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特表2024-536600ブタA型インフルエンザウイルス感染に対して子ブタを防御するためのワクチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ブタA型インフルエンザウイルス感染に対して子ブタを防御するためのワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/145 20060101AFI20240927BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 15/44 20060101ALI20240927BHJP
   C07K 14/11 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240927BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K39/145
C12N15/867 Z
C12N15/44
C07K14/11
A61K39/39
A61P31/16
A61K35/76
A61K9/107
A61K48/00
A61K35/74 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524385
(86)(22)【出願日】2022-10-24
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2022079532
(87)【国際公開番号】W WO2023072805
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】21204364.0
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ナガラジ,バサヴ・ハンガラプラ
(72)【発明者】
【氏名】モグラ-,マーク・エー
(72)【発明者】
【氏名】セーゲルス,ルード・フィリップ・アントゥーン・マリア
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB15
4C076CC07
4C076CC35
4C076FF70
4C084AA13
4C084MA02
4C084MA55
4C084NA06
4C084ZB33
4C084ZC75
4C085AA03
4C085AA38
4C085BA55
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF11
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087MA55
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ブタインフルエンザウイルスによる病原性感染に対する子ブタの受動免疫化のための、IAV-Sの抗原をコードするアルファウイルスRNAレプリコン粒子(αRP)ベクターに基づくワクチンの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原と薬学的に許容される担体とを含むワクチンであって、該ワクチンが、該ワクチンで能動的に免疫化された雌ブタからの初乳または乳の摂取を介した子ブタの受動免疫化によってブタA型インフルエンザウイルス(IAV-S)による病原性感染に対して子ブタを防御する方法における使用のためのワクチンであり、
ここで、該免疫原が、IAV-Sの抗原をコードするアルファウイルスRNAレプリコン粒子(αRP)ベクターである、前記ワクチン。
【請求項2】
雌ブタが経産雌ブタまたは未経産雌ブタである、請求項1記載の使用のためのワクチン。
【請求項3】
抗原がIAV-S赤血球凝集素(HA)タンパク質である、請求項1または2記載の使用のためのワクチン。
【請求項4】
αRPベクターが2以上の別個のIAV-S抗原をコードする、前記請求項のいずれか1項記載の使用のためのワクチン。
【請求項5】
ワクチンが、別個のIAV-S抗原をコードする2以上の別個のαRPベクターを含む、前記請求項のいずれか1項記載の使用のためのワクチン。
【請求項6】
抗原が、Scot/94 H1N2、EurAsianAvian H1N1、Gent1984 H3N2およびパンデミック(pandemic)2009 H1N1からなる群から選択される系統に属するIAV-S株のものである、前記請求項のいずれか1項記載の使用のためのワクチン。
【請求項7】
ワクチンが、Scot/94 H1N2、EurAsianAvian H1N1、Gent1984 H3N2およびパンデミック2009 H1N1から選択される2つの系統のIAV-S株のHA抗原をコードする第1のαRPベクターと、その群の他の2つの系統のIAV-S株のHA抗原をコードする第2のαRPベクターとを含む、請求項6記載の使用のためのワクチン。
【請求項8】
ワクチンが、系統Scot/94 H1N2およびEurAsianAvian H1N1のIAV-S株のHA抗原をコードする第1のαRPベクターと、系統Gent1984 H3N2およびパンデミック2009 H1N1のIAV-S株のHA抗原をコードする第2のαRPベクターとを含む、請求項7記載の使用のためのワクチン。
【請求項9】
薬学的に許容される担体が油と水とのエマルジョンアジュバントを含む、前記請求項のいずれか1項記載の使用のためのワクチン。
【請求項10】
ワクチンを筋肉内投与する、前記請求項のいずれか1項記載の使用のためのワクチン。
【請求項11】
ワクチンが大腸菌(E.coli)の抗原を更に含む、前記請求項のいずれか1項記載の使用のためのワクチン。
【請求項12】
ワクチンがクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)の抗原を更に含む、前記請求項のいずれか1項記載の使用のためのワクチン。
【請求項13】
雌ブタの能動免疫化による子ブタの受動免疫化によって雌ブタの子ブタ後代をIAV-Sによる病原性感染に対して防御するワクチンの製造のための、IAV-Sの抗原をコードするアルファウイルスRNAレプリコン粒子(αRP)ベクターの使用。
【請求項14】
雌ブタの子ブタ後代をIAV-Sによる病原性感染に対して受動免疫化するための方法であって、該方法は、
IAV-Sの抗原をコードするアルファウイルスRNAレプリコン粒子(αRP)ベクターを含むワクチンで雌ブタを能動的に免疫化する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の全般的分野
本発明は、雌ブタの能動免疫化による後代子ブタの受動免疫化に使用されうるブタA型インフルエンザウイルス(IAV-S)ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
A型インフルエンザウイルス(IAV)は世界中でヒトおよび動物の健康に著しい負担をもたらす。IAVは、そのウイルス表面糖タンパク質、赤血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)に基づいて種々の亜型に分類される。IAVは家禽、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、海洋哺乳類(例えば、クジラ)、コウモリおよびヒトに感染する。野生の水鳥および浜鳥(アヒル、ガチョウ、ハクチョウおよびカモメ)は自然宿主であり、それらは16個の異なるHAおよび9個の異なるNA亜型に感染しうる(Websterら,Microbiol Rev 56:152-179,1992)。
【0003】
ブタにおけるA型インフルエンザウイルス(IAV-S)は家畜ブタの重大な呼吸器病原体であり、これは、世界中で、特に畜産業に、大きな経済的損失をもたらすことが判明している(Holtkampら,The American Association of Swine Veterinarians Annual Meeting,2007)。それは呼吸器疾患の突然の発症によって特徴づけられ、通常は食欲不振、嗜眠および発熱を伴う。生産動物におけるIAV-Sに関連する臨床合併症に加えて、ヒトへのインフルエンザウイルスの伝染にブタを関連づける公開報告があり(Myersら,Clin Infect Dis,2007;44(8),1084-8,KruegerおよびGray,Curr Top Microbiol Immunol 370:201-225,2013)、これは公衆衛生上の重大な脅威であり、ブタ群におけるIAV-Sを抑制する更に大きな動機付けとなる。
