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特表2024-536442エンジンにおける異常燃焼を防止又は低減するための潤滑組成物
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  • 特表-エンジンにおける異常燃焼を防止又は低減するための潤滑組成物 図1a
  • 特表-エンジンにおける異常燃焼を防止又は低減するための潤滑組成物 図1b
  • 特表-エンジンにおける異常燃焼を防止又は低減するための潤滑組成物 図2a
  • 特表-エンジンにおける異常燃焼を防止又は低減するための潤滑組成物 図2b
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】エンジンにおける異常燃焼を防止又は低減するための潤滑組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 139/00 20060101AFI20240927BHJP
   C10M 129/54 20060101ALN20240927BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240927BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20240927BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240927BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C10M139/00 A
C10M139/00 Z
C10M129/54
C10N10:04
C10N40:25
C10N30:00 Z
C10N10:06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521162
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2022077832
(87)【国際公開番号】W WO2023057581
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】2110616
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522232558
【氏名又は名称】トタルエナジーズ ワンテク
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】モデスティーノ・デ・フェオ
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴ・フォール
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・シャオ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB24Z
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104BJ05C
4H104BJ07C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB10
4H104FA02
4H104FA03
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
本出願は、1種又は複数の基油及び式(I)
(式中、Mはホウ素及びアルミニウムから選択される原子であり;Rメンバーは、互いに独立して、1~50個の炭素原子を有する炭化水素基であり;n1及びn2は、互いに独立して、0、1又は2である)を有する少なくとも1種のスピロ化合物を含む潤滑組成物の、前記潤滑組成物によって潤滑されるエンジン、特にガス燃料のエンジンにおける燃料の異常燃焼を防止及び/又は低減するための使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は複数の基油及び次式(I)
【化1】
(式中、
Mはホウ素及びアルミニウムから選択される原子であり;
n1及びn2は、互いに独立して、0、1又は2に等しく、
Rは、互いに独立して、1~50個の炭素原子、殊に5~20個の炭素原子、好ましくは5~15個の炭素原子を含む炭化水素基を表す)
を有する少なくとも1種のスピロ化合物を含む潤滑組成物の、
前記潤滑組成物によって潤滑されるエンジンにおける燃料の異常燃焼を防止及び/又は低減するための使用。
【請求項2】
前記スピロ化合物が式(I)を有し、式中のR置換基が、互いに独立して、直鎖状又は分岐した脂肪族鎖、特にC1~C50、特にC3~C30、殊にC5~C25、殊にC5~C20、及びより特定的にはC8~C15、より好ましくはC10アルキル鎖、好ましくは直鎖状アルキル鎖を表す、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記スピロ化合物が式(I)を有し、式中のn1及びn2が1に等しく、R置換基が同じである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記スピロ化合物が式(I)を有し、式中のMがホウ素原子である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記1種又は複数のスピロ化合物が、前記潤滑組成物の総質量に対して、0.1~20質量%に含まれる含有量、特に0.2~15質量%、殊に0.5~10質量%、より特定的には0.5~5.0質量%に含まれる含有量で使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記潤滑組成物が、過塩基化されていてもいなくてもよいアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩、特にカルシウム塩、マグネシウム塩及びこれらの混合物から選択される、式(I)のスピロ化合物と異なる少なくとも1種の金属性洗浄添加剤を更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記金属性洗浄添加剤又は複数の金属性洗浄添加剤が、前記潤滑組成物の総質量に対して15質量%未満か又はそれに等しく、特に10質量%未満か又はそれに等しい含有量、より特定的には0.5%~5質量%の含有量で存在する、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
1種又は複数の基油が、前記潤滑組成物の総質量に対して少なくとも50質量%、特に少なくとも60質量%、より特定的には60~99質量%、好ましくは70~90質量%の含有量で存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記潤滑組成物が、摩擦調整剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下添加剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、腐食防止剤、及びこれらの混合物から選択される、前記1種又は複数のスピロ化合物と異なる1種又は複数の他の添加剤を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
可動又は定置であり得るガス動力エンジン、特に圧縮若しくは液化天然ガスエンジン、水素エンジン、二元燃料ガス/ガソリンエンジン又は二元燃料ガス/ディーゼル燃料エンジンにおける異常燃焼を防止及び/又は低減するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
過早点火、特に低速過早点火(LSPI)、及び/又はノッキングを防止及び/又は低減するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油、特にエンジン、特にガス動力エンジン(gas-powered engine)(液化天然ガス、圧縮ガス又は水素ガス)において使用するための潤滑油の分野に関する。より正確には、本発明は、エンジンにおける燃料の異常燃焼、特にエンジン、特にガスエンジンにおける過早点火(pre-ignition)及びノッキングの現象を防止又は低減することができる潤滑組成物(lubricating composition)に関する。
【背景技術】
【0002】
空気の質を改良し、温室効果ガス排出の低減に関する政府の規制に適合することを目的として、多くの車両エンジン製造業者は内燃エンジンの燃料としてガス、特に水素の使用を検討している。
【0003】
しかしながら、ガスは、天然ガスであっても水素であっても、液体炭化水素より熱容量が高く、したがってガス動力エンジンは液体炭化水素を動力源とするエンジンより高い燃焼温度を生じる。これはこれらのエンジンで使用される潤滑剤に対して厳しい要求を課し、したがって特化した潤滑剤の開発が厳格に要求される。
【0004】
