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特表2024-536565サブサーフェス修正による高精細および焦点深度拡張型の眼内レンズ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】サブサーフェス修正による高精細および焦点深度拡張型の眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
A61F2/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523474
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 US2022047104
(87)【国際公開番号】W WO2023069497
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】63/257,405
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521444608
【氏名又は名称】ジー・オプティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Z Optics, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】シュスター,マシュー
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA25
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC05
4C097SA02
4C097SA08
(57)【要約】
拡張焦点深度を提供するように構成された眼内レンズである。レンズは、第1の屈折率を有する第1のサブサーフェス領域と、複数の変更されたサブサーフェスの場所とを含む仮想開口を含む。修正されたサブサーフェスの場所は、第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する。場所は、網膜全体に光を広く分散させるために光を回折させるように構成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張焦点深度を提供するために構成された眼内レンズであって、該眼内レンズは:
少なくとも1つの前方光学表面と少なくとも1つの後方光学表面を含む光学ゾーン;
前記光学ゾーンに対して周辺に位置する第1の周辺領域であって、前記第1の周辺領域は仮想開口を含み、前記仮想開口は、前方仮想開口表面および後方仮想開口表面を含み、前記仮想開口は、第1の屈折率を有する第1のサブサーフェス領域を含み、仮想開口はさらに、複数の修正されたサブサーフェスの場所を含み、前記修正されたサブサーフェスの場所は、集束レーザー光の照射による光子の非線形吸収によって生じる、第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する第1の周辺領域;および
前記第1の周辺領域に対して周辺に位置する第2の周辺領域であって、前記第2の周辺領域は、眼内に前記眼内レンズを位置付けるためのハプティックであって、前記眼内レンズの最外領域を含むハプティック;を含み、
前記眼内レンズが眼に移植されると、前記前方光学表面に入射する第1の複数の光線は、前記光学ゾーンを通過して網膜上に像を形成し、
前記前方仮想開口表面に入射する第2の複数の光線は、前記眼内レンズから前記網膜方向に、そして前記網膜を横切るように、下流方向に広く分散され、それにより前記像は拡張焦点深度を含み、さらに、前記仮想開口は前記像の単色収差および色収差を低減する、眼内レンズ。
【請求項2】
前記仮想開口の前面または後面が、六角形によって規定された外側境界を有する六角形の微細構造を含む、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項3】
前記仮想開口の前面または後面が、マイクロレンズを有する六角形の微細構造を含む、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項4】
少なくとも1つのマイクロレンズが凸球を含む、請求項3に記載の眼内レンズ。
【請求項5】
少なくとも1つのマイクロレンズが凹球を含む、請求項3に記載の眼内レンズ。
【請求項6】
少なくとも1つのマイクロレンズが円錐曲面を含む、請求項3に記載の眼内レンズ。
【請求項7】
前記第1の周辺領域は、第1の遷移領域によって中央光学ゾーンに接続されている、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項8】
前記第2の周辺領域は、第2の遷移領域によって前記第1の周辺領域に接続されている、請求項6に記載の眼内レンズ。
【請求項9】
前記光学ゾーンが、第1の個別領域および第2の個別領域を含む少なくとも2つの個別領域を含む、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項10】
第1の個別領域は中央領域であり、第2の個別領域は、前記中央領域の周辺に位置する周辺領域である、請求項8に記載の眼内レンズ。
【請求項11】
第1の個別領域は第1の距離度数を含み、第2の個別領域は第2の距離度数を含む、請求項8に記載の眼内レンズ。
【請求項12】
前記第1の周辺領域は、所定のサイズの複数の穴を含み、前記複数の穴は、光が通過して回折効果を生じさせることができるように集合的に構成されている、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項13】
光学系のサイズが1.5mm~3.3mmである、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項14】
少なくとも1つのサブサーフェス位置は、光が通過して回折効果を生じさせるように構成されている、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項15】
前記複数の修正されたサブサーフェスの場所が、前記場所の2次元アレイに配列されている、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項16】
前記複数の修正されたサブサーフェスの場所が、前記場所の3次元アレイに配列されている、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項17】
前記サブサーフェスの場所は、等間隔の場所の長方形のアレイを形成する、請求項16に記載の眼内レンズ。
【請求項18】
前記第2の屈折率が前記第1の屈折率と0.06異なる、請求項1に記載の眼内レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本出願は、2021年10月19日に出願された「サブサーフェス修正による高精細および焦点深度拡張型の眼内レンズ(HIGH DEFINITION AND EXTENDED DEPTH OF FIELD VIA SUBSURFACE MODIFICATION OF INTRAOCULAR LENS)」と題する米国特許出願第63/257,405号に基づく優先権を主張し、その内容は、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
人間の眼はしばしば、デフォーカス(焦点ぼけ:defocus)や乱視などの収差を抱えており、高い生活の質を維持するためには、それらを矯正して許容できる視力を提供しなければならない。これらのデフォーカスおよび乱視収差の矯正は、レンズを用いて達成することができる。レンズは、例えば、眼鏡面、角膜面(コンタクトレンズまたは角膜移植)、あるいは眼内に設置され、フェイキック(有水晶体:水晶体が損なわれていない)またはアフェイキック(無水晶体:水晶体が取り除かれた)眼内レンズ(IOL)として位置することができる。
