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特表2024-536533悪液質の予防及び治療のための伝統的な漢方薬ベースの製剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】悪液質の予防及び治療のための伝統的な漢方薬ベースの製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/65 20060101AFI20240927BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K36/65
A61P7/00
A61P21/00
A61P43/00 105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522602
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 CN2022125399
(87)【国際公開番号】W WO2023061488
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/255,963
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524141175
【氏名又は名称】ホン, ミン-チー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】リン, シャン-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】リン, チー-シュエ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, リャン-ヨウ
(72)【発明者】
【氏名】チャン, シ-シャン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, チン-シ
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB58
4C088AC11
4C088BA06
4C088BA10
4C088CA03
4C088CA06
4C088CA08
4C088NA14
4C088ZA94
4C088ZB21
4C088ZC54
(57)【要約】
本発明は、がん患者において悪液質及び筋肉喪失の予防または治療に使用する可能性を有する伝統的な中国医薬品である牡丹皮(Moutan radicis cort;牡丹皮)を開示する。本組成物は、悪液質に対する新規治療剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん誘導性悪液質を治療または予防する方法であって、がん誘導性悪液質を有する対象に有効量の組成物を投与することを含み、ここで、前記組成物が、牡丹皮または牡丹皮抽出物を含む、方法。
【請求項2】
前記牡丹皮抽出物が、前記牡丹皮を50%~100%メタノールまたは50%~100%エタノールに浸漬することによって調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記牡丹皮抽出物が、前記牡丹皮を70%メタノールまたは70%エタノールに浸漬することによって調製される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
がん誘導性の骨格筋の重量の減少を治療または予防する方法であって、がん誘導性筋萎縮または筋肉の重量の減少を有する対象に、有効量の組成物を投与することを含み、ここで、前記組成物が、牡丹皮または牡丹皮抽出物を含む、方法。
【請求項5】
