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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】経頭蓋電磁治療による脳免疫調節
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/04 20060101AFI20240927BHJP
   A61N 5/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61N5/04
A61N5/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024548512
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 US2021056328
(87)【国際公開番号】W WO2023069117
(87)【国際公開日】2023-04-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524155493
【氏名又は名称】ニューロイーエム セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176418
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】アレンダッシュ ゲイリー ダブリュー
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082MC03
4C082ME12
4C082MG02
4C082MG03
(57)【要約】
本開示は、年齢関連疾患の発生および/または重症度を低下させるため、ならびに生存期間を延長するために、脳の免疫系を調節(再平衡化)する方法を記載する。本方法によれば、電磁エミッタのアレイを被検者の近位に配置する。電磁波発生器が、パラメータの所定のセットの電磁波を発生させる。被検者の頭部の近位に配置されたエミッタの一例では、電磁エミッタを通して電磁波を被検者に適用することにより、電磁エミッタの下のエリアの脳の免疫機能が正常化/再平衡化される。エミッタを頭部または体に配置することにより、脳のサイトカイン/免疫メディエータの再平衡化が起こり、その結果、年齢関連疾患の発生または重症度が低下し、人間の生存期間が延長され得る。あるいは、年齢関連疾患の発生/重症度の低減とは無関係にまたは年齢関連疾患の発生/重症度の低減と調和して機能する他の機構または効果を通して、電磁治療が人間の生存期間を延長し得る。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の脳内の炎症性および抗炎症性サイトカイン/免疫メディエータレベルを正常化または再平衡化する方法であって、
電磁エミッタのアレイを前記被検者の近位に配置することと、
電磁波発生器によって、パラメータの所定のセットを有する電磁場を発生させることと、
前記電磁エミッタを通して前記電磁場を前記被検者に適用することにより、前記電磁エミッタの下のエリアの脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記エミッタの下方の脳間質液およびCSF中のサイトカイン/免疫メディエータレベルが正常化または再平衡化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電磁エミッタの前記アレイが、前記被検者の頭部表面に隣接して配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
電磁エミッタの前記アレイが、前記被検者の体表面に隣接して配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電磁エミッタの下の前記エリアが、前記脳の脳グリア細胞、脈絡叢上皮細胞、ニューロン、および他の細胞成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化することが、脳細胞からのサイトカイン/免疫メディエータ放出の活性化または抑止を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化することが、初期脳サイトカイン/免疫メディエータレベルが低いときに脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを増大させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化することが、外傷性脳損傷(TBI)、脳卒中、AIDS、軽度認知障害(MCI)、およびアルツハイマー病(アルツハイマー病は、その病期に応じて低活性または高活性免疫系を含みうる)のうちの少なくとも1つを有する被検者の脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを増大させることを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化することが、初期脳サイトカイン/免疫メディエータレベルが高いときに脳サイトカインおよび免疫メディエータレベルを低下させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化することが、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、LATE認知症、血管性認知症、脳細菌またはウイルス感染症、多発硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、うつ病における認知障害、および術後認知機能不全のうちの少なくとも1つを有する被検者の脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを低下させることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化することが、脳内/CSF中における顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)サイトカインの分泌を増強または低減させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
小グリア細胞の数を増やすこと、
前記脳内における小グリア細胞の活動を増大または低下させること、
前記脳内のシナプスを増やすこと、および
海馬内のニューロンの数を増やすこと
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記電磁波が、
1メガヘルツ(MHz)~430ギガヘルツ(GHz)の周波数、
0.1~16ワット/キログラム(W/kg)平均比吸収率(SAR)の電力レベル、
1~300ヘルツ(Hz)のパルス繰返し率、および
1%~100%の間のデューティーサイクル
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記電磁エミッタを通して前記電磁場を前記被検者に適用することにより、前記電磁エミッタの下のエリアの脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化することが、所定の間隔での定期的な治療を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記電磁エミッタを通して前記電磁場を前記被検者に適用することにより、前記電磁エミッタの下のエリアの炎症性および抗炎症性サイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化することが、異常な/非平衝の脳サイトカイン/免疫メディエータレベルによって特徴づけられる免疫学的機能不全を治療する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記電磁エミッタを通した前記被検者に対する電磁治療が、前記脳/CSF免疫系/体循環および末梢免疫系/体循環を調節および調整して、ロバストな炎症性および抗炎症性サイトカイン/免疫メディエータ成分を達成する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記脳/CSF免疫系/体循環と末梢免疫系/体循環との間のこのような調節および調整が、電磁治療の影響を受けたある種のサイトカインの、前記脳の髄膜リンパ系を調節する能力によって達成される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
