(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】発酵液からチロシンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 227/42 20060101AFI20240927BHJP
C07C 229/36 20060101ALI20240927BHJP
C12P 13/22 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C07C227/42
C07C229/36
C12P13/22 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522497
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 KR2022016122
(87)【国際公開番号】W WO2023106620
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0176117
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カン, スン フン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ヨン ソ
(72)【発明者】
【氏名】リ, チュン ヨプ
【テーマコード(参考)】
4B064
4H006
【Fターム(参考)】
4B064AE30
4B064CE15
4B064DA10
4H006AA02
4H006AD15
4H006BB31
4H006BC53
4H006BE01
4H006BE02
4H006BE03
4H006BE10
4H006BJ50
4H006BN30
4H006BS10
4H006BU36
4H006NB20
(57)【要約】
微生物発酵により産生されたチロシンを含む発酵液から高純度でチロシンを製造する方法に関するものであって、塩基性溶液を添加してチロシンを溶解させチロシン溶解液を収得する段階; 同時中和結晶化を行って一次チロシン結晶を収得する段階、一次チロシン結晶に塩基を添加して溶解させチロシン再溶解液を収得する段階、及び前記チロシン再溶解液に酸を添加して同時中和結晶化を行って二次チロシン結晶を収得する段階を含む方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロシンを含む微生物発酵液に塩基性溶液を添加してチロシン溶解液を収得する段階;
前記チロシン溶解液に酸性溶液を添加して中和結晶化により一次チロシン結晶を収得する段階;
前記一次チロシン結晶に塩基性溶液を添加してチロシン再溶解液を収得する段階;及び
前記チロシン再溶解液に酸性溶液を添加して中和結晶化により二次チロシン結晶を収得する段階を含む、チロシン製造方法。
【請求項2】
前記チロシン溶解液を収得する段階が、前記チロシン溶解液がpH11以上になるように塩基性溶液を添加することを含む、請求項1に記載のチロシン製造方法 。
【請求項3】
前記一次チロシン結晶を収得する段階が、前記チロシン溶解液と酸性溶液とを結晶化槽に同時に添加して混合した溶液のpHを5~7以内に調節することを含むものである、請求項1に記載のチロシン製造方法。
【請求項4】
前記チロシン再溶解液を収得する段階が、前記一次チロシン結晶に塩基性溶液を混合された溶液のpHが11以上になるように添加して前記一次チロシン結晶を溶解させることを含むものである、請求項1に記載のチロシン製造方法。
【請求項5】
前記二次チロシン結晶を収得する段階が、前記チロシン再溶解液と酸性溶液とを同時に添加して混合した溶液のpHが5~7になるように調節して中和結晶化を行うものである、請求項1に記載のチロシン製造方法。
【請求項6】
前記中和結晶化が、70~80℃で行われるものである、請求項5に記載のチロシン製造方法。
【請求項7】
前記一次チロシン結晶を収得する段階の前に、前記チロシン溶解液を濾過して濾液を収得する段階をさらに含むものである、請求項1に記載のチロシン製造方法。
【請求項8】
前記濾液を限外濾過する段階をさらに含む、請求項7に記載のチロシン製造方法。
【請求項9】
