(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】中等度から重度の不安及び/又は社会回避を伴う自閉症スペクトラム障害を有する対象における興奮性の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20240927BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240927BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P25/18
A61P25/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523674
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 US2022078449
(87)【国際公開番号】W WO2023070045
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520052053
【氏名又は名称】ジナーバ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パルーンボ,ジョーセフ
(72)【発明者】
【氏名】オクィン,スティーブン・ブイ
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206CA19
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA05
4C206ZA18
(57)【要約】
本技術は、カンナビジオール(CBD)の有効量を投与することによって、対象の自閉症スペクトラム障害(ASD)の1つ以上の行動症状を治療する方法に関する。具体的には、中等度から重度のASD並びに比較的高い社会回避及び/又は不安を有する対象が、CBDで治療された場合に興奮性の低下を示す可能性がより高い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された対象の興奮性を治療する方法であって、前記方法が、
有効量のカンナビジオール(CBD)を前記対象に投与することを含み、前記対象が、高いベースラインABC-C興奮性スコアを有し、並びに、前記対象がまた高いベースラインABC-C
FXS社会回避スコア及び/又は高いベースラインのASDのための親評定不安尺度(Parent Rated Anxiety Scale for ASD)(PRAS-ASD)を有し、
前記対象における興奮性が治療される、
方法。
【請求項2】
対象が、12より高いベースラインABC-C興奮性スコアを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象が、5より高いベースラインABC-C
FXS社会回避スコアを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
対象が、25より高いベースラインのASDのための親評定不安尺度(PRAS-ASD)スコアを有する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
対象が、中等度から重度のASDと診断されている、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
対象が、3以上の自閉症診断観察検査第2版(ADOS-2)比較スコアを有する、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
CBDが経皮投与される、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
CBDが合成のCBDである、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
CBDが植物由来のCBDである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
CBDの有効量が、250mgの1日総投与量である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
CBDの有効量が、500mgの1日総投与量である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
CBDの有効量が、750mgの1日総投与量である、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
CBDの有効量が、1000mgの1日総投与量である、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
有効量が、1日2回の投与量で投与される、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
CBDが、THCを含有しない薬学的に許容される調製物で投与される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