前記牡丹皮抽出物が、前記牡丹皮を50%~100%メタノールまたは50%~100%エタノールに浸漬することによって調製される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記牡丹皮抽出物が、前記牡丹皮を70%メタノールまたは70%エタノールに浸漬することによって調製される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、Ccl21a、Ccl12、Lep、Kera、Tmem233、Chad、Ky、Clip、Mettl21e、Mylk4、Kcng4、Plcd4、Vwa3b、Plin1、Casq1、Itgb6、Tnmd、Sypl2、Mss51、Mettl21c27またはそれらの組み合わせを含む筋恒常性関連遺伝子を上方制御して、がん誘導性筋萎縮を軽減する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、がん誘導性筋萎縮を軽減するために、Aldh8a1、Lcn2、Mt2、Dnase1、Mt1、Slc39a14、Nyx、Krt80、Serpina3m、Kcnk5、Cxcl13、Adamts2、Ampd3、Fah、Doc2b、Acox2、Myo1a、Itpkc、Acss1、Igfbp3、またはそれらの組み合わせを含む前記筋恒常性関連遺伝子を下方制御する、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月15日に提出された米国仮特許出願第63/255,963号の利益を主張し、これらはその全体が本明細書に参照により組み込まれる。
【0002】
本発明は、がん患者における腫瘍誘導性筋萎縮及び悪液質を予防または治療するために使用できる、伝統的な中国医学(TCM)ベースの作用物質、牡丹皮(MDP)(Moutan radicis cort;牡丹皮)を開示する。この作用物質は、企業内のTCMライブラリからのin vitro及びin vivo筋萎縮プラットフォームの両方を含む統合された多層戦略を通じて開発されている。
【背景技術】
【0003】
膵癌、胃癌、肺癌、及び結腸癌などの特定のがん種の治療における大きい課題は、がん誘導性の体重減少であり、これは、悪液質の観点から見て、食欲不振、ならびに脂肪組織及び骨格筋量の減少を特徴とする。がん悪液質の定義については明白な統一的見解がないため、以下の5つの特徴のうち少なくとも3つが存在する場合には、悪液質とみなした:筋力低下、疲労、食欲不振または食事摂取制限、低脂肪体重指数、生化学検査の異常(例えば、C反応性タンパク質の増加、貧血、または血清アルブミンの低下)、さらに浮腫のない5%の体重減少(または12ヶ月でBMI<20.0kg/m)。その結果、がん悪液質による体重減少は、栄養補給によって回復させ得ず、がん患者の罹患率、死亡率、及び生活の質に深刻な影響を有する。悪液質の多因子病態生理学の理解において、大きく進歩したが、この衰弱性疾患の予防及び/または治療は、医療ニーズとして、依然として満たされていない。
【0004】
現在、悪液質の治療に使用できる承認された標的療法は存在していない。半合成プロゲステロンステロイドであるメゲストロールは、悪液質関連症状を改善するために使用される。
【0005】
さらに、日本において、悪液質患者の疲労及び慢性的な衰弱を軽減するために、免疫系に作用して、炎症及び栄養状態を改善する複数の漢方医薬品(すなわち、多成分生薬抽出物)が一般的に処方されている。より近年では、空腹ホルモンであるグレリン及びグレリン模倣薬が、食欲及び生活の質を高める可能性を鑑みて、大きな注目を集めているが、悪液質の治療への使用を裏付ける臨床的証拠は不足している。
【0006】
悪液質の予防及び/または治療において、低分子標的剤に対するTCMの利点は多岐にわたる。第一に、TCMの多薬理学(またはネットワーク薬理学)の治療上の有用性は、様々な慢性疾患及び複雑な疾患の治療における長年の歴史によって明らかになっている。第二に、多くのTCMは、疾患の抑制及び予防のために日常的に栄養補助食品として消費されるであろう。第三に、東洋社会では、一般的に、TCMは、副作用が少ないと考えられており、筋萎縮を伴うがん患者のコンプライアンスが向上する可能性がある。
【発明の概要】
【0007】
上記の技術的状況に鑑み、本発明は、明確な臨床的利益を有する悪液質の治療及び/または予防のためのTCM組成物、その調製物、及びそれを調製するための方法を提供する。
【0008】
本発明は、がん患者における悪液質の予防または治療に使用できる可能性を有するTCM、牡丹皮(MDP)を開示する。MDP抽出物は、TCMを50%~100%のメタノールまたは50%~100%のエタノールに浸漬することによって調製される。
