(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2の検出
(51)【国際特許分類】
C07K 14/165 20060101AFI20241001BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20241001BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241001BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20241001BHJP
G01N 33/533 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C07K14/165
G01N21/64 F ZNA
G01N33/569 L
G01N33/531 A
G01N33/533
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024517411
(86)(22)【出願日】2022-09-20
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2022076119
(87)【国際公開番号】W WO2023041808
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】319016046
【氏名又は名称】エムアイピー ディスカバリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MIP Discovery Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】トムソン,アラン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,リアノン
(72)【発明者】
【氏名】チュラク,ジョアンナ
(72)【発明者】
【氏名】ゲレイロ,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】グローヴズ,アリステア
(72)【発明者】
【氏名】カンファロッタ,フランチェスコ
【テーマコード(参考)】
2G043
4H045
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043DA02
2G043EA01
2G043EA13
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA09
4H045BA11
4H045BA12
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045CA01
4H045EA60
(57)【要約】
分子インプリントポリマーは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分配列に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子に相補的な認識部位を少なくとも1つ含み、アミノ酸配列は長さが50アミノ酸以下であり、(i)NSNNLDSKVGG、(ii)NYNYLYRLFRKS、(iii)YRLFRKSNLKPF、(iv)STEIYQAGSTPC、(v)CNGVEGFNCYF、(vi)GSTPCNGVEGF、(vii)CYFPLQSYGFQP、(viii)GFQPTNGVGYQ、および(ix)LQSYGFQPTNGから選択される配列を含む。分子インプリントポリマーを調製する方法も提供される。分子インプリントポリマーと蛍光物質とを含む複合体も提供され、本発明の分子インプリントポリマーおよび複合体を含む組成物も提供される。本発明の分子インプリントポリマー、複合体、および組成物は、SARS-CoV-2の検出に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分配列に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子に相補的な認識部位を少なくとも1つ含む分子インプリントポリマーであって、該アミノ酸配列が、長さが50アミノ酸以下であり、
(i)NSNNLDSKVGG、
(ii)NYNYLYRLFRKS、
(iii)YRLFRKSNLKPF、
(iv)STEIYQAGSTPC、
(v)CNGVEGFNCYF、
(vi)GSTPCNGVEGF、
(vii)CYFPLQSYGFQP、
(viii)GFQPTNGVGYQ、および
(ix)LQSYGFQPTNG
から選択される配列を含む、分子インプリントポリマー。
【請求項2】
前記配列が、
(i)NSNNLDSKVGG、
(ii)STEIYQAGSTPC、および
(iii)CYFPLQSYGFQP
から選択される、請求項1に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項3】
前記配列がNSNNLDSKVGGである、請求項2に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項4】
前記ポリマーのサイズが500nm未満、好ましくは250nm未満、さらにより好ましくは100nm未満である、先行する請求項のいずれかに記載の分子インプリントポリマー。
【請求項5】
(i)N-フルオレセイニルアクリルアミド、
(ii)アクリルアミド、
(iii)アクリル酸tert-ブチル(TBAc)、
(iv)3-O-アクリロイル-1,2:5,6-ビス-O-イソプロピリデン-D-グルコフラノース、
(v)メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル(CF3)、
(vi)N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA)、
(vii)スクアラミドモノマー7(SQ7)、および
(viii)N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(BIS)
からなる群から選択されるモノマーを含む、先行する請求項のいずれかに記載の分子インプリントポリマー。
【請求項6】
前記ポリマーが、N-フルオレセイニルアクリルアミドおよび/または3-O-アクリロイル-1,2;5,6-ビス-O-イソプロピリデン-D-グルコフラノースを含む、請求項5に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項7】
前記ポリマーが、(i)から(viii)を全て含む、請求項6に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項8】
SARS-CoV-2に結合する認識部位を少なくとも1つ含む分子インプリントポリマーを調製する方法であって、
(a)SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分配列に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子を有する担体物質であって、該鋳型分子が表面に露出するように該担体物質に固定化されている担体物質を提供する工程と、
(b)該表面に接触させて重合性組成物を提供する工程と、
(c)該表面に接触した該重合性組成物の制御重合を行って分子インプリントポリマーを生成する工程と、
(d)該分子インプリントポリマーを該表面から分離する工程と、を含み、
該アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、
(i)NSNNLDSKVGG、
(ii)NYNYLYRLFRKS、
(iii)YRLFRKSNLKPF、
(iv)STEIYQAGSTPC、
(v)CNGVEGFNCYF、
(vi)GSTPCNGVEGF、
(vii)CYFPLQSYGFQP、
(viii)GFQPTNGVGYQ、および
(ix)LQSYGFQPTNG
から選択される配列を含む、方法。
【請求項9】
前記配列が、
(x)NSNNLDSKVGG、
(xi)STEIYQAGSTPC、および
(xii)CYFPLQSYGFQP
から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記配列がNSNNLDSKVGGである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記鋳型分子のN末端が追加のシステイン残基を含むように改変されている、請求項8から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記鋳型分子が、前記システイン残基と前記鋳型の最後の残基との間にグリシン残基を含むように改変されている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(i)請求項1から7のいずれかに記載の分子インプリントポリマーと、
(ii)蛍光物質と、
を含む、複合体。
【請求項14】
SARS-CoV-2の検出における、(1)請求項1から7のいずれかに記載の分子インプリントポリマー、または(2)請求項13に記載の複合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2を検出するための化合物、その製造方法およびそれを含む複合体、ならびにSARS-CoV-2を検出するための組成物に関し、より詳細には、SARS-CoV-2の検出における前述した事柄の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年に起きた新型コロナウイルス、すなわち重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の大流行は、パンデミックを引き起こし、その結果、公衆衛生および経済の両方が世界規模で危機に陥っている。
【0003】
国際社会は、診断検査および抗体検査のいずれもが、それぞれこのウイルスのさらなる伝搬の防止およびこのウイルスの罹患率の理解への鍵となることをすぐに認識したが、信頼でき、安価に製造でき、容易に用いることのできる検査キットの需要は、高いままである。
【0004】
診断検査については、現在、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)に基づく試験が、医療提供者が市民を診断する際に用いる主な手段である。RT-PCR試験は、多くは鼻咽頭スワブによって得られる呼吸器サンプルにおいてウイルスリボ核酸(RNA)を検出することで機能する。
【0005】
RT-PCR検査は広く普及しているが、問題がある。RT-PCR試験の実施には多大な労力が必要になり得る。この試験には、高度な技能を持つスタッフが必要であり、例えば標本誤差やサンプルの不適切な取り扱いなどにより、偽陰性の結果が生じ得る。実際には、例えばサンプルのクロスコンタミネーションにより、偽陽性の結果が生じる場合もある。また、この試験は高価であり、結果に関しては所要時間が長い(1日から2日)。
【0006】
迅速抗原試験は、集団検診にも用いられ、個人の都合に合わせて実施できる可搬型で迅速な(15分から30分)分析を提供する。しかしながら、この検査は、感度が低く、受容体として抗体を利用しているので狭い温度範囲およびpH範囲でしか機能しないため、普及が制限されている。
【0007】
SARS-CoV-2の検出に用いられる代替的な受容体として、分子インプリントポリマー(MIP)が提案されている。
【0008】
Cennamoらは、「Proof of Concept for a Quick and Highly Sensitive On-Site Detection of SARS-CoV-2 by Plasmonic Optical Fibers and Molecularly Imprinted Polymers」において、MIPを連結したプラスチック光ファイバ(POF)ベースの表面プラズモン共鳴(SPR)センサーの製造について詳述している。MIPは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のS1サブユニットに対して製造された。
【0009】
Parisiらは、「“Monoclonal-type”plastic antibodies for SARS-CoV-2 based on Molecularly Imprinted Polymers」において、鋳型としてSARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)を用いたMIPの調製について述べている。
【0010】
Cubukらは、「Computational analysis of functional monomers used in molecular imprinting for promising COVID-19 detection」において、SARS-CoV-2に対するMIPを製造するための鋳型および適切なモノマーを同定することを目的としたコンピュータによる研究について述べている。
【0011】
国際公開2021/195626(A1)号パンフレットには、ウイルス全体を鋳型として用いてSARS-CoV-2に対するMIPを調製することが開示されている。
【0012】
MIPの製造方法も知られている。例えば、米国特許10 189 934(B2)号、Piletskyらによる「Molecular Imprinted Polymers for Cell Recognition」、およびMalikらによる「Molecular Imprinted Polymer for human viral pathogen detection」を参照のこと。
【0013】
MIPの製造にウイルス全体、S1サブユニット全体、またはSARS-CoV-2のRBD全体のいずれを用いても、スケーラビリティについて重大な問題が生じる。
【0014】
RT-PCR試験や迅速抗原試験は、ある人が現在ウイルスに感染しているかどうかを証明するために行われるが、抗体試験は、RT-PCR試験や迅速抗原試験とは対照的に、むしろ、ある人がこれまでにそのウイルスに感染したことがあるかどうかを証明するために行われる。抗体試験は、多くは患者の血液サンプルに対して行われ、合成抗原と(存在するのであれば)患者の血液サンプル中の抗体との間の結合の存在を検出することで機能する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の一つの目的は、SARS-CoV-2を検出するための代替手段を提供することである。さらなる目的は、このような手段によって、現在用いられているポリメラーゼ連鎖反応に基づくアッセイおよび迅速抗原試験に代わる選択肢を提供することである。本発明の具体的な実施形態の目的は、改良された検出手段を提供することを含む。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分配列に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子に相補的な認識部位を少なくとも1つ含む分子インプリントポリマーを提供するものであって、アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、
