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特表2024-536568catキュービット閉じ込めデバイス、このデバイスを用いたZゲートおよびCNOTゲート
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  • 特表-catキュービット閉じ込めデバイス、このデバイスを用いたZゲートおよびCNOTゲート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】catキュービット閉じ込めデバイス、このデバイスを用いたZゲートおよびCNOTゲート
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20240927BHJP
【FI】
G06N10/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523482
(86)(22)【出願日】2022-10-03
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 FR2022051870
(87)【国際公開番号】W WO2023067260
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】2111223
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505026125
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシュ・アン・アンフォルマティック・エ・オン・オトマティック
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ゴティエ,ロナン
(72)【発明者】
【氏名】サーレットゥ,アラン
(72)【発明者】
【氏名】ミライミ,マズヤル
(57)【要約】
catキュービットのための閉じ込めデバイスは、二光子交換器(4;40、42)と、低品質係数バッファ振動子(6)と、高品質係数非調和バッファ振動子(8)と、を備える。低品質係数バッファ振動子(6)および高品質係数非調和バッファ振動子(8)は二光子交換器(4;40、42)に接続されている。低品質係数バッファ振動子(6)および高品質係数非調和バッファ振動子(8)がそれぞれの共振周波数(ω、ω)でともに駆動され、かつ二光子交換器(4)がcatキュービット振動子(10)に接続されているとき、catキュービット振動子(10)からの2つの光子と低品質係数バッファ振動子(6)からの1つの光子との交換、およびcatキュービット振動子(10)からの2つの光子と高品質係数非調和バッファ振動子(8)からの1つの光子との交換がそれぞれ行われるようになっている。前記閉じ込めデバイスは、式g2h((a-α)bh+(a-αbh)+g2l((a-αbl+(a-α)bl)のハミルトニアンを実装しており、g2hおよびg2lは、ハミルトニアンの強さであり、aは、前記catキュービット振動子の光子消滅演算子であり、αは、cat状態の振幅であり、bhは、高品質係数非調和バッファ振動子(8)の光子消滅演算子であり、bは、低品質係数バッファ振動子(6)の光子消滅演算子である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
catキュービットのための閉じ込めデバイスであって、
二光子交換器(4;40、42)と、
低品質係数バッファ振動子(6)と、
高品質係数非調和バッファ振動子(8)と、
を備え、
前記低品質係数バッファ振動子(6)および前記高品質係数非調和バッファ振動子(8)は、前記二光子交換器(4;40、42)に接続されており、
前記低品質係数バッファ振動子(6)および前記高品質係数非調和バッファ振動子(8)がそれぞれの共振周波数(ω、ω)でともに駆動され、かつ前記二光子交換器(4)がcatキュービット振動子(10)に接続されているとき、前記catキュービット振動子(10)からの2つの光子と前記低品質係数バッファ振動子(6)からの1つの光子との交換、および前記catキュービット振動子(10)からの2つの光子と前記高品質係数非調和バッファ振動子(8)からの1つの光子との交換がそれぞれ行われるようになっており、
前記閉じ込めデバイスは、式g2h((a-α)bh+(a-αbh)+g2l((a-αbl+(a-α)bl)のハミルトニアンを実装しており、
2hおよびg2lは、ハミルトニアンの強さであり、
aは、前記catキュービット振動子の光子消滅演算子であり、
αは、cat状態の振幅であり、
bhは、前記高品質係数非調和バッファ振動子(8)の光子消滅演算子であり、
は、前記低品質係数バッファ振動子(6)の光子消滅演算子である、閉じ込めデバイス。
【請求項2】
2つの二光子交換器(40、42)を備え、
一方の二光子交換器(40)は、前記低品質係数バッファ振動子(6)と前記catキュービット振動子との間に配置されており、
他方の二光子交換器(42)は、前記高品質係数非調和バッファ振動子(8)と前記catキュービット振動子との間に配置されている、請求項1に記載の閉じ込めデバイス。
【請求項3】
前記二光子交換器(4)および前記高品質係数非調和バッファ振動子(8)は、非対称接合ジョセフソンエネルギーを有するATS回路(50)によって生成され、
前記ATS回路(50)は、周波数ωで共振駆動され、
前記ATS回路(50)には、それぞれの周波数が2ω-ωおよび2ω-ωである2つのラジオ波磁束ポンプが適用され、