対象がまた、脆弱X症候群(FXS)と診断されている、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カンナビジオール(CBD)の有効量を対象に投与することによって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された対象における興奮性を治療する方法であって、ASDの興奮性の症状が対象において治療される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、一般に、コミュニケーション及び社会化の困難(例えば、社会回避/引きこもり)、並びに剛直な反復的行動などのいくつかの神経発達障害を特徴とする。「問題行動」はまた、ASDで非常に一般的であり、神経発達障害よりも、典型的な発達と比較すると、ASDでより重度であり得る。問題行動には、自傷、暴走、攻撃性、物損、不適切な行動/言語及び興奮性が含まれる。さらに、ASDと診断された多くの小児は、不安障害の基準を満たしている。ASDと診断された小児の場合、成人の介護者にとって、問題行動を管理することが困難であり得る。(O’Nions et al.“How do Parents Manage Irritability,Challenging Behaviour,Non-Compliance,and Anxiety in Children with Autism Spectrum Disorders?A meta-Synthesis”J.of Autism and Developmental Disorders(2018)48:1272-1286を参照されたい)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】O’Nions et al.“How do Parents Manage Irritability,Challenging Behaviour,Non-Compliance,and Anxiety in Children with Autism Spectrum Disorders?A meta-Synthesis”J.of Autism and Developmental Disorders(2018)48:1272-1286
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ASDと診断された小児の介護者は、典型的には、問題行動を引き起こす可能性のある状況を回避するために小児の環境を適合させようと試みることによって、問題行動に対処する。問題行動を処理する別の方法は、問題行動を予測して、それを処理するための戦略を準備しておくことである。しかしながら、これらの妥協策は、問題行動の発生率を低下させることがほとんどない。したがって、ASDと診断された小児における問題行動を減少させるために安全かつ有効な治療が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
中等度から重度のASDと診断された対象における行動問題の対処は、介護者にとって困難であり得る。そのような問題行動の1つは、高い興奮性である。高い興奮性は、怒り、フラストレーション、窮迫及び自己喪失として現れ得る。高興奮性の頻繁なエピソードは、介護者にとってかなりの難題に至ることがある。
【0006】
予想外にも、中等度から重度のASDと診断された患者における興奮性のCBDでの治療に対する応答が、ASDの症状を有するASDの対象及び脆弱X症候群(FSX)の対象の一般集団と比較して高い社会回避スコア及び/又は高い不安スコアも示す対象において、増強されることが見出された。具体的には、ASDの対象の一般集団と比較して、高い社会回避スコア、高い不安スコア、又はその両方を示す対象の約2倍の数が、回避及び不安のスコアがより低い対象と比較して、興奮性の改善を示した。これらの結果は、ASDの対象における興奮性の治療のためのCBDの使用が、高い不安及び/又は高い社会回避も示すこれらの対象のサブセットにおいて特に有効であることを示している。
【0007】
実施形態では、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された対象における興奮性は、カンナビジオール(CBD)の有効量を対象に投与することによって治療することができる。CBDの投与は、ABC-C興奮性スコアに基づいて、対象の興奮性を改善する。実施形態では、対象が、治療前に、12以上のABC-C興奮性スコアを有する。
【0008】
別の実施形態では、ASDと診断された対象は、比較的高い興奮性と共に、比較的高い社会回避及び/又は比較的高い不安を示し得る。中等度から重度のASDと診断された対象は、いくつかの実施形態において、3以上の自閉症診断観察検査(R)、第2版(ADOS-2)比較スコアを有する。いくつかの実施形態では、比較的高い社会回避を有する対象は、5を超えるABC-C社会回避スコアを有する。いくつかの実施形態では、比較的高い不安を有する対象が、25を超えるASDのための親評定不安尺度(Parent Rated Anxiety Scale for ASD)(PRAS-ASD)スコアを有する。