水素を動力源とするエンジン、より一般的にはガスエンジンは特に、過早点火といわれる望ましくない異常燃焼(abnormal combustion)現象にさらされ易い。
【0005】
この現象は、点火後の燃焼室で起こる、燃料に由来し得る可燃元素の、また燃焼室内の小量のエンジン潤滑剤の、スパークプラグ以外の起源による制御されない爆発であると考えられ得る。
【0006】
ごく最近になって、「LSPI」としてより広く知られている低速過早点火が確認され、これは一般に低速及び高負荷下で起こる。
【0007】
過早点火の現象は潜在的に、エンジンの効率及び全体的性能に重大な負の影響を有し、又はエンジン内のシリンダー、ピストン、スパークプラグ及びバルブに相当な損傷を生じ得、これはエンジンの故障又はエンジンの破壊さえ引き起こしかねない。
【0008】
その結果、研究は、この現象の発生を低減するか又は更には根絶することを目的として、LSPIの原因を理解することに集中して来ている。
【0009】
その結果幾つかの研究は、LSPIの頻度が使用するエンジン潤滑剤の組成に敏感であることを示した。特に、カルシウムをベースとする洗浄剤に由来するカルシウムがLSPIの出現の原因の1つとして特定された。そのため、LSPI現象の発生を低減するために、カルシウムをベースとする洗浄剤、例えばカルシウムのスルホン酸塩、石炭酸塩、サリチル酸塩の量を低減し、マグネシウムをベースとする洗浄剤を増大することが提案されている(Kocsis等、「The Impact of Lubricant Volatility, Viscosity and Detergent Chemistry on Low Speed Pre-Ignition Behavior」、SAE Int. J. Engines、10(3):1019~1035頁、2017; Ritchie等、「Controlling Low-Speed Pre-Ignition in Modern Automotive Equipment, Part 3: Identification of Key Additive Component Types and Other Lubricating composition Effects on Low-Speed Pre-Ignition」、SAE Int. J. Engines、9(2): 832~840頁、2016)。
【0010】
一般に、カルシウムをベースとする洗浄剤は、潤滑剤の配合中、基油に添加される、所望の性能をもたらすように特化された添加剤パッケージ内に存在する。
【0011】
カルシウムをベースとする洗浄剤含有量の単純な低減はうまくいかない。それによりエンジン潤滑剤の洗浄能力及び熱安定性が損なわれてエンジン内の堆積物(deposit)(又はワニス)の生成が増大する結果エンジンの寿命に有害な影響が現れるからである。
【0012】
カルシウムをベースとする洗浄添加剤をマグネシウムをベースとする洗浄剤と取り換えるという提案された解決策に関して、これは確かにLSPIを低減することができるであろうが、ここでもやはり他の所要の特性が損なわれる。特に、この手法では、配合物が所要の性能(例えば洗浄剤のTBN、即ち全塩基価)を維持することが確実にできるようにするために、配合者はこれらの洗浄剤の極めて高く不安定な濃度を使用しなければならないであろう。その上、LSPIの低減に関する利点は、マグネシウムをベースとする配合物が「Fuel Eco」特性ともいわれる車両エンジン燃費低減特性に及ぼす負の影響により相殺される(Gupta等、「Impact of Engine Oil Detergent on Low Speed Pre-Ignition (LSPI) and Fuel Economy Performance」、SAE Technical Paper、2020-01-1424、2020)。
【0013】
ノッキングは、特に車両における火花点火エンジンで、より特定的には自動車車両における火花点火エンジンで生じ得る別の異常燃焼現象であり、燃焼室内における火炎前面上流の燃料の自己点火に起因する。この自己点火は燃焼室において非常に速い速度で伝播し、ガスの塊内の高周波振動及びエンジン内の熱的過負荷を生じ、これは厳しい力学的帰結を有し得る。しかしながら、現在この現象を回避するために自動車エンジンで使用されている、点火進角を低減するといったような解決策は、火花点火エンジンの効率を著しく低下させる。
【0014】
結果として、研究は、エンジンにおけるLSPI及びノッキングのような異常燃焼の現象を低減し、一方潤滑剤に関するその他の所望の特性を保つのに使用することができる新規な潤滑組成物の開発に向けられた。
【0015】
一例として、文書US 2017/0015933は、制御されたカルシウム含有量の組成物を提供する、過塩基化(overbased)及び中性又は「低塩基化(low-based)」洗浄剤の混合物を含む潤滑組成物を提案している。その潤滑組成物に過早点火を低減する添加剤を添加することも提案されている。引用し得る一例は、この目的に様々な窒素含有化合物の使用を提案している文書US 2019/0292473である。
【0016】
他方、文書US 2763613及びUS 2898359は有機金属化合物、より特定的にはフェロセン型化合物から選択されるアンチノック剤化合物の潤滑組成物での使用を記載している。また、エンジンにおけるノッキング現象を低減するためにマンガンをベースとする有機金属化合物を潤滑組成物で使用することを記載している文書WO 2004/101717を引用することが可能である。しかしながら、かかる有機金属化合物の使用は燃焼室での堆積を促進し、その結果重大な機械的故障を起こし得るホットスポット点火のような異常燃焼を引き起こし得る。加えて、これらの化合物はヒトの健康に対する危険を呈し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】US 2017/0015933
【特許文献2】US 2019/0292473
【特許文献3】US 2763613
【特許文献4】US 2898359
【特許文献5】WO 2004/101717
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Kocsis等、「The Impact of Lubricant Volatility, Viscosity and Detergent Chemistry on Low Speed Pre-Ignition Behavior」、SAE Int. J. Engines、10(3):1019~1035頁、2017
【非特許文献2】Ritchie等、「Controlling Low-Speed Pre-Ignition in Modern Automotive Equipment, Part 3: Identification of Key Additive Component 型・タイプ・種類types and Other Lubricating composition Types and Other Lubricating composition E ffects on Low-Speed Pre-Ignition」、SAE Int. J. Engines、9(2): 832~840頁、2016
【非特許文献3】Gupta等、「Impact of Engine Oil Detergent on Low Speed Pre-Ignition (LSPI) and Fuel Economy Performance」、SAE Technical Paper、2020-01-1424、2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、特に自動車車両における可動又は定置のモータリゼーションシステム、特にガス動力エンジンの潤滑に使用されたとき、潤滑剤の他の特性、特にその洗浄能力に影響することなく、異常燃焼、特に過早点火、殊に低速過早点火(LSPI)、又は実際ノッキングを防止及び/又は低減することができる潤滑剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
より特定的には、本発明は、その態様の第1によれば、1種又は複数の基油及び次式(I):
【0021】
【化1】
【0022】
(式中:
Mはホウ素(B)及びアルミニウム(Al)から選択される原子、特にホウ素原子であり;
n1及びn2は、互いに独立して、0、1又は2に等しく;
Rは、互いに独立して、1~50個の炭素原子、特に5~20個、より特定的には5~15個の炭素原子を含む炭化水素基を表す)
を有する少なくとも1種のスピロ化合物を含む潤滑組成物の、
前記潤滑組成物によって潤滑されるエンジン、特にガス動力エンジン、殊に車両における燃料の異常な消費、特に過早点火、殊にLSPI及び/又はノッキングを防止及び/又は低減するための使用に関する。
【0023】
好ましくは、本発明に従って使用されるスピロ化合物は上記式(I)(式中Mはホウ素原子である)を有する。言い換えると、この特定の実施形態によれば、スピロ化合物は次式(I'):
【0024】
【化2】
【0025】
(式中、n1、n2及びRは上に定義した通りである)
を有する「スピロボロネート化合物」として知られている化合物である。
