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特表2024-536786ハロゲン化亜鉛二次電池用の非ハロゲン化亜鉛添加剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ハロゲン化亜鉛二次電池用の非ハロゲン化亜鉛添加剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
H01M12/08 H
H01M12/08 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517045
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 US2022045907
(87)【国際公開番号】W WO2023059805
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/252,936
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】524101043
【氏名又は名称】イオス エナジー テクノロジー ホールディングス,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】スミス,レベッカ
(72)【発明者】
【氏名】リッチー,フランシス,ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】フックスホーフェン,ルーカス
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032AA03
5H032AS03
5H032AS07
5H032CC14
5H032CC16
5H032HH01
(57)【要約】
式ZnYのハロゲン化亜鉛、又は式ZnYのハロゲン化亜鉛の任意の組み合わせ(式中、Yは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、又はそれらの任意の組み合わせから選択されるハロゲンである)を約20重量%~約70重量%;HOを約10重量%~約79重量%;1種以上の亜鉛添加剤を約0.5重量%~約20重量%含む、ハロゲン化亜鉛二次電気化学セルで使用するための電解液が提供される。1種以上の亜鉛添加剤は第1の亜鉛添加剤を含み、第1の亜鉛添加剤はハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも大きいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む。また、少なくとも1つのバイポーラ電極とハロゲン化亜鉛電解液とを含む少なくとも1つの電気化学セルを含むハロゲン化亜鉛二次電池も提供される。亜鉛金属リザーバを含むハロゲン化亜鉛二次電池も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化亜鉛二次電気化学セルで使用するための電解液であって、
約20重量%~約70重量%の式ZnYのハロゲン化亜鉛、又は式ZnYのハロゲン化亜鉛の任意の組み合わせ(式中、Yは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、又はそれらの任意の組み合わせから選択されるハロゲンである)と、
約10重量%~約79重量%のHOと、
約0.5重量%~約20重量%の1種以上の亜鉛添加剤と
を含み、
前記1種以上の亜鉛添加剤が第1の亜鉛添加剤を含み、前記第1の亜鉛添加剤がハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも大きいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む、電解液。
【請求項2】
約0.5重量%~約15重量%のKBrと、
約0.5重量%~約15重量%のKClと
をさらに含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
約0.05重量%~約20重量%の1種以上の第四級アンモニウム試薬をさらに含み、各第四級アンモニウム試薬が、式N(R)(R)(R)(R)Xを有する第四級アンモニウム試薬から独立して選択され、式中、Rは水素又はアルキル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立して、Rと同じであるか又は異なるアルキル基であり、Xは塩化物イオン又は臭化物イオンである、
請求項2に記載の電解液。
【請求項4】
約0.5重量%~約3重量%の前記第1の亜鉛添加剤を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項5】
前記電解液中の全亜鉛イオン対ハロゲン化物イオンのモル比が約1:2~約1:3である、請求項4に記載の電解液。
【請求項6】
約0.5重量%~約20重量%の前記第1の亜鉛添加剤を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項7】
前記電解液中の全亜鉛イオン対ハロゲン化物イオンのモル比が約1:1~約1:2.5である、請求項6に記載の電解液。
【請求項8】
前記1種以上の亜鉛添加剤が第2の亜鉛添加剤をさらに含み、前記第2の亜鉛添加剤がハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも小さいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む、請求項6に記載の電解液。
【請求項9】
約0.5重量%~約15重量%の前記第2の亜鉛添加剤を含む、請求項8に記載の電解液。
【請求項10】
前記第1の亜鉛添加剤が、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、パーフルオロブタンスルホン酸亜鉛、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド亜鉛、メタンスルホン酸亜鉛、p-トルエンスルホン酸亜鉛、ヘキサフルオロリン酸亜鉛、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸亜鉛、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項1に記載の電解液。
【請求項11】
約25重量%~約45重量%の、前記式ZnYのハロゲン化亜鉛、又は式ZnYのハロゲン化亜鉛の任意の組み合わせと、
約25重量%~約50重量%のHOと、
約1重量%~約20重量%の前記1種以上の亜鉛添加剤と、
約0.5重量%~約15重量%のKBrと、
約0.5重量%~約15重量%のKClと、
約0.05重量%~約20重量%の前記1種以上の第四級アンモニウム試薬と
を含む、請求項3に記載の電解液。
【請求項12】
前記1種以上の第四級アンモニウム試薬が、約0.05重量%~約20重量%の濃度の第1の第四級アンモニウム試薬を含み、前記第1の第四級アンモニウム試薬が、塩化テトラ-C1~6アルキルアンモニウム又は臭化テトラ-C1~6アルキルアンモニウムから選択される、請求項3に記載の電解液。
【請求項13】
前記第1の第四級アンモニウム試薬が、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、又は臭化テトラブチルアンモニウムである、請求項12に記載の電解液。
【請求項14】
前記1種以上の第四級アンモニウム試薬が第2の第四級アンモニウム試薬をさらに含み、前記第2の第四級アンモニウム試薬が、式N(R)(R)(R)(R)Xを有し、式中、Rは水素又はアルキル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立して、Rと同じであるか異なるアルキル基であり、Xは塩化物イオン又は臭化物イオンであり;
前記第2の第四級アンモニウム試薬の濃度が約0.05重量%~約20重量%である、
請求項13に記載の電解液。
【請求項15】
前記第2の第四級アンモニウム試薬が、トリメチルエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、トリエチルプロピルアンモニウム、トリエチルブチルアンモニウム、トリプロピルメチルアンモニウム、トリプロピルエチルアンモニウム、又はトリプロピルブチルアンモニウムの塩化物又は臭化物である、請求項14に記載の電解液。
【請求項16】
約0.2重量%~約2.5重量%のDME-PEGをさらに含む、請求項3に記載の電解液。
【請求項17】
約1000amuの数平均分子量を有するDME-PEG、約2000amuの数平均分子量を有するDME-PEG、又はそれらの組み合わせを含む、請求項16に記載の電解液。
【請求項18】
約0.25重量%~約5重量%のグリコールをさらに含み、前記グリコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサレングリコール、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項3に記載の電解液。
【請求項19】
約0.5重量%~約10重量%のグリムをさらに含み、前記グリムが、モノグリム、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ペンタグリム、ヘキサグリム、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項3に記載の電解液。
【請求項20】
Sn、In、Ga、Al、Tl、Bi、Pb、Sb、Ag、Mn、Fe、又はそれらの任意の組み合わせから選択される1種以上の添加剤を1重量%未満、さらに含む、請求項3に記載の電解液。
【請求項21】
酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、又はそれらの任意の組み合わせを0.1重量%~2重量%、さらに含む、請求項3に記載の電解液。
【請求項22】
前記ハロゲン化亜鉛電気化学セルがハロゲン化亜鉛静的電気化学セルである、請求項1に記載の電解液。
【請求項23】
前記ハロゲン化亜鉛電気化学セルがハロゲン化亜鉛フロー電気化学セルである、請求項1に記載の電解液。
【請求項24】
前記ハロゲン化亜鉛二次電気化学セルの前記電解液中でのハロゲン化亜鉛の利用率が、前記1種以上の亜鉛添加剤を含まないハロゲン化亜鉛二次電気化学セル中の同等の電解液と比較して約5%~約40%増加する、請求項1に記載の電解液。
【請求項25】
少なくとも1つのバイポーラ電極とハロゲン化亜鉛電解液とを含む少なくとも1つの電気化学セルを含む、ハロゲン化亜鉛二次電池であって、
前記バイポーラ電極が、バイポーラ電極板を含み、前記バイポーラ電極板の一方の側にアノード面を有し、前記バイポーラ電極板の前記アノード面の反対の他方の側にカソード面を有し、
前記ハロゲン化亜鉛電解液が前記バイポーラ電極板と接触しており、
前記ハロゲン化亜鉛電解液が、
約20重量%~約50重量%の、式ZnYのハロゲン化亜鉛、又は式ZnYのハロゲン化亜鉛の任意の組み合わせ(式中、Yは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、又はそれらの任意の組み合わせから選択されるハロゲンである)と、
約30重量%~約79重量%のHOと、
約0.5重量%~約20重量%の1種以上の亜鉛添加剤と
を含み、前記1種以上の亜鉛添加剤が第1の亜鉛添加剤を含み、前記第1の亜鉛添加剤がハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも大きいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む、ハロゲン化亜鉛二次電池。
【請求項26】
前記電解液が、
約0.5重量%~約15重量%のKBrと、
約0.5重量%~約15重量%のKClと
をさらに含む、請求項25に記載のハロゲン化亜鉛二次電池。
【請求項27】
前記電解液が、約0.05重量%~約20重量%の1種以上の第四級アンモニウム試薬をさらに含み、各第四級アンモニウム試薬が、式N(R)(R)(R)(R)Xを有する第四級アンモニウム試薬から独立して選択され、式中、Rは水素又はアルキル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立して、Rと同じであるか異なるアルキル基であり、Xは塩化物イオン又は臭化物イオンである、
請求項26に記載のハロゲン化亜鉛二次電池。
【請求項28】
前記電解液が、DME-PEGを約0.2重量%~約2.5重量%、さらに含む、請求項25に記載のハロゲン化亜鉛二次電池。
【請求項29】
前記第1の亜鉛添加剤が、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、パーフルオロブタンスルホン酸亜鉛、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド亜鉛、メタンスルホン酸亜鉛、p-トルエンスルホン酸亜鉛、ヘキサフルオロリン酸亜鉛、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸亜鉛、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項25に記載のハロゲン化亜鉛二次電池。
【請求項30】
前記1種以上の亜鉛添加剤が第2の亜鉛添加剤をさらに含み、前記第2の亜鉛添加剤がハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも小さいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む、請求項25に記載のハロゲン化亜鉛二次電池。
【請求項31】
前記電解液が前記第2の亜鉛添加剤を約0.5重量%~約15重量%含む、請求項25に記載のハロゲン化亜鉛二次電池。
