(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ポリマー繊維の製造に使用するための紡糸口金ハウジング及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
D01D 4/08 20060101AFI20240927BHJP
D01D 4/04 20060101ALI20240927BHJP
D01F 9/22 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
D01D4/08 Z
D01D4/04 Z
D01F9/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521072
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2022077493
(87)【国際公開番号】W WO2023057403
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】オラー, ヤーノシュ
(72)【発明者】
【氏名】クマール, ヴァルン
(72)【発明者】
【氏名】クック, ジョン デズモンド
【テーマコード(参考)】
4L037
4L045
【Fターム(参考)】
4L037CS02
4L037CS03
4L037FA01
4L037PA53
4L037PF10
4L037PS02
4L045AA02
4L045CA32
4L045CB30
(57)【要約】
本開示は、炭素繊維の製造に典型的に使用されるポリマーラージトウ繊維などのポリマー繊維の製造に使用するための紡糸口金ハウジングに関する。本開示は、紡糸口金ハウジングを含むシステム、及びそのようなシステムを使用してポリマー繊維を製造するための方法にも関する。製造されたポリマー繊維は炭素繊維の製造に有用であり、この炭素繊維は、特に航空宇宙産業、海洋産業、及び自動車産業などの多くの分野に関連する複合材料における構造構成要素として利用される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸口金又は紡糸口金アセンブリを典型的には取り外し可能に固定するようにされた本体を有する紡糸口金ハウジングであって、前記本体が、
前記本体から延びるフランジ付き円筒壁であって、前記フランジが前記壁の遠位部分において半径方向内側に突出しているフランジ付き円筒壁と、
前記本体を取り囲む円筒管であって、前記フランジ付き円筒壁と同軸であり、前記フランジ付き円筒壁よりも大きい直径を有する円筒管と、
前記本体を取り囲む円筒管から延びるカウルであって、前記フランジ付き円筒壁の遠位端を越えて延びるカウルと、
を備える紡糸口金ハウジング。
【請求項2】
前記カウルが、円筒形状、円錐台形状、又はそれらの組み合わせを有する、請求項1に記載の紡糸口金ハウジング。
【請求項3】
前記カウルが円錐台形状を有する、請求項1に記載の紡糸口金ハウジング。
【請求項4】
前記円錐台形状が対称又は非対称である、請求項3に記載の紡糸口金ハウジング。
【請求項5】
前記フランジ付き円筒壁の面から遠位開口部まで測定される前記カウルの長さが、10~100mm、典型的には15~40mmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の紡糸口金ハウジング。
【請求項6】
前記カウルの遠位開口部の直径が、100~200mm、典型的には150~190mm、より典型的には160~190mmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の紡糸口金ハウジング。
【請求項7】
前記紡糸口金ハウジングが、一体に、典型的には取り外し可能に固定された2つ以上の部品の組み合わせである、請求項1~6のいずれか一項に記載の紡糸口金ハウジング。
【請求項8】
前記カウルが着脱可能である、請求項1~7のいずれか一項に記載の紡糸口金ハウジング。
【請求項9】
ポリマー繊維を製造するためのシステムであって、
a)請求項1~8のいずれか一項に記載の紡糸口金ハウジングと、
b)ポリマードープ供給ラインと、
c)典型的にはラージトウ用である紡糸口金又は紡糸口金アセンブリと、
d)凝固液を含む凝固浴と、
を備えるシステム。
【請求項10】
前記紡糸口金又は紡糸口金アセンブリが、前記紡糸口金ハウジング内に、典型的には取り外し可能に固定される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記ポリマードープ供給ラインが前記紡糸口金の入口に接続される、請求項9又は10に記載のシステム。
【請求項12】
ポリマー繊維の製造方法であって、
a’)請求項9~11のいずれか1項に記載のシステムを準備すること、
b’)ポリマードープ供給ラインを通って紡糸口金又は紡糸口金アセンブリに供給されるポリマードープを、凝固浴中に紡糸すること、
を含む方法。
【請求項13】
前記フィラメント径及び/又は真円度のばらつきが、前記紡糸口金ハウジングなしの方法で得られるフィラメント径及び/又は真円度のばらつきと比較して、5~50%、典型的には10~40%、より典型的には20~25%減少する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の方法によって製造される1種以上のポリマー繊維。
【請求項15】
前記フィラメント径が、1~50μm、典型的には7~25μm、より典型的には9~20μm、更に典型的には10~16μmである、請求項14に記載の1種以上のポリマー繊維。
【請求項16】
前記フィラメント径のばらつきが2.1未満、典型的には2未満である、請求項14又は15に記載の1種以上のポリマー繊維。
