(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】チャープパルスベースの分散型音響センシングにおける周波数ドリフト補償
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01H9/00 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523419
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 US2022046928
(87)【国際公開番号】W WO2023069373
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504080663
【氏名又は名称】エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】NEC Laboratories America, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】イプ、 エズラ
(72)【発明者】
【氏名】ホワン、 ユエ-カイ
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064BC12
2G064BC32
2G064BC33
2G064CC29
(57)【要約】
本開示の態様は、プローブ信号としてチャープパルスを使用する符号化DASシステムの周波数ドリフト補償に関する。本発明の独創的なアプローチは、各フレームの推定レイリーインパルス応答の振幅を基準フレームと相関させることによってタイミングジッタを推定し、次いで、推定されたタイミングジッタによって各フレームを再調整する。タイミングジッタの量はフレーム内で変化するため、すべてのサンプルが同様のタイミングジッタを持つブロックに各フレームが分割され、重畳保留法を使用してブロック単位、フレーム単位でタイミングジッタの推定と補償を行う。基準フレームを定期的に更新できるようにすることで、徐々に変化するチャネルの追跡が可能となる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバセンサーケーブルと、
前記光ファイバセンサーケーブルと光通信するDASインタロゲータと、
を有するチャープパルスベースの分散型音響センシングシステム(DAS)における周波数ドリフト補償方法であって、
前記DASインタロゲータは、
シードレーザーと、
コヒーレント受信機と、を有し、
該インタロゲータは、
所定のフレームレート、チャープ持続時間、およびチャープスルーレートでチャープパルスを含むプローブ信号を生成し、前記プローブ信号を前記光ファイバセンサーケーブルに発射し、
前記コヒーレント受信機を使用して前記光ファイバセンサーケーブルからレイリー後方散乱を回復するように構成され、
前記シードレーザーは、局部発振器の周波数が前記チャープパルスを生成した周波数と異なるような無視できない周波数ドリフトを示し、その結果、受信された後方散乱と既知のチャープとの相関から決定されるレイリーインパルス応答のタイミングジッタが生じ、
前記方法は、
レイリー後方散乱の各受信フレームを重複ブロックに分割することによって推定されたレイリーインパルス応答におけるタイミングジッタを補正することであって、受信された最初のフレームは基準フレームであり、この基準フレームから、後続のフレームの振幅プロファイルを前記基準フレームの振幅プロファイルと相関させることによって前記後続のフレームのタイミングジッタが推定されること、
前記推定されたジッタによって前記フレームを再調整すること、を含む方法。
【請求項2】
前記基準フレームのタイミングジッタが、徐々に変化するチャネルを追跡するために周期的に更新される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タイミングジッタは、時間再調整がレジスタの前記サンプルのバレルシフトに対応するように信号サンプルの整数倍に等しい精度で推定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タイミングジッタは、信号サンプルの割合に等しい精度で推定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