【請求項32】
前記ハロゲン化亜鉛二次電池がハロゲン化亜鉛静的二次電池である、請求項25に記載のハロゲン化亜鉛二次電池。
【請求項33】
前記ハロゲン化亜鉛二次電池がハロゲン化亜鉛フロー二次電池である、請求項25に記載のハロゲン化亜鉛二次電池。
【請求項34】
前記ハロゲン化亜鉛二次電池の前記少なくとも1つの電気化学セルのそれぞれの前記電解液中でのハロゲン化亜鉛の利用率が、前記1種以上の亜鉛添加剤を含まないハロゲン化亜鉛二次電池の電気化学セルの同等の電解液と比較して約5%~約40%増加する、請求項25に記載のハロゲン化亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] 本出願は、2021年10月6日に出願された米国仮特許出願第63/252,936号の利益を主張し、この開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
[0002] 本明細書では、ハロゲン化亜鉛二次電池用の亜鉛添加剤について説明される。
【背景技術】
【0003】
背景
[0003] ハロゲン化亜鉛電池は、電気エネルギーを貯蔵するためのデバイスとして開発された。従来のハロゲン化亜鉛電池(例えば臭化亜鉛電池)は、静的な、すなわち非流動性の臭化亜鉛水溶液中に配置されたバイポーラ電極を採用していた。ハロゲン化亜鉛電池において電流を充放電するプロセスは、一般に、ハロゲン化亜鉛電解液中でZn2+/Zn(s)及びX/Xのような酸化還元対の反応によって達成される。電池が電流で充電されると、以下の化学反応が起こる:
Zn2++2e→Zn
2X→X+2e
(式中、Xはハロゲン(例えばCl、Br、又はI)である)。逆に、電池が電流を放電すると、以下の化学反応が起こる:
Zn→Zn2++2e
+2e→2X
【0004】
[0004] これらのハロゲン化亜鉛蓄電池は、アノード反応が電極の片側で起こり、カソード反応が同じ電極の反対側で起こるように、各電極が2つの極を含むバイポーラ電気化学セルスタックで形成された。この状況では、バイポーラ電極は板として構成されることが多く、セルスタックは角柱形状を形成するように組み立てられた。バイポーラ電池の充放電中、電極板は隣接するセルの導体として機能する。すなわち、各電極板は1つのセルのアノードとして機能し、それに隣接するセルのカソードとして機能する。この角柱状電池の形状では、隣接する電気化学セルを隔てる電極板の表面積全体が、電流をセルからセルへと伝達する。
【0005】
[0005] したがって、従来のバイポーラハロゲン化亜鉛電池を充電すると、バイポーラ電極板のアノード側で亜鉛金属が電解めっきされる一方で、電極板のカソード側でハロゲン分子種が形成される。そして、電池が放電すると、めっきされた亜鉛金属が酸化されて自由電子となり、これは電極板を通って伝導され、ハロゲン分子種を還元してハロゲン化物アニオンを生成する。
【0006】
[0006] ハロゲン化亜鉛電池は、充電プロセス中に、それぞれアノード電極及びカソード電極で利用できるように、正に帯電した亜鉛イオンと負に帯電したハロゲン化物イオンとを必要とする。しかしながら、高エネルギー電池に必要な高濃度水性電解液では、亜鉛は、熱力学的に、[ZnBr及び[ZnBr2-等の、ハロゲンとの高次の負に荷電した錯体を形成する傾向がある。これらの負に帯電した亜鉛種は、その後充電プロセス中にアノードではなくカソードに移動し、その結果ハロゲン化亜鉛の利用率が高い間はアノードが亜鉛不足になる。これにより、電解液の利用が制限され、正に帯電した亜鉛イオンと負に帯電したハロゲン化物イオンのみが溶液中に存在する場合に理論上必要とされる量よりも多くのハロゲン化亜鉛を電池セルに含ませる必要があり、結果として電池のコストが増加する。
【0007】
[0007] 臭化亜鉛電解液の化学種を決定することは、塩化亜鉛電解液を添加した場合と添加しない場合で研究されてきた。例えばRajarathnam, G.P., et al., “Chemical Speciation of Zinc- Halide Complexes in Zinc/Bromine Flow Battery Electrolytes,” J. Electrochemical Soc., 168, 070522 (2021)を参照のこと。[ZnBr2-、[ZnCl2-、及びCl/Br混合錯体などの四配位子配位ハロゲン化亜鉛の割合は、塩濃度が高いほど増加することが判明した。著者らは、高濃度のハロゲン化亜鉛塩を含む電解液中の四配位子配位ハロゲン化亜鉛の割合を減らす方法を提案していなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
概要
[0008] 本開示は、電解液の利用を改善し、ハロゲン化亜鉛電池のクーロン効率を改善する、ハロゲン化亜鉛二次電池で使用するための水性電解液について説明する。本開示は、電解液の利用率を改善し、ハロゲン化亜鉛電池のクーロン効率を改善するために、ハロゲン化亜鉛二次電池に亜鉛金属リザーバを付加することについても説明する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[0009] 一態様では、本開示は、約20重量%~約70重量%の式ZnYのハロゲン化亜鉛、又は式ZnYのハロゲン化亜鉛の任意の組み合わせ(式中、Yは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、又はそれらの任意の組み合わせから選択されるハロゲンである)と、約10重量%~約79重量%のHOと、約0.5重量%~約20重量%の1種以上の亜鉛添加剤を含む、ハロゲン化亜鉛二次電気化学セルで使用するための電解液について記述する。1種以上の亜鉛添加剤は第1の亜鉛添加剤を含み、第1の亜鉛添加剤はハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも大きいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む。
【0010】
[0010] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約3重量%の第1の亜鉛添加剤を含む。いくつかの実施形態では、電解液中の全亜鉛イオン対ハロゲン化物イオンのモル比は約1:2~約1:3である。
【0011】
[0011] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約20重量%の第1の亜鉛添加剤を含む。いくつかの実施形態では、電解液中の全亜鉛イオン対ハロゲン化物イオンのモル比は約1:1~約1:2.5である。
【0012】
[0012] いくつかの実施形態では、1種以上の亜鉛添加剤は、第2の亜鉛添加剤をさらに含み、第2の亜鉛添加剤はハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも小さいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む。いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約15重量%の第2の亜鉛添加剤を含む。
【0013】
[0013] いくつかの実施形態では、第1の亜鉛添加剤は、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、パーフルオロブタンスルホン酸亜鉛、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド亜鉛、メタンスルホン酸亜鉛、p-トルエンスルホン酸亜鉛、ヘキサフルオロリン酸亜鉛、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸亜鉛、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0014】
[0014] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約15重量%のKBr及び約0.5重量%~約15重量%のKClをさらに含む。
【0015】
[0015] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.05重量%~約20重量%の1種以上の第四級アンモニウム試薬をさらに含む。各第四級アンモニウム試薬は、式N(R)(R)(R)(R)Xを有する第四級アンモニウム試薬から独立して選択され、式中、Rは水素又はアルキル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立して、Rと同じであるか又は異なるアルキル基であり、Xは塩化物イオン又は臭化物イオンである。いくつかの実施形態では、1種以上の第四級アンモニウム試薬は、約0.05重量%~約20重量%の濃度の第1の第四級アンモニウム試薬を含む。
【0016】
[0016] いくつかの実施形態では、第1の第四級アンモニウム試薬は、塩化テトラ-C1~6アルキルアンモニウム又は臭化テトラ-C1~6アルキルアンモニウムから選択される。いくつかの実施形態では、第1の第四級アンモニウム試薬は、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、又は臭化テトラブチルアンモニウムである。
【0017】
[0017] いくつかの実施形態では、1種以上の第四級アンモニウム試薬は、第2の第四級アンモニウム試薬をさらに含む。いくつかの実施形態では、第2の第四級アンモニウム試薬は、式N(R)(R)(R)(R)Xを有し、式中、Rは水素又はアルキル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立して、Rと同じであるか又は異なるアルキル基であり、Xは塩化物イオン又は臭化物イオンである。いくつかの実施形態では、第2の第四級アンモニウム試薬の濃度は約0.05重量%~約20重量%である。
【0018】
[0018] いくつかの実施形態では、第2の第四級アンモニウム試薬は、トリメチルエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、トリエチルプロピルアンモニウム、トリエチルブチルアンモニウム、トリプロピルメチルアンモニウム、トリプロピルエチルアンモニウム、又はトリプロピルブチルアンモニウムの塩化物又は臭化物である。
【0019】
[0019] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.2重量%~約2.5重量%のDME-PEGをさらに含む。いくつかの実施形態では、電解液は、約1000amuの数平均分子量を有するDME-PEG、約2000amuの数平均分子量を有するDME-PEG、又はそれらの組み合わせを含む。
【0020】
[0020] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.25重量%~約5重量%のグリコールをさらに含み、グリコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサレングリコール(hexalene glycol)、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0021】
[0021] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約10重量%のグリムをさらに含み、グリムは、モノグリム、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ペンタグリム、ヘキサグリム、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0022】
[0022] いくつかの実施形態では、電解液は、さらに、Sn、In、Ga、Al、Tl、Bi、Pb、Sb、Ag、Mn、Fe、又はそれらの任意の組み合わせから選択される1種以上の添加剤を1重量%未満含む。
【0023】
[0023] いくつかの実施形態では、電解液は、さらに、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、又はそれらの任意の組み合わせを0.1重量%~2重量%含む。
【0024】
[0024] いくつかの実施形態では、電解液は、ハロゲン化亜鉛静的二次電池(static secondary zinc halide battery)で使用される。
【0025】
[0025] いくつかの実施形態では、電解液は、ハロゲン化亜鉛フロー二次電池(flow secondary zinc halide battery)で使用される。
【0026】
[0026] いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電気化学セルの電解液中でのハロゲン化亜鉛の利用率は、1種以上の亜鉛添加剤を含まないハロゲン化亜鉛二次電気化学セル中の同等の電解液と比較して約5%~約40%増加する。
【0027】
[0027] 本開示の別の態様は、少なくとも1つのバイポーラ電極とハロゲン化亜鉛電解液とを含む少なくとも1つの電気化学セルを含む、ハロゲン化亜鉛二次電池について記述する。バイポーラ電極は、バイポーラ電極板を含み、バイポーラ電極板の一方の側にアノード面を有し、バイポーラ電極板のアノード面の反対の他方の側にカソード面を有する。ハロゲン化亜鉛電解液はバイポーラ電極板と接触している。ハロゲン化亜鉛電解液は本明細書に記載の通りである。
【0028】