【0003】
デフォーカスや乱視などの基本的な収差に加えて、眼はしばしば、球面収差や他の収差などの高次収差を有する。また、眼には、色収差(これは概して可視光線の波長によって焦点が変化することによる収差である)も存在する。これらの高次収差や色収差は、人の視力の質に悪影響を及ぼす。高次収差や色収差の悪影響は、瞳孔が大きいほど大きくなる。これらの収差を除去した視力を、高精細(HD:High Definition)視力と呼ぶことがある。
【0004】
老視とは、眼が、異なる距離にある物体に焦点を合わせる能力を失った状態のことである。無水晶体の眼は老視である。無水晶体の眼に移植される標準的な単焦点IOLは、単一の焦点距離における視力を回復する。様々な距離で改善された視力を得るために、様々なデバイスおよび手技が使用されており、その中で、単焦点IOLを2焦点眼鏡または累進屈折力眼鏡を組み合わせて使用する。モノビジョンIOLシステムは、近方視と遠方視を回復するためのもう一つの選択肢である--1眼を、他眼とは異なる焦点距離に設定することで、2つの焦点の両眼での合算を提供して、混合(ブレンド)した視界を提供する。モノビジョンは、遠くから近くまで眼鏡なしの両眼視を実現するために、IOLを用いて、優位眼を遠方視に、非優位眼を近方視に矯正する、現在最も一般的な老視矯正方法である。
【0005】
また、IOLは、多焦点、例えば2焦点(2つの焦点領域-通常は遠方および近方-を有する)または3焦点(3つの焦点領域-通常は遠方、中間、および近傍-を有する)であってもよい。多くの多焦点IOLは、付加範囲(the addition range)内に分布する1つ以上の焦点領域を有するように設計されている。しかし、離散的焦点(不連続な焦点:discrete foci)を有する要素(element)を使用することだけが、設計の唯一可能な戦略ではない。焦点深度拡張型(EDOF: extended depth of field)の要素の使用、すなわち、必要な付加(または付加範囲)にわたる連続的な焦点セグメントを生成する要素の使用も考慮できる。これらの方法は、様々な焦点領域からの迷光が人の視力を低下させるため、完全に受け入れられるものではない。
【発明の概要】
【0006】
視力の質を向上するために、デフォーカス(焦点ぼけ)と乱視の矯正を同時に提供し、高次の収差および色収差を減少させ、かつ拡張焦点深度を提供するフェイキック(有水晶体)またはアフェイキック(無水晶体)IOLを少なくとも提供することによって、IOLの制限を克服するシステム、デバイス、および方法を開示する。さらに、IOLの中央光学系は、「近方視」領域の物体に対応する視力の質を向上させるために、小さな「加算(add)」セクターを提供する。
【0007】
開示されたIOLは、中央集光(central focused light)が網膜の中央焦点領域に到達し、デフォーカスされ収差された光を網膜の周辺部に広く分散させる光学構成を有する。デフォーカスされ収差された光を網膜全体に広く散乱させる1つ以上のIOL領域において、高出力屈折および/または全内部反射(total internal reflection)が採用される。その結果、焦点深度を増加させ、単色収差と色収差を減少させて、遠方視から近方視まで幅広い対象物の範囲にわたって高精細な視界を提供できる光学構成となる。
【0008】
1つの態様では、拡張焦点深度を提供するために構成された眼内レンズが開示され、前記眼内レンズは:少なくとも1つの前方光学表面(anterior optical surface)と少なくとも1つの後方光学表面(posterior optical surface)を含む光学ゾーン;前記光学ゾーンに対して周辺に位置する第1の周辺領域であって、前記第1の周辺領域は仮想開口を含み、前記仮想開口は、前方仮想開口表面(または仮想開口の前方表面:anterior virtual aperture surface)および後方仮想開口表面(または仮想開口の後方表面:posterior virtual aperture surface)を含み、前記仮想開口は、第1の屈折率を有する第1のサブサーフェス領域(または第1の表面下領域:first subsurface region)を含み、仮想開口はさらに、複数の修正されたサブサーフェスの場所(subsurface loci)を含み、修正されたサブサーフェスの場所(loci)は、集束レーザー光の照射による光子の非線形吸収によって生じる、第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する第1の周辺領域;および前記第1の周辺領域に対して周辺に位置する第2の周辺領域であって、前記第2の周辺領域は、眼内に前記眼内レンズを位置付けるためのハプティックであって、前記眼内レンズの最外領域を含むハプティック;を含み、前記眼内レンズが眼に移植されると、前記前方光学表面に入射する第1の複数の光線(a first plurality of light rays)は、前記光学ゾーンを通過して網膜上に像を形成し、前記前方仮想開口表面に入射する第2の複数の光線(a second plurality of light rays)は、前記眼内レンズから前記網膜方向に、そして前記網膜を横切るように、下流方向に広く分散され、それにより前記像は拡張焦点深度を含み、さらに、前記仮想開口は前記像の単色収差および色収差を低減する。
【0009】
本明細書に記載された主題についての1つ以上の変形例の詳細は、添付の図面および以下の説明に記載されている。本明細書に記載された主題の他の特徴および利点は、明細書および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、近視眼の瞳孔のサイズを利用して、単色収差を低減し、焦点深度を増加または拡張する基本的な方法を示す。
図1B図1Bは、近視眼の瞳孔のサイズを利用して、単色収差を低減し、焦点深度を増加または拡張する基本的な方法を示す。
図2A図2Aは、遠視眼の瞳孔のサイズを利用して、単色収差を低減し、焦点深度を増加する基本的な方法を示す。
図2B図2Bは、遠視眼の瞳孔のサイズを利用して、単色収差を低減し、焦点深度を増加する基本的な方法を示す。
図3A図3Aは、正視眼の瞳孔のサイズを利用して、単色収差を低減し、焦点深度を増加する基本的な方法を示す。
図3B図3Bは、正視眼の瞳孔のサイズを利用して、単色収差を低減し、焦点深度を増加する基本的な方法を示す。
図4A図4Aは、瞳孔のサイズを利用して色収差を低減する基本的な方法を示す。
図4B図4Bは、瞳孔のサイズを利用して色収差を低減する基本的な方法を示す。
図5A図5Aは、有効瞳孔サイズを制限するための仮想開口の基本的な概念を示す。
図5B図5Bは、有効瞳孔サイズを制限するための仮想開口の基本的な概念を示す。
図6A図6Aは、例示的なIOLの全体構造を示す図である。
図6B図6Bは、例示的なIOLの全体構造を示す図である。
図6C図6Cは、例示的なIOLの全体構造を示す図である。
図6D図6Dは、例示的なIOLの別の実施形態を示す。
図7図7は、仮想開口ゾーン内に、サンプリングされた六角形のマイクロレンズを有する例示的なIOLを示す。
図8図8は、マイクロレンズの例示的な六角形の幾何学形状を示す。
図9図9は、マイクロレンズの2次元アレイ(配列)の中心部分を示す。
図10A図10Aは、隣接する2つの六角形、隣接する対応するマイクロレンズ球、および最小曲率をサポートする滑らかな表面プロファイルを示す。
図10B図10Bは、隣接する2つの六角形、隣接する対応するマイクロレンズ球、および最小曲率をサポートする滑らかな表面プロファイルを示す。
図11図11は、近方視および遠方視の区画(partitions)を提供するためのIOLの光学ゾーンの例示的な区分を示す
図12図12は、IOLのサブサーフェス領域を修正するためのシステムに関する。
図13図13は、IOLのサブサーフェス領域を修正するためのシステムに関する。
