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特表2024-536636プロテウス・ミラビリスに拮抗作用を有し、神経変性疾患に優れた効果を有する新規な菌株及びその用途
<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】プロテウス・ミラビリスに拮抗作用を有し、神経変性疾患に優れた効果を有する新規な菌株及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240927BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 35/44 20150101ALI20240927BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C12N1/20 E
A61P25/00
A61P43/00 105
A61K35/44
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/08
A61P25/14
A61P9/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547397
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 KR2022015983
(87)【国際公開番号】W WO2023068819
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0139579
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524144213
【氏名又は名称】メタセン セラピューティクス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】METACEN THERAPEUTICS CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【弁理士】
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】オ ミョンスク
(72)【発明者】
【氏名】フォ ユジン
(72)【発明者】
【氏名】パク ミョンギュ
(72)【発明者】
【氏名】ジェ フンソン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065CA41
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA06
4C087ZA16
4C087ZA36
4C087ZC01
(57)【要約】
本発明は、新規なヴァイセラ・シバリア菌株及びその用途に関し、本発明の新規なヴァイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株及びそれを含む組成物は、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)に対する抗菌活性のみならず、神経毒性が誘導する神経細胞のアポトーシスに対する保護能、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)の凝集に対する阻害能及び安全性を有することから、優れた神経変性疾患の予防、改善、または治療用薬学組成物、食品組成物、及び動物用飼料組成物として活用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む、神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記ウェイセラ・シバリア菌株が、ウェイセラ・シバリアCHK903、ウェイセラ・シバリアSGW054、ウェイセラ・シバリアSPW2014、ウェイセラ・シバリア200022、ウェイセラ・シバリアSFL001、ウェイセラ・シバリアFCK913、ウェイセラ・シバリアJJW001、ウェイセラ・シバリアSLW6932、ウェイセラ・シバリアP8、ウェイセラ・シバリアP9、及びウェイセラ・シバリアP26からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載の神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項3】
前記ウェイセラ・シバリア菌株が、ウェイセラ・シバリアCHK903、ウェイセラ・シバリアSGW054、及びウェイセラ・シバリアSPW2014からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の神経変性疾患予防または治療用薬学組成物。
【請求項4】
プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)の生育を阻害することを特徴とする、請求項1に記載の神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項5】
神経毒性が誘導する神経細胞のアポトーシスに対する保護効果を有する、請求項1に記載の神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項6】
アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)の凝集に対する阻害効果を有することを特徴とする、請求項1に記載の神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項7】
抗生物質耐性、抗生物質耐性遺伝子、病原性遺伝子、溶血(hemolytic)活性、ムチン分解能、ゼラチン液化能、ウレアーゼ(urease)活性、インドール産生能、ベータ-グルクロニダーゼ(α-glucuronidase)活性、細胞傷害性、胆汁酸塩脱抱合(bile salt deconjugation)活性、及び生体アミン産生能からなる群から選択されるいずれか一つ以上の活性を示さないことで安全であることを特徴とする、請求項1に記載の神経変性疾患予防または治療用薬学組成物。
【請求項8】
前記神経変性疾患が、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、ルー・ゲーリッグ病、プリオン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、フリードライヒ運動失調症、側頭葉てんかん、及び脳卒中からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載の神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項9】
前記神経変性疾患がパーキンソン病である、請求項1に記載の神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項10】
ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む、神経変性疾患の予防または改善用食品組成物。
【請求項11】
ウェイセラ・シバリア菌株が、ウェイセラ・シバリアCHK903、ウェイセラ・シバリアSGW054、ウェイセラ・シバリアSPW2014、ウェイセラ・シバリア200022、ウェイセラ・シバリアSFL001、ウェイセラ・シバリアFCK913、ウェイセラ・シバリアJJW001、ウェイセラ・シバリアSLW6932、ウェイセラ・シバリアP8、ウェイセラ・シバリアP9、及びウェイセラ・シバリアP26からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項10に記載の神経変性疾患の予防または改善用食品組成物。
【請求項12】
前記ウェイセラ・シバリア菌株が、ウェイセラ・シバリアCHK903、ウェイセラ・シバリアSGW054、及びウェイセラ・シバリアSPW2014からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項10に記載の神経変性疾患の予防または改善用食品組成物。
【請求項13】
ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む、神経変性疾患の予防または改善用動物用飼料組成物。
【請求項14】
ウェイセラ・シバリアが、ウェイセラ・シバリアCHK903、ウェイセラ・シバリアSGW054、ウェイセラ・シバリアSPW2014、ウェイセラ・シバリア200022、ウェイセラ・シバリアSFL001、ウェイセラ・シバリアFCK913、ウェイセラ・シバリアJJW001、ウェイセラ・シバリアSLW6932、ウェイセラ・シバリアP8、ウェイセラ・シバリアP9、及びウェイセラ・シバリアP26からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項13に記載の神経変性疾患の予防または改善用動物用飼料組成物。
