(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞を用いた抗老化組成物及びその方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240927BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240927BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/0787 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20240927BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20240927BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240927BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P29/00
A61P37/02
A61P9/00
A61P43/00 107
C12N5/071
C12N5/0775
C12N5/0789
C12N5/077
C12N5/078
C12N5/0786
C12N5/0787
C12N5/0784
C12N5/0783
C12N5/0781
C12N5/0793
C12N5/0797
C12N5/079
C12N1/00 G
C12P19/34 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522610
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 US2022046461
(87)【国際公開番号】W WO2023064404
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524141393
【氏名又は名称】メカノジェニックインク
【氏名又は名称原語表記】Mechanogenic, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(72)【発明者】
【氏名】フナキ マコト
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064CA10
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4B064CC03
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4B064DA20
4B065AA93X
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4B065CA50
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB22
4C087ZC52
(57)【要約】
【解決手段】細胞内の酸化ストレスを減少させ、および/または対象における老化を減少させるか、または老化関連疾患を治療するための方法および組成物が提供される。方法および組成物は、休眠間葉系幹細胞(MSC)を単独で、または休眠MSCに接着する基材とともに使用することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を休眠間葉系幹細胞(MSC)と接触させることを含む細胞内の酸化ストレスを低減する方法。
【請求項2】
前記MSCが脂肪組織由来間質細胞(ADSC)であることを特徴とする、請求項1 に記載の方法。
【請求項3】
前記MSCが骨髄由来幹細胞(BMSC)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記MSCは、骨髄、歯髄、臍帯、ウォートンゼリー、羊水、胎盤、末梢血、滑膜、滑液、子宮内膜、皮膚または筋肉に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞が、内皮細胞、肺細胞、および皮膚細胞からなる群から選択されることを特徴とする、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、心筋細胞、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、免疫細胞、肺上皮細胞、気管支上皮細胞、尿細管上皮細胞、足細胞、間質細胞、メサンギウム細胞、 脂肪細胞、筋管、筋細胞、肝細胞、胆管上皮細胞、膵β細胞、網膜細胞、神経細胞、グリア細胞、がん細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、消化管上皮細胞、大腸上皮細胞、骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞、腺細胞、造血幹細胞および前駆細胞からなる群から選択されることを特徴とする、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記休眠MSCが、150 Paより750 Paまでの剛性を有する基材上にMSCを培養することによって調製されることを特徴とする、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記休眠MSCが、150 Paより750 Paまでの均一な剛性を有する基材上にMSCを培養することにより調製されることを特徴とする、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記基材がゲルであることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記基材が二次元ゲルであることを特徴とする、請求項7~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記基材が三次元ゲルであることを特徴とする、請求項7~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ゲルがコラーゲン、フィブロネクチン、またはこれらの組み合わせで被覆されていることを特徴とする、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ゲルがゲル化剤とアクリルアミド-ビスアクリルアミド混合物とを含む、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ゲル化剤が組換えフィブリンまたはフィブリノーゲンタンパクであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記基材中の組換えフィブリンまたはフィブリノーゲンタンパクの濃度が1~20 mg/mLであることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞のエキソソームマイクロRNA分泌を増加させることを特徴とする、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記MSCをグルコースで処理することを特徴とする、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記MSCを少なくとも25 mMグルコースを含有する培地中で培養することを特徴とする、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
休眠間葉系幹細胞(MSC)および休眠MSCに接着する基材を含む組成物を対象に投与することを含む、対象における老化関連状態を予防、改善、治療する方法。
【請求項20】
前記MSCが脂肪組織由来間質細胞(ADSC)であることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記MSCが骨髄由来幹細胞(BMSC)であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記MSCは、骨髄、歯髄、臍帯、ウォートンゼリー、羊水、胎盤、末梢血、滑膜、滑液、子宮内膜、皮膚または筋肉に由来する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞は、内皮細胞、肺細胞、および皮膚細胞からなる群から選択されることを特徴とする、請求項19~22のいずれか 1項に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が、心筋細胞、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、免疫細胞、肺上皮細胞、気管支上皮細胞、尿細管上皮細胞、足細胞、間質細胞、メサンギウム細胞、 脂肪細胞、筋管、筋細胞、肝細胞、胆管上皮細胞、膵β 細胞、網膜細胞、神経細胞、グリア細胞、がん細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、消化管上皮細胞、大腸上皮細胞、骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞、腺細胞、造血幹細胞および前駆細胞からなる群から選択されることを特徴とする、請求項19~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記休眠MSCが、150 Paより750 Paまでの剛性を有するゲル上またはゲル中でMSCを培養することによって調製されることを特徴とする請求項19~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記休眠MSCが、150 Paより750 Paまでの均一な剛性を有するゲル上またはゲル中でMSCを培養することによって調製されることを特徴とする、請求項19~25のいずれか 1項に記載の方法。
【請求項27】
前記基材が三次元ゲルであることを特徴とする、請求項19~26の何れか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記基材がプロテアーゼ阻害剤をさらに含むことを特徴とする、請求項19~27の何れか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記基材がゲル化剤とアクリルアミド-ビスアクリルアミド混合物とを含むことを特徴とする、請求項19~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記ゲル化剤が組換えフィブリンまたはフィブリノーゲンタンパクであることを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
基材中の組換えフィブリンまたはフィブリノーゲンタンパク質の濃度が1~20 mg/mLであることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記投与が、注射、マイクロ経皮注射、または局所投与によって行われる、請求項19~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記投与が、腹腔内、皮下、筋肉内または静脈内注射によって行われる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記組成物が担体をさらに含むことを特徴とする、請求項19~33の何れか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物が医薬組成物であることを特徴とする、請求項19~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記老化関連状態がサルコペニアであることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記加齢関連状態がフレイルであることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記老化関連状態が、糖尿病における創傷治癒の低下であることを特徴とする、請求項 19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記老化関連状態が老化関連疾患であることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記老化関連状態が自己免疫疾患であることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記老化関連状態が炎症性疾患であることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記加齢関連状態が炎症性呼吸器疾患であることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記老化関連状態が、ウイルスによって引き起こされる炎症性呼吸器疾患であることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記老化関連状態が、コロナウイルスによって引き起こされる炎症性呼吸器疾患であることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記老化関連状態が急性肺損傷であることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記老化関連状態がLPS誘発性急性肺損傷であることを特徴とする、請求項19~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記組成物が化粧品組成物であることを特徴とする、請求項19~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記方法が、細胞のエキソソームマイクロRNA分泌を増加させることを特徴とする、請求項19~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記MSCがグルコースで処理されることを特徴とする、請求項19~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記MSCが、少なくとも25mMのグルコースを含む培地中で培養されることを特徴とする、請求項19~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
休眠間葉系幹細胞(MSC)と、休眠MSCに接着する基材とを含む化粧品または医薬組成物。
【請求項52】
前記 MSCが脂肪組織由来間質細胞(ADSC)であることを特徴とする、請求項51に記載の組成物。
【請求項53】
前記MSCが骨髄由来幹細胞(BMSC)であることを特徴とする、請求項51に記載の組成物。
【請求項54】
前記休眠MSCが、150 Paより750 Paまでの剛性を有するゲル上またはゲル中でMSCを培養することにより調製されることを特徴とする、請求項51に記載の組成物。
【請求項55】
前記休眠MSC が、150 Paより750 Paまでの均一な剛性を有するゲル上またはゲル中でMSCを培養することにより調製されることを特徴とする、請求項51~54のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項56】
前記基材が三次元ゲルを含むことを特徴とする、請求項51~55のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項57】
前記基材がプロテアーゼ阻害剤をさらに含むことを特徴とする、請求項51~56のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項58】
前記基材がゲル化剤およびアクリルアミド-ビスアクリルアミド混合物を含むことを特徴とする、請求項51~57のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項59】
前記ゲル化剤が組換えフィブリンまたはフィブリノーゲンタンパクであることを特徴とする、請求項58に記載の組成物。
【請求項60】
基材中の組換えフィブリンまたはフィブリノーゲンタンパクの濃度が1~20mg/mLであることを特徴とする、請求項59に記載の組成物。
【請求項61】
前記組成物が担体をさらに含むことを特徴とする、請求項51~60のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項62】
前記組成物が医薬組成物であることを特徴とする、請求項51~61のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項63】
前記組成物が化粧品組成物であることを特徴とする請求項51~62のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、休眠間葉系幹細胞を使用する方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
間葉系幹細胞(MSC)は体性幹細胞の一種で、多系統分化能や免疫調節機能を有し、再生医療や細胞治療で注目されている。間葉系幹細胞由来のセクレトームや細胞外小胞は、病気の状態における免疫反応や炎症を抑制する免疫調節機能に起因している。したがって、MSCで複数の臨床試験が試みられている。しかし、間葉系幹細胞に基づく細胞療法の実現可能性は、有効性が不十分であったり、安全性に懸念があったりするため、確立にはほど遠い。
【0003】
加齢性疾患では、「老化」と呼ばれるMSCの老朽化により、MSCの免疫調節機能や抗炎症機能の低下がみられる。 老化とは、細胞がすぐに死なずに細胞周期が停止することを指し、細胞は代謝を保ちながら有害物質を放出し、他の細胞に炎症や損傷を引き起こす。 長期間にわたって生体外で培養されたMSCは、過剰な数の細胞周期を経て、テロメアの短縮の増加と細胞周期依存性キナーゼ阻害剤の発現の増加により、永続的かつ不可逆的な細胞周期停止を示す。これらの複製老化細胞では免疫調節機能および抗炎症機能も低下する。対照的に、加齢性疾患および加齢状態におけるMSCは、必ずしも複製老化していない。むしろ、酸化ストレスなどの細胞ストレスが加齢性疾患や加齢状態を引き起こすと、MSCは複製老化する前に「早期」老化状態になる。老化MSCは、複製老化であるか早期老化であるかにかかわらず、サイトカインおよび細胞外小胞の分泌プロファイルにおいて、細胞老化随伴分泌現象(SASP)と呼ばれる特徴的な表現型を示すことが知られている。老化MSCのSASPは、老化表現型を隣接する細胞に広げ、慢性炎症の環境を引き起こし、心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病、糖尿病とその合併症、神経変性疾患、癌、自己免疫疾患、サルコペニア、フレイルなどの加齢性疾患や加齢状態の根本的なメカニズムの 1 つであるとして理解されている。したがって、MSCのSASPの治療は、罹患した組織や臓器、さらには個人の若返りにつながる可能性があり、これには病気との闘いや再生への影響が含まれる。
【発明の概要】
【0004】
本発明の1つの態様は、細胞内の酸化ストレスを低減する方法に向けられている。
【0005】
本発明の別の態様は、対象者における老化を減少させるか、または老化関連疾患を治療する方法に向けられる。この方法は、休眠間葉系幹細胞(MSC)および休眠MSCに付着する基材を含む組成物を対象者に投与することを含む。
【0006】
本発明の別の態様は、休眠間葉系幹細胞(MSC)および休眠MSCに付着する基材を含む組成物に向けられる。一実施形態において、MSCは、脂肪組織由来間質細胞(ADSC)である。
【0007】
本発明の別の態様は、注射用に構成された医薬組成物に向けられる。組成物は、休眠間葉系幹細胞(MSC)と、休眠MSCに付着する基材とを含む。
【0008】
本発明のこれら及び他の実施形態、特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の特許請求の読解から当業者により、より容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ADSCを3次元のソフトな生体適合性ゲルで培養した場合に休眠状態になったことを示す。
【0010】
【
図2】
図2は、炎症状態におけるIDO発現が、非休眠ADSCで観察されたアップレギュレーションのレベルと比較して、休眠ADSCで大幅にアップレギュレーションされたことを示す。
【0011】
【
図3】
図3は、IL-6の分泌が非休眠ADSCでは酸化ストレスによって減衰したが、非休眠時に酸化ストレスにさらされてその後休眠したADSCでは損なわれていなかったことを示している。
【0012】
【
図4】
図4は、MCP-1の分泌が非休眠ADSCでは酸化ストレスによって増強されたが、非休眠時に酸化ストレスにさらされてその後休眠したADSCでは消失したことを示している。
【0013】
【
図5】
図5は、酸化ストレス下でもADSCの馴化培地によりHUVECの生存率が高められたことを表している。
【0014】
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、マウスに腹腔内に投与した3D-NANOFIBGROW-Iゲル中の休眠ADSCが7日後に検出されたことを表している。10
6個のADSCが300 μLの3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包埋され、マウスに腹腔内注射された。ADSC投与の7日後、マウスは屠殺された。実験には3匹のマウスが使用され、代表的な画像が示されている。
図6Aでは、ゲルが腹腔で同定された(矢印先端部)。
図6Bでは、腹腔内で同定されたゲルが単離され、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色された。右のパネルは、左のパネルにおけるボックスの領域の高倍率画像である。
図6Cでは、媒体(PBS)または3x10
6個のADSCのいずれかを含む3D-NANOFIBGROW-Iゲル300 μLが調製された。PBS含有ゲルまたはADSC含有ゲルのいずれかが、それぞれマウスに腹腔内注射された。媒体またはLPS(5 mg/kg)のいずれかが、3D-NANOFIBGROW-Iゲル注射と同時にマウスに腹腔内注射された。注射の7日後、マウスは屠殺され、ヘマトキシリンとエオシンで染色するために肺が単離された。左パネル; 媒体(PBS)+媒体(生理食塩水)、中央パネル; 媒体(PBS)+LPS、右パネル; ADSC+LPSである。各群に6匹のマウスが使用され、代表的な画像が示されている。
【0015】
【
図7】
図7 は、生体外での炎症誘発性の環境が MSC の増殖に影響を与えなかったことを表している。MSC が、250Paまたは7500Paのポリアクリルアミドゲルにまばらに播種された。各ゲル上の単一細胞が翌日にマーキングされ、媒体、または20 ng/mlのTNFαと20 ng/mlのIFNγ の混合物で処理された。4日後、マークされた各領域の細胞数がカウントされた。代表的な画像(A)と定量的な結果(各条件につき3領域)(B)が示されている。データは平均値±標準偏差として表されている。同様の結果は、他の2つの独立した実験でも得られている。
【0016】
【
図8】
図8. 炎症誘発性の環境における休眠MSCによる免疫調節因子の産生。MSCが250 Paのポリアクリルアミドゲルに播種され、20 ng/mlの TNFαと20 ng/mlのIFNγの混合物で指示された時間処理された。次に、細胞が溶解され、ライセートを抗HGF抗体(上パネル)、抗IDO抗体(中央パネル)、または抗αチューブリン抗体(下パネル)でイムノブロットされた。
【0017】
【
図9】
図9. シェーグレン症候群モデルマウスにおける涙腺の炎症は、柔らかい生体適合性かつ注射可能なゲルに埋め込まれたMSCの腹腔内投与により有意に抑制された。シェーグレン症候群のモデルマウスは、以前に記述されたように調製された(Ishimaru N, Saegusa K, Yanagi K, Haneji N, Saito I, et al. (1999) エストロゲン欠乏症は、Fas媒介性アポトーシスを通じてシェーグレン症候群モデルマウスにおける自己免疫性外分泌障害を加速する。Am J Pathol 155: 173-181)。これらのマウスが7週齢に達した時、VitroGel RGD-PLUSのみ(Gel)、またはMSCとVitroGel RGD-PLUSの混合物(MSC/Gel)のいずれかが腹腔内注射され、その後は12週齢になるまで週に1回注射された。それからマウスが屠殺され、涙腺と唾液腺が単離された。以前に記述されたように病理組織学的悪性度判定が行われ、ヘマトキシリンおよびエオシン染色後に浸潤したリンパ球の数がカウントされた(Ishimaru N et al.)。
図9A 涙腺(LG)と唾液腺(SG)の代表的な組織像。図 9B-Cにはマウスにおける病理組織学的悪性度(B)およびリンパ球数(C)が示されている。各群に5匹のマウスが用いられた。データは各グループにおいて三組の平均値±標準偏差として表されている。
【0018】
【
図10】
図10. 頸部リンパ節と脾臓の両方におけるCD4
+CD44
highCD62L
-T細胞の集団は、MSCと、柔らかくて生体適合性かつ注射可能なゲルとの混合物の腹腔内投与により、シェーグレン症候群モデルマウスで有意に減少した。シェーグレン症候群モデルマウスが調製され、VitroGel RGD-PLUSのみ(Gel)またはMSCとVitroGel RGD-PLUSの混合物(MSC/Gel)で処理された。マウスが12週齢に達すると、マウスは屠殺され、頸部リンパ節(cLN)と脾臓(Sp)が単離された。頸部リンパ節および脾臓におけるCD62L(low)CD44(high)メモリー型CD4(+)T細胞の割合がフローサイトメトリーで解析された。A. 代表的なドットブロット画像が示されている。B. データは、各群5匹のマウスから得られた平均値±標準偏差として表されている。***p<0.01, *p<0.05
【0019】
【
図11】
図11. 頸部リンパ節および脾臓におけるCD4
+PD-1
+CXCR5
+Foxop3-細胞の集団は、MSCと柔らかくて生体適合性かつ注射可能なゲルとの混合物の腹腔内投与により、シェーグレン症候群モデルマウスで有意に減少した。
図10 に記載のとおりに、シェーグレン症候群モデルマウスが調整され、VitroGel RGD-PLUSのみ(Gel)、または MSCとVitroGel RGD-PLUSの混合物(MSC/Gel)で処理された。マウスが12週齢に達すると、マウスは屠殺され、頸部リンパ節(cLN)と脾臓(Sp)が単離された。頸部リンパ節および脾臓におけるPD-1(high)CXCR5(high)濾胞ヘルパーCD4(+)T細胞の割合がフローサイトメトリーで解析された。A. 代表的なドットブロット画像が示されている。 B. データは、各群5匹のマウスから得られた平均値±標準偏差として表されている。***p<0.01, *p<0.05.