図14図14は、IOLのサブサーフェス領域を修正するためのシステムに関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[詳細な説明]
本主題をさらに説明する前に、本明細書に記載された本主題は、記載された特定の実施形態に限定されるものではなく、そして、当然ながら変更してもよいことを理解されたい。また、本明細書で使用されている用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のものであり、限定することを意図するものではないと理解されたい。本明細書で使用されている全ての技術用語は、他に定義されていない限り、この主題が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。
【0012】
視力の質を向上するために、デフォーカス(焦点ぼけ)と乱視の矯正を提供し、高次の単色収差および色収差を減少させ、かつ拡張焦点深度を提供するフェイキックまたはアフェイキックIOLを、少なくとも提供することによって、IOLの制限を克服するシステム、デバイス、および方法を開示する。開示されたIOLは、本明細書において、Z+光学系またはZ+IOLと称することがある。PCT出願のPCT/US20/37014は、関連するシステムおよび方法を記載しており、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0013】
単色収差および色収差を低減し、増加した焦点深度を提供するために使用される基本原理の説明を提供する。図1Aは、光軸2を中心とした単一の収束レンズ1を模式的に示している。遠方の物体からの入射光線3は光軸に平行であり、レンズの焦点4(対応する図に基づいて、添字b、c、d、e、またはfが付される)と交差する。入射光線3は、光軸に平行であり、レンズの焦点4と交差する。レンズのパワー(power:屈折力)が適切に選択されていれば、焦点は観察面5と一致し、さもなければ、レンズのパワーと観察面の位置との間にミスマッチがあり、焦点は、観察面よりも手前側または後ろ側になる。
【0014】
図1Aでは、焦点位置は、観察面の手前側にある。入射光線3と同じ光線高さにある入射光線をすべてトレースすると、観察面5上にぼかし円(にじんだ円:blur circle)6ができる。観察面は光軸と直交する方向であるため、図では縦線で示されている。また、視覚化の便宜上、ぼかし円6、8を図面の平面内に示したが、実際には、ぼかし円は観察平面に含まれている。光線高さが入射光線3よりも低い他の入射光線は、このぼかし円6の内側に入る。そのような光線の1つが、入射光線3よりも光軸に近い入射光線7である。入射光線7も、焦点4と交差し、更に観察面5と交差する。入射光線7と等しい光線高さで全ての入射光線をトレースすると、ぼかし円6よりも小さいぼかし円8がトレースされる。
【0015】
図1Bは、図1Aと同じ光学系を示しているが、入射光線3bおよび7bの傾きによって示されるように、ここでは入射光線は、光学系に近接した物体に対するものである。近接した物体に対する焦点4(対応する図に基づいて、添字a、b、c、d またはfが付されている)は、観察面に近付き、ぼかし円6bおよび8bの両方とも、図1Aにおけるそれらの対応部分よりも小さくなる、という効果があるが、光軸の近くでレンズ1と交差する光線は、観察面上においてより小さなぼかしを有する、という原理は同じである。図1のこの単純な光学構造を人間の眼に関連づけると、収束レンズ1は、角膜および水晶体または眼内レンズを含む眼の光学系の主平面を表している。観察面5は網膜を表している。描画されているように、焦点4は観察面(網膜)の手前側にあるので、この図は近視または近視眼のものである。ぼかし円6、8(または6b、8b)のサイズは、網膜上でのデフォーカス量を表しており、ぼかし円の直径が小さいと、ぼかし円の直径が大きいものに比べて、鮮明な視界を提供する。
【0016】
入射光線の高さとぼかし円のサイズとについての同様な関係が、老視または遠視眼にも成り立つことに留意されたい。このことは、図2Aおよび図2Bに模式的に図示されており、これらは遠視眼に相当する光線を示している。遠方の物体からの光線3、7についての図2Aと、光線3b、7bについての図2Bにおいて、光線高さが低いほど、網膜(観察面)におけるぼかし円が小さくなる。
【0017】
同様に、図3Aおよび図3B(まとめて図3と称する)は、平行光線の高さとぼかし円の直径との特性が、正視眼にも同じように成り立つことを示している。遠方の物体に対しては、焦点4eは網膜にあり(眼が正視であるため)、ぼかし円6eおよび8eの半径はゼロである。近接した物体に対しては、焦点4fは網膜の後ろ側にあり、光軸に近い光線7bに対応するぼかし円8fは、光軸から遠い光線3bに対応するぼかし円6fよりも、直径が小さい。
【0018】
一般に、眼には収差があり、入射光線の位置が変わると眼内の焦点位置も変わることを意味する。しかし、焦点位置がどこにあるか(網膜より手前側、網膜上、または網膜より後ろ側)に関係なく、入射光線の高さが低くなると、網膜上のぼかし円の直径も小さくなる。別の言い方をすれば、眼のデフォーカス(光屈折異常:dioptric error)が一定量ある場合、入射光線の高さが低くなると視力が改善される。この原理は、焦点が合っていない遠くの物体または近くの物体をより鮮明に見ようとして、眼を細めて、眼の光軸から離れた入射光線をまぶたで遮断するときに使われる。
【0019】
図1A図3Bに示した光線トレースは、単一波長の入射光の場合である。多色光の場合、複数の波長が存在する。図4Aおよび図4B(まとめて図4と称する)に示すように、異なる波長の3つの光線によって一般的に図示される。眼の構成要素および典型的な光学材料では、光の波長が長くなると屈折率が低下することがよく知られている。
【0020】
図4Aでは、収束レンズ21は光軸22を有している。有色の入射光線23は、可視光線の範囲にほぼ広がる青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)の3つの波長の光からなる。3つの波長の屈折率が異なるため、青色光線24は緑色光線25よりも屈折し、緑色光線は赤色光線26よりも屈折する。緑色光線の焦点が合っていれば、緑色光線は光軸で観察面27と交差する。これらの3つの光線の色の広がりにより、観察面上に有色のぼかし円28ができる。
【0021】
図4Bでは、有色の入射光線29は、図4Aの有色の光線23よりも光線高さが低い。これにより、観察面での有色のぼかし33が小さくなる。このように、図1A図3Bの単色のにじみと同様に、有色光線の高さが低くなると、色のにじみが小さくなる。図4のような状況は、収束レンズ21を眼の主平面、観察面27を網膜と考えることで、眼と関連付けることができる。人間の眼は通常、大きな色収差(中央視界(central visual range)にわたって約1.0~1.2ディオプター)を有するので、色収差を減少すると、特にそのコントラスト感度によって測定さたときに、眼の見え方の質の顕著な改善をもたらす著しいものとなり得る。
【0022】
これらを総合すると、図1A図4Bは、光線高さを低くすると、網膜における単色収差および色収差の両方が減少し、したがって視力の質が向上することがわかる。これは、瞳孔径を小さくして軸からの距離が大きい光線を遮断することによって、あるいは、それら光線からの光を網膜全体に均一におよび/または広範囲に広げることによって、多くの異常光線のうち中央の網膜のぼかし円(central retinal blur circle)に寄与する光が少なくすることで達成できる。この効果のもう1つの特徴は、図1B図2B図3Bに示すように、光線高さが低くなるにつれて焦点深度が増加することである。
【0023】
図5Aは、光軸2と開口35を有する収束レンズ34を示す。平行な入射光線36はちょうど開口を通過し、そしてレンズ焦点37を通過し、観察面38と交差する。光線36と同じ高さのすべての平行光線が、観察面上に小さなぼかし円39をトレースする。平行な入射光線40は開口よって遮られるため、観察面に進んで大きなぼかし円41を生じることはできない。このように、入射光線の高さを低減させる開口は、観察面でのにじみ(ぼやけ)の径を小さくする。
