(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】低温型リチウムイオン電池電解液及びその製造方法並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20240927BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240927BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/58
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521067
(86)(22)【出願日】2022-12-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-05
(86)【国際出願番号】 CN2022141945
(87)【国際公開番号】W WO2024040826
(87)【国際公開日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】202211016568.3
(32)【優先日】2022-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522485888
【氏名又は名称】湖北万潤新能源科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUBEI WANRUN NEW ENERGY TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン,チュン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シーチー
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ファンユアン
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,ユーチエン
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ08
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
(57)【要約】
本発明は、リチウムイオン電池技術分野に関し、特に、低温型リチウムイオン電池電解液及びその製造方法並びにリチウムイオン電池に関する。本発明の低温型リチウムイオン電池電解液は、電解質塩と、有機溶媒と、を含み、前記有機溶媒は、フルオロカルボン酸エステル、フルオロ炭酸エステル及び1,3-ジオキサンを含む。フルオロカルボン酸エステルは凝固点が低く、低温電解液溶媒として適しており、フルオロ炭酸エステルは共溶媒としてフルオロカルボン酸エステルと混合して電解液の低温性能及び成膜性を調節し、低凝固点及び低粘度の1,3-ジオキサンを導入すると電池のインピーダンスが明らかに減少する。本発明の低温型リチウムイオン電池電解液は、低温リチウムイオン伝導度を効果的に改善でき、リチウムイオン電池の低温での容量の発揮に有利であり、特にリン酸鉄リチウムリチウムイオン電池の低温条件下での放電比容量及び容量維持率を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質塩と、有機溶媒と、を含み、
前記有機溶媒は、フルオロカルボン酸エステル、フルオロ炭酸エステル及び1,3-ジオキサンを含む、
低温型リチウムイオン電池電解液。
【請求項2】
前記フルオロカルボン酸エステルは、フルオロマロン酸ジエチルを含む、
請求項1に記載の低温型リチウムイオン電池電解液。
【請求項3】
前記フルオロ炭酸エステルは、フルオロエチレンカーボネートを含む、
請求項1に記載の低温型リチウムイオン電池電解液。
【請求項4】
前記電解質塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム及び/又はトリフルオロメタンスルホニルイミドリチウムを含み、
好ましくは、前記電解質塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを含む、
請求項1に記載の低温型リチウムイオン電池電解液。
【請求項5】
前記低温型リチウムイオン電池電解液において、フルオロカルボン酸エステルの体積百分率>40%であり、
好ましくは、前記低温型リチウムイオン電池電解液において、フルオロカルボン酸エステルの体積百分率が50%~70%である、
請求項1に記載の低温型リチウムイオン電池電解液。
【請求項6】
前記フルオロカルボン酸エステル、前記フルオロ炭酸エステル及び前記1,3-ジオキサンの体積比が90~40:5~50:5~30であり、
好ましくは、前記フルオロカルボン酸エステル、前記フルオロ炭酸エステル及び前記1,3-ジオキサンの体積比が55~65:15~25:15~25である、
請求項1に記載の低温型リチウムイオン電池電解液。
【請求項7】
前記低温型リチウムイオン電池電解液において、電解質塩の濃度が1.0~5.0mol/Lであり、
好ましくは、前記低温型リチウムイオン電池電解液において、電解質塩の濃度が1.5~2.5mol/Lである、
請求項1に記載の低温型リチウムイオン電池電解液。
【請求項8】
