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特表2024-536753生物学的製剤の高分子量種を特性評価するためのN質量分析法ベースの戦略
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】生物学的製剤の高分子量種を特性評価するためのN質量分析法ベースの戦略
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20241001BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20241001BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20241001BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20241001BHJP
   C07K 1/24 20060101ALI20241001BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241001BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241001BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20241001BHJP
   A61P 37/02 20060101ALN20241001BHJP
   A61P 31/00 20060101ALN20241001BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20241001BHJP
   A61P 3/00 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/88 J
G01N30/72 C
G01N33/68
C07K1/24
C07K1/16
A61K39/395 K
C12N15/09 Z
A61P35/00
A61P37/02
A61P31/00
A61P9/00
A61P3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516390
(86)(22)【出願日】2022-09-13
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 US2022043353
(87)【国際公開番号】W WO2023043733
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】63/243,835
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ユエティエン
(72)【発明者】
【氏名】ワン シュンハイ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041FA12
2G041GA09
2G041HA01
2G041HA04
2G041JA02
2G041LA08
2G045DA37
2G045FB06
4C085AA14
4C085CC23
4C085DD32
4C085EE01
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、タンパク質特性評価の分野に関し、特に、高分子量種の、特異性が高く、高感度で、包括的な特性評価を可能にするポストカラム変性支援SEC-MS法を使用することを含むワークフローを実行することによる、治療用タンパク質の高分子量種を特性評価するための方法に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関心対象のタンパク質の少なくとも1つの高分子量種を特性評価するための方法であって、
a.前記関心対象のタンパク質及び前記少なくとも1つの高分子量種を含む試料を取得することと、
b.前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーカラムに接触させることと、
c.溶出液を回収するために前記カラムを洗浄することと、
d.混合物を形成するために前記溶出液に変性溶液を添加することと、
e.前記少なくとも1つの高分子量種を特性評価するために前記混合物を質量分析計に供することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記関心対象のタンパク質が、抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶出液が、前記少なくとも1つの高分子量種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(d)の前記混合物が、紫外線検出にもまた供される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記質量分析計が、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記質量分析計が、ネイティブ条件下で作動される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(e)を使用して取得された質量スペクトルからの少なくとも1つのピークを、ネイティブ条件下で(a)の前記試料のオンラインサイズ排除クロマトグラフィー-質量分析法を行うことによって取得された質量スペクトルと比較することを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記変性溶液が、アセトニトリル、ギ酸、又はアセトニトリルとギ酸との組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記変性溶液が、約60%v/vのアセトニトリルと4%v/vのギ酸とを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記変性溶液が、約60%v/vのアセトニトリルを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記質量分析計が、ネイティブ条件下で作動される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
(a)の前記試料が、(b)の前に加水分解剤を使用して消化される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記加水分解剤が、プロテアーゼ酵素である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記プロテアーゼ酵素が、IdeSである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記質量分析計における(d)の前記混合物の流量が、約10μL/分未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
(d)の前記混合物が、前記質量分析計及び紫外線検出器へと分割される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
(d)の前記混合物を質量分析計に供する前に、脱溶媒ガスが(d)の前記混合物に添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記脱溶媒ガスを(d)の前記混合物に添加するために、マルチノズルエミッタが使用される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの高分子量種が、前記関心対象のタンパク質の非共有結合性高分子量種である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの高分子量種が、前記関心対象のタンパク質の非解離性高分子量種である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
(e)を使用して取得された質量スペクトルからの少なくとも1つのピークを、(a)の前記試料のオンラインサイズ排除クロマトグラフィー-質量分析法を行うことによって取得された質量スペクトルと比較することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月14日に出願された米国仮特許出願第63/243,835号の優先権及び利益を主張するものであり、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、概して、サイズ排除クロマトグラフィー-質量分析法ワークフローを使用して、治療用タンパク質の高分子量サイズバリアントを特性評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
治療用タンパク質は、がん、自己免疫疾患、感染症、及び心臓代謝障害の治療のための重要な薬物として出現し、製薬業界において最も急速に成長している製品セグメントのうちの1つを表している。治療用タンパク質製品は、非常に高い純度基準を満たさなければならない。したがって、治療用タンパク質の薬物開発、生産、保管、及び取り扱いの様々な段階において、不純物の監視が重要になり得る。
【0004】
高分子量(HMW)サイズバリアントは、治療用タンパク質試料中に不純物として存在する可能性があり、製品の安全性及び有効性へのその影響のゆえに、注意深く監視され、特性評価される必要がある。最終原薬(DS)試料中のHMWサイズバリアントの複雑性、及び多くの場合は存在量の少なさから、そのようなHMW種の特性評価は困難であり、HMW種のオフライン濃縮及びそれに続く様々な分析ツールを使用した分析が、従来必要とされている。
【0005】
したがって、当技術分野には、治療用タンパク質製品においてそのようなHMW種を特性評価するための効率的な方法に対する長年にわたる必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
概要
本明細書に開示される例示的な実施形態は、質量分析(SEC-MS)法とオンラインで結合されたポストカラム変性支援ネイティブサイズ交換クロマトグラフィーを使用することによって、治療用タンパク質製品中のそのようなHMW種を特性評価するための方法を提供することによって、上述の需要を満たす。これは、特異性が高く、高感度で、包括的な、HMW種の特性評価を、未分画の試料から直接、可能にすることができる。この方法は、インタクトなアセンブリ及び構成サブユニットの両方の正確な質量測定に基づいてHMW種の高信頼性の特定を提供するのみならず、相互作用性及び位置の詳細な分析も可能にする。加えて、高品質のネイティブ様質量スペクトルに由来する抽出イオンクロマトグラムを使用して、各非共有結合性及び/又は非解離性の複合体の溶出プロファイルが容易に再構築され、複合体HMWプロファイルの理解を容易にすることができる。この方法は、事前濃縮を必要としないので、治療用タンパク質製品の開発中にHMW種の迅速かつ詳細な特性評価の両方を提供するために望ましい。
【0007】
本開示は、関心対象のタンパク質の少なくとも1つの高分子量種を特性評価するための方法であって、関心対象のタンパク質及び少なくとも1つの高分子量種を含む試料を取得することと、試料をサイズ排除クロマトグラフィーカラムに接触させることと、溶出液を回収するためにカラムを洗浄することと、混合物を形成するために溶出液に変性溶液を添加することと、少なくとも1つの高分子量種を特性評価するために混合物を質量分析計に供することと、を含む、方法を提供する。
【0008】
この実施形態の一態様では、関心対象のタンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、又はFc融合タンパク質である。
【0009】
この実施形態の一態様では、溶出液は、少なくとも1つの高分子量種を含む。この実施形態の一態様では、混合物は、紫外線検出にもまた供される。
【0010】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計である。この実施形態の特定の態様では、質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計である。
【0011】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、ネイティブ条件下で作動される。特定の態様では、方法は、使用して取得された質量スペクトルからの少なくとも1つのピークを、ネイティブ条件下で当該試料のオンラインサイズ排除クロマトグラフィー-質量分析法を行うことによって取得された質量スペクトルと比較することを更に含む。
【0012】
この実施形態の一態様では、変性溶液は、アセトニトリル、ギ酸、又はアセトニトリルと、ギ酸との組み合わせを含む。この実施形態の特定の態様では、変性溶液は、約60%v/vのアセトニトリルと4%v/vのギ酸とを含む。この実施形態の別の特定の態様では、変性溶液は、約60%v/vのアセトニトリルを含む。
【0013】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、ネイティブ条件下で作動される。
【0014】
この実施形態の一態様では、質量分析計における混合物の流量は、約10μL/分未満である。
【0015】
この実施形態の一態様では、混合物は、質量分析計及び紫外線検出器へと分割される。この実施形態の特定の態様では、脱溶媒ガスを混合物に添加するためにマルチノズルエミッタが使用される。
