IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポールの特許一覧

特表2024-536683ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法
<>
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図1
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図2
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図3
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図4
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図5
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図6
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図7
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図8
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図9
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図10
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図11
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図12
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図13
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図14
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図15
  • 特表-ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/158 20170101AFI20241001BHJP
   D01F 9/08 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C01B32/158
D01F9/08 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508761
(86)(22)【出願日】2022-08-08
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 SG2022050566
(87)【国際公開番号】W WO2023018373
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】10202108866X
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】バレリア スポロン マランゴーニ
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ ヘリオ デ カストロ ネト
(72)【発明者】
【氏名】マリア―ナ カルデイラ フェラズ ダ コスタ
(72)【発明者】
【氏名】リカルド ケイテル ドナト
(72)【発明者】
【氏名】ホイ リー タン
【テーマコード(参考)】
4G146
4L037
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC02B
4G146AC03B
4G146BA01
4G146BB15
4G146BC47
4L037CS01
4L037FA20
4L037PA00
4L037UA17
(57)【要約】
本開示は、ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法に関する。ナノファイバーを形成する方法は、2D材料であって、その平面上及びその端部に電荷保持部分を有する2D材料を提供すること、2D材料をカールさせるために、平面上の電荷保持部分を、プロトン供与体、プロトン受容体、少なくとも部分的に疎水性の対イオン、又は第2の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する第2の2D材料と反応させること、及び、2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部の電荷保持部分を、プロトン供与体、プロトン受容体、少なくとも部分的に疎水性の対イオン、又は第2の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する第2の2D材料と反応させると同時に、端部の中和された電荷保持部分を架橋させること、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバーを形成する方法であって、
a)二次元(2D)材料であって、その平面上及びその端部に電荷保持部分を有する2D材料を提供すること、
b)前記2D材料をカールさせるために、前記平面上の前記電荷保持部分を、プロトン供与体、プロトン受容体、少なくとも部分的に疎水性の対イオン、又は第2の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する第2の2D材料と反応させること、及び
c)工程b)の前記2D材料が互いに相互作用して前記ナノファイバーを形成するように、前記端部の前記電荷保持部分を、プロトン供与体、プロトン受容体、少なくとも部分的に疎水性の対イオン、又は前記第2の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する前記第2の2D材料と反応させると同時に、前記端部の中和された前記電荷保持部分を架橋させること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記電荷保持部分が、プロトン化部分、脱プロトン化部分、カチオン性部分、又はアニオン性部分から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、水性媒体中で行われ、及び/又は、約10℃~約50℃で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記ナノファイバーを形成するためのテンプレートに依存しない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記2D材料が、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択され、前記数層遷移金属ダイカルコゲナイドが、MoS、MoSe、MoTe、WS、又はWSeから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記2D材料が、前記電荷保持部分により少なくとも約50%官能化される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応工程b)及び/又はc)が、約3~約6のpH、又は好ましくは約4のpHで行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも部分的に疎水性の対イオンが、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、イミド、スルホネート、サルフェート、ボレート、ホスフェート、カルボキシレート又はこれらの誘導体から選択され、反対電荷保持部分を有する前記第2の2D材料が、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反対電荷保持部分を有する前記第2の2D材料が、前記電荷保持部分により少なくとも約50%官能化される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)が、前記平面上の反応した前記電荷保持部分を架橋させることを更に含み、前記架橋が架橋剤の存在下で行われ、前記架橋剤が少なくとも2つの架橋性部分を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記架橋剤対前記2D材料の重量比が、約50:1~約700:1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも工程b)が超音波処理及び/又は撹拌下で行われ、前記超音波処理が約3℃~約10℃で少なくとも10分間である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程a)の電荷保持部分を有する2D材料を形成するために、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記2D材料を電荷保持部分により官能化する工程が約5~約6.9のpHで行われ、前記2D材料を電荷保持部分により官能化する工程が超音波処理下で行われ、前記超音波処理が約3℃~約10℃で少なくとも10分間、又は好ましくは約3℃~約10℃で少なくとも30分間である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記2D材料を電荷保持部分により官能化する工程が、少なくとも2時間、又は好ましくは少なくとも72時間行われる、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記2D材料を電荷保持部分により官能化する工程が、約20℃~約70℃で、又は好ましくは約45℃で行われる、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記pHが維持される場合、及び/又は、対イオンが過剰である場合、前記方法が、全ての2D材料が反応するまで自己永続的である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノファイバーを形成する方法が、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にプロトン化部分又は脱プロトン化部分を有する2D材料を提供すること、
b)前記2D材料をカールさせるために、前記平面上の前記プロトン化部分又は前記脱プロトン化部分をプロトン供与体又はプロトン受容体と反応させること、及び
c)工程b)の前記2D材料が互いに相互作用して前記ナノファイバーを形成するために、前記端部の前記プロトン化部分又は前記脱プロトン化部分を、プロトン供与体又はプロトン受容体と反応させると同時に、前記端部の前記反応した部分を前記共有結合的に架橋させること、
を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記プロトン化部分又は前記脱プロトン化部分がカルボキシレート部分であり、前記カルボキシレート部分が、5-アジドペンタン酸、6-アジド-ヘキサン酸、アジド-dPEG-酸、アジドパルミチン酸、アジド酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、5-メルカプトペンタン酸、又はこれらの組み合わせから選択されるカルボキシル化合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工程b)及び/又はc)が約3~約6のpHで行われる、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
工程b)が、前記平面上の前記反応したプロトン化部分又は脱プロトン化部分を共有結合的に架橋させることを更に含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記プロトン化部分又は前記脱プロトン化部分がアミノ化合物により共有結合的に架橋され、アミノ化合物が少なくとも2つのアミノ部分を含む、請求項18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記アミノ化合物が、トリエチレンテトラミン、トリエチレンジアミン、エチレンジアミン、p-フェニレンジアミン、又はこれらの組み合わせである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
工程b)及び工程c)が、約3℃~約30℃で少なくとも1時間、又は約3℃~約10℃で少なくとも12時間、又は約3℃~約10℃で少なくとも72時間行われる、請求項18~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法であって、水性媒体中でナノファイバーが形成され、前記方法が、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にカチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料を提供すること、
b)前記2D材料をカールさせるために、前記平面上の前記カチオン性部分又は前記アニオン性部分を少なくとも部分的に疎水性の対イオンと反応させること、及び
c)工程b)の前記2D材料が互いに相互作用して前記ナノファイバーを形成するために、前記端部の前記カチオン性部分又は前記アニオン性部分を、少なくとも部分的に疎水性の対イオンと反応させると同時に、前記端部の前記反応した電荷保持部分をイオン的に架橋させること、
を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記カチオン性部分又は前記アニオン性部分が、前記2D材料に静電的に結合される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
2D材料と前記カチオン性部分又は前記アニオン性部分との比が、約1:30~約1:80、又は好ましくは約1:50である、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記カチオン性部分又は前記アニオン性部分が、有機カチオン性部分又はアニオン性部分である、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記アニオン性部分が、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドである、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記電荷保持部分を、前記2D材料上の前記カチオン性部分又は前記アニオン性部分に対して反対電荷を有する対イオンと反応させる、請求項25~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記対イオンが、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、イミド、スルホネート、サルフェート、ボレート、ホスフェート、カルボキシレート又はこれらの誘導体から選択される有機対イオンである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記対イオンが1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムである、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
カチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料と前記対イオンとの比が、約1:30~約1:80、又は好ましくは約1:50である、請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
工程b)が、前記平面上の前記反応したカチオン性部分又はアニオン性部分をイオン的に架橋させることを更に含む、請求項25~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
少なくとも工程b)が超音波処理下で行われ、前記超音波処理が約3℃~約10℃で少なくとも10分間行われる、請求項25~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
