(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】結着力が強化された発酵植物組織タンパクの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/14 20060101AFI20240927BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20240927BHJP
A23J 3/18 20060101ALI20240927BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20240927BHJP
A23L 11/50 20210101ALI20240927BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A23J3/14
A23J3/16 501
A23J3/18 501
A23L11/00 E
A23L11/50 209Z
A23L11/00 Z
A23J3/00 503
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522372
(86)(22)【出願日】2022-10-17
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 KR2022015728
(87)【国際公開番号】W WO2023068701
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0138162
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミ・ジョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジャ・ヨン・リ
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ヒ・クォン
(72)【発明者】
【氏名】シ・チャン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】テ・ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒョ・ジョン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ジョン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヨン・オ
【テーマコード(参考)】
4B020
【Fターム(参考)】
4B020LB19
4B020LC04
4B020LG04
4B020LG07
4B020LK17
4B020LP15
4B020LP18
(57)【要約】
本出願は、結着力が強化された発酵植物組織タンパクの製造方法に関する。本出願によると、植物組織タンパク(TVP)粒子の間に形成されたカビ菌の菌糸体と圧搾工程により植物組織タンパクの結着力が向上し、一具現例として肉組織と類似して柔らかい食感を有する植物組織タンパクを製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)植物組織タンパク(Texturized Vegetable Protein,TVP)を含む基質にカビ菌を接種して培養する段階;及び
(b)前記基質培養物を圧搾する段階;を含む、発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項2】
前記植物組織タンパク(TVP)は、小麦、大豆、エンドウ豆、ゴマ、綿実、または米から由来されたタンパク質を含むものである、請求項1に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項3】
前記段階(a)の基質は、おから(bean-curd dregs)、大豆粉(soy powder)、小麦粉(wheat flour)、食物繊維、タンパク質、アミノ酸、炭水化物、脂肪、オイル、ビタミン、及びミネラルよりなる群から選択された1つ以上の成分をさらに含むものである、請求項1に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項4】
前記段階(a)の基質は、おからをさらに含むものである、請求項3に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項5】
前記おからは、全体基質の重量に対し0重量%超過60重量%以下の含量で含まれるものである、請求項4に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項6】
前記段階(a)の基質は、タンパク質の含量が固形分を基準に50%~70%であるものである、請求項1に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項7】