【請求項17】
前記フィラメントの真円度が0.75~1、典型的には0.75~0.85である、請求項14~16のいずれか一項に記載の1種以上のポリマー繊維。
【請求項18】
前記フィラメント真円度のばらつきが0.07未満である、請求項14~17のいずれか一項に記載の1種以上のポリマー繊維。
【請求項19】
炭素繊維の製造方法であって、
(i)請求項14~18のいずれか一項に記載のポリマー繊維を準備するか、又は請求項12若しくは13に記載の方法に従ってポリマー繊維を製造すること;
(ii)工程(i)で製造された前記ポリマー繊維を酸化して、安定化された炭素繊維前駆体繊維を形成し、次いで前記安定化された炭素繊維前駆体繊維を炭化することによって炭素繊維を製造すること、
含む方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法によって製造される炭素繊維。
【請求項21】
請求項19に記載の方法に従って製造される炭素繊維又は請求項20に記載の炭素繊維と、マトリックス樹脂とを含む複合材料。
【請求項22】
請求項21に記載の複合材料を硬化させることによって得られる複合物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月06日に出願された米国仮特許出願第63/252,673号に基づく優先権を主張するものであり、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、炭素繊維の製造に典型的に使用される、ポリマーラージトウ繊維などのポリマー繊維の製造に使用するための紡糸口金ハウジングに関する。本開示は、紡糸口金ハウジングを含むシステム、及びそのようなシステムを使用してポリマー繊維を製造するための方法にも関する。製造されたポリマー繊維は炭素繊維の製造に有用であり、この炭素繊維は、特に航空宇宙産業、海洋産業、及び自動車産業などの多くの分野に関連する複合材料における構造構成要素として利用される。
【背景技術】
【0003】
炭素繊維は、高い強度及び剛性、高い耐化学薬品性、並びに低い熱膨張などのそれらの望ましい特性のため、多種多様な用途に使用されてきた。例えば、炭素繊維は、同等特性の金属構成要素よりも著しく軽い重量を持ちながら、高い強度と高い剛性とを組み合わせている構造部品へ成形することができる。炭素繊維は、とりわけ航空宇宙、海洋、及び自動車用途向けの複合材料における構造構成要素として、ますます使用されつつある。特に、炭素繊維が樹脂又はセラミックマトリックス中の強化材料として機能する複合材料が開発されてきた。
【0004】
アクリロニトリル由来の炭素繊維は、一般に、重合、紡糸、延伸及び/又は洗浄、酸化、並びに炭化を含む一連の製造工程又は段階によって製造される。ポリアクリロニトリル(PAN)ポリマーは、現在炭素繊維の最も幅広く使用されている前駆体である。重合段階中に、アクリロニトリル(AN)は、任意選択的に1種以上のコモノマーと共に、PANポリマーへと変換される。その後、PANポリマーに対して紡糸、延伸及び/又は洗浄、酸化、並びに炭化が行われ、炭素繊維が製造される。
【0005】
炭素繊維の90%超がPANポリマーに由来するため、炭素繊維、特にラージトウ炭素繊維のより速い生産、低費用、及び/又はより簡易な製造を目的として、下流のプロセスに影響を与えるポリマー特性の制御可能なパラメータを特定することが重要である。
【0006】
紡糸及び凝固工程では、ポリマードープが紡糸口金を通して凝固浴中に押し出され、そこでポリマーが凝固して繊維トウ又は繊維束が形成される。繊維束の体積は凝固浴に沿って連続的に減少し、そこから使用済みの凝固剤が絞り出される。この溶媒を多く含む液体は繊維凝固ゾーンに再循環する傾向があり、このゾーンは基本的に紡糸口金面から最初の数インチである。凝固浴と浸漬された紡糸口金パックの形状のため、紡糸口金周囲の層流である凝固剤の流れは均一ではないことから、使用済み凝固剤の逆流速度も変動し、それによって紡糸口金周囲の溶媒濃度が不均一になる。そのような凝固ゾーン周囲の濃度勾配は、フィラメント形成のばらつきを引き起こす。
【0007】
したがって、凝固工程の間に凝固ゾーン周囲に現れる濃度勾配を低減又は除去することができ、それによって特にラージトウ繊維のフィラメント形成のばらつきを低減又は排除することができる、ポリマー繊維を製造するための装置及び方法が継続的に求められている。
【発明の概要】
【0008】
この目的及び以下の詳細な説明から明らかになる他の目的は、その全体又は一部が、本開示の装置、方法及び/又はプロセスによって達成される。
【0009】
第1の態様では、本開示は、紡糸口金又は紡糸口金アセンブリを典型的には取り外し可能に固定するようにされた本体を有する紡糸口金ハウジングであって、本体が、
本体から延びるフランジ付き円筒壁であって、フランジが前記壁の遠位部分において半径方向内側に突出しているフランジ付き円筒壁と、
本体を取り囲む円筒管であって、フランジ付き円筒壁と同軸であり、且つフランジ付き円筒壁よりも大きい直径を有する円筒管と、
本体を取り囲む円筒管から延びるカウルであって、フランジ付き円筒壁の遠位端を越えて延びるカウルと、
を備える紡糸口金ハウジングに関する。
【0010】
第2の態様では、本開示は、ポリマー繊維を製造するためのシステムであって、
a)本明細書に記載の紡糸口金ハウジングと、
b)ポリマードープ供給ラインと、
c)典型的にはラージトウ用である紡糸口金又は紡糸口金アセンブリと、
d)凝固液を含む凝固浴と、
を備えるシステムに関する。
【0011】
第3の態様では、本開示は、ポリマー繊維の製造方法であって、
a’)本明細書に記載のシステムを準備すること、