前記塩基性溶液が、NaOHまたはKOHからなる群から選択された少なくとも1つを含むものである、請求項1に記載のチロシン製造方法 。
【請求項10】
前記酸性溶液が、酢酸、塩酸、硝酸、または硫酸からなる群から選択された少なくとも1つを含むものである、請求項1に記載のチロシン製造方法 。
【請求項11】
前記二次チロシン結晶を収得する段階の前に、前記チロシン再溶解液を脱色する段階をさらに含むものである、請求項1に記載のチロシン製造方法 。
【請求項12】
前記脱色する段階が、前記チロシン再溶解液を濾過して濾液を収得する段階;前記濾液に活性炭を添加して脱色し、脱色再溶解液を収得する段階を含むものである、請求項10に記載のチロシン製造方法 。
【請求項13】
前記脱色する段階が、前記脱色再溶解液を塩基性アニオン交換樹脂を通過させてさらに脱色する段階をさらに含むものである、 請求項12に記載のチロシン製造方法 。
【請求項14】
前記チロシン製造方法により製造されたチロシンが、結晶の大きさは70ミクロン以上であり、水分は15%以下の針状結晶である、請求項1に記載のチロシン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
微生物発酵によって産生されたチロシンを含む発酵液から高純度でチロシンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チロシンは必須アミノ酸の一つであって、極性のヒドロキシフェニル基を有するため、アミノ酸の中で水への溶解度が最も低く、水中で結晶化すると針状または板状の結晶構造を有するアミノ酸である。
【0003】
チロシンは、加水分解法、化学合成法、酵素法、または微生物発酵法により生産されている。
【0004】
特許文献1に開示されているように、動物の毛髪などからタンパク質加水分解後に脱色、結晶化によりチロシンを製造することが一般的であり、化学合成法によりチロシンを製造することができるが、製造工程上、DL-チロシンが生成されるため、L-チロシンを収得するためには複雑な分離工程を経なければならないため、産業上には適していない。
【0005】
酵素法は、フェノール、ピルビン酸、アンモニアあるいはフェノール、L-セリンを出発物質として用いて、チロシンフェノール分解酵素の触媒作用によってチロシンを生産することができるが、反応中に酵素の活性を調節する技術が不足した状態である。
【0006】
微生物発酵法は、グルコース、または原糖などの炭素源を原料として、微生物菌種の発酵を経てL-チロシンを製造する方法であるが、チロシンを含む発酵液からチロシンを分離して精製する過程が要求される。特許文献2は、発酵液からチロシンを抽出する方法を開示しているが、発酵液内の結晶を溶解するためにアンモニア水を用いるため、高濃度のチロシン溶解液を製造することが難しい。したがって、結晶化のための追加濃縮が必要であり、一般的な中和法である塩基条件でゆっくりと酸を投入して中和結晶化させると薄い針状のチロシンが製造され、分離された湿結晶の水分が高くて、含量が低い(98%以下)製品が製造される問題点がある。
【0007】
したがって、チロシンを効率的に高純度で製造しうる方法に対する要求が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第2650242号
【特許文献2】中国出願CN111039808A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、チロシンを含む発酵液から高純度及び高品質のチロシンを効率的に分離して精製する方法に関する研究を行い、塩基性化合物を用いたチロシンの溶解を通じて高純度のチロシン結晶を製造する方法を開発した。
【0010】
本発明は、微生物発酵液から高純度及び高品質のチロシンを製造する方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明はまた、微生物発酵液から製造されたチロシン結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一様態は、微生物発酵液からチロシンを製造する方法であって、
チロシンを含む微生物発酵液に塩基性溶液を添加してチロシン結晶スラリーをチロシン溶解液として収得する段階、