【0020】
【
図12】
図12は、生体適合性ゲル上で培養することにより休眠状態に誘導および維持されたBMSCが、それらの上のガラスと接触することで非休眠状態になったことを示している。
【0021】
【
図13】
図13は、3D-NANOFIBGROW-Iゲルで三次元培養されたADSCが細胞周期停止を示したことを示している。
【0022】
【
図14】
図14は、 休眠ADSCにおけるデヒドロゲナーゼ活性の減衰が可逆的であったことを示している。
【0023】
【
図15】
図15は、休眠ADSCが、高グルコース誘導性のデヒドロゲナーゼ活性低下に耐性であったことを示している。
【0024】
【
図16】
図16は、DiI標識された休眠BMSCが、皮下注射の30日後でもゲル中の丸い細胞として検出されたことを示している。
【0025】
【
図17】
図17は、ADSCが、皮下注射の30日後でもゲル中の丸い細胞として検出されたことを示している。
【0026】
【
図18】
図18は、ゲルに包まれて移植されたMSCがMSCとして残存し、生体内で血管新生を強化したことを示している。
【0027】
【
図19】
図19は、休眠ADSC を含むゲルの中で血管新生が亢進することを示している。
【0028】
【
図20】
図20は、皮下移植後72日経っても休眠ADSCがゲル中に見つかることを示している。
【0029】
【
図21】
図21は、休眠状態のADSCをゲルに包まれて移植することが、糖尿病マウスにおける創傷治癒を促進することを示している。
【0030】
【
図22】
図22は、SASPを呈するADSCを休止状態にすることで、それらの細胞が若返えさせられうること、および糖尿病マウスにおける創傷治癒を促進できることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本方法および組成物を説明する前に、本発明は、記載される特定の方法、組成物、標的および用途に限定されるものではなく、当然のことながら、それ自体が異なる可能性があることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるであろうことも理解されたい。
【0032】
本明細書の文脈において、本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、別段の記載がない限り、あたかも完全に規定されているかのように、すべての目的のために、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0033】
別段の定めがない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が優先される。
【0034】
なお、特に断りのない限り、百分率、部、比率等は全て重量によるものである。
【0035】
特定の例では、本明細書に記載の定量的値は、公開されている、または別の方法で認識されている標準手順を参照して定義される分析またはその他の測定方法によって決定され得る。このような認識された標準手順のソースの典型的な例には、ASTM (米国材料試験協会、現在は ASTMインターナショナル)、ISO (国際標準化機構)、DIN (Deutsches Institut fuer Normung)、および JIS (日本工業規格) が含まれる。本明細書に別段の記載がない限り、本明細書で使用される特定の標準手続は、本出願の出願日に施行されているその手続のバージョンとみなされる。
【0036】
量、濃度、その他の値もしくはパラメータが範囲、または上限値と下限値のリストとして与えられる場合、これは、範囲が別々に開示されているかどうかにかかわらず、任意の上限値と下限値のいずれかのペアから形成されるすべての範囲を具体的に開示していると理解されるべきである。 数値の範囲が本明細書で述べられている場合、特に断りのない限り、その範囲は、その終点、および範囲内のすべての整数および分数を含むことを意図する。なお、本開示の範囲が、範囲を規定する際に挙げられる特定の値に限定されることを意図するものではない。
【0037】
値の範囲が指定された量 (または他の同等の言い回し)「より小さい」または「以下」であると述べられている場合、その範囲は、不特定のゼロ以外の値によって下限に制限されていることを理解する必要がある。同様に、値の範囲が指定された量 (または他の同等の言い回し)「以上」、「より大きい」、または「以下ではない」と述べられている場合、上限の範囲は無限ではなく、不特定の有限の値によって制限されていることを理解する必要がある。
【0038】
「約」または「おおよそ」という用語が、ある範囲の値または終点を記述する際に使用される場合、開示は、参照される特定の値または終点を含むと理解されるべきである。「約」という用語によって修正されるかどうかにかかわらず、本明細書に添付された特許請求の範囲は、これらの量と同等のものを含む。「約」という用語は、さらに、記載された参考値に類似する値の範囲を指し得る。ある実施形態において、「約」という用語は、記載された参考値の 50、25、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1パーセントまたはそれ未満の範囲内に収まる値の範囲を指す。
【0039】
本明細書で用いる場合、「構成する」、「構成している」、「含む」、「含んでいる」、「有する」、「有している」、またはそれらの他の変形例は、非排他的な包含をカバーすることを意図する。例えば、請求項要素のリストを含むプロセス、方法、物品、または装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されるものではなく、そのようなプロセス、方法、物品、または装置に明示的に列挙されていない、または固有の他の要素を含むことができる。
【0040】
「からなる」という移行句は、請求項に明記されていない請求項の要素または成分を除外し、請求項に通常関連する不純物を除いて、請求項に記載されたもの以外の材料を含めることを終わりにする。「からなる」という語句が、前文の直後ではなく、クレームの本文の条項に現れる場合、それは、その条項に定める要素のみを制限する。その他の要素は、全体としてクレームから除外されない。
【0041】
「本質的にからなる」という移行句は、請求の範囲を、特定のクレーム要素、物質またはステップ、および請求された発明の基本的および新規な特性に実質的に影響しないその他のものに限定する。したがって、「本質的にからなる」クレームは、「からなる」形式で記述されたクローズドクレームと、「構成する」形式で起草された完全にオープンなクレームの中間を占める。添加物にとして適切なレベルである本明細書で定義される任意の添加物、および微量不純物は、「本質的にからなる」という用語によって組成物から除外されない。
【0042】
さらに、反対の明示がない限り、「または」および「および/または」は、排他的ではなく、包括的を指します。たとえば、条件AまたはB、またはAかつ/またはBは、Aが真 (または存在)で Bが偽 (または存在しない)、Aが偽 (または存在しない)でBが真 (または存在する)、AとBの両方が真 (または存在する)のいずれかによって満たされる。
【0043】
本明細書における様々な要素および構成要素を説明するための「a」または「an」の使用は、単に便宜上、および開示の一般的な意味を与えるためである。この記述は、1つまたは少なくとも1つを含むように読む必要があり、単数形は、そうでないことを意味することが明らかでない限り、複数形も含む。
【0044】
一態様において、本開示は、細胞を休眠間葉系幹細胞 (MSC)と接触させることを含む、細胞内の酸化ストレスを低減する方法に関する。本明細書で使用される「接触」とは、直接的な細胞間接触、ならびにアミノ酸、タンパク質、脂質、核酸 (例えばmRNA)、酵素、ホルモン、神経伝達物質、エクトソーム、およびエクソソームなどの分泌シグナル伝達分子および構造を介した間接的な接触、またはMSCが存在する微小環境またはニッチに標的細胞を配置することを指す。本開示の方法および組成物の「間葉系」幹細胞は、別の実施形態では、骨髄から単離または精製される。別の実施形態では、細胞は骨髄由来の間葉系幹細胞である。別の実施形態では、細胞は脂肪組織から単離または精製される。いくつかの実施形態において、MSCは、脂肪組織由来間質細胞 (ADSC)である。いくつかの実施形態において、MSCの供給源は、臍帯であり得る。いくつかの態様において、MSCの供給源は、歯髄であり得る。いくつかの実施形態において、MSCの供給源はウォートンゼリーであり得る。いくつかの態様において、MSCの供給源は羊水であり得る。いくつかの態様において、MSCの供給源は胎盤であり得る。いくつかの態様において、MSCの供給源は末梢血であり得る。いくつかの態様において、MSCの供給源は滑膜であり得る。いくつかの態様において、MSCの供給源は滑液であり得る。いくつかの態様において、MSCの供給源は子宮内膜であり得る。いくつかの態様において、MSCの供給源は、皮膚組織であり得る。いくつかの態様において、MSCの供給源は皮膚であり得る。いくつかの実施形態において、MSCの供給源は筋肉であり得る。
【0045】
別の実施形態では、細胞は軟骨から単離または精製される。別の実施形態では、細胞は、当該技術分野において公知の他の任意の組織から単離または精製される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0046】
「休眠」の定義には以下が含まれるが、これらに限定されない。「休眠」とは、顕著な複製の欠如を指す。別の実施形態では、この用語は、複製のレベルが有意に低下していることを指す。別の実施形態では、この用語は、大きな割合の細胞が細胞周期を停止させていることを指す。別の実施形態では、細胞はG1期で停止している。別の実施形態では、細胞はG2期で停止している。別の実施形態では、「休眠」は、当該用語の他の技術上認められた任意の定義を指す。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。いくつかの実施形態において、「休眠」MSCはSASPを呈しない。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の休眠MSCは、(i)増殖の欠如、(ii)分化の欠如、(iii) タンパク質を発現する細胞の能力、および/または(iv)化学的刺激、機械的刺激、物理的要因またはそれらの組み合わせへの曝露時に増殖および分化を再開する細胞の能力によって特徴付けられる。
【0047】
間葉系幹細胞の増殖能および分化能を決定する方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、Baxter MAら (テロメア長の研究により、in vitro展開後のヒト骨髄間質細胞の急速な老化が明らかになる Stem Cells 2004,22(5) 675-82)、Liu L ら (テロメラーゼ欠損は間葉系幹細胞の分化を損なう Exp Cell Res 2004 Mar 10,294(1) 1-8)、Bonab MM et al (in vitroでの間葉系幹細胞の老化 BMC Cell Biol、2006 Mar 10,7 14)。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0048】
いくつかの実施形態において、休眠MSCによって接触される細胞は、臓器の細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は内皮細胞である。追加の実施形態では、細胞は肺細胞である。追加の実施形態において、細胞は皮膚細胞である。追加の実施形態において、細胞は、心筋細胞、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、および筋線維芽細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞であってもよい。追加の実施形態では、細胞は、マクロファージ、単球、樹状細胞、および免疫細胞からなる群から選択される 1つ以上の細胞であってもよい。追加の実施形態において、細胞は、肺上皮細胞および気管支上皮細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞であってもよい。追加の実施形態において、細胞は、尿細管上皮細胞、足細胞、間質細胞、およびメサンギ ウム細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞であってもよい。 追加の実施形態において、細胞は、脂肪細胞、筋管、筋細胞、肝細胞、胆管上皮細胞、および膵臓ベータ細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞であってもよい。 追加の実施形態において、細胞は、網膜細胞、神経細胞、およびグリア細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞であってもよい。 追加の実施形態では、細胞は癌細胞であってもよい。追加の実施形態において、細胞は、ケラチノサイトおよびメラノサイトからなる群から選択される1つ以上の細胞であってもよい。 追加の実施形態において、細胞は、消化管上皮細胞および結腸上皮細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞であってもよい。追加の実施形態では、細胞は、骨芽細胞、骨細胞、および破骨細胞からなる群から選択 される1つ以上の細胞であってもよい。 追加の実施形態では、細胞は腺細胞であってもよい。追加の実施形態において、細胞は、造血幹細胞および前駆細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞であってもよい。
【0049】
いくつかの実施形態では、休眠MSCは、約150 Pa~約750 Paの剛性を有する基材上でMSCを培養することによって調製される。追加の実施形態では、休眠MSCは、約150 Pa~約750 Paまでの均一な剛性を有する基材上でMSCを培養することによって調製される。さらなる実施形態において、基材はゲルである。さらにさらなる実施形態において、ゲルは、2次元ゲルまたは 3次元ゲルであってもよい。
【0050】