信号サンプルの前記割合は、ピーク相関値とその隣接ピークの相関値との間の比率によってインデックス付けされたルックアップテーブルを使用して取得される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記レイリーインパルス応答の各フレームの各ブロックを補間フィルタで畳み込むことによって時間的に再サンプリングする、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的には分散型光ファイバセンシング(DFOS)システム、方法、および構造に関し、特にチャープパルスベースの分散型音響センシング(DAS)における周波数ドリフト補償に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、DFOSシステムおよび方法が、道路、橋、および建物の優れた音響および/または振動の監視を提供するために使用されている。このようなシステムの信頼性、ロバスト性、および感度は、一般に、既存の従来のシステムおよび方法とは比較にならないことが知られている。このような特性を考慮すると、新しい分析システムおよび方法と組み合わせた、DFOS/DAS技術のさらなる改善は、当該技術分野にとって歓迎すべきことである。
【発明の概要】
【0003】
プローブ信号としてチャープパルスを使用するコード化DASシステムの周波数ドリフト補償に関する本開示の態様によれば、技術の進歩が達成される。
【0004】
周波数ドリフトは、受信したレイリー後方散乱を発信チャープと相関させることによって得られる、推定レイリーインパルス応答にタイミングジッタを生じさせる。任意の受信フレームでは、隣接するサンプルは同様のタイミングジッタを持つため、この影響は、すべてのサンプルを同じタイミングジッタでシフトされる小さなブロックに各フレームを分割し、フレーム間で振幅プロファイルを相関させてから、時間的に再調整することによって補償できる。
【0005】
本発明のアプローチは、アルゴリズムの複雑さの低い重畳保留(overlap-and-save)アーキテクチャを使用してタイミングジッタを推定および補正するためのアーキテクチャを提供し、DSPを使用してハードウェアを補償することにより、より大きな周波数ドリフトを持つ「より安価な」レーザーを使用して符号化DASシステムを使用できるようにする。
【0006】
一態様から見ると、本発明のアプローチは、各フレームの推定レイリーインパルス応答の振幅を基準フレームと相関させることによってタイミングジッタを推定し、次いで、推定されたタイミングジッタによって各フレームを再調整する。タイミングジッタの量はフレーム内で変化するため、すべてのサンプルが同様のタイミングジッタを持つブロックに各フレームが分割され、重畳保留法を使用してブロック単位、フレーム単位でタイミングジッタの推定と補償を行う。基準フレームを定期的に更新できるようにすることで、徐々に変化するチャネルの追跡が可能となる。
【0007】
第1の態様から見ると、本開示は、光ファイバ設備を収容する屋外キャビネットを監視するためのDFOSシステム、方法、及び構造について説明しており、その中に含まれるキャビネット/光ファイバケーブルは、優れた音響センシングを提供するように構成されている。
【0008】
第2の態様から見ると、本開示は、マンホール構造を監視するためのDFOSシステム、方法、および構造について説明する。
【0009】
最後に、さらに別の観点から見ると、本開示は、時間関係ネットワークを使用する機械学習ベースの分析方法を使用するDFOSシステム、方法、および構造について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示のより完全な理解は、添付図面を参照することによって実現され得る。
【0011】
【
図1(A)】本開示の態様によるDFOSシステムを示す概略図である。
【0012】
【
図1(B)】本発明の態様による帯域外信号生成を備えた符号化定振幅DFOSシステムを示す概略図である。
【0013】
【
図2(A)】本発明の態様による周波数シフトなしの場合のチャープパルスの相関に対する周波数シフトの影響を示す一対のグラフである。
【
図2(B)】本発明の態様による4MHzの周波数シフトの場合のチャープパルスの相関に対する周波数シフトの影響を示す一対のグラフである。