【0009】
本発明はまた、腫瘍関連性悪液質を有する対象に有効量の組成物を投与することを含む、がん誘導性悪液質を治療または予防する方法を提供し、ここで、組成物は、牡丹皮または牡丹皮抽出物を含む。MDP抽出物は、TCMを50%~100%のメタノールまたは50%~100%のエタノールに浸漬することによって調製される。
【0010】
本発明はさらに、がん患者における骨格筋の萎縮を予防するまたは治療するための組成物を提供し、この組成物は、骨格筋における筋恒常性関連遺伝子発現の腫瘍誘導性再プログラミングを逆転させ、それによって骨格筋を消耗から救済する能力によるものであり得る。MDP抽出物は、TCMを50%~100%のメタノールまたは50%~100%のエタノールに浸漬することによって調製される。
【0011】
本発明はまた、がん誘導性骨格筋量の減少を治療するまたは予防する方法を提供し、本方法は、腫瘍関連骨格筋萎縮を有する対象に有効量の組成物を投与することを含み、これは、骨格筋における筋恒常性関連遺伝子発現の腫瘍誘導性再プログラミングを逆転させ、それによって骨格筋の消耗から救済する能力によるものであり得、この組成物は、牡丹皮または牡丹皮抽出物を含む。抽出物牡丹皮(MDP)は、TCMを50%~100%のメタノールまたは50%~100%のエタノールに浸漬することによって調製される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】C26CM誘導性のC2C12筋管の萎縮に対する異なるTCMの影響を示す。
図2】24のTCM抽出物がC26CM誘導性のC2C12筋管の萎縮に対して保護効果がないことを示している。
図3】C.エレガンスにおける加齢関連の運動性及び/または全身の収縮に対するMDP対DRの時間依存的効果を示す。
図4】経口強制給餌による3つの用量のMDP(MDP-L、MDP-H、及びMDP-H)とビヒクルの、体重(AとB)及び腫瘍体積(C)の影響、C-26腫瘍担持マウスの後肢筋の保護(D)の影響、及びC-26腫瘍担持マウスの警戒心及び活動的な表現型(D)への影響を示す。
図5】経口強制給餌による100mg/kgのDR及びビヒクルの体重(腫瘍なし)に対する影響を示す。
図6】経口強制給餌によるMDP1000mg/kg(MDP-H)とビヒクルの投与が、C-26腫瘍担持マウスの体重(A及びB)、腫瘍体積(C)、悪液質に関連する骨格筋重量の減少を軽減する能力(D)、繊維サイズ分布がより小さい断面積にシフトするのを救済する能力(E)、及び17日目の前肢の握力の回復(F)に及ぼす影響を示す重複実験を示す。
図7】Vehにより処置したC26-腫瘍担持マウス及びMDP-Hにより処置したC26腫瘍担持マウスにおける血清IL-6に対するMDPの影響と、C26細胞に対する細胞生存率を示す。
図8】ショットガン・シークエンシングのバイオインフォマティクス解析を示す。
図9】MDPが骨格筋関連遺伝子及びタンパク質の発現に及ぼす影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で使用される場合、「a(不定冠詞)」、「an(不定冠詞)」、「the(定冠詞)」、「少なくとも1つの」、及び「1つ以上」は、互換的に使用される。
【0014】
一実施形態では、DR及びMDPは、C2C12筋管の炎症性サイトカイン誘導性萎縮の影響を抑制する能力を示した。
【0015】
一実施形態では、MDPは、C.エレガンスの加齢関連の運動能力の低下を改善する。
【0016】
一実施形態では、MDPは、C26腫瘍担持マウスにおける腫瘍誘導性の筋肉の消耗を予防する。
【0017】
一実施形態では、MDPは、大腿四頭筋及び前脛骨筋などの後肢の筋肉をがん誘導性消耗から保護するのに有効である。
【0018】
一実施形態では、MDPは、マウスをC-26腫瘍誘導性の体重減少から保護する際のin vivo効力を示す。
【0019】
別の実施形態では、MDPは、悪液質関連の骨格筋重量の減少を軽減する。
【0020】
一実施形態では、MDPは、悪液質筋肉における繊維サイズ分布がより小さい断面積にシフトするのを救済することができる(P<0.05)。
【0021】
