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特表2024-536625癌の治療および予防のためのmiRNAの組み合わせ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】癌の治療および予防のためのmiRNAの組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20240927BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61P35/00
A61P43/00 121
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542234
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2022076873
(87)【国際公開番号】W WO2023052372
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】21306343.1
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504217063
【氏名又は名称】サントル レオン ベラール
(71)【出願人】
【識別番号】500034033
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ
(71)【出願人】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】517074989
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】コセ,エリカ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、癌の予防および/または治療のための、特に神経膠芽腫の治療のための、miR-17ミミックとmiR-340ミミックとの組み合わせに関する。特に、前記組み合わせは追加でmiR-222アンタゴミルを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の予防および/または治療に用いるための、miR-17ミミックとmiR-340ミミックとの組み合わせ。
【請求項2】
前記組み合わせが追加でmiR-222アンタゴミルを含む、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項3】
前記組み合わせが追加でmiR-221アンタゴミルおよび/またはmiR-551bミミックを含む、請求項1または2のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項4】
miR-17ミミックがmiR-17-3pミミックである、請求項1-3のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項5】
miR-340ミミックがmiR-340-5pミミックである、請求項1-4のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項6】
miR-222アンタゴミルが、miR-222-5pアンタゴミルおよびmiR-222-3pアンタゴミルから選択される、請求項2-5のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項7】
miR-221アンタゴミルが、miR-221-3pアンタゴミルおよびmiR-221-5pアンタゴミルから選択され、かつ/またはmiR-551bミミックがmiR-551b-5pミミックである、請求項3-5のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項8】
脳腫瘍、髄芽腫、網膜芽細胞腫、神経鞘腫、神経芽細胞腫、メラノーマ、非小細胞肺癌、膵癌、乳癌、肝細胞癌および腎芽腫から選択される癌の予防および/または治療のための、請求項1-7のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項9】
脳腫瘍が、星細胞種、乏突起神経膠腫、髄膜腫、神経膠腫および神経膠芽腫から選択される、請求項8に記載の組み合わせ。
【請求項10】
神経膠芽腫の予防および/または治療のための、請求項1-9のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項11】
mesenchymal、proneural、neural、およびclassicalのうち1つ以上のサブタイプの神経膠芽腫の予防および/または治療のための、請求項10に記載の組み合わせ。
【請求項12】
miR-17ミミック、miR-340ミミック、および場合によりmiR-222アンタゴミル、miR-221アンタゴミルおよび/またはmiR-551bミミックが順次投与される、請求項1-11のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項13】
miR-17ミミック、miR-340ミミック、および場合によりmiR-222アンタゴミル、miR-221アンタゴミルおよび/またはmiR-551bミミックが同時に投与される、請求項1-11のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項14】
前記組み合わせが医薬組成物に配合される、請求項1-10および13のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項15】
前記医薬組成物が経静脈投与、経口投与または皮下投与される、請求項14に記載の組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の予防および/または治療に用いるための、特に神経膠芽腫の治療に用いるための、miR-17ミミック(mimic)とmiR-340ミミックとの組み合わせに関する。特に、前記組み合わせは追加でmiR-222アンタゴミル(AntagomiR)を含む。
【背景技術】
【0002】
神経膠芽腫(GBM)はグレードIVの星細胞腫であり、致死性の悪性脳腫瘍で、かつ成人における最も一般的な原発性脳腫瘍の1つである。今日において、外科手術、放射線治療、およびテモゾロミドによる化学療法が依然としてGBM患者におけるケアの標準である(Stupp, et al. (2005). Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma. N Engl J Med 352: 987-996)。しかしながら、GBM患者の全生存期間の中央値(約14か月)は、ここ15年にわたって劇的には変化していない。大規模の遺伝的プロファイリングおよびトランスクリプトームプロファイリングにおける大きな取り組みが、GBM患者の特徴付け、および4つのサブタイプ:Classical、Mesenchymal、Proneural、およびNeural(最近削除された)への階級化を可能にした(Verhaak, RGet al. (2010). Integrated genomic analysis identifies clinically relevant subtypes of glioblastoma characterized by abnormalities in PDGFRA, IDH1, EGFR, and NF1. Cancer Cell 17: 98-110.; Brennan, CW, et al. (2013). The somatic genomic landscape of glioblastoma. Cell 155: 462-477.; Freije, WAet al. (2004). Gene expression profiling of gliomas strongly predicts survival. Cancer Res 64: 6503-6510)。それにも関わらず、これらのビッグデータ解析は未だ、プレシジョンメディシンの進歩を達成するための新たな治療戦略および新たな創薬標的分子を照らし出すに至っていない。
【0003】
miRNAは20から22の塩基からなる小さなノンコーディングRNAであり、RNA干渉のプロセスを通して、遺伝子発現の翻訳後調節に関与している(Bartel, DP, et al. (2004). Micromanagers of gene expression: the potentially widespread influence of metazoan microRNAs. Nat Rev Genet 5: 396-400.; Lee, Y, et al. (2002). MicroRNA maturation: stepwise processing and subcellular localization. EMBO J 21: 4663-4670.; Tomari, Y, et al. (2005). MicroRNA biogenesis: drosha can't cut it without a partner. Curr Biol 15: R61-64)。miRNA遺伝子はRNAポリメラーゼIIにより転写され、転写物pri-miRNAを形成する。これらのpri-miRNAはDrosha(クラス2 RNaseIII酵素)によって加工され、およそ70塩基からなる前駆体産物pre-miRNAを産出する。最終的に、pre-miRNAは細胞質へ輸送され、ここで加工を受けて、成熟型の約20塩基のmiRNAを生成する。このmiRNAはRISC複合体(RNaseIIIファミリーのエンドリボヌクレアーゼ)に組み込まれ、そして相補的な標的mRNAに結合したとき二重鎖RNAを形成する。結果として、miRNA構造のループ末端の切断により5p鎖および3p鎖が生成される。5pおよび3pはそれぞれ、これらのmiRNAがpre-miRNAのヘアピン構造の5’末端または3’末端のいずれに由来するかを表す。遺伝的実験および機能的実験に基づいて、ヒトにおけるmiRNA活性は主に5p鎖によるものとされた。実際、RISCにおいて3p鎖ははるかに少なく、また素早く取り除かれる。標的mRNAに対するmiRNAの相補性に依存して、RISC複合体はmRNAの翻訳を阻害し、またはmRNA分解を引き起こす(Tomari, Y, et al. (2005). MicroRNA biogenesis: drosha can't cut it without a partner. Curr Biol 15: R61-64.; Zhang, H, et al. (2004). Single processing center models for human Dicer and bacterial RNase III. Cell 118: 57-68)。最近の計算的な予測と一貫して、それぞれのmiRNAは約200の標的遺伝子を調節する可能性を持っている。したがって、miRNAの媒介する遺伝子調節は現在、生物学的プロセスにおいて重要な役割を持っていると考えられている(Lewis, BP, et al.(2005). Conserved seed pairing, often flanked by adenosines, indicates that thousands of human genes are microRNA targets. Cell 120: 15-20)。
【0004】
miRNAは腫瘍生成の間異常な発現を受け、また、miRNAをコードする遺伝子は、哺乳類の癌において、獲得されたり失われたりする領域中の、脆弱な部位に位置することが多い(Calin, GA, et al. (2004). Human microRNA genes are frequently located at fragile sites and genomic regions involved in cancers. Proc Natl Acad Sci U S A 101: 2999-3004)。
