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特表2024-536739被覆量子ドット材料及びその調製方法と量子ドット光学デバイス
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  • 特表-被覆量子ドット材料及びその調製方法と量子ドット光学デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】被覆量子ドット材料及びその調製方法と量子ドット光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20241001BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20241001BHJP
   C09K 11/56 20060101ALI20241001BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20241001BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20241001BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20241001BHJP
   H10K 50/115 20230101ALI20241001BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20241001BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20241001BHJP
   H10K 85/20 20230101ALI20241001BHJP
   H10K 71/40 20230101ALI20241001BHJP
   H10K 59/38 20230101ALI20241001BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C09K11/08 G ZNM
C09K11/08 A
C09K11/88
C09K11/56
B82Y20/00
B82Y40/00
H05B33/14 Z
H10K50/115
H10K59/10
H10K85/50
H10K85/20
H10K71/40
H10K59/38
G02B5/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515354
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2022115200
(87)【国際公開番号】W WO2023030194
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202111036932.8
(32)【優先日】2021-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202111328760.1
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524087046
【氏名又は名称】朱 小波
【氏名又は名称原語表記】ZHU,Xiaobo
【住所又は居所原語表記】Room 402,Building 12,No.8 Lianyun Road,Guangzhou Development Zone Guangzhou,Guangdong 510700(CN)
(71)【出願人】
【識別番号】524087057
【氏名又は名称】広納珈源(広州)科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】CANNANO JIAYUAN(GUANGZHOU)SCIENCE & TECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 402,Building 12,No.8 Lianyun Road,Guangzhou Development Zone Guangzhou,Guangdong 510700(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】朱 小波
【テーマコード(参考)】
2H148
3K107
4H001
【Fターム(参考)】
2H148AA07
3K107AA06
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC22
3K107CC45
3K107DD53
3K107DD54
3K107DD57
3K107DD58
3K107EE25
3K107FF05
3K107FF12
3K107FF14
3K107FF15
3K107GG26
4H001CA02
4H001CC09
4H001XA16
4H001XA30
4H001XA34
4H001XA48
(57)【要約】
【要約】
本開示は、量子ドット材料の技術分野に属し、具体的には、被覆量子ドット材料及びその調製方法と量子ドット光学デバイスに関する。前記被覆量子ドット材料は、量子ドット芯材と無機塩被覆剤とを含む被覆量子ドット材料であって、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記無機塩被覆剤は、水に対する溶解度が0.01g/100g未満であり、熱分解温度が300℃超であり、前記被覆量子ドット材料における量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比は、1:0.001~1:0.05g/molであることを特徴とする。その調製方法は、S1:量子ドット芯材、有機溶媒、油溶性カチオン前駆体とを混合して第1混合液を得るステップと、S2:第1混合液を加熱し、加熱温度が90℃よりも高いステップと、S3:加熱された第1混合液にアニオン性水溶液を滴下するステップと、を含む。本出願に提供される被覆量子ドット材料は、高温処理に耐えることができるとともに、良好な耐光、水、酸素能力を有し、安定性が高い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドット芯材と無機塩被覆剤とを含む被覆量子ドット材料であって、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記無機塩被覆剤は、水に対する溶解度が0.01g/100g未満であり、熱分解温度が300℃超であり、前記被覆量子ドット材料における量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.005g/molであることを特徴とする被覆量子ドット材料。