【0004】
この問題に対処するために、多数の養豚業者は現在、商業的に入手可能なワクチンを使用してIAV-Sに対してブタにワクチン接種している。しかし、通常のワクチンでIAV-Sを抑制することは困難である。なぜなら、多数の多様なIAV-S株が野外で同時に流行し、進化し続けるからである(Gaoら,J Gen Virol 98(8),2001-2010,2017)。IAV-Sの多様性および突然変異性はウイルスの遺伝子構造によって引き起こされる。他のA型インフルエンザウイルスと同様に、IAV-Sは、8つのRNAセグメント上にコードされる遺伝子と、頻繁な突然変異を導入するゲノム複製機構とを有する。これらの遺伝的特徴は、以前の株への曝露によって誘導される既存の中和抗体からの逃避を含む迅速な適応をIAV-Sが行うことを可能にする。
【0005】
A型インフルエンザウイルスの分類は、ウイルス表面上の2つの主要糖タンパク質であるHAおよびNAの亜型分類から開始される。HAタンパク質は宿主細胞へのウイルスの結合および融合を媒介する。ノイラミニダーゼは、新たに形成されたウイルス粒子を宿主細胞から切断することによって新たな後代ウイルスが拡散し他の細胞に感染することを可能にすることにより、インフルエンザウイルス複製サイクルの最終段階で機能する酵素である。
【0006】
ヒトA型インフルエンザは、通常特定のインフルエンザ流行期に世界中で流行する1つまたは2つの優勢株を有するが、IAV-Sの更に多数の株が同時に流行し、これらの株は地理的地域によって異なる。同様に、IAV-S株は抗原的にも多様であるが、主として、HAのH1またはH3亜型、およびNAのN1またはN2亜型を含む。IAV-Sの各HAおよびNA亜型内には、更なる系統的多様性が存在する。
【0007】
米国のブタ集団においては、H1の4つの主要系統クラスター(ガンマ、デルタ1、デルタ2、パンデミック)、H3の2つの主要クラスター(クラスターIVおよびヒト様)、N1の2つの主要クラスター(古典的、パンデミック)、およびN2の2つの主要系統クラスター(N2-1998およびN2-2002)が存在する(Andersonら,Influenza and other Respiratory Viruses 7(Suppl.4),42-51,2013;およびAndersonら,mSphere 1(6)e00275-16:1-14(2016)を参照されたい)。
【0008】
欧州においては、H1の3つの主要系統(ユーラシアトリ様、スコットランド/410440/1994様H1およびパンデミック)、H3の1つの主要系統(Gent/1/1984様H3)、N1の2つの主要系統、N2の2つの主要系統、およびN2の2つのマイナー系統が存在する(Watsonら,J.Virol.,89:9920-9931(2015);doi:10.1128/JVI.00840-15)。
【0009】
変異型IAV-S株の連続的出現の結果として、商業的に入手可能な全ウイルス不活化ワクチンは、しばしば、新興ウイルス亜型/クラスターに対して防御せず、ヘテロ亜型チャレンジに対して限定的な防御しかもたらさない。なぜなら、その抗原は、野外で流行している全ての現在の株に適合するわけではないからである(Leeら,Can J Vet Res 71(3),207-12,2007;Vincentら,Vaccine 28(15),2782-2787,2010)。したがって、そのようなワクチンは、現在流行している株に適合するように定期的に更新される必要がある。
【0010】
子ブタを感染症から予防するための一般的な戦略は、分娩前の妊娠雌ブタおよび/または子ブタ後代に全ウイルス不活化ワクチンでワクチン接種することを含む。ワクチン接種された妊娠雌ブタは、初乳および後続の乳において、その防御を子ブタに伝達する(受動免疫)。実際、子ブタの受動免疫は、その雌親から、または分娩前にワクチン接種された別の雌ブタから得られうる。初乳は、子ブタがそれ自身の能動免疫を獲得するまで生存するのを助ける一連の免疫系成分を含有する。初乳中の抗体レベルは乳中の抗体レベルの60倍である。これらの抗体の約65~90%はIgG型からなり、これは全身防御をもたらす。子ブタによるこれらのIgG免疫グロブリンの吸収は選択的ではなく、それらは初乳摂取の2時間後に血漿中に存在し、12時間でピークに達する。初乳の抗体プロファイルおよび子ブタにおいて誘導される受動的防御は、母体が曝露される抗原と、抗原曝露から分娩までの期間とに左右される。授乳中、IgG免疫グロブリンは、子ブタの腸粘膜を保護するように機能するIgAによって徐々に取って代わられる。約36時間後、腸は抗体および細胞の吸収を終了し、子ブタは胃腸管において乳から受動的粘膜IgA抗体を受領し続ける。
【0011】
当技術分野においては、全ウイルス不活化ワクチンに加えて、ブタに使用するための幾つかの他のタイプのワクチンが記載されている(Opriessnigら,Porcine Health Management,2021,7,1による総説)。大まかに、これらは、全病原体弱毒化生ワクチン、キメラ(弱毒化生または不活化)ワクチン、サブユニットワクチン、哺乳類生ウイルスベクター(複製型または複製欠損型)ワクチン、および核酸に基づくワクチン(DNAプラスミドまたはmRNA)に分類されうる。
【0012】
WO 2019/121513およびWO 2019/110481は、IAV-Sに対する子ブタの能動ワクチン接種のための、複製欠損型アルファウイルスRNAレプリコン粒子ベクターの使用を記載している。
【0013】
安全であり、IAV-Sによる病原性チャレンジに対して有効であり、新興株に抗原的に適合するように迅速に改変されうる、ブタ用の新規方法およびワクチンを開発することが、本発明の目的である。
【発明の概要】
【0014】
発明の概括
本発明の目的を達成するために、免疫原と薬学的に許容される担体とを含むワクチンであって、該ワクチンが、該ワクチンで能動的に免疫化された雌ブタからの初乳または乳の摂取を介した子ブタの受動免疫化によってブタA型インフルエンザウイルス(IAV-S)による病原性感染に対して子ブタを防御する方法における使用のためのワクチンであり、該免疫原が、IAV-Sの抗原をコードするアルファウイルスRNAレプリコン粒子(αRP)ベクターである、前記ワクチンを提供する。
【0015】
離乳までは、局所病原体、例えばブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、大腸菌(E.coli)、クロストリジウム(Clostridium)、パルボウイルス、PCV2、ロタウイルス、TGEウイルスに対する子ブタの防御は、主として、乳によって付与される免疫(乳汁免疫)によるものである。この免疫は、経産雌ブタの誘導部位における免疫活性化と、分泌型IgAの局所産生を伴う乳腺への活性化B細胞の移行に依存する。経産雌ブタにおいて、免疫活性化は、腸と乳腺との間のリンパ球再循環によってGALT(腸管関連リンパ組織)において、および呼吸器系と乳腺との間のB細胞再循環によってBALT(気管支関連リンパ組織)において生じる。
【0016】
ブタの局所粘膜における最適な乳汁免疫のためには、ワクチンにおける免疫化抗原が、全身免疫に加えて、主に腸のリンパ組織(「パイエル板」)に作用することによって局所免疫をも刺激する必要がある。これは、例えば腸および気道における粘膜組織の表面層の直下でIgAの産生をもたらす。IgAは粘膜の細胞を通過し、分泌成分と称される別の分子に結合する。したがって、それは分泌型IgAと称され、分泌成分によって互いに連結された2つのIgA抗体分子から構成される。この組合せはそれらの効力を増強し、それらを腸内酵素による消化に対して抵抗性にし、粘液によってより容易に吸収させる。粘液は腸および気道の内面全体を覆うため、分泌型IgAは、潜在的に病原性の感染に対する遮蔽物として機能する。