【0005】
miRNAはきわめて重要な様々な細胞内プロセスにおいて決定的役割を果たしているため、癌の個別化治療におけるmiRNAの利用は非常に魅力的である。
【0006】
しかし、GBMの病原性の新たなドライバー、およびGBM治療戦略のための臨床的かつ生物学的に適切なmiRNAを特定するため、明らかにさらなる研究が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の発明者は、GBMのマルチターゲット治療戦略のため用い得る、臨床的に適切なmiRNAとして、miR-17およびmiR-340を特定した。発明者は、インビトロおよびインビボで、miR-17およびmiR-340の異所性発現が腫瘍の病原性を阻害することを発見した。
【0008】
発明者はまた、インビトロおよびインビボで、miR-17、miR-340およびmiR-222の組み合わせが、GBMの全てのサブタイプにおいて、腫瘍成長の規則的かつ顕著な阻害を示すことも発見した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
したがって本発明は、癌の予防および/または治療に用いるためのmiR-17ミミックとmiR-340ミミックとの組み合わせに関する。
【0010】
特に、前記組み合わせは追加でmiR-222アンタゴミルを含む。
【0011】
より詳細には、前記の組み合わせは追加でmiR-221アンタゴミルおよび/またはmiR-551bミミックを含む。
【0012】
本明細書で用いられる“組み合わせ”という用語は、複数の構成要素を含む組成物を表す。“組み合わせ”という用語の使用は、組成物の様々な構成要素の相対的な含量を制限するものではなく、構成要素は等モル比、等重量比または異なるモル比または異なる重量比で含まれてもよい。
【0013】
したがって、下記の組み合わせ:
miR-17ミミックおよびmiR-340ミミックの組み合わせ;
miR-17ミミック、miR-340ミミックおよびmiR-222アンタゴミルの組み合わせ;
miR-17ミミック、miR-340ミミックおよびmiR-221アンタゴミルの組み合わせ;
miR-17ミミック、miR-340ミミック、miR-222アンタゴミルおよびmiR-221アンタゴミルの組み合わせ;
miR-17ミミック、miR-340ミミックおよびmiR-551bミミックの組み合わせ;
miR-17ミミック、miR-340ミミック、miR-222アンタゴミルおよびmiR-551bミミックの組み合わせ;
miR-17ミミック、miR-340ミミック、miR-221アンタゴミルおよびmiR-551bミミックの組み合わせ;
miR-17ミミック、miR-340ミミック、miR-222アンタゴミル、miR-221アンタゴミルおよびmiR-551bミミックの組み合わせ
は、本発明の範囲内である。
【0014】
前記のように、miRNAは20-22塩基からなる小さなノンコーディングRNAであり、RNA干渉のプロセスを通して遺伝子発現の翻訳後調節に関与する。
【0015】
本明細書において、“microRNA”または“miRNA”または“miR”という用語は、遺伝子発現の翻訳調節および/または翻訳後調節において機能する小さなノンコーディングRNAを表すため、互換的に用いられる。様々な実施形態において、miRNAは、ガイド鎖およびパッセンジャー鎖へと加工される二重鎖を含むヘアピン構造を持つ。
【0016】
本明細書で用いられる“miR”という用語は、前記miRNAのいかなるアイソフォームも含み、かつ前記miRNAファミリーの全てのメンバーを含む。したがって“miRNA”という用語はスター配列(star-sequences)およびファミリーメンバーを含む。特に、本発明のmiRNAはヒトmiRNA、すなわちhsa-miRNAである。
【0017】
miRNAの命名法は依然として一貫性を欠いている。しかしながら、姉妹mRNAをエンコードする遺伝子を命名するため、アルファベットの接尾辞が用いられる(例えばmiR-17aおよびmiR-17b)。そして、同一の成熟miRNAが複数の異なる遺伝子座から産生される場合は、miRNAの末尾に数字の接尾辞が用いられる(例えばmiR-17a-1およびmiR-17a-2)。2つの成熟miRNAがそれぞれの遺伝子座で、一方は5’鎖から、他方は3’鎖から生産される可能性もある(例えばmiR-17a-3pおよびmiR-17a-5p)。留意すべきこととして、ふつう一方の鎖(ガイド鎖と呼ばれる)が他方(パッセンジャー鎖と呼ばれる)より優勢であり、そして生理活性がより高い。
【0018】
本発明のmiRのRNA配列は、例えばmiRBase(https://www.mirbase.org/index.shtml)において、一般に公開されている。
【0019】
特に、miR-17はmiR-17-3p、miR-17-5p、miR-17-*のいずれをも包含し、より詳細にはmiR-17-3pを包含し、そしてmiR-17は以下のRNA配列:
-配列番号1(miR-17): GUCAGAAUAAUGUCAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAGUGAUAUGUGCAUCUACUGCAGUGAAGGCACUUGUAGCAUUAUGGUGAC;
-配列番号2(miR-17-3p):ACUGCAGUGAAGGCACUUGUAG;
-配列番号3(miR-17-5p): CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG
を含む。
【0020】
特に、miR-340はmiR-340-5p、miR-340-3p、miR-340-*のいずれをも包含し、より詳細にはmiR-340-5pを包含し、そしてmiR-340は以下のRNA配列:
配列番号4(miR-340):UUGUACCUGGUGUGAUUAUAAAGCAAUGAGACUGAUUGUCAUAUGUCGUUUGUGGGAUCCGUCUCAGUUACUUUAUAGCCAUACCUGGUAUCUUA;
配列番号5(miR-340-5p):UUAUAAAGCAAUGAGACUGAUU;
配列番号6(miR-340-3p):UCCGUCUCAGUUACUUUAUAGC
を含む。
【0021】
特に、miR-222はmiR-222-5p、miR-222-3p、miR-222-*のいずれをも包含し、より詳細には、miR-222は以下のRNA配列:
配列番号7(miR-222):GCUGCUGGAAGGUGUAGGUACCCUCAAUGGCUCAGUAGCCAGUGUAGAUCCUGUCUUUCGUAAUCAGCAGCUACAUCUGGCUACUGGGUCUCUGAUGGCAUCUUCUAGCU;
配列番号8(miR-222-5p):CUCAGUAGCCAGUGUAGAUCCU;
配列番号9(miR-222-3p):AGCUACAUCUGGCUACUGGGU
を含む。
【0022】
特に、miR-221はmiR-221-5p、miR-221-3p、miR-221-*のいずれをも包含し、より詳細には、miR-221は以下のRNA配列:
配列番号10(miR-221):UGAACAUCCAGGUCUGGGGCAUGAACCUGGCAUACAAUGUAGAUUUCUGUGUUCGUUAGGCAACAGCUACAUUGUCUGCUGGGUUUCAGGCUACCUGGAAACAUGUUCUC;
配列番号11(miR-221-5p):ACCUGGCAUACAAUGUAGAUUU;
配列番号12(miR-221-3p):AGCUACAUUGUCUGCUGGGUUUC
を含む。
【0023】
特に、miR-551bはmiR-551b-5p、miR-551b-3p、miR-551b-*のいずれをも包含し、より詳細には、miR-551bは以下のRNA配列:
配列番号13(miR-551b):AGAUGUGCUCUCCUGGCCCAUGAAAUCAAGCGUGGGUGAGACCUGGUGCAGAACGGGAAGGCGACCCAUACUUGGUUUCAGAGGCUGUGAGAAUAA;
配列番号14(miR-551b-5p):GAAAUCAAGCGUGGGUGAGACC;
配列番号15(miR-551b-3p):GCGACCCAUACUUGGUUUCAG
を含む。
【0024】
既報で説明されたように、過剰に発現されたmiRNAは“発癌”作用をもたらすことが報告された一方で、ダウンレギュレートされたmiRNAは“癌抑制”作用を示した。miRNA特異的な変化は、“ミミック”または“アンタゴミル”と表される、それぞれ標的miRNAのアップレギュレーションあるいはダウンレギュレーションを引き起こすオリゴヌクレオチド配列を用いることで、特異的に標的とすることができる。そこで発明者は、腫瘍において変化したmiRNAを特定することで、癌患者、特にGBM患者の個別化医療のための標的治療法を開発することができた。
【0025】
ここで発明者は、癌の予防および/または治療のための、ミミックとして働く核酸、および場合によりアンタゴミルとしても働く核酸の組み合わせを特定した。
【0026】
本明細書で、miR-17ミミック、miR-340ミミックおよびmiR-551bミミックに対して用いられる“ミミック”は、これらのmiRNAを模して設計された小さい、合成の、二重鎖RNA分子であって、そして前記のように、標的miRNAのアップレギュレーションを引き起こすことができるRNA分子を表す。ミミックは前記miRの細胞内における機能を向上させ、あるいは置き換え、そして、ミミックの模倣するmiRNAによって発現がダウンレギュレートされる遺伝子産物の発現を阻害することができる。miRNAミミックのテクノロジーはmiRNA機能獲得(miRNA-gain-of-function)戦略に属する。この戦略は、内因性miRNAを、そのmiRNAの標的に特異的に結合できるように模倣し、これによって標的遺伝子の翻訳阻害を引き起こすため用いられる。
【0027】
このような分子は当業者に知られており、かつ市販されており、また例えばLife technologies という会社から購入される。
【0028】
DNAベースのmiRNAミミック、RNAベースのmiRNAミミック、miRNAまたはその前駆体をコードするポリヌクレオチドが例として挙げられ得る。
【0029】
DNAベースのmiRNAミミックは、成熟miRNAまたはそれと機能的に同等なバリアントの配列のDNA版を含むDNAオリゴヌクレオチドに相当する。
【0030】
RNAベースのmiRNAミミックは、二重鎖RNAであって、一方の鎖の配列が成熟miRNAの配列またはそれと機能的に同等なバリアントの配列を含む、RNAベースのミミックに相当する。
【0031】
ある実施形態において、miRNAミミックは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの活性、細胞内分布または細胞内取込を強める1つ以上の部分と接合される。miRNAミミックが、鎖内の塩基対形成によって安定化された一本鎖RNAポリヌクレオチドを含むDNAベースまたはRNAベースのmiRNAミミックであるとき、部分は5’末端あるいは3’末端に接合されてもよい。miRNAが、RNAベースでありかつ二重鎖であるときは、部分はパッセンジャー鎖の5’末端、ガイド鎖の3’末端、ガイド鎖の5’末端およびガイド鎖の3’末端に接合されてもよい。
【0032】
本明細書で用いられる“ガイド鎖”は、miRNAの一本鎖の核酸分子であって、標的mRNAと(例えば、5’非翻訳領域、コーディング領域、または3’非翻訳領域において)ハイブリダイズし、そしてその翻訳を減少させるかまたは阻害するため、標的mRNAの配列と十分相補的な配列を持つ分子を表す。パッセンジャー鎖は“アンチセンス鎖”とも呼称される。