【請求項2】
前記油溶性量子ドットの非リガンド部分である量子ドット材料は、元素周期表II-IV族、II-VI族、II-V族、III-V族、III-VI族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-VI族、II-IV-V族半導体化合物中の少なくとも1種;及び/又は、II-IV族、II-VI族、II-V族、III-V族、III-VI族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-VI族、IIIV-V族半導体化合物中の少なくとも2種からなるコアシェル構造の半導体化合物中の少なくとも1種;及び/又は、ペロブスカイトナノ粒子材料、金属ナノ粒子材料、金属酸化物ナノ粒子材料、カーボンナノ材料中の少なくとも1種から選択され、
好ましくは、前記無機塩被覆剤は、アルカリ土金属塩、IIIA族金属塩、IVA族金属塩、遷移金属塩から選択される1種又は複数種であることを特徴とする請求項1に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項3】
量子ドット芯材の粒子径は3nm~15nmであり、無機塩被覆剤の被覆厚さは0.5nm~20nmである請求項1に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項4】
被覆量子ドット材料は、200℃~300℃の高温で熱加工した後に、量子収率が70%以上であり、前記熱加工後に得られた量子ドットデバイスは、1000hの高温高湿ブルーライト加速エージング測定後に、光減衰が20%未満であり、好ましくは光減衰が10%未満であり、さらに好ましくは5%未満である請求項1に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項5】
被覆量子ドット材料は、前記熱加工後に量子収率が80%以上であり、好ましくは90%以上である請求項4に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項6】
被覆量子ドット材料の調製方法は、
S1:量子ドット芯材、有機溶媒、油溶性カチオン前駆体を混合して第1混合液を獲得し、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記有機溶媒は沸点が水の沸点よりも高いステップと、
S2:第1混合液を加熱し、加熱温度が90℃よりも高いステップと、
S3:加熱された第1混合液に、無機塩を成長させるために必要なアニオン水溶液を滴下し、反応させて被覆量子ドット材料を得るステップと、を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項7】
被覆量子ドット材料を調製する調製方法であって、前記被覆量子ドット材料は、量子ドット芯材と無機塩被覆剤とを含み、前記調製方法は、
S1:量子ドット芯材、有機溶媒、油溶性カチオン前駆体を混合して第1混合液を獲得し、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記有機溶媒は沸点が水の沸点よりも高いステップと、
S2:第1混合液を加熱し、加熱温度が90℃よりも高いステップと、
S3:加熱された第1混合液に、無機塩を成長させるために必要なアニオン水溶液を滴下し、反応させて被覆量子ドット材料を得るステップと、を含む被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項8】
前記有機溶媒は、流動パラフィン、芳香族炭化水素、長鎖アルカン、脂肪酸又はオクタデセン中の少なくとも1種であり、
好ましくは、前記油溶性カチオン前駆体は、油溶性アルカリ土金属塩前駆体、油溶性IIIA金属塩前駆体、油溶性IVA金属塩前駆体、油溶性遷移金属塩前駆体から選択される1種又は複数種であり、
好ましくは、前記アニオン水溶液のアニオン濃度は、0.05mol/L~10mol/Lであることを特徴とする請求項7に記載の被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項9】
前記ステップS1において、量子ドットの質量と油溶性カチオン前駆体のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.006g/molである請求項7に記載の被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項10】
前記ステップS2において、加熱温度は100℃以上であり、
好ましくは、前記ステップS2において、加熱時間は10min~60minである請求項7に記載の被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項11】
前記ステップS3において、滴下速度は0.5mL/min~2mL/minであり、より好ましくは1mL/min~1.5mL/minであり、
好ましくは、前記調製方法は、ステップS3において、前記滴下が完了した後、保温を15min~120min継続することをさらに含む請求項7に記載の被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか1項に記載の被覆量子ドット材料の調製方法から調製された被覆量子ドット材料。
【請求項13】
前記被覆量子ドット材料における量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.005g/molである請求項12に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項14】
被覆量子ドット材料は、200℃~300℃の高温で熱加工した後に、量子収率が70%以上であり、好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上であり、前記熱加工後に得られた量子ドットデバイスは、1000hの高温高湿ブルーライト加速エージング測定後に、光減衰が20%未満であり、好ましくは10%未満であり、最も好ましくは5%未満である請求項12に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1項又は請求項12~14のいずれか1項に記載の被覆量子ドット材料を含む量子ドットデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年09月06日に中国特許庁に提出され、出願番号が202111036932.8、発明の名称が「被覆量子ドット材料及びその調製方法と量子ドット光学デバイス」である中国特許出願の優先権、及び2021年11月10日に中国特許庁に提出され、出願番号が202111328760.1、発明の名称が「被覆量子ドット材料及びその調製方法と量子ドット光学デバイス」である中国特許出願の優先権を要求し、全ての内容が引用により本出願に結合される。