【0009】
実施形態では、CBDは合成のCBDである。代替的に、CBDは、未精製又は精製された植物由来のCBDであり得る。CBDは、経口又は経皮で投与され得る。実施形態では、植物学的に得られたCBDがTHCを含有しない。CBDの有効量は250mg/日、500mg/日又は750mg/日であり得る。いくつかの実施形態では、CBDの有効量を1日1回又は1日2回投与することができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、対象は、ASDと併存する脆弱X症候群(FXS)と診断されている。
【0011】
本発明の利点は、以下の実施形態の詳細な説明の恩恵を受け、添付の図面を参照すると、当業者にとって明白なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】PRAS総スコア(ベースライン)対ABC-C社会回避サブスケール(ベースライン)のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、様々な修正及び代替的な形態が可能であり得るが、その特定の実施形態は、例として図面に示されており、本明細書において、詳細に説明される。図面は原寸に比例していない場合がある。しかしながら、図面及びその詳細な説明は、本発明を開示された特定の形態に限定することを意図するものではなく、逆に、その意図は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲内に入るすべての修正、均等物及び代替物を網羅することであることを理解されたい。
【0014】
本明細書で使用される場合、「treating(治療する、処置する)」又は「treatment(治療、処置)」という用語は、ヒトなどの対象の状態、疾患若しくは障害の少なくとも1つの症状(行動症状など)を鎮静、改善、除去、又は緩和すること、又は状態、疾患若しくは障害に関連する確認可能な測定値の改善を指す。
【0015】
本明細書で使用される場合、「臨床的有効性」という用語は、ヒトの臨床研究又は試験を通して示されるように、ヒトにおいて所望の効果を生じる能力を指す。
【0016】
本明細書で使用される場合、「カンナビジオール」又は「CBD」という用語は、カンナビジオール(2-[3-メチル-6-(1-メチルエテニル)-2-シクロヘキセン-1-イル]-5-ペンチル-1,3-ベンゼンジオール)、カンナビジオールプロドラッグ並びにその薬学的に許容される塩、溶媒和物、代謝産物及び代謝前駆体を指す。CBDは、植物材料から得て精製してもよく、又は合成してもよい。CBDの合成は、例えば、Petilka et al.,Helv.Chim.Acta,52:1102(1969)及びMechoulam et al.,J.Am.Chem.Soc.,87:3273(1965)に記載されており、両方共参照により本明細書に組み込まれる。好ましい実施形態では、光学活性(-)-CBDが、本明細書に記載される治療的処置において使用される。
【0017】
本明細書で使用される場合、「経皮投与」という用語は、活性剤が皮膚に浸透するのに有効な条件下で、患者又は対象の皮膚を活性剤を含む組成物と接触させることを指す。
【0018】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、米国において5歳から17歳までのおよそ100万人の小児及び青年患者においてコミュニケーション及び行動に影響を及ぼす発達障害である。ASDは、不安、反復性の行動パターン、言語及び非言語コミュニケーションを含む社会的コミュニケーションの障害、並びに関係の発達及び維持における障害を特徴とする一連の状態を指す。自閉症はどの年齢でも診断されていることがあるが、一般に症状は生後最初の2年間に現れるため、「発達障害」と言われている。遺伝子が環境からの影響と一緒に作用して、ASDに至るように発達に影響を及ぼし得ることを、研究が示唆している。さらに新しい研究は、ASDが内在性カンナビノイド系の破壊に関連していることを示唆している。
【0019】
典型的に、対象におけるASDの症状の重症度は、人の行動及び発達を見ることによって、果たすことができる。臨床医がASDの行動症状の重症度を測定するのを補助するために、行動に関する複数の試験が開発されている。臨床医がASDの症状の重症度を判定するのを補助するための例示的な試験には、それだけに限らないが、以下の試験、すなわち、Anxiety,Depression,and Mood Scale(ADAMS)、異常行動チェックリスト(ABC)、異常行動チェックリスト-コミュニティ(ABC-C)、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第5版(DSM-5)、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第5版、Text Revisions(DSM-5-TR)及び自閉症診断観察検査-第2版(ADOS-2)が含まれる。
【0020】