(i)NSNNLDSKVGG、
(ii)NYNYLYRLFRKS、
(iii)YRLFRKSNLKPF、
(iv)STEIYQAGSTPC、
(v)CNGVEGFNCYF、
(vi)GSTPCNGVEGF、
(vii)CYFPLQSYGFQP、
(viii)GFQPTNGVGYQ、および
(ix)LQSYGFQPTNG
から選択される配列を含む。
【0017】
本発明は、SARS-CoV-2に結合する認識部位を少なくとも1つ含む分子インプリントポリマーを調製する方法も提供し、当該方法は、
(a)SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分配列に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子を有する担体物質であって、鋳型分子が表面に露出するように担体物質に固定化されている、担体物質を準備する工程と、
(b)重合性組成物を表面に接触させる工程と、
(c)表面に接触した重合性組成物の制御重合を行って分子インプリントポリマーを生成する工程と、
(d)分子インプリントポリマーを表面から分離する工程と、を含む方法であって、
アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、
(i)NSNNLDSKVGG、
(ii)NYNYLYRLFRKS、
(iii)YRLFRKSNLKPF、
(iv)STEIYQAGSTPC、
(v)CNGVEGFNCYF、
(vi)GSTPCNGVEGF、
(vii)CYFPLQSYGFQP、
(viii)GFQPTNGVGYQ、および
(ix)LQSYGFQPTNG
から選択される配列を含む。
【0018】
さらに、本発明の分子インプリントポリマーと蛍光物質とを含む複合体が提供される。
【0019】
またさらに、本発明の分子インプリントポリマーまたは複合体を含む組成物が提供される。
【0020】
本発明の分子インプリントポリマー、本発明の複合体、および本発明の組成物は、全て、SARS-CoV-2の検出に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細
本発明は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分配列に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子に相補的な認識部位を少なくとも1つ含む分子インプリントポリマーを提供するものであって、アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、
(i)NSNNLDSKVGG、
(ii)NYNYLYRLFRKS、
(iii)YRLFRKSNLKPF、
(iv)STEIYQAGSTPC、
(v)CNGVEGFNCYF、
(vi)GSTPCNGVEGF、
(vii)CYFPLQSYGFQP、
(viii)GFQPTNGVGYQ、および
(ix)LQSYGFQPTNG
から選択される配列を含む。
【0022】
分子インプリントにおいては、インプリントしようとしている化合物の存在下、適切な溶媒中で、機能性モノマー(場合によっては架橋性モノマー)を重合させる。インプリントしようとしている化合物は、鋳型と呼ばれる。重合工程の際、モノマーは、静電的相互作用、疎水性相互作用、またはその他の相互作用によって鋳型と相互作用し、これにより、鋳型分子に相補的な、認識部位と呼ばれる結合部位がポリマーに形成される。鋳型を除去した後、ポリマーマトリックスは、鋳型に相補的な認識部位を保持している。この意味での相補的とは、ポリマー中の相互作用基が、鋳型分子および鋳型分子を部分構造として含むその他の分子(すなわち、本発明ではSARS-CoV-2)中の相互作用基と相互作用するのに適した位置となるように配置されることを意味する。
【0023】
SARS-CoV-2の配列は公知である。SARS-CoV-2は、高密度にグリコシル化されたスパイクタンパク質を利用して、宿主細胞に侵入する。スパイクタンパク質は、ホモ三量体糖タンパク質であって、各モノマーは、S1およびS2という2つのサブユニットを含んでおり、これらのサブユニットはそれぞれ、膜付着および膜融合を媒介するものである。S1サブユニットの受容体結合ドメイン(RBD)は、宿主細胞受容体連結に関与していることが示されている。
【0024】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質のRBDの配列は公知であり、理論的にはその中の任意の配列を鋳型として用いることができるが、後段におけるいくつかの用途においては、標的内の保存されていない配列を鋳型として選択することが有利である。これにより、分子インプリントポリマーが、高い特異性で所望の標的に結合することが確実となる。
【0025】
Wrappら、2020
1の補足
図5は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質と、その他2つのコロナウイルス株、SARS-CoVおよびRaTG13のスパイクタンパク質との配列アラインメントを示す。RBDが強調表示されている。また、異なる株間で保存されている配列および保存されていない配列も強調表示されている。
【0026】
本発明において、分子インプリントポリマーにおける「少なくとも1つの認識部位」は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分構造に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子に相補的であって、アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、(i)NSNNLDSKVGG、(ii)NYNYLYRLFRKS、(iii)YRLFRKSNLKPF、(iv)STEIYQAGSTPC、(v)CNGVEGFNCYF、(vi)GSTPCNGVEGF、(vii)CYFPLQSYGFQP、(viii)GFQPTNGVGYQ、および(ix)LQSYGFQPTNGから選択される配列を含む。
【0027】
分子インプリントポリマーにおける「少なくとも1つの認識部位」は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分構造に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子に相補的であって、アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、(i)NSNNLDSKVGG、(ii)STEIYQAGSTPC、および(iii)CYFPLQSYGFQPから選択される配列を含むことが好ましい。
【0028】
特に好ましい実施形態において、分子インプリントポリマーにおける「少なくとも1つの認識部位」は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分構造に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子に相補的であって、アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、配列NSNNLDSKVGGを含む。
【0029】
さらに特に好ましい実施形態において、分子インプリントポリマーにおける「少なくとも1つの認識部位」は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分構造に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子に相補的であって、アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、配列CYFPLQSYGFQPを含む。
【0030】
本発明において、鋳型のサイズは、最大で50アミノ酸までの範囲である。好ましくは、鋳型は50アミノ酸よりも短く、より好ましくは、鋳型は30アミノ酸よりも短く、最も好ましくは、鋳型は20アミノ酸よりも短く、例えば、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、16アミノ酸、17アミノ酸、18アミノ酸、または19アミノ酸である。
【0031】
短いペプチド配列を用いることによって(例えば、スパイクタンパク質全体またはRBD全体の場合とは対照的に)、試薬コストが大幅に削減され、また標的タンパク質の特定領域に対して親和性の高い結合部位が創出されるため、分子インプリントポリマーの単一クローン性が向上する。
【0032】
本発明の分子インプリントポリマーのサイズは、当該分子インプリントポリマーの意図される後段における使用によってかなりの程度まで決定されるであろう。とは言え、好適には、分子インプリントポリマーは、500nmよりも短いものであり、より好適には、250nmよりも短いものであり、さらにより好適には、100nmよりも短いものであって、90nmより短くてもよく、さらには70nmより短くてもよい。
【0033】
本発明は、本発明の分子インプリントポリマーを含む組成物も提供する。好適には、このような組成物における分子インプリントポリマーは、平均サイズが500nmよりも短いものであり、より好適には、250nmよりも短いものであり、さらにより好適には、100nmよりも短いものであって、90nmより短くてもよく、さらには70nmより短くてもよい。
【0034】
分子インプリントポリマーのサイズを求めるための適切な方法としては、ゼータサイザーウルトラ(Zetasizer Ultra)(マルバーン・パナリティカル社(Malvern Panalytical))などを用いた動的光散乱法、ディスク遠心分離、ナノサイト(NanoSight)NS300(マルバーン・パナリティカル社)などを用いたナノ粒子軌跡解析法、調整可能抵抗パルスセンシング、原子間力顕微鏡法、および電子顕微鏡法が挙げられる。ナノ粒子軌跡解析法、調整可能抵抗パルスセンシング、原子間力顕微鏡法、および電子顕微鏡法は、単一の分子インプリントポリマーのサイズを求めるのに特に適している。本明細書に示す実施例においては、分子インプリントポリマーのサイズは、ナノサイトNS300装置を用いて求めた。
【0035】
分子インプリントポリマーに関連してのサイズとは、分子インプリントポリマーの直径のことをいう。
【0036】
分子インプリントポリマーの調製に用いることのできるモノマーとしては、ビニルモノマー、アリルモノマー、アセチレン、アクリル酸塩、メタクリル酸塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、クロロアクリル酸塩、イタコン酸塩、トリフルオロメチルアクリル酸塩、アミノ酸の誘導体(例えば、エステルまたはアミド)、ヌクレオシド、ヌクレオチド、および炭水化物が挙げられる。分子インプリントポリマーの安定化に役立つ架橋性モノマーが含まれていてもよい。分子インプリントポリマーを調製するのに適した架橋性モノマーの典型的な例としては、ジメタクリル酸エチレングリコール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、N,N’-ビスアクリロイルピペラジン、およびN,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(BIS)が挙げられるが、これらに限定されない。当業者であれば、特定の鋳型に適したモノマーおよび架橋性モノマーを選択することができるであろう。あるいは、この選択を支援するために、様々な組み合わせ的計算手法を用いることができるであろう。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、分子インプリントポリマーは、(i)N-フルオレセイニルアクリルアミド、(ii)アクリルアミド、(iii)アクリル酸tert-ブチル(TBAc)、(iv)3-O-アクリロイル-1,2:5,6-ビス-O-イソプロピリデン-D-グルコフラノース、(v)メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル(CF3)、(vi)N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA)、(vii)スクアラミドモノマー7(SQ7)、および(viii)N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(BIS)からなる群から選択される少なくとも1つのモノマーを含む。より好ましくは、分子インプリントポリマーは、少なくともN-フルオレセイニルアクリルアミドおよび/または3-O-アクリロイル-1,2;5,6-ビス-O-イソプロピリデン-D-グルコフラノースを含む。最も好ましくは、分子インプリントポリマーは、(i)から(viii)を全て含む。この文脈では、分子インプリントポリマーは、ポリマーであり、特定されたモノマーを含むモノマーの混合物を重合させることで製造される場合には、特定されたモノマーを含むと言われることが理解される。
【0038】
有利には、本発明の分子インプリントポリマーは頑強で、広範囲の温度およびpHにおいて機能するが、このことは、貯蔵寿命および貯蔵条件の改善につながり、また、より困難な環境において機能することができるということを意味している。また、本発明の分子インプリントポリマーは、優れた生体適合性を有しており、結合反応速度が速い。
【0039】
本発明は、SARS-CoV-2に結合する認識部位を少なくとも1つ含む分子インプリントポリマーを調製する方法も提供し、当該方法は、
(a)SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分配列に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子を有する担体物質であって、鋳型分子が表面に露出するように担体物質に固定化されている、担体物質を準備する工程と、
(b)重合性組成物を表面に接触させる工程と、