工程a)のカチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料を形成するために、2D材料をカチオン性部分又はアニオン性部分により官能化する工程を更に含む、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記2D材料をカチオン性部分又はアニオン性部分により官能化する工程が、超音波処理下、カチオン性部分又はアニオン性部分の存在下で行われ、前記超音波処理が約3℃~約10℃で少なくとも10分間行われる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法であって、水性媒体中でナノファイバーが形成され、前記方法が、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にカチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料を提供すること、
b)前記2D材料をカールさせるために、前記平面上の前記カチオン性部分又は前記アニオン性部分を、別の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する別の2D材料と反応させること、及び
c)工程b)の前記2D材料が互いに相互作用して前記ナノファイバーを形成するために、前記端部の前記カチオン性部分又は前記アニオン性部分を、前記別の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する前記別の2D材料と反応させると同時に、前記端部の前記反応した電荷保持部分をイオン的に架橋させること、
を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記2D材料対前記別の2D材料の重量比が約1:1である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記2D材料を前記別の2D材料とフローリアクター内で反応させることを含む、請求項38又は39に記載の方法。
【請求項41】
ナノファイバーであって、
前記ナノファイバーが、中実又は半中空の断面プロファイルを特徴とし、
前記ナノファイバーが、2D材料であって、カールした、またその平面及び端部で互いに結合した、2D材料の層状断面プロファイルを特徴とし、
前記2D材料が、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される、
ナノファイバー。
【請求項42】
前記ナノファイバーが、約5nm~約400nm、若しくは好ましくは約10nm~約100nmの直径、及び/又は約1μm~約100μm、若しくは好ましくは約10μm~約30μmの長さにより特徴づけられる、請求項41に記載のナノファイバー。
【請求項43】
前記ナノファイバーの直径が不均一である、請求項41又は42に記載のナノファイバー。
【請求項44】
前記ナノファイバーが、約100~約3000のアスペクト比により特徴づけられる、請求項41~43のいずれか一項に記載のナノファイバー。
【請求項45】
前記ナノファイバーが半結晶性である、請求項41~44のいずれか一項に記載のナノファイバー。
【請求項46】
前記ナノファイバーがグラフェンナノファイバーである場合、前記ナノファイバーが、約0.40nm~0.5nm、又は好ましくは約0.40nm~0.43nmの層間間隔により特徴づけられる、請求項41~45のいずれか一項に記載のナノファイバー。
【請求項47】
前記ナノファイバーがグラフェンナノファイバーである場合、前記ナノファイバーがアミド結合を特徴とし、前記ナノファイバーが、約288eV~約290eVに位置するX線光電子スペクトルピーク及び/又は約1653cm-1及び約1572cm-1に位置するFTIRピークにより特徴づけられる、請求項41~46のいずれか一項に記載のナノファイバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ナノファイバー及びそのナノファイバーを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2004年のグラフェンの出現以来、拡大可能で高品質なグラフェンを製造するためのいくつかの方法が開発されてきた。これらの方法は、1)トップダウンと、2)ボトムアップという2つのカテゴリーに大まかに分けることができる。トップダウン法は、グラファイトから開始し、層数を1層又は少数層に減らしてグラファイトのサイズを低減する。これは液相剥離(LPE)法の場合である。ボトムアップ手法は、分子サイズの材料から開始し、化学蒸着(CVD)の場合のように、それらの材料を大きなサイズに成長させる。これらの手法には長所と短所との両方がある。LPEでは、いくつかの層を有するマイクロメートルサイズの単結晶フレークを得ることができ、一方、CVDでは、単層の多結晶の巨視的な膜が得られる。しかしながら、ほとんどの場合、グラフェンは、そのサイズ、表面、及び形態を技術的要求に適合させるために更なる改良を必要とする。
【0003】
二次元(2D)グラフェン以外にも、炭素系ナノ材料は、多種多様な構造、例えば、一次元(1D)形態:カーボンナノチューブ、スクロール、及び繊維を採用することができる。応答性のコンホメーション変化(2D⇔1D)を有する系の作製はまた、薬物送達、水素貯蔵、センサー、濾過用の膜、並びに筋肉フィラメント及び微小管などの生体系を模倣するための構造、並びに航空宇宙産業及び自動車産業を含む、広範囲の用途に大きく関連している。グラフェン繊維は、特に、スマート電子繊維デバイス、生地での用途のために、並びにフレキシブルでウェアラブルな電子機器及びセンサーとして大きな注目を集めている。その高いアスペクト比、軽量性、及び耐性により、グラフェン繊維はまた、個人用保護具、熱管理、並びに自動車産業及び航空産業用の強化材としても非常に有望である。層間距離を調整することができ、導電性が高いことから、電池及びスーパーキャパシターなどのエネルギー用途にとって魅力的である。更に、その高いアスペクト比及び互いに絡み合って架橋構造を形成できることから、空気及び水の浄化のための高機能膜、並びに制御され、低減された細孔サイズを有するエアロゲルの作製を可能にすることができる。医療において、例えば、フィブリル材料は、細胞外マトリックスの繊維状の性質を再現することができ、組織工学及び再生医療のための優れたツールとして役立つ。
【0004】
高いアスペクト比とナノスケールの厚さとを有するグラフェン繊維は、通常、テンプレート法、例えば、ポリピロールナノファイバーの炭化、バクテリアセルロースの熱分解、又は非常に高いアスペクト比を有するテルル(Te)ナノワイヤの使用によって製造され、この最後のケースでは、グルコースから水熱炭化プロセスによって、Teナノワイヤの存在下でTe@炭素が得られ、その後、化学的手法によってTeコアが除去される。したがって、テンプレートフリーの穏やかな条件下で、懸濁液中のグラフェンシートから高アスペクト比かつ高品質の1Dグラフェン繊維を制御可能に製造することは、依然として課題である。60μmを超える直径を有する巨視的グラフェン繊維は、通常、ポリマー繊維の製造に使用されるものと同様の湿式紡糸プロセスによって製造される。
【0005】
上述の問題のうち少なくとも1つを克服又は改善することが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、、共有結合及び水素結合、疎水性相互作用、イオン性相互作用、並びにπ-πスタッキングなどの短距離及び長距離相互作用によってナノファイバーアセンブリーを制御できるという理解に基づいている。これに関して、液体媒体中で脱プロトン化することができるイオン性基が表面に結合した2D材料である2D電解質は、高分子電解質と同様の方法で形態転移を起こすことができ、その後、二官能性分子の存在下で自己集合(self-assembly)及び架橋が起こり、長いナノファイバーが形成されることが見出された。この集合は、ヘテロ構造ナノファイバーと呼ばれる2つの異なる種類の2D電解質間で行うこともできる。別の手法は、基底面上に有機/無機塩を有する2D材料である2D閉じ込め電解質と、系のイオン交換及び不安定化をもたらし、相分離/凝固を引き起こして繊維を生じさせる別の有機/無機塩の使用の存在とを伴う。この触媒フリーで自己テンプレート型の手法は、水性媒体及び室温などの穏やかな条件を使用して、2D電解質をより高いアスペクト比の複合ナノファイバーに組み込むことを可能にする。
【0007】
本発明は、ナノファイバーを形成する方法であって、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部に電荷保持部分を有する2D材料を提供すること、
b)2D材料をカールさせるために、平面上の電荷保持部分を、プロトン供与体、プロトン受容体、少なくとも部分的に疎水性の対イオン、又は第2の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する第2の2D材料と反応させること、及び
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部の電荷保持部分を、プロトン供与体、プロトン受容体、少なくとも部分的に疎水性の対イオン、又は第2の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する第2の2D材料と反応させると同時に、端部の反応した電荷保持部分を架橋させることを含む方法を提供する。
【0008】
電荷保持部分は、水性媒体中のナノ材料のより良好な分散を可能にすることが見出された。例えば、グラフェンは、官能化後にのみ水中に分散することができる。電荷保持部分はまた、反応してナノファイバーを形成するまで、2D材料をその平面構成に維持する。電荷保持部分はまた、いくつかの特定の条件、例えば、pH及び音波処理時間に応じて、いくつかのコンホメーション変化を誘導し得る。この意味において、電荷保持部分は、中和によってその電荷を失うように構成される。更に、ナノ材料の表面上に電荷保持部分を提供することによって、架橋速度は、反応条件、例えば、pH及び二官能性又は多官能性架橋剤を変化させることによって制御することができる。このようにして、ナノファイバーの成長を制御することができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分は、プロトン化部分、脱プロトン化部分、カチオン性部分、又はアニオン性部分から選択される。
【0010】
いくつかの実施形態では、本方法は、水性媒体中で行われる。
【0011】
いくつかの実施形態では、本方法は、約10℃~約50℃で行われる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本方法は、ナノファイバーを形成するためのテンプレートに依存しない。
【0013】
いくつかの実施形態では、二次元材料は、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド(few-layer transition-metal dichalcogenides)、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0014】
いくつかの実施形態では、数層遷移金属ダイカルコゲナイドは、MoS、MoSe、MoTe、WS、又はWSeから選択される。
【0015】
いくつかの実施形態では、2D材料は、電荷保持部分で少なくとも約50%官能化される。
【0016】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分は、pHを変化させることによって反応する。
【0017】
いくつかの実施形態では、反応工程b)及び/又はc)は、約3~約6のpHで行われる。
【0018】
いくつかの実施形態では、反応工程b)及び/又はc)は、約4のpHで行われる。
【0019】
いくつかの実施形態では、少なくとも部分的に疎水性の対イオンは、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、イミド、スルホネート、サルフェート、ボレート、ホスフェート、カルボキシレート又はこれらの誘導体から選択される。
【0020】
いくつかの実施形態では、反対電荷保持部分を有する2D材料は、グラフェン、酸化グラフェン数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0021】
いくつかの実施形態では、反対電荷保持部分を有する2D材料は、電荷保持部分で少なくとも約50%官能化される。
【0022】
いくつかの実施形態では、工程(b)は、反応した電荷保持部分を平面上で架橋させることを更に含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、架橋は、架橋剤の存在下で行われる。
【0024】
いくつかの実施形態では、架橋剤は、少なくとも2つの架橋性部分を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、架橋剤対2D材料の重量比は、約50:1~約700:1である。
【0026】
いくつかの実施形態では、少なくとも工程b)は、超音波処理及び/又は撹拌下で行われる。
【0027】
いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃で少なくとも10分間である。
【0028】
いくつかの実施形態では、本方法は、工程a)の電荷保持部分を有する2D材料を形成するために、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程を更に含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、約5~約6.9のpHで行われる。
【0030】
いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、超音波処理下で行われる。
【0031】
いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃で少なくとも10分間である。
【0032】
いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃で少なくとも30分間である。
【0033】
いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、少なくとも2時間行われる。
【0034】
いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、少なくとも72時間行われる。
【0035】
いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、約20℃~約70℃で行われる。
【0036】
いくつかの実施形態では、2D材料がグラフェンである場合、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、約45℃で行われる。
【0037】
いくつかの実施形態では、2D材料がMoSである場合、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、約20℃~約40℃で行われる。
【0038】
いくつかの実施形態では、2D材料がグラフェンである場合、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、不活性雰囲気下で行われる。
【0039】
いくつかの実施形態では、pHが維持され、及び/又は対イオンが過剰である場合、本方法は、全ての2D材料が反応するまで自己永続的である。
【0040】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーを形成する方法は、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にプロトン化部分又は脱プロトン化部分を有する2D材料を提供すること、
b)2D材料をカールさせるために、平面上のプロトン化部分又は脱プロトン化部分をプロトン供与体又はプロトン受容体と反応させること、及び
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部のプロトン化部分又は脱プロトン化部分を、プロトン供与体又はプロトン受容体と反応させると同時に、端部の反応した部分を共有結合的に架橋させることを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、プロトン化部分又は脱プロトン化部分は、カルボキシレート部分である。