[0028] いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛電解液は、約20重量%~約70重量%の、式ZnYのハロゲン化亜鉛、又は式ZnYのハロゲン化亜鉛の任意の組み合わせ(式中、Yは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、又はそれらの任意の組み合わせから選択されるハロゲンである)と、約10重量%~約79重量%のHOと、約0.5重量%~約20重量%の1種以上の亜鉛添加剤とを含む。1種以上の亜鉛添加剤は第1の亜鉛添加剤を含み、第1の亜鉛添加剤はハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも大きいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む。
【0029】
[0029] いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電池は、ハロゲン化亜鉛静的二次電池である。
【0030】
[0030] いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電池は、ハロゲン化亜鉛フロー二次電池である。
【0031】
[0031] いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電池の少なくとも1つの電気化学セルのそれぞれの電解液中のハロゲン化亜鉛の利用率は、1種以上の亜鉛添加剤を含まないハロゲン化亜鉛二次電池の電気化学セル中の同等の電解液と比較して約5%~約40%増加する。
【0032】
[0032] いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電池は、バイポーラ電極板のカソード面上に配置されたカソードアセンブリをさらに含む。
【0033】
[0033] いくつかの実施形態では、カソードアセンブリは、接着層を使用してバイポーラ電極板の表面に貼り付けられた炭素材料を含む。
【0034】
[0034] いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電池は、2つの末端電気化学セルをさらに含み、各末端電気化学セルは、バイポーラ電極と、末端アセンブリと、ハロゲン化亜鉛電解液とを含む。
【0035】
[0035] 本開示のさらに別の態様は、亜鉛金属リザーバを含むハロゲン化亜鉛二次電池について記述する。ハロゲン化亜鉛二次電池は、少なくとも1つのバイポーラ電極とハロゲン化亜鉛電解液とを含む少なくとも1つの電気化学セルも含む。バイポーラ電極は、バイポーラ電極板を含み、バイポーラ電極板の一方の側にアノード面を有し、バイポーラ電極板のアノード面の反対の他方の側にカソード面を有する。ハロゲン化亜鉛電解液はバイポーラ電極板と接触している。ハロゲン化亜鉛電解液は、本明細書に記載のハロゲン化亜鉛電解液であるか、又は本明細書に記載の1種以上の亜鉛添加剤を含まないハロゲン化亜鉛電解液のいずれかである。
【0036】
[0036] いくつかの実施形態では、亜鉛金属リザーバは、少なくとも1つの電気化学セル内にあり、電解液と接触している。いくつかの実施形態では、亜鉛金属リザーバは、少なくとも1つの電気化学セルのアノードとも接触している。しかしながら、亜鉛金属リザーバは、少なくとも1つの電気化学セルのカソードとは接触していない。
【0037】
[0037] いくつかの実施形態では、亜鉛金属リザーバは、粉末、顆粒、箔、シート、ワイヤ、又は削りくずの形態である亜鉛金属から構成される。
【0038】
図面の簡単な説明
[0038] 本開示のこれら及び他の特徴、態様、及び利点は、添付の図面を参照しつつ以下の詳細な説明を読むことでより深く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】[0039]本開示の一実施形態による電気化学セルの分解図である。
図2】[0040]本発明の一実施形態による電池の側面図である。
図3】[0041]図2の電池の分解図である。
図4】[0042]図2の電池に使用される末端アセンブリの分解図である。
図5】[0043]図2の電池で使用される電池フレーム部材の正面図である。
図6】[0044]本開示の実施形態による亜鉛添加剤を含む電解液と含まない電解液についての、充電率(%)に基づく臭化亜鉛利用率の関数としての代表的な平均クーロン効率(%)を示す。
図7】[0045]本開示の実施形態による亜鉛添加剤を含む電解液と含まない電解液についての、臭化亜鉛濃度(M)の関数としての、ラマン分光法によって測定された代表的な[ZnBr2-のピーク高さ比(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
実施形態の詳細な説明
[0046] 本開示の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。図面の中で、同様の参照番号は同様の又は同一の要素を識別する。開示される実施形態は、様々な形態で具体化され得る本開示の単なる例示にすぎないことが理解されるべきである。不必要な詳細な事項により本開示が曖昧になることを避けるために、周知の機能又は構造については詳細には説明されない。したがって、本明細書に開示される具体的な構造及び機能の詳細は、限定するものとして解釈されるべきではなく、特許請求の範囲の基礎として、及び事実上任意の適切な詳細な構造に本開示を様々に採用することを当業者に教示するための典型的な基礎として、単に解釈されるべきである。
【0041】
[0047] I.定義
[0048] 本明細書で使用される「電気化学セル」又は「セル」という用語は、化学反応から電気エネルギーを生成するか、又は電気エネルギーの導入を通じて化学反応を促進することができるデバイスを指すために互換的に使用される。電気化学セルは、バイポーラ電気化学セル又は末端電気化学セルであってもよい。
【0042】
[0049] 本明細書で使用される「電池」という用語は、少なくとも1つの電気化学セルを含む蓄電デバイスを包含する。例えば、電池は直列の約10~50個の電気化学セルから構成され得る。「二次電池」は充電可能である一方で、「一次電池」は再充電できない。本開示の二次電池については、電池アノードは、放電中は正極として指定され、充電中は負極として指定される。
【0043】
[0050] 本明細書で使用される「電解液」は、導電性媒体として挙動する物質を指す。例えば、電解液はセル内の電子とカチオンの移動を促進する。電解液には、金属ハロゲン化物塩(例えばZnBrやZnClなど)の水溶液などの物質の混合物が含まれる。
【0044】
[0051] 本明細書で使用される「電極」という用語は、回路の非金属部分(例えば半導体、電解液、又は真空)と接触するために使用される導電体を指す。電極は、アノード又はカソードのいずれかを指す場合もある。
【0045】
[0052] 本明細書で使用される「アノード」という用語は、電池の放電段階中にそこから電子が流れる負極を指す。アノードは、放電段階中に化学酸化を受ける電極でもある。ただし、二次つまり再充電可能なセルでは、アノードはセルの充電段階中に化学還元を受ける電極である。アノードは、導電性又は半導電性材料、例えば金属(例えばチタン又はTiC被覆チタン)、金属酸化物、金属合金、金属複合材料、半導体などから形成される。
【0046】
[0053] 本明細書で使用される「カソード」という用語は、電池の放電段階中に電子が流れ込む正極を指す。カソードは、放電段階中に化学還元を受ける電極でもある。ただし、二次つまり再充電可能なセルでは、カソードはセルの充電段階中に化学酸化を受ける電極である。カソードは、導電性材料又は半導体材料、例えば金属、金属酸化物、金属合金、金属複合材料、半導体などから形成される。
【0047】
[0054] 本明細書で使用される「バイポーラ電極」という用語は、あるセルのアノードとして機能し、別のセルのカソードとして機能する電極を指す。例えば、電池において、バイポーラ電極は、あるセルではアノードとして機能し、すぐ隣のセルではカソードとして機能する。いくつかの例では、バイポーラ電極は、カソード面とアノード面である2つの表面を備えており、これら2つの表面は導電性材料によって接続されている。例えば、バイポーラ電極板は、一方の表面がアノード面であり、他方の表面がカソード面である対向する表面を有することができ、導電性材料は、対向する表面間の板の厚さである。
【0048】
[0055] 本明細書で使用される「ハロゲン化物」という用語は、ハロゲンと、そのハロゲンよりも電気陰性度が低く(又は電気陽性度が高く)フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、又はアスタチド化合物を形成する別の元素又はラジカルと、の二元化合物を指す。
【0049】
[0056] 本明細書で使用される「ハロゲン」という用語は、周期表のVIIA(17)族を占める元素であるフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、及びアスタチンのいずれかを指す。ハロゲンは、強酸性の化合物を水素と共に形成する反応性の非金属元素であり、これから単純塩を製造することができる。
【0050】
[0057] 本明細書で使用される「アニオン」という用語は、1つ以上の永久負電荷を有する任意の化学的存在を指す。アニオンの例としては、限定するものではないが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、ヒ酸イオン、リン酸イオン、亜ヒ酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、硫酸水素イオン、亜硝酸イオン、チオ硫酸イオン、亜硫酸イオン、過塩素酸イオン、ヨウ素酸イオン、塩素酸イオン、臭素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、次亜臭素酸イオン、炭酸イオン、クロム酸イオン、炭酸水素イオン(重炭酸イオン)、重クロム酸イオン、酢酸イオン、ギ酸イオン、シアン化物イオン、アミドイオン、シアン酸イオン、過酸化物イオン、チオシアン酸イオン、シュウ酸イオン、水酸化物イオン、及び過マンガン酸イオンが挙げられる。
【0051】
[0058] 本明細書で使用される「チタン系材料」としては、限定するものではないが、チタン(任意の酸化状態)、TiC、TiCの合金、例えばTiCM(xは0、1、2、3、又は4であり、Mは金属である)、チタン炭化水素化物、非化学量論的チタン-炭素化合物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0052】
[0059] 本明細書で使用される「炭化チタン」は、「炭化チタン材料」と互換的に使用され、限定するものではないが、TiC、TiCの合金、例えばTiCM(xは0、1、2、3、又は4であり、Mは金属である)、チタン炭化水素化物、非化学量論的チタン-炭素化合物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0053】
[0060] 本明細書で使用される「亜鉛金属」という用語は、一般的にZn(0)又はZnとしても知られる単体亜鉛を指す。
【0054】
[0061] 本開示の目的のためには、「ジメチルエーテルポリ(エチレングリコール)」、「DME-PEG」という用語は、以下の構造:
【化1】

(式中、nは整数である)を有するポリマーを指すために互換的に使用される。DME-PEG1000は、約1000amuの数平均分子量(M)を有するDME-PEGポリマーを指し、DME-PEG2000は、約2000amuの数平均分子量(M)を有するDME-PEGポリマーを指す。
【0055】
[0062] 本明細書で使用される「ジメチルエーテル」という用語は、式CHOCHを有する有機化合物を指す。
【0056】
[0063] 本明細書で使用される「総計濃度」という用語は、原料の分類又は試薬の分類(例えば第四級アンモニウム試薬)の各構成成分の合計総濃度(例えば重量%)を指す。一例では、電解液中の1種以上の第四級アンモニウム試薬の総計濃度は、電解液中に存在する各構成成分である第四級アンモニウム試薬の濃度(例えば重量パーセント)の合計である。したがって、電解液が3種の第四級アンモニウム試薬を含む場合、3種の第四級アンモニウム試薬の総計濃度は、電解液中に存在する3種の第四級アンモニウム試薬それぞれの濃度の合計である。また、電解液が1種の第四級アンモニウム試薬のみを含む場合、第四級アンモニウム試薬の総計濃度は、単に電解液中に存在する単一の第四級アンモニウム試薬の濃度である。
【0057】
[0064] 本明細書で使用される「アルコール」という用語は、その分子が炭素原子に結合した1つ以上のヒドロキシル基を含む任意の有機化合物を指す。アルコールの例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール(すなわちn-プロパノール)、2-プロパノール(すなわちイソプロパノール)、1-ブタノール(すなわちn-ブタノール)、sec-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0058】
[0065] 本明細書で使用される「ヒドロキシル基」という用語は、-OH基を指す。
【0059】
[0066] 本明細書で使用される「グリコール」という用語は、アルコール族に属する有機化合物の分類のいずれかを指す。グリコールの分子では、2つのヒドロキシル(-OH)基が異なる炭素原子に結合している。グリコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサレングリコール(hexalene glycol)、又はそれらの任意の組み合わせを含むC1~10グリコールが挙げられる。グリコールの他の例としては、置換エチレングリコール及び置換プロピレングリコールが挙げられる。
【0060】
[0067] 本明細書で使用される「重量パーセント」という用語及びその略語「wt.%」又は「wt%」は、1つ以上の成分の質量を、当該成分を含む混合物又は製品の総質量で割った商を100倍した積を指すために互換的に使用される:
【数1】

本明細書に記載のように電解液の成分又は原料の濃度について言及される場合、wt.%又はwt%は電解液の総重量基準である。