【請求項15】
前記ウェイセラ・シバリア菌株が、ウェイセラ・シバリアCHK903、ウェイセラ・シバリアSGW054、及びウェイセラ・シバリアSPW2014からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項13に記載の神経変性疾患の予防または改善用動物用飼料組成物。
【請求項16】
ウェイセラ・シバリアCHK903(Weissella cibaria CHK903)菌株(寄託番号:KCCM13224P)。
【請求項17】
ウェイセラ・シバリアSGW054(Weissella cibaria SGW054)菌株(寄託番号:KCCM13225P)。
【請求項18】
ウェイセラ・シバリアSPW2014(Weissella cibaria SPW2014)菌株(寄託番号:KCCM13226P)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なウェイセラ・シバリア菌株及びその用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)に対する抗菌活性及び神経変性疾患に対する優れた効果を有する新規なウェイセラ・シバリア菌株及びそれを含む神経変性疾患の予防、改善または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者人口の急増に伴い、様々な神経変性疾患を患っている患者が増えており、それに対する治療や予防への関心が高まっている。神経変性疾患(neurodegenerative disease)は、神経細胞の機能の低下や喪失による運動障害、記憶障害、認知障害など、様々な症状を引き起こす質病である。神経系疾患のみならず、正常な成人の脳でも毎日多数の神経細胞が死んでおり、加齢に伴って死ぬ神経細胞の数は指数関数的に増加する。
【0003】
神経変性疾患に属する主な質病としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ルーゲーリック病、ハンチントン病などがあり、現在までその疾患の病因が十分に解明されていない。アルツハイマー病の治療薬としては、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤またはNMDA(N-methyl-D-aspartate;メチル-D-アスパルテート)受容体拮抗薬などが用いられ、パーキンソン病の治療薬としては、L-ドーパ(dopa)、ドーパミン作動薬、MAO-B阻害剤、またはCOMT阻害剤などが用いられており、ハンチントン病の治療薬としては、ドーパミンD2受容体などが挙げられるが、前述の治療薬は、いずれも神経伝達プロセスを標的としているため、これらの治療薬を用いた方法は、根本的な治療法ではなく、症状を緩和する方法に過ぎない。よって、これらの疾患を根本的に治療することができる新薬が引き続き求められてきた。
【0004】
一方、脳と腸は密接なつながりと相互作用を持っており、腸内に存在する腸内微生物は腸内環境の恒常性を維持し、脳内における神経伝達物質の産生にも関与することが知られている。特に、腸内微生物の変化は、肥満や糖尿病などの代謝性疾患のみならず、うつ病や自閉症などの精神疾患、及びアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患とも関連性があることが明らかになっている。
【0005】
また、パーキンソン病患者の便中の腸内細菌科(Enterobacteriaceae family)菌株の増加とパーキンソン病の関連性に関する臨床報告があり、特に、特許文献1では、パーキンソン病動物モデルに、腸内細菌科に属するプロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)菌株が存在し、そのプロテウス・ミラビリス菌株がパーキンソン病の誘導に直接関与することが開示されている。
【0006】
そこで、本発明者らは、プロテウス・ミラビリス菌株の生育を阻害するウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を発見し、前記菌株の神経変性疾患に対する優れた改善効果を確認することで、本発明の完成に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1860566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、プロテウス・ミラビリスに対する抗菌活性、神経細胞のアポトーシスに対する保護能、及びアルファ-シヌクレインの凝集に対する阻害能を有するウェイセラ・シバリア菌株を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、前記ウェイセラ・シバリア菌株を含む神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、前記ウェイセラ・シバリア菌株を含む神経変性疾患の予防または改善用食品組成物を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、前記ウェイセラ・シバリア菌株を含む神経変性疾患の予防または改善用動物用飼料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む、神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0013】
本発明はまた、ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む、神経変性疾患の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0014】
本発明はさらに、ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む、神経変性疾患の予防または改善用動物用飼料組成物を提供する。
【0015】
本発明の前記ウェイセラ・シバリア菌株は、ウェイセラ・シバリアCHK903(Weissella cibaria CHK903)、ウェイセラ・シバリアSGW054(Weissella cibaria SGW054)、ウェイセラ・シバリアSPW2014(Weissella cibaria SPW2014)、ウェイセラ・シバリア200022(Weissella cibaria 200022)、ウェイセラ・シバリアSFL001(Weissella cibaria SFL001)、ウェイセラ・シバリアFCK913(Weissella cibaria FCK913)、ウェイセラ・シバリアJJW001(Weissella cibaria JJW001)、ウェイセラ・シバリアSLW6932(Weissella cibaria SLW6932)、ウェイセラ・シバリアP8(Weissella cibaria P8)、ウェイセラ・シバリアP9(Weissella cibaria P9)、及びウェイセラ・シバリアP26(Weissella cibaria P26)菌株を含み、好ましくは、ウェイセラ・シバリアCHK903(Weissella cibaria CHK903)、ウェイセラ・シバリアSGW054(Weissella cibaria SGW054)、及びウェイセラ・シバリアSPW2014(Weissella cibaria SPW2014)を含んでもよい。
【0016】
本発明の前記ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物、神経変性疾患の予防または改善用食品組成物及び動物用飼料組成物は、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)の生育を阻害することを特徴とし、神経毒性が誘導する神経細胞のアポトーシスに対する保護効果及びアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)の凝集に対する阻害効果を有する。
【0017】
本発明の前記ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物、神経変性疾患の予防または改善用食品組成物及び動物用飼料組成物は、抗生物質耐性、抗生物質耐性遺伝子、病原性遺伝子、溶血(hemolytic)活性、ムチン分解能、ゼラチン液化能、ウレアーゼ(urease)活性、インドール産生能、ベータ-グルクロニダーゼ(β-glucuronidase)活性、細胞傷害性、胆汁酸塩脱抱合(bile salt deconjugation)活性、及び生体アミン産生能からなる群から選択されるいずれか一つ以上の活性を示さないことで安全である。