【0042】
いくつかの実施形態では、カルボキシレート部分は、5-アジドペンタン酸、6-アジド-ヘキサン酸、アジド-dPEG-酸、アジドパルミチン酸、アジド酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、5-メルカプトペンタン酸、又はこれらの組み合わせから選択されるカルボキシル化合物である。
【0043】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分は、pHを変化させることによって中和される。
【0044】
いくつかの実施形態では、工程b)及び/又はc)は、約3~約6のpHで行われる。
【0045】
いくつかの実施形態では、工程b)は、反応したプロトン化部分又は脱プロトン化部分を平面上で共有結合的に架橋させることを更に含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、プロトン化部分又は脱プロトン化部分は、多官能性又は二官能性アミノ化合物と共有結合的に架橋される。
【0047】
いくつかの実施形態では、アミノ化合物は、少なくとも2つのアミノ部分を含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、アミノ化合物は、トリエチレンテトラミン、トリエチレンジアミン、エチレンジアミン、p-フェニレンジアミン、又はこれらの組み合わせである。
【0049】
いくつかの実施形態では、架橋は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の存在下で行われる。
【0050】
いくつかの実施形態では、工程b)及び工程c)は、約3℃~約30℃で少なくとも1時間行われる。
【0051】
いくつかの実施形態では、工程b)及び工程c)は、約3℃~約10℃で少なくとも12時間行われる。
【0052】
いくつかの実施形態では、工程b)及び工程c)は、約3℃~約10℃で少なくとも72時間行われる。
【0053】
いくつかの実施形態では、本方法は、水性媒体中でナノファイバーを形成するものであり、この方法は、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にカチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料を提供すること、
b)2D材料をカールさせるために、平面上のカチオン性部分又はアニオン性部分を少なくとも部分的に疎水性の対イオンと反応させること、及び
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部のカチオン性部分又はアニオン性部分を、少なくとも部分的に疎水性の対イオンと反応させると同時に、端部の反応した電荷保持部分をイオン的に架橋させることを含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、カチオン性部分又はアニオン性部分は、2D材料に静電的に結合される。
【0055】
いくつかの実施形態では、2D材料とカチオン性部分又はアニオン性部分との比は、約1:30~約1:80である。
【0056】
いくつかの実施形態では、2D材料とカチオン性部分又はアニオン性部分との比は、約1:50である。
【0057】
いくつかの実施形態では、カチオン性部分又はアニオン性部分は、有機カチオン性又はアニオン性部分である。
【0058】
いくつかの実施形態では、アニオン性部分はビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドである。
【0059】
いくつかの実施形態では、アニオン性部分は、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドから選択される塩として提供される。
【0060】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分は、2D材料上のカチオン性部分又はアニオン性部分に対して反対電荷を有する対イオンと反応する。
【0061】
いくつかの実施形態では、対イオンは有機対イオンである。
【0062】
いくつかの実施形態では、対イオンは、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、イミド、スルホネート、サルフェート、ボレート、ホスフェート、カルボキシレート又はこれらの誘導体から選択される。
【0063】
いくつかの実施形態では、対イオンは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムである。
【0064】
いくつかの実施形態では、対イオンは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホネートから選択される塩によって提供される。
【0065】
いくつかの実施形態では、カチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料と対イオンとの比は、約1:30~約1:80である。
【0066】
いくつかの実施形態では、カチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料と対イオンとの比は、約1:50である。
【0067】
いくつかの実施形態では、工程b)は、平面上の反応したカチオン性部分又はアニオン性部分をイオン的に架橋させることを更に含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、少なくとも工程b)は、超音波処理下で行われる。
【0069】
いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃で少なくとも10分間行われる。
【0070】
いくつかの実施形態では、本方法は、工程a)のカチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料を形成するために、2D材料をカチオン性部分又はアニオン性部分により官能化する工程を更に含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、2D材料をカチオン性部分又はアニオン性部分により官能化する工程は、カチオン性部分又はアニオン性部分の存在下で、超音波処理下で行われる。
【0072】
いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃で少なくとも10分間行われる。
【0073】
いくつかの実施形態では、2D材料がグラフェンである場合、本方法は、工程a)の前に、カチオン性部分又はアニオン性部分の存在下でグラファイトを剥離する工程を更に含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、グラファイトとカチオン性部分又はアニオン性部分とは、約95:5の比で水性媒体中と有機媒体混合物中とに分散される。いくつかの実施形態では、水性媒体及び有機媒体は不混和性である。
【0075】
いくつかの実施形態では、剥離工程は、高出力プローブ超音波処理下で行われる。
【0076】
いくつかの実施形態では、本方法は、水性媒体中でナノファイバーを形成するものであり、この方法は、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にカチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料を提供すること、
b)2D材料をカールさせるために、平面上のカチオン性部分又はアニオン性部分を、別の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する別の2D材料と反応させること、及び
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部のカチオン性部分又はアニオン性部分を、別の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する別の2D材料と反応させると同時に、端部の反応した電荷保持部分をイオン的に架橋させることを含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、2D材料対別の2D材料の重量比は、約1:1である。
【0078】
いくつかの実施形態では、本方法は、2D材料を別の2D材料とフローリアクター内で反応させることを含む。
【0079】
本発明はまた、ナノファイバーであって、
該ナノファイバーが、中実又は半中空の断面プロファイルを特徴とし、
該ナノファイバーが、2D材料であって、カールした、またその平面及び端部で互いに結合した、2D材料の層状断面プロファイルを特徴とし、
該2D材料が、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される、ナノファイバーを提供する。
【0080】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約5nm~約400nmの直径により特徴づけられる。
【0081】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約10nm~約100nmの直径により特徴づけられる。
【0082】
いくつかの実施形態では、直径は不均一である。
【0083】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約1μm~約100μmの長さにより特徴づけられる。
【0084】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約5μm~約50μmの長さにより特徴づけられる。
【0085】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約30~約3000のアスペクト比により特徴づけられる。
【0086】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは半結晶性である。
【0087】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーがグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーは、約0.40nm~0.5nmの層間間隔により特徴づけられる。
【0088】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーがグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーは、約0.40nm~0.45nmの層間間隔により特徴づけられる。
【0089】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーがグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーはアミド結合により特徴づけられる。
【0090】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーがアミド部分によって架橋されたグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーは、約288eV~約290eVに位置するX線光電子スペクトルピークにより特徴づけられる。
【0091】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーがアミド部分によって架橋されたグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーは、約1653cm-1及び約1572cm-1に位置するFTIRピークにより特徴づけられる。
【0092】
次に、本発明の実施形態を、非限定的な例として図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1図1は、2D電解質ナノファイバーの合成の概略図である。(a)より低い(G-COOH)及び(b)より高い(G-COOHhc)官能化度によるグラフェンの官能化である。(c)EDC、NHS、及びTETA分子、並びに(d)EDC/NHS又は(e)TETAのみを使用した対照を使用したG-COOHの更なる官能化である。全ての工程のSTEM画像であり、背景が明るい灰色の構造は、TEMグリッド上のレース状炭素支持フィルムである。
【0094】
図2図2は、ナノファイバーのXPS特性測定である。グラフェン、G-COOH、及びナノファイバーを比較した高分解能C1s及びN1s XPSである。
【0095】
図3図3は、2D電解質ナノファイバーの形態学的及び構造的分析である。(a、b、c)ナノファイバー構造のSEM画像及び(d、e)HR-STEMであり、グラフェンは繊維の内側に位置する。(f、g、h)ナノファイバーのSEM画像及び(i、j)HR-STEMであり、グラフェンは非晶質相の表面上に集合している。
【0096】
図4図4は、2D電解質ナノファイバーのラマン特性測定である。(a)及び(b)は、それぞれ「D」、「G」及び「2D」バンドの強度マップである。ラマン励起レーザー波長は532nmである。
【0097】
図5図5は、繊維形成の理論分析である。化学結合は、(a)スクロールの縁部に沿って又は(b)その表面で、スクロールを架橋させる役割を担う。C、H、N、及びO原子は、それぞれ灰色、白色、青色、及び赤色で表されている。反応のエンタルピーを矢印の上に示す。(c)サイズの不一致が大きすぎる2つのランダムスクロールは絡み合うことができず、(d)同等のサイズのスクロールは絡み合って繊維を形成することができる。
【0098】
図6図6は、繊維のSEM画像及び粒径分布ヒストグラムである。
【0099】
図7図7は、官能化の前後のグラフェン(G-COOH及びナノファイバー)を比較するFTIRスペクトルである。
【0100】
図8図8は、反応の異なる段階におけるSEM画像である(全ての場合において、pHは約6.5である)。
【0101】
図9図9は、ナノファイバーのそれぞれの高さプロファイルを伴うAFM画像(a、b)である。
【0102】
図10図10は、グラフェン及びhBN系繊維のXRDディフラクトグラムを、それらの純粋な前駆体材料と比較した。
【0103】
図11図11は、グラフェン及びhBN系繊維のラマン分光法である。
【0104】
図12図12は、グラフェン及びhBNフィブリル化系の形態学的及び組成的特性であり、以下:材料の光学異方性を実証する交差偏光を用いる偏光光学顕微鏡(POM)、材料のフィブリル形態を実証する走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)、系の組織化及び高結晶化度を示す高分解能のTEM(HRTEM)及び制限視野電子回折(SAED);並びにフィブリル化後の2D材料の元の化学組成の保存を確認するエネルギー分散分光法(EDS)を使用した。
【0105】
図13図13は、グラフェンナノファイバーの特性測定である。(a)光学、(b)STEM、(c)SEMの代表画像、及び(d)それぞれの粒径分布である。
【0106】
図14図14は、合成変形体のXPS特性測定である。グラフェン、G-COOH-hc、G-COOH-EDC/NHS、及びG-COOH-TETAを比較する高分解能C1s及びN1s XPSである。
【0107】
図15図15は、EDC/NHS/TETAのみを含有する対照試料(グラフェンなし)の特性測定である。官能化グラフェンの非存在下(G-COOHなし)で調製された試料の(a)SEM画像並びに(b)C1s及びN1s高分解能XPSスペクトルである。
【0108】
図16図16は、混合後(a)及び5分間の音波処理後(b)に形成されたヘテロ構造繊維のSEM画像であり;異なる位置で測定されたヘテロ構造繊維の高さプロファイルを伴うAFM画像であり;532nmのレーザーを使用して取得されたヘテロ構造繊維のラマンスペクトルであり(c)、特性GOバンド及びMoSバンドの両方が存在することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0109】