【0033】
本明細書で用いられる“パッセンジャー鎖”は、miRNAのオリゴヌクレオチド鎖であって、ガイド鎖の配列と相補的あるいは実質的に相補的な配列を持つものを表す。ある実施形態においては、パッセンジャー鎖は標的RNAに(例えば、5’非翻訳領域、コーディング領域、または3’非翻訳領域において)ハイブリダイズすることでmRNAを標的とし、その翻訳を減少させるかまたは阻害する場合がある。パッセンジャー鎖は“センス鎖”とも呼称される。
【0034】
このような、ある実施形態において、部分はコレステロール部分または脂質部分である。接合させる追加の部分は、炭水化物、リン脂質、ビオチン、フェナジン、葉酸、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、および色素を含む。ある実施形態においては、接合される基がオリゴヌクレオチドに直接結合される。ある実施形態においては、接合される基が、アミノ、ヒドロキシ、カルボン酸、チオール、不飽和結合(例えば二重または三重結合)、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸(ADO)、(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸N-ヒドロキシコハク酸イミドエステル(SMCC)、6-アミノヘキサン酸(AHEXまたはAHA)、置換されたCI-CIOアルキル、主鎖炭素数2-10の置換されたアルケニルまたは置換されていないアルケニル、および主鎖炭素数2-10の置換されたアルキニルまたは置換されていないアルキニルから選択されるリンカー部分によってオリゴヌクレオチドに結合される。このような、ある実施形態においては、置換基がヒドロキシ、アミノ、アルコキシ、カルボキシ、ベンジル、フェニル、ニトロ、チオール、チオアルコシキ、ハロゲン、アルキル、アリール、アルケニルおよびアルキニルから選択される。
【0035】
ある実施形態においては、miRNAミミックがキャップ構造で修飾される。この末端修飾はオリゴヌクレオチドをエキソヌクレアーゼによる分解から守り、細胞内での輸送および/または局在化を補助することができる。キャップは5’末端(5’キャップ)または3’末端(3’キャップ)に存在することがあり、あるいは両方の末端に存在し得る。キャップ構造は、例えば反転デオキシ脱塩基キャップ(inverted deoxy abasic cap)を含む。適切なキャップ構造は、4',5'-メチレンヌクレオチド、1-(β-D-エリスロフラノシル)ヌクレオチド、4'-チオヌクレオチド、炭素環ヌクレオチド(carbocyclic nucleotide)、1,5-アンヒドロヘキシトールヌクレオチド、L-ヌクレオチド、α-ヌクレオチド、塩基修飾ヌクレオチド、チオリン酸結合、スレオペントフラノシルヌクレオチド、非環式3',4',-セコ-ヌクレオチド、非環式3,4-ジヒドロキシブチルヌクレオチド、非環式3,5-ジヒドロキシペンチルヌクレオチド、3'-3'-反転ヌクレオチド部分、3'-3'-反転脱塩基部分、3'-T-反転ヌクレオチド部分、3'-T-反転脱塩基部分、リン酸1,4-ブタンジオール、3'-ホスホロアミダート、リン酸ヘキシル、リン酸アミノヘキシル、3'-リン酸、3'-ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、架橋メチルホスホン酸部分、および非架橋メチルホスホン酸部分、リン酸5'-アミノアルキル、リン酸1,3-ジアミノ-2-プロピル、リン酸3-アミノプロピル、リン酸6-アミノヘキシル、リン酸1,2-アミノドデシル、リン酸ヒドロキシプロピル、5'-5'-反転ヌクレオチド部分、5'-5'-反転脱塩基部分、5'-ホスホロアミダート、5'-ホスホロチオエート、5'-アミノ、架橋5'-ホスホロアミダートおよび/または非架橋5'-ホスホロアミダート、ホスホロチオエート、および5'-メルカプト部分を含む。
【0036】
好ましい実施形態において、本発明の組成物の一部を形成するミミックは、ヒトmiRNAを模倣する。ヒトmiRNA分子は、ヒトの細胞、組織または臓器中に見られるmiRNA分子である。ヒトmiRNA分子は、ヌクレオチドの置換、欠失および/または追加によって内因性ヒトmiRNA分子から誘導されるmiRNAであってもよい。
【0037】
本発明でmiR-222アンタゴミルおよびmiR-221アンタゴミルに用いられる“アンタゴミル”は、これらのmiRNAに特異的に結合し、かつこれらのmiRNAの機能を阻害するように設計された、小さい、人工合成の、一本鎖のRNA分子であり、かつ、前記のように、標的miRNAのダウンレギュレートを引き起こすことができるRNA分子を表す。アンタゴミルはmiRNAアプローチのアンチセンス阻害を示す。標的miRNAに結合することで、アンタゴミルは標的miRNAの機能を阻害する。アンタゴミルの安定性、有効性およびパフォーマンスを改善するため、化学的修飾を用いることができる。
【0038】
このような分子は当業者に知られており、かつ市販されており、そして例えばLife technologiesという会社から購入される。
【0039】
アンタゴミルは、インビトロおよびインビボにおける内因性microRNAの効率的かつ特異的なサイレンサーである、化学的に合成されたコレステロール接合一本鎖RNAアナログであってもよい。miRNAの阻害はアンチセンス2'-O-メチル(2'-OMe)オリゴリボヌクレオチドによって、またはレンチウイルスまたはアデノウイルスによって発現されるアンタゴミルを用いることで達成されてもよい。さらに、miRNA活性を阻害するため、一本鎖RNAアナログのMOE(2'-Oメトキシエチルホスホロチオエート)またはLNA(ロック核酸(LNA)ホスホロチオエート化学)修飾が用いられてもよい。
【0040】
加えて、内因性miRNAは、miRNAスポンジを用いることでサイレンシングを受けてもよい。この場合、一種類のRNAが組み立てられ、これは対象のmiRNAシード配列ファミリーが結合するタンデム結合部位を複数含む。miRNAシード配列ファミリーの様々なメンバーが標的となるため、このファミリーによって普遍的に制御される疾患に対してより効果的に影響を与えることが、このアプローチの潜在的な利点である。原則として、miRNAを除去し、それによって標的mRNAとの結合を防ぐことで、miRNAの機能に干渉することが可能である。
【0041】
mRNAの3’非翻訳領域中のmiRNA標的配列に対する完全な相補性を持ち、それにより結合部位を覆ってmiRNAとの相互作用を防ぐオリゴヌクレオチドを用いて、miRNAの特異的標的mRNAへの結合を防ぐことができる。miRNAの機能を阻害するためのさらなるアプローチは、“イレーザー(eraser)”という、標的miRNAと完全に相補的な配列のタンデムリピートの発現により内因性miRNAの機能を阻害する手法によって達成され得る。最終的には、物質、分子、医薬が、miRNAの発現および生合成を阻害するために用いられ得る。
【0042】
一方の鎖が本来のmiRNAと同一の合成RNA二重鎖miRNAを用いて、成熟miRNAと同等な一本鎖オリゴヌクレオチドを供給することで、減少したmiRNAの実効濃度を増加させることが可能である。この場合、一方の鎖(ガイド鎖)が成熟miRNAの配列であり、かつ相補的あるいは部分的に相補的な鎖(パッセンジャー鎖)が成熟miRNAの配列に複合された、短い二重鎖オリゴヌクレオチドが設計される。最終的には、物質、分子、医薬が、miRNAの発現および生合成を増加させるために用いられ得る。
【0043】
好ましい実施形態において、本発明の組成物の一部を形成するアンタゴミルは、ヒトmiRNAを標的とする。
【0044】
本発明の文脈で用いられる“治療する”、“治療すること”、“治療される”または“治療”という用語は、症状を解消あるいは軽減させることを目的とする治療的処置を表す。有益な、または望ましい臨床的結果は、症状の解消、症状の緩和、病状の程度の低下、病状の安定化(すなわち悪化させないこと)、病状の進行の遅延あるいは緩徐化を含むが、これらに制限されることはない。
【0045】
本発明の文脈で用いられる“予防する”、“予防”、“予防すること”または“予防される”という用語は、疾患または障害またはそれらの症状の1つ以上の、発生、再発または拡大の予防を表す。ある実施形態において、この用語は、症状の発生に先立って、特に本明細書で説明されたような疾患または病気のリスクがある患者に対して、本明細書にて提供される組成物で治療を行うこと、あるいはその組成物を投与することを表す。この用語は、特定の疾患の症状を抑制あるいは減弱させることを含む。特に疾患の家族歴を持つ対象者は、ある実施形態における予防的レジメンの候補である。加えて、繰り返し起こる症状の既往歴を持つ対象者も、予防の潜在的候補者である。この点については、“予防”という用語は“予防的治療”という用語と互換的に用いられてもよい。
【0046】
本明細書で用い、かつ他に定めない限りにおいては、“癌”は、体内で異常な細胞が生育、分裂または増殖することを表す。この用語は任意の型の悪性(すなわち良性でない)腫瘍を表す。悪性腫瘍は原発性腫瘍または二次性腫瘍(すなわち転移)に対応し得る。さらに、腫瘍は、脳腫瘍、髄芽腫、網膜芽細胞種、神経鞘腫、神経芽細胞種、メラノーマ、非小細胞肺癌、膵癌、乳癌、肝細胞癌および腎芽腫から選択される癌に対応してもよい。
【0047】
特に、本発明は、脳腫瘍、髄芽腫、網膜芽細胞種、神経鞘腫、神経芽細胞種、メラノーマ、非小細胞肺癌、膵癌、乳癌、肝細胞癌および腎芽腫の予防および/または治療のために用いる、本明細書で説明したような組み合わせに関する。
【0048】
より詳細には、脳腫瘍は星細胞種、乏突起神経膠腫、髄膜腫、神経膠腫および神経膠芽腫から選択され、そしてさらに詳細には、予防および/または治療する癌は、神経膠芽腫である。
【0049】
既に記載したように、神経膠芽腫(GBM)はグレードIVの星細胞種であり、致死性の悪性脳腫瘍で、かつ成人において最も一般的な原発性脳腫瘍の1つである。
【0050】
特に、GBMは異なるサブタイプ:mesenchymal、proneural、neural、およびclassicalへと特徴付けられる。
【0051】
したがって、ある実施形態においては、本発明の組み合わせが、神経膠芽腫のこれらのサブタイプの1つ以上の予防および/または治療のため用いられ得る。
【0052】
最も重要なこととして、ある実施形態においては、本発明の組み合わせは、これら全てのサブタイプの予防または治療に有効である。
【0053】
本発明は、癌、特にGBMの予防の方法および/または治療の方法にも関し、ここで本方法は、本発明の組み合わせを有効量、予防および/または治療を必要とする対象者に投与することを含む。
【0054】
特に、癌に対する治療を必要とする対象者は、前記のような疾患を患う対象者である。
【0055】
本発明の文脈においては、本明細書で説明された疾患および病気の治療を必要とするこれらの対象者の特定は、前記のように、かつ、当業者の能力および知識を以て適切に行われる。当業界の臨床医は、前記の手法で、このような治療を必要とする対象者を容易に特定することができる。
【0056】
治療上有効な量は、当業者の一人である担当の診断医によって、慣例的な手法および類似した状況下で得られる観察結果によって容易に決定される。治療的有効量の決定においては、担当の診断医によって、いくつかの要因:対象者の人種、サイズ、年齢、総合的健康状態、関与する特定の疾患、疾患の関与の度合いまたは深刻さの度合い、個別の対象における反応、投与される特定の化合物、投与の様式、投与された薬剤の生物学的利用能、選択された投与レジメン、併用医薬の使用、およびその他関係する条件を含めて考慮されるが、考慮される要因はこれらに制限されない。
【0057】