一実施形態では、MDPは、血清中のIL-6レベルを低下させる。
【0022】
一実施形態では、MDPは、骨格筋における筋恒常性関連遺伝子発現の腫瘍誘導性再プログラミングを逆転させることによって、抗悪液質効果を発揮する。
【0023】
本発明はまた、がん誘導性悪液質を治療または予防する方法を提供し、本方法は、がん誘導性悪液質を有する対象に有効量の組成物を投与することを含み、ここで、組成物は、牡丹皮または牡丹皮抽出物を含む。
【0024】
本発明はまた、がん誘導性の骨格筋の重量の減少を治療または予防する方法を提供し、本方法は、がん誘導性筋萎縮を有する対象に有効量の組成物を投与することを含み、ここで、組成物は、牡丹皮または牡丹皮抽出物を含む。
【0025】
一実施形態では、牡丹皮抽出物は、牡丹皮を50%~100%メタノールまたは50%~100%エタノールに浸漬することによって調製される。
【0026】
好ましい実施形態では、牡丹皮抽出物は、牡丹皮を70%メタノールまたは70%エタノールに浸漬することによって調製される。
【0027】
実施例
以下の実施例は、非限定的であり、本発明の様々な態様及び特徴を単に代表するものである。
【実施例1】
【0028】
実施例1C26CM誘導性筋管萎縮モデル
実験設計は、図1Aに示しており、C2C12筋芽細胞を2%ウマ血清含有分化培地(DM)に4日間曝露して、筋管への分化を容易にし、その後、C26CMで4日間処置する。この8日間の処置の終了時に、C26CMで処置したC2C12筋管の直径と対照細胞(DMのみを投与)の直径を、光学顕微鏡下で分析し、その差をC26CM誘導性萎縮の読み取り値として定量化した。筋肉の消耗の発生を遅延させるためのTCMの使用を繰り返すために、個々のTCM及びDMSOを、実験の過程全体において、最初から培養培地に添加し、毎日交換し(別の対照としてH3~14)、それぞれを4回繰り返した。示すとおり、C26CMは、C2C12筋管に顕著な狭窄を引き起こした(図1B及び図1C)。
【0029】
図1に示すとおり、異なるTCMがC26CM誘導性のC2C12筋管の萎縮に及ぼす影響を示した。実験設計の概略図を図1Aに示す。図1Bは、その画像である。図1Cは、代表的な実験におけるC26CM誘導性のC2C12筋管の萎縮に対するヤマノイモ根茎(DR)、MDP、及び他の代表的な3つのTCMの保護効果に関する図1Bの画像の2つの定量分析である。バーは、平均±SD(2つの独立した実験Expt#1及びExpt#2のデータ)。
【0030】
異なるTCMの抽出物(それぞれ25及び/または50μg/ml)の抗萎縮活性を評価した。これらの抽出物としては、Dioscoreae rhizome(DR;山藥)、MDP、Sambuci chinensis radix et caulis(SCRC;ソクズ)、Helminthostachydis radix et rhizome(HRR;倒地蜈蚣)、Condonopsis radix(CR;黨參)、Polygonati odorati rhizome(玉竹)、Glycyrrhizae radix et rhizome(甘草)、Lilii bulbus(百合)、Citri sarcodactylis fructus(佛手)、Euryales semen(ケンジツ)、Hordei fructus germinates(麥芽)、Siraitiae fructus(羅漢果)、Pruni semen(郁李仁)、Lycii fructus(枸杞子)、Poria(茯苓)、Platycodonis radix(桔梗)、Bombycis chrysallidem(蠶蛹)、Alpiniae oxyphyllae Fructus(益智仁)、Nelumbinis semen(蓮子)、Polygonati rhizome(黄精)、Sesami nigrum semen(黒芝麻)、Ziziphi spinosae semen(酸棗仁)、Coicis semen(ヨクイニン)、Rubi fructus(覆盆子)、Ginseng radix et rhizome(人參)、Amynthas et metaphire(地龍)、Arctii radix(牛蒡根)、Portulacae herba(スベリヒユ)、及びTrionycis carapax(べっ甲)が挙げられる。これらのTCM抽出物のうち、広く使用されている2つのTCM、DR及びMDPは、C2C12筋管をC26CM誘導性の萎縮から完全に保護するH3-14の能力を共有していることを見出した(筋管萎縮プラットフォームにおけるC26CM対照と比較して、すべてのP=0.0002、図1C)。しかし、他のものは、細胞傷害性であったか、または保護をもたらさなかった。それらの代表的なデータを図1Cに示す。
