(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】代謝管理、特に糖代謝管理および満腹ホルモン濃度の調節のためのシンバイオティクス組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/742 20150101AFI20240927BHJP
A61P 5/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240927BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240927BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240927BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240927BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20240927BHJP
A61K 36/82 20060101ALI20240927BHJP
A61K 36/9066 20060101ALI20240927BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240927BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240927BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240927BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20240927BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240927BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240927BHJP
C07K 5/062 20060101ALI20240927BHJP
A23L 33/135 20160101ALN20240927BHJP
【FI】
A61K35/742
A61P5/00
A61P3/04
A61P3/10
A61P3/06
A61P3/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K38/05
A61K36/82
A61K36/9066
A61K9/48
A61K47/32
A61K47/38
A61K47/46
A61K47/36
C12N1/20 E
C07K5/062
A23L33/135
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523838
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2022067100
(87)【国際公開番号】W WO2023066533
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハイケ トム ディーク
(72)【発明者】
【氏名】ボード シュペックマン
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C076
4C084
4C087
4C088
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD85
4B018ME01
4B065AA19X
4B065AC20
4B065BD39
4B065CA41
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4H045AA30
4H045BA11
4H045EA01
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのプロバイオティクス菌株と少なくとも1つのアミノ酸または誘導体とを含み、糖代謝管理、例えば、糖尿病予防または前糖尿病の治療/健康への回復に効果を発揮する、シンバイオティクス製剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における満腹ホルモン濃度の調節で使用するための製剤であって、
- 少なくとも1つのプロバイオティクスの枯草菌株、および
- グルタミンまたはグルタミン酸単位を含む少なくとも1つのジペプチド
を含み、
ここで、満腹ホルモンは、CCK、GLP-1およびPYYから選択される、製剤。
【請求項2】
前記製剤が、少なくとも10億CFUのプロバイオティクスの枯草菌株および少なくとも250mgのジペプチドの、1日当たり少なくとも1回の経口投与量、好ましくは1日当たり少なくとも2回の経口投与量で前記被験者に投与されるべきである、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
前記満腹ホルモンの調節が、前記製剤の投与から4週間後に、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%の満腹ホルモン濃度の低下である、請求項2記載の製剤。
【請求項4】
クルクマ抽出物および緑茶抽出物から選択される1種以上の植物抽出物をさらに含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の製剤。
【請求項5】
前記プロバイオティクス菌株が、枯草菌DSM 32315、枯草菌DSM 32540、枯草菌DSM 32592、好ましくは枯草菌DSM 32315から選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載の製剤。
【請求項6】
前記ジペプチドが、グリシン-グルタミン、グリシン-グルタミン酸、アラニン-グルタミン、アラニン-グルタミン酸およびそのアセチル化体から選択される、請求項1から5までのいずれか1項記載の製剤。
【請求項7】
前記プロバイオティクス菌株およびアミノ酸またはオリゴペプチドの総量が、前記製剤の総重量の少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは少なくとも70重量%である、請求項1から6までのいずれか1項記載の製剤。
【請求項8】
前記植物抽出物の総量が、前記製剤の総重量の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは20~40重量%である、請求項1から7までのいずれか1項記載の製剤。
【請求項9】
前記製剤が、腸溶性コーティングを含み、ここで、前記腸溶性コーティングが、以下のうち1種以上:メチルアクリレート-メタクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸コハク酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(ヒプロメロースアセテートスクシネート)、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)、メチルメタクリレート-メタクリル酸コポリマー、シェラック、セルロースアセテートトリメリテート、アルギン酸ナトリウム、ゼイン、好ましくはメチルアクリレート-メタクリル酸コポリマーを含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の製剤。
【請求項10】
前記製剤が、ポリマー組成物を含む腸溶性コーティングを含み、ここで、前記ポリマーが、20~30重量%のメタクリル酸メチルと、60~70重量%のアクリル酸メチルと、8~12重量%のメタクリル酸とから重合され、好ましくは、前記ポリマーが、25重量%のメタクリル酸メチルと、65重量%のアクリル酸メチルと、10重量%のメタクリル酸とから重合される、請求項1から9までのいずれか1項記載の製剤。
【請求項11】
肥満、脂肪症、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの予防および治療に使用するための、請求項1から10までのいずれか1項記載の製剤。
【請求項12】
被験者における空腹時血糖の低下で、好ましくは空腹時血糖値100mg/dl未満で使用するための製剤であって、