前記段階(a)の基質は、酸度(acidity)が0.1%~0.4%であるものである、請求項1に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項8】
前記段階(a)のカビ菌は、Rhizopus属菌、Mucor属菌、Neurospora属菌、Amylomyces属菌、Aspergillus属菌、及びMonascus属菌よりなる群から選択される1種以上の菌であるものである、請求項1に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項9】
前記Rhizopus属菌は、Rhizopus oligosporus菌であるものである、請求項8に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項10】
前記段階(a)の接種するカビ菌は、おからに接種して培養したものである、請求項1に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項11】
前記段階(b)の圧搾は、真空圧搾または成形圧搾であるものである、請求項1に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項12】
基質または基質培養物は、接着物質(binder)を含まないものである、請求項1に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項13】
前記接着物質は、卵、牛乳、または豆類から由来される水溶性タンパク質;ジャガイモ澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、葛澱粉、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、または米澱粉;カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose,CMC);カラギーナン、グアーガム、またはキサンタンガムであるものである、請求項12に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項14】
前記段階(b)以後、圧搾した基質培養物を加熱する段階をさらに含む、請求項1に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【請求項15】
前記加熱は、75℃~100℃の温度で加熱するものである、請求項14に記載の発酵植物組織タンパクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、結着力が強化された発酵植物組織タンパクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性肉は、肉(meat)のような動物性材料ではない植物性材料を用いて肉の味がするように製造した食品であって、植物性代替肉とも称される。植物性肉は、小麦粉に含まれたタンパク質であるグルテンを用いて作った小麦肉、米を用いて作った米肉、大豆タンパクとグルテンを混合して作った豆肉などがある。
【0003】
大豆タンパク質が肉類組織を有するようにするために紡糸法(spinning process)、押出成形工程(thermoplastic extrusion)、蒸気法(steam texturization)などが用いられてきたところ、押出成形工程と蒸気法では真正な繊維構造は形成されないが、大豆タンパク質が水和され、層を形成して噛み応えのある物質に製造される。
【0004】
植物組織タンパク(Texturized Vegetable Protein,TVP)は、大豆タンパク質を主原料として押出成形工程を介して製造されるところ、脱脂大豆粉(deffated soy flour)や濃縮大豆タンパク(concentrated soy protein)を水とよく混合した後、押出機で加熱しながら高い圧力で押出させると、大豆タンパク質分子が方向性を有しつつ凝固され、その組織が肉類に似た噛み応えのある感覚を有するようになる。最終の植物組織タンパク製品の組織と味は、混合原料の種類と比率、混合原料の水分含量と加熱温度及び加熱時間により大きな影響を受ける。現在商業的に用いられる植物組織タンパク(TVP)は、ペレット(pellet)形態の低水分TVPであって、水和させた後に結着剤を添加し塊状に製造して食品に用いられている。
【0005】
植物組織タンパク(TVP)が植物性肉の原料として用いられる場合、肉類のような組織感、香味、外観を有していなければならず、調理時に必須に発生する再水和(rehydration)にも組織感が破壊されてもならず、肉類に似た保水力及び脂肪吸着性のような機能性も有しなければならない。このような植物性肉製品が備えるべき条件は現在の食品加工技術でも可能であるが、さらに改善されなければならない必要がある。
【0006】
おから(bean-curd dregs)は、食品としての活用度が低いため、大部分は飼料用として用いられるか産業廃棄物として捨てられる。おからを食品として活用することにより、製品のコスト低減効果とともに資源活用度を高めることができるので、関連業界では解決すべき重要な課題としてみなされてきた。
