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特表2024-536595精神状態の健全、免疫の健康、脂肪代謝に効果をもたらすトリブチリン サプリメンテーション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】精神状態の健全、免疫の健康、脂肪代謝に効果をもたらすトリブチリン サプリメンテーション
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/115 20160101AFI20240927BHJP
【FI】
A23L33/115
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523909
(86)(22)【出願日】2022-10-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 US2022047501
(87)【国際公開番号】W WO2023069761
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】63/271,093
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398065014
【氏名又は名称】ファーマバイト エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】バンダナ シャルマ
(72)【発明者】
【氏名】スーザン ヘーゼルズ ミットメッサー
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018MD14
4B018ME14
(57)【要約】
気分を改善し、ストレスへの対処を改善し、代謝を改善し、および/または免疫系機能を改善する方法であって、当該方法は、被験者の気分を改善し、ストレスへの対処を改善し、代謝を改善し、および/または免疫系機能を改善するために、被験者の小腸において投与量から酪酸の少なくとも一部を放出するために十分な量のトリブチリンを、被験者に対してまたは被験者によって投与することを含む。気分を改善し、ストレスへの対処を改善し、代謝を改善し、および/または免疫系機能を改善する方法であって、当該方法は、被験者の気分を改善し、ストレスへの対処を改善し、代謝を改善し、および/または免疫系機能を改善するために、被験者の小腸において投与量から酪酸の第1の一部を放出し、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンを、被験者に対してまたは被験者によって投与することを含む。食事補助食品組成物は、小腸において酪酸の少なくとも一部を放出し、結腸において第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気分、ストレスへの対処、代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善する方法であって、
被験者の気分、該被験者のストレスへの対処、該被験者の代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善するために、
前記被験者の小腸において投与量から酪酸の少なくとも一部を放出するために十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、前記被験者に対してまたは前記被験者によって投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記被験者の気分を改善することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ストレスへの対処を改善することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被験者の代謝を改善することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記被験者の免疫系機能を改善することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
投与は、トリブチリンを投与することを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して300mg/日~1000mg/日を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
投与は、前記トリブチリンを補助食品として投与することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
トリブチリンまたはトリブチリン誘導体の前記投与量からの酪酸の前記一部は、第1の一部であり、
トリブチリンまたはトリブチリン誘導体の前記投与量は、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
気分、ストレスへの対処、代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善する方法であって、
被験者の気分、該被験者のストレスへの対処、該被験者の代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善するために、
前記被験者の小腸において投与量から酪酸の第1の一部を放出し、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、1日量として被験者に対してまたは被験者によって投与することを含む、方法。
【請求項10】
前記被験者の気分を改善することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ストレスへの対処を改善することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記被験者の代謝を改善することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記被験者の免疫系機能を改善することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
投与は、トリブチリンを投与することを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して100mg/日~1000mg/日を含む、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
投与は、前記トリブチリンを補助食品として投与することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