有機溶媒と電解質塩とを均一に混合した後に低温型リチウムイオン電池電解液を得る、
請求項1~7のいずれか1項に記載の低温型リチウムイオン電池電解液の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の低温型リチウムイオン電池電解液を含む、
リチウムイオン電池。
【請求項10】
前記リチウムイオン電池の正極材料がリン酸鉄リチウムである、
請求項9に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2022年8月24日に提出された、出願番号202211016568.3、発明の名称「低温型リチウムイオン電池電解液及びその製造方法並びにリチウムイオン電池」の中国発明特許出願の優先権を主張し、当該出願の開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、リチウムイオン電池技術分野に関し、特に、低温型リチウムイオン電池電解液及びその製造方法並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池(LIBs)の応用範囲の日々の拡大に伴い、特に電気自動車、航空宇宙、軍需産業分野での応用に伴い、電池の低温充放電性能に対してさらに高い要求がある。しかしながら、リチウムイオン電池の低温でのエネルギー貯蔵性能及びサイクル安定性を向上させるには、未だ技術的な課題が多い。中でも、カーボネート系商用電解液は低温で凝固しやすく、インピーダンスが高いことから、リチウムイオン電池の低温電気自動車分野でのさらなる応用が制限されている。
【0004】
したがって電解液の最適化はリチウムイオン電池の低温性能を改善する研究の焦点の1つになっている。多くの正極材料の中で、リン酸鉄リチウムは、高い安全性能と安いコストのため電気自動車分野で広く応用されているが、低い伝導度のため、低温性能の改善が待たれている。したがって、リン酸鉄リチウムをリチウムイオン正極とし、その適合性について低温電解液の改質研究を行い、一定の市場将来性を持っている。
【0005】
特許202111011044.0には低温型リチウムイオン電池電解液が開示されており、高ニッケル三元正極について、具体的にはジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウムLiDFOBと混合溶媒とからなり、ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウムLiDFOBの濃度が0.8~1.5mol/Lであり、前記混合溶媒が線形カーボネート、環状カーボネート及びγ-ブチロラクトンであることが開示されている。
【0006】
当該技術案は、基本溶媒であるカーボネートに低融点の有機溶媒であるγ-ブチロラクトンを加えることで電解液の融点を下げ、リチウムイオン電池の低温性能を改善し、リチウムイオン電池の低温条件下での電気化学性能を向上させたが、リチウムイオンの耐低温能力には改善の余地がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第1目的は、リチウムイオン電池の低温条件下での放電比容量及び容量維持率を効果的に改善できる、低温型リチウムイオン電池電解液を提供することにある。
【0009】
本発明の第2目的は、ステップが簡単で、操作性が強く、実際の普及と大規模な応用に便利である、上記低温型リチウムイオン電池電解液の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の第3目的は、上記低温型リチウムイオン電池電解液を含み、低温条件下で優れた電気化学性能を有するリチウムイオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的を達成するために、特に以下の技術案を採用する。
【0012】
本発明は、低温型リチウムイオン電池電解液を提供し、電解質塩と、有機溶媒と、を含み、
前記有機溶媒は、フルオロカルボン酸エステル、フルオロ炭酸エステル及び1,3-ジオキサンを含む。
【0013】
さらに、前記フルオロカルボン酸エステルは、フルオロマロン酸ジエチルを含む。
【0014】
さらに、前記フルオロ炭酸エステルは、フルオロエチレンカーボネートを含む。
【0015】
さらに、前記電解質塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム及び/又はトリフルオロメタンスルホニルイミドリチウムを含む。
【0016】
好ましくは、前記電解質塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを含む。
【0017】
さらに、前記低温型リチウムイオン電池電解液において、フルオロカルボン酸エステルの体積百分率>40%である。
【0018】
好ましくは、前記低温型リチウムイオン電池電解液において、フルオロカルボン酸エステルの体積百分率が50%~70%である。
【0019】
さらに、前記フルオロカルボン酸エステル、前記フルオロ炭酸エステル及び前記1,3-ジオキサンの体積比が90~40:5~50:5~30である。
【0020】
好ましくは、前記フルオロカルボン酸エステル、前記フルオロ炭酸エステル及び前記1,3-ジオキサンの体積比が55~65:15~25:15~25である。
【0021】