【0017】
本発明は、αRPベクターに基づくワクチンが、IAV-Sと同様に粘膜組織において局所的に複製されるブタ病原体であるPEDVによる病原性感染に対して子ブタにおける受動的防御をもたらさなかったことが実験で示されているにもかかわらず(実施例3)、対照的に、αRP IAV-Sベクターに基づくワクチンによる経産雌ブタの能動的ワクチン接種が該経産雌ブタの子ブタにおける受動的防御をもたらした(実施例2)という予想外の知見から生まれたものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】未経産雌ブタの初乳、経産雌ブタの血清および子ブタの血清におけるIAV-S赤血球凝集抑制(HI)力価。分娩時に採取された経産雌ブタ初乳(n=3)、分娩時に採取された経産雌ブタ血清(n=3)、および1週齢で採取された子ブタ血清(n=18~27)において測定されたユーラシア(Eurasian)トリ(France/53-130065)系統IAV-S株特異的HI力価(log2)。
図2】チャレンジの3日後に測定された子ブタの加重肺病変スコアおよび平均±SD。平均値±SDは、それぞれ3頭の同腹子に属する14頭(IAV-S RP+ColiClos IM)、16頭(IAV-S RP XSolve50 IM)、16頭(IAV-S RP XSolve50 ID)および15頭(PBS+ColiClos IM)の動物に基づくものであった。1群当たり3頭の未経産雌ブタに分娩の6週間前および2週間前にワクチン接種し、後代を4WOAで感染させ、感染の3日後に解剖して、肺病変スコアを評価した。
図3】チャレンジの3日後に採取された子ブタ肺組織のIAV-S力価および平均±SD。平均値±SDは、それぞれ3頭の同腹子に属する14頭(IAV-S RP+ColiClos IM)、16頭(IAV-S RP XSolve50 IM)、16頭(IAV-S RP XSolve50 ID)および15頭(PBS+ColiClos IM)の動物に基づくものであった。1群当たり3頭の未経産雌ブタに分娩の6週間前および2週間前にワクチン接種し、後代を4WOAで感染させ、感染の3日後に解剖して、肺内のウイルス量を測定した。
図4】RP-PEDVまたはプラセボでワクチン接種された経産雌ブタ血清におけるPEDV中和抗体力価。細胞培養馴化PEDV株USA/コロラド/2013に対するFFNアッセイを用いて、PEDV中和力価または血清中和力価をFFN力価として測定した。DPV=ワクチン接種後の日数、DPF=分娩後の日数。点線より下の値はPEDV中和活性を有さないとみなされる。
図5】RP-PEDVまたはプラセボでワクチン接種された経産雌ブタから産まれたブタの血清サンプルにおけるPEDV中和抗体力価。細胞培養物馴化PEDV株USA/コロラド/2013に対するFFNアッセイを用いて、チャレンジの当日(3~5日齢)に採取されたブタ血清においてPEDV中和力価または血清中和力価をFFN力価として測定した。
図6】PEDVチャレンジによるブタの死亡率。RP-PEDVまたはプラセボでワクチン接種された経産雌ブタから産まれた3~5日齢のブタに、ブタ1頭当たり3mLの総体積の10 TCID50のPEDV/コロラド/2013チャレンジ株を胃内接種した。同腹子当たりの感染ブタの死亡率をチャレンジの14日後まで記録した。同腹子当たりのブタの死亡率が図に示されている。
【0019】
定義
ワクチンは、典型的には薬学的に許容される担体と組合されている、免疫学的に有効な量の感染因子の1以上の抗原を含む動物への投与に適した組成物であり、これは、動物への投与に際して、感染因子による病原性感染に対して動物を防御する免疫応答を誘導する。
【0020】
感染因子による病原性感染に対する防御は、動物において防御免疫を得ることを意味し、すなわち、例えば、動物におけるウイルス複製の回数または持続期間を低減することによって、あるいは組織病変の数、強度または重傷度を縮小または低減することによって、あるいは1以上の臨床徴候を予防することによって、その感染因子による感染によって引き起こされる有害な効果の予防、改善または治癒を助けることを意味する。
【0021】
ブタ(pig)または豚(swine)は、イノシシ科の任意の動物、特にイノシシ属の動物、例えば、野生または家畜のブタ、イノシシ、バビルサまたはイボイノシシを意味する。
【0022】
子ブタは雌ブタの若い後代である。
【0023】
経産雌ブタ(sow)は、一腹の子ブタを既に出産したことのある成体雌ブタである。
【0024】
未経産雌ブタ(gilt)は、同腹子を未だ出産したことがない若い雌ブタである。
【0025】
初乳は、各同腹子の子ブタを有する経産雌ブタまたは未経産雌ブタによって産生された最初の乳である。
【0026】
本明細書中で用いる能動免疫化は、抗体および免疫細胞の生成をもたらす、外来抗原へのブタの身体の曝露の後のブタの免疫系の刺激である。抗原は感染因子、感染因子の不活化形態または感染因子の免疫原性成分の形態でありうる。
【0027】
本明細書中で用いる受動免疫化は、初乳、好ましくはその後の乳の摂取を介した、新生子ブタ後代への雌ブタの免疫(抗体および/または免疫細胞)の伝達に関するものである。実際には、子ブタ後代の受動免疫は、その雌親から、または分娩前にワクチン接種された別の雌ブタから得られうる。
【0028】
アルファウイルスは、トガウイルス科に属するRNAウイルスの属であり、小さな球形の包膜ポジティブセンスssRNAウイルスである(Fields Virology:Emerging Viruses,著者:Howley,KnipeおよびWhelan,ISBN/ISSN 9781975112547,2020)。
【0029】
本明細書中で用いるアルファウイルスRNAレプリコン粒子(αRP)なる語は、構造タンパク質のための1以上のコード配列を欠く修飾RNAウイルスゲノムを含むアルファウイルス様粒子であり、該コード配列は、もしそれが存在すれば、例えばPushkoら(Virology 239,389-401,1997)によって記載されているとおり、同様にアルファウイルスに由来するウイルス構造タンパク質(例えば、カプシドおよび糖タンパク質)内にパッケージングされる、細胞培養または動物宿主における親ウイルスの増殖の成功を可能にするであろう。したがって、αRPは動物の宿主細胞に進入し、新たな粒子を形成しうることなく、1ラウンドのウイルスゲノム増幅を行いうる。レプリコン粒子は、必要な構造タンパク質コード配列粒子を欠いているため、感染細胞からは増殖しない(Vander Veenら,2012,Anim.Health.Res.Rev.,vol.13,p.1-9;およびKamrudら,2010,J.Gen.Virol.91,1723-1727も参照されたい)。
【0030】
αRPに基づくワクチンを開発するために、幾つかのアルファウイルス種、例えばベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)(Pushkoら,1997,Virology 239,389-401)、シンドビスウイルス(Bredenbeekら,1993,J.of Virol.67,6439-6446)およびセムリキ森林ウイルス(LiljestromおよびGaroff,1991,Biotechnology 9,1356-1361)が使用されている。
【0031】
αRPベクターは、ウイルスゲノム内に挿入された、関心のある抗原をコードする異種核酸分子を含む。αRPベクター内に含まれる抗原をコードする核酸分子の転写および翻訳は、後代を産生することなく、αRPベクターに感染した細胞における抗原の発現をもたらし、このようにして、異種抗原を感染動物の免疫系に送達し、発現する。核酸分子は、完全なタンパク質をコードする完全な遺伝子またはオープンリーディングフレーム(ORF)を含むことが可能であり、あるいはタンパク質の一部をコードするその断片でありうる。抗原をコードする核酸分子は、アルファウイルスサブゲノムプロモーター、例えば26S-アルファウイルスサブゲノムプロモーターから転写され、発現されうる。転写されたレプリコンRNAは、パッケージング細胞株による構造タンパク質の発現によって、または構造タンパク質をコードする1以上の「ヘルパー」RNAとレプリコンRNAとの、適切な宿主細胞内への同時トランスフェクションによって、RP内にパッケージングされうる。