被験者の小腸において酪酸の少なくとも第1の一部を放出し、被験者の結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を含む、食事補助食品組成物。
【請求項17】
前記組成物は、トリブチリンを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して100mg/日~2000mg/日を含む、請求項16に記載の食事補助食品組成物。
【請求項18】
前記組成物は、トリブチリンを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して300mg/日~1000mg/日を含む、請求項16に記載の食事補助食品組成物。
【請求項19】
前記トリブチリン誘導体は、第1の有効成分を含み、
前記食事補助食品は、前記第1の有効成分とは異なる第2の有効成分をさらに含む、請求項16に記載の食事補助食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トリブチリン投与。
【0002】
関連出願の相互参照。
本出願は、2021年10月22日に出願された「Tributyrin Supplementation Provides Bsenefits for Mental Wellness, Immune Health and Fat Metabolism(精神状態の健全、免疫の健康、脂肪代謝に効果をもたらすトリブチリン サプリメンテーション)」と題する米国仮特許出願第63/271,093号の利益を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本開示に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
我々の胃腸系には、腸内微生物叢/マイクロバイオームとも総称される何兆もの微生物がいる。食事が腸内微生物の組成および代謝産物に影響を与え、それが宿主の健康全般に影響を与えることは、よく知られている。
【0004】
ヒトの腸内で生成された微生物代謝物は吸収され、免疫、代謝、脳機能など、殆どの生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしている。腸脳軸は、感情および認知中枢と消化器系との双方向コミュニケーションを促進する。我々の免疫システムの70%は腸に存在するため、腸内微生物は免疫プロセスの調節に重要な役割を果たしている。
【0005】
短鎖脂肪酸、トリプトファン、セロトニン、インドールなどの微生物代謝物は、健康全般に寄与する。トリプトファンはタンパク質の合成に利用されるアミノ酸である。腸内細菌は、腸内において、トリプトファンを直接利用して、インドール、インドール酸誘導体、トリプタミンなどの多くの免疫学的に重要な代謝物を生成することができる。多くの細菌種は、トリプトファナーゼという酵素を介して、トリプトファンをインドールおよびインドール誘導体に変換することができる。インドールは、腸内微生物の生態系の中で細胞間シグナル伝達分子として働き、腸上皮と相互作用することが実証されている。トリプトファンモノオキシゲナーゼおよびインドールアセトアミドヒドロラーゼという酵素を持つ腸内微生物が協力することで、インドールからインドール-3-酢酸への変換が可能になる。この化合物は腸管免疫を調節する役割を果たすことが証明されており、細菌のシグナル伝達や腸内の健康な微生物叢のコロニー形成に関与していると考えられている。インドールおよびその誘導体の役割は、新たな研究分野であり、今日、その有益な効果についていくつかの証拠が得られている。インドールプロピオン酸の臨床的経口投与は、大腸炎のマウスモデルにおいて保護的であり、このことはラットにおける抗炎症作用および神経保護効果が示唆される。インドール酢酸(IAA)によって、高脂肪食によるマウスの肝障害が緩和された。トリプトファンはまた、気分を左右する神経伝達物質であるセロトニン合成や睡眠を誘発するメラトニンの前駆体でもある。
【0006】
トリブチリンは経口摂取すると酪酸を放出する。酪酸は主に腸内微生物叢によって産生される有益な短鎖脂肪酸で、結腸細胞の主要なエネルギー源である。酪酸には抗炎症作用もある。
【0007】
食事は、腸内微生物叢の調整に重要な役割を果たしている。有益な腸内微生物を増やすことで、健康上のメリットが得られる。例えば、腸内細菌のフィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)は酪酸産生株であり、主に制御性T細胞の刺激に関連して、腸内環境において強い抗炎症活性を発揮し、アッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、パラバクテロイデス ディスタゾニス(Parabacteroides distasonis)、およびパラバクテロイデス ゴールドスタイニー(Parabacteroides goldsteinii)は代謝パラメータを改善する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、カプセル化トリブチリン製品の腸内シミュレーションモデルにおける、摂食または絶食条件下での上部消化管(GIT)通過中のトリブチリン(左)および酪酸(右)の平均濃度(mM)±標準偏差(n=3)を示す。データは胃(ST)および小腸(SI)通過中に採取されたサンプルの代表値である。前の時点と比較して統計的に有意な差は*で示した(p<0.05)。
図2図2は、in vitro腸内シミュレーションモデルにおける、異なる用量のトリブチリンを投与した後の近位結腸(PC)区画および遠位結腸(DC)区画の両方での酪酸レベルを示す。
図3図3は、高用量トリブチリン投与時の近位結腸(PC)および遠位結腸(DC)内腔の微生物多様性に関する逆シンプソン多様度指数を、試験中の異なる時点、すなわち対照期間終了時(C, n=9)および処理期間終了時(TR, n=9)の反復を平均して示す。
図4図4は、低用量および高用量のトリブチリン処理における遠位結腸のファーミキューテス門(Firmicutes)とバクテロイデス門(Bacteroidetes)との比率を対照と比較して示す。
図5図5は、in vitro腸内シミュレーションモデルにおける、異なる用量のトリブチリンを投与した後の近位結腸(PC)および遠位結腸(DC)でのアッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の存在を示し、存在量の値はフローサイトメトリーカウントで補正したショットガンシーケンスデータの絶対存在量として示されている。対照でA. ムシニフィラ(A. muciniphila)の存在量はグラフ上ではほとんど見えないが、低トリブチリン処理および高トリブチリン処理の両方で、その量はかなり増加している。