【0026】
用語「異常燃焼」は、エンジン、特に車両エンジン、殊に自動車車両のエンジンの燃焼室内部で燃料混合物の全部又は一部が制御されないで点火される間のあらゆる現象を意味する。より特定的には、本発明に従って使用される用語「異常燃焼」は、低速過早点火(LSPI)を含めた過早点火;及び過早点火事象の後に起こり得るスーパーノッキング又はメガノッキングを含めたノッキングの現象を意味する。
【0027】
本発明に従って使用される用語「過早点火」は、音響効果(又は「ごう音(rumble)」)を生じる低周波数振動の現象を含むことが意図されている。より特定的には、「過早点火」は低速過早点火(LSPI)である。
【0028】
本発明に従う用語「燃料」はより特定的にはガソリン、ディーゼル燃料及び/又はガスを意味する。
【0029】
より簡単にいうと、本明細書の残りの部分において、本発明による用語「スピロ化合物」は、上に定義した式(I)を有するスピロ化合物、特に上に定義した式(I')を有するスピロボロネート化合物を指定するために使用される。本発明により考えられるスピロ化合物の例は本明細書中以下でより詳細に記載する。
【0030】
加えて、より簡単にいって、用語「本発明に従う潤滑組成物」又は「本発明に従う潤滑剤」は、上に定義した通り本発明に従う少なくとも1種のスピロ化合物を組み込んだ潤滑組成物を規定するのに使用される。
【0031】
特に、本発明は、1種又は複数の基油及び上に定義され本明細書中以下に詳述される式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物、特に式(I')の少なくとも1種のスピロボロネート化合物を含む潤滑組成物の、前記潤滑組成物によって潤滑されるエンジン、特にガス動力エンジン、殊に車両における過早点火、特にLSPIを防止及び/又は低減するための使用に関する。
【0032】
本発明はまた、1種又は複数の基油及び上に定義され本明細書中以下に詳述される式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物、特に式(I')の少なくとも1種のスピロボロネート化合物を含む潤滑組成物の、前記潤滑組成物によって潤滑されるエンジン、特にガス動力エンジン、殊に車両におけるノッキングを防止及び/又は低減するための使用にも関する。
【0033】
本発明は更に、その別の態様によれば、少なくとも:
- 1種又は複数の基油;
- 上に定義され本明細書中以下に詳述される式(I)の少なくとも1種のスピロ化合物、特に式(I')を有する少なくとも1種のスピロボロネート化合物
を含むガス動力エンジン、特に車両、殊に自動車車両の潤滑を対象とする潤滑組成物に関する。
【0034】
特定の実施形態によれば、本発明に従って使用される潤滑組成物は、前記スピロ化合物又は本発明に従うスピロ化合物に加えて、特に潤滑剤の分野で従来使用されている金属性洗浄添加剤から選択される、特にカルシウム又はマグネシウムをベースとする1種又は複数の洗浄添加剤を含む。
【0035】
以下の実施例に示されるように、本発明者等は、潤滑剤を上に定義したスピロ化合物、特にスピロボロネートタイプのスピロ化合物で補うことにより、低量であっても、異常燃焼現象、殊にLSPIの発生に及ぼすその影響のために望ましくない金属性洗浄添加剤、特にカルシウムをベースとする洗浄添加剤の含有量をかなり低減する一方で、その潤滑剤の洗浄能力を維持し、更には改良さえすることが可能であるということを発見した。
【0036】
有利なことに、本発明に従うスピロ化合物の潤滑剤としての使用とは、所望の洗浄特性を手に入れるために一般に使用される、殊にカルシウムを有する金属性洗浄添加剤の含有量を低減することができ、したがって前記潤滑剤によって潤滑されるエンジン、例えばガスエンジンにおいて異常燃焼の現象、特に過早点火、特にLSPIの現象を防止又は低減することができるということを意味する。
【0037】
したがって、エンジン、特にガス動力エンジンを潤滑するために本発明に従う潤滑組成物を使用すると、異常燃焼の現象、特に過早点火、殊にLSPIの現象を低減、又は更には防止することができると共に、優れた洗浄特性にアクセスすることが可能になる。
【0038】
以下の実施例で示されるように、潤滑剤の洗浄特性は、実施例に記載するように規格GFC Lu-27-T-07に従って「MCT」(「Micro Coking Test」)試験を用いて熱安定性に関する潤滑剤の性能を評価することにより認識することができる。この試験は、エンジンの最も熱い部分(230℃~280℃)で見られるものと類似の高温条件下で堆積物/ワニスを形成する潤滑剤の傾向を明らかにする。
【0039】
また、有利なことに、エンジン、特に自動車車両のエンジンを潤滑するために本発明に従う潤滑組成物を使用すると、特にノッキング防止添加剤を潤滑剤に添加する必要なく、ノッキングの現象を低減するか又は除外することさえも可能にできる。
【0040】
灰分、特に硫酸塩灰分の起源であることが知られている金属性洗浄剤の含有量の低減はまた、有利なことに、潤滑剤によって生じる灰分の含有量が低減することも可能にし得る。
【0041】
特に、前記金属性洗浄添加剤は、6000ppm未満か又はそれに等しい、特に100ppm~4000ppm、好ましくは250ppm~3000ppmの金属元素、特にカルシウム含有量を提供するようにして潤滑組成物中に存在し得る。
【0042】
本発明に従う潤滑組成物は、有利なことに、規格ASTM D874に従って測定して、前記潤滑組成物の総質量に対して2質量%未満か又はそれに等しい、特に1.5質量%未満か又はそれに等しい、より特定的には1%未満か又はそれに等しい硫酸塩灰分含有量を有し得る。
【0043】
有利なことに、本発明に従う潤滑組成物はまた「Fuel Eco」特性ともいわれる自動車の燃費の低減に関して良好な特性を有し、この理由からCO2放出の低減に寄与する。
【0044】
更に、有利なことに、実施例に示されるように、本発明に従うスピロ化合物、特にスピロボロネートタイプのスピロ化合物の使用は、潤滑組成物の酸化安定性をかなり増大させるために使用することもできる。
【0045】
このように、本発明に従うスピロ化合物、特に本発明に従うスピロボロネート化合物の使用は、優れた洗浄特性、低減した灰分含有量及び優れた酸化安定性特性を有する潤滑剤へのアクセスを提供しつつ、一方で異常燃焼現象を低減するか又は除外さえする。
【0046】
また更に、有利なことに、後記実施例に示されるように、本発明に従うスピロ化合物は、主としてホウ素又はアルミニウム原子の四価構造のため加水分解性ではない。
【0047】
言い換えると、本発明に従うスピロ化合物、特に本発明に従うスピロボロネート化合物は、(例えば、燃料の燃焼から、又は縮合から得られる)水と接触したときに優れた安定性を有する。水の存在下におけるスピロ化合物の分解/減成の欠如は特に、本発明に従う潤滑組成物の使用中、CMR(発がん性、変異原性、及び生殖毒性)と分類される生成物であるホウ酸の形成を防ぐために使用することができる。
【0048】
本発明はまた、エンジン、特にガス動力エンジン、例えば車両エンジンにおける燃料の異常燃焼を防止及び/若しくは低減するプロセス又は方法であって、上に定義した本発明に従う潤滑組成物による前記エンジンの潤滑を含む、プロセス又は方法にも関する。
【0049】
特に、本発明は、エンジン、特にガス動力エンジン、例えば車両エンジンにおける過早点火、特に低速過早点火を防止及び/又は低減するプロセス又は方法であって、上に定義した本発明に従う潤滑組成物による前記エンジンの潤滑を含む、プロセス又は方法に関する。
【0050】
本発明はまた、エンジン、特にガス動力エンジン、例えば車両エンジンにおけるノッキングを防止及び/又は低減するプロセス又は方法であって、上に定義した本発明に従う潤滑組成物による前記エンジンの潤滑を含む、プロセス又は方法にも関する。
【0051】
前記プロセス又は前記方法はより特定的には前記エンジンの少なくとも1つの機械部品を上に定義した本発明に従う潤滑組成物と接触させる工程を含む。
【0052】
本発明はまた、エンジン、特にガス動力エンジン、例えば車両エンジンの潤滑のための本発明に従う潤滑組成物の使用にも関する。
【0053】
本発明はまた、その別の態様において、エンジン、殊にガス動力エンジン、例えば車両エンジンの潤滑のプロセス又は方法であって、エンジンの少なくとも1つの機械部品を上に定義した本発明に従う潤滑組成物と接触させる工程を含む、プロセス又は方法にも関する。
【0054】
本発明に従う潤滑組成物は、その動作中、異常燃焼現象、特に過早点火現象、特にLSPI及び/又はノッキングを被りやすい可能性がある可動又は定置用途向けのあらゆるタイプのエンジンに有利に使用される。
【0055】
より特定的には、本発明は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガス動力エンジンのような車両の内燃エンジンに関する。
【0056】
本発明の文脈において「ディーゼルエンジン」は燃料がディーゼル燃料である燃焼エンジンである。
【0057】