- 少なくとも1つのプロバイオティクスの枯草菌株、および
- グルタミンまたはグルタミン酸単位を含む少なくとも1つのジペプチド
を含む、製剤。
【請求項13】
前記プロバイオティクスの枯草菌株が、枯草菌DSM 32315であり、前記ジペプチドが、アラニン-グルタミン、好ましくはL-アラニル-L-グルタミンである、請求項12記載の使用のための製剤。
【請求項14】
前記被験者における血糖反応が低下する、好ましくはグルコース試験食に反応して低下する、請求項12または13記載の使用のための製剤。
【請求項15】
前記被験者がヒトであり、かつ、前糖尿病状態で、100mg/dlを上回る空腹時血糖値を有するヒトである、請求項12または14記載の使用のための製剤。
【請求項16】
前記被験者の体重が、前記製剤の投与の4週間後に少なくとも1kg減少する、請求項15記載の使用のための製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者における満腹ホルモン濃度を調節する際に使用されるシンバイオティクス製剤であって、少なくとも1つのプロバイオティクスの枯草菌(Bacillus subtilis)株と、グルタミンまたはグルタミン酸単位を含む少なくとも1つのジペプチドとを含み、満腹ホルモンが、CCK、GLP-1およびPYYから選択される、シンバイオティクス製剤に関する。さらに、この製剤は、糖代謝管理、例えば、糖尿病予防または前糖尿病の治療/健康への回復に効果を発揮する。
【0002】
腸内微生物叢は、食品成分によって誘発される健康への影響の重要な調整因子である。微生物代謝物であるブチレートは、このような作用の重要かつ標的化可能なメディエーターとして現れる一方で、ブチレートの相対的欠乏は、いくつかの腸疾患や代謝疾患と関連している。ヒトの腸内でのブチレート産生を刺激するための利用可能なプレバイオティクス戦略、例えば、FODMAPの適用は、特に食物不耐症または過敏性腸症候群の人において、望ましくない副作用、例えば、下痢、腹痛および鼓腸を引き起こす可能性があり、その結果、利用可能性が限られる。したがって、本発明者らは、生物叢の組成および活性の双方をブチレート産生に移行させる新規な手段として、FODMAPを含まないシンバイオティクス組成物を開発することを目的とした。
【0003】
消化管の微生物叢は、経口摂取された物質(食品または医薬品成分であってもよい)やヒトの生理と相互に関連した興味深い関係を形成している。その意味では、微生物叢の組成および活性は、食事によって影響を受け、その一方で、食物分子は、多数の(微生物特異的な)代謝経路を介して部分的に吸収性の高い代謝物へと変換される。宿主に対して既知の効果を有する腸内微生物叢由来の代謝物の例としては、フェノール酸、インドール誘導体、および短鎖脂肪酸(SCFA)アセテート、プロピオネート、およびブチレートが挙げられる。ブチレートは、結腸上皮細胞の重要なエネルギー源であり、分化因子でもある。また、ムチンの形成ならびにタイトジャンクション構成タンパク質の形成を補助し、それにより腸管バリアの完全性にも寄与している[1]。さらに、ブチレートは、アリール炭化水素、GPR41、GPR109、およびPPARγ受容体への結合を介して抗炎症シグナル伝達を誘発することができ、その結果、ブチレートおよびブチレート産生細菌のレベルの低下を示す炎症性腸疾患(IBD)の病因に関係している[1]。
【0004】
約2%の割合の管腔内ブチレートが門脈を介して循環[2]に入り、それにより肝臓、脂肪組織、および膵臓などの消化管以外の組織にも影響を与える。十分なブチレートの供給による全身的な作用は、心臓代謝の健康状態の(有益な)調節(インスリン感受性の増加、血漿グルコースおよびコレステロールレベルの低下、ならびに満腹感の増加および血圧の低下につながるグルコースおよび脂質の代謝[3])としてまとめることができる。利用可能な研究では、代謝障害の病態生理におけるブチレートまたは他のSCFAの因果関係は確立されていないが、これらはおそらく、例えば食物繊維が豊富な食事による健康効果に少なくとも部分的に寄与していると考えられる[4,5]。結論として、結腸ブチレートレベルの増加は、特にIBDおよび代謝障害、例えば、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの特性、および心血管疾患の予防および治療のために、目標とする健康成果を達成するための微生物叢を標的とした介入戦略を開発するための魅力的な目標である。特に興味深いのは、本格的な糖尿病の発症を予防するために境界型糖尿病(前糖尿病の病態)を管理することであろう。なぜなら、そのような病態は一種の可逆的なものであるからである。完全な糖尿病(定義)を発症すると、回復ははるかに困難になる。
【0005】
前糖尿病は、血糖値が本来あるべき値より高いが、糖尿病と診断されるほど高くない場合である。それを空腹時血糖異常または耐糖能異常と呼ぶこともある。2型糖尿病の人は、ほとんどの場合、まず前糖尿病にかかっており、通常は症状が出ない。特に欧米諸国では、かなりの割合の人が前糖尿病にかかっているが、90%の人は自分が前糖尿病であることを知らない。前糖尿病の治療により、2型糖尿病や心臓、血管、眼および腎臓の問題など、より深刻な健康問題を予防できる。
【0006】
結腸ブチレートレベルは、プレバイオティクス、プロバイオティクス、それらの組み合わせによって、そしてまたトリブチリンなどの塩またはブチレート前駆体の形での酪酸の直接摂取によっても目標とすることができる。酪酸ナトリウムは、IBD患者の同時治療として臨床的に評価されており、例えば、難治性の遠位部潰瘍性大腸炎における5-ASAの局所適用での有効性を支持している[6]。しかしながら、便利で患者に優しい利用形態が重要なコンプライアンス因子であり、予防的アプローチではさらに重要であるため、経口介入が好ましい。ブチレートの場合、このことは、ブチレートを遠くの小腸/結腸に標的としている徐放性コーティング錠剤製剤によって実現されている[7]。運動プロファイルは、担体からのブチレートの突然の管腔内放出を示し、これは、おそらく消化管内で連続的に形成されたブチレートのより持続的な取り込みよりも不利である。さらに、ブチレート含有サプリメントの強い匂いにより、それらの適用性が制限される。
【0007】
おそらく、この形成を誘発する最も十分に確立された手段は、正常な食事を介して、または栄養強化食品もしくは栄養補助食品を介して、プレバイオティクス繊維を摂取することである。プレバイオティクスの中で最も研究され応用されているものは、フルクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、アラビノキシランオリゴ糖(AXOS)、キシロオリゴ糖(XOS)、およびβ-グルカンである。これらの炭水化物は、より大きな群のFODMAP(発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、およびポリオール)の一部を形成する。FODMAPは、望ましくない副作用、例えば、下痢、便秘、および鼓腸を引き起こすことが多いので、FODMAP含量の低い食事が、ますます人気を集めている[8]。過敏性腸症候群患者では、低FODMAP食により、これらの症状が効果的に軽減されている[9]。したがって、腸管SCFAの供給源としての繊維の使用は、少なくとも特定の集団に対する適用性が限られている。代替的なアプローチは、ブチレート産生細菌を補助または治療用プロバイオティクスとして直接適用することである。ヒトの腸内微生物叢は、ブチレートをもたらす4つの異化経路を使用することが知られており[10]、そのうちの3つは、タンパク質/アミノ酸を遊離体として処理し、ピルビン酸/アセチル-CoA経路(Ac経路)は、タンパク質だけでなく炭水化物も処理し、後者は、多民族メタゲノム解析において最も豊富である[11]。フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、オシリバクター(Oscillibacter)、およびクロストリジウム(Clostridium)XIVaは、Ac経路に関連する全ての細菌の主要なコア群集を構成する。