Anxiety,Depression,and Mood Scale(ADAMS)は、ASDを含む知的障害患者の不安、うつ及び気分のレベルを評価するために臨床医、医師及び研究者によって使用される行動に関する試験である。ADAMS試験は、(i)全般的な不安、(ii)社会回避、(iii)強迫行動、(iv)躁病/過活動行動及び(v)抑うつ気分を含む5つのサブスケールにグループ化された質問からなる。各質問は、0(「問題なし」)~3(「重度の問題」)の範囲の4段階で臨床医/医師によって回答される。ADAMSは、サブスケールスコアに加えて合計スコアを得る。
【0021】
ASDの症状の重症度を測定するために臨床医が使用することができる別の試験は、異常行動チェックリスト-コミュニティテスト(ABC-C)である。もとの異常行動チェックリスト(ABC)は、施設内という環境での成人の行動上の憂慮事項を評価するために設計された。もとのABCは、施設に収容されていない患者に対処するように、具体的にはASDと診断された対象に対処するように、後に適合された。異常行動チェックリスト-コミュニティ(ABC-C)は、臨床医、医師及び研究者によって、ASDを患う、施設に収容されていない患者の特定の行動に接近するために使用される。もとのABC-C検査は、(i)興奮性、(ii)多動性、(iii)社会的引きこもり、(iv)常同行動及び(v)不適切な発話を含む5つのサブスケールを有する。ABC-Cスケールは、ADAMSと同様に、0(問題なし)から3(問題は重度)までの範囲の4点のリッカートタイプのスケールである。ASDについて示された2つの非定型抗精神病薬の承認の基礎として、ABC-C興奮性サブスケールを使用した。同じ質問を使用するが、社会回避のためのサブスケールを追加してスコアリングを6つのサブスケールに分割する、FXS(ABC-CFXS)と診断された対象における行動をより良好に評価するために、ABC-Cの修正スコアを作成した。
【0022】
本開示はまた、カンナビジオール(CBD)の有効量を対象に投与することによって、対象の自閉症スペクトラム障害(ASD)の興奮性の症状を治療する方法であって、ASDの興奮性の症状が対象で治療される方法に関する。この方法は、カンナビジオール(CBD)の有効量を対象に経皮投与することを含む。
【0023】
実施形態では、本方法を使用して、中等度から重度のASDを有する対象の興奮性を治療することができる。中等度から重度のASDを有している対象は、自閉症診断観察検査(R)第2版(ADOS-2)の比較スコアが3以上である。
【0024】
一般に、「高興奮性」を経る対象は、関連する一般集団の平均興奮性よりも多大な興奮性を経るであろう。興奮性は、ABC-C興奮性サブスケールなどの尺度を使用して判定することができる。高い興奮性のための処置を必要とする対象は、高いABC-C興奮性スコアを有する。本明細書で使用される場合、「高いABC-C興奮性スコア」という用語は、12超、13超、14超、15超、16超、17超、18超、19超又は20超のABC-C興奮性スコアを指す。
【0025】
一般に、「高い社会回避」を経ている対象は、関連する一般集団の平均的な社会回避よりも多大な社会回避を経るであろう。社会回避は、ABC-CFXS社会回避サブスケールなどの尺度を使用して判定することができる。「高い」社会回避を有する対象は、5超、6超、7超、8超、又は9超のABC-CFXS社会回避スコアを有する。
【0026】
一般に、「高い不安」を経る対象は、関連する一般集団の平均的な不安よりも多大な不安を経るであろう。不安は、ASDのための親評定不安尺度(PRAS-ASD)などの尺度を使用して判定することができる。「高い」不安を有する対象は、25超、30超、35超、37超、40超、又は45超のPRAS-ASDスコアを有する。
【0027】
高い興奮性、高い不安及び高い社会回避を判定するために使用されるスコアは、統計データ及び医師による臨床評価との関連を示すために使用されることを理解されたい。通常の行動よりも高いことに関連する記載されたスコア(例えば、高い興奮性、高い社会回避及び高い不安)は、そのような行動の臨床的な評価がこれらのスコアと関連していることを示している研究から得た集団の推定値であるが、これは必ずしも絶対的な閾値ではない。したがって、医師は、患者が薬学的な治療から利益を得ることを判定するために、興奮性、社会回避及び不安に関連する特定のスコアに必ずしも頼ってはいないことを理解されたい。むしろ、行動に関連する特定のスコアを判定するか否かにかかわらず、臨床評価を使用することにより、医師は、対象が高い興奮性、高い社会回避及び高い不安を経ると結論付けることができるようになる。
【0028】
CBDの治療レベルの持続的で制御された送達を可能にする革新的な経皮技術を利用する治療薬が開発されている。経皮カンナビジオール送達システムは、米国特許第8,449,908号明細書及び米国特許第8,435,556号明細書において教示されており、これらは両方とも参照により本明細書に組み込まれる。
【0029】