図6図6は、in vitro腸内シミュレーションモデルにおける、異なる用量のトリブチリンを投与した後の近位結腸(PC)および遠位結腸(DC)におけるフィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)の産生を示し、存在量の値はフローサイトメトリーカウントで補正したショットガンシーケンスデータの絶対存在量として示されている。対照でF. プラウスニッツイ(F. prausnitzii)の存在量はグラフ上ではほとんど見えないが、低トリブチリン処理および高トリブチリン処理の両方で、その量はかなり増加している。
図7図7は、in vitro腸内シミュレーションモデルにおける、異なる用量のトリブチリンを投与した後の特定のパラバクテロイデス属(Parabacteroides spp.)の細菌数を示し、存在量の値はフローサイトメトリーカウントで補正したショットガンシークエンシングデータの絶対量として示されている。
図8図8は、トリブチリン投与マウス群および非投与マウス群の強制水泳試験における1分間あたりの不動時間を示す。
図9図9は、トリブチリン投与マウス群および非投与マウス群における強制水泳試験後のコルチコステロン濃度を示す。
図10図10は、核磁気共鳴(NMR)を用いて測定した体組成で、トリブチリンを投与しなかったマウスと比較した、トリブチリンを8週間近く投与したマウスの群におけるベースラインからの脂肪量の変化率を示す。
図11図11は、NMRを用いて測定した体組成で、トリブチリンを投与しなかったマウス群と比較した、トリブチリンを8週間近く投与したマウス群における除脂肪:脂肪の比の変化を示す。
図12図12は、トリブチリンを投与しなかったマウスと比較した、トリブチリン投与8週間終了時のマウスの血清中の各種サイトカイン濃度を示す。
図13図13は、トリブチリンを投与しなかったマウスと比較した、トリブチリン投与8週間終了時のマウスの血清中の各種サイトカイン濃度を示す。
図14図14は、トリブチリンを投与しなかったマウスと比較した、トリブチリンを8週間近く投与したマウスの糞便中のトリプトファンおよびインドール-3-酢酸のレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明において、「または」(or)の使用は、特に断りのない限り、「および/または」(and/or)を意味し、たとえ「および/または」が明示的に使用され得る場合であっても、「および/または」を意味する。
【0010】
本明細書で使用される場合、「含む」(including)、「含有する」(containing)、および同様の用語は、本願の文脈では、「備える」(comprising)と同義であると理解され、したがってオープンエンド(open-ended)であり、追加の、未記載のまたは未反映の要素、材料、成分または方法のステップの存在を排除するものでない。
【0011】
本明細書で使用される場合、「からなる」(consisting of)は、本願の文脈では、任意の不特定の要素、成分または方法のステップの存在を除外するものと理解される。
【0012】
本明細書で使用される場合、「本質的に・・・からなる」(consisting essentially of)は、本願の文脈では、記載されるものの基本的かつ新規な特性(複数可)に本質的に影響を与えない、指定された要素、材料、成分または方法のステップを含むと理解される。
【0013】
本明細書で使用される場合、「被験者」(subject)または「個体」(individual)は、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、霊長類、および/またはげっ歯類を含んだ哺乳類を含む動物を意味する。また、本明細書で使用されるように、組成物の量(例えば、投与量)を「投与する」(administering)ことは、被験者自身または他の被験者(例えば、医療従事者、介護者、家族)によって行われ得る。組成物は、組成物の投与に関する指示(例えば、組成物を含有する容器のラベルに書かれた指示)と共に、被験者または被験者の投与者に提供されてもよい。
【0014】
組成物について説明する。組成物は、小腸において酪酸の少なくとも一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、或いは、小腸において酪酸の第1の一部を放出し、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンを含むか(includes)、本質的にそれからなるか(consists essentially of)、またはそれからなる(consists of)。本組成物は、食事に添加される(通常のヒトの食事を補う)、食事または栄養補助食品の形態であってよい。酪酸は短鎖脂肪酸(SCFA)で、結腸の主要なエネルギー源である。大部分の酪酸は、常在微生物叢によって腸内で内因的に産生され、結腸細胞によって吸収される。この自然に生成された酪酸のうち、体循環に到達するのはごく一部であると考えられている。トリブチリンはトリグリセリドで、本質的にはグリセロール鎖に3分子の酪酸が結合している。経口摂取すると、エステラーゼが作用して酪酸を放出する。被験者の小腸において投与量から酪酸の少なくとも一部を放出するために十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、被験者に対してまたは被験者によって投与することによって、吸収可能な、および体循環に利用可能な酪酸をもたらす。全身に循環した酪酸は、血液を介して脳を含む他の臓器に到達でき、様々な健康上の利点をもたらすことができる。トリブチリンの投与による脳の健康効果には、ストレス、不安、および/または抑うつ状態の緩和による気分の改善が含まれる。小腸において投与量から酪酸の第1の一部を放出し、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、被験者に対してまたは被験者によって投与することにより、脳の健康に有益な体循環に酪酸が供給されるだけでなく、結腸に酪酸が供給されて被験者の腸内微生物叢および微生物代謝物も調節され、ひいては脳の健康にも有益となり得る。被験者の気分を改善するために、被験者の小腸において投与量から酪酸の少なくとも一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を被験者に対してまたは被験者によって投与することを、或いは、小腸において酪酸の第1の一部を放出し、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を投与することを含む、気分改善方法も記載される。気分の改善または他の脳の健康効果に加えて、トリブチリンを被験者に投与することによる他の健康効果は、身体の代謝改善や免疫系機能の向上を含む。被験者の代謝を改善するために、被験者の小腸において投与量から酪酸の少なくとも一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、被験者に対してまたは被験者によって投与することを、或いは、被験者の代謝を改善するために、小腸において酪酸の第1の一部を放出し、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を投与することを含む、代謝改善方法もさらに記載される。被験者の免疫系機能を改善するために、被験者の小腸において投与量から酪酸の少なくとも一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を被験者に対してまたは被験者によって投与することを、或いは、小腸において酪酸の第1の一部を放出し、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を投与することを含む、免疫系機能改善方法もまた記載される。