本発明は、(i)官能化された2D材料(例えば、2D電解質)を内部で(共有結合により)架橋されたナノファイバーに変換する合成方法を介して、又は(ii)有機塩でドープされた剥離された純粋な2D材料を、これらの塩を2D材料の基底面上に閉じ込めて(2D閉じ込め電解質)、内部で(イオン的に)架橋されたナノファイバーに変換するための2段階自己集合法によって、自己集合した超長ナノファイバー(ultralong nanofibers)を製造する方法を提供する。これらの異なるテンプレートフリーの手法は、水性懸濁液中の2D材料のフレークの自己集合に基づいており、スケールアップの可能性と典型的には低コストであることとから、非常に魅力的である。
【0110】
2D電解質を介する第1の方法は、アニオン性基(例えば、-COO)による2D材料の最初の共有結合による官能化と、カチオン性2D電解質を形成するためのカチオン性基(例えば、-NH )による更なる変換とで構成され得る。2D電解質のスクロール化と、官能化に使用される分子の架橋反応によって同時に形成される有機繊維ネットワークによる構造的誘導とによって、明確な繊維構造が形成される。分散体の電荷含有量を変化させることによって(例えば、pHを変化させることによって)、2D材料の表面電荷密度を電気的に遮蔽することができ、その弾性及び結合エネルギーにより、スクロールなどの1D状構造へのコンホメーション変化を受ける。2D材料の端部での更なる架橋は、スクロールをナノファイバーに拡張する。この方法は、材料の制御された官能化と、繊維のリビング重合プロファイルという利点を有しており、これは、繊維が、液体媒体中で前駆体(遊離した2D電解質)が利用可能である間、長手方向に成長し続けるためである。
【0111】
2D閉じ込め電解質を介する第2の方法は、2D閉じ込め電解質を形成する2D材料基底面上への有機/無機塩の最初の集合及び閉じ込めと、相分離/凝固を引き起こして繊維を生じさせる系のイオン交換及び不安定化のための別の有機/無機塩の更なる添加とで構成され得る。2D閉じ込め電解質上の有機/無機塩に反対電荷が対になって結合した場合、それらは有機/無機塩の他の種との結合能力を減少させ、電荷保持基を「架橋」する強いクーロン相互作用を2つ(又はそれ以上)の対になったイオン性基の間に形成する。この方法は、直接的な共有結合による官能化を伴わず、また、2D格子内に直接閉じ込められない、溶液中に留まる塩を更なる使用のために再利用することができるため、使用される2D材料の初期の特性に影響を及ぼさないという利点を有する。更に、塩を剥離プロセスに直接適用してもよく、その場合、有機塩は、界面活性剤/安定剤として、かつ2D材料ドープ剤/修飾剤として同時に作用する。
【0112】
本明細書で使用される場合、「2D材料」は、単層又は少数層の原子からなる結晶性固体を指す。単一元素由来のこのような単層又は少数層の材料は、全般的に、それらの名称に-エン(-ene)という接尾辞を有する(例えば、グラフェン(graphene))。2つ以上の元素の化合物である単層又は少数層の材料は、-アン(-ane)又は-イド(-ide)という接尾辞を有する。2D材料は、概して、様々な元素の2D同素体として、又は化合物(2つ以上の共有結合元素からなる)として分類することができる。
【0113】
本明細書で使用される場合、「2D電解質」は、分散体中でプロトン化又は脱プロトン化することができ、それぞれ正に荷電(二次元カチオン)又は負に荷電(2Dアニオン)するようになる異なる化学基を有する、グラフェン、酸化グラフェン(GO)、還元型酸化グラフェン(rGO)、及び二硫化モリブデン(MoS)などの2D材料を指す。
【0114】
本明細書で使用される場合、「2D閉じ込め電解質」は、異なる有機イオンが2D材料の表面に位置し、その表面に静電的に会合している、グラフェン、酸化グラフェン(GO)、還元型酸化グラフェン(rGO)、及び二硫化モリブデン(MoS)などの2D材料を指す。有機イオンは有機塩に由来してもよく、有機カチオン又は有機アニオンのいずれであってもよい。2D材料の表面上に閉じ込められたこれらのイオンは、溶液中の遊離イオンと交換され得る。
【0115】
したがって、本発明は、ナノファイバーを形成する方法であって、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部に電荷保持部分を有する2D材料を提供することと、
b)2D材料をカールさせるために、平面上の電荷保持部分を、プロトン供与体、プロトン受容体、少なくとも部分的に疎水性の対イオン、又は2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する2D材料と反応させることと、
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部の電荷保持部分を、プロトン供与体、プロトン受容体、少なくとも部分的に疎水性の対イオン、又は2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する2D材料と反応させると同時に、端部の中和された電荷保持部分を架橋させることを含む方法を提供する。
【0116】
電荷保持部分は、水性媒体中のナノ材料の均質な分散を可能にすることが見出された。例えば、グラフェンは、官能化後にのみ水中に分散することができる。電荷保持部分はまた、反応してナノファイバーを形成するまで、2D材料をその平面構成に維持する。電荷保持部分はまた、いくつかの特定の条件、例えば、pH及び音波処理時間に応じて、いくつかのコンホメーション変化を誘導し得る。更に、ナノ材料の表面上に電荷保持部分を提供することによって、架橋速度は、反応条件、例えば、pH及び二官能性又は多官能性架橋剤を変化させることによって制御することができる。
【0117】
電荷保持部分は中和によってその電荷を失うように構成されているため、2D材料はこの不安定化に応答してカールする。2D材料の端部の電荷保持部分は、相対的に、より露出されており、したがって、他の2D材料上の他の脱プロトン化された又は中和された電荷保持部分と優先的に相互作用してナノファイバーの長さを延長する。ナノファイバーの成長は、反応条件、例えば、pH及び二官能性又は多官能性架橋剤を変化させることによって制御することができる。
【0118】
液相剥離によって得られるグラフェンなどの現在の2D材料は、通常、横方向サイズが低減されており、これが、その用途を制限することがある。本明細書に提示される方法において、2D材料は、共有結合又はイオン結合によって組み合わされ、超長繊維をもたらす。形成されると、繊維は、小さな官能化された又は塩ドープされた2D材料のフレークの自己集合によって成長し続けることができる。
【0119】
この方法は、単純で、汎用性が高く、テンプレートフリーであり、得られる構造は、非常に高いアスペクト比とナノスケールの直径とを示し、これは、濾過用の膜、生地、電池、及びセンサーをはじめとする用途に適用可能であり得る。対照的に、これまでの全ての方法では、アスペクト比がより低く、直径50μmを超える材料が製造される。更に、報告されているナノスケールの直径を有する繊維を製造するための全ての方法では、テンプレートが使用されており、これはプロセスのコスト及び時間を増加させる可能性がある。
【0120】
更に、いずれの方法も、ほとんどが水性媒体中及び室温で行われ、特別な設定を必要としない。
【0121】
本方法によって、得られるナノファイバーの結晶化度を選択することが可能となり、その結果、繊維の剛性を選択することが可能となる。2D材料の共有結合による官能化を介して2D電解質を使用する方法は、それらの格子結晶性を部分的に破壊する一方、2D閉じ込め電解質を使用する方法は、直接的な共有結合による官能化を伴わず、使用される初期の2D材料の結晶化度を保持する。
【0122】
2D電解質を使用する方法は、反応物を消費し尽くし、反応プロセスの残渣をほとんど又は全く残さない。更に、2D閉じ込め電解質を使用する方法は、2D材料格子上への室温での有機塩の吸着を伴う。これはまた、吸着されなかった塩を新しいバッチに再利用することを可能にし、プロセス残渣の生成を回避するので、環境に優しい(グリーン)プロセスでもある。
【0123】
有機塩は水溶性であることから、水媒体中での2D材料の直接的な剥離を可能にし、界面活性剤/安定剤として作用する。更に、その塩は、2D材料格子上に吸着され、2D閉じ込め電解質を生成し、これはフィブリル化プロセスに直接適用することができる。
【0124】
得られたナノファイバーは、濾過用の膜、ガス精製用のシステム、生地、電子繊維デバイス、フレキシブルでウェアラブルな電子機器、センサー、並びに電池及びスーパーキャパシターなどのエネルギー用途をはじめとする多種多様な用途に適用することができる。
【0125】
本明細書で使用される場合、「電荷保持部分」は、正電荷又は負電荷を保持/獲得することができる部分を有する有機分子又は無機分子の部分を指す。電荷保持部分は、電荷を獲得するためにプロトン化又は脱プロトン化され得る官能基であり得る。プロトン化部分及び脱プロトン化部分の例としては、カルボキシレート(-COO)、プロトン化アミン(例えば、-NH )、スルフィド(例えば、-S)、及びホスホニウム(R、任意選択でヒドロキシル基で官能化されたもの)が挙げられる。あるいは、電荷保持部分は、有機イオン又は無機イオンであり得る。このようなカチオン及びアニオンの例としては、H、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオン、アジド、アンモニウム、硝酸イオン、窒化物イオン、亜硝酸イオン、リン化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、セレン化物イオン、三ヨウ化物イオン、二フッ化水素イオン、炭酸イオン、塩素酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、シクロペンタジエニル、リン酸二水素イオン、炭酸水素イオン(重炭酸イオン)、硫酸水素イオン(バイサルフェート)、亜硫酸水素イオン(バイサルファイト)、次亜塩素酸イオン、リン酸一水素イオン、過塩素酸イオン、過マンガン酸イオン、過酸化物イオン、リン酸イオン、超酸化物イオン、チオ硫酸イオン、ケイ酸イオン、メタケイ酸イオン、ケイ酸アルミニウム、酢酸イオン、ギ酸イオン、シュウ酸イオン、及びシアン化物イオンが挙げられる。
【0126】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分は、共有結合を介して、又は静電相互作用を介して2D材料の表面に付着する。
【0127】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分は、プロトン化部分、脱プロトン化部分、カチオン性部分、又はアニオン性部分から選択される。他の実施形態では、電荷保持部分は、プロトン化部分又は脱プロトン化部分である。他の実施形態では、電荷保持部分は、カチオン性部分又はアニオン性部分である。
【0128】
いくつかの実施形態では、各電荷保持部分は、少なくとも1つの電荷を含む。他の実施形態では、各電荷保持部分は、少なくとも2つの電荷を含む。例えば、電荷保持部分は、少なくとも2つのCOO部分又は少なくとも2つのNH 部分を含むことができる。電荷保持部分は、1、2、3又は4の価数を有することができる。例えば、電荷保持部分は、二価又は多価イオンであることができる。
【0129】
いくつかの実施形態では、本方法は、水性媒体中で行われる。
【0130】
本明細書で使用される「水溶液」という用語は、水系溶媒又は溶媒系を指し、主に水から構成される。このような溶媒は、極性若しくは非極性のいずれか、及び/又はプロトン性若しくは非プロトン性のいずれかであり得る。溶媒系は、最終的な単一相をもたらす溶媒の組み合わせを指す。「溶媒」及び「溶媒系」の両方は、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジオキサン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、プロピレンカーボネート、ギ酸、ブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、メタノール、酢酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール又は水を含み得るが、これらに限定されない。水系溶媒又は溶媒系はまた、溶解したイオン、塩及び分子、例えば、アミノ酸、タンパク質、糖及びリン脂質を含み得る。このような塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化亜鉛、HEPESナトリウム、塩化カルシウム、硝酸第二鉄、重炭酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸ナトリウムであり得るが、これらに限定されない。したがって、生体液、生理溶液、及び培養培地もまた、この定義に含まれる。ほとんどの実施形態では、水溶液は水である。いくつかの実施形態では、水溶液は脱イオン水である。いくつかの実施形態では、水溶液はMillipore水である。
【0131】
いくつかの実施形態では、本方法は、約10℃~約50℃で行われる。他の実施形態では、温度は、約10℃~約45℃、約10℃~約40℃、約10℃~約35℃、約10℃~約30℃、約15℃~約30℃、又は約20℃~約30℃である。他の実施形態では、本方法は周囲温度で行われる。
【0132】
いくつかの実施形態では、本方法はテンプレートに依存しない。他の実施形態では、本方法はテンプレートフリーである。
【0133】
いくつかの実施形態では、2D材料は、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される。他の実施形態では、2D材料は、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、及び数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0134】
いくつかの実施形態では、数層遷移金属ダイカルコゲナイドは、MoS、MoSe、MoTe、WS、又はWSeから選択される。
【0135】
いくつかの実施形態では、2D材料は、電荷保持部分で少なくとも約50%官能化される。他の実施形態では、2D材料は、電荷保持部分で少なくとも約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、又は約90%官能化される。他の実施形態では、2D材料は、約50%~約90%、約60%~約90%、約70%~約90%、又は約80%~約90%官能化される。官能化は、X線光電子スペクトル法(XPS)を使用して推定することができる。
【0136】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分は、pHを制御することによって中和され又は反応する。例えば、電荷保持部分がプロトン化部分である場合、pHは、約7超、約7.5超、約8超、約8.5超、約9超、約9.5超、又は約10超であり得る。電荷保持部分が脱プロトン化部分である場合、pHは、約7未満、約6.5未満、約6未満、約5.5未満、約5未満、約4.5未満、又は約4未満であり得る。他の実施形態では、電荷保持部分は、少なくとも部分的に疎水性の対イオンと対になることができる。例えば、電荷保持部分がカチオン性部分である場合、有機アニオンを有する塩を使用することができる。電荷保持部分がアニオン性部分である場合、有機カチオンを有する塩を使用することができる。アニオン及びカチオンは、少なくとも1つの有機対イオンを有する完全有機塩又は無機塩から選択することができる。そのような塩のほんの数例としては、カチオン源としてイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピペリジニウム塩、アンモニウム塩、及びホスホニウム塩、またアニオン源としてイミド塩、スルホン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、及びカルボン酸塩が挙げられる。
【0137】
工程bにおける相転移は形態転移であり、すなわち、2D2D挙動から1D挙動への/1D挙動から2D2D挙動への次元変換によって起こり、これは場合によって可逆的である。この転移は、弾性相互作用、クーロン相互作用及びファンデルワールス相互作用間の複雑かつ協調的な競合であることが見出された。制御されない凝集の代わりに、2D材料に加えて、2D材料の端部を制御された様式で更に不安定化させることによって(工程c)、その表面エネルギーを最小化するためにカーリングが起こる。2D材料の縁部にも電荷が存在することにより、隣接する2D材料が接続することが可能になり、これによりナノ材料が延びてナノファイバーが形成される。
【0138】
いくつかの実施形態では、反応工程b)及び/又はc)は、約3~約6のpHで行われる。他の実施形態では、pHは約3~約5である。いくつかの実施形態では、中和工程b)及び/又はc)は、約4のpHで行われる。