【0061】
[0068] 本明細書で使用される「第四級アンモニウム試薬」という用語は、第四級窒素原子を含む任意の化合物、塩、又は物質を指す。第四級アンモニウム試薬の非限定的な例としては、例えばハロゲン化テトラアルキルアンモニウム(例えば臭化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、アルキル置換ハロゲン化ピリジニウム、アルキル置換ハロゲン化モルホリニウム、それらの組み合わせなど)、複素環式ハロゲン化アンモニウム(例えばアルキル置換ハロゲン化ピロリジニウム(例えばハロゲン化N-メチル-N-エチルピロリジニウム又はハロゲン化N-エチル-N-メチルピロリジニウム)、アルキル置換ハロゲン化ピリジニウム、アルキル置換ハロゲン化モルホリニウム、少なくとも1つの第四級窒素原子を有するビオロゲン、それらの組み合わせなど)、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムは、第四級窒素原子の置換基に関して対称的に置換されていても、非対称的に置換されていてもよい。
【0062】
[0069] 本明細書で使用される「ビオロゲン」という用語は、4-4’-ビピリジンの任意のビピリジニウム誘導体を指す。
【0063】
[0070] 本明細書で使用される「臭化アンモニウム錯化剤」という用語は、第四級窒素原子を含む任意の化合物、塩、又は物質を指し、この第四級窒素原子は、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、モルホリニウム、又はホスホニウム部位の一部ではない。臭化アンモニウム錯化剤の例としては、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化トリメチルプロピルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリエチルアンモニウム、及び臭化ヘキシルトリメチルアンモニウムが挙げられる。
【0064】
[0071] 本明細書で使用される「臭化イミダゾリウム錯化剤」という用語は、第四級窒素原子を含む任意の化合物、塩、又は物質を指し、この第四級窒素原子はイミダゾリウム部位の一部である。臭化イミダゾリウム錯化剤の例としては、臭化1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、臭化1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、臭化1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、臭化1-デシル-3-メチルイミダゾリウム、臭化1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、臭化1-メチル-3-オクチルイミダゾリウム、及び臭化1-メチル-3-ヘキシルイミダゾリウムが挙げられる。
【0065】
[0072] 本明細書で使用される「臭化ピリジニウム錯化剤」という用語は、第四級窒素原子を含む任意の化合物、塩、又は物質を指し、この第四級窒素原子はピリジニウム部位の一部である。臭化ピリジニウム錯化剤の例としては、臭化1-エチル-2-メチルピリジニウム、臭化1-エチル-3-メチルピリジニウム、臭化1-エチル-4-メチルピリジニウム、臭化1-ブチル-3-メチルピリジニウム、臭化1-ブチル-3-メチルピリジニウム、臭化1-ブチル-4-メチルピリジニウム、及び臭化1-ヘキシルピリジニウムが挙げられる。
【0066】
[0073] 本明細書で使用される「臭化ピロリジニウム錯化剤」という用語は、第四級窒素原子を含む任意の化合物、塩、又は物質を指し、この第四級窒素原子はピロリジニウム部位の一部である。臭化ピロリジニウム錯化剤の例は、臭化1-ブチル-1-メチルピロリジニウムである。
【0067】
[0074] 本明細書で使用される「臭化モルホリニウム錯化剤」という用語は、第四級窒素原子を含む任意の化合物、塩、又は物質を指し、この第四級窒素原子はモルホリニウム部位の一部である。臭化モルホリニウム錯化剤の例は、臭化N-エチル-N-メチルモルホリニウムである。
【0068】
[0075] 本明細書で使用される「臭化ホスホニウム錯化剤」という用語は、第四級ホスホニウム原子を含む任意の化合物、塩、又は物質を指す。臭化ホスホニウム錯化剤の例は、臭化テトラエチルホスホニウムである。
【0069】
[0076] 本明細書で使用される「クラウンエーテル」という用語は、少なくとも3つのエーテル基を含む環からなる環状化合物を指す。クラウンエーテルの例としては、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、及びジアザ-18-クラウン-6が挙げられる。
【0070】
[0077] 本明細書で使用される「アルキル」基は、1~20個(例えば1~16個、1~12個、1~8個、1~6個、又は1~4個)の炭素原子を含む飽和脂肪族炭化水素基を指す。アルキル基は直鎖であっても分岐であってよい。アルキル基の例としては、限定するものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、2-エチルヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、及びセチルが挙げられる。
【0071】
[0078] 本明細書において、単独で、又は「アラルキル」、「アラルコキシ」、又は「アリールオキシアルキル」のようなより大きい部位の一部として使用される「アリール」基は、単環式(例えばフェニル);二環式(例えばインデニル、ナフタレニル、テトラヒドロナフチル、テトラヒドロインデニル);三環式(例えばフルオレニル、テトラヒドロフルオレニル、アントラセニル、又はテトラヒドロアントラセニル);又は3つの環を有するベンゾ縮合基を指す。例えば、ベンゾ縮合基は、2つ以上のC4~8炭素環部位と縮合したフェニルを含む。アリールは、脂肪族(例えばアルキル、アルケニル、又はアルキニル);シクロアルキル;(シクロアルキル)アルキル;ヘテロシクロアルキル;(ヘテロシクロアルキル)アルキル;アリール;ヘテロアリール;アルコキシ;シクロアルキルオキシ;ヘテロシクロアルキルオキシ;アリールオキシ;ヘテロアリールオキシ;アラルキルオキシ;ヘテロアラルキルオキシ;アロイル;ヘテロアロイル;アミノ;アミノアルキル;ニトロ;カルボキシ;カルボニル(例えばアルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アミノカルボニル、(アルキルアミノ)アルキルアミノカルボニル、アリールアミノカルボニル、ヘテロアリールアミノカルボニル;又はスルホニルカルボニル);アリールアルキルカルボニルオキシ;スルホニル(例えばアルキルスルホニル又はアミノスルホニル);スルフィニル(例えばアルキルスルフィニル);スルファニル(例えばアルキルスルファニル);シアノ;ハロ;ヒドロキシル;アシル;メルカプト;スルホキシ;尿素;チオ尿素;スルファモイル;スルファミド;オキソ;又はカルバモイルを含む1つ以上の置換基で任意選択的に置換されていてもよい。或いは、アリールは無置換であってもよい。
【0072】
[0079] 置換アリールの例としては、ハロアリール、アルコキシカルボニルアリール、アルキルアミノアルキルアミノカルボニルアリール、p,m-ジハロアリール、p-アミノ-p-アルコキシカルボニルアリール、m-アミノ-m-シアノアリール、アミノアリール、アルキルカルボニルアミノアリール、シアノアルキルアリール、アルコキシアリール、アミノスルホニルアリール、アルキルスルホニルアリール、アミノアリール、p-ハロ-m-アミノアリール、シアノアリール、ヒドロキシアルキルアリール、アルコキシアルキルアリール、ヒドロキシアリール、カルボキシアルキルアリール、ジアルキルアミノアルキルアリール、m-ヘテロ脂環式-o-アルキルアリール、ヘテロアリールアミノカルボニルアリール、ニトロアルキルアリール、アルキルスルホニルアミノアルキルアリール、ヘテロ脂環式カルボニルアリール、アルキルスルホニルアルキルアリール、シアノアルキルアリール、ヘテロ脂環式カルボニルアリール、アルキルカルボニルアミノアリール、ヒドロキシアルキルアリール、アルキルカルボニルアリール、アミノカルボニルアリール、アルキルスルホニルアミノアリール、ジアルキルアミノアリール、アルキルアリール、及びトリハロアルキルアリールが挙げられる。
【0073】
[0080] 本明細書で使用される「アラルキル」基は、アリール基で置換されたアルキル基(例えばC1~4アルキル基)を指す。「アルキル」と「アリール」は、共に本明細書で定義される。アラルキル基の例はベンジルである。「ヘテロアラルキル」基は、ヘテロアリールで置換されたアルキル基を指す。
【0074】
[0081] 本明細書で使用される「シクロアルキル」基は、3~10個(例えば5~10個)の炭素原子の飽和炭素環式の単環、二環、三環、又は多環(縮合又は架橋)である環を指す。限定するものではないが、単環式シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。限定するものではないが、二環式シクロアルキル基の例としては、オクタヒドロ-インデニル、デカヒドロ-ナフチル、ビシクロ[3.2.1]オクチル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、ビシクロ[3.3.1]ノニル、ビシクロ[3.3.2.]デシル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、ビシクロ[3.1.1]ヘプタニルなどが挙げられる。限定するものではないが、多環式基としては、アダマンチル、クビル、ノルボルニルなどが挙げられる。シクロアルキル環は、環の化学的に実行可能な任意の位置で任意選択的に置換されていてもよい。
【0075】
[0082] 本明細書で使用される「ヘテロシクロアルキル」基は、3~10員の単環式又は二環式(縮合又は架橋)(例えば5~10員の単環式又は二環式)の飽和環構造であって、環原子の1つ以上がヘテロ原子(例えばN、O、S、又はそれらの組み合わせ)である飽和環構造を指す。ヘテロシクロアルキル基の例としては、任意選択的に置換されていてもよいピペリジル、ピペラジル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフリル、1,4-ジオキソラニル、1,4-ジチアニル、1,3-ジオキソラニル、オキサゾリジル、イソオキサゾリジル、モルホリニル、チオモルホリル、オクタヒドロ-ベンゾフリル、オクタヒドロ-クロメニル、オクタヒドロ-チオクロメニル、オクタヒドロ-インドリル、オクタヒドロ-ピリジニル、デカヒドロ-キノリニル、オクタヒドロ-ベンゾ[b]チオフェニル、2-オキサ-ビシクロ[2,2.2]オクチル、1-アザ-ビシクロ[2.2.2]オクチル、3-アザ-ビシクロ[3.2.1]オクタニル、2,6-ジオキサ-トリシクロ[3.3.1.03,7]ノニル、トロパンが挙げられる。単環式ヘテロシクロアルキル基は、テトラヒドロイソキノリンなどのフェニル部位と縮合していてもよい。ヘテロシクロアルキル環構造は、環の化学的に実行可能な任意の位置で任意選択的に置換されていてもよい。
【0076】
[0083] 本明細書で使用される「ヘテロアリール」基は、環原子の1つ以上がヘテロ原子(例えばN、O、S、又はそれらの組み合わせ)であり、二環式又は三環式の環構造の1つ以上の環が芳香族である、4~15個の環原子を有する単環式、二環式、又は三環式の環構造を指す。ヘテロアリール基には、2~3個の環を有するベンゾ縮合環系が含まれる。例えば、ベンゾ縮合基には、1つ又は2つのC4~8複素環部位と縮合したベンゾ(例えばインドリジル、インドリル、イソインドリル、3H-インドリル、インドリニル、ベンゾ[b]フリル、ベンゾ[b]チオフェニル、キノリニル、又はイソキノリニル)が含まれる。ヘテロアリールのいくつかの例としては、アゼチジニル、ピリジル、1H-インダゾリル、フリル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、テトラゾリル、ベンゾフリル、イソキノリニル、ベンズチアゾリル、キサンテン、チオキサンテン、フェノチアジン、ジヒドロインドール、ベンゾ[1,3]ジオキソール、ベンゾ[b]フリル、ベンゾ[b]チオフェニル、インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、プリル、シンノリル、キノリル、キナゾリル、シンノリル、フタラジル、キナゾリル、キノキサリル、イソキノリル、4H-キノリジル、ベンゾ-1,2,5-チアジアゾリル、又は1,8-ナフチリジルが挙げられる。ヘテロアリールにはビピリジン化合物も含まれる。
【0077】
[0084] 要素又は層が別の要素又は層「の上にある」、「と係合している」、「と接続されている」、「と結合している」、又は「と連結されている」とされる場合、それは別の要素又は層の直接上にある、これと直接係合している、これと直接接続されている、これと直接結合している、又はこれと直接連結されていることができ、或いは、介在する要素又は層が存在していてもよい。対照的に、ある要素が別の要素又は層「の直接上にある」、「と直接係合している」、「と直接接続されている」、「と直接結合している」、又は「と直接連結されている」とされる場合、介在する要素又は層が存在しなくてよい。要素間の関係を説明するために使用される他の言葉も同様に解釈されるべきである(例えば「間に」と「直接間に」、「隣接する」と「直接隣接する」など)。本明細書で使用される「及び/又は」という用語は、関連する列挙された項目の1つ以上のあらゆる組み合わせを含む。
【0078】