【0015】
補助食品(食事補助食品または栄養補助食品)としての組成物は、被験者の小腸において投与量から酪酸の少なくとも一部を放出するのに十分な量のトリブチリンを、被験者に対してまたは被験者によって投与される。成人のヒトの場合、代表的な量は1日量として100mg/日~2000mg/日、例えば300mg/日~2000mg/日、例えば300mg/日~1000mg/日、例えば500mg/日~800mg/日である。本明細書で使用される場合、トリブチリンの「1日投与量」とは、1日に摂取されるトリブチリン量であり、全てを一度に(1回の設定)、または1日を通して複数回に設定される。投与量レベルは、被験者に対してまたは被験者によって投与される単回投与量として、または、例えば1日の投与量レベルを1日かけて達成する複数回投与(multiple dose)を通じて、投与されてもよい。投与量レベルはまた、週に複数回、週ごと、隔週ごと、または月ごとに投与されるトリブチリンの総量を投与間の日数で割ったものであってもよく、この場合、投与量は、1日あたりの平均で上記の投与量レベルのトリブチリン量を投与する。上記の投与量レベルは、3個の酪酸分子をもたらす化合物であるトリブチリンに関するものである。代替的にまたは追加的に、トリブチリン誘導体を酪酸の供給源として用いてもよい。
【0016】
トリブチリン誘導体が3個未満の酪酸分子を含む場合(例えば、酪酸ジエステル)、誘導体の投与量を増やすことが望ましい。
【0017】
本明細書に記載される組成物は、錠剤やカプセルなどの乾燥粉末の形態であってもよいし、液体形態であってもよいし、或いは液体中で分散液または懸濁液を形成するために液体中で混合することができる粉末の形態であってもよい。組成物はまた、ソフトゲル、グミ、坐剤、泡浣腸、液体浣腸などの形態であってもよい。組成物は、経口的または経直腸的に投与できるように製剤化してもよい。本発明の組成物は、材料が嚥下または摂取され得るように、タブレット、カプセル、溶液、分散液、エマルション、マイクロエマルジョン、懸濁液、シロップ、エリキシル剤などを形成するために、薬学的に許容される担体または希釈剤を含んでもよい。
【0018】
組成物は、トリブチリンまたはトリブチリン誘導体の量と組み合わせて、他の有効成分を含んでもよい。ここで言う有効成分とは、組成物を、および/または組成物中の1つ以上の他の成分を摂取する個体に有益な効果をもたらす成分である。代表的な有効成分としては、ラクトバチルス株(例えば、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum))、および/またはビフィドバクテリウム株(例えば、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum))などの1種類以上のプロバイオティクスが挙げられるが、これらに限定されない。プロバイオティクスの代表的な1日投与量は、少なくとも0.5億コロニー形成単位(colony forming unit:cfu)、例えば少なくとも1億cfu、例えば少なくとも2億cfu、例えば少なくとも5億cfu、例えば少なくとも10億cfu、例えば少なくとも15億cfuの量である。組成物は、代替的にまたは追加的に、1種類以上の他の有効成分を、これらに限定されないが、1種類以上のプレバイオティクス(例えば、ペクチン(例えば、リンゴペクチン)、β-グルカン(例えば、オーツ麦または大麦 β-グルカン)、キシロオリゴ糖(XOS)、イヌリン)、1種類以上のビタミン(例えば、ビタミンA(例えば、β-カロテン)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB12(コバラミン)、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK)、1種類以上のミネラル(例えば、亜鉛、マグネシウム、銅、鉄)、および/または1種類以上のハーブ(例えば、朝鮮人参、カモミール、生姜、バコパ、アシュワガンダ、セントジョーンズワート、ウコン)を含んでよい。
【0019】
I.in vitroモデルにおけるトリブチリンのヒト腸内微生物叢への影響
in vitroモデルは、腸内微生物叢の代謝能力を評価するのに有用であるが、in vivo系では、微生物-宿主間の相互作用や宿主による微生物代謝物の吸収が絶え間なく起こるため、しばしば評価ができないことがある。
【0020】
1.上部消化管(GIT)シミュレーション
ヒトの上部消化管(GIT)を通過する際のトリブチリンのカプセル化形態の安定性を、摂食および絶食の両条件下で、ヒトのGITに代表される生理的条件を模倣したin vitroヒト腸シミュレーターシステムを用いて評価した。図1は、上部消化管におけるトリブチリンおよび酪酸の放出の結果をグラフにまとめたものである。上部消化管通過中、トリブチリン顆粒を含むカプセルは、胃(ST)での最初の10分間の滞留で完全に崩壊し、摂食・絶食のいずれの条件下でも顆粒からトリブチリンが徐々に放出されることが観察された。小腸通過中にさらなる溶解が観察されたが、放出されたトリブチリンは、小腸に存在するエステラーゼによって直ちに分解され、酪酸を形成した。摂食・絶食の両条件下で、小腸滞留終了時に平均1.65mMの酪酸が検出された。トリブチリンが3個の酪酸分子(基質の87.4%に相当)を含むことを考慮すると、小腸末端(図1の小腸180分(SI180))で観察された酪酸濃度は41.0%の酪酸放出に相当し、トリブチリンの形で59.0%相当の酪酸が結腸に到達することになる。さらに、小腸での滞留が終了した時点でも顆粒の一部は無傷のままであったことから、結腸領域に進むと、さらに多くのトリブチリンが放出され得ることがわかった。
【0021】
2.結腸シミュレーション
健康な成人のヒトのドナー10人(男性5人、女性5人、30~60歳、BMI<30)の微生物叢を組み合わせたin vitro腸内シミュレーションモデルを用いて、トリブチリンの2つの用量が、腸内微生物叢組成および微生物代謝物に及ぼす影響を検討した。完全なGITシミュレーションを代表する結果を得るために、保持時間およびpH範囲を最適化した。安定化期間の後、2週間の対照期間および3週間の処理が行われ、300mg/日の59%または1000mg/日の59%が、毎日投与された(前述の放出プロファイルに基づく)。サンプルは対照期間および処理期間の終わりに採取された。生物学的ばらつきを考慮し、両用量とも生物学的3回反復で行った。