b’)ポリマードープ供給ラインを通って紡糸口金又は紡糸口金アセンブリに供給されるポリマードープを、凝固浴中に紡糸すること、
を含む方法に関する。
【0012】
第4の態様では、本開示は、本明細書に記載の通りに製造される1種以上のポリマー繊維に関する。
【0013】
第5の態様では、本開示は、炭素繊維の製造方法であって、
(i)本明細書に記載のポリマー繊維を準備するか、又は本明細書に記載の方法に従ってポリマー繊維を製造すること、
(ii)工程(i)で製造されたポリマー繊維を酸化して、安定化された炭素繊維前駆体繊維を形成し、次いで安定化された炭素繊維前駆体繊維を炭化することによって炭素繊維を製造すること、
含む方法に関する。
【0014】
第6の態様では、本開示は、本明細書に記載の方法に従って製造される炭素繊維とマトリックス樹脂とを含む複合材料に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本明細書に記載の紡糸口金ハウジングの一実施形態の正面透視図である。
【
図2】本明細書に記載の紡糸口金ハウジングの一実施形態の背面透視図である。
【
図3】本明細書に記載の紡糸口金ハウジングの一実施形態の分解図である。
【
図4】本明細書に記載の紡糸口金ハウジングの一実施形態を用いて及び用いずに製造された白色繊維トウについて決定された、標準偏差を含むフィラメント径を示す。
【
図5】本明細書に記載の紡糸口金ハウジングの一実施形態を用いて及び用いずに製造された白色繊維トウについて決定された、標準偏差を含む真円度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で使用される場合、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」又は「その(the)」は、特に明記しない限り、「1つ又は複数」又は「少なくとも1つ」を意味し、互いに交換して使用することができる。
【0017】
本明細書で使用される場合、「A及び/又はB」の形態の句で使用される用語「及び/又は」は、Aのみ、Bのみ又はAとBを一緒に、を意味する。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」には、「から本質的になる(consists essentially of)」及び「からなる(consists of)」が含まれる。用語「含む(comprising)」には、「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」が含まれる。「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含有する(containing)」又は「を特徴とする(characterized by)」と同義であり、包括的又は非制限的であることを意図し、付加的な、列挙されていない構成要素又は工程を排除しない。移行句「から本質的になる(consisting essentially of)」は、指定された材料又は工程の他、記載された組成物、プロセス、方法又は物品の基本的特徴又は機能に本質的に影響を与えないものを含む。移行句「からなる(consisting of)」は、指定されていないあらゆる構成要素、工程又は成分を排除する。
【0019】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される技術的な用語及び科学的な用語は全て、本明細書が関係する技術分野の当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0020】
本明細書で使用される場合、別段の指定がない限り、用語「約」又は「およそ」は、当業者によって決定される特定の値についての許容可能な誤差を意味し、これは、その値がどのように測定又は決定されるかに部分的に依存する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、1、2、3又は4標準偏差内を意味する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.05%以内を意味する。
【0021】
また、本明細書に記載する任意の数値範囲は、そこに包含されるあらゆる部分的な範囲を含むことを意図していることが理解されよう。例えば、範囲「1~10」は、列挙された最小値である1と、列挙された最大値である10との間の(これらの値を含む)あらゆる部分範囲、すなわち、1以上の最小値及び10以下の最大値を有する範囲を含むことを意図する。開示されている数値範囲は連続しているため、最小値と最大値との間の全ての値が含まれる。特に明記しない限り、本出願で指定する様々な数値範囲は近似値である。
【0022】
本明細書で使用される用語及び語句「発明」、「本発明(present invention)」、「本発明(instant invention)」、並びに同様の用語及び語句は、非限定的であり、本発明の主題をいずれかの単一の実施形態に限定することを意図するものではなく、記載されている可能な全ての実施形態を包含する。
【0023】
第1の態様では、本開示は、紡糸口金又は紡糸口金アセンブリを典型的には取り外し可能に固定するようにされた本体を有する紡糸口金ハウジングであって、本体が、
本体から延びるフランジ付き円筒壁であって、フランジが前記壁の遠位部分において半径方向内側に突出しているフランジ付き円筒壁と、
本体を取り囲む円筒管であって、フランジ付き円筒壁と同軸であり、フランジ付き円筒壁よりも大きい直径を有する円筒管と、
本体を取り囲む円筒管から延びるカウルであって、フランジ付き円筒壁の遠位端を越えて延びるカウルと、
を備える紡糸口金ハウジングに関する。