(c)表面に接触した重合性組成物の制御重合を行って分子インプリントポリマーを生成する工程と、
(d)分子インプリントポリマーを表面から分離する工程と、を含む方法であって、
アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、
(i)NSNNLDSKVGG、
(ii)NYNYLYRLFRKS、
(iii)YRLFRKSNLKPF、
(iv)STEIYQAGSTPC、
(v)CNGVEGFNCYF、
(vi)GSTPCNGVEGF、
(vii)CYFPLQSYGFQP、
(viii)GFQPTNGVGYQ、および
(ix)LQSYGFQPTNG
から選択される配列を含む。
【0040】
本方法の利点は、MIPが、より均一な結合部位親和性分布を有し、鋳型の溶出を向上させて下流における鋳型の浸出を防止する手段を提供する点にある。
【0041】
適切な担体物質としては、ポリマー樹脂、多糖類、ガラス、または金属表面が挙げられる。
【0042】
担体物質は、ビーズ状であってもよいし、繊維状であってもよいし、膜状であってもよいし、毛管状であってもよい。本発明の好ましい実施形態において、担体物質はガラスである。担体物質がガラスビーズ状であることがさらに好ましい。
【0043】
重合性組成物は、重合に必要なモノマーを含有していなければならない。適切なモノマーについては、本明細書の他の箇所において述べる。
【0044】
工程(c)は、制御重合の適用を伴う。制御重合によって分子インプリントポリマーを製造するための様々な技術が、当業者には知られている。
【0045】
制御重合の例としては、制御リビングラジカル重合(LRP)などのラジカル重合、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、および制御縮重合が挙げられる。
【0046】
重合は、例えば、加熱、電流の印加(電解重合)、酸化還元触媒の一種(もしくは複数種)、過硫酸塩、または過酸化物の添加、ガンマ線放射を含む放射線照射またはマイクロ波放射、あるいは紫外線または可視光の照射などによって開始させることができ、通常は数分から数時間かかる。本明細書に記載の実施例では、過硫酸塩を用いて重合を開始した。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、重合反応は、合成された分子インプリントポリマーのサイズが比較的小さい段階で終了する。サイズに関する設定については、本明細書の他の箇所において述べる。
【0048】
分子インプリントポリマーが合成されると、これを分離し回収しなければならない。固定化されている鋳型からの高親和性分子インプリントポリマーの分離は、加熱により錯形成を阻害すること、溶液のpHを変化させること、イオン強度を変化させること、または尿素、グアニジン、もしくは分子インプリントポリマーよりも強く鋳型と相互作用する物質を添加することによって、行うことができる。
【0049】
本方法の好ましい実施形態において、弱く結合した物質は、分離工程の前に洗浄によって除去される。
【0050】
分子インプリントポリマーが回収されると、これを、例えばクロマトグラフィー、ろ過、および/または電気泳動によって、さらに精製してもよい。
【0051】
本発明の分子インプリントポリマーに関連して上記した理由により、本発明の方法の好ましい実施形態において、アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、(i)NSNNLDSKVGG、(ii)STEIYQAGSTPC、および(iii)CYFPLQSYGFQPから選択される配列を含む。特に好ましい実施形態において、アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、配列NSNNLDSKVGGを含む。さらに特に好ましい実施形態において、アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であり、配列CYFPLQSYGFQPを含む。
【0052】
担体物質に鋳型分子を固定化する方法は、決定的に重要なものではない。しかしながら、いくつかの方法については、鋳型分子の末端の1つにシステイン残基が存在することが有利である。したがって、鋳型分子がもともと末端システイン残基を含んでいないような方法の実施形態については、追加のシステイン残基を含むように鋳型分子のN末端を改変することが好ましい。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態においては、追加のシステイン残基は、鋳型分子の末端に直接付加されるが、他の実施形態においては、末端のシステインと鋳型分子との間にスペーサーが含まれる。好ましい実施形態では、スペーサーは、グリシン残基を含む。
【0054】
したがって、本発明の特に好ましい実施形態において、鋳型分子は、アミノ酸配列NSNNLDSKVGGを含み、システイン(C)残基とグリシン(G)残基とを含むようにN末端が改変されて、インプリントに用いる分子がCGNSNNLDSKVGGとなる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態においては、鋳型分子は、担体物質に直接付加されるが、他の実施形態においては、担体物質と鋳型分子との間に1つまたは複数のリンカーが含まれる。本発明で用いられる適切なリンカーは、当業者によく知られている。本明細書に示す実施例においては、用いた担体物質はガラスビーズであり、鋳型分子を固定化する前に、(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS)を用いてシラン処理された。APTMSは、ガラスビーズの表面と鋳型分子との間でリンカーとして機能する。本明細書に示す実施例においては、鋳型を固定化する前に、ヨード酢酸n-スクシンイミジル(SIA)を用いてAPTMSを修飾した。
【0056】
リンカーおよびスペーサーは、立体障害によってもたらされる悪影響を防止するように機能する。
【0057】
本発明の方法の利点は、高速でスケーラブルであり、短い鋳型のみを用いることである。
【0058】
本発明は、さらに、本発明の分子インプリントポリマーと蛍光物質とを含む複合体を提供する。
【0059】
蛍光物質とは、特定の波長、つまり吸収波長または励起波長で光を吸収し、その後、より高い波長、つまり発光波長で発光する能力を有する分子である。
【0060】
可視化の目的で蛍光物質を分子に結合させることは、当該技術分野において一般的である。したがって、このような結合のための方法もよく知られている。例えば、アミノ基、チオール基、または炭水化物基を介して蛍光物質を結合することができる。本明細書に示す実施例においては、分子インプリントポリマーのアミノモノマーが提供するアミン基を介して、蛍光物質を分子インプリントポリマーに結合させた。
【0061】
本発明の複合体には任意の蛍光物質を用いることができるが、後段におけるいくつかの用途、特に診断用途においては、明るく安定した蛍光物質を選択することが有利である。
【0062】
共役ポリマーナノ粒子(CPN)(商標)は、生体適合性界面活性剤内に封入された半導体発光ポリマー(LEP)コアからなる高蛍光ナノ粒子である。CPNは、その蛍光が強力であること、すなわち、感度が高く光安定性が高いことにより、診断用途に特に適している。CPNのサイズは、70nmから80nmあたりであり、現在ストリームバイオ社(Stream Bio)から入手可能なものは、420nmから1130nmの発光波長で蛍光を示す。本明細書に示す実施例においては、CPN510およびCPN610(いずれもストリームバイオ社から入手可能)に本発明の分子インプリントポリマーを結合させた。
【0063】
本発明の好ましい実施形態において、蛍光物質はCPNである。
【0064】
本発明は、本発明の複合体を含む組成物も提供する。
【0065】
本発明の分子インプリントポリマー、複合体、および組成物は、様々な用途に用いられ得る。
【0066】
本発明の分子インプリントポリマー、複合体、および組成物をSARS-CoV-2の検出に用いることが具体的に想定されている。分子インプリントポリマー、複合体、および組成物は、例えば、医療現場または診療現場において用いられ得る診断アッセイのようなアッセイに用いられてもよい。このようなアッセイの例としては、ハイスループットスクリーニングに用い得る、ラテラルフローアッセイ(LFA)および酵素結合性免疫吸着アッセイ(ELISA)型のアッセイが挙げられる。本発明の分子インプリントポリマー、複合体、および組成物は、センサーに用いられてもよい。
【0067】
本明細書に示す実施例においては、4%メルカプトウンデカン酸(MUDA)チップ(エタノール中、4%MUDAの自己組織化単分子膜で官能化した、ビアコア(Biacore)SIAキットAu表面を用いて調製)にナノMIPを共有結合により固定化することによって、ナノMIP-SPRセンサーを調製した。熱検出法で用いるために、ナノMIP官能化スクリーン印刷電極(SPE)も調製した。
【0068】
本発明の分子インプリントポリマー、複合体、および組成物は、研究の現場においてSARS-CoV-2を検出するのに用いられてもよい。
【0069】
本発明の分子インプリントポリマー、複合体、および組成物は、医薬として用いられてもよい。
【0070】
本発明の分子インプリントポリマーは、SARS-CoV-2に対して高い親和性を有することが望ましい。本明細書の文脈における高い親和性とは、分子インプリントポリマーがSARS-CoV-2に結合する親和性が、「ブランク」分子インプリントポリマーがSARS-CoV-2に結合する親和性よりも、少なくとも3倍、好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、高いことを意味する。この文脈でのブランクとは、鋳型の非存在下で形成された分子インプリントポリマーを意味する。
【0071】
結合親和性とは、単一分子とその結合相手との間、例えば本件においては分子インプリントポリマーとその標的であるSARS-CoV-2との間の結合相互作用の強度である。結合親和性は、典型的には、平衡解離定数(KD)によって測定および報告される。KD値が小さいほど、2つの分子間の結合親和性は高い。
【0072】
本発明の分子インプリントポリマー、複合体、および組成物をSARS-CoV-2の検出に用いる場合、分子インプリントポリマーは、500nM未満、好ましくは250nM未満、さらにより好ましくは200nM未満のKDでSARS-CoV-2に結合することが好ましい。
【0073】
KDを測定するのに適した方法としては、例えば、ビアコアシリーズの装置(サイティバ社(Cytiva))またはMP-SPRナビ装置(バイオナビ社(Bionavis))を用いて行われ得る表面プラズモン共鳴(SPR)が挙げられる。
【0074】
次いで、添付の図面を参照しつつ、特定の実施例において本発明をさらに説明する。図面は、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1A】
図1は、ペプチド1およびSARS-CoV-2のSタンパク質の組み換え体をインプリントしたナノMIPの結合反応速度を示す2つの表面プラズモン共鳴センサーグラムを示す。
【
図1B】
図1は、ペプチド1およびSARS-CoV-2のSタンパク質の組み換え体をインプリントしたナノMIPの結合反応速度を示す2つの表面プラズモン共鳴センサーグラムを示す。
【
図2】
図2は、ナノサイトNS300装置を用いて得た軌跡であり、ペプチド1をインプリントしたナノMIPのCPN510への結合が成功したことを示す。
【
図3】
図3は、ペプチド1およびペプチド3をインプリントしたナノMIPとSARS-CoV-2のSタンパク質の組み換え体との間の結合の特異性を示すドットプロットである。
【
図4】
図4は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPとSARS-CoV-2との間の結合の特異性を示すドットプロットである。
【
図5】
図5は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPとSARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質(S1)との間の結合の特異性を示すドットプロットである。
【
図6A】
図6は、ペプチド1(
図6a)およびペプチド3(
図6b)に対するナノMIPで官能化したスクリーン印刷電極(SPE)にSARS-CoV-2のORF8(1fg/mLから10pg/mL)を含有するPBSを添加した場合の熱伝達法の生データを、R
th対時間でプロットしたものである。
【
図6B】
図6は、ペプチド1(
図6a)およびペプチド3(
図6b)に対するナノMIPで官能化したスクリーン印刷電極(SPE)にSARS-CoV-2のORF8(1fg/mLから10pg/mL)を含有するPBSを添加した場合の熱伝達法の生データを、R
th対時間でプロットしたものである。
【
図7A】
図7は、ペプチド1に対するナノMIPで官能化したスクリーン印刷電極(SPE)にSARS-CoV-2のSタンパク質RBD(1fg/mLから10pg/mL)を含有するPBSを添加した場合の熱伝達法の生データを、R
th対時間でプロットしたもの(
図7a)、およびR
th値の%変化を、系に注入したSARS-CoV-2のSタンパク質RBDの濃度に対してプロットした用量反応曲線(
図7b)である。
【
図7B】
図7は、ペプチド1に対するナノMIPで官能化したスクリーン印刷電極(SPE)にSARS-CoV-2のSタンパク質RBD(1fg/mLから10pg/mL)を含有するPBSを添加した場合の熱伝達法の生データを、R
th対時間でプロットしたもの(
図7a)、およびR
th値の%変化を、系に注入したSARS-CoV-2のSタンパク質RBDの濃度に対してプロットした用量反応曲線(
図7b)である。
【
図8A】
図8は、ペプチド3に対するナノMIPで官能化したスクリーン印刷電極(SPE)にSARS-CoV-2のSタンパク質RBD(1fg/mLから10pg/mL)を含有するPBSを添加した場合の熱伝達法の生データを、R
th対時間でプロットしたもの(
図8a)、およびR
th値の%変化を、系に注入したSARS-CoV-2のSタンパク質RBDの濃度に対してプロットした用量反応曲線(
図8b)である。
【
図8B】
図8は、ペプチド3に対するナノMIPで官能化したスクリーン印刷電極(SPE)にSARS-CoV-2のSタンパク質RBD(1fg/mLから10pg/mL)を含有するPBSを添加した場合の熱伝達法の生データを、R
th対時間でプロットしたもの(
図8a)、およびR
th値の%変化を、系に注入したSARS-CoV-2のSタンパク質RBDの濃度に対してプロットした用量反応曲線(