【0016】
この実施形態の一態様では、(d)の混合物を質量分析計に供する前に、脱溶媒ガスが(d)の混合物に添加される。
【0017】
この実施形態の一態様では、少なくとも1つの高分子量種は、関心対象のタンパク質の非共有結合性高分子量種、又は関心対象のタンパク質の非解離性高分子量種である。
【0018】
この実施形態の一態様では、方法は、質量スペクトルからの少なくとも1つのピークを、当該試料のオンラインサイズ排除クロマトグラフィー-質量分析法を行うことによって取得された質量スペクトルと比較することを更に含む。
【0019】
本開示はまた、関心対象のタンパク質の少なくとも1つの高分子量種を特性評価するための方法であって、関心対象のタンパク質及び少なくとも1つの高分子量種を含む試料を取得することと、消化された試料を形成するために加水分解剤を使用して試料を消化することと、消化された試料をサイズ排除クロマトグラフィーカラムに接触させることと、溶出液を回収するためにカラムを洗浄することと、混合物を形成するために溶出液に変性溶液を添加することと、少なくとも1つの高分子量種を特性評価するために混合物を質量分析計に供することと、を含む、方法を提供する。
【0020】
この実施形態の一態様では、関心対象のタンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、又はFc融合タンパク質である。
【0021】
この実施形態の一態様では、溶出液は、少なくとも1つの高分子量種を含む。この実施形態の一態様では、混合物は、紫外線検出にもまた供される。
【0022】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計である。この実施形態の特定の態様では、質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計である。
【0023】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、ネイティブ条件下で作動される。特定の態様では、方法は、質量スペクトルからの少なくとも1つのピークを、ネイティブ条件下で当該試料のオンラインサイズ排除クロマトグラフィー-質量分析法を行うことによって取得された質量スペクトルと比較することを更に含む。
【0024】
この実施形態の一態様では、変性溶液は、アセトニトリル、ギ酸、又はアセトニトリルと、ギ酸との組み合わせを含む。この実施形態の特定の態様では、変性溶液は、約60%v/vのアセトニトリルと4%v/vのギ酸とを含む。この実施形態の別の特定の態様では、変性溶液は、約60%v/vのアセトニトリルを含む。
【0025】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、ネイティブ条件下で作動される。
【0026】
この実施形態の一態様では、質量分析計における混合物の流量は、約10μL/分未満である。
【0027】
この実施形態の一態様では、混合物は、質量分析計及び紫外線検出器へと分割される。この実施形態の特定の態様では、脱溶媒ガスを混合物に添加するためにマルチノズルエミッタが使用される。
【0028】
この実施形態の一態様では、混合物を質量分析計に供する前に、脱溶媒ガスが混合物に添加される。
【0029】
この実施形態の一態様では、少なくとも1つの高分子量種は、関心対象のタンパク質の非共有結合性高分子量種、又は関心対象のタンパク質の非解離性高分子量種である。
【0030】
この実施形態の一態様では、方法は、質量スペクトルからの少なくとも1つのピークを、当該試料のオンラインサイズ排除クロマトグラフィー-質量分析法を行うことによって取得された質量スペクトルと比較することを更に含む。
【0031】
本開示はまた、少なくとも1つの高分子量種を特性評価するための方法であって、少なくとも2つの関心対象のタンパク質及び少なくとも1つの高分子量種を含む試料を取得することと、試料をサイズ排除クロマトグラフィーカラムに接触させることと、溶出液を回収するためにカラムを洗浄することと、混合物を形成するために溶出液に変性溶液を添加することと、少なくとも1つの高分子量種を特性評価するために混合物を質量分析計に供することと、を含む、方法を提供する。
【0032】
この実施形態の一態様では、関心対象のタンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、又はFc融合タンパク質である。
【0033】
この実施形態の一態様では、溶出液は、少なくとも1つの高分子量種を含む。この実施形態の一態様では、混合物は、紫外線検出にもまた供される。
【0034】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計である。この実施形態の特定の態様では、質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計である。
【0035】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、ネイティブ条件下で作動される。特定の態様では、方法は、使用して取得された質量スペクトルからの少なくとも1つのピークを、ネイティブ条件下で当該試料のオンラインサイズ排除クロマトグラフィー-質量分析法を行うことによって取得された質量スペクトルと比較することを更に含む。
【0036】
この実施形態の一態様では、変性溶液は、アセトニトリル、ギ酸、又はアセトニトリルと、ギ酸との組み合わせを含む。この実施形態の特定の態様では、変性溶液は、約60%v/vのアセトニトリルと4%v/vのギ酸とを含む。この実施形態の別の特定の態様では、変性溶液は、約60%v/vのアセトニトリルを含む。
【0037】
この実施形態の一態様では、質量分析計は、ネイティブ条件下で作動される。
【0038】
この実施形態の一態様では、質量分析計における混合物の流量が、約10μL/分未満である。
【0039】
この実施形態の一態様では、混合物は、質量分析計及び紫外線検出器へと分割される。この実施形態の特定の態様では、脱溶媒ガスを混合物に添加するためにマルチノズルエミッタが使用される。
【0040】
この実施形態の一態様では、(d)の混合物を質量分析計に供する前に、脱溶媒ガスが(d)の混合物に添加される。
【0041】
この実施形態の一態様では、少なくとも1つの高分子量種は、関心対象のタンパク質の非共有結合性高分子量種、又は関心対象のタンパク質の非解離性高分子量種である。
【0042】
この実施形態の一態様では、方法は、質量スペクトルからの少なくとも1つのピークを、当該試料のオンラインサイズ排除クロマトグラフィー-質量分析法を行うことによって取得された質量スペクトルと比較することを更に含む。
【0043】
この実施形態の一態様では、試料は、サイズ排除クロマトグラフィーカラムに試料を供する前に、加水分解剤を使用して消化される。特定の態様では、加水分解剤は、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)又はそのバリアントである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】例示的な実施形態を使用して本発明の有効性を表示する。
図2】治療用タンパク質製品に一般的に存在する不純物の相対量を示す。
図3】例示的な実施形態による本発明の描写である。
図4図4Aは、例示的な実施形態によって取得された、ネイティブ(黒色トレース)又はPCD(オレンジ色及び赤色トレース)条件下で取得された、部分的に還元されたmAb1(破壊された鎖間ジスルフィド結合)の質量スペクトルを示す。図4Bは、例示的な実施形態によって取得された、ネイティブ(黒色トレース)又はPCD(オレンジ色及び赤色トレース)条件下で取得された、mAb2二量体の質量スペクトルを示す。
図5】例示的な実施形態による、ネイティブ(青色トレース)又はPCD(赤色トレース)条件下で取得された、各HMWピークについてのSEC-UVトレース(中央パネル)、ピーク割り当て、及びデコンボリュートされた質量スペクトルを表示するIdeS消化後のmAb3濃縮HMW試料のnSEC-UV/MS分析を示す。
図6】例示的な実施形態による、FabRICATOR消化及び脱グリコシル化濃縮mAb3 HMW試料と関連付けられたサイズバリアント質量の概要表を示す。
図7】例示的な実施形態による、SEC-TIC(左パネル、赤色及び青色トレース)、並びにネイティブ(青色トレース)又はPCD(赤色トレース)条件下で取得された各HMWピークについての生の質量スペクトルを表示する、bsAb DS試料のnSEC-UV/MS分析を示す。各種の最も豊富な荷電状態(灰色トレース、左パネル)を使用してXICを生成した。
図8】例示的な実施形態による、脱グリコシル化bsAb試料と関連付けられたサイズバリアント質量の概要表を示す。
図9】PCD支援nSEC-UV/MS分析を使用して、a)インタクトなレベル、及びb)サブドメインレベル(IdeS消化後)で特性評価されたmAb4 DSロット1及びロット2のHMWプロファイルを示す。例示的な実施形態による、各HMW関連種の溶出プロファイルを表すUVプロファイル(黒色トレース)及びXIC(着色トレース)を示した(HMW領域のみが表示されている)。各種の最も豊富な荷電状態を使用してXICを生成した。
図10】例示的な実施形態による、インタクトなレベル及びサブドメインレベルにおけるPCD支援nSEC-MSによってmAb4ロット1及びロット2 DS試料中で検出された非解離性二量体種の概要表を示す。
図11】例示的な実施形態による、ネイティブ(黒色トレース)及びPCD(赤色トレース)条件の両方の下でnSEC-MSを使用した、a)T0の、及びb)25℃で6か月間の、共製剤化mAb-A及びmAb-B試料中で検出されたHMW種を示す。各二量体の相対存在量を、デコンボリュートされた質量スペクトルからの積分されたピーク面積を使用して推定し、アノテーションした。
図12】例示的な実施形態による、T0の、及び25℃で6か月間保管した後の、共製剤化mAb-A及びmAb-BのネイティブSEC-UVトレースを示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
詳細な説明
生物学的製剤製品中の生成物関連バリアントの特定及び定量化は、製品の生産及び開発において非常に重要であり得る。そのようなバリアントの特定は、安全で有効な製品を開発するために不可欠であり得る。したがって、そのようなバリアントを特性評価するための堅牢な方法及び/又はワークフローは有益であり得る。
【0046】
治療用タンパク質は、多くの場合、HMW凝集体及び低分子量(LMW)断片を含む、生成物関連不純物を含有する、ある程度のサイズ不均一性を呈する。これらの種は、多くの場合、製品の製造、出荷、及び保管中の環境ストレスに起因するmAb分子の化学的及び酵素的分解から生じる(Roberts CJ.Therapeutic protein aggregation:Mechanisms,design,and control.Trends Biotechnol 2014:32(7):372-380、Cordoba AJ,Shyong BJ,Breen D,Harris RJ.Non-enzymatic hinge region fragmentation of antibodies in solution.J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci 2005:818(2):115-121、Xiang T,Lundell E,Sun Z,Liu H.Structural effect of a recombinant monoclonal antibody on hinge region peptide bond hydrolysis.J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci 2007:858(1-2):254-262)。LMW断片は、様々な化学的又は酵素的分解経路(例えば、ポリペプチド結合の鎖間ジスルフィド結合切断などの酸、塩基、及び酵素駆動の加水分解)を介して生成され、mAb分子の切断形態をもたらし得る(Wang S,Liu AP,Yan Y,Daly TJ,Li N.Characterization of product-related low molecular weight impurities in therapeutic monoclonal antibodies using hydrophilic interaction chromatography coupled with mass spectrometry.J Pharm Biomed Anal 2018:154(468-475、Vlasak J,Ionescu R.Fragmentation of monoclonal antibodies.MAbs 2011:3(3):253-263)。
【0047】