[0085] 上側、下側、上方、下方、右、左などの用語は、本明細書では、他の要素に対する様々な要素の位置を説明するために使用され得る。これらの用語は、例示的な構成における要素の位置を表す。しかしながら、電池フレーム部材は、本開示から逸脱することなく空間内で回転され得ることが当業者には明らかであり、したがって、これらの用語は、本開示の範囲を限定するために使用されるべきではない。
【0079】
[0086] 本明細書で使用される「オーバーモールディング」は、既存の部品又は部材の上に射出成形によって追加の材料層を付加するプロセスを指す。
【0080】
[0087] 本明細書で使用される「複数」は、説明される要素のうちの2つ以上を指す。いくつかの実施形態では、複数は、説明される要素のうちの3つ以上、4つ以上、又は5つ以上を指す。
【0081】
[0088] 本明細書で使用される「化学的に適合性を有する」は、電気化学セルの性能に大きい悪影響を与える形で電気化学セルの化学的性質を妨げない材料を指す。化学的に適合性を有する材料は、電解液(例えばハロゲン化亜鉛電解液、アルカリ性電解液)、並びにアノード材料及びカソード材料と化学的に適合性を有する。
【0082】
[0089] 本明細書で使用される「化学的に不活性」は、電気化学セルの電解液、アノード、又はカソードと有意な形で化学反応しない材料を指す。
【0083】
[0090] 本明細書で使用される「実質的に長方形」は、正確には長方形ではないが、4つの辺を有し、眺めたときに長方形の外観を有する形状を指す。
【0084】
[0091] 本明細書で使用される「実質的に平行」は、実質的に平行な物体の表面が、表面の長さにわたって平行から2°(2度)以下であることを意味する。
【0085】
[0092] II.電気化学セル及び電池
[0093] 一態様では、本開示は、ハロゲン化亜鉛二次電気化学セル及び電池に使用するための電解液を提供する。別の態様では、本開示は、電解液を含むハロゲン化亜鉛二次電池を提供する。ハロゲン化亜鉛二次電池は、ハロゲン化亜鉛静的(非流動性)二次電池であってもよく、或いはハロゲン化亜鉛フロー二次電池であってもよい。さらに別の態様では、本開示は、亜鉛金属リザーバを含むハロゲン化亜鉛二次電池を提供する。ハロゲン化亜鉛二次電池の電解液は、本明細書に記載の1種以上の亜鉛添加剤を含む電解液、又は本明細書に記載の1種以上の亜鉛添加剤を含まない電解液のいずれかである。
【0086】
[0094] A.電解液
[0095] 本開示は、流動性(flowing)又は非流動性(すなわち静的)のハロゲン化亜鉛二次電気化学セル及び電池に有用な電解液を提供する。これらの電気化学セル及び電池では、電解液中に存在するハロゲン化亜鉛(例えば臭化亜鉛、塩化亜鉛、又はこれら2つの任意の組み合わせ)が電気化学的に活性な材料として機能する。これらの電気化学セル及び電池については以下で説明する。
【0087】
[0096] 本開示の電解液は、電気化学セルの少なくとも1つのバイポーラ電極のバイポーラ電極板と接触する水性ハロゲン化亜鉛電解液である。いくつかの実施形態では、電解液は、末端エンドプレートの内面、カソードアセンブリ、バイポーラ電極の前面、及び存在する場合にはフレームの内面の間に介在する。いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電池はハロゲン化亜鉛フロー二次電池であり、その中の電解液は全てのバイポーラセルを通って流れる。別の実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電池はハロゲン化亜鉛静的二次電池であり、その中の電解液は各バイポーラセル内に機械的に隔てられる。
【0088】
[0097] 臭化亜鉛二次電池の実施形態では、例えば、正に帯電した亜鉛イオンと負に帯電した臭化物イオンが充電プロセス中にそれぞれアノード電極及びカソード電極で利用可能である必要がある。電解液にさらされたカソード電極(例えばカソードアセンブリの炭素材料)又はその近傍の臭化物アニオンは、電気化学セル又は電池が充電される際に臭素へと酸化される。逆に、放電の際には、臭素は臭化物アニオンへと還元される。カソード電極又はその近傍における臭素と臭化物アニオンとの間の変換は、以下のように表すことができる:
[0098] Br+2e→2Br
【0089】
[0099] しかしながら、より高エネルギーの電池に必要とされる高濃度水性電解液では、亜鉛は、熱力学的にはハロゲンとの高次の負に荷電した錯体を形成することを好む。臭化物を用いた例では、これは具体的には[ZnBr及び[ZnBr2-である。これらの負に帯電した亜鉛種は、その後充電プロセス中にアノードではなくカソードに移動し、その結果ハロゲン化亜鉛の利用率が高い間はアノードが亜鉛不足になる。これにより、電解液の利用が制限され、正に帯電した亜鉛イオンと負に帯電したハロゲン化物イオンのみが溶液中に存在する場合に理論上必要とされる量よりも多くのハロゲン化亜鉛を電池セルに含ませる必要があり、結果として電池のコストが増加する。
【0090】
[0100] 本開示の発明者らは、[ZnBrや[ZnBr2-などの、ハロゲンとの高次の負に帯電した錯体の形成を低減するための1つの経路が、ハロゲンではないアニオンとの亜鉛塩である1種以上の亜鉛添加剤の形態で亜鉛を電解液に添加することであることを見出した。ハロゲン化物アニオンを含まない亜鉛塩を添加すると、電解液中のハロゲン化物イオンに対する亜鉛イオンのモル比が増加し、[ZnBrや[ZnBr2-などのハロゲンとの高次の負に荷電した錯体の平衡形成が減少する。ただし、1種以上の亜鉛添加剤は、電気化学的に不活性な非ハロゲン化物アニオンを含む必要がある。さらに、亜鉛カチオンと非ハロゲン化物アニオンの両方は、ハロゲン化物イオンに対する亜鉛イオンのモル比に影響を与えるのに十分な量の1種以上の亜鉛添加剤が溶解できるように、得られる水性電解液中での溶解性も高い必要がある。本開示の1種以上の亜鉛添加剤は、これらの要件を満たし、高次の負に帯電した亜鉛錯体([ZnBrや[ZnBr2-など)の形成を低減するのみならず、以下に記載するように、ハロゲン化亜鉛電池に他の利点も付与する。
【0091】
[0101] 本開示の一態様は、式ZnYのハロゲン化亜鉛、又は式ZnYのハロゲン化亜鉛の任意の組み合わせ(式中、Yは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、又はそれらの任意の組み合わせから選択されるハロゲンである)を約20重量%~約70重量%;HOを約10重量%~約79重量%;1種以上の亜鉛添加剤を約0.5重量%~約20重量%;含むハロゲン化亜鉛二次電気化学セルで使用するための電解液を提供する。1種以上の亜鉛添加剤は第1の亜鉛添加剤を含む。第1の亜鉛添加剤は、ハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも大きいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む。
【0092】
[0102] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約3重量%の1種以上の第1の亜鉛添加剤を含む。いくつかの実施形態では、電解液中の全亜鉛イオン対ハロゲン化物イオンのモル比は約1:2~約1:3である。
【0093】
[0103] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約20重量%の1種以上の第1の亜鉛添加剤を含む。いくつかの実施形態では、電解液中の全亜鉛イオン対ハロゲン化物イオンのモル比は約1:1~約1:2.5である。
【0094】
[0104] いくつかの実施形態では、1種以上の亜鉛添加剤は、第1の亜鉛添加剤とは異なる第2の亜鉛添加剤をさらに含む。第2の亜鉛添加剤は、ハロゲン化亜鉛ではない塩であり、約65Åよりも小さいファンデルワールス体積を有するアニオンを含む。いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約15重量%の第2の亜鉛添加剤を含む。
【0095】
[0105] 本開示の第1の亜鉛添加剤の非限定的な例としては、例えばトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、パーフルオロブタンスルホン酸亜鉛、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド亜鉛、メタノスルホン酸亜鉛、p-トルエンスルホン酸亜鉛、ヘキサフルオロリン酸亜鉛、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸亜鉛、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0096】
[0106] 本開示の第2の亜鉛添加剤の非限定的な例としては、例えば硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、テトラフルオロホウ酸亜鉛、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0097】
[0107] ファンデルワールス体積の測定は、当業者には周知である。例えば、Zhao, Y.H., et al., “Fast Calculation of van der Waals Volume as a Sum of Atomic and Bond Contributions and Its Application to Drug Compounds,” J. Org. Chem., 68, 7368-7373 (2003)を参照のこと。これは参照により本明細書に組み込まれ、本開示の範囲内で使用することができる。本開示の第1の亜鉛添加剤のいくつかの例のファンデルワールス体積を以下の表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
[0108] 本開示の第2の亜鉛添加剤のいくつかの例のファンデルワールス体積を以下の表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
[0109] 本明細書において使用される、電解液の「ハロゲン化亜鉛利用率」は、電気化学的に消費された亜鉛のモル数を電池の電解液中で利用可能な亜鉛のモル数で割ったものを指す。本開示の1種以上の亜鉛添加剤を電解液に添加すると、ハロゲン化亜鉛二次電気化学セルの電解液中でのハロゲン化亜鉛の利用率が有利に改善されることも見出された。いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電気化学セルの電解液中でのハロゲン化亜鉛の利用率は、1種以上の亜鉛添加剤を含まないハロゲン化亜鉛二次電気化学セルの同等の電解液と比較して約5%~約40%増加する。
【0102】
[0110] 本明細書において使用される、二次電池の「クーロン効率」は、同じサイクル内の充電容量に対する放電容量の比を指す。本開示の1種以上の亜鉛添加剤を電解液に添加すると、ハロゲン化亜鉛二次電気化学電池のクーロン効率が有利に改善されることも見出された。いくつかの実施形態では、ハロゲン化亜鉛二次電気化学電池のクーロン効率は、1種以上の亜鉛添加剤を含まないハロゲン化亜鉛二次電気化学電池と比較して、約5%~約25%増加する。以下の実施例から分かるように、本開示の1種以上の亜鉛添加剤を含む電解液におけるハロゲン化亜鉛の利用率が高いほど、より高いクーロン効率を実現することができる。
【0103】
[0111] 本開示の発明者らは、予想外にも、本開示の1種以上の亜鉛添加剤を電解液に添加することにより、亜鉛めっきの形態が改善され、電解液の粘度が増加することも見出した。電解液の粘度が高くなると、ポリハロゲン(Br やBr など)をカソードに留まらせ、カソードからのポリハロゲン種の拡散を遅くすることができる。特に、亜鉛添加剤により、導電性を直線的に低下させることなくより高い粘度が達成される。さらに、1種以上の亜鉛添加剤の一部は、水性の高濃度ハロゲン化亜鉛電解液によく溶解する。
【0104】
[0112] いくつかの実施形態では、電解液は、本開示の範囲内で適切な他の成分をさらに含む。例えば、2015年10月6日に出願された国際公開第2016/057477号、2017年3月29日に出願された国際公開第2017/172878号、2016年3月29日に出願された米国特許第10,276,872号、及び2011年3月21日に出願された米国特許出願公開第2011/02535531l号(これらは全て参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている電解液中の追加の成分を、本開示の範囲内で使用することができる。
【0105】
[0113] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約15重量%のKBr及び約0.5重量%~約15重量%のKClをさらに含む。
【0106】
[0114] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.05重量%~約20重量%の1種以上の第四級アンモニウム試薬をさらに含む。各第四級アンモニウム試薬は、式N(R)(R)(R)(R)Xを有する第四級アンモニウム試薬から独立して選択され、式中、Rは水素又はアルキル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立して、Rと同じであるか又は異なるアルキル基であり、Xは塩化物イオン又は臭化物イオンである。いくつかの実施形態では、1種以上の第四級アンモニウム試薬は、約0.05重量%~約20重量%の濃度を有する第1の第四級アンモニウム試薬を含む。
【0107】
[0115] いくつかの実施形態では、第1の第四級アンモニウム試薬は、塩化テトラ-C1~6アルキルアンモニウム又は臭化テトラ-C1~6アルキルアンモニウムから選択される。いくつかの実施形態では、第1の第四級アンモニウム試薬は、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、又は臭化テトラブチルアンモニウムである。