【0007】
韓国公開特許第10-2020-0141958号には、大豆タンパク質、グルテン、澱粉、タンパク質架橋結合剤及びタンパク質加水分解物を含む人工肉食品組成物とこの組成物を用いて製造される人工肉を開示し、このように製造される人工肉は、動物性肉の外形、食感、肉汁及び旨味をそのまま再現したと説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2020-0141958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、植物組織タンパク(Texturized Vegetable Protein,TVP)に植物組織タンパクの粒子間の結着力を強化する工程を開発するために研究し努力した。その結果、カビを植物組織タンパク(TVP)に直接接種し培養させて菌糸体を形成させた後、これを圧搾処理すると前記目的を達成することができることを実験的に確認することにより本出願を完成した。
【0010】
したがって、本出願の目的は、結着力が強化され食感が向上された発酵植物組織タンパク(Texturized Vegetable Protein,TVP)の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、
本出願の一側面は、
(a)植物組織タンパク(Texturized Vegetable Protein,TVP)を含む基質にカビ菌を接種して培養する段階;及び
(b)前記基質培養物を圧搾する段階;を含む発酵植物組織タンパクの製造方法を提供する。
【0012】
以下、本出願がより詳細に説明される。
【0013】
段階(a):植物組織タンパク(Texturized Vegetable Protein,TVP)を含む基質(substrate)にカビ菌を接種して培養する段階
【0014】
本出願において、植物組織タンパク(Texturized Vegetable Protein,TVP)を含む基質(substrate)にカビ菌を接種して培養する。
【0015】
本明細書で用いられる用語「植物組織タンパク(Texturized Vegetable Protein,TVP)」は、大豆タンパク質を主原料として押出成形工程により製造される組織化された植物性タンパク質を意味する。植物組織タンパク(TVP)は、脱脂大豆粉(deffated soy flour)や濃縮大豆タンパク(concentrated soy protein)を水とよく混合した後、押出機で加熱しながら高い圧力で押出して製造されてよい。本出願の植物組織タンパク(TVP)は、広い意味で組織化大豆タンパク(Texturized Soy Protein,TSP)、豆肉、豆タンパクとも同一の意味を有する。
【0016】
本出願の植物組織タンパクの原料は、小麦、大豆、エンドウ豆、ゴマ、綿実、または米から由来されたタンパク質であってよく、具体的には、大豆または小麦から由来されたタンパク質であってよい。
【0017】
植物組織タンパクは、押出機の射出口の形状、押出時の温度及び圧力条件により多様な大きさ及び多様な形態を有することができる。例えば、植物組織タンパクの形態は、塊(chunk)、フレーク(flake)、顆粒(granula)、ミンチ状(minced)、スライス(slice)、ストリップ(strip)形態であってよく、植物組織タンパクの大きさは、5~60mmの長さ、1~20mmの厚さであってよい。
【0018】
一具現例において、カビ菌を接種する基質には、植物組織タンパク以外におから(bean-curd dregs)、大豆粉(soy powder)、小麦粉(wheat flour)、食物繊維、タンパク質、アミノ酸、炭水化物、脂肪、オイル、ビタミン、及びミネラルよりなる群から選択された1つ以上の成分がさらに含まれてよい。
【0019】
本出願において、用語「おから(bean-curd dregs)」は、豆腐や豆乳を作るために豆汁を絞り出して残った沈殿物を意味する。おからは、植物組織タンパク(TVP)の主原料である豆タンパク質あるいは小麦タンパク質に比べて炭水化物と脂肪の含量が高いため、基質に含ませる場合、カビ菌の栄養成分として用いられてこれらの成長を向上させることができる。
【0020】
本出願において、大豆粉(soy powder)または小麦粉(wheat flour)も、基質に含まれる場合、カビ菌の栄養成分として用いられてこれらの成長を向上させることができる。
【0021】
一具現例において、植物組織タンパクを含む基質におからがさらに含まれてよい。
【0022】
前記おからは、乾燥させたおからであってよい。
【0023】
前記おからまたは乾燥したおからは、全体基質の重量に対し0重量%超過60重量%以下の含量で含まれてよい。
【0024】