被検者の頭部にTEMTを適用して前記脳の髄膜リンパ系を通る流れを増大させることにより、アミロイドβ(Aβ)およびタウアイソフォームを他の脳毒素および代謝産物とともに前記脳から排出/排除することを強化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
電磁治療により人間の生存期間(寿命)を延長する方法であって、前記方法が、
電磁エミッタのアレイを前記被検者の近位に配置すること、
電磁波発生器によって、パラメータの所定のセットを有する電磁場を発生させること、および
前記電磁エミッタを通して前記電磁波を前記被検者に適用することにより、生存期間を延長すること
を含む、方法。
【請求項20】
電磁エミッタの前記アレイが、前記被検者の頭部表面に隣接して配置される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
電磁エミッタの前記アレイが、前記被検者の体表面に隣接して配置される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記電磁波が、
1メガヘルツ(MHz)~430ギガヘルツ(GHz)の周波数、
0.1~16ワット/キログラム(W/kg)平均比吸収率(SAR)の電力レベル、
1~300ヘルツ(Hz)のパルス繰返し率、および
1%~100%の間のデューティーサイクル
を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
生存期間の前記延長が、前記脳/体内の炎症性および抗炎症性サイトカイン/免疫メディエータを前記電磁波が平衡化した結果として達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
生存期間の前記延長が、脳/体内において前記電磁波が非免疫関連作用を誘起した結果として達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
生存期間の前記延長が、前記電磁波に起因して、認知症の全ての形態、心血管疾患の全ての形態、前記体の癌の全ての形態、AIDS、外傷性脳損傷、慢性外傷性脳障害、術後認知機能不全、麻酔後の認知障害、関節リウマチ、細菌またはウイルス感染症(例えばCOVID-19、エボラ、SARS)、関節リウマチ、多発硬化症、動脈高血圧、自己免疫疾患、うつ病および不安の全ての形態、うつ病における認知障害、アレルギー、喘息、セリアック病、糸球体腎炎、肝炎、炎症性大腸疾患、骨関節炎、アテローム硬化症、糖尿病、COPD、慢性腎臓疾患、ならびにメタボリックシンドロームを含む年齢関連疾患の発生および/または重症度の低減を介して達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
生存期間の前記延長が、前記電磁波に起因して、年齢関連疾患とは無関係の脳および/または体の機構を介して達成される、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記電磁エミッタを通して電磁治療を前記被検者に適用することにより、生存期間を延長することが、所定の間隔での定期的な治療を含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
免疫系の調節不全を伴う人間の「年齢関連」疾患(age-related disease)、および免疫系の調節不全を含む人間の「年齢関連」疾患は多数ある。この免疫調節不全または平衡異常(imbalance)は、疾患の進行および症状に対する重要な構成要素、または疾患に対する体の主要な反応であることがある。さらに、さまざまな疾患に関連した免疫機能不全は、末梢組織に影響を及ぼしうるだけでなく(例えば関節リウマチ、癌、心血管疾患)、脳にも影響を及ぼしうる(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病)。体と脳の両方の免疫調節に関して、サイトカインは、免疫系の「モジュレータ」または「エフェクタ」である。特に脳には、サイトカインを分泌してある程度の影響を脳機能に与える多数の細胞、例えば小グリア細胞、星状細胞、脈絡叢上皮細胞、およびニューロンが存在する。
【背景技術】
【0002】
老化および老化を伴う疾患のかなりの部分は、脳および/または体内の「炎症性」サイトカインと「抗炎症性」サイトカインとの間の平衡異常によって説明することができる。この平衡異常は老化中に起こり、抗炎症性サイトカインに比べて炎症性サイトカインの低悪性度で慢性的な進行性の突出を含み、これはしばしば「炎症老化(inflamm-aging)」と呼ばれる。その結果生じる免疫老化(例えば年をとるにつれて起こる免疫機能不全の進行)は、老齢集団の死亡率の主因であるように見える。この線に沿って、100年を超えて生きている人間(百歳以上の人)は、その血液中に炎症性サイトカインのロバストな存在を有する。しかしながら、百歳以上の人はさらに、炎症性サイトカインと平衡した高い抗炎症性サイトカインレベルを有する。したがって、中年に典型的な平衡に戻す、高齢者における免疫系のこのような旺盛な再平衡化は、年齢関連疾患の発生を減らし、生存期間を延長するであろう。
【発明の概要】
【0003】
添付図面は、本明細書に記載された原理のさまざまな例を示しており、本明細書の一部である。図示の例は、特許請求の範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】本明細書に記載された原理の一例による電磁治療装置のブロック図である。
図2】本明細書に記載された原理の一例による、被検者(subject)の脳内および/または脳脊髄液(cerebrospinal fluid)(CSF)中のサイトカインレベルを正常化または再平衡化するための方法の流れ図である。
図3A】本明細書に記載された原理の一例による、人間の頭部への経頭蓋電磁治療(transcranial electromagnetic treatment)(TEMT)を示す図である。
図3B】本明細書に記載された原理の一例による、人間の頭部への経頭蓋電磁治療(transcranial electromagnetic treatment)(TEMT)を示す図である。
図3C】本明細書に記載された原理の一例による、人間の頭部への経頭蓋電磁治療(transcranial electromagnetic treatment)(TEMT)を示す図である。
図4】個々のAD被検者のCSF中のサイトカインIL-17αのベースラインレベルと、毎日の治療を2か月間続けた後のIL-17aのTEMT誘起変化の方向と大きさの両方との間の強い相関を示すことにより、アルツハイマー病(AD)の脳内/CSF中におけるTEMTの免疫調節/再平衡化能力を示すグラフである。
図5】個々のAD被検者のCSF中のサイトカイン神経発育因子(NGF)のベースラインレベルと、毎日の治療を2か月間続けた後のNGFのTEMT誘起変化の方向と大きさの両方との間の強い相関を示すことにより、アルツハイマーの脳内/CSF中におけるTEMTの免疫調節/再平衡化能力を示すグラフである。