これらの分類群の種は、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、およびバチルス属(Bacillus)の一般的に使用されるプロバイオティクス細菌には属さないが、最近では、いわゆる次世代プロバイオティクス、例えば、アッケマンシア・ムチニフィラ(Akkermansia muciniphila)、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)、およびユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)として研究され、応用されている。これらの開発は明らかに興味深いものであるが、上記の次世代プロバイオティクス菌株4種を含むカクテルを評価した最近のパイロット試験では、糞便中ブチレートレベルの有意な上昇を達成することはできなかった[12]。別のクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)株は、インビトロおよびげっ歯類における酪酸産生菌として特徴付けられてきたが、ヒトの腸内での酪酸産生能はまだ確立されていない[13]。同様に、108CFU/日のブチリシコッカス・プリカエコルム(Butyricicoccus pullicaecorum)株による4週間の介入は、糞便中ブチレートに影響を及ぼさなかった[14]。全体として、次世代/ブチレート産生プロバイオティクスのヒトへの適用は興味深いが、厳密な嫌気性であるため、生産が難しく、製剤化された最終製品の長期安定性を確保するのが難しいという技術的課題にも直面している。
【0008】
SCFAの産生をもたらす結腸標的カプセル配合物中で枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315およびアラニル-グルタミンを含む栄養製品が、欧州特許出願公開第3784807号明細書に開示されている。
【0009】
本発明では、18人の健康なボランティアを対象とした臨床パイロット試験が実施され、その配合物が、ヒトにおけるブチレートレベルを安全に改善し得ることが示された。4週間の補給は、忍容性が良好であり、微生物叢の変化を伴う糞便中ブチレートレベルが大幅に上昇した。さらに、循環脂質パラメータが有意に改善され、GLP-1およびPYYが有意に低下し、空腹時血糖への影響が検出されたため、4週間の補給後に前糖尿病の空腹時血糖値を有する被験者が、開始前の3人の前糖尿病の被験者と比較してゼロに減少した。
【0010】
さらに、驚くべきことに、介入後の前糖尿病の患者数の減少によって示される血糖代謝の改善は、GLP-1およびPYYレベルの有意な低下を伴っていた。正常では、満腹ホルモンの(食後の)増加が期待されるだろう[15]。これは、循環満腹ホルモンの総量の減少がプラスの効果に関連して報告されている非常にまれな症状の1つであるため、体重減少に匹敵する代謝健康の改善の指標になる可能性がある[16,17]。補給に伴う有意な減少は、改善のための指標と評価され得る。空腹時GLP-1の低下が認められた仮説の1つは、Ranganathらによって報告されたように、非エステル化脂肪酸の循環によってGLP-1分泌が阻害され得ることであった可能性がある[18]。この場合、枯草菌(Bacillus subtilis)は、基質ジペプチド(アラニル-グルタミン)と共に、SCFAの産生を、特に上部消化管部で増加させた可能性があり、この仮説を裏付けた。PYYとGLP-1との空腹時血漿濃度に焦点を当てた研究はほとんどない。それらの1つは、Luisらの研究[16]である。肥満研究の集団では、低カロリー食の後に体重が減少した被験者において、基礎GLP-1レベルの有意な低下が認められた。このことは、人体測定パラメータおよび心血管系危険因子、例えばLDL-コレステロール、トリグリセリド、インスリンおよびHOMA指数の低下における有意な改善を伴った。さらに、Luisらによる基礎的インスリンレベルとGLP-1レベルとの間の研究において有意な相関が見られた。今回の研究では空腹時インスリンは測定されなかったが、正常血糖群でも血糖値のわずかな低下が認められた。体重減少後のGLP-1濃度の低下は、他の研究者からも報告されているが[17]、体重減少後のGLP-1濃度の上昇を示す刊行物もある[19]。したがって、様々な機序が関与していると考えられており、体重減少の間および体重維持の間にも差が生じる可能性がある。それにもかかわらず、本発明者らはここで初めて、共生栄養補助食品に反応して正常体重の研究集団においてGLP-1およびPYYが明確に低下したことを開示する。
【0011】
脂質の状態、特に血中バイオマーカー総コレステロールおよびLDLコレステロールは、研究全体を通して有意な低下を示した。これは、例えばラクトバチルス属(Lactobacillus)プロバイオティクスの投与が、総コレステロールおよびLDLコレステロールの低下を含む脂質プロファイルの改善に有効であることを示した過去のインビボ研究と一致している[20]。これらのコレステロール低下作用は、部分的に胆汁酸塩ヒドロラーゼ活性(BSH)活性に起因し得る。脱抱合胆汁酸塩は、抱合胆汁酸塩よりも再吸収効率が低く、その結果、便中に多量の遊離胆汁酸が排泄される。また、遊離胆汁酸塩は、腸内での脂質の可溶化および吸収の効率が低い。したがって、胆汁酸塩の脱抱合は、便中で失われた胆汁酸を補うための胆汁酸のデノボ合成のためのコレステロールの需要を高めることによって、またはコレステロールの溶解度を低下させ、それによって腸管内腔からのコレステロールの吸収を減少させることによって、血清コレステロールの減少につながる可能性がある。プロバイオティクスの追加の作用様式も報告されている。
【0012】
コリンセラ(Collinsella)、特にコリンセラ・アエロファシエンス(Collinsella aerofaciens)は、将来的に健康用途においてさらに興味深いものとなる可能性がある。最近の研究では、コリンセラ(Collinsella)属のブチレート産生種が特定された[21]。加えて、コリンセラ(Collinsella)は、いくつかの更なる刊行物、例えば、膨満感を軽減するためのコリンセラ・アエロファシエンス(Collinsella aerofaciens)の使用を記載した国際公開第2010125421号ならびに炎症性腸疾患の治療のためのコリンセラ(Collinsella)の使用を開示した国際公開第2016038198号において有益であると記載されている。
【0013】
結論として、この介入は、このシンバイオティクス組成物が、腸管のブチレート産生を刺激する効果的で安全なツールであり、それに続いて満腹ホルモン濃度の調節にプラスの効果をもたらすことを示している。
【0014】
したがって、本発明は、被験者における満腹ホルモン濃度の調節で使用するための製剤であって、
- 少なくとも1つのプロバイオティクスの枯草菌(Bacillus subtilis)株、および
- グルタミンまたはグルタミン酸単位を含む少なくとも1つのジペプチド
を含み、
ここで、満腹ホルモンは、CCK、GLP-1およびPYYから選択される、製剤に関する。
【0015】
好ましい構成では、製剤は、クルクマ抽出物および緑茶抽出物から選択される1種以上の植物抽出物をさらに含む。
【0016】
好ましい構成では、製剤は、少なくとも10億CFUのプロバイオティクスの枯草菌(Bacillus subtilis)株および少なくとも250mgのジペプチドの、1日当たり少なくとも1回の経口投与量、好ましくは1日当たり少なくとも2回の経口投与量で被験者に投与されるべきである。
【0017】
具体的な構成では、満腹ホルモンの調節は、製剤の投与から4週間後に、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%の満腹ホルモン濃度の低下である。
【0018】
具体的な構成では、投与量は、1日当たり少なくとも10億CFUのプロバイオティクスの枯草菌(Bacillus subtilis)株および少なくとも250mgのジペプチドである。
【0019】
しかしながら、空腹状態では、耐糖能が正常な人の血漿中GLP-1濃度は、2型糖尿病の人よりも有意に低かった[24,25]。症例対照研究では、GLP-1レベルは、メタボリックシンドロームの特性と正の相関があった[25]が、減量食後の肥満被験者では空腹時GLP-1が低下した[26,27]。
【0020】
このような(潜在的に上昇した)満腹ホルモン濃度の低下は、メタボリックシンドロームの始まりの潜在的な兆候として、減量食で見られるような代謝状態の再バランスを示すため、有益である[26,27]。