さらに、前記低温型リチウムイオン電池電解液において、電解質塩の濃度が1.0~5.0mol/Lである。
【0022】
好ましくは、前記低温型リチウムイオン電池電解液において、電解質塩の濃度が1.5~2.5mol/Lである。
【0023】
本発明は、上述のような低温型リチウムイオン電池電解液の製造方法をさらに提供し、有機溶媒と電解質塩とを均一に混合した後に前記低温型リチウムイオン電池電解液を得る。
【0024】
本発明は、上述のような低温型リチウムイオン電池電解液を含むリチウムイオン電池をさらに提供する。
【0025】
さらに、前記リチウムイオン電池の正極材料がリン酸鉄リチウムである。
【発明の効果】
【0026】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0027】
(1)本発明の低温型リチウムイオン電池電解液は、フルオロカルボン酸エステルを主溶媒とし、フルオロ炭酸エステル及び1,3-ジオキサンを共溶媒とし、且つビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムと組み合わせることで、低温リチウムイオン伝導度を顕著に改善でき、リチウムイオン電池の低温での容量の発揮に有利である。
【0028】
(2)本発明の低温型リチウムイオン電池電解液は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを電解質塩として用いることにより、正極に安定な無機成分界面相を形成でき、フルオロエチレンカーボネートは、負極に安定な無機成分界面相を形成でき、電池の低温(-30℃)でのサイクル安定性を顕著に向上させることができる。
【0029】
(3)本発明の低温型リチウムイオン電池電解液は、リン酸鉄リチウムリチウムイオン電池の低温条件下での放電比容量及び容量維持率を顕著に向上でき、これを電解液として用いて組み立てたLiFePO4/Li電池は、-30℃の低温環境下で、0.2C放電比容量が90mAh/gに達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施形態又は従来技術における技術案をより明確に説明するために、具体的な実施形態又は従来技術の説明に必要とされる図面を簡単に紹介し、明らかなように、以下の説明における図面は、本発明のいくつかの実施形態であり、当業者にとって、創造的な労力を要することなく、これらの図面に基づいて他の図面を得ることができる。
【
図1】本発明が実施例7の低温型リチウムイオン電池電解液及び比較例5のリチウムイオン電池電解液をそれぞれ用いて作製した電池の2.7~4.2Vの充放電電圧、-30℃での放電比容量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面及び具体的な実施形態を参照して本発明の技術案を明瞭、完全に説明するが、当業者は、以下に説明される実施例が、本発明の一部の実施例であり、全ての実施例ではなく、単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではないことを理解するであろう。
【0032】
本発明における実施例に基づいて、創造的な労力を要することなく当業者によってなされる他の全ての実施例は、本発明の保護範囲に属する。実施例に具体的な条件を明記していないものは、通常の条件又はメーカーの推奨する条件に従う。用いる試薬や機器は、メーカーが明記されていない場合、いずれも市販品として入手可能な通常のものである。
【0033】
以下、本発明の実施例の低温型リチウムイオン電池電解液及びその製造方法並びにリチウムイオン電池について具体的に説明する。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態において低温型リチウムイオン電池電解液を提供し、電解質塩と、有機溶媒と、を含み、
有機溶媒は、フルオロカルボン酸エステル、フルオロ炭酸エステル及び1,3-ジオキサンを含む。
【0035】
本発明の低温型リチウムイオン電池電解液は、フルオロカルボン酸エステルを主溶媒とし、フルオロ炭酸エステル及び1,3-ジオキサンを共溶媒として用いることにより、低温リチウムイオン伝導度を効果的に改善でき、リチウムイオン電池の低温での容量の発揮に有利である。
【0036】
フルオロカルボン酸エステルは、カルボン酸エステルの融点が低く、フルオロによりカルボン酸エステルの凝固点をさらに下げることができ、フルオロカルボン酸エステルの融点が低く、電解液自体の凝固点を下げるため、電解液の低温でのイオン伝導度を改善でき、それによって電池の低温性能を改善し、且つフッ素元素の導入により界面性能の向上に有利である。
【0037】
フルオロカルボン酸エステルは成膜性が悪いため、フルオロ炭酸エステルを共溶媒として選択してフルオロカルボン酸エステルと混合して電解液の成膜性を調節する。
【0038】
低凝固点及び低粘度の1,3-ジオキサン(DOL)を導入するとリチウムイオン電池のインピーダンスが明らかに減少する。それによってリチウムイオン電池、特にリン酸鉄リチウムリチウムイオン電池の低温条件下における放電比容量及び容量維持率を向上させる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態において、フルオロカルボン酸エステルは、フルオロマロン酸ジエチルを含む。
【0040】