培養は、別の実施形態では、少なくとも5日間行ってもよい。別の実施形態では、培養のステップは、少なくとも4日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも6日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも7日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも8日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも10日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも12日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは、少なくとも15日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも20日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも25日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも30日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも35日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも40日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも50日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは少なくとも60日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは4日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは6日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは7日間以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは8日間以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは10日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは12日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは15日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは20日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは25日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは30日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは35日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは40日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは、50日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは60 日以上行われる。別の実施形態では、培養のステップは4日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは6日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは7日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは8日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは10日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは12日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは15日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは20日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは25日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは30日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは35日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは40日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは50日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは60日間行われる。別の実施形態では、培養のステップは、60日を超えて行われる。 別の実施形態では、間葉系幹細胞集団を本発明のゲルまたはマトリックス中で培養するステップは、組織培養装置で間葉系幹細胞を培養するステップに先行される。別の実施形態では、組織培養装置はディッシュである。別の実施形態では、組織培養装置はプレートである。別の実施 形態では、組織培養装置はフラスコである。別の実施形態では、組織培養装置はボトルである。別の実施形態では、組織培養装置はチューブである。別の実施形態では、組織培養装置は、3次元スフェロイドを培養することができるものを含む、当該技術分野において公知の他のタイプの組織培養装置である。別の実施形態では、培養のステップは、例えば本発明のゲルまたはマトリックスの存在下にない組織培養培地中で間葉系幹細胞を培養するステップに先行される。別の実施形態では、組織培養装置または組織培養培地中で細胞を培養するステップは、生体試料から間葉系幹細胞集団を単離した後に行われる。別の実施形態では、培養のステップは、生体試料から間葉系幹細胞集団を精製した後に行われる。別の実施形態では、培養のステップは、生体試料中の間葉系幹細胞集団を濃縮した後に行われる。各可能性は本発明の別個の実施形態を表す。
【0051】
いくつかの態様において、最適化された粘弾性特性を有するソフトゲルは、休眠MSCを産生するために使用され得る。いくつかの実施形態において、休眠細胞を産生する例示的な方法は、米国特許第10,214,720号および第11,083,190号に開示されており、これらは、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0052】
一実施形態において、本明細書に記載のゲルマトリックスは、それらの構造および濃度に応じて、ならびに、別の実施形態においては、イオン強度、pHおよび温度などの環境因子に応じて、様々な強度のゲルを形成することができる。一実施形態において「粘弾性」と呼ばれる粘度およびゲルの挙動の組み合わせは、周期的に振動する力が資材の動きに及ぼす影響を決定することによって調べられる。別の実施形態では、弾性 (G')、粘性率 (G")、および複素粘性率 (η*)は、本明細書に記載の方法を使用して変更しようとしたパラメータであり、これらは、応力またはひずみのいずれかを時間に合わせて変化させることによって、別の実施形態で分析される。これらのパラメータは、最大応力と最大ひずみの比である複素弾性率 (G*)と、応力とひずみの位相がずれる角度である位相角 (ω)から導き出される。
【0053】
一実施形態では、本明細書に記載のゲルマトリックスにおいて、せん断応力によって引き起こされる変形の一部は弾性であり、力が除去されるとゼロに戻るであろう。一実施形態における溶媒を通じた摺動変位によって生じる鎖の変形など、残留する変形は、力が取り除かれたときにゼロには戻らない。一定の力の下では弾性変位は、一実施形態では一定に保たれるが、一方、摺動変位は継続し、したがって増加する。
【0054】
一実施形態において、「弾性の」または「弾性」という用語、および同様の用語は、本明細書に記載のゲルマトリックスの物理的特性、すなわち、機械的力の下での ゲルの変形可能性、および変形力が除去されたときにゲルマトリックスがその元の形状を保持する能力を指す。別の実施形態では、「弾性率」という用語はヤング率を指し、(a)資材の軸に沿った一軸応力と、(b)その軸に沿って付随する垂直ひずみとの比の尺度である。
【0055】
せん断弾性率(ひずみの変化の結果、発生する)は、せん断ひずみに対するせん断応力の比率である。上記のような複雑な関係から、次のようになる。
G*=G'+iG"
ここで、G* は複素せん断弾性率、G' は同相貯蔵弾性率、i は素材関連係数、G" は非同相の同方向損失弾性率である。G* = E(G'2 + G"2) である。これらのパラメータが交差する周波数は、素材に固有の緩和時間 (τ)に対応する。
【0056】
一実施形態では、本明細書に記載のゲルマトリックスの線形粘弾性特性は、小振幅でかつ可変角周波数を有する振動剪断流における測定によって決定される。ここでは、G'とG"の値は、水溶液中のポリマーの濃度と代表的な粘度値の大小によって大きく決定される。したがって以下では、角周波数ωが増加するに伴っての G'と G"の相対的な経過のみを考慮する。別の実施形態では、水溶液のポリマーの濃度が1.5~2%(w/w)であり、温度が約20°C の場合、ポリマーに対するG'およびG"の挙動は、低い角周波数 (ωは貯蔵弾性率G'は損失弾性率G"よりも小さいが、角周波数の増加に伴ってG'はG"よりも大きく増加する。別の実施形態では、ある角周波数を超えるG'は、最終的にG"よりも大きくなり、角周波数の高い値での溶液は、したがって主に弾性的に反応する。この振る舞いは、本明細書に記載の変調方法を用いて減弱または変更される。
【0057】
一実施形態において、剛性または硬さは、観察または測定されたG'値を指す。
【0058】
別の実施形態では、本明細書に記載の基材、ゲルまたはゲルマトリックスは、接着タンパク質を含む溶液でコーティングされてもよい。別の実施形態では、接着タンパク質はコラーゲンである。別の実施形態では、接着タンパク質は1型コラーゲンである。別の実施形態では、接着タンパク質はフィブロネクチンである。別の実施形態では、接着タンパク質は、当該技術分野において公知の任意の他の接着タンパク質である。別の実施形態では、ゲルまたはマトリックスは、接着タンパク質の組み合わせを含む溶液でコーティングされる。別の実施形態では、ゲルまたはマトリックスは、コラーゲンおよびフィブロネクチンを含む溶液でコーティングされる。別の実施形態では、ゲルまたはマトリックスは、1型コラーゲンおよびフィブロネクチンを含む溶液でコーティングされる。各可能性は、本開示の別個の実施形態を表す。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のゲルまたはマトリックスは、接着分子を含んでもよい。「接着分子」とは、基材と、例えば本明細書に記載のMSCなどの細胞との間の接着を媒介し得る分子を指す。追加の実施形態では、接着分子は、RGD を含むペプチドであってもよい。 追加の実施形態において、接着分子はインテグリン分子を含むペプチドであってもよい。
【0059】
別の実施形態では、本開示の方法および組成物のコラーゲンは、組換えコラーゲンである。別の実施形態では、コラーゲンは生物学的供給源から精製される。別の実施形態では、コラーゲンは1型コラーゲンである。別の実施形態では、コラーゲンは、当該技術分野において公知の他のタイプのコラーゲンである。各可能性は、本開示の別個の実施形態を表す。
【0060】
別の実施形態では、本開示の方法および組成物のフィブロネクチンは、組換えフィブロネクチンである。別の実施形態では、フィブロネクチンは生物学的供給源から精製される。別の実施形態では、フィブロネクチンは、1型フィブロネクチンである。別の実施形態では、フィブロネクチンは、当該技術分野において公知の他のタイプのフィブロネクチンである。各可能性は、本開示の別個の実施形態を表す。
【0061】
いくつかの態様において、 本明細書に記載のゲルは、ゲル化剤を含む。 本開示の方法および組成物のゲル化剤は、別の実施形態では、アクリルアミドである。別の実施形態では、ゲル化剤は、アクリルアミド-ビスアクリルアミド混合物である。別の実施形態では、ゲル化剤はアクリルアミドを含む。別の実施形態では、ゲル化剤は、アクリルアミド-ビスアクリルアミド混合物を含む。各可能性は、本開示の別個の実施形態を表す。
【0062】
いくつかの態様において、本明細書に記載のゲルは、ナノファイバーを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載のゲルは、共有結合ポリマーを除外する。
【0063】
一実施形態において、150 ~ 750Pa の範囲の剛性を有するゲルマトリックス; および脂肪細胞誘導培地が提供されていて、前記ゲルまたはマトリックスは、1型コラーゲン、フィブロネクチン、またはそれらの組み合わせでコーティングされている。別の実施形態では、ゲルマトリックスは、ゲル化剤およびアクリルアミド-ビスアクリルアミド混合物を含む。いくつかの実施形態において、前記ゲルマトリックスは、1型コラーゲン、フィブロネクチン、またはそれらの組み合わせでコーティングされているか、またはこれらを含み、150 ~ 750 Paの範囲の剛性を有する。別の実施形態では、ゲルマトリックスは、ゲル化剤を含み、前記ゲルマトリックスは、1型コラーゲン、フィブロネクチン、またはそれらの組み合わせでコーティングされ、前記ゲルマトリックスは、所定の剛性に維持され、ゲルマトリックスを成長調節因子に曝露している。別の実施形態では、ゲルマトリックスは、体性幹細胞の膜上のインテグリンに結合する細胞外材料を含み、前記ゲルマトリックスは、生体内の同型の体性幹細胞に主要な生体内微小環境の弾力性と実質的に類似した弾力性を有し、体性幹細胞に生体外において、体性幹細胞の生物学的活性を維持するための栄養物質を提供する。いくつかの実施形態において、ゲルマトリックスは、少なくとも 150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、 580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、または 740 Paの剛性を有する。 いくつかの実施形態において、ゲルマトリックスは、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、 610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750 Paまたは未満の剛性を有する。
【0064】
プロテアーゼ阻害剤は、ゲルまたはゲルマトリックスに含めることができる。プロテアーゼ阻害剤は、タンパク質であり得る。いくつかの態様において、プロテアーゼ阻害剤は、システインプロテアーゼ阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤 (セルピン)、トリプシン阻害剤、スレオニンプロテアーゼ阻害剤、アスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤、またはメタロプロテアーゼ阻害剤である。他の実施形態では、プロテアーゼ阻害剤は、自殺阻害剤、遷移状態阻害剤、またはキレート剤である。プロテアーゼ阻害剤は、ダイズトリプシン阻害剤 (SBTI)であり得る。別の実施形態では、プロテアーゼ阻害剤はAEBSF-HCl である。別の実施形態では、インヒビターは(イプシロン)-アミノカプロン酸である。別の実施形態では、インヒビターは(α)1-アンチキモタイプシンである。別の実施形態では、インヒビターはアンチトロンビンIIIである。別の実施形態では、インヒビターは、(α)1-アンチキモトリプシン([α]1-プロテイナーゼインヒビター)である。別の実施形態では、インヒビターは APMSF-HCl (4-アミジノフェニル-メタンスルホニル-フッ化物)である。別の実施形態では、インヒビターはアプロチニンである。別の実施形態では、インヒビターはベンズアミジン-HCl である。別の実施形態では、インヒビターはキモスタチンである。別の実施形態では、阻害剤はDFP (ジイソプロピルフルオロホスフェート)である。別の実施形態では、インヒビターはロイペプチンである。別の実施形態では、インヒビターはPEFABLOC(登録商標) SC (4-(2-アミノエチル)-ベンゼンスルホニルフッ化物塩酸塩)である。別の実施形態では、インヒビターはPMSF (フッ化フェニルメチルスルホニル)である。別の実施形態では、インヒビターはTLCK (1-クロロ-3-トシルアミド-7-アミノ-2-ヘプタノン HCl)である。別の実施形態では、インヒビターは TPCK(1-クロロ-3-トシルアミド-4-フェニル-2-ブタノン)である。別の実施形態では、インヒビターは卵白由来のトリプシンインヒビター (Ovomucoid)である。別の実施形態では、インヒビターはダイズ由来のトリプシンインヒビターである。別の実施形態では、インヒビターはアプロチニンである。別の実施形態では、インヒビターはペンタミジンイセチオン酸である。別の実施形態では、インヒビターはペプスタチンである。別の実施形態では、インヒビターはグアニジウムである。別の実施形態では、インヒビターはα2-マクログロブリンである。別の実施形態では、インヒビターは亜鉛のキレート剤である。別の実施形態では、インヒビターはヨードアセテートである。別の実施形態では、インヒビターは亜鉛である。各可能性は、本開示の別個の実施形態を表す。