対照的に、HMW種の形成は、はるかに複雑なプロセスである。生成されたHMW形態は、サイズ、立体構造、相互作用性質(共有結合又は非共有結合)、及び会合部位において変動し得る(Paul R,Graff-Meyer A,Stahlberg H,Lauer ME,Rufer AC,Beck H,Briguet A,Schnaible V,Buckel T,Boeckle S.Structure and function of purified monoclonal antibody dimers induced by different stress conditions.Pharm Res 2012:29(8):2047-2059)。ストレス条件に加えて、タンパク質一次配列及びその高次構造は、全て、異なる経路を介したその凝集の傾向に寄与する。したがって、一般的な規則を使用して、各分子のタンパク質凝集挙動を予測又は説明することはほとんど不可能である。HMW種(可溶性オリゴマーから可視粒子まで)は、望ましくない免疫原性応答を誘発し、及び/又はその薬物動態挙動を変化させることによって、薬物の安全性及び有効性に影響を及ぼし得(Narhi LO,Schmit J,Bechtold-Peters K,Sharma D.Classification of protein aggregates.J Pharm Sci 2012:101(2):493-498)、製品ライフサイクル全体にわたるHMW種の詳細な特性評価、継続的な監視及び制御が必要とされる(Parenky A,Myler H,Amaravadi L,Bechtold-Peters K,Rosenberg A,Kirshner S,Quarmby V.New FDA draft guidance on immunogenicity.AAPS J 2014:16(3):499-503)。加えて、詳細な特性評価によって達成される凝集メカニズムの深い理解は、HMW種のリスク評価のためのフレームワークを提供するのみならず、タンパク質工学を通じて低減された凝集傾向を有するタンパク質分子を設計するための洞察ももたらし得る。
【0048】
治療用タンパク質製品におけるHMWサイズバリアントの特性評価は、多くの場合、その複雑さに起因して、多くの分析及び生物物理学的ツールに依存する。沈降速度分析超遠心分離(SV-AUC)及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の両方は、それらの優れた分解能及び定量性能に起因して、mAb HMW種を特性評価する際に広く使用されている(Lebowitz J,Lewis MS,Schuck P.Modern analytical ultracentrifugation in protein science:A tutorial review.Protein Sci 2002:11(9):2067-2079、Hughes H,Morgan C,Brunyak E,Barranco K,Cohen E,Edmunds T,Lee K.A multi-tiered analytical approach for the analysis and quantitation of high-molecular-weight aggregates in a recombinant therapeutic glycoprotein.AAPS J 2009:11(2):335-341)。特に、UV検出を伴うSECは、治療用mAb製品における可溶性凝集体のレベル及び溶出プロファイルを直接監視するためのバッチリリースアッセイとして通例的に使用される(Lowe D,Dudgeon K,Rouet R,Schofield P,Jermutus L,Christ D.Aggregation,stability,and formulation of human antibody therapeutics.Adv Protein Chem Struct Biol 2011:8441-61、Zolls S,Tantipolphan R,Wiggenhorn M,Winter G,Jiskoot W,Friess W,Hawe A.Particles in therapeutic protein formulations,part 1:Overview of analytical methods.J Pharm Sci 2012:101(3):914-935)。HMW種の詳細な解明を可能にし、凝集メカニズムに関する洞察を得るために、mAb HMW種の濃縮、続いて、他の技術による詳細な特性評価がほとんど常に必要とされる(Paul R.et al.,上記、Rouby G,Tran NT,Leblanc Y,Taverna M,Bihoreau N.Investigation of monoclonal antibody dimers in a final formulated drug by separation techniques coupled to native mass spectrometry.MAbs 2020:12(1):e1781743、Lu C,Liu D,Liu H,Motchnik P.Characterization of monoclonal antibody size variants containing extra light chains.MAbs 2013:5(1):102-113、Remmele RL,Jr.,Callahan WJ,Krishnan S,Zhou L,Bondarenko PV,Nichols AC,Kleemann GR,Pipes GD,Park S,Fodor S et al.Active dimer of epratuzumab provides insight into the complex nature of an antibody aggregate.J Pharm Sci 2006:95(1):126-145、Iwura T,Fukuda J,Yamazaki K,Kanamaru S,Arisaka F.Intermolecular interactions and conformation of antibody dimers present in igg1 biopharmaceuticals.J Biochem 2014:155(1):63-71、Plath F,Ringler P,Graff-Meyer A,Stahlberg H,Lauer ME,Rufer AC,Graewert MA,Svergun D,Gellermann G,Finkler C et al.Characterization of mab dimers reveals predominant dimer forms common in therapeutic mabs.MAbs 2016:8(5):928-940)。例えば、非還元条件下で実施されるキャピラリー電気泳動-ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)が、共有結合性及び非共有結合性のHMW種のレベルを区別及び推定するために使用され得る(Rouby G.et al.,上記、Remmele RL et al.,上記、Plath F.et al.,上記)。更に、還元条件下で作動されるとき、CE-SDSは、共有結合性凝集体の形成への分子間ジスルフィド結合スクランブリングからの可能性のある寄与を更に評価することができる。制限酵素消化(例えば、IdeS消化及び制限Lys-C消化)、続いて、質量分析法(MS)分析もまた、正確な質量測定に基づいて、サブドメインレベルにおける凝集界面を決定するのに有効であることが証明されている(Rouby G.et al.,上記、Remmele RL et al.,上記、Iwura et al.,上記、Plath F.et al.,上記)。最後に、凝集界面及びメカニズムの、ペプチドレベル又は更に残基レベルでの解明を達成するために、タンパク質フットプリント(例えば、水素-重水素交換MS及びヒドロキシルラジカルフットプリント)及びボトムアップベースの架橋分析などの、より洗練された戦略が、それぞれ、非共有結合性及び共有結合性のHMW種を調査するために適用され得る(Iacob RE,Bou-Assaf GM,Makowski L,Engen JR,Berkowitz SA,Houde D.Investigating monoclonal antibody aggregation using a combination of h/dx-ms and other biophysical measurements.J Pharm Sci 2013:102(12):4315-4329、Zhang A,Singh SK,Shirts MR,Kumar S,Fernandez EJ.Distinct aggregation mechanisms of monoclonal antibody under thermal and freeze-thaw stresses revealed by hydrogen exchange.Pharm Res 2012:29(1):236-250、Yan Y,Wei H,Jusuf S,Krystek SR,Jr.,Chen J,Chen G,Ludwig RT,Tao L,Das TK.Mapping the binding interface in a noncovalent size variant of a monoclonal antibody using native mass spectrometry,hydrogen-deuterium exchange mass spectrometry,and computational analysis.J Pharm Sci 2017:106(11):3222-3229、Deperalta G,Alvarez M,Bechtel C,Dong K,McDonald R,Ling V.Structural analysis of a therapeutic monoclonal antibody dimer by hydroxyl radical footprinting.MAbs 2013:5(1):86-101)。
【0049】
ほぼネイティブ条件下における直接MS検出とSECとのオンライン結合(ネイティブSEC-MS)は、mAb HMW種の研究に関して、過去数年間にわたって大きな関心を高めている(Rouby et al.,上記、Ehkirch A,Hernandez-Alba O,Colas O,Beck A,Guillarme D,Cianferani S.Hyphenation of size exclusion chromatography to native ion mobility mass spectrometry for the analytical characterization of therapeutic antibodies and related products.J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci 2018:1086 (176-183)、Haberger M,Leiss M,Heidenreich AK,Pester O,Hafenmair G,Hook M,Bonnington L,Wegele H,Haindl M,Reusch D et al.Rapid characterization of biotherapeutic proteins by size-exclusion chromatography coupled to native mass spectrometry.MAbs 2016:8(2):331-339。
【0050】
タンパク質立体構造及び非共有結合性相互作用を保持することができるMS適合移動相を使用して、ネイティブSEC-MS(nSEC-MS)は、正確な質量測定に基づいて、サイズバリアントの迅速かつ改善された特定を提供することができる。加えて、方法論及び計装の両方における最近の進歩のおかげで、nSEC-MSは、未分画の原薬(DS)試料から直接的に、非常に低レベルのHMW種(例えば、0.01%)を容易に検出し得る高感度の方法となった(Yan Y,Xing T,Wang S,Li N.Versatile,sensitive,and robust native lc-ms platform for intact mass analysis of protein drugs.J Am Soc Mass Spectrom 2020:31(10):2171-2179)。これらの顕著な成功にもかかわらず、nSEC-MS法の適用のみでは、依然としてHMW種の完全なプロファイルを取得することができない。第一に、非変性法として、nSEC-MS分析は、共有結合性架橋に起因する明確な質量差が検出されない限り、非共有結合性HMW複合体と共有結合性HMW複合体との間を区別しない。残念ながら、後者は、大きな複合体に対する不十分なクロマトグラフィー分解能及び質量分解能の両方に起因して、達成することが非常に困難であり得る。例えば、異なるメカニズム(例えば、非共有結合性及び共有結合性の相互作用)によって形成された二量体種は、多くの場合、SEC分離中に共溶出され、MS検出によって平均質量で測定される。したがって、非共有結合性及び共有結合性の二量体種の分布は、nSEC-MS法によって直接決定することができない。第二に、十分に予想されるオリゴマー種(例えば、二量体、三量体、四量体など)と比較して、非従来型HMW種(例えば、追加の軽鎖と複合体化されたmAb単量体)の信頼性の高い特定は、多くの場合、インタクトな質量測定単独では確立することができない(Lu et al.,上記、Yan et al.,上記)。これは、低存在量で存在する大きなHMW種の質量測定では、多くの場合、質量正確度が低いことが予想されるためであり、曖昧な質量割り当てにつながる可能性がある。
【0051】