【0014】
【
図3】本開示の態様による、プローブ信号x(t)を生成し、レイリーインパルス応答h(t)を用いて試験対象ファイバ(FUT)のレイリー後方散乱y(t)のコヒーレントに検出するための局部発振器として機能するために同じレーザーが使用される、符号化DASインタロゲータの標準モデルを示す概略図である。
【0015】
【
図4】本発明の態様による符号化DASにおけるレーザー周波数ドリフト補償のための例示的なアーキテクチャを示す概略図である。
【0016】
【
図5】本発明の態様による各ブロックの時間シフトを補償するための例示的な手順を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下は、単に本開示の原理を例示するものである。したがって、当業者は本明細書に明示的に記載または図示されていないが、本開示の原理を具現化し、その精神および範囲内に含まれる様々な構成を考案することができることが理解されよう。
【0018】
さらに、本明細書に記載されているすべての実施例および条件付き用語は、本開示の原理および技術を促進するために発明者によって寄与された概念を読者が理解するのを助けるための教育目的のためだけのものであることを意図しており、そのような具体的に列挙された実施例および条件に限定されないと解釈されるべきである。
【0019】
さらに、本開示の原理、態様、および実施形態を記載する本明細書のすべての記述、ならびにその具体例は、その構造的および機能的等価物の両方を包含することを意図している。さらに、そのような等価物は、現在知られている等価物と、将来開発される等価物、すなわち、構造に関係なく同じ機能を実行する開発された要素との両方を含むことが意図されている。
【0020】
したがって、たとえば、本明細書の任意のブロック図が、本開示の原理を実施する例示的な回路の概念図を表すことは、当業者には理解されるであろう。
【0021】
本明細書で特に明記しない限り、図面を構成する図は、縮尺通りに描かれていない。
【0022】
追加の背景として、分散型光ファイバセンシング(DFOS)は、インタロゲータに順番に接続された光ファイバケーブルに沿って任意の場所で環境条件(温度、振動、音響励起振動、伸縮レベルなど)を検出するために重要で広く使用されている技術であることに注目することから始める。知られているように、現代のインタロゲータは、ファイバへの入力信号を生成し、反射/散乱され、その後受信された信号を検出/分析するシステムである。信号が分析され、ファイバに沿って遭遇する環境条件を示す出力が生成される。このように受信された信号は、ラマン後方散乱、レイリー後方散乱、ブリリオン後方散乱などのファイバ内の反射に起因する可能性がある。DFOSは、複数のモードの速度差を利用した順方向の信号を使用することもできる。一般性を失うことなく、以下の説明では反射信号を想定しているが、同じアプローチを転送信号にも同様に適用できる。
【0023】
図1(A)は、一般化された従来技術のDFOSシステムの概略図である。理解されるように、現代のDFOSシステムは、光パルス(または任意の符号化信号)を周期的に生成し、それらを光ファイバに注入するインタロゲータを含む。注入された光パルス信号は、光ファイバに沿って伝送される。
【0024】
ファイバに沿った位置では、信号のごく一部が反射され、インタロゲータに戻される。反射信号は、例えば、機械的振動を示す電力レベルの変化など、インタロゲータが検出するために使用する情報を伝送する。詳細には示されていないが、インタロゲータは、
図1(B)に示すような当技術分野で知られているコヒーレント受信機構成を採用することができる符号化DFOSシステムを含むことができる。
【0025】
反射信号は電気領域に変換され、インタロゲータ内で処理される。パルス注入時間と信号が検出された時間に基づいて、インテロゲータは信号がファイバ上のどの位置から来ているかを判断し、ファイバ上の各位置の行動を感知することができる。
【0026】
当業者であれば、質問信号に信号符号化を実装することにより、より多くの光パワーをファイバに送信することができ、これにより、レイリー散乱ベースのシステム(例えば、分散型音響センシング、すなわちDAS)及びブリルアン散乱ベースのシステム(例えば、ブリルアン光時間領域反射率測定法、すなわちBOTDR)の信号対雑音比(SNR)を有利に改善できることが理解し、認識するであろう。