図8b)である。
【
図9A】
図9は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、極端な温度およびpHに耐える能力を報告するものである。
図9aは、室温、37℃、および50℃における、空気中のAu表面上の単独ナノMIPの典型的な原子間力顕微鏡法(AFM)による形態像(広範囲像において緑色の枠で表されている)である。
図9bは、各温度におけるナノMIPの対応する断面プロファイルのプロットを示す。
図9cは、様々なpHレベルにおいて、AFM像から得たナノMIPの体積(n=120)を比較する箱ひげ図を示す。
図9dは、ナノMIPベースのセンサーの臨床基準液(ユニバーサル輸送培地)に対する熱応答とダイエットコカコーラ(pH=3.5)に対する熱応答とを比較したものである。
図9eは、ダイエットコカコーラを試験液として用いた場合に偽陽性の結果を与える市販の迅速抗原試験を示す。
【
図9B】
図9は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、極端な温度およびpHに耐える能力を報告するものである。
図9aは、室温、37℃、および50℃における、空気中のAu表面上の単独ナノMIPの典型的な原子間力顕微鏡法(AFM)による形態像(広範囲像において緑色の枠で表されている)である。
図9bは、各温度におけるナノMIPの対応する断面プロファイルのプロットを示す。
図9cは、様々なpHレベルにおいて、AFM像から得たナノMIPの体積(n=120)を比較する箱ひげ図を示す。
図9dは、ナノMIPベースのセンサーの臨床基準液(ユニバーサル輸送培地)に対する熱応答とダイエットコカコーラ(pH=3.5)に対する熱応答とを比較したものである。
図9eは、ダイエットコカコーラを試験液として用いた場合に偽陽性の結果を与える市販の迅速抗原試験を示す。
【
図9C】
図9は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、極端な温度およびpHに耐える能力を報告するものである。
図9aは、室温、37℃、および50℃における、空気中のAu表面上の単独ナノMIPの典型的な原子間力顕微鏡法(AFM)による形態像(広範囲像において緑色の枠で表されている)である。
図9bは、各温度におけるナノMIPの対応する断面プロファイルのプロットを示す。
図9cは、様々なpHレベルにおいて、AFM像から得たナノMIPの体積(n=120)を比較する箱ひげ図を示す。
図9dは、ナノMIPベースのセンサーの臨床基準液(ユニバーサル輸送培地)に対する熱応答とダイエットコカコーラ(pH=3.5)に対する熱応答とを比較したものである。
図9eは、ダイエットコカコーラを試験液として用いた場合に偽陽性の結果を与える市販の迅速抗原試験を示す。
【
図9D】
図9は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、極端な温度およびpHに耐える能力を報告するものである。
図9aは、室温、37℃、および50℃における、空気中のAu表面上の単独ナノMIPの典型的な原子間力顕微鏡法(AFM)による形態像(広範囲像において緑色の枠で表されている)である。
図9bは、各温度におけるナノMIPの対応する断面プロファイルのプロットを示す。
図9cは、様々なpHレベルにおいて、AFM像から得たナノMIPの体積(n=120)を比較する箱ひげ図を示す。
図9dは、ナノMIPベースのセンサーの臨床基準液(ユニバーサル輸送培地)に対する熱応答とダイエットコカコーラ(pH=3.5)に対する熱応答とを比較したものである。
図9eは、ダイエットコカコーラを試験液として用いた場合に偽陽性の結果を与える市販の迅速抗原試験を示す。
【
図9E】
図9は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、極端な温度およびpHに耐える能力を報告するものである。
図9aは、室温、37℃、および50℃における、空気中のAu表面上の単独ナノMIPの典型的な原子間力顕微鏡法(AFM)による形態像(広範囲像において緑色の枠で表されている)である。
図9bは、各温度におけるナノMIPの対応する断面プロファイルのプロットを示す。
図9cは、様々なpHレベルにおいて、AFM像から得たナノMIPの体積(n=120)を比較する箱ひげ図を示す。
図9dは、ナノMIPベースのセンサーの臨床基準液(ユニバーサル輸送培地)に対する熱応答とダイエットコカコーラ(pH=3.5)に対する熱応答とを比較したものである。
図9eは、ダイエットコカコーラを試験液として用いた場合に偽陽性の結果を与える市販の迅速抗原試験を示す。
【
図10A】
図10は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、様々なSARS-CoV-2抗原に対する感度を報告するものであり、当該ナノMIPの感度をSARS-CoV-2抗体と比較したものである。
図10aは、1fg・mL
-1から10pg・mL
-1のSARS-CoV-2のRBDを含有するPBSに曝露した際のナノMIP官能化SPEの典型的な熱伝達法のデータを示す。
図10bから
図10dは、(i)スパイクタンパク質に対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(ナノMIPは、アルファ変異体およびデルタ変異体の両方に由来するSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対して試験した)(
図10b)、(ii)SARS-CoV-2のRBDに対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(
図10c)、ならびにiii)各SARS-CoV-2抗原とネガティブコントロールであるORF8、IL-6、およびHSAと、に対するナノMIPセンサーの熱応答を示す、典型的な用量反応曲線(エラーバーはSDを表す)を示す。NIPベースのセンサーのスパイクタンパク質に対する応答についても示す(
図10d)。
図10eは、本発明のナノMIPのLoD値を、市販の迅速抗原試験および文献にある最近開発された多数の抗原試験と比較したものである。
【
図10B】
図10は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、様々なSARS-CoV-2抗原に対する感度を報告するものであり、当該ナノMIPの感度をSARS-CoV-2抗体と比較したものである。
図10aは、1fg・mL
-1から10pg・mL
-1のSARS-CoV-2のRBDを含有するPBSに曝露した際のナノMIP官能化SPEの典型的な熱伝達法のデータを示す。
図10bから
図10dは、(i)スパイクタンパク質に対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(ナノMIPは、アルファ変異体およびデルタ変異体の両方に由来するSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対して試験した)(
図10b)、(ii)SARS-CoV-2のRBDに対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(
図10c)、ならびにiii)各SARS-CoV-2抗原とネガティブコントロールであるORF8、IL-6、およびHSAと、に対するナノMIPセンサーの熱応答を示す、典型的な用量反応曲線(エラーバーはSDを表す)を示す。NIPベースのセンサーのスパイクタンパク質に対する応答についても示す(
図10d)。
図10eは、本発明のナノMIPのLoD値を、市販の迅速抗原試験および文献にある最近開発された多数の抗原試験と比較したものである。
【
図10C】
図10は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、様々なSARS-CoV-2抗原に対する感度を報告するものであり、当該ナノMIPの感度をSARS-CoV-2抗体と比較したものである。
図10aは、1fg・mL
-1から10pg・mL
-1のSARS-CoV-2のRBDを含有するPBSに曝露した際のナノMIP官能化SPEの典型的な熱伝達法のデータを示す。
図10bから
図10dは、(i)スパイクタンパク質に対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(ナノMIPは、アルファ変異体およびデルタ変異体の両方に由来するSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対して試験した)(
図10b)、(ii)SARS-CoV-2のRBDに対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(
図10c)、ならびにiii)各SARS-CoV-2抗原とネガティブコントロールであるORF8、IL-6、およびHSAと、に対するナノMIPセンサーの熱応答を示す、典型的な用量反応曲線(エラーバーはSDを表す)を示す。NIPベースのセンサーのスパイクタンパク質に対する応答についても示す(
図10d)。
図10eは、本発明のナノMIPのLoD値を、市販の迅速抗原試験および文献にある最近開発された多数の抗原試験と比較したものである。
【
図10D】
図10は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、様々なSARS-CoV-2抗原に対する感度を報告するものであり、当該ナノMIPの感度をSARS-CoV-2抗体と比較したものである。
図10aは、1fg・mL
-1から10pg・mL
-1のSARS-CoV-2のRBDを含有するPBSに曝露した際のナノMIP官能化SPEの典型的な熱伝達法のデータを示す。
図10bから
図10dは、(i)スパイクタンパク質に対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(ナノMIPは、アルファ変異体およびデルタ変異体の両方に由来するSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対して試験した)(
図10b)、(ii)SARS-CoV-2のRBDに対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(
図10c)、ならびにiii)各SARS-CoV-2抗原とネガティブコントロールであるORF8、IL-6、およびHSAと、に対するナノMIPセンサーの熱応答を示す、典型的な用量反応曲線(エラーバーはSDを表す)を示す。NIPベースのセンサーのスパイクタンパク質に対する応答についても示す(
図10d)。
図10eは、本発明のナノMIPのLoD値を、市販の迅速抗原試験および文献にある最近開発された多数の抗原試験と比較したものである。
【
図10E】
図10は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPの、様々なSARS-CoV-2抗原に対する感度を報告するものであり、当該ナノMIPの感度をSARS-CoV-2抗体と比較したものである。
図10aは、1fg・mL
-1から10pg・mL
-1のSARS-CoV-2のRBDを含有するPBSに曝露した際のナノMIP官能化SPEの典型的な熱伝達法のデータを示す。
図10bから
図10dは、(i)スパイクタンパク質に対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(ナノMIPは、アルファ変異体およびデルタ変異体の両方に由来するSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対して試験した)(
図10b)、(ii)SARS-CoV-2のRBDに対するナノMIPセンサーおよび抗体センサーの熱応答(
図10c)、ならびにiii)各SARS-CoV-2抗原とネガティブコントロールであるORF8、IL-6、およびHSAと、に対するナノMIPセンサーの熱応答を示す、典型的な用量反応曲線(エラーバーはSDを表す)を示す。NIPベースのセンサーのスパイクタンパク質に対する応答についても示す(
図10d)。
図10eは、本発明のナノMIPのLoD値を、市販の迅速抗原試験および文献にある最近開発された多数の抗原試験と比較したものである。
【
図11A】
図11は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPと臨床サンプル由来のSARS-CoV-2との間の結合を示す。
図11aは、3D印刷した添加セルの試作品の概略図であり、1)熱電対用入口、2)官能化SPE、3)液体の手動添加を容易にするための底が開いた貯留槽、および4)実験ノイズを減少させるための取り外し可能な蓋、である。
図11bは、
図11aに示す添加セルの写真である。
図11cは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でのSARS-CoV-2スパイクタンパク質(1fg・mL
-1から10pg・mL
-1)の熱検出に試作品の添加セルを用いた際に得られる典型的な用量反応曲線を示す。
図11dは、COVID陽性患者およびCOVID陰性患者(n=7)由来の臨床サンプルに対するナノMIPセンサーの熱応答を示す。
【
図11B】
図11は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPと臨床サンプル由来のSARS-CoV-2との間の結合を示す。
図11aは、3D印刷した添加セルの試作品の概略図であり、1)熱電対用入口、2)官能化SPE、3)液体の手動添加を容易にするための底が開いた貯留槽、および4)実験ノイズを減少させるための取り外し可能な蓋、である。
図11bは、
図11aに示す添加セルの写真である。
図11cは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でのSARS-CoV-2スパイクタンパク質(1fg・mL
-1から10pg・mL
-1)の熱検出に試作品の添加セルを用いた際に得られる典型的な用量反応曲線を示す。
図11dは、COVID陽性患者およびCOVID陰性患者(n=7)由来の臨床サンプルに対するナノMIPセンサーの熱応答を示す。
【
図11C】
図11は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPと臨床サンプル由来のSARS-CoV-2との間の結合を示す。
図11aは、3D印刷した添加セルの試作品の概略図であり、1)熱電対用入口、2)官能化SPE、3)液体の手動添加を容易にするための底が開いた貯留槽、および4)実験ノイズを減少させるための取り外し可能な蓋、である。