具体的には、前記おからまたは乾燥したおからは、全体基質の重量に対し0重量%、1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、15重量%、16重量%、17重量%、18重量%、19重量%、及び20重量%よりなる群から選択されるいずれか1つの下限値;及び60重量%、57重量%、55重量%、55重量%、50重量%、47重量%、45重量%、43重量%、40重量%、39重量%、38重量%、37重量%、36重量%、35重量%、34重量%、33重量%、32重量%、31重量%、及び30重量%よりなる群から選択されるいずれか1つの上限値からなる含量であってよい。より具体的には、0重量%超過60重量%以下;1重量%~60重量%、2重量%~60重量%、3重量%~60重量%、4重量%~60重量%、5重量%~60重量%、6重量%~60重量%、7重量%~60重量%、8重量%~60重量%、9重量%~60重量%、10重量%~60重量%;1重量%~55重量%、2重量%~55重量%、3重量%~55重量%、4重量%~55重量%、5重量%~55重量%、6重量%~55重量%、7重量%~55重量%、8重量%~55重量%、9重量%~55重量%、10重量%~55重量%;1重量%~45重量%、2重量%~45重量%、3重量%~45重量%、4重量%~45重量%、5重量%~45重量%、6重量%~45重量%、7重量%~45重量%、8重量%~45重量%、9重量%~45重量%、10重量%~45重量%;1重量%~40重量%、2重量%~40重量%、3重量%~40重量%、4重量%~40重量%、5重量%~40重量%、6重量%~40重量%、7重量%~40重量%、8重量%~40重量%、9重量%~40重量%、10重量%~40重量%;1重量%~38重量%、1重量%~35重量%、1重量%~34重量%、1重量%~32重量%、1重量%~30重量%;3重量%~38重量%、3重量%~35重量%、3重量%~34重量%、3重量%~32重量%、3重量%~30重量%;5重量%~38重量%、5重量%~35重量%、5重量%~34重量%、5重量%~32重量%、5重量%~30重量%;7重量%~38重量%、7重量%~35重量%、7重量%~34重量%、7重量%~32重量%、7重量%~30重量%;10重量%~38重量%、10重量%~35重量%、10重量%~34重量%、10重量%~32重量%、または10重量%~30重量%であってよい。
【0025】
本出願において、植物組織タンパクにおからまたは乾燥したおからが前記の含量で含まれる場合、おからを添加していない場合に比べて、カビ菌培養後の植物組織タンパクの結着力がさらに増加するという効果を得ることができる。
【0026】
一具現例において、前記基質のタンパク質含量は、固形分を基準に全体基質に対し50%~70%であってよい。一具現例において、前記基質は、植物組織タンパク及びおからを含んだものであってよい。
【0027】
具体的には、基質のタンパク質含量は、固形分を基準に50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、及び57%よりなる群から選択されるいずれか1つの下限値;及び70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、及び63%よりなる群から選択されるいずれか1つの上限値からなる含量であってよい。例えば、基質のタンパク質含量は、固形分を基準に50%~70%、51%~70%、52%~70%、53%~70%、54%~70%、55%~70%、50%~69%、50%~68%、50%~67%、50%~66%、52%~69%、52%~68%、52%~67%、52%~66%、54%~69%、54%~68%、54%~67%、54%~66%、または55%~65%であってよい。
【0028】
一具現例において、前記基質の酸度(acidity)は、0.1%~0.4%、0.11%~0.4%、0.12%~0.4%、0.13%~0.4%、0.14%~0.4%、0.15%~0.4%、0.16%~0.4%、0.17%~0.4%、0.18%~0.4%、0.19%~0.4%、0.2%~0.4%、0.22%~0.4%、0.24%~0.4%、0.26%~0.4%、0.28%~0.4%、または0.3%~0.4%であってよい。前記酸度(acidity)は、基質に含まれている酸性物質や成分の含量の合計を意味する。基質の酸度を調節することにより、発酵中に発生可能な外部流入の微生物による汚染を防止することができる。
【0029】
基質の酸度調節は、酸性物質を添加して行うことができ、例えば、乳酸、クエン酸、酢酸またはリンゴ酸のような有機酸を添加して行うことができ、具体的には、有機酸が含まれている発酵酢を基質に添加して調節することもできる。
【0030】
基質(substrate)に接種して培養に用いられるカビ菌は、食用可能で菌糸体を形成することができる菌が用いられてよい。
【0031】
一具現例において、カビ菌は、Rhizopus属菌、Mucor属菌、Neurospora属菌、Amylomyces属菌、Aspergillus属菌、及びMonascus属菌よりなる群から選択される1種以上の菌であってよい。
【0032】
他の具現例において、前記Rhizopus属菌は、Rhizopus oligosporus菌であってよい。
【0033】