【0027】
動作上、DFOSシステムは、コーディング実装を備えたレイリー散乱ベースのシステム(例えば、分散型音響センシング、すなわちDAS)およびブリルアン散乱ベースのシステム(例えば、ブリルアン光時間領域反射率測定法、すなわちBOTDR)であると仮定する。このような符号化設計では、これらのシステムは、動作電力が低いため、ファイバ通信システムと統合される可能性が高く、光増幅器の応答時間の影響も大きくなる。
【0028】
ブロック図に例示的に示される構成では、符号化された質問シーケンスがデジタル的に生成され、デジタルアナログ変換(DAC)および光変調器を介してセンシングレーザに変調されると仮定する。変調された質問シーケンスは、質問のためにファイバに送られる前に、最適な動作電力まで増幅されてもよい。
【0029】
有利なことに、DFOS動作は、同じファイバ内のWDMを介して通信チャネルと統合することもできる。センシングファイバ内では、質問シーケンスと返されたセンシング信号は、離散(EDFA/SOA)または分散型(ラマン)方式のいずれかを介して光学的に増幅される。戻ってきたセンシング信号は、増幅と光バンドパスフィルタリングの後、コヒーレント受信機に送られる。コヒーレント受信機は、信号の両偏波の光フィールドを検出し、アナログデジタル変換(ADC)サンプリングとデジタルシグナルプロセッサ(DSP)処理のために4つのベースバンドレーンにダウンコンバートする。当業者であれば容易に理解し、認識するように、復号化動作がDSPで行われてファイバの問い合わせられたレイリー応答またはブリルアン応答を生成し、その後、応答の変化が識別され、センサの読み出しのために解釈される。
【0030】
図を引き続き参照すると、符号化された質問シーケンスはデジタル的に生成されるため、帯域外信号もデジタル的に生成され、その後、波形がDACによって生成される前に符号シーケンスと統合される。デジタル的に一緒に生成される場合、帯域外信号は符号シーケンスの期間外でのみ生成されるため、一緒に加算されると、統合された波形の振幅は一定になる。
【0031】
分散型音響センシング(DAS)では、インタロゲータはプローブ信号x(t)を被試験ファイバ(FUT)に発射し、そのレイリーインパルス応答h(t)を推定する。受信信号は畳み込み
【数1】
によって与えらる。従来、
【数2】
はピーク電力Pと持続時間Tを持つパルスである。
【0032】
音響振動によって引き起こされるレイリーインパルス応答の時間変化を測定するために、インタロゲータは、フレームレートTpで周期的にx(t)を送信する。TpがFUTの往復伝播時間Trtよりも長い場合、受信信号は、一連の光時間領域反射測定(OTDR)の結果になる。
【0033】
y(t)の空間分解能は、
【数3】
であり、x(t)の帯域幅によって制御される。受信OTDRの位置
【数4】
と位置
【数5】
の点の対間の位相関係と、その位相が時間とともにどのように変化するかを測定することにより、z
1とz
2の間の時間変化する縦方向の歪みを監視できる。この位相-OTDR(φ-OTDR)技術は、当技術分野ではよく知られている。
【0034】
レイリー後方散乱の電力が微弱であるため、DASで達成できる到達距離は限られている。符号化DASは、DASによって達成される信号対雑音(SNR)比を増加させ、FUTをより長くすることができる。パルスを発射する代わりに、前述のように、符号化DASのプローブ信号は、自己相関関数r
xx(t)=x(t)*x(t)を持つシーケンスであり、これはデルタ関数に可能な限り近く、その幅はx(t)の帯域幅によってのみ制限される。符号化DASインタロゲータは、受信信号とx(t)の相関をとり、
【数6】
を得る。
【数7】
はx(t)のエネルギーであるので、シーケンスが長いほど受信信号が大きくなる。有利なことに、空間分解能を犠牲にすることなく、SNRをT
cで直線的に増加させることができる。レーザーの位相雑音は、T
cをどれだけ大きくできるかを制限する要因である。
【0035】
良好な自己相関特性を有するよく知られたシーケンスの1群は、チャープパルス
【数8】
である。
【0036】
ここで、T
cはチャープ持続時間、aはチャープレート、
【数9】
はエンベロープの振幅である。x(t)の帯域幅はB=αT