カンナビノイド(例えば、CBD)の経皮送達は、それが薬物が皮膚を通して血流に直接吸収されることを可能にするので、経口投与よりも利点がある。これにより、初回通過での肝臓での代謝が回避され、より高いバイオアベイラビリティ及び改善された安全性プロファイルを有するより低い投与量レベルの活性医薬成分が有効になる潜在可能性がある。経皮送達はまた、胃腸管を回避し、GI関連の有害事象と、望ましくない精神賦活作用に関連し得る胃酸によるTHCへのCBDの潜在的な分解の機会とを減少させる。さらに、CBDの経皮送達は、CBDの経口投与において典型的に存在する、有害事象としての傾眠の強度及び頻度を、低下させる。CBDの経皮送達は、CBDの経口投与に典型的に存在する肝機能の有害事象を回避することができる。いくつかの実施形態では、CBDの有効量を経皮投与すると、少なくとも1つの有害事象の強度が、CBDを経口投与するのと比較して約15%~約95%低下する。
【0030】
CBDの有効量は、1日約50mg~約1000mgであり得る。いくつかの実施形態において、CBDの有効量は、1日約50mgで開始され、1日約750mgまで漸増される。CBDの有効量は、1日約50mgから開始し、1日約250mg、1日500mg、1日750mg又は1日1000mgまで漸増することができる。いくつかの実施形態において、CBDの有効量は1日250mgで開始される。CBDの有効量は、1日500mgで開始することができる。CBDの有効量は、1日750mgで開始することができる。CBDの有効量は、1日1000mgで開始することができる。いくつかの実施形態において、約250mgの1日投与量が、35kg以下の体重の患者に投与される。いくつかの実施形態では、約500mgの1日投与量を、30kgを超え50kg以下の体重の患者に投与する。いくつかの実施形態において、約750mgの1日投与量が、50kgを超える体重の患者に投与される。CBDは、1日1回の投与量又は1日2回の投与量で投与することができる。いくつかの実施形態では、CBDの有効量は、分割された1日投与量で390mgであり得る。
【0031】
CBDはゲルの形態であり得、1日1回又は2回の投与での制御された薬物送達を経皮的にもたらすように設計された、透明な透過増強ゲルとして、薬学的に製造され得る。CBDゲルは、1%(wt/wt)CBD~7.5%(wt/wt)CBDであり得る。CBDゲルは、例えば、4.2%(wt/wt)CBD又は7.5%(wt/wt)CBD)を有することができる。CBDゲルは、患者又は介護者によって患者の上腕及び肩、背中、大腿又はそれらの任意の組み合わせに局所的に適用することができる。
【0032】
CBDゲルは、希釈剤及び担体、並びに湿潤剤、保存剤、並びに懸濁剤及び分散剤などの他の従来の賦形剤を含むことができる。
【0033】
CBDゲルは、可溶化剤、透過促進剤、可溶化剤、酸化防止剤、増量剤、増粘剤及び/又はpH調整剤を含むことができる。CBDゲルの組成は、例えば、a.組成物の約0.1%~約20%(wt/wt)の量で存在するカンナビジオール、b.組成物の約15%~約95%(wt/wt)の量で存在する1~6個の炭素原子を有する低級アルコール、c.組成物の約0.1%~約20%(wt/wt)の量で存在する第1の浸透促進剤及びd.組成物が合計100%(wt/wt)になるのに十分な量の水とすることができる。CBDゲルの他の製剤は、国際公開第2010/127033号に見出すことができ、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
いくつかの実施形態では、経皮調製物は、クリーム、膏薬又は軟膏であり得る。CBDは、包帯、パッド又はパッチによって送達することができる。CBDは、対象の上腕及び肩に経皮投与することができる。いくつかの実施形態では、CBDは、対象の大腿又は背中に経皮的に投与される。CBDは合成CBDであり得る。CBDは精製CBDであり得る。CBDは植物由来であり得る。
【0035】
いくつかの実施形態において、CBDは、THCを含有しない薬学的に許容される調製物において投与される。いくつかの実施形態では、CBDは、THC又は大麻の任意の他の抽出物なしで投与される。いくつかの実施形態では、CBDは合成CBDである。いくつかの実施形態では、それは抽出物である。いくつかの実施形態では、それは精製される。
【0036】
自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された対象における興奮性の緩和には、ABC-C興奮性スコアの改善が含まれ得る。興奮性は、ABC-C興奮性サブセットスコアを用いて測定することができる。ABC-C興奮性スコアが18以上である場合、対象における高い興奮性が示され得る。実施形態では、対象のABC-C興奮性スコアが、CBDを有する対象の治療後に、18未満、又は17未満、又は16未満、又は15未満、又は14未満、又は13未満、又は12未満、又は11未満、又は10未満、又は9未満、又は8未満、又は7未満、又は6未満、又は5未満、又は4未満、又は3未満、又は2未満、又は1未満、又は0に等しい場合、ABC-C興奮性スコアの改善が示される。