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特表2024-536449コバルト含有酸性アミノ酸錯体および癌処置のためのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】コバルト含有酸性アミノ酸錯体および癌処置のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/28 20060101AFI20240927BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K31/28
A61P35/00
A61P35/02
A61P1/16
A61P25/00
A61P17/00
A61P11/00
A61P15/00
A61P1/00
A61P1/18
A61P13/08
A61P13/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521234
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 CN2022123300
(87)【国際公開番号】W WO2023056898
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/252,232
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524130205
【氏名又は名称】アメリオ・バイオテック・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Amelio Biotech Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221578
【弁理士】
【氏名又は名称】林 康次郎
(72)【発明者】
【氏名】リィ,イ-チェン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チ-ジュン
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB11
4C206KA16
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA43
4C206MA51
4C206MA55
4C206MA56
4C206MA57
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA75
4C206NA06
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA59
4C206ZA66
4C206ZA75
4C206ZA81
4C206ZA89
4C206ZB26
4C206ZB27
4C206ZC41
(57)【要約】
本発明は、コバルト含有酸性アミノ酸錯体および癌処置のためのその使用に関する。いくつかの実施態様において、コバルト含有錯体は式Iまたは式IIで表される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする対象に有効量のコバルト含有酸性アミノ酸錯体を投与することを含む、前記対象における癌を処置する方法。
【請求項2】
酸性アミノ酸がグルタミン酸(GA)およびアスパラギン酸(AA)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コバルト含有グルタミン酸(COGA)錯体またはコバルト含有アスパラギン酸(COAA)錯体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
COGA錯体が式I:
【化1】
で表される;および/または
COAA錯体が式II
【化2】
で表されるものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
錯体が結晶の形態である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
癌が、肝臓癌、脳癌、皮膚癌、肺癌、頭頸部癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、白血病、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌および精巣癌からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
錯体が、癌細胞の増殖を阻害するのに有効な量で投与されるものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
錯体が、癌細胞におけるmyca、mycb、cdk1、cdk2、ccnd1および/またはccne1の発現を阻害するのに有効な量で投与されるものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
癌の処置のための医薬を製造するための、コバルト含有酸性アミノ酸錯体の使用。
【請求項10】
錯体が請求項2~5のいずれかで定義ざれるものである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
肝臓癌、脳癌、皮膚癌、肺癌、頭頸部癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、白血病、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌および精巣癌からなる群から選択される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
錯体が、癌細胞の増殖を阻害するのに有効な量で投与されるものである、請求項9~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
医薬が、癌細胞におけるmyca、mycb、cdk1、cdk2、ccnd1および/またはccne1の発現を阻害するのに有効な量で投与されるものである、請求項9~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
癌の処置に使用するための、有効量のコバルト含有酸性アミノ酸錯体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項15】
錯体が請求項2~5のいずれかで定義されるものである、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