【0021】
製剤がカプセルまたは錠剤の形で投与される場合、腸溶性コーティングを含むことがさらに好ましい。
【0022】
本発明によれば、プロバイオティクス菌株が、枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315、枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32540、枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32592、好ましくは枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315から選択される場合が好ましい。
【0023】
ジペプチドは、好ましくは、グリシン-グルタミン、グリシン-グルタミン酸、アラニン-グルタミン、アラニン-グルタミン酸、およびそのアセチル化体から選択される。
【0024】
具体的な構成では、ジペプチドは、L-アラニル-L-グルタミンである。
【0025】
好ましい実施形態では、プロバイオティクス菌株およびアミノ酸またはオリゴペプチドの総量は、製剤の総重量の少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは少なくとも70重量%である。
【0026】
植物抽出物の総量が、製剤の総重量の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは20~40重量%である場合、さらに好ましい。
【0027】
別の好ましい実施形態では、製剤は、腸溶性コーティングを含み、ここで、腸溶性コーティングは、以下のうち1種以上:メチルアクリレート-メタクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸コハク酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(ヒプロメロースアセテートスクシネート)、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)、メチルメタクリレート-メタクリル酸コポリマー、シェラック、セルロースアセテートトリメリテート、アルギン酸ナトリウム、ゼイン、好ましくはメチルアクリレート-メタクリル酸コポリマーを含む。
【0028】
別の好ましい実施形態では、製剤は、ポリマー組成物を含む腸溶性コーティングを含み、ここで、ポリマーは、20~30重量%のメタクリル酸メチルと、60~70重量%のアクリル酸メチルと、8~12重量%のメタクリル酸とから重合される。ポリマーが、25重量%のメタクリル酸メチルと、65重量%のアクリル酸メチルと、10重量%のメタクリル酸とから重合される場合がさらに好ましい。
【0029】
本発明の別の態様では、本発明による製剤は、肥満、脂肪症、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの予防および治療に使用するためのものである。
【0030】
本発明の別の態様は、被験者における空腹時血糖の低下で、好ましくは空腹時血糖値100mg/dl未満で使用するための製剤であって、
- 少なくとも1つのプロバイオティクスの枯草菌(Bacillus subtilis)株、および
- グルタミンまたはグルタミン酸単位を含む少なくとも1つのジペプチド
を含む、製剤に関する。
【0031】
好ましい構成では、プロバイオティクスの枯草菌(Bacillus subtilis)株は、枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315であり、ジペプチドは、アラニン-グルタミン、好ましくはL-アラニル-L-グルタミンである。
【0032】
具体的な構成では、少なくとも10億CFUのプロバイオティクスの枯草菌(Bacillus subtilis)株および少なくとも250mgのジペプチドの、1日当たり少なくとも1回の経口投与量、好ましくは1日当たり少なくとも2回の経口投与量の投与の4週間後に空腹時血糖が低下する。
【0033】
別の具体的な構成では、被験者における血糖反応は、好ましくは、グルコース試験食に反応して低下する。
【0034】
血糖反応は、標準化されたグルコース試験食の2時間後に測定され得る。
【0035】
特定の構成では、被験者は、100mg/dlを上回る空腹時血糖値を有するヒトであり、かつ前糖尿病状態にある。
【0036】
空腹時血糖値が99mg/dL以下は正常であり、100~125mg/dLは被験者が前糖尿病であることを示し、126mg/dL以上は被験者が糖尿病であることを示す。
【0037】
空腹時血糖値は、毎日の個人の24時間のグルコースプロファイルと医学的な既往歴のデータとから予測されるベースラインの血糖値として決定され得る。
【0038】
被験者が前糖尿病状態にあるかどうかを判定する別の可能性は、糖化ヘモグロビンの%(HbA1c)レベルの判定であり、この場合、被験者は、5.7%を上回るHbA1cレベルを有する前糖尿病であると考えられる。
【0039】
特定の構成では、少なくとも10億CFUのプロバイオティクスの枯草菌(Bacillus subtilis)株および少なくとも250mgのジペプチドの、1日当たり少なくとも1回の経口投与量、好ましくは1日当たり少なくとも2回の経口投与量の投与の4週間後に、血糖反応が低下する。
【0040】
本発明の特定の構成では、被験者の体重は、製剤の投与の4週間後に、少なくとも1kg減少する。体重のこの減少は、被験者のカロリー摂取および身体活動とは無関係である。
【0041】
したがって、製剤は、少なくとも10億CFUのプロバイオティクスの枯草菌(Bacillus subtilis)株および少なくとも250mgのジペプチドの、1日当たり少なくとも1回の経口投与量、好ましくは1日当たり少なくとも2回の経口投与量で被験者に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】空腹時血糖値の分布[mg/dl]の平均±95%CIでの散布図である。
【
図2】総GLP-1レベルの分布[pmol/L]の平均±95%CIでの散布図である。
【
図3】PYYレベルの分布[pg/mL]の平均±95%CIでの散布図である。
【
図4】総コレステロールレベルの分布[mg/dL]の平均±95%CIでの散布図である。
【
図5】HDLコレステロールレベルの分布[mg/dL]の平均±95%CIでの散布図である。
【
図6】トリグリセリドレベルの分布[mg/dL]の平均±95%CIでの散布図である。
【
図7】LDL/HDLコレステロール比の分布の平均±95%CIでの散布図である。
【
図8】コリンセラ・アエロファシエンス[相対的存在量]の平均±95%CIでの散布図である。
【
図9】SAMANA(登録商標)FORCEの補給の前後の空腹時血糖を示す図である。
【
図10】ベースライン時の空腹時血糖と空腹時血糖の変化(デルタ%)との相関を示す図である。
【
図11】非前糖尿病の参加者の介入前後のグルコース試験食のPPGR(中央値およびIQR)を示す図である。
【
図12】前糖尿病の参加者の介入前後のグルコース試験食のPPGR(中央値およびIQR)を示す図である。
【
図13】枯草菌株とジペプチドとの様々な組み合わせを含有するシンバイオティクスの組み合わせによるインビトロ腸内モデルにおけるブチレート産生を示す図である。
【
図14】枯草菌DSM 32315と様々なジペプチドとの組み合わせによるインビトロ腸内モデルにおけるブチレート産生を示す図である。
【
図15】様々なコーティングでの100%投与または50%投与によるインビトロ腸内モデルにおけるブチレート産生を示す図である。
【0043】
実施例
ヒトの研究I
2週間の慣らし期間(消化管症状の発生および腸機能に関する被験者の基本的な特性評価)とその後の4週間の介入期間を伴う非盲検の形式で試験を実施した。インフォームド・コンセントの後、健康な被験者に、研究に参加する資格についてスクリーニングを行った。開始時、14日後および介入終了時(28日)に、バイオマーカー測定およびマイクロバイオーム分析のために便サンプルおよび血液サンプルを収集した。交絡因子を制御するために、各来院の3日前に食事頻度プロトコルを用いて食事を記録した。血液ルーチンパラメータは、少なくとも10時間の一晩絶食後の各来院時に測定された。
