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特表2024-536446HSF1経路阻害剤を用いた癌の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】HSF1経路阻害剤を用いた癌の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240927BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P1/04
A61P1/18
A61P15/00
A61K31/496
A61K45/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521198
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 IB2022000591
(87)【国際公開番号】W WO2023057819
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/252,657
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524129232
【氏名又は名称】インスティテュート オブ キャンサー リサーチ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF CANCER RESEARCH
【住所又は居所原語表記】123 Old Brompton Road,London SW7 3RP,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】ワークマン,ポール
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ポール,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】テ ポーレ,ロバート,ハーマン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA661
4C084ZA811
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC411
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086ZA66
4C086ZA81
4C086ZB26
4C086ZC41
(57)【要約】
本開示の一部は、それを必要とする患者の癌を治療する方法であって、有効量のHSF1経路阻害剤を患者に投与することを含み、癌がARID1A変異を有すると同定された固形腫瘍からなる、方法に向けられている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする患者において癌を治療する方法であって、有効量のHSF1経路阻害剤を患者に投与することを含み、癌が、ARID1A変異を有する固形腫瘍を含む方法。
【請求項2】
癌が、卵巣癌、胃癌および膵臓癌からなる群より選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
癌が子宮内膜様卵巣癌である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
癌が再発または難治性の子宮内膜様卵巣癌である請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
癌が卵巣明細胞癌である請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
癌が再発または難治性の卵巣明細胞癌である請求項1、2、または5に記載の方法。
【請求項7】
卵巣癌が白金系化学療法、タキサン系化学療法またはそれらの併用療法に対して実質的に抵抗性である請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
HSF1経路阻害剤が以下の化合物又はその薬学的に許容される塩である請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
HSF1経路阻害剤が以下の化合物である請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ARID1A変異がヘテロ接合ARID1A変異である請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ARID1A変異がホモ接合ARID1A変異である請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
HSF1経路阻害剤を経口または皮下投与する請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
投与により、ARID1A変異癌細胞における平均GI50が、野生型ARID1A細胞と比較して約2から5倍低下する請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