【0002】
本発明は、量子ドット材料の技術分野に属し、具体的には、被覆量子ドット材料及びその調製方法と量子ドット光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
量子ドットは準ゼロ次元蛍光半導体ナノ結晶であり、その優れた蛍光性能(量子収率が高く、蛍光発光波長が連続的に調整可能であり、半値幅が狭いなど)により、照明及び表示分野において大きな応用の将来性がある。しかし、加工及び使用過程において、量子ドット材料は、光、熱、水、酸素などの条件の影響を受けやすく、その蛍光特性を長期間にわたって保持することは難しい。特に、量子ドット板材構造を形成する場合に、量子ドットの耐高温性能が悪いため、高温成形又は硬化ステップを行った後に、その良好な蛍光性能を維持することが難しく、照明及び表示分野の発展を阻害する。
【0004】
現在、業界で採用されている解決方式は主に2つある。一つの解決方式は、水酸素遮断構造を用いて量子ドット材料を保護する。例えば、nanosys及び3M社が最初に出願した特許では、量子ドット層の外に2層の水酸素バリアフィルムを貼り付けて量子ドット材料を保護する(CN201480005245.1)。しかし、この方法では、バリアフィルムは高価であり、且つ塗布プロセスが複雑である。
【0005】
別の解決方式は、量子ドットに対する保護を形成するために被覆量子ドット材料を形成することである。例えば、CN108913142A、CN108285792Aは、量子ドット材料を金属酸化物で被覆してその安定性を向上させる。しかし、加工の過程において、温度が高くなるにつれて、部分量子ドットのリガンド(例えば脂肪酸、チオールなど)が高温酸化されて他の有機物(例えばスルホン酸など)が生成され、酸性が強くなり、量子ドット表面の酸化物と反応し、量子ドット材料にさらに影響する。
【0006】
CN108893103Aは無機塩で量子ドットを被覆する方法を提供し、当該方法はワンステップ法を採用して吸着作用により量子ドットの表面を被覆し、それにより形成された被覆量子ドットの性能は、500hのブルーライトの照射後に明らかな光減衰がないことを保証することができる。しかしながら、実際の応用において、通常、量子ドットデバイスは、1000時間以上の円滑な動作が要求され、且つ当該特許は、得られた被覆量子ドットの熱安定性を開示していない。
【0007】
これまで、従来技術においては、高温加工のニーズを満たすとともに、良好な耐水、酸素能力を有する量子ドット材料がまだ不足している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願の目的は、従来技術に存在する量子ドット材料が高温加工に耐えられず、安定性が悪く、耐湿性が悪いといった欠陥を克服するために、被覆量子ドット材料及びその調製方法と量子ドットデバイスを提供することである。本出願の被覆量子ドット材料は、高温加工に耐え、良好な耐水、酸素能力を有し、且つ良好な安定性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するために、第1態様によれば、本出願は、量子ドット芯材と無機塩被覆剤とを含む被覆量子ドット材料を提供し、前記量子ドットは油溶性量子ドットを含み、前記無機塩被覆剤は、水に対する溶解度が0.01g/100g未満であり、熱分解温度が300℃超であり、前記被覆量子ドット材料における量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.005g/molである。
【0010】
さらに、量子ドット芯材の粒子径は3~15nmであり、無機塩被覆剤の被覆厚さは0.5~20nmである。
【0011】
さらに、本出願の被覆量子ドット材料は、200~300℃の高温で熱加工した後に、量子収率が70%以上であり、前記熱加工後に得られた量子ドットデバイスは、1000hの高温高湿ブルーライト加速エージング測定後に、光減衰が20%未満であり、光減衰が10%未満であり、さらに好ましくは光減衰が5%未満である。
【0012】
さらに、被覆量子ドット材料は、200~300℃の高温で熱加工した後に、量子収率が80%以上であり、さらに好ましくは量子収率が90%以上である。
【0013】
さらに、被覆量子ドット材料の調製方法は、
S1:量子ドット芯材、有機溶媒、油溶性カチオン前駆体を混合して第1混合液を獲得し、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記有機溶媒は沸点が水の沸点よりも高いステップと、
S2:第1混合液を加熱し、加熱温度が90℃よりも高いステップと、
S3:加熱された第1混合液に、無機塩を成長させるために必要なアニオン水溶液を滴下し、反応させて被覆量子ドット材料を得るステップと、を含む。
【0014】
第2態様によれば、本出願は、被覆量子ドット材料を形成する調製方法を提供し、前記被覆量子ドット材料は、量子ドット芯材と無機塩被覆剤とを含み、前記調製方法は、
S1:量子ドット芯材、有機溶媒、油溶性カチオン前駆体を混合して第1混合液を獲得し、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記有機溶媒は沸点が水の沸点よりも高いステップと、
S2:第1混合液を加熱し、加熱温度が90℃よりも高いステップと、
S3:加熱された第1混合液に、無機塩を成長させるために必要なアニオン水溶液を滴下し、反応させて被覆量子ドット材料を得るステップと、を含む。
【0015】
さらに、前記ステップS1において、量子ドットの質量と油溶性カチオン前駆体のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.006g/molである。
【0016】
さらに、前記ステップS2において、加熱温度は100℃以上である。なお、加熱温度の上限は特に制限されないが、設備への要求や省エネルギーなどの観点から、200℃以下に設定することが望ましい。
【0017】
さらに、前記ステップS2において、加熱時間は10~60minである。
【0018】
さらに、前記ステップS3において、滴下速度は0.5~2mL/minであり、好ましくは1~1.5mL/minである。
【0019】
第3態様によれば、本出願は、第2態様の調製方法から形成された被覆量子ドット材料を提供する。
【0020】
さらに、前記被覆量子ドット材料における量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.005g/molである。