ωは、前記catキュービット振動子モード(10)の共振周波数であり、
ωは、前記低品質係数バッファ振動子(6)の共振周波数であり、
ωは、前記高品質係数非調和バッファ振動子(8)の共振周波数であり、
前記ATS回路(50)は、周波数ωで共振駆動される前記低品質係数バッファ振動子(6)に結合されており、
前記低品質係数バッファ振動子(6)は、散逸バス(52)に結合されている、請求項1に記載の閉じ込めデバイス。
【請求項4】
前記二光子交換器(4)および前記低品質係数バッファ振動子(6)は、対称接合ジョセフソンエネルギーを有するATS回路(50)によって生成され、
前記ATS回路(50)は、周波数ωで共振駆動され、
前記ATS回路(50)には、それぞれの周波数が2ω-ωおよび2ω-ωである2つのラジオ波磁束ポンプが適用され、
ωは、前記catキュービット振動子モード(10)の共振周波数であり、
ωは、前記低品質係数バッファ振動子(6)の共振周波数であり、
ωは、前記高品質係数非調和バッファ振動子(8)の共振周波数であり、
前記ATS回路(50)は、周波数ωで共振駆動される高品質係数非調和バッファ振動子(8)に結合されており、かつ散逸バス(52)に結合されている、請求項1に記載の閉じ込めデバイス。
【請求項5】
前記高品質係数非調和バッファ振動子(8)は、トランズモンである、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
catキュービットのためのZゲートであって、
請求項1~5のいずれか一項に記載の閉じ込めデバイスであって、その前記二光子交換器(4)がcatキュービット振動子(10)に接続された閉じ込めデバイスを備え、
前記ゲートは、選択された継続時間の間、Zeno型ハミルトニアンを有する前記catキュービット振動子(10)を駆動することによって実行され、
【数1】

Zゲート。
【請求項7】
catキュービットのためのCNOTゲートであって、
請求項1~5のいずれか一項に記載の閉じ込めデバイスであって、その前記二光子交換器(4)がcatキュービット振動子(10)に接続された閉じ込めデバイスを備えるコントロールcatキュービット(60)と、
請求項1~5のいずれか一項に記載の閉じ込めデバイスであって、その前記二光子交換器(4)がcatキュービット振動子(10)に接続された閉じ込めデバイスを備えるターゲットcatキュービット(62)と、
前記コントロールcatキュービット(60)の前記catキュービット振動子と前記コントロールcatキュービット(62)の前記catキュービット振動子とを接続する非線形結合器(64)と、
を備え、
前記ゲートは、前記ターゲットcatキュービット閉じ込めデバイス(62)を非アクティブ化することによって実行される、CNOTゲート。
【請求項8】
【数2】

請求項7に記載のCNOTゲート。
【請求項9】
前記コントロールキュービット閉じ込めデバイス(60)のハミルトニアンg2l((a-αbl+(a-α)bl)は、常に実装され、
前記コントロールcatキュービット閉じ込めデバイス(60)のハミルトニアンg2h((a-α)bh+(a-αbh)は、少なくとも前記ゲートの実行中に実装され、
前記ターゲットcatキュービット閉じ込めデバイス(62)のハミルトニアンg2l((a-αbl+(a-α)bl)は、前記CNOTゲートの実行中には実装されず、残りの時間の間に実装され、
前記ターゲットcatキュービット閉じ込めデバイス(62)のハミルトニアンg2h((a-α)bh+(a-αbh)は、前記ゲートの実行中に実装されない、請求項7または8に記載のCNOTゲート。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
現状では、量子ビット(以下、キュービット)の状態を変更して論理エラーを引き起こすノイズが、量子コンピュータを創出する妨げとなっている。ノイズ源を制限するための大きな進歩が過去20年間にあったにもかかわらず、ユニバーサルかつフォールトトレラントな量子コンピューティングは現状、手の届かないところにある。量子誤り訂正は、この課題の解決を目的としている。
【0002】
フォールトトレランスを保証するために、2つのタイプのエラー、すなわちビット反転エラー(bit flip errors)および位相反転エラー(phase flip errors)が訂正される必要がある。主に使用される方法論では、「論理キュービット」と称されるキュービットであって計算シーケンスが指定されるキュービットを著しく大きな情報空間においてエンコードすることが目的とされており、上記論理キュービットは、「物理」キュービットと称されるキュービットから構成されている。この情報空間では、論理キュービットは、「コーディング(符号)」状態と称される状態にエンコードされるが、これは、或るコーディング状態から別のコーディング状態への直接的遷移をノイズが誘起することを許容しないように選択される。
【0003】
コーディング状態から非コーディング状態への遷移を誘起するノイズは、系が初期コーディング状態に曖昧さなく戻されるよう、検出され、かつ訂正されることができる。すなわち、各非コーディング状態は、単一のコーディング状態に関連付けられる。量子情報の乱れを避けるため、この誤り検出および誤り訂正は、論理キュービットを測定することなく行われる必要がある。或るコーディング状態から別のコーディング状態への遷移を演算する論理ゲートは、特定の制御シーケンスを通して、この系上にフォールトトレラントに実装することができる。
