(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】MIMOサンプリングと位相再合成を使用した分散型音響センシング感度向上
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01H9/00 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521034
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-04-05
(86)【国際出願番号】 US2022046498
(87)【国際公開番号】W WO2023064427
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504080663
【氏名又は名称】エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】NEC Laboratories America, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ホワン、 ユエ-カイ
(72)【発明者】
【氏名】イプ、 エズラ
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064BC12
2G064BC33
2G064CC17
(57)【要約】
本開示の態様は、MIMOサンプリングおよび位相再合成による感度向上を示す分散型光ファイバセンシング(DFOS)/分散型音響センシング(DAS)システム、方法、および構造を記載する。
【選択図】
図1(A)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MIMOサンプリングおよび位相合成を使用する分散型光ファイバセンシング/分散型音響センシング(DFOS/DAS)のための方法であって、
マルチチャネルDFOS/DASシステムであって、
光ファイバセンサケーブルと、
前記光ファイバセンサケーブルと光通信するマルチチャネルDFOS/DASインテロゲータと、
前記マルチチャネルDFOS/DASインタロゲータによって受信されたマルチチャネルDFOS/DASセンシングデータを分析するように構成された高機能なアナライザと、
を有するマルチチャネルDFOS/DASシステムを設けること、
前記マルチチャネルDFOS/DASインタロゲータを動作させて、複数のチャネル上で前記光ファイバセンサケーブルを質問し、前記複数チャネルの前記光ファイバセンサケーブルからレイリー反射信号を受信すること、
前記複数のチャネルの前記受信したレイリー反射信号を合成して、望ましい位相雑音特性を示す位相信号出力を生成することを含む方法。
【請求項2】
前記受信したレイリー反射信号は、T
frameのチャネル質問期間で受信される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インタロゲータによって生成された質問信号は、T
frameの数分の1だけ前記チャネルごとに時間的にずらされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マルチチャネルDFOS/DASインテロゲータの質問信号は、前記光ファイバセンサケーブルの単一ファイバに入射される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のチャネルは、複数の周波数分割多重化された周波数/波長チャネルを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記マルチチャネルDFOS/DASインテロゲータの質問信号が、同じケーブル内の複数のファイバに入射される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記マルイチチャネルDFOS/DASインテロゲータの質問信号が、同じマルチコア光センサケーブルの複数のコアに入射される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記マルチチャネルDFOS/DASインテロゲータの質問信号が、同じマルチモードファイバの複数のモードとして入射される、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
隣接するチャネル間の時間オフセットはT