図11bは、
図11aに示す添加セルの写真である。
図11cは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でのSARS-CoV-2スパイクタンパク質(1fg・mL
-1から10pg・mL
-1)の熱検出に試作品の添加セルを用いた際に得られる典型的な用量反応曲線を示す。
図11dは、COVID陽性患者およびCOVID陰性患者(n=7)由来の臨床サンプルに対するナノMIPセンサーの熱応答を示す。
【
図11D】
図11は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPと臨床サンプル由来のSARS-CoV-2との間の結合を示す。
図11aは、3D印刷した添加セルの試作品の概略図であり、1)熱電対用入口、2)官能化SPE、3)液体の手動添加を容易にするための底が開いた貯留槽、および4)実験ノイズを減少させるための取り外し可能な蓋、である。
図11bは、
図11aに示す添加セルの写真である。
図11cは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でのSARS-CoV-2スパイクタンパク質(1fg・mL
-1から10pg・mL
-1)の熱検出に試作品の添加セルを用いた際に得られる典型的な用量反応曲線を示す。
図11dは、COVID陽性患者およびCOVID陰性患者(n=7)由来の臨床サンプルに対するナノMIPセンサーの熱応答を示す。
【
図12】
図12は、ナノサイト粒子分析器を用いて測定したナノMIPのサイズを示す。
【
図13A】
図13は、PBS中におけるSARS-CoV-2のアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体由来のSARS-CoV-2スパイクタンパク質の、ナノMIP-LSPRセンサーを介した検出を示す。
図13aは、10aMから100nMにわたる濃度範囲のSARS-CoV-2のアルファ変異体について、波長対吸光度でプロットしたLSPRスペクトルを示す。
図13bは、SARS-CoV-2のアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体の濃度を10aMから100nMまで変化させた際の、Ag-MIP複合体のLSPR波長の変化を示す。
【
図13B】
図13は、PBS中におけるSARS-CoV-2のアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体由来のSARS-CoV-2スパイクタンパク質の、ナノMIP-LSPRセンサーを介した検出を示す。
図13aは、10aMから100nMにわたる濃度範囲のSARS-CoV-2のアルファ変異体について、波長対吸光度でプロットしたLSPRスペクトルを示す。
図13bは、SARS-CoV-2のアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体の濃度を10aMから100nMまで変化させた際の、Ag-MIP複合体のLSPR波長の変化を示す。
【
図14A】
図14は、血清中におけるSARS-CoV-2のアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体由来のSARS-CoV-2スパイクタンパク質の、ナノMIP-LSPRを介した検出を示す。
図14aは、100fMから100nMにわたる濃度範囲のSARS-CoV-2のアルファ変異体について、波長対吸光度でプロットしたLSPRスペクトルを示す。
図14bは、SARS-CoV-2のアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体の濃度を100fMから100nMまで変化させた際の、Ag-MIP複合体のLSPR波長の変化を示す。
【
図14B】
図14は、血清中におけるSARS-CoV-2のアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体由来のSARS-CoV-2スパイクタンパク質の、ナノMIP-LSPRを介した検出を示す。
図14aは、100fMから100nMにわたる濃度範囲のSARS-CoV-2のアルファ変異体について、波長対吸光度でプロットしたLSPRスペクトルを示す。
図14bは、SARS-CoV-2のアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体の濃度を100fMから100nMまで変化させた際の、Ag-MIP複合体のLSPR波長の変化を示す。
【
図15】
図15は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPと、オリジナルのSARS-CoV-2のS(スパイク)タンパク質の組換え体および/またはオミクロン変異体由来のもののいずれかと、についての結合反応速度を示す表面プラズモン共鳴センサーグラムを2つ重ねて示す。
【実施例】
【0076】
実施例1:SARS-CoV-2に対するナノMIPの合成
インプリントに適したSARS-CoV-2由来の3つのペプチドの選択
Wrappら、2020
1の補足
図5は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質と、その他2つのコロナウイルス株、SARS-CoVおよびRaTG13のスパイクタンパク質との配列アラインメントを示す。RBDが強調表示されている。本発明者らは、SARS-CoVおよびRaTG13由来の各配列との間で保存されていないことに基づき、SARS-CoV-2のRBD由来のペプチド配列を3つ(ペプチド1:NSNNLDSKVGG、ペプチド2:STEIYQAGSTPC、およびペプチド3:CYFPLQSYGFQP)、インプリント用の有力な候補として選択した。
【0077】
SARS-CoV-2に対するナノMIPの固相合成
ナノMIP合成の前に、ペプチド1、ペプチド2、およびペプチド3を、シラン処理したガラスビーズに固定化した。
【0078】
ペプチドの固定化には末端システインが必要であることに基づき、中国のオントレス社(Ontores)にペプチド1、ペプチド2、およびペプチド3を注文する際に、ペプチド1のN末端にシステイン残基を付加した。また、システインとN末端アスパラギンとの間に、スペーサーとして機能するグリシン残基をさらに付加した。したがって、オントレス社から調達されたインプリント用のペプチドは、以下の通りであった。
ペプチド1:CGNSNNLDSKVGG
ペプチド2:STEIYQAGSTPC
ペプチド3:CYFPLQSYGFQP
【0079】
ペプチドの固定化を以下のように行った。ガラスビーズ(直径およそ100μM、マイクロビーズAG社(Microbeads AG)から調達)を、4MのNaOH中で10分間煮沸することで活性化した。その後、ガラスビーズをまず脱イオン水で、次にアセトンで洗浄した後、80℃で2時間乾燥した。次いで、2%v/vの(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS)を含有するトルエン中でガラスビーズを3時間インキュベートし、アセトンで洗浄して、0.2mg/mlのヨード酢酸n-スクシンイミジル(SIA)を含有するPBS、pH7.4中に2時間置き、アセトニトリルで洗浄した。その後、0.4mg/mlのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)および0.1mg/mlのペプチドを含むPBS、pH7.4溶液中で最低4時間インキュベートすることで、ガラスビーズの表面に鋳型(ペプチド1、ペプチド2、またはペプチド3)を固定化した。水およびメタノールで洗浄することによって、過剰な鋳型を除去した。
【0080】
ペプチド被覆ガラスビーズを用いて、インプリントナノMIPを以下の通り合成した。モノマー溶液を調製し、10分間超音波処理し、窒素で5分間パージした。調製したモノマー溶液の一例は、3mgのN-フルオレセイニルアクリルアミドと、24.2mgのアクリルアミドと、31.7μLのアクリル酸tert-ブチル(TBAc)と、36mgの3-O-アクリロイル-1,2:5,6-ビス-O-イソプロピリデン-D-グルコフラノースと、13.8μLのメタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル(CF3)と、3.9mgのN-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA)と、1.3mgのスクアラミドモノマー7(SQ7)と、9mgのN,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(BIS))と、を含む。その後、60gのペプチド被覆ガラスビーズが入った250mlのデュランフラスコに、100mlのモノマー溶液を入れた。次いで、60μL/mlのN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を含む60mg/mlの過硫酸アンモニウム(APS)0.5mlを添加することで重合を開始させ、室温で1時間、重合を行った。その後、ナノ粒子が付着したガラスビーズを他の成分から分離するために、孔隙率が20μMのフリットを装着した固相抽出(SPE)カートリッジにフラスコの内容物を注ぎ入れた。次いで、およそ25mlの常温水を用いた洗浄工程を10回行って、低親和性物質を除去した。この洗浄工程における残液については、毎回廃棄した。その後、60℃のエタノール10mlを用いた洗浄工程を9回行って、高親和性ナノMIPをガラスビーズから分離した。この洗浄における残液は、ナノMIPを含有しており、毎回回収した。次いで、ナノMIPをおよそ10mlまで濃縮し、溶媒を蒸留水に置換した。
【0081】
インプリントしたナノMIPについて、ナノサイトNS300で算出した平均直径は、59nmであった。
【0082】
実施例2:SARS-CoV-2ペプチドに対するナノMIPの表面プラズモン共鳴(SPR)分析
本研究では、ビアコア3000装置を採用した。
【0083】
表面活性化およびナノMIPの固定化
4%メルカプトウンデカン酸(MUDA)チップ(エタノール中、4%MUDAの自己組織化単分子膜で官能化した、ビアコアSIAキットAu表面を用いて調製)にナノMIP(実施例1のもの)を共有結合により固定化することによって、ナノMIP-SPRセンサーを調製した。
【0084】
さらに詳細には、5μL/分の一定流速で水を用いて、装置の準備を行った。チップ調製の間はずっと、ランニングバッファーとして、水を30μl/分の一定流速で用いた。安定したベースラインが達成されるまで、水を流した。N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)の混合物(2mgのEDC+3mgのNHSを含有する400uLの水)をセンサー表面全体にわたって注入し(8μL/分の流速で8分)、表面の活性化を行った(この混合物によって、チップ表面のカルボキシル末端基がN-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルに変換される)。その後、チップ上の4つのフローセル全てに、ナノMIP(5nM)を注入した(8μL/分の流速で8分から10分)。最後に、炭酸塩緩衝液(pH9.2)を注入することで(5μL/分から30μL/分の流速で30分)、未反応NHSエステルを加水分解した。
【0085】
ナノMIPとSARS-CoV-2ペプチドとの間の相互作用の検出
SPRにおける検査の前に、ペプチド1、ペプチド2、およびペプチド3のそれぞれをウシ血清アルブミン(BSA)に結合した。
【0086】
ランニングバッファーを水からPBSに切り替えて安定したベースラインが得られたら、BSAまたはBSA-ペプチド複合体の希釈物7種(PBS中、2.33mg/ml、0.777mg/ml、259ug/ml、86ug/ml、28.8ug/ml、9.6ug/ml、3.2ug/ml)を以下のように注入した(結合フェーズ5分、解離フェーズ4分、28μl/分の流速)。フローセル1にはBSAのみを、フローセル2にはBSA-ペプチド1を、フローセル3にはBSA-ペプチド3を、注入した。
【0087】
ペプチド3をインプリントしたナノMIPについては良好な選択性が観察され、ソフトウェアによってKDは160nMと算出された(データ示さず)。
【0088】
実施例3:SARS-CoV-2のSタンパク質に対するナノMIPの表面プラズモン共鳴分析
本研究では、ビアコア3000装置を採用した。
【0089】
表面活性化およびSARS-CoV-2のSタンパク質の固定化
4%メルカプトウンデカン酸(MUDA)チップ(エタノール中、4%MUDAの自己組織化単分子膜で官能化した、ビアコアSIAキットAu表面を用いて調製)にSARS-CoV-2のSタンパク質の組換え体(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社(Native Antigen Company)から調達した全長SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質組換え体)を共有結合により固定化することによって、SARS-CoV-2のSタンパク質-SPRセンサーを調製した。
【0090】
さらに詳細には、5μl/分の一定流速で水を用いて、装置の準備を行った。チップ調製の間はずっと、ランニングバッファーとしても、水を30μl/分の一定流速で用いた。安定したベースラインが達成されるまで、水を流した。N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)の混合物(2mgのEDC+3mgのNHSを含有する400uLの水)をセンサー表面全体にわたって注入し(8μl/分の流速で8分)、表面の活性化を行った(この混合物によって、チップ表面のカルボキシル末端基がN-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルに変換される)。その後、コントロール(1%BSA(w/v)および0.5%プルロニックF127(w/v))ならびに2通りの異なる濃度のSARS-CoV-2のSタンパク質の組換え体(60nMおよび600nM)を、それぞれチップ上のフローセル1、フローセル2、およびフローセル3に注入した(8μl/分の流速で6分15秒)。最後に、炭酸塩緩衝液(pH9.2)を注入することで(30μL/分の流速で1分)、未反応NHSエステルを加水分解した。
【0091】
SARS-CoV-2のSタンパク質とナノMIPとの間の相互作用の検出
ランニングバッファーを水からPBSに切り替えて安定したベースラインが得られたら、30nM(およびその1:1段階希釈列)のペプチド1をインプリントしたナノMIPを注入した(結合フェーズ5分、解離フェーズ3分、28μl/分の流速)。