前記チロシン溶解液に酸を添加して中和結晶化により一次チロシン結晶を収得する段階、
前記一次チロシン結晶に塩基性溶液を添加してチロシン再溶解液を収得する段階、及び
前記チロシン再溶解液に酸性溶液を添加して中和結晶化により二次チロシン結晶を収得する段階を含む方法を提供する。
【0013】
本明細書で用いられた用語、「微生物発酵液」は、チロシン生産能を有する微生物を培養して生産されたチロシンを含む微生物培養液を意味し、前記微生物培養液から分離したチロシンを水に分散させたスラリーを含んでもよい。
【0014】
本明細書で用いられた用語、「チロシン溶解液」は、水に対する溶解度の低いチロシンを強塩基のような塩基性溶液に溶解して収得した溶液を意味する。「チロシン再溶解液」は、一次結晶化の後に収得したチロシン結晶に強塩基を添加して溶解させた溶液を意味する。
【0015】
本明細書で用いられた用語、「中和結晶化」は、pHに従って水に難溶性または不溶性の物質を水の存在下で酸または塩基と反応させて結晶化することを意味する。「同時中和結晶化」は、結晶化の対象であるチロシン溶解液と酸とを同時に結晶管や結晶化槽などの容器に添加して、特定のpHを維持しながら混合して結晶を析出させることを意味する。
【0016】
本発明の一具体例では、微生物発酵液は、チロシン産生能を有する微生物の発酵培養によって収得され、発酵培養は、流加(fed-batch)培養、回分(batch)培養、反復流加(repetitive fed-batch)、または連続培養によって行われてもよい。用いられる発酵培地は生産菌株に応じて最適化してもよい。
【0017】
本発明の一具体例では、前記チロシン溶解液を収得する段階は、塩基性溶液をpH11~12まで添加することを含んでもよい。チロシンを含む微生物発酵液に直接に強塩基を添加するか、または微生物発酵液の高速遠心分離により回収されたチロシンに水を添加して得られたスラリーに塩基、例えば20~50%、または40%のNaOHまたはKOHを添加してpH11~12でチロシン溶解液を収得してもよい。チロシンは水に対する溶解度が低いため、NaOHまたはKOHなどの強塩基性溶液を添加することによって高濃度で溶解することができる。
【0018】
本発明の一具体例では、前記一次チロシン結晶を収得する段階は、前記チロシン溶解液と酸性溶液とを結晶化槽に同時に添加して混合した溶液のpHを5~7以内に調節することを含んでもよい 。
【0019】
本発明の一具体例では、前記チロシン再溶解液を収得する段階は、前記一次チロシン結晶に塩基性溶液を混合された溶液のpHが11以上になるように添加して前記一次チロシン結晶を溶解させることを含んでもよい。
【0020】
本発明の一具体例では、前記二次チロシン結晶を収得する段階は、前記チロシン再溶解液と酸性溶液とを同時に添加して混合した溶液のpHがpH5~7になるように調節して中和結晶化を行うものにあってもよい。
【0021】
本発明の一具体例では、前記二次中和結晶化は、60~80℃または70~80℃で行われてもよい。
【0022】
本発明の一具体例では、前記二次中和結晶化は、チロシン溶解液またはチロシン再溶解液を60~80℃まで昇温させて、希酸性溶液を添加してpH5~6、またはpH5.5で行われてもよい。
【0023】
本発明の一具体例では、前記微生物発酵液は、チロシン生産能を有する菌株を培養して生産されたチロシンを35g/L以上含む培養液であるか、前記培養液を高速遠心分離して回収されたチロシン結晶に水を添加して得られたスラリーであってもよい。
【0024】
本発明の一具体例では、微生物発酵液からチロシンを回収するための高速遠心分離は、デカンター(decanter)を用いて1000~5,000Gで行われてもよい。
【0025】
本発明の一具体例では、微生物発酵液からチロシンを回収するための高速遠心分離は、2,000G以上で行われてもよい。
【0026】
本発明の一具体例では、前記方法は、前記一次チロシン結晶を収得する段階の前に、前記チロシン溶解液を濾過して濾液を収得する段階をさらに含んでもよい。
【0027】
本発明の一具体例では、前記方法は、前記濾液を限外濾過に適用する段階をさらに含んでもよい。
【0028】