【0022】
(酪酸生産)
トリブチリン投与開始直後から、近位結腸(PC)および遠位結腸(DC)の両区画で酪酸レベルが有意に上昇した。図2に示されるように、試験した最高用量のトリブチリンを補給したときに最も強い効果が観察された。すなわち、近位結腸および遠位結腸でそれぞれ平均7.4mM(または、対照期間と比較して+91.9%)および7.7mM(または、+78.8%)の増加が見られ、低用量のトリブチリンによる処理と比較して有意に高い酪酸レベルに達した。明確な投与量効果があった。
【0023】
(微生物代謝物-トリプトファンおよびインドール誘導体)
1.近位結腸では、低用量のトリブチリンを投与してもトリプトファンレベルは影響を受けなかったが、高用量のトリブチリンを投与すると、トリプトファンレベルが有意に上昇した(表1)。
【0024】
2.脱炭酸経路において、トリプトファンは微量神経伝達物質として働くトリプタミンに変換される。トリプタミンはさらに、分解経路であるインドール経路につながるトリプトファン代謝物であるインドール-アセトアルデヒドに変換され得る。インドール-3-酢酸レベルは、低用量のトリブチリン投与により、近位および遠位結腸の両方で有意に増加した。一方、インドール-3-乳酸レベルは、いずれのトリブチリン投与量の補給によっても、両方の結腸領域で有意に増加した。腸管上皮細胞で抗炎症の役割を果たすことが実証されているため、それらの濃度を高めることは宿主にとって有益であると考えられる。
【0025】
3.インドール-3-アルデヒドおよびインドール-3-エタノールはともに上皮のバリア機能を促進する。トリブチリン処理(高用量および低用量)は遠位結腸のインドール-3-アルデヒドレベルを減少させたが、トリブチリン高用量は両結腸領域のインドール-3-エタノールレベルを有意に増加させた。
【0026】
4.最後に、インドール-3-プロピオン酸は、主に強力な神経保護作用のある抗酸化物質として機能し、抗炎症特性を示す。インドール-3-プロピオン酸レベルは、遠位結腸でトリブチリンの両用量を補給すると、すべての反復で有意に増加した。
【0027】
これらの結果は、トリブチリン処理によって、健康に役立ち得るいくつかのインドール誘導体が増加することを示している。
【0028】
【表1】
近位結腸(PC)および遠位結腸(DC)における選択された代謝物に対するトリブチリンの低用量および高用量の影響(異なる反復での平均値)。
対照の地点に対する統計的に有意な差は太字で示す。
p<0.05。<LOD=検出限界未満
【0029】
(微生物組成)
トリブチリンは、異なる系統学的レベルで微生物構造を有意に変化させ、投与量や結腸区画とは無関係に認められた。
【0030】
・低用量および高用量のトリブチリン処理により、腸内微生物の多様性が増加し、図3に示すように、シンプソン多様度指数が高くなった。
【0031】
・ファーミキューテス門(Firmicutes)およびバクテロイデス門(Bacteroidetes)は、ヒトの腸内に最も多く存在する門である。バクテロイデス門:ファーミキューテス門(Bacteroidetes:Firmicutes)の比が高いほど、痩せ型の表現型と関連している。トリブチリンを投与すると、図4に示すように、この比率が増加するため、代謝の健康に効果をもたらすことができる。
【0032】
・種レベルでは、アッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)およびフィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)がトリブチリン処理区画で増加していた。
【0033】
・アッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)は酢酸およびプロピオン酸を産生するムチン分解菌である。腸内におけるその存在は、健康上の利点と関連している。アッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)のコロニー形成と、炎症性疾患または肥満との間に逆相関があることは、これまで示されている。図5は、低用量および高用量トリブチリン処理後のPCおよびDCにおけるアッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の増加を示す。
【0034】
・フィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)は、酪酸産生株であり、主に制御性T細胞の刺激に関連して、腸内環境において強い抗炎症活性を発揮する。図6に示すように、フィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)は、試験した用量でトリブチリンを補給すると特異的に刺激された。
【0035】
・タネレラセアエ科(Tannerellaceae)のレベルは、トリブチリンの補給により近位結腸で増加した。図7に示すように、近位結腸におけるタネレラセアエ科(Tannerellaceae)のレベルの増加は、抗痙攣効果を促進することが知られている菌株であるParabacteroides merdae ATCC 43184などのパラバクテロイデス属(Parabacteroides spp.)の特異的刺激に起因した。パラバクテロイデス ディスタゾニス(Parabacteroides distasonis)とパラバクテロイデス ゴールドスタイニー(Parabacteroides goldsteinii)は、抗肥満の健康効果をもたらすことが知られている。パラバクテロイデス ディスタゾニス(Parabacteroides distasonis)およびパラバクテロイデス ゴールドスタイニー(Parabacteroides goldsteinii)の両方が、低用量および高用量のトリブチリンに対して、近位結腸および遠位結腸で刺激された。
【0036】
3.免疫調節
in vitroにおけるCaco-2/THP1(結腸細胞/マクロファージ)共培養モデルを用いて、免疫調節のマーカーとなる炎症性サイトカインおよびケモカインに対する微生物代謝物の影響を評価した。
【0037】
・一般に、低用量のトリブチリン処理は、近位結腸および遠位結腸において、いくらかの軽度の免疫調節性の違いを示した。これに対して、高用量のトリブチリン処理では、近位結腸では有益な免疫調節作用を示す一方、遠位結腸ではさらに強い炎症性マーカーの低下が観察された。
【0038】
より具体的には、近位結腸では、低用量のトリブチリン処理は、ケモカインCXCL10およびMCP-1の分泌を減少させた。これに対して、高用量のトリブチリン処理は、抗炎症性サイトカインIL-10の分泌を増加させる一方、炎症性サイトカインTNF-αおよびケモカインCXCL10の分泌は減少した。遠位結腸では、炎症性サイトカインTNF-αとケモカインCXCL10とIL-8の分泌がわずかに増加する傾向がみられた。これに対して、高用量のトリブチリン処理は、表2に示すように、分析したいくつかの炎症性マーカーを含むすべてのサイトカインおよびケモカインの減少を示した。