cであり、その自己相関は、
【数10】
で与えられる。
【0037】
チャープ持続時間が長い場合(Tc>>T)、式(2)中のsincのメインローブの幅は、T=1/αTc=1/Bであり、これは従来のOTDRで使用されていた同じ帯域幅の矩形パルスと同じ空間分解能である。
【0038】
チャープパルスは、2つのチャープパルスx1(t)とx2(t)の間の相関関数が、それらのチャープレートα1およびα2が一致する場合に式(2)中のsinc関数のみであるという特別な特性を有する。この場合、それらの相関ピークは、それらの中心周波数が一致する場所で発生する。
【0039】
図2(A)および
図2(B)は、本発明の態様によるチャープパルスの相関に対する周波数シフトの影響を示す一対のグラフであって、
図2(A)は周波数シフトなしの場合、
図2(B)は4MHzの周波数シフトの場合である。チャープには、チャープの瞬時周波数が揃うと相関ピークが生成されるという特殊な特性がある。したがって、1つのチャープパルスの周波数変調により、相関ピークの時間的シフトが発生する(また、帯域幅の重複が減少するため、相関関数のメインローブがわずかに広がる)。
【0040】
一例を
図2(A)および
図2(B)に示す。
図2(A)および
図2(B)では、持続時間T
c=50μs、帯域幅B=10MHz(α=2×10
11s
-2)のチャープパルスが、Δν=4MHzだけ周波数シフトされた同じチャープパルスと相関している。それらチャープパルスの相関x
2(t)*x
1(t)は、Δτ=Δν/α=20μsのオフセットを中心としていることが観察される。さらに、相関の幅は、帯域幅の重複に反比例し、この例では6MHzである。
【0041】
周波数変調によって相関関数の中心が時間的にシフトするというチャープパルスのこの特性は、チャープパルスに基づく符号化DASにとって重要である。
【0042】
図3は、本開示の態様による、プローブ信号x(t)を生成し、レイリーインパルス応答h(t)を用いて試験対象ファイバ(FUT)のレイリー後方散乱y(t)のコヒーレントに検出するための局部発振器として機能するために同じレーザーが使用される、符号化DASインタロゲータの標準モデルを示す概略図である。
【0043】
図3に示すDASシステムの標準モデルを考え、ここで、同じレーザーが、プローブ信号を生成し、レイリー後方散乱のコヒーレント検出のための局部発振器(LO)として機能するために使用される。
図3のFUTに示されている点からの反射を考える。反射信号とLOの間には
【数11】
の伝搬遅延差があるため、レーザー周波数はτ
zの期間にわたってドリフトする。周波数ドリフトは、低周波領域におけるレーザー位相雑音の現れであり、温度変動や機械的振動などの要因によって引き起こされ、レーザー共振器の光路長の変動を引き起こし、レーザーの中心周波数に影響を与える。
【0044】
図2(A)および
図2(B)に示すように、周波数ドリフトの影響は、レイリーインパルス応答の時間(または位置)の不確実性である。通常、ファイバの位置zは、レイリーインパルス応答h(t)の時間座標
【数12】
にマッピングされる。しかし、レーザー周波数ドリフトにより、時刻tにおける実際のファイバ位置は、
【数13】
であり、ここで、
【数14】
は平均位置であり、δzは、そのフレーム中のレーザー周波数ドリフトΔνに応じてフレームごとに変化する変数である。DASがゲージ長z
gだけ離れた2点間の差動積(differential product)に基づいてφ-OTDRを計算する場合、
【数15】
と
【数16】
の2つの固定散乱体間の位相差を監視する代わりに、
【数17】
と
【数18】
の2つの散乱体の実際の位相差が計算される。δzが空間分解能よりも大きい場合、空間分解能よりも大きい間隔で分離された散乱は独立しているはずなので、結果として得られる DASは無意味なものになる。
【0045】
レーザー周波数ドリフトがDASの性能に与える影響は、1kHzの繰り返しレートで持続時間T
c=50μs、帯域幅B=10MHz(空間分解能
【数19】
)のチャープパルスを使用して50kmの長さのFUTを試験した実験で理解される。50kmの地点に圧電トランスデューサー(PZT)を挿入し、さらに100mの終端ファイバを挿入した。PZTは、ピークツーピーク振幅が1.6radの67Hzの正弦波で励起した。