【0108】
[0116] いくつかの実施形態では、1種以上の第四級アンモニウム試薬は、第2の第四級アンモニウム試薬をさらに含む。いくつかの実施形態では、第2の第四級アンモニウム試薬は、式N(R)(R)(R)(R)Xを有し、式中、Rは水素又はアルキル基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立して、Rと同じであるか又は異なるアルキル基であり、Xは塩化物イオン又は臭化物イオンである。いくつかの実施形態では、第2の第四級アンモニウム試薬の濃度は約0.05重量%~約20重量%である。
【0109】
[0117] いくつかの実施形態では、第2の第四級アンモニウム試薬は、トリメチルエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、トリエチルプロピルアンモニウム、トリエチルブチルアンモニウム、トリプロピルメチルアンモニウム、トリプロピルエチルアンモニウム、又はトリプロピルブチルアンモニウムの塩化物又は臭化物である。
【0110】
[0118] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.25重量%~約5重量%のグリコールをさらに含み、グリコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサレングリコール(hexalene glycol)、又はそれらの任意の組み合わせである。一実施形態では、グリコールはネオペンチルグリコールである。
【0111】
[0119] いくつかの実施形態では、電解液は、約0.5重量%~約10重量%のグリムをさらに含み、グリムは、モノグリム、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、ペンタグリム、ヘキサグリム、又はそれらの任意の組み合わせである。一実施形態では、グリムはテトラグリムである。
【0112】
[0120] いくつかの実施形態では、電解液は、さらに、Sn、In、Ga、Al、Tl、Bi、Pb、Sb、Ag、Mn、Fe、又はそれらの任意の組み合わせから選択される1種以上の添加剤を1重量%未満含む。
【0113】
[0121] いくつかの実施形態では、電解液は、さらに、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、又はそれらの任意の組み合わせを0.1重量%~2重量%含む。
【0114】
[0122] いくつかの実施形態では、電解液は、式ZnYのハロゲン化亜鉛、又は式ZnYのハロゲン化亜鉛の任意の組み合わせを約25重量%~約45重量%;HOを約25重量%~約50重量%;1種以上の亜鉛添加剤を約1重量%~約20重量%;KBrを約0.5重量%~約15重量%;KClを約0.5重量%~約15重量%;1種以上の第四級アンモニウム試薬を約0.05重量%~約20重量%含む。
【0115】
[0123] いくつかの実施形態では、電解液は静的ハロゲン化亜鉛電気化学セルで使用される。いくつかの実施形態では、電解液は、約0.2重量%~約2.5重量%のDME-PEGをさらに含む。いくつかの実施形態では、電解液は、数平均分子量が約1000amuのDME-PEG、数平均分子量が約2000amuのDME-PEG、又はそれらの組み合わせを含む。
【0116】
[0124] いくつかの実施形態では、電解液はハロゲン化亜鉛フロー電気化学セルで使用される。いくつかの実施形態では、電解液はDME-PEGを含まない。
【0117】
[0125] B.バイポーラ電気化学電池
[0126] 本開示の別の態様は、上述した電解液を含むハロゲン化亜鉛二次電池を提供する。ハロゲン化亜鉛二次電池は、ハロゲン化亜鉛静的(非流動性)二次電池又はハロゲン化亜鉛フロー二次電池であってもよい。
【0118】
[0127] B.1.静的バイポーラ電気化学電池
[0128] 図2及び3を参照すると、本開示の静的(非流動性)バイポーラハロゲン化亜鉛二次電気化学電池500の実施形態は、少なくとも1つのバイポーラ電気化学セルと、2つの末端電気化学セルとを含む。いくつかの実施形態では、バイポーラ電気化学電池は、直列の約10~50個のバイポーラ電気化学セルと2つの末端電気化学セルとを含む。例えば、一実施形態では、バイポーラ電気化学電池は、直列の26個のバイポーラ電気化学セルと2つの末端電気化学セルとを含む。別の実施形態では、バイポーラ電気化学電池は、直列の38個のバイポーラ電気化学セルと2つの末端電気化学セルとを含む。
【0119】
[0129] B.1.i.バイポーラ電気化学セル
[0130] 少なくとも1つのバイポーラ電気化学セルは、バイポーラ電極502と、電池フレーム部材514と、ハロゲン化亜鉛電解液とを含む。末端電気化学セルは、バイポーラ電極502と、電池フレーム部材514と、末端アセンブリ504と、末端エンドプレート505と、ハロゲン化亜鉛電解液とを含む。
【0120】
[0131] 図1は、バイポーラ電極102と、電池フレーム部材114と、末端アセンブリ104と、上述したハロゲン化亜鉛電解液とを含む、本開示の電気化学セル100の分解図を示す。
【0121】
[0132] 1.バイポーラ電極
[0133] 図3及び図4を参照すると、本開示のバイポーラ電極502は、バイポーラ電極板702を含み、バイポーラ電極板の一方の側にアノード面を有し、バイポーラ電極板のアノード面の反対の他方の側にカソード面を有する。バイポーラ電極板702のカソード面には、炭素材料624が少なくともバイポーラ電極板702の表面と電気的に導通するように、接着層711を用いて炭素材料624がバイポーラ電極板702の表面に貼り付けられている。バイポーラ電極502の構造は末端アセンブリ504のバイポーラ電極の構造と同一であるため、バイポーラ電極502の構造は図4の末端アセンブリ504の分解図を参照して説明される。
【0122】
[0134] 本開示のバイポーラ電極502は、アノード電極表面に亜鉛金属がめっきされ、電気化学セルの充電中に炭素材料中に可逆的に隔離されるハロゲン化物又は混合ハロゲン化物種を生成するように構成される。逆に、これらの電極は、電気化学セルの放電中にめっきされた亜鉛金属を酸化してZn2+カチオンを生成し、ハロゲン化物又は混合ハロゲン化物種を対応するアニオンへと還元するように構成される。
【0123】
[0135] a.バイポーラ電極板
[0136] バイポーラ電極板702は、電気化学電池で使用されるハロゲン化亜鉛電解液に対して比較的不活性な導電性コーティング又はフィルムを含む。いくつかの実施形態では、コーティング又はフィルムは、バイポーラ電極板702の表面の一部を被覆する。いくつかの実施形態では、バイポーラ電極板702は、チタン、酸化チタン、TiC、TIN、又は黒鉛を含む。任意選択的には、バイポーラ電極板702は、プラスチックに導電性フィラーを配合することによって導電性が与えられたプラスチック系材料である。いくつかの実施形態では、バイポーラ電極板702はチタン材料(例えばチタン又は酸化チタン)を含む。別の実施形態では、バイポーラ電極板702は、炭化チタン材料で被覆されたチタン材料を含む。これらの実施形態では、バイポーラ電極板702の表面の少なくとも一部が炭化チタン材料で被覆される。いくつかの実施形態では、バイポーラ電極板702は、導電性炭素材料(例えば黒鉛板)を含む。場合によっては、バイポーラ電極板702は、炭化チタン材料で被覆された黒鉛板を含む。これらの実施形態では、バイポーラ電極板702の表面の少なくとも一部が炭化チタン材料で被覆される。いくつかの実施形態では、バイポーラ電極板702は導電性プラスチックを含む。本発明の範囲内で、任意の適切な導電性プラスチックを使用することができる。導電性プラスチックは当業者に周知であり、本明細書では詳細には説明されない。そのような導電性プラスチック系材料は、ベース樹脂ポリマーと、カーボンブラック、黒鉛、ヒュームドシリカ、又はそれらの組み合わせとを含むことができる。例えば、1978年3月6日に出願された米国特許第4,169,816号(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載の導電性プラスチックを、本開示の範囲内で使用することができる。
【0124】
[0137] いくつかの実施形態では、バイポーラ電極板は実質的に長方形であってよく、長方形の外観を表すように一方の寸法が他方の寸法よりも明らかに大きい。図3に示すX-Y-Z座標空間において、末端アセンブリ504の幅寸法はX方向であり、これはYと比較して大きい寸法である。末端アセンブリ504の高さ寸法はY方向であり、これはX寸法と比較して短い寸法である。これにより、図示の末端アセンブリ504及び分解図で表された電池は長方形の外観となる。Z方向は、図示の電池部品の深さ(すなわち厚さ)を表す。図3及び図4で見られるように、バイポーラ電極板の向き及び炭素材料の向きは、末端アセンブリ504の向きと相補的であり、その結果、バイポーラ電極板の幅及び高さと炭素材料の幅及び高さが、図7に示される末端アセンブリ504の幅及び高さとそれぞれほぼ同じ向きを共有する。
【0125】
[0138] バイポーラ電極板は、スタンピング又は他の適切なプロセスによって形成することができる。バイポーラ電極板702の表面の一部は、セル又は電池の電気化学的特性を高めるために、任意選択的に表面処理(例えば被覆など)されていてもよい。バイポーラ電極板の内表面は、セル又は電池の充電時の亜鉛金属層の形成に関連する、又はそれによって画定される電気化学的に活性な領域を含むことができる。いくつかの実施形態では、電極板の内表面は、電気化学的に活性な領域内でサンドブラスト処理されていてもよく、或いは他の処理が行われていてもよい。別の実施形態では、外表面も、カソードアセンブリによって囲まれた領域に関連する電気化学的に活性な領域内でサンドブラスト処理されていてもよい。
【0126】
[0139] 例えば、いくつかの実施形態では、内表面の少なくとも一部、外表面の少なくとも一部、又は両方の表面の少なくとも一部が、粗い表面を与えるように処理(例えばサンドブラスト処理)される。場合によっては、バイポーラ電極板の内表面の少なくとも一部が、粗い表面を与えるように処理(例えばサンドブラスト処理)される。場合によっては、粗い表面を与えるように処理される内表面の領域は、電極板の外表面に取り付けられたカソードアセンブリの周縁部によって実質的に画定される。
【0127】
[0140] b.カソードアセンブリ
[0141] 本開示の電気化学セルは、バイポーラ電極板702のカソード面上に位置するカソードアセンブリを含む。いくつかの実施形態では、カソードアセンブリは、少なくとも1つの炭素材料624と、炭素材料624をバイポーラ電極板702に電気的に接続する接着層711とを含む。炭素材料は、バイポーラ電極板702の表面(例えばカソード面)上の被覆材料の上に位置する。別の実施形態では、カソードアセンブリは、炭素材料624をバイポーラ電極板702のカソード面に電気的に接続するカソードケージを含む。カソードケージは、2021年3月31日に出願された米国仮特許出願第63/168,699号(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、本開示の範囲内で使用することができる。
【0128】
[0142] i.炭素材料
[0143] 炭素材料624は、バイポーラ電極板702の表面と電気的に導通しており、接着層711を使用してバイポーラ電極板702に接着されている。本開示の電気化学セルに適した炭素材料は、臭素種水溶液(例えば臭素水溶液又は臭化物水溶液)を可逆的に吸収することができ、電解液の存在下で実質的に化学的に不活性である任意の炭素材料を含むことができる。いくつかの実施形態では、炭素材料は、カーボンブラック又は他のファーネス法炭素を含む。適切なカーボンブラック材料としては、限定するものではないが、Cabot Vulcan(登録商標) XC72R, Akzo-Nobel Ketjenblack EC600JD、及びファーネス法による導電性カーボンブラックの他のマットブラック混合物が挙げられる。いくつかの実施形態では、炭素材料は、限定するものではないが、PTFEバインダー及び脱イオン水などの他の成分も含むことができる。例えば、炭素材料は、炭素材料の重量に対して50重量%未満(例えば約0.01重量%~約30重量%)の含水率を有する。いくつかの実施形態では、炭素材料はPTFEを含む(例えば炭素材料の重量の約0.5重量%~約5重量%)。
【0129】
[0144] いくつかの実施形態では、炭素材料は、1種以上の薄い長方形のブロックの形態であってよい。いくつかの実施形態では、炭素材料は単一の固体ブロックを含んでいてもよい。別の実施形態では、炭素材料は、1~5個、1~3個、又は1~2個のカーボンブラックの固体ブロックを含んでいてもよい。
【0130】
[0145] いくつかの実施形態では、炭素材料は、織られた炭素繊維又は不織炭素フェルト材料から構成されていてもよい。
【0131】
[0146] いくつかの実施形態では、炭素材料は実質的に長方形であってよく、長方形の外観を表すように一方の寸法が他方の寸法よりも明らかに大きい。図3及び図4に示すX-Y-Z座標空間において、炭素材料624の幅寸法はX方向(図4では「W」として示されている)であり、これはYと比較して大きい寸法であり、物品に長方形の外観を与える。炭素材料624の高さ寸法はY方向(図4及び図10では「H」として示されている)であり、幅寸法と比較して短い寸法である。バイポーラ電気化学電池500の向き及び炭素材料624の向きは、バイポーラ電気化学電池500の幅及び高さがそれぞれ炭素材料624の幅及び高さとほぼ同じ向きを共有するように相補的である。炭素材料のそのような実施形態を有する電池は、2021年8月24日に出願された米国特許出願第17/410,552号(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、本開示の範囲内で使用することができる。