【0004】
最も一般的な量子誤り訂正方法は、「サーフェスコード(surface code)」と称されるものである。このタイプのソリューションは、Google、IBM、デルフト大学、チューリッヒ大学といった、量子分野における最大のビッグネームによって実施されており、今日まで世界で最も研究されているソリューションである。
【0005】
サーフェスコードでは、量子情報が、物理キュービットの2Dネットワークによって担われる。1つおよび2つのフォールトトレラントな論理キュービットを用いてゲート(量子演算)を実行する方式が提案されている。しかしながら今日まで、かかるゲートの実証は行われていない。実際、サーフェスコードの最大の欠点は、ごくわずかな計算を実行できるようにするためにさえ、非常に良質の物理キュービットが多数必要となることである。このアーキテクチャがもたらすコスト以外にも、多数の量子系を制御する必要性に関連する問題がある。
【0006】
本出願人の研究によって、誤り訂正に関して、追加の材料コストの大幅な低減が可能であると考えられるようになった。この理由から、本出願人はボソニックコードを研究した。
【0007】
ボソニックコードは、物理キュービットをボソニックモードで保存することに基づく量子誤り訂正コードのファミリである。これらのコードの3つの典型的な例は、catコード(猫コード、cat-code)(または、「catキュービット(猫キュービット、cat-qubit)」)、二項コード(binomial code)、およびGKP(Gottesman-Kitaev-Preskill)コードである。
【0008】
catコードの一例は、イェール大学、Inria-Mines-ENS-CNRS-ソルボンヌ大学の量子チーム、またはQuantum Circuits, Inc.、Alice & Bob、もしくはAmazon Web Services等の企業によって実施される2コンポーネントcatコード(two-component cat-code)である。
【0009】
これらのコードでは、コーディング状態(coding states)(「cats」)は、量子調和振動子の(例えば、電磁場のモードの)コヒーレント状態の重ね合わせである。これらのcatコードは、2つのタイプの論理エラーのうちの1つを実際的に除去することを可能にする。第2のタイプのエラーは、繰り返しコード内へこのコードを連結することによって、処理することができ、これは非量子誤り訂正について知られている。これらのcatコードを使用するキュービットは、catキュービットとも称される。
【0010】
より正確には、これらのコードの利点は、単にcatのサイズを変化させることによって、どちらのタイプのエラーの確率も任意に低くできることである。Lescanneらの論文“Exponential suppression of bit-flips in a qubit encoded in an oscillator”, Nature Physics, 16, 509, 2020では、ビット反転エラーが、catキュービットの状態における光子の平均数に関する指数比において抑制されることが実証されている。
【0011】
量子誤り訂正の文脈では、かかる指数関数的エラーバイアスを有するキュービットは、フォールトトレランスを達成するために必要とされるオーバーヘッド、すなわち、安定的な論理キュービットを達成するために一緒に使用する必要がある物理キュービットの数を著しく低減することができる。安定性の必要性と並び、エラーバイアスを保ちつつ、多数の物理ゲート、特にCNOTゲートを実行できることが非常に重要である。言い換えれば、指数関数的ビットエラー抑制は、ゲート演算中に影響を受けないままである必要がある。
【0012】
現在、調和振動子のダイナミクス(無限次元空間)をcatキュービットの様々な状態(2次元空間)へ閉じ込めるために、2つのアプローチが検討され、実験的に実装されている。すなわち、「Kerr」catキュービットと称されるハミルトニアンアプローチと、「散逸的」catキュービットと称されるエネルギー散逸的アプローチである。
【0013】
Kerr catキュービットは、弱いハミルトニアン外乱から保護されており、高速かつ高忠実度の量子ゲートの実装を可能にする。
【0014】
より具体的には、Kerr catキュービットは、Puriらの論文“Engineering the quantum states of light in a Kerr-nonlinear resonator by two-photon driving” npj Quantum Inf 3, 18 (2017)に記載されているように、Kerr型非線形性と組み合わせられた二光子駆動によるキュービット閉じ込めに基づく。
【0015】
catキュービットモードの回転座標系において、この方式は、ハミルトニアンH=-K(a-α(a-α)によってモデル化できる。ここで、Kは、Kerr効果の強度を表し、Kαは、二光子駆動の振幅を表し、aは、調和振動子の光子消滅演算子を表し、添字は、光子消滅演算子を光子生成演算子に変換する。catキュービットの様々な状態は、Kerr非線形性の強度に比例するギャップによって残りのスペクトルから分離された、上記のハミルトニアンの縮退固有空間に対応する。この閉じ込め方式は、最近、イェール大学チームによる実験において実証された(Grimmらの論文“Stabilization and operation of a Kerr-cat qubit”, Nature, 584, 205, 2020を参照)。