投与により、ARID1A変異卵巣癌細胞における平均GI50が、野生型ARID1A卵巣癌細胞と比較して約4から5倍低下する請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
さらに、任意選択で、1つ以上の追加の癌化学療法剤を投与することを含む請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
追加的な癌化学療法剤を投与することをさらに任意選択で含む請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
それを必要とする患者において卵巣癌を治療する方法であって、有効量のHSF1経路阻害剤を患者に投与することを含み、癌がARID1A変異を保有する固形腫瘍を含む方法。
【請求項18】
卵巣癌が子宮内膜様卵巣癌である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
癌が再発または難治性の子宮内膜様卵巣癌である請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
癌が卵巣明細胞癌である請求項17に記載の方法。
【請求項21】
癌が再発または難治性の卵巣明細胞癌である請求項17または20に記載の方法。
【請求項22】
HSF1経路阻害剤が以下の化合物又はその薬学的に許容される塩である請求項17から21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
以下の式で表されるHSF1経路阻害剤またはその薬学的に許容される塩の有効量を患者に投与することを含む、それを必要とする患者において卵巣癌を治療する方法であって、癌はARID1A変異を保有する固形腫瘍を含む方法。
【請求項24】
卵巣癌が子宮内膜様卵巣癌または卵巣明細胞癌である請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月6日に出願された米国仮特許出願第63/252,657号の利益および優先権を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
癌は、制御不能で無秩序な細胞増殖によって引き起こされる。何が細胞を悪性化させ、無制御・無秩序に増殖させるのかについては、ここ数十年、精力的な研究が行われてきた。この研究により、悪性腫瘍と関連することが知られている主要な代謝経路に関連する数多くの分子標的が同定された。
【0003】
ヒートショックファクター1経路(HSF1経路)は、注目される標的経路の一つである。HSF1は、温度上昇やその他のストレスに応答して複数の遺伝子が誘導される熱ショック応答のマスターレギュレーターである。ヒトや他の脊椎動物の非ショック温度では、HSF1は構成的に産生されるが、不活性でタンパク質HSP90に結合している。温度が上昇すると、HSF1はHSP90によって放出され、細胞質から核に移動し、三量体化する。この活性型HSF1はDNA中のヒートショックエレメント(HSE)と呼ばれる配列に結合し、RNAポリメラーゼIIによるヒートショック遺伝子の転写を活性化する。熱ショック応答が停止すると、HSF1は分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(MAPKs)とグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)によってリン酸化され、不活性状態に戻る。
【0004】
HSF1経路の活性は、癌、自己免疫疾患、ウイルス性疾患などのいくつかの疾患に関与している。HSF1および他の熱ショックタンパク質(その発現はHSF1によって増加する)は、乳癌、子宮内膜癌、線維肉腫、胃癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、神経外胚葉癌、神経芽細胞腫、ユーイング肉腫、前立腺癌、皮膚癌、扁平上皮癌、精巣癌、白血病(例えば、前骨髄球性白血病)、およびホジキン病において過剰発現されるか、または他の形で関与している。
【0005】
ARID1AはSWI/SNFファミリーのメンバーであり、そのメンバーはヘリカーゼ活性とATPアーゼ活性を持ち、遺伝子周辺のクロマチン構造を変化させることによって特定の遺伝子の転写を制御していると考えられている。ARID1Aは、グルタチオン(GSH)の生成を促進し、活性酸素種(ROS)によって誘導される代謝ストレスから癌細胞を保護することにより、癌細胞の生存率を高める代謝経路の主要成分の発現を制御している。
【0006】
ARID1Aは様々な頻度で複数の固形腫瘍型で変異している。例えば、ARID1A変異は、乳癌、肺癌、食道癌、膵臓癌、尿路上皮癌、子宮癌、卵巣癌、消化管癌、肝臓癌などの癌や固形腫瘍型に共通して認められる。ARID1A変異は、GSHレベルの低下につながる細胞周期の異常と関連しており、その結果、ストレスに対する防御機能が低下する。癌細胞はHSF-1経路の過剰活性化によってこれを補う。
【0007】