frame/Nであり、Nは前記マルチチャネルDFOS/DAS MIMOの動作におけるチャネルの数である、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記マルチチャネルDFOS/DASインタロゲータは、単一の送信機・受信機構成(単一の送信/受信/周波数分割多重TX/RX FDM)を含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、分散型光ファイバセンシング(DFOS)システム、方法、及び構造に関し、より詳細には、MIMOサンプリング及び位相再合成を使用した分散型音響センシング(DAS)感度向上に関する。
【背景技術】
【0002】
分散型音響センシング(DAS)は、設置された光ファイバケーブルの全長に沿ってインタロゲータが振動および音響信号を遠隔から検出できるようにする光ファイバセンシング技術である。DASは、特にインフラストラクチャの監視、石油とガスの運用、地震検出などの幅広い用途に有利に適用できる。動作上、DASは、光ファイバ内のレイリー散乱効果を利用して、局所的なファイバセグメントの動的歪みの変化を検出する。
【0003】
DASシステムの1つの重要な特性は、その感度、すなわち、任意のファイバセグメントにおいて検出できる最も低い動的歪みである。短距離で測定した場合、DASシステムの感度は、通常、平方根ヘルツあたり数ピコイプシロンから数十ピコイプシロン(pε/√Hz)程度である。
【0004】
現在のDASシステムは、所与の光ファイバケーブル長を質問するのに必要な往復時間によって決定される質問繰り返しレート制限を示す。その結果、「音響」サンプリングレートのナイキスト帯域幅は、光信号の帯域幅よりもはるかに低い。
【0005】
質問信号内には、レーザ位相雑音や加法性白色ガウス雑音(AWGN)など、システム動作に影響を与える雑音源の組み合わせが存在する。十分な音響サンプリングレートが無いと、音響ナイキスト帯域外のシステム雑音を除去することができず、受信音響帯域に「折り返される」ため、回収されたDAS信号の位相ノイズフロアが上昇する。現在市販されているDASシステムでは、光サンプリングと音響サンプリングの間に100倍以上のサンプリングレートの不一致があるため、現在のDASシステムの歪み感度は、分散動作のない離散位相干渉計と比較した場合、数桁ずれている可能性がある。
【0006】
このような特性を考慮すると、DFOS感度の向上は、当技術分野にとって歓迎すべきことである。
【発明の概要】
【0007】
DFOSシステム、方法、および構造、より具体的には、MIMOサンプリングおよび位相再合成を使用する分散型音響センシング(DAS)の感度向上を対象とする本開示の態様に従って、当技術分野の進歩がもたらされる。
【0008】
従来技術とは明らかに対照的に、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、大規模なMIMOサンプリングおよび位相再合成を介して強化されたDAS感度を提供し、サンプリングレートの不一致による回復されたDAS位相信号への余分な雑音折り返しを軽減する。有利には、同じ経路に沿って複数のチャネルを同期させながらDASの質問に使用することによって、本開示によるシステムおよび方法は、MIMO検出を使用して各チャネルの時間オフセットDAS結果を得る。次に、マルチチャネルDASの結果は、DSPで再合成され、帯域外レーザ位相雑音と加算性白色ガウス雑音(AWGN)の抑制により、より高い忠実度を示す単相信号ストリームを生成することができる。
【0009】
これから図示して説明するように、本開示による本発明のシステムおよび方法は、MIMO質問およびMIMO DAS実装のためのDSP実装チャネル再合成を通じてDAS感度を向上させる。
【0010】
第1の態様から見ると、本発明のシステムおよび方法は、2つの方法、すなわち、時間インターリーブ法と時間調整法のうちの1つを採用する。本開示で採用される時間インターリーブ法は、音響サンプリングレートを高めて帯域外レーザ位相雑音およびAWGNを抑制するために使用される。時間調整方法は、異なるDAS MIMOチャネルのサンプル間の時間オフセットを考慮し、位相信号をデジタル的に再合成する前に、対応する位相シフトを適用する。有利なことに、結果として得られるDAS出力は、各チャネルの本来の音響サンプリングレートを有し、また、レイリーフェージングに対してよりロバストであるなど、時間インターリーブ法と同じ感度向上を有する。
【0011】
本開示の態様によるシステムおよび方法のさらに別の態様は、複数の周波数チャネルを使用してMIMO質問がどのように実行されるかを含む。有利なことに、これは光周波数での実装に限定されず、送信機と受信機のハードウェアを異なるチャネル間で共有できるため、そのような機能を提供する洗練された方法を提供する。周波数領域のDAS MIMOでは、複数の周波数を使用する質問パルス/コードを時間的にずらして送信することにより、より高い音響サンプリングレートを実現し、DSP再合成後の雑音抑制を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示のより完全な理解は、添付図面を参照することによって実現され得る。