【0039】
【表2】
処理懸濁液の平均をブランク対照懸濁液の平均に対して正規化した細胞実験の結果。
1に近い値は対照からの変化がないことを示し、1未満の値は対照より低い処理値を示し、1を超える値は対照より高い処理値を示す。PC=近位結腸、DC=遠位結腸。
【0040】
トリブチリンのヒト腸内微生物叢に対するin vitro研究で、トリブチリンの投与による以下の効果が得られることが示された。
【0041】
・ストレス、不安、抑うつ状態の緩和などの脳の健康(気分)の利点として、(i)腸脳軸で重要な役割を果たす酪酸の増加。(ii)セロトニンおよびメラトニンの前駆体であり(セロトニンは気分を調整し、メラトニンは睡眠を誘発する)、インドール誘導体に代謝されるトリプトファンの増加。(iii)インドール-3-酢酸、インドール-3-プロピオン酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-エタノールなどの脳の健康(気分)に役立つと考えられているインドール代謝物を含む、いくつかのインドール誘導体のレベルの増加。ここで、インドール-3-酢酸は神経保護作用のある抗酸化物質である。(iv)酪酸産生株であり、脳の健康に役立つと考えられるフィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)の増加。
【0042】
・免疫の健康の利点として、(i)制御性T細胞(Treg)の分化を誘導し、炎症を制御することが知られている酪酸レベルの増加、(ii)制御性T細胞を刺激することにより腸内環境において強力な抗炎症活性を発揮する酪酸産生株であるフィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)の増加、(iii)高用量のトリブチリン処理による、遠位結腸(DC)におけるいくつかの炎症性マーカーの減少と、近位結腸(PC)におけるIL-10のような抗炎症性マーカーの増加。
【0043】
・代謝の利点として、(i)痩せ型の表現型に関連するアッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の増加。(ii)インスリン抵抗性および脂質代謝の減少を伴う、マウスの高脂肪食誘発肝毒性の緩和を示すインドール-3-酢酸などのインドール代謝物の増加(iii)脂肪量の減少など代謝的な抗肥満健康効果をもたらし得るパラバクテロイデス ディスタゾニス(Parabacteroides distasonis)およびパラバクテロイデス ゴールドスタイニー(Parabacteroides goldsteinii)の増加。(iv)痩せ型の表現型と関連する、バクテロイデス門:ファーミキューテス門(Bacteroidetes:Firmicutes)の比の増加。
【0044】
[精神状態の健全に対するトリブチリンの生理学的効果(前臨床試験)]
in vitroモデルにおいてトリブチリンがいくつかの有益な特性を示したことを考慮し、トリブチリン補給の生理学的利益を検証するために、in vivoマウスモデルが用いられた。トリブチリンの補給が脳の健康、特に気分(ストレスによる不安および抑うつ状態に関連する)、脂肪量、免疫マーカーに及ぼす影響を調べるための実験が行われた。
【0045】
[方法]
雌雄のC57BL/6Jマウスを用い、トリブチリンがストレスおよび気分に関連した行動に及ぼす影響を評価する研究を実施した。動物には水および標準的なげっ歯類用食餌を即座に自由に摂取させ、7日間施設に馴化させた。試験3日目に、核磁気共鳴分光法(NMR:MiniSpec NMR,Bruker LF50 体組成計)を用いて脂肪および筋肉の含有量を測定した。試験0日目に動物の体重を測定し、血液および糞便サンプル(1匹につき1~2ペレット)を採取し、それぞれの動物を特定の処理群に無作為に割り付けた。以下のように、4つの異なるグループにおいて、毎日の経口摂取を開始した。
-処理1 PBS vehicle連日投与
+行動測定前の急性ストレス未付加
-処理2 PBS vehicle連日投与
+行動測定前の急性ストレス
-処理3 低用量トリブチリン(60mg/kg/日)連日投与
+行動測定前の急性ストレス
-処理4 高用量トリブチリン(200mg/kg/日)連日投与
+行動測定前の急性ストレス
【0046】
7週間の介入後、試験49日目に血液および糞便サンプルを採取し、試験50日目および52日目に糞便採取を繰り返した。試験52日目に、急性ストレス群に割り当てられた動物を2時間急性拘束し、ストレス未付加群には新鮮なケージで140分間単独飼育を行った。2時間のストレス期間の後、ストレスを受けた動物はケージ(寝床無し)に解放され、20分間の毛づくろいの休憩を取った。その後、全ての動物を強制水泳試験(FST)でテストした。FST後、15乃至30分以内に後眼窩血液サンプルを採取し、実験終了時に糞便ペレットを採取した。試験53日目に動物の体重を測定し、NMRによる体組成を2回測定した。試験は56日目に終了し、採血および剖検が行われた。最終血清中の血清サイトカイン濃度を評価した。
【0047】
[結果]
(行動)
強制水泳試験(FST)は、逃避不可能なストレスに対するげっ歯類の反応を中心とした試験である。このテストの結果は、否定的な気分に対する感受性の尺度として解釈されている。抗うつ薬の効果を測定するためによく用いられる。強制水泳試験は、マウスの集団ごとに試験52日目に行われた。トリブチリンで処理したマウスは、分単位で一元配置分散分析RMANOVAにより分析すると、FSTにおいて不動性の減少(すなわち、積極的対処能力の増加)を示した。図8に示すように、組み合せ(雌+雄)群では、FSTにおける不動時間の短縮は、ストレス付加の無処理対照群と比較した60または200mg/kg/日のトリブチリンで処理したマウス、およびストレス未付加の対照群と比較した200mg/kg/日で処理したマウスにおいて、一元配置分散分析RMANOVA[F(3,9)=12.12, p=0.002]により統計的に有意であった。同様に、一元配置分散分析RMANOVAは、8群全てを解析した結果、処理の主効果[F(7,21)=6.10, p<0.001]を検出し、Tukeyの事後検定により、雌の60mg/kg、雄の200mg/kgは、ストレス付加の無処理対照群の同性別と比較して、不動性の減少をもたらしたことが検出された。
【0048】
(コルチコステロン)
コルチゾールまたはコルチコステロンは、ストレス系の重要なメディエーターである。コルチコステロイド ホルモンは、カテコールアミンおよび他の伝達物質と協調して作用する。コルチコステロイドの調整が不十分な場合、ストレス反応が悪化する。或いは、ストレスへの適応が上手くいかないと、循環コルチコステロイドレベルは、長期間上昇したままとなる。図9に示すように、200mg/kg/日のトリブチリンで処理した雄マウスは、二元配置分散分析ANOVAにより集団間変動を考慮した場合、ストレス付加のvehicle対照群と比較して、FST後の糞便中コルチコステロン濃度が統計的に減少した。