図6】個々のAD被検者のCSF中のサイトカイン顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)のベースラインレベルと、毎日の治療を2か月間続けた後のGCSFのTEMT誘起変化の方向と大きさの両方との間の強い相関を示すことにより、アルツハイマーの脳内/CSF中におけるTEMTの免疫調節/再平衡化能力を示すグラフである。
図7】TEMTによって誘起されたサイトカインGCSFの脳/CSFレベルの方向および変化が、個々のAD被検者の認知障害の程度(これは例えばアルツハイマー病評価スケール-認知サブスケール(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognitive-Subuscal)(ADAS-Cog)試験によって指示される)に強く関連していることを示すグラフである。
図8】本明細書に記載された原理の別の例による、脳内のさまざまな免疫関連細胞型に影響を及ぼすことにより被検者の脳内/CSF中のサイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化するための方法の流れ図である。
図9】本明細書に記載された原理の別の例による、脳内の非免疫細胞および/または機構に影響を及ぼすことにより被検者の脳内/CSF中のサイトカイン/免疫メディエータレベルを再平衡化するための方法の流れ図である。
図10】体/末梢電磁治療(body/peripheral electromagnetic treatment)(PEMT)、具体的には、首および腕の軸領域の大動脈、静脈、およびリンパ管の上方ならびに下肺の上方に置かれた電磁エミッタを用いたPEMTを示す図である。
図11】本明細書に記載された原理の一例による、脳からの毒素の排除/除去を強化するために脳内の髄膜リンパ管内を通るリンパ流を増大させるための方法の流れ図である。
図12】本明細書に記載された原理の一例による、年齢関連疾患を低減させることによって、および/または年齢関連疾患とは無関係の機構を通して人間の生存期間(寿命)を延長するための方法の流れ図である。
図13A】両手の指を組み合わせたような配置の電波および磁気波を有するTEMT電磁波と磁石によって発生させた磁気波との違いを示す図である。
図13B】両手の指を組み合わせたような配置の電波および磁気波を有するTEMT電磁波と磁石によって発生させた磁気波との違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
提示された図は、この仮出願に記載された方法と一貫した例および/または実施態様を提供する。しかしながら、この説明は、図に示された例および/または実施態様に限定されない。
【0006】
サイトカイン調節不全は、高齢者の免疫系の再構築において鍵となる役割を果たすと考えられている。より具体的には、年齢に関連して、免疫系の炎症性成分と抗炎症性成分との間の平衡を維持することができないことが増える。したがって、年をとるにつれて炎症性サイトカインの割合の増大が進行し、これは「炎症老化」と呼ばれる。脳および体内におけるこの低レベルの慢性炎症状態は、アルツハイマー病、癌、および心血管疾患を含む大部分の年齢関連疾患に対する鍵となる共通の要素であるように見える。
【0007】
炎症老化が、年齢関連疾患を理解する鍵であるとすれば、脳および/または体の免疫系の多数のサイトカイン(炎症性および抗炎症性)を再平衡化することができる治療的介入は、健康な老化および寿命への実行可能な経路となりそうである。残念ながら、高齢者の体および脳の免疫系を再平衡化することができる薬物、生物製剤、装置または方法は存在しない。炎症性サイトカインの維持/増大と抗炎症性サイトカインの増強はともに、サイトカインを包括的に再平衡化して青年または中年のレベルに戻すのに脳および体内において必要であろうという点で、このことは、治療的介入に対する大きな企てであろう。最近発見された脳の髄膜リンパ系は脳の免疫成分と体の免疫成分と間の結合を提供するが、脳または体内のサイトカイン/免疫メディエータを調節/再平衡化する性能を有する治療的介入は依然として存在せず、脳内と体内の両方のサイトカイン/免疫メディエータを同時に調節/再平衡化する性能を有する治療的介入はなおさら存在しないことは注目に値する。
【0008】
薬理学的、生物学的またはライフスタイル的介入の他に、老化疾患(disease of aging)(アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease)(AD)など)に対する「非薬理学的」手法も出てきており、臨床試験が完了しており、または現在、臨床試験中である。これらの「神経調節装置」手法は、経頭蓋磁気刺激(tMS)、経頭蓋直流刺激(tDCS)、および深部脳刺激(DBS)を含む。これらの3つの手法は全て、脳内のニューロンの活動を刺激する。しかしながら、薬学的および生物学的作用物質の場合と同様に、これらの手法のうち、これまでに、老化疾患に対して治療効果があること、特に、ADの認知障害を止めるまたは逆転させることが示されたものはない。これらよりも新しい2つの神経調節手法(経頭蓋光変調および経頭蓋超音波治療)は、ADに対する臨床試験を開始したばかりである。全体としてまたは個別に、これらの5つの神経調節手法が、老化および年齢関連疾患を特徴づける脳または体の免疫系の平衡異常、特に、脳または体の炎症性および抗炎症性サイトカインレベルの平衡異常によって定義される免疫系の平衡異常に対処することは示されていない。
【0009】
したがって、既存のこれらの手法から、老化中の免疫系の炎症性および抗炎症性成分を再平衡化することができる治療的介入、特に、脳内の免疫調節および良好な健康状態での寿命の延長に関する治療的介入は存在しないと結論することができる。実際、平衡のとれた免疫系は、寿命の延長/長寿に至る経路であることがある。
【0010】
90歳代の人(90+)および百歳以上の人(100+)を含む研究は、年齢関連疾患を遅らせることまたは年齢関連疾患のリスクを低減させることが可能である可能性があること、ならびに、脳および体内のサイトカインおよび/または免疫モジュレータ(本明細書ではサイトカイン/免疫メディエータと呼ぶ)を再平衡化または正常化することによって、潜在的に老化自体が遅れる可能性があることを示唆している。この線に沿って、百歳以上の多くの人は、強化された炎症性状態と強化された抗炎症性状態の両方を有する。言い換えると、百歳以上の人は、自身の健康寿命に寄与する炎症性および抗炎症性成分の平衡のとれたロバストな免疫系を有する。
【0011】
炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両方が活発となり、それらの平衡が保たれるよう高齢者のサイトカイン/免疫メディエータを調節する方法は、脳および体の多くの年齢関連疾患を防ぎまたは安定/逆転させることがあり、その結果、良好な健康状態での生存期間(「健康期間」)を延長することがある。
【0012】
経頭蓋電磁治療(TEMT)は、ADなどの老化疾患に対する有望な神経調節手法である。ADトランスジェニックマウスの包括的な前臨床研究は、TEMTが、脳および脳のニューロンに侵入して、ADの根本的原因であるように見える2つの毒性タンパク質の小さな集合体/オリゴマーを「分解する」ことを示した。これらの毒性タンパク質はAβおよびタウである。TEMTによるこれらの作用は、ニューロン内のミトコンドリアの機能を強化するその能力と相まって、ADトランスジェニックマウスでTEMTによって提供される認知に関する一貫した利益において鍵となる役割を果たすように見える。
【0013】
これらの所見を、人間のAD被検者における臨床試験に移すため、MEMOREM(商標)装置は、人間の頭部の表面に分布させた複数のエミッタを通して電磁波/高周波を与えて脳内に電磁(EM)場を誘導する全前脳治療(full forebrain treatment)を提供する。脳内にEM場を提供する装置の一例として、MEMOREM(商標)装置は、AD被検者に対するかなりの認知に関する利益、脳内でのAβの離解と一貫したAD被検者の脳脊髄液(CSF)中Aβレベルの変化、およびAD被検者の機能性磁気共振画像化(fMRI)スキャンにおける強化された脳機能の証拠を提供することが示されている。したがって、電磁場治療を脳に提供するMEMOREM(商標)装置などの介入は、かなりの治療的利益を提供しうる。