【0024】
図5Bは、「仮想開口(バーチャルアパーチャ)」示している。つまり、実際には光線を遮断する開口ではないが、中央視に対する光学的効果はほぼ同様である。この図において、仮想開口に入射した光線40bの束は、仮想開口42を通って伝搬しさらに屈折、回折、散乱、反射、および/または拡散するので、広範囲に広げられた(widely spread out)得られた光線43は、観察面の任意の1点における迷光(ぼやけた光:blurring light)への寄与がほとんどない。これが、開示されたIOLの主な動作メカニズムである。
【0025】
仮想開口において光変更機構(light altering mechanism)の1つのタイプは、仮想開口の領域または全体に配置された所定のサイズの複数の穴である。穴は、個々にまたは集合的に構成されており、光を通過させて回折効果を生じさせ、もしくは所望の不透明度を達成または変化させる。穴は、網膜に対して特定の光散乱パターンを可能にする穴パターンの空間配置/パターン、直径、深さ、および/または密度を有しており、所望の拡散効果、例えば均一な光の分布および/または光の散乱などを達成することができる。1実施形態では、穴は、仮想開口において10パーセント~100パーセントの光透過率を達成するように、仮想開口全体にわたって密度を有しており、穴はこれを達成するように配置される。
【0026】
[眼内レンズの例示的な光学レイアウト]
図6A~6Cは、単色収差および色収差の低減と焦点深度の増加という利点を達成するために光学原理を採用した例示的なIOLのレイアウトを示す。図6AはIOLの正面図を示しており、正面図は前方図(front view)であってよい。図6BはIOLの背面図を示しており、背面図は後方図(posterior view)であってもよい。図6CはIOLの側面図を示している。IOLは、デフォーカス(焦点ぼけ)、乱視、および球面収差などのレンズに求められるその他の矯正を提供する中央光学ゾーン(central optical zone)46(裏面46bを有する)を含む。一般的に、仮想開口を採用したIOLは、従来のIOLに比べて中央光学ゾーンの直径が小さくなる。これにより、中心厚さが薄くなり、今度はIOLの移植が容易になり、手術中の角膜切開を小さくでき、例えば約2.2mmの切開である。
【0027】
IOLは、中央光学ゾーン46の中心位置に対してさらに周辺外側に配置された仮想開口48を含む。仮想開口48から周辺外側に移動すると、少なくとも1つの(裏面50bを有する)IOLハプティック50が、IOLに配置される。ハプティック50は、周辺外側に延びる1つ以上のアームから形成することができ、IOLの最外縁(peripheral most edge)を規定する。限定されない例では、光学ゾーンの直径は1.5mmである。1.5mmの直径の光学ゾーンは、メソニック条件下(または、中間視条件下)で目に十分な光を入れるために必要な最小閾値またはそれに近いことが示されている。他の限定されない例では、光学ゾーンの直径は、1.5mmから2.8mmまたは3mmのサイズである。他の実施形態では、光学ゾーンのサイズは、1.5mmから3.3mmであり、このサイズは直径に対応する。他の限定されない例として、光学ゾーンの直径は、1.65mmまたは3.3mmである。ハプティック50は、IOLの最外周領域(outermost peripheral region)を規定することができる。IOLが眼内に配置されたとき、光学ゾーンの前方光学表面に入射する第1の複数の光線は、光学ゾーンを通過して網膜上に像を形成することができ、その一方で、仮想開口の前方表面に入射する第2の複数の光線は、IOLから網膜方向に向かい、網膜を横切って下流方向に広く分散されて、それにより像は拡張焦点深度を含み、さらに、仮想開口は像の単色収差および色収差を低減する。光学ゾーンは、2焦点光学系、3焦点光学系および多焦点光学系のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0028】
仮想開口は、光学ゾーン46の周縁に位置する第1の遷移領域47によって光学ゾーン46に接続されており、そして、仮想開口は、光学ゾーンを囲むまたは部分的に囲む第1の周辺領域となる。ハプティックは、眼内に眼内レンズを位置決めするための第2の周辺領域を含むことができる。第1の遷移領域は、光学ゾーン46の周辺外側に配置されている。第2の遷移領域49は、ハプティック50を仮想開口48に接続する。第1の遷移領域47および第2の遷移領域49は、それぞれの遷移領域の両側において、IOLの外面の0次および1次の連続性を確保するように構成される。これを実現する一般的な方法は、3次ベジェ関数などの多項式関数である。これらのような遷移方法は当業者に知られている。これらの遷移領域を実現する一般的な方法は、3次ベジェ関数などの多項式関数である。これらのような遷移方法は当業者に知られている。IOLの裏側には、中央光学ゾーン46b、ハプティック50b、およびそれらの間の遷移47bがある。図6A~6Cは必ずしも縮尺通りではなく、ハプティックの形状は説明の目的のみのものである。当業者に知られている他のハプティック形状およびサイズも同様に好適であろう。第1および第2の遷移領域は、IOLに必ずしも存在しなくてはならない、というわけではない。
【0029】
IOLは前方表面および後方表面を有し、光学ゾーン46、第1の遷移領域47、第2の遷移領域49、仮想開口48、ハプティック50を含むIOLの構成要素の各々は、それぞれの前方表面および後方表面を有することができる。光学ゾーン46は、少なくとも1つの多焦点ゾーンおよび/またはトーリック(円環状:toric)領域を含み得る前方光学表面を有する。前方表面および/または後方表面の少なくとも一部または領域、例えばIOLの仮想開口の領域または他の部分などは、そこを通過する光に対して所望のまたは所定の効果を達成できる表面の輪郭または形状を有することができる。非限定的な例示では、前方表面および/または後方表面の表面輪郭は、例えば波状(wave shape)、一連の隆起表面と下降表面とを形成する起伏形状などのリップルタイプ(波紋型:ripple-type)の輪郭を備えた領域を含む。表面輪郭は、IOLを通過する光に関して様々な効果を達成することができる。例えば、表面輪郭は、使用される表面輪郭のタイプに応じて、迷光の広がりを広く、またはさらに広くすることができる。表面輪郭は、網膜の焦点から遠ざかるように誘導される迷光の広がりを達成するために使用することができる。
【0030】
図6Dは、IOLの別の実施形態の正面図を示しており、中央光学ゾーン、複数の周辺ハプティクス605、および以下にさらに説明するようなリップルや波状などの表面輪郭を有する少なくとも1つのゾーンを含む。一例としては、光学ゾーンの直径は1.5mmであり、遠方の物体を中心網膜に鮮明に焦点を合わせるレンズとして機能する。
【0031】
IOLは、1つ以上の突起(protrusions)またはコブ(nubs)などの1つ以上の配向構造(orientation structures)610を含む。図示された実施形態では、配向構造610は、IOLの一部の周縁に配置され、少なくとも1つの配向構造610はIOLの垂直子午線の第1の側に、第2の配向構造610は垂直子午線の第2の側に配置されている。
子午線
垂直子午線は、図6Dでは破線でされている。配向構造610は、外科医などの臨床医が、IOLの正しい側が目の前方に向いていることを容易に検出できるように構成されている。IOLが、裏面を目の前方に向くように方向付けられた場合、配向構造610は、レンズの垂直方向に対して反時計回りになるであろうことに留意されたい。
【0032】
説明したように、ハプティック605は、眼との機械的インターフェースを提供し、IOLの各ゾーンを、眼に対して適切な位置に保持する。