【0021】
さらに、被覆量子ドット材料は、200~300℃の高温で熱加工した後に、量子収率が70%以上であり、好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上であり、前記熱加工後に得られた量子ドットデバイスは、1000hの高温高湿ブルーライト加速エージング測定後に、光減衰が20%未満であり、好ましくは10%未満であり、最も好ましくは5%未満である。
【0022】
第4態様によれば、本出願は、第1態様又は第3態様に記載の被覆量子ドット材料を含む量子ドットデバイスを提供する。
【発明の効果】
【0023】
従来技術において、一般的に、被覆量子ドット材料層の厚さは0.5~20nmであるが、量子ドット材料の耐光、熱、水、酸素性に対する厚さの大きさの具体的な影響は明らかではなく、同様の被覆層の厚さを有する被覆量子ドット材料の安定性における表現は明らかな差を有することがあり、同時に被覆量子ドットの安定性に有利な好ましい厚さ範囲を発見しなかった。現在、被覆量子ドットの被覆構造パラメータの被覆量子ドット材料の安定性に対する関連研究がない。本出願の発明者らは、量子ドット材料の厚さと安定性との不明確性に対して、量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比を最適化することにより、被覆量子ドット材料の耐光、熱、水、酸素性を効果的に向上させることができることを発見した。特定量の被覆層を形成することにより、量子ドット材料の耐高温加工性を顕著に向上させることができ、且つ良好な耐光、水、酸素能力、即ち優れた安定性を有する。現在の量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比が被覆量子ドットの耐光、熱、水、酸素の性能に影響を与えるメカニズムは明らかではないが、一つの可能な理由は、上記量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比を満たす被覆層の被覆量が、実際応用の要求を満たす緻密度及び/又は体積の被覆層を形成するのにより有利であり、水、酸素などと量子ドットとの接触を良好に遮断し、両者による消光などの不利益の発生を防止するとともに、量子ドット芯材の光学性能に大きく影響しないことにある。当該被覆量は、量子ドットの表面と十分な量の被覆層とを格子層面に直接接続させることができ、量子ドットの表面に存在する、本来相転移などの反応起点となりやすい欠陥の露出確率が大幅に低下し、量子ドットの耐光性及び耐熱性を大きくに向上させ、光、熱などの量子ドット芯材への影響を低減させる;同時に、上記比の範囲内における被覆剤の被覆量は、無機塩構造と量子ドット構造との接触表面の応力が大きすぎて、本来の格子構造を圧迫して欠陥を発生させ、及び光の通過に影響を与えることを引き起こさない。
【0024】
本出願の量子ドット材料は、量子ドット材料が高温加工に耐えない技術的ボトルネックを突破し、当該材料はPSなどのペレットと直接混合して熱加工して量子ドット拡散板/導光板/機能板などの光学デバイスを調製することができ、製造コストを大幅に低減し、調製プロセスを最適化し、加工前後の量子収率の損失を低減し、量子ドット光学デバイスの光学安定性を向上させる。
【0025】
本出願は、被覆量子ドットの調製方法をさらに提供し、当該調製方法は、量子ドットと無機塩を成長させるための油溶性カチオン前駆体とを予め混合して加熱することにより、油相において量子ドットの表面に大量のカチオンを吸着させ、さらにその中にアニオン前駆体の分散に有利なアニオン水相溶液を滴下し;第1混合液における温度が比較的高く、水の沸点に近接し、又は水の沸点を超えているので、小体積のアニオン液滴を滴下する際に、水溶媒が急速に蒸発し、滴下された界面において、アニオンが量子ドットの表面のカチオンと急速に結合し、緻密な無機塩被覆層を形成することにより、量子ドット芯材に対する被覆層の比が高い被覆量子ドット材料を得る。当該方法は、吸着作用のみに依存して被覆層及び単相被覆層を形成する調製プロセスに対して、より緻密及び/又は体積がより大きい無機塩被覆層を得ることができ、得られた被覆量子ドット材料は、他の液相法により調製された被覆量子ドット材料に対して優れた耐高温加工性を有し、且つ良好な耐光、水、酸素能力を有し、安定性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本出願の一部を構成する明細書図面は、本出願のさらなる理解を提供するために使用され、本出願の例示的な実施例及びその説明は、本出願を説明するために使用され、本出願を不当に限定するものではない。図面は下記の通りである。
【0027】
図1】本出願の被覆量子ドット材料の構造概略図である。
図2】本出願の実施例1の被覆量子ドット材料の電子顕微鏡図である。
図3】本出願の比較例1の量子ドット材料の電子顕微鏡図である。
図4】本出願の実施例と比較例のエージング測定のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ここで開示される範囲の端点及び任意の値は、精確な範囲又は値に限定されず、これらの範囲又は値は、これらの範囲又は値に近い値を含むと理解すべきである。数値範囲は、各範囲の端点値の間、各範囲の端点値と単独のポイント値との間、及び単独のポイント値同士の間を組み合わせて1つ又は複数の新しい数値範囲を得ることができ、これらの数値範囲は本文において具体的に開示されたと見なされるべきである。
【0029】
本出願において、「溶解度」とは、20℃における無機塩被覆剤の水への溶解度を意味する。
【0030】
前述のとおり、
第1態様によれば、本出願は、量子ドット芯材と無機塩被覆剤とを含む被覆量子ドット材料を提供し、前記量子ドットは油溶性量子ドットを含み、前記無機塩被覆剤は、水に対する溶解度が0.01g/100g未満であり、熱分解温度が300℃超であり、前記被覆量子ドット材料における量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.005g/molである。
【0031】
本出願において、前記被覆量子ドット材料は、被覆構造を有し、図1に示すように、具体的には、前記量子ドット(即ち図1に示すA)の外に前記無機塩被覆剤(即ち図1に示すB)を被覆することが理解できる。
【0032】