【0032】
αRPベクターは、そのゲノム内に挿入された、同じまたは異なる関心のある抗原をコードする2以上の異種核酸分子を含みうる。これは幾つかの方法で達成されうる。例えば、そのようなαRPベクターは、ポリシストロン性リーディングフレームをコードすることが可能であり、あるいは例えば、別個の追加的なタンパク質の発現を可能にするサブゲノムプロモーターの、1以上の追加的なコピーを使用することによって、別個の遺伝子をコードすることが可能である。
【0033】
αRPベクターは、例えば後記の商業的に入手可能なVEEVに基づくαRPベクターのように、既に入手可能のものもあり、あるいは該ベクターは、抗原をコードする異種核酸分子をウイルスレプリコン骨格内に組み込むことによって、周知の技術を用いて作製されうる。
【0034】
本明細書中で用いるIAV-Sの抗原は、IAV-Sによる病原性感染に対して動物を防御する、ブタにおける免疫応答を誘発しうるタンパク質またはその断片である。
【0035】
IAVゲノムは、少なくとも12個のタンパク質をコードする8つのセグメントから構成される。これらのタンパク質のうちの3つ、すなわち、ウイルス赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)およびマトリックス2(M2)タンパク質がウイルスのエンベロープ内に組み込まれる。HAおよび/またはNAに基づくワクチンはブタに防御免疫を付与しうる。HAタンパク質は宿主細胞へのインフルエンザビリオンの結合をもたらす。IAV-S NAタンパク質の機能は、宿主細胞上のシアル酸を切断して、新たに生成したビリオンが感染細胞から効率的に遊離することを可能にすることである。膜貫通マトリックス2(M2)タンパク質はプロトン選択的イオンチャネルであり、A型インフルエンザウイルスの効率的な脱コーティングに必要である(Sandbulteら,Vaccines 2015,3,22-73;doi:10.3390およびAguilar-Yanezら,PLOS ONE 2010;doi.org/10.1371/journal.pone.0011694によるレビューを参照されたい)。
【0036】
IAV-Sタンパク質抗原のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、公に入手可能な文献および配列データベース、例えばNCBI(インフルエンザデータベース)、インフルエンザ研究データベース(IRD)またはGenBank(GB)から容易に入手されうる。本発明において使用されるIAV-S抗原は任意のIAV-S(亜)型、系統学的クレード、クラスター、系統、株などのものでありうる。
【0037】
本明細書中で用いる系統なる語は、類似(相同)祖先に遡及される進化樹において(同じ枝上に)一緒に分類されたインフルエンザウイルス赤血球凝集素またはノイラミニダーゼのセットを意味する。これらの分類は欧州の赤血球凝集素およびノイラミニダーゼに関してなされており、米国のウイルスに関する系統学的クラスターと類似しているが、同等ではない。容易に入手可能なソフトウェア、すなわち、Clustal Omega(Sieversら,2011,Mol.Syst.Biol.7,539)またはH1 HA配列用のウェブアクセス可能なアノテーションツール(Andersonら,mSphere,2016,1(6):e00275-16)を使用し、予め確立された参照配列を使用して、問題のHAまたはNA配列の系統学的分析によって、系統の決定が達成されうる。欧州においては、H1の3つの主要系統(ユーラシアトリ様H1、スコットランド/410440/1994様H1およびパンデミック2009様H1)、H3の1つの主要系統(Gent/1/1984様H3)、N1の2つの主要系統(ユーラシアトリ様N1、パンデミック2009様N1)、N2の2つの主要系統(Gent/1/1984様N2、スコットランド/410440/1994様N2)、およびN2の2つのマイナー系統(イタリア/4675/2003様N2、ヒト季節性様N2)が存在する。IAV-S分類の規則、および分類を評価するためのツールは、Watsonら(J.Virol.,89,9920-9931,2015,doi:10.1128/JVI.00840-15),https://journals.asm.org/doi/10.1128/mSphere.00275-16、およびhttps://www.fludb.org/brc/h1CladeClassifier.spg?method=ShowCleanInputPage&decorator=influenzaに記載されている。
【0038】
薬学的に許容される担体は、生体適合性媒体、すなわち、担体を含む組成物の投与の後に動物の免疫系に抗原を提示しうる、治療対象において有意な有害反応を誘発しない媒体である。そのような薬学的に許容される担体は、例えば、水および/または任意の他の生体適合性溶媒を含む液体、あるいは固体担体、例えば、凍結乾燥ワクチン(糖および/またはタンパク質に基づくもの)を得るために一般的に使用される固体担体であって、所望によりアジュバントを含んでいてもよいものでありうる。
【0039】
アジュバントは、動物の免疫系に非特異的刺激をもたらしうる化合物または組成物である。アジュバントは、不活化抗原またはサブユニット抗原に基づくワクチンにおいて一般的に使用される。例えば以下のもののような多種多様なアジュバントのタイプおよび組成が存在する:アルミニウム塩、例えば水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム、リポソーム、グルカン、アルギナート、細菌成分、例えば細胞壁成分、鉱油または非鉱油の油と水とのエマルジョン、合成アジュバント、例えば非イオン性ブロックポリマー、ポリアミン、例えばデキストラン硫酸、Carbopol(商標)、ピラン、およびサポニン、例えばQuil A(商標)またはQ-vac(商標)。サポニンおよびワクチン成分はISCOM(商標)と組合されうる。更に、ペプチド、例えばムラミルジペプチド、ジメチルグリシン、タフトシンがアジュバントとしてしばしば使用される。同様に、ISA(商標)組成物(Seppic,France)のような組合せ製品が使用されうる。アジュバント、その使用および効果に関するより詳細な情報は、ハンドブック:ワクチンアジュバント(Vaccine adjuvants)(Methods in molecular medicine,vol.42,D.O’Hagan編,2000,Humana press,NJ,ISBN:0896037355)において見出されうる。ブタにおいて使用されるアジュバントに関する詳細なレビューは、Charerntantanakul W.,Vaccine,2020;38(43),6659-81を参照されたい。
【0040】
本発明の更に詳細な実施形態
本発明による使用のためのワクチンの1つの実施形態においては、αRPはベネズエラウマ脳炎(VEE)αRPである。より詳細な実施形態においては、αRPはTC-83 VEE αRPである。VEE TC-83 αRPの作製は、例えばUS 9,441,247およびUS 8,460,913に記載されている。VEEに基づくαRPワクチンは、以下のものを含むUSDAによって認可された幾つかのワクチンの基剤でもある:ブタ流行性下痢ワクチン,RNA(製品コード19U5.P1)、ブタインフルエンザワクチン,RNA(製品コード19A5.D0)、トリインフルエンザワクチン,RNA(製品コード19O5.D0)および医療用医薬品,RNA粒子(製品コード9PP0.00)。
【0041】
前記使用のためのワクチンの好ましい実施形態においては、雌ブタは、経産雌ブタまたは未経産雌ブタである。
【0042】
更にもう1つの実施形態においては、雌ブタは2回のワクチン接種を受ける。雌動物への2回のワクチン接種は、初乳の摂取を介して最終的に子ブタに到達する抗体のレベルを増加させることが可能であり、そのような戦略は、成体動物を飼育する日常の実施において重大な問題を引き起こさない。そのような2回接種レジメンにおいては、最初(初回)のワクチン接種は、典型的には、分娩予定日の5~8週間前に行われ、3~4週間後に2回目のワクチン接種によって追加抗原刺激(ブースト)される。