【0065】
組換えフィブリンまたはフィブリノーゲンタンパク質をゲル化剤として含めることができる。フィブリンまたはフィブリノーゲンタンパク質は、変温動物のものとすることができる。別の実施形態では、フィブリンまたはフィブリノーゲンタンパク質は、恒温動物のフィブリンまたはフィブリノーゲンタンパク質である。別の実施形態では、フィブリンまたはフィブリノーゲンは魚に由来する。別の実施形態では、フィブリンまたはフィブリノーゲンは、サケに由来する。別の実施形態では、フィブリンまたはフィ ブリノーゲンは、当該技術分野において公知の他の任意の魚類に由来する。別の実施形態では、フィブリンまたはフィブリノーゲンは、当該技術分野において公知の他の任意の変温動物に由来する。別の実施形態では、フィブリンまたはフィブリノーゲンは、哺乳動物に由来する。別の実施形態では、フィブリンまたはフィブリノーゲン は、ヒトフィブリンまたはフィブリノーゲンである。別の実施形態では、フィブリンまたはフィブリノーゲンは、ウシフィブリンまたはフィブリノーゲンである。別の実施形態では、フィブリンまたはフィブリノーゲンは、当該技術分野において公知の任意の他の哺乳動物由来である。別の実施形態では、フィブリンまたはフィブリノーゲンは、当該技術分野において公知の任意の他の恒温動物に由来する。各可能性は、本開示の別個の実施形態を表す。
【0066】
一態様において、本開示は、対象における老化関連状態の予防、改善、治療に関し、上述した休眠MSCおよび休眠MSCに接着する基材を含む組成物の有効量を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、基材は、ゲルまたはゲルマトリックスであってもよい。
【0067】
いくつかの実施形態において、対象に投与される基材またはゲルは、休眠状態を維持または誘導するためにMSCが以前に培養された基材またはゲルと同じ基材またはゲルであってもよいし、そうでない場合もある。休眠MSCに付着する基材は、上述したようにMSCにおける休眠状態を維持・誘導するゲルであってもよい。
【0068】
いくつかの態様において、老化関連状態は酸化ストレスによって引き起こされる。追加の実施形態において、酸化ストレスは、慢性的な酸化ストレスである。
【0069】
いくつかの態様において、老化関連状態はサルコペニアである。いくつかの態様において、老化関連状態はフレイルである。 いくつかの態様において、老化関連状態は、老化関連疾患である。いくつかの態様において、老化関連状態は、創傷治癒の低下である。いくつかの態様において、老化関連状態は、糖尿病における創傷治癒の低下である。いくつかの態様において、老化関連状態は糖尿病性潰瘍である。いくつかの態様において、老化関連状態は、歯列矯正疾患である。いくつかの態様において、老化関連状態は自己免疫疾患である。いくつかの態様において、老化関連状態は炎症性疾患である。いくつかの態様において、加齢関連状態は、炎症性呼吸器疾患である。いくつかの態様において、老化関連状態はウイルスによって引き起こされる炎症性呼吸器疾患である。いくつかの態様において、老化関連状態はコロナウイルスによって引き起こされる炎症性呼吸器疾患である。いくつかの態様において、老化関連状態は、急性肺傷害である。いくつかの態様において、加齢関連状態はLPS 誘発性急性肺傷害である。「有効量」または「治療上有効量」という用語は、有益または望ましい結果をもたらすのに十分な薬剤の量を指す。治療有効量は、治療対象および治療される疾患状態、対象の体重および年齢、疾患状態の重症度、加齢関連疾患/状態以外の既存の疾患の存在、投与方法などによって異なり、当業者の1 人によって容易に決定され得る。この用語は、本明細書に記載のイメージング方法のいずれか1 つによる検出のための画像を提供する用量にも適用される。特定の用量は、選択された特定の薬剤、従うべき投与計画、他の化合物と組み合わせて投与されるかどうか、投与のタイミング、画像化される組織、およびそれが運ばれる物理的送達システムのうちの1 つ以上に応じて変化し得る。
【0070】
いくつかの態様において、疾患を治療する方法は、疾患または状態に関して肯定的な治療応答を提供する。「肯定的な治療反応」とは、疾患または状態の改善、および/または疾患または状態に関連する症状の改善を意図する。対象の治療方法の治療効果は、任意の適切な方法を用いて評価することができる。いくつかの態様において、対象方法は、治療を受ける前の対象と比較して、対象における疾患関連タンパク質沈着の量を少なくとも 5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または 99%減少させる。
【0071】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法で治療することができる対象は、限定するものではないが、マウス、ラット、イヌ、ヒヒ、ブタまたはヒトなどの哺乳類対象を含む。いくつかの実施形態において、被験体はヒトである。この方法は、少なくとも 25歳、30歳、35歳、40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、または100歳の被験者を治療するために使用できる。いくつかの態様において、対象は、少なくとも1つ、2つ、3つ、または 4つの疾患について治療される。
【0072】
いくつかの態様において、投与は、注射、マイクロ皮膚注射、または局所適用によって行われる。いくつかの態様において投与は、腹腔内、皮下、筋肉内または静脈内注射によって行われる。
【0073】
いくつかの態様において、組成物は、化粧品組成物であってもよい。いくつかの態様において、組成物は医薬組成物であってもよい。
【0074】
一態様において、本開示は、休眠MSCおよび上記開示の休眠MSCに接着する基材を含む化粧品または医薬組成物に関する。上述したように、基材はゲルまたはゲルマトリックスであってもよい。
【0075】
医薬および化粧品組成物は、それだけには限定されないが、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または1つかそれ以上の追加の医薬品有効成分 (「API」) の有無にかかわらず、ヒアルロニダーゼまたは免疫グロブリン (IG)が投与される媒体を含む担体を含んでもよい。好適な医薬品担体の例は、E. W. Martin による「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、患者への適切な投与のための形態を提供するよう、適切な量の担体とともに、一般に精製された形態または部分的に精製された形態で治療的に有効な量の化合物を含んでもよい。そのような医薬担体は、ピーナッツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油などの石油、動物、植物または合成由来のものを含む、水および油などの無菌液体であり得る。水は、医薬組成物を静脈内投与する場合の典型的な担体である。生理食塩水溶液、デキストロース水溶液、グリセロール溶液も、特に注射用溶液の場合、液体担体として使用できる。組成物は、有効成分とともに;乳糖、ショ糖、リン酸二カルシウム、またはカルボキシメチルセルロースなどの希釈剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルクなどの潤滑剤;デンプン、アカシアゼラチンガムなどの天然ガム、ブドウ糖、糖蜜、ポリビニルピロリジン、セルロースとその誘導体、ポビドン、クロスポビドンといったバインダーおよび当業者に公知の他のバインダーを含有することができる。好適な医薬賦形剤は、デンプン、ブドウ糖、乳糖、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、およびエタノールを含む。組成物は、所望により、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤、例えば、酢酸塩、クエン酸ナトリウム、シクロデキストリン誘導体、モノラウリン酸ソルビタン、酢酸トリエタノールアミンナトリウム、オレイン酸トリエタノールアミン、および他のそのような薬剤を含有することもできる。
【0076】
本発明の方法は、生体内だけでなく生体外で実施されてもよい。そのようなシステムは、例えば、体内で幹細胞を休眠状態に維持するよう、特定の組織または循環系に挿入するための多孔質構造を含み得る。例えば、幹細胞、それに対応するECM、およびオプションで結合材料は、休眠を誘導または維持するため、幹細胞にから見て適切な弾力性を有し、また生体内の栄養素が参謀に到達することを可能にしてかつ細胞によって発現されるタンパク質および他の因子がマトリックスを離れることを可能にするのに十分な多孔性を有するポリマーマトリックス中に分散されてもよい。他の実施形態は、幹細胞に休眠を誘導または維持するカセットまたは他の装置を含み得、それは宿主に移植され得る。
【0077】
本発明のさらなる態様は、体外で生物活性を保つ休眠幹細胞の使用を包含する。本明細書に記載の幹細胞の例は、体性幹細胞または胚性幹細胞、ヒト幹細胞または動物幹細胞、間葉系幹細胞 (MSC)、骨髄由来MSC、腎幹細胞、肝由来幹細胞、骨格筋由来MSC、骨由来 MSC、歯髄MSC、心筋由来MSC、滑液由来MSC、または臍帯MSCを含み得る。
【0078】
本開示のいくつかの態様は、休眠を導入し維持することによるその強力な免疫調節機能および抗炎症機能、ならびに供給源への容易なアクセスのため、MSCに基づく細胞療法の探索において最も頻繁に試験されるMSCの1 つのタイプである脂肪組織由来間質細胞 (ADSC)における、ストレス誘発性細胞老化随伴分泌現象 (SASP)の逆転に関する。加齢性疾患や状態に大きな役割を果たすことが知られている酸化ストレスが、非休眠ADSC において早期老化とSASPを引き起こすという証拠が提供されている。しかし、柔らかい環境で培養することによってADSCに休眠状態を導入し、維持することが、ADSCの早期老化をなくし、隣接する内皮細胞の酸化ストレスによる死滅をなくしうる。さらに、休眠状態のADSCが生体内においてで抗炎症機能を発揮する可能性があるという証拠が提供されている。老化細胞に由来するセクレトームおよび細胞外小胞 (エクソソーム)は、隣接する細胞または近くの細胞に影響を与える可能性がある。さらに、現在のMSCに基づく細胞療法では、静脈内注射または局所投与されたMSCが、炎症を起こした損傷組織や臓器に移動する可能性がある。一方、ゲルに包まれて腹腔内に投与されたADSCは腹膜にとどまるが、ADSCがある場所から離れた肺の炎症を抑制できるという考えをデータは支持する。
【0079】
間葉系幹細胞 (MSC)は、免疫調節機能や抗炎症機能から、さまざまな疾患の細胞治療に最も有望な幹細胞の一種である。しかし、細胞ストレスによって引き起こされる MSCの老化は、その抗炎症機能を廃止し、むしろ細胞老化随伴分泌現象 (SASP)と呼ばれる分泌プロファイルを介して隣接する細胞や組織に炎症を伝播させる。いくつかの実施形態では、休眠はストレス誘発性老化を逆転させ、休眠MSCにおけるSASPの喪失は、隣接する細胞を若返らせるであろう。この目的のために、脂肪組織由来間質細胞 (ADSC)が休眠させられるためにソフトゲルに入れられた。これらのADSCは、TNFαおよびIFNγの存在下でも、インドールアミン 2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO)の発現を劇的に上昇させた。酸化ストレスは、非休眠状態のADSCによるIL-6分泌を弱め、MCP-1を刺激したが、一方で細胞がまだ非休眠状態にある間に酸化ストレスにさらされた後、休眠状態となったADSCによるIL-6分泌を刺激し、MCP-1分泌を弱めた。これらの休眠ADSC は、ストレス誘発性細胞死から内皮細胞を無事に救った。ゲルとADSCの混合物をマウスに腹腔内投与してから7日後、ADSCは依然として局所に同定され、マウスのLPS誘発性急性肺傷害を無事に防いだ。これらの結果は、休眠状態がADSCの老化プロセスを逆転させ、他の細胞を局所的および遠隔的に若返らせることができることを示唆する。
【実施例】
【0080】
略語 -TNF; 腫瘍壊死因子、IFN; インターフェロン、2D; 二次元、3D; 三次元、Pa; パスカル、MSC; 間葉系幹細胞、ADSC; 脂肪由来間質/幹細胞、BMSC; 骨髄由来幹細胞、NFBC; ナノファイバーバクテリアセルロース、Pa; パスカル、H&E染色; ヘマトキシリンおよびエオシン染色、SASP; 細胞老化随伴分泌現象、PBS; リン酸緩衝生理食塩水。
【0081】
材料 - ヒトADSCおよびBMSCはロンザ (スイス、バーゼル)から購入し、ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC)は徳島大学の松久宗秀博士からの寛大な贈り物であった。VitroGel-RGD PLUSは、TheWell Bioscience (米国ニュージャージー州ニューブランズウィック) から購入した。ナノファイバーバクテリアセルロース(3D-NANOFIBGROW-I)ゲルは、Nano T-Sailing (徳島県、日本)から購入した。Click-iT EdUイメージングキットは、Invitrogen (米国マサチューセッツ州ウォルサム)から購入した。IL-6およびMCP-1のELISAキットはR&D Systems (米国ミネソタ州ミネアポリス)からで、IDOのELISAキットはAbcam (英国、ケンブリッジ)からであった。Cell Counting Kit-8は、Dojindo (熊本県、日本)から購入した。DiIはInvitrogen (マサチューセッツ州ウォルサム)から購入した。C57BL/6 マウスは、Charles River Laboratories (米国マサチューセッツ州ウィルミントン)から購入した。大腸菌由来のLPS(血清型O111:B4)は、Sigma-Aldrich (米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。EGM-2培地およびサプリメントは、Lonza (スイス、バーゼル)から購入した。抗CD31抗体はPROTEINTECH (イリノイ州ローズモント) から購入し、抗CD90 抗体はLifespan Biosciences (ワシントン州シアトル)から購入した。他のすべての化学物質は分析グレードであった。
