(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】アニオン交換膜用の分岐構造を有するアリールエーテルフリー多環芳香族炭化水素ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 61/02 20060101AFI20240927BHJP
B01J 41/13 20170101ALI20240927BHJP
【FI】
C08G61/02
B01J41/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522210
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 EP2022078513
(87)【国際公開番号】W WO2023062127
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519205350
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル ドゥ ローザンヌ (ウ・ペ・エフ・エル)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE (EPFL)
【住所又は居所原語表記】EPFL Innovation Park J, 1015 LAUSANNE Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】ウー シンユー
(72)【発明者】
【氏名】フー シールー
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032CA04
4J032CA14
4J032CA22
4J032CB04
4J032CB07
4J032CE03
4J032CE22
4J032CG01
4J032CG08
(57)【要約】
本発明は、多官能性芳香族部分MA、カチオン性基CG及び二官能性芳香族部分BAを含み、1つ又は複数のCG及び1つ又は複数のBAが直鎖状単位Lを形成し、かつMAが3~6個の直鎖状単位Lに連結される、多環芳香族炭化水素ポリマーに関する。MA、CG及びBAの定義は明細書において定義される通りである。さらに、本発明は、多環芳香族炭化水素ポリマーの中性前駆体、及び本発明による多環芳香族炭化水素ポリマーを含むアニオン交換膜に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~6個、さらに特に2~4個の環状炭化水素部分を含み、特にこれらからなり、非置換又はC
1~20-アルキル、特にC
1~6-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1又は4の部分から独立して選択されるカチオン性基CGと、
【化1】
(ただし、
R
1は、完全又は部分的にフッ化されたC
1~6-アルキル、特に-CF
3であり、
R
12及びR
13は、各々独立してH、C
1~12-アルキル、フェニル、及びC
3~10-シクロアルキルから選択され、又は
R
12及びR
13は、互いに連結されて、4~10個のC原子を含むシクロアルキルを形成し、
Dは、-N
+(R
2)
3、-P
+(R
2)
4又はピペリジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル、イミダゾリジニルのカチオンから選択され、特に-N
+(R
2)
3、-P
+(R
2)
4又はイミダゾリル、ピラゾリル、イミダゾリジニルのカチオンから選択され、さらに特に-N
+(R
2)
3又はイミダゾリルのカチオンであり、ここで、ピペリジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル又はイミダゾリジニルのカチオンは、非置換又はC
1~12-アルキル、フェニルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換され、
R
2は、各々独立して、H、C
1~12-アルキル、フェニル、特にH、C
1~6-アルキル、フェニルから選択される任意の他のR
2であり、
yは、0又は1であり、
xは、0~12、特に0~8、さらに特に6~8の間の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
2~5個、特に2~3個の環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択され、非置換又はC
1~10-アルキル、-O-C
1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC
1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい二官能性芳香族部分BAと、を含み、
1つ又は複数のCG及び1つ又は複数のBAは直鎖状単位Lを形成し、
MAは、3~6個、特に3~4個、さらに特に3個の直鎖状単位Lに連結される、多環芳香族炭化水素ポリマー。
【請求項2】
BA及びMAの環状炭化水素部分は、-O-によって連結されず、特にBA及びMAの環状部分は、単結合、1つ又は複数の共有結合(縮合環)の共有、単一原子(スピロ環)の共有、及び/又は
アルキルによって連結される、請求項1に記載の多環芳香族炭化水素化合物。
【請求項3】
BA及びCGは直鎖状単位L内で交互に現れる、請求項1又は2に記載の多環芳香族炭化水素化合物。
【請求項4】
前記多官能性部分MAは、独立して、1,3,5-トリフェニルベンゼン、ナフタレン、ビフェニレン、1H-フェナレン、アントラセン、フェナントレン、1,6-ジヒドロピレン、10b,10c-ジヒドロピレン、9、9‘-スピロビ[フルオレン]から選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の多環芳香族炭化水素ポリマー。
【請求項5】
多官能性部分MAは、独立して以下から選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の多環芳香族炭化水素ポリマー。
【化2】
【化3】
(ただし、
(L)又は(Lm)は、直鎖状単位Lへの結合を表し、
mは、各々独立して、0、1及び2から選択され、かつすべてのmの和は、3、4、5又は6、特に3又は4、さらに特に3である。)
【請求項6】
二官能性芳香族部分BAは、各々独立して、式2又は3の部分から選択され、特に式2a、2b又は3の部分から選択され、
【化4】
(ただし、
R
3、R
4、R
5、及びR
6は、各々独立して、H、F、C
1~6-アルキル、部分又は完全にフッ化されたC
1~6-アルキルから選択され、
R
7及びR
8は、各々独立して、H、F、C
1~6-アルキル、部分又は完全にフッ化されたC
1~6-アルキルから選択され、
s及びtは、各々独立して、0~4の間の整数から選択され、
rは、0~3、特に0~2、さらに特に0~1の間の整数である。)
特に、二官能性芳香族部分BAは、各々独立して、以下から選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載の多環芳香族炭化水素ポリマー。
【化5】
【請求項7】
カチオン性基CGは、式1a、1b、1c、1d又は4の部分から選択される、請求項1から6のいずれか1項に記載の多環芳香族炭化水素ポリマー。
【化6】
(ただし、
R
1は、完全又は部分的にフッ化されたC
1~6-アルキル、特に完全にフッ化されたC
1~6-アルキル、さらに特に、完全にフッ化されたC
1~3-アルキル、一層特に-CF
3であり、
R
9、R
10、R
11、R
14、R
15、及びR
16は、各々独立して、H、C
1~6-アルキル、フェニルから選択され、
R
12及びR
13は、各々独立して、H、C
1~6-アルキル、フェニル、C
3~10-シクロアルキルから選択され、又は
R
12及びR
13は、互いに連結されて4~10個のC原子を含むシクロアルキルを形成し、
R
17及びR
18は、独立して、C
1~6-アルキルから選択され、
p及びqは、0~3の間の整数、特に0であり、
R
19及びR
20は、独立して、H及びC
1~6-アルキルから選択され、
xは、0~12の間、特に0~8の間、さらに特に6~8の間の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
【請求項8】
2~6個、特に2~4個の環状炭化水素部分を含み、特にこれらからなり、非置換又はC
1~20-アルキル、特にC
1~6-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1’又は4’部分から独立して選択される中性基NGと、
【化7】
(ただし、
R
1は、完全又は部分的にフッ化されたC
1~6-アルキル、特に-CF
3であり、
R
12は、H、C
1~12-アルキル、フェニル、C