ARID1A変異に関連するタンパク質の損失は、固形腫瘍型における患者選択戦略として使用することができる。ARID1A変異を検出する方法論は当技術分野で知られている。従って、HSF1経路活性が介在する疾患または症状、例えば、ARID1A1a変異が存在する固形腫瘍としてマニフェストされる癌の治療のための方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、少なくとも部分的には、HSF1経路を調節、例えば阻害する化合物を用いて癌を治療する方法に向けられている。例えば、本明細書において開示されるのは、それを必要とする患者において癌を治療する方法であって、有効量のHSF1経路阻害剤を患者に投与することを含み、癌が、ARID1A変異を保有する固形腫瘍、例えば、ARID1A変異を有すると同定された固形腫瘍を含む方法である。いくつかの実施形態において、癌は、例えば、卵巣癌、胃癌および膵臓癌からなる群から選択され得る。
【0009】
本明細書においてさらに開示されるのは、それを必要とする患者において卵巣癌を治療する方法であって、有効量のHSF1経路阻害剤を患者に投与することを含み、癌がARID1A変異を保有する固形腫瘍、例えばARID1A変異を有すると同定された固形腫瘍を含む方法である。いくつかの実施形態において、卵巣癌は、例えば、子宮内膜様卵巣癌または卵巣明細胞癌である。
【0010】
いくつかの実施形態において、HSF1経路阻害剤は、例えば、N-(5-(2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン-6-カルボキサミド)-2-フルオロフェニル)-2-((4-エチルピペラジン-1-イル)メチル)キノリン-6-カルボキサミドであり、以下によって表される。
【0011】
例えば、本明細書において開示されるのは、それを必要とする患者において卵巣癌を治療する方法であって、有効量のN-(5-(2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン-6-カルボキサミド)-2-フルオロフェニル)-2-((4-エチルピペラジン-1-イル)メチル)キノリン-6-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩を患者に投与することを含み、癌がARID1A変異を保有する固形腫瘍を含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】卵巣癌異種移植モデル(SKOV-3)における化合物Aの抗腫瘍活性(例えば、腫瘍増殖抑制)を示す。腫瘍はARID1A変異を有するものとして同定された。Crヌードマウスに5×10個のSK-OV-3細胞を注射し、腫瘍が形成された後、ビヒクル対照(DCC)またはDCC中の化合物A35mg/kgを1日1回(または本文に記載の通りに)経口投与した。グラフは投与期間中の平均腫瘍体積を示し、エラーバーは平均値の標準誤差を示す。対照および35mg/kg群n=10である。横の黒線は投与0日目の35mg/kg群の腫瘍体積である。
【0013】
図2】卵巣癌異種移植モデル(TOV-21G)における化合物Aの抗腫瘍活性(例えば、腫瘍増殖抑制)を示す。腫瘍はARID1A変異を有するものとして同定された。NCrヌードマウスに3×10個のTOV-21G細胞を注射し、腫瘍が形成された後、ビヒクル対照(DCC)またはDCC中の化合物A35mg/kgを1日1回、7日ごとのうち5日間経口投与した。グラフは投与期間中の平均腫瘍体積を示し、エラーバーは平均値の標準誤差を示す。ビヒクル対照群n=8、35mg/kg投与群n=11である。
【0014】
図3】卵巣癌異種移植モデル(OVISE)における化合物Aの抗腫瘍活性(例えば、腫瘍増殖抑制)を示す。NCrヌードマウスに5×10個のOVISE細胞を注射し、腫瘍が形成された後、ビヒクル対照(DCC)またはDCC中の化合物A35mg/kgを1日1回、7日ごとのうち5日間経口投与した。グラフは投与期間中の平均腫瘍体積を示し、エラーバーは平均値の標準誤差を示す。ビヒクル対照群n=10、35mg/kg化合物A群n=11である。
【0015】
図4】卵巣癌異種移植モデル(IGROV-1)における化合物Aの抗腫瘍活性(例えば、腫瘍増殖抑制)を示す。NCrヌードマウスに3×10個のIGROV-1細胞を注射し、腫瘍が形成された後、ビヒクル対照(DCC)またはDCC中の化合物A35mg/kgを1日1回、断続的スケジュールで経口投与した。グラフは投与期間中の平均腫瘍体積を示し、エラーバーは平均値の標準誤差を示す。ビヒクル対照群n=5、35mg/kg化合物A群n=6である。
【0016】
図5】腫瘍異種移植片実験の概要を示す。形成された腫瘍異種移植片を処置した(表1に示したように、化合物Aを35mg/kg経口スケジュールで1日1回)。TGI>50%を有意とみなし、点線で示した。すべての実験は、少なくともn=9の対照および処置マウスで実施した(IGROV-1、n=6処置およびn=5対照を除く)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本開示の特徴および他の詳細をより具体的に説明する。本開示のさらなる説明の前に、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で採用される特定の用語をここに集める。これらの定義は、本開示の残りの部分に照らして、当業者によって理解されるように読まれるべきである。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0018】