【0024】
紡糸口金ハウジングの例示的な実施形態が、紡糸口金ハウジング100として
図1及び
図2に示されている。紡糸口金ハウジング100は、紡糸口金又は紡糸口金アセンブリを収容及び/又は固定する形状の中空内部を含む本体101と、背面カバー102とを含む。紡糸口金又は紡糸口金アセンブリは、紡糸口金ハウジングに永久的に、又は取り外し可能に、典型的には取り外し可能に、固定することができる。本体101は、本体から延びるフランジ付き円筒壁104も備えており、フランジ103は、前記壁の遠位部分において半径方向内側に突出している。円筒管105は本体を取り囲んでいる。カウル106は、本体を取り囲む円筒管から延びており、フランジ付き円筒壁の遠位端を越えて延びている。
【0025】
図2に示されているように、円筒管105はフランジ付き円筒壁と同軸であり、フランジ付き円筒壁よりも大きい直径を有する。円筒管105と本体101は、凝固液が紡糸口金又は紡糸口金アセンブリを通って及びその周囲を流れることを可能にする1つ以上の開口部107が存在するようにされている。
【0026】
紡糸及び凝固の間、紡糸口金を通して押し出された繊維束の体積は凝固浴に沿って連続的に減少し、そこから使用済みの凝固剤が絞り出される。この溶媒を多く含む液体は繊維凝固ゾーンに再循環する傾向があり、このゾーンは基本的に紡糸口金面から最初の数インチである。凝固浴と浸漬された紡糸口金パックの形状のため、紡糸口金周囲の層流である凝固剤の流れは均一ではないことから、使用済み凝固剤の逆流速度も変動し、それによって紡糸口金周囲の溶媒濃度が不均一になる。そのような凝固ゾーン周囲の濃度勾配は、フィラメント形成のばらつきを引き起こす。カウル106の存在は、凝固ゾーン周囲の濃度勾配の形成をなくすように機能し、その結果、フィラメント形成のばらつきが低減又は排除される。ドープ温度と凝固浴温度が異なる場合には、紡糸口金ハウジングのカウルは、断熱効果によって紡糸口金周囲の凝固浴の温度不均一性も低減する。
【0027】
カウルの形状は、フランジ付き円筒壁の遠位端(典型的にはおおよそ紡糸口金面の位置)を越えて延びている限り、特に限定されない。一実施形態では、カウルは、円筒形状、円錐台形状、又はそれらの組み合わせを有する。一実施形態では、カウルは円錐台形状を有する。
【0028】
当業者に理解されるように、「円錐台形状」とは、頂部が切断された円錐形状を指す。言い換えると、「円錐台形状」とは、円錐を切断する1つ又は2つの平面(典型的には平行平面)の間にある円錐の部分に由来する形状を指す。円錐台形状は対称であっても非対称であってもよい。円錐台形状が対称である場合、その形状の元となる円錐は直円錐である。すなわち、通常は円形である円錐底面の中心を通って垂直に延びる軸上に頂点を持つ。この場合、円錐台形状の側面が底面に対してなす角度は、形状全体にわたって同じである。円錐台形状が非対称である場合、その形状の元となる円錐は斜円錐である。すなわち、円錐底面の中心を通って垂直に延びる軸上にない頂点を持つ。この場合、円錐台形状の側面が底面に対してなす角度は、形状全体にわたって同じではない。
【0029】
カウルは、円筒形と円錐形との組み合わせであってもよい。そのような構成の場合、例えば、カウルは、最初に円筒形状として本体から延び、その後円錐台形状に変化することができる。
【0030】
カウルの寸法は特に限定されない。しかしながら、いくつかの実施形態では、フランジ付き円筒壁の面から遠位開口部まで測定されるカウルの長さは、10~100mm、典型的には15~40mmである。いくつかの実施形態では、カウルの遠位開口部の直径は、100~200mm、典型的には150~190mm、より典型的には160~190mmである。
【0031】
紡糸口金ハウジングは、一体に固定された2つ以上の部品の組み合わせであってもよい。2つ以上の部品の組み合わせは、永久的な方法で一体に固定されていてもよい。しかしながら、2つ以上の部品の組み合わせは、例えば、1つ以上の部品の保守、修理、交換、又は紡糸口金の取り外し若しくは交換のために、望まれる時に部品を分離できるように一体に固定されていることが有利である。
図3に示されているように、例示的な紡糸口金ハウジング200は、紡糸口金又は紡糸口金アセンブリ300を収容及び/又は固定するような形状の中空内部を備える本体201と、背面カバー202との組み合わせであってよい。本体201は、本体から延びるフランジ付き円筒壁203も備えており、フランジ204は、前記壁の遠位部分において半径方向内側に突出している。円筒管205は本体を取り囲んでいる。カウル206は、本体を取り囲む円筒管から延びており、フランジ付き円筒壁の遠位端を越えて延びている。
【0032】
カウルは、
図3に示されているように円筒管の永久的な延長部分であってよく、或いは
図2に示されているように着脱可能であってもよい。一実施形態では、カウルは着脱可能である。カウルを円筒管に取り外し可能な形で取り付けるために、当業者に公知の任意の手段、例えばねじ、クリップ、磁石などを使用することができる。
【0033】