【0013】
【
図1(A)】本開示の態様によるDFOSシステムを示す概略図である。
【0014】
【
図1(B)】本開示の態様による、帯域外信号生成を伴う符号化定振幅DFOSシステムを示す概略図である。
【0015】
【
図2】本開示の態様による、互い違いの質問信号を備えた例示的なMIMO DASアーキテクチャ構成を示す概略図である。
【0016】
【
図3】本開示の態様による、単一のTX/RX/FDM構成を使用して実装される例示的なMIMO DASを示す概略図である。
【0017】
【
図4(A)】本開示の態様による、帯域外雑音抑制のための複数のDAS結果を合成するアルゴリズムを示す図であって、時間インターリーブ法の図である。
【
図4(B)】本開示の態様による、帯域外雑音抑制のための複数のDAS結果を合成するアルゴリズムを示す図であって、時間調整法の図である。
【0018】
【
図5(A)】本開示の態様による、より高い音響サンプリングレートによるDAS感度の向上を示すプロットであって、低い音響サンプリングレートの図である。
【
図5(B)】本開示の態様による、より高い音響サンプリングレートによるDAS感度の向上を示すプロットであって、高い音響サンプリングレートの図である。
【0019】
【
図6(A)】本開示の態様による、FDM MIMO DASの例示的なサンプリングされた受信機スペクトルを示すプロットであって、8波長の図である。
【
図6(B)】本開示の態様による、FDM MIMO DASの例示的なサンプリングされた受信機スペクトルを示すプロットであって、16波長の図である。
【
図6(C)】本開示の態様による、FDM MIMO DASの例示的なサンプリングされた受信機スペクトルを示すプロットであって、32波長の図である。
【0020】
【
図7】本開示の態様による大規模なFDM MIMOを用いた例示的な平均DAS感度を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下は、単に本開示の原理を例示するものである。したがって、当業者は本明細書に明示的に記載または図示されていないが、本開示の原理を具現化し、その精神および範囲内に含まれる様々な構成を考案することができることが理解されよう。
【0022】
さらに、本明細書に記載されているすべての実施例および条件付き用語は、本開示の原理および技術を促進するために発明者によって寄与された概念を読者が理解するのを助けるための教育目的のためだけのものであることを意図しており、そのような具体的に列挙された実施例および条件に限定されないと解釈されるべきである。
【0023】
さらに、本開示の原理、態様、および実施形態を記載する本明細書のすべての記述、ならびにその具体例は、その構造的および機能的等価物の両方を包含することを意図している。さらに、そのような等価物は、現在知られている等価物と、将来開発される等価物、すなわち、構造に関係なく同じ機能を実行する開発された要素との両方を含むことが意図されている。
【0024】
したがって、たとえば、本明細書の任意のブロック図が、本開示の原理を実施する例示的な回路の概念図を表すことは、当業者には理解されるであろう。
【0025】
本明細書で特に明記しない限り、図面を構成する図は、縮尺通りに描かれていない。
【0026】
追加の背景として、分散型光ファイバセンシング(DFOS)は、インタロゲータに順番に接続された光ファイバケーブルに沿って任意の場所で環境条件(温度、振動、音響励起振動、伸縮レベルなど)を検出するために重要で広く使用されている技術であることに注目することから始める。知られているように、現代のインタロゲータは、ファイバへの入力信号を生成し、反射/散乱され、その後受信された信号を検出/分析するシステムである。信号が分析され、ファイバに沿って遭遇する環境条件を示す出力が生成される。このように受信された信号は、ラマン後方散乱、レイリー後方散乱、ブリリオン後方散乱などのファイバ内の反射に起因する可能性がある。DFOSは、複数のモードの速度差を利用した順方向の信号を使用することもできる。一般性を失うことなく、以下の説明では反射信号を想定しているが、同じアプローチを転送信号にも同様に適用できる。
【0027】
図1(A)は、一般化された従来技術のDFOSシステムの概略図である。理解されるように、現代のDFOSシステムは、光パルス(または任意の符号化信号)を周期的に生成し、それらを光ファイバに注入するインタロゲータを含む。注入された光パルス信号は、光ファイバに沿って伝送される。