【0018】
本発明の前記変性疾患は、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、ルー・ゲーリッグ病、プリオン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、フリードライヒ運動失調症、側頭葉てんかん、及び脳卒中を含み、好ましくはパーキンソン病であってもよい。
【0019】
本発明は、ウェイセラ・シバリアCHK903(Weissella cibaria CHK903)菌株(寄託番号:KCCM13224P)を提供する。
【0020】
本発明は、ウェイセラ・シバリアSGW054(Weissella cibaria SGW054)菌株(寄託番号:KCCM13225P)を提供する。
【0021】
本発明は、ウェイセラ・シバリアSPW2014(Weissella cibaria SPW2014)菌株(寄託番号:KCCM13226P)を提供する。
【0022】
本発明は、ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む組成物を神経変性疾患を有する対象に投与することを含む、神経変性疾患の治療方法を提供する。
【0023】
本発明は、ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む、神経変性疾患の予防または治療のための組成物を提供する。
【0024】
本発明は、ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)菌株を含む、神経変性疾患の予防または治療のための組成物の用途を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明はの新規なヴァイセラ・シバリア菌株及びそれを含む組成物は、プロテウス・ミラビリスに対する抗菌活性のみならず、神経毒性が誘導する神経細胞のアポトーシスに対する保護能、アルファ-シヌクレインの凝集に対する阻害能及び安全性を有することから、優れた神経変性疾患の予防、改善、または治療用薬学組成物、食品組成物、及び動物飼料組成物として活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】脳神経細胞におけるウェイセラ・シバリア菌株による細胞生存率を示す図である。
図2】腸分泌細胞におけるウェイセラ・シバリア菌株によるアルファ-シヌクレインの程度を示す図である。
図3】腸分泌細胞におけるウェイセラ・シバリア菌株の死菌体による濃度ごとのアルファ-シヌクレインの程度を示す図である。
図4】ウェイセラ・シバリアSPW2014菌株のE-test実験結果図である。
図5】ウェイセラ・シバリアSGW054菌株のE-test実験結果図である。
図6】ウェイセラ・シバリアCHK903菌株のE-test実験結果図である。
図7】ウェイセラ・シバリア菌株のβ型溶血活性確認実験の結果図である。
図8】ウェイセラ・シバリア菌株のムチン分解確認実験の結果図である。
図9】ウェイセラ・シバリア菌株のゼラチン液化確認実験の結果図である。
図10】ウェイセラ・シバリア菌株のウレアーゼ活性確認実験の結果図である。
図11】ウェイセラ・シバリア菌株のインドール産生確認実験の結果図である。
図12】ウェイセラ・シバリア菌株の細胞傷害性を確認するための細胞生存率を示す図である。
図13】ウェイセラ・シバリア菌株の胆汁酸塩加水分解酵素活性確認実験の結果図である。
図14】ウェイセラ・シバリア菌株の生体アミン検出のためのHPLCクロマトグラムの結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本願の実施形態及び実施例について詳しく説明する。しかしながら、本願は、様々な形態で実施され得るので、以下に説明する実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0028】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0029】
本発明は、新規なウェイセラ・シバリア菌株及びそれを含む神経変性疾患の予防、改善または治療用組成物を提供する。
【0030】
前記ウェイセラ・シバリア(Weissella cibaria)は比較的最近発見された乳酸菌であり、発酵食品を始めとする色んな食品で発見される。主に韓国のキムチで発見され、キムチの優占種の一つであり、キムチの発酵初期に関与することが知られている。また、比較的少量の乳酸を産生し、機能性細胞外多糖類を産生することが報告されている。
【0031】
本発明のウェイセラ・シバリア菌株は、ウェイセラ・シバリアCHK903(Weissella cibaria CHK903)、ウェイセラ・シバリアSGW054(Weissella cibaria SGW054)、ウェイセラ・シバリアSPW2014(Weissella cibaria SPW2014)、ウェイセラ・シバリア200022(Weissella cibaria 200022)、ウェイセラ・シバリアSFL001(Weissella cibaria SFL001)、ウェイセラ・シバリアFCK913(Weissella cibaria FCK913)、ウェイセラ・シバリアJJW001(Weissella cibaria JJW001)、ウェイセラ・シバリアSLW6932(Weissella cibaria SLW6932)、ウェイセラ・シバリアP8(Weissella cibaria P8)、ウェイセラ・シバリアP9(Weissella cibaria P9)、及びウェイセラ・シバリアP26(Weissella cibaria P26)であってもよく、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明のウェイセラ・シバリアCHK903(Weissella cibaria CHK903)菌株は、2022年8月5日付けで韓国微生物保存センターに寄託した(寄託番号:KCCM13224P)。
【0033】
本発明のウェイセラ・シバリアSGW054(Weissella cibaria SGW054)菌株は、2022年8月5日付けで韓国微生物保存センターに寄託した(寄託番号:KCCM13225P)。
【0034】
本発明のウェイセラ・シバリアSPW2014(Weissella cibaria SPW2014)菌株は、2022年8月5日付けで韓国微生物保存センターに寄託した(寄託番号:KCCM13226P)。
【0035】
本発明のウェイセラ・シバリア200022(Weissella cibaria 200022)、ウェイセラ・シバリアSFL001(Weissella cibaria SFL001)、ウェイセラ・シバリアFCK913(Weissella cibaria FCK913)、ウェイセラ・シバリアJJW001(Weissella cibaria JJW001)、ウェイセラ・シバリアSLW6932(Weissella cibaria SLW6932)、ウェイセラ・シバリアP8(Weissella cibaria P8)、ウェイセラ・シバリアP9(Weissella cibaria P9)、及びウェイセラ・シバリアP26(Weissella cibaria P26)菌株は、プロテウス・ミラビリスに対する抗菌活性及び神経変性疾患に対する優れた効果を有し、培養条件、保存条件、復元条件、及び生存試験条件は以下のとおりである。
【0036】
<培養条件>
-培地組成:MRS(1.0%ペプトン(peptone)、1.0%牛肉エキス(beef extract)、0.4%酵母エキス(yeast extract)、2.0%グルコース(glucose)、0.5%酢酸ナトリウム三水和物(sodium acetate trihydrate)、0.1%ポリソルベート80(polysorbate 80)、0.2%リン酸水素二カリウム(dipotassium hydrogen phosphate)、0.2%クエン酸三アンモニウム(triammonium citrate)、0.02%硫酸マグネシウム七水和物(magnesium sulfate heptahydrate)、0.005%硫酸マンガン四水和物(manganese sulfate tetrahydrate)
-培養温度:37℃
-培地pH:pH6.2
-培養時間:24時間
-酸素要求性:通性嫌気性
-液体静置培養
【0037】
<保存条件>
-凍結乾燥
-分散剤:組成10%脱脂乳(skim milk)、pH6.8、殺菌条件121℃、15分
-真空度:5~10mmHg
-凍結温度:-40~50℃
【0038】
<復元条件>
-復元剤:組成MRS培地、pH6.2、殺菌条件121℃、15分