フルオロマロン酸ジエチル(Diethyl Fluoromalonate、DEFM)は、電解液の溶媒として用いられ、フルオロマロン酸ジエチルとリチウムイオンとの結合エネルギーが低く、低温でのリチウムイオンの脱挿入過程に有利である。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態において、フルオロ炭酸エステルは、フルオロエチレンカーボネート(4-Fluoro-1,3-dioxolan-2-one、FEC)を含む。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態において、電解質塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム及び/又はトリフルオロメタンスルホニルイミドリチウムを含み、好ましくは、電解質塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)を含む。
【0043】
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムは、溶媒に高濃度で溶解することができ、且つ高いHOMO準位及び低いLUMO準位を有し、初回充電時に正極/負極-電解液界面で分解が起こり、無機成分の含有量が多い界面膜を形成でき、電池の低温(-30℃)でのサイクル安定性を顕著に向上できる。適切な濃度のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムは、高いイオン伝導度を有し、安定なフッ素含有界面膜を提供することができる。
【0044】
HOMOは、分子の最高被占軌道であり、HOMO準位が高いほど、この物質は電子を失いやすい。電解液にとって、HOMO準位は、各成分の充電過程での分解順序を判断するために用いることができ、HOMO準位が高い成分ほど、酸化されて正極電解液界面膜を形成しやすいことを意味し、それによって後続の充放電過程における他の成分と電解液との直接接触を阻止し、正極電解液界面での副反応を抑制する。
【0045】
LUMO準位は、分子の最低非占有軌道であり、LUMO準位が低いほど、この物質は電子を得やすく、電解液にとって、LUMO準位は各成分の放電過程での分解順序を判断するために用いることができ、LUMO準位が低い成分ほど、還元されて負極電解液界面膜を形成しやすいことを意味する。それによって後続の充放電過程における電極と電解液との直接接触を阻止し、界面での副反応を抑制する。
【0046】
本発明の低温型リチウムイオン電池電解液の有機溶媒は、フルオロカルボン酸エステル、フルオロエチレンカーボネート及び1,3-ジオキサンである。フルオロカルボン酸エステル及びフルオロ炭酸エステルは、融点が低く、電解液の融点を下げ、低温での電解液のイオン伝導度を向上できる。LiFSIのHOMO準位は高く、リチウムイオン電池正極表面に優先的に分解して成膜でき、正極-電解液界面の安定性を改善する。
【0047】
フルオロエチレンカーボネートのLUMO準位は低く、リチウムイオン電池負極表面に優先的に分解して成膜でき、負極-電解液界面の安定性を改善する。したがって、本発明の電解液は、低温(-30℃)でのリチウムイオン電池の放電比容量及び容量維持率を改善することができる。
【0048】
本発明のいくつかの実施において、低温型リチウムイオン電池電解液は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、フルオロマロン酸ジエチル、フルオロエチレンカーボネート及び1,3-ジオキサンを含む。
【0049】
本発明のいくつかの実施において、低温型リチウムイオン電池電解液において、フルオロカルボン酸エステルの体積百分率>40%である。
【0050】
本発明のいくつかの実施において、低温型リチウムイオン電池電解液において、フルオロカルボン酸エステルの体積百分率が50%~70%であり、典型的であるが限定されないが、例えば、低温型リチウムイオン電池電解液において、フルオロカルボン酸エステルの体積百分率が50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%又は70%などであり、好ましくは、低温型リチウムイオン電池電解液において、フルオロカルボン酸エステルの体積百分率が55%~65%であり、より好ましくは58%~62%である。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態において、フルオロカルボン酸エステル、フルオロ炭酸エステル及び1,3-ジオキサンの体積比が90~40:10~50:1~30であり、典型的であるが限定されないが、例えば、フルオロカルボン酸エステル、フルオロ炭酸エステル及び1,3-ジオキサンの体積比が80:10:10、70:15:15、60:20:20、50:25:25、40:30:30、80:10:5、70:30:10、60:10:5、50:10:20などであり、好ましくは、フルオロカルボン酸エステル、フルオロ炭酸エステル及び1,3-ジオキサンの体積比が55~65:15~25:15~25であり、より好ましくは、フルオロ炭酸エステルと1,3-ジオキサンとの体積比が1:1である。