癌が、肝臓癌、脳癌、皮膚癌、肺癌、頭頸部癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、白血病、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌および精巣癌からなる群から選択される、請求項14または15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
錯体が、癌細胞の増殖を阻害するのに有効な量で投与されるものである、請求項14~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
錯体が、癌細胞におけるmyca、mycb、cdk1、cdk2、ccnd1および/またはccne1の発現を阻害するのに有効な量で投与されるものである、請求項15~17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト含有酸性アミノ酸錯体および癌処置のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、世界で最も重要な健康問題の一つである。癌とは、古い細胞が制御不能に増殖し、死滅から逃れ、体内のあらゆる場所に発生するものとして定義されている。患者は、手術、放射線療法、化学療法などの伝統的な治療法、または免疫療法、標的療法、遺伝子療法などの新しい形の処置法で処置される。化学療法は、1以上の抗癌薬物を使用する有効かつ広く普及している癌処置法である。
【0003】
シスプラチンはPt(II)錯体であり、多くの種類の癌を処置する化学療法薬物として使用される。その化学式は[Pt(NH)Cl]であり、モル質量は300.05g・mol-1である。シスプラチンは、細胞が損傷DNAを修復できないとき、DNAと架橋することで細胞有糸分裂を妨害し、アポトーシスを活性化する。したがって、シスプラチンは、癌細胞を含む増殖中の細胞を死滅させ得る。シスプラチンはまた、骨髄、消化管および毛包などの急速に分裂する正常細胞にも損傷を与え得る。一般的な副作用は、腎毒性、耳毒性、肝毒性、消化器不耐性、神経毒性などである。後天性または先天性の耐性、非特異的かつ毒性の副作用、および癌再発を予防できないことから、シスプラチンの臨床使用は限られている(Sumit Ghosh Chemistry. 88, 102925, (2019))。
【発明の概要】
【0004】
本発明において、グルタミン酸(GA、Glu)またはアスパラギン酸(AA、Asp)を含む酸性アミノ酸とのコバルト含有錯体が癌細胞増殖の阻害に有効であることは、予想できない発見である。特に、本明細書に記載の酸性アミノ酸とのコバルト含有錯体は、多様なタイプの癌細胞に対する有効性のため、広スペクトルな抗癌剤として有効である。
【0005】
したがって、本発明は、処置を必要とする対象に有効量の酸性アミノ酸とのコバルト含有錯体を投与することを含む、対象における癌を処置する方法を提供する。本発明はまた、処置を必要とする対象における癌を処置するための医薬の製造のための、酸性アミノ酸とのコバルト含有錯体の使用を提供する。さらに、癌を処置するための、酸性アミノ酸とのコバルト含有錯体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が提供される。
【0006】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の酸性アミノ酸は、グルタミン酸(GA)およびアスパラギン酸(AA)からなる群から選択される。
【0007】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の酸性アミノ酸とのコバルト含有錯体は、コバルト含有グルタミン酸(COGA)錯体またはコバルト含有アスパラギン酸(COAA)錯体である。
【0008】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の酸性アミノ酸とのコバルト含有錯体は、式I;
【化1】
または式II
【化2】
により表される。
【0009】
いくつかの実施態様において、コバルト含有錯体は、結晶形態である。
【0010】
いくつかの実施態様において、癌は、肝臓癌(肝癌)、脳癌(神経膠芽腫)、皮膚癌(黒色腫)、肺癌、頭頸部癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、白血病、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌および精巣癌からなる群から選択される。
【0011】
いくつかの実施態様において、コバルト含有錯体は、癌細胞の増殖を阻害するのに有効な量で投与される。
【0012】
いくつかの実施態様において、コバルト含有錯体は、癌細胞におけるmyca、mycb、cdk1、cdk2、ccnd1および/またはccne1を阻害するのに有効な量で投与される。
【0013】
本発明の1以上の実施態様の詳細を次の記載で説明する。本発明の他の特徴または利点は、以下のいくつかの実施態様の詳細な説明から明らかであり、添付の特許請求の範囲からも明らかである。
【0014】
本発明を説明する目的のために、実施態様を図面に示す。しかしながら、本発明は、示される好ましい実施態様に限定されないと解されるべきである。図面において、下記のことが示される:
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】tert遺伝子導入魚におけるGFP発現を導入遺伝子発現のレポーターとして蛍光強度(弱、中または強)で示す。
【0016】
図2】コバルト含有グルタミン酸(COGA)錯体で処理したtert遺伝子導入魚の胚毒性アッセイの結果を示す。
【0017】
図3図3A~3Gは、tert過剰発現が、受精後15日(dpf)の早い時期に細胞増殖およびβ-カテニン下流標的遺伝子を誘発することを示す。図3Aは、ゼブラフィッシュ胚の給餌プロトコルを示す。図3Bは、tert過剰発現がccne1の発現を誘発することを示す。図3Cは、tert過剰発現がcdk1の発現を誘発することを示す。図3Dは、tert過剰発現がcdk2の発現を誘発することを示す。図3Eは、tert過剰発現がccnd1の発現を誘発することを示す。図3Fは、tert過剰発現がmycaの発現を誘発することを示す。図3Gは、tert過剰発現がmycbの発現を誘発することを示す。
【0018】
図4】15dpfのtert遺伝子導入魚および野生型魚の有糸分裂像と三核細胞を示す。
【0019】
図5】COGA処置が、15dpfのtert遺伝子導入魚における細胞増殖およびβ-カテニン下流標的遺伝子(ccne1、cdk1、cdk2、myca、mycbおよびccnd1)の発現を低減することを示す。
【0020】
図6】COGA処置が、15dpfのtert遺伝子導入魚における有糸分裂像、三核細胞および巨核(macronucleated)細胞を低減することを示す。