【0082】
細胞培養- ADSCおよびBMSCは、組織培養プラスチック皿上で10%ウシ胎児血清を添加した低グルコースダルベッコ改変培地で維持された。少なくとも実施例13~21において、VitroGel RGD-PLUSおよびNFBCの剛性は、メーカーの情報によれば150と750 Paの間であった。HUVECはメーカーが推奨するサプリメントを添加したEGM-2 培地で維持されたが、高グルコース処理または高マンニトール処理を開始する時、10%ウシ胎児血清を添加したダルベッコ改変培地 (低グルコース)に切り替えられた。
【0083】
35 mMまたは 50 mMのグルコース処理では、グルコースの最終濃度がそれぞれ 35 mMまたは 50 mMに達するように、10%ウシ胎児血清を添加した低グルコースダルベッコ改変培地 (5 mMグルコース)にグルコースが添加された。5 mMグルコース + 30 mMマンニトール処理では、マンニトールの最終濃度が30 mMに達するように、10%ウシ胎児血清を添加した低グルコースダルベッコ改変培地 (5 mM グルコース) にマンニトールが添加された。
【0084】
リン酸緩衝生理食塩水 (PBS)に懸濁されたADSCの有無にかかわらず、250 PaのVitroGel-RGD PLUSゲルおよび3D-NANOFIBGROW-Iゲルの調製は、メーカーの指示に従って行われた。
【0085】
準三次元培養 - 三次元(3D)環境を模倣するため、基材のサンドイッチが、若干の変更を加えながら前述のように組み上げられた (Winer JP, Janmey PA, McCormick ME, Funaki M (2009) 骨髄由来ヒト間葉系幹細胞は柔らかい基材上で休眠するが、化学的または機械的刺激に反応し続ける。Tissue Eng Part A 15: 147-154)。BMSCまたはADSCのいずれかが、VitroGel-RGD PLUSで覆われた6ウェルプレートに、ウェルあたり1.25-5 x 104個の細胞の細胞密度で播種された。24時間培養後、余分な培地が除去され、蒔かれたゲルの上にガラスカバーガラスが置かれた。カバーガラス近傍に細胞を持ってくるため、滅菌された35gの重りがサンドイッチの上に60秒間置かれた。重りが除去された後、培地が再導入され、細胞はサンドイッチの中に24時間放置された。細胞はが増加されるか、増殖アッセイまたはデヒドロゲナーゼ活性の測定に供された。
【0086】
高グルコース処理では、グルコースの最終濃度が35 mMに達するように、10%ウシ胎児血清が添加された低グルコースダルベッコ改変培地 (5 mMグルコース)にグルコースが添加された。マンニトール処理では、マンニトールの最終濃度が30 mMに達するように、10%ウシ胎児血清が添加された低グルコースダルベッコ改変培地(5 mMグルコース)にマンニトールが添加された。
【0087】
リン酸緩衝生理食塩水 (PBS)に懸濁された細胞の有無にかかわらず、VitroGel- RGD PLUSゲルおよび3D-NANOFIBGROW-Iゲルの調製は、メーカーの指示に従って行われた。
【0088】
動物実験 - 実験プロトコールは徳島大学動物実験倫理審査委員会で承認された。リポ多糖類 (LPS)を注射するために、1 mg/ml LPS溶液が生理食塩水で調製された。8~12週齢の雄マウスに、以前に報告されたように、5 mg/kg LPSが腹腔内注射された (Hwang JS, Kim KH, Park J, Kim SM, Cho H, et al.(2019)グルコサミンは敗血症のマウスモデルでの生存を改善し、敗血症誘発肺傷害および炎症を軽減する。J Biol Chem 294: 608-622)。実施例13~21に関し、8~12 週齢のC57BL/6 雄マウスは、約300μlのゲル、またはADSC或いはBMSCのいずれかを含有するゲルを皮下注射された。
【0089】
イメージング - 免疫染色は、前述のように実施された (Funaki M, Randhawa P, Janmey PA (2004) インスリン信号伝達のGLUT4転移と活性化それぞれのステップへの分離 Mol Cell Biol 24: 7567-7577)。
【0090】
増殖アッセイについては製造元の指示に従い、細胞はEdUの存在下で一晩 (実施例13~21の場合は24時間)培養され、EdU取り込みが可視化されて、核を可視化する Hoechst33342染色の画像と比較された。ヘマトキシリンとエオシンの染色は、徳島大学大学院医歯薬学研究部総合研究支援センター先端医科学研究部門で行われた。すべての画像はキーエンスBZ-X800顕微鏡 (大阪、日本)で取得された。各サンプルの画像は、ランダムに選択された少なくとも3つの視野で取得された。
【0091】
ELISA (IDO、IL-6、MCP-1) -プレートの底に直接播種されたか、ゲルに埋め込まれた104 個のADSCが、96ウェル組織培養プラスチックプレートの各ウェルに調製され、200μlの培地で培養された。細胞は図に記載のとおりに処理された。IDO ELISAについては、処理後に培地が除去され、細胞抽出物が調製され、メーカーの指示に従ってELISA に供された。IL-6およびMCP-1 ELISAでは、各サンプルから上清100μlが採取され、細胞の破片を除去するため1000gで遠心分離され、100μlの新鮮な培地と混合した後、メーカーの指示に従ってELISAに供された。
【0092】
生存能力アッセイ - 103個のHUVECが96ウェル組織培養プレートの各ウェルに播種された。図に記載のとおり、培地中に未処理のまま放置されるか、高グルコースまたは高マンニトールで処理された後、ADSCの馴化培地で処理され、前述のようにCell Counting Kit-8を利用してWST-8アッセイを使って細胞生存能力が測定された (Lei LT, Chen JB, Zhao YL, Yang SP, He L (2016) レスベラトロールはPim-1を介し、脂肪由来間葉系幹細胞の老化を弱め、INS-1細胞のインスリン分泌を促進するパラクリン効果を回復させる。Eur Rev Med Pharmacol Sci 20: 1203-1213)。
【0093】
統計解析 - p値は対応のないスチューデントのt検定を用いて計算された; p<0.05 の値が有意であるとみなされた。
【0094】
実施例1: ソフトゲル中でのADSCの三次元培養がADSCを休眠状態にした。
【0095】
ADSCがソフトゲル中で休眠状態になるかどうかを調べるため、ADSCを含む250 PaのVitroGel-RGD PLUSが調製され、血清存在下で培養された。
【0096】
ADSCは、組織培養プレート (Tissue Culture Plate)に播種されるか、250 PaのVitroGel-RGD PLUSゲルに包埋された。ADSCの形態は位相差顕微鏡で評価された (トップパネル)。増殖アッセイは上方のパラグラフ[0089]に記載のとおりに実施された。EdU陽性細胞 (中央のパネル)と、すべての核を示すHoeshcst33342染色 (下のパネル)が同じ視野で比較された。1つの実験の代表的な画像を示され、他の2つの独立した実験でも同様の結果が得られた。
【0097】
ADSCがコントロールとしてプラスチック製の組織培養プレートに蒔かれた時、紡錘体形状を示し、核の約20%がEdU存在下での一晩の培養中に増殖した細胞集団であることを示すEdU陽性であった (
図1)。一方、ゲル中の細胞は丸い形状を呈し、EdUの取り込みは認められなかったが、これは以前に報告された250Paのポリアクリルアミドゲルの表面に播種された休眠骨髄由来間葉系幹細胞と同じ特徴である (Winer JP, Janmey PA, McCormick ME, Funaki M (2009) 骨髄由来ヒト間葉系幹細胞は柔らかい基材上で休眠するが、化学的または機械的刺激に反応し続ける。Tissue Eng Part A 15: 147-154)。これらの結果は、ソフトゲル中でのADSCの三次元培養は、これらの細胞を休眠させることを示唆している。
【0098】
実施例2: 休眠ADSCは、体外炎症モデルにおいて、非休眠ADSCよりも優れた抗炎症因子発現を示した 。
【0099】
休眠ADSCと非休眠ADSCの間で抗炎症機能を体外において比較するため、ADSCの抗炎症機能に大きな役割を果たすことが知られているIDOの発現レベルが調べられた。
【0100】
患者の炎症環境を模倣するために、細胞はTNFαとIFNγの組み合わせで処理された。ADSC はプラスチックの組織培養プレート (Tissue Culture Plate)、または 3D- NANOFIBGROW-Iゲル (Gel)内に播種され、未処理のままにされるか、20 ng/mlのTNFα + 20 ng/mlのIFNγで指示された期間処理された。「コントロール」では、細胞を含まない培地が組織培養プレートに入れられた。細胞抽出物中のIDOの濃度は、上方のパラグラフ[0090]に記載されているようにELISAによって測定された。データは三組の平均 ± 標準偏差で表されている。同様の結果は、他の2つの独立した実験でも得られた。
【0101】
図2に示すように、TNFαとIFNγでの非休眠ADSCの25時間処理は、IDO発現を有意に上昇させた。同じ処理は、休眠ADSCにおけるIDO発現をさらに劇的に上昇させた。これらの結果は、体外の炎症環境において、休眠状態ADSCが非休眠ADSCよりも高い抗炎症機能を示す可能性があることを示唆している。
【0102】
実施例3: 柔らかい環境が誘発する休眠は、酸化ストレスによる早期老化を経た後のADSCの抗炎症機能を回復させる。
【0103】
酸化ストレスは体外で早期老化を引き起こすことが知られているが、これは加齢に伴う疾患や状態の根本的なメカニズムの 1 つである可能性がある。ヒドロキシペルオキシド処理や高グルコース処理は、MSCに酸化ストレスを引き起こす。したがって、組織培養プレート上の非休眠ADSCは、ヒドロキシペルオキシド (H2O2)または高グルコースのいずれかで処理された。
【0104】
ADSCがプラスチックの組織培養プレートに播種され、未処理 (vehicle)または200 μM H2O2で2 時間処理された後、通常の培地 (H2O2)に切り替えるか、50 mMグルコース(50 mM glucose)で処理された。各処理開始から24時間後、細胞は組織培養プレート上に残す (TC)か、回収して3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包埋された (TC-Gel)。その後、細胞は未処理のままにされる(vehicle、H2O2)か、50 mMグルコースで処理したままにされた(50 mM glucose)。さらに24時間の培養後、各培地のIL-6濃度が測定された。データは二組の平均 ± 標準偏差で表されている。
【0105】
一部の細胞が採取され、ゲルに包埋して休眠させられた。MSCによるIL-6分泌の一時的な増加が炎症の抑制と創傷治癒に重要な役割を果たすため、IL-6の分泌レベルが非休眠ADSCと、非休眠状態から変換された休眠ADSCの間で比較された(
図3)。
【0106】
MCP-1はSASPにおいて支配的なケモカインとして報告されているため、MCP-1の分泌レベルも非休眠ADSCと、「現在は休眠しているが、かつては休眠していない」ADSCの間で比較された (
図4)。ADSCがプラスチックの組織培養プレートに蒔かれ、未処理のまま (vehicle)か、35 mMグルコース (35 mM glucose)または5 mM グルコースと30 mM マンニトール (5 mM glucose + 30 mM mannitol)で処理された。各処理開始から24時間後、細胞は組織培養プレート上に残す (TC)か、回収して3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包埋された (TC-Gel)。その後、細胞は未処理のままにされる (vehicle)か、35 mM グルコース (35 mM glucose)または5 mM グルコースと30 mM マンニトール (5 mM glucose + 30 mM mannitol)で処理したままにされた。さらに24時間の培養後、各培地中のMCP-1濃度が測定された。データは二組の平均 ± 標準偏差で表されている。同様の結果は、他の2つの独立した実験でも得られた。
【0107】
図3に示すように、ヒドロキシペルオキシド処理と高グルコース処理の何れも、非休眠ADSCによるIL-6 分泌を有意に減弱させた。しかし、非休眠状態から変換された休眠状態は、ヒドロキシペルオキシド処理下ではほぼ、そして高グルコース処理下では完全にIL-6分泌を回復させた。
図4に示すように、高グルコース処理は非休眠ADSCによるMCP-1分泌を有意に増加させたが、非休眠状態から変換した休眠状態は、高グルコース誘発性のMCP-1分泌増加を完全に打ち消した。興味深いことに、高マンニトール処理により、非休眠ADSCによるMCP-1分泌を有意に減少させ、非休眠状態から変換した休眠ADSCからのMCP-1分泌を完全に取り去った。高グルコース処理は酸化ストレスだけでなく、高浸透圧ショックも引き起す。マンニトールは酸化ストレスなしで高浸透圧ストレスを引き起こすだけであり、高グルコース処理の効果が酸化ストレスまたは高浸透圧ストレスに起因するかどうかを調べることができる可能性があるため、そこで高レベルのマンニトールで処理された細胞も調製された。この実験では、ADSCは全く逆の方向に反応した:高グルコース処理はMCP-1分泌を刺激し、高マンニトール治療はそれを抑制した。それにもかかわらず、この結果は、高グルコース環境下での酸化ストレスが非休眠ADSCによるMCP-1分泌を増強し、細胞を非休眠状態から休眠状態に変換することによってそれが阻害されることを実証している。
【0108】
これらの結果は、酸化ストレスがまだ持続しているときでも、休眠を導入及び維持することが、ADSCが酸化ストレス誘発性SASPから回復することを引き起こすと示唆している。
【0109】
実施例4: 酸化ストレス下において、非休眠状態から変換した休眠ADSCに由来する馴化培地は、非休眠ADSCの馴化培地よりもHUVECの高い生存率を引き起こす。
【0110】
酸化ストレス下でADSC から分泌されるセクレトームおよび細胞外小胞が隣接する細胞に及ぼす影響を調べるために、ADSCの馴化培地を採取し、内皮細胞株である HUVECに投与された。ADSCの治療能力をテストするための酸化ストレス関連血管疾患の体外モデルとして、HUVECは高グルコースまたは高マンニトール処理も受けた。
【0111】
ADSCはプラスチックの組織培養プレートに播種され、未処理のまま (vehicle)または200 μM H2O2で2時間処理された後、通常の培地 (H2O2)に切り替えるか、35 mM グルコース (35 mM glucose)、または5 mMグルコースと30 mMマンニトール (5 mM glucose + 30 mM mannitol)で処理された。各処理開始から24 時間後、細胞は組織培養プレート上に残される (TC)か、回収されて3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包埋された (TC-Gel)。その後、細胞を未処理のままにする (vehicle、H2O2)か、あるいは35 mMグルコース (35 mM glucose)または 5 mMグルコースと30 mMマンニトール (5 mM glucose + 30 mM mannitol)で処理したままにされた。さらに追加の24時間培養後、各サンプルから培地を回収し、HUVECに使用された。HUVECはプラスチックの組織培養プレートに播種され、未処理のままにされる (vehicle、H2O2)か、35 mMグルコース (35 mM glucose)または 5 mMグルコースと30 mMマンニトール (5 mM glucose + 30 mM mannitol)で処理された。各処理開始から24時間後、培地がADSC由来の馴化培地に切り替えられた。3日間の追加の培養後、HUVECの生存率が上記のパラグラフ[0091]に記載されているように評価された。データは三組の平均 ± 標準偏差で表されている。同様の結果は、他の2つの独立した実験でも得られた。