【0044】
結腸コーティングを施したHPMCカプセル内のシンバイオティクス製品の組成(1日量=2カプセル)は、以下の通りであった:
1カプセル当たり、枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315胞子粉末(約20億CFUを含む)、L-アラニル-L-グルタミン(290mg)、90mgのクルクマの抽出物、90mgの緑茶の抽出物、D-およびB-ビタミン類ならびにミネラル。
【0045】
カプセルは、下部小腸および結腸のpH条件(pH>7.0)で崩壊し始める可能性がある、EUDRAGUARD(登録商標)bioticによる結腸コーティングを含む。コーティングは、ポリマー組成物を含み、ここでポリマーは、20~30重量%のメタクリル酸メチルと、60~70重量%のアクリル酸メチルと、8~12重量%のメタクリル酸とから重合される。ポリマーが、25重量%のメタクリル酸メチルと、65重量%のアクリル酸メチルと、10重量%のメタクリル酸とから重合される場合がさらに好ましい。
【0046】
研究用製品の摂取
上記の製品組成物を、朝に1カプセル(朝食の有無に応じて変更可能)、夕方に1カプセル(夕食の有無に応じて変更可能)として、水と一緒に噛まずに摂取した。研究来院前の研究日に、夕方のカプセルの摂取を標準化し、研究現場での予定来院の12±2時間前に摂取した。
【0047】
以下のパラメータを測定した:
空腹時血糖を測定した(ならびに分化したヘモグラム、肝酵素(GPT、GOT、γ-GT、AP)、クレアチニン、尿酸)。
【0048】
ルーチンパラメータを、ルーチン検査室で決定した。採血後24時間以内に血液ルーチンパラメータ/分化型ヘモグラムの分析を実施した。
【0049】
ルーチンパラメータおよびヘモグラムならびに脂質プロファイルについての血液サンプルを、同じ日に血液ルーチン検査室に輸送した。
【0050】
血液ルーチンパラメータを、スクリーニング、来院1、2および3で確認した。研究では、少なくとも10時間の一晩の絶食後に採血を実施した。準備:室温での30分間の凝固、3000xgおよび4℃での10分間の遠心分離。ルーチンパラメータおよびヘモグラムならびに脂質プロファイルについての血液サンプルを、同じ日に血液ルーチン検査室に輸送した。
【0051】
ルーチン検査室で各来院後の同日に血清中の脂質状態(トリグリセリド、総コレステロール、HDL-およびLDL-コレステロール)を測定した。総コレステロール、HDL-コレステロールおよびトリグリセリドを測光法により測定した。LDL-コレステロールは、Friedewald計算に従って算出した。
【0052】
総GLP-1およびPYYを評価するために、DPP-IVおよびAEBSF阻害剤を、採血前にEDTA血漿チューブに添加した。準備したチューブを、採血まで凍結して保管した。
【0053】
ELISAキット(総GLP-1についてはMerck Millipore EZGLP1T-36KおよびPYYについてはEZHPYYT66K)を用いて、BioTeSys GmbHにて血漿中で総GLP-1およびPYYを分析した。
【0054】
GLP-1およびPYY分析の場合、サンプルを分注し、輸送または分析まで-70℃未満で保管した。
【0055】
実施例1:シンバイオティクス製品の4週間の補給が前糖尿病の被験者数に及ぼす影響
【表1】
【0056】
3人の被験者は、ベースラインで上昇した/前糖尿病の空腹時血糖値を有していた。4週間後の介入終了時に、全ての被験者の空腹時血糖値が(健康な)基準範囲内にあった(第1表を参照のこと)。
【0057】
グルコースについての研究の過程で、研究期間にわたり低下が認められた(第2表を参照のこと)。
【表2】
【0058】
実施例2:代謝改善(コレステロールおよびグルコース)を伴うが、ブチレートレベルの有意な変化とは直接的に相関していない、4週間の補給がGLP-1およびPYYレベルに及ぼす影響
さらに、消化管ホルモンの総GLP-1およびPYYを、各来院時の空腹時血液サンプルで測定した。どちらのホルモンも、ベースラインから介入終了までの間に有意な低下を示した。消化管ホルモンは、消化管と脳との間の伝達において重要な役割を果たし、空腹および満腹のシグナルを媒介する。GLP-1およびPYYは、食事に反応して消化管から循環系に分泌され、食欲および食物摂取を減少させる食欲抑制ホルモンである。PYYおよびGLP-1は、食物摂取およびインスリン分泌の調節において重要な役割を果たし、肥満および糖尿病の分野においてトランスレーショナルな関心を集めている。PYYの産生は、腸の遠位に位置する腸内分泌細胞で最も高く、腸内微生物叢によって高濃度の短鎖脂肪酸(SCFA)が産生される部位を反映している(Larraufie et al. 2018)。この研究の間、総GLP-1の平均レベルは、23.11pmol/Lから14.89pmol/Lに有意に低下した。加えて、平均PYYレベルは、ベースラインから4週間後の介入終了時までの間に96.44pg/mLから57.52pg/mLに低下した。
【0059】
空腹時GLP-1の低下が認められた仮説の1つは、[18]により報告されているように、非エステル化脂肪酸の循環によりGLP-1の分泌が阻害され得ることであろう。この場合、枯草菌(Bacillus subtilis)は、基質ジペプチド(アラニル-グルタミン)と共に、SCFAの産生を、特に上部消化管部で増加させた可能性があり、この仮説を裏付ける。PYYおよびGLP-1の空腹時血漿濃度に焦点を当てた研究はほとんどない。それらの1つは、Luisらの研究[16]である。肥満研究の集団では、低カロリー食の後に体重が減少した被験者において、基礎的GLP-1レベルの有意な低下が認められた。これには、人体測定パラメータおよび心血管系危険因子の有意な改善、例えばLDL-コレステロール、トリグリセリド、インスリンおよびHOMA指数の低下が伴っていた。さらに、Luisらによる基礎的インスリンレベルとGLP-1レベルとの間の研究において有意な相関が見られた。今回の研究では、空腹時インスリンは測定されなかったが、正常血糖群でも血糖値のわずかな低下が見られた。体重減少後のGLP-1濃度の低下は、他の研究者からも報告されているが[17]、体重減少後のGLP-1濃度の上昇を示す刊行物もある[19]。したがって、様々な機序が関与していると考えられており、体重減少中と体重維持中にも違いがある可能性がある。いずれにせよ、SAMANA(登録商標)FORCEに反応した標準体重の研究集団におけるGLP-1およびPYYの低下が明確であったという興味深い知見は、さらに調査されるべきである。次のステップとして、本発明者らは、食後のGLP-1およびPYYの食後分泌レベルへの影響も評価することを提案する。
【0060】
GLP-1
GLP-1は、腸内の内分泌細胞から放出される食欲を制御するための腸内ホルモンである。空腹時血中レベルを、ベースライン時(V1)、介入2週間後(V2)、および4週間後の介入終了時(V3)に測定した。総GLP-1レベルは、ベースラインから4週間後の介入終了時までの間に有意に低下した(p<0.001)。すでに介入2週間後に、総GLP-1レベルは、有意に低下した(p<0.001)(第3表を参照のこと)。
【表3】
【0061】
PYY
PYYは、食欲を制御するための食欲抑制の腸内ホルモンである。総GLP-1と一致して、PYYレベルは、ベースラインから4週間後の介入終了時までの間に有意に低下した(p<0.001)。すでに介入2週間後に、PYYレベルは、有意に低下した(p<0.0139)(第4表を参照のこと)。
【表4】
【0062】
実施例3:4週間の補給が脂質パラメータに及ぼす影響
脂質の状態、特に血中バイオマーカー総コレステロールおよびLDLコレステロールは、研究全体を通して有意な低下を示した。
【0063】
全ての血液サンプルを、絶食条件下で収集した。総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロールおよびトリグリセリドを測定した。被験者の大部分が、基準範囲内のレベルを示した(点線を参照のこと)。総コレステロールおよびトリグリセリドについては、空腹時血中基準値は、それぞれ190mg/dL未満および150mg/dL未満である。HDLコレステロールの場合、健康な血中レベルは、>40mg/dLで示される。
【0064】