本発明の一具体例では、前記チロシン溶解液から濾液を収得する段階は、前記チロシン溶解液から細胞成分を除去するために0.1ミクロンサイズのセラミック濾過膜を用いて濾過する段階を含み、前記濾液からタンパク質成分などをさらに除去するために、前記濾液を限外濾過(UF)膜D1000~500,000を通過させる段階をさらに含んでもよい。
【0029】
本発明の一具体例では、前記強塩基性溶液は、NaOHまたはKOHであってもよく、20~50%の濃度、または40%の濃度で用いられてもよい。
【0030】
本発明の一具体例では、前記酸性溶液は、酢酸、塩酸、硝酸または硫酸であってもよく、40%以下の濃度で用いられてもよい。
【0031】
本発明の一具体例では、前記方法は、二次チロシン結晶を収得する段階の前に、前記チロシン再溶解液を脱色する段階をさらに含んでもよい。
【0032】
本発明の一具体例では、脱色したチロシン再溶解液のUV - VIS吸光度は、430nmで0.0001~0.1であってもよく、例えば、0.05以下であってもよい。
【0033】
本発明の一具体例では、前記脱色する段階は、チロシン再溶解液を濾過して濾液を収得する段階、前記濾液に活性炭を添加して脱色させ脱色再溶解液を収得する段階を含むものであってもよい 。
【0034】
本発明の一具体例では、前記脱色する段階は、前記脱色再溶解液を塩基性アニオン交換樹脂を通過させてさらに脱色する段階をさらに含んでもよい。
【0035】
本発明の一具体例では、チロシン再溶解液の色を除去するために、前記再溶解液に活性炭素を添加して60℃で1時間程度処理し、フィルタープレスで濾過し、さらに塩基性アニオン樹脂塔を通過させてもよい。
【0036】
本発明の一具体例では、前記方法は、前記チロシン再溶解液の中和結晶化を行った後、収得した反応液をバスケット遠心分離機を用いて濾過し、濾過容積の20%に相当する水でチロシン結晶を洗浄する段階をさらに含んでもよい。
【0037】
本発明の一具体例では、前記方法によって製造されたチロシンは、結晶の大きさが70ミクロン以上であり、水分が15%以下の針状結晶であってもよい。
【0038】
本発明の一具体例では、前記方法は、収得したチロシン結晶を流動層乾燥機で水分含量を0.5%以下まで乾燥させる段階をさらに含んでもよい。
【0039】
本発明の別の態様は、微生物発酵液に強塩基を添加することによるチロシンの溶解及び同時中和結晶化によって収得した結晶の大きさが70ミクロン以上であり、水分が15%以下である針状結晶のチロシンを提供する。
【発明の効果】
【0040】
本発明の一具体例による方法は、高濃度発酵工程から生成されたチロシン結晶をさらなる水の投入なしに強いアルカリで溶解して高純度で針状のチロシン結晶を製造することができるため、精製工程で必要な貯蔵タンク及び脱色設備の容量を減らすことができ、公知の技術における濃縮によるエネルギーコストを削減することができる。さらに、本発明の一具体例における方法は、製品化のための結晶化工程において、分離された湿結晶の水分を下げ、高純度(98.5%以上)のチロシン結晶を容易に製造することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の一具体例における方法のチロシン発酵液から一次チロシン結晶を収得する段階のフローチャートを示す。
【
図2】本発明の一具体例における方法の一次チロシン結晶から二次チロシン結晶を収得する段階のフローチャートを示す。
【
図3】(a)本発明の一具体例に従って収得した一次チロシン結晶及び(b)比較例(特許文献2)に従って収得した一次チロシン結晶を示す。
【
図4】(a)本発明の一具体例に従って収得した二次チロシン結晶及び(b)比較例(特許文献2)に従って収得した二次チロシン結晶を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本出願を実施例を挙げてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は一つ以上の具体例を例示的に説明するものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1.チロシン発酵液からチロシン結晶の製造
本実施例では、水溶解度の低いチロシンを含む発酵液から高濃度のチロシン溶解液を収得し、それから結晶化を行ってチロシン結晶を製造した。