【0028】
ファイバに沿った位置では、信号のごく一部が反射され、インタロゲータに戻される。反射信号は、例えば、機械的振動を示す電力レベルの変化など、インタロゲータが検出するために使用する情報を伝送する。詳細には示されていないが、インタロゲータは、
図1(B)に示すような当技術分野で知られているコヒーレント受信機構成を採用することができる符号化DFOSシステムを含むことができる。
【0029】
反射信号は電気領域に変換され、インタロゲータ内で処理される。パルス注入時間と信号が検出された時間に基づいて、インテロゲータは信号がファイバ上のどの位置から来ているかを判断し、ファイバ上の各位置の行動を感知することができる。
【0030】
当業者であれば、質問信号に信号符号化を実装することにより、より多くの光パワーをファイバに送信することができ、これにより、レイリー散乱ベースのシステム(例えば、分散音響センシング、すなわちDAS)及びブリルアン散乱ベースのシステム(例えば、ブリルアン光時間領域反射率測定法、すなわちBOTDR)の信号対雑音比(SNR)を有利に改善できることが理解し、認識するであろう。
【0031】
現在多くの現代的な実装で実装されているように、専用ファイバは光ファイバケーブルのDFOSシステムに割り当てられており、異なるファイバで伝送される既存の光通信信号とは物理的に分離されている。しかし、爆発的に増大する帯域幅需要を考慮すると、DFOS運用のみを目的として光ファイバを経済的に運用および維持することは非常に困難になってきている。その結果、より大きなマルチファイバケーブルの一部である共通のファイバ上に通信システムと検知システムを統合することへの関心が高まっている。
【0032】
動作上、DFOSシステムは、コーディング実装を備えたレイリー散乱ベースのシステム(例えば、分散音響センシング、すなわちDAS)およびブリルアン散乱ベースのシステム(例えば、ブリルアン光時間領域反射率測定法、すなわちBOTDR)であると仮定する。このような符号化設計では、これらのシステムは、動作電力が低いため、ファイバ通信システムと統合される可能性が高く、光増幅器の応答時間の影響も大きくなる。
【0033】
この議論を踏まえて、本開示の態様によるシステム、方法、および構造が、前述のサンプリングレートの不一致に起因する、回復されたDAS位相信号への余分な雑音折り返しを有利に軽減することに再度留意する。同じ経路に沿って複数のチャネルを同期させながらDASの質問に使用することによって、本発明のシステムおよび方法は、MIMO検出を使用して各チャネルの時間オフセットDAS結果を得る。次に、マルチチャネルDASの結果は、DSPで再合成され、帯域外レーザ位相雑音とAWGNの抑制により、より高い忠実度を示す単相信号ストリームを生成することができる。質問を感知するための実効音響サンプリングレートを高めるためにDASの動作に複数のチャネルを使用することは以前に提案されているが、本開示の焦点は、DSPにおけるMIMO質問およびそのチャネル再合成法を通じてDAS感度を高める方法の実装である。
【0034】
既に述べたように、本発明のシステムおよび方法は、2つの方法、すなわち、時間インターリーブ法および時間調整方法のうちの1つを使用する。従来技術では、時間インターリーブ法はマルチチャネルDASの実効サンプリングレートを高めるために使用されていたが、本開示によれば、音響サンプリングレートを高めて帯域外レーザ位相雑音およびAWGNを抑制するためにこの方法を採用する。異なるDAS MIMOチャネルのサンプル間の時間オフセットを考慮する時間調整法では、位相信号をデジタル的に再合成する前に、対応する位相シフトを適用する。結果として得られるDAS出力は、各チャネルの本来の音響サンプリングレートを持ちながら、時間インターリーブ法と同じ感度向上を実現する。さらに、時間調整法はレイリーフェージングに対してよりロバストである。
【0035】
本開示によるシステムおよび方法のさらに別の特徴は、複数の周波数チャネルを使用して実行されるMIMO質問に関する。これは光周波数での実装に限定されないだけでなく、送信機と受信機のハードウェアを異なるチャネル間で共有できるため、機能を実現する最も簡単な方法の1つであることがわかる。周波数領域のDAS MIMOでは、複数の周波数を使用する質問パルス/コードを時間的にずらして送信することで、より高い音響サンプリングレートを実現し、DSP再合成後の雑音抑制が可能となる。
【0036】
ここで再度指摘するように、本開示による本発明のMIMO DAS技術の重要な利点の1つは、DASの感度を向上させるために帯域外雑音を抑制しながら、所与のファイバケーブル経路に対するDASシステムの音響サンプリングレートが結果として増加することである。
【0037】