【0021】
図7】COGA処置が肝毒性を誘発しないことを示す。
【0022】
図8】COGAが肝癌細胞増殖を低減することを示す。
【0023】
図9】各試験でのCOGAによるNCI-H226細胞増殖阻害を示す用量応答曲線を示す。シグモイド用量応答曲線は、GraphPad Prismを用いて薬物濃度の対数関数として細胞増殖比と各試験における阻害率の値をフィッティングさせることにより作成した。
【0024】
発明の詳細な説明
以下の記載は、単に本発明の多様な実施態様を説明することを意図するものである。すなわち、本明細書において考慮される特定の実施形態または変更は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更または均等物が実施され得ることは、当業者に明らかである。
【0025】
明確かつ迅速な本発明の理解を提供するために、特定の用語を初めに定義する。さらなる定義は詳細な説明を通して説明される。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、当業者により一般に理解されるものと同一の意味を有する。
【0026】
本明細書で使用される単数形「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、文脈により明確に示されない限り、複数の指示物を含む。したがって、例えば、「ある成分」は、当業者に知られる複数のそのような成分およびその均等物を含む。
【0027】
用語「含む(comprise)」または「含む(comprising)」は、一般に、1以上の特徴、成分または複数の成分の存在を許容することを意味することを含むという意味で使用される。用語「含む(comprise)」または「含む(comprising)」は、用語「成る(consist)」または「から成る(consist of)」を包含する。
【0028】
コバルトは、主にビタミンB12、コバラミンの形態で全ての動物体内に存在する必須微量元素であり、いくつかの生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。多くの研究により、種々の形態でのコラバミンの参加がDNA合成および調節、赤血球の発達ならびに正常な脳および神経機能の維持に必要であることが示されている。コバルトは白金のような非必須金属より低毒性である。
【0029】
酸性アミノ酸は、負荷電を有する側鎖を含む極性アミノ酸の一種である。特に、これらのアミノ酸は、アミノ酸構造中に2つのカルボキシル基:側鎖における一方のカルボキシル基および中心炭素原子に結合したカルボキシル基を有する。酸性アミノ酸の例は、グルタミン酸およびアスパラギン酸である。
【0030】
グルタミン酸(GA)は化学式CNOであり、モル質量は147.130g・mol-1である。グルタミン酸およびその誘導体であるグルタミンは、癌細胞の急速な増殖に不可欠であることが分かっている。グルタミン酸は、ヒト体内のグルタミンシンセターゼによるエネルギー依存的な反応においてグルタミンへ変換される。腫瘍発生において、グルタミンはヌクレオチドおよびアミノ酸生合成における窒素ドナーである。また、グルタミンは必須アミノ酸の取り込みを助け、TORキナーゼの活性化を維持し、NADPH産生を支援し、腫瘍細胞における呼吸燃料として作用する。
【0031】
アスパラギン酸(AA)は化学式CNOであり、モル質量は133.103g・mol-1である。アスパラギン酸はヌクレオチド合成における前駆体として作用し、細胞増殖において重要な役割を果たす。さらに、ミトコンドリア代謝を抑制することにより、アスパラギン酸が腫瘍増殖および癌細胞生存の制限因子となることが多くの報告で指摘されている。そして、医院または臨床試験における多様な治療剤への感受性または耐性は、アスパラギン酸の利用可能性と関連することが示されている。
【0032】
本発明は、少なくとも一部は、コバルト含有酸性アミノ酸錯体が癌細胞増殖の阻害に有効であることの発見に基づくものである。
【0033】
本明細書に記載のとおり、コバルト含有酸性アミノ酸錯体は、コバルトとグルタミン酸またはアスパラギン酸などの酸性アミノ酸との錯体である。具体的には、本明細書に記載のコバルトは、+2(コバルト(II))および+3(コバルト(III))などの一般の酸化状態であり得る。ここで使用されるグルタミン酸およびアスパラギン酸は、LまたはD配置であるか、適切な回転異性体の混合物である。
【0034】
特定の実施態様において、本明細書に記載の酸性アミノ酸とのコバルト含有錯体は、コバルト含有グルタミン酸(COGA)錯体またはコバルト含有アスパラギン酸(COAA)錯体である。
【0035】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のコバルト含有錯体は、次の式I(COGA)のものである。
【化3】
【0036】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のコバルト含有錯体は、次の式II(COAA)のものである。
【化4】
【0037】
本明細書に記載のコバルト含有錯体は、先に記載された、例えば、Yugen Zhang et al. 2003, CrystEngComm. 5(5):34-37に記載の方法により製造され得る。簡潔には、グルタミン酸またはアスパラギン酸を含む水溶液に塩化コバルト(II)-6水和物水溶液を添加し、混合物は、コバルトとグルタミン酸またはアスパラギン酸の混合物を形成するのに十分な期間保持する。
【0038】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のコバルト含有錯体は、水和物または無水物である。
【0039】
いくつかの実施態様において、コバルト含有錯体は結晶形態である。
【0040】
いくつかの実施態様において、コバルト含有錯体は、空間群P2および単位セル寸法a=7.1Å、b=10.4Åおよびc=11.2Åにより規定される分子充填配置を有する結晶形態のコバルト含有グルタミン酸(COGA)錯体である。
【0041】
いくつかの実施態様において、コバルト含有錯体は、a=7.7Å、b=9.3Åおよびc=11.5Åにより規定される分子充填配置を有する結晶形態のコバルト含有アスパラギン酸(COAA)錯体である。
【0042】
本明細書で使用される用語「個体」または「対象」は、ヒト、およびコンパニオン動物(例えば、イヌ、ネコなど)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)または実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモットなど)などの非ヒト動物を含む。
【0043】