3~10-シクロアルキルから選択され、
Dは、脱離基、特に-I、-Br、-Cl及び-OHから選択される脱離基であり、
yは、0又は1であり、
xは、0~12、特に0~8、さらに特に6~8の間の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
2~5個、特に2~3個の環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択され、非置換又はC
1~10-アルキル、-O-C
1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC
1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい二官能性芳香族部分BAと、を含み、
1つ又は複数のCG及び1つ又は複数のBAは、直鎖状単位Lを形成し、
MAは、3~6個、特に3~4個、さらに特に3個の直鎖状単位Lに連結される、前駆体。
【請求項9】
中性基NGは、独立して、式1’’、1’’’又は4’’の部分から選択される、請求項11に記載の前駆体。
【化8】
(ただし、
R
1は、完全又は部分的にフッ化されたC
1~6-アルキル、特に-CF
3であり、
R
12は、H、C
1~6-アルキル、フェニル、C
3~10-シクロアルキル、特にC
1~4-アルキルから選択され、
xは、0~12、特に0~8、さらに特に6~8の間の整数である。)
【請求項10】
反応混合物の反応により得られる前駆体であって、
2~6個、さらに特に2~4個の環状炭化水素部分を含み、特にこれらからなり、MAは、非置換又はC
1~20-アルキル、特にC
1~6-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1k又は4kの部分から独立して選択されるケトンと、
【化9】
(ただし、
R
1は、完全又は部分的にフッ化されたC
1~6-アルキル、特に-CF
3であり、
Dは、脱離基、特に-I、-Br、-Cl及び-OHから選択される脱離基であり、
R
12は、H、C
1~12-アルキル、フェニル、C
3~10-シクロアルキルから選択され、
yは、0又は1であり、
xは、0~12、特に0~8、さらに特に6~8の間の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
2~5個、特に2~3個の環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択され、非置換又はC
1~10-アルキル、-O-C
1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC
1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい二官能性芳香族部分BAと、を含み、
反応混合物のpHは1未満である、前駆体。
【請求項11】
BAとMAとのモル量の和と、ケトンのモル量との比が、0.8~1.2の間、特に1:1であり、及び/又は
BAのモル量とケトンのモル量との比が、50:100~100:100の間、特に95:100~99.5:100の間であり、及び/又は
MAのモル量と、ケトンとBAとのモル量の和との比が、0.1:100~50:100の間、特に0.5:100~5:100の間、さらに特に1:100である、請求項13に記載の前駆体。
【請求項12】
反応混合物の反応により得られる多環芳香族炭化水素ポリマーであって、
請求項8~11のいずれか1項に記載の前駆体と、
ハロC
1~12-アルキル、ハロフェニル又はハロC
3~10-シクロアルキル、又は
N(R
2)
3、P(R
2)
3(R
2は上記と同様である。)又は
ピペリジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル又はイミダゾリジニルから選択される、反応物と、を含む、多環芳香族炭化水素ポリマー。
【請求項13】
反応物のモル量と中性基NGのモル量又はケトンのモル量との比が、1:1~3:1、特に1.5:1~3:1、さらに特に3:1である、請求項12に記載の多環芳香族炭化水素ポリマー。
【請求項14】
請求項1~7又は12~13のいずれか1項に記載の多環芳香族炭化水素化合物と、適切な対イオンと、を含む、アニオン交換膜。
【請求項15】
特にOH
-、Cl
-、Br
-、I
-、CO
3
2-、HCO
3
-、TFA
-(CF
3CO
2
-)、TFSA
-(CF
3SO
3
-)、BF
4
-、PF
6
-、さらに特に、OH
-及びCl
-から選択される、1種又は複数の対イオンを含む請求項1~9又は12~13のいずれか1項に記載の多環芳香族炭化水素ポリマー、又は
前記対イオンがOH
-、Cl
-、Br
-、I
-、CO
3
2-、HCO
3
-、TFA
-(CF
3CO
2
-)、TFSA
-(CF
3SO
3
-)、BF
4
-、PF
6
-、さらに特にOH
-及びCl
-から選択される、請求項14に記載のアニオン交換膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールエーテルフリー分岐多環芳香族炭化水素ポリマー、及びそれで製造されるアニオン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン交換膜(AEM)は、電気化学デバイスのアノードとカソードの間でOH-、CO3
2-、Br-、Cl-などのアニオンの輸送を可能にする固体重合体電解質である。AEMは、燃料電池及び水電解槽の重要なコンポーネントである。また、これらは、脱塩、電気透析、電池、又はセンサなどにおいて潜在的な用途を有する。
【0003】
アニオン交換膜の主な要件は、十分な耐久性、導電率、機械的特性に加え、低い吸水率と膨潤性である。
【0004】
市販のAEMの多くは、ポリスチレンをベースにしており、ポリスチレンは、AEMの燃料電池や水電解槽で長期使用されると破壊される可能性がある。ポリスルホン、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(ベンズイミダゾリウム)、ポリ(アリーレンエーテルケトン)、及びポリ(アリーレンエーテルスルホン)をベースとした他のAEMも報告されている。これらのポリマーは、主鎖にアリーレンエーテル結合を含み、側鎖にトリメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、イミダゾール基などのカチオン性基を含む。これらのポリマーは、エーテル基が攻撃されて破壊される可能性があるため、長期間の操作では不安定であることが証明されている。例えば、Zhangら(2021)により、分岐イオン側鎖を持つ直鎖エーテル型多環芳香族炭化水素を80℃で4M KOHに400時間浸漬した後、元の導電率が20%失われることが報告されている。
【0005】
最近、アリールエーテルフリー多環芳香族炭化水素をベースとしたAEMが製造された。代表的な分子構造には、Diel-Alderポリ(フェニレン)、ポリ(パーフルオロアルキルフェニレン)、ポリ(ビフェニルアルキレン)、ポリ(ビフェニレンピペリジニウム)、スピロイオネン、及びポリ(メシチルジメチルベンズイミダゾリウム)が含まれる。これらのAEMは、優れた熱的安定性と化学的安定性を備えている。例えば、Leeら(2015)は、アルカリ不安定なC-O結合を持たない第4級アンモニウム結合ポリ(ビフェニルアリーレン)を製造し、得られたAEMは、最大120mS/cmまでの高い水酸化物導電率と、80℃での良好なアルカリ安定性を示した。
【0006】
米国特許出願第15/527,967号は、直鎖状4級化水酸化アンモニウム-ポリアリーレン含有ポリマーを使用して製造されたアニオン交換膜を開示している。これらの膜の制限は、吸水率が高いことである(30℃で130wt%)。
【0007】
Olssonら(2018)は、2M NaOH中、90℃で15日間にわたってイオン交換容量(IEC)が5%失われる、ポリ(アリールピペリジニウム)ファミリーのAEMを報告した。また、米国特許出願第16/651,622及びCN 111269401 Aは、ペンダントカチオン性基を有する直鎖状ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーを使用することによって製造されるアニオン交換膜を開示している。
【0008】
しかし、これらのアリールエーテルフリーAEMは、おそらく分子量が比較的低いため、吸水率、膨潤性、及び機械的特性が劣っている。
【0009】
アニオン交換膜を改良しようとする多くの研究にもかかわらず、高い導電率、良好なアルカリ安定性、及び高い機械的特性を示しながら、吸水率や膨潤性が低い膜はこれまで報告されていなかった。
【0010】