紡糸口金ハウジングは、当業者に公知の材料から製造することができる。例示的な材料としては、限定するものではないが、鉄、鋳鉄、銅、真鍮、アルミニウム、チタン、炭素鋼、ステンレス鋼、及びこれらの合金などの金属;並びに熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などのポリマーが挙げられる。例示的な熱硬化性樹脂としては、限定するものではないが、エポキシ樹脂、オキセタン、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ベンゾオキサジン、ホルムアルデヒド縮合樹脂(尿素、メラミン、又はフェノールなど)、ポリエステル、アクリル、これらのハイブリッド、ブレンド、及び組み合わせが挙げられる。例示的な熱可塑性ポリマーとしては、限定するものではないが、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリアミド(PA)、例えば脂肪族ポリアミド及び半芳香族ポリアミド;ポリイミド(PI)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリアミド-イミド(PAI)、ポリアリーレンスルフィド(PAS)、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリアリールエーテルスルホン(PAES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フルオロポリマー(FP)、例えばポリフッ化ビニリデン;ポリカーボネート、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
第2の態様では、本開示は、ポリマー繊維を製造するためのシステムであって、
a)本明細書に記載の紡糸口金ハウジングと、
b)ポリマードープ供給ラインと、
c)典型的にはラージトウ用である紡糸口金又は紡糸口金アセンブリと、
d)凝固液を含む凝固浴と、
を備えるシステムに関する。
【0035】
本明細書に記載のシステムは、ポリマー繊維を製造するために、典型的には凝固浴中へのポリマードープ、すなわち「スピンドープ」の紡糸のために使用される。紡糸口金又は紡糸口金アセンブリは、ポリマードープ供給ラインに接続され、この供給ラインは、ポリマードープが入ってる貯蔵タンクなどのポリマードープ供給源から、1つ以上のポンプの作用によってポリマードープを紡糸口金まで送るように機能する。ポリマー繊維は、凝固液が入っている凝固浴の中で凝固する。
【0036】
一実施形態では、紡糸口金又は紡糸口金アセンブリは、紡糸口金ハウジング内に、典型的には取り外し可能に固定される。
【0037】
一実施形態では、ポリマードープ供給ラインは紡糸口金の入口に接続される。
【0038】
第3の態様では、本開示は、ポリマー繊維の製造方法であって、
a’)本明細書に記載のシステムを準備すること、
b’)ポリマードープ供給ラインを通って紡糸口金又は紡糸口金アセンブリに供給されるポリマードープを、凝固浴中に紡糸すること、
を含む方法に関する。
【0039】
下流プロセスで炭素繊維を製造するために適したものなどのポリマー繊維の製造中に、ポリマー溶液(すなわちスピン「ドープ」)は、典型的には凝固浴中に紡糸される。スピンドープは、溶液の総重量を基準として少なくとも10重量%、典型的には約16重量%~約28重量%、より典型的には約19重量%~約24重量%のポリマー濃度を有することができる。ドープは、ポリマーがフィラメントを形成するために液体凝固浴中へ紡糸口金(典型的には金属製)の穴を通して濾過され、押し出される。紡糸口金穴は、繊維の所望のフィラメント番手を決定する(例えば、3K炭素繊維用には3,000穴)。一実施形態では、紡糸口金はラージトウ繊維用であり、典型的には24K~50K繊維用である。
【0040】
本方法に使用される凝固液は、溶媒と非溶媒との混合物である。水又はアルコールが、典型的には非溶媒として使用される。適切な溶媒としては、本明細書に記載の溶媒が挙げられる。一実施形態では、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物が溶媒として使用される。別の実施形態では、ジメチルスルホキシドが溶媒として使用される。溶媒と非溶媒の比、及び浴温度は、特に限定されず、凝固において押し出された新生フィラメントの望まれる凝固速度を実現するために、公知の方法に従って調節することができる。しかしながら、凝固浴は、典型的には40重量%~85重量%の1種以上の溶媒を含み、残部は水やアルコールなどの非溶媒である。一実施形態では、凝固浴は、40重量%~70重量%の1種以上の溶媒を含み、残部は非溶媒である。別の実施形態では、凝固浴は50重量%~85重量%の1種以上の溶媒を含み、残部は非溶媒である。
【0041】
典型的には、凝固浴の温度は0℃~80℃である。一実施形態では、凝固浴の温度は30℃~80℃である。別の実施形態では、凝固浴の温度は0℃~20℃である。
【0042】
繊維トウを調べるためには、デジタル顕微鏡を使用してトウの断面画像を撮影し、次いで画像解析ソフトウェアを使用してフィラメント径及び対応する分布を決定する。その後、この分布データをJMPなどの統計解析ソフトを使用して解析することで、フィラメントのばらつきが決定される。フィラメントの真円度は、画像解析ソフトを使用してフィラメントの断面形状を解析することで決定される。フィラメント真円度は、典型的には値が0~1の範囲になるように正規化される。1のフィラメントの真円度が、円の理想的な場合であるとみなされる。
【0043】
一実施形態では、フィラメント径及び/又は真円度のばらつきは、紡糸口金ハウジングなしの方法で得られるフィラメント径及び/又は真円度のばらつきと比較して、5~50%、典型的には10~40%、より典型的には20~25%減少する。
【0044】
第4の態様では、本開示は、本明細書に記載の通りに製造される1種以上のポリマー繊維に関する。
【0045】
一実施形態では、フィラメント径は、1~50μm、典型的には7~25μm、より典型的には9~20μm、更に典型的には10~16μmである。
【0046】
一実施形態では、フィラメント径のばらつきは、2.1未満、典型的には2未満である。
【0047】
一実施形態では、フィラメントの真円度は、0.75~1、典型的には0.75~0.85である。