実施形態では、対象におけるABC-C興奮性スコアが、CBDによる治療後に、少なくとも3減少する、又は少なくとも4減少する、又は少なくとも5減少する、又は少なくとも6減少する、又は少なくとも7減少する、又は少なくとも8減少する、又は少なくとも9減少する、又は少なくとも10減少する、又は少なくとも11減少する、又は少なくとも12減少する、又は少なくとも13減少する、又は少なくとも14減少する、又は少なくとも15減少する、又は少なくとも16減少する、又は少なくとも17減少する、又は少なくとも18減少する場合、ABC-C興奮性スコアの改善が示される。実施形態では、対象のABC-C興奮性スコアが、CBDによる治療後に、少なくとも5%低下するか、少なくとも10%低下するか、少なくとも15%低下するか、少なくとも20%低下するか、少なくとも25%低下するか、少なくとも30%低下するか、少なくとも35%低下するか、少なくとも40%低下するか、少なくとも45%低下するか、少なくとも50%低下するか、少なくとも55%低下するか、少なくとも60%低下する場合、ABC-C興奮性スコアの改善が示される。
【0037】
中等度から重度のASDと診断された対象における興奮性の緩和には、Anxiety,Depression and Mood Scale(ADAMS)の総スコアの改善も含まれ得る。いくつかの実施形態では、ASDの1つ以上の行動症状を軽緩和することは、ADAMSの1つ以上のサブスケールの改善を含むことができる。
【0038】
いくつかの実施形態において、対象にはまた、1つ以上のさらなる薬物が投与されている。1つ以上のさらなる薬物は、いくつかの実施形態では、抗うつ薬、抗不安薬、アルファ-2-アドレナリン作動薬、精神刺激薬、抗精神病薬及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0039】
いくつかの実施形態において、1つ以上のさらなる薬物は、抗精神病薬を含む。ASDと診断された対象に典型的に投与される抗精神病薬の例としては、いくつかの実施形態では、リスペリドン、アリピプラゾール、ハロペリドール、オランザピン、ジプラシドン及びフマル酸ケチアピンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
いくつかの実施形態において、1つ以上のさらなる薬物は、アルファ-2-アドレナリン作動薬を含む。ASDと診断された対象に典型的に投与されるアルファ-2-アドレナリン作動薬の例としては、クロニジン及びグアンファシンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
いくつかの実施形態において、1つ以上のさらなる薬物は、抗うつ剤を含む。例えば、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)の抗うつ剤もまた、さらなる薬物として対象に投与され得る。ASDを有する対象に使用されるSSRIの例としては、フルオキセチン、シタロプラム及びエスシタロプラムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
いくつかの実施形態では、1つ以上の向精神薬は、覚醒剤薬物を含む。ASDと診断された対象に典型的に投与される覚醒剤薬物の例としては、メチルフェニデートHCl、アトモキセチンHCl、デクスフェタミン及びメシル酸ジスデクスフェタミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
予想外にも、患者が高い社会回避スコア及び/又は高い不安スコアを有する場合、ASDと診断された対象における興奮性の治療が増強されることが分かった。典型的には、ASD患者の症状の重症度は、ABC-C試験を使用して判定される。前述のように、ABC-C検査は、(i)興奮性、(ii)多動性、(iii)社会的引きこもり、(iv)常同行動及び(v)不適切な発話を含む5つのサブスケールを有する。FXSと診断された対象の行動をより良好に評価するために、ABC-CFXS試験を作成した。ABC-CFXS試験は、ABC-C試験と同じ質問を使用するが、社会回避のためのサブスケールを追加して、スコアリングを6つのサブスケールに分割する。ABC-CFXS試験がASDを有する対象に適用される(ただし、FXSの診断ではない)場合、ABC-CFXS試験のこの独自の適用は、ASDを有する対象を研究するために以前は使用されていなかった基準(すなわち、社会回避)に基づく対象の新規な分離をもたらす。ASDの対象にABC-CFXS試験を適用するとき、7を超えるABC-CFXS社会回避スコアを有する対象は、7以下のABC-CFXS社会回避スコアを有する対象と比較して、興奮性において2倍の改善を示すということが分かった。ASD(ABC-C)と診断された患者の症状の重症度についての既存の検査基準を、FXSと診断された患者について開発された基準(ABC-CFXS)で修正することによって、CBDによる治療に対する優先的で肯定的な応答が、高いABC-CFXS社会回避スコアを有する対象における興奮性について発見された。
【0044】
Parent Rated Anxiety Scale(PRAS)スコアが37を超える対象は、PRASスコアが37以下の対象と比較して、2倍の興奮性の改善を示すことが分かった。
【0045】