【0043】
更にもう1つの好ましい実施形態においては、雌ブタは妊娠中に免疫化される。
【0044】
抗体レベルを適度な高さに(継続的に)維持するために、雌ブタは妊娠の間に適度なワクチン接種を受うると予想されるが、妊娠中に動物に(少なくとも1回)ワクチン接種することが有用であることが示されている。特に、妊娠雌ブタに分娩前の5~8週間の期間にワクチン接種し、次いで、特に、分娩予定日前の2~6週間の期間に追加免疫ワクチン接種を行うことが有用であることが示されており、どちらの場合も、典型的には、分娩予定日の少なくとも1~3週間前にワクチン接種を受ける。
【0045】
以前の妊娠中に既にワクチン接種を受けている雌ブタの場合、分娩予定日の1~4週間前に1回の再ワクチン接種が行われうる。
【0046】
もう1つの好ましい実施形態においては、前記使用のためのワクチンにおけるαRPベクターによってコードされるIAV-Sの抗原はHA抗原である。本明細書中の実施例は、能動的ワクチン接種によって雌ブタにおいて強力な赤血球凝集素抑制(HI)抗体応答を誘発して、妊娠雌ブタの血清および初乳において高レベルのこれらの抗体を生成させるために、IAV-SのHA抗原がワクチンにおいて有利に使用されうることを実証している。これらのHI抗体はそれらの後代子ブタに受動的に伝達されて、子ブタ血清において高レベルの(全身性)HI抗体価をもたらす。重要なことに、母体から獲得された抗体は、肺内のウイルス量と肺病変との両方の低減によって実証されるとおり、子ブタの肺における局所防御をも誘導しうる(乳汁免疫)。
【0047】
本発明の文脈においては、任意のIAV-SのHA抗原が使用可能であり、例えば、当技術分野で開示されているもの、例えば、IAV-S HA抗原のアミノ酸配列およびそのようなHA抗原をコードするヌクレオチド配列の多数を提供する公に利用可能な配列データベース[NCBI(インフルエンザデータベース)、インフルエンザ研究データベース(IRD)またはGenBank(GB)]において開示されているものが使用可能である。
【0048】
IAV-S HAの4つの主要系統のいずれかのHA抗原に特に関心が持たれる。これらの系統は、Scot/94 H1N2、EurAsianAvian H1N1、Gent1984 H3N2およびパンデミック(Pandemic)2009 H1N1(Watsonら,J.Virol.,89,9920-9931,2015,doi:10.1128/JVI.00840-15)と称される。前記使用のためのワクチンはこれらの系統のいずれかからのHA抗原を含みうる。
【0049】
Scot/94系統のHA抗原は任意の株のものであることが可能であり、例えば、A/ブタ/イタリア/3033-1/2015(H1N2)株またはA/ブタ/フランス/35-140041(H1N2)株からのものでありうる。好ましい実施形態においては、Scot/94系統のHA抗原はA/ブタ/イタリア/3033-1/2015(H1N2)株からのものである。もう1つの好ましい実施形態においては、HA抗原は、Scot/94参照株A/ブタ/イタリア/3033-1/2015(H1N2):GB# ALX30160.1のHA抗原に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0050】
EA系統のHA抗原は任意の株のものであることが可能であり、例えば、A/ブタ/デンマーク/101048-2/2011(H1N1)株、A/ブタ/イタリア/28762-3/2013(H1N1)株またはA/ブタ/フランス/44-120070/2012(H1N1)株からのものでありうる。好ましい実施形態においては、EA系統のHA抗原はA/ブタ/イタリア/28762-3/2013(H1N1)株からのものである。もう1つの好ましい実施形態においては、HA抗原は、EA参照株A/ブタ/イタリア/28762-3/2013(H1N1):GB# AKJ81667.1のHA抗原に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0051】
Gent/84系統のHA抗原は任意の株のものであることが可能であり、A/ブタ/イタリア/240849/2015(H3N2)株のものが好ましい。もう1つの好ましい実施形態においては、HA抗原は、Gent/84参照株A/ブタ/イタリア/240849/2015(H3N2):GB# ALX30415.1のHA抗原に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0052】
pdm09系統のHA抗原は任意の株のものであることが可能であり、A/ブタ/イングランド/373/2010(H1N1)株が好ましい。もう1つの好ましい実施形態においては、HA抗原は、pdm09参照株A/ブタ/イングランド/373/2010(H1N1):GB# AFR76205.1のHA抗原に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0053】
特に好ましい実施形態において、本発明において使用されるIAV-SのHA抗原は、表1(後記)に記載されているHA抗原のいずれかである。
【0054】
1つの実施形態においては、本発明は、2以上の別個のIAV-S抗原、特に、別個のHA抗原、より好ましくは、異なる系統からのHA抗原をコードする少なくとも1つのαRPベクターを含むことを特徴とする、前記使用のためのワクチンをも提供し、より一層好ましくは、前記の別個のHA抗原は、Scot/94 H1N2、EurAsianAvian H1N1、Gent1984 H3N2およびパンデミック2009 H1N1の群から選択される系統に属するIAV-S株のものである。
【0055】
この実施形態のより詳細な形態においては、ワクチンは、Scot/94 H1N2、EurAsianAvian H1N1、Gent1984 H3N2およびパンデミック2009 H1N1から選択される2つの系統に属するIAV-S株のHAタンパク質をコードする第1のαRPベクターと、その群の他の2つの系統に属するIAV-S株のHAタンパク質をコードする第2のαRPベクターとを含む。特に、ワクチンは、系統Scot/94 H1N2およびEurAsianAvian H1N1に属するIAV-S株のHAタンパク質をコードする第1のαRPベクターと、系統Gent1984 H3N2およびパンデミック2009 H1N1に属するIAV-S株のHAタンパク質をコードする第2のαRPベクターとを含む。
【0056】
前記の本発明による使用のためのワクチンの更にもう1つの有利な実施形態においては、薬学的に許容される担体は油と水とのエマルジョンアジュバントを含む。実施例は、ワクチン中の抗原の薬学的に許容される担体としての油と水とのエマルジョンアジュバントの存在が雌ブタとその子ブタ後代との両方におけるHI抗体価の生成に正の効果をもたらすことを実証している。
【0057】
エマルジョンは、油が連続的外相である油中水型(W/O)エマルジョンでありうる。好ましくは、エマルジョンは、油が分散内相である水中油型(O/W)エマルジョンである。乳化剤の適切な種類および濃度の選択によって標準的な乳化技術を用い、そのようなエマルジョンが形成され、安定に維持されうる(“Remington:the science and practice of pharmacy”,2000,Lippincot,USA,ISBN:683306472)、およびVeterinary Vaccinology,Pastoretら編,1997,Elsevier,Amsterdam,ISBN 0444819681)。
【0058】
油と水とのエマルジョンアジュバントは、好ましいO/Wエマルジョンの形態である場合、エマルジョンとαRPベクターとの混合を促進し、例えば、αRPベクターを含む水性または凍結乾燥組成物をO/Wエマルジョンと混合することによって、それが達成される。その場合、約1分間の手での単純な振とうで、それらの2つの水性組成物を適切に混合するのに十分である。
【0059】