【0031】
他のTCMのデータは、図2に示した。バーは、平均±SD(N=4)。#1は、ギョクチク(Polygonati odorati rhizoma)であった;#2は、カンゾウ(Glycyrrhizae radix et rhizome)であった;#3は、ビャクゴウ(Lilii bulbus)であった;#4は、Citri sarcodactylis fructusであった;#5は、ケンジツ(Euryales semen)であった;#6はHordei fructusの発芽であった;#7は、ラカンカ(Siraitiae fructus)であった;#8は、Pruni semenであった;#9は、クコシ(Lycii fructus)であった;#10は、ブクリョウ(Poria)であった;#11は、キキョウ(Platycodonis radix)であった;#12は、Bombycis chrysallidemであった;#13は、ヤクチ(Alpiniae oxyphyllae fructus)であった;#14は、レンニク(Nelumbinis semen)であった;#15は、オウセイ(Polygonati rhizoma)であった;#16は、クロゴマ(Sesami nigrum semen)であった;#17は、サンソウニン(Ziziphi spinosae semen)であった;#18は、ヨクイニン(Coicis semen)であった;#19は、フクボンシ(Rubi fructus)であった;#20は、コウジン(Ginseng radix et rhizoma)であった;#21は、Amynthas et metaphireであって;#22は、Arctii radixであった;#23は、スベリヒユ(Portulacae herba)であった;#24は、ベッコウ(Trionycis carapax)であった。
【実施例2】
【0032】
実施例2:C.エレガンスのDR及びMDPの運動性試験
この線虫C.エレガンスの表現型アッセイでは、MDP及びDRを1%DMSO含有水に10mg/mlのストック溶液として溶解し、ビヒクル対照に対する個々の溶液100μlを、OP50菌叢を含む線虫成長培地(NGM)寒天プレート(寒天の総容量、10ml)に均一に塗布した。溶液が寒天に完全に吸収された後、これらのOP50プレートを40分間UV照射し、その後CF512ワームの同期卵約50個を播種した。これらのプレートを25℃でインキュベートし、成虫後1日目から7日目まで1日おきに虫の運動性を測定した。データ、平均±SEM。(n=170~420)。*P<0.05;**P<0.01;***P<0.0001(t検定)。異なる年齢の線虫(1日目、5日目、9日目、13日目の成虫)を、最初に薬物を含まない溶液でインキュベートし、次にレバミゾールを含む溶液で10分間インキュベートした。デジタル画像システムを使用して、ImageJを用いて線虫の身体の長さを定量化した。データ、平均±SEM。(n>50)。*P<0.05;**P<0.01;***P<0.0001(t検定)。
【0033】
図3Aに示すとおり、C.エレガンスにおける加齢関連運動性及び/または全身収縮に対するヤマノイモの根(DR)の時間依存的効果は、対照(ビヒクル)と比較して差がない。
【0034】
図3Bに示すとおり、MDPは、対照群と比較して、C.エレガンスの運動性の加齢関連低下を改善することができる。
【0035】
図3Cに示すとおり、MDPの時間依存的効果は、別の実験において、より長い平均余命を伴う運動性(1日目、3日目、5日目、7日目、9日目の身体の曲げ/秒)の並行した保護効果を示した。
【0036】
図3Dに示すとおり、MDPは、筋肉機能における全身収縮(%)の加齢関連低下を顕著に遅延させた(1日目、5日目、9日目、及び13日目の相対的全身収縮)。
【0037】