上記の技術手段に基づいて、本発明の目的は、改良されたアニオン交換膜を製造するための手段及び方法を提供することである。この目的は、本明細書の独立請求項の主題によって達成され、さらに有利な実施形態が従属請求項、実施例、図面及び本明細書の概要に記載される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様は、2~6個の環状炭化水素部分を含み、非置換又はC1~20-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1又は4の部分から独立して選択されるカチオン性基CGと、
【0012】
【0013】
(ただし、
R1は、完全又は部分的にフッ化されたC1~6-アルキルであり、
R12及びR13は、各々独立してH、C1~12-アルキル、フェニル、及びC3~10-シクロアルキルから選択され、又は
R12及びR13は、互いに連結されて、4~10個のC原子を含むシクロアルキルを形成し、
Dは、-N+(R2)3、-P+(R2)4又はピペリジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル、イミダゾリジニルのカチオンから選択され、ここで、ピペリジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル又はイミダゾリジニルのカチオンは、非置換又はC1~12-アルキル、フェニルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換され、
R2は、各々独立して、H、C1~12-アルキル、フェニルから選択される任意の他のR2であり、
yは、0又は1であり、
xは、0~12の間の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
2~5個の環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択され、非置換又はC1~10-アルキル、-O-C1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい二官能性芳香族部分BAと、を含み、
1つ又は複数のCG及び1つ又は複数のBAは直鎖状単位Lを形成し、
MAは、3~6個の直鎖状単位Lに連結される、多環芳香族炭化水素ポリマーである。
【0014】
本発明の第2態様は、
2~6個の環状炭化水素部分を含み、非置換又はC1~20-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1’又は4’部分から独立して選択される中性基NGと、
【0015】
【0016】
(ただし、
R1は、完全又は部分的にフッ化されたC1~6-アルキルであり、
R12は、H、C1~12-アルキル、フェニル、C3~10-シクロアルキルから選択され、
Dは、脱離基であり、
yは、0又は1であり、
xは、0~12の間の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
2~5個の環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択され、非置換又はC1~10-アルキル、-O-C1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい二官能性芳香族部分BAと、を含み、
1つ又は複数のCG及び1つ又は複数のBAは、直鎖状単位Lを形成し、
MAは、3~6個の直鎖状単位Lに連結される、前駆体に関する。
【0017】
本発明の第3態様は、
2~6個の環状炭化水素部分を含み、非置換又はC1~20-アルキル、特にC1~6-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1k又は4kの部分から独立して選択されるケトンと、
【0018】
【0019】
(ただし、
R1は、完全又は部分的にフッ化されたC1~6-アルキルであり、
Dは、脱離基であり、
yは、0又は1であり、
xは、0~12の間の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
2~5個の環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択され、非置換又はC1~10-アルキル、-O-C1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい二官能性芳香族部分BAと、を含み、
反応混合物のpHは1未満である、反応混合物の反応により得られる前駆体に関する。
【0020】
本発明の第4態様は、
本発明の第2又は第3態様に記載の前駆体と、
ハロC1~12-アルキル、ハロフェニル又はハロC3~10-シクロアルキル、又は
N(R2)3、P(R2)3(R2の定義は以下の通りである。)、又は
ピペリジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル又はイミダゾリジニルから選択される反応物と、を含む、反応混合物の反応により得られる多環芳香族炭化水素ポリマーに関する。
【0021】
本発明の第5態様は、本発明の第1又は第4態様に記載の多環芳香族炭化水素ポリマーと、適切な対イオンと、を含む、アニオン交換膜に関する。
【0022】
[用語及び定義]
本明細書の目的を解釈するために、次の定義が適用され、必要に応じて、単数形で使用される用語には複数形も含まれ、またその逆も同様である。以下に記載される定義が本明細書の参照により本明細書に組み込まれる文書と矛盾する場合には、記載される定義が優先されるものとする。
【0023】
本明細書で使用される「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、及び「含む(including)」という用語、及び他の同様の形式、ならびに文法的に等価な用語は、意味が同等であり、オープン式のものであり、これらの単語のいずれかに続く1つ又は複数の項目は、そのような1つ又は複数の項目の完全なリストを意味するものではなく、リストされた1つ又は複数の項目のみに限定されることを意味するものでもない。例えば、成分A、B、及びCを「含む」物品は、成分A、B、及びCから構成される(つまり、これらの成分のみを含む)ことも、成分A、B、及びCだけでなく1つ以上の他の成分を含むこともできる。したがって、「含む」及びその類似の形式、並びに文法的に等価な用語には、「本質的にからなる」又は「からなる」の実施例の開示が含まれることが意図され、理解される。
【0024】
値の範囲が提供される場合、文脈により明確に別段の指示がない限り、範囲の上限及び下限と、範囲内の他の任意の値又は範囲内の他の任意の値又は範囲内の値との間の各中間値から下限単位の10分の1までが、範囲内の特別に除外された制限に拘束されて本開示に含まれることが理解されるべきである。前記範囲が制限の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる制限の一方又は両方を除く範囲も本開示に含まれる。
【0025】
本明細書における値又はパラメータの「約」への言及は、その値又はパラメータ自体に対する変形を含む(及び説明する)。例えば、「約Xについて」という記述には、「X」についての記述も含まれる。
【0026】
添付の特許請求の範囲を含む本明細書で使用される場合、単数形「1種」、「又は」、及び「前記」には、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の指示対象が含まれる。
【0027】
本明細書の文脈における多環芳香族炭化水素ポリマーという用語は、少なくとも1つの多官能性芳香族部分MA、カチオン性基CG及び二官能性芳香族部分BAを含むポリマーに関する。多環芳香族炭化水素ポリマーでは、MAは分岐点を構成し、「分岐点中間体」又は「分岐単位」とも呼ばれる(IUPAC recommendations 1997)。部分CGと部分BAは直鎖状単位Lを形成する。通常、CGとBAは直鎖状単位内で交互に現れる。直鎖状単位Lは、「直鎖状鎖」又は「直鎖状サブ鎖」と呼ばれることもある。1つのポリマーでは、直鎖状単位Lの長さは変化する可能性がある。それぞれMAに結合した少なくとも2つの直鎖状単位Lは、少なくとも1つの中間分岐点(MA)を有する主鎖又は主鎖(L)を構成する。MAに結合した第3直鎖状単位Lは、分岐又は側鎖を構成する。多官能性部分MAは、三官能性、四官能性、五官能性又は六官能性であってもよく、すなわち、3、4、5又は6個の直鎖状部分Lは1つの部分MAに結合していてもよい。このポリマーが1つ以上の部分MAを含む場合、樹枝状構造又は超分岐構造が観察される場合がある。さらに、多環芳香族炭化水素ポリマーは、末端基とも呼ばれる末端単位Eを含む。末端単位Eは、主鎖又は側鎖の自由端を構成する。例えば、上記の第1、第2又は第3リンカー部分Lの一端は三官能性部分MAに結合し、他端は末端単位Eに結合する。あるいは、ポリマー中に架橋が存在してもよい。この多環芳香族炭化水素ポリマーは対イオンを含んでもよい。特に、対イオンの負電荷は、カチオン性基CGの正電荷と平衡する。本発明による多環芳香族炭化水素ポリマーは、アリールエーテルを含まない、すなわち、-O-によって互いに連結された2つのアリール部分を含まない。