【0046】
特定の(「不良」)レーザーを使用すると、周波数ドリフトの結果が非常に深刻になり、バックグラウンド雑音レベルがPZTの振動振幅よりも大きくなる。ただし、別の(「良質」)レーザーを使用すると、67Hzの正弦波を簡単に観察できる。
【0047】
「良質」レーザーを使用してチャープパルスDASを構築することは可能であるが、より高価である。周波数ドリフトは時間/位置軸の線形変換をもたらすだけであり、レーザー周波数は短い時間スケールで安定しているため、近接したファイバ位置では同様の時間/位置シフトが発生するはずなので、デジタル信号処理(DSP)を使用してこの時間(位置)ジッタを補正し、位相雑音が高い「不良」レーザーをDASに使用できるようにすることが可能である。
【0048】
それにもかかわらず、本開示は、プローブ信号としてチャープパルスを使用する符号化DASシステム用の周波数ドリフト補償のための解決策を提供する。周波数ドリフトは、受信レイリー後方散乱と発生チャープを相関させることで得られる推定レイリーインパルス応答にタイミングジッタをもたらす。
【0049】
任意の受信フレームにおいて、隣接するサンプルは同様のタイミングジッタを示すため、本発明の開示は、すべてのサンプルが同じタイミングジッタでシフトされる小さなブロックに各フレームを分割し、フレーム間で振幅プロファイルを相関させ、その後、それらを時間的に再調整することで、この影響を補正する。本開示の解決策は、重畳保留アーキテクチャを使用してタイミングジッタを推定および修正するためのアーキテクチャを提供し、また、アルゴリズムの複雑性が低い好ましい実装も提供する。本開示の解決策は、DSPを使用してハードウェアの欠陥を補うことで、周波数ドリフトがより大きな「より安価な」レーザーを使用した符号化DASを可能にする。
【0050】
当業者には明らかであるように、本開示の態様による開示された解決策の特徴には、(i)各フレームの推定レイリーインパルス応答の振幅を基準フレームと相関させることによるタイミングジッタを推定し、次いで、(ii)推定されたタイミングジッタによって各フレームを再調整することが含まれる。
【0051】
タイミングジッタの量はフレーム内で変化するため、本発明のアプローチでは、すべてのサンプルが同様のタイミングジッタを示すブロックにすべてのフレームを分割し、重畳保留法を使用してブロック単位、フレーム単位でタイミングジッタの推定と補正を行う。本発明の独創的なアプローチでは、基準フレームを定期的に更新できるようにすることで、徐々に変化するチャネルの追跡が可能となる。
【0052】
図4は、本発明の態様による符号化DASにおけるレーザー周波数ドリフト補償のための例示的なアーキテクチャを示す概略図である。図に示すように、
図4に示すアーキテクチャは、重畳保留アルゴリズムを使用するチャープパルス用である。動作的には、受信信号を既知のチャープと相関させてj番目のフレームのh
j(t)=x(t)*y
j(t)を取得した後、時間軸は持続時間T
bと重複期間T
ovのN
b個の重複ブロックに分割される。フレームj=0を基準として、後続のフレームの各ブロックの二乗振幅
【数20】
を
【数21】
と比較し、それらの相対オフセットτ
j,bを求める。次に、各ブロックをτ
j,bだけシフトして、補償出力
【数22】
を取得する。その後、通常のDAS動作が、
【数23】
で実行される。
【0053】
さらに明確にするために、フレームjで送信されたプローブパルスによって受信された複素値信号ベクトルを
【数24】
とする。相関器の出力を
【数25】
とする。各ベクトルの持続時間は、FUTの往復の戻り時間に等しいT
rtである。
【数26】
を持続時間T
Bと重複期間T
ovの重複ブロックに分割する。重複ブロックの数N
bは、
【数27】
を満たす必要がある。
【数28】
をブロックbの継続時間とし、ここで、0≦b<N
bである。
【0054】
次に、初期フレーム
【数29】
を基準とする。ブロックb毎に、後続のすべてのフレームの振幅
【数30】
を基準
【数31】
と相関させて、フレームjのブロックbの間のタイミングジッタ
【数32】
を推定する。次に、
【数33】
をτ
j,bだけシフトして、補償信号
【数34】
を取得する。次に、重畳保留の有用な部分、
【数35】
を保存する。周波数ドリフト補償信号は、
【数36】
である。
【0055】