本明細書で用いられる“有効な量”は、本明細書で説明された疾患および病気における症状を減弱、解消、治療または制御するのに有効である量を表す。“制御する”という用語は、本明細書で説明された疾患および病気の進行を、緩徐化する、妨げる、阻止する、または止める可能性のある全てのプロセスを表すことを意図される。しかし、必ずしも疾患および病気の症状の全てを完全に解消することを示すわけではなく、また、この用語は予防的治療および臨床使用を含むことを意図される。
【0058】
“患者”または“対象者”という用語は、哺乳類などの恒温動物、特にヒトの男性または女性を表し、他に記載のない限りは、本明細書で説明された疾患および病気の1つ以上を患う、または患う可能性を持っている者を表す。
【0059】
望ましい生物学的作用を達成するために要求される、それぞれのミミックまたはアンタゴミルの量は、投与される薬の投与量、採用した化合物の化学的特性(例えば疎水性など)、化合物の有効性、疾患のタイプ、患者の病状、および投与経路を含むいくつかの要因に依存して変動する。
【0060】
本明細書で提供される組み合わせは、医薬組成物に配合されることがあり、場合により1つ以上の薬理学的に許容される賦形剤との混合によって配合されてもよい。
【0061】
このような組成物は、経口投与に用いるため、特に錠剤またはカプセル、特に口腔内崩壊(凍結乾燥ウエハー)錠の形で調製されてもよく、または非経口投与に用いるため、特に溶液、懸濁液または乳剤の形で調製されてもよい。
【0062】
組成物は医薬業界で公知の任意の方法、例えばRemingtonによって説明される方法:The Science and Practice of Pharmacy, 20th ed.; Gennaro, A. R., Ed.; Lippincott Williams & Wilkins: Philadelphia, PA, 2000. で調製されてもよい。薬理学的に互換性のある結着剤および/またはアジュバントが組成物の一部として含まれ得る。経口組成物は一般的に不活性賦形剤キャリアー(inert diluent carrier)または食用キャリアー(edible carrier)を含む。組成物は単位用量剤型で投与されることがあり、ここで“単位用量”は患者に投与することができる1回分の用量を意味する。また、この単位用量剤型は、活性化合物そのものまたは薬理学的に許容できる組成物のいずれかを含む、物理的かつ化学的に安定な単位用量として維持しながら容易に扱うことができ、かつ容易に包装することができる。
【0063】
錠剤、丸剤、粉、カプセル、トローチなどは、以下の添加物:微結晶セルロースまたはトラガカントゴムなどの結着剤、澱粉またはラクトースなどの賦形剤、澱粉またはセルロース誘導体などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑剤、コロイド状二酸化ケイ素などの流動化剤、スクロースまたはサッカリンなどの甘味料、ペパーミントまたはサリチル酸メチルなどの香料、あるいは類似した性質の化合物を1つ以上含んでよい。カプセルは、一般的にはゼラチン混合物から作られ、場合によっては可塑剤が混ぜられたゼラチン混合物から作られる、ハードカプセルまたはソフトカプセルの形であってよく、また、澱粉カプセルであってもよい。加えて、投与単位剤型は投与単位の物理的形状を変化させるその他の様々な物質、例えば、糖衣、シェラック樹脂、腸溶性剤などを含み得る。シロップまたはエリクサー(elixir)などの他の経口投与剤型は甘味料、保存剤、色素、着色料、および香料を含んでもよい。加えて、活性化合物は、速溶性、徐放性または持続放出性の製剤および配合に組み込まれてもよく、ここで、このような持続放出性製剤は、好ましくは二相性である。
【0064】
投与のための液体製剤は、無菌の水溶液または非水溶液、懸濁液、およびエマルジョンを含む。液体組成物は結着剤、バッファー、保存剤、キレート剤、甘味料、香料および着色料、などを含んでもよい。非水溶媒はアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アクリレート共重合体、オリーブオイルなどの植物油、オレイン酸エチルなどの有機エステルを含む。水性キャリアーはアルコールと水との混合物、ハイドロゲル、緩衝液、および生理食塩水を含む。特に、生体適合性、生分解性の、乳酸ポリマー、乳酸/グリコール酸共重合体、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体は、活性化合物の放出を制御するための有用な賦形剤となり得る。経静脈溶媒は、輸液および栄養輸液、電解質輸液、ブドウ糖加リンゲル液に基づくそれら輸液、などであってもよい。
【0065】
投与様式の例は、例えば皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、皮内投与などの非経口投与、および経口投与を含み、特に経口投与、静脈内投与または皮下投与を含む。
【0066】
本発明は、以下の図面および実施例によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】miR-17-3p、miR-340、およびmiR-222は、GBM細胞の生存率、クローン形成能および遊走を変化させる。(A):ノンターゲットスクランブルコントロール(non-targeting scrambled control)miRNAまたはmiR-17-3pミミック、miR-340ミミック、miR-551bミミックおよびmiR-222アンタゴミルをトランスフェクトしたGe518細胞において、qPCRでmiRNA発現を定量した(n=5-6)。(B):ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-340ミミック、miR-17-3pミミック、miR-551bミミックおよびmiR-222アンタゴミルを一過性にトランスフェクトしたGe518、Ge738、Ge904およびGe970.2細胞の細胞生存能力を、3日後あるいは4日後において、CellTiter-Gloを用いて評価した。ヒストグラムはmiR-Combo群対miR-Ctrl群の細胞生存率の変化倍率(fold-change)を表す(n=4-5)。(C):ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-340ミミック、miR-17-3pミミック、およびmiR-222アンタゴミルを一過性にトランスフェクトしたGe518、Ge738、Ge904およびGe970.2細胞のクローン形成能を、クローン原性アッセイを用いて定量した。3-4回の独立した実験の代表的な画像。ヒストグラムは形成されたクローンのmiR-Combo群対miR-Ctrl群の変化倍率を表す。スケールバー=10μm。(D):ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-340ミミック、miR-17-3pミミック、およびmiR-222アンタゴミルを一過性にトランスフェクトしたGe518、Ge738、Ge904およびGe970.2細胞の遊走を、Transwell(登録商標) プレートで定量した。3回の独立した実験の代表的な画像。ヒストグラムはTranswellで定量した遊走細胞のmiR-Combo群対miR-Ctrl群の変化倍率を表す。スケールバー=10μm。データは平均値±標準誤差として表した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差無し)。
図2】(A-E):(A)ノンターゲットスクランブルコントロールまたは(B)miR-17-3pミミック、(C)miR-340ミミック、(D)miR-551bミミック、および(E)miR-222アンタゴミルをトランスフェクトしたGe518細胞において、qPCRでmiRNAの発現を定量した(n=5-6)。ヒストグラムは、ハウスキーピング遺伝子で正規化した、各群における各miRNAの発現を示す。(F-I):ノンターゲットスクランブルコントロールまたは(F)miR-17-3pミミック、(G)miR-340ミミック、(H)miR-551bミミック、および(I)miR-222アンタゴミルを一過性にトランスフェクトしたGe518、Ge738、Ge904およびGe970.2細胞の細胞生存能力を、3日後あるいは4日後において、CellTiter-Gloを用いて評価した。ヒストグラムはmiR-Combo群対miR-Ctrl群における細胞生存率の変化倍率を表す(n=4-5)。データは平均値±標準誤差として表した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差無し)。
図3】(A-D):ノンターゲットスクランブルコントロールまたは(A)miR-17-3pミミック、(B)miR-340ミミック、(C)miR-551bミミック、および(D)miR-222アンタゴミルを一過性にトランスフェクトしたGe518、Ge738、Ge904およびGe970.2細胞のクローン形成能を、クローン原性アッセイによって定量した。ヒストグラムは、各群対miR-Ctrl群における形成されたクローンの変化倍率を表す。(E):3-4回の独立した実験における代表的な画像。スケールバー=1μm。データは平均値±標準誤差として表した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差無し)。
図4】ノンターゲットスクランブルコントロールまたは(A)miR-17-3pミミック、(B)miR-340ミミック、(C)miR-551bミミック、および(D)miR-222アンタゴミルを一過性にトランスフェクトしたGe518、Ge738、Ge904およびGe970.2細胞の遊走を、Transwellを用いて定量した。ヒストグラムは各群対miR-Ctrl群におけるTranswellで定量した遊走細胞の変化倍率を表す。3回の独立した実験の代表的な画像。スケールバー=1μm。データは平均値±標準誤差として表した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差無し)。
図5】miR-340、miR-17-3およびmiR-222の組み合わせ調節により、複数の生物学的プロセスおよび代謝経路に関わる遺伝子が調節される。(A):ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-340、miR-17-3pおよびmiR-222の組み合わせ調節を導入したGe518細胞およびGe970.2細胞を示す遺伝子セットエンリッチメント解析(gene set enrichment analysis)における機能アノテーションクラスタリング(functional annotation clustering)。ヒストグラムはg: Profiler解析由来の各遺伝子ファミリーについてエンリッチされたクエリの数を示す。(B):ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-340、miR-17-3pおよびmiR-222の組み合わせ調節を導入したGe518細胞とGe970.2細胞とを比較したベン図。(C):発現変動遺伝子(differential expressed genes)に基づく、Ge518細胞およびGe970.2細胞におけるmiR-Ctrl群対miR-Combo群の階層クラスタリング。(D):ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-340、miR-17-3pおよびmiR-222の組み合わせ調節を導入したGe518細胞とGe970.2細胞とを比較する遺伝子セットエンリッチメント解析における機能アノテーションクラスタリング。ヒストグラムはg: Profiler解析由来の各遺伝子ファミリーについてエンリッチされたクエリの数を示す。データは平均値±標準誤差として表した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図6】miR-340、miR-17-3pおよびmiR-222の調節により、複数のシグナル伝達経路に関わる遺伝子が調節される。(A):ノンターゲットスクランブルコントロールをトランスフェクトしたGe518細胞とmiR-17-3pミミック、miR-340ミミック、およびmiR-222-3/5pアンタゴミルをトランスフェクトしたGe518細胞とを比較した遺伝子セットエンリッチメント解析における機能アノテーションクラスタリング。ヒストグラムは各遺伝子ファミリーのエンリッチメント指数(enrichment index)を表す。(B-D):ノンターゲットスクランブルコントロールまたは(B)miR-340ミミック、(C)miR-17-3pミミック、および(D)miR-222-3/5pアンタゴミルを一過性にトランスフェクトしたGe518細胞における、24時間の、発現変動化遺伝子に基づく階層クラスタリング。(E)ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-17-3pミミック、miR-340ミミックおよびmiR-222-3/5pアンタゴミルをトランスフェクトしたGe518細胞において、qPCRによってmRNAを定量した(n=3)。(F)ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-17-3pミミック、miR-340ミミックおよびmiR-222-3/5pアンタゴミルをトランスフェクトしたGe518細胞において、ウエスタンブロッティングによってタンパク質を定量した(n=5)。データは平均値±標準誤差として表した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns=有意差無し)。