-復元温度:37℃
【0039】
<生存試験条件>
-PBS(phosphate buffered saline;リン酸緩衝食塩水)を用いて凍結乾燥した菌体粉末を懸濁し、それから15分静置後、MRS液体培地とMRS寒天板(agar plate)に接種した後、37℃で24時間培養
【0040】
一実施形態において、ウェイセラ・シバリア菌株は、キムチまたは柑橘類から単離されたものであってもよい。
【0041】
本発明の前記神経変性疾患は、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、ルー・ゲーリッグ病、プリオン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、フリードライヒ運動失調症、側頭葉てんかん、及び脳卒中を含んでもよく、好ましくはパーキンソン病であってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0042】
本発明はのヴァイセラ・シバリア菌株及びそれを含む神経変性疾患の予防、改善または治療用組成物は、プロテウス・ミラビリスに対する抗菌活性、神経毒性が誘導する神経細胞のアポトーシスに対する保護能、アルファ-シヌクレインの凝集に対する阻害能及び安全性を有する。
【0043】
前記プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)は、グラム陰性棒状菌であって腸内細菌科(Enterobacteriaceae faimily)に属し、炎症を誘発するリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide;LPS)を生合成する菌株として知られている。また、特許文献1に開示されているように、プロテウス・ミラビリスは、パーキンソン病の誘発に直接関与することが証明された。
【0044】
前記神経毒性または神経毒素は、ニューロン、シナプスまたは神経系に対して全体として特異的に作用する毒素であり、脳構造に損傷を与えることで慢性疾患を誘発する物質である。神経毒素には、例えば、アドレナリン作動性神経毒素、コリン作動性神経毒素、ドーパミン作動性神経毒素、興奮毒素及び他の神経毒素が含まれる。アドレナリン作動性神経毒素の例には、N-(2-クロロエチル)-N-エチル-2-ブロモベンジルアミン塩酸塩が挙げられ、コリン作動性神経毒素の例には、アセチルエチルコリンマスタード塩酸塩が挙げられる。ドーパミン作動性神経毒素の例には、6-ヒドロキシドパミンHBr(6-OHDA)、1-メチル-4-(2-メチルフェニル)-1,2,3,6-テトラヒドロ-ピリジン塩酸塩、1-メチル-4-フェニル-2,3-ジヒドロピリジニウム過塩素酸、N-メチル-4-フェニル-1,2,5,6-テトラヒドロピリジンHCl(MPTP)、1-メチル-4-フェニルピリジニウムヨウ化物(MPP+)、パラコート及びロテノンが挙げられ、興奮毒素の例には、NMDA及びカイニン酸が挙げられる。前記MPTP、MPP+、パラコート、ロテノン及び6-OHDAは、動物モデルにおいてパーキンソン病様症状を誘発することが知られている。
【0045】
前記アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)は、脳細胞間の神経伝達を助けるタンパク質であり、このタンパク質の過剰発現がパーキンソン病を引き起こす主な原因であることが知られている。
【0046】
本発明は、ウェイセラ・シバリア菌株及びそれを含む神経変性疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0047】
前記ウェイセラ・シバリア菌株及び神経変性疾患については前述のとおりであり、前記菌株は、培養液、死菌体、内部因子または菌体であってもよい。
【0048】
一実施形態において、前記薬学組成物は、粉末、顆粒、錠剤、コーティング錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、坐剤、エマルジョン剤、ペースト剤(pastes)、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、散剤、噴霧剤または懸濁液に剤形化されてもよい。前記製剤化に通常用いられる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、希釈剤などの賦形剤をさらに含んでもよく、単純な賦形剤の他に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの潤滑剤を用いてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明は、ウェイセラ・シバリア菌株及びそれを含む神経変性疾患の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0050】
前記ウェイセラ・シバリア菌株及び神経変性疾患については前述のとおりであり、前記菌株は、培養液、死菌体、内部因子または菌体であってもよい。
【0051】
一実施形態において、前記食品組成物は、保健機能食品、乳製品、発酵製品または食品添加物であってもよい。
【0052】
一実施形態において、前記食品組成物は、丸剤、粉末、顆粒、浸剤、錠剤、カプセル、液剤、ペースト、ゲル、またはゼリーなどの形態を含み、各剤形の食品組成物は、有効成分に加えて当該分野で通常用いられる成分を、当業者であれば、剤形または使用目的に応じて困難なく適宜選定して配合してもよい。
【0053】
本発明は、ウェイセラ・シバリア菌株及びそれを含む神経変性疾患の予防または改善用動物用飼料組成物を提供する。
【0054】
前記ウェイセラ・シバリア菌株及び神経変性疾患については前述のとおりであり、前記菌株は、培養液、死菌体、内部因子または菌体であってもよい。
【0055】
前記動物飼料用組成物、飼料用組成物または飼料とは、動物に与える餌であり、動物の生命を維持し、動物を飼育するのに必要な有機または無機栄養素を供給する物質を意味する。
【0056】
一実施形態において、前記動物飼料用組成物は、飼料を摂取する個体(動物)が必要とするエネルギー、タンパク質、脂質、ビタミン、鉱物などの栄養素を含んでもよい。
【0057】
本発明に用いられる「予防」なる用語は、組成物の投与により疾患の発病を抑制または遅延させるあらゆる行為を意味し、「改善」とは、組成物の投与により状態に関するパラメーター、例えば症状の程度を少なくとも減少させるあらゆる行為を意味し、「治療」とは、組成物の投与により疾患の疑いのある個体及び発症個体の症状を好転または有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、下記の実施例は説明を目的とするものに過ぎず、本願発明の範囲を限定しようとする意図ではない。
【実施例1】
【0059】
プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)に抗菌活性を示す乳酸菌スクリーニング
プロテウス・ミラビリスに抗菌活性を示す乳酸菌を選別するために、全987種の乳酸菌を対象に以下のように行った。
【0060】
1-1.乳酸菌の培養と培養上清の調製
冷凍冷蔵庫(Deep freezer、-80℃)に保存中の乳酸菌を解凍してMRS寒天(agar)培地に生育させ、その後、生成したコロニー(colony)を新しいMRS寒天培地(BD,Franklin Lakes,NJ,USA)に継代培養した。継代培養した乳酸菌のコロニーを1mLのMRSブロス(broth)に接種して37℃で20時間培養し、その後、14,000Xgで5分間遠心分離して培養上清を確保した。
【0061】
1-2.プロテウス・ミラビリスの培養
プロテウス・ミラビリス菌株((株)メタジェンセラピューティクス)を普通ブロス(nutrient broth)(BD,Franklin Lakes,NJ,USA)に接種し、37℃で20時間200rpmで振盪培養して培養液を調製した。
【0062】
1-3.1次スクリーニング:上層寒天(Top agar)を用いたペーパーディスク法による抗菌活性測定
普通培地に0.8%寒天を加えて上層寒天を調製し、オートクレーブ(autoclave)した。プロテウス・ミラビリス培養液を100μL添加し、その後、普通寒天培地に重ねた。そこに滅菌されたペーパーディスク(paper disc;Advantec、直径:6mm)を載せ、乳酸菌培養上清10μLを滴下し、その後、37℃で20時間培養して生成したプロテウス・ミラビリスの生育阻止域の直径を測定した。
【0063】
全987種の乳酸菌を対象にプロテウス・ミラビリスの生育阻止域の直径を測定したところ、ほとんどの乳酸菌株は、プロテウス・ミラビリスに対する生育阻害活性を示さず、一部の乳酸菌株のみが生育阻害活性を示すことを確認した。よって、プロテウス・ミラビリスの生育阻止域の直径が10mm以上である50種の乳酸菌を、抗菌活性に優れた菌株と判断して選別した。