上記量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比を有する被覆量子ドット材料は、優れた耐光、熱、水、酸素の能力を有する。任意の実施形態において、当該被覆量子ドット材料は、200~300℃の高温で熱加工した後、量子収率が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。別の任意の実施形態において、上記熱加工後に得られた量子ドットデバイスは、1000hの高温高湿ブルーライト加速エージング測定後に、光減衰が20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満である。測定により、当該量子ドット材料で調製された量子ドットデバイスは、前記熱加工後に3500hの高温高湿ブルーライト加速エージング測定を経ても、光減衰が20%未満であることを示す。
【0033】
前記高温高湿ブルーライト加速エージング測定の条件は、60℃、90%湿度、40W/m、450nmブルーライトである。
【0034】
本出願の被覆量子ドット材料は、熱加工後に上記量子収率及び光減衰程度を有することができるが、同じ条件下で、従来の被覆型量子ドット材料は量子収率が一般的に70%未満であり、1000hの高温高湿ブルーライト加速エージング測定後における光減衰が40%以上である。
【0035】
本出願において、前記量子ドット芯材の具体的な種類は何ら制限せず、従来の油溶性量子ドットを含有する量子ドット材料はいずれも本出願に用いることができ、油溶性量子ドットの非リガンド部分である量子ドット材料は、元素周期表II-IV族、II-VI族、II-V族、III-V族、III-VI族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-VI族、II-IV-V族半導体化合物中の少なくとも1種;及び/又は、II-IV族、II-VI族、II-V族、III-V族、III-VI族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-VI族、IIIV-V族半導体化合物中の少なくとも2種からなるコアシェル構造の半導体化合物中の少なくとも1種;及び/又は、ペロブスカイトナノ粒子材料、金属ナノ粒子材料、金属酸化物ナノ粒子材料、カーボンナノ材料中の少なくとも1種から選択される。前記量子ドット芯材は、市販されていてもよく、従来の方法により合成されてもよい。
【0036】
前記量子ドット芯材は、油溶性量子ドットに加えて、他の非油溶性量子ドット成分を含んでもよいことが理解され、好ましくは、前記量子ドット芯材は、油溶性量子ドットのみである。
【0037】
本出願の無機塩被覆剤は、上記溶解度及び熱分解温度の要求を満たせば特に制限されない。
【0038】
さらに、前記無機塩被覆剤は、アルカリ土金属塩、IIIA族金属塩、IVA族金属塩、遷移金属塩から選択される1種又は複数種であってもよい。
【0039】
前記アルカリ土金属塩、IIIA族金属塩、IVA族金属塩、遷移金属塩は、前記金属の硫酸塩、炭酸塩、モリブデン酸塩、ホウ酸塩、ハロゲン塩から選択される1種又は複数種が挙げられる。
【0040】
本出願は、量子ドット芯材の粒径と無機塩被覆剤によって形成される被覆層の厚さに対して特定の要求がなく、量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比が本出願に限定された範囲を満たせば、従来技術に対してより優れた耐光、熱、水、酸素性を得ることができる。また、上記のように、当分野において、量子ドット材料の耐光、熱、水、酸素性に対する厚さの大きさの具体的な影響は明らかではなく、本出願の上記限定を満たさないと、厚さをどのように調整しても、従来技術より優れた耐光、熱、水、酸素性を確保することができない。
【0041】
好ましくは、前記量子ドット芯材の粒径は3~15nmであり、前記無機塩被覆剤により形成される被覆層の厚さは0.5~20nmである。ここで与えられる好ましい厚さの上限は、調製が便利で経済的であるなどの各方面から考慮されたものであり、強調すべきなのは、厚さが好ましい範囲内でなくても、量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比が本出願の上記限定を満たす限り、本出願の技術的効果を実現することができる。上記量子ドット芯材の粒子径及び被覆層の厚さの範囲内において、被覆層は、従来技術に対して緻密度が適度な被覆層構造を形成する傾向にあり、優れた耐光、熱、水、酸素性を満たしつつ、良好な光学性能を得ることができる。
【0042】
好ましくは、前記被覆量子ドット材料の調製方法は、S1:量子ドット芯材、有機溶媒、油溶性カチオン前駆体を混合して第1混合液を獲得し、量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、有機溶媒は沸点が水の沸点よりも高いステップと、S2:第1混合液を加熱し、加熱温度が90℃よりも高いステップと、S3:加熱された第1混合液に、無機塩を成長させるために必要なアニオン水溶液を滴下し、反応させて被覆量子ドット材料を得るステップと、を含む。具体的なプロセスの選択的な範囲は、本出願の第2態様によって提供される調製方法と同じであり、具体的には、第2態様に関連する後続の説明部分を参照されたい。
【0043】
液相法による被覆量子ドット材料の調製は、プロセスが簡単で、産業化しやすいなどの利点を有する。上記調製方法は、本出願に提供される前記被覆量子ドット材料を調製する一方法のみであり、本出願の被覆量子ドット材料は、他の方式で調製されてもよく、本出願はこれに限定されない。
【0044】
第2態様によれば、本出願は、量子ドット芯材と無機塩被覆剤とを含む被覆量子ドット材料を調製する調製方法を提供し、前記調製方法は、
S1:量子ドット芯材、有機溶媒、油溶性カチオン前駆体を混合して第1混合液を獲得し、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記有機溶媒は沸点が水の沸点よりも高いステップと、
S2:第1混合液を加熱し、加熱温度が90℃よりも高いステップと、
S3:加熱された第1混合液に、無機塩を成長させるために必要なアニオン水溶液を滴下し、反応させて被覆量子ドット材料を得るステップと、を含む。
【0045】
第2態様において、前記量子ドット芯材と無機塩被覆剤との選択的な範囲は、前述第1態様における量子ドット芯材と無機塩被覆剤と同じであり、ここでは説明を省略する。
【0046】
本出願において、ステップS1において、量子ドット芯材、油溶性カチオン前駆体を有機溶媒中に油相第1混合液を形成し、油溶性量子ドットと油溶性カチオン前駆体との有機溶媒における高い溶解性を利用して量子ドット芯材の表面に大量のカチオンを吸着させることができ、それにより、後続でアニオンを滴下して多くの無機塩を成長させることにより有利である。
【0047】
さらに、ステップS1において、量子ドットの質量と油溶性カチオン前駆体のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.006g/molである。