【0048】
一実施形態では、フィラメントの真円度のばらつきは0.07未満である。
【0049】
第5の態様では、本開示は、炭素繊維の製造方法であって、
(i)本明細書に記載のポリマー繊維を準備するか、又は本明細書に記載の方法に従ってポリマー繊維を製造すること、
(ii)工程(i)で製造されたポリマー繊維を酸化して、安定化された炭素繊維前駆体繊維を形成し、次いで安定化された炭素繊維前駆体繊維を炭化することによって炭素繊維を製造すること、
含む方法に関する。
【0050】
本明細書に記載のポリマー繊維又は本明細書に記載の方法に従って製造されたポリマー繊維を酸化して、安定化された炭素繊維前駆体繊維を形成することができ、次いで安定化された炭素繊維前駆体繊維を炭化することで炭素繊維が製造される。
【0051】
酸化段階の間に、ポリマー繊維は、張力を掛けた状態で、150~300℃、典型的には200~280℃、より典型的には220~270℃の温度をそれぞれ有する1つ以上の専用のオーブンに通される。それぞれのオーブンには加熱された空気が供給される。ポリマー繊維は、4~100fpm、典型的には30~75fpm、より典型的には50~70fpmの速度で1つ以上のオーブンを通って運ばれる。
【0052】
酸化プロセスでは、空気由来の酸素分子が繊維と結合してポリマー鎖が架橋を開始し、これにより繊維密度が1.3g/cm3~1.4g/cm3に増加する。酸化プロセスでは、繊維にかけられる張力は通常0.8~1.35、典型的には1.0~1.2の延伸比で繊維の延伸又は収縮を制御する。延伸比が1である場合には、延伸はない。延伸比が1よりも大きい場合には、適用される張力によって繊維が延伸される。このような酸化された繊維、典型的にはPAN繊維は、不融性のラダー型芳香族分子構造を有し、炭化処理の準備ができている。
【0053】
炭化は、炭素分子の結晶化をもたらし、その結果として90パーセント超の炭素含有量を有する完成した炭素繊維を生成する。酸化又は安定化された炭素繊維前駆体繊維の炭化は、1つ以上の特別に設計された炉の中にて不活性(無酸素)雰囲気中で、典型的に窒素雰囲気中で行われる。酸化された炭素繊維前駆体繊維は、それぞれが300℃~1650℃、典型的には1100℃~1450℃の温度に加熱された1つ以上のオーブンを通過する。
【0054】
マトリックス樹脂と炭素繊維との間の接着は、炭素繊維強化ポリマー複合材料における重要な基準である。そのため、炭素繊維の製造中に、この接着を強化するために酸化及び炭化後に表面処理を行うことができる。
【0055】
表面処理は、炭化された繊維を、重炭酸アンモニウム又は次亜塩素酸ナトリウムなどの、電解質を含む電解浴を通して引っ張ることを含むことができる。電解浴の化学物質は、繊維の表面をエッチング又は粗くし、これにより界面繊維/マトリックス結合に利用可能な表面積を増加させて反応性化学基を追加する。
【0056】
次に、炭素繊維は、サイズコーティング(例えば、エポキシ系コーティング)が繊維に対して塗布される、サイジング処理にかけることができる。サイジング処理は、繊維を、液体コーティング材料を含むサイズ浴を通過させることによって実施することができる。サイジング処理は、ハンドリング中に、並びに乾燥布地及びプレプレグなどの、中間形態への加工中に炭素繊維を保護する。サイジング処理はまた、けばを減少させ、加工性を向上させ、繊維とマトリックス樹脂との間の界面剪断強度を高めるために、フィラメントを個々のトウで一緒に保持する。
【0057】
サイジング処理後に、コーティングされた炭素繊維は、乾燥させられ、次いでボビンに対して巻き付けられる。
【0058】
当業者は、本開示の趣旨から逸脱することなく望まれる構造及びデニールのフィラメントを得るために、加工条件(紡糸溶液及び凝固浴の組成、浴の総量、延伸、温度、及びフィラメント速度など)を変更し得ることを理解するであろう。
【0059】
第6の態様では、本開示は、本明細書に記載の方法に従って製造される炭素繊維とマトリックス樹脂とを含む複合材料に関する。
【0060】
多数の液体-成形プロセスにおいて、本明細書に記載した方法に従って製造される炭素繊維を含むプリフォームを成形し、プリフォームに熱硬化性樹脂を注入することによって複合材料を製造することができる。使用可能な液状成形プロセスとしては、真空で生じる差圧を用いてプリフォームに樹脂を注入する真空含浸工法(VARTM)が挙げられるが、これに限定されない。別の方法は、密閉した鋳型においてプリフォームに樹脂を加圧注入する含浸工法(RTM)である。3番目の方法は、樹脂フィルム注入法(RFI)であり、半固形の樹脂をプリフォームの下又は上に置き、適切な工具を部品に配置し、その部品を袋に入れた後に、オートクレーブに入れて溶解して、プリフォームに樹脂を注入する。
【0061】
本明細書に記載のプリフォームを含浸又は注入するためのマトリックス樹脂は、硬化性樹脂である。本開示における「硬化(curing)」又は「硬化(cure)」は、ポリマー鎖の化学架橋によるポリマー材料の固化を意味する。組成物に関して用語「硬化性(curable)」は、組成物が、組成物を固化又は熱硬化状態にする条件に供され得ることを意味する。マトリックス樹脂は、典型的には、1種又は複数の未硬化の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含有する固化性又は熱硬化性樹脂である。好適な熱硬化性樹脂としては、限定するものではないが、エポキシ樹脂、オキセタン、イミド(ポリイミド又はビスマレイミドなど)、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ベンゾオキサジン、ホルムアルデヒド縮合樹脂(尿素、メラミン、又はフェノールなど)、ポリエステル、アクリル、これらのハイブリッド、ブレンド、及び組み合わせが挙げられる。適した熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、フルオロポリマー、ペルフルオロスルホン酸、ポリアミド-イミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニリデン、スルホンポリマー、それらの混成物、ブレンド、及び組み合わせが挙げられるがそれらに限定されない。