一具現例において、前記カビ菌は、植物組織タンパクを含む基質に、または植物組織タンパク及びおからを含む基質に直接接種する方式で用いることができる。
【0034】
または、カビ菌をおからに先に接種して培養したものを接種源として用い、この接種源を植物組織タンパクを含む基質に、または植物組織タンパク及びおからが含まれている基質に接種する方式でも用いることができる。
【0035】
一具現例において、前記基質は、水和させた後に用いることができる。
【0036】
具体的には、前記水和は、基質に水を添加した後、室温に一定時間置いて行うことができる。
【0037】
前記基質は、基質に存在する汚染源を遮断するために当業界によく知られている殺菌方法、例えば、121℃で5分~20分間熱処理して滅菌することができる。
【0038】
前記滅菌された基質に前記説明された酸性物質を添加して酸度(acidity)を調節することができる。
【0039】
前記滅菌された基質にカビ菌を接種して培養することができる。
【0040】
一具現例において、基質に接種するカビ菌の量は、0.5×104cfu/g~0.5×108cfu/g、または0.5×105cfu/g~0.5×107cfu/gであってよい。
【0041】
本出願において、基質にカビ菌を接種した後に培養する条件は、カビ菌の種類により適切な条件を選択することができ、例えば、基質にカビ菌を接種した後、接種された基質を25~35℃の温度条件、70%~99%の湿度条件で、1時間~10日範囲の時間の間培養することができる。
【0042】
本出願において、植物組織タンパクを含む基質にカビ菌を接種させて培養すると、植物組織タンパクの空隙間にカビ菌の菌糸体が成長して付着するようになるので、植物組織タンパクの結着力が向上される。
【0043】
また、カビ菌の菌糸体が含まれている基質培養物に後述する基質の圧搾工程を行えば、植物組織タンパクの結着力がさらに向上され、食感が向上され、一具現例として肉組織の類似食感が具現され得る。
【0044】
段階(b):前記基質培養物を圧搾する段階
【0045】
本出願において、前記基質にカビ菌を接種して培養した基質の培養物を圧搾する。
【0046】
前記圧搾により植物組織タンパク粒子間の空隙を減少させて植物組織タンパクの結着力を増加させると同時に、新たな食感、一具現例として肉組織に似た食感を具現することができる。
【0047】
一具現例において、本出願の圧搾前にカビ菌が培養された基質の培養物の空隙率は20~50%であってよい。
【0048】
前記用語「空隙率」は、カビ菌が培養された基質の培養物全体の体積に対する、カビ菌が培養された基質の培養物の全体空隙の体積の比率を意味する。
【0049】
一具現例において、前記空隙の体積は、基質の培養物全体の体積から基質片(粒)全体の体積を差し引いた体積で算出することができる。
【0050】
より具体的には、基質であるTVPを培養(発酵)容器に入れる際、容器内部に溜まるTVP片(粒)間に空隙が発生し、容器内部に溜まったTVPまたはTVP培養物内の空隙の体積は、容器内部に溜まったTVP全体の体積からTVP片(粒)全体の体積を差し引くと得ることができる。
【0051】
一具現例において、前記基質片(粒)全体の体積は、全体基質の質量を密度で割った値であってよい。基質が植物組織タンパクである場合、植物組織タンパクの密度は1.028の水準であってよく、このときの植物組織タンパクは水分65%に水和された状態である。
【0052】
他の具現例において、圧搾工程前の基質の培養物全体の体積は、発酵容器の体積であってよく、圧搾工程後の基質の培養物全体の体積は、圧搾された基質の培養物の横、縦、高さの長さを乗じた値であってよい。
【0053】
一具現例において、圧搾後、結着力が増加した基質の空隙率は0~20%であってよく、具体的には、0~20%、0~19%、0~18%、0~17%、0~16%、0~15%、0~14%、0~13、0~12%、0~11%、0~10%、1~20%、1~19%、1~18%、1~17%、1~16%、1~15%、1~14%、1~13%、1~12%、1~11%、または1~10%であってよい。
【0054】
前記圧搾後の基質の空隙率は、前記数値範囲内で食感に応じて適宜調節または変更が可能である。
【0055】
一具現例において、前記圧搾は、真空圧搾または成形圧搾であってよい。
【0056】
前記真空圧搾は、基質のカビ菌培養物を容器内部に置いて密封した後、容器内部の空気を除去する方式であってよい。前記真空工程は、容器内部の圧力が0.1Pa~100kPaとなるように、1~60秒間、内部空気を除去して行うことであってよい。
【0057】
前記成形圧搾は、基質のカビ菌培養物を一定の枠内に置いて枠を押して圧搾する方式であってよい。圧搾進行時の圧力の程度は、目的とする物性の強度に応じて調節して行うことができる。
【0058】
本出願において、圧搾後の発酵植物組織タンパクの結着力(g)は、100~300g、110~300g、120~300g、110~270g、110~250g、110~240g、120~270g、120~250g、または120~240gであってよい。
【0059】