【0014】
本明細書は、老化した人間の脳内の免疫機能を再平衡化するためおよび人間の寿命を延長するための電磁場治療の適用を記載している。本明細書の記載された方法、システムおよび結果は、(インビトロまたは動物研究ではない)「人間」の研究によって到達したものであり、そのため、人間に直接に適用することができることに留意すべきである。
【0015】
したがって、本明細書は、1)脳内および/またはCSF中の(本明細書では「脳内/CSF中の」と言う)高いサイトカイン/免疫メディエータレベルの低下、および/または低いサイトカイン/免疫メディエータレベルの増大によって定義される免疫調節を人間の脳内に提供する方法、ならびに2)脳および/または体内のこのような免疫調節を通してまたは他のやり方で人間の生存期間を延長する方法を提示している。この第1の方法は、脳または体の血管系を流れる血液/血奬成分に影響を与えることを含まないことに留意すべきである。本明細書で使用されるとき、用語「脳」は、脳組織と脳内および脳の周囲の脳脊髄液(CSF)の両方に関することがある。したがって、用語「脳」は、脳組織および/またはCSFを指すことがある。
【0016】
本明細書は、一つには、年齢関連疾患のリスクを低減させ、したがって健康な無病老化の可能性を増大させることにより、被検者(例えば人間)の生存期間(寿命)を延長することができる方法を記載している。具体的には、経頭蓋電磁治療(TEMT)によって電磁場を用いて人間の脳を治療する第1の方法が提供される。第2の方法は、末梢電磁治療(PEMT)によって体または末梢に電磁場を提供する。本明細書には、生存期間を延長するためのこれらの2つの生体工学的方法の一方または両方の使用が記載されている。
【0017】
次に図を参照すると、図1は、本明細書に記載された原理の一例による電磁治療装置(100)のブロック図である。具体的には、図1は、電磁エミッタ(102)のアレイを含む電磁治療装置(100)を示している。電磁エミッタ(102)は、被検者の頭部表面に隣接して、例えば経頭蓋電磁治療(TEMT)装置(100)に入れて配置されてもよい。別の例では、電磁エミッタ(102)が、例えば末梢電磁治療(PEMT)において、被検者の体表面に隣接して配置される。電磁エミッタ(102)は、被検者(例えば患者)の頭部および/または体に向けて電磁場を投射する。電磁エミッタ(102)は、主にサイトカインレベルが異常に高いまたは異常に低い免疫系平衡異常の疾患または状態の治療のために電磁場/治療を被検者に適用するために活動化される。
【0018】
一例では、電磁波発生器(108)によって電磁波を発生させ、エミッタ(102)に送り、次いで電磁場として組織内に伝えてもよい。電磁治療装置(100)は、制御インターフェース(104)、コントローラ(106)、電磁波発生器(108)、および脳または体の所望の部分に治療を適用する1つまたは複数の電磁エミッタ(102)を含んでいてもよい。
【0019】
コントローラ(106)は、電磁波発生器(108)および電磁エミッタ(102)を処方された治療に従って操作することにより、治療および治療のパラメータを管理する。制御インターフェース(104)は、被検者(例えば患者)または補助者(例えば介護者)が治療を開始/停止すること、および治療状態を観察することを可能にする。被検者が移動している間も治療を適用することができるように、電磁治療装置(100)は可搬式であってもよい。あるいは、電磁治療装置(100)は、電磁治療装置(100)に対して正しい位置にいるときに被検者が治療を受けることができる固定式であってもよい。電磁エミッタ(102)は、コントローラ(106)によって一度に一つずつ活動化されてもよく、または、所望の場合に制御可能なパターンを被検者上に生成するため電磁場(例えば高周波場)の組合せを生み出すために、いくつかの電磁エミッタ(102)が活動化されてもよい。
【0020】
後により詳細に説明するが、電磁治療装置(100)は、1)脳サイトカインレベルを低くまたは高くして脳老化のリスクおよび脳老化疾患の重症度をより低くする免疫調節/再平衡化作用、ならびに2)脳および/または体のサイトカインレベルを低くまたは高くして、生存期間/寿命を延長するための経路を提供する免疫調節/再平衡化作用を提供する。これらの免疫調節/再平衡化作用は、調節/再平衡化する炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両方のレベルに関係する。
【0021】
図2は、本明細書に記載された原理の一例による、被検者の脳内/CSF中のサイトカインレベルを再平衡化/正常化するための方法(200)の流れ図である。方法(200)によれば、電磁エミッタ(図1、102)のアレイを被検者の近位に配置する(ブロック201)。上述のとおり、このような配置は、頭部表面に隣接していてもよく、または被検者の体表面に隣接していてもよい。
【0022】
次いで、電磁波発生器(図1、108)が、パラメータの所定のセット(例えば電磁波周波数、電力レベル、パルス繰返し率)を有する電磁波を発生させる(ブロック202)。いくつかの例では、この電磁波が、1メガヘルツ(MHz)~430GHz(ギガヘルツ)の間の周波数、0.1~16ワット/キログラム(W/kg)平均比吸収率(specific absorption rate)(SAR)の間の電力レベル、1~300ヘルツの間のパルス繰返し率を有する。
【0023】
方法(200)はさらに、電磁エミッタ(図1、102)を通して電磁波/場を被検者に適用することにより、電磁エミッタ(図1、102)の下のエリアのサイトカインレベルを正常化/再平衡化すること(ブロック203)を含む。特定の例では、脳のさまざまな細胞成分(脳細胞と呼ぶ)内およびその周囲ならびに/またはCSF中のサイトカインレベルによって指示される脳内のサイトカインレベルが再平衡化/正常化される。脳細胞のいくつかの例は、小グリア細胞、星状細胞、脈絡叢上皮細胞、ニューロンを含む。いくつかの例では、治療セッションが、指定された持続時間、例えば数分~数時間の持続時間を有していてもよく、または、治療セッションが、数日、数週、数か月もしくは数年にわたって連続してもよい。所与の治療セッションが、所定の間隔で、例えば1日、1週、1か月または数年に数回の間隔で繰り返されてもよい。
【0024】
脳の免疫系の平衡異常によって特徴づけられるいくつかの年齢関連神経疾患/状態、具体的には、さまざまなサイトカイン/免疫メディエータの脳/CSFレベルの機能不全/平衡異常と定義されるいくつかの年齢関連神経疾患/状態が存在する。これらの疾患および状態の大部分では、免疫系の「炎症性」成分が、正常な脳/CSFレベルよりも高いレベルのサイトカイン/免疫メディエータが存在している高活性(hyperactive)である。この例では、サイトカイン/免疫メディエータレベルを正常化すること(ブロック203)が、炎症性サイトカインレベルを低下させることを含む。このような「炎症性」環境が脳内に存在する神経疾患/状態は、アルツハイマー病、細菌またはウイルス脳感染症(例えばCOVID-19、エボラ、SARS、ある種のインフルエンザ)、多発硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、およびうつ病における認知障害を含む。
【0025】
炎症性サイトカインが「低活性(hypoactive)」である(すなわちサイトカインの脳/CSFレベルが低い)脳の免疫系の平衡異常によって特徴づけられる年齢関連神経疾患/状態の数はこれよりも少ない。この例では、電磁場を適用すること(ブロック203)が、脳/CSFサイトカインレベルを増大させることを含む。これらの疾患/状態は、外傷性脳損傷(TBI)、脳卒中、AIDS、軽度認知障害(MCI)、およびアルツハイマー病(アルツハイマー病は、その病期に応じて低活性または高活性免疫系を含みうる)を含む。炎症性成分と抗炎症性成分の両方が平衡状態にあるように、両方の例に関しては、抗炎症性サイトカインレベルの平衡化/再平衡化も含まれうる。