これらの課題を克服するために、本発明は、SECで分解された非共有結合性HMW種を、その後のMS検出のための構成成分へと解離するように最適化された、新しいポストカラム変性支援nSEC-MS法(PCD支援nSEC-MS)を提供する。結果として、この新しいアプローチは、同一のSEC分離条件下で、非共有結合性及び非解離性のHMW種の両方の同時検出を可能にする。加えて、この戦略は、1)非共有結合性HMW複合体から解離された構成サブユニットの同一性を確認することと、2)共溶出性の非共有結合性種からの干渉を除去することによって非解離性HMW種のより正確な質量測定を達成することと、によって不均一なHMW種の特定を改善する。更に、制限酵素消化ステップを組み込むことによって、PCD支援nSEC-MS法は、サブドメインレベルにおけるmAb凝集体の相互作用性質及び相互作用界面の両方を容易に明らかにすることができる。
【0052】
本発明はまた、(a)共溶出性の非共有結合性種からの干渉を低減することと、(b)種のサイズを低減することと、によって共有結合性架橋のより正確な測定を提供する。例えば、Fab2-Fc二量体を有する共溶出性種は、未消化及び部分的に消化された種に起因して、干渉を生じ得る。図1の上のパネルを参照されたい。本発明を使用して、未消化種からの干渉信号が、IdeSなどのプロテアーゼを使用することによって除去され得る。図1の下のパネルを参照されたい。
【0053】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似又は等価な任意の方法及び材料が、実施又は試験において使用され得るが、特定の方法及び材料がここで記載される。言及される全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。
【0055】
一部の例示的な実施形態では、本開示は、関心対象のタンパク質の少なくとも1つの高分子量種を特性評価するための方法を提供する。
【0056】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」、「治療用タンパク質」又は「関心対象のタンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含む。タンパク質は、当技術分野で概して「ポリペプチド」として知られている1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸残基、関連する自然に発生する構造バリアント、及び自然には発生しないその合成類似体、関連する自然に発生する構造バリアント、及び自然には発生しないその合成類似体から構成されたポリマーを指す。「合成ペプチド又は合成ポリペプチド」は、自然には発生しないペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又は合成ポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が知られている。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つ以上のポリペプチドを含有し得る。タンパク質は、生物治療用タンパク質、研究又は治療に使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のいずれかを含み得る。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含むことができる。タンパク質は、昆虫バキュロウイルスシステム、酵母システム(例えば、ピキア種)、哺乳類システム(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)などの組換え細胞ベースの生産システムを使用して生産することができる。生物治療用タンパク質及びその生産を考察する総説については、Ghaderi et al.“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,”(BIOTECHNOL.GENET.ENG.REV.147-175(2012))を参照されたい。一部の例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合部分を含む。それらの修飾、付加物及び部分としては、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識及び他の色素などが挙げられる。タンパク質は、組成及び溶解度に基づいて分類することができるため、球状タンパク質、繊維状タンパク質などの単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質などの複合タンパク質、並びに一次派生タンパク質、及び二次派生タンパク質などの派生タンパク質を含む。
【0057】
一部の例示的な実施形態では、タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、又はFc融合タンパク質であり得る。
【0058】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、すなわち、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、C1、CH2、及びC3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。V及びV領域は、フレームワーク領域(FR)と呼称されるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼称される超可変性領域へと更に細分することができる。各V及びVは、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序で配置された、3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。異なる例示的な実施形態では、抗ビッグ-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得るか、又は自然に若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。本明細書で使用される「抗体」という用語はまた、完全抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の自然に発生する、酵素的に得ることができる、合成の、又は遺伝子操作された、ポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質分解消化又は抗体可変ドメイン及び任意選択的に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む組換え遺伝子操作技術などの任意の好適な標準技術を使用して、完全抗体分子から得ることができる。かかるDNAは既知であり、かつ/又は、例えば、商業的供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ-抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、又は合成することができる。DNAを配列決定し、化学的に又は分子生物学技術を使用することによって操作して、例えば、1つ以上の可変及び/若しくは定常ドメインを好適な立体配置に配置するか、又はコドンを導入する、システイン残基を作製する、アミノ酸を修飾する、付加する、若しくは欠失させることなどができる。
【0059】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、インタクトな抗体の一部分を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fc断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続される組換え一本鎖ポリペプチド分子である。抗体断片は、様々な手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、インタクトな抗体の断片化によって酵素的若しくは化学的に産生されてもよく、かつ/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換えによって産生されてもよい。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、全体的に又は部分的に合成的に産生され得る。抗体断片は、任意選択的に、単鎖抗体断片を含み得る。代替的に、又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって共に連結された複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含み得る。
【0060】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野において利用可能な又は既知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一のクローンから得ることができる。本開示に関連して有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で既知の多種多様な技術を使用して、調製することができる。
【0061】
本明細書で使用される「Fc融合タンパク質」という用語は、そのうちの1つが免疫グロブリン分子のFc部分であり、天然状態では融合されていない、2つ以上のタンパク質の一部又は全部を含む。抗体由来ポリペプチド(Fcドメインを含む)の様々な部分に融合した特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.ScL USA 88:10535,1991、Byrn et al.,Nature 344:677,1990、及びHollenbaugh et al.,“Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins”,Current Protocols in Immunology,Suppl.4,pages 10.19.1-10.19.11,1992に記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、Fc部分に結合した受容体の1つ以上の細胞外ドメインのうちの1つ以上を含み、これは、一部の実施形態では、ヒンジ領域、続いて、免疫グロブリンのCH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。一部の実施形態では、Fc融合タンパク質は、単一のまたは複数のリガンドに結合する2つ以上の別個の受容体鎖を含有する。例えば、Fc融合タンパク質は、トラップ、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したIL-1R1細胞外領域に融合されたIL-1 RAcPリガンド結合領域を含有するリロナセプト;米国特許第6,927,004号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)、又はVEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合されたVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合されたVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含有するアフリベルセプト、例えば、配列番号1;米国特許第7,087,411号及び同第7,279,159号(参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)を参照)である。
【0062】
本明細書で使用される場合、「不純物」という用語は、タンパク質バイオ医薬品に存在するあらゆる望ましくないタンパク質を挙げることができる。不純物には、プロセス関連不純物及び生成物関連不純物が含まれ得る。不純物は更に、既知の構造を有するか、部分的に特性評価されるか、又は未特定であり得る。
【0063】
プロセス関連不純物は、製造プロセスから誘導することができ、3つの主要なカテゴリー:細胞基質由来、細胞培養由来、及び下流由来を含むことができる。細胞基質由来の不純物は、宿主生物由来のタンパク質及び核酸(宿主細胞のゲノム、ベクター、又は全DNA)を含むが、これらに限定されない。細胞培養由来の不純物は、誘導物質、抗生物質、血清、及び他の培地成分を含むが、これらに限定されない。下流由来の不純物としては、酵素、化学的及び生化学的処理試薬(例えば、臭化シアン、グアニジン、酸化剤及び還元剤)、無機塩(例えば、重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、担体、リガンド(例えば、モノクローナル抗体)、並びに他の浸出性物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
生成物関連不純物(例えば、前駆体、特定の分解生成物)は、活性、有効性、及び安全性に関して所望の生成物のものと同等の特性を有しない、製造及び/又は保管中に生じる分子バリアントであり得る。そのようなバリアントは、修飾(複数可)のタイプを特定するために、単離及び特性評価におけるかなりの努力を必要とし得る。生成物関連不純物には、切断形態、修飾形態、及び凝集体が含まれ得る。切断形態は、ペプチド結合の切断を触媒する加水分解酵素又は化学物質によって形成される。修飾形態としては、脱アミド化、異性化、ミスマッチS-S連結、酸化、又は改変共役形態(例えば、グリコシル化、リン酸化)が挙げられるが、これらに限定されない。修飾形態はまた、任意の翻訳後修飾形態を含み得る。凝集体には、所望の生成物の二量体及びより高い倍数体が含まれる(Q6B Specifications:Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products,ICH August 1999,U.S.Dept.of Health and Humans Services)。