【0033】
[光学ゾーンの詳細例 - 六角形マイクロレンズ仮想開口]
図7は、1つ以上の六角形構造を有する仮想開口を含むIOLの正面図を示している。IOLは、中央光学ゾーン709、第1遷移ゾーン710、六角形マイクロレンズ仮想開口711、第2遷移ゾーン712、およびハプティック713を有する。第1遷移ゾーン710は、中央光学ゾーン709を六角形マイクロレンズ仮想開口711に接続し、第2遷移ゾーン712は、六角形マイクロレンズ仮想開口711をハプティック713に接続する。
【0034】
仮想開口は、網膜のフォトセンサーサンプリングを模倣した2次元の六角形サンプリングアレイ(配列)のマイクロレンズを採用している。この配置は、IOLが眼に移植されたときに光を網膜全体に広く拡散させるのに有益なレイアウトである。
【0035】
六角形マイクロレンズ仮想開口711は、IOLの前面および/または裏面に配置された複数の六角形形状の微細構造を含む。六角形の形状は、各々の六角形微細構造(hexagonal micro-structures)の外側境界(outer boundary)に関するものであり、IOLの前側または裏側から見たときに、六角形微細構造によって規定される外側境界を有する。すなわち、六角形微細構造は、六角形で規定される外側境界を有することができる。それぞれの六角形微細構造の境界の内側には、小さいレンズが配置される。レンズは、微細構造上または微細構造内に配置される構造とすることができる。レンズは、製造時に微細構造の一部としてモノリシック(または一体的)に形成してもよい。網膜上の望まれない光のパターンを防ぐのを助けるために、各六角形の内部のマイクロレンズの中心は、IOL上でランダムに移動または配置され、マイクロレンズの半径も調整される。六角形マイクロレンズ仮想開口の製造を容易にするために、マイクロレンズの六角形の境界の間に、マイクロレンズを形成する旋盤カッターの半径よりも大きい曲率半径を有する混合領域(またはブレンド領域:blending region)またはフィレットが配置される。この半径は、限定されない例では、約0.05mmである。
【0036】
六角形は様々な寸法を有することができる。1実施形態では、微細構造の六角形は幅よりも高さが高い。別の実施形態では、微細構造の六角形は高さよりも幅が広い。別の実施形態では、微細構造の外側境界は、任意形状の多角形である。
【0037】
図7をさらに参照すると、第1遷移ゾーン710は、光学ゾーン709の端部と中央の六角形マイクロレンズ領域711の間に滑らかな構造的ブレンド(structural blend)を提供するように構成されている。第2遷移ゾーン712は、周辺の六角形マイクロレンズ領域711とハプティック713の間に滑らかな構造的ブレンドを提供する役割を担っている。これらの遷移領域は、それぞれのゾーンの表面を規定するために、ベジェ曲線やベジェ曲面の一部を使用して効果的に達成することができる。他の遷移関数も同様に好適であり得、当業者に公知である。本明細書に記載されたIOLのいずれの実施形態も、遷移ゾーンを含まないように構成され得ることを理解されたい。
【0038】
マイクロレンズは、球状、円錐状、または入射光線を網膜全体に広く拡散させるために高い光パワーを達成できる他の同様の外面によって少なくとも部分的に規定される1つ以上の外面として実装される。例えば、マイクロレンズは、プリズム形状またはピラミッド形状によって少なくとも部分的に規定される1つ以上の外面として実装される。一例として、以下の議論では、球形マイクロレンズを備えた実施形態が例示されている。
【0039】
[標準的な六角形サンプリング(Nominal hexagonal sampling)]
1つの例示的な六角形が図8に示されており、六角形1014によって規定された微小構造を備えた仮想開口の例示的な微細構造を示している。図8では、六角形1014は、六角形の形状またはサイズを規定する外接円1015内に示されている。六角形には、幅1016と高さ1017がある。図示されているように、六角形の高さは外接円1015の直径と等しい。外接円の半径に関して、六角形の幅は、以下の式(1)で与えられるピタゴラスの定理を用いて求められ、高さは式(2)で与えられる:
【0040】
【数1】
【0041】
また、(a)六角形の各内角は120度であり、(b)各辺と中心点は内角60度の正三角形を形成し、(c)六角形の辺の長さは外接円の半径と等しい。
【0042】
六角形の2次元アレイ(または2次元配列)の中心部分を図9に示す。六角形の2次元アレイの寸法は式(3)で定義される。
【0043】
【数2】
【0044】
この式において、Nは正の偶数整数、例えば50である。各六角形の中心位置(x, y)は、式(4a)および(4b)で与えられる。
【0045】
【数3】
【0046】
【数4】
【0047】
2次元の六角形アレイ要素(または六角形配列要素)のインデックスおよび六角形の中心座標(x, y)は、図9の各六角形中心の上および下の数値の対で示されている。
【0048】
[マイクロレンズ全体の滑らかなプロファイル]
図10Aは、2次元アレイ(または2次元配列)の中心にある隣接する例示的な2つの六角形を示している。このアレイ(配列)の中心は、IOLの光軸と一致し得る。六角形1018は、その中心が、IOLの光軸の中心にある。マイクロレンズ球面1020は、その中心が、六角形1018の中心からランダムな(x、y)距離に位置している。六角形1019は、六角形1018に直接近傍しており、マイクロレンズ球面1021は、その中心が、六角形1019の中心からランダムな(x,y)距離に位置している。マイクロレンズ球面1020の半径は、マイクロレンズ球面1021の半径よりも大きい。図10Aにおいて、座標は(x,y)と称されており、zはページから突出し(または紙面上向き)、xは右向き、yは上向きである。したがって、これはレンズの表面を見下ろした視点を表し、各マイクロレンズ球面は凸状であり、したがって、局所的な正の高出力表面を生成する。図10Aはまた、マイクロレンズ球面1020および1021の中心を通って延びるプロファイルAA'を示しているす。
【0049】
図10Bは、図10Aに示した形状の側面図を示す。球1020および1021は、図10Aの同じ球に対応して示されている。球の中心は、それぞれ球1020および1021に対応する点1022および1023として示されている。この図の座標は(x, z)と称されており、yはページの内側向き(または紙面下向き)、xは右向き、zは上向きである。ここで、プロファイルAA'は、球1020および1021ならびに球状フィレット1024に起因した、マイクロレンズアレイ(またはマイクロレンズ配列)の表面上の曲線であることがわかる。図10Bに示す球は凸面であり、フィレット球は凹面である。別の例では、マイクロレンズ球は凹面であり、フィレット球は凸面である。この後者の球の向きは、切削工具の半径によって制限されない、より小さなフィレット球半径を使用できるという利点を提供する。
【0050】
IOLの製造プロセスに従って、球状フィレットの半径は、与えられた切削工具で表面を生成できるように、旋盤の切削工具の半径よりも大きく選択される。滑らかなプロファイルAA'の表面点を見つけるために、球状フィレット1024の中心1025は既知の半径として定義される。簡単にするために、マイクロレンズの中心は光軸に垂直な平面上にz値を有するように制約される。図10Bに示されている点Pは、フィレット球1024の中心1025と同じ(x, y)座標を有し、マイクロレンズ中心1022と1023を結ぶ線上に位置している。点Pの座標は式(5a)で与えられる。
【0051】
【数5】
【0052】
ここで
【0053】
【数6】
【0054】
これらの式において、
【0055】
【数7】
【0056】
【数8】
【0057】
【0058】
マイクロレンズ球全体に対するフィレット球の中心の中心点の集合(またはセット:set)は、式(6a)から求めることができる。
【0059】
【数9】
【0060】
ここで
【0061】
【数10】