【0049】
コルチコステロンの減少およびFSTの結果は、トリブチリン処理がポジティブな対処能力を高め、抑うつ状態を軽減し、ストレスに対処するのに役立つことを示している。
【0050】
(脂肪量)
動物の体重変化は、雌、雄、全てのマウスにおいて、群間で統計的な差はなかった。しかしながら、体組成分析によると、トリブチリン投与は脂肪組成を減少させた。全てのマウス(雄および雌)を考慮した場合、ベースラインに対する最終脂肪の割合は、図10に示すように、60または200mg/kg/日のトリブチリンを投与した群では、組み合せのストレス未付加の無処理対照群と比較して統計的に減少した[F(3,101)=4.99, p=0.003]。その結果、図11に示すように、除脂肪:脂肪の比は、無処理の対照と比較して、処理したマウスで有意に増加した。脂肪量が減少し、除脂肪:脂肪の比が増加することから、体組成に有益であることを示している。
【0051】
(免疫マーカー)
最終血清中のサイトカイン濃度の初期解析によると、トリブチリン60mg/kg/日投与によるIL-2、およびトリブチリン60または200mg/kg/日投与によるIL-4のインターロイキンのレベルは、雄マウスにおいて、ストレス付加のマウスと比較して、処理により有意に減少した(図12参照)。さらに、IFNγは60mg/kg/日のトリブチリンで処理した雄マウスで有意に減少し、MIP-1aは60または200mg/kg/日のトリブチリンで処理した雄マウスで、ストレス付加のvehicle対照群と比較して有意に減少した(図13参照)。マウスにおける炎症性マーカーの減少は、in vitro細胞培養モデルから得られた観察と一致している。これらの結果は、トリブチリンの免疫調節の可能性を示し、免疫の健康に役立ち得ることを示唆している。
【0052】
[糞便代謝物分析]
腸内微生物叢は、摂取した食事および栄養補助食品を結腸で代謝し、様々な代謝物を産生する。結腸で生成されたこれらの代謝物は、糞便中で測定することができる。投与8週間後に実験マウスから採取した糞便中の代謝物を測定した。糞便中のSCFAはガスクロマトグラフィー(GC)で測定し、トリプトファン代謝物は超高速液体クロマトグラフィー高分解能質量分析(UHPLC-HRMS)で測定した。ストレス付加のトリブチリン未処理マウスとストレス付加のトリブチリン処理マウスとの間で比較を行った。
【0053】
トリブチリンで処理したマウスとストレス付加の未処理対照マウスとの間で、糞便中のSCFA濃度に差は認められなかった。しかしながら、図14に示すように、糞便中の他の代謝物には統計的に有意な変化が見られた。
(i)トリブチリンを高用量(142.8±53.4ng/mg)および低用量(154.9±98.7ng/mg)処理した場合、ストレス付加の未処理対照(114.6±44.8ng/mg)と比較してトリプトファンの増加がみられ、高用量では統計的に有意(p=0.043)であり、低用量ではその傾向がみられた(p=0.063)。トリプトファンは必須アミノ酸である。腸神経系の重要な要素であるセロトニンの前駆体であるなど、さまざまな生物学的プロセスに関与している。
(ii)インドール-3-酢酸は、低用量処理マウス(1.56±1.17ng/mg)において、ストレス付加の未処理対照(1.006±0.507ng/ml)と比較して統計的に有意に上昇した。この化合物は、腸管上皮細胞において抗炎症の腸管上皮細胞レベルの増加の役割を果たしていることが証明されている。
【0054】
トリプトファンおよびインドール-3-酢酸の両者は、ヒトの消化管に代表される生理的条件を模倣した腸内シミュレーションモデルでも上昇しており、in vitroモデルとin vivoモデルとの結果の一貫性を示している。
【0055】
マウスの気分、代謝、免疫パラメータに対するこれらの有益な効果は、小腸での吸収による全身循環の酪酸と、微生物叢および微生物代謝物を調節している結腸での酪酸との両方によるものである。
【0056】
[態様]
以下は本発明の態様である。
【0057】
態様1
気分、ストレスへの対処、代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善する方法であって、
被験者の気分、該被験者のストレスへの対処、該被験者の代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善するために、
前記被験者の小腸において投与量から少なくとも酪酸の一部を放出するために十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、前記被験者に対してまたは前記被験者によって投与することを含む、方法。
【0058】
態様2
前記被験者の気分を改善することを含む、態様1に記載の方法。
【0059】
態様3
ストレスへの対処を改善することを含む、態様1に記載の方法。
【0060】
態様4
前記被験者の代謝を改善することを含む、態様1に記載の方法。
【0061】
態様5
前記被験者の免疫系機能を改善することを含む、態様1に記載の方法。
【0062】
態様6
投与は、トリブチリンを投与することを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して100mg/日~2000mg/日、例えば300mg/日~1000mg/日、例えば500mg/日~800mg/日を含む、態様1~5のいずれか一態様に記載の方法。
【0063】
態様7
投与は、前記トリブチリンを補助食品として投与することを含む、態様6に記載の方法。
【0064】
態様8
トリブチリンまたはトリブチリン誘導体の前記投与量からの酪酸の前記一部は、第1の一部であり、
トリブチリンまたはトリブチリン誘導体の前記投与量は、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量を含む、態様1~7のいずれか一態様に記載の方法。
【0065】
態様9
気分、ストレスへの対処、代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善する方法であって、
被験者の気分、該被験者のストレスへの対処、該被験者の代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善するために、
前記被験者の小腸において投与量から酪酸の第1の一部を放出し、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、1日量として被験者に対してまたは被験者によって投与することを含む、方法。
【0066】
態様10
前記被験者の気分を改善することを含む、態様9に記載の方法。
【0067】
態様11
ストレスへの対処を改善することを含む、態様9に記載の方法。
【0068】