【0028】
本明細書の文脈における多官能性芳香族部分又はMAという用語は、特に2~6個、特に2~4個の環状炭化水素部分を含み、特にこれらからなる部分に関し、ここで、MAは、非置換又はC1~20-アルキル、特にC1~6-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい。非限定的な例としては、1,3,5-トリフェニルベンゼン、ナフタレン、ビフェニレン、1H-フェナレン、アントラセン、フェナントレン、1,6-ジヒドロピレン、10b,10c-ジヒドロピレン、ピレン、9,9’-スピロビ[フルオレン]が挙げられる。少なくとも1つ、特にすべての環状炭化水素部分は芳香族である。
【0029】
本明細書の文脈におけるカチオン性基又はCGという用語は、下記の式1又は式4の部分に関する。ポリマー内のカチオン性基により、電気化学デバイスのアノードとカソードとの間のアニオンの輸送が可能になる。アニオンの非限定的な例としては、OH-、CO3
2-、Br-、又はCl-が挙げられる。リンカー単位Lでは、カチオン性基がMAに結合する末端を形成し得る。
【0030】
本明細書の文脈における二官能性芳香族部分又はBAという用語は、2~5個、特に2~3個の環状炭化水素部分を含む部分に関する。非限定的な例としては、ビフェニル、ターフェニル(特にパラ-又はメタ-ターフェニル)、1,1’-メチレンジベンゼン、(1-メチル-1-フェニル-エチル)ベンゼン、2-フェニルエチルベンゼン、9,9-ジメチルフルオレン及び9,9-ジブチルフルオレンが挙げられる。少なくとも1つ、特にすべての環状炭化水素部分は芳香族である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】ポリマー(分岐ポリ(ターフェニル-トリフェニルベンゼン-ピペリジン))の一部を示している。多官能性芳香族部分MA、二官能性部分BA、及びカチオン性基CGが示されている。
【
図2】分岐構造を有するアリールエーテルフリー多環芳香族炭化水素の製造方法を示している。ポリマー内の部分Arは部分BAに対応し、構造内のケトンは中性基NGに対応し、nはポリマーがいくつかの多官能性部分MAを含むことを示している。
【
図3】考えられる二官能性芳香族部分BAを示している。
【
図4】考えられる多官能性芳香族部分MAを示している。
【
図6】考えられるカチオン性基CGを示している。波線は、ポリマーの隣接する部分への結合を示す。
【
図7】分岐ポリ(ターフェニル-トリフェニルベンゼン-ピペリジン)の化学構造を示している。
【
図8】(a)分岐ポリ(ターフェニル-トリフェニルベンゼン-ピペリジン)(TFAによりプロトン化)及び(b)分岐ポリ(テルフェニル-トリフェニルベンゼン-ピペリジニウム)の1Hスペクトルを示している。
【
図9】PTPとb-PTP-xの応力-ひずみ曲線を示している。
【
図10】1M又は3M KOH中、80℃で処理した後のb-PTP-2.5の残留OH-導電率を示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の目的は、特性が改善されたアニオン交換膜を提供することである。高い導電率とアルカリ安定性を維持しつつ、低い吸水率、低い膨潤性、及び高い機械的特性を得るために、分岐構造を有するアリールエーテルフリー多環芳香族炭化水素ポリマーが設計された。
【0033】
本発明の第1態様は、
2~6個、特に2~4個の環状炭化水素部分を含み、特にこれらからなり、非置換又はC1~20-アルキル、特にC1~6-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1又は式4の部分から独立して選択されるカチオン性基CGと、
【0034】
【0035】
(ただし、
R1は、完全又は部分的にフッ化されたC1~6-アルキル、特に完全又は部分的にフッ化されたC1~4-アルキル、さらに特に完全又は部分的にフッ化された-CF3であり、
R12及びR13は、各々独立して、H、C1~12-アルキル、フェニル、及びC3~10-シクロアルキル、特にH、C1~12-アルキル、及びフェニルから選択され、又は
R12及びR13は、互いに連結されて、4~10個のC原子を含むシクロアルキルを形成し、
Dは、-N+(R2)3、-P+(R2)4又はピペリジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル、イミダゾリジニルのカチオン、特に-N+(R2)3、-P+(R2)4又はイミダゾリル、ピラゾリル、イミダゾリジニルのカチオン、さらに特に、-N+(R2)3又はイミダゾリルのカチオンから選択され、ピリジル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル又はイミダゾリルのカチオンは、非置換又はC1~12-アルキル、フェニルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよく、
R2は、各々独立して、H、C1~12-アルキル、フェニル、特にH、C1~6-アルキル、フェニルから選択される任意の他のR2であり、
yは、0又は1であり、
xは、0~12、特に0~8、さらに特に6~8であり、
zは、0又は1、特に1である。)
2~5個、特に2~3個の環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択され、非置換又はC1~10-アルキル、-O-C1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい二官能性芳香族部分BAと、を含み、
1つ又は複数のCG及び1つ又は複数のBAは、直鎖状単位Lを形成し、
MAは、3~6、特に3~4、さらに特に3個の直鎖状単位Lに連結される、多環芳香族炭化水素ポリマーに関する。
【0036】
標準的な周囲温度及び圧力条件下では、多環芳香族炭化水素ポリマーは固体であり、特に粉末の形態である。このポリマー粉末は、アニオン交換膜の製造に使用することができる。適切な溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)に溶解した後、多環芳香族炭化水素ポリマーをガラス板上にキャストすることができる。AEMは水と接触したガラス板から剥がして電気化学デバイスに使用できる。
【0037】
本明細書に記載の多環芳香族炭化水素ポリマーで製造されたAEMは、低い吸水率及び低い膨潤性を特徴とする。特に、MA及びBAの芳香族部分は、吸水率の低下、さらに膨潤性の低下に有利である。
【0038】
さらに、本明細書に記載の多環芳香族炭化水素ポリマーで製造されたAEMは、良好な機械的特性を示す。特に分岐構造と高分子量は、ポリマーの高い強度と靭性に有利である。
【0039】
ポリマー内のカチオン性基により、電気化学デバイスのアノードとカソードとの間のアニオンの輸送が可能になる。アニオンの非限定的な例としては、OH-、CO3
2-、Br-、又はCl-が挙げられる。
【0040】
該多環芳香族炭化水素ポリマーは分岐ポリマーである。それは、少なくとも1つの多官能性芳香族部分MA、カチオン性基CG及び二官能性芳香族部分BAを含み、CG及びBAは直鎖状単位Lを形成する。多官能性部分MAはポリマーの分岐点を構成する。分岐構造は前記部分MA、CG及びBAからなる。多環芳香族炭化水素ポリマーは、短鎖分岐、長鎖分岐又は超分岐、特に長鎖分岐であってもよい。
【0041】
特に長鎖分岐は、鎖ごとの絡み合いの数が増加するため、ポリマーの強度、靱性、及びガラス転移温度(Tg)を増加させることができる。このようなポリマーで製造されたAEMは、高い導電率、低い吸水率と寸法膨潤性(dimensional swelling)、キャスティングし易さ、及び良好な機械的特性を示す。
【0042】
多環芳香族炭化水素ポリマーは、特にアリールエーテルフリーであり、すなわち芳香族部分は-O-を介して連結されていない。
【0043】
いくつかの実施例では、多環芳香族炭化水素ポリマーはアリールエーテルを含まない。
【0044】
いくつかの実施例では、MA及びBAの環状炭化水素部分は-O-を介して連結されていない。
【0045】
直鎖状単位Lと多官能性部分MAは、ポリマー構造内に主鎖と側鎖を形成する。通常、ポリマーにはいくつかの部分MAが存在する。MAの可能な結合部位の数(三官能性、四官能性、五官能性又は六官能性)に応じて、3、4、5又は6個の直鎖状部分Lが1つのMA部分に結合し得る。ポリマーを形成するには、直鎖状単位Lの両端を対応するMA部分に連結するか、又は直鎖状単位の一端をMA部分に結合し、他端を遊離のままにすることができる。このようなポリマー鎖の自由端は、末端単位Eを含む。重合機構に基づいて、鎖は直鎖状単位Lで終わることが予想される。したがって、末端単位Eの大部分はLに結合する。ただし、程度は低いが、鎖が多官能性部分MAで終わることも起こる。後者の場合、末端単位EはMAの遊離結合部位に結合してもよい。末端単位Eの化学構造は、多環芳香族炭化水素ポリマーの製造中に適用されるクエンチ条件に依存する。重合反応は、反応混合物に溶媒を添加することによってクエンチされる。適切な溶媒は当業者に知られている。例えば、クエンチステップには、水又はメタノールが使用され得る。水が使用される場合、部分Eは-OHになる。メタノールが使用される場合、部分Eは-OCH3である。