【0112】
図5に示すように、HUVECは高グルコース処理後に生存率が低下する傾向を示したが、その差は統計的に有意ではなかった。未処理のADSCまたはヒドロキシペルオキシド処理ADSCの馴化培地が未処理のHUVECに投与された場合、非休眠状態から変換された休眠ADSC由来の馴化培地は、非休眠ADSC由来の馴化培地よりも有意に高いHUVECの生存率を示した。さらに、高グルコース処理ADSCの馴化培地が高グルコース処理HUVECに投与された場合、非休眠状態から変換された休眠ADSC由来の馴化培地は、非休眠ADSC由来の馴化培地よりも又もや有意に高いHUVECの生存率を示した。高マンニトール処理ADSCの馴化培地が高マンニトール処理HUVECに試みられた場合、休眠状態も非休眠状態もともに、HUVECの生存率は、未処理のADSC由来の馴化培地を使用した未処理のHUVECの生存率と同様であった。これらの結果は、非休眠ADSCが酸化ストレス誘発性SASPの影響を受けやすいことを示唆している。しかしながらそのようなSASPはADSCを休眠状態に変換することで回復する可能性があり、これらのADSCから分泌されるセクレトームおよび細胞外小胞は、酸化ストレス下でも内皮細胞の生存に有益である可能性があって、ADSCの元の状態が何であれ、休眠状態に誘導および維持されるADSCを加齢性疾患および状態に適用するという考えを支持している。
【0113】
実施例5: ゲルに埋め込まれたADSCの腹腔内注射は、少なくとも7日後に同定され、LPS誘発性急性肺傷害の予防に有効であった。
【0114】
加齢性疾患や症状に休眠ADSCを適用するというアイデアが生体内でテストされた。
図6AおよびBに示すように、マウスに腹腔内に注入されたゲルは、注射後 7日目にはまだ見えており、それらのゲル中の細胞を同定することができた。さらにマウスが、ADSCとともに、又は無しでLPSを腹腔内投与された場合、2日後に、ADSC注射のなかったマウスでは運動性の活動がほとんど観察されなかったのに対し、ADSC注射付きのマウスでは高い運動性の活動が観察された。LPSの腹腔内投与から7日後、肺胞壁が厚くなり、免疫細胞の浸潤が明らかであったが、LPSの腹腔内投与と同時に休眠ADSCを腹腔内に注入すると、それらが完全に防がれた (
図6C)。これらの結果は、生体適合性ゲル中の休眠ADSCが少なくとも7日間は生体内で局所的に留まり、遠隔の組織や臓器の炎症を抑制する可能性があることを示唆している。
【0115】
ADSCを含む間葉系幹細胞の免疫調節・抗炎症機能は、加齢に伴う様々な疾患や状態に対する治療効果を期待されている。しかしながらMSCは炎症性環境に長期間さらされると、実際には炎症誘発性になることがわかっている。罹患した組織や臓器は基本的に炎症を起こしているため、炎症環境下でのMSCのSASPは、MSCに基づく細胞治療の有効性が不十分である理由の1つとして考えられており、MSCに基づく細胞治療の臨床応用にとって深刻な課題である。実際、プラスチックの組織培養プレート上で培養した非休眠ADSCは、ストレス誘発性SASPを示した (
図3-5)。しかしながら、かつては休眠していなかった細胞に休眠状態を導入して維持することが、酸化ストレスを引き起こす条件下でも無事にSASPを排除した。したがって、ADSCが早期老化によってSASPを示すかどうかにかかわらず、ADSCが休眠状態になると、加齢性疾患や状態に対して治療効果を発揮する可能性がある。よって、患者から分離されたADSCは炎症を起こしてSASPを示すと推定されるが、それらのADSCでさえ休眠状態に維持または誘導されると、炎症環境の治療に役立つ可能性がある。
【0116】
休眠ADSCの馴化培地はこれらの細胞に由来するセクレトームおよび細胞外小胞を含むが、酸化ストレスによって引き起こされる損傷から内皮細胞を効果的に救った (
図5)。酸化ストレスによる内皮機能障害は、加齢性疾患につながる初期の事象の一つである。このように、生体外での酸化ストレス下での内皮細胞に対する、休眠ADSC由来の可溶性因子の好ましい効果は、臨床現場での加齢性疾患および状態に対する休眠ADSCに基づく細胞療法の可能性を開く。さらに、HUVECが高グルコース濃度などの酸化ストレスを引き起こす条件にまださらされている場合でも、休眠ADSC由来の馴化培地によってHUVECの生存率が向上することが明らかであることをデータは証明している (
図5)。したがって、休眠ADSCに基づく細胞治療は、加齢性疾患や状態の根底にある病態生理学的メカニズムがまだ進行中で、時としてこれらを取り除くことが困難であっても、加齢性疾患や状態への解決策をもたらす可能性がある。例えば、糖尿病性血管障害は、マクロとミクロの両方で、適切な血糖コントロールを必要とせずに治癒する可能性がある。この可能性を探るためには、さらなる生体内および臨床研究が必要である。
【0117】
以前の研究では、骨髄由来の間葉系幹細胞が250 Paポリアクリルアミドゲルの表面で休眠状態になることが証明された。この研究では、目的は休眠間葉系幹細胞に臨床的に適用可能性があるかどうかを調べることであった。この目的のために、ADSCの基材として市販の三次元生体適合性ソフトゲルが採用された。三次元の250 Pa VitroGel-RGD PLUSゲルでは、ADSCは、丸い形状、ストレスファイバーの欠如、細胞周期停止など、250 Paポリアクリルアミドゲル上の休眠骨髄由来MSCと同じ特徴を示した (
図1)。3D-NANOFIBGROW-Iゲル中のADSCも丸い形状を示し (
図6B)、3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包埋される前に細胞が遭遇した早期老化によるSASPを明らかに排除した (図 3-5)。したがって二次元ソフトゲル上の休眠MSCは、三次元生体適合性ゲルで正常に再現されたと言っても安全で、休眠MSCが臨床的に適用可能性を持っているかどうかについて調べることを可能にする。
【0118】
高グルコース処理は、酸化ストレスと高浸透圧ストレスの両方を引き起こし、高浸透圧ストレスはMSCとHUVECの両方でいくつかの細胞応答を誘発することが報告されている。高グルコース処理で観察された細胞応答が高グルコース誘発性酸化ストレスに起因するかどうかを調べるため、高グルコースで処理した細胞が、高浸透圧ショックのみを引き起こすことが知られている高マンニトールで処理した細胞と比較された (
図3と4)。高マンニトール処理は、実験の時間枠ではHUVECの生存率に影響を与えなかったが、非休眠ADSCと、非休眠状態から変換された休眠ADSCの両方によるMCP-1分泌を実際に減らした。ADSCによるMCP-1分泌を阻害する高浸透圧のメカニズムと重要性は現時点では不明である。しかしながらこのような阻害は、ADSCの早期老化におけるSASPの大きな特徴である、ADSCによる酸化ストレス誘発性MCP-1分泌の過小評価につながる可能性がある。高浸透圧によるMCP-1分泌の減少は、非休眠ADSCでより劇的であったため、高グルコース環境下でSASPを有すると推定される非休眠ADSCへの休眠の導入と維持によるMCP-1分泌の減少は、
図4で観察されたものよりも顕著であるはずである。
【0119】
SASPの一般的な見解は、老化細胞が隣接する細胞の機能に影響を与えるというものである。休眠ADSCが疾患治療に用いられる場合、今日まで臨床応用のための精力的な試験が行われてきたADSCを足場無しで静脈内または局所的(例えば、筋肉内または気管内)に投与する代わりに、ADSCを休眠状態にするためにその足場としてゲルとともに投与されるであろう。ゲルを足場として使用することには明らかな利点がある。細胞の急速な消失は、足場なしで細胞を投与する現在のMSCに基づく細胞治療の大きな課題の1つである。この問題を解決するために、各治療に大量のMSCが使用され、MSCの体外での膨大な増殖を必要とする。さらに静脈内注射されたMSCのほとんどは、炎症を起こした組織や臓器を標的とする代わりに、肺の毛細血管に閉じ込められ、MSCを大量に投与することによる肺塞栓症への懸念を引き起こしている。
図6でなされたようにゲルに埋め込まれたADSCは注射可能で、これは長期間にわたってADSCがゲル内にとどまることを示している。したがって、細胞の損失は心配されず、大量のADSCを投与する必要がなくて、ADSCに基づく細胞治療を患者にとってより安全でアクセスをより容易にするはずである。ADSCをゲルで投与することの潜在的な欠点の1つは、患者の炎症を起こした組織や臓器が必ずしも投与されたADSC に近接しているとは限らないことである。炎症は全身性でさえある可能性がある。そこで、休眠を導入して維持するためにゲルの中で局所投与されたADSCが、遠隔で炎症を抑制できるかどうかを我々は調べた。そのため、COVID-19の肺傷害のモデルとして最近注目されている急性肺傷害モデルとして、マウスに低用量のLPSを腹腔内注射することによる急性肺傷害モデルが採用された (
図6C)。驚くべきことに、腹腔内投与されたゲルに包まれたADSCは、LPS投与後もマウスの運動性の活動を無事に維持し、LPS誘導性急性肺傷害を予防した。したがって、ADSC をゲルに包埋して生体内に配置することは、ADSCを休眠させて既に存在していた早期老化を打ち消すだけでなく、遠隔の組織や臓器の炎症を抑制することもできる。
【0120】
結論として、酸化ストレスによって引き起こされる早期老化によるADSCのSASPは、ADSCに休眠を導入されて維持されると、排除できる。非休眠状態から変換された休眠ADSCは、近隣の部位だけでなく遠隔の部位でも抗炎症機能を発揮することができる。したがって、ADSCを非休眠状態から休眠状態に変換することは、ADSC自体、およびその隣接する細胞と遠隔地の組織や臓器の細胞を若返えらせる可能性がある。
【0121】
実施例6: 柔らかい基材上のMSCは、炎症誘発性環境下で休眠状態を維持した。
【0122】
この研究では、休眠MSCの臨床的な適用可能性が調査された。MSCに基づく細胞療法において、MSCは患者の中の炎症を起こした組織や臓器を抑制すると想定されているため、MSCが体外の炎症誘発性環境下において250 Paのゲル上で休眠を維持するかどうかが調べられた。この目的のために、同じ数のMSCが250 Paまたは7500 Paのポリアクリルアミドゲル上に播種され、体外における患者の中の炎症誘発性環境として使用されているTNFαおよびIFNγがない場合、またはある場合で培養される。
図7に示すように、TNFαIFNγの組み合わせによるMSCの処理は、250 Paゲルと7500 Paゲルの両方においてMSCの数に影響を与えなかった。これらの結果は、MSCが炎症誘発性環境下でも250 Paゲル上で休眠状態を維持することを示唆している。
【0123】
実施例7: 休眠MSCは、炎症誘発性環境下でも調節機能に関与する因子を増加させることができた。
【0124】
次に、休眠MSCが体外の炎症誘発性環境下で免疫調節機能に関与する因子を産生できるかどうかが調べられた。この目的のため、250 Paのポリアクリルアミドゲルの表面に播種されたMSCが、TNFαとIFNγの組み合わせで指示された時間処理された。
図8に示すように、ADSCの抗炎症機能に大きな役割を果たすことが知られているHGFとIDOの発現レベルは、TNFαとIFNγの刺激によって時間依存的に著しく増加した。これらの結果は、MSCが休眠状態であっても、免疫調節機能に関与する因子を産生できることを示唆している。
【0125】
実施例8: 休眠MSCは、生体内のシェーグレン症候群モデルにおいて免疫調節機能を示した。
【0126】
生体内での休眠MSCの免疫調節機能を調べるために、シェーグレン症候群モデルマウスが使用された。シェーグレン症候群は自己免疫疾患の一種で、涙腺や唾液腺など複数の外分泌腺に慢性炎症を呈する。
図9に示すように、VitroGel RGD-PLUSに埋め込まれた休眠MSCの腹腔内投与は、涙腺の病理学的スコアを有意に低下させた。涙腺と唾液腺の両方において浸潤したリンパ球の数は、ゲルに包まれた休眠MSCを投与したマウスで有意に少なかった。さらに、ゲルに包まれた休眠MSCの投与は、頸部リンパ節と脾臓の両方で、それぞれエフェクターメモリーT細胞と濾胞性ヘルパーT細胞に対応する CD62L(低)CD44(高)CD4(+)T細胞(図 10)およびPD-1(高)CXCR5(高)CD4(+)T細胞(図 11)の集団を有意に減少させた。これらの結果は、休眠MSCが生体内で免疫調節機能を発揮できることを示唆している。
【0127】
血管新生
新たに形成された血管を介して移植されたゲルに血液を供給することは、移植されたADSCの生存が促進し、今度はADSCに基づく細胞治療のより高い有効性につながることが期待される。ADSCは血管新生を促進することが知られているため、ゲルに埋め込まれたADSCは生体内で血管新生を引き起こす。媒体 (PBS)または 3x106個のADSCのいずれかを含む300 μLの3D-NANOFIBGROW-Iゲルが調製され、C57BL/6雄マウスに皮下投与される。各グループは3匹のマウスで構成されている。3週間後、ゲル内に新たに形成される血管系を可視化するため、マウスが屠殺され、ゲルが注射部位から単離されて固定され、ヘマトキシリンとエオシン、または抗CD31 抗体のいずれかで染色される。新たに形成された血管系は、ADSCを含むゲルでは検出されるが、ADSC無で調製されたゲルでは検出されない。
【0128】
実施例9: ゲルとともに皮下注射された休眠ADSCのLPS誘発性急性肺傷害に対する保護的役割。
【0129】
図6Cのデータは、LPS誘発性急性肺傷害に対する3D-NANOFIBGROW-Iに埋め込まれた休眠ADSCの保護的役割を示している。その実験では、ADSCとゲルがマウスに腹腔内投与された。臨床現場では、皮下注射はより簡単で安全である。したがって、ゲルに包まれて皮下投与された休眠ADSCは、LPS誘発性肺傷害に対する保護効果も示すと予想される。媒体 (PBS) または 3x10
6個のADSCのいずれかを含む3D-NANOFIBGROW-Iゲル300 μlが調製される。PBS含有ゲルまたはADSC含有ゲルのいずれかがマウスに皮下注射される。媒体 (生理食塩水)または生理食塩水に溶解した1 mg/ml LPSも調製される。3D-NANOFIBGROW-Iゲル注射と同時に、媒体またはLPS (5 mg/kg)のいずれかがC57BL/6雄マウスに皮下注射される。注射の21日後、マウスが屠殺され、ヘマトキシリンとエオシン染色のために肺が単離される。各グループは3匹のマウスで構成される。LPSは、肺胞壁の肥厚と免疫細胞の浸潤を引き起こすが、これは、3D-NANOFIBGROW-Iゲルに埋め込まれたADSCを皮下投与することで排除される可能性がある。
【0130】
実施例10: 慢性疾患モデルにおける休眠ADSCによる隣接細胞でのストレス誘発性早期老化およびSASPの排除。
【0131】