本明細書で使用される用語「処置する」とは、障害の症状もしくは状態、障害により誘発される障害、または障害の進行またはその症状または状態を治療する、治癒する、軽減する、緩和する、変化させる、治療する(remedy)、寛解させる、改善するまたは影響を及ぼすことを目的として、障害、障害の症状もしくは状態または障害の進行に罹患した対象に1以上の活性剤を含む組成物を適用または投与することをいう。
【0044】
本明細書で使用される用語「有効量」とは、処置される対象において所望の治療効果を与える有効成分の量をいう。例えば、癌を処置するための有効量は、1以上の症状または状態またはその進行を阻害する、改善する、軽減する、低減する、または予防する量であり得る。いくつかの実施態様において、本明細書で使用される有効量は、癌細胞の増殖を阻害する、および/またはアポトーシスを誘発するのに有効な量であり得る。いくつかの実施態様において、本明細書で使用される有効量は、myca、mycb、cdk1、cdk2、ccnd1およびccne1の発現を阻害するのに有効な量であり得る。好ましくは、有効量は、患者における正常細胞への細胞毒性などの副作用を生じさせない。
【0045】
治療有効量は、投与経路および頻度、前記医薬を受ける個体の体重および種、ならびに投与の目的などの多様な理由により変化し得る。当業者は、本明細書の開示、確立された方法および自身の経験に基づいて、各々の場合における投与量を決定し得る。
【0046】
送達の目的のために、治療有効量の有効成分は、薬学的に許容される担体とともに、送達および吸収のための適切な形態の医薬組成物に製剤化され得る。投与方法に応じて、本発明の医薬組成物は好ましくは、約0.1重量%~約100%重量の有効成分を含み、前記の重量割合は組成物全体の重量に基づいて計算される。
【0047】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される」は、担体が組成物中の有効成分と適合性があること、および好ましくは、有効成分を安定化させることができ、処置を受ける個体に安全であることを意味する。前記担体は、有効成分に対する希釈剤、ビークル、賦形剤またはマトリックスであり得る。適切な賦形剤のいくつかの例は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルボース、マンノース、デンプン、アラビアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸、トラガカントガム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップおよびメチルセルロースを含む。組成物は、滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱油;湿潤剤;乳化剤および懸濁化剤;防腐剤、例えばメチルおよびプロピルヒドロキシベンゾエート;甘味剤;ならびに風味剤をさらに含み得る。本発明の組成物は、患者への投与後の有効成分の迅速、継続的または遅延放出の効果を提供し得る。
【0048】
本発明によれば、前記組成物の形態は、錠剤、丸剤、粉末剤、ロゼンジ剤、小包剤、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁剤、ローション剤、溶液剤、シロップ剤、軟および硬ゼラチンカプセル剤、坐薬、滅菌注射液ならびに包装粉末剤であり得る。
【0049】
本発明の組成物は、経口、非経腸(例えば、筋肉内、静脈内、皮下および腹腔内)、経皮、坐薬および鼻腔内法などの生理学的に許容されるあらゆる経路を介して送達され得る。非経腸投与について、本発明の組成物は、好ましくは無菌水溶液の形態で使用され、これは溶液を血液と等張にするのに十分な塩またはグルコースなどの他の物質を含み得る。水溶液は、必要に応じて適切に緩衝化される(好ましくは、3~9のpH値を有する)。無菌条件下での適切な非経腸組成物の製造は、当業者に既知の標準的な薬理学的技術を用いて達成され得て、余分な創造的労力は必要とされない。
【0050】
本発明、本明細書に記載のコバルト含有錯体は、癌を処置するための有効成分として使用され得る。処置される癌の例は、限定されないが、肝臓癌(肝癌)、脳癌(神経膠芽腫)、皮膚癌(黒色腫)、肺癌、頭頸部癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、白血病、腎臓癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌および精巣癌を含む。
【0051】
本発明はさらに、以下の実施例により説明され、これは限定ではなく説明する目的で提供されるものである。本明細書の開示に照らして、当業者は、本発明の概念及び範囲から逸脱することなく、開示された特定の実施態様において多くの変更がなされ得るが、同様または類似の結果が得られることを理解する。
【実施例
【0052】
実施例1
これまでの研究で、受精後2日のゼブラフィッシュ胚に注射でヒト腫瘍細胞を異種移植した後の、ゼブラフィッシュ胚における腫瘍細胞の増殖および遊走挙動がヒト患者におけるものと類似することが発見されている。したがって、我々は異種移植モデルを使用し、コバルト含有グルタミン酸(COGA)錯体で胚を処理し、COGAの抗増殖および抗遊走効果を試験した。肝臓癌患者の最大60%に、肝臓癌におけるテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)プロモーターに変異が見られた。この変異は肝臓癌細胞におけるテロメラーゼの過剰発現をもたらし、癌細胞の増殖を促進し得る。我々は、肝臓特異的なtert過剰発現遺伝子導入魚を確立し、qPCRを用いて受精後15日のtert遺伝子導入魚における細胞増殖遺伝子(ccne1/cdk1/cdk2)を分析した。野生種のゼブラフィッシュと比較して、顕著な増加が見られた。さらに、肝臓癌の形成に密接に関連するβ-カテニン下流遺伝子(ccnd1/myca/mycb)もまた、顕著に増加した。したがって、我々は、COGAを摂取させたtert遺伝子導入魚HCCモデルを使用し、肝臓癌の阻害におけるCOGAの効果を試験した。我々はまた、肝臓赤色蛍光遺伝子導入ゼブラフィッシュ胚を用いてCOGAの肝毒性を試験し、ゼブラフィッシュ胚を用いてCOGAの胚毒性を試験した。我々は、正常肝臓細胞と肝臓癌細胞を比較し、COGAが肝臓癌の有効かつ安全な個別化処置であるかを試験した。さらに、我々は、COGAが多様な癌細胞の増殖の阻害に有効であるかを試験した。
【0053】
1.材料および方法
1.1 コバルト含有グルタミン酸(COGA)錯体およびコバルト含有アスパラギン酸(COAA)錯体の製造および構造決定