いくつかの実施形態では、対象は、中等度から重度のASDと併存する脆弱X症候群(FXS)と診断され得る。ASDの診断を有する対象と同様に、FXS及びASDと診断された患者は、CBD、特に経皮CBDで治療した場合に、興奮性の改善を示す。高い社会回避スコア及び/又は高い不安スコアのFXS対象はまた、FXSを有しないASD患者で見られるのと同じ興奮性の向上した減少も示すことが見出された。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
ASDの治療-BRIGHT試験
Zygel(商標)ZYN002経皮ゲルの探索的非盲検安全性、耐容性及び有効性試験を、自閉症スペクトラム障害の小児及び青年37名に行った。患者の集団(4~17歳)は、主に中等度から重度のASD患者であった。ASDは、様々な有効性評価によって測定される、ASD関連行動の治療におけるZYN002の安全性及び有効性を評価するためのDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders第5版(DSM-5)診断基準によって確認された。これらには、異常行動チェックリスト-コミュニティ(ABC-C)、自閉症診断観察検査(R)第2版(ADOS-2)及びASDのための親評定不安尺度(PRAS-ASD)が含まれていた。ZYN002は、標準的な治療への追加治療として、ASDの中等度から重度の症状を有する患者に投与された。
【0047】
患者のデモグラフィック。
患者の大部分は男性(92%)であり、平均年齢は9.2歳であった。患者の体重は15~108キログラムであった(平均=41.6、中央値=30.2)。この集団における診断までの平均時間は5.4年であった。ADOS(R)-2比較スコア(94%)及びDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders第5版の重症度レベル(92%)によって測定したところ、大部分の患者がベースライン時に中等度又は重度のASDを有していた。ABC-C興奮性平均スコアは30.3であり、9名の患者(24.3%)が臨床的不安の可能性を示すPRAS-ASDスコアを有し、登録した患者集団における症状の重症度をさらに強調していた。
【0048】
患者の大部分(92%)は、少なくとも1つの基礎薬物を使用して試験に参加した。患者の65%は、少なくとも1つの向精神薬、例えば抗うつ薬、抗不安薬及び抗精神病薬を服用していた。37名の対象のうち14名が抗精神病薬を服用しており、11名がリスペリドンを服用しており、1名がハロペリドールを服用しており、1名がオランザピンを服用しており、1名がフマル酸クエチアピンを服用していた。16名は、クロニジン(6)、グアナファシン(5)、メチルフェニデートHCl(7)、アトモキセチンHCl(2)、デキサメタゾン(1)及びメシル酸リセミド(2)を含むADHD及び変力薬に使用される覚醒剤薬剤を服用していた。
【0049】
プロトコル
対象にCBDを250又は500mgの1日総投与量を投与した。14週間、1日2回、ZYN002 CBD経皮ゲルの形態で投与された。14週間の期間中に投薬を完了した後、適格であった参加者には、6ヶ月の延長試験に登録する選択肢が与えられた。試験では、ABC-C、PRAS-ASD、Autism Parenting Stress Index、Autism Impact Measure(AIM)及びClinical Global Impression-Severity(CGI-S)及びImprovement(CGI-I)を含む複数の有効性評価を評価した。ASDについて示された2つの非定型抗精神病薬(リスペリドン及びアリピプラゾール)の承認の基礎として、ABC-C興奮性サブスケールを使用した。
【0050】
結果
ABC-C並びにASDのための親評定不安尺度(PRAS-ASD)の5つのサブスケールすべてが、ベースラインに対する14週間の治療で、統計学的に有意な改善と臨床的に有意な改善の両方を示した。
【0051】
表1に、ABC-Cの各サブスケールからの14週間の改善をまとめている。すべての結果が統計的に有意であった。すべてのサブスケールについて、p<0.001であった。
【0052】
【0053】
ABCスケールでの常動行動の40%の改善、Parent Raported Anxiety Scaleでの反復的行動の33%の改善及びこのASDの重症度を有し、抗精神病薬も服用していた小児における予想外の全体的な改善があった。結果は、両方共統計的に有意であり、臨床的に有意である。
【0054】
他の有効性評価の結果は、ABC-Cで実証された結果を強固にする。例えば、ZYN002の患者は、PRAS-ASDによって測定された際、40.8のベースラインスコアから14週目に46%の平均改善率を経て(p<0.001)おり、またClinical Global Impressions-Improvement(CGI-I)によって測定された際に、患者の57%が、14週目に非常に大きく又は大きく改善されたと評価された。
【0055】