総コレステロールレベルおよびLDLコレステロールレベルは、ベースラインから4週間後の介入終了時までの間に有意に低下した(
図4および
図5ならびに第5表および第6表を参照のこと)。平均して、HDLコレステロールレベルは、研究全体を通して46.06mg/dLから47.33mg/dLにわずかに上昇したが、有意には上昇しなかった(
図5および第6表を参照のこと)。
【0065】
さらに、トリグリセリドレベルは、研究期間にわたり有意には変化しなかった(
図6および第7表を参照のこと)。
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【0066】
文献では、LDL/HDLコレステロール比は、アロテーム性動脈硬化および冠動脈性心疾患のリスクを推定するために算出されることが多い。理想的な比率は、3.0未満で示され、値が高いほど心疾患のリスクが高くなる[22]。本研究では、LDL/HDLコレステロール比は、ベースラインから4週間後の介入終了時までの間に有意に低下した(
図7および第8表を参照のこと)。
【0067】
実施例4:糞便サンプル中のコリンセラ・アエロファシエンス(Collinsella aerofaciens)の存在量の増加
アクチノバクテリア(Actinobacteria)門の増加を、クラスレベルで確認した。この増加は、コリオバクテリウム目(Coriobacteriales)およびビフィドバクテリウム目(Bifidobacteriales)ならびにコリオバクテリウム科(Coriobacteriaceae)およびビフィドバクテリウム科(Bifidobacteriaceae)の両方に起因し得る。コリオバクテリウム目(Coriobacteriales)のレベルおよびコリオバクテリウム科(Coriobacteriaceae)のレベルでの結果を確認すると、コリンセラ(Collinsella)属でも有意な増加が認められた。コリンセラ(Collinsella)属の有意な変化は、コリンセラ・アエロファシエンス(Collinsella aerofaciens)の種に起因し得る(
図8を参照のこと)。驚くべきことに、枯草菌(B.subtilis)とアラニル-グルタミンとの組み合わせによるコリンセラ(Collinsella)におけるこの増加は、インビトロ腸内細菌叢および腸内モデルでも、このヒトの研究でも検出された(
図8を参照のこと)。
【0068】
ヒトの研究II
研究の過程
研究の開始時に、参加者はPerfood GmbHが提供するMillionFriendsプログラム(www.millionfriends.de)を適用した。したがって、連続的な組織グルコースモニタリング(Abbott Freestyleリブレシステム)を、1日のセンサ校正を含む14日間実施した。対象となるパラメータのベースライン値は、この14日以内に測定された。これには、処方されて標準化された試験食に対する参加者の血糖反応だけでなく、血糖を記載するためのその他のパラメータも含まれていた。参加者は、自身の消化および全般的な健康状態についての質問にも答えた。加えて、参加者は、便サンプルを採取し、分析のために送った。
【0069】
第1のセンサ補助試験段階に続いて、参加者は、SAMANA(登録商標)FORCEを摂取し始めた。彼らに、毎日2カプセルを噛まずに服用するように助言した。彼らは、いつカプセルを服用するか、食事と一緒に服用するか食事なしで服用するかを自由に決定することができた。それ以外は、参加者は、いつも通りの食事を続けた。
【0070】
患者が定期的にSAMANA(登録商標)FORCEを摂取し、質問表に記入した2週間後に、第2のセンサ補助試験段階に入った。もう一度、連続的な組織グルコースモニタリング(Abbott Freestyleリブレシステム)を、1日のセンサ校正を含む14日間実施した。SAMANA(登録商標)FORCEの摂取は、第2のセンサ段階中継続した。試験食に対する血糖反応および血糖を表すパラメータを再度測定した。加えて、第2の便サンプルを採取し、消化および健康に関する質問表に再度回答した。
【0071】
第2のセンサ段階が完了した後に初めて、参加者は、第1のセンサ段階での血糖反応に基づくパーソナライズされた食事の推奨を含む栄養レポートを受け取った。
【0072】
結腸コーティングを施したHPMCカプセル内のシンバイオティクス製品の組成(1日量=2カプセル)は、以下の通りであった:
1カプセル当たり、枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315胞子粉末(約20億CFUを含む)、L-アラニル-L-グルタミン(290mg)、90mgのクルクマの抽出物、90mgの緑茶の抽出物、D-およびB-ビタミン類ならびにミネラル。
【0073】
カプセルは、下部小腸および結腸のpH条件(pH>7.0)で崩壊し始める可能性がある、EUDRAGUARD(登録商標)bioticによる結腸コーティングを含む。コーティングは、ポリマー組成物を含み、ここでポリマーは、20~30重量%のメタクリル酸メチルと、60~70重量%のアクリル酸メチルと、8~12重量%のメタクリル酸とから重合される。ポリマーが、25重量%のメタクリル酸メチルと、65重量%のアクリル酸メチルと、10重量%のメタクリル酸とから重合される場合がさらに好ましい。
【0074】
標準化されたグルコース食事試験
参加者に、両方のセンサ補助試験段階で標準化されたグルコース試験食を飲むように求めた。このために、彼らは試験キットと共に計量されたグルコース(60g)の包みを受け取った。参加者は、包みを200~300mlの水に溶かし、朝の各センサ段階の開始時に空腹でこれを飲むべきである。
【0075】
空腹時血糖、HbA1cおよび血糖反応の測定
空腹時血糖を、社内で開発された独自のアルゴリズムを用いてベースラインの血糖値として決定した。簡単に言えば、ベースラインは、毎日の個人の24時間のグルコースプロファイルならびに医学的な既往歴のデータから予測される。HbA1c(%)を、全試験段階の平均血糖値に0.03を乗算し、2.6を加算することによって計算した。注目すべきことに、この研究で算出されたHbA1cは、標準化された実験室で測定されたHbA1cと同じ品質ではない。
【0076】
試験食に対する血糖反応を分析するために、食事摂取を記録した後、120分間にわたりAUCi(血糖上昇曲線下面積)を測定した。台形則を計算に適用した。参加者は、2回の食事の間隔および/または食事と身体活動との間隔を最低2時間あけるように指示された。
【0077】
最初の2週間、被験者は、低侵襲の連続血糖測定(モバイルアプリケーションを介して読み取る)によって血糖値が追跡され、毎日の食事と栄養に関する血糖反応を検出し、これを日誌に記録した。加えて、標準的な食事(グルコース(適応ブドウ糖負荷試験)、プロテインおよびファットスプレッドを塗った白パン、および全粒粉パン)で3つの課題を行った。この段階の後に、4週間の介入段階を行い、血糖測定を行わずに、共生製品を(毎日)14日間摂取し、続いて14日間、同様の低侵襲の連続血糖測定(モバイルアプリケーションを介して読み取る)を行い、日誌において毎日の食事と栄養に関する血糖反応を検出した。標準的な食事(グルコース(適応ブドウ糖負荷試験)、プロテインおよびファットスプレッドを塗った白パン、および全粒粉パン)で再び3つの課題を行った。微生物叢分析のための便サンプルを、研究の前後に採取した。
【0078】
実施例5:体重減少に関するデータ
結果は、栄養適応とは無関係な大幅な体重減少によって(主要栄養素の供給と分布とが変わらないことで示される食事パターンが同じままであるため)、適応ブドウ糖負荷試験で曲線下面積の血糖反応が改善されたことを示した。
【0079】
ソーシャルメディアを通じて192人の研究参加者を募集した。研究コホートは、女性65.1%(n=125)、男性34.9%(n=67)であった。平均年齢は、42.86歳(±12.48)であった。平均体重は、80.28kg(±17.88)であり、平均BMIは、26.88kg/m2(±6.17)であった。
【0080】
1日当たりのエネルギーも、タンパク質および脂肪の平均量も、両方のセンサ段階間で有意な差はなかった。身体活動に関して、参加者は、第2のセンサ段階(p<0.001)の間、あまり活発ではなかった。
【0081】
前糖尿病のサブグループ