【0062】
好適なエポキシ樹脂としては、芳香族ジアミン、芳香族モノ一級アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のグリシジル誘導体、及びオレフィン性二重結合の過酸化により生成する非グリシジル樹脂が挙げられる。好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールK及びビスフェノールZなどのビスフェノールのポリグリシジルエーテル;クレゾール及びフェノール系ノボラックのポリグリシジルエーテル、フェノール-アルデヒド付加物のグリシジルエーテル、脂肪族ジアルのグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、芳香族エポキシ樹脂、脂肪族ポリグリシジルエーテル、エポキシ化オレフィン、臭素化樹脂、芳香族グリシジルアミン、複素環式グリシジルイミド及びアミド、グリシジルエーテル、フッ素化エポキシ樹脂又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0063】
具体的な例は、4,4’-ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体(TGDDM)、レゾルシノールジグリシジルエーテル、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、ブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、フェノール-ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジルエーテル、o-クレゾールノボラックのポリグリシジルエーテル又はテトラフェニルエタンのテトラグリシジルエーテルである。
【0064】
分子あたり少なくとも1つのオキセタノ基を含む化合物である好適なオキセタン化合物としては、例えば、3-エチル-3[[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル]オキセタン、オキセタン-3-メタノール、3,3-ビス-(ヒドロキシメチル)オキセタン、3-ブチル-3-メチルオキセタン、3-メチル-3-オキセタンメタノール、3,3-ジプロピルオキセタン、及び3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタンなどの化合物が挙げられる。
【0065】
硬化性マトリックス樹脂は、任意選択的には、硬化剤、硬化触媒、コモノマー、レオロジー制御剤、粘着付与剤、無機又は有機充填剤、強化剤としての熱可塑性及び/又は弾性ポリマー、安定剤、抑制剤、顔料、染料、難燃剤、反応性稀釈剤、UV吸収剤及び硬化前及び/又は硬化後のマトリックス樹脂の特性を改良するための当業者に公知のその他の添加剤などの1種又は複数の添加剤を含んでもよい。
【0066】
好適な硬化剤の例としては、芳香族、脂肪族及び脂環式アミン、又はグアニジン誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。好適な芳香族アミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)、及び3,3’ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアンモジフェニルメタン、ベンゼンジアミン(BDA)が挙げられ;好適な脂肪族アミンとしては、エチレンジアミン(EDA)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)(M-DEA)、m-キシリレンジアミン(mXDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、トリオキサトリデカンジアミン(TTDA)、ポリオキシプロピレンジアミン、及び更なる同族体、ジアミノシクロヘキサン(DACH)、イソホロンジアミン(IPDA)、4,4’ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、ビスアミノプロピルピペラジン(BAPP)、N-アミノエチルピペラジン(N-AEP)などの脂環式アミンが挙げられ;他の好適な硬化剤としては、無水物、典型的にはポリカルボン酸無水物、例えば、無水ナジック酸、メチルナジック酸無水物、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレン-テトラヒドロフタル酸無水物、ピロメリット酸二無水物、無水クロレンド酸、及び無水トリメリット酸などが挙げられる。
【0067】
更に他の硬化剤は、ルイス酸:ルイス塩基錯体である。好適なルイス酸:好適な塩基錯体としては、例えば、BCl3:アミン錯体、BF3:アミン錯体、例えば、BF3:モノエチルアミン、BF3:プロピルアミン、BF3:イソプロピルアミン、BF3:ベンジルアミン、BF3:クロロベンジルアミン、BF3:トリメチルアミン、BF3:ピリジン、BF3:THF、AlCl3:THF、AlCl3:アセトニトリル、及びZnCl2:THFなどの錯体が挙げられる。
【0068】