【0048】
上記量子ドットと油溶性カチオン前駆体との使用量比の方案であれば、量子ドット表面とカチオンとの適量、均一な吸着により有利である。
【0049】
本出願において、前記有機溶剤は、沸点が水の沸点よりも高ければよく、特に限定されない。当業者は、量子ドット及び油溶性カチオン前駆体の溶解性に応じて適切な有機溶剤を選択することができる。選択された有機溶剤は、量子ドット芯材と適切な配位反応を生じてもよく、量子ドット芯材と配位反応しなくてもよく、非限定的に挙げた有機溶剤は、流動パラフィン、芳香族炭化水素、長鎖アルカン、脂肪酸、オクタデセンなどである。
【0050】
前記有機溶剤の使用量は、前記量子ドット芯材と油溶性カチオン前駆体とを十分に混合させることができればよく、当業者は、量子ドット芯材と油溶性カチオン前駆体の使用量に応じて適宜選択することができる。
【0051】
本出願によれば、ステップS1における各原料の混合方式は何ら制限せず、直接にワンステップ混合してもよく、そのうちの2種類の原料を先に混合して別の原料と混合してもよく、バッチ式に混合してもよい。
【0052】
具体的な一実施形態において、ステップS1において、量子ドット、油溶性カチオン前駆体をそれぞれ有機溶剤に加えて量子ドット芯材溶液と油溶性カチオン前駆体溶液を得て、両者を混合することができる。別の具体的な実施形態において、まず、油溶性カチオン前駆体を有機溶剤に加えてから、量子ドットを加えてもよく、量子ドット芯材を有機溶剤に加えてから、油溶性カチオン前駆体を加えてもよい。
【0053】
別の具体的な好ましい実施形態において、当該方法は、ステップS1の前に、まず量子ドット芯材を量子ドット油溶液に調製してから、ステップS1を行うことを含む。
【0054】
上記の好ましい態様において、量子ドット芯材は、量子ドット油溶液の形式で、油溶性カチオン前駆体、有機溶剤と混合され、量子ドット芯材とカチオンとの均一吸着により有利である。
【0055】
前記量子ドット油溶液を調製する際に採用される有機溶剤は、後続の量子ドット芯材と油溶性カチオン前駆体との混合に採用される有機溶剤と同じでも異なっていてもよく、同じであることが好ましい。
【0056】
本出願では、ステップS2における第1混合液の温度が水の沸点に近づく又は超えるように加熱を制御し、且つステップS3におけるアニオン水溶液を滴下することと配合することにより、滴下過程において水溶媒を急速に蒸発させ、且つ、滴下した界面において、アニオンが急速に量子ドット表面のカチオンと結合して、無機塩被覆層を成長させて形成することができる。
【0057】
上記ステップで形成された調製方法は、従来の方法と比較して、吸着作用とイオン結合生成作用を同時に利用して無機塩被覆剤をより多く、より緻密に、より安定的に成長させて量子ドットの表面に被覆構造を形成することができ、これにより、被覆量子ドット材料が耐高温、耐湿、耐酸化、耐光照射の総合性能を兼ね備える効果を達成する。
【0058】
好ましくは、ステップS2における加熱温度は100℃以上である。
【0059】
本出願において、好ましくは、前記ステップS2における加熱時間は10~60minである。
【0060】
上記好ましい加熱条件では、油溶性カチオン前駆体と量子ドット芯材の吸着により有利であり、同時に加熱温度の選択も滴下時の水溶媒の急速蒸発に有利であり、無機塩の成長反応により有利である。
【0061】
本出願において、好ましくは、ステップS2において、前記加熱は不活性雰囲気下で行われる。前記不活性雰囲気は、アルゴンガス又は窒素ガスが挙げられる。当該好ましい方案は、量子ドット芯材が無機塩で被覆される前に空気中の酸素と接触して酸化させることを防止するのにより有利である。
【0062】
より好ましくは、ステップS2において、前記加熱は撹拌下で行われる。前記撹拌は、物質移動に有利であり、一方では、量子ドット芯材にカチオン前駆体を十分に吸着させ、他方では、温度の分布をより均一にする。
【0063】
本出願によれば、好ましくは、ステップS3において、滴下速度は0.5~2mL/min、より好ましくは1~1.5mL/minである。滴下速度が速すぎると、界面での過飽和度が大きすぎて、形成された難溶塩が自己核形成する傾向にあり、量子ドットの表面で成長するのではなく、滴下速度が遅すぎると、溶媒温度が水の沸点より大きいため、溶媒が速すぎて蒸発し、界面での化学反応に不利である。本出願の好ましい特定の滴下速度の方案では、滴下した界面に適切な量の被覆層を形成するように促すことができ、得られた被覆量子ドット材料の耐光、熱、水、酸素性をさらに向上させる。
【0064】
本出願において、当業者は無機塩被覆剤の種類に応じて難溶性無機塩を形成するカチオン前駆体及びアニオン水溶液の具体的な種類を選択することができる。特に、本出願では、油溶性カチオン前駆体を採用することが必要とし、量子ドット表面のカチオンに対する吸着により有利である。
【0065】
好ましくは、油溶性カチオン前駆体は、油溶性アルカリ土金属塩前駆体、油溶性IIIA金属塩前駆体、油溶性IVA金属塩前駆体、油溶性遷移金属塩前駆体から選択される1種又は複数種である。
【0066】
前記油溶性アルカリ土金属塩前駆体、油溶性IIIA金属塩前駆体、油溶性IVA金属塩前駆体、油溶性遷移金属塩前駆体の具体的な種類は、前記無機塩被覆剤を調製し得るものであればよく、例えば、前記油溶性アルカリ土金属塩、油溶性IIIA金属塩前駆体、油溶性IVA金属塩前駆体、油溶性遷移金属塩は、アルカリ土金属、IIIA金属、IVA金属、遷移金属を含有するステアリン酸塩、ホスホン酸塩、オレイン酸塩、オレイルアミン塩など等から選択されることが好ましい。
【0067】
本出願において、前記アニオン水溶液におけるアニオンは、目的無機塩の種類によって決まり、前記アニオン水溶液におけるカチオンは、無機塩の成長に影響を及ぼさないものであればよく、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンなどが挙げられる。
【0068】
本出願において、前記アニオン水溶液におけるアニオンの濃度は特に制限されず、十分に溶解することを保証することができ、且つ前記アニオン水溶液における水溶媒が滴下過程において急速に蒸発することに有利であればよい。例示的に、前記アニオン水溶液のアニオン濃度は0.05~10mol/Lであってもよい。
【0069】
前記アニオン性水溶液の使用量は、前記油溶性カチオン前駆体におけるカチオンとアニオンとの十分な反応を満たせばよい。本出願によれば、好ましくは、当該方法は、ステップS3において、前記滴下が完了した後、保温を15~120min継続することをさらに含む。上記継続保温過程において、カチオンとアニオンは反応を継続することができ、これにより十分な反応の生成物が得られるのを確保することができる。