より詳細な実施形態においては、油と水とのエマルジョンアジュバントは生分解性の鉱油または非鉱油を含みうる。好ましくは、鉱油は、流動パラフィン油[例えば、Drakeol(登録商標)6VR(Penreco)、Marcol(登録商標)52(Exxon Mobile)およびKlearol(登録商標)(Sonneborn)として一般的に入手可能なCAS番号:8042-47-5]である。好ましくは、生分解性の非鉱油は、スクアラン、スクアレン、ビタミンE、ビタミンE-アセタート、オレアートおよびオレイン酸エチルからなる群から選択され、ビタミンE-アセタートが最も好ましい。
【0060】
更にもう1つの実施形態においては、油と水とのエマルジョンアジュバントは生分解性の鉱油および/または非鉱油のうちの2以上を含み、好ましくは、油と水とのエマルジョンアジュバントは流動パラフィン油およびビタミンE-アセタートを含む。
【0061】
前記使用のためのワクチンにおいて有用なアジュバントの例として、以下のプロプライエタリ(専有的)O/Wアジュバントが挙げられる:(マイクロ)Diluvac Forte(商標)(dl-α-トコフェリルアセタートのW/Oエマルジョンに基づく)、XSolve(商標)[以下の2つのO/Wエマルジョンアジュバント成分の組合せ:ビタミンEアセタートに基づくDiluvac Forte(EP 382.271を参照されたい)および流動パラフィン油に基づくMicrosol(商標)(WO 2009/144.088を参照されたい)]、SVEA(商標)(スクアランおよびビタミンE-アセタートのW/Oエマルジョン、WO 2018/115.435)およびImpranFLEX(商標)(油中水型アジュバント)。
【0062】
本発明による使用のためのワクチンは、ワクチンの抗原によって誘発される免疫応答を増強する油エマルジョンアジュバントの免疫学的有効量を含む。1つの実施形態においては、ワクチンはワクチンの約10%~90%v/vの量の油エマルジョンアジュバントを含む。より好ましくは、ワクチンはワクチンの約20%~80%v/v、30~70%v/vまたは更には40~60%v/vの量の油アジュバントを含む。最も好ましくは、ワクチンはワクチンの約50%v/vの量の油アジュバントを含む。
【0063】
前記使用のためのワクチンは、子ブタ後代がIAV-Sによる病原性感染に対して防御されるように、αRPベクターの免疫学的有効量を含む。1つの実施形態においては、ワクチンは約1×103~約1×1011のRPを含む。より詳細な実施形態においては、ワクチンは約1×104~約1×1010のRPを含む。より一層詳細な実施形態においては、ワクチンは約1×105~約1×109のRPを含む。
【0064】
もう1つの実施形態においては、前記使用のためのワクチンは0.05ml~3mlの用量で投与される。より詳細な実施形態においては、投与される用量量は0.1ml~2mlである。更により詳細な実施形態においては、投与される用量は0.2~2mlである。
【0065】
本発明はまた、複数のブタ病原体に対する前記使用のためのワクチンを提供する。例えば、ワクチンはIAV-Sウイルス性および/または細菌性ブタ病原体以外の追加的な不活化、弱毒化またはサブユニット抗原を含みうる。そのようなブタ病原体の例には、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRS)、ブタサーコウイルス(PCV)、伝染性胃腸炎ウイルス(TGE)、ブタ仮性狂犬病ウイルス(PPRV)、ブタパルボウイルス(PPV)、ブタロタウイルス(PRV)、ブタ流行性下痢ウイルス(PED)、複数の血清型のパスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、サルモネラ属種(Salmonella spp.)、大腸菌(Escherichia coli)(例えば、血清型K99、K88、987PまたはF41)、ヘモフィルス・パラスイス(Haemophilus parasuis)、ローソニア・イントラセルラリス(Lawsonia intracellularis)、マイコプラズマ属種(Mycoplasma spp.)[例えば、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae)]、ボルデテラ・ブロンキセプチカ(Bordetella bronchiseptica)、エリシペラス属種(Erysipelas spp.)、カンピロバクター属種(Campylobacter spp.)、アクチノバチルス・プルロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae)、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)およびクロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)が含まれる。
【0066】
特に好ましい実施形態においては、ワクチンは大腸菌(E.coli)およびクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)の抗原を更に含む。
【0067】
本発明による使用のためのワクチンのもう1つの実施形態においては、ワクチンはブタのワクチン接種に一般的な経路によって、特に非経口投与によって投与される。これには、皮下注射、筋肉内注射および皮内注射が含まれ、筋肉内注射が好ましい。
【0068】
もう1つの態様においては、本発明は、雌ブタの能動免疫化による子ブタの受動免疫化によって雌ブタの子ブタ後代をIAV-Sによる病原性感染に対して防御するワクチンの製造のための、IAV-Sの抗原をコードするアルファウイルスRNAレプリコン粒子(αRP)ベクターの使用を提供する。この態様の特徴(の組合せ)の全ては前記で概説されているとおりである。
【0069】
更にもう1つの態様においては、本発明は、IAV-Sの抗原をコードするアルファウイルスRNAレプリコン粒子(αRP)ベクターを含むワクチンで雌ブタを能動的に免疫化することによって、雌ブタの子ブタ後代をIAV-Sによる病原性感染に対して受動免疫化するための方法を提供する。この態様の特徴(の組合せ)の全ては前記で概説されているとおりである。
【0070】
次に、以下の特定の実施例を用いて、本発明を更に例示することとする。
【0071】
実施例
実施例1 HA αRPベクターに基づくIAV-Sワクチンの製造
1.多重HA遺伝子αRPベクターの作製
HA遺伝子およびNA遺伝子を発現させるために使用するVEEレプリコンベクターを、既に記載されているもの(U.S.9,441,247、U.S.8,460,913、WO 2019/121513およびWO2019110481)に以下の改変を加えて構築した。TC-83由来レプリコンベクター「pVEK」を制限酵素AscIおよびPacIで消化した。二重遺伝子HA構築物に関しては、選択されたオープンリーディングフレーム配列をコドン最適化し、隣接するAscIおよびPacI部位を使用して合成した。更に、前記の2つの合成HAオープンリーディングフレーム間の介在配列は、47ヌクレオチドの非コード異種配列と、天然TC-83サブゲノム(sg)RNAプロモーターおよび5’非翻訳sgRNA領域配列の第2コピーとからなるものであった。これらの二重遺伝子構築物を、単一のsgRNAプロモーター配列を有する親ベクターからそれらを区別するために、「pVDG」と命名した。
【0072】
以下のレプリコン粒子を構築した。
【表1】
【0073】

【0074】
αRPベクターEUSIV-KおよびRP EUSIV-T8を使用して、2つの二重HA RPを含む多価IAV-Sワクチンの免疫原性および有効性を決定した。
【0075】
2.αRPベクターに基づくワクチンの製造
バッチ番号RP EUSIV-KおよびRP EUSIV-T8のフェノールレッドを含有するPBS 0.01Mに溶解したRP粒子を、Porcilis(登録商標)ColiClosワクチン(MSD Animal Health,Boxmeer,The Netherlandsから入手可能)中、X-Solve(登録商標)アジュバント[MSD Animal Health,Boxmeer,The Netherlandsから入手可能な、21% v/vの非代謝性油Marcol(登録商標)52と1.25% v/vの代謝性油ビタミンEアセタートとのO/Wエマルジョン]またはMicro Diluvac Forte(登録商標)アジュバント(7.5%の代謝性油ビタミンEアセタートのO/Wエマルジョン)と1:1(v/v)で混合した。Porcilis(登録商標)ColiClosワクチンは複数の大腸菌(E.coli)抗原(F4ab/F4ac/F5/F6線毛アドヘシン)およびクロストリジウム・パーフリンジェンス(C.perfringens)LTトキソイド抗原を含む。