Yugen Zhang et al. 2003, CrystEngComm. 5(5):34-37に基づいて製造を実施した。簡潔には、25℃で、L-グルタミン酸(0.735g)を含む水溶液(25ml)にCo(ClO)2・6HO(1.830g)の水(5ml)溶液を添加した。希NaOHを用いて得られた溶液のpHを7.5に調整し、60℃で数時間保持し、L-グルタミン酸錯体を製造した。
【0054】
25℃で、1mL COGA溶液を1mL エッペンドルフに入れ、30日後にゆっくりと蒸発させることにより、0.05gの赤紫色の結晶を得た。結晶を下記のとおり、X線回折により分析した。
【0055】
寸法約0.101mm×0.165mm×0.370mmのC11CoNOの赤紫色の楕円状試料をX結晶構造解析に使用した。この結晶の単結晶X線回折データをMo標的(Kα=0.71073Å)マイクロフォーカスX線発生器およびPHOTON-II CMOS検出器を備えたBruker D8 Venture回折計で、インハウスで収集した。窒素フロー(Oxford Cryosystems)を用いて温度を200Kに調整した。収集後、ナローフレームアルゴリズムを用いてBruker SAINTソフトウェアパッケージでデータを積算し、マルチスキャン法(SADABS)を用いて吸収効果を補正した。その後、SHELXTLソフトウェアパッケージにより分子構造を明らかにし、精密化し、そして最終異方性完全行列最小二乗法を用いてF2上で変数パラメーターを用いて精密化し、空間群P 21 21 21(斜方晶)、Z=4の式単位C11CoNOを用いて結晶構造を決定した。最終的なセル定数a=7.12700(10)Å、b=10.4397(3)Å、c=11.2621(3)Å、体積=837.94(3)Å3は、20σ(I)を超える7520のXYZセントロイドを5.715°<2θ<66.97°で精密化したものである。F2の163変数による最終的な異方性全行列最小二乗法による精密化は、観測データではR1=2.76%、全てのデータではwR2=7.59%に終息した。見かけの透過率の最小値と最大値の比は0.798であった。計算された最小透過率と最大透過率(結晶サイズに基づく)は、0.5180および0.8200であった。
【0056】
COGAの原液は100mMのddHO溶液であり、室温で保存した。試験においては、0.05mM(50μM)に平衡化した0.5X作用濃度または0.1mM(100μM)に平衡化した1X作用濃度を使用した。
【0057】
同様の方法でコバルト含有アスパラギン酸(COAA)錯体を製造した。
【0058】
1.2 野生型および遺伝子導入ゼブラフィッシュ系統
野生型AB株(WT)ゼブラフィッシュおよび3種の遺伝子導入ゼブラフィッシュ系統、Tg(fabp10a:tert:cmlc2:GFP)、Tg(fli1:EGFP)、Tg(fabp10a:EGFP-mCherry)を本試験で使用した。
【0059】
内皮促進因子(fli1)の制御下でEGFPタンパク質を発現するTg(fli1:EGFP)遺伝子導入魚を、先に記載のとおり作製した(Developmental biology 248, 307-318, doi:10.1006/dbio.2002.0711 (2002))。Tg(fabp10a:EGFP-mCherry)は、肝臓特異的プロモーター(fabp10a)の制御下でEGFP-mCherry融合タンパク質を発現し、先に記載のとおり作製した(PLoS One 8, e76951, doi:10.1371/journal.pone.0076951 (2013))。
【0060】
脂肪酸結合タンパク質10a(fabp10a)、テロメラーゼ逆転写酵素(tert)および心臓ミオシン軽鎖2(cmlc2)を含むコンビナトリアルプロモーターの制御下でGFPタンパク質を発現するTg(fabp10a:tert:cmlc2:GFP)遺伝子導入魚を、先に記載のとおり作製した(Developmental dynamics : an official publication of the American Association of Anatomists 236, 3088-3099, doi:10.1002/dvdy.21343 (2007))。具体的には、Rapid amplification of cDNA ends(RACE)によりクローニングしたゼブラフィッシュtert cDNAからのtert遺伝子を増幅し、p5E-fapb10a、p3E-pAおよびpDEST-Tol2-CG2とともに、LR反応により発現コンストラクトを作製するために使用されるミドルエントリークローンpME-tertを作製した。発現プラスミド-pTol2-fabp10a-tert-pA/CG2を精製し、シークエンシングを確認した後、AB野生型ゼブラフィッシュに微量注入した。受精後(dpf)3日の心臓における緑色蛍光タンパク質発現をスクリーニングすることにより、導入遺伝子を運搬する胚を選択した。遺伝子導入魚は性成熟(約3か月)まで飼育し、AB野生型魚と交配させてF1魚を作製し、その後、自己交配させてF2遺伝子導入魚を得た。全ての遺伝子導入魚がtert DNA挿入を有することを確認するためにフィンクリップ法を用い、qPCRによってtert mRNAを過剰発現させた。本研究の試験は全てF2ホモ接合魚を用いて行った。
【0061】
ゼブラフィッシュ(Danio rerio)は、NTHU-NHRI(ZeTH)のZebrafish Core Facilityで飼育した。ゼブラフィッシュを、Zebrafish Core Facilityの継続的なフローの下、14時間/10時間の明/暗サイクルで、28℃で恒温飼育した。全てのゼブラフィッシュ試験は、NHRIの動物実験委員会(IACUC)の承認のもとに実施された。
【0062】
1.3 胚収集および胚毒性試験
受精の前日、雄性および雌性のAB(WT)およびtert遺伝子導入ゼブラフィッシュ成魚を内側メッシュのある交尾槽に個別に入れた。雄性および雌性魚をセパレーターで分離し、交尾ケージに一晩放置した。翌朝、セパレーターを除去した後、ゼブラフィッシュを光で刺激し、オスがメスを追いかけ始め、精子が卵に受精した。1時間後、胚を収集し、E3溶液(5mM NaCl、0.17mM KCl、0.33mM CaCl、0.33mM MgSO、pH 7.0)を入れた100mm皿に移し、28℃で培養した。16~22hpfで、洗浄と胚の生存率の改善のために、胚を0.0016%漂白液で洗浄した。受精後6時間で未受精胚と死胚を除去し、残りの生存胚に新鮮なE3溶液を補充して培養のために保持した。
【0063】
1.4 給餌プロトコルおよびCOGA処置
50匹のゼブラフィッシュ幼魚を800mlのシステム水を含む水槽に入れ、毎日午後4時に水を交換した。5日目から15日目まで、AB(WT)およびtert遺伝子導入ゼブラフィッシュに通常の幼魚用餌と20mlのゾウリムシを与え、餌は2時間間隔で、1日4食とした。最後の餌は換水1時間前に与える。ゼブラフィッシュの幼魚を25mlの清浄なE3水(対照群)またはE3水に0.5X COGAを入れたシャーレに入れ、翌朝9時まで一晩薬物に浸漬し、その後800mlのシステム水用水槽に移した。RNA抽出とヘマトキシリン-エオシン(H&E)染色のためのサンプルを採取する前に、魚を1日間絶食させた。