【0044】
(1)チロシンの溶解度
チロシンは水に対する溶解度が低いため、高濃度の溶解液を得るために塩基を加えて溶解した。30%アンモニアと50%NaOHを用いて、チロシンを含む発酵液の投入量、pH、及びチロシン溶解度を比較した。 以下の表1にその結果を示した。
【表1】
【0045】
高濃度のチロシン溶解液を得るために、30%アンモニアを用いることによりも50%NaOHを用いた場合に、少量を投入して高濃度のチロシン溶解液を得ることができた。
【0046】
(2) チロシン溶解液の製造
本実施例では、コリネバクテリウムベースの高濃度、高生産性のチロシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCM06-0112(KCCM12708P)を用いて発酵工程で回分培養(batch culture)で60時間培養し、チロシンを含む発酵液を製造した。発酵液の中でチロシンが85g/Lになるように培養した。
【0047】
発酵により収得したチロシン発酵物に(1)で確認したように強塩基性溶液(50%NaOHまたは50%KOH)を添加して高濃度のチロシン溶解液を製造し、溶解液内に残存する細胞成分及び残留タンパク質類を除去するためにセラミック膜を通過させてチロシン溶解液を収得した。
【0048】
チロシン生産能を有する菌株の発酵により収得した発酵液から高純度(98.5%以上)のチロシン結晶を製造するためには、2回にわたる結晶化が必要であった。
【0049】
(3)チロシン溶解液の一次結晶化
一次結晶化は、発酵液に含まれた他のアミノ酸及びイオン成分を効果的に除去するための結晶化工程である。(2)で強塩基性の溶液を添加してチロシンを溶解させ、細胞を除去して収得した塩基性のチロシン溶解液と希硫酸溶液を容易に混合できる精製水が含まれた結晶化槽に同時に投入して瞬間的なpHを5~7に調整して、同時中和結晶化により顆粒形態のチロシン結晶を収得した。これにより形成されたチロシン結晶は容易に沈降し、既知の結晶化工程に比べて低い湿結晶水分と高い純度を示す利点がある。
このような同時中和結晶化と等電(droplet)中和結晶化とを比較するために、特許文献2に記載されているように、細胞を除去したアルカリ共晶液に酸溶液(塩酸または酢酸)をゆっくり投入してpH5.7で等電結晶化を行った。同時中和結晶化から生成されたチロシン結晶は顆粒形態であり、結晶の大きさが大きく分離が容易であり、チロシンの含有量が高かったが、等電中和結晶化からは非常に小さく、薄い形態のチロシン結晶が形成され、結晶と溶液を分離しにくく、含量が低くなることが確認された。下記表2に、一次結晶化方法による湿結晶水分、結晶粒度及び含量を示し、
図3(a)及び(b)に結晶の形態を示す。
【表2】
【0050】
一次結晶化により分離された結晶は純度95%水準(HPLC基準)、結晶回収率97%を示し、食医薬品品質規格のチロシン製品を製造するために脱色及び追加結晶化工程が必要であった。
【0051】
(4)チロシン溶解液の脱色及び二次結晶化
(3)で収得した一次チロシン結晶を強塩基の溶液に再溶解してチロシン再溶解液を収得し、活性炭とアニオン樹脂を用いて脱色を行った。
【0052】
純粋なチロシン結晶は非常に小さい針状の結晶であるため、塩基性から中性にゆっくり進行する中和結晶化では結晶を分離する時に湿結晶の水分が高く乾燥が難しく、含量が高くないという問題点がある。このような問題点を克服するために、チロシン結晶型を維持しつつ結晶の厚さを増加させて、湿結晶の水分が低く、高純度のチロシンを製造しうる結晶化工程を開発した。具体的には、チロシン結晶の厚さを増加させるために、攪拌用精製水が含まれた結晶化槽の温度を70℃~80℃に加温させた後、脱色したチロシン再溶解液と希酸(H2SO4、HCl、AcOH)を同時に投入して、瞬間的にチロシン再溶解液のpHを5~7と調整すると針状の厚さが増加されたチロシン結晶を生成することができ、これをバスケット遠心分離機で回収して乾燥させて高純度の食品用チロシンを製造した。
【0053】
(3)と同様に、同時中和結晶化と等電中和結晶化とを比較するために、 特許文献2に記載されているように、細胞を除去したアルカリ共晶液に酸溶液(塩酸または酢酸)をゆっくり投入してpH5.7で等電結晶化を行った。