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態において、低温型リチウムイオン電池電解液において、電解質塩の濃度が1.0~5.0mol/Lであり、典型的であるが限定されないが、例えば、低温型リチウムイオン電池電解液において、電解質塩の濃度が1.0mol/L、1.5mol/L、2.0mol/L、2.5mol/L、3.0mol/L、3.5mol/L、4.0mol/L、4.5mol/L又は5.0mol/Lなどであり、好ましくは、低温型リチウムイオン電池電解液において、電解質塩の濃度が1.5~2.5mol/Lである。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態において上記低温型リチウムイオン電池電解液の製造方法をさらに提供し、有機溶媒と電解質塩とを均一に混合した後に低温型リチウムイオン電池電解液を得る。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態において、有機溶媒は無水有機溶媒であり、無水有機溶媒の製造方法は、有機溶媒に除水剤を加え、2~4日間静置することにより製造されることを含み、好ましくは、除水剤は、分子篩であり、型番が3Å、4Å及び5Åのいずれかである。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態においてリチウムイオン電池をさらに提供し、上述の低温型リチウムイオン電池電解液を含む。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態において、リチウムイオン電池の正極材料がリン酸鉄リチウムである。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態において、リチウムイオン電池は、正極シート、負極シート、セパレータ及び電解液を含み、
ここで、正極シートは、主に正極活物質、導電剤、結着剤及び分散剤から作製され、正極活物質がLiFePO4であり、
負極シートがリチウムシートであり、
電解液が上記低温型リチウムイオン電池電解液である。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態において、導電剤は、導電性カーボンブラックを含む。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態において、結着剤は、ポリフッ化ビニリデンを含む。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態において、導電剤は、N-メチル-2-ピロリドンを含む。本発明のいくつかの実施形態において、セパレータは、ポリプロピレン微孔性フィルムを含む。
【0061】
本発明の低温型リチウムイオン電池電解液を用いて組み立てたLiFePO4/Li電池は、-30℃の低温環境下において、0.2C放電比容量が90mAh/gであり、且つ安定なサイクルを維持することができる。
【0062】
(実施例1~12)
各実施例の低温型リチウムイオン電池電解液の製造方法は同じであり、低温型リチウムイオン電池電解液に用いる溶媒DEFM、FEC及びDOLの体積比及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)の濃度が異なるだけであり、各実施例の溶媒の体積比及びLiTFSIの濃度を表1に示す。
【0063】
【0064】
低温型リチウムイオン電池電解液の製造方法は、以下のステップを含み、
不活性ガスで保護されたグローブボックスにフルオロマロン酸ジエチル(DEFM)、フルオロ炭酸エステル(FEC)及び1,3-ジオキサン(DOL)を体積比で混合し、混合後に3Å分子篩除水剤を加え、2日間静置し、そしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)を加え、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)の濃度を制御し、澄明になるまで撹拌し、均一に混合した後に低温型リチウムイオン電池電解液を得ることができる。グローブボックス内の水分含有量が0.1ppm未満であり、酸素含有量が0.1ppm未満であった。3Å分子篩除水剤の型番がAlfa L05335-250gであった。
【0065】
(比較例1~5)
各比較例のリチウムイオン電池電解液の製造方法は同じであり、リチウムイオン電池電解液に用いられる有機溶媒の種類、体積比、電解質塩の種類と濃度が異なるだけであり、具体的には表2に示すようになっている。
【0066】
【0067】
ここで、ECはエチレンカーボネート、DECはジエチルカーボネートである。
【0068】
リチウムイオン電池電解液の製造方法は、以下のステップを含み、
不活性ガスで保護されたグローブボックスに有機溶媒を体積比で混合し、混合後に3Å分子篩除水剤を加え、2日間静置し、そして電解質塩を加え、均一に撹拌し、電解質塩の濃度を制御し、均一に撹拌した後にリチウムイオン電解質溶液を得ることができる。グローブボックス内の水分含有量が0.1ppm未満であり、酸素含有量が0.1ppm未満であった。3Å分子篩除水剤の型番がAlfa L05335-250gであった。
【0069】
(試験例1)
実施例1~12の低温型リチウムイオン電池電解液及び比較例1~5のリチウムイオン電池電解液をそれぞれ用いてリン酸鉄リチウム正極、リチウム負極とともに電池を組み立て、電気化学的試験を行い、試験方法は以下のとおりである。