【0026】
アルツハイマー病(AD)に関しては、病期に、管理されていない脳炎症(例えば過剰な炎症性サイトカイン)が含まれることがあり、これが、軽度から中等度、中等度から重度への病気の進行の少なくとも一部の原因になっていることがある。しかしながら、ADの前兆、すなわちMCIに関しては正反対であることがある。ここでは、脳の免疫系が低活性(例えば炎症性サイトカインが不十分)であり、その結果としてADの病因に抵抗することができず、続いてMCIからAD認知障害への変換が起こる。どちらのケースでも、この方法(200)は、脳/CSFサイトカインレベルを調節し、この調節は、ADにおける脳炎症を低減させること、またはこの病気に抵抗するためにMCIにおけるサイトカインレベルを上向き調節することを含んでもよい。このような方法(200)はさらに、上で挙げた免疫系平衡失調/調節不全を含む神経疾患/状態に対して治療効果がある。
【0027】
上記のことを考慮して、本明細書は、電磁場治療を脳(例えばTEMT)または体(例えばPEMT)に提供するための方法(200)を記載しており、この方法は、脳/CSFサイトカインレベルが低すぎる場合には脳/CSFサイトカインレベルを増大させることによって、または脳/CSFサイトカインレベルが高すぎる場合には脳/CSFサイトカインレベルを低下させることによって、脳/CSFに対する免疫調節効果をもたらすであろう。これらの効果は、免疫系の炎症性成分と抗炎症性成分の両方を互いに対して平衡させると考えられる。
【0028】
まとめると、さまざまなサイトカインの脳/CSFレベルの平衡異常に対処する第1の例では、方法(200)が、電磁波発生器(図1、108)およびケーブル接続された放射エミッタ(図1、102)を使用する電磁治療装置(図1、100)を頭部で使用して、患者の頭蓋を横切って脳に入る電磁場治療を発生させ、放射することを含む。いくつかの例では、電磁治療装置(図1、100)が、自宅での電磁波治療を提供し、その間は、完全に近い移動性が可能である。このような電磁治療装置(図1、100)は、充電式バッテリによって電力が供給される特注のプリント回路板(コントローラ(図1、106))を含んでいてもよい。一例では、電磁治療装置(図1、100)が、2層ヘッドキャップに埋め込まれた8つの一群の専門電磁エミッタ(図1、102)を通して全前脳TEMTを提供する。この例では、これらの電磁エミッタ(図1、102)が逐次的に活動化され、所与の時点において1つの電磁エミッタ(図1、102)だけが活動状態にあってもよい。電磁エミッタ(図1、102)が活動状態にあるとき、電磁エミッタ(図1、102)は脳内に電磁場を投射する。この例に関して、コンピュータシミュレーションは、電磁場が、頭蓋、次いでその下の大脳皮質を通り抜けて、最後に深部皮質下脳エリアに容易に侵入することを示している。治療の目的上、電磁場は、電磁エミッタ(図1、102)によって受け取られた電磁波からなるものと定義され、電磁エミッタ(図1、102)は次いで電磁場を空気を通して伝搬し、電磁場は次いで、治療を受けている患者の脳内または体内に容易に侵入する。
【0029】
図3Aは、経頭蓋電磁治療(TEMT)を頭部に提供するための図1で論じた電磁治療装置(100)装置の一例である、MemorEM(商標)と呼ばれるTEMT装置(300)を着用している被検者(310)を示している。電磁波は、腕に着けられたコンビネーション制御ボックス/バッテリ(図示せず)を用いて発生させる。導線を含むケーブル(314)が、この制御ボックス/バッテリを、2層ヘッドキャップ(316)内に置かれた電磁エミッタ(例えば図1、102)の各々に接続している。いくつかの例では、TEMT装置(300)が、2層ヘッドキャップ(316)内に置かれた8つの電磁エミッタ(例えば図1、102)を含んでいてもよい。いくつかの例では、TEMT装置(300)が、自宅での完全に近い移動性を可能にし、被検者(310)が、電磁治療を受けている間に自宅での大部分の活動を実行することを可能にする。TEMT装置(300)は、いくつかの電力レベルに調整することができ、音を発しない。
【0030】
図3Bは、TEMT装置(300)の8つの電磁エミッタ(302a~h)のサイズおよび位置を示している。いくつかの例では、8つの電磁エミッタ(302a~h)が2層ヘッドキャップ(図示せず)間に包み込まれていてもよい。所与の治療セッション中のこれらの8つの電磁エミッタ(302a~h)の逐次活動化は、所与の時点において1つの電磁エミッタ(302)だけを活動状態にすることを可能にするが、いくつかのエミッタまたは全てのエミッタの同時活動化を実施することもできる。
【0031】
図3Cは、915MHzの周波数および4.0W/kgの比吸収率(SAR)に設定された活動状態にある単一の電磁エミッタ(図1、102;図3B、302b)が発生させた電場の有限差分時間領域(finite-difference time-domain)(FTDT)コンピュータシミュレーションを示している。活動状態にあるこの1つの電磁エミッタ(102)から脳の側頭葉内への電場の分布および侵入深さが与えられると、所与の治療中の全電磁エミッタ(302a~h)が全前脳電磁場治療を提供することを理解することができる。いくつかの例では、1秒当たり約200回の治療サイクル(エミッタ活動化)が実施されることがあるが、この「パルス繰返し率」はこれよりも低くても(例えば40Hz)または高くても(例えば250Hz)よい。
【0032】
上で説明した電磁装置(図1、100;図3A、300;および図3B、300)は、脳の細胞部分を構成するニューロンおよびグリア細胞に電磁治療を提供するだけでなく、脳の表面の脳血管および大脳皮質内または大脳皮質の下方に位置する深部脳血管にも電磁治療を提供する。すなわち、電磁エミッタ(図1、102;図3B、302a~h)の下のエリアは、脳の機能細胞、および脳内を通るまたは脳の上にある脳血管を含む。そのため、それらの脳血管内を循環している血液の細胞成分(例えばリンパ球)またはそれらの血管自体が、頭部の表面に配置された電磁エミッタ(図1、102;図3B、302a~h)から発せられた電磁場の影響を受けることがありうる。
【0033】
軽度および中等度のAD被検者にMemorEM(商標)装置を通してTEMTを与えた臨床研究において、1日2回、1時間の治療のベースラインでおよび2か月後に脳脊髄液(CSF)試料を採取した。CSFは、脳構成物および機能活動の確立された指標であり、CSFは、脳内への非侵襲窓として知られている。CSF中で測定可能な5つのサイトカイン/免疫メディエータ(IL-17α、NGF、GCSF、VEGF、およびTGFα)に関するCSFの分析は、それらが主に炎症性サイトカインであるのかまたは抗炎症性サイトカインであるのかにかかわらず、TEMTの明確な免疫調節/再平衡化能力を明らかにした。具体的には、ベースラインサイトカインレベルが低かった(正常よりも低かった)場合、2か月間のTEMTはサイトカインレベルを高めた。反対に、CSFサイトカインレベルが高かった場合には、TEMTが、サイトカインレベルの低減を誘起した。IL-17α(図4に示されている)、NGF(図5に示されている)およびGCSF(図6に示されている)に関して例証されているとおり、これらのCSFサイトカインの5つ全てについて非常に有意な相関が存在した。他の2つのサイトカイン(VEGFおよびTGFα)に関する相関係数値/有意性はそれぞれ、[r=-0.806;p<0.05]および[r=-0.716;p<0.05]であった。これらの5つの有意な相関は、CSFサイトカイン/免疫メディエータのベースラインレベルが、TEMTに対するCSFサイトカイン/免疫メディエータの反応の方向および大きさを決定することを示している。これは明確に、脳内におけるTEMTの免疫調節/再平衡化作用である。
【0034】