【0139】
少なくとも部分的に疎水性の対イオンは、少なくとも1つの有機対イオンを有する塩から選択され、水/有機溶媒溶解度が異なる。疎水性イオン対形成を使用して、荷電親水性2D材料の溶解度を調節することができることが見出された。荷電親水性2D材料が、疎水性部分を含む反対に荷電した分子とイオン結合により対形成する場合、得られる非荷電複合体は、水不溶性となる傾向があり、水性媒体中で沈殿し得る。この溶解度分配は、ナノファイバーへの2D材料の制御された凝固のトリガーとなり得る。無機イオンは概して非常に水溶性であり、等方性(したがって親水性)である一方で、有機イオンは概して水溶性が低く、異方性が高い(したがって少なくとも部分的に疎水性である)ため、系の安定性の制御された低下を可能にする。
【0140】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分が少なくとも部分的に疎水性の対イオンと反応する場合、対イオンは有機対イオンである。いくつかの実施形態では、対イオンは、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、イミド、スルホン酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオン又はこれらの誘導体から選択される。他の実施形態では、電荷保持部分が対イオンによって中和される場合、対イオンは1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムである。他の実施形態では、電荷保持部分が対イオンによって中和される場合、対イオンは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホネートから選択される塩によって提供される。
【0141】
いくつかの実施形態では、2D材料上の電荷保持部分は、2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する2D材料と反応する。いくつかの実施形態では、反対電荷保持部分を有する2D材料は、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される。他の実施形態では、2D材料は、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、及び数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0142】
反対電荷保持部分を有する2D材料は、電荷保持部分を有する2D材料と同じ材料であっても異なる材料であってもよい。これに関して、いくつかの実施形態では、両方の2D材料が、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから独立して選択され得る。したがって、ホモ構造又はヘテロ構造のいずれかのナノファイバーを形成することができる。
【0143】
2つの2D材料が、反対電荷保持部分を有し得る。例えば、2D材料がプロトン化したブレンステッド-ローリー塩基を部分として有する場合、他の2D材料は、脱プロトン化したブレンステッド-ローリー酸を部分として有することができる。2D材料がカチオン性部分を有する場合、他の2D材料はアニオン性部分を有することができる。
【0144】
いくつかの実施形態では、反対電荷保持部分を有する2D材料は、電荷保持部分で少なくとも約50%官能化される。他の実施形態では、2D材料は、電荷保持部分で少なくとも約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、又は約90%官能化される。他の実施形態では、2D材料は、約50%~約90%、約60%~約90%、約70%~約90%、又は約80%~約90%官能化される。官能化は、X線光電子スペクトル法(XPS)を使用して推定することができる。
【0145】
2D材料は、その表面の両側に電荷保持部分を有してもよい。一方の側が中和され又は反応し、カールして内側を形成すると、他方の側も同時に中和され又は反応する。この露出した外側は、別の2D材料と相互作用して層状構造を形成することができる。この結果、ナノファイバーの直径はその長さ全体にわたって均一ではなくなる。
【0146】
いくつかの実施形態では、工程(b)は、平面上の電荷保持部分を架橋させることを更に含む。電荷保持部分は、架橋を促進するために、反応し又は中和され得る。ナノファイバーの形成速度は、部分を架橋させることによって更に制御することができる。
【0147】
いくつかの実施形態では、架橋は、架橋剤の存在下で行われる。架橋剤は、多官能性若しくは二官能性分子又は有機塩であり得る。いくつかの実施形態では、架橋剤は、少なくとも2つの架橋性部分を含む。いくつかの実施形態では、架橋剤は、少なくとも3つの架橋性部分を含む。
【0148】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分が少なくとも部分的に疎水性の対イオンと反応する場合、架橋剤は少なくとも部分的に疎水性の対イオンである。いくつかの実施形態では、電荷保持部分が、2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する2D材料と反応する場合、2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する2D材料は架橋剤として作用する。
【0149】
いくつかの実施形態では、架橋剤対2D材料の重量比は、約50:1~約700:1である。他の実施形態では、この比は、約100:1~約700:1、約150:1~約700:1、約200:1~約700:1、約250:1~約700:1、約300:1~約700:1、約350:1~約700:1、約400:1~約700:1、約450:1~約700:1、約500:1~約700:1、約550:1~約700:1、又は約600:1~約700:1である。
【0150】
いくつかの実施形態では、架橋工程b)及び/又はc)は、撹拌下で行われる。他の実施形態では、撹拌は、約3℃~約10℃、又は約10℃で行われる。低温は架橋反応を遅くする。
【0151】
あるいは、いくつかの実施形態では、架橋工程b)及び/又はc)は、超音波処理下で行われる。いくつかの実施形態では、少なくとも工程b)は、超音波処理下で行われる。音波処理は、音響エネルギーを適用して試料中の粒子を撹拌する行為である。超音波処理には超音波周波数(>20kHz)を使用する。音波処理は、超音波浴又は超音波プローブ(通称ソニケーターとして知られる)を使用して適用することができる。
【0152】
いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃、又は約10℃で少なくとも約10分間である。他の実施形態では、持続時間は、少なくとも約15分間、又は約20分間である。いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃で少なくとも約30分間である。
【0153】
いくつかの実施形態では、架橋工程c)は、撹拌又は音波処理などの外力の非存在下で、約3℃~約10℃、又は約10℃で行われる。
【0154】
いくつかの実施形態では、本方法は、工程a)の電荷保持部分を有する2D材料を形成するために、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程を更に含む。
【0155】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分対2D材料の重量比は、約2:1~約5:1である。他の実施形態では、電荷保持部分対2D材料の重量比は、約3:1である。
【0156】
いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、約5~約6.9のpHで行われる。他の実施形態では、pHは約5~約6.5、又は約5~約6である。
【0157】
いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、超音波処理下で行われる。
【0158】
いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃、又は約10℃で少なくとも約10分間である。他の実施形態では、持続時間は少なくとも約15分間、又は約20分間である。いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃、又は約10℃で少なくとも約30分間である。
【0159】
いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、少なくとも約2時間行われる。他の実施形態では、持続時間は、少なくとも約4時間、約6時間、約8時間、約12時間、約16時間、約20時間、約24時間、約28時間、約32時間、約36時間、約40時間、約44時間、約48時間、約52時間、約56時間、約60時間、約64時間、又は約68時間である。いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、少なくとも72時間行われる。
【0160】
いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、約20℃~約70℃で行われる。他の実施形態では、温度は、約20℃~約60℃、約20℃~約50℃、約25℃~約50℃、約30℃~約50℃、約35℃~約50℃、又は約40℃~約50℃である。いくつかの実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、約45℃で行われる。いくつかの実施形態では、2D材料がグラフェンである場合、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、約45℃で行われる。いくつかの実施形態では、2D材料がMoSである場合、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、約20℃~約40℃で行われる。
【0161】
いくつかの実施形態では、2D材料がグラフェンである場合、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、不活性雰囲気下で行われる。不活性雰囲気は、窒素、又は希ガス、例えばアルゴンであり得る。他の実施形態では、2D材料を電荷保持部分により官能化する工程は、周囲条件下(室温及び外気中)で行われる。
【0162】
いくつかの実施形態では、pHが維持され、及び/又は対イオンが過剰である場合、本方法は、全ての2D材料が反応するまで自己永続的である。これに関して、反応は、未反応の2D材料が残存しなくなるまでに完了する。
【0163】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーを形成する方法は、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にプロトン化部分又は脱プロトン化部分を有する2D材料を提供すること、
b)2D材料をカールさせるために、平面上のプロトン化部分又は脱プロトン化部分をプロトン供与体又はプロトン受容体と反応させること、及び
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部のプロトン化部分又は脱プロトン化部分を、プロトン供与体又はプロトン受容体と同時に反応させ、端部の反応した部分を共有結合的に架橋させることを含む。
【0164】
ナノファイバーを形成する方法は、水性媒体中で行うことができる。
【0165】
いくつかの実施形態では、プロトン化部分又は脱プロトン化部分は、カルボキシレート部分である。いくつかの実施形態では、カルボキシレート部分は、5-アジドペンタン酸、6-アジド-ヘキサン酸、アジド-dPEG-酸、アジドパルミチン酸、アジド酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、5-メルカプトペンタン酸、又はこれらの組み合わせから選択されるカルボキシル化合物である。
【0166】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分は、pHを変化させることによって中和される。
【0167】
いくつかの実施形態では、工程b)及び/又はc)は、約3~約6のpHで行われる。他の実施形態では、pHは約3~約5である。いくつかの実施形態では、工程b)及び/又はc)は、約4のpHで行われる。
【0168】
いくつかの実施形態では、工程b)は、平面上のプロトン化部分又は脱プロトン化部分を共有結合的に架橋させることを更に含む。平面上のプロトン化部分又は脱プロトン化部分(例えば、-COOH又は-COO)は、架橋を促進するために、(例えば、-OH又はOH に)反応し得る。
【0169】
いくつかの実施形態では、平面上の反応した部分は、架橋剤で共有結合的に架橋される。架橋は、2D材料表面上及びナノファイバーの内側表面上で、平面内で起こるように構成される。架橋剤は、アミノ化合物であり得る。いくつかの実施形態では、アミノ化合物は、少なくとも2つ又は少なくとも3つのアミノ部分を含む。これに関して、アミノ化合物は、多官能性又は二官能性アミノ化合物であり得る。
【0170】
いくつかの実施形態では、アミノ化合物は、トリエチレンテトラミン、トリエチレンジアミン、エチレンジアミン、p-フェニレンジアミン、又はこれらの組み合わせである。
【0171】
いくつかの実施形態では、架橋は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の存在下で行われる。EDC及びNHSは、アミド結合を形成するためのクロスカップリングがより低い活性化エネルギーで行われ得るように、官能基を活性化する。このようにして、アミノ化合物は、アミド結合を介して2D材料上のカルボキシル化合物と対になることができ、これは、次いで、アミノ化合物上の更なるアミノ部分の性質によって、別のカルボキシル化合物とアミド架橋を形成する。
【0172】
いくつかの実施形態では、工程b)及び工程c)は、約3℃~約30℃で少なくとも1時間行われる。他の実施形態では、持続時間は、少なくとも約4時間、約6時間、約8時間、約12時間、約16時間、約20時間、約24時間、約28時間、約32時間、約36時間、約40時間、約44時間、約48時間、約52時間、約56時間、約60時間、約64時間、約68時間、又は約72時間である。他の実施形態では、温度は、約3℃~約30℃、約3℃~約25℃、約3℃~約20℃、約3℃~約15℃、約3℃~約10℃、又は約10℃である。
【0173】
いくつかの実施形態では、工程b)及び工程c)は、約3℃~約10℃で少なくとも12時間行われる。いくつかの実施形態では、工程b)及び工程c)は、約3℃~約10℃で少なくとも72時間行われる。
【0174】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーを形成する方法は、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にプロトン化部分又は脱プロトン化部分を有する2D材料を提供すること、
b)反応した部分を形成するために、平面上のプロトン化部分又は脱プロトン化部分をプロトン供与体又はプロトン受容体と反応させ、反応した部分を架橋剤により共有結合的に架橋させること、及び
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部のプロトン化部分又は脱プロトン化部分をプロトン供与体又はプロトン受容体と同時に反応させ、端部の反応した部分を共有結合的に架橋させること、を含む。
【0175】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーを形成する方法は、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部に脱プロトン化部分を有する2D材料を提供すること、
b)反応した部分を形成するために、平面上の脱プロトン化部分をプロトン供与体によりプロトン化して、反応した部分を架橋剤で共有結合的に架橋させること、及び
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部の脱プロトン化部分を、プロトン供与体と同時にプロトン化して、反応した部分を端部で共有結合的に架橋させること、を含む。