「ガス動力エンジン」は、燃料がバイオガスを含む少なくとも1種のガスを含む内燃エンジンを指定する。これには、もっぱらガスを動力源とする、ガスエンジンと呼ばれるエンジン、例えば天然ガス(液化天然ガス、LNG)、又は圧縮天然ガス(CNG)を動力源とするエンジン、及び水素エンジン、並びにガス及びガソリンを動力源とするエンジン(「二元燃料」ガス/ガソリンエンジン)、ガス及びディーゼル燃料を動力源とするエンジン(「二元燃料」ガス/ディーゼル燃料エンジン)が含まれる。
【0058】
より特定的には、可動用途向けエンジンは、重量物運搬車両、「オフロード」車両といわれる可動機械、軽車両又は実際には海上船舶を始めとする車両に使用されるエンジンである。
【0059】
定置用途向けのエンジン、又は定置エンジンは、例えば、電気エネルギーの生産用装置に用途があり得る。一例を挙げると、定置ガス動力エンジンであり得る。
【0060】
特定の実施形態によれば、本発明に従う潤滑組成物はガスエンジン、特に水素エンジン又は天然ガス(LNG又はCNG)エンジンの潤滑に使用される。
【0061】
本発明に従う潤滑組成物を使用することの他の特徴、変形形態及び利点は、本発明の非限定的例示として挙げる以下の記載及び実施例から明らかとなろう。
【0062】
「…と…の間に含まれる」、「~(from…to…)」、「…から…まで形成される(formed from…to…)」、及び「…から…まで変化する(varying from…to…)」という表現は他に述べない限り限界を含めて解釈されるべきである。
【0063】
本明細書及び実施例において、他に断らない限り、百分率は質量%である。したがって、百分率は組成物の総質量に関する質量で表される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1a】実施例4に記載する、パドルを用いて撹拌した後に得られたスピロボロネートの水中エマルションに対する粒径分布を示すグラフである。
図1b】実施例4に記載する、Ultra-Turrax(登録商標)撹拌後に得られたスピロボロネートの水中エマルションに対する粒径分布を示すグラフである。
図2a】実施例4に記載するようにして得られた、純粋なスピロボロネートに対するNMRスペクトルを示すグラフである。
図2b】実施例4に記載するようにして得られた、残渣に対するNMRスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
スピロ化合物
上に示したように、本発明は、エンジン、特にガス動力エンジンのための潤滑剤における1種又は複数の特定のスピロ化合物の使用に関する。
【0066】
本発明は、特に以下に定義される、単一のスピロ化合物又は少なくとも2種の異なるスピロ化合物、特に3種又は4種の異なるスピロ化合物の混合物を使用し得ると理解されたい。
【0067】
上述した通り、本発明により考えられるスピロ化合物は次の式(I):
【0068】
【化3】
【0069】
(式中、
Mはホウ素及びアルミニウムからから選択される原子であり、特にホウ素原子であり、
n1及びn2は、互いに独立して、0、1又は2に等しく、
Rは、互いに独立して、1~50個の炭素原子、特に5~20個、より特定的には5~15個の炭素原子を含む炭化水素基を表す)
を有する。
【0070】
本発明により考えられる炭化水素基は場合によって1個又は複数のヘテロ原子、例えば-O-、-NH-、-N=又は-S-、特に-O-又は-NH-により中断されていてもよく、及び/又は場合によって1個又は複数の-OH、-NH2及び-SH基、特に-OH又は-NH2により置換されていてもよい。
【0071】
特定の実施形態によれば、R基は単に炭素及び水素原子の化合物である。
【0072】
炭化水素基は特にアルキル、アルケニル、アリール又はアラルキル基であり得る。
【0073】
特定の実施形態によれば、R置換基は、互いに独立して、3~50個の炭素原子、特に3~30個の炭素原子、殊に5~25個の炭素原子、殊に5~20個の炭素原子、より特定的には8~15個の炭素原子を含む炭化水素基、好ましくは脂肪族の直鎖又は分岐鎖を表す。
【0074】
特に、R置換基は、互いに独立して、直鎖状又は分岐アルキル鎖、特にC1~C50、特にC3~C30、殊にC5~C25、殊にC5~C20、より特定的にはC8~C15、例えばC10アルキル鎖、好ましくは直鎖状アルキル鎖を表し得る。
【0075】
ある特定の実施形態によれば、n1及びn2は0に等しい。
【0076】
別の特定の実施形態によれば、n1及びn2は1又は2に等しい。
【0077】
n1が2に等しいか又はn2が2に等しいとき、同じ環に含まれるR基は同じでも異なってもよい。
【0078】
特定の実施形態によれば、スピロ化合物は上記式(I)を有し得、式中のn1及びn2は1に等しく;R置換基は場合より同じであるか又は異なり、好ましくは同じである。
【0079】
特定の実施形態によれば、スピロ化合物は上記式(I)を有し、式中、
n1及びn2は1に等しく、
同じであるR基はC1~C50、特にC3~C30、殊にC5~C25、殊にC5~C20、及びより特定的にはC8~C15、更により好ましくはC10アルキル基、好ましくは直鎖状アルキル基を表す。
【0080】
特定の実施形態によれば、スピロ化合物は式(I)を有し、式中のMはホウ素原子である。
【0081】
言い換えると、この特定の実施形態によると、スピロ化合物は次式(I'):
【0082】
【化4】
【0083】
(式中、n1及びn2並びにRは上に定義した通りである)
を有するスピロボロネートといわれる化合物であり得る。
【0084】
別の特定の実施形態によれば、スピロ化合物は式(I)を有し、式中のMはアルミニウム原子である。
【0085】
言い換えると、この特定の実施形態によると、スピロ化合物は次の式(I''):
【0086】
【化5】
【0087】
(式中、n1、n2及びRは上に定義した通りである)
を有するスピロアルミネートといわれる化合物であり得る。
【0088】
したがって、本発明は、その別の態様によれば、上記式(I)を有するスピロ化合物であって、式中、
- Mはアルミニウム原子であり、
- n1及びn2は、互いに独立して、0、1又は2に等しく、n1及びn2の少なくとも1つは1又は2に等しく、好ましくは、n1及びn2は1に等しく、
- R基は、互いに独立して、5~50個の炭素原子、特に6~30個の炭素原子、殊に8~25個の炭素原子、より特定的には10~15個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐の脂肪族鎖、特にアルキル鎖、好ましくは直鎖状のものを表す、
スピロ化合物に関する。
【0089】
言い換えると、本発明は、上記式(I'')を有するスピロアルミネートタイプの化合物であって、式中、
- n1及びn2は、互いに独立して、0、1又は2に等しく、n1及びn2の少なくとも1つは1又は2に等しく;好ましくは、n1及びn2は1に等しく、
- R基は、互いに独立して、5~50個の炭素原子、特に6~30個の炭素原子、殊に8~25個の炭素原子、より特定的には10~15個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐の脂肪族鎖、特にアルキル鎖、好ましくは直鎖状のものを表す、
スピロアルミネートタイプの化合物に関する。
【0090】
特定の実施形態によれば、本発明によるスピロアルミネートタイプの化合物は式(I'')(式中、
- n1及びn2は1に等しく、
- 同じでも異なってもよく、好ましくは同じであり得るR基は5~50個の炭素原子、特に6~30個の炭素原子、殊に8~25個の炭素原子、より特定的には10~15個の炭素原子を含むアルキル鎖、好ましくは直鎖状アルキル鎖を表す)
を有する。
【0091】
本発明に従って使用されるスピロ化合物は、少なくともサリチル酸又はサリチル酸誘導体及びホウ素化合物又はアルミニウム化合物から調製し得る。
【0092】
より特定的には、それは、
- 次の式(Ia):
【0093】
【化6】
【0094】
(式中Rは上に定義した通りであり、nはn1及びn2に対して上に定義した通りである)
を有する、サリチル酸及びその誘導体から選択される少なくとも1種の化合物と、
- 少なくとも1種のホウ素又はアルミニウム化合物、特にホウ酸又は水酸化アルミニウムと
の反応により得られ得る。
【0095】
本発明に従う潤滑組成物に使用されるスピロ化合物の調製は、サリチル酸又はその誘導体のうちの1種と前記ホウ素又はアルミニウム化合物との反応の後に、例えば、出願WO 2018/220007及びWO 2018/220009に提案された化合物の調製の文脈における場合と同様に、アミン化合物との反応に対するいかなる工程も含まない。
【0096】
上記式(Ia)を有するサリチル酸及びその誘導体は、当業者に公知の合成方法に従って合成し得るか又は市販されている。
【0097】
ホウ素化合物(言い換えると、ホウ素をベースとする)は特にホウ酸(B(OH)3)、ボロン酸、ホウ酸及びボロン酸エステル、酸化ホウ素並びにホウ酸錯体から選択され得る。
【0098】