【0064】
1-4.2次スクリーニング:マクファーランド(McFarland)を用いたペーパーディスク法による抗菌活性測定
前記1次スクリーニングで選別された乳酸菌50種を対象に、マクファーランド溶液を用いたペーパーディスク法により、乳酸菌培養上清の抗菌活性を3回繰り返して測定した。マクファーランド溶液を用いたペーパーディスク法は、指示菌株(Proteus mirabilis)の細胞濃度を一定に保つことができるため、指示菌株の細胞数差による抗菌活性誤差を減らすことができる方法である。
【0065】
下記表1に示すように、全50種の乳酸菌を対象にプロテウス・ミラビリスの生育阻止域の直径を測定したところ、ウェイセラ・シバリア株は、他の株と比較して顕著に優れた効果を示した。特に、ウェイセラ・シバリアCHK903菌株が16mmで最も優れた平均値を示し、ウェイセラ・シバリアSGW054及びウェイセラ・シバリアSPW2014菌株が14mmで優れた平均値を示した。また、ウェイセラ・シバリア200022、ウェイセラ・シバリアSFL001、ウェイセラ・シバリアJJW001、ウェイセラ・シバリアSLW6932、ウェイセラ・シバリアP26菌株が13mmであり、ウェイセラ・シバリアFCK913、ウェイセラ・シバリアFCK913、ウェイセラ・シバリアP8、及びウェイセラ・シバリアP9菌株が12mmで優れた平均値を示した。
【0066】
【表1】
【0067】
前記1次(上層寒天法)及び2次(マクファーランド法)スクリーニング結果において、共通して生育阻止域の直径が10mm以上の平均値を示す菌株のうち、指示菌株の細胞数差による抗菌活性誤差を減らすことができるマクファーランド法による結果で高い値を有するものを最終選別の基準とし、生育阻止域の直径が14mm以上の最も高い平均値を示した菌株3種を選別した。
【0068】
よって、以下の表2に示すように、ウェイセラ・シバリアCHK903、ウェイセラ・シバリアSGW054及びウェイセラ・シバリアSPW2014菌株をプロテウス・ミラビリスに対して著しく優れた抗菌活性を示す菌として選定し、下記の実施例において、前記3種のウェイセラ・シバリア菌株を対象にさらなる実験を行った。
【0069】
また、前記ウェイセラ・シバリアCHK903菌株は、2022年8月5日付けで韓国微生物保存センターに寄託し(寄託番号:KCCM13224P)、ウェイセラ・シバリアSGW054菌株は、2022年8月5日付けで韓国微生物保存センターに寄託し(寄託番号:KCCM13225P)、ウェイセラ・シバリアSPW2014菌株は、2022年8月5日付けで韓国微生物保存センターに寄託した(寄託番号:KCCM13226P)。
【0070】
【表2】
【0071】
さらに、下記表3の72種の乳酸菌を対象に実験したところ、下記菌株は、プロテウス・ミラビリスの生育抑制効果を示さず、ウェイセラ・シバリアが他の菌株と比較して著しく優れた効果を示すことが分かった。
【0072】
【表3】
【実施例2】
【0073】
ウェイセラ・シバリア菌株のプロテウス・ミラビリスに対する抗菌活性の確認
世界キムチ研究所(KCKM)及び種菌協会(KCCM)から分譲を受けたウェイセラ・シバリア菌株を対象に、プロテウス・ミラビリスに対する抗菌活性を確認するために以下のように行った。
【0074】
MRS寒天培地(BD,Franklin Lakes,NJ,USA)に生育させた乳酸菌コロニー(colony)を1mLのMRSブロスに接種して37℃で20時間静置培養し、その後、14,000Xgで5分間遠心分離して培養上清を調製した。プロテウス・ミラビリス菌株を普通ブロス(BD,Franklin Lakes,NJ,USA)に接種し、37℃で20時間200rpmで振盪培養して培養液を調製した。普通寒天培地で生成したプロテウス・ミラビリスのコロニーを食塩水溶液(0.85%NaCl)に懸濁し、濁度が0.5マクファーランド標準液(standard solution)の濁度と同じに同等にさせ、細胞の濃度が1.5×10CFU/mLとなるように調整した。その溶液50μLを普通寒天培地に塗抹し、その後、ペーパーディスク(Advantec,直径:6mm)を載せ、乳酸菌培養上清10μLを滴下し、次いで37℃で20時間培養して生成したプロテウス・ミラビリスの生育阻止域の直径を測定した。
前記実験結果を下記表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
表4に示すように、本発明のウェイセラ・シバリアCHK903菌株のみならず、残りの14種のウェイセラ・シバリア菌株は、全て生育阻止域の直径が10mm以上であった。
【0077】
よって、ウェイセラ・シバリア菌株は、プロテウス・ミラビリスに対する優れた抗菌活性を示すことが確認された。
【実施例3】
【0078】
脳神経細胞における神経毒性が誘導する神経細胞のアポトーシスに対する保護能の評価
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、分化したSH-Sy5y細胞(脳神経細胞)においてパーキンソン病誘導毒性であるMPPによる神経細胞のアポトーシスに対する保護能を評価するために、以下のように行った。
【0079】
SH-sy5y細胞株を96ウェルプレートの各ウェルに1×10個の数で分注し、7日間レチノイン酸(retinoic acid)処理によりドーパミン神経細胞形質が現れるように分化した。その後、既存の培地を除去し、様々な濃度の試料を添加した0.5%ウシ胎児血清DMEM培地と交換し、4時間後にMPP神経毒性を1mM濃度で細胞に処理して、さらに44時間培養した。次いで、培地にWST-1溶液を処理し、2時間培養して還元反応を誘導し、その後、ELISAマイクロプレートリーダー(microplate reader)を用いて450nmで吸光度を測定した。
【0080】
前記実験結果による細胞生存率を下記表5及び図1に示す。
【0081】
【表5】
【0082】
表5及び図1に示すように、ウェイセラ・シバリア菌株の培養液、死菌体及び菌体の様々な濃度において、対照群と比較してより高い細胞生存率を示した。さらに、ウェイセラ・シバリア菌株の様々な濃度で、MPP誘導アポトーシスの程度よりも5%以上高い細胞生存率を示した。
【0083】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は、神経毒性(MPP)による神経細胞のアポトーシスに対する優れた保護効果を有することを確認した。
【実施例4】
【0084】
腸分泌細胞におけるプロテウス・ミラビリス誘導アルファ-シヌクレインの凝集に対する阻害能の評価1
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、STC-1細胞(腸分泌細胞)においてプロテウス・ミラビリスが誘導するアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)凝集に対する阻害能を評価するために、以下のように行った。
【0085】
STC-1細胞株を60mm培養プレートに1×10個の数で分注し、48時間経過後に既存の培地を除去し、評価試料及びPM死菌体を加えたDMEM培地と交換し、再び48時間培養した。その後、得られた細胞をタンパク質加水分解酵素阻害剤を含む1×PBSに溶解後、12000rpmで10分間の遠心分離により上清とペレットを分離した。残ったペレットを用いて10%SDS-ポリアクリルアミドゲルに2回に分けて電気泳動させ、その後、アルファ-シヌクレイン1次抗体(α-synuclein)を入れて4℃で放置した。12時間後に2次抗体(HRP接合体(conjugate))を入れて常温で1時間反応させ、その後、ECLで感光してフィルムを現像した。ハウスキーピングタンパク質としては、分子量43kDaのβ-エクチン(β-actin)を用いて比較した。
【0086】
前記実験結果を下記表6及び図2に示す。
【0087】
【表6】
【0088】
表6及び図2に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株の培養液、死菌体、内因子及び菌体の全てにおいて、対照群と比較してより少ないアルファ-シヌクレインを示した。さらに、プロテウス・ミラビリスと比較して、アルファ-シヌクレインの凝集が最大約61%のレベルに改善された。
【0089】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は、プロテウス・ミラビリスが誘導するアルファ-シヌクレインの凝集に対して優れた阻害効果を有することを確認した。
【実施例5】
【0090】
腸分泌細胞におけるプロテウス・ミラビリス誘導アルファ-シヌクレインの凝集に対する阻害能の評価2