【0176】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーを形成する方法は、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部に脱プロトン化部分を有する2D材料を提供すること、
b)反応した部分を形成するために、平面上の脱プロトン化部分をプロトン供与体によりプロトン化して、反応した部分を架橋剤で共有結合的に架橋させること、及び
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部の脱プロトン化部分を、プロトン供与体により同時にプロトン化して、反応した部分を端部で共有結合的に架橋させること、を含み、
該架橋剤は多官能性架橋剤である。
【0177】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーを形成する方法は、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にカチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料を提供すること、
b)2D材料をカールさせるために、平面上のカチオン性部分又はアニオン性部分を少なくとも部分的に疎水性の対イオンと反応させること、及び
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部のカチオン性部分又はアニオン性部分を、少なくとも部分的に疎水性の対イオンと反応させると同時に、端部の反応した電荷保持部分をイオン的に架橋させること、を含む。
【0178】
ナノファイバーを形成する方法は、水性媒体中で行うことができる。
【0179】
いくつかの実施形態では、カチオン性部分又はアニオン性部分は、2D材料に静電的に結合される。他の実施形態では、カチオン性部分又はアニオン性部分は、2D材料にイオン結合している。このタイプの化学結合は、反対電荷保持部分間の静電引力を伴う。
【0180】
いくつかの実施形態では、2D材料とカチオン性部分又はアニオン性部分との比は、約1:30~約1:80である。他の実施形態では、この比は、約1:30~約1:70、約1:30~約1:60、約1:40~約1:60、又は約1:50~約1:60である。いくつかの実施形態では、2D材料とカチオン性部分又はアニオン性部分との比は、約1:50である。
【0181】
有利なことに、2D材料表面上に吸着しない過剰なイオン性部分は、溶液中に留まり、新しいバッチで再使用することができる。
【0182】
いくつかの実施形態では、カチオン性部分又はアニオン性部分は、有機カチオン性部分又はアニオン性部分である。他の実施形態では、カチオン性部分又はアニオン性部分は、スルホンイミド、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、イミド、スルホネート、サルフェート、ボレート、ホスフェート、カルボキシレート又はこれらの誘導体から選択される。いくつかの実施形態では、カチオン性部分又はアニオン性部分は、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドである。いくつかの実施形態では、アニオン性部分は、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドから選択される塩として提供される。
【0183】
いくつかの実施形態では、電荷保持部分は、2D材料上のカチオン性部分又はアニオン性部分に対して反対電荷を有する対イオンと反応する。対イオンは、少なくとも部分的に疎水性である。
【0184】
いくつかの実施形態では、対イオンは有機対イオンである。他の実施形態では、対イオンは、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、イミド、スルホネート、サルフェート、ボレート、ホスフェート、カルボキシレート又はこれらの誘導体から選択される。いくつかの実施形態では、対イオンは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムである。いくつかの実施形態では、対イオンは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホネートから選択される塩によって提供される。
【0185】
いくつかの実施形態では、工程b)は、平面上の反応したカチオン性部分又はアニオン性部分をイオン的に架橋させることを更に含む。架橋剤は、工程c)における架橋剤と同じであり得る。架橋剤は、少なくとも部分的に疎水性の対イオンであり得る。
【0186】
いくつかの実施形態では、工程b)及び工程c)は、超音波処理又は撹拌下で行われる。いくつかの実施形態では、少なくとも工程b)は、超音波処理又は撹拌下で行われる。
【0187】
いくつかの実施形態では、超音波処理又は撹拌は、約3℃~約10℃、又は約10℃で少なくとも10分間行われる。他の実施形態では、持続時間は、少なくとも約15分間、又は約20分間である。いくつかの実施形態では、超音波処理又は撹拌は、約0℃~約10℃で少なくとも約30分間である。
【0188】
いくつかの実施形態では、本方法は、工程a)のカチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料を形成するために、2D材料をカチオン性部分又はアニオン性部分により官能化する工程を更に含む。
【0189】
いくつかの実施形態では、2D材料をカチオン性部分又はアニオン性部分により官能化する工程は、カチオン性部分又はアニオン性部分の存在下で超音波処理下で行われる。
【0190】
いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃、又は約10℃で少なくとも10分間行われる。他の実施形態では、持続時間は少なくとも約15分間、又は約20分間である。いくつかの実施形態では、超音波処理は、約3℃~約10℃、又は約10℃で少なくとも約30分間である。
【0191】
いくつかの実施形態では、2D材料がグラフェンである場合、本方法は、工程a)の前に、カチオン性部分又はアニオン性部分の存在下でグラファイトを剥離する工程を更に含む。
【0192】
いくつかの実施形態では、2D材料が六方晶窒化ホウ素である場合、本方法は、工程a)の前に、カチオン性部分又はアニオン性部分の存在下で、剥離されていない六方晶窒化ホウ素を剥離する工程を更に含む。
【0193】
いくつかの実施形態では、グラファイト又は剥離されていない六方晶窒化ホウ素とカチオン性部分又はアニオン性部分とは、水性媒体中と有機媒体混合物中とに約95:5の比で分散される。
【0194】
いくつかの実施形態では、剥離工程は、高出力プローブ超音波処理下で行われる。
【0195】
本方法はまた、ヘテロ構造ナノファイバーを形成するために2D材料の組み合わせに適用することができる。例えば、2D電解質及び2D閉じ込め電解質の自己集合プロセスを適用することができる。異なる2D材料は、反対電荷の様々なイオン化可能な官能基で官能化することができる。例えば、酸化グラフェン(GO)をカチオン性基(-NH )で官能化し、二硫化モリブデン(MoS)をアニオン性基(COO)で官能化して、反対に荷電したナノ材料間のイオン性相互作用を可能にすることができる。本明細書に開示される2D電解質及び2D閉じ込め電解質繊維形成と比較して、電荷反転の代わりに、これらのナノファイバーは、閉じ込められた水性環境における両方の2D材料シート間の引力相互作用によって形成される。電荷補償により、これらの材料は水媒体中での安定性が低下し、凝固して両方の材料から構成されるナノファイバーになる。音波処理プロセスの適用が、両方の材料がエネルギー障壁を克服し、連続的に集合し、スクロールして繊維になることを可能にする。反応が進行するにつれて、分岐を有する長い繊維束が形成される。この方法は、低い製造コストでヘテロ構造ナノファイバーをスケールアップ合成するための容易な手法を提供する。
【0196】
いくつかの実施形態では、方法は、水性媒体中でナノファイバーを形成するものであり、この方法は、
a)2D材料であって、その平面上及びその端部にカチオン性部分又はアニオン性部分を有する2D材料を提供すること、
b)2D材料をカールさせるために、平面上のカチオン性部分又はアニオン性部分を、別の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する別の2D材料と反応させること、
c)工程b)の2D材料が互いに相互作用してナノファイバーを形成するために、端部のカチオン性部分又はアニオン性部分を、別の2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する別の2D材料と反応させると同時に、端部の反応した電荷保持部分をイオン的に架橋させること、を含む。
【0197】
いくつかの実施形態では、2D材料がその平面上及びその端部に正電荷保持部分を含む場合、2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する2D材料は負電荷保持部分を含む。いくつかの実施形態では、2D材料がその平面上及びその端部に負電荷保持部分を含む場合、2D材料であって、その平面上及びその端部に反対電荷保持部分を有する2D材料は正電荷保持部分を含む。
【0198】
いくつかの実施形態では、反対電荷保持部分を有する2D材料は、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される。他の実施形態では、2D材料は、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、及び数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0199】
いくつかの実施形態では、反対電荷保持部分を有する2D材料は、電荷保持部分で少なくとも約50%官能化される。他の実施形態では、2D材料は、電荷保持部分で少なくとも約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、又は約90%官能化される。他の実施形態では、2D材料は、約50%~約90%、約60%~約90%、約70%~約90%、又は約80%~約90%官能化される。官能化は、X線光電子スペクトル法(XPS)を使用して推定することができる。
【0200】
いくつかの実施形態では、2D材料は、カチオン性部分により官能化された酸化グラフェンであり、別の2D材料は、アニオン性部分により官能化された二硫化モリブデン(MoS)である。他の実施形態では、酸化グラフェンは-NH 部分により官能化され、MoSは-COO部分により官能化される。
【0201】
いくつかの実施形態では、2D材料対別の2D材料の重量比は、約1:1、1:2、及び1:3である。
【0202】
いくつかの実施形態では、2D材料及び/又は別の2D材料は、約0.01mg/mL~約1mg/mLの濃度で提供される。他の実施形態では、濃度は、約0.01mg/mL~約0.9mg/mL、約0.01mg/mL~約0.8mg/mL、約0.01mg/mL~約0.7mg/mL、約0.01mg/mL~約0.6mg/mL、約0.01mg/mL~約0.5mg/mL、約0.01mg/mL~約0.4mg/mL、約0.01mg/mL~約0.3mg/mL、約0.01mg/mL~約0.2mg/mL、又は約0.01mg/mL~約0.1mg/mLである。他の実施形態では、濃度は約0.05mg/mLである。
【0203】
いくつかの実施形態では、本方法は、2D材料を別の2D材料とフローリアクター内で反応させることを含む。
【0204】
本発明はまた、ナノファイバーであって、
該ナノファイバーが、中実又は半中空の断面プロファイルを特徴とし、
該ナノファイバーが、2D材料であって、カールした、またその平面及び端部で互いに結合した、2D材料の層状断面プロファイルを特徴とし、
該2D材料が、グラフェン、酸化グラフェン、数層遷移金属ダイカルコゲナイド、六方晶窒化ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択される、ナノファイバーを提供する。
【0205】
イオン法が使用される場合、ナノファイバーは完全に固体ではなく、すなわち、内部の軸線に隙間又は間隔が存在する(スクロールされた又は巻かれた羊皮紙の中心に類似している)。この長手軸は、イミダゾリウム塩又は残留「遊離」塩のアルキル鎖によって安定化され、したがって、実際には中空でもなく、自由空間も含まないと考えられる。共有結合法が使用される場合、この空間は、架橋剤(アミノ化合物)によって形成される有機相によって充填されていると考えられる。
【0206】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約5nm~約400nmの直径により特徴づけられる。他の実施形態では、直径は、約5nm~約350nm、約5nm~約300nm、約5nm~約250nm、約5nm~約200nm、約5nm~約190nm、約5nm~約180nm、約5nm~約170nm、約5nm~約160nm、約5nm~約150nm、約5nm~約140nm、約5nm~約130nm、約5nm~約120nm、約5nm~約110nm、又は約5nm~約100nmである。いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約10nm~約100nmの直径により特徴づけられる。
【0207】
いくつかの実施形態では、直径は不均一である。この点に関して、直径は、ナノファイバーの長さ全体にわたって固定されたものではなく、むしろその長さに沿って変化する。これは、ナノファイバーの長さに沿った異なる量の2D材料の積層の結果である。
【0208】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約5μm~約100μmの長さにより特徴づけられる。他の実施形態では、長さは、約5μm~約90μm、約5μm~約80μm、約5μm~約70μm、約5μm~約60μm、約5μm~約50μm、約5μm~約45μm、約5μm~約40μm、約5μm~約35μm、約5μm~約30μm、約6μm~約30μm、約7μm~約30μm、約8μm~約30μm、約9μm~約30μm、約10μm~約30μm、約12μm~約30μm、約14μm~約30μm、又は約16μm~約30μmである。いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約10μm~約30μmの長さにより特徴づけられる。
【0209】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約30~約3000のアスペクト比により特徴づけられる。他の実施形態では、アスペクト比は、約30~約2800、約30~約2600、約30~約2400、約30~約2200、約30~約2000、約30~約1800、約30~約1600、約30~約1400、約30~約1200、約30~約1000、約50~約1000、約100~約1000、約200~約1000、約300~約1000、約400~約1000、約500~約1000、約600~約1000、約700~約1000、又は約800~約1000である。
【0210】
系は、「リビング重合系」と同様に挙動し、ナノファイバーが成長し続けることに対する制限は、ビルディングブロックの供給(この場合、官能化された2D材料)及び媒体中の繊維(準)安定性である。繊維は、その繊維が長すぎて媒体中で(部分的に)安定でなくなり完全に相分離する(かつ成長が停止する)閾値に達するまで、適切に修飾された2D材料が添加される限り成長し続ける。
【0211】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーは半結晶性である。この点に関して、ナノファイバーは、結晶性及び非晶質性の両方の特性を有する。半結晶性特性は、2D材料が互いに結合してナノファイバーを形成する際の2D材料の空間配向によるものであり得る。結晶化度は、熱量測定法、X線回折法、ラマン分光法、及びNMRなどの様々な分析方法によって推定することができる。いくつかの実施形態では、ナノファイバーは、約10%~約90%、約10%~約85%、約10%~約80%、約10%~約75%、約10%~約70%、約10%~約65%、約10%~約60%、約10%~約55%、約10%~約50%、約10%~約45%、約10%~約40%、約10%~約35%、約10%~約30%、約10%~約25%、又は約10%~約20%の結晶化度を有する。