【0016】
Kerr catキュービットについては、単一キュービットに対するZ回転量子ゲート、2キュービットに対するCNOT、および3キュービットに対するCCNOTの実装が、S. Puriらの論文“Bias-preserving gates with stabilized cat qubits”, Science Advances 6, 34, 10.1126, 2020)において提案されている。
【0017】
しかしながら、Kerr catキュービットは、ゲートがない場合であっても、量子共振器において自然に生じる熱励起または光子位相シフト等の広帯域ノイズが引き起こす外乱に対して、ほとんど機能しない。
【0018】
実際、catキュービットの散逸安定化がない場合、緩慢に変化する弱いハミルトニアン以外の外乱は、いかなる機構によっても対抗(阻止)されるものではなく、著しいビット反転エラーをもたらし得る。そのため、熱励起等の典型的なエラーチャネルによって、指数関数的エラーバイアスが抑制され、その結果、ハードウェア効率的なフォールトトレランスへの途が断たれてしまう。
【0019】
最近、Puttermanらの論文“Colored Kerr cat qubits”, arXiv:2107.09198 [quant-ph]において、この問題を克服し、ビット反転エラーの抑制を確保するためのアプローチが提案された。このアプローチは、catキュービットの様々な状態への引きつけを誘起する着色緩和(coloured relaxation)の追加からなる。この追加によって、Kerr catキュービットについて、ビットエラー抑制が回復される。しかしながら、散逸的catキュービットの場合と同じレベルの性能を達成するためには、超伝導デバイスにおいて一般的に使用されるパーセルフィルタを越える、注意深い環境工学が必要である。この課題は、実験的な観点から実行が極めて困難であり、ビット反転保護の見通しは限られたものである。
【0020】
他方では、散逸的catキュービットは、これらのデコヒーレンス機構の全てに対抗するように設計されるが、量子ゲートの性能は、演算中の情報損失をもたらす非断熱散逸過程によって制限される。
【0021】
このアプローチは、Mirrahimiらの論文“Dynamically protected cat-qubits: a new paradigm for universal quantum computation≫ 2014 New J. Phys. 16 045014)に記載されているように、ダイナミクスを系の2つの安定状態のみに閉じ込める二光子散逸に基づいている。
【0022】
上述したように、最近の実験で、このcatキュービット散逸的閉じ込め方式による指数関数的ビットエラー抑制が実証されている。この実験では、ATS(「Assymetrically Threaded SQUID(非対称スレッドSQUID)」)と称される超伝導回路素子を使用して、閉じ込めが達成されている。調和振動子においてエンコードされたcatキュービットは、ATSを使用してバッファ振動子に結合される。バッファ振動子は、高い散逸性を有し、そのエネルギー減衰は、catキュービットをホストするモードのものよりもはるかに速い。バッファ振動子は、その短い寿命のゆえに「低Q」振動子(Qは、品質係数(quality factor)を表す)と称される。一方、catキュービットをホストする振動子は、「高Q」振動子と称される。
【0023】
より具体的には、この散逸的アプローチでは、catキュービットをホストする振動子からの2つの光子と低Qバッファ振動子からの1つの光子との交換を実行するハミルトニアンが、最初に実装される。2つの振動子の回転座標系において、H2ph=g(a+a2†b)である。ここで、aは、catキュービット振動子の光子消滅演算子を表し、bは、バッファ振動子の光子消滅演算子を表し、添字は、光子消滅演算子を光子生成演算子に変換する。それゆえ、このハミルトニアンは、振動子aからの2つの光子と振動子bの1つの光子との交換として理解できる。
【0024】
さらに、この交換のレートは、ATSデバイスに適用されるマイクロ波ポンプの振幅によって較正できる。このとき、バッファ振動子を共振駆動することが必要となる。バッファ振動子の回転座標系において、これはハミルトニアンH=eb+ebによってモデル化でき、e=gαを共振駆動の複素振幅に選ぶことで、ハミルトニアンH=g((a-α)b+(a-αb)が結果として得られる。しかしながら、振動子bは、その低品質係数のゆえに、強い減衰を有する。それゆえ、振動子bのκ1D(b)の形式のこの一光子減衰は、振動子aについてのκD(a-α)の形式の散逸を結果的にもたらす。これは、二光子散逸と称され、振幅αを有するcatキュービットの状態を閉じ込めることを可能にする。
【0025】
J. Guillaudらの論文“Repetition Cat Qubits for Fault-Tolerant Quantum Computation” (Physical Review X 9, 041053, 2019)では、1-キュービットZ回転、ならびに散逸的catキュービットからの2-キュービットCNOT(CXとも称される)ゲートおよび3-キュービットCCNOT(CCXまたはToffoliとも称される)ゲートを実行するためのアーキテクチャが提案されている。
【0026】
誤り訂正にとって本質的なゲートであるCNOTゲートの場合、この散逸実装は、ターゲットcatキュービットについての散逸項を、それがコントロールcatキュービットの状態に依存するように修正することに基づく。コントロールcatキュービットは、キュービットの状態がターゲットcatキュービットに影響を及ぼす当該キュービットを意味する。