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、STC-1細胞(腸分泌細胞)においてプロテウス・ミラビリスが誘導するアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)凝集に対する死菌体の濃度ごとの阻害能を評価するために、実施例4と同様の方法で行った。その結果を下記表7及び図3に示す。
【0091】
【表7】
【0092】
表7及び図3に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株の死菌体は、用量依存的にアルファ-シヌクレインの凝集を減少させ、プロテウス・ミラビリスと比較して、アルファ-シヌクレインの凝集が最大約59%のレベルに改善された。
【0093】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は、プロテウス・ミラビリスが誘導するアルファ-シヌクレインの凝集に対して優れた阻害効果を有することを確認した。
【実施例6】
【0094】
安全性評価1:抗生物質耐性及び毒性
乳酸菌が抗生物質耐性遺伝子を有していると、細菌感染時に抗生物質の効果が現れない虞があって危険であり、腸内では抗生物質耐性遺伝子の転移が起こり得るため、微生物の有する抗生物質耐性の特性を把握することは、何よりも重要である。
【0095】
6-1.抗生物質耐性(E-test)
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、抗生物質耐性を評価するために以下のように行った。
【0096】
MRS寒天プレート(plate)で生育した菌株のコロニー(colony)を採取してMRSブロスに接種し、その後、37℃で20時間培養してから、培養液100μLを3マクファーランド標準(standard)(0.03%塩化バリウム、5.97%硫酸)の濁度と同じ濁度に調整し、抗生物質が添加されていないMRS寒天プレートに塗抹した。前記プレート上に1種類のE-testストリップ(strip)を中央に配置し、37℃で72時間培養し、その後、阻止域が指示するストリップ端の数字を最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration;MIM)とした。調査した抗生物質は、アンピシリン(ampicillin)、バンコマイシン(vancomycin)、ゲンタマイシン(gentamycin)、カナマイシン(kanamycin)、ストレプトマイシン(streptomycin)、エリスロマイシン(erythromycin)、クリンダマイシン(clintramycin)、テトラサイクリン(tetracycline)、クロラムフェニコール(chloramphenicol)など全9種であり、各抗生物質のMICカットオフ値は、Jeong&Lee(2015)が提案した値を適用して評価した。
【0097】
前記実験結果を図4図6に示し、測定したMIC値(μg/mL)を下記表8に示す。
【0098】
【表8】
【0099】
表8及び図4図6に示すように、ウェイセラ・シバリア菌株のMIC値は、カットオフ値よりも低い値を示した。バンコマイシンの場合、ウェイセラ属を始めとする多くの乳酸菌種が内在耐性を有しており、耐性有無を評価しておらず、カナマイシンの場合、前記ウェイセラ・シバリア菌株が6~16μg/mLの範囲を示したが、ほとんどの乳酸菌のカットオフ値が16μg/mL以上であるため、より低い値を示すことを確認した。また、クリンダマイシンの場合、前記ウェイセラ・シバリア菌株は全て0.016μg/mLであって、極めて低いMIC値を示すことを確認した。
【0100】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は、抗生物質耐性を示さないことを確認した。
【0101】
6-2.抗生物質耐性遺伝子
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、抗生物質耐性遺伝子の有無を確認するために以下のように行った。
【0102】
抗生物質耐性遺伝子は、アンピシリン(blaZ、bla)、クロラムフェニコール(catA、cat)、クリンダマイシン(Inu(A)、Inu(B))、エリスロマイシン(ereA、ereB、Erm(B)、Erm(B)-1、Erm(C))、ゲンタマイシン(aac(6’)-aph(2’’)、aac(6’)-aph(2’’La))、カナマイシン(aph(3’)-I、aph(3’)-III)、ストレプトマイシン(aadA、aadE、ant(6))、テトラサイクリン(tet(M)、tet(M)-1、tet(K)、tet(K)-1、tet(K)-2、tet(Q))、バンコマイシン(vanE、vanX)遺伝子を選定して分析した。
【0103】
乳酸菌の遺伝子(genomic)DNAは、Bioneer社のAccuPrep(登録商標) Genomic DNA Extraction Kitを用いて分離した。PCRは、HotStart(登録商標) Premix(Bioneer,Daejeon,Korea)を用いてMy CyclerTM(Bio-Rad,Hercules,CA,USA)で反応させた。菌株の遺伝子DNA0.1μgを鋳型(template)DNAとして用い、順方向プライマー(forward primer)及び逆方向プライマー(reverse primer)をそれぞれ300nMとなるように加えた。得られたPCR産物をアガロースゲル(agarose gel)電気泳動を行って分析した。電気泳動緩衝溶液としては、0.5倍のTAE緩衝溶液(40mMトリス酢酸塩、pH8.0、1mM EDTA)を使用し、0.5μg/mLの臭化エチジウム(ethidium bromide)を加えた1.5%(w/v)アガロース水平ゲルを用いて、試料の1/10倍量の10×ゲルローディング(gel loading)緩衝溶液(0.25%ブロモフェノールブルー、40%(w/v)スクロース)を加えたDNA溶液を100Vで30~40分間電気泳動し、その後、254nmの波長の紫外線照明下で観察した。写真撮影は、UVフィルターとオレンジフィルター(orange filter)を備えたBio-Rad Gel Doc XR+gel documentation systemを用いた。
【0104】
前記実験結果を下記表9に示す。
【0105】
【表9】
【0106】
表9に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株の全てにおいて、全26種類の抗生物質耐性遺伝子は検出されなかった。
【0107】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は、抗生物質耐性遺伝子を有さないことを確認した。
【0108】
6-3.病原性遺伝子
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、病原性遺伝子の有無を確認するために以下のように行った。
【0109】
病原性遺伝子は、ゼラチナーゼ(gelE)、シトリシン(cylA、cylB、cylM)、凝集物質(agg、asa1)遺伝子を選定して分析し、実施例6-2と同様の方法で行った。
【0110】
前記実験結果を下記表10に示す。
【0111】
【表10】
【0112】
表10に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株の全てにおいて、病原性遺伝子は検出されなかった。
【0113】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は、病原性遺伝子を有さないことを確認した。
【0114】
結局、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は抗生物質耐性を示さず、抗生物質耐性遺伝子及び病原性遺伝子を有さないので、安全であることが分かる。
【実施例7】
【0115】
安全性評価2:溶血活性(hemolytic activity)
菌株が溶血活性を有していると宿主の赤血球を破壊するので、それを確認して安全性を評価しなければならない。
【0116】
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、溶血活性を有するか否かを確認するために以下のように行った。
【0117】
乳酸菌及び陽性対照群として使用したストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)KCCM 11873を、5%ヒツジの血(sheep blood)を含むMRS培地に画線塗抹(streaking)し、37℃で48時間培養した。培養後、コロニー(colony)の周囲にクリアハロ(clear halo)が形成されると、β型溶血(β-hemolysis)活性を有する微生物に分類する。