【0062】
角度θは、Pを含む平面内にあり、2つのマイクロレンズ球の中心と交差する線に垂直である。この幾何学を用いて、曲線セグメントAB、BB'、およびB'A'に沿った表面点をトレースすることができる。これらの点は、仮想開口内の各マイクロレンズ間の連続的なブレンディング(continuous blending)を形成し、これにより、フィレット球の半径よりも小さい半径のツールを使用して旋盤で切削可能になる。
【0063】
上述した概念を使用してIOLの表面を定義するために、以下のことを実行する。まず、IOLの中央光学系は、例えばPCT特許出願番号PCT/US20/37014および米国特許出願番号16/380,622に記載されているように特定し、これらの出願の内容は、その全体を参照して本明細書に組み込む。光学ゾーンの直径は、非限定的な例では、約1.5mmであり得、(1.4mm~1.6mm)の間であり得る。光学ゾーンの光学度数(または屈折力:optical powers)は、-10D~40Dの範囲で、0.25Dまたは0.5D刻みで変化する。トーリックIOL(または乱視用IOL)のためのシリンダー度数(または円柱度数:cylinder powers)は、0.5D~6.0Dの範囲で、0.25~0.5D刻みで変化する。
【0064】
次いで、マイクロレンズアレイの仮想開口を、上記の概念を用いて生成し、ここで六角形を囲む円の半径は約0.125mmである。個々のマイクロレンズ球の中心は、xおよびyを0.05mmずつランダムに変化させる。マイクロレンズ球の半径は、約0.2mmの平均半径から、0.05mmずつランダムに変化させる。仮想開口領域の幅は約2.0mmである。
【0065】
マイクロレンズアレイのフィレット球の半径は、旋盤工具の半径よりも約25%大きく設定される。これは約0.05mmであり得る。
【0066】
前面遷移領域の幅は、それぞれ約0.15mmに設定される。裏面遷移領域の幅は約2.3mmに設定される。
【0067】
ハプティックの構成は、当業者における通常の手順に従って構成される。
【0068】
前面および裏面が指定されたら、旋盤用切削用具(または旋盤加工ファイル:lathe cutting file)の点を指定するために、IOLの中心から周辺にかけて個々のプロファイルサンプルを採取する。
【0069】
[多領域光学ゾーン]
図11は、本明細書に記載された任意のIOLに含まれ得る多領域、例えば2領域の光学ゾーン1101を概略的に示している。領域は符号1109及び1110で示されている。これらは、2つの別個の度数のための、光学ゾーン内の2つの別個の領域を表す。例えば、第1の個別(不連続または離散:discrete)領域は中央領域1109であり、通常は遠方視を提供する。第2の個別(不連続または離散)領域は周辺領域1110であり、通常は近方視を提供する。近方視領域の「加算」は約3.0Dであり、2.0~35Dの範囲である。
【0070】
IOLの光学的作用機序の特性により、バイフォーカル(または2焦点)光学ゾーンを提供することは、5.0mm以上の通常サイズの光学ゾーンほど問題にはならない。これは、典型的な1.5mmの中央光学ゾーンの直径の外側にある入射光線によって引き起こされる余分な収差が、網膜全体に広く分散されて、眼の中央視に悪影響を与えないためである。
【0071】
[光学ゾーン領域の分布]
例示的な構成では、中央光学系の遠距離度数領域が光学ゾーン面積の75%を占め、中央光学系の近距離度数領域が光学ゾーン面積の25%を占める。中央光学ゾーンの直径は典型的には1.5mmであるため、光学ゾーンの中央領域1109の直径は1.3mmであり、光学ゾーンの残りの部分は、近方視領域1110のために25%を提供する。
【0072】
一部の眼においては、遠方視領域の面積と近方視領域の面積を50%ずつ、または遠方視用に25%、近方視用に75%に配分することが好ましい場合もある。一方の眼に、遠方視のための光学ゾーン面積の大部分(例えば75%~100%)を提供し、もう一方の眼に、近方視のための光学ゾーン面積を多くすることは、拡張焦点深度/モノビジョンの患者に使用される場合がある。この場合、両方の眼が拡張焦点深度を有するが、一方の眼(通常は優位眼)は。遠方視に対してわずかに良い性能を有し、もう一方の眼は、近方視に対してわずかに良い視覚性能を有する。
【0073】
[光学ゾーン領域の光学面]
光学ゾーン領域に所望の屈折力を提供するために、円錐屈折プロファイルを使用することも、また回折プロファイルを使用することもできる。
【0074】
単純な円錐屈折プロファイルの場合、各光学ゾーンは円錐曲線を通じてその光学度数(または屈折力)を提供して、これにより、頂点部曲率半径が所望の光学度数を提供し、円錐定数(K)値はその領域の球面収差を減少させるように設定される。頂点部曲率半径と円錐定数を見つけるための最適化は、Zemaxなどの市販の光学設計プログラムを使用して、または閉形式の解析方程式を使用して、数値的に行うことができる。これらの方法はいずれも、当業者に知られている。さらに、円錐定数値は、IOLの焦点深度性能をさらに向上するために調整することができる。-7.5~-9.5の範囲、典型的には-8.717の円錐定数値は、等しい両凸円錐光学ゾーンに対して、そのような向上を提供する。
【0075】
単純な円錐屈折プロファイルが使用され、光学ゾーンの中央領域9が遠方視を提供し、周辺領域10が近方視を提供する場合、領域間の遷移は無視できるほど小さい。遷移領域は概して、2つの光学パワー領域の一方によって適切に集束されるはずの迷光を引き起こすため、これは好ましい配置である。
【0076】
単純な円錐屈折プロファイルが使用され、光学ゾーンの中央領域9が近方視を提供し、周辺領域10が遠方視を提供する場合、領域を滑らかに結合するために、領域間の遷移が必要である。この遷移プロファイルは一般に、ベジェ曲線または円形フィレットのいずれかによって実装され、これらはいずれも当業者に知られている。
【0077】
[周辺加算ゾーン(Peripheral add zone)]
別の実施形態では、加算ゾーンは、仮想開口領域内に配置することができる。さらに別の実施形態では、加算ゾーンは、大きな遷移領域内の後面側に配置することができる。周辺加算ゾーンは、中央光学系の加算ゾーンとともに存在し得る。
【0078】
[乱視矯正のためのシリンダー度数]
乱視を矯正するために、IOLの光学ゾーンの片面または両面に、円柱成分(またはシリンダーコンポーネント:cylinder component)を追加することができる。この目的のためのシリンダー度数(または円柱度数)は、0.5~6.0ディオプターの範囲で、0.25Dまたは0.5D刻みで変化する。
【0079】
上述した概念を使用してIOLの表面を定義するために、以下のことが行われる。まず、IOLの中央光学系は、上述ように特定する。光学ゾーンの直径は、約1.5mmであり、例えば(1.4mm~1.6mm)の間である。この光学ゾーンの光学度数(または屈折力)は、-10D~40Dの範囲で、0.25Dまたは0.5D刻みで変化する。トーリックIOL(または乱視用IOL)のためのシリンダー度数(または円柱度数)は、0.5D~6.0Dの範囲で、0.25~0.5D刻みで変化する。
【0080】
次いで、これまでの開示で説明された概念を用いて、仮想開口を生成する。仮想開口領域の幅は約2.0mmである。
【0081】
前面遷移領域の幅は、それぞれ約0.15mmに設定される。裏面遷移領域の幅は約2.3mmに設定される。
【0082】
ハプティックの設計は別個の問題と考えられ、当業者における通常の手順である。
【0083】
前面および裏面が指定されたら、旋盤用切削用具(または旋盤加工ファイル)の点を指定するために、IOLの中心から周辺にかけて個々のプロファイルサンプルを採取する。
【0084】
[IOLのサブサーフェス修正(表面下修正)]