【0064】
1.5 肝臓組織収集およびパラフィン切片
RO注入1か月後、魚を屠殺し、肝臓を摘出し、RNA単離用およびパラフィン切片用に2つの部分に分けた。切り分けの直後に肝臓組織を液体窒素中で凍結させ、RNA単離用に-80℃で保管した。肝臓組織を10% ホルマリン溶液(Sigma-Aldrich社、セントルイス、ミズーリ州、アメリカ合衆国)中で固定した。固定した組織をパラフィンに包埋し、ポリL-リシンでコーティングされたスライドに乗せ、切片をヘマトキシリン-エオシン(H&E染色)で染色し、この部分はPathology Core Facilityにより実施された。
【0065】
1.6 全RNA単離
NucleoSpin(登録商標)RNAキット(MACHEREY-NAGEL、アメリカ合衆国)により、全RNAを単離した。約30mgの組織を収集し、350μl 緩衝液RA1および3.5μl β-メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich、アメリカ合衆国)混合物中に入れ、この段階でサンプルは-80℃で保管され得る。
RNA単離後、室温でゆっくり解凍し、その後ペストルで組織を破砕して溶解させた。溶解物をNucleoSpin(登録商標)Filter(紫色リング)でろ過し、11000gで1分間遠心分離することにより、粘性を減少させ、溶解物を透明にした。遠心分離後、ろ液にDEPC水(ジエチル ピロカーボネート水)により調整した350μlの70% エタノールを添加し、上下にピペッティングすることにより十分に混合した。溶解物をNucleoSpin(登録商標)RNAカラム(水色リング)に充填し、11000gで30秒間遠心分離した。その後、350μlの膜脱塩緩衝液をカラムに添加し、11000gで1分間遠心分離した。
【0066】
各カラムに、10% RNアーゼ非含有DNアーゼおよび90% DNアーゼ用反応緩衝液を含む95μlのDNアーゼ反応混合物を添加し、ゲノムDNAを消化するために室温で30分間静置した。DNアーゼ消化後、DNアーゼを不活性化させるために200μlの緩衝液RAW2をカラムに添加し、11000gで30秒間遠心分離した。その後、RNAを含むカラムを新しい2mlの収集チューブに移し、600μlおよび250μlの緩衝液RA3を続けて添加し、RNAサンプルを清浄化するために、11000gで30秒間および2分間、2回遠心分離した。最後に、カラムをRNアーゼを含まない新しい1.5mlのチューブに移し、40μlのRNアーゼ非含有HO中でRNAサンプルを溶出し、その後11000gで1分間遠心分離した。全てのRNAサンプルは-80℃で保管した。
【0067】
1.7 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
High Capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems、アメリカ合衆国)により、相補DNA(cDNA)を合成した。
【0068】
逆転写(RT)反応混合物は次のとおりである:
【表1】
【0069】
PCR装置の温度サイクルプログラムにおける逆転写は、下記のとおり設定した:RT反応開始に37℃で60分間→酵素活性の不活性化に95℃で5分間→4℃で保存。長期保存のために、サンプルを-20℃の冷凍庫に入れた。
【0070】
1.8 定量ポリメラーゼ連鎖反応(Q-PCR)
RT終了後、cDNAをRNアーゼ非含有水で100倍に希釈した。各サンプルについて、384ウェルQ-PCRプレートの1ウェルに次の反応混合物を添加した:
【表2】
【0071】
2x SybrGreenは光感受性であるため、最後に添加した。ABI HT-7900装置で、Q-PCRプログラムを次のとおり設定した:
【表3】
【0072】
ABI PRISM 7900システムを用い、SYBR Green Q-PCR Master Mix Kit(Applied Biosystems)を用いて、得られたファーストストランドcDNAを定量PCRの鋳型として用いて、トリプリケートで行った。内部対照のアクチンに対して正規化した後、比較Ct法を用いて試験群および対照群間の発現日を計算した。相対発現比(倍率変化)を△△Ctに基づいて計算し、△△Ct=(Ct標的-Ctアクチン)処理-(Ct標的-Ctアクチン)対照であり、倍率変化=2-△△Ctである。全ての試験はトリプリケートで実施し、3つの値の平均値を示す。少なくとも3つの独立したサンプルをQ-PCRに使用し、中央値±標準誤差として示されたデータに組み込んだ。変数間の差異は、両側スチューデントt検定により評価した。P<0.05は統計的に有意であると考えられ、*:0.01<P≦0.05;**:0.001<P≦0.01;および***:P≦0.001として示される。
【0073】
1.9 ゼブラフィッシュにおける細胞増殖および遊走確認のための異種移植アッセイ
AB(WT) ゼブラフィッシュの受精卵をE3/PTU溶液中28℃でインキュベートし、標準的なゼブラフィッシュ実験室条件下で飼育した。受精後2日のゼブラフィッシュ胚を脱塩し、0.016% トリカイン(MS-222)で麻酔した後、微量注入した。PBS中に収集した293T/EDN1細胞を、CM-Dil(赤蛍光)(Vybrant;Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いてインビトロで標識化した。各注入体積は4.6nlであり、約200個の細胞を含み、Nanoject IITMナノリットル注射器(Drummond Scientific)を用いて、ガラスキャピラリーを介して2dpfゼブラフィッシュ胚の卵黄に移植した。注入後、ゼブラフィッシュ胚をE3/PTU溶液で一回洗浄し、28℃で1時間インキュベートし、移植後2時間での蛍光細胞の存在を確認した。移植24時間後、ゼブラフィッシュを0.5X COGAで処理し、その後3~5日の細胞増殖および遊走能力を蛍光顕微鏡(LEICA DM IRB)で観察した。
【0074】
1.10 肝毒性アッセイ
上記のとおりEGFP-mCherry胚を収集およびインキュベートした。約3dpfの50個の胚を、5dpfまで、6つのウェルプレート中の10mlの化学溶液/ウェル(化学/E3溶液)に分散させ、新しい化学溶液に毎日交換した。5dpfに、胚をトリカイン(0.016%)で麻酔し、ZEISS AxioCam MRcにより、ウェルごとに無作為に、8~10個の胚の画像を撮影した。最も鮮明な画像のために自動露光時間を設定したもの、強度測定と比較のために飽和以下のRFP(赤色蛍光タンパク質)強度を捉えるために固定露光時間を設定したもの、そしてサイズ測定のために肝臓領域全体を映し出すのに十分な露光時間を設定したものの、3つの異なる画像がある。その後、RFPの強度および肝臓サイズを定量するためにImage Jソフトウェアを使用した。肝臓における平均RFP強度を計算し、同倍率および固定露光時間で、同じ側視下幼魚のグループ内で比較した。