【0046】
いくつかの実施例では、末端単位Eは、-OH、-O-C1~4-アルキル、フェニル-OH、及びフェニル-O-C1~4-アルキルから選択される。
【0047】
いくつかの実施例では、末端単位Eは、-OH、-OCH3、-OCH2CH3、
【0048】
【0049】
から選択される。
【0050】
部分BAとCGは、直鎖状単位L内で交互に配列される。具体的には、部分BAとCGは、直鎖状単位が部分CGで始まり、部分CGで終わるように配列される。すなわち、直鎖状単位Lと多官能部分MAとの間の結合又は直鎖状単位Lと末端単位Eとの間の結合はCGによって形成される。
【0051】
いくつかの実施例では、BA及びCGは直鎖状単位L内で交互に現れる。
【0052】
いくつかの実施例では、直鎖状単位Lは、
n個の二官能性芳香族部分BAとn+1個のカチオン性基CG、又は
n個の二官能性芳香族部分BAとn個カチオン性基CGを含み、
nは、1~300の間、特に50~200の間の整数である。
【0053】
いくつかの実施例では、直鎖状単位Lは、n個の二官能性芳香族部分BAとn+1個のカチオン性基CGを含み、nは、1~300の間、特に50~200の間の整数である。
【0054】
2つの部分MAの間に、直鎖状単位Lの両端共にカチオン性基を有するべきである。
【0055】
いくつかの実施例では、Lが2つの多官能性単位MAに結合した場合、Lは、n個の二官能性芳香族部分BAとn+1個のカチオン性基CGを含む。
【0056】
いくつかの実施例では、MAは、それぞれ、3~6、特に3~4、さらに特に、3個の直鎖状単位Lに連結され、MA及びLは、MAがカチオン性基CGに結合するように連結される。
【0057】
いくつかの実施例では、直鎖状単位Lは、2つの異なる多官能性単位MAに結合するか、又は直鎖状単位Lは、1つの多官能性単位MA及び1つの末端単位Eに結合する。
【0058】
いくつかの実施例では、末端単位EはCGに結合する。
【0059】
多環芳香族炭化水素ポリマーは対イオンを含んでもよい。対イオンの負電荷は、カチオン性基CGの正電荷と平衡する。このポリマーは、電気化学デバイス用のAEMを製造するために使用され得る。ポリマー内のカチオン性基により、電気化学デバイスのアノードとカソードとの間のアニオンの輸送が可能になる。
いくつかの実施例では、多環芳香族炭化水素ポリマーは1種又は複数種の対イオンを含む。
【0060】
いくつかの実施例では、多環芳香族炭化水素ポリマーは、OH-、Cl-、Br-、I-、CO3
2-、HCO3-、TFA-(CF3CO2-)、BF4
-、PF6
-、TFSA-(CF3SO3-)から選択される1種又は複数種の対イオンを含む。
【0061】
いくつかの実施例では、多環芳香族炭化水素ポリマーは、OH-、CO3
2-、Br-又はCl-から選択される1種又は複数種の対イオンを含む。
【0062】
いくつかの実施例では、多環芳香族炭化水素ポリマーは、OH-及びCl-から選択される1種又は複数種の対イオンを含む。
【0063】
いくつかの実施例では、部分MAの環状炭化水素部分は、単結合、1つ又は複数の共有結合(縮合環)の共有、単一原子(スピロ環)の共有、及び/又はアルキル、特にC1~6-アルキル、さらに特にC1~2-アルキルによって互いに連結される。
【0064】
いくつかの実施例では、部分MAの環状炭化水素部分は、単結合、1つ又は複数の共有結合(縮合環)の共有、及び/又は単一原子(スピロ環)の共有によって互いに連結される。
【0065】
いくつかの実施例では、多官能性部分MAは、独立して、1,3,5-トリフェニルベンゼン、ナフタレン、ビフェニレン、1H-フェナレン、アントラセン、フェナントレン、1,6-ジヒドロピレン、10b,10c-ジヒドロピレン、ピレン、9,9’-スピロビ[フルオレン]から選択される。
【0066】
このポリマーは、1種類のMAのみ、例えば1,3,5-トリフェニルベンゼンのみ、又は異なる種類のMA、例えば1,3,5-トリフェニルベンゼンとナフタレンの混合物を含んでもよい。具体的には、ポリマー中には1種類のMAのみが存在する。
【0067】
いくつかの実施例では、多官能性部分MAは、以下から独立して選択される。
【0068】
【0069】
(ただし、
(L)又は(Lm)は、直鎖状単位Lに連結される結合を表し、
mは、各々独立して0、1及び2から選択され、かつ、すべてのmの和は、3、4、5又は6、特に3又は4、さらに特に3である。)
【0070】
いくつかの実施例では、多官能性部分MAは、以下から独立して選択される。
【0071】
【0072】
上記で示した構造は、ベンゼン環の活性C-Hとケトンが反応してMAとCGの前駆体との間に結合を形成するための好ましい位置を示している。C-H活性及び立体障害によっては、MA部分のすべての示された位置がCG部分に結合するわけではなく、一部のみが結合する可能性がある。例えば、1,6-ジヒドロピレンの場合、6つの結合位置が示されている。これは、ポリマー中の各1,6-ジヒドロピレンが六官能性分岐点であることを必ずしも意味するわけではない。1,6-ジヒドロピレンは、例えば三官能性部分の形態としてポリマー中に存在してもよい。
【0073】
いくつかの実施例では、部分BAの環状炭化水素部分は、単結合、C1~6-アルキル、単一原子(スピロ環)の共有、及び/又は1つ又は複数の共有結合(縮合環)の共有によって互いに連結される。
いくつかの実施例では、部分BAの環状炭化水素部分は、単結合、アルキル、特にC1~6-アルキル、さらに特に、C1~2-アルキル、及び/又は1つ又は複数の共有結合(縮合環)の共有によって互いに連結される。
【0074】
いくつかの実施例では、部分BAの環状炭化水素部分は、単結合、アルキル、特にC1~6-アルキル、さらに特に、C1~2-アルキル又は1つ又は複数の共有結合(縮合環)の共有によって互いに連結される。
【0075】
いくつかの実施例では、BAの環状炭化水素部分は、
特に単結合又は縮合環によって直接互いに結合され、又は
C1~6-アルキルによって連結され、又は
互いに直接結合され、かつ、さらにC1~6-アルキルによって連結される。
【0076】
いくつかの実施例では、二官能性芳香族部分BAは、各々独立して、式2又は3の部分から選択される。
【0077】
【0078】
(ただし、
R3、R4、R5及びR6は、各々独立して、H、F、C1~6-アルキル、部分又は完全にフッ化されたC1~6-アルキルから選択され、
R7及びR8は、各々独立して、H、F、C1~6-アルキル、部分又は完全にフッ化されたC1~6-アルキルから選択され、
s及びtは、各々独立して、0~4の間、特に0~2の間の整数であり、
rは、0~3の間、特に0~2、さらに特に、0~1の整数である。)
【0079】
いくつかの実施例では、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、各々独立して、H及びC1~6-アルキルから選択される。
【0080】
ポリマーは、1種類のBAのみ、例えばビフェニルのみ、又は異なる種類のBA、例えばビフェニルとパラテルフェニルの混合物を含んでもよい。具体的には、ポリマー中には1種類のBAのみが存在する。
【0081】
いくつかの実施例では、二官能性芳香族部分BAは、各々独立して、式2a、2b又は3の部分から選択される。
【0082】
【0083】
(ただし、
式3、R3、R4、R5、R6、s、r及びtの部分は前記と同義である。)
【0084】
いくつかの実施例では、二官能性芳香族部分BAは、各々独立して、以下から選択される。
【0085】
【0086】
いくつかの実施例では、カチオン性基CGは、式1a、1b、1c、1d及び4、特に式1a、1c及び4の部分から選択される。
【0087】
【0088】
(ただし、
R1は、完全又は部分的にフッ化されたC1~6-アルキル、特に完全にフッ化されたC1~6-アルキル、さらに特に、完全にフッ化されたC1~3-アルキル、一層特に-CF3であり、
R9、R10、R11、R14、R15及びR16は、各々独立して、H、C1~6-アルキル、フェニルから選択され、
R12及びR13は、各々独立して、H、C1~6-アルキル、フェニル、C3~10-シクロアルキルから選択される、又は
R12及びR13は、互いに連結されて、4~10個のC原子を含むシクロアルキルを形成し、
R17及びR18は、独立して、C1~6-アルキル、特にC1~3-アルキルから選択され、
p及びqは、0~3の間の整数、特に0であり、