【0212】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーがグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーは、約0.40nm~0.45nmの層間間隔により特徴づけられる。他の実施形態では、層間間隔は、約0.40nm~0.44nm、約0.40nm~0.43nm、約0.40nm~0.42nm、又は約0.40nm~0.41nmである。いくつかの実施形態では、ナノファイバーがグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーは、約0.40nm~0.43nmの層間間隔により特徴づけられる。
【0213】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーがグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーはアミド結合により特徴づけられる。いくつかの実施形態では、ナノファイバーがアミド部分によって架橋されたグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーは、約288eV~約290eVに位置するX線光電子スペクトルピークにより特徴づけられる。いくつかの実施形態では、ナノファイバーがアミド部分によって架橋されたグラフェンナノファイバーである場合、ナノファイバーは、約1653cm-1及び約1572cm-1に位置するFTIRピークにより特徴づけられる。
【0214】
いくつかの実施形態では、ナノファイバーが酸化グラフェン及びMoSを含む異種ナノファイバーである場合、ナノファイバーは、約1350cm-1に位置するラマンバンドにより特徴づけられる。他の実施形態では、ナノファイバーは、約1660cm-1に位置するラマンバンドにより特徴づけられる。他の実施形態では、ナノファイバーは、約380cm-1に位置するラマンバンドにより特徴づけられる。他の実施形態では、ナノファイバーは、約410cm-1に位置するラマンバンドにより特徴づけられる。
【実施例
【0215】
グラフェンナノファイバー
2D電解質を得て、それらを集合して架橋ナノファイバーにするために、グラフェンプレートレットを、最初に、5-アジドペンタン酸を使用してアジドの分解を介して官能化する。アジド分子/グラフェン比に応じて、異なる官能化度及び形態学的構造が観察される。具体的には、過剰の5-アジドペンタン酸分子(G-COOH、高濃度、G-COOH-hc)は、繊維状構造の形成に起因する制御された凝集プロセスをもたらす(図1b)。このタイプの構造は、より低い官能化度(G-COOH)ではめったに観察されないものである(図1a)。
【0216】
G-COOHは、多官能性分子、すなわちトリエチレンテトラミン(TETA)で、先にEDC/NHSによって活性化されたカルボキシル基と反応させることによって更に官能化される。G-COOH懸濁液の初期pHは酸性範囲に調整され、これは官能化グラフェンシートのスクロール又はカーリングプロセスに好都合なものである。興味深いことに、得られた構造の大部分は、互いに絡み合う、高アスペクト比を有する高度に分岐したナノファイバーである(図1c及び図13)。直径は10~100nmの範囲内であり、一方で長さは10μmを超える(図13)。この系を本明細書ではナノファイバーと呼ぶ。高度に分岐した構造が、ガス吸着剤として作用することができ、及び/又は金属ナノ粒子などの他のタイプの分子及び構造を固定することができることは、注目に値する。
【0217】
図1は、繊維形成プロセスをまとめたものである。EDC/NHS/TETAとの反応後、得られた構造の大部分は、高アスペクト比を有する高度に分岐したナノファイバーである。直径は10~100nmの範囲内であり、一方で長さは10μmを超える(図6)。この系を本明細書ではナノファイバーと呼ぶ。高度に分岐した構造が、ガス吸着剤として作用することができ、及び/又は金属ナノ粒子などの他のタイプの分子及び構造を固定することができることは、注目に値する。
【0218】
2D構造の集合機構を明らかにするために、2つの対照実験:(i)EDC/NHS(G-COOH-EDC/NHS)のみを使用するもの(図1d)と、(ii)TETA(G-COOH-TETA)のみを使用するもの(図1e)とを行う。残りのパラメータは維持される。両方の場合において繊維状構造が観察されたが、EDC/NHS及びTETAを一緒に適用した系(ナノファイバー)と比較して収率が低い。
【0219】
系の元素組成を分析し、X線光電子スペクトル法(XPS)によって段階的に比較する(図2)。C1sスペクトルのデコンボリューションピークの位置及びパーセンテージ(百分率)が表1にまとめられている。C1sピークのデコンボリューションは、5つの主要なピーク:284.4eVでのC=C、285.9eVでのヒドロキシル(C-O)、286.7eVでのエポキシ/エーテル(C-O-C)、287.5eVでのカルボニル(C=O)、及び288.4eVでのカルボキシレート(O-C=O)を示す。
【0220】
表1.デコンボリューションされたC1s XPSピークの結合エネルギー及びそれらの相対面積百分率(括弧内)。
【0221】
【表1】
より低い官能化度を有するG-COOHでは、sp3及びO含有基のわずかな相対的増加が観察され、これはEDC/NHS/TETAとの反応後に更に増加し、その後ナノファイバーが形成される(図2)。288~289eV付近のピークの相対的な増加は、アミド官能基をもたらすグラフェンシート間の架橋反応に関連している可能性があることに留意することが重要であり、これについては後述する。FTIRスペクトル(図7)における1653及び1572cm-1での、アミドI(C=O伸縮振動)及びアミドII(N-H屈曲振動)にそれぞれ帰属するピークの相対的増加はし、反応後のアミド基の形成を裏付けている。EDC/NHS/TETAとの反応は、TETA分子の存在により、予想されるNの総百分率(%)の相対的な増加をもたらす。2つの主要なピーク:400.3eVでのアミド(-NH-(C=O)-)又は第二級/第三級アミン、及び401.9eVでのTETAからのプロトン化アミン(NH )がデコンボリューションされ得る。
【0222】
図14は、先に図1に示した反応の他の誘導体についてのC1s及びN1sの高分解能XPSスペクトルを示す。スペクトル間の比較を容易にするために、グラフェンスペクトルが繰り返された。過剰の5-アジドペンタン酸(G-COOH-hc)が利用される場合、G-COOHと比較してより高い官能化度が達成される(図2)。グラフェンフレークの整列及び繊維状構造の形成は、遊離アジド分子と、グラフェン構造に付着したカルボン酸との間の分子間反応から生じ、結果として架橋プロセスをもたらし得る。対照、G-COOH-EDC/NHS、及びG-COOH-TETAについて、ピークの相対的増加がアミド及びカルボキシル/エステル基に関連する領域において観察され、このことは架橋反応の形成を示唆している。更に、G-COOH-TETAについては、N1sピークの広がりは、第一級アミン基の存在がより大きいことを示しており、これは、TETA分子の存在により予想される。
【0223】
全ての小さなグラフェンプレートレットが消費されるまで、反応が継続し得ることが観察された。図8は、pH約6.5における異なる段階での代表的なSEM画像を示す。小さなプレートレットは反応し続け、既存のナノファイバーに自己集合し、その結果、より長くより厚い構造が得られる。
【0224】
SEMを用いたナノファイバーについてのより詳細な検査により、2つの異なるタイプの構造(図3):(i)電子ビームに対してより高い耐性のものと、(ii)電子ビームに対してより低い耐性のもの(図3a、b、c)との形成が明らかになる。同時に、いくつかのナノファイバーは電子ビームに耐性があり(図3f、g、h)、このことはナノファイバー表面上での官能化グラフェンシートの自己集合を示している。更に、本発明者らの観察によれば、この反応は、グラフェンプレートレットが完全に消費されるまで継続する。反応が終了していない場合、「遊離した」プレートレットは、連続的な反応を維持し、既存の繊維上に自己集合し、その結果、時間に応じて、より長くより厚い構造が得られ、このことは自発的な架橋及びリビング重合を示している。静電相互作用もまた集合プロセスに寄与し得る。
【0225】
高分解能走査型透過電子顕微鏡法(HR-STEM)によって得られた画像により、繊維の中心(図3d、e)又は表面上(図3i、j)のグラフェンシートによって形成された結晶部分の異なる位置が明らかになる。したがって、図3a、b、cにおいて、高コントラスト領域は、主に官能化グラフェンシートから構成されており、そのため、電子ビーム下でその安定性が高いことが示唆される一方、暗い部分は、反応物(EDC/NHS/TETA)によって形成された非晶質有機相で構成されている。
【0226】
0.40nm~0.43nmの範囲の層間間隔が観察され、グラファイトの層間間隔(0.34nm)よりもわずかに大きく、2D電解質によって形成された巻物(スクロール)とほぼ同じである。グラフェン表面上への官能基の組み込みを考慮すると、この結果は予想される。重要なことには、結晶相も非晶質相もナノファイバーに沿って完全に均質ではない。更に、10nm未満の直径を有する繊維は、明らかな結晶相を示さなかった。
【0227】
この半結晶性挙動は、AFM画像(図9)で観察される不均一な構造と一致し、これはランダムな層の組み合わせから生じる不均一な組織化を示している。更に、構造の直径は繊維に沿って均一ではない。
【0228】
裸のEDC/NHS/TETA系(電荷保持部分を有していない)もまた、参照として、反応の同じ実験工程を維持することによって調製した。このような系では繊維状構造が観察された。しかしながら、それらはランダムに相互接続され、架橋密度の低いネットワークにより類似しており(図15a)、部分的に独立したネットワーク形成が示唆された。
【0229】
高分解能C1s及びN1s XPSスペクトル(図15b)から、G-COOHが存在しない場合、ピークは、C-O、C-N及びC=Oなどの基に帰属する。先の試料と同様に、N1s領域については、2つの主要なピーク、すなわち、400.3eVでのアミド又はアミン(第二級及び第三級)と、402eV付近でのプロトン化アミン(NH )をデコンボリューションすることができ、両方ともTETA及びEDCに由来する。G-COOHの非存在下では、後者は、ナノファイバーと比較した場合、相対的に強度が高く、わずかなシフトを示し、これは、プロトン化アミンの濃度が高いことに関連している。これらの知見から有機繊維ネットワークが同時に形成されることが示唆されるが、この2D電解質のスクロール形態でG-COOHビルディングブロックを伴うので、組織化した様式であることが示唆される。
【0230】
ラマンスペクトル(図4)は、ナノファイバー構造(図4a)に沿った炭素構造の典型的なバンド(D、G及び2Dバンド)を示し、ラマンバンドの相対強度は、繊維に沿った位置に応じて変化する。Dバンドは、欠陥及び変形に関連し、フィラメントの縁部に近い位置、交点、又はより短い構造上ではるかに顕著である。後者では、レーザースポット(1~2μm)がフィラメント直径よりも大きいため、繊維の縁部又は中央からのシグナルを分離することは困難である。単一構造に沿ったラマンバンドの相対強度のこの変動は、CNTについても報告されており、スクロール状構造におけるDバンドの増強は、曲率誘導による不規則性に起因していた。ナノファイバー内のグラフェンの分布をよりよく理解するために、ラマンマッピングを行い(図4b)、これによりナノファイバーが実際に不均一であることが示される。しかしながら、D、G及び2Dバンドが構造に沿って優勢であり、自己集合手法によるハイブリッドナノファイバーの構築の成功が示される。他の系についてのラマンマッピングでは、G-COOH-hc、G-COOH-EDC/NHS、及びG-COOH-TETAもまた、D、G及び2Dバンドを示すが、ナノファイバーに沿って不連続性の程度が異なっている。更に、これらの系は、多くの「遊離した」グラフェンフレーク、すなわちナノファイバーに付着していないグラフェンフレークを示した。予想通り、グラフェンを含まない系では、特徴的D、G又は2Dピークは検出されなかった。
【0231】
このような構造が形成される根本的な機構を理論的に更に検討する。本発明者らは、コンピューターシミュレーションで見られるように、5-アジドペンタン酸での官能化後に官能基がグラフェンの縁部に集中していることを見出した(図5a、b)。グラフェン構造中のジグザグ部位は反応性であり、環化付加などのカルベン関連反応を可能にする。更に、液相剥離プロセスから得られるグラフェン表面上の酸素含有基は、主に縁部に集中しており、アジド分子と反応することができる。図5(a、b)は、縁部の官能基が表面官能基よりも高い結合エネルギーでグラフェンプレートレットを連結することを示している。したがって、その後の反応工程の効率的な位置選択性を観察することができ、この位置選択性により反応が主に縁部で継続され、長手方向の繊維成長が優先される。
【0232】
図1で表される工程を考慮して、本発明者らは、最も起こりやすい架橋反応をシミュレートする。観察することができる通り、全ての機構は同様のエネルギー(<0.4eV以内)を有しており、ナノファイバー形成だけでなく、ナノファイバー中への又はナノファイバー上へのG-COOHの組み込みも説明することができる。EDC/NHSによるG-COOH上のカルボキシル基の活性化、及びアミン分子(TETA)の多官能性特性により、グラフェンシートの集合がもたらされ、大きな1D構造の形成につながり得る。しかしながら、本発明者らが、「対照」反応から実験的に観察し、コンピューターシミュレーションによって確認したことは、複数の機構が同時に起こり得ることである。
【0233】
更に、2つのランダムスクロールは、それらが同様のサイズを有するプレートレットから構成される場合にのみ、それらの間に自己集合構造を形成することができ、そうでなければ、規則的な層構造は不可能である。この効果を説明するモデルを、図5(c、d)に示す。スクロールは、(φ)=φd/2πで表されるアルキメデスの螺旋であり、ここで、rは半径ベクトルであり、φは方位角であり、dは層間距離である。スクロール形状は、スクロールを平らにしようとする弾性エネルギーと層間相互作用とを均衡させることによって決定される。同じ材料で作製されたアルキメデスのスクロールは、材料定数であるD(曲げ剛性)及びH(ハマカー定数)によってのみで決定される同じ形状を有する。そこで、スクロールは幾何学的な意味で類似しており、すなわち、元のプレートレットがどれほど大きくても、φ0及びφ1の同じ角度の対で表すことができる(図5(c,d)を参照のこと)。φ0-φ1≪φ0,φ1の場合、比率L/d~φcと書くことができ、式中、L=2πrcは正方形のプレートレットの線形サイズであり、rcは特徴的スクロール半径であり、φcは、φc=2π√6πD/Hによって得られる。スクロールが規則的に絡み合うためには、それらの特徴的半径間の差は、より大きな試料の層間距離と同じ程度である必要がある(すなわち、Δrc~d)。Δrc=ΔL/2πであり、d~L/φcであることから、規則的なスクロールの絡み合いについて以下の条件:
【数1】
を記載することができ、ここで、ΔLは、プレートレットの線形サイズ分布における標準偏差とみなすこととする。ΔLが大きい場合、2つのランダムなプレートレットは、繊維形成を妨げる大きなサイズ差を有する可能性が最も高い。式(1)はまた、D≫Hの場合(約1eVのDを有する純粋なグラフェンの場合)、スクロール/繊維形成にとって状況がより困難になることを示唆している。グラフェンの官能化は、通常、曲げ剛性を桁違いに低下させる(酸化グラフェンではD=0.025eV)。これは、本発明者らの官能化技術の場合にも当てはまるものとなる。スクロールの絡み合い及び繊維成長を促進する本発明者らのグラフェンについて、本発明者らによればD~H及びΔL~Lが予想される。
【0234】
要するに、実験的証拠は、界面で閉じ込められた重合反応がG-COOH構造上で起こっていることを示唆している。反応によって生じた化学的環境は、G-COOHのスクロールプロセスをもたらす。G-COOH構造は、シートの両側にカルボキシル基を提示するので、スクロール構造の他の部分で更なる重合が起こり、層状繊維構造を形成する。この構造は、官能化のために使用されるEDC/NHS/TETA分子間の架橋反応によって同時に形成される有機繊維ネットワークによって導かれる。更に、これらの反応は、系の高い位置選択的反応性と高い構造異方性との両方により、主にスクロール/繊維の縁部で起こり、このことは高いアスペクト比が得られたことの説明となる。興味深いことに、繊維が、縁部での官能基の利用可能性が高いことにより自己集合及び反応を介して経時的に連続的に成長していることを観察することができ、これはリビング重合プロファイルを示唆している。