まとめると、MDPは、対照群と比較して、加齢関連の線虫の運動性の低下を改善する独自の能力を呈したが、DRは、その能力は呈さなかった。
【実施例3】
【0038】
実施例3:がん悪液質のC26モデルにおけるMDPの有効性
C-26モデルは、腫瘍による過剰なIL-6分泌に関連することが報告されているC-26腫瘍誘導性の体重減少からCD2F1マウスを保護する能力について、MDP及びDRのin vivoでの抗筋肉消耗の有効性を確認するためのものである。
【0039】
最初の一連の実験では、3つの異なる用量(低用量:MDP-L、100mg/kg、中用量:MDP-M、500mg/kg、高用量:MDP-H(1,000mg/kg)を、C-26腫瘍細胞を移植する7日前からCD2F1マウスに1日1回経口強制投与し、17日目にマウスを屠殺するまで評価した。個々のマウスの体重、腫瘍サイズ、ならびに食物及び水の摂取量は、1日おきに測定した。屠殺時に、後肢の骨格筋を解剖し、重量を測定後に、さらなる分析のために-80℃で保存した。最初の実験セットを図4に示す。
【0040】
図4は、経口強制投与による3つの用量のMDP(MDP-L、MDP-H、及びMDP-H)、ビヒクル、及び対照(H3-14)が、C-26腫瘍担持マウスの体重(図4A及び図4B)及び腫瘍体積(図4C)に及ぼす影響を示す。NC、腫瘍のないマウス。腫瘍重量は、1,000mmが体重1グラムに相当するという仮定に基づいて推定した。グラフの過密を避けるため、S.D.バーを示さない。統計解析では、個々の対象に対してランダム切片を使用し、治療と治療日に対して固定効果を有する一般化線形混合効果モデルを使用して、多重比較に対するTukey-Kramer補正を使用して、群間差を検定した。(a)対照群との有意差はp<0.05。(b)ビヒクル群との有意差はp<0.05。図4Dには、C-26腫瘍担持マウスの後肢の骨格筋の3つの異なる部分に経口強制投与した3つの用量のMDP、ビヒクル、及びH3-14の影響を示す。NC、腫瘍のないマウス。(a)及び(b)は、それぞれNC群及びビヒクル群との有意差を示す(Kruskal-Wallis検定、Bonferroni調整を用いたDunnの多重比較検定、p<0.05)。図4Eは、試験終了時点でのこれら5つの群から1匹の代表的なマウスの写真を示しており、腫瘍負荷が大きいにもかかわらず、覚醒、正常な姿勢、滑らかな毛並み、及び体調の改善によって示されるように、腫瘍担持マウスにおけるMDP-H及びMDP-Mの治療効果を示す。
【0041】
図4Aに示すとおり、MDP-Hは、C-26腫瘍担持マウスの体重減少を改善するのに有効であった。
【0042】
図4Bに示すとおり、MDP-Hは、C-26腫瘍担持マウスの体重減少(腫瘍なし)を改善するのに有効であった。
【0043】
図4Cに示すとおり、MDP-Hは、腫瘍成長に対して、非常に小さい腫瘍抑制効果を示した。
【0044】
図4Dに示すとおり、MDP-Mは、C-26腫瘍担持マウスの後肢筋を保護するのに有効であった。
【0045】
図4Eに示すとおり、MDP-M及びMDP-Hで処置したC-26腫瘍担持マウスは、警戒心及び活動的な表現型を呈した。
【0046】
第2の実験セットでは、経口強制投与による100mg/kgのDR及びビヒクルのin vivoでの有効性を評価し、その結果を図5に示した。
【0047】
図5は、経口強制投与による100mg/kgのDR及びビヒクルが、C-26腫瘍担持マウスの体重(腫瘍なし)(図5A)及び腫瘍体積(図5C)に及ぼす影響を示す(*P<0.05;n=3~6)。対照、腫瘍のないマウス。(図5B)DRの治療効果がないことを示した、試験終了時の各群の代表的なマウスの写真である。(a)及び(b)は、それぞれ対照群とビヒクル群との有意差を示す(多重比較のためのTukey-Kramer補正による一般化線形混合効果モデル)。
【0048】
図5Aに示すとおり、100mg/kgのDRは、体重減少を悪化させた。
【0049】
図5Bに示すとおり、100mg/kgのDRは、ビヒクル対照と比較して、物理的外観の悪化を引き起こした。
【0050】
図5Cに示すとおり、100mg/kgのDRは、腫瘍の成長に影響を有しなかった。
【0051】