ZYN002は、この試験で忍容性が高く、重篤な有害事象(SAE)は報告されなかった。28名の患者が14週間の試験を完了した。この中断の比率は、ASDにおける他の試行と一致する。1名の患者のみが追跡調査で途絶え、治療後の有効性評価が行われなかった。患者の半数未満(49%)が何らかの有害事象(試験薬と関連なし又は関連あり)を経て、そのすべてが軽度(75%)又は中等度(25%)であった。14%の患者のみが治療に関連すると考えられる有害事象を経ており、そのすべてが適用部位に関連し、ほとんどが軽度で一過性であった。試験中に重度な有害事象は報告されなかった。18名のBRIGHT試験を完了した患者が、非盲検の延長における登録をした。
【0056】
結果
ABC-C並びにASDのための親評定不安尺度(PRAS-ASD)の5つのサブスケールすべてが、ベースラインに対する14週間の治療で、統計学的に有意な改善と臨床的に有意な改善の両方を示した。表1は、6週目及び14週目のABC-Cの結果をまとめたものである。
【0057】
[実施例4]
対象における興奮性の治療
前述の試験から得られたデータにおいて、経皮CBDの投与が、中等度から重度のASDと診断された対象の興奮性スコアにおいて有意な改善を有することが認められた。Zygel(商標)ZYN002経皮ゲル(実施例1参照)の非盲検安全性、忍容性及び有効性試験のための試験から得た完遂者(N=28)の結果の概要を、表1に示す。
【0058】
本明細書に提示される研究から収集されたデータ及び他の同様の研究を共にプールし、分析した。表2は、156名の対象から収集された、プールされたデータの概要を示す。対象は、18以上のベースラインのABC-C興奮性スコアを有していた。対象は、ASDの中等度から重度の症状を有していた(ADOS-2、5以上の比較スコア)。表2に示すデータは、全患者のABC-C興奮性の12週目の変化である。先の研究(例えば、実施例1、表1に提示)では、分析から不完遂者を除去し、完遂者から得たデータのみを提示することによって、データを濃縮した。表2の現在の分析は、データの濃縮なしで、Zygel(商標)ZYN002経皮ゲルが、プラセボと比較して、FXS及び併存するASDを有する患者において、ABC-C興奮性の最小限の改善をもたらしたことを示す。
【0059】
【0060】
表2に提示されているデータを、18以上のベースラインABC-C興奮性スコア及び7を超えるABC-CFXS社会回避スコアを有する対象にデータを限定することによって、さらに分析した。これらの結果を、18以上のベースラインABC-C興奮性スコア及び7以下のABC-CFXS社会回避スコアを有する特許と比較した。この分析の結果を表3に示す。このデータは、7を超えるABC-CFXS社会回避スコアを有する対象が、7以下のABC-CFXS社会回避スコアを有する対象よりも、経皮CBD投与に対するはるかに良好な応答を有したことを示す。
【0061】
【0062】
さらに、ASDのBRIGHT試験から得たデータは、ASDのための親評定不安尺度(PRAS-ASD)のベースライン不安スコアがABC-C
FXS社会回避と相関することが見出されることを示した。
図1は、PRAS総スコア(ベースライン)対ABC-C
FXS社会回避サブスケール(ベースライン)のプロットを示す。データは、社会回避と不安との間の相関を示し、相関係数は0.45526である(P値=0.005)。
【0063】
これにより、Zygel(商標)ZYN002経皮ゲルのデータをさらに分析して、高いPRAS-ASD不安スコア(37超)を有する対象のABC-C興奮性スコアに対するZygelの効果を確認するに至った。表4に提示されているこの分析は、ベースラインABC-C興奮性スコアが18以上であり、PRAS-ASDスコアが37超である対象が、PRAS-ASDスコアが37以下である対象と比較して、興奮性の改善をより良好に示したことを示している。高いPRAS-ASDスコアを有する対象における興奮性の改善を表4にまとめている。期間2の対象は、期間1の応答者(期間1のベースラインから14週目までのABC-C興奮性スコアの35%以上の改善として定義される)であり、そのため、結果として期間1の全対象よりもひと際大きな変化を有し得ることに留意されたい。
【0064】
【0065】
まとめると、このデータは、中等度から重度のASD並びに比較的高い社会回避及び/又は不安を有する対象が、CBDで治療された場合に興奮性の低下を示す可能性がより高いことを示している。
【0066】
本発明の様々な態様のさらなる修正及び代替の実施形態は、この説明を考慮すれば、当業者にとって明らかであろう。したがって、この説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実施する一般的な方法を当業者に教示する目的のためのものである。本明細書に示され説明される本発明の形態は、実施形態の例として解釈されるべきであることを理解されたい。本発明のこの説明の利益を得た後に当業者にとってすべて明らかであるように、要素及び材料は、本明細書に図示及び記載されたものから置き換えられてもよく、部品及び工程は逆にされてもよく、本発明の特定の特徴は独立して利用されてもよい。以下の特許請求の範囲に記載される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される要素に変更を加えることが可能である。
【国際調査報告】