AD被検者のADAS-cogスコアは、AD被検者の病期および治療的介入の効果を決定するための臨床的ベンチマークである。CSF中のサイトカインGCSFに関して、ベースラインADAS-cogスコアは、TEMTに反応したGCSFの方向および大きさと強い相関を示した[r=0.941;p<0.001](図7に示されている)。ベースラインにおけるADAS-cogスコアが高い(不十分である)と、結果としてCSF中のGCSFレベルは増大し、ADAS-cogスコアが低い(良好である)とちょうど反対のことが起こった。この相関は、認知障害のレベルが、TEMTによって誘起された脳/CSFサイトカインの方向および変化に強く関連していることを示している。GCSFが脳シナプス形成、小グリア細胞活動、および神経形成に対して有する多数の有益な効果を考慮すれば、より不十分な認知パフォーマンスを有するAD被検者のCSF中のGCSFレベルを増大させるこのようなTEMTの効果は、取るに足りないとは言えない。
【0035】
全てのAD被検者で、GCSF(およびTGFα)のCSFレベルはその血奬レベルよりもはるかに高かった。したがって、AD脳の細胞がGCSFを分泌していること、およびGCSFの分泌がTEMT適用の影響を受けることは明らかである。GCSF注射を3週間にわたって与えたADトランスジェニックマウスは、海馬神経形成、小グリア細胞活性化/Aβ分解、およびシナプス形成において中枢神経系(CNS)の強化を示したことが知られている。これらの3つの有益な効果は、CSF中のベースラインGCSFレベルが低かったAD被検者のTEMTによって強化され、それらのAD被検者は全て、TEMTによって誘起されたGCSFのCSFレベルの増大を示すことが予期されるであろう。
【0036】
AD被検者の脳サイトカインレベルに対するTEMTの効果の正確な機構は現在のところ分かっていない。小グリア細胞および星状細胞はともにサイトカインを分泌する。したがって、TEMTは、これらのCNS細胞型の一方または両方からのサイトカイン分泌に影響を及ぼす可能性がある。刺激された/活性化された小グリア細胞および星状細胞は、炎症性サイトカインを放出することで炎症性反応を経験する。この点に関して、小グリア細胞と星状細胞の両方で電磁波の効果が観察されることがある。具体的には、915MHzの高周波に曝露した後のラットで、脳小グリア細胞の活性化が組織学的に観察されることがある。同様に、2450MHz、20分間の1回の電磁場(EMF)曝露が与えられた細胞培養中の小グリア細胞は活性化され、その結果、TNFαの炎症性分泌が生じた。対照的に、1500MHzの高周波は脳内での小グリア細胞の増殖を抑制しうる。900MHzの電磁波への曝露によって細胞培養中の星状細胞が活性化されることがある。細胞培養または齧歯動物におけるこれらのEMF曝露研究は、900MHz(またはこの説明の臨床的研究で使用された915MHz)のEMFが、脳小グリア細胞と星状細胞の両方に影響を及ぼすことができることを示している。TEMTによるCNS/CSFサイトカイン調節の代替機構が、脈絡叢上皮細胞に影響を及ぼすことによるものであることがあり、脈絡叢上皮細胞も、(脈絡叢上皮細胞が産生する)CSF中にサイトカインを分泌する。同様に、ニューロンによるサイトカインの放出が起こることも知られている。したがって、上述の4つの脳細胞型(小グリア細胞、星状細胞、脈絡叢上皮細胞、および/またはニューロン)の組合せは、脳内/CSF中の多数の炎症性および抗炎症性サイトカインを「再平衡化する」ことでTEMTに反応することがある。
【0037】
図8は、本明細書に記載された原理の一例による、被検者の脳内のサイトカインレベルを再平衡化または免疫調節するための方法(800)の流れ図である。方法(800)は、電磁エミッタ(図1、102)のアレイを被検者の近位に配置すること(ブロック801)、パラメータの所定のセット(例えば電磁波周波数、電力レベル、パルス繰返し率)を有する電磁波/場を発生させること(ブロック802)、このような電磁波を用いて、脳の免疫に関連した小グリア細胞、星状細胞、脈絡叢上皮細胞、およびニューロンのうちの1つまたは複数に影響を及ぼして(ブロック803)、脳内/CSF中のサイトカインレベルを再平衡化すること(804)を含んでいてもよい。
【0038】
図9は、本明細書に記載された原理の別の例による、被検者の脳内のサイトカインレベルを再平衡化または免疫調節するための方法(900)の流れ図である。図8の流れ図の代わりに、または図8の流れ図と調和して、TEMTは、「非免疫」細胞または機構を通して、図9の例に従って脳内/CSF中のサイトカインレベルを再平衡化するように作用してもよい。方法(900)は、電磁エミッタ(図1、102)のアレイを被検者の近位に配置すること(ブロック901)、パラメータの所定のセット(例えば電磁波周波数、電力レベル、パルス繰返し率)を有する電磁波/場を発生させること(ブロック902)、このような電磁波を用いて、脳内の1つまたは複数の非免疫細胞または機構に影響を及ぼして(ブロック903)、脳内/CSF中のサイトカインレベルを再平衡化すること(ブロック904)を含んでいてもよい。
【0039】
低活性脳免疫系によって特徴づけられる脳疾患/状態は、TEMTによって再活性化(再平衡化)されたこの免疫系の「炎症性」成分を有しうるため、本明細書に記載された方法および結果は広範囲に及ぶ含意を有する。例えば、軽度認知障害(MCI)またはきわめて初期のADの場合、再活性化および再平衡化された脳免疫系は、ADの病因を妨げることまたはADの病因に抵抗することができる。高活性脳免疫系(すなわち支配的な「炎症性」成分を有する脳免疫系)によって特徴づけられる脳疾患/状態に対する同様だが正反対のシナリオを想像することができる。
【0040】
TEMTのこのような深遠な免疫調節能力は、免疫機能不全を含む疾患/状態を持たない「正常な」個人においても明らかであろうと考えられる。それにもかかわらず、CSF中に異常に低いまたは異常に高いサイトカインレベルが存在することがあり、これをTEMT(またはPEMT)によって矯正することができる。このような状況は、被検者が年をとって、中年の免疫平衡を有する年齢からその後の免疫平衡異常を有する年齢になるときに想像されることがある。したがって、TEMT(またはPEMT)は、人間の中年に特有の免疫平衡を維持することがある。
【0041】
TEMTによる免疫調節を示す脳/CSFサイトカインの中で、この調節は予想通り所与の方向にあったことに留意すべきである。例えば、これらのサイトカインの正常な脳レベルよりも高いサイトカインを有するAD被検者は通常、TEMTに反応して、高かった全てのサイトカインのレベルを低減させ、正常なレベルよりも低いサイトカインを有する被検者に関してはその逆でであった。したがって、記載された方法は、与えられたサイトカインが炎症性であるのかまたは抗炎症性であるのかにかかわらず、収束レベルに向かう脳サイトカインの包括的な免疫調節/再平衡化を提供する。これは、知られている他の技術または薬物は示さないTEMT(またはPEMT)の広範囲に及ぶ固有の免疫調節能力である。
【0042】
さまざまなサイトカイン/免疫メディエータの脳レベルの平衡異常に対処する別の例では、本明細書に記載された方法を、電磁波発生器(図1、108)およびケーブル接続された電磁エミッタ(図1、102)を使用して電磁場治療を発生させ、電磁エミッタ(図1、102)の下方の被検者の体内に電磁場治療を放射する末梢電磁治療(PEMT)装置を使用して、使用者の「体」上で実行してもよい。特定の1つの例では、治療する脳疾患/状態に応じて1つのまたは複数の電磁エミッタ(図1、102)があってもよい。一例として、脳感染を含む重症のCOVID-19感染症を有する被検者は、重症のCOVID-19感染症に典型的な脳炎症、全身性サイトカインストームおよび下肺炎症を抑止するために、首、腕の軸領域、および下胸部に左右対称に配置された複数の電磁エミッタ(図1、102)を必要とすることがある。
【0043】