追加の硬化剤は、ポリアミド、ポリアミン、アミドアミン、ポリアミドアミン、ポリ環状脂肪族、ポリエーテルアミド、イミダゾール、ジシアンジアミド、置換尿素及びウロン(urone)、ヒドラジン及びシリコーンである。
【0069】
尿素系硬化剤は、商品名DYHARD(Alzchem社により販売)で入手可能な材料、及びUR200、UR300、UR400、UR600、UR700として市販されているものなどの尿素誘導体の範囲である。ウロン促進剤としては、例えば、4,4-メチレンジフェニレンビス(N,N-ジメチル尿素)(U52MとしてOnmicure社から入手可能)などが挙げられる。
【0070】
存在する場合、硬化剤の総重量は、樹脂組成物の1重量%~60重量%の範囲内である。典型的には、硬化剤は、15重量%~50重量%の範囲、より典型的には20重量%~30重量%の範囲で存在する。
【0071】
好適な強化剤としては、限定するものではないが、ポリアミド、コポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリケトン、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレンオキシド(PPO)及び変性PPO、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びポリプロピレンオキシド、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリル、ポリフェニルスルホン、高性能炭化水素ポリマー、液晶ポリマー、エラストマー、セグメント化エラストマー、及びコア-シェル粒子の単独又は組み合わせのいずれかのホモポリマー又はコポリマーを挙げることができる。
【0072】
強化粒子又は強化剤は、存在する場合、樹脂組成物の0.1重量%~30重量%の範囲であってよい。一実施形態においては、強化粒子又は強化剤は、10重量%~25重量%の範囲で存在してよい。別の実施形態では、強化粒子又は強化剤は、0.1~10重量%の範囲で存在してよい。好適な強化粒子又は強化剤としては、例えば、SolvayからのVirantage VW10200FRP、VW10300FP及びVW10700FRP、住友化学からのBASF UltrasonE2020及びSumikaexcel5003Pが挙げられる。
【0073】
強化粒子又は強化剤は、繊維層に組み込まれるのを防ぐために20ミクロン超の直径を有する粒子の形態であってよい。強化粒子又は強化剤のサイズは、繊維強化材により濾過されないように選択することができる。場合により、組成物はまた、無機セラミック粒子、微小球、マイクロバルーン及び粘土を含んでもよい。
【0074】
樹脂組成物は、国際公開第2013/141916号パンフレット、国際公開第2015/130368号パンフレット及び国際公開第2016/048885号パンフレットなどに記載される導電性粒子を含有してもよい。
【0075】
樹脂注入のための鋳型は、2つの構成要素の密閉型であっても、又は真空バックで密閉した片面型であってもよい。マトリックス樹脂を鋳型に注入した後、鋳型を加熱して樹脂を硬化する。
【0076】
加熱中、樹脂はそれ自体と反応して、複合材料のマトリックスに架橋を形成する。初期の加熱後に、樹脂はゲル化する。ゲル化すると、樹脂は、もはや流動しなくなり、むしろ固体として挙動する。ゲル化後、温度又は硬化を最終温度まで上昇させて硬化を完了させてもよい。最終硬化温度は、選択した熱硬化性樹脂の性質及び特性に応じて異なる。
【0077】
したがって、好適な方法においては、マトリックス樹脂をゲル化するのに好適な第1の温度まで複合材料を加熱し、その後、温度を第2の温度まで上昇させて、第2の温度で一時的に保持して硬化を完了させる。
【0078】
したがって、本明細書に記載の複合材料を硬化することによって複合材料が得られる。
【0079】
本開示による装置、システム、方法及びプロセスを以下に示す非限定的な実施例によって更に例示する。
【0080】
実施例1.ポリマードープの紡糸
ポリアクリロニトリル系ポリマーを含むポリマードープを、4つの異なる紡糸口金ハウジングに固定された50K紡糸口金を用いて、50/50のDMSO/水が入っている凝固浴中に湿式紡糸した。この4つの異なる紡糸口金ハウジングは、円錐台形状のカウルの寸法、すなわちカウルの長さ、カウル開口部の直径、カウルの頂部の角度、及びカウルの底部の角度が異なっていた。比較のために、ポリアクリロニトリル系ポリマーを含む同じポリマードープを、紡糸口金ハウジングがない状態で、50K紡糸口金を使用して、50/50のDMSO/水が入っている凝固浴中に湿式紡糸した。紡糸口金ハウジングあり及びなしで製造された白色繊維のトウを回収した。本発明の紡糸口金ハウジングの寸法は以下にまとめられている。
【0081】
【0082】
設計2の紡糸口金ハウジングあり及びなしの繊維トウのフィラメント径及び真円度のばらつきを含む、フィラメント径及び真円度を測定した。
【0083】
図4は、設計2の紡糸口金ハウジングあり及びなしで製造された白色繊維トウについて決定された、標準偏差を含むフィラメント径を示す。本発明の紡糸口金ハウジングを用いて製造された白色繊維トウのフィラメント径は、本発明の紡糸口金ハウジングなしで製造された白色繊維トウのフィラメント径よりもばらつきが小さい、すなわちより均一であることは明らかである。
【0084】
図5は、設計2の紡糸口金ハウジングあり及びなしで製造された白色繊維トウについて決定された真円度を示す。本発明の紡糸口金ハウジングを用いて製造された白色繊維トウの真円度は、紡糸口金ハウジングなしで製造された白色繊維トウの真円度よりもばらつきが小さい、すなわちより均一である。
【国際調査報告】