R19及びR20は、独立して、H及びC1~6-アルキル、特にH及びC1~3-アルキルから選択され、
xは、0~12の間、特に0~8の間、さらに特に6~8の間の整数である。)
【0089】
いくつかの実施例では、R12及びR13は、各々独立して、H、C1~6-アルキル、フェニルから選択され、又はR12及びR13は、互いに連結されて、4~10個のC原子を含むシクロアルキルを形成する。
【0090】
いくつかの実施例では、R12及びR13は、各々独立して、H、C1~6-アルキル、特にH及びC1~3-アルキル、さらに特に、CH3から選択される。
【0091】
いくつかの実施例では、R12及びR13は、各々独立して、C1~6-アルキル、特にC1~3-アルキル、さらに特に、CH3から選択される。
【0092】
いくつかの実施例では、カチオン性基CGは、上記で定義された式4、具体的には、
【0093】
【0094】
を有する。
【0095】
本発明の第2態様は、
2~6個、さらに特に2~4個の環状炭化水素基を含み、特にこれらからなり、非置換又はC1~20-アルキル、特にC1~6-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1’又は4’部分から独立して選択される中性基NGと、
【0096】
【0097】
(ただし、
R1は、完全又は部分的にフッ化されたC1~6-アルキル、特に完全又は部分的にフッ化されたC1~4-アルキル、さらに特に-CF3であり、
R12は、H、C1~12-アルキル、フェニル、C3~10-シクロアルキルから選択され、
Dは、脱離基、特に-I、-Br、-Cl及び-OHから選択される脱離基であり、
yは、0又は1であり、
xは、0~12の間、特に0~8、さらに特に、6~8の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
【0098】
2~5個、特に2~3個の環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択され、非置換又はC1~10-アルキル、-O-C1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい二官能性芳香族部分BAと、を含み、
1つ又は複数のCG及び1つ又は複数のBAは、直鎖状単位Lを形成し、
MAは、3~6、特に3~4、さらに特に3個の直鎖状単位Lに連結される、前駆体に関する。
【0099】
本発明の第1態様に記載のポリマーは、多官能性芳香族部分MA、二官能性芳香族部分BA、及び中性基NGを使用することによって合成される。ポリマー前駆体の形成後、中性基はカチオン性基CG に変換される。
【0100】
前駆体の一般構造は、本発明の第1態様に記載のポリマーの一般構造と基本的に同じである。唯一の違いは、カチオン性基CGが中性基NGに置き換えられていることである。これは、部分BAとNGが直鎖状単位内で交互に現れ、MAが少なくとも3つの直鎖状単位に結合する分岐点であることを意味する。
【0101】
いくつかの実施例では、前駆体は、
2~6個、特に2~4個の環状炭化水素基を含み、特にこれらからなり、非置換又はC1~20-アルキル、特にC1~6-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1’又は4’部分から独立して選択される中性基NGと、
【0102】
【0103】
(ただし、
R1は、完全又は部分的にフッ化されたC1~6-アルキル、特に完全又は部分的にフッ化されたC1~4-アルキル、さらに特に-CF3であり、
R12は、H、C1~12-アルキル、フェニル、C3~10-シクロアルキルから選択され、
Dは、脱離基、特に-I、-Br、-Cl及び-OHから選択される脱離基であり、
yは、0又は1であり、
xは、0~12の間、特に0~8、さらに特に6~8の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
互いに直接結合するか、又は
C1~6-アルキルによって連結される、又は
互いに直接結合し、かつ、さらにC1~6-アルキルによって連結される2~5個、特に2~3個環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択される二官能性芳香族部分BAと、を含み、
BAは、非置換又はC1~10-アルキル、-O-C1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよく、
端末単位Eは、独立して、-OH、-O-C1~4-アルキル、フェニル-OH、及びフェニル-O-C1~4-アルキル、特に
【0104】
【0105】
から選択され、
(ただし、
CG及びBAは、直鎖状単位Lを形成し、直鎖状単位Lは、
n個の二官能性芳香族部分BAとn+1個カチオン性基CG、又は
n個の二官能性芳香族部分BAとn個カチオン性基CGを含み、
CG及びBAは、直鎖状単位L内で交互に現れ、かつ、nは、1~100の間、特に10~50の間の整数であり、
MAは、それぞれ、3~6個、特に3~4個、さらに特に3個の直鎖状単位Lに連結され、MA及びLは、MAがカチオン性基CGに結合するように連結され、
直鎖状単位Lは、2つの多官能性単位MAに結合するか、又は1つの多官能性単位MAと1つの末端単位Eに結合する。)
【0106】
いくつかの実施例では、中性基NGは、独立して、式1’’、1’’’又は4’’の部分から選択される。
【0107】
【0108】
(ただし、
R1は、完全又は部分的にフッ化されたC1~6-アルキル、特に完全又は部分的にフッ化されたC1~4-アルキル、さらに特に-CF3であり、
R12は、H、C1~6-アルキル、フェニル、C3~10-シクロアルキル、特にC1~4-アルキルから選択され、
xは、0~12の間、特に0~8、さらに特に6~8の整数である。)
【0109】
いくつかの実施例では、R12は、H、C1~4-アルキル、特に-CH3である。
【0110】
いくつかの実施例では、R12はHである。
【0111】
式4’による中性基を含む前駆体は、R12及びR13が互いに連結されて4~10個のC原子を含むシクロアルキルを形成することを特徴とするカチオン性基を有するポリマーを得るために特に使用される。このような環を実現するには、式4’による中性基のR12はHである必要がある。pHによっては、中性基がプロトン化される場合がある。二臭化アルキルとの反応により環が形成される(スキーム1を参照)。
【0112】
【0113】
スキーム1:4-ピペリドンをケトンとして中性基を得て、前駆体を得る。続いて、前駆体を二臭化アルキルと反応させて、追加の6員環(反応経路上部)又は5員環(反応経路下部) を含むカチオン性基を形成する。(また、J. Mater. Chem. A,2018, 6, 16537を参照)。
【0114】
特にMA及びBAの定義、ならびに分岐点及びポリマー鎖の配置に関しては、本発明の第1態様の実施例を参照する。
【0115】
本発明の第3態様は、
2~6個、さらに特に2~4個の環状炭化水素部分を含み、特にこれらからなり、非置換又はC1~20-アルキル、特にC1~6-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい少なくとも1種の多官能性芳香族部分MAと、
式1k又は4kの部分から独立して選択されるケトンと、
【0116】
【0117】
(ただし、
R1は、完全又は部分的にフッ化されたC1~6-アルキル、特に完全又は部分的にフッ化されたC1~4-アルキル、さらに特に-CF3であり、
Dは、脱離基、特に-I、-Br、-Cl及び-OHから選択される脱離基であり、
yは、0又は1であり、
xは、0~12の間、特に0~8、さらに特に6~8の整数であり、
zは、0又は1、特に1である。)
2~5個、特に2~3個の環状炭化水素部分を含む部分から独立して選択され、非置換又はC1~10-アルキル、-O-C1~10-アルキル、完全又は部分的にフッ化されたC1~10-アルキルから独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されてもよい二官能性芳香族部分BAと、を含み、
反応混合物のpHは1未満である、反応混合物の反応により得られる前駆体に関する。
【0118】
重合反応は強酸によって触媒されるため、反応は酸性条件下、特にpH<1で行われる。重合中、BA又はMAの環状部分、特にベンゼン環の活性C-H部分は、式1k又は4kに従ってケトンのケトン部分と反応する。続いて、前駆体を精製する。重合及び精製プロセスの後、中性前駆体が得られる。
【0119】
本発明の第1態様に示されるMA及びBAの特定の式は、隣接する部分への結合を示す。本発明の第1態様では、MA及びBAは、ポリマー内のモノマーと呼ばれる。第3態様に関連して、部分MA及びBAは、遊離体として使用され、結合は隣接する部分への結合ではなく、H原子への結合を示す。重合反応中に、2つの隣接する部分間の結合がこの位置で形成される。