FUTの各ポイントでの振動を推定するために必要なダウンストリーム動作は、従来のDASと同じである。これらの動作は、事前に定義されたゲージ長で差動ビート積を計算し、異なる偏波、周波数、空間チャネルなどからのビート積をダイバーシティ合成し、そして最後に FUTのすべての位置でアンラップされた位相を取得することを含むことができる。
【0056】
本発明の開示によれば、ブロック長T
bは、持続時間T
bにわたる二乗平均平方根(r.m.s.)周波数ドリフトσ
Δν(T
b)がチャープの時間分解能T=1/Bよりもはるかに小さくなるように選択されるべきであり、すなわち、
【数37】
のサンプルはすべて、
【数38】
に対して、時間分解能1/Bの精度まで同様の量だけ遅延される。T
bは、インタロゲータが使用するレーザーに依存する。
【0057】
レーザーの瞬時周波数がν(t)であると仮定する。S
νν(f)をν(t)の両側周波数雑音とする。T
bだけ離れた2つの時間インスタンス間の周波数ドリフト
【数39】
は、フーリエ変換
【数40】
を有する。したがって、
【数41】
のスペクトルは、
【数42】
である。
【0058】
分散
【数43】
は、τ=0で評価される自己相関
【数44】
に等しく、これはすべての周波数にわたる
【数45】
の積分に等しくなることはよく知られている。したがって、
【数46】
となる。
【数47】
はガウス過程であるため、ブロックの最初と最後のサンプルT
bが1/Bより大きい相対タイミングジッタを持つ確率
【数48】
が小さいことを保証するために、T
bは、
【数49】
となるように選択する必要がある。
【0059】
同様に、重複期間T
ovは、補償が必要となる可能性のある最大値
【数50】
の2倍よりも大きくする必要がある。
図3に示すように、タイミングジッタのr.m.s.値はσ
Δν(t)/αであり、インタロゲータからの距離
【数51】
とともに増加する。一定の重複サイズを使用する場合は、任意のフレームの最後のブロックの時間ジッタ
【数52】
が重複期間よりも大きくなる確率
【数53】
が小さくなることを保証するために、重複期間は、
【数54】
として選択する必要がある。
【0060】
実際には、
【数55】
によって推定されるレイリーインパルス応答
【数56】
は、偏波回転、温度変動などにより時間とともに徐々に変化する。基準
【数57】
が長時間保持されると、最終的には、
【数58】
が大きく変化し、
【数59】
は入力フレームと一致しなくなる。したがって、基準はN
uフレームごとに定期的に更新する必要がある。つまり、mN
u番目のタイミングジッタ補償フレーム
【数60】
を、フレーム
【数61】
から
【数62】
を補償するための新しい基準として使用する必要がある。
【0061】
図5は、本発明の態様による各ブロックの時間シフトを補償するための例示的な手順を示す概略図である。まず、基準との相関を計算して、r
j0,b[m]が
【数63】
の範囲で最大になる指標n
j,bを見つける。次に、ブロックは、n
j,bサンプル分だけバレルシフトされる。
【0062】
より正確な補償が必要な場合は、ピークサンプルと隣接する2つのサンプル間の比率を計算し、ルックアップテーブルを使用して割合シフト
【数64】
を見つけることができる。ブロックの割合シフトは、補間フィルタを使用して達成される。
【0063】
複雑さを軽減した実装
【0064】
前述の説明によれば、計算コストの高い動作は、(a)各ブロック
【数65】
を
【数66】
と相関させること、および(b)各
【数67】
をτ
j,bだけシフトさせることである。実際には、これらの信号はT
s=1/MBのレートでサンプリングされる。ここで、Mは、チャープ帯域幅Bに対するオーバーサンプリング比である。通信用のデジタルコヒーレント受信機と同様に、妥協案としてM=2が選択されることが多い。なお、τ
j,bは、T
sの整数倍である必要はない。
【0065】
デジタル相関
【数68】
は、T
sでサンプリングされたsinc
2(・)関数であると予想される。計算上簡単な解決策は、指標の範囲
【数69】
(ここで、
【数70】
はサンプル数での重複期間である。)に対してのみr
j0,b[m]を計算し、次にこの範囲で r
j0,b[m]を最大化する指標n
j,bを見つけることである。信号
【数71】
はn