図7】(A):RNASeqまたはTargetScanによって特定したmiRNAの潜在的標的遺伝子を、miRNA間で比較したベン図。ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-340、miR-17-3pおよびmiR-222の組み合わせ調節を導入したGe518細胞およびGe970.2細胞。(B):miR-Combo群対miR-Ctrl群のRNASeq 、およびmiR-17-3pミミック群、miR-340ミミック群、およびmiR-222アンタゴミル群のRNASeqにおいて特定した発現変動遺伝子を比較した、遺伝子セットエンリッチメント解析における機能アノテーションクラスタリング。ヒストグラムは各遺伝子ファミリーのエンリッチメント指数を示す。(C):Ge904 PDC(患者由来細胞)に、3’UTRレポーターコンストラクト、およびmiR-17-3pまたはmiR340のいずれかを共にトランスフェクトし、またルシフェラーゼ活性をそれぞれのコントロール群で正規化した。
図8】miR-340、miR-17-3pおよびmiR-222の組み合わせ調節は、GBMのPDCにおいてAKTの活性化を引き起こす。(A):ヒトリン酸化キナーゼアレイによって、複数のキナーゼおよびそれらの基質タンパク質のリン酸化プロファイルの相対的発現が示された。3回の独立した実験における代表的な画像。ヒストグラムはmiR-Combo群対miR-Ctrl群における各キナーゼの変化倍率を表した。(B):ヒトリン酸化キナーゼアレイによって、複数のキナーゼおよびそれらの基質タンパク質のリン酸化プロファイルの相対的発現が示された。3回の独立した実験における代表的な画像。(C):イムノブロッティングによって、ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-340、miR-17-3pおよびmiR-222の組み合わせ調節を導入したGe518細胞における、指定されたタンパク質の発現が示される。ヒストグラムはデンシトメトリー解析によって定量されたタンパク質発現の変化倍率を示した。
図9】神経オルガノイドにおけるGBMのPDCの浸潤は、miR-17-3p、miR-222、およびmiR-340の組み合わせ調節によって減少した。(A-D):神経オルガノイドへのPSC(多能性幹細胞)分化の図解。PSCを(A)マトリゲル上で培養し、(B)マイクロウェルプレートに集め、(C)3週間培養した。(D)神経オルガノイドの培養原理。(E):免疫蛍光法によって、神経オルガノイド中に存在する、NeuN、β3-チューブリン、GFAP、およびMAP2に対する免疫反応性細胞が示された。(F):GAD67、Musashi、ネスチン(NES)、OLIG2、PSD95、S100B、SOX2およびβ3-チューブリン(TUBB3)のmRNA発現を、GSC(GBM幹細胞)Ge904と共培養する前の神経オルガノイドにおけるqPCRによって定量した。データはハウスキーピング遺伝子で正規化し、平均値±標準誤差として表した(n=4)。(G):免疫蛍光法によって、GSC Ge904と神経オルガノイドの共培養において存在する、GFAP、およびβ3-チューブリンに対する免疫反応性細胞が示された。スケールバー=100μm。ヒストグラムは神経オルガノイド中のGBM細胞の浸潤スコアを表した。(H):免疫蛍光法によって、神経オルガノイド中に存在する、Ki-67、およびβ3-チューブリンに対する免疫反応性細胞が示された。スケールバー=100μm。ヒストグラムは神経オルガノイド中のGBM細胞の増殖スコアを表した。データは平均値±標準誤差として表した(*p<0.05、**p<0.01)
図10】ヌードマウスにおいて、miR-Comboの反復投与により腫瘍の成長が遅延した。(A):インビボにおける、Ge518腫瘍の成長に対するmiR-17-3p、miR-222、およびmiR-340の組み合わせ調節の効果(n=5マウス/群)。(B):miR-Comboで処置されたGe518腫瘍の組織学的解析。腫瘍を特定のタンパク質について染色し、ヘマトサイクリンで対比染色した。スケールバー=50μm。(C):ヒストグラムは、ImageJを用いて定量したタンパク質発現の変化倍率を表す(n=3)。データは平均値±標準誤差として表した(**p<0.01、ns=有意差無し)。
図11】miR-17-3p、miR-222、およびmiR-340を発現する、安定なドキシサイクリン誘導性レンチウイルスベクターシステムを有するGSCは、インビボにおいて、細胞生存能力の低下を引き起こし、かつ腫瘍の成長を遅らせた。(A):miRGEを発現するGe518、Ge738、およびGe970.2 PDCの細胞生存能力を、3日後において、CellTiter-Gloを用いて評価した。ヒストグラムは、miRGEを発現する、ドキシサイクリン処置(Dox)群対ドキシサイクリン未処置群における、細胞生存率の変化倍率を表す。(B):miRGEを発現するGe518、Ge738、およびGe970.2 GSCの細胞生存能力を、3日後において、CellTiter-Gloを用いて評価した。ヒストグラムは、miRGEを発現する、ドキシサイクリン処置(Dox)群対ドキシサイクリン未処置群における、細胞生存率の変化倍率を表す。(C):3-7回の独立した実験における代表的な画像。棒グラフは、miRGEを発現する、ドキシサイクリン処置(Dox)群対ドキシサイクリン未処置群における、GSCの変化倍率を表す。データは平均値±標準誤差として表した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。(D):ドキシサイクリンの投与によって発現するようになったmiRGEの、インビボにおける腫瘍成長に対する効果。誘導性Tet-Onシステムを有するGe518、Ge738、およびGe970.2 GSCの混合物を、ヌードマウスの脳へ、頭蓋内注射した(処置群n=8マウス、未処置群n=7マウス)。有意性を計算するため、ログ・ランク(コックス・マンテル)検定を用いた。
図12】ノンターゲットスクランブルコントロールまたはmiR-340ミミック、miR-17-3pミミックおよびmiR-222アンタゴミルを一過性にトランスフェクトしたA375(メラノーマ細胞株)、MCF-7(乳癌細胞株)、A549(肺癌細胞株)およびGe360(上衣腫細胞株)の細胞生存能力を、3日後または4日後において、CellTiter-Gloを用いて評価した。ヒストグラムは、miR-Combo群対miR-Ctrl群における細胞生存率の変化倍率を表す(n=3)。
【実施例
【0068】
材料および方法
GBM細胞株および患者由来モデル
Ge269、Ge518、Ge835(Mesenchymalサブタイプ)、Ge738、Ge898(Proneuralサブタイプ)、Ge885(Neuralサブタイプ)、Ge904、Ge970.2(Classicalサブタイプ)の異なるサブタイプの8種の神経膠芽腫幹細胞(GSC)を、B27サプリメントおよび10ng/mLのb-FGF、10ng/mLのEGF、1%のペニシリン/ストレプトマイシンで補助した、GlutaMax入りのDMEM/F12で、既報(Cosset, E, et al. (2016). Human tissue engineering allows the identification of active miRNA regulators of glioblastoma aggressiveness. Biomaterials 107: 74-87)で説明されたように培養した。GBM患者由来細胞(PDC)を作製するため、前記GSCを、高グルコース/GlutaMax、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む10%ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に移植し、そこで維持した(GDC培地)。
【0069】
化学物質
アクチノマイシンDおよびドキシサイクリンは、Sigmaから購入し、それぞれ5μmおよび1mg/mLの濃度で24時間用いた。
【0070】
細胞トランスフェクション
miR-17-3pミミック、miR-340-5pミミック、およびmiR-551bミミック、およびmiR-222-3pアンタゴミルを、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen)を用いて、最終濃度5nMで、製造者のプロトコルに従ってトランスフェクトした。ノンターゲットスクランブルmiRNA(Life Technologies)をコントロールとして用いた。
【0071】
細胞生存能力アッセイ
細胞生存能力アッセイは、CellTiter-Gloアッセイキット(Promega)を用いて、既報(Cosset, E, et al. (2016). Human tissue engineering allows the identification of active miRNA regulators of glioblastoma aggressiveness. Biomaterials 107: 74-87; Cosset, E, et al. (2017). Glut3 Addiction Is a Druggable Vulnerability for a Molecularly Defined Subpopulation of Glioblastoma. Cancer Cell 32: 856-868 e855)で説明されたように行った。
【0072】
細胞遊走
Transwellポリカーボネートメンブレンインサート(24ウェル、ポアサイズ8μm、Corning)のフィルター上で、血清を含まない(0%FBS)GDC培地中に、細胞(2×10)を播種し、また、下側コンパートメントを、10%FBSを含むGDC培地で満たした。遊走評価のため、37℃で24時間インキュベーションを行った後、下側の表面に存在する接着細胞を0.1%のクリスタルバイオレットで染色し、そして定量および/またはカウントを行った。EVOS顕微鏡(Life Technologies)を用いて画像を撮影し、手作業でカウントした。
【0073】
miRGEレンチウイルスベクター