【0075】
1.11 統計学的分析
両側スチューデントt検定を用いて、結果の統計学的分析を実施した。全ての統計学的分析において、p値<0.05は統計的に有意であると考えられ、*:0.01<P≦0.05;**:0.001<P≦0.01;および***:P≦0.001として示される。
【0076】
1.12 細胞増殖アッセイI
U-87MG細胞(ヒト一次神経膠芽腫細胞株)をMEM培地(Gibco、ニューヨーク、ニューヨーク州、アメリカ合衆国)中で培養した。A375細胞(ヒト黒色腫細胞株)およびHuh7細胞(ヒト肝細胞癌(HCC)細胞株)をDMEM培地(HyClone、ローガン、ユタ州、アメリカ合衆国)中で培養した。培地に10% 熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)、1% ペニシリン/ストレプトマイシンおよび1% グルタミン酸(HyClone、ローガン、ユタ州、アメリカ合衆国)を添加した。細胞は96ウェルプレートに2000個/ウェルの密度で播種した。その後、細胞を37℃のインキュベーターに移した。24時間後、指示された濃度のCOGAで72時間処理した。インキュベート終了時、PrestoBlueTM Cell Viability Reagent(Invitrogen、ユージーン、オレゴン州、アメリカ合衆国)を細胞に分配した。プレートを、加湿した5% CO雰囲気で37℃で90分間インキュベートし、その後Ex/Em:560nm/590nmで蛍光を記録した。トリプリケートで試験を実施した。
【0077】
1.13 細胞増殖アッセイII
ヒト肺癌細胞株NCI-H226を、American type culture collection(CRL-5826)から購入した。NCI-H226を、10% FBSを添加したRPMI中、5% COを含む加湿雰囲気で、37℃で増殖させた。ヒト黒色腫細胞株A375、ヒト咽頭扁平上皮細胞癌FaDu、ヒト子宮頸部上皮癌HeLaおよびヒト慢性骨髄性白血病K-562を、Bioresource Collection and Research Center((BCRC)、シンジュー 300、台湾)から購入した。A375細胞を、10% FBSを添加したDMEM中、5% COを含む加湿雰囲気で、37℃で増殖させた。FaDu細胞を、10% FBSを添加したDMEM中、5% COを含む加湿雰囲気で、37℃で増殖させた。HeLa細胞を、10% FBSを添加したDMEM中、5% COを含む加湿雰囲気で、37℃で増殖させた。K-562細胞を、10% FBSを添加したIMDM中、5% COを含む加湿雰囲気で、37℃で増殖させた。U87細胞を、10% FBSを添加したEMEM中、5% COを含む加湿雰囲気で、37℃で増殖させた。
【0078】
COGA化合物は、ddHO中100mM 原液として調整し、使用しないときは室温(RT)で保管した。細胞播種の24時間後、COGA 100mM 原液を適切な使用濃度に希釈した。化合物の最高使用濃度を100mM 原液ddHOに設定した。この最高使用濃度から、ddHOを用いて7点で連続的な3倍希釈を実施し、その後、培地でさらに5倍希釈した。全ての8つの濃度は、必要とされる最終濃度の2倍であった。100μlの培地を含むウェルに100μlの希釈剤を添加した。背景対照サンプルとして、細胞を添加せずに同じ一連の希釈液を調製した。最終濃度は10mM~0.00457mMの範囲であった。最終ddHO濃度は10%であった。
【0079】
指数関数的に増殖した細胞を回収し、培地に再懸濁した。懸濁した細胞は、96ウェル組織培養プレートにウェル当たり最適な細胞数で播種し、37℃、5%CO加湿雰囲気で一晩培養した。翌日、化合物の希釈溶液を含む培地の一定量(典型的に100μL)を、96ウェル組織培養プレートのウェルに添加した。培地中で、陽性対照(ビークル対照)の細胞を10% ddHOで処理した。各々の化合物の希釈溶液をトリプリケートで試験した。加湿雰囲気下、プレートを37℃、5% COで72時間インキュベートした。インキュベート後、Cell Titer 96水性非放射性細胞増殖アッセイ(Promega)により細胞生存率を確認した。生存細胞は、MTSを水溶性ホルマザンへ変換することにより検出可能であった。
【0080】
MTS/PMS溶液を新たに調製し、96ウェル培養プレートの各ウェルに添加した(1ウェル当たり20μl)。加湿雰囲気下、アッセイプレートを3時間、37℃、5% COでインキュベートし、MultiskanTM GO Microplate分光光度計(Thermo Fisher Scientific)を用いて、490nmで吸光度を測定した。
【0081】
全ての他の吸光度値から陰性対照ウェル(培地のみ、細胞なし、背景対照として)の490nmでの平均吸光度を減算し、補正された吸光度値を得た。化合物処理についての細胞増殖のパーセント阻害を次の式を用いて計算した:
%阻害=100%×{1-[(処理されたウェルの吸光度-陰性対照ウェルの吸光度)/(陽性対照ウェルの吸光度-陰性対照ウェルの吸光度)]}。
【0082】
GraphPad Prismソフトウェア(v.5.0)を用いて、化合物濃度の対数の関数としてパーセント阻害値を一致させることによりシグモイド用量応答曲線を作成した。IC50値を細胞増殖の50%阻害に必要な濃度として定義する。試験はトリプリケートで2回実施する。
【0083】
2.結果
2.1 COGAおよびCOAA
COGAおよびCOAA溶液を調製し、結晶を得て、X線回折により分析した。X線回折のデータは次のとおりである。
【0084】
COGA
【表4】

【表5】

【表6】
【0085】
COAA
【表7】
【0086】
2.2 COGA処理と同程度の強度を有するtert胚の選択および胚毒性に基づく投与量の特定
48hpfで、蛍光顕微鏡を用いてtert遺伝子導入ゼブラフィッシュ胚(図1)を観察し、心臓において同程度の緑色蛍光発現を有する胚を、さらなる処理のために収集した。我々は、強い導入遺伝子(tert)発現を有することを確認するために、さらなる試験について中程度の、および強い蛍光強度を有する胚を選択した。
【0087】
胚毒性試験を通して、ゼブラフィッシュ胚が0.01X(1μM)~20X(2000μM)の濃度で浸漬されたことが分かった。結果を図2に示す。胚の死亡率は、0.01X(1μM)、0.1X(10μM)、および1X(100μM)が最も低かったため、さらなる試験には0.5X(50μM)の濃度のCOGAを選択した。
【0088】