図2は、本開示の態様による、互い違いの質問信号を備えた例示的なMIMO DASアーキテクチャ構成を示す概略図である。単一チャネルのDASと比較すると、図に示すこの方式は、複数のチャネルで質問を行い、各チャネルはT
frameの本来のチャネル質問期間で質問パルス/シーケンスを送信し、レイリー信号を受信する。ただし、異なるチャネル上の質問信号は、T
frameのわずかな部分だけ時間的にずれている。したがって、MIMO検出および処理後、異なるチャネルのDAS信号情報を合成して、位相ノイズフロアが低く、帯域外雑音が抑制された位相信号出力を生成することができる。
【0038】
図に概略的に示すように、光ファイバケーブル内でMIMO DASを実現する方法は複数ある。おそらく最も簡単な方法は、複数の周波数/波長チャネルを使用するFDMを介して実装することである。この場合、必要なファイバは1本だけであり、光/電子ハードウェアは複数のチャネル間で共有できる。
【0039】
また、異なるファイバ、マルチコアファイバ(MCF)の異なるコア、またはマルチモードファイバ(MMF)の異なるモードを使用することによって、空間分割多重(SDM)を介して実行することもできる。SDMでは、通常、チャネル間で共有できないため、複数の光/電子ハードウェアのセットが必要になる。また、MCFやMMFで行う場合には、空間多重化・逆多重化も必要となる。
【0040】
図3は、本開示の態様による、単一のTX/RX/FDM構成を使用して実装される例示的なMIMO DASを示す概略図である。この図では、単一の送信機と受信機のセットアップを使用してMIMO DASを実装できることを説明するために、例示的なFDM DASセットアップが示されている。このセットアップは、従来技術と比較して、質問信号の生成に大きな違いを示す。本開示の態様によれば、本発明の方式は、異なる周波数チャネル間の時間ずらしを利用して、実効的な音響サンプリングレートを増加させる。各分離チャネルのT
frameの本来のフレーム期間では、各チャネルの質問パルスまたはシーケンスは意図的に時間的にオフセットされる。したがって、NチャネルMIMO DASシステムでは、隣接チャネル間の時間オフセットはT
frame/Nとなり、有効音響サンプリングレートはN倍に増加する。
【0041】
有利なことに、FDM DASのこの特定の実装では、単一の送信機を使用して、すべてのチャネルについてのMIMO質問信号を一緒に生成することができる。まず、センシングレーザは、音響光学変調器(AOM)によって各周波数の光パルスが生成される前に、同相/直交変調器(IQM)によって変調されて複数の周波数が連続的に生成される。変調器への変調信号は、一般的なDACまたは任意波形発生器から生成できる。必要に応じて、この構成を使用してチャネルごとにシーケンス/コードを生成することもできるため、実装はパルス質問だけに限定されないことに留意されたい。
【0042】
受信機では、各チャネルからのレイリー反射信号は、逆多重化することなく単一のコヒーレント受信機によって検出することができる。DSPの動作では、各FDMチャネルは、並列処理のためにメインのDASアルゴリズムに渡される前に、まずフィルタリングされ、デジタル的にベースバンドにダウンコンバートされる。各周波数チャネルのすべての位置 (システムの空間解像度によって定義される)について、アルゴリズムによって差動位相値が生成される。
【0043】
上述したように、本開示による発明のシステムおよび方法は、DAS位相結果をMIMO DASの異なるチャネルからの単一ストリームに合成する2つの方法を採用しており、それらを
図4(A)および
図4(B)に示す。
図4(A)および
図4(B)は、本開示の態様による、帯域外雑音抑制のための複数のDAS結果を合成するアルゴリズムを示す図であり、
図4(A)は時間インターリーブ法の図であり、
図4(B)は時間調整法の図である。
【0044】
両方のアルゴリズムが、同じファイバ位置での複数の位相トリビュタリの組み合わせを扱うことに留意されたい。前述したように、第1の方法は時間インターリーブ法で、個々の本来のサンプリングレートが1/TのN個のチャネルがつなぎ合わされて、N/Tのより高いサンプリングレートを形成する。時間インターリーブの前に、各チャネルからの位相ベクトルが回転され、追加のインターリーブ雑音の発生を防止する。これは、LPFベースの合成アルゴリズムによって実行できる。
【0045】
時間調整による第2の方法は、個々のチャネルのタイミングオフセットを処理し、それらをまとめて、寄与する各サンプルが時間的に調整されるようにする。各チャネルを調整するために、各チャネルでFFTとIFFTを実行し、
【数1】