【0092】
K
Dは、ソフトウェアによって5nM(
図1a)および15nM(
図1b)と算出された。
【0093】
実施例4:SARS-CoV-2に対するナノMIPのCPNへの結合
ペプチド1およびペプチド3をインプリントしたナノMIPを、親水性のキャッピング剤内に封入された半導体発光ポリマーコアを含有する高蛍光性ナノ粒子である、ストリームバイオ社の共役ポリマーナノ粒子(CPN)に連結した。用いたCPNは、CPN510およびCPN610であり、ナノサイト3000で測定した直径は70nmから80nmである。
【0094】
図2は、ペプチド1をインプリントしたナノMIPのCPN510への結合が成功したことを示す。なお、本来の非結合ナノMIPは、主に59nmであったが、CPN510に結合すると粒子サイズの有意な変化が見られる(119nmにおけるピークを参照のこと)。
【0095】
実施例5:ナノMIPとSARS-CoV-2のSタンパク質との間の結合のドットブロット分析
異なる濃度(290ng、145ng、73ng、36ng、18ng、9ng、5ng、2ng、1ng、0.6ng、0.3ng、および0.14ng)のSARS-CoV-2のSタンパク質の組換え体(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社から調達)をニトロセルロース膜上にブロットし、その後、膜を乾燥した。その後、5%BSAを含有するPBS-T(0.05%のTween-20を含有するPBS)に室温で30分から60分浸すことで、膜のブロッキングを行った。ブロッキング後、室温で30分から60分、5%BSAを含有するPBS-Tに溶解した(1)ナノMIP-CPN510(ペプチド1をインプリント)、(2)ナノMIP-CPN510(ペプチド3をインプリント)、または(3)CPN510のみ(コントロール)と共に、膜をインキュベートした。次いで、PBS-Tを用いて、膜の洗浄を5分ずつ3回行った。その後、UV下で蛍光を観察した。
図3に示すように、ナノMIP-CPN510(ペプチド1をインプリント)を用いた場合の検出限界は、0.3ngであり、CPN510のみ(コントロール)を用いた場合よりもかなり低く、このことは、少なくともペプチド1をインプリントしたナノMIPは、SARS-CoV-2のSタンパク質と特異的に相互作用することを示している。
【0096】
実施例6:ナノMIPとSARS-CoV-2ウイルスとの間の結合のドットブロット分析
SARS-CoV-2(2×10
4pfu)を二枚のニトロセルロース膜にブロットした。また、それぞれのニトロセルロース膜には、SARS-CoV-2のSタンパク質の組換え体(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社から調達)75ngをポジティブコントロールとしてブロットし、培地をネガティブコントロールとしてブロットした。次いで、膜を静置乾燥した。その後、5%BSAを含有するPBS-T(0.05%のTween-20を含有するPBS)に室温で30分から60分浸すことで、膜のブロッキングを行った。ブロッキング後、室温で30分から60分、5%BSAを含有するPBS-Tに溶解したナノMIP-CPN510(ペプチド1をインプリント)または(2)ナノMIP-CPN510(トロポニンをインプリント)(ネガティブコントロール)と共に、膜をインキュベートした。次いで、PBS-Tを用いて、膜の洗浄を5分ずつ3回行った。その後、UV下で蛍光を観察した。
図4に示すように、培地をブロットしたニトロセルロース膜の領域では、またはナノMIP-CPN510(トロポニンをインプリント)(ネガティブコントロール)と共に膜をインキュベートした場合には、蛍光は観察されなかった。対照的に、SARS-CoV-2およびポジティブコントロールであるSARS-CoV-2のSタンパク質のいずれに関しても、ナノMIP-CPN510(ペプチド1をインプリント)と共にニトロセルロース膜をインキュベートした場合には、蛍光が観察された。このことは、少なくともペプチド1をインプリントしたナノMIPは、SARS-CoV-2と特異的に相互作用することを示している。
【0097】
実施例7:(1)ナノMIPと4種類のヒトコロナウイルス(SARS-CoV-2、HCoV-OC43、HCoV-229E、およびHCoV-HKU1)との間の結合と、(2)抗体と4種類のヒトコロナウイルス(SARS-CoV-2、HCoV-OC43、HCoV-229E、およびHCoV-HKU1)との間の結合とを比較するドットブロット分析
SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質(S1)(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社)、ヒトコロナウイルスOC43スパイク糖タンパク質(S1)(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社)、ヒトコロナウイルス229Eスパイク糖タンパク質(S1)(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社)、およびヒトコロナウイルスHKU1スパイク糖タンパク質(S1)(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社)(0.6mg/mL)を0.5μLずつ、三連でニトロセルロース膜上にブロットし(
図5の概略図に示す通り)、その後、膜を乾燥した。次いで、2mLのBSA(PBS中1%)に1時間浸すことで、膜のブロッキングを行った。ブロッキング後、30分間、(1)ナノMIP-CF770(ペプチド1をインプリント)ならびに(2)SARS-CoV-2スパイク(RBD)に特異的な3種類のモノクローナル抗体、すなわちMabRBD1106-CF770、MabRBD107-CF770、およびMabRBD5305-CF770(全てインハウスで調製し、0.01%BSAで希釈)と共に膜をインキュベートした。次いで、2mLのPBSTを用いて、膜を5分間洗浄した。その後、UV下で蛍光を観察した。
図5に示すように、ナノMIPは、SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質(S1)に選択的に結合し、ヒトコロナウイルスOC43スパイク糖タンパク質(S1)、ヒトコロナウイルス229Eスパイク糖タンパク質(S1)、およびヒトコロナウイルスHKU1スパイク糖タンパク質(S1)のいずれにも結合しなかった。さらに、ナノMIPは、試験した各抗体に匹敵する選択性と結合性を有することが示された。
【0098】
実施例8:熱検出法を用いたナノMIPとSARS-CoV-2のSタンパク質RBDとの間の結合の分析
熱検出法で用いるためのナノMIP官能化スクリーン印刷電極(SPE)の調製
4-ABA(2mM)および亜硝酸ナトリウム(2mM)を含有するHCL水溶液(0.5M)を調製し、オービタルシェーカー上で10分間穏やかに混合した。スクリーン印刷電極(SPE)を溶液中に浸漬し、Ag/AgCl参照電極(アルバテック社(Alvatek Ltd.)、ロムジー、英国)を用いて、100mV・s-1において+0.2Vから-0.6Vまでサイクリックボルタンメトリーを行った。得られた電極は、SPE/4-ABAと表記するが、脱イオン水で徹底的にすすいで非結合4-ABAを除去し、窒素を用いて乾燥した。その後、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)(100mM)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(20mM)を含有するPBS緩衝溶液(pH=5)と共にインキュベートすることで、カルボキシル基を活性化した。ドロップキャスティングにより、SPEの作用電極上に8μLのEDC/NHS溶液を堆積させた。1時間後、電極を脱イオン水ですすぎ、乾燥させて、SPE/4-ABA/EDC+NHS電極を得た。この後、8μLの所与のナノMIP溶液(ペプチド1をインプリントしたナノMIP「P1C6」またはペプチド3をインプリントしたナノMIP「P3C6」)を、穏やかに撹拌した後、作用電極上に堆積させた。3時間後、SPE/4-ABA/EDC+NHS/ナノMIP電極を脱イオン水ですすぎ、穏やかな窒素流で乾燥させた後、使用時までPBS中にて4℃で保存した。
【0099】
ナノMIP官能化スクリーン印刷電極(SPE)を用いたナノMIPとSARS-CoV-2のSタンパク質RBDとの間の結合の検出
3D印刷したフローセルを用いることで、上記のナノMIP官能化SPEによる測定を容易に行えるようにした。セルにSPEを実装し、熱電対によって液の温度を測定した(T2)。各測定には、新しく調製したナノMIP官能化SPEを用いた。van Grinsvenらに記載されているような伝熱デバイスにフローセルを接続した。インビボ条件を模倣するように37.00±0.02℃に設定されたヒートシンクの温度(銅製のブロック、T1)を能動的に制御するラボビュー(LabView)ソフトウェアを用いて、このデバイスを操作した。Geeretsらに記載されているように、電力抵抗器(22Ω)に取り付けられた比例・積分・微分(PID)コントローラーによって、シグナルについてのフィードバックを調節した。PIDパラメータについては、全ての実験において、最適値であるP=1、I=10、およびD=0.2に固定した。
【0100】
全ての測定において、フローセルをPBSで満たし、30分間放置してベースライン温度シグナルを確実に安定化させ、その後、最初にPBSを注入してブランク測定とした。濃度を次第に上昇させていった(0pg・mL
-1から10pg・mL
-1)各標的バイオマーカー(SARS-CoV-2のSタンパク質RBDまたはSARS-CoV-2のORF8(ネガティブコントロールとして))のPBS溶液(3mL)を実験に先立って調製し、必要となるまで4℃で保存した。各バイオマーカーの注入については、LSP02-1Bデュアルチャネルシリンジ(ロンガープレシジョンポンプ社(Longer Precision Pump Co.)、河北、中国)ポンプを用いて、250μL・分
-1で12分かけて行った。各バイオマーカーの注入後、次の注入の前に、システムを30分間安定させた。実験を通して、ヒートシンクを37.00℃に保つのに必要な電力で温度勾配(T
1-T
2)を割ることによって、熱抵抗(R
th)を求めた。R
thおよび標準偏差(SD)は、各濃度および最初のPBSの注入それぞれにおけるベースラインシグナルからの600個のデータポイントの平均を用いて算出された(
図6、
図7a、および
図8a)。このデータを用いて用量反応曲線を作成し、センサーの線形範囲で3シグマ法を用いて検出限界(LoD)を算出した(
図7bおよび
図8b)。グラフ中のエラーバーは、SD値に関する。
図6は、SARS-CoV-2のORF8に対する熱応答が非常に限定的であることを示しているが、
図7および
図8は、ペプチド1およびペプチド3をインプリントしたナノMIPでは、いずれも、SARS-CoV-2のSタンパク質RBDを用いて良好な応答が観察されたことを示している。
【0101】
実施例9:ナノMIPの頑強さの分析
ペプチド1をインプリントしたMIPの、極端な温度およびpHに耐える能力を調査した。
【0102】
温度
原子間力顕微鏡法(AFM)を用いて、吸着されたナノMIPの形態に温度上昇がどのような影響を及ぼすかを、同じナノMIPについて室温、37℃、および50℃においてイメージングを行うことによって調べた。
【0103】
JPK ナノウィザード(Nanowizard) 4 XP バイオサイエンス(ブルカーナノ社(Bruker, Nano GmbH)、ベルリン、ドイツ)において、AFM測定を行った。カンチレバー長が約225μmでバネ定数が約48N・m-1であるPPP-NCL-Wプローブ(ナノセンサーズ社(Nanosensors)、ヌーシャテル、スイス)を用い、タッピングモードにおいて、空気中での測定を行った。カンチレバー長が約140μmでバネ定数が約0.1N・m-1であるMLCT-Eプローブ(ブルカー社、カリフォルニア、米国)を用い、定量イメージング(QI)モードにおいて、液中での測定を行った。Au被覆Siチップを基板として用いた(Si-Mat社、カウフェリング、ドイツ)。ドロップキャスティングの前に、75℃に加熱したミリQ水、アンモニア、および過酸化水素の5:1:1混合物に5分間浸漬することによって、チップを洗浄した。その後、チップをミリQ水ですすぎ、窒素を用いて乾燥した。ナノMIP溶液をミリQ水で約2.54μg・mL-1に希釈し、Au被覆表面上でドロップキャスティング(20μL)を行い、ペトリディッシュで最低4時間、周囲条件で乾燥した。高温加熱ステージ(HTHS、JPKバイオAFM - 0.1℃の解像度)を温度コントローラーとして用いて、37℃および50℃におけるイメージングを容易に行えるようにした。
【0104】
典型的なAFM像および対応する断面プロファイルプロットをそれぞれ示す
図9aおよび
図9bは、ナノMIPの形態が、温度上昇による影響を受けなかったことを示している。
【0105】
ナノMIPの体積は、Gwyddionを用いて算出した。多数の液滴を追跡することによって、室温から50℃までのナノMIPの平均体積の変化は、最小限(約6%の減少)であったことが明らかになった。
【0106】
したがって、ナノMIPの形態は、比較的広い温度範囲にわたって不変である。
【0107】
最高温度121℃で15分間のオートクレーブに供したナノMIPを用いて、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対してビアコア3000装置を用いたSPR結合分析も行った。
【0108】
より詳細には、直後に述べるプロセスにしたがって、4%メルカプトウンデカン酸(MUDA)チップ(エタノール中、4%MUDAの自己組織化単分子膜で官能化した、ビアコアSIAキットAu表面を用いて調製)に、調製したナノMIP(実施例1のもの)をそのまま、または121℃でおよそ15分間オートクレーブした後、共有結合により固定化することによって、2つのナノMIP-SPRセンサーを調製した。
【0109】
5μl/分の一定流速で水を用いて、装置の準備を行った。チップ調製の間はずっと、ランニングバッファーとして、水を30μl/分の一定流速で用いた。安定したベースラインが達成されるまで、水を流した。N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)の混合物(2mgのEDC+3mgのNHSを含有する400uLの水)をセンサー表面全体にわたって注入し(8μL/分の流速で8分)、表面の活性化を行った(この混合物によって、チップ表面のカルボキシル末端基がN-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルに変換される)。その後、チップ上の4つのフローセル全てに、ナノMIP(5nM)を注入した(8μL/分の流速で8分から10分)。最後に、炭酸塩緩衝液(pH9.2)を注入することで(5μL/分から30μL/分の流速で30分)、未反応NHSエステルを加水分解した。