【0120】
例えば、本発明の第1態様による式3の部分BAは、2つのカチオン性基CGなどの2つの隣接する部分に結合している。第3態様の文脈では、それは2つのH原子に結合している。同様の考慮事項が、BA及びMAに関連する他の式にも当てはまる。
【0121】
【0122】
重合反応は、反応混合物に溶媒を添加することによって、又は反応混合物を溶媒中に注ぐことによってクエンチすることができる。適切な溶媒は当業者に知られている。例えば、クエンチステップでは水又はメタノールが使用され得る。
【0123】
いくつかの実施例では、本発明の第3態様による反応の後にクエンチステップが続く。
【0124】
いくつかの実施例では、クエンチステップにおいて、アルコール、特にメタノール、又は水が使用される。
【0125】
いくつかの実施例では、本発明の第3態様による反応の後には精製工程が続く。
【0126】
いくつかの実施例では、精製ステップにおいて、アルカリ溶液、特にKOH、より特に1M KOH、又は水が使用される。
【0127】
いくつかの実施例では、精製ステップにおいて、水が使用される。
【0128】
いくつかの実施例では、精製ステップにおいて、アルカリ溶液、特にKOH、より特に1M KOHが使用される。
【0129】
いくつかの実施例では、精製ステップは繰り返し実行される。
【0130】
いくつかの実施例では、精製ステップはクエンチステップの後に実行される。
【0131】
前駆体/多環芳香族炭化水素ポリマーの分岐度は、BA、ケトン、MAの間の適切なモル比を選択することによって調整される。
【0132】
いくつかの実施例では、
BAとMAとのモル量の和と、ケトンのモル量との比は、0.8~1.2の間、特に1:1であり、及び/又は
BAのモル量とケトンとのモル量の比は、50:100~100:100の間、特に95:100~99.5:100の間であり、及び/又は
MAのモル量と、ケトンとBAとのモル量の和との比は、0.1:100~50:100の間、特に0.5:100~5:100の間、さらに特に、1:100である。
【0133】
いくつかの実施例では、BAとMAとのモル量の和と、ケトンのモル量の和との比は、0.8~1.2の間である。
【0134】
いくつかの実施例では、BAとMAとのモル量の和と、ケトンのモル量の和との比は、約1:1である。
【0135】
いくつかの実施例では、BAとMAとのモル量の和と、ケトンのモル量との和の比は、1:1である。
【0136】
いくつかの実施例では、BAのモル量とケトンのモル量との比は、50:100~100:100の間、特に95:100~99.5:100の間である。
【0137】
いくつかの実施例では、BAのモル量とケトンのモル量との比は、95:100~99:100の間である。
【0138】
いくつかの実施例では、MAのモル量と、ケトンとBAとのモル量の和との比は、0.1:100~50:100の間、特に0.5:100~5:100の間、さらに特に1:100である。
【0139】
重合反応は、適切な溶媒中で行われる。適切な溶媒は当業者に知られている。
【0140】
いくつかの実施例では、反応は適切な溶媒中で行われる。
【0141】
いくつかの実施例では、反応は、ジクロロメタン、二塩化エチレン又はベンゼン、特にジクロロメタン中で行われる。
【0142】
MA、BA及びケトンは、まず上記の溶媒に溶解され、その後、pHをpH<1に下げることによって反応が開始される。
【0143】
いくつかの実施例では、MA、BA及びケトンは、適切な溶媒、特にジクロロメタン、二塩化エチレン又はベンゼン、より特にジクロロメタン中で提供される。
【0144】
いくつかの実施例では、pHはTFA及び/又はTFSAを使用して<1に調整される。
【0145】
必要なTFA又はTFSAの量は、温度と反応時間によって異なる。pHは、当業者に知られている標準的な方法によって調整される。例えば、pHを測定し、所望のpHに達するまでTFA又はTFSAを添加することができる。
【0146】
特にMA及びBAの定義、ならびに分岐点及びポリマー鎖の配置に関しては、本発明の第1及び第2態様の実施例を参照する。上記のように、本発明の第1態様の文脈において隣接する部分への結合を示すMA又はBAの結合(MA及びBAはポリマーの一部である)は、本発明の第3態様の文脈においてH原子への結合を示す(MA及びBAは前記ポリマーを形成するための遊離体である)。
【0147】
本発明の第4態様は、
本発明の第2又は第3態様の前駆体と、
ハロC1~12-アルキル、ハロフェニル又はハロC3~10-シクロアルキル、又は
N(R2)3、P(R2)3(R2は上記と同義である。)、又は
ピペリジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル又はイミダゾリジニルから選択される反応物と、を含む、反応混合物の反応により得られる多環芳香族炭化水素ポリマーに関する。
【0148】
AEMで使用するには、アニオンの輸送を可能にするためにポリマーがイオン性である必要がある。したがって、中性前駆体は、アミン又はCH3Iなどの適切な反応物と反応して、イオン性ポリマーが得られる。この反応は、中性前駆体ポリマーと反応物をジメチルスルホキシドなどの適切な溶媒中で24時間かけて混合するだけで済むため、非常に簡単である。
【0149】
ハロC1~12-アルキル、ハロフェニル又はハロC3~10-シクロアルキルは、NGが式4’の部分である場合、式4kのケトンを使用して中性前駆体を製造した場合に使用され得る。その場合、式4によるカチオン性基CGを含むポリマーが得られる。前記のように、2つのハロゲン、特に臭素を含むアルキルは、カチオン性基を得ることに用いられ、R12及びR13は連結されてシクロアルキル(スキーム1を参照)を形成することが特徴である。
【0150】
N(R2)3又はP(R2)3は、NGが式1’の部分である場合、すなわち式1kのケトンを使用して中性前駆体を製造した場合に使用され得る。この場合、式1、特に式1a又は1cによるカチオン性基CGを含むポリマーが得られる。
【0151】
ピペリジル、ピロリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル又はイミダゾリジニルは、NGが式1’の部分である場合、すなわち式1kのケトンを使用して中性前駆体を製造した場合に使用され得る。この場合、式1、特に式1b又は1dによるカチオン性基CGを含むポリマーが得られる。
【0152】
中性基又はケトンに関して、カチオン性多環芳香族炭化水素ポリマーを高収率で得るために反応物を過剰に使用する。
【0153】
いくつかの実施例では、反応物のモル量と中性基NGのモル量又はケトンのモル量との比は、1:1~3:1、特に1.5:1~3:1、さらに特に3:1である。
【0154】
収率をさらに高めるために、反応混合物に塩基を添加してもよい。中性基又はケトンに関して、カチオン性多環芳香族炭化水素ポリマーの収率をさらに高めるために過剰に使用される。
【0155】
いくつかの実施例では、KOH、K2CO3、Na2CO3、NaHCO3、KHCO3、CaCO3及びCaHCO3から選択されるアルカリは反応混合物に添加される。
【0156】
いくつかの実施例では、アルカリのモル量と中性基又はケトンのモル量との比は、1.5:1~3:1、より具体的には2:1である。
【0157】
上記の反応は、適切な溶媒中で行われる。
【0158】
いくつかの実施例では、本発明の第2又は第3態様による前駆体及び反応物は、ジメチルスルホキシド、DMSO、DMF、NMP、THF、トルエン、酢酸エチル、アセトンに溶解される。
【0159】
特にMA及びBAの定義、ならびに分岐点及びポリマー鎖の配置に関しては、本発明の第1、第2及び第3態様の実施例を参照する。
【0160】
本発明の第5態様は、本発明の第1又は第4態様による多環芳香族炭化水素ポリマーと、適切な対イオンと、を含む、アニオン交換膜に関する。
【0161】
本発明によるアニオン交換膜は、エーテルフリーであるため、耐久性が高い。また、分岐構造により吸水率と膨潤性も低く、機械的特性が向上する。本発明によるアリールエーテルを含まない多環芳香族炭化水素は、ペンダント第4級アンモニウム又はピペリジニウムカチオンがアリールエーテル部分を含まないポリアリール主鎖に連結されている分岐構造を特徴とする。これらのポリマーで製造されたアニオン交換膜は、高い水酸化物導電率、低い吸水率と寸法膨潤性、良好な機械的特性、及び優れた膜キャスティング特性を示す。
【0162】
特に長鎖分岐は、鎖ごとの絡み合いの数が増加するため、ポリマーの強度、靱性、及びガラス転移温度(Tg)を増加させることができる。このようなポリマーで製造されたAEMは、高い導電率、低い吸水率と寸法膨張性、キャスティングし易さ、及び良好な機械的特性を示す。特に、本発明によるAEMの引張強さは少なくとも10MPaであり、破断伸びは少なくとも5%である。
【0163】
ポリマー内のカチオン性基により、電気化学デバイスのアノードとカソードとの間のアニオンの輸送が可能になる。アニオンの非限定的な例としては、OH-、CO3