【0076】
実施例2 インフルエンザウイルスに対する子ブタの乳汁/受動免疫防御
この実験は、50%(v/v)XsolveアジュバントまたはPorcilis(登録商標)ColiClosワクチン[マイクロDiluvac Forte(登録商標)アジュバント]と混合された多重遺伝子IAV-S HA RNA粒子によって誘導される、A型インフルエンザウイルスに対する子ブタの乳汁免疫防御を評価した。
【0077】
研究デザイン
8~10頭の子ブタを出産すると予想される12頭の健康な妊娠中の未経産雌ブタ[クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)C型および/または大腸菌(E.coli)に対して未だワクチン接種されておらず、IAV-Sに対する抗体レベルが無い/低い]を適切な商業的農場から購入した。分娩の6週間前および2週間前に未経産雌ブタの皮内(i.d.)または筋肉内(i.m.)にワクチン接種した(RP当たり510 RP/用量):表1。分娩の6週間前および2週間前(分娩の~週間前は~WPFと表示される)ならびに分娩の当日に全ての未経産雌ブタから血液サンプルを採集して、抗原特異的HI力価を測定した。また、分娩の当日に初乳サンプルを採集し、分娩の3日後に乳サンプルを採集した。
【0078】
子ブタ:約1週齢(WOA)(90頭)およびチャレンジの当日(88頭)に全ての子ブタから血液サンプルを採集して、抗原特異的HI力価を測定した。子ブタが約4 WOAに達したら、IAV-Sチャレンジ株A/ブタ/フランス/53-130065/2013(H1N1)(5mLのPBS中、ブタ1頭当たり10 TCID50)をそれらの気管内(i.t.)に接種した。同腹子当たり最大10頭の子ブタにチャレンジを行った。チャレンジの当日(すなわち、第0日)ならびにチャレンジの1、2および3日後にブタから鼻腔スワブを採取して、ウイルス排出を測定した。一部の子ブタ(24頭)をチャレンジの24時間後に解剖し、残り(61頭)をチャレンジの72時間後に解剖した。解剖時に肺病変を記録し、各ブタから6つの肺サンプル(左頭葉、中葉および尾葉からそれぞれ1つ、ならびに3つの対応右肺葉からそれぞれ1つ)を採取して、肺内のウイルス量を測定した。
【表2】
【0079】
実験手順
1.血清および初乳におけるIAV-S HI抗体力価
ワクチン接種されたブタの血清におけるHI力価をモニタリングすることにより、2つの二重HA遺伝子RPをそれらのインビボ機能に関して試験した。HA-RPに対して85%超のアミノ酸同一性を有する4つのIAV-S系統からの代表的なIAV-S株をHI試験に使用した。表2には、系統および株名の隣に、それぞれのワクチン成分に対するHI力価の定量に使用したIAV-S株のクレード分類およびアミノ酸同一性(%)が記載されている。ブタ血清サンプルにおけるIAV-S特異的抗体を標準的な方法によるHI試験によって測定した。簡潔に説明すると、非特異的インヒビターを除去するために、血清を過ヨウ素酸塩で前処理した。次いで、前処理した血清を2倍段階希釈し、インフルエンザウイルス株と共にインキュベートした(表2)。インキュベーション工程の後、ニワトリの赤血球を加え、インキュベートし、プレートの赤血球凝集抑制を測定した。赤血球凝集を完全に抑制する最高血清希釈度の逆数をHI力価として割り当て、対数底2(log base 2 value)の値で表した。
【表3】
【0080】
2.血清および初乳における大腸菌(Escheria coli)に対する抗体価
ワクチン中の大腸菌抗原(K88ab、K88ac、K99、987PおよびLT型)に対する血清における抗体価を、標準的な手順に従い、ELISAによって測定した。
【0081】
3.血清および初乳におけるクロストリジウム・パーフリンジェンスに対する抗体価
クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)C型ベータ毒素に対する血清における抗体価を、標準的な手順に従い、ELISAによって測定した。
【0082】
4.臨床サンプルにおけるウイルス定量
鼻腔スワブおよび肺組織を、元の鼻腔スワブおよび20% 肺組織ホモジネートサンプルの段階希釈によって、感染力価に関して試験した。動物1頭当たり2つの肺ホモジネート(一方は、左頭葉、中葉および尾葉から採取された等量のサンプルをプールすることによって調製されたものであり、他方は、対応する右肺葉から調製されたものである)を試験した。簡潔に説明すると、サンプルをIAV-S感染培地で10倍段階希釈した。各希釈液をコンフルエントMDCK単層の3つのレプリケートウェル上に接種した。プレートを37℃、5% COで4日間インキュベートし、上清中のウイルスの存在を赤血球凝集によって検出した。IAV-S力価を、Spearman-Karber法を用いて、1mL当たりのlog10 TCID50として計算した。
【0083】
5.巨視的肺評価
ブタインフルエンザを示す巨視的肺病変を、肺葉当たりの異常肺組織の割合に基づいてスコア化し、加重スコアを、肺葉の相対重量に従い、7つの肺葉のそれぞれに割り当てた。
【0084】
結果
1.未経産雌ブタの血清、初乳および乳におけるIAV-S血球凝集抑制力価
分娩の6週間前および2週間前(WPF)ならびに分娩の当日(FD)に全ての未経産雌ブタから血液サンプルを採取して、抗原特異的HI力価を測定した。分娩の当日に初乳サンプルを採取し、分娩の3日後に乳サンプルを採取した。試験したIAV-Sワクチン(EUSIV-T8およびEUSIV-Kに基づくもの)は血清、初乳および乳におけるそれぞれの系統からの全ての代表的な異種株に対してHI力価を誘導した。(未経産雌ブタの血清におけるIAV-S HI力価は8log EurAsian、9log Gent84、11log パンデミック、5log Scot94 Clu1および7log 対Scot94 Clu2)。未経産雌ブタのEU IAV-S株に関する群ごとの測定された平均HI力価および標準偏差を図1に示す。一般に、IAV-Sワクチンは、XSolve50アジュバントと混合され適用された場合には、Porcilis(登録商標)ColiClosアジュバントと混合され適用された場合より高いHI力価を、4つ全てのIAV-S株に対して誘導した。更に、筋肉内経路によるIAV-Sワクチンの投与は、筋肉内経路によって投与された場合より高いHI力価を誘導することが観察された。
【0085】
2.子ブタの血清におけるIAV-S赤血球凝集抑制力価
約1週齢およびチャレンジの当日(約4WOA)に全ての子ブタから血液サンプルを採取した。後代におけるそれぞれの系統からの全ての代表的な異種株に対するHI力価を約1週齢およびチャレンジの当日に測定した。未経産雌ブタの血清におけるIAV-S HI力価の場合と同様に、IAV-SワクチンXsolve50アジュバントでワクチン接種された未経産雌ブタの後代は、3つ全ての試験群のなかで、全ての系統に対して最高のHI力価を示し、それに続くものは、Porcilis(登録商標)Coliclosワクチンと混合されたIAV-Sワクチンの、筋肉内経路による投与を受けた群、およびXsolve50アジュバントと混合されたIAV-Sワクチンの、皮内経路による投与を受けた群であった。更に、1週齢で採取された血清における抗体力価は、4WOAで採取された血清のものよりも高かった。1WOAで測定されたIAV-S HI抗体力価(EA系統)の要約を図1に示す。
【0086】
3.血清における大腸菌(E.coli)およびクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)C型に対する子ブタにおける抗体力価
子ブタの血清サンプルを、5つの大腸菌(E.coli)の5つの抗原およびクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)に対する抗体力価に関して、群1および群4(それぞれ、Porcilis(登録商標)ColiClosと組合されたIAV-Sワクチン、またはPorcilis(登録商標)ColiClosワクチンのみを使用した)の約1週齢およびチャレンジの当日に試験した。約1WOAおよび4WOA(チャレンジの当日)に、全ての子ブタから血液サンプルを採取した。