特に、ホウ素化合物はホウ酸;酸化ホウ素;ホウ酸錯体;ホウ酸トリアルキル、特にアルキル基が互いに独立して1~4個の炭素原子を含むもの;C1~C12アルキル基を含有するボロン酸;2個のアルキル基、特にC1~C12アルキル基により置換されたホウ酸;2個のアリール基、特にC6~C12アリール基により置換されたホウ酸;1又は2個のアラルキル基、特にC7~C12アラルキル基により置換されたホウ酸、及びこれらの化合物の、少なくとも1個のアルキル基の1個又は複数のアルコキシ基による置換により得られる誘導体から選択され得る。
【0099】
特に、ホウ酸錯体は、1個又は複数のアルコール官能基を含む1種又は複数の分子とホウ素との錯体である。
【0100】
ある特定の実施形態によれば、ホウ素化合物はホウ酸である。
【0101】
アルミニウム化合物(言い換えると、アルミニウムをベースとする)は、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム(Al2SO4)3から選択され得る。
【0102】
当業者は所望のスピロ化合物を得るために前記化合物(Ia)とホウ素又はアルミニウム化合物との間の反応条件を調節することができる。
【0103】
特に、反応は、1種若しくは複数の無極性溶媒及び/又は極性プロトン性溶媒により構成される溶媒媒体中で行い得る。
【0104】
溶媒媒体は、ナフサ、水及びアルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのような極性プロトン性溶媒、及びこれらの混合物から選択される1種又は複数の溶媒により構成され得る。
【0105】
有利なことに、所望のスピロ化合物を得るための上記式(Ia)を有するサリチル酸又はその誘導体のうちの1種とホウ素又はアルミニウム化合物との間の反応、特に所望のスピロボロネート化合物を得るための式(Ia)を有するサリチル酸又はその誘導体のうちの1種とホウ素化合物との間の反応は、無極性非プロトン性溶媒、特にトルエン中で行い得る。
【0106】
本発明の文脈において、
- 用語「炭化水素基」は、炭素及び水素を含む、飽和であってもなくてもよく、直鎖状、分岐又は環状であり得、芳香族であってもなくてもよい基を意味し、
- 用語「脂肪族鎖」はもっぱら炭素原子及び水素原子により構成された炭化水素基を意味し、直鎖状又は分岐した、飽和又は不飽和であり得、芳香族ではない。好ましくは、脂肪族鎖はアルキル鎖であり、
- 用語「アルキル」は飽和した脂肪族基を意味し、直鎖状でも分岐していてもよく、例として、Cx~Czアルキルはx~z個の炭素原子を含有する飽和の炭素鎖を表し、直鎖状でも分岐していてもよく、
- 用語「アルケニル」は一不飽和又は多不飽和の脂肪族基を意味し、直鎖状でも分岐していてもよく、
- 用語「シクロアルキル」は環式アルキル基を意味し、例えば、Cx~Czシクロアルキルはx~z個の炭素原子を含有する環状の炭素含有基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル基を表し、
- 用語「アリール」は、特に6~10個の炭素原子を含む、単環式又は多環式の芳香族基を意味する。言及され得るアリール基の例はフェニル又はナフチル基であり、
- 用語「アラルキル」は少なくとも1個の上に定義した通りのアルキル基により置換された上に定義した通りのアリール基を意味する。
【0107】
前記1種又は複数のスピロ化合物は、潤滑剤の洗浄能力に関して所要のレベルに達し、及び/又は異常燃焼現象、特に過早点火及び/又はノッキングの現象を防止するのに十分な含有量で有利に使用される。
【0108】
特に、スピロ化合物含有量は、潤滑組成物が、低減した量の金属性洗浄添加剤、特にカルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする洗浄添加剤を含むとしても、洗浄能力が金属性洗浄添加剤だけで提供される潤滑組成物と比べて同等の洗浄特性、又は更には改良さえされた特性を有するように調節される。
【0109】
有利なことに、前記潤滑組成物の総質量に対して少量、特に2質量%未満、殊に1質量%未満か又はそれに等しいスピロ化合物でさえ、良好な洗浄特性を得ることができるということを意味する。
【0110】
明らかに、スピロ化合物の使用量は、潤滑剤の種類に応じて、より特定的には潤滑剤中に存在する他の使用される洗浄添加剤、特に金属性洗浄剤、例えばカルシウムをベースとする洗浄剤の存在その他及び量を考慮して調節され得る。
【0111】
一般に、本発明により考えられる、特に上に定義した前記1種又は複数のスピロ化合物は前記潤滑組成物の総質量に対して0.1~20質量%、特に0.2~15質量%、殊に0.5~10%、より特定的には0.5~5.0質量%の量で使用し得る。
【0112】
潤滑組成物
本発明により考えられるような潤滑組成物は1種又は複数の基油、及び場合により潤滑組成物で慣用と考えられている他の添加剤を含む。
【0113】
以下の化合物の種類及び量は潤滑剤の目的に、より特定的には意図されるエンジンに対して適応させるものと理解されたい。
【0114】
基油
上述したように、本発明に従う潤滑組成物は本発明に従う少なくとも1種のスピロ化合物に加えて少なくとも1種の基油を含む。
【0115】
これらの基油は鉱油、合成油又は天然、動物若しくは植物油のような、エンジン、特にガスエンジンに対して潤滑油の分野で慣用されている基油から選択され得る。
【0116】
幾つかの基油のブレンド、例えば2種、3種又は4種の基油のブレンドでよい。
【0117】
本発明により考えられる潤滑組成物の基油は、特に、API(又はATIEL分類に従うそれらと等価なもの)に規定され、下記Table A(表1)に示されるクラスに従うグループI~Vに属する鉱物又は合成起源の油、又はそれらのブレンドであり得る。
【0118】
【表1】
【0119】
鉱物基油には、原油の常圧及び真空蒸留と、その後の精製操作、例えば溶媒抽出、脱歴、溶媒脱ろう、水素化処理、水素化分解、水素化異性化及び水素化仕上げにより得られる全てのタイプの基油が含まれる。
【0120】
合成基油はカルボン酸及びアルコールのエステル、ポリアルファオレフィン又は実際2~8個の炭素原子、特に2~4個の炭素原子を含むアルキレンオキシドの重合又は共重合により得られるポリアルキルグリコール(PAG)であり得る。基油として使用されるポリアルファオレフィンは、例えば、4~32個の炭素原子を含むモノマー、例えばデセン、オクテン又はドデセンから得られ、その100℃での粘度は規格ASTM D445に従って1.5~15mm2.s-1の間に含まれる。それらの分子量平均は一般に規格ASTM D5296に従って250~3000の間に含まれる。
【0121】
バイオ起源であり得る合成及び鉱油のブレンドも使用し得る。
【0122】
一般に、ガス動力エンジン、特に車両エンジンへの使用に適合した特性、特に粘度、粘度指数、イオウ含有量又は酸化抵抗の特性を有していなければならないことを除いて、異なる基油の潤滑組成物での使用に関して制限はない。
【0123】
好ましくは、本発明により考えられる潤滑組成物はAPI分類のグループII、III及びIVの油、並びにそれらのブレンドから選択される少なくとも1種の基油を含む。
【0124】
特に、かかる潤滑組成物はグループIIIの少なくとも1種の基油、特にグループIIIの少なくとも2種の基油のブレンドを含み得る。
【0125】
本発明に適した基油は規格ASTM D445(KV40)に従って40℃で測定して10~100mm2/s、特に12~50mm2/s、より特定的には15~40mm2/sの動粘度を有し得る。
【0126】
本発明に適した基油は規格ASTM D445(KV100)に従って100℃で測定して1~15mm2/s、特に2~10mm2/s、より特定的には4~8mm2/sの動粘度を有し得る。
【0127】
1種又は複数の基油はその総質量に対して少なくとも50質量%、特に少なくとも60質量%、より特定的には60~99質量%、好ましくは70%~90質量%の含有量で本発明に従う潤滑組成物中に存在し得る。
【0128】
好ましくは、グループIIIの1種又は複数の油は組成物の基油の総質量の少なくとも50質量%、特に少なくとも60質量%、より特定的には70~100質量%、例えば80~100質量%を表す。
【0129】
添加剤
本発明に従う潤滑組成物は、本明細書中以下に詳述する潤滑剤の想定される使用、例えばガスエンジンのための、例えば車両における潤滑剤の使用に適合したあらゆるタイプの添加剤を含み得る。
【0130】
これらの添加剤は、当業者に周知のACEA(European Automobile Manufacturers Association)及び/又はAPI(American Petroleum Institute)により規定されている性能レベルで車両エンジン用の業務用潤滑剤配合物として既に販売されているものと同様に個々に、及び/又は混合物、又は「添加剤パッケージ」の形態で導入され得る。
【0131】
前記1種又は複数のスピロ化合物と異なるこれらの添加剤は特に、前記1種又は複数のスピロ化合物と異なる他の洗浄添加剤、特に金属性洗浄添加剤、摩擦調整剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤(VI)、流動点降下添加剤(PPD)、分散剤、消泡剤、増粘剤、腐食防止剤、及びそれらの混合物から選択され得る。