1実施形態では、IOLの少なくとも1つの領域、例えばIOLの仮想開口48には、IOLの内部構造の少なくとも一部の修正を含む、少なくとも1つのサブサーフェス(表面下)の修正(または変更:modify)が含まれる。IOLには、このようなサブサーフェス修正だけでなく、任意で、IOLの前方および/または後方の外面の特徴(外面上の形状変更または輪郭など)を含むことができる。サブサーフェス修正は、その部分を通過するか、または他の方法でサブサーフェス修正と相互作用する光に対して、光を拡散、均質化、または光を再指向するなど所望の光学効果を達成するように構成されている。IOLのサブサーフェス修正は、IOLの少なくとも1つの領域において、そこを通過する光を拡散および/または均質化するための代替の、効率的かつ再現可能なメカニズムを提供する。以下に説明するように、レーザーによる損傷スポットのサイズ、または屈折率の変更された場所(modified refractive index loci)を変えることで、光の拡散および/または均質化の程度を、特定の要件に合わせて調整することができる。光の拡散の程度を達成するために、損傷スポットまたは場所(loci)の配置の間隔または密度、またはそれらの損傷スポットまたは場所の層の数を変えることができる。損傷スポットまたは場所の構成(または配置)を使って、例えば光を所望の方向に誘導するなど、光の方向の制御を達成することもできる。これにより、IOLまたは光拡散装置の光学特性を微調整したり、カスタマイズしたりすることができる。眼内レンズは、IOLの形成に基づいて材料にレーザーを照射するように設定されたレーザー照射装置を含むシステムの一部となることがでる。
【0085】
いずれの実施形態においても、特定の場所(loci)は前面または後面と交差することができる(例えば、それぞれの表面の接線方向に配置するなど)。また、これらの場所(loci)は、前面または後面に対して任意の深さに配置することもでき、表面そのものの位置に配置することも含まれる。
【0086】
この装置(またはデバイス)は、例えばIOLのように装置内に含まれるか、または装置に結合された回折特徴を通じて、光が通過する際に様々な方法で回折を達成できる。回折特徴は十分に小さいサイズに設計されており、回折特徴と相互作用する光線に回折効果を与え生じさせ、網膜(または他の対象物)上に光を広く分散させる。回折特徴の例としては、サブサーフェス修正、プリズム(またはその一部、例えばエッジ、点、頂点)、段差形状、IOLの穴または開口、および/またはIOL上に配置されたマスクなどである。装置はまた、装置上(または装置表面上)または装置の上側に配置された回折特徴を通じて光の回折を達成するように構成することもできる。
【0087】
1実施形態では、サブサーフェス修正は仮想開口には配置されず、むしろIOLの光学補正ゾーンの一部であり、それはIOLの仮想開口48の領域内にある場合とない場合がある。別の実施形態では、サブサーフェス修正は、IOLの光拡散領域を形成するか、またはIOLではない光透過体または構造の光拡散領域を形成する。例えば、本明細書で説明された特徴は、IOLではない光拡散装置にも使用できる。
【0088】
サブサーフェス修正の第1の例示的な実施形態では、レーザーがIOLの内部領域(すなわち、サブサーフェス領域または場所)と相互作用するように構成されて、これにより、例えばサブサーフェス(表面下)の場所にあるIOLの構造を修正するなど、サブサーフェス修正が達成される。同じレーザーまたは異なるレーザーが、IOLの表面領域と相互作用することもでき、第1のレーザーが表面領域と相互作用し、第2のレーザーまたは異なるレーザーがサブサーフェス領域と相互作用する。サブサーフェス領域は、少なくともIOLの前面と後面の間に位置している。例えば、レーザーをIOLのサブサーフェス(表面下)に焦点を合わせてIOLの材料を加熱し、IOLの材料内におけるサブサーフェスの位置に損傷領域または損傷スポットを形成する。
【0089】
図12は、IOL1210(または、後にIOL1210内に形成されるか、IOL1210上に配置されるか、またはIOL1210に組み込まれる材料の一部または本体、もしくはIOLではない装置、例えば、光拡散装置を形成する材料)と相互作用するように設計されたレーザーシステム1205の概略図を示している。レーザーシステム1205は、IOLと相互作用するレーザー1220を放出するように設計されており、例えば、レーザー1220はIOL1210のサブサーフェスの特定の位置に焦点を合わせるか、その他の方法で所定量のエネルギーを放出する。
【0090】
レーザーシステム1205は、レーザー1220をIOL材料(限定しない例としては、例えば、ガラスまたはポリマー材料)のサブサーフェス(表面下)に焦点を合わせるように、または表面下の位置に所定レベルのエネルギーを放出するように設計されている。1実施形態では、レーザーは高速でパルス化される。レーザー1220は、IOL材料の内部(すなわち、IOL材料の外面の下、または前面と後面の間)に1つ以上の微小な損傷スポットを形成する。例示的な実施形態では、パルスレーザーは焦点を合わせたレーザースポットの近くで材料の急速な加熱および膨張を引き起こし、これにより材料に応力と小規模な破損、ガス膨張が生じ、それにより損傷スポットを形成する。結果として、破砕または損傷スポットは非常に小さい寸法(例えば数十ミクロンオーダー)になり得る。
【0091】
レーザーは、前方または後方の外面に対して材料内の特定の深さ(Z方向)に焦点を合わせたまま、横方向のX/Y方向に迅速かつ正確に移動させることができる。この深さに損傷スポットのパターンまたは配列を形成することができる。また、2層以上の損傷スポットを形成することもできる。レーザーの焦点の深さは、ミクロン単位の深さ解像度で迅速かつ正確に制御される。
【0092】
このようにして、レーザーは多種多様なパターンのいずれかに配置され得る2次元または3次元アレイ(配列)の損傷スポットを形成する。2次元アレイには、同じ平面内に配置された2つ以上の損傷スポットが含まれる。3次元アレイには、2つ以上の2次元アレイが含まれる。図13は、IOL1210の一部を示す概略図である。図13では、説明を容易にするために、IOL1210の一部をプリズム形状で表現しているが、形状は様々であり得、プリズム形状に限定されないと理解されたい損傷スポット1305の2次元または3次元アレイは、IOL1210の外面の完全に下側に配置されている。このアレイ(配列)は1つ以上の損傷スポットを含む。図示された例では、損傷スポットは等間隔で配置された長方形のアレイを形成しているが、アレイの形状および空間配置ならびにアレイ内の損傷スポットは変わり得る。
【0093】
IOLの製造工程の一例では、以下の工程を実施し得る。まず、IOLは、プラスチック(または他の材料)のブランクから、IOLを形成するための公知のプロセスを用い、旋盤などで形成される。IOLは、拡大焦点深度または単眼集束を可能にするように構成された光学ゾーンを中央部分に有する様々な材料から機械加工される。1つの実施形態では、IOLは、図6A図7を参照して本明細書に記載された特徴を有するように構成される。次に、仮想開口が、平坦な後面および前面を有するように形成されてもよく(つまり外面は、機械加工または他の方法による修正はされない)、もしくは、前面または後面は、溝、隆起(リッジ)、波状、リップル、プリズムまたはその他の表面特徴などの所望の表面特徴を含むように機械加工されてもよい。次に、1つ以上のハプティクスが、仕様に沿って基材ブランクに機械加工されて、外科手術による移植と眼内での適切な配置を可能にする。
【0094】
次に、上述したように、レーザーシステム1205を使用して、IOLの仮想開口内に損傷スポットの2次元または3次元のパターンを作成する。つまり、損傷スポットを共通の平面内に整列させることができる。別の実施形態では、IOLは、平面の3次元アレイを形成するように配列した一連の平面を含み、各平面が1つ以上の損傷スポットを含む。
【0095】