【0118】
前記実験結果を図7に示す。図7に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株は、全てクリアゾーン(clear zone)が形成されていなかった。
【0119】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は溶血活性を有さず、安全であることを確認した。
【実施例8】
【0120】
安全性評価3:ムチン(mucin)分解能
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、ムチン分解能を有するか否かを確認するために以下のように行った。
【0121】
乳酸菌の種培養液を30mLの基底(basal)MRS培地(グルコースを含まないMRS培地)、0.3%のムチン(mucin)(type III,Sigma)を含む基底MRS培地、1%のグルコース(glucose)を含む基底MRS培地、1%のグルコース及び0.3%のムチンを含む基底MRS培地に1%接種し、37℃で24時間培養した。培養後、8時間と24時間に培養液をサンプリングし、分光光度計(spectrophotometer)で600nmで吸光度を測定することで微生物の生育度を測定し、pHメーターでpHを測定して微生物の生育によるpH変化を確認した。ムチン分解能がある場合、ムチンを炭素源として利用し、菌株の生育に応じてpHが減少する。
【0122】
前記実験結果を図8に示す。図8に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株の全てにおいて、経時的にグルコースを含む培地と、グルコース及びムチンを含む培地とで吸光度が増加しpHが減少する一方で、基底MRS培地及びムチンを含む培地では、吸光度が増加せず、pHが減少しなかった。
【0123】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株はムチン分解能を有さず、安全であることを確認した。
【実施例9】
【0124】
安全性評価4:ゼラチン液化能
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、ゼラチン液化能を有するか否かを確認するために以下のように行った。
【0125】
12%ゼラチンを含むMRS培地が入っているチューブに乳酸菌を画線塗抹(streaking)し、その後37℃で72時間培養してから、氷に30分間放置してゼラチン液化能力があるか否かを観察した。陽性対照群としては、ブレビバチルス・パラブレービス(Brevibacillus parabrevis)KCCM 41421を用いた。
【0126】
前記実験結果を図9に示す。図9に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株は、全てゼラチン液化能を示さなかった。
【0127】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株はゼラチン液化能を有さず、安全であることを確認した。
【実施例10】
【0128】
安全性評価5:ウレアーゼ(urease)活性
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、ウレアーゼ活性を有するか否かを確認するために以下のように行った。
【0129】
ウレアーゼ活性は、Christensen‘s urea agar(0.1gペプトン、0.1gデキストロース、0.5g塩化ナトリウム、0.2g KH2PO4、2gウレア、0.0012gフェノールレッド、1.5g寒天、100mL当り(per 100mL)に菌を接種した際のpHの変化で判断する。乳酸菌と、陽性対照群としたプロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)KCCM 40211を斜面培地に塗抹し、37℃で培養し、その後、培養6時間、24時間、6日後に培地色の変化を確認した。
【0130】
前記実験結果を図10に示す。図10に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株は、全て培養6日後まで培地の色変化を示さなかった。
【0131】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株はウレアーゼ活性を有さず、安全であることを確認した。
【実施例11】
【0132】
安全性評価6:インドール(indole)生産能
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、インドール産生能を有するか否かを確認するために以下のように行った。
【0133】
乳酸菌と、陽性対照群として使用したエシェリキア・コリ(Escherichia coli)ATCC 10536をトリプトファン培地(Tryptophan medium)(10.0gカゼイン酵素加水分解物(casein enzyme hydrolysate)、5.0g NaCl、1.0g DLトリプトファン、1L当たり(per 1L))に接種し、37℃で18時間にかけて培養し、その後、培養液にKovac’s reagent(10g p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、150mLブタノール、及び50mL塩酸)を5滴滴下し、赤色に変化すると陽性菌と判断した。
【0134】
前記実験結果を図11に示す。図11に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株は、全て培養液の色変化を示さなかった。
【0135】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株はインドール産生能を有さず、安全であることを確認した。
【実施例12】
【0136】
安全性評価7:β-グルクロニダーゼ(β-glucuronidase)活性
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、β-グルクロニダーゼ活性を有するか否かを確認するために以下のように行った。
【0137】
β-グルクロニダーゼ活性は、API ZYM kit(bioMerieux,Marcy l’Etoile,France)を用いて測定した。乳酸菌をMRS培地に接種し、その後、37℃で24時間培養してから、2mL滅菌食塩水で希釈して、培養液の濁度をマクファーランド5-6に相当する濁度に調整した。それをAPIストリップ(strip)に65μL分注し、37℃で4時間培養し、その後、ZYM AとZYM Bを一滴ずつ滴下してから、5分後に色変化で酵素活性の有無を判断した。
【0138】
前記実験結果を下記表11に示す。
【0139】
【表11】
【0140】
表11に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株は、全てβ-グルクロニダーゼ活性を示さなかった。
【0141】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株はβ-グルクロニダーゼ活性を有さず、安全であることを確認した。
【実施例13】
【0142】
安全性評価8:細胞傷害性
菌株が毒素を産生する場合、人体に有害な結果を招く可能性があるため、動物細胞に基づくin vitro実験により菌株の細胞傷害性を確認しなければならない。EZCYTOXは、water soluble tetrazolium(WST)を用いて生きている細胞の量を測定する試薬であり、細胞傷害性測定などに用いられている。WSTは細胞の脱水素酵素(dehydrogenase)と反応してオレンジ色の水溶性ホルマザン(formazan)を生成し、WSTと反応する脱水素酵素は、代謝的に旺盛な活動をする細胞のミトコンドリア電子伝達系に存在する酵素であり、生きている細胞にのみ有効である。よって、ホルマザンの生成は生細胞数と直線相関を有し、それは吸光度(450nm)を測定することによって分かる。
【0143】
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、細胞傷害性の有無を確認するために以下のように行った。
【0144】