【0132】
有利なことに、本発明に従う潤滑組成物は前記1種又は複数のスピロ化合物と異なる他の洗浄添加剤から選択される、特に金属性洗浄添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下添加剤、耐摩耗添加剤、酸化防止剤及びそれらの混合物から選択される1種又は複数の添加剤を含む。
【0133】
他の洗浄剤
本発明により考えられる潤滑組成物は本発明に従うスピロ化合物と明らかに異なる1種又は複数の他の洗浄添加剤、特に1種又は複数の金属性洗浄添加剤を含み得る。
【0134】
上述したように、金属性洗浄剤は高レベルの洗浄力をもたらすとして当業者に公知である。しかしながら、これらの金属化合物は硫酸塩灰分の発生源であるという不利を被る。カルシウムをベースとする洗浄添加剤もまた過早点火、特にLSPIの現象の原因の1つとして確認された。
【0135】
一般にそれらは長い親油性炭化水素鎖及び親水性の頭部を含むアニオン性化合物であり、伴うカチオンは場合によりアルカリ又はアルカリ土類金属の金属カチオンである。
【0136】
一般にそれらはカルボン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、特にスルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、石炭酸塩、カルボン酸塩及びこれらの混合物から選択される。アルカリ及びアルカリ土類金属は好ましくはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム又はバリウムである。
【0137】
これらの金属塩は一般に化学量論量又は実際には過剰に、即ち化学量論量を超える量で金属を含む。したがって、それらは過塩基化洗浄添加剤であり、したがって洗浄添加剤の過塩基化特性をもたらす過剰の金属は一般に基油に不溶性の金属塩、例えば炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩、好ましくは炭酸塩の形態である。
【0138】
特定の実施形態によれば、本発明に従う潤滑組成物は、本発明に従うスピロ化合物とは異なり、特に、過塩基化されていてもいなくてもよいアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩から、特にカルシウム塩、マグネシウム塩及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種の金属性洗浄添加剤を含む。
【0139】
このように、特定の実施形態によれば、エンジン、特にガス動力エンジン、殊に車両における潤滑のために本発明に従って使用される潤滑組成物は、少なくとも:
- 1種又は複数の基油;
- 本発明に従う少なくとも1種のスピロ化合物、特に少なくとも1種の本発明に従うスピロボロネート化合物;並びに
- 前記スピロ化合物とは異なり、特に上に定義した通りの、殊にカルシウム塩及びマグネシウム塩並びにこれらの混合物から選択される少なくとも1種の金属性洗浄添加剤
を含む。
【0140】
特に、本発明に従って使用される潤滑組成物は、カルシウムをベースとする少なくとも1種の洗浄添加剤、例えばスルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、石炭酸塩、カルボン酸カルシウム又はこれらの混合物、特に過塩基化カルシウムをベースとする洗浄添加剤、例えば炭酸カルシウムを含み得る。
【0141】
有利なことに、上に示したように、1種又は複数の本発明に従うスピロ化合物の使用は、潤滑組成物中の、過早点火、特にLSPIに及ぼすその影響に関して望ましくない上に定義した金属性洗浄剤、特にカルシウムをベースとする洗浄剤の含有量を低減しつつ、良好な洗浄特性を保つことができるということを意味する。
【0142】
特定の実施形態によれば、本発明に従う潤滑組成物は、前記組成物の総質量に対して15質量%未満、特に10質量%未満、より特定的には0.1~10質量%、特に0.5%~5質量%の、本発明に従うスピロ化合物とは異なる金属性洗浄添加剤を含み得る。
【0143】
特に、前記金属性洗浄添加剤は3000ppm未満か又はそれに等しい、特に100ppm~2000ppm、好ましくは250ppm~1500ppmの金属元素、特にカルシウムの含有量を提供するようにして潤滑組成物中に存在し得る。
【0144】
カルシウム及びマグネシウム塩のような金属性洗浄剤含有量の低減は、有利なことに、潤滑組成物に対する「低SAPS」仕様を達成することを可能にすることができる。
【0145】
したがって、有利なことに本発明に従って使用される潤滑組成物は、規格ASTM D-874に従って決定して、2質量%未満か又はそれに等しい、特に1.5質量%未満か又はそれに等しい、より特定的には1質量%未満か又はそれに等しい硫酸塩灰分含有量を有する。
【0146】
特定の実施形態によれば、本発明に従って使用される潤滑組成物は、
- 60~99.8質量%、好ましくは70~90質量%の1種又は複数の基油、
- 0.1~20質量%、特に0.2~15質量%、より特定的には0.5~10質量%の、特に上に定義した、本発明に従う少なくとも1種のスピロ化合物、より特定的には少なくとも1種の本発明に従うスピロボロネート化合物、並びに
- 0.1~10質量%、特に0.5~5質量%の、前記本発明に従うスピロ化合物と異なり、特に上に定義した通りの、殊にカルシウム及びマグネシウム塩並びにこれらの混合物から選択される1種又は複数の金属性洗浄添加剤
を含み得、
含有量は前記潤滑組成物の総質量に対して表される。
【0147】
他の添加剤
本発明に従う潤滑組成物はまた、摩擦調整剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下添加剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、腐食防止剤、及びこれらの混合物から選択される、前記1種又は複数のスピロ化合物とは異なる少なくとも1種又は複数の他の添加剤も含み得る。
【0148】
したがって、本発明に従う潤滑組成物は少なくとも1種の粘度指数向上剤(VI)も含み得る。
【0149】
粘度指数向上剤(VI)、特に粘度指数を改良するポリマーは良好な低温性能及び高温での最低粘度を保証することができる。引用し得る粘度指数を改良するポリマーの例はポリマー性のスチレン、ブタジエン及びイソプレンエステル、水素化されても水素化されなくてもよいホモポリマー又はコポリマー、エチレン又はプロピレンのようなオレフィンのホモポリマー又はコポリマー、ポリアクリレート及びポリメタクリレート(PMA)である。
【0150】
有利なことに、本発明に従う潤滑組成物はポリメタクリレート(PMA)及び線状、グラフト、くし形又は星形、好ましくは星形の水素化ポリイソプレン-スチレン(PISH)から選択される少なくとも1種の粘度指数向上剤を含む。
【0151】
特に、粘度指数を改良する添加剤は潤滑組成物の総質量に対して1~15質量%、特に2~10質量%の含有量で本発明に従って使用される潤滑組成物中に存在し得る。
【0152】
一実施形態によれば、本発明に従う潤滑組成物は粘度指数を改良する添加剤を含まない。
【0153】
本発明により考えられる潤滑組成物は少なくとも1種の摩擦調整剤を含み得る。
【0154】
摩擦調整剤は金属元素を供給する化合物及び無灰(ash-free)化合物から、好ましくは無灰化合物から選択され得る。
【0155】
引用し得る、金属元素を供給する化合物はMo、Sb、Sn、Fe、Cu、Znのような遷移金属の錯体であり、その配位子は酸素、窒素、イオウ又はリン原子を含む炭化水素化合物であり得る。
【0156】
有利なことに、摩擦調整剤は、一般に有機起源の無灰化合物から選択され、場合により、より特定的には脂肪酸及びポリオールのモノエステル、アルコキシ化アミン、アルコキシ化脂肪アミン、脂肪エポキシド、脂肪ボレートエポキシド、脂肪アミン又は脂肪酸グリセロールエステルから選択される。本発明に従って、脂肪化合物は10~24個の炭素原子を含む少なくとも1個の炭化水素基を含む。
【0157】
有利な変形形態によれば、潤滑組成物は、特にモリブデンをベースとする、少なくとも1種の摩擦調整剤を含む。
【0158】
特に、モリブデンをベースとする化合物はモリブデンジチオカルバメート(Mo-DTC)、ジチオリン酸モリブデン(Mo-DTP)、及びこれらの混合物から選択され得る。
【0159】
有利なことに、本発明により考えられる潤滑組成物は潤滑組成物の総質量に対して0.01~5質量%、好ましくは0.01~5質量%、より特定的には0.1~2質量%又は更により特定的には0.1~1.5質量%の摩擦調整剤を含み得る。
【0160】
本発明に従う潤滑組成物は少なくとも1種の耐摩耗及び/又は極圧添加剤を含み得る。
【0161】
耐摩耗添加剤及び極圧添加剤は摩擦面に吸着した保護膜を形成することによりこれらの表面を保護する。
【0162】