2.3 15dpfで、tert過剰発現ゼブラフィッシュは細胞増殖を誘発し、β-カテニン下流標的を活性化し得る
肝臓におけるtert過剰発現を試験するため、WT幼魚と比較した、受精後15日の通常の餌下のtert遺伝子導入魚を試験した(図3A)。異常増殖は、癌における特徴の一つである48。HCCの開始は、E型サイクリンE1(CcnE1)およびサイクリン依存性キナーゼ2(Cdk2)49によるものである。Ccne1過剰発現はマウスにおいて肝臓腫瘍発生を引き起こした50、Cdk2は肝細胞における細胞周期進行に重要な役割を果たしており51、サイクリン依存性キナーゼ1(Cdk1)は、肝臓癌の細胞分裂に必須である52。したがって、我々は、細胞周期/増殖のマーカーとしてccne1、cdk1およびcdk2の発現レベルをqPCRで確認した。細胞周期/増殖マーカー(ccne1/cdk1/cdk2)の発現は、15dpfで野生魚と比較して有意に増加した(図3B-D)。この結果は、肝細胞におけるtertの過剰発現が細胞増殖を促進し得ることを示した。
【0089】
以前の研究により、β-カテニンは、HCC発達に関与する主要な癌遺伝子の一つであり53、再活性化されたTERTがWnt/β-カテニンシグナル伝達の転写モジュレーターとして作用し、β-カテニン下流標的遺伝子の発現の増強をもたらすことが確認されている54。したがって、我々は、15dpfの遺伝子導入魚におけるβ-カテニン下流標的遺伝子(ccnd1/myca/mycb)の発現レベルを確認した。我々の結果から、それらのβ-カテニン下流標的遺伝子もまた、野生型魚と比較して、tert遺伝子導入魚において有意に上方調節された(図3E~G)。これらの結果は、tert過剰発現が細胞増殖および活性化β-カテニンシグナル伝達経路の上方調節を誘発することを示した。
【0090】
2.4 tert過剰発現は、15dpfで有糸分裂像および三核性細胞を有意に増加させた
我々の発見をさらに確認するために、H&E染色による病理組織試験を行った。H&E染色解析(図4)において、遺伝子導入魚の肝臓組織における有糸分裂像および三核細胞の比は、WTと比較して有意に増加することが明らかになった55(図4)。qPCRの結果と合わせて、これらの結果は、tert遺伝子導入魚が、ゼブラフィッシュ幼魚において初期の発達段階で発癌を誘発することを示した。
【0091】
2.5 COGAはtert過剰発現により誘発されるHCCに対して抗HCC作用を示す
野生型およびtert遺伝子導入ゼブラフィッシュに、0.5X(50μM)COGAなしで、または0.5X(50μM)COGAとともに通常の餌を15日間与え、細胞増殖マーカー(ccne1、cdk1、cdk2)およびβ-カテニン下流標的遺伝子(myca、mycb、ccnd1)の発現を分析した。図5に示すとおり、一般的に薬物処理なしのtert遺伝子導入ゼブラフィッシュの遺伝子発現は高い。対照的に、COGA処理したTERTゼブラフィッシュの遺伝子発現は、細胞増殖マーカーおよびベータ-カテニン下流標的遺伝子の発現を有意に低減した。したがって、COGAがtert遺伝子導入ゼブラフィッシュにおける肝臓癌を阻害するのに有効な薬物であることが示唆される。
【0092】
2.6 COGA処理は、15dpfでtertゼブラフィッシュにおける有糸分裂像および三核細胞を有意に低減する
H&E染色は主に、発癌した肝細胞を示す有糸分裂像、三核肝細胞および巨核細胞の状態を観察するためのものである。下の図8は、ゼブラフィッシュ肝細胞のヘマトキシリン-エロジン(H&E)染色の結果を示す。図6に示すとおり、tert遺伝子導入ゼブラフィッシュはWTと比較して高い割合の有糸分裂像、三核肝細胞および巨核細胞を有する。COGAでの処理は、tert遺伝子導入ゼブラフィッシュにおける有糸分裂形態、三核細胞および巨核細胞の数は、WTゼブラフィッシュと同等まで有意に低減した。
【0093】
2.7 COGA処理は肝毒性を有さない
Gongの研究室は、ゼブラフィッシュ胚を用いたインビボ肝毒性アッセイを開発した43。COGAがゼブラフィッシュ肝臓に対して毒性を有するかを確認するために、肝臓で緑色および赤色蛍光を示す3dpfのTg(fabp10a:EGFP-mCherry)胚を指示物として使用し、1% DMSO、1X(100μM)COGAおよび10μM ソラフェニブで別々に処理した。画像をImage Jソフトウェアにより解析した。我々は、DMSO処理対照と比較して、ソラフェニブは肝臓サイズを有意に減少させることを発見し、これは10μMのソラフェニブが肝毒性を有し得ることを示唆している(図7)。しかしながら、100μM COGAでの処理は、DMSO対照と同等である肝臓サイズで示されるとおり、肝毒性を示さないことが分かった。
【0094】
2.8 COGAは異種移植モデルにおける細胞増殖を低減する
異種移植を用いて、ゼブラフィッシュ胚にHep3B肝癌細胞を注入し、COGAおよびソラフェニブで2日間処理し、薬物処理後の細胞増殖変化を測定した(図8)。0.5X(50μM)COGAおよび1X(100μM)COGAの両方は、DMSO処理と比較して、肝癌細胞の増殖を有意に低減した。
【0095】
2.9 COGA処理は多様な癌細胞において細胞増殖を低減する
結果を表1~3に示す。COGA処理はA375、Huh7およびU-87MG細胞生存率を低下させた。COGAで処理されたA375、Huh7およびU-87MG細胞は、それぞれ68.7±15.8nM、286.6±61.8nMおよび10,000nM超のIC50値を示した。
【表8】

【表9】

【表10】
【0096】
MTS(Promega)比色アッセイを用いて、処理後72時間にNCI-H226(肺癌細胞)に対するCOGAの抗増殖アッセイを決定した。トリプリケートのウェルで薬物処理を実施し、試験を2回繰り返した。GraphPad Prismソフトウェアを用いて、試験化合物の50%阻害濃度(IC50)を計算した。各試験の用量応答曲線は図9に示すとおりであり、これはCOGAによるNCI-H226細胞増殖の濃度依存的阻害を示す。この結果は、NCI-H226細胞増殖を効率的に阻害し、0.045mMの平均IC50値を有することを示す。
【0097】
【表11】
【0098】
この結果は、A375、FaDu、HeLa、K-562、NCI-H226およびU87細胞増殖を効率的に阻害することを示す。
【0099】
3.結論
我々の試験は、酸性アミノ酸を有するコバルト含有錯体、例えばCOGAは、肝毒性および胚毒性を有さないことを示す。このコバルト含有錯体は、tert遺伝子導入魚および異種移植モデルにおいて強い抗肝臓癌作用を示す。それはまた、神経膠芽腫細胞、黒色腫細胞、肝細胞癌細胞、肺癌細胞、扁平上皮細胞癌細胞、子宮頸部上皮癌細胞および白血病細胞を含む多様な癌細胞において抗増殖活性を示す。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】