前記結着力は、発酵植物組織タンパクの試料を支持台に載せ、上端のプローブ(probe)が下降しながら前記試料が変形されるために必要な力(force,g)として定義されてよく、前記発酵植物組織タンパクの試料が切れて発生する一番目の最大ピーク(First Peak Force,Break Strength)の結着力として定義されてよい(
図2参照)。
【0060】
具体的には、前記結着力は、本願明細書の実施例2に記載された物性分析機(Texture Analyzer)を用いて3点曲げ試験(Three-Point Bending Test)で表1に記載された条件下で測定した値であってよい。より具体的には、物性分析機(Texture Analyzer,TA-XT plus,Stable Micro Systems,England)を用いて、Test Mode:Compression,Pre-Test Speed:1mm/sec,Test Speed:1mm/sec,Post-Test Speed:10mm/sec,Target Mode:Distance,Distance:30mm,Trigger Type:Auto(Force),Trigger Force:5gの測定条件及び測定方法で測定した値であってよい。
【0061】
一具現例において、本出願の発酵植物組織タンパクの製造過程において、接着物質(binder)が添加されなくてよい。
【0062】
具体的には、前記段階(a)の植物組織タンパクを含む基質に、または前記段階(b)の基質培養物に接着物質が添加されなくてよい。本出願で製造される発酵植物組織タンパクは、接着物質(binder)を含まなくてよい。
【0063】
本出願で添加されない接着物質(binder)は、例えば、卵、牛乳、豆類などから由来される水溶性タンパク質;ジャガイモ澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、葛澱粉、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉などの澱粉;カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose,CMC);カラギーナン、グアーガム、またはキサンタンガムなどのガム類であってよいが、これに限定されない。より具体的には、本出願の方法では、接着物質としてカルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose,CMC)が添加されなくてよい。
【0064】
本出願の発酵植物組織タンパクは、前記のような接着物質を別途添加しなくとも、高い結着力を有し、新たな食感、一具現例として肉組織に似た柔らかい食感を有する。
【0065】
一具現例において、前記段階(b)以後、圧搾した基質培養物を加熱する段階をさらに含むことができる。
【0066】
前記加熱は、75℃~100℃の温度で1分~10分加熱することができ、具体的には、76℃~100℃、77℃~100℃、78℃~100℃、79℃~100℃、80℃~100℃、81℃~100℃、82℃~100℃、83℃~100℃、84℃~100℃、85℃~100℃、86℃~100℃、87℃~100℃、88℃~100℃、89℃~100℃、90℃~100℃、91℃~100℃、92℃~100℃、93℃~100℃、94℃~100℃、95℃~100℃、96℃~100℃、97℃~100℃、98℃~100℃、または99℃~100℃の温度で1分~10分、2分~10分、3分~10分、4分~10分、4分~9分、4分~8分、5分~8分、または5分~7分間加熱することができる。
【0067】
前記圧搾した基質培養物の加熱は、例えば、圧搾した基質培養物が入った容器を加熱された水中に浸漬して行うことができる。前記加熱された水は、75℃~100℃の温度に加熱されたものであってよく、具体的には、76℃~100℃、77℃~100℃、78℃~100℃、79℃~100℃、80℃~100℃、81℃~100℃、82℃~100℃、83℃~100℃、84℃~100℃、85℃~100℃、86℃~100℃、87℃~100℃、88℃~100℃、89℃~100℃、90℃~100℃、91℃~100℃、92℃~100℃、93℃~100℃、94℃~100℃、95℃~100℃、96℃~100℃、97℃~100℃、98℃~100℃、または99℃~100℃の温度に加熱されたものであってよい。前記浸漬は、1分~10分、2分~10分、3分~10分、4分~10分、4分~9分、4分~8分、5分~8分、または5分~7分間行うことができる。前記加熱工程により植物組織タンパクの結着力をさらに増加させると同時に、肉組織に似た食感と柔らかい食感が具現され得る。
【0068】
本出願において、圧搾及び加熱後の発酵植物組織タンパクの結着力(g)は、130~400g、140~400g、140~350g、140~330g、140~320g、150~400g、150~350g、150~330g、150~320g、または150~310gであってよい。
【0069】