【0065】
図2に示されるように、生成物関連不純物は、治療用タンパク質製品における主要な不純物であり、したがって、慎重な特性評価を必要とする。いくつかの生成物関連不純物又は生成物関連タンパク質バリアントは、結合親和性を損なっている。損なわれた結合親和性は、本明細書において、体内の関心対象のタンパク質の標的又は関心対象のタンパク質のために設計された抗原に対する低減された結合親和性を含む。損なわれた結合親和性は、体内の関心対象のタンパク質の標的又は関心対象のタンパク質のために設計された抗原に対する関心対象のタンパク質の親和性よりも低い任意の親和性であり得る。
【0066】
本明細書で使用される場合、「翻訳後修飾」又は「PTM」という一般的な用語は、ポリペプチドがリボソーム合成の間(翻訳時修飾)又はその後(翻訳後修飾)のいずれかで受ける共有結合修飾を指す。PTMは概して、特定の酵素又は酵素経路によって導入される。多くは、タンパク質骨格内の特定の特徴的なタンパク質配列(シグネチャー配列)の部位で起こる。数百のPTMが記録されており、これらの修飾は、タンパク質の構造又は機能の何らかの側面に常に影響を及ぼす(Walsh,G.“Proteins”(2014)second edition,Wiley and Sons,Ltd.より出版,ISBN:9780470669853)。様々な翻訳後修飾としては、切断、N末端伸長、タンパク質分解、N末端のアシル化、ビオチン化(ビオチンによるリジン残基のアシル化)、C末端のアミド化、グリコシル化、ヨウ素化、補欠分子族の共有結合、アセチル化(通常、タンパク質のN末端でのアセチル基の付加)、アルキル化(通常、リジン又はアルギニン残基でのアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル)の付加)、メチル化、アデニル化、ADP-リボシル化、ポリペプチド鎖内又はポリペプチド鎖間の共有結合架橋、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存性修飾(プロリン及びリジンのヒドロキシル化並びにカルボキシ末端のアミド化)、ビタミンK依存性修飾(ビタミンKは、γ-カルボキシグルタメート(グルタミン酸残基)の形成をもたらすグルタミン酸残基のカルボキシル化における補因子である)、グルタミル化(グルタミン酸残基の共有結合)、グリシル化(共有結合グリシン残基)、グリコシル化(アスパラギン、ヒドロキシリシン、セリン、又はスレオニンのいずれかにグリコシル基を付加し、糖タンパク質をもたらす)、イソプレニル化(ファルネソール及びゲラニルゲラニオールなどのイソプレノイド基の付加)、リポイル化(リポ酸官能基の付加)、ホスホパンテテイニル化(脂肪酸、ポリケチド、非リボソームペプチド、及びロイシンの生合成などにおけるコエンザイムAからの4’-ホスホパンテテイニル部分の付加)、リン酸化(通常はセリン、チロシン、スレオニン、又はヒスチジンへのリン酸基の付加)、及び硫酸化(通常はチロシン残基への硫酸基の付加)が挙げられるが、これらに限定されない。アミノ酸の化学的性質を変化させる翻訳後修飾としては、シトルリン化(脱イミノ化によるアルギニンからシトルリンへの変換)、及び脱アミド化(グルタミンからグルタミン酸への又はアスパラギンからアスパラギン酸への変換)が挙げられるが、これらに限定されない。構造変化を伴う翻訳後修飾としては、ジスルフィド架橋の形成(2つのシステインアミノ酸の共有結合)及びタンパク質切断(ペプチド結合でのタンパク質の切断)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の翻訳後修飾は、ISG化(ISG15タンパク質(インターフェロン活性化遺伝子)への共有結合)、SUMO化(SUMOタンパク質(低分子ユビキチン関連修飾因子)への共有結合)、及びユビキチン化(タンパク質へのユビキチンの共有結合)などの他のタンパク質又はペプチドの付加を伴う。UniProtによって精選されたPTMのより詳細な統制語彙については、欧州バイオインフォマティクス研究所タンパク質情報リソース、SIBスイスバイオインフォマティクス研究所、欧州バイオインフォマティクス研究所DRS-ドロソマイシン前駆体-DROSOPHILA MELANOGASTER(ショウジョウバエ)-DRS遺伝子及びタンパク質、http://www.uniprot.org/docs/ptmlist(最終訪問日:2019年1月15日)を参照されたい。
【0067】
本明細書で使用される場合、「クロマトグラフィー」という用語は、液体又は気体によって運ばれる化学的混合物が、静止した液相又は固相の周囲又はその上を流れる際の化学物質の分布の差の結果として、複数の成分に分離することができるプロセスを指す。クロマトグラフィーの非限定的な例としては、従来の逆相(RP)クロマトグラフィー、イオン交換(IEX)クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、及び順相(NP)クロマトグラフィーが挙げられる。
【0068】
サイズ排除クロマトグラフィー又はゲル濾過は、それらの分子サイズに応じた成分の分離に依存する。分離は、流体中の時間と比較した、物質が多孔質固定相中で費やす時間の量に依存する。分子が細孔内に存在する確率は、分子及び細孔のサイズに依存する。更に、物質が細孔内に貫通する能力は、高分子の拡散移動度によって決定され、この拡散移動度は、小さい高分子ほど高い。非常に大きな高分子は、固定相の細孔に全く貫通しないことがあり、非常に小さな高分子については、貫通の確率は1に近い。より大きな分子サイズの成分は、より迅速に固定相を通過するが、小さな分子サイズの成分は、固定相の細孔を通る経路長がより長く、したがって、固定相中により長く保持される。
【0069】
クロマトグラフィー材料はサイズ排除材料を含むことができ、サイズ排除材料は樹脂又は膜である。サイズ排除のために使用されるマトリックスは、好ましくは、不活性ゲル媒体であり、これは、架橋多糖類(例えば、球状ビーズの形態の架橋されたアガロース及び/又はデキストラン)の複合体であり得る。架橋度は、膨潤したゲルビーズ中に存在する細孔のサイズを決定する。特定のサイズよりも大きい分子は、ゲルビーズに入らず、したがって、最も速くクロマトグラフィーベッドを通って移動する。界面活性剤、タンパク質、DNAなどのより小さい分子は、それらのサイズ及び形状に依存して種々の程度にゲルビーズに入り、ベッドの通過が遅れる。したがって、分子は、一般に、分子サイズの大きい順に溶出される。
【0070】
ウイルスのサイズ排除クロマトグラフィーに適切な多孔性クロマトグラフィー樹脂は、様々な物理的特性を有するデキストロース、アガロース、ポリアクリルアミド、又はシリカから作製され得る。ポリマーの組み合わせも使用することができる。最も一般的に使用されているものは、商標名「SEPHADEX」でAmersham Biosciencesから入手可能である。様々な構築材料からの他のサイズ排除支持体もまた適切であり、例えば、Toyopearl 55F(ポリメタクリレート、Tosoh Bioscience社、Montgomery Pa.)及びBio-Gel P-30 Fine(BioRad Laboratories社、Hercules,Calif.)である。
【0071】
本明細書で使用される場合、「混合モードクロマトグラフィー(MMC)」又は「マルチモーダルクロマトグラフィー」という用語は、溶質が2つ以上の相互作用モード又はメカニズムを介して固定相と相互作用するクロマトグラフィー方法を含む。MMCは、従来の逆相(RP)、イオン交換(IEX)、及び順相クロマトグラフィー(NP)に代わるか又は補完するツールとして使用され得る。疎水性相互作用、親水性相互作用、及びイオン性相互作用がそれぞれ優勢な相互作用モードであるRP、NP、及びIEXクロマトグラフィーとは異なり、混合モードクロマトグラフィーは、これらの相互作用モードのうちの2つ以上の組み合わせを採用し得る。混合モードクロマトグラフィー媒体は、単一モードクロマトグラフィーによって再現することができない固有の選択性を提供し得る。混合モードクロマトグラフィーはまた、親和性ベースの方法と比較して、潜在的なコスト節約及び操作の柔軟性を提供し得る。本発明は、サイズ排除ベースの分離を実施することができる混合モードクロマトグラフィーを使用することを含み得る。
【0072】
一部の例示的な実施形態では、サイズ排除クロマトグラフィーから溶出液を取得するために使用される移動相は、揮発性塩を含み得る。一部の特定の実施形態では、移動相は、酢酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、若しくはギ酸アンモニウム、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0073】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を認識し、その正確な質量を測定することができるデバイスを含む。この用語は、ポリペプチド又はペプチドが検出及び/又は特性評価のために溶出され得る任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、3つの主要部分、すなわち、イオン源、質量分析器、及び検出器を含むことができる。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。検体の原子、分子、クラスタは気相に移行され、同時に(エレクトロスプレーイオン化のように)イオン化される。イオン源の選択は、用途に大きく依存する。
【0074】
一部の例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計であり得る。
【0075】
本明細書で使用される「ナノエレクトロスプレー」又は「ナノスプレー」という用語は、多くの場合は外部溶媒送達を使用しない、非常に低い溶媒流量、典型的には、数マイクロリットル又は数百ナノリットル/分以下の試料溶液におけるエレクトロスプレーイオン化を指す。ナノエレクトロスプレーを形成するエレクトロスプレー注入セットアップは、静的ナノエレクトロスプレーエミッタ又は動的ナノエレクトロスプレーエミッタを使用することができる。静的ナノエレクトロスプレーエミッタは、長期間にわたって少量の試料(分析物)溶液の連続分析を行う。動的ナノエレクトロスプレーエミッタは、キャピラリーカラム及び溶媒送達システムを使用して、質量分析計による分析の前に混合物に対してクロマトグラフィー分離を行う。
【0076】
本明細書で使用される場合、「質量分析器」という用語は、質量に応じて種、つまり原子、分子、又はクラスタを分離することができるデバイスを含む。高速タンパク質配列決定のために用いられ得る質量分析器の非限定的な例は、飛行時間型(TOF)、磁気電気セクタ、四重極質量フィルタ(Q)、四重極イオントラップ(QIT)、オービトラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)及び加速器質量分析法(AMS)の技術である。
【0077】
一部の例示的な実施形態では、方法に使用される移動相は、質量分析計と適合性がある。
【0078】
一部の例示的な実施形態では、試料は、約10μg~約100μgの関心対象のタンパク質を含み得る。
【0079】
一部の例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計における流量は、約10nL/分~約1000μL/分とすることができる。
【0080】
一部の例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計は、約0.8kV~約5kVのスプレー電圧を有し得る。
【0081】
一部の例示的な実施形態では、質量分析法は、ネイティブ条件下で実施することができる。
【0082】
本明細書で使用される場合、「ネイティブ条件」又は「ネイティブMS」又は「ネイティブESI-MS」という用語は、分析物中の非共有結合性相互作用を保持する条件下で質量分析法を行うことを含み得る。ネイティブMSについての詳細な総説については、総説Elisabetta Boeri Erba&Carlo Petosa,The emerging role of native mass spectrometry in characterizing the structure and dynamics of macromolecular complexes,24 PROTEIN SCIENCE1176-1192(2015)、(Hao Zhang et al.,Native mass spectrometry of photosynthetic pigment-protein complexes,587 FEBS Letters 1012-1020(2013))を参照されたい。
【0083】
一部の例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。
【0084】