【0070】
まず、正極シートを作製し、正極活物質をLiFePO4、導電剤を導電性カーボンブラック(SuperP,Timcal Ltd.)、結着剤をポリフッ化ビニリデン(PVDF、HSV900、Arkema)、分散剤をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とし、LiFePO4:Super P:PVDF=7:2:1の質量比で混合研磨し、アルミニウム箔に塗布し、乾燥、ロールプレス、ダイシングを経て、電極シートを作製し、電極表面の活物質を2~4mg/cm2に制御した。そして、アルゴンガスを満たしたグローブボックスの中でボタン電池を作製し、負極をリチウムシート、ポリプロピレン微孔性フィルムをセパレータとし、電解液を変えて異なる電池を得て試験を行った。
【0071】
電気化学的性能試験はNeware電気化学試験器を用いた。電池を0.2Cで常温で2回サイクルして活性化した後、-30℃で2h静置し、そして0.2Cの電流密度で低温サイクルし、充放電電圧範囲が2.7~4.2Vであり、試験結果を表3に示した。実施例1のリチウムイオン電池電解液及び比較例5のリチウムイオン電池電解液電池をそれぞれ用いて2.7~4.2Vの充放電電圧、-30℃での放電比容量を比較した図を
図1に示し、ここで、比較例5のリチウムイオン電池電解液電池をBaselineと表記し、実施例7の低温型リチウムイオン電池電解液をLT-Electrolyteと表記した。
【0072】
【0073】
図1から分かるように、-30℃の低温で、0.2C倍率、50サイクルにおいて、本発明の低温型リチウムイオン電池電解液を用いて組み立てた電池の放電比容量及びサイクル安定性が比較例5のリチウムイオン電池電解液よりも明らかに優れる。
【0074】
表1から分かるように、電解液の溶媒がフルオロマロン酸ジエチル(DEFM)、フルオロ炭酸エステル(FEC)及び1,3-ジオキサン(DOL)の混合溶媒であり、リチウム塩がビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)である場合、放電比容量が最も高い。
【0075】
実施例1~12を比較すると、実施例7の効果が最も高いことが分かる。-30℃の低温で、LiFePO4/Li電池の放電比容量が90mAh/gであり、50サイクルの容量維持率が100%に近い。他の比較例よりも遥かに高い。
【0076】
実施例1~12を比較すると分かるように、溶媒成分がフルオロマロン酸ジエチル(DEFM)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及び1,3-ジオキサン(DOL)の混合溶媒である場合、フルオロエチレンカーボネートの占有率が20%及び1,3-ジオキサンの占有率が20%のときに放電比容量が最も高く、これはFECが負極にLiFに富む無機界面を形成するのに有利で低温でより安定し、DOL粘度が低いことが電解液の低温でのイオン伝導度を減少させるのに有利であるからであると考えられる。
【0077】
実施例1~12と比較例1~4の比較から分かるように、リチウム塩がLiTFSIであり且つ濃度が2Mの場合に最も性能が優れ、これはLiTFSIが優先的に分解してFを含む無機成分界面膜を形成してより安定し、且つ濃度が2Mである場合に電解液が最適な粘度及び伝導度を有するからであると考えられる。
【0078】
比較例1~4から分かるように、LiTFSIを含まない場合。溶媒成分がフルオロマロン酸ジエチル(DEFM)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及び1,3-ジオキサン(DOL)であることによる作用効果も通常のカーボネート(基礎電解液)より優れており、これは上記混合溶媒が低温伝導度により優れ且つ成膜性により優れるからであると考えられる。
【0079】
以上のことから、比較から分かるように、比較例5に比べて、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを電解質塩、フルオロマロン酸ジエチル(DEFM)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及び1,3-ジオキサン(DOL)を溶媒とする電解液は、-30℃の低温環境下におけるLiFePO4/Li電池の放電比容量及び容量維持率を明らかに改善できる。ここで、DEFM:FEC:DOL=60:20:20、LiTFSI濃度が2Mのときの電池の放電比容量及びサイクル安定性が最も良い。
【0080】
組み立てたLiFePO4/Li電池の-30℃での放電比容量が90mAh/gとなりより安定する。
【0081】
最後に説明すべきことは以下のとおりであり、上記の各実施例が本発明の技術案を説明するためにのみ用いられるものであって、本発明の技術案を限定するものではなく、前述の各実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者は、依然として前述の各実施例に記載された技術案を修正したり、その一部若しくは全部の技術的特徴を均等に置換したりすることができ、これらの修正又は置換が、対応する技術案の本質を本発明の各実施例の技術案の範囲から逸脱させるものではないことを理解すべきである。
【国際調査報告】