前記結着力は、発酵植物組織タンパクの試料を支持台に載せ、上端のプローブ(probe)が下降しながら前記試料が変形されるために必要な力(force,g)として定義されてよく、前記発酵植物組織タンパクの試料が切れて発生する一番目の最大ピーク(First Peak Force,Break Strength)の結着力として定義されてよい(
図2参照)。
【0070】
具体的には、前記結着力は、本願明細書の実施例2に記載された物性分析機(Texture Analyzer)を用いて3点曲げ試験(Three-Point Bending Test)で表1に記載された条件下で測定した値であってよい。より具体的には、物性分析機(Texture Analyzer,TA-XT plus,Stable Micro Systems,England)を用いて、Test Mode:Compression,Pre-Test Speed:1mm/sec,Test Speed:1mm/sec,Post-Test Speed:10mm/sec,Target Mode:Distance,Distance:30mm,Trigger Type:Auto(Force),Trigger Force:5gの測定条件及び測定方法で測定した値であってよい。
【0071】
前記結着力が向上された発酵植物組織タンパクは、肉代替材だけでなく、新たなタンパク素材としても活用可能である。
【0072】
本出願の他の側面は、前記説明された発酵植物組織タンパクの製造方法により製造された発酵植物組織タンパクを提供する。
【0073】
前記発酵植物組織タンパクは、カビ菌の菌糸体を含むことができる。前記カビ菌は、前述のとおりであり、これを引用して重複説明しない。
【0074】
一具現例において、前記圧搾された後の発酵植物組織タンパクの結着力(g)は、100~300g、110~300g、120~300g、110~270g、110~250g、110~240g、120~270g、120~250g、または120~240gであってよい。
【0075】
一具現例において、前記圧搾及び加熱された後の発酵植物組織タンパクの結着力(g)は、130~400g、140~400g、140~350g、140~330g、140~320g、150~400g、150~350g、150~330g、150~320g、または150~310gであってよい。
【0076】
一具現例において、前記発酵植物組織タンパクは、接着物質(binder)を含まなくてよい。
【0077】
前記含まれない接着物質(binder)は、卵、牛乳、豆類などから由来される水溶性タンパク質;ジャガイモ澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、葛澱粉、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉などの澱粉;カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose,CMC);カラギーナン、グアーガム、またはキサンタンガムなどのガム類であってよい。
【発明の効果】
【0078】
本出願の方法によると、植物組織タンパク(TVP)粒子の間に形成されたカビ菌の菌糸体と圧搾工程により結着力が向上された発酵植物組織タンパクを製造することができる。本出願の方法により製造された発酵植物組織タンパクは、結着力がさらに向上され、一具現例として、肉組織と類似しながらも柔らかい食感を具現することができ、調理後にも肉類に似た食感をそのまま維持することができるという効果を奏する。ただし、本出願の効果は、前記で言及した効果に制限されず、言及されていないまた他の効果は、下記の記載から当業者に明確に理解され得るはずである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】本出願の発酵植物組織タンパク(TVP)の写真である。左側の写真は発酵後のTVPの写真であり、右側の写真は発酵TVPを真空圧搾した後の写真である。
【
図2】本出願の発酵植物組織タンパク(TVP)の結着力を測定する写真である。左側の写真は3点曲げリグ(Three Point Bending Rig)の写真であり、右側の写真は試料の曲げ試験(Bending Test)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
以下、本出願を実施例により詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本出願を具体的に例示するものであり、本出願の内容が下記実施例により限定されない。
【実施例】
【0081】
実施例1:発酵植物組織タンパク(TVP)の製造
1.菌株の分離
伝統テンペ(Tempeh)からRhizopus oligosporus菌株を分離し、分離した菌株をPotato Dextrose Agar(PDA)培地で30℃、4日間培養した後、4℃で菌株を保存した。保存した菌株を実験に用いた。
【0082】
2.接種源の準備
接種源は、保存していた菌株の一部を分離して滅菌した豆腐おからに接種し、30℃、4日間培養して用いた。接種に用いたおからは、水分含量を60%とし、121℃で15分間滅菌したものを用いた。
【0083】