図10は、被検者の体に適用されたEMFを介してさまざまなサイトカイン/免疫メディエータの脳レベルの平衡異常に対処するためのPEMTの一例を示している。この例では、末梢PEMTエミッタ1002a~fを使用して、全身血管もしくはリンパ機構または他のある間接機構を通して脳炎症に間接的に影響を及ぼしてもよい。いずれの事象でも、この効果は、COVID-19患者の高い脳サイトカインレベル(炎症)を下げるであろう。この例ではおそらく脳炎症の直接TEMT治療が最もよい結果をもたらすであろうことは明白だが、脳炎症に対してPEMTが有益な全身機構を提供する可能性を排除すべきではない。
【0044】
本明細書に記載されたAD被検者のTEMTまたはPEMTの「再平衡化」効果は、免疫系平衡異常によって特徴づけられる他の神経障害、例えばパーキンソン病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、LATE認知症、ALS、および脳卒中に対して広範囲にわたる治療的利益を有することがあり、これらの神経障害は全て、AD被検者の脳内/CSF中または血管系内の炎症性サイトカイン対抗炎症性サイトカインの平衡異常によって特徴づけられる。
【0045】
さまざまなサイトカイン/免疫メディエータの脳/CSFレベルの平衡異常に対処することを達成するためのTEMTまたはPEMTの上記の全ての例およびさらに多くの適用では、放出される電磁波の以下の範囲のパラメータを使用してもよい。
a.1MHz~430GHzの電磁波周波数
b.0.1~16W/kg平均比吸収率(SAR)の電力レベル
c.1~300Hzのパルス繰返し率
d.1%~100%の間のデューティーサイクル(連続)
【0046】
したがって、本明細書は、電磁場を適用して、被検者の脳サイトカイン/免疫メディエータレベルを、1)免疫機能を有する脳細胞(例えば小グリア細胞、星状細胞、脈絡叢上皮細胞、およびニューロン)からのサイトカイン/免疫メディエータの放出をTEMTによって直接に活性化または抑止することにより、および2)PEMTによって、免疫機能を有する脳細胞に間接的に影響を及ぼすことにより変化させる方法を記載している。
【0047】
図11は、本明細書に記載された原理の一例による、脳からの毒素の排除/除去を強化するために脳内の髄膜リンパ管内を通るリンパ流を増大させるための方法(1100)の流れ図である。この例では、脳から毒性タンパク質を除去するために方法(1100)を利用してもよい。最近まで、可溶性βアミロイド(Aβ)およびタウなどの毒素を脳から排除する唯一の経路は、脳脊髄液(CSF)中を通り次いで静脈血に入る毒素の輸送を介したものであると考えられていた。しかしながら、その後、脳は、主に以下の2つの脳位置にある「髄膜」リンパ管の広範な系を有することが分かった:1)硬膜静脈洞および中硬膜動脈に平行な脳の背側および2)頭蓋に対して脳の基底。脳のニューロンおよびグリア細胞を取り巻く脳の間質液は、CSF中へ一方向に排出され、次いでこれらの髄膜リンパ管にリンパとして入り、このリンパは次いで首を下って頸部リンパ節内に輸送される。これらのリンパ節は次いでリンパを大静脈に排出して、脳からさまざまな毒素を排除する。そのため、これらの髄膜リンパ管および静脈系に流れる髄膜リンパ管の一方向リンパ流は、脳から毒性タンパク質を排除するための(CSFの他の)第2のルートを表す。
【0048】
髄膜リンパ管のリンパ流の増大は、(現在、ADの根本的原因であると考えられている)より多くの毒性Aβおよびタウ可溶性集合体を脳からより多く除去すると考えられるため、髄膜リンパ管はAD治療のターゲットとなっている。髄膜リンパ管内のより大きなリンパ流はこのような脳毒素の排除を強化する可能性がある。したがって、それらのリンパ管内の流れを(例えば管拡張によって)増大させる方法は、Aβおよびタウを他の毒素とともに脳から排除することを強化する可能性がある。脳内でのTEMTの主な作用は、Aβおよびタウの可溶性オリゴマーおよび不溶性沈着物を分解することであり、したがって脳からのそれらの脳毒素の強化された排除を必要とすることを考慮すれば、脳からのこれらの脳毒素の除去を容易にすることは非常に望ましいと考えられる。
【0049】
具体的には、方法(1100)は、電磁エミッタを被検者の脳(TEMT)または体(PEMT)の近位に配置して(ブロック1101)、パラメータの所定のセット(例えば電磁波周波数、電力レベル、パルス繰返し率)を有する電磁波を発生させる(ブロック1102)ことを含んでいてもよい。その結果生じた電磁場/波は、頭部の髄膜リンパ管内を通る流れの増大を直接にまたは間接的に誘起して(ブロック1103)、βアミロイド(Aβ)およびタウアイソフォームを他の脳毒素および代謝産物とともに脳から排除または排出することを増大させる(1104)。TEMTによって誘起された髄膜リンパ流の増大によって脳からのAβおよびタウの除去を強化することは、AD認知障害を止めるまたは逆転させるのに非常に重要となりうる。実際、これらの2つの毒性タンパク質の排除における機能不全は、それらの毒性タンパク質のオリゴマーおよび不溶形態がなぜAD脳内に蓄積するのかの主な理由であるとの仮説がある。
【0050】
上記のことを考慮して、Aβおよびタウアイソフォームを他の脳毒素および代謝産物とともに排出すること(ブロック1104)を、頭部に配置された電磁エミッタ(図1、102)によるTEMTを通して人間の頭部に電磁場を適用することによって、または、ことによると、体表面に配置された電磁エミッタ(図1、102)によるPEMTを通して人間の体に電磁場を適用することによって実行することができる。これを直接にまたは間接的に実行することは、髄膜リンパ流/排出の強化を介して、脳からの毒素(例えばAβ、タウ)の除去を増大させる。
【0051】
Aβおよびタウアイソフォームを他の脳毒素および代謝産物とともに排除するためのTEMTまたはPEMTの上記の例および他の適用では、放出される電磁波の以下の範囲のパラメータが可能である。
a.1MHz~430GHzの電磁波周波数
b.0.1~16W/kg平均比吸収率(SAR)の電力レベル
c.1~300Hzのパルス繰返し率
d.1%~100%の間のデューティーサイクル(連続)
【0052】
進化を通じて、人間は約40~50年間生きるものと定められてきた。しかしながら、現在の寿命の見込みは70代後半から80代であるため、免疫系は、過去数世紀よりも長く活性であり続けなければならない。この長期間の活性化は結果として慢性炎症につながり、その結果、先進国の人間は、その生存期間のおよそ75~80%だけを良好な健康状態で過ごすようになっている。老化自体は、健康を維持する能力が低下した状態によって特徴づけられる。老化に伴うサイトカイン網のホメオスタシス(平衡異常)の損失は、高齢におけるこの健康損失に大いに寄与する。
【0053】
最近のほぼ20年の間、(特に高周波周波数範囲の)電磁波の負の健康効果が、それを支持する現実世界の証拠をほとんど示すことなく、メディアおよび科学界の一部によって喧伝されている。主張されたこれらの負の健康効果は主として、非常に高いEMF電力レベルにさらされた動物、または、ヨーロッパの小さな地理的エリア内の管理されていない人間の疫学的(遡及的)研究を含んでいた。いずれの事象でも、電磁場(特に携帯電話によって放出される高周波場)の主張されたこのような負の健康効果は年齢関連疾患の発生および重症度の増大を含み、その結果として人間の生存期間が短くなることが予想されるであろう。
【0054】