【0070】
第3態様によれば、本出願は、第2態様に記載の被覆量子ドット材料の調製方法から調製して得られた被覆量子ドット材料を提供する。
【0071】
好ましくは、当該被覆量子ドット材料は、第1態様と同様の十分な量の被覆層を有する被覆構造を得ることができ、優れた耐高温加工性及び光、熱、水、酸素安定性を有する。
【0072】
第4態様によれば、本出願は、第1態様又は第3態様に記載の被覆量子ドット材料を含む量子ドットデバイスを提供する。
【0073】
本出願は、前記量子ドットデバイスの存在形態について何ら制限せず、照明及び表示分野におけるいかなる量子ドットデバイスの形態、例えば、量子ドット拡散板/導光板/機能板などを含むが、これらに限定されない。
【0074】
本出願は、前記量子ドット材料から調製して前記被覆量子ドットデバイスを得る方法について何ら制限せず、従来の方法を用いて行うことができ、例えば、被覆量子ドット材料とPSなどのペレットとを直接混合して量子ドットデバイスに加工する。
【0075】
以下、実施例を参照して本開示をより詳細に説明する。
【0076】
実施例1
CdSe/ZnS油性量子ドットを選択し、精製した後、3gを取って使用する。
【0077】
300mL流動パラフィンをフラスコに入れ、0.01molステアリン酸バリウムと3g上記量子ドットを加え、第1混合液を獲得し、アルゴンガスを通過させ、撹拌(1000r/min)し、加熱して120℃まで昇温し、30min保温した。
【0078】
次に、10mLの硫酸ナトリウム水溶液を滴下し、硫酸イオン濃度1mol/L、滴下速度1mL/minに設定した。
【0079】
滴下が完了した後、保温を1h継続し、精製して表面が硫酸バリウムシェル層である被覆量子ドット材料を得た。
【0080】
得られた被覆量子ドット材料の電子顕微鏡図を図2に示す。
【0081】
比較例1
実施例1において選択及び精製された3g量子ドット材料。
【0082】
得られた量子ドット材料の電子顕微鏡図を図3に示す。
【0083】
比較例2
実施例1の方法に従って選択と精製して得られた3g量子ドット材料を、300mL流動パラフィンに溶解し、120℃まで昇温し、0.01mol硫酸バリウムを加え、十分に反応させて撹拌し、精製した後に、表面が硫酸バリウムシェル層である量子ドット材料を得た。
【0084】
比較例3
フラスコに3g水溶性CdSe/ZnS量子ドット、300mL水溶液、0.01mol塩化バリウムを加えた。
【0085】
アルゴンガスを通過させ、攪拌(1000r/min)し、10mLの硫酸ナトリウム水溶液(硫酸ナトリウム濃度1mol/L)を滴下し、滴下速度1mL/minに設定した。
【0086】
滴下が完了した後に、攪拌を1h継続し、精製して表面が硫酸バリウムシェル層である量子ドット材料を得た。
【0087】
実施例2
ステアリン酸バリウムの使用量は0.005mol、硫酸ナトリウム水溶液(濃度は実施例1と同様である。)の使用量は5mLであった以外は、実施例1の方法に従って行った。
【0088】
実施例3
ステアリン酸バリウムの使用量は0.05mol、硫酸ナトリウム水溶液(濃度は実施例1と同様である。)の使用量は50mLであった以外は、実施例1の方法に従って行った。
【0089】
実施例4
滴下速度は2mL/minであった以外は、実施例1の方法に従って行った。
【0090】
実施例5
滴下速度は0.5mL/minであった以外は、実施例1の方法に従って行った。
【0091】
上記実施例と比較例の部分試験パラメータと測定結果を表1に示す。
【0092】
測定方法
実施例と比較例で得られた被覆量子ドット材料とPS粒料ペレットを250℃で混合し、マイクロ押出機と平板加硫機において押出板を押し出し、量子ドットPSデバイスを作製した。次に、以下の測定を行った。
【0093】
上記量子ドットPSデバイスをそれぞれ高温高湿ブルーライト加速エージング測定(60℃、90%湿度、40W/mブルーライト、ブルーライト波長450nm)を行い、得られた正規化後の輝度の時間変化曲線は、図4に示す通りである。
【0094】
加工前の被覆量子ドット材料、上記加工後に得られた量子ドットPS光学デバイスに対して量子収率測定をそれぞれ行い、加工前の上記実施例と比較例の被覆量子ドット材料から調製されたPS量子ドットデバイスの量子収率はいずれも95%であり、加工後の各実施例と比較例の量子収率の結果は表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例と比較例で選択された量子ドット芯材は、CdSe/ZnSコアシェル型量子ドットであり、ZnSシェル層の保護により、ZnSシェル層の外で無機塩被覆剤を被覆して量子収率にほとんど影響を与えないため、各実施例と比較例の熱加工前の量子収率はいずれも95%であり、熱加工後、各実施例と比較例の量子収率は明らかな区別があり、これは異なる被覆層による量子ドット芯材の保護能力が異なることによるもので、即ち、異なる無機塩被覆層により被覆量子ドット材料が異なる耐熱性を示したためである。
【0097】
図4及び表1から分かるように、比較例に対して、本出願に提供される調製方法により調製された被覆量子ドット材料は、従来技術における無機塩被覆剤に対して、被覆量が顕著に向上し、量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比が本出願の限定範囲内である被覆量子ドット材料は、高温加工後に優れた耐高温性能及び良好な耐光、湿、酸素性を示し、即ち、良好な安定性を有する。
【0098】
さらに、実施例1と実施例2~3をそれぞれ比較することにより、原料配合比を調整することにより、量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比がより好適な被覆量子ドット材料を得ることができ、被覆量子ドット材料の耐熱、湿、光、酸素安定性をさらに向上させることができる。
【0099】
さらに、実施例1と実施例4~5をそれぞれ比較することにより、本出願の好ましい滴下速度の方案によれば、量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比がより好適な被覆量子ドット材料を得ることができ、被覆量子ドット材料の耐熱、湿、光、酸素安定性をさらに向上させることができる。
【0100】
上記の説明は、本出願の好適な実施例に過ぎず、本出願を制限するものではなく、当業者にとって、本出願は、様々な変更及び変化が可能である。本出願の精神及び原則内で行われた如何なる修正、同等置換、改良なども、いずれも本出願の保護範囲内に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドット芯材と無機塩被覆剤とを含む被覆量子ドット材料であって、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記無機塩被覆剤は、水に対する溶解度が0.01g/100g未満であり、熱分解温度が300℃超であり、前記被覆量子ドット材料における量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.005g/molであることを特徴とする被覆量子ドット材料。