【0027】
言語を濫用するならば、この散逸という用語は、系の状態を、それがたどるべき理想的な経路の方へ「引きつける(attract)」と考えられる。ゲートの性能を改善するためには、「引きつける」機構のみがあるときに必然的に現れる理想的な経路に関してシフトを回避することが必要であり、同時にこの同じ経路に沿って系の状態を「押す(push)」フィードフォワードハミルトニアンを設計することも必要である。実験的に言えば、散逸項は、ATSによって、低Qバッファ振動子への結合を用いて、実装することができ、フィードフォワード項は、コントロールcatキュービット振動子とターゲットcatキュービット振動子との二者間において駆動される非線形結合によって、実装することができる。正確なフィードフォワード項を実装できない結果として、必然的に、位相反転エラーを伴う散逸がもたらされる。ゲートが速いほど―したがって、散逸がより「引く(pull)」ほど―位相エラーがより増大する。
【0028】
このアプローチの主な欠点は、位相反転エラーに関して論理ゲートの性能が限られることである。上で言及したJ. Guillaudらの論文に詳述されているように、Z軸周りの1-キュービット回転、2-キュービットCNOTゲートおよび3-キュービットCCNOTゲート等の様々なエラーバイアス保存ゲートは、散逸機構にはっきりと依存している。それらの理想的なハミルトニアンの実装は現状、実験的に非現実的であるからである。これらのゲートのこの散逸訂正には、ゲートの速さとともに増大する位相反転エラーが伴う。
【0029】
本発明は、この状況を改善するものである。この目的のために、本発明では、catキュービットのための閉じ込めデバイスが提案される。当該閉じ込めデバイスは、二光子交換器と、低品質係数バッファ振動子と、高品質係数非調和バッファ振動子と、を備え、前記低品質係数バッファ振動子および前記高品質係数非調和バッファ振動子は、前記二光子交換器に接続されており、前記低品質係数バッファ振動子および前記高品質係数非調和バッファ振動子がそれぞれの共振周波数でともに駆動され、かつ前記二光子交換器がcatキュービット振動子に接続されているとき、前記catキュービット振動子からの2つの光子と前記低品質係数バッファ振動子からの1つの光子との交換、および前記catキュービット振動子からの2つの光子と前記高品質係数非調和バッファ振動子からの1つの光子との交換がそれぞれ行われるようになっており、前記閉じ込めデバイスは、式g2h((a-α)bh+(a-αbh)+g2l((a-αbl+(a-α)bl)のハミルトニアンを実装しており、g2hおよびg2lは、ハミルトニアンの強さであり、aは、前記catキュービット振動子の光子消滅演算子であり、αは、cat状態の振幅であり、bhは、前記高品質係数非調和バッファ振動子の光子消滅演算子であり、bは、前記低品質係数バッファ振動子の光子消滅演算子である。
【0030】
このデバイスは、散逸的アプローチとハミルトニアンアプローチとの両方の利点からの恩恵を受ける閉じ込めデバイスの実装を可能にして、非常に広範なクラス(種類)の物理的外乱についてのエラーバイアスの維持を可能にしつつ、満足のゆく速さおよび忠実度のゲートの実行を可能にするため、特に有利である。
【0031】
様々な実施形態によれば、本発明は、以下の特徴のうちの1つまたは複数の特徴を有し得る:
-当該デバイスは、2つの二光子交換器を備え、一方の二光子交換器は、前記低品質係数バッファ振動子と前記catキュービット振動子との間に配置されており、他方の二光子交換器は、前記高品質係数非調和バッファ振動子と前記catキュービット振動子との間に配置されている、
-前記二光子交換器および前記高品質係数非調和バッファ振動子は、非対称接合ジョセフソンエネルギーを有するATS回路によって生成され、前記ATS回路は、周波数ωで共振駆動され、前記ATS回路には、それぞれの周波数が2ω-ωおよび2ω-ωである2つのラジオ波磁束ポンプが適用され、ωは、前記catキュービット振動子モードの共振周波数であり、ωは、前記低品質係数バッファ振動子の共振周波数であり、ωは、前記高品質係数非調和バッファ振動子の共振周波数であり、前記ATS回路は、周波数ωで共振駆動される前記低品質係数バッファ振動子に結合されており、前記低品質係数バッファ振動子は、散逸バスに結合されている、
-前記二光子交換器および前記低品質係数バッファ振動子は、対称接合ジョセフソンエネルギーを有するATS回路によって生成され、前記ATS回路は、周波数ωで共振駆動され、前記ATS回路には、それぞれの周波数が2ω-ωおよび2ω-ωである2つのラジオ波磁束ポンプが適用され、ωは、前記catキュービット振動子モードの共振周波数であり、ωは、前記低品質係数バッファ振動子の共振周波数であり、ωは、前記高品質係数非調和バッファ振動子の共振周波数であり、前記ATS回路は、周波数ωで共振駆動される高品質係数非調和バッファ振動子に結合されており、かつ散逸バスに結合されている、
-前記高品質係数非調和バッファ振動子は、トランズモンである。
【0032】
本発明はさらに、catキュービットのためのZゲートに関する。当該catキュービットのためのZゲートは、本発明による閉じ込めデバイスであって、その前記二光子交換器がcatキュービット振動子に接続された閉じ込めデバイスを備え、前記ゲートは、選択された継続時間の間、Zeno型ハミルトニアンを有する前記catキュービット振動子を駆動することによって実行される。