の対応する位相係数を乗算する。時間調整後、各チャネルからの位相結果が合計される前に、同じ位相ベクトル回転アルゴリズムを使用できる。最終的なDASの位相出力サンプリングレートは、個々のチャネルの本来のサンプリングと同じであることに留意されたい。
【0046】
図5(A)および
図5(B)は、本開示の態様による、より高い音響サンプリングレートによるDAS感度の向上を示すプロットである。
図5(A)は低い音響サンプリングレートであり、
図5(B)は高い音響サンプリングレートである。これらの図では、より高い音響サンプリングレートがどのようにDASの歪み感度を向上させることができるかを説明する基本原理を示す。DAS質問システムでは、レーザ位相雑音や加法性白色ガウス雑音(AWGN)の両方が最終的なDAS位相雑音に寄与し、感度性能が制限される。
【0047】
議論を容易にするために、レーザ位相雑音が主要な雑音源である短距離DAS動作領域に焦点を当てる。
図5(B)に示すように、10~100Hz以下の周波数では、レーザモジュールの機械的および温度的な分離の制限により、レーザ位相雑音は非常に高くなる。レーザ位相雑音は、レーザの本来の線幅に対応する安定したレベルまで徐々に減少する。
【0048】
レーザ位相雑音は、DAS質問動作に固有のものであり、DSPの受信機ハードウェアLPFおよびデジタルフィルタによって部分的にしかフィルタリングできないことに留意されたい。これらのフィルタの帯域幅は、通常、DASの空間分解能要件に従って設計されているため、質問往復時間によって制限される音響サンプリング帯域幅よりもはるかに広い。したがって、短距離で比較的高い繰り返しレートを使用しても、ナイキスト帯域幅の外側に適切にフィルタリングできない多くの位相雑音が存在し、それらがDASの音響帯域幅に折り返され、位相ノイズフロアが大幅に上昇する。例えば、~10kHzの繰り返しレート(10kmの距離の場合)と~10MHzの信号フィルタリング(10mの空間分解能の場合)では、音響サンプリングレートが不十分なため、雑音レベルが約30dB増加する。
【0049】
本開示による本発明のシステムおよび方法により、音響サンプリングレートは、MIMO DAS質問によって効果的に増加させることができる。
図5(B)に示したように、サンプリングレートが高くなると、ナイキスト帯域の外側に存在する雑音の量は実質的に少なくなり、折り返される雑音が少なくなるため、帯域内位相ノイズフロアが減少する。したがって、本開示によるMIMO DASの実装は、高周波信号の検出および識別のためにより広いDAS帯域幅を達成することを目的とするのではなく、より高い音響サンプリングレートによって帯域内位相雑音を抑制することを目的とすることに留意されたい。
【0050】
仮に、前述のDASシステム上で10kHzの繰り返しレートで100×MIMOが実行された場合、理論上、位相雑音を20dBだけ抑制することができる。
【0051】
また、
図4(A)および
図4(B)に例示した動作を調べることによって、ノイズフロアがどのように抑制されるかを確認することもできる。時間インターリーブ法の場合、検出されたDAS位相は、次のように表すことができる。
【数2】
【0052】
時間インターリーブ結果は、(k=m・N+n-1)
【数3】
となる。
【0053】
最終結果が示すように、歪み信号
【数4】
と付随するレーザ位相雑音
【数5】
の両方のサンプリングレートをN倍に効果的に増加させた。
図5(A)および
図5(B)に示されるように、固有位相雑音がはるかに広い帯域幅を有すると仮定すると、雑音レベルはオーバーサンプリングによって効果的に低減することができる。各チャネルのAWGNレベルが類似していると仮定すると、3番目の項は
【数6】
と書くことができ、平均雑音レベルがN倍高くサンプリングされた単一のAWGNとして見ることができる。レーザ位相雑音と同じ引数(argument)を使用すると、AWGNによって引き起こされる実効DAS位相ノイズフロアは、サンプリングレートが高いほど抑制される。
【0054】
時間調整法では、DSPの動作は次のように記載できる。
【数7】
【0055】
最終的な時間インターリーブ結果は、
【数8】
となる。
【0056】
結果の最初の2つの項
【数9】
と
【数10】
は、歪み信号と音響帯域幅内のレーザ位相雑音について、すべてのトリビュタリから同じサンプリングレートで同じ位相結果が得られることを示している。最後の2つの総和項では、異なるチャネルからの異なる帯域外レーザ位相雑音およびAWGNが考慮される。帯域外レーザ位相雑音の場合、FFT/IFFTで調整できる周波数領域の外側に存在するため、雑音強度はコヒーレントに加算される。AWGN雑音についても、寄与するチャネルが異なるので同じである。同様のAWGNレベルを仮定すると、
【数11】
を得る。
【0057】