【請求項2】
前記油溶性量子ドットの非リガンド部分である量子ドット材料は、元素周期表II-IV族、II-VI族、II-V族、III-V族、III-VI族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-VI族、II-IV-V族半導体化合物中の少なくとも1種;及び/又は、II-IV族、II-VI族、II-V族、III-V族、III-VI族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-VI族、IIIV-V族半導体化合物中の少なくとも2種からなるコアシェル構造の半導体化合物中の少なくとも1種;及び/又は、ペロブスカイトナノ粒子材料、金属ナノ粒子材料、金属酸化物ナノ粒子材料、カーボンナノ材料中の少なくとも1種から選択され、
好ましくは、前記無機塩被覆剤は、アルカリ土金属塩、IIIA族金属塩、IVA族金属塩、遷移金属塩から選択される1種又は複数種であることを特徴とする請求項1に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項3】
量子ドット芯材の粒子径は3nm~15nmであり、無機塩被覆剤の被覆厚さは0.5nm~20nmである請求項1に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項4】
被覆量子ドット材料は、200℃~300℃の高温で熱加工した後に、量子収率が70%以上であり、前記熱加工後に得られた量子ドットデバイスは、1000hの高温高湿ブルーライト加速エージング測定後に、光減衰が20%未満であり、好ましくは光減衰が10%未満であり、さらに好ましくは5%未満である請求項1に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項5】
被覆量子ドット材料は、前記熱加工後に量子収率が80%以上であり、好ましくは90%以上である請求項4に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項6】
被覆量子ドット材料の調製方法は、
S1:量子ドット芯材、有機溶媒、油溶性カチオン前駆体を混合して第1混合液を獲得し、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記有機溶媒は沸点が水の沸点よりも高いステップと、
S2:第1混合液を加熱し、加熱温度が90℃よりも高いステップと、
S3:加熱された第1混合液に、無機塩を成長させるために必要なアニオン水溶液を滴下し、反応させて被覆量子ドット材料を得るステップと、を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項7】
被覆量子ドット材料を調製する調製方法であって、前記被覆量子ドット材料は、量子ドット芯材と無機塩被覆剤とを含み、前記調製方法は、
S1:量子ドット芯材、有機溶媒、油溶性カチオン前駆体を混合して第1混合液を獲得し、前記量子ドット芯材は油溶性量子ドットを含み、前記有機溶媒は沸点が水の沸点よりも高いステップと、
S2:第1混合液を加熱し、加熱温度が90℃よりも高いステップと、
S3:加熱された第1混合液に、無機塩を成長させるために必要なアニオン水溶液を滴下し、反応させて被覆量子ドット材料を得るステップと、を含む被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項8】
前記有機溶媒は、流動パラフィン、芳香族炭化水素、長鎖アルカン、脂肪酸又はオクタデセン中の少なくとも1種であり、
好ましくは、前記油溶性カチオン前駆体は、油溶性アルカリ土金属塩前駆体、油溶性IIIA金属塩前駆体、油溶性IVA金属塩前駆体、油溶性遷移金属塩前駆体から選択される1種又は複数種であり、
好ましくは、前記アニオン水溶液のアニオン濃度は、0.05mol/L~10mol/Lであることを特徴とする請求項7に記載の被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項9】
前記ステップS1において、量子ドットの質量と油溶性カチオン前駆体のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.006g/molである請求項7に記載の被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項10】
前記ステップS2において、加熱温度は100℃以上であり、
好ましくは、前記ステップS2において、加熱時間は10min~60minである請求項7に記載の被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項11】
前記ステップS3において、滴下速度は0.5mL/min~2mL/minであり、より好ましくは1mL/min~1.5mL/minであり、
好ましくは、前記調製方法は、ステップS3において、前記滴下が完了した後、保温を15min~120min継続することをさらに含む請求項7に記載の被覆量子ドット材料の調製方法。
【請求項12】
請求項に記載の被覆量子ドット材料の調製方法から調製された被覆量子ドット材料。
【請求項13】
前記被覆量子ドット材料における量子ドット芯材の質量と無機塩被覆剤のモル量との比は、1:0.001g/mol~1:0.05g/molであり、好ましくは1:0.002g/mol~1:0.02g/molであり、最も好ましくは1:0.003g/mol~1:0.005g/molである請求項12に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項14】
被覆量子ドット材料は、200℃~300℃の高温で熱加工した後に、量子収率が70%以上であり、好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上であり、前記熱加工後に得られた量子ドットデバイスは、1000hの高温高湿ブルーライト加速エージング測定後に、光減衰が20%未満であり、好ましくは10%未満であり、最も好ましくは5%未満である請求項12に記載の被覆量子ドット材料。
【請求項15】
請求項1~のいずれか1項又は請求項12~14のいずれか1項に記載の被覆量子ドット材料を含む量子ドットデバイス。
【国際調査報告】