【0033】
【数1】
【0034】
本発明はさらに、catキュービットのためのCNOTゲートであって、請求項1~5のいずれか一項に記載の閉じ込めデバイスであって、その前記二光子交換器がcatキュービット振動子に接続された閉じ込めデバイスを備えるコントロールcatキュービットと、請求項1~5のいずれか一項に記載の閉じ込めデバイスであって、その前記二光子交換器がcatキュービット振動子に接続された閉じ込めデバイスを備えるターゲットcatキュービットと、前記コントロールcatキュービットの前記catキュービット振動子と前記コントロールcatキュービットの前記catキュービット振動子とを接続する非線形結合器と、を備え、前記ゲートは、前記ターゲットcatキュービット閉じ込めデバイスを非アクティブ化することによって実行される、CNOTゲートに関する。
【0035】
【数2】
【0036】
このCNOTゲートでは、前記コントロールキュービット閉じ込めデバイスのハミルトニアンg2l((a-αbl+(a-α)bl)は、常に実装され、前記コントロールcatキュービット閉じ込めデバイスのハミルトニアンg2h((a-α)bh+(a-αbh)は、少なくとも前記ゲートの実行中に実装され、前記ターゲットcatキュービット閉じ込めデバイスのハミルトニアンg2l((a-αbl+(a-α)bl)は、前記CNOTゲートの実行中には実装されず、残りの時間の間に実装され、前記ターゲットcatキュービット閉じ込めデバイスのハミルトニアンg2h((a-α)bh+(a-αbh)は、前記ゲートの実行中に実装されない。
【0037】
本発明の他の特徴および利点は、例示的かつ非限定的に与えられた実施例および図面を用いた以下の説明を読むことにより、より明らかになるだろう:
-[図1]は、本発明の第1の実施形態によるcatキュービット閉じ込めデバイスをつくり出すための一般図を示し、
-[図2]は、本発明の第2の実施形態によるcatキュービット閉じ込めデバイスの一般図を示し、
-[図3]は、図1の閉じ込めデバイスの実装の第1の実施例を示し、
-[図4]は、図1の閉じ込めデバイスの実装の第2の実施例を示し、
-[図5]は、図1の閉じ込めデバイスを実装する2つのcatキュービット間のCNOTゲートの一般図を示し、
-[図6]は、図3のcatキュービット閉じ込めデバイスによる図5のゲートの実装の例を示し、
-[図7]は、図6のゲートのハミルトニアンの振幅を示す。
【0038】
以下の図面および説明には、その大部分について、特定の性質の要素が含まれる。それゆえ、当該図面および説明は、本発明をより良く理解するために利用できるだけでなく、必要であれば、その確定にも寄与することができる。
【0039】
図1は、本発明の第1の実施形態によるcatキュービット閉じ込めデバイス(cat qubit confinement device)、およびその中の振動モードの一般図を示す。以下で明らかになるように、閉じ込めデバイス2は、「散逸的-保存的(dissipative-conservative)」として表現できる閉じ込めを有する。
【0040】
catキュービット閉じ込めデバイス2は、非線形励起量子交換器(nonlinear excitation quanta exchanger)、より具体的には二光子交換器(two-photon exchanger)4と称される交換器と、低品質係数バッファ振動子(low quality factor buffer oscillator)6と、高品質係数非調和バッファ振動子(high quality factor anharmonic buffer oscillator)8と、を備える。
【0041】
ここに記載された実施例では、二光子交換器4は、閉じ込めデバイスによって安定化されたcatキュービットをホストする振動子10に対して、2つの接続を有するように構成されている。これら2つの接続は、閉じ込めデバイス2のある種の外部インターフェースを表す。低品質係数バッファ振動子6および高品質係数非調和バッファ振動子8も、二光子交換器4に接続されているが、これらは閉じ込めデバイス2の内部にある。
【0042】
図2に示すように、この構成は、2つの並列接続として見ることができる:
-一方では、低品質係数バッファ振動子6とcatキュービットをホストする振動子10との間に、二光子交換器40が配置されており、
-他方では、高品質係数非調和バッファ振動子8とcatキュービットをホストする振動子10との間に、二光子交換器42が配置されている。
【0043】
より具体的には、コヒーレント四波混合プロセス(coherent four-wave mixing process)、および適切な周波数でのマイクロ波ポンプ(microwave pump)の適用のおかげで、二光子交換器4(それぞれ40)は、catキュービット10振動子の2つの励起量子を低品質係数バッファ振動子の励起量子と交換することができる。
【0044】
低品質係数バッファ振動子は高い散逸性を有するので、当該バッファ振動子の一光子損失のこのプロセスは、catキュービット振動子の二光子損失を結果的に招来する。逆のプロセスでは、低品質係数バッファ振動子それ自体がその共振周波数で駆動され、当該バッファ振動子への1つの光子の追加が、catキュービットをホストする振動子への2つの光子の追加を結果的に誘起する。これらの2つの機構が協働して、散逸的閉じ込め(dissipative confinement)をもたらす。安定化レートおよびcatの振幅は、二光子交換器を制御するマイクロ波ポンプおよび低品質係数バッファ振動子の共振駆動によって、調整することができる。この相互作用は、散逸ハミルトニアンg2l((a-α)bl+(a-αbl)を提供する。ここで、ハミルトニアンの強さg2lおよびcatの振幅αは、マイクロ波ポンプおよび低品質係数バッファ振動子6の共振駆動によって調整することができ、blは、低品質係数バッファ振動子6の光子消滅演算子であり、†は、光子消滅演算子を光子生成演算子に変換する添字である。