図6は、経口強制投与による1000mg/kgのMDP(MDP-H)とビヒクルとの比較による、C-26腫瘍担持マウスの体重(図6A及び図6B)、腫瘍体積(図6C)に対する影響を示す重複実験を示す。NC、腫瘍のないマウス。腫瘍重量は、1,000mmが体重1グラムに相当するという仮定に基づいて推定した。グラフの過密を避けるため、S.D.バーを示さない。統計分析では、個々の対象に対してランダム切片を使用し、処置と処置日に対して固定効果を有する一般化線形混合効果モデルを使用して、多重比較に対するTukey-Kramer補正を使用して、群間差を検定した。p<0.05での対照群との有意差。(b)p<0.05でのビヒクル群との有意差。図6Dは、-26腫瘍担持マウスの後肢の骨格筋の3つの異なる部分に対するMDP-H及びビヒクルの影響を示す。対照群、腫瘍のないマウス。(a)及び(b)は、それぞれ対照群及びビヒクル群との有意差を示す(Kruskal-Wallis検定、Bonferroni調整を用いたDunnの多重比較検定、p<0.05)。図6Eは、C-26腫瘍担持マウスの筋線維サイズに対するMDP-Hの影響を示す。腓腹筋の筋線維の断面積を頻度ヒストグラムとして表した。処置群ごとに5匹のそれぞれのマウスから採取した腓腹筋の5つの切片を、方法セクションで説明したように分析した。ログランク検定の多重比較を用いたところ、腫瘍担持マウス/ビヒクルマウスと腫瘍担持マウス/MDPマウスとの筋肉の比較では、統計的有意性(P<0.001)が示された。データは、平均+/-SEMとして表す。図6Fは、MDPが握力に及ぼす影響を示す。
【0052】
図6Aに示すとおり、MDP-Hは、17日目の腫瘍負荷において、C-26腫瘍誘導性の体重減少からマウスを保護することを示した。
【0053】
図6Bに示すとおり、MDP-Hは、17日目の腫瘍負荷において、C-26腫瘍誘導性の体重減少(腫瘍なし)からマウスを保護することを示した。
【0054】
図6Cに示すとおり、MDP-Hは、17日目に腫瘍負荷に対して顕著な抑制効果を示さなかった。
【0055】
図6Dに示すとおり、MDP-Hは、悪液質に関連する骨格筋重量の減少を軽減する能力を示した。
【0056】
図6Eに示すとおり、MDP-Hは、GC筋線維の抗ジストロフィンによる免疫染色及びその後の筋線維直径の定量化により、悪液質筋における線維サイズ分布のより小さな断面積へのシフトから救済することができた(P<0.0001)。
【0057】
図6Fに示すとおり、MDP-Hは、17日目に前肢の握力を回復させることができた(P<0.001)。
【0058】
図7は、Veh処置群とMDP-H処置群のC26腫瘍担持マウスにおける血清IL-6に対するMDPの影響を示す。統計解析には、ウィルコクソン順位和検定を使用した(n=5)。図7Bには、25μg/mL及び50μg/mLのMDPが、C26細胞培養培地におけるIL-6の産生に及ぼす影響を示し、図7Cには、C26細胞の生存率を示す。バー、平均±S.D.((B)と(C)の3つの独立した実験から得られたデータの場合、****,P<0.0001。
【0059】
図7Aに示すとおり、MDP-Hにより処置したC-26腫瘍担持マウスの平均血清IL-6(C-26腫瘍モデルにおける悪液質の主な原因)レベルは、ビヒクル対照群と比較して低かったが、統計的に有意な差はなかった(P=0.06)。
【0060】
図7Bに示すとおり、血清中のIL-6レベルの低下は、25μg/mL及び50μg/mLのMDPが、C26細胞による培養培地へのIL-6の分泌を抑制する独特の能力と関連していた(P<0.001)。
【0061】
図7Cに示すとおり、25μg/mL及び50μg/mLのMDPは、C26細胞に対して細胞傷害性でなかった。
【実施例4】
【0062】
実施例4:全トランスクリプトームショットガンシーケンス(RNA-seq)解析