糖尿病の合併症の1つは創傷治癒不良であり、最近の証拠は、内皮細胞とマクロファージにおける高血糖誘発性SASPが役割を果たしていることを示唆している。したがって、休眠ADSC投与は、高グルコース誘発性早期老化を排除し、糖尿病状態下でも創傷治癒が促進される。糖尿病は、以前に報告されたように、C57BL/6雄マウスにストレプトゾトシンを腹腔内に注射することによって引き起こされる(Pak CS, Heo CY, Shin J, Moon SY, Cho SW, et als.(2021) 糖尿病性創傷の治癒におけるヒト脂肪由来幹細胞と組み合わせたカテコール機能化ヒアルロン酸パッチの効果。Int J Mol Sci 22)。ストレプトゾトシン注射の4週間後、切除生検創が6 mmのパンチを使用し、皮筋を貫いて正中線上の剃毛された背部に作成される。媒体 (PBS)または3x106個のADSC のいずれかを含む3D-NANOFIBGROW-Iゲル 300 μLが調製される。PBS含有ゲルまたはADSC含有ゲルのいずれかが、糖尿病マウスの創傷から少なくとも1cm離れた領域に皮下注射される。創傷領域は、次の21日間観察される。糖尿病下では、PBS含有ゲルが投与されたマウスは創傷治癒を示さなかったが、ADSC含有ゲルを投与したマウスは治癒を示す。
【0132】
実施例11: 炎症を起こした脂肪組織から単離したADSC に休眠状態を導入して維持することにより、ADSCを若返らせる。
【0133】
ゲルに埋め込まれた休眠ADSCを加齢性疾患に応用することは、細胞が足場無しで静脈内または局所的に投与される従来のADSCに基づく細胞治療よりも、細胞が短期間で消失する可能性が低いため、高い効果が期待できる。この利点は、はるかに少ない細胞数で休眠ADSCに基づく細胞治療を可能にするはずである。例えば、ADSCの自家移植が加齢性疾患の治療に十分になる可能性があり、これは治療をはるかに単純でより低コストにするはずである。患者の中では慢性炎症が進行しているため、ADSCは炎症を起こしている患者の脂肪組織で早期老化状態にあり、SASPを示している可能性がある。したがって、ADSCが患者の脂肪組織から分離され、ゲル中で休眠状態を導入および維持されると、炎症誘発性ADSCが若返り、SASPが排除されることが期待される。ADSCはob/ob肥満マウスから単離される。単離されたADSCは、プラスチックの組織培養プレートまたは3D-NANOFIBGROW-Iゲルに播種される。3日間の培養後、馴化培地が回収され、HUVECの培養培地として使用される。HUVECの生存率が、プラスチックの組織培養プレートで培養されたADSC由来の馴化培地と、ゲルの中で培養されたADSC由来の馴化培地との間で比較される。ゲルの中で培養したADSC由来の馴化培地で培養されたHUVECが、プラスチックの組織培養プレート上で培養したADSC 由来の馴化培地で培養されたHUVECよりも高い生存率を示す。
【0134】
実施例12: 剛性の範囲。
【0135】
ADSCからストレスによる早期老化を排除する能力を示すゲルの剛性の範囲。150~750 Paの範囲のVitroGel RGD-PLUS が調製される。それらの中でのADSCの休眠は、EdU染色と形態学的観察によって決定される。150~750 PaのVitroGel RGD-PLUSに埋め込まれたADSCは、EdUの取り込みを示さず、丸みを帯びた形状で、ストレスファイバーを欠如する。
【0136】
実施例13: ゲル上で培養されたBMSCの細胞周期の停止は、細胞がガラスと接触すると再開した。
【0137】
ゲル上で培養されたBMSCで観察された細胞周期停止が可逆的であることを確かめるため、BMSCがプラスチックの組織培養プレート (2D on TC)またはVitroGel RGD-PLUS の表面に播種された。24 時間のインキュベーション後、VitroGel RGD- PLUS上の細胞が未処理のままにされる (On gels)か、準三次元培養 (Quasi-3D on Gels)に晒された。さらに24 時間のインキュベーション後、EdUが培地に添加され、次の24時間の培養中における細胞へのEdU取り込みをメーカーの指示に従って評価された。画像が撮影され (
図12A)、EdU取り込み陽性の細胞の割合が定量化された(
図12B)。データは三組の平均 ± 標準偏差で表されている。
【0138】
図12Aに示すように、組織培養プラスチックプレート (2D on TC)に播種された BMSCは紡錘形を示し、約24%の細胞がEdUを取り込んでおり、これはEdUの存在下での24時間の培養中に増殖した細胞集団を示している (
図12B)。ゲル表面 (On gels)で培養されたBMSCは丸みを帯びており、何れの細胞もEdUを取り込まなかった。ゲルとカバーガラスで挟まれた細胞(Quasi-3D on gels)は、その形態を変化させて紡錘形を示し、約16%の細胞がEdUを取り込んだが、これは組織培養プラスチックプレートに播種されたEdU陽性細胞の割合(2D on TC)と統計的に差はなかった。これらの結果は、以前に報告された250 Paのポリアクリルアミドゲル上のBMSCで見られたように、BMSCがソフト生体適合性ゲル上で休眠状態になることを示唆している (Winer JP, Janmey PA, McCormick ME, Funaki M (2009) 骨髄由来ヒト間葉系幹細胞は柔らかい基材上で休眠するが、化学的または機械的刺激に反応し続ける。Tissue Eng Part A 15: 147-154)。
【0139】
実施例14: 3D-NANOFIBGROW-Iゲル中で培養されたADSCは休眠状態となった。
【0140】
MSCにおける休眠の導入と維持が、VitroGel RGD-PLUSゲルと化学的には異なるものの同様の剛性を持つ3D-NANOFIBGROW-Iゲルで試験された。この目的のために、
図13に示すように、ADSCがプラスチック組織培養プレートの表面上に播種されるか (2D on TC)、または3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包埋された (3D in gels)。3D-NANOFIBGROW-Iゲルで三次元培養されたADSCは丸みを帯びた形状で、何れの細胞もEdUを取り込まなかった (3D in gels)。これらの結果は、3D-NANOFIBGROW-Iゲル中でのMSCの3D培養が、VitroGel RGD-PLUSゲル中でのMSCの3D培養と同様に、MSCに休眠を導入し、維持できることを示唆している。
【0141】
例15: 休眠ADSCは低下したデヒドロゲナーゼ活性を示すが、非休眠状態にするために細胞をガラスと接触させるとデヒドロゲナーゼ活性が回復した。
【0142】
デヒドロゲナーゼはハウスキーピング遺伝子の一種であるため、その活性は細胞の生存率を反映し、その低下は不可逆的なプロセスであるとしばしばみなされている (Li LC, Wang ZW, Hu XP, Wu ZY, Hu ZP, et al. (2017) MDG-1はヒト臍帯静脈内皮細胞におけるH2O2誘導性アポトーシスおよび炎症を阻害する。Mol Med Rep 16: 3673- 3679; Yakisich JS, Kulkarni Y, Azad N, Iyer AKV (2017) ソラフェニブと組み合わせたベラパミルへの短期曝露による肺腫瘍球における壊死性細胞死の選択的および不可逆的な誘導 Stem Cells Int 2017: 5987015 を見ること)。そこでADSCがプラスチック組織培養プレート上 (2D on TC)またはVitroGel RGD-PLUSの表面に播種された (
図14)。24時間の培養後、VitroGel RGD-PLUS上の細胞が未処理のままにされるか (2D on Gel)、準三次元培養(2D on Gel - Quasi-3D with Glass on Top)に供された。さらに24時間の培養後、メーカーの指示に従ってCell Counting Kit-8 (CCK-8)を用いてデヒドロゲナーゼ活性が測定された。データは三組の平均 ± 標準偏差で表されている。
【0143】
図14に示すように、ゲル表面で培養された細胞は有意に低いデヒドロゲナーゼ活性を示した。しかしこれらの細胞をガラスと接触させると、減衰したデヒドロゲナーゼ活性が有意に改善され、休眠ADSCにおける低下したデヒドロゲナーゼ活性は不可逆的なプロセスではないことが実証された。これらの結果は、休眠がADSCの生存率を損なわないことを示唆している。休眠ADSCにおける減衰したデヒドロゲナーゼ活性は、これらの細胞における代謝の変化を反映している可能性があり、さらなる調査が必要である。
【0144】
実施例16: デヒドロゲナーゼ活性は、休眠ADSCでは高グルコース環境下で影響を受けなかった。
【0145】
高グルコース環境は生体外で早期老化を引き起こすことが知られているが (Zhang D, Lu H, Chen Z, Wang Y, Lin J, et al. (2017) 高グルコースはAkt/mTORシグナルを介して間葉系幹細胞の老化を誘導する。Mol Med Rep 16: 1685-1690)、これは加齢に伴う疾患や状態の根本的なメカニズムの1つである可能性がある (Borodkina A, Shatrova A, Abushik P, Nikolsky N, Burova E (2014) 活性酸素種依存性DNA傷害、ミトコンドリア、p38マップキナーゼの間の相互作用がヒト成人幹細胞の老化の根底にある。Aging (ニューヨーク州アルバニー) 6:481-495)。間葉系幹細胞に酸化ストレスを誘発するために、非休眠ADSCが高グルコースで処理された (
図15)。この目的のために、ADSCがプラスチック組織培養プレート上に播種され、未処理のままにされるか (Control)、35 mMグルコース (High Glucose)、または30 mMマンニトールと5 mMグルコース (Mannitol)で処理された。各処理開始から24時間後、細胞は組織培養プレート上に残されるか (TC)、回収されて3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包埋された (NFBC)。その後、細胞は未処理のままにされるか (Control)、または35 mM グルコース (High Glucose)、または30 mMマンニトールと5 mMグルコース (Mannitol)で処理され続けた。さらに24 時間の培養後、メーカーの指示に従って、Cell Counting Kit-8 (CCK-8)を用いてデヒドロゲナーゼ活性が測定された。データは二組の平均 ± 標準偏差で表されている。
【0146】
図15に示すように、高グルコース処理はプラスチック組織培養プレート上のADSCのデヒドロゲナーゼ活性を有意に減らした。高グルコース濃度はADSCを取り巻く環境の浸透圧を増やし、それが細胞にも生物学的影響を及ぼす可能性があるため、ADSCの一グループが、浸透圧を増やしても高グルコース環境のように酸化ストレスを引き起こさないマンニトールで処理された。ADSCをマンニトールで処理することは、プラスチック組織培養プレート上のADSCのデヒドロゲナーゼ活性に影響を与えなかった。したがって高グルコース条件下でのプラスチック組織培養プレート上のADSCの低下したデヒドロゲナーゼ活性は、浸透圧の上昇によるストレスではなく、高グルコース濃度によって引き起こされるストレスを反映しているはずである。高グルコースで処理された細胞がプラスチック組織培養プレートから3D-NANOFIBGROW-Iゲルに移されたところ、高グルコースが継続的に存在しているにもかかわらず、細胞は対照群の細胞と同様のデヒドロゲナーゼ活性を示した。これらの結果は、休眠ADSCが高グルコース処理によって引き起こされるストレスに耐性を持つことを示唆している。
【0147】
実施例17: ゲルに包まれて移植された休眠MSCは移植片に残存し、宿主細胞の浸潤と繊維形成を促進した。
【0148】
移植されたMSCの宿主からの急速な消失は、MSCに基づく細胞治療の臨床応用における主要な課題の一つである (Braid LR、Wood CA、Wiese DM、Ford BN (2018) 筋肉内投与は、他の経路と比較して間葉系間質細胞の残留時間を延長する。Cytotherapy 20: 232-244)。そこで、マウスに移植した後のゲル中の休眠BMSCの成り行きが調べられた。3D-NANOFIBGROW-Iゲル (NFBC only)または約2.2 x 10
6個のDiIで標識されたBMSCを含む3D-NANOFIBGROW-Iゲル (NFBC+BMSC)のいずれかがマウスに皮下注射された。移植の2日後 (Day 2)または30日後 (Day 30)にマウスが屠殺され、DiI標識BMSCを含む、または含まない移植ゲルが単離され、続いてH&E染色が行われた (
図16)。
【0149】
DiI標識細胞は、移植2日後に単離されたゲル (Day 2, NFBC+BMSC)と移植30日後に単離されたゲル (Day 30, NFBC+BMSC)の両方で同様の細胞密度で蛍光顕微鏡によって同定された。一方、BMSCなしで移植したゲル (Day 30, NFBC only)には、赤い蛍光のある細胞はなかった。蛍光画像と位相差画像が比較されると、DiI陽性細胞は休眠MSCの特徴の一つ (
図12-14)である丸い形状を示した。これらの結果は、3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包まれて移植されたBMSCがゲル内に長期間留まることを示唆している。
【0150】
図16に示すように、BMSCとともに移植されたゲル (NFBC+BMSC)とBMSCなしで移植されたゲル (NFBC only)は、いずれも蛍光陰性の細胞と蛍光陽性の線維性構造を有しており、BMSCを含むゲルにおいて2日目と30日目の画像が比較された際、その量が時間依存的に増加した。赤色の蛍光陽性の繊維性構造は、緑色の蛍光陽性でもあり (データは示さず)、この構造の蛍光シグナルがDiIまたはDiI標識BMSCに関連する蛍光ではなく、自家蛍光であることを示唆している。おそらくマウス細胞がゲルに動員されてゲルに浸潤したと推定される蛍光陰性細胞と、BMSCを含むゲルの蛍光陽性線維構造の両方の量は、BMSCを含まないゲルで観察されたそれらの量よりも明らかに高かった。これらの結果は、3D-NANOFIBGROW-Iゲルにとどまる休眠BMSCがマウス細胞の浸潤とゲル内の繊維形成を促進する可能性があることを示唆する。
【0151】
生体内におけるゲル中の休眠MSCの長期検出がMSC細胞の種類やゲルの種類に依存しないことを確認するために、BMSCの代わりにADSC、3D-NANOFIBGROW-Iゲルの代わりにVitroGel RGD-PLUSゲルがテストされた。VitroGel RGD-PLUS (VitroGel RGD-PLUS)、または約6 x 10
5個のDiI標識ADSCを含むVitroGel RGD-PLUS (VitroGel RGD-PLUS+ADSC)のいずれかがマウスに皮下注射された (
図17)。14日後、マウスが屠殺され、DiI標識ADSCを含む、または含まない移植ゲルが単離され、続いてH&E染色が行われた (
図17)。
【0152】
図17に示すように、BMSCおよび3D-NANOFIBGROW-Iゲルで作られた移植片と同様に、ADSCおよびVitroGel RGD-PLUSゲルで作られた移植片はDiI陽性の丸い細胞を含んでいた。そのような移植片は、DiI陰性細胞と自家蛍光陽性線維を含み、これはBMSCおよび3D-NANOFIBGROW-Iゲルで作られた移植片でも観察された。これらの結果は、[0112]-[0113]に示される結果と合わせ、ゲルに包まれたMSCが移植されると、MSCが移植片中に長期間留まり、宿主細胞の浸潤と繊維形成を促進することを示唆する。