【0045】
同時に、同じ二光子交換器に(または、図2の実施形態における第2の二光子交換器に)適用される適切な周波数での第2のポンプによって、catキュービット振動子からの2つの光子と高品質係数非調和バッファ振動子からの1つの光子との間の交換が確立される。高品質係数バッファ振動子の共振駆動に関連するこの相互作用は、有効閉じ込めハミルトニアンg2h((a-α)bh+(a-αbh)を提供する。ここで、ハミルトニアンの強さg2hおよびcat振幅αは、マイクロ波ポンプおよび高品質係数バッファ振動子の共振駆動によって調整することができ、bhは、高品質係数バッファ振動子8の光子消滅演算子であり、†は、光子消滅演算子を光子生成演算子に変換する添字である。
【0046】
ここに記載された実施例には光子交換によって動作する超伝導回路キュービットが使用されるため、図1および図2は、光子交換に関して記載されている。他の変形例では、キュービットが力学的に作られ得、二光子交換器は、二フォノン交換器または二光子対一光子交換器であり得るだろう。一般的に言えば、交換器4は、励起量子を交換するように構成されており、当該励起量子は、光子またはフォノンであり得る。
【0047】
図3は、図1の実施形態の実装の第1の実施例を示す。ここに記載された実施例には、二光子交換器4を実装するためにATS50(「Assymetrically Threaded SQUID」)回路が使用されている。
【0048】
上述したLescanneらの論文に記載されているように、ATSは、並列インダクタを備えたSQUIDを備える。ATSの2つのループに対して、異なる一定磁束を印加することができる。前述した論文では、ATSの接合は完全に対称的であり、動作点は、一方のループ内では0の正規化磁束(印加された磁束と当該磁束の量子との間の比)、他方のループ内ではπの正規化磁束であり、したがって、この双極子は「非対称」と称される。この選択によって、全ての偶波混合項が除去できるようになり、適切な交番ポンプの適用により、自己Kerr項または交差Kerr項等の外乱のない、効率的な二光子交換ハミルトニアンが設計できるようになる。
【0049】
本出願人は、ATS接合のジョセフソンエネルギーを変化させることで達成される、偶波混合項に対する奇波混合項の振幅の制御によって、既知の散逸的閉じ込めと適合するハミルトニアン閉じ込めが加えられるようになることを見出した。
【0050】
ここに記載された実施例では、Lescanneらの論文に記載されたものと同様にして、ATS50がcatキュービット振動子10に結合されているが、ATSの回路によってホストされるモードは、閉じ込め系全体の実装には十分でない。そこで、ATS50は、バッファ振動子にも強く結合されている。当該バッファ振動子は、本実施例では低品質係数6において示されており、散逸バス(dissipative bath)52に結合されている。一方、高品質係数バッファ振動子8は、ATSの回路によってホストされる。それぞれの周波数が2ω-ωおよび2ω-ωである2つのラジオ波磁束ポンプを適用することによって、ATS50は、それぞれの共振周波数がωおよびωである高Qモード8および低Qモード6をそれぞれ有する2つの二光子交換ハミルトニアンg2h(a 2†h)およびg2l(a 2†l)を実装する。ωは、catキュービットモードの共振周波数である。
【0051】
これらのモードが共振で駆動されるとき、有効ハミルトニアンは、g2h((a-α)bh+(a-αbh)およびg2l((a-α)bl+(a-αbl)である。提案された方式では、バッファ振動子は、その光子消滅演算子をblとする低品質係数調和振動子6であり、高Q振動子は、その2つの基本準位間の励起の消滅演算子をbhとする非調和振動子である。さらに、この高Q非調和振動子は、ATS回路のモードの1つとすることができる。
【0052】
ハミルトニアンg2h((a-α)bh+(a-αbh)は、高速ゲートの実装を可能にする保存的閉じ込め(conservative confinement)をもたらす。一方、ハミルトニアンg2l((a-α)bl+(a-αbl))は、低品質係数バッファ振動子のモードblとのその接続によるが、強い散逸を有し、結果として、非常に広範なクラスの物理的外乱の存在下において、ビット反転エラーの指数関数的除去を保証する、κD(a-α)の形式の散逸的閉じ込めをもたらす。
【0053】
図4は、図1の実施形態の実装の第2の実施例を示す。
【0054】
本実施例では、ATS50は、やはり二光子交換器4の役割を演じているが、高品質係数非調和バッファ振動子8の役割をも演じる代わりに、低品質係数バッファ振動子6の役割を演じており、かつ散逸バス52に接続されている。ここでは、高品質係数非調和バッファ振動子は、トランズモンキュービット(transmon qubit)54(「transmission line shunted plasma oscillation qubit(伝送線シャントプラズマ振動キュービット)」)によって実装されている。これは、非線形であり、設計によって高品質係数を有する。実際、トランズモンは、並列のインダクタおよびキャパシタから構成される調和振動子に、概念的に類似している。トランズモンの場合、当該インダクタは、別の誘導電子コンポーネントであるジョセフソン接合に置き換えられている。ジョセフソン接合は当然、非線形である。当該接合とキャパシタとの間のエネルギー比を変化させることによって、トランズモンパラメータレジームが達成できる。これによって、高品質係数非線形モードが実装される。