定義
「治療すること」には、症状、疾患、障害などの改善をもたらすあらゆる効果、例えば、軽減、低減、調節または除去が含まれる。例えば、状態、障害または症状の「治療すること」または「治療」には、(1)状態、障害または症状に罹患しているか、罹患する素因があるが、まだ状態、障害または症状の臨床症状または不顕性症状を経験または発現していないヒトにおいて、発症している状態、障害または症状の臨床症状の出現を予防または遅延させること、(2)状態、障害または症状を抑制すること、すなわち、疾患またはその再発(維持療法の場合)またはその少なくとも1つの臨床症状または不顕性症状を阻止、軽減または遅延させること、または(3)疾患を緩和または減弱させること、すなわち、状態、障害または症状またはその少なくとも1つの臨床症状または不顕性症状の退行を引き起こすことが含まれる。「治療すること」または「治療」には、確立された症状の緩和だけでなく、予防も含まれることを理解されたい。
【0019】
「障害」という用語は、特に断りのない限り、「疾患」、「症状」、「病気」という用語を指し、これと互換性をもって使用される。
【0020】
「薬学的または薬理学的に許容される」とは、動物またはヒトに投与した場合に、有害反応、アレルギー反応またはその他の有害反応を引き起こさない分子実体および組成物を含む。ヒトに投与する場合、製剤はFDA生物製剤局が要求する無菌性、発火原性、一般的な安全性および純度の基準を満たす必要がある。
【0021】
「個体」、「患者」または「被験体」は、互換的に使用され、哺乳動物、好ましくはマウス、ラット、他のげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、または霊長類を含む任意の動物、および最も好ましくはヒトを含む。本開示の化合物は、ヒトなどの哺乳動物に投与され得るが、獣医学的治療を必要とする動物、例えば、家畜動物(例えば、イヌ、ネコなど)、農場動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)および実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモットなど)などの他の哺乳動物にも投与され得る。本開示の方法において治療される哺乳動物は、望ましくは、例えば、癌または血液障害の治療が所望される哺乳動物である。「調節」は、アンタゴニズム(例えば、阻害)、アゴニズム、部分的アンタゴニズムおよび/または部分的アゴニズムを含む。
【0022】
本明細書において、「有効量」または「治療上有効量」という用語は、研究者、獣医師、医学博士または他の臨床医が求めている組織、系または動物(例えば、哺乳動物またはヒト)の生物学的または医学的応答を引き出す対象化合物の量を意味する。本開示の化合物は、疾患を治療するために治療有効量で投与される。あるいは、治療上有効な量の化合物は、所望の治療効果および/または予防効果を達成するのに必要な量である。
【0023】
本明細書で使用する「薬学的に許容される塩(複数可)」という用語は、組成物に使用される化合物中に存在し得る塩基性基の塩を指す。本組成物に含まれる塩基性である化合物は、種々の無機酸および有機酸と多種多様な塩を形成することができる。
【0024】
本開示において「および/または」という用語は、特に断りのない限り、「および」または「または」のいずれかを意味する。
【0025】
本明細書で使用される場合、「a」および「an」という語は、特に指定がない限り、1つ以上を含むことを意味する。例えば、「薬剤」という用語は、単一の薬剤と2つ以上の薬剤の組み合わせの両方を包含する。
【0026】
「約」という用語が定量値の前に使用されている場合、特に別段の記載がない限り、本開示には特定の定量値自体も含まれる。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、別段の指示または推論がない限り、公称値から±10%の変動を指す。
【0027】
方法
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるのは、それを必要とする患者において癌を治療する方法であって、有効量のHSF1経路阻害剤を患者に投与することを含み、ここで癌は、ARID1A変異を保有する固形腫瘍からなる、方法である。
【0028】
例えば、いくつかの実施形態において、癌は、例えば、卵巣癌、胃癌および膵臓癌からなる群から選択される。特定の実施形態において、癌は子宮内膜様卵巣癌であり、例えば、癌は再発または難治性の子宮内膜様卵巣癌である。他の実施形態では、癌は卵巣明細胞癌である。いくつかの実施形態において、癌は再発または難治性の卵巣明細胞癌である。特定の実施形態において、卵巣癌は、プラチナベースの化学療法、タキサンベースの化学療法またはそれらの組み合わせに対して実質的に耐性である。