Caco-2細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)と1%ペニシリン/ストレプトマイシンを加えたDMEM培地に5×10細胞/ウェルに入るように96ウェルプレート(plate)に播種し、37℃、5%COインキュベーター(incubator)で20時間培養した。MRSブロスで乳酸菌を18時間静置培養し、陽性対照群としてクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)亜種ニューモニエKCCM 41433を栄養ブロス中で18時間振盪培養した培養液を、種培養液として使用した。乳酸菌株種培養液を5mLのMRS培地にそれぞれ1%接種し、37℃で3時間培養し、その後、培養液を20,781Xgで1分間遠心分離して細胞を収穫した。収穫した乳酸菌細胞をDPBSで3回洗浄し、その後、10%FBSと1%ペニシリン/ストレプトマイシンを加えたDMEM培地1mLで懸濁した。懸濁した乳酸菌株をCaco-2細胞に感染多重度(multiplicity of infection;MOI、乳酸菌生菌数/Caco-2細胞数)が250になるように加え、その後、37℃、5%COで24時間培養した。培養後、DPBSで3回洗浄し、その後、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを加えたDMEM培地を200μL/ウェル添加し、次いでEZ-CYTOXを20μL/ウェル添加し、37℃、5%COで30分間反応させてから、マイクロプレートリーダー(microplate reader)を用いて450nmにおける吸光度を測定した。
【0145】
前記実験結果を図12に示す。図12に示すように、MOI250において陽性対照群の細胞生存率が80%以下であるのに対し、前記ウェイセラ・シバリア菌株は、全て80%以上の細胞生存率を示した。
【0146】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は細胞傷害性を有さず、安全であることを確認した。
【実施例14】
【0147】
安全性評価9:乳酸(lactic acid)産生
乳酸(lactic acid)は、L-formとD-formの2種の光学異性体があり、人体の場合、L-乳酸(L-lactic acid)は代謝が可能であるが、異性体であるD-乳酸(D-lactic acid)は代謝が不可能である。プロバイオティクス菌株の場合、L-乳酸(L-lactate)をD-乳酸(D-lactate)に変換する酵素であるDL-乳酸ラセミ化酵素(DL-lactate racemase)を有しており、酵素活性が強い場合に新生児、小児及び短腸症候群(short bowel syndrome)患者にD-乳酸(D-lactate)が蓄積し、散毒症(acidosis)を引き起こす虞がある。そのため、WHOは、D-乳酸(D-lactic acid)の1日の摂取量を体質量100mg/kg(body mass)以下に推奨した。
【0148】
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、D-乳酸産生の有無を確認するために以下のように行った。
【0149】
乳酸菌をMRSブロスで37℃、24時間培養し、その後、D-lactate assay kit(Roche)を用いて培養液中のL-乳酸とD-乳酸の濃度を測定した。
【0150】
前記実験結果を下記表12に示す。
【0151】
【表12】
【0152】
表12に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株は、全てD-乳酸をL-乳酸よりも高い濃度で産生した。しかしながら、乳酸菌は、種によってL-乳酸、D-乳酸、またはL-乳酸とD-乳酸の両方を産生する種に分けられ、D-乳酸を産生するという理由で有害性があると判断することはできない。
【0153】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は、L-乳酸及びD-乳酸の両方を産生するが、安全性評価に影響を与えないことを確認した。
【実施例15】
【0154】
安全性評価10:胆汁酸塩脱抱合(bile salt deconjugation)活性
胆汁塩(bile salt)は、脂肪を乳化させてリパーゼ(lipase)の作用を促進することで脂肪酸の分解を助け、プロバイオティクス菌株に存在する胆汁酸塩加水分解酵素(bile salt hydrolase)は、胆汁塩からプロバイオティクス菌株を保護し、腸内定着を増やすこともあるが、胆汁塩を脱抱合(deconjugation)して胆汁塩の乳化機能をなくすため、脂肪酸分解を困難にする。さらに、分解された胆汁塩の場合、他の腸内微生物の代謝によって毒性を有する2次代謝産物が生成され得る。
【0155】
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、胆汁酸塩脱抱合活性を有するか否かを確認するために以下のように行った。
【0156】
乳酸菌のコロニー(colony)を採取し、0.5%タウロデオキシコール酸(TDCA;bile acid,Sigma)を加えたMRS培地に画線塗抹(streaking)し、その後、嫌気条件下、37℃で2日間培養した。胆汁酸塩加水分解酵素(bile salt hydrolase)活性のある菌株の場合、コロニーの周りに不透明な白色の沈殿物が形成される。
【0157】
前記実験結果を図13に示す。図13に示すように、前記ウェイセラ・シバリア菌株は、全てコロニーに不透明な白色沈殿物が形成されていなかった。
【0158】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は胆汁酸塩脱抱合活性を有さず、安全であることを確認した。
【実施例16】
【0159】
安全性評価11:生体アミン(biogenic amine)産生
生体アミン(biogenic amine)は、主にアミノ酸の脱炭酸作用、アルデヒドとケトンのアミノ化とアミノ基転移反応によって産生される窒素化合物である。生体アミンは体内で直接的・間接的に神経伝達物質として作用し、血圧調節や血流などの心血管系にも影響を及ぼす。よって、生体アミン含有食品の摂取により、様々な薬理的な現象が現れる可能性がある。食品の安全性の観点から生体アミンの分布と含有量の調査は非常に重要であるが、韓国ではプロバイオティクス菌株が生産する生体アミンの基準または規格は設定されていない。
【0160】
表2のウェイセラ・シバリア菌株を対象に、生体アミン産生の有無を確認するために以下のように行った。
【0161】
乳酸菌を、生体アミン(biogenic amine)の前駆体であるアルギニン(arginine)、オルニチン(ornithine)、ヒスチジン(histidine)、チロシン(tyrosine)、トリプトファン(tryptophan)、リジン(lysine)、フェニルアラニン(phenylalanine)をそれぞれ400ppm加えたMRSブラスに接種し、その後、37℃で20時間培養した。培養後、培養上清1mLに炭酸ナトリウム飽和溶液(saturated sodium carbonate solution)500μLを加えて混合し、その後、1%ダンシルクロリドアセトン溶液(dansyl chloride acetone solution)800μLを加えて混合し、その後、栓をして45℃で1時間誘導体化した。そこに10%プロリン溶液(proline solution)500μLとジエチルエーテル5mLを加え、10分間ボルテックスミキサーで完全に混合し、上澄液を採取し、窒素ガスでパージ(purging)して乾燥した。乾燥物にアセトニトリル1mLを加えて溶解し、その後、溶解した液相を0.22μmメンブランフィルターでろ過したものを試験溶液としてHPLCで分析した。誘導体化された生体アミンは、DIONEX UltiMate 3000 HPLCシステム(Thermo Scientific,USA)を用いて定量分析した。
【0162】
前記実験結果を図14に示す。図14に示すように、前記ウエッセラ・シバリア菌株の全てにおいて、アグマチン(agmatine)、ヒスタミン(histamine)、β-フェニルエチルアミン(β-phenylethylamine)、プトレシン(putrescine)、セロトニン(serotonin)、スペルミジン(spermidine)、トリプタミン(tryptamine)、チラミン(tyramine)は検出されなかった。
【0163】
よって、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は生体アミンを産生せず、安全であることを確認した。
【0164】
実施例6~16は、韓国の食品医薬品安全処の「保健機能食品機能性原料プロバイオティクス安全性評価ガイド」(2021年6月)に従って実施されたものであり、結局、本発明のウェイセラ・シバリア菌株は、食品医薬品安全処のプロバイオティクスの安全性基準を満たすことが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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【国際調査報告】