【0132】
[0147] 2.末端アセンブリ
[0148] 図4を参照すると、本開示の末端アセンブリ504は、末端コネクタ708と、導電性縁周部706を有する導電性平板704と、電気絶縁テープ部材710と、末端バイポーラ電極板702とを含む。導電性平板704、末端バイポーラ電極板702、及び電気絶縁テープ部材710は、少なくとも実質的に互いに平行な内表面と外表面とをそれぞれ有し、導電性平板704の外表面は末端コネクタ708に接合されており、導電性平板704の内表面は末端バイポーラ電極板702の外表面に接合されており、電気絶縁テープ部材710が導電性平板704の内表面全体を覆わないように、導電性平板704の内表面とバイポーラ電極板702の外表面との間に電気絶縁テープ部材710が配置されており、導電性の縁周部706は、末端コネクタ708と末端バイポーラ電極板702との間の導電性平板704を通る二方向の均一な電流の流れを可能にする。
【0133】
[0149] 絶縁テープ部材710は、導電性平板704の表面全体を被覆しないため、これにより、導電性縁周部706が末端バイポーラ電極板702と電気的に導通することが可能になる。いくつかの実施形態では、絶縁テープ部材710の寸法は、導電性平板704の寸法よりも小さい。バイポーラ電気化学電池の末端コネクタ708は、導電性平板304との電気的に導通される。いくつかの実施形態では、導電性平板704の外表面は、末端コネクタ708と接続される。いくつかの実施形態では、末端コネクタ708は、任意の導電性材料を含む。一実施形態では、末端接続部は真鍮を含む(例えば、末端コネクタは、末端縁周部と電気的に導通又は接触するタブアセンブリである)。
【0134】
[0150] 末端アセンブリ504の末端バイポーラ電極板702は、導電性平板704及び電気絶縁テープ部材710の内表面及び外表面と少なくとも実質的に平行な内表面及び外表面を有する。末端バイポーラ電極板702は、限定するものではないが、炭化チタン材料で被覆されたチタン材料、スルーホール、粗い内表面などを含み得る。電気絶縁テープ部材710を有する平板704の導電性縁周部706は、導電性縁周部706が末端バイポーラ電極板702の電気化学的に活性な領域のほぼ中心に位置するように、末端バイポーラ電極板702に接合される。いくつかの実施形態では、電気化学的に活性な領域は、電気化学電池の充放電サイクル中に隣接するバイポーラ電極板と化学的又は電気的に連通する、末端バイポーラ電極板702の内表面と外表面との間に延在する領域に対応する。これらの実施形態では、電池のカソード末端に関連する末端バイポーラ電極板702の電気化学的に活性な領域は、末端バイポーラ電極板702(例えば末端カソード電極)の内表面上に配置されたカソードアセンブリによって囲まれた領域に対応するか、又はそれによって画定される。電池のアノード末端に関連する末端バイポーラ電極板702の電気化学的に活性な領域は、隣接するバイポーラ電極板の前面に配置されたカソードアセンブリに対向し、電池の充電時に亜鉛金属の層を形成する内表面上の領域に対応し得る(末端アノードアセンブリ)。いくつかの実施形態では、末端アノードアセンブリの末端バイポーラ電極板702の表面の少なくとも一部(例えば少なくとも化学的に活性な領域)は粗面である。
【0135】
[0151] 図4は、カソード炭素材料624、接着層711、末端バイポーラ電極板702、電気絶縁テープ部材710、導電性平板704、導電性周縁部306、及び末端コネクタ708を示す、図2の電池に使用するための末端アセンブリの分解図を示す。
【0136】
[0152] いくつかの実施形態では、溶接によって形成された導電性縁周部706は、末端バイポーラ電極板702の電気化学的に活性な領域内の中央に配置される。いくつかの実施形態では、導電性縁周部706は、実質的に長方形、実質的に円形、又は実質的に楕円形である。いくつかの実施形態では、導電性縁周部706は実質的に長方形である。
【0137】
[0153] いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704は、末端バイポーラ電極板702の電気化学的に活性な領域内の中央に配置される。
【0138】
[0154] いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材の表面は、溶接又は接着剤によって導電性平板の表面に接合される。いくつかの実施形態では、接着剤は導電性である。
【0139】
[0155] 本明細書に記載の導電性平板は、従来技術の電流アグリゲータ(aggregator)よりも大きいため、より多くの接点とより優れた電流密度分布を提供する。これにより、製造コストが削減される。
【0140】
[0156] いくつかの実施形態では、末端アセンブリは末端カソードアセンブリであり、末端カソードアセンブリは、電気化学的に活性な領域を有する末端バイポーラ電極板702と、末端バイポーラ電極板702の表面電気化学的に活性な領域のほぼ中央に配置された電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704と、末端バイポーラ電極板702の内表面上に配置された本明細書に記載のカソードアセンブリのいずれかなどのカソードアセンブリとを含む。
【0141】
[0157] いくつかの実施形態では、末端アセンブリは末端アノードアセンブリであり、末端アノードアセンブリは、電気化学的に活性な領域を有する末端バイポーラ電極板702と、電気化学的に活性な領域の中央に配置された電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704と、を含み、末端アノードアセンブリはカソードアセンブリを含まない。
【0142】
[0158] いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704の導電性縁周部706は、溶接又は接着剤によって末端バイポーラ電極板702の表面に接合される。いくつかの場合では、接着剤は導電性である。適切な導電性接着剤の非限定的な例としては、黒鉛充填接着剤(例えば黒鉛充填エポキシ、黒鉛充填シリコーン、黒鉛充填エラストマー、又はそれらの任意の組み合わせ)、ニッケル充填接着剤(例えばニッケル充填エポキシ)、銀充填接着剤(例えば銀充填エポキシ)、銅充填接着剤(例えば銅充填エポキシ)、それらの任意の組み合わせなどが挙げられる。
【0143】
[0159] いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704は、銅合金、銅/チタンクラッド、アルミニウム、チタン、及び導電性セラミックのうちの少なくとも1つから構成される。
【0144】
[0160] いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704又は末端バイポーラ電極板702のうちの少なくとも1つはチタンを含む。いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704又は末端バイポーラ電極板702のうちの少なくとも1つは、炭化チタン材料で被覆されたチタン材料を含む。
【0145】
[0161] いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704の少なくとも1つの内表面は銅を含む。
【0146】
[0162] いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704の少なくとも1つの外表面は、銅、チタン、及び導電性セラミックのうちの少なくとも1つを含む。
【0147】
[0163] いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材710を有する導電性平板704は第1の金属を含み、末端バイポーラ電極板702は第2の金属を含む。
【0148】
[0164] いくつかの実施形態では、電気絶縁テープ部材710は、本質的に電気絶縁性である任意の接着性材料から構成されていてもよい。電気絶縁テープ部材710の非限定的な例としては、例えば、Kapton(商標)、Mylar(商標)、ポリイミド、ポリエチレン、ナイロン、テフロン、ネオプレン、又は任意の他の電気絶縁性ポリマーが挙げられる。
【0149】
[0165] 3.電池フレーム部材
[0166] いくつかの実施形態では、本開示の電池は、2つの隣接するバイポーラ電極の間に介在するか、又はバイポーラ電極502と末端アセンブリ504(例えば末端アノードアセンブリ又は末端カソードアセンブリ)との間に介在する電池フレーム部材514を含む。
【0150】
[0167] 電池フレーム部材514の幅及び高さは、炭素材料624の幅「W」及び高さ「H」にそれぞれ相補的に配置される。電池フレーム部材514の幅は、電池フレーム部材514の底面に沿った(平行な)寸法であり、ガス流路801は電池フレーム部材514の上部に位置する(図5で示される通り)。図3に示されているX-Y-Z座標空間において、電池フレーム部材514の幅寸法はX方向であり、電池フレーム部材514の高さ寸法はY方向である。電池フレーム部材514の深さはZ方向であり、電池フレーム部材514の高さ及び幅に垂直な寸法の値である(図3では「D」として示される)。いくつかの実施形態では、フレーム部材514は実質的に長方形であり、長方形の外観を表すように一方の寸法が他方の寸法よりも明らかに大きい。
【0151】
[0168] 図5に示されている一実施形態では、電池フレーム部材514は、外縁部と、開放された内部領域を画定する内縁部とを有する。いくつかの実施形態では、電池フレーム部材514は、開放内部領域が、電池フレーム部材514によって受け入れられる末端バイポーラ電極板702の電気化学的に活性な領域の中心に対して、及び/又は末端バイポーラ電極板702上に配置されたカソードアセンブリの中心に対して、ほぼ中心になるように構成される。いくつかの実施形態では、電池フレーム部材514の外縁部は電池の外表面を画定する。
【0152】
[0169] いくつかの実施形態では、電池フレーム部材514は、第1の(末端)バイポーラ電極板702に対向してこれを保持する第1の側面と、電池フレーム部材514の第1の側面とは反対側に配置されており第2のバイポーラ電極板に対向してこれを保持する第2の側面とを含む。第2の電極板は、電池内の第1の電極板に隣接しており、これと平行である。第1の電極板及び第2の電極板と末端電極板とは、実質的に同じ大きさ及び形状を有するように構成することができる。いくつかの実施形態では、電池フレーム部材514は、一方の側でアノードバイポーラ電極板と接触しており、他方の側で隣接するバイポーラセルのカソードバイポーラ電極板と接触している。
【0153】
[0170] いくつかの実施形態では、電池フレーム部材514は、フレーム全体の内縁部の周りに延在するシール部材516(図5)を含む。いくつかの実施形態では、電池フレーム部材514は、第1の内縁部に沿って配置された第1のシール部材516を含む。いくつかの実施形態では、第1のシール部材はO-リングである。いくつかの実施形態では、第1のシール部材516はガスケットである。いくつかの実施形態では、各内縁部は、電気化学電池が組み立てられてバイポーラ電極板又はエンドプレートと電池フレーム部材514との間にシール界面が得られる場合に、対応するバイポーラ電極板又は末端電極板と電池フレーム部材514との間でシールが圧縮されたときに実質的に漏れのないシールを形成する、その中に取り付けられたシール部材516を収容するように構成される。シール部材は、対向するバイポーラ電極板と電池フレーム部材514との間、又はバイポーラ電極板と、末端電極板と、フレーム部材514との間に電解液を保持するように協働する。いくつかの実施形態では、シール部材516は、フレーム部材514上にオーバーモールドされる。いくつかの実施形態では、シール部材516は、フォームインプレイス液体硬化プロセスを使用してフレーム部材514に貼り付けられる。いくつかの実施形態では、シール部材516は、フレーム部材514の深さよりも上に延びており、組み立て中に圧縮される。
【0154】
[0171] いくつかの実施形態では、電池フレーム部材514は、サイクル中の電圧異常を防ぐために、電池フレーム部材514の底部に溝を備える。いくつかの実施形態では、溝は、溝棚406と、溝棚406の下の空隙スペース407とを含む。いくつかの実施形態では、カソード炭素材料624は、溝棚406上に載る。溝棚の存在と溝棚の下の空隙が、サイクル中の電圧異常を防止することが見出された。いくつかの実施形態では、溝棚406の下には空隙スペース407が存在せず、溝棚406は電池フレーム部材514の底部まで延在する。いくつかの実施形態では、カソード炭素材料624が上に載る溝棚406は、溝棚406の下の空隙スペース407を含めて0.5~5cmの高さであってよく、電池フレーム部材514の幅の底部全体に沿って3~10mmの幅であってよい。
【0155】
[0172] いくつかの実施形態では、電池フレーム部材は、第1のフレーム部材と第2のフレーム部材とを含む。いくつかの実施形態では、第1のフレーム部材と第2のフレーム部材は水平方向に積み重ねられ、垂直方向に配向され、第1のフレーム部材の第1の外縁は第2のフレーム部材の第2の外縁と実質的に同一平面上にある。
【0156】
[0173] 電池のいくつかの実施形態では、各電池フレーム部材514は、電池フレーム部材514の周縁部の溶接ビード805を使用して、隣接するフレーム部材514にプラスチック溶接される。
【0157】