本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析法」という用語は、試料分子についての構造情報が、複数段階の質量選択及び質量分離を使用することによって得られる技術を含む。必要条件は、試料分子が気相に移行され得、インタクトなままイオン化され得ること、及びこれらの分子が、第1の質量選択ステップ後に、いくらかの予測可能かつ制御可能な方式でばらばらになるように誘導され得ることである。多段階MS/MS又はMSは、有意義な情報が得られる限り又はフラグメントイオン信号が検出可能である限り、まず前駆体イオンを選択して分離し(MS)、断片化し、一次断片イオンを分離し(MS)、断片化し、二次断片イオンを分離し(MS)、などによって行うことができる。タンデムMSは、様々な分析器の組み合わせで成功裏に行われている。ある特定の用途にどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、速度だけでなく、サイズ、コスト、可用性など、多くの異なる要因によって決まる。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリーは、タンデムインスペース及びタンデムインタイムであるが、タンデムインタイム分析器がスペース内で又はタンデムインスペース分析器と連結されるハイブリッドも存在する。タンデムインスペース質量分析計は、イオン源と、前駆体イオン活性化デバイスと、少なくとも2つの非捕捉質量分析器とを備える。特定のm/z分離機能は、機器の1つのセクションにおいてイオンが選択され、中間領域において解離され、次いで、産生イオンがm/z分離及びデータ取得のために別の分析器に送られるように設計され得る。タンデムインタイム質量分析計では、イオン源で生成されたイオンを同じ物理デバイス内で捕捉、分離、断片化し、m/z分離することができる。
【0085】
質量分析計によって特定されたペプチドは、インタクトなタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代理代表として使用され得る。それらは、実験的及び理論的MS/MSデータを相関させることによって、タンパク質特性評価のために使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース内の可能なペプチドから生成される。特性評価としては、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列決定の決定、タンパク質デノヴォ配列決定の決定、翻訳後修飾の位置決定、又は翻訳後修飾若しくは比較可能性分析の特定、あるいはそれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0086】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、例えば、FASTA形式のファイルの形態で、試料中に存在する可能性があるタンパク質配列の編集されたコレクションを指す。関連するタンパク質配列は、研究される種のcDNA配列に由来し得る。関連するタンパク質配列を検索するために使用され得る公的データベースは、例えば、Uniprot又はSwiss-protによってホストされるデータベースを含んでいた。データベースは、本明細書で「バイオインフォマティクスツール」と称されるものを使用して検索することができる。バイオインフォマティクスツールは、データベース(複数可)中の全ての可能な配列に対して解釈されていないMS/MSスペクトルを検索する能力を提供し、出力として解釈された(アノテーションされた)MS/MSスペクトルを提供する。かかるツールの非限定的な例は、Mascot(www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(www.chem.agilent.com)、PLGS(www.waters.com)、PEAKS(www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(www.sagenresearch.com)、OMSSA(www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(www.proteinmetrics.com/products/byonic)又はSequest(fields.scripps.edu/sequest)である。
【0087】
一部の実施形態では、関心対象のタンパク質を含む試料は、試料に還元剤を添加することによって処理することができる。
【0088】
本明細書で使用される場合、「還元すること」という用語は、タンパク質中のジスルフィド架橋の還元を指す。タンパク質を還元するために使用される還元剤の非限定的な例は、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、エルマン試薬、ヒドロキシルアミン塩酸塩、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、又はそれらの組み合わせである。一部の特定の実施形態では、処理は、アルキル化を更に含むことができる。一部の他の特定の例示的な実施形態では、処理は、タンパク質上のスルフヒドリル基のアルキル化を含むことができる。
【0089】
本明細書で使用される場合、「処理すること」又は「同位体的標識すること」という用語は、タンパク質を化学標識することを指すことができる。タンパク質を化学標識する方法の非限定的な例としては、4-plex、6-plex、及び8-plexなどの試薬を使用した相対定量化及び絶対定量化のための同重体タグ(iTRAQ)、アミンの還元的脱メチル化、アミンのカルバミル化、タンパク質のC末端、又はアミン基若しくはスルフヒドリル基を標識するためのタンパク質の任意のアミン基若しくはスルフヒドリル基上の18O-標識が挙げられる。
【0090】
一部の実施形態では、関心対象のタンパク質を含む試料は、それをクロマトグラフィーカラムに供する前に消化され得る。
【0091】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語は、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解剤を使用して試料中のタンパク質の消化を行うための複数のアプローチ(例えば、酵素消化又は非酵素消化)が存在する。
【0092】
本明細書で使用される場合、「加水分解剤」という用語は、タンパク質の消化を行うことができる多数の異なる薬剤のうちのいずれか1つ又はそれらの組み合わせを指す。酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、トリプシン、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼAsp-N、エンドプロテイナーゼGlu-C、外膜プロテアーゼT(OmpT)、化膿連鎖球菌の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、キモトリプシン、ペプシン、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、及びアルペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)のプロテアーゼが挙げられる。非酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、高温、マイクロ波、超音波、高圧、赤外線、溶媒(非限定的な例はエタノール及びアセトニトリル)、固定化酵素消化(IMER)、磁性粒子固定化酵素、及びオンチップ固定化酵素が挙げられる。タンパク質消化のための利用可能な技術を考察する最近の総説については、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(J.Proteome Research 2013,12,1067-1077)を参照されたい。加水分解剤のうちの1つ又はそれらの組み合わせは、配列特異的な様式でタンパク質又はポリペプチドにおけるペプチド結合を切断し、より短いペプチドの予測可能なコレクションを生成することができる。
【0093】
本明細書で提供される方法ステップの数字及び/又は文字での連続した標識は、方法又はその任意の実施形態を特定の指示された順序に限定することを意味しない。
【0094】
特許、特許出願、公開された特許出願、アクセッション番号、技術論文及び学術論文を含む様々な刊行物が、本明細書全体を通して引用される。これらの引用される参考文献の各々は、参照によって、その全体及び全ての目的のために、本明細書に組み込まれる。
【0095】
本開示は、本開示をより詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照することによって、より十分に理解されるであろう。それらは、実施例を例示することを意図しており、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0096】
材料
脱イオン水を、MilliPak Express 20フィルタ(Millipore Sigma、Burlington、MA、カタログ番号MPGP02001)を備えたMilli-Q一体型浄水システムによって提供した。酢酸アンモニウム(LC/MSグレード)を、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、製品番号73594)から購入した。ペプチドN-グリコシダーゼF(PNGaseF)を、New England Biolabs Inc(Ipswich、MA、製品番号P0704L)から購入した。FabRICATOR(登録商標)を、Genovis(Cambridge、MA、製品番号A0-FR1-250)から購入した。Invitrogen UltraPure1M Tris-HClバッファ、pH7.5(参照番号15567-027)、Pierce(商標)DTT(ジチオスレイトール、No-Weigh(商標)フォーマット、参照番号A39255)、及びアセトニトリル(ACN、Optima LC/MSグレード、製品番号A955-4)を、Thermo Fisher Scientific(Waltham、MA)から購入した。ギ酸(FA、98~100%、微量金属分析のためのSuprapur)を、Millipore Sigma(Burlington、MA、製品番号1.11670.0250)から購入した。2-プロパノール(IPA、HPLCグレード)を、Sigma Aldrich(St.Louis、MO、製品番号65-0447-4L)から購入した。
【0097】
試料調製
全てのmAbを、Regeneron Pharmaceutical,Inc.のCHO細胞内で産生した。mAb3濃縮HMW試料を、セミ分取スケールSECカラムを使用してmAb3 DS試料からHMW種を分画することによって生成した。最終濃縮HMW試料は、0.7%の三量体、66.8%の二量体、及び32.5%の単量体を含有する。脱塩SEC-MS分析の前に、50mMのTris-HCl(pH7.5)中で2mMのDTTを用いて37℃で30分間、mAb1を処理して、鎖間ジスルフィド結合のみを還元することによって、限定的な還元を実施した。インタクトなレベル分析のために、濃縮HMW試料、個々のDS試料、及び共製剤化DP試料を含む全てのmAb試料を、各重鎖CH2ドメインからN-グリカン鎖を除去するために、50mMのTris-HCl(pH7.0)中でPNGase F(10μgのタンパク質当たり1IUBミリユニット)を用いて45℃で1時間処理した。サブドメイン分析のために、脱グリコシル化mAb3 HMW試料及びmAb4 DS試料のアリコートを、各々、50mMのTris-HCl(pH7.5)中でFabRICATOR(1μgのタンパク質当たり1IUBミリユニット)を用いて37℃で1時間、部位特異的消化に供し、F(ab)’及びFc断片を生成した。
【0098】
PCD支援nSEC-MS
ネイティブSECクロマトグラフィーを、カラム区画が30℃に設定されているAcquity BEH200 SECカラム(4.6×300mm、1.7μm、200Å、Waters、Milford、MA)を備えるUltiMate 3000 UHPLCシステム(Thermo Fisher Scientific、Bremen、Germany)で実施した。0.2mL/mLの150mMの酢酸アンモニウムのアイソクラティックフローを、タンパク質サイズバリアントを分離及び溶出するために適用した。ポストカラム変性を可能にするために、60%のACN、36%の水、及び4%のFAからなる変性溶液を二次ポンプによって0.2mL/分の流量で送達し、次いで、MS検出に供する前に、Tミキサを使用してSEC溶出液(1:1混合)と混合した。オンラインネイティブMS分析を可能にするために、組み合わせられた分析フロー(0.4mL/分)を、ナノエレクトロスプレーイオン化(NSI)-MS検出用のマイクロフロー(<10μL/分)と、UV検出用の残りの高流量とに分割した(図3)。Microflow-Nanospray Electrospray Ionization(MnESI)ソース及びMicrofabricated Monolithic Multi-nozzle(M3)エミッタ(Newomics、Berkley、CA)を備えるThermo Q Exactive UHMR(Thermo Fisher Scientific、Bremen、Germany)をネイティブMS分析に使用した。詳細な実験設定及び器具パラメータは、Yan Y,Xing T,Wang S,Li N.Versatile,sensitive,and robust native LC-MS platform for intact mass analysis of protein drugs.J Am Soc Mass Spectrom 2020:31(10):2171-2179に説明されており、これは、参照によりその全体が組み込まれる。PCDを無効化するために、変性溶液の流量をゼロに設定した。部分的に還元されたmAb1の脱塩SEC-MS分析を、Acquity BEH200 SECガードカラム(4.6×30mm、1.7μm、200Å)を使用して同様の様式で実施した。