3.本培養
植物組織タンパク(TVP)は、Solbar(Solbar Ningbo Protein Technology Co.,Ltd.)からContex 31 TVPを購入した。購入した植物組織タンパク(TVP)は、濃縮大豆タンパク(soy protein concentrate)を主原料とし、直径が約5~15mmであるフレーク(flake)タイプであった。豆腐の製造工程中に生成されたおから(CJ第一製糖)を3~8%の水分含量に乾燥させて乾燥したおからを準備した。
【0084】
前記準備した植物組織タンパク(TVP)と乾燥したおからを混合して基質として用いた。TVPに乾燥おからを0重量%、20重量%、40重量%の比率で混合した後に均質化させ、タンパク質の含量を固形物基準に50~70%となるようにして基質を製造した。次いで、55重量%の水を前記基質と混合し、約30分間室温に放置することにより基質を水和させた。水和させた基質を121℃で15分間滅菌することで、基質から由来し得る汚染源を遮断した。発酵酢希釈液を前記滅菌した基質に10重量%の含量で添加し、基質内で最終の酸度が0.3~0.4%となるようにした。
【0085】
このように準備した基質を30℃以下に冷却した後、前記準備した接種源を最終の接種菌数が0.5×106cfu/gとなるように基質に接種した。
【0086】
基質に接種源を接種した後、基質を均質化し、呼気孔があるトレイに入れて密封し、30℃、90%の湿度条件で24時間培養した。培養されたTVPは、カビ菌の菌糸体がTVP粒子の間に均一に成長し、TVP粒子が結着した塊状に製造された(
図1の左側の写真参照)。最終のTVPカビ菌培養物は、発酵の進行を中断するために冷凍保管し、解凍後に下記実施例2の方法で結着力を測定した。
【0087】
4.培養後の加工
培養で塊状となった発酵TVP(横×縦×高さ:160×120×30mm)を真空圧搾した。真空圧搾は、発酵TVPをパウチ内部に入れておいて密封した後、パウチ内部の空気を除去して行った(
図1の右側の写真参照)。次いで、真空圧搾した発酵TVPをパウチに入った状態で沸騰水(95~100℃)に6分間加熱した。真空圧搾した試料、及び真空圧搾後に加熱処理した試料のそれぞれを発酵物と同様に冷凍保管し、解凍後に下記実施例2の方法で結着力を測定した。
【0088】
実施例2:発酵植物組織タンパク(TVP)の結着力の測定
カビ菌培養により形成された菌糸体を含むTVP間の結着力は、物性分析機(Texture Analyzer,TA-XT plus,Stable Micro Systems,England)を用いて測定した。TA分析は、3点曲げ試験(Three-Point Bending Test)で下記表1に記載された条件で行った。カビ菌培養による発酵後の試料のサイズは80×30×30mm(横×縦×高さ)とし、圧搾した試料は原料のサイズが小さくなる特徴があるので80×25×10mm(横×縦×高さ)として、圧搾前後のサイズ変化による影響がないようにした。試料を支持台に載せ、上端のプローブ(probe)が下降しながら試料の変形に作用する力(force,g)を測定した(
図2)。このとき、TVPを連結している菌糸体が切れて発生する一番目の最大ピーク(First Peak Force,Break Strength)を発酵TVPの結着力として解釈した。
【0089】
【0090】
下記表2に測定結果を示した。表2に示した測定の結果、おからの含量で差がある発酵TVP(タンパク質含量50~70%)の各配合の発酵物において、発酵後に圧搾または加熱処理がないものに比べ、発酵後に圧搾した場合または圧搾と加熱処理を全て行った場合に結着力が向上することが確認された。発酵前の試料は、TVP間の結着力がないため、物性分析機による分析が不可能であった。
【0091】
【0092】
実施例3:発酵TVPの調理の評価
製造された発酵TVPにフライパン調理及びオーブン調理を行い、調理過程におけるTVPの結着維持及び食感を評価した。発酵後の発酵TVP試料、発酵TVPを真空圧搾した試料、発酵TVPを真空圧搾及び加熱した試料を通常の調理方法と同様に、油をひいた状態でそれぞれフライパン調理及びオーブン調理した。その結果、それぞれの試料の形態が維持されることを確認した。
【0093】
オーブン調理された試料を動物性肉製品(牛肉ハンバーガーのパテ)と比較し、強度及び咀嚼性において類似性が高ければ10、低ければ0に点数化して表3に示した。その結果、肉の類似食感が、圧搾と、圧搾後の加熱処理により向上することを確認した。肉製品は硬くてコシがある咀嚼性が強いのに反し、発酵TVPは比較的に柔らかい食感であり、圧搾及び加熱工程が追加されるのに伴って硬さと咀嚼性が増加し、肉類似性が向上した。また、おからの含量の増加に伴い、TVP単独で存在していたときより柔らかい食感が増加する特徴を示した。
【0094】
【0095】
前記では、本出願の代表的な実施例を例示的に説明したが、本出願の範囲は、前記のような特定の実施例のみに限定されず、当該分野で通常の知識を有する者であれば、本出願の特許請求の範囲に記載された範疇内で適宜変更が可能であろう。
【国際調査報告】