miR-17-3p、miR-340-5p、およびmiR-222-3pを有するmiRGEコンストラクトを、Vector Lab (Dr. Patrick Salmon, University of Geneva)を用いて、既報で説明されたように作製した(Myburgh, R, et al. (2014). Optimization of Critical Hairpin Features Allows miRNA-based Gene Knockdown Upon Single-copy Transduction. Mol Ther Nucleic Acids 3: e207)。
【0074】
ルシフェラーゼアッセイ
miR-340およびmiR-17-3pを発現しないため選択したGe904のPDCを、0日目(D0)において、24ウェルプレート中に、1ウェルあたり80000細胞播種した。24時間後、D1において、細胞に、対応するmiRNAおよびプラスミドを、Lipofectamine 3000(L3000-008 Invitrogen)を用いて、製造者のプロトコルに従ってトランスフェクトした。24時間後、D2において、Dual Luciferase Reporter Assay (E1910 Promega)を用いて、製造者のプロトコルに従って細胞を溶解し、続いて発光を計測した。結果はウミシイタケコントロールで正規化した。
【0075】
神経オルガノイド
神経オルガノイドを作製するため、ヒト人工多能性幹細胞株(iPSC)および胚性幹細胞(ESC)を、既報で説明されたものに、少し変更を加えて用いた(Cosset, E, et al. (2019). Human Neural Organoids for Studying Brain Cancer and Neurodegenerative Diseases. J Vis Exp.)。iPSCはYoussef Hibaoui博士のご厚意により提供され、既報で説明されたように作製した(Hibaoui, Y, et al. (2014). Modelling and rescuing neurodevelopmental defect of Down syndrome using induced pluripotent stem cells from monozygotic twins discordant for trisomy 21. EMBO Mol Med 6: 259-277.)。ヒトESCのHS420はKarl-Heinz Krause教授のご厚意により提供された。
【0076】
ヒトホスホキナーゼアッセイ
キナーゼのリン酸化プロファイリングは、ヒトホスホキナーゼアレイキット(R&D Systems)を用いて、製造者の推奨に従って行った。
定量のため、ImageJソフトウェアで、analyze gelsコマンド、plot laneコマンドを用いてドットを解析した。全てのドットはネガティブコントロールで正規化した。Combo群はコントロール群で正規化した。
【0077】
イムノブロッティング
タンパク質をIP-MS cell lysis buffer(Life Technologies)に抽出し、Pierce BCA kit (Thermo Fisher)を用いて、既報(Cosset, E, et al. (2017). Glut3 Addiction Is a Druggable Vulnerability for a Molecularly Defined Subpopulation of Glioblastoma. Cancer Cell 32: 856-868 e855)に従って定量した。イムノブロットのため、以下の抗体:ビメンチン(Millipore)、p-P70 S6キナーゼ(Cell Signaling)、P70 S6キナーゼ(Cell Signaling)、pAKT(Cell Signaling)、AKT(Cell Signaling)、GAPDH(Cell Signaling)、およびローディングコントロールとしてβアクチンHRP(Sigma-Aldrich)を用いた。タンパク質発現解析のため、発現量をβアクチンで正規化し、これらそれぞれのコントロールと比較した。
【0078】
免疫組織化学(IHC)および免疫蛍光(IF)
ホルマリン固定パラフィン包埋組織のIHC染色およびIF染色を、既報で説明されたように行った(Cosset, E, et al. (2016). Human tissue engineering allows the identification of active miRNA regulators of glioblastoma aggressiveness. Biomaterials 107: 74-87; Cosset, E, et al. (2017). Glut3 Addiction Is a Druggable Vulnerability for a Molecularly Defined Subpopulation of Glioblastoma. Cancer Cell 32: 856-868 e855)。切片を、4℃で一晩、pAKT(Cell Signaling)、AKT(Cell Signaling)、Ki-67(Chemicon)、およびCD31(Abcam)一次抗体の存在下でインキュベートし、続けて、IHCのため、ビオチン接合抗ウサギIgGおよびアビジン-ビオチンペルオキシダーゼ検出システムおよび3,3'-ジアミノベンジジン基質(Vector)で処置し、そしてヘマトサイクリン(Sigma)で対比染色した。IFのため、切片を、4℃で一晩、β3チューブリン(Covance)、GFAP(Dako)、MAP-2(Millipore)、NeuN(Millipore)、Ki-67(Chemicon)一次抗体の存在下でインキュベートした。そして、蛍光色素でラベルされた二次抗体:Alexa Fluor(555および/または488)でラベルされた、ヤギまたはロバ由来の、抗マウス、抗ヤギ、または抗ウサギ抗体(Molecular Probes)を用いた。
【0079】
逆転写定量的PCR(RT-qPCR)
トータルRNAの単離を、QiagenのRNeasyキットを用いて、製造者の説明書に従って、かつ既報で説明されたように行った(Cosset, E, et al. (2016). Human tissue engineering allows the identification of active miRNA regulators of glioblastoma aggressiveness. Biomaterials 107: 74-87)。プライマー配列は表1および表2に記載する。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
使用の前に、有効性の試験を行い、全てのプライマーを検証した。少なくとも2つのハウスキーピング遺伝子(EEF1A1およびALAS1)を正規化のため用いた。RT-PCR反応は、少なくとも3回の技術的3連反復および生物学的3連反復において行い、平均サイクル閾値(CT)値を決定した。miRNAについては、miR-16-5pおよびmiR-191-5pを検証し、ハウスキーピング遺伝子として用いた。
【0083】
RNAseqデータの解析
既報(Cosset, E, et al. (2016). Human tissue engineering allows the identification of active miRNA regulators of glioblastoma aggressiveness. Biomaterials 107: 74-87)で説明されたように、Trizol手法を用いてトータルRNAを抽出した。そして、RNAの品質をチェックした後、IlluminaのHiSeq 4000およびTruSeqHT Stranded によって調製したSR100ライブラリを用い、シークエンシングのクオリティコントロールをFastQC v.0.11.5で行った。
そして、Morpheus(https://software.broadinstitute.org/morpheus)を用いて階層クラスタリングを行った。
【0084】
インシリコデータ解析
TCGAデータセットのターゲット遺伝子についてのカプラン・マイヤー/ログ・ランク検定解析のp値を取得するため、Gliovis(http://gliovis.bioinfo.cnio.es/)を用いた。遺伝子エンリッチメント解析を、g:ProfilerおよびDAVID Bioinformatics resources(Raudvere, U, et al. (2019). g:Profiler: a web server for functional enrichment analysis and conversions of gene lists (2019 update). Nucleic Acids Res 47: W191-W198; Huang da, W, et al. (2009). Bioinformatics enrichment tools: paths toward the comprehensive functional analysis of large gene lists. Nucleic Acids Res 37: 1-13.; Huang da, et al.(2009). Systematic and integrative analysis of large gene lists using DAVID bioinformatics resources. Nat Protoc 4: 44-57)を用いて行った。
【0085】
TCGA解析
GBMサンプルについてのmiRNA発現データおよび対応する臨床データを、TCGAデータポータル(http://cancergenome.nih.gov/)からダウンロードし、既報で説明されたように解析した(Cosset, E, et al. (2016). Human tissue engineering allows the identification of active miRNA regulators of glioblastoma aggressiveness. Biomaterials 107: 74-87)。
【0086】
皮下注射
動物を用いる全ての手順は、ジュネーヴの動物実験に関する倫理委員会に従って、動物実験委員会によって設定された基準に準じる、承認されたプロトコルGE/38/20で行った。Ge518およびGe738 GSC(PBS200mL中に5×10腫瘍細胞)をマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍のサイズを、週3回、キャリパーを用いて、腫瘍のサイズが150mmに到達するまでの間、継続的に記録した。
【0087】
投与
ミミック-Invivofectamine複合体およびアンタゴミル-Invivofectamine複合体を、製造者のプロトコルに従って調製した。ミミック/アンタゴミルの最終濃度は、マウス1匹につき200μLで、濃度1.75mg/mL(5nmolに相当)であった。最初のパルスとして、マウスに前記濃度を2回注射し、そして1日おきに、マウス1匹につき200μLの0.875mg/mL(2.5nmolに相当)溶液を注射した。溶液は注射まで室温で維持した。mirVana(登録商標)ネガティブコントロールミミックをコントロール群に用いた。ミミックについて、mirVana miR-17-3p(MC12246)、mirVana miR-340-5p(MC12670)を用い、またアンタゴミルについて、mirVana miR-222(MH11376)を用いた。
【0088】
同所性脳腫瘍注射
miRGEを有するGe518、Ge738、およびGe970.2を、洗浄およびPBS中への再懸濁の後、6-10週齢の雌性nu/nu免疫不全マウスに、同所移植した。
【0089】
定量および統計解析