【0087】
Porcilis(登録商標)ColiClosワクチンが単独で又はIAV-Sワクチンと組合せて投与された未経産雌ブタの子ブタの血清サンプルは、その他の実験群と比較された場合、全ての大腸菌(E.coli)型に対する最高の抗体力価を示した。一般に、Porcilis(登録商標)ColiClosが単独で投与された群と、IAV-Sワクチンと組合せて投与された群との間で、測定された大腸菌(E.coli)抗体力価における顕著な差は観察されなかった。更に、1週齢で採取された血清における抗体力価は、4WOAで採取された血清のものより高かった。
【0088】
Porcilis(登録商標)ColiClosワクチンが単独で又はIAV-Sワクチンと組合せて投与された未経産雌ブタの子ブタの血清サンプルは、その他の実験群と比較された場合、全ての大腸菌(E.coli)型に対する最高の抗体力価を示した。一般に、Porcilis(登録商標)ColiClosが単独で投与された群と、IAV-Sワクチンと組合せて投与された群との間で、測定されたクロストリジウム・パーフリンジェンス(C.perfringens)抗体力価における顕著な差は観察されなかった。更に、1週齢で採取された血清における抗体力価は、4WOAで採取された血清のものより高かった。
【0089】
4.IAV-Sチャレンジ後の子ブタにおける肺病変に対する防御
ワクチン接種された未経産雌ブタの4週齢の後代をIAV-S EA系統A/ブタ/フランス/53-130065/2013(H1N1)株に気管内感染させ、感染の1日後または3日後に解剖して、IAV-S感染によって誘発された肺病変を評価した。感染の3日後に評価された肺病変スコアを図2に要約する。IAV-Sワクチンが単独で又はPorcilis(登録商標)ColiClosワクチンと組合せて投与された未経産雌ブタの全後代は、IAV-Sワクチンが接種されなかった群と比較して低いLLSを有することを、データは示した。IAV-SワクチンがXSolve50アジュバントと共に筋肉内経路で投与された群(群2)の後代が最低の肺病変スコアを示し、それに続くものは、IAV-SワクチンがXsolve50アジュバントと共に皮内経路で投与された群(群3)、またはIAV-SワクチンがPorcilis(登録商標)ColiClosと共に投与された群(群1)であった。
【0090】
5.IAV-Sチャレンジ後の子ブタの肺におけるウイルス量の減少
感染の3日後の肺ホモジネートから得られた測定力価データを図3に要約する。IAV-Sワクチンが単独で又はPorcilis(登録商標)ColiClosワクチンと組合せて投与された未経産雌ブタの全後代においては、IAV-Sワクチンが接種されなかった群と比較して、肺ホモジネートにおけるウイルスのレベルが低いことを、データは示した。IAV-SワクチンがXSolve50アジュバントと共に筋肉内経路で投与された群(群2)の後代が肺ホモジネートにおける最低のウイルス量を示し、それに続くものは、IAV-SワクチンがXsolve50アジュバントと共に皮内経路で投与された群(群3)、またはIAV-SワクチンがPorcilis(登録商標)ColiClosと共に投与された群(群1)であった。
【0091】
結論
IAV-S RP(EUSIV-T8およびEUSIV-K)ワクチンはそれぞれの系統からの全ての試験された代表的な異種IAV-S株に対して高い血清および初乳HI力価を誘導した。未経産雌ブタの血清、初乳および子ブタ血清におけるHI力価間の直接的な相関性が観察された。IAV-Sワクチンは、Porcilis(登録商標)ColiClosの代わりにXSolve50アジュバントと混合され適用された場合、4つ全てのIAV-S株に対して、より高いHI力価を誘導した。5つ全ての大腸菌(Escheria coli)型およびクロストリジウム(Clostridium)β毒素に対する、Porcilis(登録商標)ColiClosによって誘導される抗体力価の大きさは、それがIAV-S RPワクチンと組合せて適用された場合、影響を受けなかった。IAV-Sワクチンの適用の筋肉内経路は、皮内経路と比較して、4つ全ての株に対して、より高いHI力価(血清および初乳の両方において)を誘導した。子ブタの血清において測定されたHI力価は肺における病変およびウイルス量の低減と相関した。
【0092】
実施例3 ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)に対する子ブタの乳汁/受動免疫防御
この実験は、Xsolve50アジュバント中のPEDVスパイク糖タンパク質遺伝子をコードするRNA粒子でのワクチン接種によって誘導される、PEDVに対する子ブタの乳汁/受動免疫防御を評価した。
【0093】
研究デザイン
PEDVスパイク糖タンパク質遺伝子をコードするRNA粒子(VEEV株TC-83由来のレプリコン構築物に基づくアルファウイルスRNA RPを含む凍結乾燥T9 RNAに基づくワクチン)を、血清学的および臨床的にPEDを有さない24頭の経産雌ブタに、分娩の8、4および2週間前に筋肉内ワクチン接種した。これは、US病原性PEDV株AH2012(GenBankアクセッション番号KC210145を参照されたい)のスパイクタンパク質のコード配列を含むように構築された。用量当たり1mLを、使用時に50%となるようにX-Solveと混合した。ブタを3~5日齢でCO/2013株(ブタ1頭当たり10 TCID50)でITチャレンジした。
【表4】
【0094】
結果
このワクチンは3回のワクチン接種の後で中等度(80~160)の血清PED中和(PED SN)力価を誘導した(図4)。PEDV血清中和力価を測定するために、FFN(蛍光焦点中和)アッセイが用いられる。ワクチン接種された経産雌ブタから産まれた子ブタは、チャレンジ前の時点で、PEDチャレンジ株に対するPED母体由来抗体(80~640)を有していた(図5)。
【0095】
結論
しかし、経産雌ブタにおけるSN抗体の生成およびそれらの子ブタへの移行にも関わらず、該ワクチンは飲乳子ブタをPED誘発性死亡から防御しなかった(表5および図6)。
【表5】
【0096】
実施例4 インフルエンザウイルスに対する子ブタの乳汁/受動免疫防御
実施例2に完全に対応して、この実験は、多胎産雌ブタにワクチン接種すること、および受動防御を実証することによって、50%(v/v)Xsolveアジュバントと混合された多重遺伝子IAV-S HA RNA粒子によって誘導される、A型インフルエンザウイルスに対する子ブタの乳汁免疫防御を評価した。ただし、この場合は、6WOAにおいて、別のIAV-Sチャレンジ株、すなわち、A/ブタ/ベルギー/113/2013(H3N2)に対する防御を評価した。
【表6】
【0097】
図7は、チャレンジの1日後または3日後に測定された子ブタの加重肺病変スコア(LLS)および平均±SDを示す。平均値±SDは、それぞれ6頭の同腹子に属する15頭の動物に基づくものであった。1群当たり6頭の経産雌ブタを分娩の6週間前および2週間前にワクチン接種に付し、またはワクチン未接種対照として用いた。産まれた後代に6WOAでA/ブタ/ベルギー/113/2013(H3N2)IAV-Sに感染させ、感染の1日後または3日後にそれらを解剖して、肺病変スコアを評価した。
【表7】
【0098】
図8は、チャレンジの1日後または3日後に採取された子ブタの肺組織のIAV-S力価および平均±SDを示す。平均値±SDは、それぞれ6頭の同腹子に属する1群当たり15頭の動物に基づくものであった。1群当たり6頭の経産雌ブタを分娩の6週間前および2週間前にワクチン接種に付し、またはワクチン未接種対照として用いた。産まれた後代に6WOAでA/ブタ/ベルギー/113/2013(H3N2)IAV-Sに感染させ、感染の1日後または3日後にそれらを解剖して、肺内のウイルス量を測定した。
【0099】
チャレンジ株に対する良好な免疫応答および防御が誘導されることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】