第1のセンサ段階で測定した血糖パラメータを詳しく調べたところ、複数の参加者が、より高い空腹時血糖値およびHbA1c値を有していたことが明らかになった。99人の参加者では、算出されたHbA1cは、5.7%を上回り、62人の参加者の空腹時血糖は、100mg/dlを上回った。空腹時血糖が100mg/dlを超え、かつHbA1c値が5.7%を超える場合は、前糖尿病の存在が示されるので、これらの2つの基準に基づいて、参加者を、前糖尿病(n=62)と非前糖尿病(n=118)のサブグループに分けることができた。
【0082】
これらの2つのグループを別々に分析した。したがって、これらの要因を、これらのグループ内で起こりうる交絡因子として特定するために、参加者の摂食行動および身体活動のレベルについても、その有無にかかわらず、個別に分析すべきである。
【0083】
62人の研究参加者を、前糖尿病とみなした。これらの参加者は、女性53.23%(n=33)、男性46.03%(n=29)であった。平均年齢は、42.52歳(±12.18)であった。平均体重は、84.18kg(±16.20)であり、平均BMIは、27.60kg/m2(±6.45)であった。
【0084】
1日当たりのエネルギーも、炭水化物、タンパク質、脂肪および繊維の平均量も、両方のセンサ段階間で有意な差はなかった。身体活動に関して、前糖尿病の参加者は、第2のセンサ段階(p=0.016)の間、あまり活発ではなかった。
【0085】
前糖尿病ではないサブグループ
118人の研究参加者は、前糖尿病の徴候を有していなかった。これらの参加者は、女性69.49%(n=82)、男性30.51%(n=36)であった。平均年齢は、41.16歳(±12.10)であった。平均体重は、78.13kg(±18.35)であり、平均BMIは、26.45kg/m2(±5.98)であった。
【0086】
主要栄養素の摂取に関しては、1日当たりの脂肪およびタンパク質の平均摂取量および1日当たりのキロカロリーの摂取に有意差は認められなかった。しかしながら、炭水化物(p=0.001)および繊維(p<0.001)の摂取は、第2のセンサ段階で減少した。身体活動に関して、前糖尿病ではない参加者は、第2のセンサ段階(p<0.001)の間、あまり活発ではなかった。
【0087】
体重と組成との比較
血糖反応において起こりうる変化に加えて、体重の変化も関心が持たれていた。参加者に、試験の開始時および終了時に現在の体重およびウエスト対ヒップ比(whr)を報告するように求めた。この目的のために、参加者には、試験キットに入った巻尺が用意された。空腹時血糖が既知であり、かつ両時点で体重またはWHRを報告した参加者のみが、分析に含まれていた。
【0088】
研究開始時と終了時との体重を比較すると、参加者の有意な体重減少が示された(p<0.001)。有意な体重減少は、前糖尿病(p<0.001)および非前糖尿病(p<0.001)でも示されている。
【0089】
体重に加えて、ウエスト対ヒップ比に変化があるかどうかも調べた。体重とは対照的に、WHRでは有意な変化は認められなかった。これを、前糖尿病および非前糖尿病の研究集団とサブグループとの双方の分析に適用した。
【0090】
以下の表は、体重および組成に関する分析の概要を示す(第9表を参照のこと)。
【表9】
【0091】
研究過程全体を通した体重の絶対的減少を、第10表にまとめた。
【表10】
【0092】
空腹時血糖の分析
第1および第2のセンサ段階における空腹時血糖を比較して、SAMANA(登録商標)FORCEの摂取が空腹時血糖に影響を及ぼすかどうかの疑問に答えた(n=180)。空腹時血糖を、社内で開発された独自のアルゴリズムを用いてベースラインの血糖値として決定した。簡単に言えば、ベースラインは、毎日の個人の24時間のグルコースプロファイルならびに医学的な既往歴のデータから予測される。
【0093】
結果は、SAMANA(登録商標)FORCEの補給による空腹時血糖(p<0.001)の有意な低下を示し、第11表にまとめられている。
【表11】
【0094】
前糖尿病の参加者の部分分析
先の結果から、空腹時血糖が全ての参加者で低下したのか、それとも特定のグループの参加者にその効果があったのかという疑問が生じた。したがって、参加者の中に、介入開始時の空腹時血糖が前糖尿病(>100mg/dl)の存在を示した人がいたかどうかを調べた。
【0095】
まず、前糖尿病の参加者(n=62)と前糖尿病ではない参加者(n=118)のデータを別々に分析した。前糖尿病の参加者を詳しく調べたところ、SAMANA(登録商標)FORCEの定期的な摂取後に空腹時血糖が有意に低下することが確認され(p<0.001)、これを
図9に示す。
【0096】
33人は、空腹時血糖値が100mg/dlを下回り、したがって研究終了時にもはや前糖尿病のカテゴリーに入らなかった。
【0097】
対照的に、前糖尿病ではない参加者では空腹時血糖に有意な変化は見られなかった(p=0.582)。
【0098】
さらに、研究の過程における空腹時血糖の変化率(デルタ%)を、前糖尿病の参加者と前糖尿病ではない参加者との間で比較した。以前の結果と一致して、前糖尿病グループでは空腹時血糖が有意により大きく低下した(p<0.001)。結果を第12表にまとめる。
【表12】
【0099】
これらの結果は、SAMANA(登録商標)FORCEが空腹時血糖に与える可能性のある効果は、ベースラインの空腹時血糖値に依存する可能性があることを示唆している。この仮定の根底にたどり着くために、相関分析を行った。分析によると、ベースライン時の空腹時血糖値と空腹時血糖の変化率との間には有意な相関があった(R=-0.38、p<0.001)。初期値が高いほど、空腹時血糖の低下は大きい。この分析を
図10に示す。
【0100】
グルコース試験食後の血糖反応の分析
SAMANA(登録商標)FORCEの毎日の摂取が、食後の血糖反応に違いをもたらすかどうかという疑問に答えるために、標準化されたグルコース試験食の2時間後の反応を比較した。
【0101】
グルコース応答を、AUCiにより記載した。AUCi(血糖上昇曲線下面積)を、食事摂取を記録した後、120分間にわたり測定した。台形則を計算に適用した。血糖反応の比較は、両方のセンサ段階でグルコース試験食を完了した参加者に限定された(n=168)。
【0102】
結果は、SAMANA(登録商標)FORCEの補給後に血糖反応が低下することを示した(p=0.012)。
【0103】
前糖尿病の参加者の部分分析
先の結果から、SAMANA(登録商標)FORCEの摂取後のグルコース試験食に対する血糖反応が全ての参加者で低下したのか、それとも前糖尿病の人にその効果があったのかという疑問が生じた。したがって、グルコース試験食に対する血糖反応を、前糖尿病の人(n=57)と前糖尿病ではない人(n=110)とで別々に分析した。介入開始時の空腹時血糖は、前糖尿病の存在(>=100mg/dl)または非存在(<100mg/dl)を示した。その後、反応を、双方のグループ間で比較した。両方のセンサ段階でグルコース試験食を完了した参加者からのデータのみを分析に使用した。1人の前糖尿病参加者のデータは、血糖反応からグルコース試験食が誤って食べられたことが示されたため、削除された(前=13.71mg/dl、後=125.88mg/dl)。
【0104】
前糖尿病参加者の分析では、SAMANA(登録商標)FORCEの補給後のグルコース試験食に対する血糖反応の有意な低下が示された(p=0.012)。結果を第13表にまとめる。
【表13】
【0105】
対照的に、第14表に示すように、前糖尿病ではない参加者の標準化されたグルコース試験食に対する血糖反応において、有意な変化は見られなかった(p=0.345)。
【表14】
【0106】
さらに、研究の過程における血糖反応の変化(デルタ%)を、前糖尿病の参加者と前糖尿病ではない参加者との間で比較した。パーセントの変化は、両方のグループの間で有意に異ならなかった(p=0.072)。
【0107】
さらに、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)中の食後の血糖値(PPGL)の経時変化を、グルコース摂取前の-20分から食後140分まで比較した。食後血糖値の顕著な低下は、第15表に示すように、全ての参加者の補給期間後に検出することができた。しかしながら、
図11および
図12に示すように、前糖尿病の参加者ではその効果はさらに強かった。
【表15】
【0108】
HbA1c値および平均血糖値の分析