各実験のサンプルサイズおよび統計は、結果のセクションおよび図面の簡単な説明において記載する。図面の簡単な説明に注記したように、示したデータは複数回の実験で得られた結果の代表例である。全ての統計解析は、一元配置分散分析(ANOVA)およびスチューデントのt検定を用いて、p<0.05を有意とみなして行った。全ての統計解析は、GraphPadのPrismソフトウェアを用いて行った。統計的有意性を計算するため、カイ二乗検定またはt検定を用いた。
【0090】
結果
miR-17-3p、miR-222、およびmiR-340の組み合わせ調節により、GBM細胞の生存能力、クローン形成能および遊走能が阻害される
まず、miR-17-3p、miR-340およびmiR-551bを発現しないかまたは低いレベルで発現し、かつmiR-222を発現するPDCを選択した。実際には、miR-17-3p、miR-340およびmiR-551bの発現上昇およびmiR-222の発現低下を目指していた。9つの患者由来GBM細胞および2つの樹立細胞株(U87MGおよびU251)を、定量的RT-PCR(RT-qPCR)を用いてスクリーニングした後、その結果から、Ge518がmiRNA発現調節のための最適な患者由来細胞(PDC)モデルであることが明らかになった(表3)。
【0091】
【表3】
【0092】
miRNAベースのマルチターゲット療法は、GBM患者にとってより有益であろうと考えられた。この仮説を検証するため、Ge518 PDCにおいて、組み合わされたミミックおよびアンタゴミル(miR-Combo)を、それぞれ、異所性に発現させるため、または発現を阻害するためのいずれかに用いた。定量的ステムループqPCRによってmiRNAの調節を確かめた後(図1A)、トランスフェクションの3日後において細胞生存能力を計測したところ(図1B)、ノンターゲットスクランブルコントロール(miR-Ctrl)と比較して、miR-Comboによって細胞生存能力の有意な低下が見られた。既報のように、Ge518はmesenchymalの表現型を示した(Cosset, et al. (2017). Glut3 Addiction Is a Druggable Vulnerability for a Molecularly Defined Subpopulation of Glioblastoma. Cancer Cell 32: 856-868.e855)。proneuralおよびclassical表現型の他の患者由来モデルにおけるmiR-Comboの阻害効果を確かめるため、Ge738(proneuralサブタイプ)、Ge904およびGe970.2(classicalサブタイプ)(Cosset, et al. (2017). Glut3 Addiction Is a Druggable Vulnerability for a Molecularly Defined Subpopulation of Glioblastoma. Cancer Cell 32: 856-868.e855)についても、トランスフェクション後の細胞生存能力を試験した(図2B)。その結果から、全てのPDCにおいて細胞生存能力が有意に阻害されることが明らかになり、特定のmiRNAの発現に差があるいずれのサブタイプのGBM細胞も、miR-Comboによる治療標的となり得ることが示唆された。次に、どのmiRNAがこの阻害の原因となったのかを把握しようとした。そのため、各miRNAを別々にトランスフェクトし、それらの調節を確かめ(図2A-D)、またPDCの生存能力を解析した。図2F-Iに示されるように、主にmiR-17-3pおよびmiR-340によって、複数のPDCの細胞生存能力の有意な低下が見られた。miR-222について、Ge970.2においては細胞生存能力の阻害傾向が示され、また、Ge518においては有意な阻害が見られた(図2I)。
【0093】
次に、miR-Comboの生物学的効果をより良く特徴づけるため、GBM PDCの遊走およびクローン形成能も解析した。全てのPDCにおいて、miRNAの組み合わせ調節によって、細胞のクローン形成能および遊走の有意な低下が引き起こされた(図1C-D)。同様に、各miRNAを別々にトランスフェクトした後、観察された生物学的効果のほとんどをmiR-17-3p、miR-340、およびmiR-222が媒介し、また、これらは異なるPDCにおいて異なる効果を持つことが示され、これら全てを組み合わせ戦略において用いる必要性が強調された(図3および図4)。総じて、これらのデータから、miR-17-3p、miR-340およびmiR-222は、GBMの生存率、クローン形成能および遊走に影響することで、GBMの病原性を阻害することが証明された。
【0094】
miR-17-3p、miR-340およびmiR-222の調節により、細胞生存能力に関わる遺伝子が調節される
miR-Comoの効果を遺伝子調節のレベルで把握するため、miR-ComboをトランスフェクトしたGe518およびGe970.2 PDCの両方において、ノンターゲットスクランブルコントロールと比較して、全トランスクリプトーム解析を行った(図5A)。バルクmRNA抽出の後、各細胞株について、3回の生物学的反復においてRNAseq解析を行った。Ge518 PDCにおいて、遺伝子オントロジーエンリッチメント解析により、3つのメインファミリー:細胞および生物学的プロセス(MT2A、CDKL5、CXCR4、MAPK14、PLXNA4、RAB21、TGFBR3、VGLL4)、陽イオン輸送およびホメオスタシス(CHRNB2、RRAD、CACNA1H、GPR35、P2RX5、ATP2A1)、および増殖の調節(MAPK11、NRCAM、SHTN1、SMURF1、CDKN1B、TNKS2、GDF5、VGLL4)に関わる遺伝子の発現が明らかになった(図5A)。g:Profiler 22を介した、miRNA-標的間相互作用のデータベースmiRTarBaseの解析によって、miR-340の標的遺伝子(ROCK1、LIMS1、ANKRD40、SKP2、FRS2)、およびmiR-9-5pの標的遺伝子(SFT2D2、DICER1、IGF2BP3、SPON2、CXCR4、SERPINH1、RAP2A)のエンリッチメントが示された。Ge970.2 PDCにおいて、抗ウイルス応答およびI型インターフェロンシグナル伝達に関わる遺伝子の、強く、かつ有意なエンリッチメントが見られた(OAS-1、-2、-3、-L、MX-1、-2、IFI44L)(図5A)。さらに、代謝リプログラミングおよびペントースリン酸プロセスおよび経路に関わる遺伝子(TKT、G6PD、PGD、TALDO1)に加え、NRF2経路(NFE2L2、GCLC、NQO1、YES1)、酸化ストレスに関わる遺伝子のエンリッチメントも見られた。総じて、この解析により、2つのモデルにおける、miR-Comboに対する異なる細胞応答が明らかとなった。共通のヒットを特定するため、Ge518およびGe970.2の両方のPDCのトランスクリプトームプロファイルを比較し、54個の共通遺伝子を発見した(図5B)。階層クラスタリングのデータにより、サンプルをまず細胞株ごとに群分けし、我々や他のグループが既に報告したように、GBM細胞株の有意なレベルの不均一性を確かめた(図5C)(Calvo Tardon et al. (2020). An Experimentally Defined Hypoxia Gene Signature in Glioblastoma and Its Modulation by Metformin. Biology (Basel) 9 ; Sottoriva, A, et al. (2013). Intratumor heterogeneity in human glioblastoma reflects cancer evolutionary dynamics. Proc Natl Acad Sci U S A 110: 4009-4014 ; Patel, et al. (2014). Singlecell RNA-seq highlights intratumoral heterogeneity in primary glioblastoma. Science 344: 1396- 1401)。次に、データを条件ごと、miR-Combo対miR-Ctrlに群分けした。両方のPDCについて、ROCK118、26、LIMS118、SKP227、NFE2L228、RAB2129などの、GBMの病原性に関わることが既に発見されていた複数の遺伝子の有意な低下が見られた。対照的に、ELAVL2、RAD9BおよびCNOT3という、それぞれ癌抑制遺伝子(Nord, H, et al. (2009). Characterization of novel and complex genomic aberrations in glioblastoma using a 32K BAC array. Neuro Oncol 11: 803-818)および細胞周期進行抑制遺伝子として既に特定されている遺伝子31の発現は、miR-Combo群においてアップレギュレートされた(図5C)。最後に、遺伝子オントロジーエンリッチメント解析によって、miR-340-5pおよびmiR-4255などの複数のmiRNAについてのエンリッチメント(KLHL15、LRRC58、OTUD4、SEC23A、SUCO)が明らかになった(図5D)。総じて、これらのデータから、miR-Comboのトランスフェクション後のGBMのPDCにおいて、調節された重要な遺伝子のサブセットが強調された。
【0095】
次に、各miRNAの効果を別々に検討するため、miR-17-3pミミック、およびmiR-340ミミックおよびmiR-222アンタゴミルをトランスフェクトしたGe518細胞株において全トランスクリプトーム解析を行った。遺伝子オントロジーエンリッチメント解析によって、miR-17-3pおよびmiR-222に共通の経路として、細胞ストレス応答に関わる遺伝子の発現が明らかになった(図6A)。さらに、miR-340およびmiR-222に共通の遺伝子として、シグナル伝達に関わる遺伝子を発見した。miR-340については、既報で示されたように(Cossetet al. (2016). Human tissue engineering allows the identification of active miRNA regulators of glioblastoma aggressiveness. Biomaterials 107: 74-87 ; Fiore, D, et al. (2016). miR-340 predicts glioblastoma survival and modulates key cancer hallmarks through down-regulation of NRAS. Oncotarget 7: 19531-19547)、異なる細胞背景において、ROCK1およびLIMS1が、miR-340の標的遺伝子として確かめられた(図6A-B)。さらに、神経発達および分化、低分子量GTPaseによるシグナル伝達に関わる遺伝子に加え、細胞表面受容体のシグナル経路に関わる遺伝子も検出した。miR-17-3pについては、形態形成および胚発生、細胞ストレス応答およびに有機窒素化合物に対する応答に関わる3つの遺伝子ファミリーを発見した(図6A、C)。miR-222については、酸化ストレス/活性酸素種/薬物への応答、造血および免疫システム発達、およびRNAポリメラーゼによる転写調節、などの多数の遺伝子ファミリーが調節不全になっていることを発見した(図6A、D)。これらの発見を確かめるため、それぞれの機能的ファミリーから代表的な遺伝子のセットを選択し、定量的RT-PCRおよび/またはウエスタンブロットによって検討した(図6E-F)。さらに、これらの遺伝子のいくつか、miR-340についてはNFE2L2、COL5A3およびBDKRB2、miR-222についてはZFP36、NFKBIZ、およびNTN1、およびmiR-17-3pについてはLITAF、およびF2RL2、などの発現は、生存率の低さと相関する(表4)。