しかしながら、同時に提示された人間データによって支持された、本明細書に記載されたシステムおよび方法は、TEMTが、人間の体内の、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両方のサイトカインレベルを調節および再平衡化することができることを示している。このようなサイトカインの再平衡化は、百歳以上の人(年齢100+)が、自身の体内の炎症性成分と抗炎症性成分の両方のロバストで「平衡のとれた」免疫系を有することを示している研究と、本明細書に記載されたシステムおよび方法とが整合していることによって利益を得る。このことは、中年以降の人間に典型的な「非平衝」免疫系と鮮明な対照をなし、非平衝免疫系では炎症性成分が支配的となり、その結果、「炎症老化」の状態および続いて起こる多数の疾患/障害をもたらし、したがって人間の生存期間を制限する。人間が老化している間、炎症性および抗炎症性成分の「平衡のとれた」ロバストな免疫系を提供しまたは回復させる介入、過程またはシステムは、大部分の百歳以上の人に特有の「平衡のとれた」活力ある免疫系を模倣し、したがって、その結果として、百歳以上の人が享受しているのと同じ健康寿命の延長(例えば「健康期間」の延長)をもたらすことが予期されるであろう。
【0055】
図12は、本明細書に記載された原理の一例による、電磁治療を介して人間の生存期間(寿命)を延長するための方法(1200)の流れ図である。上の説明と同様に、方法(1200)は、電磁エミッタのアレイを被検者の頭部(TEMT)または体(PEMT)の近位に配置すること(ブロック1201)、およびパラメータの所定のセット(例えば電磁波周波数、電力レベル、パルス繰返し率)を有する電磁場/波を発生させること(ブロック1202)を含む。この方法(1200)によれば、このような電磁治療は、生存期間を延長したい限りにおいて人間の老化の任意の時点で使用してもよい。電磁治療によって誘起される人間の生存期間の延長(ブロック1207)は、この治療によって提供される任意の数の作用/機構に起因しうる。このような1つの機構は、脳および体の炎症性および抗炎症性サイトカインをともに平衡化または再平衡化する(ブロック1203)治療の能力であるが、治療の他の「非免疫関連」作用/機構(ブロック1204)が別個にまたは組み合わせて含まれることもある。この方法(1200)によれば、治療のこのような作用/機構は、その結果として、年齢関連疾患のリスクもしくは重症度の低減(ブロック1205)を通して、および/または遺伝的背景/遺伝マーカ、ミトコンドリアのエネルギー産生もしくは抗酸化防御に対する効果などの年齢関連疾患とは無関係の効果(ブロック1206)を通して生存期間を延長する。
【0056】
寿命に対する遺伝成分は約25%にすぎないことを認識することは重要である。このことは、寿命因子の残りの75%によって、本明細書に記載されたTEMTおよび/またはPEMTによる免疫系の再平衡化が、劇的な寿命延長効果を有しうることを示唆している。寿命に対する遺伝成分に関しては、少なくとも2つの「寿命」座が、90歳を超える人間の生存に関連していることが識別されている:1)染色体5q33.3上のrs2149954、および2)染色体19z13.32上のrs4420638。
【0057】
百歳以上の人は、それらの人が、炎症性成分と抗炎症性成分の両方を含むロバストな平衡のとれた免疫系を有することを可能にする遺伝子変異体を備えているようである。この線に沿って、百歳以上の人は、炎症のより良好な制御に関連した遺伝マーカをより高い頻度で有し、そのため、それらの人の免疫系の炎症性成分は潜在的に有害な作用因子に過度に反応せず、強い抗炎症性成分によって無効にされる。
【0058】
したがって、健康な老化および寿命は、炎症性反応を示す傾向がより低いことの結果であるだけでなく、効率的で等しく突出した抗炎症網の結果でもある。「炎症老化」プロフィールが人間の老化を理解する鍵である場合、強い抗炎症老化プロフィールを獲得することは、良好な健康状態での寿命(より長い「健康期間」)の鍵となりうる。TEMTおよび/またはPEMTは、抗炎症性サイトカインの体レベルが低すぎるときに抗炎症性サイトカインの体レベルを増大させることにより、強い抗炎症老化プロフィールを提供することができる。
【0059】
健康な老化のための本明細書に記載されたシステムおよび方法の利益、および寿命に対する鍵としての平衡のとれた免疫系とのその強い相互連結は、人間の寿命に対する電磁波/高周波の負の影響を主張する一般的な考えおよび一部の科学文献とは正反対の結論および主張に至る。むしろ、本明細書の説明は、TEMT/MemorEM(商標)装置またはPEMTによって与えられるであろう電磁波/高周波が、実際に、人間の生存期間および良好な健康状態を延長する(すなわち健康期間の延長を提供する)と断じている。この人間の寿命の延長は、以前に指摘したとおり、EMFによって誘起された年齢関連疾患の発生もしくは重症度の低下を通して、ならびに/またはEMFによって誘起されたある代替機構もしくは効果および無関係の機構もしくは効果を通して起こりうる。
【0060】
TEMTおよび/またはPEMTが、免疫系再平衡化(図12、ブロック1205)を通して、および/または免疫系再平衡化とは無関係な効果(図12、ブロック1206)を通してその発生および/または重症度を低減させることができる年齢関連疾患/状態は以下のものを含む:認知症の全ての形態、心血管疾患の全ての形態、体の癌の全ての形態、AIDS、外傷性脳損傷、慢性外傷性脳障害、術後認知機能不全、麻酔後の認知障害、関節リウマチ、細菌またはウイルス感染症(例えば、COVID-19、エボラ、SAR)、関節リウマチ、多発硬化症、動脈高血圧、自己免疫疾患、うつ病および不安の全ての形態、うつ病における認知障害、アレルギー、喘息、セリアック病、糸球体腎炎、肝炎、炎症性大腸疾患、骨関節炎、アテローム硬化症、糖尿病、COPD、慢性腎臓疾患、ならびにメタボリックシンドローム。
【0061】
年齢関連疾患の発生/重症度の低減を通してかつ/または年齢関連疾患の低減とは無関係に生存期間を延長するためのTEMTまたはPEMTの上記の例および他の適用では、放出される電磁波の以下の範囲のパラメータが可能である。
a.1MHz~430GHzの電磁波周波数
b.0.1~16W/kg平均比吸収率(SAR)の電力レベル
c.1~300Hzのパルス繰返し率
d.1%~100%の間のデューティーサイクル(連続)
【0062】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されているとき、用語「電磁場」または「電磁治療」は、電磁波発生器が発生させ、エミッタに送られ、次いで電磁場/治療として組織内に伝えられる、両手の指を組み合わせたような配置の電波および磁気波に関する。図13Aは、所与の方向(1307)に移動している両手の指を組み合わせたような配置の電波(1303)および磁気波(1305)を有するTEMT電磁波(1301)の一例を示している。
【0063】
図13Bは、磁石によって発生させた磁気波の一例を示している。この例では、磁気コイル(1311)が磁束(1313)を発生させ、磁束(1313)が脳/体(1317)内に電流(1315)を誘導する。本明細書は、「磁気刺激/治療」に関するものではないことに留意すべきである。磁気刺激/治療は、磁石によって組織内に磁気波(例えば磁束(1313))を発生させることを含み、それに続いて、この磁気波に対して直角な完全に別個の電波が組織内で誘導される。このような磁気刺激はしばしば、誤って「電磁刺激、電磁波またはパルス電磁場(PEMF)」と呼ばれる。したがって、磁気刺激は、TEMTとは完全に異なる神経調節技術であり、真の電磁治療を提供しない。このことは、パワーの単位を見ることによって十分に示される。TEMTおよびPEMTの電磁波はワット/kgまたは比吸収率(SAR)を使用し、一方、磁気波は磁気単位「テスラ」を使用する。
【0064】
上記の説明は、本発明を例示し説明するためだけに示したものである。網羅的であること、または開示された精確な形態に本発明を限定することは意図されていない。上記の教示を考慮して多くの変更および変形が可能である。
【0065】
本明細書に記載された例は、主題の原理およびその現実的応用を最もよく説明するために選択および記載されたものである。上記の説明は、当業者が、主題を、さまざまな実施形態において、企図された特定の用途に適したさまざまな変更を加えて最も適切に利用することを可能にすることが意図されている。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
【国際調査報告】