2-、Br-、又はCl-が挙げられる。
【0164】
いくつかの実施例では、対イオンは、OH-、Cl-、Br-、I-、CO3
2-、HCO3
-、TFA-(CF3CO2
-)、TFSA-(CF3SO3
-)、BF4
-、PF6
-、さらに特にOH-及びCl-から選択される。
【0165】
いくつかの実施例では、アニオン交換膜は、本発明第1又は第4態様の多環芳香族炭化水素ポリマーを用いて得られる。
【0166】
いくつかの実施例では、アニオン交換膜は、40℃で≦100%、特に≦96%の吸水率、及び/又は80℃で≦300%、特に≦110%の吸水率を特徴とする。ここで、吸水率は、OH-を対イオンとするアニオン交換膜の乾燥質量に換算する。
【0167】
いくつかの実施例では、アニオン交換膜は、40℃で1%~100%、特に65%~96%の吸水率、及び/又は80℃で5%~300%、特に75%~110%の吸水率を特徴とする。ここで、吸水率は、OH-を対イオンとするアニオン交換膜の乾燥質量に換算する。
いくつかの実施例では、アニオン交換膜は、40℃で≦50%、特に≦35%の膨潤率、及び/又は80℃で≦200%、特に≦35%の膨潤率を特徴とする。ここで、膨潤率は、OH-を対イオンとするアニオン交換膜の乾燥質量に換算する。
【0168】
いくつかの実施例では、アニオン交換膜は、40℃で1%~50%、特に20%~35%の膨潤率、及び/又は40℃で1%~200%、特に25%~35%の膨潤率を特徴とする。ここで、膨潤率は、OH-を対イオンとするアニオン交換膜の乾燥質量に換算する。
【0169】
いくつかの実施例では、アニオン交換膜は、1.5mmol/g~4mmol/gの間、特に2.75mmol/g~2.9mmol/gの間のイオン交換容量を特徴とする。
【0170】
いくつかの実施例では、アニオン交換膜は、40℃で50mS/cm~120mS/cmの間、特に81~90mS/cmの間のOH-導電率、及び/又は80℃で80mS/cm~250mS/cm、特に135mS/cm~150mS/cmの間のOH-導電率を特徴とする。
【0171】
いくつかの実施例では、本発明の第1又は第4態様による多環芳香族炭化水素ポリマー、本発明の第2又は第3態様による前駆体、又は本発明の第5態様によるアニオン交換膜は、アリールエーテルを含まない。
特にMA及びBAの定義、ならびに分岐点及びポリマー鎖の配置に関しては、本発明の第1、第2、第3及び第4態様例を参照する。
【0172】
本発明を以下の実施例及び図によってさらに説明し、そこからさらなる実施例及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は本発明を説明することを目的とするものであり、その範囲を限定するものではない。
【0173】
[実施例]
[実施例1:ポリマー及び膜の製造]
分岐構造を有する一連のアリールエーテルフリー多環芳香族炭化水素(
図1に示す例を参照)を製造した。前記多環芳香族炭化水素は、多官能性芳香族部分MA、二官能性芳香族部分BA、及びカチオン性基CGを含む。分岐度は3~20の間である。
【0174】
分岐構造を有するアリールエーテルフリー多環芳香族炭化水素の製造を
図2に示す。二官能性芳香族炭化水素、多官能性芳香族炭化水素、及びケトンをジクロロメタンに溶解した。トリフルオロメタンスルホン酸(TFSA)を添加して、エーテルフリー多環芳香族炭化水素前駆体を形成した。多環芳香族炭化水素前駆体とトリアルキルアミン(NR
3)又はハロアルカンとの反応により、カチオン性基を有する分岐多環芳香族炭化水素を得た。
【0175】
図2において、二官能性芳香族化合物は
図3から選択される。
【0176】
図2において、多官能芳香族化合物は
図4から選択される。
【0177】
図2において、ケトン化合物は、
図5から選択され、ここでnは1~20であり、RはH又はアルキルである。
アミン又はハロアルカンと反応した後、アリールエーテルフリー多環芳香族炭化水素のカチオン性基(CG)は、
図6にリストされている基の1つになる。ここで、nは1~20、R1、R2、R3、R4、R5はアルキルである。
【0178】
分岐構造を有するアリールエーテルフリー多環芳香族炭化水素の一例を
図7に示す。
【0179】
[ポリマーの製造]
p-テルフェニル(1当量)、1,3,5-トリフェニルベンゼン、及び1-メチル-4-ピペリドン(1当量)をジクロロメタンに溶解した。1,3,5-トリフェニルベンゼンの異なる当量を次のように使用した。0.01当量の1,3,5-トリフェニルベンゼンを使用して得られたポリマーをb-PTP-1として示す。0.025当量の1,3,5-トリフェニルベンゼンを使用して得られたポリマーをb-PTP-2.5として示す。0.05当量の1,3,5-トリフェニルベンゼンを使用して得られたポリマーをb-PTP-5として示す。PTPは、1,3,5-トリフェニルベンゼンを含まない直鎖状ポリマーに関するものである。
【0180】
溶液を0℃で撹拌した。トリフルオロ酢酸(1.5当量)及びトリフルオロメタンスルホン酸(10当量)を加えた。6時間後、溶液が粘稠になると、さらに1時間撹拌した。得られた濃青色のゲルを過剰の水にゆっくりと注ぎ、白い繊維を形成した。繊維をさらに1M KOH溶液及び水で3回洗浄した。真空下、120℃で一晩乾燥させた後、分岐ポリ(ターフェニル-トリフェニルベンゼン-ピペリジン)(収率92%)を得た。
図8(a)は、分岐ポリ(テルフェニルトリフェニルベンゼンピペリジン)(TFAによりプロトン化)の
1Hスペクトルを示す。分岐ポリ(ターフェニル-トリフェニルベンゼン-ピペリジン)をジメチルスルホキシドに懸濁した。CH
3I(ピペリドン基に対して3当量)及びK
2CO
3(ピペリドン基に対して2当量)を添加した。溶液を室温、暗所で1日間撹拌した。得られた粘稠な溶液をジクロロメタンから沈殿させ、水で2回洗浄し、真空下、80℃で完全に乾燥させた。分岐ポリ(テルフェニル-トリフェニルベンゼン-ピペリジニウム)の収率は約100%であった。
図8(b)は分岐ポリ(テルフェニルトリフェニルベンゼンピペリジニウム)の
1Hスペクトルを示す。
【0181】
[膜の製造]
ポリマーをジメチルスルホキシドに溶解し、0.45μmのPTFEフィルターを通して濾過し、ガラス板上にキャストした。AEM(ヨウ化物形態)を、脱イオン水と接触させたガラス板から剥がした。80℃、1M KCl溶液中でイオン交換して、塩化物イオン形態のAEMを得た。80℃、1M KOH溶液中でイオン交換して、水酸化物形態のAEMを得た。AEMはb-PTP-xと表記され、ここで、xはp-テルフェニルに対するトリフェニルベンゼンのパーセントである。
【0182】
図9は、周囲条件でのPTP及びb-PTP-xの応力-ひずみ曲線を示している。比較として、PTPは、直鎖状構造のAEMであり、50%RH及び室温下で48MPaの応力と17%の破断ひずみを有する。b-PTP-2.5は、分岐構造により58MPaの応力と14%の破断歪みを有する。
表1は、PTP及びb-PTP-xのイオン交換容量(IEC)、吸水率、膨潤率、及びOH
-導電率を示している。b-PTP-2.5は、報告されている他の芳香族AEM(4級化ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(アリーレンエーテルケトン)、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)など)と比較して、高いOH
-導電率を示している。温度が上昇するとイオンの移動が速くなり、拡散率が高くなるため、導電率は温度とともに増加する。b-PTP-2.5は、PTPと同様のIEC及びOH
-導電率を有するが、吸水率と膨潤率がより低くなる。これらの利点は、AEM燃料電池/水電解層で膜電極接合体(MEA)を構築するのに有益であり得る。
【0183】
【0184】
図10は、1M又は3M KOH中、80℃で処理した後のb-PTP-2.5の残留OH
-導電率を示している。b-PTP-2.5は、1M KOH中、80℃で1500時間にわたって導電率の損失がほとんどなかった。これは、当社のAEMが現場外での優れた耐久性を備えていることを示している。3M KOHでは1500時間の場合、20%の導電率の低下が観察された。
【0185】
[実施例2:既知のポリマーとの比較]
本発明によるポリマーは、固有粘度によって測定される高分子量を特徴とする。既知のポリマーとの比較を表2に示す。本発明によるポリマーは、他のポリマーよりも高い固有粘度を有し、より高い分子量を示している。機械的特性の向上は、高分子量に関連している。
【0186】
【0187】
b-PTP-2.5:分岐ポリ(テルフェニルピペリジニウム)、ここで、Xはすべてのアリールモノマーに対する1,3,5-トリフェニルベンゼンのモル比(パーセント)である。
【0188】
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