上記の式から、単一チャネルDASが帯域外レーザ位相雑音とAWGNによって支配されている場合、NチャネルのMIMO-DASを使用すると、時間調整法によって雑音レベルをN倍抑制することができる。
【0058】
MIMO-DASを使用して位相雑音の抑制を確認するために、説明した概念に基づいていくつかの実験を行った。市販のセンシングレーザを使用したベースラインのシングルチャネルDASは、
【数12】
の歪み感度
【数13】
を達成することができ、~20kHzの繰り返しレート(5kmの距離)および10MHzのフィルタ帯域幅(10mの分解能)で動作するFDM DASを実装して
図3に示すようなMIMO-DASを実現した。
図6(A)、
図6(B)、および
図6(C)に示すように、50MHz間隔および40nsパルスカービングを有するAWGを使用して、合計8、16、および32の周波数チャネルが生成される。
図6(A)、
図6(B)、および
図6(C)は、本開示の態様による、FDM MIMO DASの例示的なサンプリングされた受信機スペクトルを示すプロットである。
図6(A)は8波長、
図6(B)は16波長、
図6(C)は32波長のものである。
【0059】
単側波帯(SSB)信号の変調および検出は、送信機および受信機からのI/Q不均衡によるペナルティを回避するために使用される。各チャネルのDAS信号は、提案された2つの方法を使用して合成される前に、DSPで個別に処理される。
【0060】
スペクトログラム、位相プロット、および位相スペクトルにおいて、8つの周波数で時間調整法を使用したFDM DASの結果を決定した。出力されるDASの結果は、同じ20kHzのサンプリングレートである。これらの結果から、1.267kHz、0.16radの信号の伸長信号がはっきりと確認でき、PZTの位置を特定することができる。位相スペクトルを調べると、8周波数システムでは、
【数14】
のノイズフロアレベルが得られ、単一周波数のDASと比較して約8倍向上していることがわかった。
【0061】
別の実験では、時間インターリーブ法を使用して、最終的なDAS結果を構築した。時間インターリーブにより、最終的な音響サンプリングレートは160kHzである。結果プロットにおいて、より広帯域の雑音が存在するため(これは、さらなるデジタルフィルタ処理で除去できる)、位相プロットには、時間調整実験と比較してより多くの雑音が含まれるが、ストレッチャーの位置と適用された信号も取得することができる。位相スペクトルを調べたところ、雑音レベルは時間調整法と同様であることがわかった。ただし、スペクトログラムでは、この方法によって追加のインターリーブ雑音が追加されることに留意されたい。
【0062】
図7は、本開示の態様による大規模なFDM MIMOを用いた例示的な平均DAS感度を示すプロットである。この図では、2つの異なる合成法を使用してMIMO-DASの性能を比較する。時間調整法は、時間インターリーブ法よりも優れた性能を達成することがわかった。性能差の原因は、レイリーフェージングによるものと考えられる。各周波数チャネルのレイリー応答は異なるため、SNRが平均より大幅に悪いチャネルが必ず存在する。時間インターリーブでは、1つの不良チャネルが全体的な性能に影響を与える可能性があるため、合成された結果はフェージングの影響を受けやすくなる。一方、時間調整法は、全チャネルの位相平均を使用して位相雑音を抑制し、平均化によりフェージングを軽減することもできる。各周波数チャネルを20kHz(5kmのテストスプール)でサンプリングすると、32チャネルを使用し、~2GHzの合計TX/RX帯域幅を使用して、記録的に低い
【数15】
を達成することができる。時間調整法の唯一の欠点は、出力音響帯域幅が低いことである。
【0063】
本発明の2つの合成方法は、連続的に一緒に使用することもできることに留意されたい。したがって、すべてのチャネルを時間インターリーブまたは調整する代わりに、最初に隣接するチャネルに対して時間調整を実行してフェージングを緩和し、位相雑音性能を向上させ、後で時間インターリーブを実行してより高い周波数の音響信号を検出することができる。これにより、位相雑音性能と出力音響帯域幅の間のより緩やかなトレードオフ曲線が得られる。最後に、AWGNが主な雑音源である場合、大規模なMIMO DASは、長距離でコード化されたDASと組み合わせて使用することもできる。その結果、
図3に示す質問パルスは、個々のDASチャネルの光SNRを向上させるためにコードシーケンスに置き換えられる。
【0064】
この時点で、いくつかの特定の例を使用して本開示を提示したが、当業者であれば、本発明の教示がそれに限定されないことを認識するであろう。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】