
【0193】
このプロトコルによれば、試験される潤滑性組成物は、一般に、試験される試料の平均分解温度よりもおよそ25℃低い高温に加熱され(この場合、50℃~210℃)、潤滑剤が分解し始める時間が測定される。分で表される試験時間が長いほど、潤滑剤の酸化に対する安定性はより良好である。
【0194】
結果
潤滑剤のそれぞれについて得られた結果を以下の表において照らし合わせる。
【0195】
【表6】
【0196】
これらの結果によれば、本発明のスピロボロネート化合物の添加により、潤滑剤の酸化に対する安定性を有意に改善することが可能になる。
【0197】
(実施例4)
水の存在下でのスピロボロネート化合物の安定性の評価
本発明によるスピロボロネート化合物の水に対する安定性を、以下に記載されたように評価した。
【0198】
試験されるスピロボロネート化合物は、式(I)のスピロ化合物(式中、Mはホウ素原子であり、Rはそれぞれオクタデシル(C18)鎖を表し、n1及びn2は値1を有する)であり、言い換えれば、以下の式のものである。
【0199】
【化7】
【0200】
スピロボロネート化合物を、予め合成されたサリチル酸誘導体(2-ヒドロキシ-5-オクタデシル安息香酸)及びホウ酸から調製した。
【0201】
トルエン(65ml)中の2-ヒドロキシ-5-オクタデシル安息香酸(8.9g、22.8mmol、2当量)及びホウ酸(0.70g、11.4mmol、1.0当量)を、水を取り除くためのディーンスターク装置を備え、機械式撹拌機を備えた、窒素下の250mlの三ツ口丸底フラスコに導入した。反応の終点まで、混合物を還流で加熱し、スピロボロネート化合物を回収した。
【0202】
スピロボロネート化合物を5質量%で水中に分散させた。エマルジョンを勢いよくパドル撹拌させ、続いてUltra-Turrax(登録商標)撹拌機を用いてより強く撹拌させた。
【0203】
それぞれの撹拌後に得られたエマルジョンは、安定であった。それらを、Malvern Mastersizer 2000粒径分析機を用いて、レーザー粒径分析によって分析した。
【0204】
パドル撹拌後に得られたエマルジョンの粒径分布(図1a)及びUltra-Turrax(登録商標)撹拌後に得られたエマルジョンの粒径分布(図1b)を図1に表す。
【0205】
その後、スピロボロネートの水中エマルジョンを、水を蒸発させるために、真空ロータリーエバポレーターに通した。水の蒸発から得られた残留物を、回収し、1H NMRで分析した。
【0206】
残留物のNMRスペクトルを、純粋なスピロボロネート化合物のNMRスペクトルと比較した。
【0207】
純粋なスピロボロネートのNMRスペクトル(図2a)及び上記の通りに得られた残留物のNMRスペクトル(図2b)を図2に表す。
【0208】
2つのスペクトルの比較によれば、得られた残留物は、原料のスピロボロネートに対応する。したがって、スピロボロネート化合物は、水の存在下で加水分解を受けない。
図1a
図1b
図2a
図2b
【国際調査報告】