【0099】
データ分析
ネイティブ又はPCD条件下におけるnSEC-MS分析からのインタクトな質量スペクトルを、Protein MetricsからのIntact Mass(商標)ソフトウェアを使用してデコンボリュートした。
【0100】
実施例1
PCD支援nSEC-MS法
mAb HMW種のnSEC-MSベースの特性評価を改善するために、MS検出前のSEC分離後に非共有結合性HMW複合体を解離するように、ポストカラム変性(PCD)戦略が導入される。この戦略は、構成サブユニットを確認することによって非共有結合性HMW複合体の改良された割り当てを可能にするのみならず、共溶出性の非共有結合性種からの干渉を低減することによって非解離性HMW種のより正確な質量測定を提供するので、非常に望ましい。
【0101】
高流量(最大0.8mL/分)に対応し得る上記に説明されたnLC-MSプラットフォーム(Yan et al.(2020)、上記)を利用して、PCDとnSEC-MSとの統合は、Tミキサを介してnSECフロー(0.2mL/分)にポストカラム変性フロー(0.2mL/分)を導入すること(図3)によって容易に達成され得る。
【0102】
変性溶媒を、2つの主要な考慮事項に基づいて慎重に選択した。第一に、ポストカラム混合後の最終フローは、依然として、直接MS検出と高度に適合するべきである。第二に、短い変性時間のため(例えば、TミキサからMSまで1秒未満)、所望の変性溶媒は、ポストカラム混合直後に非共有結合性相互作用の大部分を破壊することができるべきである。
【0103】
様々なレベルのアセトニトリル(ACN)とギ酸(FA)とを含有する一連の変性溶媒系を評価した後、60%のACN、4%のFA、及び36%の水からなる最適化された配合物をPCD適用のために選択した。選択された変性溶媒の有効性を評価するために、mAb1(IgG4サブクラス)を部分的に還元し(鎖間ジスルフィド結合を破壊し)、短いSECガードカラム(図4A)を使用してPCD支援nSEC-MS分析に供した。2つのCH3ドメイン間、並びにIgG4分子中の重鎖及び軽鎖のN末端領域(HC及びLC)間の強い鎖間非共有結合性相互作用のため(Rose RJ,Labrijn AF,van den Bremer ET,Loverix S,Lasters I,van Berkel PH,van de Winkel JG,Schuurman J,Parren PW,Heck AJ.Quantitative analysis of the interaction strength and dynamics of human igg4 half molecules by native mass spectrometry.Structure 2011:19(9):1274-1282)、部分的に還元されたmAb1は、主にnSEC-MS条件下でインタクトなH2L2複合体として検出された。低レベルのHL、H2L、及びLC種のみが観察され、これらは、インソース解離を介して生成された可能性が高かった(図4A、黒色トレース)。対照的に、PCD条件(60%のACN/4%のFA)を適用した後、これらの非共有結合性複合体(例えば、H2L2、H2L、及びHL)を完全に解離し、遊離HC及びLCとして検出した(図4A、赤色トレース)。60%のACNのみを含有する代替の変性溶媒もまた試験し、部分的に還元されたmAb複合体の解離において、同等の有効性を示した(図2A、オレンジ色トレース)。
【0104】
別の例では、nSEC-MS分析によって検出されたmAb2二量体種(図4B、黒色トレース)は、PCD(60%のACN/4%のFA)の適用時に単量体へのほぼ完全な解離を示し(図4B、赤色トレース)、全てではないにしても、二量体種の大部分が非共有結合であったことを示唆した。加えて、折り畳まれていない種に対応する、低レベルの高帯電単量体信号もまた、低m/z領域で観察された。第1の実施例とは異なり、60%のACN単独を含有する代替の変性溶媒の適用は、mAb2二量体種の完全な解離につながらず(図4B、オレンジ色トレース)、低pH及び有機溶媒の組み合わせが、非共有結合性相互作用を破壊することにおいてより効果的であることを示唆している。その後、開発されたPCD条件は、迅速かつ効果的な解離が常に達成され得る他の非共有結合系(例えば、抗体-抗原複合体及びウイルスカプシド)にも適用された(データは示さず)。したがって、開発されたPCD条件は、mAb HMW複合体に存在する非共有相互作用の大部分を破壊するのに有効であると考えられるが、いくつかの密接に結合した非共有結合性複合体が処理に耐え得ることは依然として可能である。最後に、報告されたnLC-MSプラットフォーム(Yan et al.(2013)、上記)を適用すると、mAb関連種が、全て、選択されたPCD条件(60%のACN/4%のFA)下で「ネイティブ様」質量スペクトルを呈したことに留意することが重要である。この特徴は、同じ複合体から同時に解離され、かつ同じMSスキャンで検出される複数の種からのスペクトルの重複を低減するので、非常に望ましい。例えば、PCD条件下で、解離したHC及びLCのMS信号は、最小限の重複を伴うm/zスケールで十分に単離された(図4A)。加えて、変性条件下における典型的なESI-MSスペクトルと比較して、「ネイティブ様」スペクトルは、はるかに少ない荷電状態及びより大きい空間分解能を呈し、それらを解釈及び処理され易くする(例えば、抽出イオンクロマトグラムの生成)。
【0105】
実施例2
濃縮HMW種のPCD支援nSEC-MS分析
mAb HMW種の拡張された特性評価は、多くの場合、DS不均一性特性評価の一部として、プログラム開発の後期段階で必要とされる。制限酵素消化(例えば、IdeS消化)、続いて、インタクトな質量分析が、サブドメインレベルにおける相互作用界面を理解するために、濃縮HMW材料に対して頻繁に実施される。この目的のために、二量体種を主に含有するmAb3濃縮HMW試料を、PCD支援nSEC-MS分析に供する前に、IdeS消化を用いて処理した。IdeSがF(ab)’及びFc断片を放出するヒンジ領域の下でmAb分子を切断するとき、この戦略は、サブドメインレベルにおける二量体相互作用の効果的な特性評価を可能にする。消化されたHMW試料(図5、中央)のSEC-UV分析は、濃縮HMW試料中に存在する様々なサブドメイン相互作用の結果として、F(ab)’及びFc単量体に対応する2つの主要なピーク、並びにHMW関連種に対応する可能性が高い4つの他のピーク(P1~P4)を含む、複数の分解されたUVピークを呈した。続いて、nSEC-MS分析からの正確な質量測定を使用して、各ピークの同一性を割り当てた(図5図6)。ネイティブ複合体のインタクトな質量測定は、凝集状態及び相互作用するパートナー(例えば、P1におけるF(ab)’三量体、P2におけるF(ab)’二量体、P3におけるF(ab)’-Fcヘテロ二量体、及びP4におけるFc二量体)を容易に区別することができるが、各種の詳細な解明は、インタクトな質量ベースの割り当てからの相当量の曖昧さに起因して、依然として困難であった。
【0106】
例えば、P4bにおけるFc二量体は、非共有結合性二量体(95,018Da)の予測された質量と一致する観察された質量(95,023Da)を呈したが、一方で、P4aにおけるFc二量体は、予測された質量と比較しておよそ14Daの質量増加を呈した(図5)。この質量増加は、おそらくは、非共有結合性複合体内の酸化修飾(+16Da)、又は共有結合性複合体を維持する共有結合性架橋(例えば、2つのヒスチジン残基間の14Da)のいずれかの存在に起因し得る。残念ながら、インタクトな複雑なレベルで達成された質量分解能及び正確度は、明確な割り当てにつながることができず、2つの非常に異なるシナリオを区別することができない。同様に、P3におけるF(ab)′-Fcヘテロ二量体の確実な解明はまた、非共有結合性及び共有結合性の二量体種の両方の可能性のある共存、並びにIdeS消化からの不完全な反応生成物によって複雑化し、これらの全ては、互いの間でわずかな質量差のみを呈することになった。最後に、3つの部分的に分解されたピーク、P2a、P2b、及びP2cが、全て、同様の観察された質量(196,864~196,867Da)を有するF(ab)’二量体種を含有していたことがnSEC-MS分析により容易に確認されたが、HMW試料中に存在する見かけ上の不均一なF(ab)’-F(ab)’相互作用を特性評価するための他の意味のある情報を、この分析から取得することはできなかった。
【0107】
曖昧さを低減し、特性評価を改善するために、PCDは、相互作用性質に基づいて第2の次元の分離を提供するために、SEC後の分離を実行した。例えば、PCD条件下では、P4a及びP4bのFc二量体種について、独特な解離挙動が観察された。P4bにおけるFc二量体は、ネイティブ複合体の観察された質量に基づいて非共有結合性種として既に暫定的に割り当てられていたが、PCD条件下でFc/2サブユニットへの完全な解離を受けた。この結果は、P4bにおけるFc二量体の非共有結合性質を確認した。対照的に、P4aにおけるPCDの適用は、Fc/2サブユニット(例えば、非共有結合性Fc複合体から解離した)及び非解離性Fc/2二量体種の両方の形成につながった。ネイティブ条件下で検出されるP4aにおけるFc二量体のより大きい質量と一貫して、非解離性Fc/2二量体はまた、非共有結合性Fc/2二量体と比較しておよそ14Daの質量増加も示した。このデルタ質量は、2つのヒスチジン(His)残基間で起こる、既に報告されている共有結合性架橋に対応すると提案された(架橋剤質量:13.98Da)(Xu CF,Chen Y,Yi L,Brantley T,Stanley B,Sosic Z,Zang L.Discovery and characterization of histidine oxidation initiated cross-links in an igg1 monoclonal antibody.Anal Chem 2017:89(15):7915-7923、Powell T,Knight MJ,Wood A,O’Hara J,Burkitt W.Photoinduced cross-linking of formulation buffer amino acids to monoclonal antibodies.Eur J Pharm Biopharm 2021:160(35-41))。その後のペプチドマッピング分析はまた、P4aにおけるFc二量体に寄与した可能性が高い、Fc領域からのいくつかのHis-His架橋ジペプチドも特定した(データは示さず)。P3bにおけるF(ab)’-Fc二量体についても同じ共有結合性架橋が観察され、これは、非共有結合性F(ab)’-Fc二量体と比較して質量が約14Da高いことが測定された。PCDの適用は、この種を、His-His架橋に起因して、およそ14Daの質量増加も呈したFc/2サブユニット及び非解離性F(ab)′-Fc/2複合体に解離することによって、この割り当てを更に確認した。
【0108】
対照的に、P3aにおける種は、非共有結合性F(ab)’-Fc二量体よりもおよそ18Da低い観察された質量を示し、PCD条件下でFc/2及び相補的なFc/2クリップmAb種に容易に解離した。したがって、P3aにおける種を、1つの重鎖のみが切断された不完全なIdeS消化生成物として割り当てた。最後に、インタクトな複合体レベルで同様の観察された質量にもかかわらず、P2bにおけるF(ab)’二量体は、PCD条件下でP2a及びP2cにおけるものとは異なる解離挙動を呈した(図5)。具体的には、PCDを適用すると、P2a及びP2cにおける二量体種は、ほぼ完全な解離を受け、F(ab)’単量体のみの検出につながった。この観察は、立体構造の差に起因する可能性が高いSECによって分離された、P2a及びP2cの両方におけるF(ab)’二量体の非共有結合性質を示した。対照的に、P2bは、PCD条件下で非解離性のままのF(ab)’二量体の有意な量を示し、「共有結合様」F(ab)’二量体の存在を示唆した。加えて、共溶出性の非共有結合性F(ab)′二量体が解離したため、P2bにおける非解離性二量体のより正確な質量測定が達成され得る。実際、この分析は、P2bにおける非解離性二量体が、非共有結合性二量体よりも低い質量(196,856Da)を呈したことを明らかにし(理論質量:196,865Da)、負のデルタ質量を有する共有結合性架橋の存在の可能性を示唆する。この共有結合性架橋の特定は、依然として進行中であり、本明細書の範囲外であるが、PCD支援nSEC-MS分析からの情報は、調査を導くために価値がある。
【0109】
実施例3
未分画DS試料中のHMW種のPCD支援nSEC-MS分析