【0096】
【表4】
【0097】
注目すべきこととして、今回のRNASeq解析と予測されたmiRNA標的遺伝子とを比較したとき、発見された共通のヒットの数は比較的少なかった。(図7A)。各miRNAに対して別々に行ったRNASeqを伴う、miR-Combo対miR-Control(miR-Ctrl)のRNASeqによって、組み合わせ戦略によってもたらされる遺伝子調節に対して各miRNAが寄与することが示された(図7B)。
【0098】
3’UTRへのmiRNA標的指向性を検討するため、Ge904モデルにおいて、E2F-3’UTRおよびTNFRSF-3’UTRの全長を有するルシフェラーゼレポーターコンストラクトを用い、それぞれmiR-Ctrl対miR-17-3pおよびmiR-Ctrl対miR-340と共に、一過性にトランスフェクトした(図7C)。miR-17-3pおよびmiR-340の異所性発現により、レポーターコンストラクトを含む細胞のルシフェラーゼ活性が、それぞれのコントロールと比較して1.5倍減少し、これは特定したmiRNAが活性miRNAとして働くことの根拠となった。
【0099】
miR-Comboがどのようなメカニズムで下流のシグナル伝達を調節し得るのかを特定しかつ理解するため、ヒトリン酸化プロテオームアレイでホスホキナーゼ活性を解析した(図8A-B)。トランスフェクションの後、Ge518 PDCを、細胞溶解液中のリン酸化タンパク質を検出するProteome Profilerアレイにかけた。p70 S6キナーゼの有意な活性化、ならびにAKTおよびPRAS40活性の有意な阻害を確認した(図8A)。リボソームタンパク質S6キナーゼであり、mTORの下流の基質であるp70 S6キナーゼは、細胞周期進行および細胞生存の制御における役割で知られている。さらに、PRAS40は哺乳類のラパマイシンC1標的(mTORC1)の活性を阻害することが知られている。実際、Raptorに結合することで、PRAS40はmTORの基質である4E-BP1およびp70S6Kと競合する。これらのデータは、miR-Comboをトランスフェクトした細胞で観察された細胞生存の阻害と一貫する。これらの結果を確かめるため、AKTおよびp70 S6キナーゼの発現および活性化を、イムノブロッティングによって解析した(図8C)。p70 S6リン酸化の増加傾向は見られたが、その活性の有意な調節は見られなかった。興味深いことに、miR-Combo群では、miR-Ctrl群と比較して、P70 S6キナーゼのプールの増加傾向が見られた(図8C)。
【0100】
一方、miR-ComboとmiR-Ctrlとの間では、総AKTについては変化が見られず、また、miR-ComboにおいてAKT活性の有意な増加が見られ、ヒトリン酸化プロテオーム解析の結果が確かめられた。
【0101】
miR-17-3pおよびmiR-222、およびmiR-340の組み合わせ調節は、神経オルガノイドにおけるGBMのPDCの浸潤を阻害する
発明者は最近、アストロサイトおよび神経に分化する多能性幹細胞(PSC)から3次元のヒト脳様組織を作製するための、インビトロにおける組織工学アプローチを開発した(Cosset, et al. (2016). Human tissue engineering allows the identification of active miRNA regulators of glioblastoma aggressiveness. Biomaterials 107: 74-87 ; Cosset, et al. (2019). Human Neural Organoids for Studying Brain Cancer and Neurodegenerative Diseases. J Vis Exp.)。発明者は以前、GBM細胞が分化し、脳様組織に発達することを実証し、ここではインビボにおける宿主/腫瘍間相互作用の重大かつ重要な特徴のいくつかを模倣する混合組織を作製した(Cosset, et al. (2016). Human tissue engineering allows the identification of active miRNA regulators of glioblastoma aggressiveness. Biomaterials 107: 74-87 ; Nayernia, et al. (2013). The relationship between brain tumor cell invasion of engineered neural tissues and in vivo features of glioblastoma. Biomaterials 34: 8279-8290.)。したがって、3次元におけるmiRNA Combo(miR-Combo)の阻害効果を調べるため、この神経オルガノイド作製プロトコルを用いた(図9A-D)。神経オルガノイドの特徴付けにより、神経マーカー(β3チューブリン(TUBB3)、MAP2およびNeuN)、アストロサイトマーカー(GFAP、S100B)、およびオリゴデンドロサイトマーカー(OKIG2)の発現が、mRNAおよびタンパク質レベルで示され、神経の成熟が確かめられた(図9E-F)。GBM幹細胞(GSC)は腫瘍の中で最も高い病原性および薬剤耐性を示す細胞であり、自己複製および腫瘍イニシエーションの性質を持つことから、miRNAマルチターゲット戦略を確認するためのモデルとしてこれらの幹細胞を用いることにした(Singh, et al. (2004). Identification of human brain tumour initiating cells. Nature 432: 396-401 ; Baoet al. (2006). Glioma stem cells promote radioresistance by preferential activation of the DNA damage response. Nature 444: 756-760)。GSC Ge904を神経オルガノイドと共に24時間共培養し、また、その後、miR-Comboをトランスフェクトした(図9G-H)。トランスフェクションから4日後、GSC Ge904について、細胞浸潤および増殖を、それぞれのマーカーGFAPおよびKi-67で評価し、また、神経オルガノイドのマーカーとして、β3チューブリンを用いた(図9G-H)。miR-Ctrl群では神経オルガノイド中へのGSCの浸潤が見られたが、miR-Comboをトランスフェクトした細胞は、密集したままであり、浸潤性が低かった(図9G)。miR-Control群においては、GSCはより大きく、増殖しているようであり、一方でmiR-Combo群においてGSCは小さく、増殖は停止しているようだった(図9H)。それに応じて、最初の位置から遠く離れた単一の浸潤細胞で、Ki-67のより強いシグナルが見られた。総じて、これらのデータから、miRNAは3次元共培養組織を透過することができ、また、GBM細胞の増殖能および浸潤能を阻害することで、GBM細胞の挙動に影響を与えうることが示唆された。
【0102】
GBM異種移植片の腫瘍成長は、miR-17-3p、miR-222、およびmiR-340の組み合わせ処置によって減少する
この発見を臨床に応用するため、インビボにおいて、Ge518腫瘍成長に対する組み合わせ処置の効果を検討しようとした。この目的のため、Ge518細胞をヌードマウスの脇腹に皮下注射した(図10A)。腫瘍が150mmに到達してから、マウスをmiR-Comboで処置した。腫瘍成長の有意な遅延が示され、インビトロでも示されたように、miR-ComboがGBMの成長及び腫瘍形成能に効果的に影響することが示唆された(図10A)。miR-Combo群において、miR-Ctrl群と比較して、増殖マーカーであるKi-67の有意な減少も見られ、GBM細胞増殖に対する組み合わせ戦略の効果が確かめられた(図10B-C)。CD31染色により評価した腫瘍血管新生の検討からは有意な差が示されなかったが、CD31発現および小血管の減少傾向が見られた(図10B-C)。これらの結果を確かめるため、別のPDCモデルであるGe738を用い、そして、腫瘍成長は同様の遅延を示した(図10D)。総じて、miR-17-3p、miR-340、およびmiR-222の調節からなる組み合わせ標的治療が、インビボにおいてGBMの成長および腫瘍形成能を阻害するのに有効であることを示した。
【0103】
よく知られるmiRGEレンチウイルスベクターシステム(Myburgh, et al. (2014). Optimization of Critical Hairpin Features Allows miRNA-based Gene Knockdown Upon Singlecopy Transduction. Mol Ther Nucleic Acids 3: e207.)を用いることで、GBMのPDCにおいてmiR-17-3pミミック、miR-340ミミックおよびmiR-222アンタゴミルを同時に発現させた。
【0104】
次に、Tet-Onシステムを用いて、GBM細胞をドキシサイクリンで処置することでmiRNA調節を有効化した。図11Aに示すように、ドキシサイクリン処置によって、Ge518、Ge738、およびGe970.2 PDCのいずれにおいても細胞生存能力の有意な低下が引き起こされた。
【0105】
次に、GBM腫瘍の病原性の高いサブセットであるGSCに対するmiRGEの効果も検討しようとした。miR-ComboをトランスフェクトしたPDCにおける結果と一致して、ドキシサイクリン処置下で、miRGEを有するPDCの生存能力の有意な低下が見られた(図11A)。同様に、miRGEを導入したGSCの、3日後における生存能力に対するドキシサイクリン処置の効果も見られ、分化細胞および幹細胞の両方におけるこの組み合わせ戦略の有効性が示唆された(図11B)。これらの結果と一致して、ドキシサイクリン処置下で、これらの細胞の腫瘍様塊(tumorsphere)形成能の有意な低下が示された(図11C)。より重要なこととして、インビボにおけるGSCの腫瘍形成能に対するこれらmiRNAの効果を評価するため、miRGEレンチウイルスベクターシステムで形質導入したmesenchymal(Ge518)、proneural(Ge738)およびclassical(Ge970.2)GSCの混合物(1:1:1)を、免疫不全マウスの脳内に、頭蓋内移植した(図11D)。実際、複数のサブタイプのGSCの混合物は、多数のサブタイプが混在するインビボの背景を模倣する。ここまでの発見を臨床へ応用するため、13日後、神経学的症状を呈するマウスが現れ始めたときになってから、飲用水を介したドキシサイクリン投与を行った。この実験において、ドキシサイクリン処置群では、未処置群と比較して腫瘍成長の有意な遅延が示された(図11D)。総じて、これらの結果から、本発明の組み合わせ戦略が、未だ治療に対する著しいアンメットメディカルニーズがあるGBMの、適切な予後バイオマーカーとしてだけでなく、GBM治療の創薬ターゲットとしての、臨床における有用性を持つことが強調された。
【実施例
【0106】
材料および方法
細胞トランスフェクション
miR-17-3pミミック、およびmiR-340-5pミミック、およびmiR-222-5pアンタゴミルを、Lipofectamine RNAiMax(Invitrogen)を用いて、最終濃度5nMで、製造者のプロトコルに従ってトランスフェクトした。ノンターゲットスクランブルmRNA(Life Technologies)をコントロールとして用いた。
【0107】
細胞生存能力アッセイ
細胞生存アッセイは、CellTiter-Gloアッセイキット(Promega)を用いて、製造者のプロトコルに従って行った。
【0108】
結果
結果は図12に示す。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2024536625000001.xml
【国際調査報告】