【0029】
いくつかの実施形態において、HSF1経路阻害剤は、例えば、以下の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0030】
例えば、特定の実施形態において、HSF1経路阻害剤は以下の化合物である。
【0031】
いくつかの実施形態において、ARID1A変異は、ヘテロ接合ARID1A変異である。他の実施形態では、ARID1A変異は、ホモ接合ARID1A変異である。
【0032】
さらなる実施形態において、HSF1経路阻害剤は、経口または皮下投与される。いくつかの実施形態において、投与は、例えば、野生型ARID1A細胞と比較して、ARID1A変異癌細胞における平均GI50の約2から5倍の減少をもたらす。他の実施形態において、投与は、例えば、野生型ARID1A卵巣細胞と比較して、ARID1A変異卵巣癌細胞における平均GI50の約4から5倍の減少をもたらす。
【0033】
いくつかの実施形態において、本方法は、1つ以上の追加の癌化学療法剤を投与することをさらに任意選択で含む。例えば、他の実施形態において、本方法は、追加の癌化学療法剤を投与することをさらに任意選択的に含む。
【0034】
また、本明細書では、それを必要とする患者において卵巣癌を治療する方法であって、患者に有効量のHSF1経路阻害剤を投与することを含み、癌がARID1A変異を保有する固形腫瘍からなる方法も開示する。特定の実施形態において、癌は子宮内膜様卵巣癌であり、例えば、癌は再発または難治性の子宮内膜様卵巣癌である。他の実施形態では、癌は卵巣明細胞癌である。いくつかの実施形態において、癌は再発または難治性の卵巣明細胞癌である。特定の実施形態において、HSF1経路阻害剤は、以下の化合物又はその薬学的に許容される塩である。
【0035】
さらに、ここでの開示は、以下の化合物またはその薬学的に許容される塩で表されるHSF1経路阻害剤の有効量を患者に投与することを含む、それを必要とする患者における卵巣癌の治療方法である。
ここで、癌は、ARID1A変異を保有する固形腫瘍からなる。いくつかの実施形態において、卵巣癌は、例えば、子宮内膜様卵巣癌または卵巣明細胞癌である。
【0036】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される癌型または固形腫瘍型は、ARID1A変異を有することが同定されている。ARID1A変異を検出する方法論は、当技術分野で公知である。例えば、ARID1A変異に関連するタンパク質損失は、固形腫瘍型における患者選択戦略として使用することができる。
【0037】
特に、特定の実施形態において、本開示は、本明細書に開示されるHSF1経路阻害剤の有効量を、それを必要とする患者に投与することを含む、上記医学的適応症を治療する方法を提供する。特定の他の実施形態において、本開示は、開示されるHSF1経路阻害剤を含む組成物を患者に経口、皮下または静脈内投与することを含む、それを必要とする患者における上記医学的適応症を治療する方法を提供する。
【0038】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される治療方法は、抗増殖効果をもたらし得る。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される治療方法は、増殖性疾患または増殖性障害を治療する方法であってもよい。「増殖性疾患」および「増殖性障害」という用語は、本明細書において互換的に使用され、インビトロまたはインビボのいずれであっても、腫瘍性または過形成性増殖のような、望ましくない過剰または異常な細胞の、望ましくないまたは制御されない細胞増殖に関係する。増殖状態の例としては、癌や固形腫瘍を含むがこれらに限定されない、前悪性および悪性の細胞増殖が挙げられる。肺、肝臓、胃、結腸、乳房、卵巣、前立腺、肝臓、膵臓、脳、皮膚などを含むがこれらに限定されない、任意の種類の細胞を治療することができる。
【0039】
本明細書に開示される方法の抗増殖作用は、そのHSF1阻害特性により、ヒト癌の治療において特に応用される。抗癌作用は、細胞増殖の調節、血管新生(新しい血管の形成)の阻害、転移(腫瘍がその起源から広がること)の阻害、浸潤(腫瘍細胞が近隣の正常な構造に広がること)の阻害、またはアポトーシス(プログラムされた細胞死)の促進を含むがこれらに限定されない1つ以上の機序を介して生じ得る。抗増殖および抗癌作用は、ARID1A変異を有すると同定された癌および固形腫瘍型で観察される。
【0040】
本明細書で定義される治療方法は、単独療法として適用することもできるし、本発明の化合物に加えて、従来の手術、放射線療法、遺伝子療法または化学療法剤もしくは分子標的薬剤による療法を併用することもできる。このような併用治療は、治療の個々の成分の同時投与、逐次投与または分離投与によって達成され得る。本明細書で使用される「併用」という用語は、同時、別々または逐次投与を意味する。いくつかの実施形態において、「併用」は同時投与を指す。他の実施形態において、「併用」は、分離投与を指す。さらなる実施形態において、「併用」は逐次投与を指す。投与が逐次的または別々である場合、第2の成分の投与の遅延は、併用の有益な効果を失うようなものであってはならない。