HbA1cは、全試験段階の平均血糖値に0.03を乗算し、2.6を加算して算出した。結果を第16表にまとめる。平均血糖値を、継続的なグルコースモニタリングによって測定し、第17表にまとめる。
【表16】
【表17】
【0109】
インビトロ腸管モデルにおけるブチレート産生の分析
実施例6:細菌株とジペプチドとの様々な組み合わせによるブチレート産生
腸管スクリーニングモデル
成人の結腸微生物叢に対するプロバイオティクス菌株の枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315の効果を測定するために、腸管スクリーニングモデルを使用した(i-スクリーニング,TNO,オランダ)。したがって、i-スクリーニングモデルに、6人の健康な成人ボランティア(白人、ヨーロッパ人の生活習慣および栄養)から集めた糞便からなる、標準的なヒト成人の糞便微生物叢材料が植菌された。この糞便材料を混合し、流加発酵槽で40時間増殖させることで、前述のように標準化された微生物叢を作成した[23]。これらの標準的な成人の腸内微生物叢セットを、12%のグリセロール中-80℃で保管した。
【0110】
腸管の微生物叢を、以下の改変された組成で、改変された標準回腸排出培地(SIEM)においてインビトロで培養した:ペクチン0.047g/l、キシラン0.047g/l、アラビノガラクタン0.047g/l、アミロペクチン0.047g/l、デンプン0.392g/l、カゼイン24.0g/l、バクトペプトン24.0g/l、ウシ胆汁0.4g/lおよびシステイン0.2g/l。
【0111】
全ての成分を、Trititium Microbiology(フェルドホーフェン、オランダ)により供給した。この媒体のpHを、5.8に調整した。
【0112】
i-スクリーニング発酵では、前培養して標準化された糞便接種菌を1350μlの改変されたSIEMで50倍に希釈した。全ての実験を、三重反復で行った。枯草菌(Bacillus subtilis)(DSM 32315)株およびその他の菌株を、50mlのLBKelly培地中で約16時間にわたって別々に前培養した。インキュベーションは、振とうフラスコ中、37℃で、好気的条件下で行った。インキュベーション後、600nmでの光学密度測定によって細菌密度を求めた。1×1010細胞/mlの最終ストック溶液を、1mlの緩衝液(0.1mM MES pH6)中で調製した。各菌株の懸濁液を、それぞれ約109細胞/mlの最終レベルまでi-スクリーニングに導入した。
【0113】
i-スクリーニングのインキュベーションを、以下のガス条件下で行った:0.2%のO2、0.2%のCO2、10%のH2、89.6%のN2。
【0114】
プロバイオティクス菌株の枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315および更なる対照菌株(バチルス菌株Bおよびバチルス菌株C)は、SIEM中で24時間の曝露後に検出可能なレベルのn-ブチレートを産生しないが、それらは、ヒト微生物叢とジペプチドAla-Glnとの組み合わせによってn-ブチレートの産生レベルに有意なプラスの効果を及ぼしている(p値<0.05)。この結果を
図13にまとめる。
【0115】
図13は、SIEMでの24時間のインキュベーション後に、ジペプチドAla-Glnと組み合わせた、枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315または対照菌株のバチルス菌株Bもしくはバチルス菌株Cを含有する結腸微生物叢の存在下で測定されたn-ブチレート濃度(mM)を示す。
【0116】
最良の枯草菌(B.subtilis)株DSM 32315と種々のジペプチドとを組み合わせた製品の比較により、ジペプチドAla-Glnと組み合わせた製品が、ブチレートの産生に最も良い効果を及ぼすことが示された。この結果を
図14にまとめる。
【0117】
図14は、SIEMでの24時間のインキュベーション後に、種々のジペプチドAla-Gln、Ac-Gly-Glu、Gly-GlnおよびGly-Tyrと組み合わせた、枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315を含有する結腸微生物叢の存在下で測定されたn-ブチレート濃度(mM)を示す。
【0118】
実施例7:様々なコーティング組成物を有するシンバイオティクス製品のためのブチレート産生
さらに、様々なコーティング組成物がブチレート産生に及ぼす効果を分析した。結腸コーティングは、EUDRAGUARD(登録商標)bioticを含むのに対して、腸溶性コーティングは、EUDRAGUARD(登録商標)naturalを含む。
【0119】
EUDRAGUARD(登録商標)bioticは、下部小腸および結腸のpH条件(pH>7.0)で崩壊し始める可能性がある。コーティングは、ポリマー組成物を含み、ここでポリマーは、20~30重量%のメタクリル酸メチルと、60~70重量%のアクリル酸メチルと、8~12重量%のメタクリル酸とから重合される。ポリマーが、25重量%のメタクリル酸メチルと、65重量%のアクリル酸メチルと、10重量%のメタクリル酸とから重合される場合がさらに好ましい。
【0120】
EUDRAGUARD(登録商標)naturalは、加工デンプンを含むトウモロコシデンプンベースのコーティングである。
【0121】
ブチレート産生についての結果を、第18表および
図15にまとめる。
【表18】
【0122】
図15は、1日2カプセル(100%投与)または1日1カプセル(50%投与)を用いた様々なコーティング組成物によるインビトロ腸内モデルにおけるブチレート産生を示す。*=対照とは有意に異なる
【0123】
1日100%投与(=2カプセル)は、以下のものを含む:
枯草菌(Bacillus subtilis)DSM 32315胞子粉末(約20億CFUを含む)、L-アラニル-L-グルタミン(290mg)、90mgのクルクマの抽出物、90mgの緑茶の抽出物、D-およびB-ビタミン類ならびにミネラル。
【0124】
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【0125】
図1:空腹時血糖値の分布[mg/dl];平均±95%CIでの散布図
図2:総GLP-1レベルの分布[pmol/L];平均±95%CIでの散布図;ベースライン対2週間p<0.001(対になったt検定);ベースライン対4週間p<0.001(対になったt検定)
図3:PYYレベルの分布[pg/mL];平均±95%CIでの散布図;ベースライン対2週間p=0.0139(対になったt検定);ベースライン対4週間p<0.001(対になったt検定)
図4:総コレステロールレベルの分布[mg/dL];平均±95%CIでの散布図;ベースライン対4週間p=0.0037(対になったt検定)
図5:HDLコレステロールレベルの分布[mg/dL];平均±95%CIでの散布図
図6:トリグリセリドレベルの分布[mg/dL];平均±95%CIでの散布図
図7:LDL/HDLコレステロール比の分布;平均±95%CIでの散布図;ベースライン対4週間p=0.0022(対になったt検定)
図8:時点ごとの便サンプル中のコリンセラ・アエロファシエンス(Collinsella aerofaciens)[相対的存在量];平均±95%CIでの散布図;ベースライン対4週間p=0.0179(ウィルコクソンの符号順位検定)
図9:SAMANA(登録商標)FORCEの補給の前後の空腹時血糖。対になったt検定を分析に使用した。統計を示す。
図10:ベースライン時の空腹時血糖と空腹時血糖の変化(デルタ%)との相関。スピアマン相関を分析に使用した。統計を示す。
図11:非前糖尿病の参加者の介入前後のグルコース試験食のPPGR(中央値およびIQR)
図12:前糖尿病の参加者の介入前後のグルコース試験食のPPGR(中央値およびIQR)
図13:枯草菌(B.subtilis)株とジペプチドとの様々な組み合わせを含有するシンバイオティクスの組み合わせによるインビトロ腸内モデルにおけるブチレート産生
図14:枯草菌(B.subtilis)DSM 32315と様々なジペプチドとの組み合わせによるインビトロ腸内モデルにおけるブチレート産生
図15:1日2カプセル投与(100%投与)または1日1カプセル投与(50%投与)を用いた様々なコーティング組成によるインビトロ腸内モデルにおけるブチレート産生、*=対照とは有意に異なる
【国際調査報告】