レーザー損傷を正しくかつ正確に狙うために、IOLを適切に整列させるプロセスまたはシステムを使用することができる。損傷スポットの2次元または3次元アレイ(配列)は、所定量または所望量の光の透過と拡散を可能にするように構成される。例えば、損傷スポットのパターンは、50ミクロンのスポットによる5~10層のパターンであってもよく、損傷スポットの間隔は50ミクロンで、長方形グリッドまたは環状グリッドに配列されている。パターンは、軸方向に見たときに隙間が埋まるように、層間のオフセット(ずれ)を含むことができる。損傷スポットの均一な分布は、眼に移植したときに視覚的アーチファクト(不要な画像)をもたらす可能性があるため、例示的なスポットパターンでは、疑似ランダム配置の戦略を採用している。
【0096】
サブサーフェス修正の第2の例示的な実施形態では、フェムト秒パルスレーザー(FSPL)は、IOLと相互作用して(例えば、IOLのサブサーフェス(表面下)の位置に焦点を合わせて)屈折率を修正するように設定されている。フェムト秒パルスレーザーは、サブサーフェス(表面下)の位置に、修正された場所(loci)を形成し、修正された場所は、修正前の材料とは異なる屈折率を有する。修正された場所の異なるパターンは、選択された屈折力(dioptic power)、トーリック調整、および/または非球面調整を提供し得る。修正された場所の屈折率は、周囲のサブサーフェス位置の屈折率とも異なってもよい。異なる屈折率は、フェムト秒パルスレーザーによる集束レーザー光に曝された結果生じる光子の非線形吸収によって引き起こされる可能性がある。
【0097】
再び図12を参照すると、レーザーシステム1205は、フェムト秒パルスレーザー1220を放出するように構成され得る。フェムト秒レーザーは、IOL1210のサブサーフェス(表面下)の点に集光されて、非常に特定の時間および強度のプロファイルでパルス化される。レーザーは、例えばガルボポジショニングコントローラー(Galvo positioning controller)を使用して、XY平面内で制御することができ、これにより、XY平面内でのビームの非常に高速かつ高精度の配置が可能になる。さらに、このシステムは、音響制御の集光機構と結合または使用することにより、非常に高い周波数と非常に高精度での集光制御を可能にする。これにより、フェムト秒レーザーの集光スポットを、基材内の任意の深さおよび任意のXY座標に、極めて高速かつ正確に位置決めすることができる。
【0098】
フェムト秒レーザーパルスは、IOLの内部領域に影響を与え、IOLの特定のサブサーフェス領域の屈折率を変えて特定の場所(loci)を形成する。このプロセスは、例えばガラス、疎水性および親水性アクリルなどの様々なIOL材料に適用できる。屈折率の変化をもたらすメカニズムは基材ごとに異なるが、言及した全ての基材において、レーザーの影響を受けたエリアは、周囲の材料よりも屈折率が低くなる。屈折率の低下は、基材の特性、レーザー照射の強度と時間、材料の厚さなどの様々な要因に依存し得る。一般的に、屈折率を約0.06変化させることは、一貫して達成可能である。例えば、元の親水性アクリル基材は、完全に水和した状態で、公称屈折率が1.459の場合、レーザー照射後の処理エリアの屈折率は1.399と低くなる可能性がある。
【0099】
図14は、IOL1210の一部を示す概略図である。修正された屈折率を持つ場所(loci)1405のアレイ(配列)(各々が修正された屈折率を有する)は、IOL1210の外面の完全に下側に配置されている。このアレイ(配列)は1つ以上の場所(loci)を含む。図示された例では、場所(loci)は等間隔で配置された長方形のアレイを形成しているが、アレイの形状および空間配置ならびにアレイ内の場所(loci)は変わり得る。
【0100】
サンプル製造プロセスでは、IOLは旋盤を使用して、本明細書に記載されるような仮想開口を有するIOLを形成する。図12を参照すると、IOLは、フェムト秒レーザー装置1205と整列されており、この装置は、サブサーフェス位置に集光されたフェムト秒レーザー1210を放出して、修正された屈折率の領域の所望のパターンを作成し、所望の光の拡散、透過及びビームステアリング(beam steering)を達成する。
【0101】
サブサーフェス修正のいずれの実施形態においても、アレイ内の損傷スポットまたは場所(loci)の複数の層(または多層化)により、細い光線がIOLに入射したときに拡散し均一化することができる。
【0102】
IOLまたはIOLの一部が光を拡散させる限りにおいて、その拡散はIOLに関連する、またはIOLの製造に関連する様々な特徴または技術によって達成し得る。これらの技術には、環状旋盤を使用してIOLの表面を修正するなどの、IOLの1つ以上の表面修正を含むことができる。マイクロレンズを含む環状または非環状の表面修正を使用することができる。これらの修正は、IOL上にランダムまたは疑似ランダムに配置することができる。別の実施形態では、IOLの表面は、表面をランダムに粗くするため、または所望の表面粗さを達成するために、(サンドブラスト、特定の砥粒による研磨などを介して)研磨される。また、表面を化学的にエッチングすることや、レーザーを使用して表面の材料(または表面の物質)を選択的に焼き切る(burn away)ことで粗面化することもできる。前述の技術の組み合わせも使用することができる。
【0103】
別の実施態様では、IOLの内部のアスペクトを修正することで拡散を達成する一方、外面は修正しないままにする(または、IOLの外面の修正と組み合わせる)。IOLは、ホログラフィックディフューザー(またはホログラフィック拡散板)を組み込むことができ、ホログラフィックディフューザーの干渉パターンは、IOLの内部に挟み込まれるか、またはポリマー硬化中などのIOLの製造中に直接形成される。IOLはまた、あるいは代替として、均質に半透明であるが透明ではない2つ以上の拡散性材料の組み合わせなどの乳白色材料(milky material)を採用することもできる。これにより、光の減衰と散乱が増加できる。
拡散を達成するために、サブサーフェス(表面下)のレーザー彫刻(laser engraving)を採用することもできる。
【0104】
IOLは、旋盤、射出成形、サンドイッチ構造、アブレーティブレーザー、マスクレーザー、硬化ポリマーの使用など、さまざまなプロセスおよび装置によって製造することができる。サブサーフェス(表面下)のレーザーマーキング、エンボス加工、ガラスエンボスプレート、シリコン成形、表面鋳造も使用できる。化学エッチングを使ってIOLの表面を修正することも可能である。
【0105】
本明細書は多くの仕様が含まれているが、これらは、請求項に記載されたまたは記載され得る発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、むしろ、特定の実施形態を具体化する特徴の説明として解釈されるべきである。別々の実施形態の文脈で、本明細書に記載されている特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて実施することもできる。逆に、単一の実施形態の文脈で説明される様々な特徴は、複数の実施形態において別々にまたは任意の適切なサブコンビネーションで実施することもできる。さらに、特徴は、特定の組み合わせで作用するものとして上述され、出願当初はそのように請求項に記載されていたとしても、請求項に記載された組み合わせの1つ以上の特徴を、場合によっては組み合わせから削除することができ、また、請求項に記載された組み合わせは、あるサブコンビネーションまたはサブコンビネーションの変形に向けられてもよい。同様に、操作は特定の順序で図面に描かれているが、これは、望ましい結果を達成するために、そのような操作が、図示された特定の順序または一連の順番で行うことが要求される、または図示されたすべての操作を行うことが要求される、と理解されるべきではない。いくつかの実施例および実施が開示されているに過ぎない。記載された実施例および実施に対する変形、修正および拡張、ならびに他の実施は、開示された内容に基づいて行われ得る。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】