【0235】
ナノファイバーへの2D閉じ込め電解質アセンブリー
イオン的に架橋されたグラフェンナノファイバーの調製は、(i)有機塩によるグラフェン修飾から直接的に、又は(ii)塩の存在下でのグラファイトのグラフェンへの剥離を介して、の両方で達成することができる。2つの言及した手法において、第1の工程のみが異なり、それは以下のように説明される。
1.グラフェンを使用する場合、グラフェン1部と、部分的に疎水性の有機アニオン及び親水性の無機カチオンを有する塩、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(LiNTf)50部と、を含有する水分散体を調製する。理想的には、グラフェン濃度は約0.5mg/mLに保たれ、分散体は10℃で20分間音波処理される(音波浴)。分散体を6000rpmで15分間遠心分離し、上清を濾過し、水で洗浄する。塩(LiNTf)のみを含有する残留水は、新しいバッチで再使用することができる。
【0236】
2.グラファイトを使用する場合、グラファイト1部と、部分的に疎水性の有機アニオン及び親水性の無機カチオンを有する塩(例えば、LiNTf)50部と、を含有する水/有機溶媒(95/5)分散体を調製する。有機溶媒は水と相分離する必要があり(例えば、ジクロロメタン又はクロロホルム)、超音波下で準安定エマルジョンを形成する。理想的には、グラファイト濃度は約0.5mg/mLに保たれ、分散体は約10℃で30分間(10分間の3期に分割)の高出力プローブ超音波(20kHz、2000W)に供される。形成されたエマルジョンを6000rpmで15分間遠心分離し、上清を濾過し、水で洗浄する。(LiNTf)のみを含有する残留水は、新しいバッチで再使用することができる。
【0237】
両方の手法のために、濾過し、洗浄された得られた材料を水中に再分散させ、次いで新しい分散体を激しく撹拌し、水中に溶解した有機及び部分的に疎水性のカチオンを有する当モル量(先に適用したLiNTfに対して)の塩、例えば1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホネート(BMImMes)を分散体に滴下し、1時間撹拌したままにする。次いで、混合物を10分間の超音波(超音波浴、10℃)に供し、10分間静置する。最初は透明であった分散体が混濁し始め、フィブリルの成長が観察される。得られた混合物を冷蔵庫(約5℃)中で一晩静置する。得られた繊維を濾過し、水で洗浄する。
【0238】
グラファイト/グラフェンについて上述した同じプロトコルを、多くの他の2D材料に、フィブリル化プロセス中にそれらと相互作用する適切な塩を選択するだけで適用することができる。更に、使用される全く同じプロトコル及び塩を、以下に示すように、六方晶窒化ホウ素(hBN)などの2D材料に適用することができる。
【0239】
バルク試料及び繊維形成後の試料のXRDパターンを図10に示す。典型的な回折線が、グラファイト及びhBN構造について観察される。具体的には、グラファイトについては、26.46°における(002)、44.38°における(100)、54.65°における(004)、及び77.44°における(110)の回折線、また(バルク)hBNについては、26.86°における(002)、41.78°における(100)、43.77°における(101)、及び55.14°における(004)の回折線である。修飾された試料の全ての回折パターンに見られる残りの回折線は、組み込まれた塩に対応する。最も強い回折線は、0.419nm、0.394nm、及び0.376nmのd間隔に対応する21.19°、22.56°、及び23.69°に位置する。
【0240】
修飾されたグラフェン及びhBN系繊維のラマンスペクトルを図11に示す。剥離された材料の振動モードは、グラファイトについては1343cm-1でのE2g(Gバンド)及び1574cm-1でのA1g(Dバンド)としてマークされ、hBNについては1359cm-1でのE2gとしてマークされる。塩(BMImMes)に特徴的な振動バンドは全て、大幅なシフトなしで示されている。1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンの存在は、3029cm-1でのνas(C-H)、2950cm-1でのν(C-H)、1574cm-1、1408cm-1、及び1456cm-1でのν(C-C)、1343cm-1でのδ(C-H)の振動バンド、並びに965cm-1でのイミダゾリウム環の呼吸振動に対応する。ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオンは、789cm-1でのνas(S-N)及びν(C-F)、741cm-1でのδ(CF)、558cm-1でのδ(SO)、並びに339cm-1でのt(SO)の振動モードの存在によって確認される。
【0241】
偏光光学顕微鏡(POM、単一偏光子及び交差偏光を用いる)、走査型電子顕微鏡(SEM)、並びに低分解能の透過型電子顕微鏡(TEM)及び高分解能の透過型電子顕微鏡(HRTEM)を使用して、繊維の構造秩序、並びにそれらの元素分布(エネルギー分散分光法、EDSを用いる)及び結晶化度(制限視野電子回折、SAEDを用いる)を示し、図12に示す。POM画像は、スクロールされた2Dシート(グラフェン又はhBN)から構成される高度に秩序化された繊維構造を示し、それらの交差偏光画像は、明確な複屈折効果を示している。SEM画像及びTEM画像は、グラフェン及びhBNの両方が非常に長い半中空繊維を形成することができたことを示し、それらの縁部のHRTEMは、スクロールされた2Dシートの特徴的な配置を示す。繊維のEDS元素分布から、グラフェン繊維では炭素組成が優勢であり、hBNではホウ素及び窒素組成が優勢であることが確認される。更に、HRTEM及びSAEDは、グラフェン及びhBNの元の結晶化度のほとんどがフィブリル化プロセス全体を通して保たれ、また、曲がった結晶について予想されるように、シートが曲がってスクロールして繊維になる方向に電子回折のいくらかの方向性があることを実証する。
【0242】
まとめると、本発明者らは、自己集合を通じて小さなグラフェンフレークから繊維を得るための、汎用性が高く、容易で、固有の2つの手法を示した。全ての工程は懸濁液中で行われ、そのうちのほとんどは水中で室温で行われ、これによりスケールアッププロセス及び大規模生産を加速することができる。得られた繊維は、高アスペクト比及びナノスケールの直径を示す。そのような構造は、スマート電子繊維デバイス、生地、フレキシブルでウェアラブルな電子機器、センサー、濾過用膜、電池、及びスーパーキャパシターなどの多種多様な用途に関連する。
【0243】
自己集合したヘテロ構造繊維
図16aのSEM画像によって提示されるように、GO(+)及びMoS(-)の混合プロセス後、周囲に2D材料のオープンシートを有する短いナノファイバーが形成され始めた。混合プロセス後に5分間の音波処理を行って、繊維のスクロール化を更に誘導した。分岐を有する長い繊維束が、主要な得られた構造として観察された(図16b)。繊維は広範囲の直径(300nm以内)で存在し、長さは最大約100μmである。AFM分析における高さの差に基づいて(図16c)、繊維は多層スクロール構造として現れ、これは薄い繊維(ii及びiii)上の2D材料シートのスクロール化から生じ、最終的に(i)に示されるような厚い繊維を形成した。図16dは、TETA-GO及びMPA-MoSの混合後に得られた分岐した繊維のラマン特性測定を示す。2つの主要なGO特性ピーク、すなわち1350cm-1でのDバンド及び1600cm-1でのGバンドが観察される。その他、378cm-1及び410cm-1に鋭いバンドが位置する。これらの2つのバンドは、それぞれ、MoSのE2gフォノン振動及びA1g遷移に対応し、構造中のGO及びMoSの両方の存在を示している。
【0244】
本明細書では、2D材料からヘテロ構造繊維を合成するための容易な水系自己集合手法を提示する。長い分岐した繊維束は、生地及びフレキシブルセンサーなど、様々な産業にとって魅力的な材料となり得る。
【0245】
実験方法
2D材料の官能化
まず、グラフェンを5-アジドペンタン酸(G-COOH)で官能化する。反応は、DMSO中、N雰囲気下、約45℃で72時間行うことができる。その後、過剰なアジド分子を遠心分離によって除去し、グラフェンは水中で良好な安定性を示す。官能化の他の非限定的な例は、MoSなどの数層遷移金属ダイカルコゲナイドであり、これはメルカプトプロピオン酸(MPA)で硫黄空孔において官能化することができ、これもまた負に荷電した表面をもたらす。
【0246】
グラフェンシートの構造は、媒体の特性を改変することによって調整され、グラフェンの表面電荷は、pHを変化させることによって変更される。
【0247】
この系は、多官能性分子、すなわちトリエチレンテトラミン(TETA)で更に官能化される。この場合、水中5mLのG-COOH、0.04mg/mLのpHを4に調整し、系を10℃で20分間音波処理する。カルボキシル基を活性化するために、25mgのEDCを添加し、系を15分間撹拌下に保ち、続いて50mgのNHSを添加する。更に15分後、200μLのTETA(60%)を添加し、系を室温で3時間撹拌下に保つ。次に、反応物を冷蔵庫に72時間移し、続いてエタノールで1回、水で2回洗浄する。
【0248】
TETA-GO(GO(+))の合成
GOを、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)/N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)架橋法を使用してトリエチレンテトラミン(TETA)で官能化した。EDC(100mg)を0.1mg/mLのGO分散体に添加し、室温で15分間撹拌し、10℃で5分間音波処理した。次に、200mgのNHSを添加し、15分間撹拌した。次いで、反応混合物を10℃で5分間音波処理し、240μLのTETAを添加した。室温で5時間撹拌した後、反応を停止し、材料をエタノール及び脱イオン水で洗浄した。ヘテロ構造ナノファイバーの合成直前に、希塩酸及び水を使用してTETA-GO分散体の洗浄工程を行い、pHを約pH4.5に調整して、アミノ基をプロトン化させ、GOシート上に正電荷を生じさせた。
【0249】
MPA-MoS(MoS(-))の合成
リチウムをインターカレートしたMoS(LixMoS)粉末50mgを50mLの175mMの3-メルカプトプロピオン酸(MPA)水溶液中に添加することによって、MPA-MoSを調製した。反応混合物を18℃で30分間音波処理し、2時間撹拌した後、もう1度、18℃で30分間の音波処理に供した。官能化されたMoSを脱イオン水に対する3日間の透析プロセスによって精製し、凍結乾燥した。ヘテロ構造ナノファイバーの合成直前に、MoS分散体のpHを約pH8.5に調整して、カルボキシル基を脱プロトン化させ、MoSシート上に負電荷を生じさせた。
【0250】
GO(+)/MoS(-)ヘテロ構造繊維の合成
最初に、GO(+)及びMoS(-)を、上記の方法、すなわち、正に荷電した部分の形成を可能にする分子(例えば、TETA)を用いたGO官能化と、負に荷電した部分の形成を可能にする分子(例えば、MPA)を用いたMoS官能化と、を用いて調製した。次に、両方の官能化された2D材料を、10℃で5分間、超音波浴中で音波処理した。0.5rpmの一定流速で動作するデュアルチャネル蠕動ポンプを使用して、同じ濃度(0.05mg/mL)の両方の2D材料分散体をTコネクタで合流させ、均一な混合を達成した。次いで、分散混合物を、Tコネクタに接続されたチューブを通じて輸送し、チューブに沿って更に混合されるようにした。脱イオン水を充填したバイアルを、試料採取のためにチューブの末端に準備した。2D材料の両方の分散体が混合を完了すると、反応混合物を超音波浴(10℃)中で更に5分間の音波処理に供した。
【0251】
特性測定
基板(Si、Si/SiO、又はSi/Au)を、音波処理下でアセトン及びイソプロパノールアルコール中に浸漬することによって洗浄する(各5分間)。ナノファイバー構造の形態を、電子顕微鏡技術によって調査する。走査型電子顕微鏡法(SEM)では、試料を、Si、Auコーティングされた、又はSiOコーティングされたSi基板上に直接ドロップキャストし、分析を、2kVで動作するFEI Verios 460L電界放射走査型電子顕微鏡(FESEM)で実施する。
【0252】
FEI Verios 460L FESEM及びJEOL JEM-ARM200F原子分解能分析顕微鏡をそれぞれ使用して、Lacey carbon gold TEMグリッド(TedPella)上で透過走査型電子顕微鏡法(STEM)及び高分解能STEMの走査を実施する。サイズ分析では、オープンソースの画像処理ImageJソフトウェアを使用し、約150の構造を手動で測定した。Olympus光学顕微鏡を使用して、Si/SiO2基板上で光学画像を得る。
【0253】
XPSでは、分散体をSi基板上に直接ドロップキャストし、室温で乾燥させる。全てのスペクトルは、ケイ素基板からのSiピーク(99.4eV)を用いて較正される。
【0254】
Shirley型のバックグラウンド、ピークフィッティング、及び定量化を、CasaXPSソフトウェア(バージョン2.1.19)によって行う。本発明者らは、グラファイトの非対称ピーク(約284.5eV)へのC1sスペクトルのデコンボリューションを行い、他のピークは、ガウス-ローレンツGL(30)線形状を使用してフィッティングされる。原子間力顕微鏡法(AFM)画像は、タッピングモード及び512の走査線にて操作されるBruker Dimension Icon Microscopeで取得され、高さプロファイル画像は、オープンソースのAFM画像処理ツールGwyddionを使用して得られる。
【0255】
共焦点ラマン分光法は、Witec Alpha 300Rにおいて、励起波長532nm、100倍対物レンズ、開口数0.9で行う。グラフェンナノファイバーでは、スペクトルをGバンド強度に対して正規化する。
【0256】
計算方法
本発明者らは、SIESTAコードを用いて密度汎関数理論計算を行い、架橋プロセスに関与する反応のエンタルピーを決定した。本発明者らは、非局所的なファンデルワールス密度汎関数を使用した。核電子は、Troullier-Martins型の擬ポテンシャルを用いてモデル化した。Kohn-Sham状態の基底関数系は、数値的原子軌道の線形結合である(全ての種に対してダブルゼータ分極基底)。電荷密度を250Ryの等価カットオフエネルギーを有する実空間グリッド上に投影して、交換相関及びハートリーポテンシャルを計算する。共役勾配最適化の組み合わせを使用して構造緩和を行った。
【0257】
説明された実施形態の様々な態様の多くの更なる修正及び置換が可能であることが理解されるであろう。したがって、説明された態様は、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に含まれる全てのそのような変更、修正、及び変形を包含するものとする。
【0258】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲全体を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、記載された整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外しないことを意味すると理解される。
【0259】
本明細書及びそれに続く添付の特許請求の範囲全体を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という句及び「本質的に~からなる(consists essentially of)」などの変形は、列挙された要素が本質的である、すなわち本発明の必要な要素であることを示すと理解される。この句は、本発明の特徴に実質的に影響を及ぼさない他の列挙されていない要素の存在を許容するが、定義された方法の基本的及び新規な特徴に影響を及ぼし得る追加の明記されていない要素を除外する。
【0260】
本明細書における任意の先行する刊行物(若しくはそれに由来する情報)、又は既知の任意の事項への言及は、その先行する刊行物(若しくはそれに由来する情報)又は既知の事項が、本明細書が関連する取り組みの分野における共通の全般的知識の一部を形成することの承認若しくは容認又は任意の形態の示唆として解釈されず、またそのように解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】