態様12
前記被験者の代謝を改善することを含む、態様9に記載の方法。
【0069】
態様13
前記被験者の免疫系機能を改善することを含む、態様9に記載の方法。
【0070】
態様14
投与は、トリブチリンを投与することを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して100mg/日~2000mg/日、例えば300mg/日~1000mg/日、例えば500mg/日~800mg/日を含む、態様9~13のいずれか一態様に記載の方法。
【0071】
態様15
投与は、前記トリブチリンを補助食品として投与することを含む、態様14に記載の方法。
【0072】
態様16
被験者の小腸において少なくとも酪酸の第1の一部を放出し、被験者の結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を含む、食事補助食品組成物。
【0073】
態様17
前記組成物は、トリブチリンを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して100mg/日~2000mg/日、例えば300mg/日~1000mg/日、例えば500mg/日~800mg/日を含む、態様16に記載の食事補助食品組成物。
【0074】
態様18
前記トリブチリンまたはトリブチリン誘導体は、第1の有効成分を含み、
前記食事補助食品は、前記第1の有効成分とは異なる第2の有効成分をさらに含む、態様16または態様17に記載の食事補助食品組成物。
【0075】
本発明の特定の態様を詳細に説明したが、それらの詳細に対する様々な修正および代替が、本開示の全体的な教示に照らして開発され得ることは、当業者には理解されるであろう。したがって、開示された特定の構成は、例示のみであって、添付の特許請求の範囲および態様の全ての広がり、およびその全ての均等物を与えられるべき本発明の範囲に関して、限定するものではないことを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2024-05-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気分、ストレスへの対処、代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善する方法であって、
被験者の気分、該被験者のストレスへの対処、該被験者の代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善するために、
前記被験者の小腸において投与量から酪酸の少なくとも一部を放出するために十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、前記被験者に対してまたは前記被験者によって投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記被験者の気分を改善することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ストレスへの対処を改善することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被験者の代謝を改善することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記被験者の免疫系機能を改善することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
投与は、トリブチリンを投与することを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して300mg/日~1000mg/日を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
投与は、前記トリブチリンを補助食品として投与することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
トリブチリンまたはトリブチリン誘導体の前記投与量からの酪酸の前記一部は、第1の一部であり、
トリブチリンまたはトリブチリン誘導体の前記投与量は、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
気分、ストレスへの対処、代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善する方法であって、
被験者の気分、該被験者のストレスへの対処、該被験者の代謝、および免疫系機能の少なくとも1つを改善するために、
前記被験者の小腸において投与量から酪酸の第1の一部を放出し、結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を、1日量として被験者に対してまたは被験者によって投与することを含む、方法。
【請求項10】
前記被験者の気分を改善することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ストレスへの対処を改善することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記被験者の代謝を改善することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記被験者の免疫系機能を改善することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
投与は、トリブチリンを投与することを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して100mg/日~1000mg/日を含む、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
投与は、前記トリブチリンを補助食品として投与することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
被験者の小腸において酪酸の少なくとも第1の一部を放出し、被験者の結腸において酪酸の第2の一部を放出するのに十分な量のトリブチリンまたはトリブチリン誘導体を含む、食事補助食品組成物。
【請求項17】
前記組成物は、トリブチリンを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して100mg/日~2000mg/日を含む、請求項16に記載の食事補助食品組成物。
【請求項18】
前記組成物は、トリブチリンを含み、
トリブチリンの量は、成人のヒトに対して300mg/日~1000mg/日を含む、請求項16に記載の食事補助食品組成物。
【請求項19】
前記トリブチリン誘導体は、第1の有効成分を含み、
前記食事補助食品は、前記第1の有効成分とは異なる第2の有効成分をさらに含む、請求項16に記載の食事補助食品組成物。
【国際調査報告】