【0110】
ランニングバッファーを水からPBSに切り替えて安定したベースラインが得られたら、SARS-CoV-2のSタンパク質(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社から調達した全長SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質の組換え体)の希釈物5種(PBS中、30mM、15mM、7.5mM、3.75mM、および1.88mM)を、コントロール流路中の適切なコントロールと共に、注入した(結合フェーズ約5分、解離フェーズ少なくとも2分、28μl/分の流速)。その後、2つのチップから得られた結果を重ね合わせ、ソフトウェアでナノMIPのKD値を算出すると、オートクレーブの前後で非常に類似していた(それぞれ、7nMおよび3nM)が、このことは、高温に曝露した後も結合親和性に影響はないことを実証している。オートクレーブ(滅菌)によって、細菌による劣化なく水中でナノMIPを長期保存することが容易なものとなるので、ナノMIPの貯蔵寿命において非常に有利である。対照的に、抗体では、37℃を越える温度で親和性が有意に低下する。
【0111】
pH
AFMを用いて、様々なpHレベルの液体中において吸着されたナノMIP(n=120)の体積を測定することによって、ナノMIPの極端なpHに耐える能力の評価も行った。より具体的には、AFMの動作条件内で、異なるpHレベル(5.5から8.5)の液体中、室温(23±1℃)においてQI測定を行った。最初の測定は、純粋なミリQ水(pH5.5)中で行い、その後アンモニアを添加してpHを上昇させた。
【0112】
上記のように、ナノMIPの体積をGwyddionを用いて算出したところ、ナノMIPの体積の平均は、pH5.5からpH8.5までごくわずかしか変化しなかった(約3%の減少)ことが明らかになり、このことは、吸着されたナノMIPの形態が、広いpH範囲にわたって不変であったことを強調するものである(
図9c参照)。
【0113】
さらに、開発したナノMIP試験(実施例10を参照)の臨床基準液(ユニバーサル輸送培地、UTM)に対する熱応答とダイエットコカコーラ(pH=3.5)に対する熱応答とを比較した。この結果によって、この2つの液体の熱応答の間には統計的な有意差はないことが実証された(
図9dを参照)。対照的に、市販の抗体ベースの迅速抗原試験は、pHの変化によって大きな影響を受け、酸性のソフトドリンク(ダイエットコカコーラ)を試験液として用いた場合には、偽陽性の結果が生じる(
図9eを参照)。
【0114】
実施例10:熱検出法を用いたナノMIPとSARS-CoV-2抗原との間の結合と、SARS-CoV-2抗体とSARS-CoV-2抗原との間の結合との比較
実施例8の手順にしたがって、ナノMIP官能化スクリーン印刷電極(SPE)(ペプチド1をインプリントしたナノMIPを用いた)を製造した。
【0115】
実施例8の手順にしたがって、SARS-CoV-2抗体官能化SPEも製造した。
【0116】
ナノMIP官能化スクリーン印刷電極(SPE)またはSARS-CoV-2抗体官能化スクリーン印刷電極(SPE)を用いたナノMIPまたはSARS-CoV-2抗体とSARS-CoV-2抗原との間の結合の検出
ナノMIP官能化SPEを、3D印刷した樹脂製フローセルに実装し、ヒートシンクと貯液槽との間に界面を創出することによって、SARS-CoV-2抗原(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社から調達した全長SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質(アルファ変異体)の組換え体、アベクサ社(Abbexa)(ケンブリッジ、英国)から調達したSARS-CoV-2スパイク受容体結合ドメイン(RBD)(デルタ変異体)の組換え体、または医学研究審議会タンパク質リン酸化およびユビキチン化ユニット(Medical Research Council Protein Phosphorylation and Ubiquitylation Unit)(ダンディー、英国)から得たSARS-CoV-2のRBDのいずれか)の熱検出を行った。2つの熱電対によって、ヒートシンクの温度(T1)および貯液槽の温度(T2)を1秒おきに測定し、ヒートシンクを37.00±0.02℃に保つのに必要な電力で温度勾配(T1-T2)を割ることによって、熱抵抗(Rth)を得た。標的がナノMIPに付着すると、固体-液体界面における熱伝達は減少し(温度勾配が大きくなり)、Rthの無視できない上昇へとつながった。
【0117】
全ての実験について、熱測定デバイスは、ラボビューソフトウェアを用いて制御され、電力抵抗器(22Ω)に取り付けられた比例・積分・微分(PID)コントローラーによって、シグナルについてのフィードバックを調節した。PIDパラメータは、ノイズを低減するように最適化され、P=1、I=13、およびD=0.2に設定された。
【0118】
貯液槽をPBSで満たし、30分静置して、R
thのベースラインシグナルを確実に安定させた。次に、SARS-CoV-2抗原の濃度を次第に上昇させていった(1fg mL
-1から10pg・mL
-1)5種のPBS溶液(3mL)を、自動シリンジポンプ(LSP02-1B、ロンガープレシジョンポンプ社、河北、中国)を用い、250μL・分
-1で12分かけてフローセルに注入した。次の注入の前に、システムを30分間安定させた。本実験では、R
thの段階的な上昇を示す生の熱データプロットが得られたが、ここでの安定したプラトーは、濃度を上昇させた溶液の注入を表している(
図10aを参照)。各濃度注入における安定化プラトーの平均および標準偏差(SD)をとることによって、熱プロットから用量反応曲線(
図10bから
図10d)を作成した。線形範囲で3シグマ法(3×基準SD)を用いて、用量反応曲線から検出限界(LoD)値を算出した。
【0119】
SARS-CoV-2抗体官能化SPEを用いて、ナノMIPのセンシング性能と抗体受容体のセンシング性能との直接比較を容易なものとした。熱検出結果(
図10bを参照)によって、SARS-CoV-2スパイクタンパク質(アルファ変異体)に対する応答は、ナノMIPベースのセンサー(LoD=9.9±2.5fg・mL
-1)と抗体ベースのセンサー(LoD=8.9±4.1fg・mL
-1)とで非常に類似していることが明らかとなったが、このことは、スパイクタンパク質に対するナノMIPの特異性が、市販の試験で用いられる抗体に匹敵するということを強調するものである。
【0120】
ナノMIP受容体のウイルス突然変異を検出する能力についても、SARS-CoV-2スパイクタンパク質(デルタ変異体)に対する特異性を測定することによって調べた。得られたLoD(6.1±2.9fg・mL
-1)がアルファ変異体について得られた値と非常に類似していたので、結果(
図10b)は、ナノMIPセンサーがデルタ変異体を検出するのに有効であったことを示している。このことは、ナノMIPセンサーが、少量のアルファ変異体スパイクタンパク質およびデルタ変異体スパイクタンパク質の両方を同等に検出することができ、新規の変異体が存在することによる試験の有効性の低下に関する継続中の懸念がある潜在的な商業用途に非常に有望であることを実証するものである。
【0121】
SARS-CoV-2のRBDに対する熱応答を測定することによって、ナノMIP受容体の汎用性についても調べた(
図10cを参照)。直接比較を目的として、抗体受容体についても試験した。SARS-CoV-2のRBDについてのLoD値は、抗体センサー(85.5±15.0fg・mL
-1)と比較して、ナノMIPセンサーでは約20分の1(3.9±1.0fg・mL
-1)であった。結果として、このことは、ナノMIPが抗体よりも汎用性が高いことを実証しているが、その理由は、全長スパイクタンパク質についてのLoDは抗体に匹敵するものであったが、RBDについてのLoDは有意に低かったためである。
【0122】
臨床サンプルにおいてよく見られる干渉物質である3つのネガティブコントロール、オープンリーディングフレーム8(ORF8)、インターロイキン-6(IL-6)、およびヒト血清アルブミン(HSA)を用いて、ナノMIPセンサーの選択性も包括的に試験した。SARS-CoV-2抗原とナノMIPとの間に高度な結合が生じ、これにより、最も高い濃度(10pg・mL-1)において、スパイクタンパク質(0.23℃・W-1)およびRBD(0.35℃・W-1)についてΔRth値が大きくなった。対照的に、ネガティブコントロールでは最小限の結合しか生じず、これにより、ORF8(0.00℃・W-1)、IL-6(0.06℃・W-1)、およびHSA(0.05℃・W-1)についてΔRth値が有意に低くなった。この結果によって、ナノMIPセンサーの熱応答は、SARS-CoV-2抗原について、ネガティブコントロールと比較して著しく高いことが実証されたが、このことは、ナノMIPセンサーの選択性が優れていることを強調するものであった。SPE(実施例8の手順にしたがって製造されたNIP官能化SPE)に固定化された非インプリントポリマー(NIP)を用いて、追加のコントロール実験も行った。NIPは、重合中に標的エピトープに曝露させないこと以外はナノMIPと同様の合成プロトコルを用いて調製され、よって、標的の結合を容易にする特異的な空洞を有していなかった。スパイクタンパク質に対するナノMIP官能化SPEの熱応答は、NIP官能化SPE(0.04℃・W-1)と比較して約6倍大きく、このことは、スパイクタンパク質とナノMIPの空洞との間に特異的な結合が生じていることを示す。
【0123】
図10eは、ナノMIPセンサー、市販の迅速抗原試験、および文献
4~15にある最近開発された多数の抗原試験のLoD値を示す。以下の表1は、実験の設定のさらなる詳細を示す。ナノMIPセンサーにおけるLoD値は、市販の迅速抗原試験(20pg・mL
-1)の約6000分の1であった。この著しく低いLoDは、ナノMIP受容体が、効果的な集団検診を行うのに十分な感度を有する迅速抗原試験を製造するのに役立つ手段となり得ることを強調するものである。さらに、ナノMIPセンサーのLoDは、文献にある最近開発された抗原試験のLoDの中でも最も低い値のうちの1つである。このことは、ナノMIPを用いる熱検出が、極端な温度およびpHに耐えることができるというさらなる利点を有しつつ、最近の文献にある最も優れた抗原試験に対抗し得るということを実証するものである。
【0124】
【0125】
【0126】
実施例11:臨床サンプル中のSARS-CoV-2を検出するためのナノMIPの使用
3D印刷した樹脂製添加セルの試作品(
図11aおよび
図11b)を、使い捨ての部品を用いる臨床分析用に開発した。実施例10と同様、熱測定デバイスは、ラボビューソフトウェアを用いて制御され、電力抵抗器(22Ω)に取り付けられた比例・積分・微分(PID)コントローラーによって、シグナルについてのフィードバックを調節した。PIDパラメータは、ノイズを低減するように最適化され、P=1、I=14、およびD=0に設定された。
【0127】
添加セルの設計を検証するために、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を含有するPBSを用いて熱検出実験を行った。添加セルセンサーは、スパイクタンパク質に対して良好な熱応答を示し(
図11c)、そのLoD値(7.0±4.0fg・mL
-1)は、フローセル設計を用いた場合に得られた結果(9.9±2.5fg・mL
-1(実施例10))に非常に類似していた。
【0128】
最初の検証後、COVID陽性(20回未満のPCRサイクル後に陽性)の患者サンプルおよびCOVID陰性の患者サンプル(n=7)を用いて、臨床測定を行った。
【0129】
UTMおよびVPM(ウイルス保存培地)を、それぞれ陰性サンプルおよび陽性サンプルの基準液として用いた。測定中、100μLの基準液(UTM/VPM)を貯留槽にピペットで分注し、Rthシグナルを10分間安定させた。その後、基準液をピペットを用いて取り出し、100μLのサンプルを添加した。なお、ピペットを用いると、シリンジポンプを用いる場合と比較して、システムへの悪影響(例えば、流れや、気泡の添加)が抑えられる。この場合、サンプル量が喉用スワブおよび鼻用スワブで採取した場合と同等となり(100μL)、測定時間が約15分に短縮され、装置の操作も簡単であるため、臨床分析に非常に有利である。
【0130】
熱検出の結果(
図11d)は、陽性サンプルの測定中にナノMIPの空洞への特異的結合が生じ、平均ΔR
th値が大きくなった(0.27℃・W
-1)ことを示す。対照的に、陰性サンプルの測定時には、ナノMIPに非特異的結合のみが生じ、平均ΔR
thは0.00℃・W
-1となった。ΔR
th値の全範囲は、陰性サンプル(0.10℃・W
-1)と比較して陽性サンプル(0.41℃・W
-1)においてはるかに大きいが、これは、異なるCOVID陽性患者におけるウイルス量のばらつきによるものである。重要なことには、陰性サンプルにおける最大ΔR
thは、陽性サンプルにおける最小ΔR
thの約4分の1であったため、陽性および陰性の測定値に重複はなかった。このことは、ナノMIPセンサーが、臨床サンプル中のSARS-CoV-2の検出に対して優れた感度および特異性を有していることを強調するものである。さらに、ナノMIPセンサーの測定時間(約15分)は、市販の迅速抗原試験に匹敵し、これは、潜在的な集団検診への応用には非常に重要である。
【0131】
実施例12:ナノMIPとSARS-CoV-2のアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体との間の結合の分析
ナノMIPの合成
実施例1の手順にしたがって、ナノMIP合成の前に、ペプチド1をシラン処理したガラスビーズに固定化した。
【0132】