【0054】
脱色した脱色再溶解液の同時中和結晶化及び等電結晶化により収得した結晶の特性を表3に示し、結晶の形態をそれぞれ
図4(a)及び(b)に示す。
【表3】
【0055】
実施例2.発酵液内の高濃度チロシン結晶の溶解
実施例1の結果を反映して定められた条件でチロシン結晶の溶解を行った。
【0056】
具体的には、チロシン発酵液(80g/L)5000mlを温度計と攪拌機を備えたフラスコに入れ、30℃で攪拌した。この時の発酵液のpHは6.5~7.0水準であり、強塩基である50% NaOHまたは50% KOH 220mlを投入するとpH11.0水準で発酵液の色が濃茶色に変化し、結晶が全て溶解された(69.6g/L)。
【0057】
強塩基である50% NaOHまたは50% KOH220mlの代わりに、弱塩基である30%アンモニア水1240mlを投入する時の共晶液のpHは10.5水準であり、この時のチロシンの溶解度は24.3g/Lで、発酵液内のチロシン結晶が全て溶解できなかった。
【0058】
チロシン溶液のpHによる溶解度を表4に示す。
【表4】
【0059】
チロシンの溶解のために弱塩基を用いる場合、過量を投与しなければならず、投与量に比べてチロシン結晶の溶解度は強塩基を用いる場合に比べて低いため非効率的であった。
【0060】
実施例3.一次同時中和による一次結晶化
実施例2に記載したように、強塩基を添加してチロシン結晶が溶解された発酵液を55℃に加温した後、0.12マイクロセラミックメンブレンフィルターを装着した装備(TAMI INDUSTRIES)を用いて2barの運転条件で細胞を除去して結晶化を行うためのチロシン溶解液(75g /L)を製造した。
【0061】
温度計、攪拌機、及びpHメーター(METTLER TOLEDO)を装着した10,000mlの結晶管に1000mlの精製水を添加した後、30℃で攪拌した。結晶管内のpHが5.0~7.0を維持するように2台の定量ポンプを用いてチロシン溶解液5000mlと32%硫酸420mlを同時に1時間または2時間継続的に結晶管に投入した。
【0062】
チロシン溶解液と硫酸の投入を完了した後、30分程度さらに攪拌し、バスケット遠心分離機(KOKUSAN H-122)を用いて1500rpmで10分間結晶を分離し、500mlの精製水で結晶表面に付いた親液を洗浄し、一次チロシン結晶560g(収率93%)を収得した。
【0063】
図1にチロシン発酵液から一次チロシン結晶を収得する方法の概略図を示す。
【0064】
収得した結晶の水分は、105℃、LOD(Loss on Drying)基準で30%であり、含量はHPLC基準で95.8%であった。
【0065】
実施例4.二次同時中和による二次結晶化方法
実施例3で収得したチロシン一次結晶560gに精製水4000mlを投入して55℃に加温した。50%NaOHを投入してpH11.0~11.5で結晶を完全に溶解させチロシン再溶解液を収得した。二次結晶化溶液の色及びタンパク質成分を除去するために、活性炭0.4%を前記再溶解液に添加し、1時間撹拌した後、GF/F(Whatman GLASS MICROFIBER FILTERS)を用いて濾過した。得られた濾液を強塩基性のアニオン樹脂塔(TRILITE AMP26)に再度通塔させて二次結晶化のためのチロシン再溶解液を製造した。収得した結晶化フィードである結晶化のためのチロシン再溶解液のチロシン濃度は35g/lであり、UV-VIS分光光度計で430nmで測定された吸光度は0.02であった。
【0066】
温度計、攪拌機、及びpHメーターを装着した10,000mlの結晶管に1000mlの精製水を添加した後、75℃で攪拌した。2台の定量ポンプを用いて前記で製造した結晶化フィード5000mlと32%硫酸480mlを結晶管内のpHが6.0を維持するように3時間継続的に投入した。結晶化フィードの投入を完了した後に、フィードの温度を55℃に下げた後、バスケット遠心分離機(KOKUSAN H-122)を用いて1500rpmで10分間分離させ、一次チロシン結晶380g(収率91%)を収得した。
【0067】
【0068】
収得した結晶の水分は、105℃、LOD基準で10%であり、含量はHPLC基準で99.0%であった。
【国際調査報告】