多種多様耐摩耗添加剤が存在する。好ましくは、本発明に従う潤滑組成物に対して、耐摩耗添加剤は金属のアルキルチオリン酸塩、特にアルキルチオリン酸亜鉛、より具体的にはジアルキルジチオリン酸亜鉛又はZnDTPのようなリン-イオウ添加剤から選択される。好ましい化合物は式Zn((SP(S)(OR3)(OR4))2(式中のR3及びR4は同じでも異なってもよく、独立してアルキル基、好ましくは1~18個の炭素原子を含むアルキル基を表す)を有する。
【0163】
リン酸アミンも本発明に従う潤滑組成物に使用し得る耐摩耗添加剤である。しかしながら、これらの添加剤は灰分を生成するので、これらの添加剤により供給されるリンは自動車の触媒系に対して毒として作用することができよう。これらの影響は、多硫化物、例えば、特にイオウを含有するオレフィンのようなリンを供給しない添加剤によりリン酸アミンを一部置換することにより最小化し得る。有利なことに、1種又は複数の極圧及び/又は耐摩耗添加剤は潤滑組成物の総質量に対して0.01~6質量%、好ましくは0.05~4質量%、より好ましくは0.1~2質量%の含有量で本発明に従う潤滑組成物中に存在し得る。
【0164】
本発明により考えられる潤滑組成物は少なくとも1種の酸化防止添加剤を含み得る。酸化防止添加剤は本質的に、使用中の潤滑組成物の減成を遅らせることに特化されている。この減成が、特に堆積物の形成、汚泥の存在又は潤滑組成物の粘度の増大をもたらし得る。特に、ラジカル阻害剤又はヒドロペルオキシド崩壊剤として作用する。
【0165】
引用し得る現在使用中の酸化防止添加剤にはフェノールタイプの酸化防止添加剤、アミンタイプの酸化防止添加剤、リンイオウを含有する酸化防止添加剤が挙げられる。これらの酸化防止添加剤の幾つか、例えばリンイオウを含有する酸化防止添加剤は灰分発生源であり得る。フェノール系酸化防止添加剤は灰分から免れ得るか、又は実際中性若しくは塩基性の金属塩の形態であり得る。酸化防止添加剤は特に立体障害フェノール、立体障害フェノールエステル及びチオエーテル架橋を含む立体障害フェノール、ジフェニルアミン、少なくとも1個のC1~C12アルキル基により置換されたジフェニルアミン、N,N'-ジアルキル-アリールジアミン、並びにこれらの混合物から選択され得る。
【0166】
好ましくは、立体障害フェノールは、フェノール基を含み、アルコール官能基を有する炭素に近接する少なくとも1個の炭素が少なくとも1個のC1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、好ましくはtert-ブチル基により置換されている化合物から選択される。
【0167】
アミン化合物、場合によりフェノール系酸化防止添加剤と組み合わせて使用され得るもう別のクラスの酸化防止添加剤である。アミン化合物の例は芳香族アミン、例えば式NR5R6R7 [式中、R5は場合により置換されていてもよい脂肪族基又は芳香族基を表し、R6は場合により置換されていてもよい芳香族基を表し、R7は水素原子、アルキル基、アリール基又は式R8S(O)zR9 (式中、R8はアルキレン基又はアルケニレン基を表し、R9はアルキル基、アルケニル基又はアリール基を表し、zは0、1又は2を表す)を有する基を表す]を有する芳香族アミンである。
【0168】
硫化アルキルフェノール又はそのアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩も酸化防止添加剤として使用し得る。
【0169】
本発明により考えられる潤滑組成物は当業者に公知のいずれのタイプの酸化防止添加剤も含有し得る。有利なことに、潤滑組成物は灰分から免れる少なくとも1種の酸化防止添加剤を含む。
【0170】
やはり有利なことに、本発明により考えられる潤滑組成物は組成物の総質量に対して0.1~2質量%の少なくとも1種の酸化防止添加剤を含み得る。
【0171】
本発明により考えられる潤滑組成物は少なくとも1種の流動点降下添加剤(「PPD」剤といわれる)を含み得る。パラフィン結晶の形成を遅くすることにより、流動点降下添加剤は一般に潤滑組成物の低温性能を改良する。
【0172】
引用し得る流動点降下剤の例はアルキルポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン及びアルキル化ポリスチレンである。
【0173】
本発明により考えられる潤滑組成物はまた少なくとも1種の分散剤も含み得る。分散剤は、懸濁が維持されることを保証し、潤滑組成物が使用されているときに形成される二次酸化生成物により構成される不溶性の固体汚染物質の排出を保証する。それらはMannich塩基、スクシンイミド及びそれらの誘導体から選択され得る。
【0174】
特に、本発明により考えられる潤滑組成物は組成物の総質量に対して0.2~10質量%の分散剤を含み得る。
【0175】
本発明により考えられる潤滑組成物はまた少なくとも1種の消泡添加剤も含み得る。消泡添加剤はポリメチルシロキサン又はポリアクリレートのような極性のポリマーから選択され得る。
【0176】
特に、本発明により考えられる潤滑組成物は潤滑組成物の総質量に対して0.01~3質量%の消泡添加剤を含み得る。
【0177】
上述した通り、上で詳述した添加剤の全体は添加剤の混合物又は「パッケージ」の形態で導入し得る。
【0178】
この実施形態によれば、添加剤パッケージは組成物の総質量に対して1%~30質量%、特に1~20質量%、殊に3%~15質量%、より特定的には5~15質量%を表し得る。
【0179】
特定の実施形態によれば、本発明に従って使用される潤滑組成物は、
- 基油又は基油の混合物、
- 1種又は複数の本発明に従うスピロ化合物、特に上に定義した通りのスピロ化合物、より特定的には1種又は複数の本発明に従うスピロボロネート化合物、並びに
- 場合により、前記1種又は複数のスピロ化合物とは異なる、他の洗浄添加剤、特に金属性洗浄添加剤、摩擦調整剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤(VI)、流動点降下添加剤(PPD)、分散剤、消泡剤、増粘剤、腐食防止剤、及びこれらの混合物から選択される1種又は複数の添加剤
を含み得るか、又はそれらから構成されさえし得る。
【0180】
本発明の一実施形態によれば、本発明に従って使用される潤滑組成物は、
- 60~98.9質量%、特に70~90質量%の1種又は複数の基油;
- 0.1~20質量%、好ましくは0.5~10質量%の1種又は複数の本発明に従うスピロ化合物、特に上に定義した通りの、より特定的には1種又は複数の本発明に従うスピロボロネート化合物;並びに
- 1%~30質量%、好ましくは3%~20質量%の、前記1種又は複数のスピロ化合物とは異なる他の洗浄添加剤から選択され、特に金属性洗浄添加剤;耐摩耗剤;酸化防止剤;分散剤;粘度指数向上剤及びこれらの混合物から選択される1種又は複数の添加剤
を含むか、又はそれらにより構成され:
含有量は前記潤滑組成物の総質量に対して表される。
【0181】
特に、本発明に従って使用される潤滑組成物は、
- 60~99.8質量%、特に70~90質量%の1種又は複数の基油、
- 0.1~20質量%、好ましくは0.5~10質量%の上に定義した1種又は複数の本発明に従うスピロ化合物、特にスピロボロネートタイプのスピロ化合物、
- 0.1%~10質量%、好ましくは0.5%~5質量%の、前記1種又は複数のスピロ化合物、特に上に定義したスピロ化合物と異なり、殊にカルシウム及びマグネシウム塩並びにこれらの混合物から選択される1種又は複数の金属性洗浄添加剤、並びに
- 場合により、1%~30質量%、好ましくは3%~20質量%の耐摩耗剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤及びこれらの混合物から選択される1種又は複数の他の添加剤
を含み得るか、又はそれらにより構成されさえし、
含有量は前記潤滑組成物の総質量に対して表される。
【0182】
特定の実施形態によれば、本発明に従う潤滑組成物は、規格ASTM D445に従って40℃で測定して20mm2/s~50mm2/s、好ましくは25mm2/s~40mm2/sに含まれる動粘度を有し得る。
【0183】
やはり有利なことに、本発明に従う潤滑組成物は規格ASTM D445に従って100℃で測定して2mm2/s~20mm2/s、好ましくは4mm2/s~15mm2/sに含まれる動粘度を有する。
【0184】
用途
上に示したように、本発明に従う潤滑組成物は、異常燃焼現象、特に過早点火の現象、特にLSPI及び/又はノッキングを被りやすい可動又は定置用のエンジンの潤滑を対象とする。
【0185】
LSPI問題は特に「ダウンサイズ」エンジンと呼ばれる小型化したエンジンで起こる。
【0186】
本発明に従う組成物は特に、バイオガスを含めたガスを動力源とするエンジンの潤滑に使用し得る。
【0187】
ガスは水素(H2)、メタン(CH4)、又は圧縮若しくは液化天然ガスから選択され得る。
【0188】
ガス動力エンジンはガスエンジン、例えば天然ガス(LNG又はCNG)を動力源とするエンジン及び水素エンジンであり得るが、また二元燃料ガス/ガソリン、二元燃料ガス/ディーゼル燃料エンジンでもよい。
【0189】
特定の実施形態によれば、本発明に従う潤滑組成物は車両のエンジン、特に車両のガスエンジンに使用し得、あらゆるタイプの車両、例えば重量物運搬車両、例えばトラック、オフロード車両、又は軽車両に使用し得る。