未分画mAb DS試料からのHMW種の直接分析は、それほど資源を必要とせず、試料の取り扱いに起因するHMWプロファイルの潜在的な変化(例えば、人工HMWの形成又は不安定なHMW種の解離)を排除するので、非常に望ましい。未分画試料からの複雑なHMW種の解明におけるPCD支援nSEC-MS法の適用性を実証するために、SEC分離中に複雑なHMWプロファイル(4つの部分的に分解されたHMWピーク)を呈した二重特異性抗体(bsAb)DS試料を分析に供した(図7)。2つの同一の軽鎖(LC)及び2つの異なる重鎖(HC及びHC)からなるbsAb(HHL2)DS試料は、多くの場合、HMW種の増加した複雑さに更に寄与し得る低レベルの単一特異性mAb不純物(H2L2及びH2L2)を含有する。例えば、nSEC-MS分析は、bsAbホモ二量体(HHL2×2)と、bsAb及び単一特異性H2L2種(図8に示されるデコンボリュートされた質量)からなるヘテロ二量体(HHL2+H2L2)と、を含む、HMW1及びHMW2の両方のピークにおける2つの異なる二量体の存在を示した。ヘテロ二量体種の相対存在量は、HMW2ピークと比較して、HMW1ピークでわずかに高い。PCDの適用は、bsAb及びH2L2単量体の両方が二量体種から解離し、かつHMW1及びHMW2ピークで検出された、これらの割り当てを更に支持した。興味深いことに、PCDの適用は、結果的に、HMW1及びHMW2ピークの両方におけるヘテロ二量体の完全な解離をもたらし、これらの種の非共有結合性質を示す。対照的に、HMW2ピークにおけるbsAbホモ二量体は、部分解離を受けたが、一方で、PCD条件下で、顕著な量がインタクトなままであり、非解離性bsAbホモ二量体の存在を示唆している。単量体種は、PCD条件下における非共有結合性二量体の解離からのみ生成され得るため、単量体信号(例えば、bsAb単量体及びH2L2単量体)を使用して構築された抽出イオンクロマトグラム(XIC)は、非共有結合性二量体の溶出プロファイルを表すことができる。
【0110】
一方、PCD条件下でbsAbホモ二量体信号を使用して構築されたXICは、非解離性bsAbホモ二量体の溶出プロファイルを表すことができる。この戦略を適用すると、非共有結合性ホモ二量体及び非共有結合性ヘテロ二量体の両方がHMW1及びHMW2ピークで溶出するが、一方で、非解離性bsAbホモ二量体がHMW2ピークと整列したピーク頂点を有する広範かつ独特な領域で溶出したことが明らかであった(図7、左パネル)。同様に、正確な質量測定に基づいて、nSEC-MS分析は、HMW3ピークを、bsAb単量体及び2つの余分なLCからなる複合体として暫定的に特定した。その後、PCDの適用は、提案された組成物を確認しただけでなく、2つの余分なLCが非解離性二量体として(例えば、おそらく鎖間ジスルフィド結合を介して)存在し、次いで、非共有結合性相互作用を介してbsAb分子と会合していることを明らかにした。解離したLC二量体及びbsAb単量体のXICもまた、HMW3ピークとのそれらの共溶出を確認し、この割り当てを更に支持した。最後に、正確な質量測定に基づいて、HMW4ピークにおける種は、CH2ドメインにおけるクリッピングに起因して、bsAb単量体及びFab断片からなる複合体であることが提案された。この種は、PCD条件下でインタクトなままであったため、本発明者らは、それが非解離性bsAbホモ二量体種の切断に起因する分解生成物であったと考える。
【0111】
未分画DS試料から直接HMW種を解明する能力により、PCD支援nSEC-MS法は、意思決定を容易にするために迅速なターンアラウンドが望まれるプロセス開発の支持において理想的に好適なものとなる。この分野における有用性を試験するために、方法を、次いで、プロセス変更の前後のmAbプログラムのHMWプロファイルの比較可能性を評価するために適用した。SEC-UVトレースで実証されるように、プロセス変更の前及び後のmAb4 DSロットのHMWプロファイルは、概して、ピーク形状のわずかな差異に相当するものであった(図9A、黒色トレース)。nSEC-MS分析からの正確な質量測定によると、ロット1及びロット2の両方で優勢なHMWピークがmAb4二量体種として容易に特定された(図9A、黒色トレース)。
【0112】
PCDの適用は、次いで、両方のDSロットにおける非共有結合性二量体(図9A、PCD条件下でmAb4単量体信号のXICによって表されるマゼンタ色トレース)及び非解離性二量体(図9A、PCD条件下で非解離性mAb4二量体信号のXICによって表される青色トレース)の両方の存在を明らかにした。HMW種がUVピーク及び観察された質量に基づいて一般的に比較可能であると考えられたが、非共有結合性二量体及び非解離性二量体の分布が2つのロット間で大きく異なることは、明らかである。具体的には、ロット2は、有意により高いレベルの非共有結合性二量体種を含有したが、一方で、ロット1は、顕著により高いレベルの非解離性二量体種を含有した。更に、総HMW種内の非共有結合性二量体の相対存在量はまた、以下の方程式:
を使用して、PCD支援nSEC-UV/MS分析から生成されたUVピーク面積及びXICに基づいて推定され得る。
【0113】
式中、XIC二量体及びXIC単量体は、それぞれ、二量体溶出及び単量体溶出領域に現れる単量体信号の積分されたXICピーク面積を表し、UV二量体及びUV単量体は、それぞれ、二量体及び単量体ピークの積分されたUVピーク面積を表す。この計算では、非共有結合性二量体は、二量体溶出領域内のPCD誘発単量体信号を使用して定量化され、実際の単量体信号に対して正規化される。単量体信号のみが使用されたため、異なる種(例えば、二量体対単量体)のMS応答の不一致が緩和され得、より信頼性の高い定量化につながる。
【0114】
この戦略を使用して、総HMW種内の非共有結合性二量体の相対存在量は、ロット1及びロット2のDS試料において、それぞれ、約11%及び約86%で推定された。加えて、ロット1及びロット2の試料中の非解離性二量体はまた、異なる溶出プロファイルを呈し、ロット2は、より高いレベルの早期溶出性種を示した(図9A、青色トレース)。一貫して、サブドメインレベルにおける二量体相互作用の更なる分析(例えば、IdeS消化後の)(図9B)はまた、非共有結合性F(ab)’二量体(図9B、解離したF(ab)’単量体のXICによって表されるマゼンタ色トレース)及び非共有結合性Fc二量体(図9B、解離したFc/2単量体のXICによって表される茶色トレース)を含む、ロット2のDS試料中のより高いレベルの非共有結合性複合体を明らかにした。非解離性F(ab)’二量体(図9B、非解離性F(ab)’二量体のXICによって表される青色トレース)及び非解離性F(ab)’-Fcヘテロ二量体(図9B、非解離性F(ab)’-Fc二量体のXICによって表されるオレンジ色トレース)を含む非解離性複合体もまた、両方のロットで検出された。具体的には、非解離性F(ab)’二量体は、インタクトなレベル(図9A、青色トレース)で観察されたのと同様の溶出プロファイル(図9B、青色トレース)を示し、両方のロットで2つの部分的に分離されたピークを示した。一貫して、ロット1と比較して、ロット2は、はるかに高いレベルの早期溶出性の非解離性F(ab)’二量体種(図9A及び図5B、青色トレース)を示した。続いて、PCD条件下で非共有結合性複合体から干渉を除去することによって非解離性複合体の正確な質量測定を達成し、次いで、相互作用の性質を調査するために使用した。
【0115】
非共有結合性F(ab)’二量体の予測される質量と比較して、遅発溶出性の非解離性F(ab)’二量体が一貫しておよそ20Daの質量減少を呈し、負のデルタ質量を有する共有結合性架橋の潜在的な存在を示唆していることが観察される。対照的に、早期溶出性の非解離性F(ab)’二量体の観察された質量は、非共有結合性二量体の質量と同等であり、それらが小さい共有結合性架橋を介して、又はPCD条件下で維持された強い非共有結合性相互作用を通じて形成されたことを示唆している。最後に、ロット1及びロット2の両方の非解離性F(ab)’-Fcヘテロ二量体は、1)His-His架橋を介して形成された可能性が高い[F(ab)’-Fc]+14Da共有結合性二量体、2)未知の架橋を有する[F(ab)’-Fc]-30Da共有結合性二量体、及び3)不完全なIdeS消化(Fc/2-クリップmAb)に起因する[F(ab)’-Fc]-18Da複合体を含む3つの異なる種に起因する、広範な溶出プロファイル(図9b、オレンジ色トレース)を呈した(図10)。合わせると、プロセス変更の結果としての2つのDSロット間のHMWプロファイルの差異は、非常に詳細に調べることができ、サブドメインレベルの相互作用の差異に起因し得る。これらの相互作用(特に正確な共有結合性架橋)の完全な理解は、オフライン分画及び更なる特性評価を依然として必要とし得るが、未分画のDS試料の迅速な分析は、プロセス変更からの影響を評価し、リスク評価のためのフレームワークを構築するために必要な情報を提供した。
【0116】
実施例4
共製剤化mAb試料中のヘテロ分子間相互作用のPCD支援nSEC-MS分析
貯蔵又は安定性条件下における共製剤化mAb薬物生成物(DP)試料(例えば、2つ以上の治療用mAbを含有する)中に形成されたHMW種の特性評価は、開発の過程にわたって重要である(Guidance for industry:Codevelopment of two or more new investigational drugs for use in combination.Center for drug evaluation and research.Rockville(MD):US Food and Drug Administration 2013)。しかしながら、そのような分析は、ホモ及びヘテロ分子間相互作用の両方を伴うこれらの試料に頻繁に存在する非常に複雑なHMWプロファイルに起因する固有の分析上の課題を提示する(Kim J,Kim YJ,Cao M,De Mel N,Albarghouthi M,Miller K,Bee JS,Wang J,Wang X.Analytical characterization of coformulated antibodies as combination therapy.MAbs 2020:12(1):1738691)。
【0117】
これらの課題に取り組むために、PCD支援nSEC-MS法の有用性もまた、共製剤化mAbプログラムの開発を支持するための調査において評価された。一例として、2つのmAb(mAb-A及びmAb-B)からなる共製剤化DP試料を、加速安定条件下で試験した。3つの主要なHMW種、すなわち、mAb-Aホモ二量体、mAb-Bホモ二量体、及びmAb-A/Bヘテロ二量体は、それらの異なる分子量に基づいたnSEC-MS分析によって、T0(ストレスなし、総HMW%=0.7%)及びT6m(6か月間25℃、総HMW%=1.5%)の試料の両方において容易に特定された(図11図12)。デコンボリュートされた質量スペクトルからの積分されたピーク面積を使用して、3つの二量体の相対存在量が推定され得る。興味深いことに、2つのホモ二量体に加えて、低いが顕著なレベルのmAb-A/Bヘテロ二量体がT0試料中で容易に検出され(図11A)、これは、2つのmAbが混合されたときにヘテロ分子間相互作用が自発的に開始された可能性が高かったことを示唆する。25℃で6か月間保管された後、mAb-A/Bヘテロ二量体の相対存在量は、有意に増加したが(11%から30%)、mAb-Aホモ二量体及びmAb-Bホモ二量体の存在量は、それぞれ、変化しないままか、又は減少した。
【0118】
この観察は、加速安定条件下で、mAb-A/Bヘテロ二量体がホモ二量体よりも速い速度で成長することを示唆した。加えて、PCDの適用によると、非解離性二量体種について同じ計算及び比較が行われ得(図11、赤色トレース)、相互作用性質の高レベルの評価を提供する。例えば、PCD条件下では、T0及びT6m試料の両方において、mAb-Bホモ二量体について相対存在量の顕著な減少が観察され、非共有結合性相互作用が、他の2つの種(例えば、mAb-Aホモ二量体及びmAb-A/Bヘテロ二量体)よりも、mAb-Bホモ二量体の形成により有意に寄与したことを示唆している。加えて、非解離性mAb-A/Bヘテロ二量体は、より速い成長速度(20%~40%)を呈し、6か月後に最も豊富な非解離性二量体種となったことが観察された。この迅速な分析は、mAb-AとmAb-Bとの間のヘテロ-分子間相互作用が、加速安定条件下で、おそらく共有結合性架橋又は密接であるが非共有結合性の相互作用を介して有利であったことを示した。この情報は、ヘテロ二量体化に関与する正確な相互作用を解明するための将来の研究を導くために価値があり、したがって、このタイプの相互作用を最小限に抑えるための製剤開発を容易にした。
【0119】
HMWサイズバリアントの包括的な特性評価は、治療用mAbの開発中に非常に重要である。本発明のPCD支援nSEC-MS法の開発は、改善されたMS特性評価のための非共有結合性HMW複合体の効率的な解離を可能にする。具体的には、PCDの適用は、差分検出を可能にするのみならず、非共有結合性及び非解離性のHMW種の両方の特定を改善する。構成サブユニットを確認することによって、大きくかつ予想されない非共有結合性HMW複合体の特定は、より高い信頼性で達成され得る。共溶出性の非共有結合性種から干渉を除去することによって、非解離性HMW複合体のより正確な質量測定を得ることができ、したがって、潜在的な架橋の特定を容易にする。
【0120】
更に、この方法を使用して、各HMW複合体の溶出プロファイルは、インタクトなアンサンブル(非解離性種の場合)又は構成サブユニット(非共有結合性種の場合)のいずれかのXICを使用して容易に再構築され得、これは、特定に更なる信頼性を追加する。優れた感度及び特異性に起因して、この方法は、未分画のDS試料から直接的に複雑なHMW種を解明するのに非常に効果的であり、迅速なターンアラウンドを必要とするタスクにとって理想的に好適にする。更に、この方法の有用性は、後期開発における詳細なHMW特性評価、比較可能性評価、及び強制分解試験を含む、異なる用途で実証された。最後に、mAb治療フォーマット(例えば、bsAb及び共製剤)の複雑さが増すにつれて、この方法は、HMW特性評価と関連付けられた増大する課題に対処するための本発明者らの分析的蓄積に対する貴重な追加物である。
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【国際調査報告】