【0055】
図1の実施形態では、低品質係数バッファ振動子6は、非調和である必要はない。ATS50の接合は、自己Kerr効果および交差Kerr効果を排除するために対称的に選択される必要があり、印加される磁束のみが、上述したLescanneらの論文の場合のように非対称となる。
【0056】
図3の場合、図4の場合と同様に、catキュービット振動子にハミルトニアンを適用することによって、Zゲートを実行することが可能である。
【0057】
Zゲートを実行するために、Zeno型ハミルトニアンがオンにされる。Zeno型ハミルトニアンは、コーディング空間―この場合、当該コーディング空間は、catキュービットの2つの状態から構成される空間―内へ射影された有効ダイナミックが所望の演算(この場合、キュービットのZ軸周りの回転)に対応するハミルトニアンである。
【0058】
【数3】
【0059】
ここに記載された実施例では、catキュービットのコーディング状態に使用される規約は、以下の通りである。
【0060】
【数4】
【0061】
【数5】
【0062】
この場合、ここに記載されたZゲートは、Xゲート(ブロッホ球におけるキュービットのX軸周りの回転)になる。
【0063】
図5は、「コントロール」catキュービットと称されるcatキュービット60と、「ターゲット」catキュービットと称されるcatキュービット62との間のCNOTゲートの一般図を示す。両者とも、図1の実施形態による閉じ込めデバイスに関連する。この図に見られるように、当該ゲートは、図1の実施形態による閉じ込めデバイス2が設けられた2つのcatキュービットを直列に配置することによって実装されており、catキュービット60の振動子とcatキュービット62の振動子とは、非調和結合器64によって互いに接続されている。非調和結合器64の役割は、Zeno型ハミルトニアンを実装することであり、それをオンにすることは、ターゲットcatキュービット62の閉じ込めデバイス2をオフにすることと同時に行われるであろう。しかしながら、コントロールcatキュービットの閉じ込めデバイスは有効なままである。
【0064】
【数6】
【0065】
非線形結合器がジョセフソン接合である場合、Zeno型ハミルトニアンは、コントロールキュービット調和振動子の共振周波数でターゲットキュービット調和振動子をポンピングし、コントロールキュービット調和振動子を共振駆動することによって、適用することができる。このZeno型ハミルトニアンの生成は、S. Touzardらの論文“Gated Conditional Displacement Readout of Superconducting Qubits”, Phys. Rev. Letters 122, 080502, 2019に記載されている。
【0066】
【数7】
【0067】
閉じ込めデバイスおよびZeno型ハミルトニアンをオフおよびオンにするシーケンスは、図7に示されている。この図に見られるように、
-コントロールcatキュービットの散逸的閉じ込めは、常にオンにされる必要があり、
-コントロールcatキュービットの保存的閉じ込めは、少なくともCNOTゲートがオンにされている間にオンにされる必要があり、
-ターゲットcatキュービットの散逸的閉じ込めは、CNOTゲートがオンにされている間にオフにされる必要があり、残りの時間においてオンにされる必要があり、
-ターゲットcatキュービットの保存的閉じ込めは、CNOTゲートがオンにされている間にオフにされる必要があり、残りの時間においてオンまたはオフにすることができる。
【0068】
図6に見られるように、非線形結合器64は、S. Touzardらの論文“Gated Conditional Displacement Readout of Superconducting Qubits”, Phys. Rev. Letters 122, 080502, 2019に記載されているように、catキュービット振動子60およびcatキュービット振動子62に容量結合されたジョセフソン接合であってもよい。時間とともに適合された振幅を有する共振においてcatキュービットの振動子を駆動することによって、ジョセフソン接合64により、図7の下部に示された結果をもたらすZeno型ハミルトニアンが実装される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】本発明の第1の実施形態によるcatキュービット閉じ込めデバイスをつくり出すための一般図を示す。
図2】本発明の第2の実施形態によるcatキュービット閉じ込めデバイスの一般図を示す。
図3図1の閉じ込めデバイスの実装の第1の実施例を示す。
図4図1の閉じ込めデバイスの実装の第2の実施例を示す。
図5図1の閉じ込めデバイスを実装する2つのcatキュービット間のCNOTゲートの一般図を示す。
図6図3のcatキュービット閉じ込めデバイスによる図5のゲートの実装の例を示す。
図7図6のゲートのハミルトニアンの振幅を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】