全トランスクリプトームショットガンシーケンシング(RNA-seq)解析は、商業ベンダー(Welgene Biotech;Taiwan)によって実施された。その後、これらのRNA-seqデータの主成分分析(PCA)を行い、これらの群間のトランスクリプトームの変化を調べた。この発現プロファイルのクラスタリングは、MDPが悪液質骨格筋(T/Veh)の遺伝子発現プロファイルを非悪液質筋肉(TF/Veh)のプロファイルと同様の状態にシフトできたことを示唆している。さらに、RNA-seqデータのペア比較により、個々の群間の遺伝子発現プロファイルの相違を分析した。京都遺伝子ゲノム百科事典(KEGG)pathway及びGene Ontology(GO)Knowledgebaseナレッジベースは、関連する生物学的シグナル伝達経路について記載している。
【0063】
図8Aに示すとおり、3つの試験群のRNA-seqデータの2次元投影図。主成分分析軸(Dim1、x軸、Dim2、y軸)は、RNA-seqデータの全体的な変化を強調して示している。図8Bに示すとおり、各黒い点は、変換された遺伝子発現値を表す。T/Veh対TF/Veh及びT/Veh対T/MDPの2つのペア比較のそれぞれにおける、差次的に発現した遺伝子のベン図。
【0064】
図8Aに示すとおり、主成分分析(PCA)プロットは、T/MDP群における変化の2次元投影が、T/Veh群よりもTF/Veh群の変化により近いことを示している。
【0065】
図8Bに示すとおり、ベン図解析では、同じ方向に発現が変化した2つのペア比較(中央部分)によって共有されている、差次的に発現している遺伝子が合計1849個あることが明らかになった。
【0066】
上記のバイオインフォマティクス解析では、MDPが、悪液質骨格筋における筋恒常性に関連する遺伝子の発現を再プログラムする能力があることが実証され、これは、以下の表1-3及び表4-6の最も上方制御された遺伝子と下方制御された遺伝子の上位20位に反映されている。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
図9に示すとおり、MDPが骨格筋関連遺伝子及びタンパク質発現に及ぼす影響。図9Aに示すとおり、qPCR解析により、ビヒクルにより処置したマウスとMDP-Hにより処置したマウス(各群n=3)の骨格筋において、5つの上方制御遺伝子(左)及び5つの下方制御遺伝子(右)が示された。上方制御された遺伝子及び下方制御された遺伝子の増加倍数及び発現率は、それぞれMDP-Hにより処置されたマウスの選択された骨格筋関連遺伝子の、ビヒクル対応物に対する相対的発現レベルとして示した。バー、平均+S.D(n=3)。図9Bに示すとおり、ビヒクル及びMDP-Hにより処置したC26腫瘍担持マウス(それぞれT/Veh及びT/MDP-H)の骨格筋におけるMuRF1及びAtrogin-1のタンパク質発現レベルのウェスタンブロット解析を、ビヒクルで処置した腫瘍のないマウス(TF/Veh)と比較して、それぞれ示す。定量的RT-PCRのフォワードプライマー及びリバースプライマーを次表7に示す。
【0074】
【表7】
【0075】
図9Aに示すとおり、qPCR解析による上方制御遺伝子及び下方制御遺伝子の発現レベルの変化は、RNA-seq解析による変化と一致した。
【0076】
図9Bに示すとおり、MDP-Hは、ウェスタンブロッティング分析により、C26腫瘍担持マウスにおけるAtrogin-1及びMuRF1のタンパク質発現を対照群で観察された基底レベルまで抑制するのに有効であった。
【0077】
本発明は、当業者がそれを作製し、使用するために十分詳細に説明し、例示してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な代替、変更、及び改良が明らかであるものとする。
【0078】
当業者であれば、本発明が、目的を実行し、言及された目的及び利点、ならびに本発明に固有のものを得るために十分に適合されていることを容易に理解する。それらを生産するためのプロセス及び方法は、好ましい実施形態の代表的なものであり、例示であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。その中の修正及び他の使用が、当業者において生じるであろう。これらの修正は、本発明の趣旨に包含され、特許請求の範囲によって定義される。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
【配列表】
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【国際調査報告】