【実施例
【0041】
以下の限定されない例によって、本開示が説明される。
【0042】
N-(5-(2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン-6-カルボキサミド)-2-フルオロフェニル)-2-((4-エチルピペラジン-1-イル)メチル)キノリン-6-カルボキサミド(化合物A)は、参照により本明細書に組み込まれるWO2015/049535の合成手順に従って製造することができる。
【0043】
インビボ有効性試験
化合物Aのインビボでの有効性を、卵巣癌を中心に、無胸腺ヌードマウスの異種移植腫瘍で調べた。以下の卵巣癌細胞株を用いた異種移植マウスで化合物Aの有効性を検討した。SK-OV-3、TOV-21G、OVISE、IGROV1、OVCAR-5、ES-2、RMG1。7つの細胞株のうち、SK-OV-3、TOV-21G、OVISE、IGROV1は、ARID1A変異を保有し、OVCAR-5、ES-2、RMG1は、ARID1A野生型であった。
【0044】
腫瘍が形成されると、マウスを、ビヒクル対照群と治療群とに無作為に割り付けた。ビヒクル対照群と治療群との両方で、自然退縮または治療に由来する腫瘍退縮、許可限界に近づいた腫瘍増殖、腫瘍潰瘍化、または症状喪失により試験経過中に除去されたマウスは、平均腫瘍体積および平均値の標準誤差の最終解析から除外し、試験から除去された時点までとした。治療群で腫瘍が完全に退縮したマウスの数は、該当する場合に記載した。
【0045】
12匹の雌性NCrヌードマウスの2群(SK-OV-3は10匹×3群)に、上記の癌細胞株の1つから3~5×10個の細胞を皮下注射した。腫瘍がこの大きさに達したら、群にビヒクル対照(10%DMSO、25%2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの90%、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液pH5[DCC])または化合物Aを35または70mg/kg、DCCで1日1回経口投与した。体重を毎日測定し、動物に毒性の徴候がないかモニターした。薬物レベルを評価するため、動物は最終投与から2、6、24時間後に3~4匹のバッチで安楽死させ、PK解析のために終末血漿および腫瘍サンプルを採取した。対照群に対する化合物A投与群の最終腫瘍体積の差(p<0.005、Mann-Whitney検定)を記録した。その結果を表1に示す。
表1:化合物Aの35mg/kg投与スケジュールと試験で得られたTGIの詳細
【表1】
【0046】
図1図2図3および図4は、卵巣明細胞癌異種移植モデルにおける化合物Aの抗腫瘍活性(例えば、腫瘍増殖抑制)を示す。SKOV-3、TOV-21G、OVISEおよびIGROV1(それぞれARID1A変異を有することが同定された)。
【0047】
表1に示すように、ARID1A野生型OVCAR-5およびES-2モデルでわずかな有効性のシグナルが認められたが(それぞれ%TGIは27%および12%)、これは有効性の基準(%TGI.50%)を満たさなかった。ARID1A野生型RMG1モデルでは、異種移植による腫瘍増殖の抑制は認められなかった。OVCAR-5およびES-2モデルの血漿中Cmaxは有効性試験で認められた範囲内であったが、RMG1モデルの血漿中Cmaxは有効性試験で認められた最低レベルの半分以下であった。ARID1A変異を有するSK-OV-3卵巣癌細胞株は、異種移植モデルにおいて最も感受性の高い細胞株であった。
【0048】
図5は、検討した7つの卵巣癌異種移植モデルにおける化合物Aの抗腫瘍活性(例えば、腫瘍増殖抑制)の比較グラフである。SK-OV-3;TOV-21G、OVISE、IGROV1、OVCAR-5、ES-2およびRMG1。
【0049】
参照による組み込み
以下に列挙されたものを含め、本明細書に記載されたすべての刊行物および特許は、個々の刊行物または特許が具体的かつ個別に参照により組み込まれたかのように、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾が生じた場合には、本明細書における定義を含む本出願が優先する。
均等物
本開示の具体的な実施形態について説明してきたが、上記明細書は例示であり、制限的なものではない。本開示の多くの変形は、本明細書を検討することにより当業者に明らかになるであろう。本開示の全範囲は、そのような変形例とともに、均等物の全範囲とともに、特許請求の範囲および明細書を参照して決定されるべきである。
別段の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される成分の量、反応条件などを表す全ての数値は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解される。従って、反対の指示がない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】