j,bサンプルだけバレルシフトされるが、乗算は必要ない。この単純化された実装では、すべての
【数72】
を最も近いサンプルに調整し、補償信号の残留タイミングジッタが最大±0.5T
Sになるようにする。
【0066】
計算の複雑さが若干増す代替の実装により、タイミングジッタをさらに低減できることに留意されたい。
【数73】
は、最初のヌル間の幅が±Mサンプル離れたサンプルsinc
2(・)関数であるため、r
j0,b[m]を最大化する指標n
j,bを、その2つの近傍n
j,b-1とn
j,b+1とともに取ることができる。
【0067】
所定のタイミングジッタ精度に量子化された2つの比率
【数74】
および
【数75】
によってインデックス付けされたルックアップテーブルは、割合サンプルオフセット
【数76】
(ここで、
【数77】
である)を見つけるために使用することができる。前の場合と同様に、
【数78】
は、最初にn
j,bサンプルだけバレルシフトされる。残りの割合サンプル
【数79】
をシフトするには、N
intタップの補間フィルタh
int[n]を使用できる。h
int[n]の係数は、必要なタイミングジッタ精度に量子化され、異なる割合オフセットのルックアップテーブルに再び格納することができる。このステップは、通信用のデジタルコヒーレント受信機のタイミング回復に類似しており、受信信号は補間フィルタを用いてデジタル的に再サンプリングされ、サンプルがシンボルクロックと同期された状態に保たれる。N
intは小さくなる可能性があるため(たとえば、3タップまたは5タップ)、補間フィルタを使用した再サンプリングは、偏波ごとのサンプルあたりのN
int回の複素乗算と同等の低い複雑度にすることができる。
【0068】
実験結果の例
【0069】
本開示のよる周波数ドリフト補償の動作を実証する実験結果を得た。実験のセットアップは
図2に示す通りで、マッハツェンダI/Q変調器を駆動するデジタル/アナログコンバータ(DAC)を用いて、1kHzの繰り返しレートで、持続時間T
c=50μs、帯域幅B=10MHz(空間分解能
【数80】
)のチャープパルスを生成する。
【0070】
FUTは、50kmの標準シングルモードファイバ(SSMF)のスプールと、それに続く12mの長さの圧電トランスデューサー(PZT)で構成され、その出力は100mの長さのファイバで終端されている。PZTは、ピークツーピーク振幅が1.6radの67Hzの正弦波で駆動される。周波数ドリフトによって生じる歪みが非常に大きく、結果として生じるバックグラウンド雑音レベルがPZTの振動振幅よりも大きくなることが観察された。
【0071】
レーザー周波数ドリフトに関連するタイミングジッタを評価するために、受信信号とチャープを相関させた後に回復された
【数81】
の200以上のトレースを評価した。往復損失が
【数82】
である、ファイバ減衰による指数関数的減衰プロファイルが生成された。予想どおり、ファイバの始点間のタイミングジッタは無視できるが、FUTの終点ではピークツーピークで約1.5μsのタイミングジッタが観測され、これは~300kHzのピークツーピークの周波数ドリフトに相当する。
【0072】
このジッタを特徴づけて、本発明の方法を使用して周波数ドリフトを補正した。ブロックサイズはT
b=25μs、重複期間はT
ov=2.5μsとした。この手法を上記のデータ、すなわちタイミングジッタ補償後の終了間際の
【数83】
に適用すると、200個のトレースが互いによく揃うようになる。
【0073】
周波数ドリフト補償で前述の「安価/不良」レーザーを使用したDASの性能に本発明の技術を適用すると、67Hzの振動が明確に観察され、位相スペクトルは
【数84】
の歪み感度に対応するノイズフロアを有する。最後に、「不良」レーザーよりも周波数ドリフトがはるかに少ない「良質」レーザーを使用したDASの性能は、PZTの位置でも
【数85】
付近で歪み感度を生成する。したがって、周波数ドリフト補償により、周波数ドリフトが大きい安価な「不良」レーザーでも、高価な「良質」レーザーと同等のDAS性能を達成することができる。
【0074】
ここまで、いくつかの特定の例を使用して本開示を提示したが、当業者であれば、本発明の教示がそれに限定されないことを認識するであろう。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】