[0174] いくつかの実施形態では、電池フレーム部材514は、通気孔802の真上の、電池フレーム部材514の上部にガス流路801を備える。通気孔802は、ガスがガス流路801内に逃げることを可能にする。いくつかの実施形態では、各電池フレーム部材514に関連するガス流路801は覆われているため、電池フレーム部材が一体に組み立てられた後にガス流路801の上にカバーを設ける必要はない。本明細書に記載のように、ガス流路801は、電池フレーム部材514内の電気化学セルからのガスのための電池ヘッドスペースである。いくつかの実施形態では、フレーム部材514には、ガス流路の充填孔(図示のようにプラグ809がその中に挿入される)を通して電解液が充填され、ガス流路801は通気孔802とも連通する。電池が電解液で充填されると、プラグ809が充填孔に挿入され、ガス流路801が環境から密閉される。充填孔と通気孔802が同一でない実施形態では、通気穴は電池作動中にガス流路に対して開いたままである。別の実施形態では、電解液は通気孔を通して電池に添加される。
【0158】
[0175] いくつかの実施形態では、通気孔802の直下の電池フレーム部材514の上部に、ガスをガス流路801に逃がすことができる液体迂回システムが存在する。ガス流路801は電池500全体にガスを連通させる一方で、液体迂回システムは、一連の特徴によりガス流路801への液体の侵入を防止する。いくつかの実施形態では、液体迂回システムは、2つの部分遮断壁804と複数の二次遮断壁808とを有する一次ダイバータ(diverter)803を備えており、それにより液体は常に電池フレーム部材514内の開いた内部領域に確実に戻される。いくつかの実施形態では、一次ダイバータ803は、30度~60度の範囲の角度で下向きの終端部を有する水平なプラスチックの突起からなる。いくつかの実施形態では、二次遮断壁が、最小限の流体を一次ダイバータに確実に到達させる。いくつかの実施形態では、本明細書の二次遮断壁808は、激しいスロッシング又は傾きによって引き起こされる内部電解液の波を遮断するために、フレーム部材514に対して下向きと上向きが交互になるように設計される。液体迂回システムの利点の1つは、輸送中に電解液がフレーム部材内に含まれるように保持されることによって電池の品質が向上することである。
【0159】
[0176] 各電池フレーム部材514は、難燃性ポリプロピレン繊維、高密度ポリエチレン、ポリフェニレンオキシド、又はポリフェニレンエーテルから形成することができる。各電池フレーム部材514は、2つの隣接するバイポーラ電極板、又はバイポーラ電極板と末端電極板を収容することができる。各電池フレーム部材514は、通気孔802を介して受け入れられる水性電解液(例えばハロゲン化亜鉛電解液又は臭化亜鉛電解液)も収容することができる。
【0160】
[0177] 4.圧縮板
[0178] いくつかの実施形態では、電気化学セル又は電池は、電気化学セル又は電池の端部に位置する一対の圧縮板を含む。適切な圧縮板は、例えば、2018年11月27日に出願された国際公開第2019/108513号に記載されている圧縮板であってよく、本開示の範囲内で使用することができる。
【0161】
[0179] B.2.フローバイポーラ電気化学セル
[0180] 本開示で使用されるハロゲン化亜鉛フロー二次電池は、当業者に周知である。例えば、そのようなフロー電池及びそのような電池で使用され得る電解液は、米国特許出願公開第2011/0253553号(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、本開示の範囲内で使用することができる。
【0162】
[0181] ハロゲン化亜鉛フローバイポーラ二次電池の一実施形態は、2つの不活性電極を含み、各電極から適切な等距離で電極間の中央にセパレータが配置される。いくつかの実施形態では、セパレータの配置は一方の電極方向に偏っていてもよい。電解液は、追加の塩添加剤を含むハロゲン化亜鉛の水溶液である。電解液は、通常2つの別個の外部リザーバから循環システムを介してセルの2つの別個のコンパートメントに供給される。
【0163】
[0182] 電解液は水溶性の錯化剤を含み、これは、充電中に電池のカソード側でハロゲン分子と迅速に反応して水と非混和性である濃いオイルを形成し、カソードリザーバの底に沈降する。機械的手段によりハロゲン含有オイルの再循環が防止され、それにより充電中に生じる全ての単体臭素を外的に封じ込めることができる。
【0164】
[0183] 放電中、カソードリザーバの底に沈降した臭素含有液体はセルのカソード側に再導入され、それによって単体ハロゲンが還元されてハロゲン化物イオンを形成することができる。
【0165】
[0184] 充放電中、アノード側で利用される電解液は循環され、亜鉛イオンは、充電中には亜鉛金属として電極上にめっきされ、放電中には亜鉛イオンとして溶液中に再溶解される。
【0166】
[0185] C.亜鉛金属リザーバを有するバイポーラ電気化学セル
[0186] さらに別の態様では、本開示は、亜鉛金属リザーバを含むハロゲン化亜鉛二次電池を提供する。リザーバは、亜鉛金属の供給源であり、当業者に周知の形態で存在する亜鉛金属から構成される。亜鉛金属リザーバ内の亜鉛金属の形態の非限定的な例としては、例えば、粉末、顆粒、箔、シート、ワイヤ、又は削りくずが挙げられる。この亜鉛金属及び亜鉛金属リザーバは、電池の充電中に生じるアノードの亜鉛めっきに加えて、それとは別にハロゲン化亜鉛二次電池中に存在する。いくつかの実施形態では、亜鉛金属リザーバは、電解液と接触しており、以下に説明するように電解液中の亜鉛を補充するために使用される。
【0167】
[0187] 本開示のこの態様のハロゲン化亜鉛二次電池は、ハロゲン化亜鉛静的(非流動性)二次電池又はハロゲン化亜鉛フロー二次電池であってよく、これらは上述したハロゲン化亜鉛静的(非流動性)二次電池又はハロゲン化亜鉛フロー二次電池と実質的に同様であってよい。したがって、これらのハロゲン化亜鉛二次電池の構造及び機能については、再度詳細には説明しない。ただし、本開示のこの態様のハロゲン化亜鉛二次電池は、ハロゲン化亜鉛二次電池内に亜鉛金属リザーバを有する点で、上述したハロゲン化亜鉛二次電池と異なる。ハロゲン化亜鉛二次電池中に亜鉛金属リザーバを有することに加えて、上述したハロゲン化亜鉛二次電池との他の大きな違いは、ハロゲン化亜鉛二次電池中のハロゲン化亜鉛電解液が、上述した1種以上の亜鉛添加剤を含むハロゲン化亜鉛電解液、又は上述した1種以上の亜鉛添加剤を含まないハロゲン化亜鉛電解液のいずれかであることである。
【0168】
[0188] 例えば、亜鉛金属リザーバに加えて、本開示のこの態様のハロゲン化亜鉛二次電池は、少なくとも1つのバイポーラ電極とハロゲン化亜鉛電解液とを含む少なくとも1つの電気化学セルも含む。バイポーラ電極は、バイポーラ電極板を含み、バイポーラ電極板の一方の側にアノード面を有し、バイポーラ電極板のアノード面の反対の他方の側にカソード面を有する。ハロゲン化亜鉛電解液はバイポーラ電極板と接触している。ハロゲン化亜鉛電解液は、上述した1種以上の亜鉛添加剤を含むハロゲン化亜鉛電解液、又は上述した1種以上の亜鉛添加剤を含まないハロゲン化亜鉛電解液のいずれかである。
【0169】
[0189] いくつかの実施形態では、亜鉛金属リザーバは、少なくとも1つの電気化学セル内にあり、電解液と接触している。例えば、亜鉛金属リザーバは電解液中にあってよい。いくつかの実施形態では、亜鉛金属リザーバは、少なくとも1つの電気化学セルのアノードとも接触している。しかしながら、亜鉛金属リザーバは、少なくとも1つの電気化学セルのカソードとは接触していない。
【0170】
[0190] 亜鉛金属リザーバ内の亜鉛金属は、少なくとも1つの電気化学セルのバランスが崩れた場合に亜鉛金属を利用できるようなものである。電気化学セルは、アノード反応とカソード反応の効率に差があるため、バランスが崩れ、電解液中のハロゲン化物イオンに対する亜鉛イオンの比率が変動する可能性がある。アノードに比べてカソードの効率が低いために電解液中のハロゲン化物イオンに対する亜鉛イオンの比率が低下すると、亜鉛金属リザーバの一部が電解液に溶解し、ハロゲン化物イオンに対する亜鉛イオンの比率を回復させることができる。
【0171】
[0191] 亜鉛金属リザーバは、少なくとも1つの電気化学セルの中に、電解液の約1重量%~20重量%の量で存在することができる。
【0172】
[0192] 理論に拘束されるものではないが、少なくとも1つの電気化学セル内に存在する亜鉛金属リザーバ内の亜鉛金属は、電池の作動中にハロゲン化亜鉛電解液に溶解し、これが充電中に消費される電解液中の亜鉛イオンを置き換えることによって、電池の充電中に電解液中のハロゲン化亜鉛イオンに対する亜鉛イオンの比率を増加させることになるという仮説が立てられる。したがって、電解液中のハロゲン化物イオン(例えば臭化物イオン)に対する亜鉛イオンの比率を改善することにより、亜鉛金属リザーバの追加は、ひいては高次の負に帯電した亜鉛錯体(例えば[ZnBrや[ZnBr2-)の形成を減少させ、クーロン効率を改善する。
【実施例
【0173】
[0193] III.実施例
[0194] 実施例1:非ハロゲン化亜鉛添加剤を含有する電解液の調製
[0195] 0.7M~2.9Mの濃度範囲の臭化亜鉛と、0.4M~0.7Mの濃度範囲のトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛と、0.4~2.6Mの濃度範囲のハロゲン化カリウム塩と、0.3~0.5Mの濃度範囲のテトラアルキルアンモニウム塩とを含む水性電解液を調製した。上と同じ組成を有するが亜鉛添加剤(トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛など)を含まない水性電解液も調製し、対照の電解液とした。
【0174】
[0196] 実施例2:試作セルにおける非ハロゲン化亜鉛添加剤を含む電解液の試験
[0197] 試験セルは、板状に形成された炭化チタン被覆チタン金属集電体を使用して組み立てられた。アノードプレートとカソードプレートは、厚さ12mmの高密度ポリエチレンフレームによって隔てた平行配置で配置した。この高密度ポリエチレンフレームは、2枚の対向する鋼製圧縮板の間で構成要素を圧縮することによってセルをシールすることができる埋め込まれたシールリングを含んでいた。セルを組み立てる前に、13mlの導電性のアセトン系接着剤を使用して、カーボンフェルトをカソードチタン集電体に取り付けた。組み立てたセルを、実施例1に記載の電解液210mlで満たした。試験セルを、Arbin Instruments社製の電池サイクル試験機を使用してサイクルさせた。セルは4Wの定電力で8~16Ahの容量まで充電した。充電電圧の限界は2.4Vであった。セルは、電圧が1.1Vに達するまで4Wの定電力で放電した。図6は、電解液の臭化亜鉛利用率の関数としてのセル集団の平均クーロン効率を示す。トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛を含まない対照電解液と比較して、0.4~0.7Mのトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛を添加すると、より高いレベルの臭化亜鉛利用率まで充電した際のクーロン効率が向上した。理論に拘束されるものではないが、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛は、電解液中の臭化物に対する亜鉛の比率を改善し、その結果[ZnBrや[ZnBr2-などの高次の負に荷電した亜鉛錯体の形成を低減することによってクーロン効率を改善すると仮説が立てられる。
【0175】
[0198] 実施例3:ラマン分光法を用いたハロゲン化亜鉛化学種の分析
[0199] 電解液のサンプルを実施例1の通りに調製した。データは、532nmの励起レーザーを使用してRenishaw社製のinVia共焦点ラマン顕微鏡で収集した。サンプルは、電解液の液滴をシリコンウェハ上にピペットで乗せ、液滴の中心をビームに合わせることによって準備した。データポイントは、60cm-1~350cm-1で2cm-1間隔で収集した。レーザー強度は、120cm-1~210cm-1で最適なピーク強度が得られるように調整した。ラマンシフトのピークフィッティングは、[ZnBr2-(150cm-1)、[ZnBr(164cm-1)、及びZnBr(181cm-1)に対応するシャープなピークを含む127cm-1~203cm-1の領域に限定した。ピークをフィッティングするために、最初に127cm-1と203cm-1の点を結ぶ直線的なバックグラウンドを適用した。3つのローレンツピークをフィッティングし、それらの位置を期待値の±1cm-1に制限し、半値全幅を14cm-1に制限した(経験的に良いフィッティングが得られることが分かっている)。図7は、臭化亜鉛濃度を変化させた電解液の[ZnBr2-ピーク高さ比を示す。亜鉛添加剤を含まない対照の電解液と比較して、0.4~0.7Mのトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛を含む電解液では、同等の臭化亜鉛濃度での[ZnBr2-ピーク高さ比が減少した。
【0176】
[0200] 他の実施形態
[0201] 前述した内容は、本明細書に開示の電解液及び電池の好ましい実施形態のみに関するものであり、特許請求の範囲及びその均等物によって規定される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書において多数の変更及び修正を行い得ることは明らかである。
【0177】
[0202] 前述した内容から、及び様々な図面を参照することにより、当業者であれば、本開示の範囲から逸脱することなく本開示に対して一定の変更を行うこともできることを理解するであろう。本開示のいくつかの実施形態が図面に示されているが、本開示は当該技術分野で許容される限り広い範囲であり、明細書も同様に読まれることが意図されているため、本開示がそれらに限定されることは意図されていない。したがって、上記説明は限定として解釈されるべきではなく、特定の実施形態の単なる例示として解釈されるべきである。当業者であれば、本明細書に添付した特許請求の範囲及び趣旨の範囲内で他の変更を想到するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】