【0190】
用語「エンジン」は4-ストロークエンジン、より特定的には4-ストローク船舶用エンジン、好ましくはガス動力4-ストローク船舶用エンジンも包含する。
【0191】
変形用途によれば、本発明に従う潤滑組成物はエンジン、特にガスエンジン、及び車両エンジンのトランスミッションの潤滑に使用し得る。これらの使用は、エンジン及びトランスミッションの少なくとも1つの要素、特にギアボックス又は車軸を本発明に従う潤滑組成物と接触させることを含む。
【0192】
本発明に従う潤滑組成物はまた定置エンジン、特に定置ガスエンジンの潤滑にも使用し得る。
【0193】
したがって、本発明は、1種又は複数の基油及び上に定義した式(I)を有する少なくとも1種のスピロ化合物を含む潤滑組成物の、可動でも定置でもよいガス動力エンジン、特に圧縮若しくは液体の天然ガスエンジン、水素エンジン、二元燃料ガス/ガソリン又は二元燃料ガス/ディーゼル燃料エンジンにおける異常燃焼を防止及び/又は低減するための使用に関する。
【0194】
より正確には、本発明は、過早点火、特に低速過早点火(LSPI)、及び/又はノッキングを防止及び/又は低減するためのそのような使用に関する。
【0195】
式(I)を有すスピロ化合物及びそれを含む潤滑組成物に関する特徴及び特定の実施形態の全体はまた、本発明に従って想定される使用、プロセス及び方法にも適用可能である。
【0196】
ここで、本発明の非限定的な例示として挙げる以下の実施例を用いて本発明を記載する。
【実施例
【0197】
熱安定性測定
熱安定性に関する組成物の性能は、規格GFC Lu-27-T-07に従ってMCT(「Micro Coking Test」)により評価した。
【0198】
MCT試験は、組成物が熱い表面上に堆積物(又はワニス)を形成する傾向を評価し(コークス化)、エンジンの最も熱い部分で見られるのと同様な温度条件(230~280℃)に供された薄層における組成物の熱安定性を明らかにする。堆積物及びワニスはビデオ評定者により測定される。結果はCEC M-02-A-78法に従ってグレードと呼ばれる10のうちの等級の形態で表される。MCTに対する値が高いほど、潤滑組成物の熱安定性はそれだけ良好である。
【0199】
試験条件は次の通りとした:
- 600μLの油、
- 継続時間:90分、
- 1.5%傾いたプレート、
- 温度勾配230~280℃、
- プレート上のワニスのビデオ評定:0~10の等級、最良結果10。
【0200】
また更に、超えるとワニスが堆積する温度も決定した。この温度が高いほど潤滑組成物の熱安定性はそれだけ良好である。
【0201】
酸化に対する安定性の測定
酸化の安定性は、潤滑組成物に対するOITと呼ばれる酸化誘導時間を決定する加圧示差走査熱量測定によって評価した。これは規格CEC L-85 T-99に基づく潤滑油産業で標準の手順である。
【0202】
このプロトコルに従って、試験する潤滑組成物を高い温度に加熱し(本件の場合、等温的に50℃で5分、次いで40℃/分で210℃に上昇させ、酸化は210℃で起こる)、潤滑剤が分解し始める時点を測定する。分で表される試験の継続時間が長いほど、酸化に対する潤滑剤の安定性はそれだけ良好である。
【0203】
(実施例1)
潤滑組成物の調製
3種の潤滑組成物を配合した:
- 添加剤パッケージによりもたらされた慣習量のカルシウムをベースとする洗浄添加剤を用いた、CC1として示す、本発明に従わない参照潤滑剤。潤滑剤CC1中のカルシウム含有量は1340ppmであった;
- 参照配合物1のものと同一の化合物を用いたが、前記添加剤パッケージの含有量を半分に低減した、CC2として示す、本発明に従わなかった潤滑剤;及び
- 潤滑剤に対して1質量%の量で本発明に従うスピロボロネート化合物を補った配合物CC2に対応する、I1として示す、本発明に従う潤滑剤。
【0204】
3種の潤滑剤に対する成分及び量(質量%として表す)を下記表に示す。潤滑剤は、様々な成分を60℃で単に混合することにより配合した。
【0205】
【表2】
【0206】
(実施例2)
潤滑剤の評価
実施例1で調製した様々な潤滑剤の熱安定性に関する特性を上に記載したMCTプロトコルに従って評価した。
【0207】
評定結果を下記表に示す。超えると堆積物の生成が起こる温度(T堆積物)の値も下記表に要約する。
【0208】
【表3】
【0209】
本発明に従うスピロボロネート化合物を含む本発明に従う組成物I1は比較の組成物CC1及びCC2で得られたのより高い優れた等級を有していた。
【0210】
これらの結果は、本発明に従うスピロボロネート化合物を添加すると、低割合(1質量%)であっても、金属性洗浄添加剤、特にカルシウムをベースとする洗浄添加剤の含有量をかなり低減する(半分に低減)ことができると共に、潤滑剤において優れた熱安定性特性、及びその結果として優れた洗浄特性を、金属性洗浄添加剤のみを用いる潤滑剤と比較してより良好な洗浄特性さえ保つということを示している。
【0211】
これらの結果は、本発明に従う組成物に対する、参照潤滑剤で得られたものよりずっと良好な堆積物形成温度により確認される。
【0212】
したがって本発明に従うスピロボロネート化合物を用いた本発明に従う組成物は、金属性洗浄剤、特にカルシウムをベースとする洗浄剤と共に少なくとも部分的に分配するのに使用することができ、そしてまた、早過ぎる点火の危険性を低減し、その結果として異常燃焼現象、特にLSPI及びノッキングの現象の発生を低減するのに使用することができる。
【0213】
(実施例3)
潤滑剤の酸化安定性特性の評価
酸化安定性特性に対するスピロボロネート化合物を添加する効果を、組成の詳細を下記Table 4(表4)に挙げるCC3及びCC4として示す2種の潤滑剤について評価した。
【0214】
I3及びI4として示す本発明に従う2種の潤滑組成物を比較潤滑剤CC3及びCC4に基づいて調製した。ここでは、基油の2質量%を2質量%の本発明に従うスピロボロネート化合物に替えた。
【0215】
潤滑剤は単に各種の成分を60℃で混合することにより配合した。
【0216】
【表4】
【0217】
上に記載した規格CEC L-85 T-99に基づくプロトコルを用いて酸化安定性特性を評価した。
【0218】
酸化誘導時間(OIT)の結果を下記表に要約する。
【0219】
【表5】
【0220】
これらの結果は、本発明に従うスピロボロネート化合物を添加すると、潤滑剤の酸化安定性をかなり改良することができるということを示している。
【0221】
エンジン清浄度試験
最後に、特にピストンの清浄度を測定するCEC L-117-20法に従ってTDI3エンジン試験を用いて潤滑剤CC3及びI3を評価した。
【0222】
結果を下記Table 6(表6)に要約する。
【0223】
【表6】
【0224】
本発明に従う潤滑組成物はまたエンジンの清浄度も改良することができるということが分かる。
【0225】
(実施例4)
水の存在下でのスピロボロネート化合物の安定性の評価
本発明に従うスピロボロネート化合物の水に対する安定性を以下に記載するようにして評価した。
【0226】
試験したスピロボロネート化合物は、式(I)でMがホウ素原子であり、Rが各々オクタデシル鎖(C18)を表し、n1及びn2が1に等しい、言い換えると次式:
【0227】
【化7】
【0228】
を有するスピロ化合物であった。
【0229】
このスピロボロネート化合物は前以て合成したサリチル酸誘導体(2-ヒドロキシ-5-オクタデシル安息香酸)及びホウ酸から調製した。
【0230】
トルエン(65mL)中の2-ヒドロキシ-5-オクタデシル安息香酸(8.9g、22.8mmol、2eq)及びホウ酸(0.70g、11.4mmol、1.0eq)を、窒素下で、水を除去するためのDean-Stark装置及びメカニカルスターラーを備えた250mL三つ首フラスコに導入した。混合物を反応が完了するまで還流加熱し、スピロボロネート化合物を回収した。
【0231】
スピロボロネート化合物を5質量%の量で水に分散させた。エマルションをパドルで激しく撹拌し、続いてUltra-Turrax(登録商標)撹拌機を用いて強く撹拌した。
【0232】
各々の撹拌後に得られたエマルションは安定であった。Malvern Mastersizer 2000粒度計を用いてレーザー粒度分析により分析した。
【0233】
図1はパドル撹拌後(図1a)及びUltra-Turrax(登録商標)撹拌後(図1b)に得られたエマルションの粒径分布を示す。
【0234】
スピロボロネートの水中エマルションを次いで、水を蒸発させるために真空ロータリーエバポレーターに通した。水の蒸発が完了したときの残渣を回収し、1H NMRにより分析した。
【0235】
残渣のNMRスペクトルを純粋なスピロボロネート化合物と比較した。図2は純粋なスピロボロネート(図2a)及び上に記載したようにして得られた残渣(図2b)のNMRスペクトルを示す。
【0236】
2つのスペクトルを比較すると、得られた残渣が出発スピロボロネートに対応していることを示している。したがって、スピロボロネート化合物は水の存在下で加水分解を受けなかった。
図1a
図1b
図2a
図2b
【国際調査報告】