ペプチド被覆ガラスビーズを用いて、インプリントナノMIPを以下の通り合成した。モノマー溶液(実施例1を参照)を真空下で脱気し、5分間超音波処理した後、N2で20分間パージして、60gのペプチド1被覆ガラスビーズに添加した。過硫酸アンモニウム水溶液(800μL、60mg/mL)およびN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(24μL)(いずれもシグマアルドリッチ社(Sigma Aldrich)製)を添加することによって、重合を開始した。上部空間にN2を流し込み、ボトルをスクリューキャップで密閉した。室温で1時間、重合を行った。次に、重合容器の内容物を、フリット(孔隙率20μm)を備えた固相抽出(SPE)カートリッジ(60mL)に流し入れた。20℃の蒸留水20mLを用いた洗浄を合計9回行って、低親和性ナノMIP、ポリマー、および未反応モノマーを除去した。その後、固相を含むSPEカートリッジを70℃の水浴に15分間置いた。あらかじめ65℃に温めておいた20mLの蒸留水のアリコートをSPEに注ぎ、高親和性ナノMIPを回収した。これを5回繰り返して、約100mLの高親和性ナノMIP水溶液を回収した。大部分のナノ粒子からの潜在的な未反応モノマーの完全な除去を確実に行うために、回収した溶液を濃縮し、スネークスキン(SnakeSkin)膜(分子量10kDaカットオフ)を用いて透析を行った。
【0133】
インプリントナノMIPについて、ナノサイトNS300で算出した平均直径は、69.3nmであった(
図12)。
【0134】
センサーの組み立て
ペプチド1をインプリントしたナノMIPを製造したら、これを銀ナノ粒子(AgNP)ベースの局在表面プラズモン共鳴(LSPR)センサーに一体化した。
【0135】
より詳細には、50μlのナノMIP原液(DI水中5μg/ml)をAg-LSPRチップ上に分注した。その後、Agチップを加湿チャンバー内に3時間置いて、ナノMIPをAgナノ粒子の表面に確実に固定化した。ナノMIPはアミン基を有するため、負のLSPRのAg表面と正に帯電したナノMIPとの間の静電相互作用(-AgとNH3+)によって、ナノMIPが表面に結合した。この後、Ag基板をDI水で徹底的にすすいで、電極表面から緩く結合したポリマーを除去した。その後、チップを4℃で保存した。
【0136】
ナノMIP-LSPRセンサーの検出性能
次いで、PBS中におけるSARS-CoV-2ウイルスのアルファ変異体、ベータ変異体、およびガンマ変異体のスパイクタンパク質(すべて抗体オンラインから購入:アルファ、SARS-CoV-2スパイクタンパク質系統B.1.1.7、製品番号:ABIN6963738;ベータ、SARS-CoV-2スパイクタンパク質系統B.1.351、製品番号:ABIN6963739;ガンマ、SARS-CoV-2スパイクタンパク質系統P.1、製品番号:ABIN6964442)を検出することによって、ナノMIP-LSPRセンサーのLSPR性能を評価した。コントロールとして、ヒトコロナウイルス株であるHCoVOC43、HKU1、およびHCoV-229Eのスパイクタンパク質に対するナノMIP-LSPRセンサーのLSPR性能を試験し、NIPベースのLSPRセンサーのLSPR性能も試験した。
【0137】
図13に示すように、センサーは、すべてのSARS-CoV-2変異体の検出に成功した。
図13aは、様々な濃度のアルファ変異体に結合した際の典型的なLSPRセンサー応答を、対応する吸光度と共に示す。
図13bは、アルファ、ベータ、およびガンマの濃度を10aMから100nMまで変化させた際の、Ag-MIP複合体のLSPR波長の変化を示す。
【0138】
波長データを用いた検出限界(LOD)は、アルファ、ベータ、およびガンマのそれぞれについて、466.37nm、467.13nm、および467.71nmに見出され、これらは、9.71fM、7.32fM、および8.81pMに相当する。実験式を用いてLODを計算したが、これは、ブランク限界(LOB)および測定値の標準偏差を用いることを伴い、ここで、ブランクとは、MIPに対するPBSの影響(タンパク質は含まない)のことをいう(下記参照)。
【0139】
LODの算出
LSPRセンサーのLODを得るために、波長変化を式1および式2を用いて算出した後、アルファ変異体、ベータ変異体、ガンマ変異体のスパイクタンパク質の濃度に変換した。
【0140】
ブランク限界(LOB)=平均ブランク+1.645(SDブランク)(式1)
検出限界(LOD)=LOB+1.645(SD最低濃度)(式2)
【0141】
PBS中のウイルスサンプルの検出に成功した後、臨床的に関連する流体であるヒト血清を用いて同様の実験を行った。特に、100fM、10pM、1nM、および100nMの濃度のアルファスパイクタンパク質、ベータスパイクタンパク質、およびガンマスパイクタンパク質を血清に加え、波長および吸光度の変化を測定した。PBSを用いた上記の実験の場合と同様に、ヒトコロナウイルス株であるHCoVOC43、HKU1、およびHCoV-229Eのスパイクタンパク質を用いてコントロール実験も行い、NIPベースのLSPRセンサーのLSPR性能も試験した。
図14aは、さまざまな濃度のアルファスパイクタンパク質を加えた血清に対する典型的なLSPRセンサー応答を示す。
図14bは、アルファスパイクタンパク質、ベータスパイクタンパク質、およびガンマスパイクタンパク質の濃度を10aMから100nMまで変化させた際の、Ag-MIP複合体のLSPR波長の変化を示す。
【0142】
波長データを用いてアルファおよびベータについて計算したLODは、457.54nmおよび460.49nmに見出された。これらのLOD値は、アルファについては14fM、ベータについては94fMの濃度に相当する。ガンマの結合について観測された波長変化の場合、算出されたLODは130fM(457.37nm)であった。LOD値を求める方法については上述している。なお、LODを計算するのに必要なLOBの計算においては、タンパク質を含まない血清における測定値を本実験のブランクサンプルと見なした。
【0143】
PBSおよび血清での上記の各実験について、コントロールとして用いたヒトコロナウイルスのスパイクタンパク質を含む全てのスパイクタンパク質を、PBS/血清を用いて異なる濃度(10aMから100nM)で調製または希釈した。濃度が異なる各タンパク質にAg-MIP官能化基板を曝露した。これは、50μlのサンプルをAg-MIP上にドロップキャスティングすることで行った。センサーの表面を所与の濃度に曝露した後、20分のインキュベーションを行ってタンパク質をMIPに相互作用させた。その後、センサーの表面をPBSで洗浄し(PBSサンプルおよび血清サンプルのいずれも)、LSPRシグナルを測定した。シグナルを取得するために、30秒間、オーシャンビュー(ocean view)ソフトウェア(下記参照)が複数のスペクトルを取得し、ボックスカー幅5で10個のスペクトルの平均を表示した。その後、LSPRスペクトルを保存し、グラフパッドプリズム(Graphpad Prism)ソフトウェアを用いて、波長/吸光度の変化を記録し、分析し、プロットした。
【0144】
分光器FLAME-T-XR1-ES、反射プローブQR400-7-SR-BX、UV-VISパッチコネクター、DH-2000重水素-タングステンハロゲンランプ(DH2000-S-DUV-TTL)、RTL-Tステージ、およびオーシャンビューソフトウェアといったオーシャンオプティクス社(Ocean Optics)から購入した部品からなるインハウスの装置を用いて、LSPRシグナルを取得した。LSPRスペクトルを取得する前に、ガラススライドを基準として用いて、バックグラウンドノイズをキャンセルするための暗基準シグナルを測定した。このガラススライドは、Agを堆積させた基板と同じであった。この基準基板は、複数の基板のうちの1枚をアセトン中で1時間超音波処理した後、イソプロパノールで拭いて表面を洗浄することで、その基板からAgナノ粒子を完全に除去して作成された。生成されたデータは、全て、グラフパッドプリズム9ソフトウェアの組み込み機能を用いて分析およびプロットを行った。
【0145】
実施例13:2種類のSARS-CoV-2変異株由来のSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対するナノMIPの表面プラズモン共鳴(SPR)分析
本研究では、ビアコアT200装置を採用した。
【0146】
表面活性化およびナノMIPの固定化
製造者のガイドラインにしたがってナノMIP(実施例1のもの)をサイティバ社製のCM5チップ上に共有結合により固定化することによって、ナノMIP-SPRセンサーを調製した。
【0147】
さらに詳細には、5μL/分の一定流速で水を用いて、装置の準備を行った。チップ調製の間はずっと、ランニングバッファーとして、水を5μl/分の一定流速で用いた。安定したベースラインが達成されるまで、水を流した。N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)の混合物(2mgのEDC+3mgのNHSを含有する400uLの水)をセンサー表面全体にわたって注入し(5μL/分の流速で8分)、表面の活性化を行った(この混合物によって、チップ表面のカルボキシル末端基がN-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルに変換される)。その後、チップ上の複数のフローセルに、ナノMIP(5nM)を注入した(5μL/分の流速で7分)。最後に、エタノールアミンを水中に注入することによって、未反応のNHSエステルを不活性化した。
【0148】
ナノMIPと2種類のSARS-CoV-2変異体由来のSARS-CoV-2スパイクタンパク質との間の相互作用の検出
ランニングバッファーを水からPBSに切り替えて安定したベースラインが得られたら、SARS-CoV-2のSタンパク質の組換え体(ネイティブ・アンチゲン・カンパニー社から調達した全長SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質の組換え体であり、武漢Hu1原種またはオミクロン株のいずれか)の希釈物5種(PBS中、1.23nM、3.7nM、11.11nM、33.33nmM、および100nM)を、ある溶液から次の溶液への移行のためにのみ生じる最小限の解離時間で順次注入した(5μl/分で309秒)。その後、結合応答の相対的な大きさを比較することができるように、2つのスパイクタンパク質変異体の結果を重ね合わせた。
図15に示すように、オミクロン株のスパイクタンパク質に変異があってもナノMIPは機能し続け、性能の低下はほんのわずかであった。K
D値を導出する必要はないと考えられた。
【0149】
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【0150】
(配列の概要)
【0151】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-09-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分配列に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子に相補的な認識部位を少なくとも1つ含む分子インプリントポリマーであって、
該アミノ酸配列が、長さが50アミノ酸以下であ
り、配列NSNNLDSKVGGを含み、
該ポリマーがモノマーとして
(i)N-フルオレセイニルアクリルアミド、
(ii)アクリルアミド、
(iii)アクリル酸tert-ブチル(TBAc)、
(iv)3-O-アクリロイル-1,2:5,6-ビス-O-イソプロピリデン-D-グルコフラノース、
(v)メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル(CF3)、
(vi)N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA)、
(vii)スクアラミドモノマー7(SQ7)、および
(viii)N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(BIS)
を含む、分子インプリントポリマー。
【請求項2】
前記ポリマーのサイズが500nm未
満である、
請求項1に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項3】
前記ポリマーのサイズが250nm未満である、請求項1に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項4】
前記ポリマーのサイズが100nm未満である、請求項1に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項5】
SARS-CoV-2に結合する認識部位を少なくとも1つ含む分子インプリントポリマーを調製する方法であって、
(a)SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインの部分配列に対応するアミノ酸配列からなる鋳型分子を有する担体物質を提供する工程であって、該鋳型分子が表面に露出するように該担体物質に固定化されている工程と、
(b)該表面に接触させて重合性組成物を提供する工程と、
(c)該表面に接触した該重合性組成物の制御重合を行って分子インプリントポリマーを生成する工程と、
(d)該分子インプリントポリマーを該表面
および該固定化された鋳型分子から分離する工程と、を含み、
該アミノ酸配列は、長さが50アミノ酸以下であ
り、配列NSNNLDSKVGGを含み、
該ポリマーは、モノマーとして
(i)N-フルオレセイニルアクリルアミド、
(ii)アクリルアミド、
(iii)アクリル酸tert-ブチル(TBAc)、
(iv)3-O-アクリロイル-1,2:5,6-bis-O-イソプロピリデン-D-グルコフラノース、
(v)メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル(CF3)、
(vi)N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA)、
(vii)スクアラミドモノマー7(SQ7)、および
(viii)N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(BIS)
を含む、方法。
【請求項6】
前記鋳型分子のN末端が追加のシステイン残基を含むように改変されている、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記鋳型分子が、前記システイン残基と前記鋳型の最後の残基との間にグリシン残基を含むように改変されている、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
(i)請求項1から
4のいずれかに記載の分子インプリントポリマーと、
(ii)蛍光物質と、
を含む、複合体。
【請求項9】
SARS-CoV-2の検出における、(1)請求項1から
4のいずれかに記載の分子インプリントポリマー、または(2)請求項
8に記載の複合体の使用。
【国際調査報告】