【0153】
実施例18: ゲルに包まれて移植された休眠MSCは血管新生を促進した。
【0154】
MSCは血管新生を促進することが知られており、血管新生はMSCが治療効果を発揮することに貢献するであろう (Watt SM, Gullo F Fau - van der Garde M, van der Garde M Fau - Markeson D, Markeson D Fau - Camicia R, Camicia R Fau - Khoo CP, et al. 間葉系幹細胞/間質細胞の血管形成性とその治療上の潜在性)。そこで、MSC移植がゲルの中で血管新生を増強し、移植細胞の生存と機能発揮に役立つか否かが検討された。
図18では、3D-NANOFIBGROW-Iゲル (A)または約2.2 x 10
6個のDiI標識BMSCを含む3D-NANOFIBGROW-Iゲル (B)のいずれかがマウスに皮下注射された。移植の30日後、マウスが屠殺され、DiI標識BMSCを含む、または含まない移植ゲルが単離され、続いてH&E染色が行われた。
【0155】
血管形成は、休眠BMSCを含むゲルでは明らかであったが (
図18Bの矢印先端)、BMSCを含まないゲルでは見られなかった (
図18A)。
図18Bの緑色の矢印先端が赤血球を含む血管を指していることは注目に値する。これらの結果は、ゲル中のMSCが移植片における血管新生を促進し、ガス交換と栄養供給を増加させることで自身の生存をサポートし、同時に宿主のために治療効果を発揮することをサポートすることを示唆している。
【0156】
実施例19: ゲルに包まれて移植された休眠MSCは、ゲル中にMSCとして残る。
【0157】
移植前にMSCを蛍光標識することにより、ゲル中に長期間残存する細胞が同定された。ゲル中のこれらの細胞はMSCとして残存した。休眠MSCの特徴の一つである丸い形状を示す (
図16)ことに加え、移植されたBMSCがMSCのマーカーの一つであるCD90を発現しているか否かが調べられた。3D-NANOFIBGROW-Iゲル (C)またはDiI標識BMSCを含む3D-NANOFIBGROW-Iゲルのいずれかがマウスに皮下注射される。移植の30日後、マウスが屠殺され、DiI標識BMSCを含む、または含まない移植ゲルが単離され、続いて抗CD90抗体またはH&E (C および D)のいずれかで染色される。
【0158】
円形細胞の特定の集団が抗CD90抗体で染色された。DiIシグナルは免疫組織化学の過程で失われたが、CD90陽性の円形細胞の割合は、H&Eで染色された同じサンプルについて蛍光顕微鏡で同定できるDiI陽性の円形細胞の割合と同程度であった。
図20に示すように、これらの結果は、ゲル中の休眠BMSCが移植片においてBMSCとして残ることを示唆している。
【0159】
実施例20: 休眠ADSCは、体外炎症モデルにおいて、非休眠ADSCよりも優れたエキソソームマイクロRNA分泌を示した。
【0160】
休眠MSCは、エキソソームマイクロRNAの分泌を増加させる。
【0161】
休眠ADSCと非休眠ADSCの間で体外でのエキソソームマイクロRNAの量を比較するために、ADSCの免疫調節機能または抗炎症機能に主要な役割を果たすことが知られている一連のエキソソームマイクロRNAの発現レベルが調査される。
【0162】
患者の中の炎症環境を模倣するために、細胞はTNFαとIFNγの組み合わせで処理される。ADSCはプラスチック組織培養プレート上または3D-NANOFIBGROW-Iゲル内に播種される。細胞は他の供給源からのエキソソームの汚染を防ぐためエキソソームフリー血清を添加した培地を使用し、未処理のままにされるか、20 ng/mL TNFα + 20 ng/ml IFNγで24時間処理される。
【0163】
次に、Invitrogen (マサチューセッツ州ウォルサム)のTotal Exosome Isolation Reagentを使用して培地からエキソソームが回収される。InvitrogenのTrizolを使用してエクソソームからトータルRNAが抽出され、マイクロRNA分析を受ける。TNFαとIFNγで細胞を刺激した後、休眠ADSC由来のエクソソームは、非休眠ADSC由来のエクソソームよりも、免疫調節や抗炎症に関与することが知られているマイクロRNAを多く含んでいる。
【0164】
実施例21: 休眠は、高グルコース誘発性SASPからADSCを若返らせる。
【0165】
高グルコース処理はADSCにSASPを引き起こしたが、これらの細胞に休眠を導入して維持することでSASPが回復した。例えば、高グルコース処理されたADSCが3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包埋されて休眠状態になると、デヒドロゲナーゼ活性において高グルコース処理に反応しなくなる (
図15)。したがって、高グルコース処理のためにSASP状態にあるADSCでさえ、一旦休眠を導入されて維持されれば、体外で免疫調節機能および抗炎症機能を十分に発揮することができる。
【0166】
体外でADSCにSASPを誘導するために、ADSCは5 mM グルコース (Normal glucose)または35 mM グルコース (High glucose)を含む培地で培養される。
【0167】
ADSCの抗炎症機能を調べるために、ストレプトゾトシン誘発性糖尿病マウスの創傷治癒過程を、正常なグルコース下で培養されたADSCと高グルコースで培養されたADSCで比較される。糖尿病は、以前に報告されたように、C57BL/6雄マウスにストレプトゾトシンを腹腔内注射することによって引き起こされる (Pak CS、Heo CA- O、Shin J、Moon SY、Cho SW、et al. 糖尿病性創傷治癒におけるヒト脂肪由来幹細胞と組み合わせたカテコール機能化ヒアルロン酸パッチの効果 LID - 10.3390/ijms22052632 [doi] LID - 2632)。
【0168】
実施例22: ゲルに包まれた休眠MSCが投与されたマウスにおける血栓症の欠如
【0169】
休眠MSCを含む移植片を皮下組織に長期間保持した後、血栓形成について分析された。2.2 x 10
6個のDiI標識BMSCを含む3D-NANOFIBGROW-Iゲルが移植30日後に摘出された
図18の右パネル、および6.5 x 10
5個のADSCを含む3D-NANOFIBGROW-Iゲルが移植72日後に摘出された
図19の右パネルに示されるように、それらのゲルの中の毛細血管に血栓は観察されなかった。これらの結果は、ゲルに包まれた休眠MSCが投与されても、現在のMSCに基づく細胞治療に伴う合併症の一つである血栓症を引き起こさないことを示唆している。
【0170】
実施例23: ゲルに包まれて移植されたADSCによる亢進した血管新生
【0171】
ゲル中の休眠ADSCによる亢進した血管新生が、血管の内面を覆う内皮細胞を検出することによって調べられた。
【0172】
媒体 (PBS)または 6.5 x 105個のADSCのいずれかを含む500μLの3D- NANOFIBGROW-Iゲルが調製され、C57BL/6雄マウスに皮下投与された。各グループは 3 匹のマウスで構成されていた。72日後、マウスは屠殺され、注射部位からゲルが単離され、固定されて、ゲル内に新たに形成された血管系が可視化するために確立された内皮細胞マーカーであるCD31の発現を検出する抗CD31抗体で染色された。
【0173】
図19に示すように、ADSCを含まないゲル (Gel only)はCD31 陽性細胞を示し損なったが、一方でADSCを含むゲル (Gel+ADSC)はCD31陽性細胞が管状構造を形成することを示した。これらのデータは、
図18に示されるデータとともに、ゲルに包まれて移植された休眠ADSCが生体内で血管新生を促進することを示している。
【0174】
実施例24: ゲルに包まれて移植された休眠MSCは、生体内でMSCとして残存する。
【0175】
移植前にMSC を蛍光標識することで、それらの細胞が蛍光シグナルで検出され、
図16は、ゲルに包まれて移植されたMSCがゲルの中に長期間留まることを示した。
図16 に示されたゲル中に残っている細胞は丸い形状を示しており、これは休眠MSCの特徴の一つである。ゲル中の細胞が実際にMSCとして維持されていることをさらに立証するために、ADSCとともに移植されたゲルがマウス組織の中に長期間保持され、その後、摘出されてMSCのマーカーであるCD90で染色された。
【0176】
6.5 x 105個のADSCを含む500 μLの3D-NANOFIBGROW-Iゲルが調製され、C57BL/6雄マウスに皮下投与された。移植後4日または72日後にマウスが屠殺され、ゲルが注射部位から単離されて固定され、H&Eまたは抗CD90抗体で染色された。各グループは3匹のマウスで構成されていた。
【0177】
図20に示すように、H&E染色後のゲル (H&E)では、4 日間培養(Day 4)と72日間培養 (Day 72)の両方で丸い細胞が観察された。さらに、CD90陽性の円形細胞は、4日目にゲルで豊富に観察され、72日目のゲルでも観察された。これらの結果は、ゲルに包まれて移植された休眠MSCが長期間にわたって生体内で休眠MSCのままでいることを示唆する。
【0178】
実施例25: ゲルに包まれた休眠ADSCの移植は、糖尿病マウスにおける創傷治癒を促進する。
【0179】
創傷治癒の欠如または障害は、糖尿病の主要な合併症の一つであり、糖尿病患者の生活の質に深刻な影響を与え、生命を脅かすことさえある。MSCやMSC由来エクソソームによる創傷治癒の促進が報告されてきたが、糖尿病性創傷を治療するためのMSCに基づく細胞治療はまだ確立されていない。MSCを患者に投与した後のMSCの飲み込み率が極端に低いこと、および糖尿病による炎症誘発性環境によって誘発されるMSCのSASPが、創傷治癒に対するMSCの有益な効果を無効にする可能性がある。データは、MSCの休眠を誘導および維持できるゲルに包まれて休眠MSCが移植されると、休眠MSCとして長期間移植片中にとどまることを示唆している。さらに休眠は、高グルコース処理などの酸化ストレスにも関わらずMSCがSASPを示すことに耐性にする。そこで糖尿病状態下での創傷治癒に対し、ゲルに包まれた休眠ADSCの移植の効果が調べられた。
【0180】
糖尿病は、以前に述べられたように、ストレプトゾトシン (STZ)を腹腔内に注射することにより、C57BL/6雄マウスに誘発された。非糖尿病マウスには、STZの代わりにPBSが注射された。STZ注射の1ヶ月後、以前に述べられたように、各マウスの剃毛された背部領域に1.0 cm×1.0 cmの切開を行い、創傷が作成された。切開直後に3D-NANOFIBGROW-Iゲル300 μL、PBSに懸濁された2.1 × 106個のADSC、または 2.1 × 106個のADSCを含む3D-NANOFIBGROW-Iゲル300 μLが調製され、皮膚切開部から約1.0 cm離れたSTZマウスの背中に皮下注射された。非糖尿病マウスには、3D-NANOFIBGROW-Iゲル300μLが注射された。各グループは3匹のマウスで構成されていた。皮膚切開後3日 (Day 3)、6日 (Day 6)、10日 (Day 10)で各創傷の大きさが測定され、各皮膚切開直後の大きさと比較された。
【0181】
図21に示されているように、ゲルを投与した非糖尿病マウス (Non-diabetic)が最も早い回復を示し、次いで休眠ADSCを含むゲルが投与されたSTZマウス (STZ, Gel-Cell)が続いた。ゲルのみ (STZ, Gel)またはADSCのみ (STZ, Cell)の何れかが投与されたSTZマウスは最も遅い回復を示したが、4 つのグループのマウスは全てDay10に同様のレベルの回復を達成した。Day 3に、休眠ADSCを含むゲルを投与されたSTZマウス (STZ, Gel-Cell)の創傷のサイズは、ゲルのみ (STZ, Gel)またはADSCのみ (STZ, Cell)の何れかが投与されたSTZマウスの創傷のサイズよりも有意に小さかった。これらの結果は、ゲルに包まれた休眠ADSCの投与は、糖尿病状態での創傷治癒を促進することを示唆している。
【0182】
例26: 休眠は、高グルコース誘発性SASPからADSCを若返らせ、SASPを経験していない休眠ADSCと同様に、糖尿病環境下における創傷治癒を増進する。
【0183】
高グルコース処理はADSCにSASPを引き起こしたが、これらの細胞に休眠を導入して維持することで回復させられた。例えば、高グルコース処理されたADSCが3D-NANOFIBGROW-Iゲルに包埋されて休眠状態になると、デヒドロゲナーゼ活性において高グルコース処理に反応しなくなる (
図15)。したがって、非休眠ADSCは、糖尿病状態にさらされるとSASPを発症する可能性があり、これが図 21においてゲルなしでADSCが投与されたSTZマウスが創傷治癒の遅延を示した理由の 一つである可能性がある。しかし生体内においてゲルに包まれた休眠ADSCの持続的な生存を考慮すると、ゲルを含まないADSCが投与されたSTZマウスの創傷治癒の遅延は、皮下注射後のADSCの急速な消失に起因するとすることも合理的である (
図16および20)。ADSCに休眠状態を導入して維持することによるSASPからADSCを回復させることによる、糖尿病マウスの創傷治癒を促進することへの貢献を確立するため、非休眠ADSCが移植前に正常なグルコース濃度または高グルコース処理の何れかを受けた。次に、両群のADSCがゲルに包埋されることで休眠が導入され、創傷治癒の回復を比較するために糖尿病マウスに移植された。
【0184】
生体外でADSCにSASPを誘導するために、ADSCが5 mMグルコース (Normal Glucose)または35 mMグルコース (High Glucose)の何れかを含む培地で培養された。糖尿病下での創傷治癒の過程を調査するため、実施例25に記載のとおりSTZマウスが準備されて皮膚切開が行われた。350μLの3D-NANOFIBGROW-Iゲル、または正常なグルコースレベルで培養された3.2 × 105個のADSC (ADSC+Gel Normal Glucose)或は高グルコースレベルで培養された3.2×105個のADSCs (ADSC+Gel High Glucose)を含む350 μLの3D-NANOFIBGROW-Iゲルが調製され、実施例26に記載のとおりSTZマウスの背中に皮下注射された。
【0185】
図 22 に示されているように、ADSC を含まないゲル(STZ Gel)が移植されたSTZ マウスと比較し、休眠ADSCを含む移植片のあるSTZ マウスはDay 3とDay 6において有意に迅速な回復を示したため、休眠ADSCを含む移植片はSTZ マウスにおける創傷治癒を増進した。しかしながらこの実験期間中、生体外において正常なグルコースレベルで培養された休眠ADSCを含んでいるゲルが移植されたマウス (ADSC+Gel Normal Glucose)と、生体外において高グルコースレベルで培養された休眠ADSCを含んでいるゲルが移植されたマウス (ADSC+Gel High Glucose)の間では、創傷治癒おいてに統計学的に有意な差はなかった。これらの結果は、ADSCが一旦休眠状態になると、SASPから回復し、SASPを経験していない休眠状態のADSCと同様に創傷治癒に有益な効果を発揮できることを示唆する。
【国際調査報告】